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  • 特許-複合分析装置および分析方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】複合分析装置および分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/72 20060101AFI20231212BHJP
   G01N 30/08 20060101ALI20231212BHJP
   G01N 30/06 20060101ALI20231212BHJP
   G01N 25/20 20060101ALI20231212BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20231212BHJP
【FI】
G01N30/72 A
G01N30/08 G
G01N30/06 G
G01N25/20 G
G01N27/62 C
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020037703
(22)【出願日】2020-03-05
(65)【公開番号】P2021139752
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100098305
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 祥人
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 龍太
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和輝
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-258307(JP,A)
【文献】特開平06-300748(JP,A)
【文献】特開平10-026606(JP,A)
【文献】特開平06-258285(JP,A)
【文献】特開2009-069053(JP,A)
【文献】米国特許第05177995(US,A)
【文献】特開昭61-213655(JP,A)
【文献】特開2002-350300(JP,A)
【文献】L.F.Whiting and P.W.Langvardt,On-line thermogravimetry/gas chromatography/mass spectrometry,1984,Vol.56,No.9,p1755-1758,Analytical Chemistry,American Chemical Society,1984年08月01日,56巻・9号,1755-1758,https://pubs.acs.org/doi/pdf/10.1021/ac00273a057
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 -30/96
B01J 20/281-20/292
G01N 27/60 -27/92
G01N 25/00 -25/72
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱分析部と、
トラップ部と、
ガスクロマトグラフと、
質量分析部と、
前記熱分析部において発生したガスが供給される第1流路と、
前記第1流路から分岐して前記質量分析部に接続される第2流路と、
前記第1流路から分岐して前記トラップ部に接続される第3流路と、
前記トラップ部と前記ガスクロマトグラフが有するカラムとを接続する第4流路と、
前記カラムと前記質量分析部とを接続する第5流路と
前記第1流路および前記第2流路を介して前記熱分析部から前記質量分析部へ至る経路を有効にすることで、前記熱分析部から発生した前記ガスを前記質量分析部に供給して質量分析を実行するとともに、前記第1流路および前記第3流路を介して前記熱分析部から前記トラップ部へ至る経路を有効にすることで、前記熱分析部から発生した前記ガスを前記トラップ部においてトラップする第1モードと、前記第4流路および前記第5流路を介して前記トラップ部から前記質量分析部へ至る経路を有効にすることで、前記トラップ部においてトラップされている前記ガスを前記カラムを介して前記質量分析部に供給して質量分析を実行する第2モードとを切り替える制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記第1モードに続いて前記第2モードを実行するモードセットを繰り返し実行させ、前記第2モードの実行中、前記熱分析部における加熱温度を一定に維持する、複合分析装置。
【請求項2】
熱分析部において試料を加熱することによりガスを発生させる第1工程と、
前記熱分析部において発生した前記ガスを質量分析部に供給して質量分析する第2工程と、
前記第2工程と並行して、前記熱分析部において発生した前記ガスをトラップ部に供給して、前記ガスをトラップする第3工程と、
前記第2工程および前記第3工程の後、前記トラップ部においてトラップされている前記ガスをガスクロマトグラフのカラムに供給する第4工程と、
前記カラムから流出する前記ガスを前記質量分析部に供給して質量分析する第5工程と、
を備え
前記第1~第5工程を1つのセット工程として、前記セット工程を繰り返し実行し、前記第4工程および前記第5工程の実行している間、前記熱分析部において加熱温度が一定に維持される、分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱分析装置、ガスクロマトグラフおよび質量分析装置の複合分析装置およびその装置を用いた分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱分析装置(TA:Thermal Analyzer)および質量分析装置(MS:Mass Spectrometer)の複合分析装置(以下、TA-MS装置と略す。)、あるいは、熱分析装置およびガスクロマトグラフ質量分析装置(GCMS:Gas Chromatograph/Mass Spectrometer)の複合分析装置(以下、TA-GCMS装置と略す。)がある。


【0003】
TA-MS装置が備える熱分析装置は、加熱時の試料の質量変化および示差熱の情報を取得する。また、TA-MS装置が備える質量分析装置は、熱分析装置から発生したガスのマススペクトルの情報を取得する。TA-MS装置においては、熱分析装置から発生したガスが、直接質量分析装置において分析されるため、質量変化および示差熱の情報とマススペクトルの情報との間には時間関係が維持されている。これにより、TA-MS装置において、試料の同定が行われる。
【0004】
TA-GCMS装置が備えるガスクロマトグラフ質量分析装置は、熱分析装置から発生したガスをカラムにおいて分離させ、カラムにおいて分離したガスのMSスペクトルの情報を取得する。質量分析装置では、同一のm/zに異なる成分のピークが重なる場合があるが、TA-GCMS装置においては、カラムを通過させることで、これらの成分を分離することができる。しかし、TA-GCMS装置では、熱分析装置における加熱に関わる時間情報はカラムにおいて失われる。
【0005】
また、熱分析装置における試料の熱分解反応は時間方向の幅を持っているため、発生したガスをそのままカラムに導入すると、分離が充分に行われずブロードなクロマトグラムしか得られない。そのため、発生ガスを一旦トラップし、トラップしたガスを一気にカラムに導入することでシャープなクロマトグラムのピークを得るようにしたTA-GCMS装置も存在する。下記特許文献1において、熱分析装置およびガスクロマトグラフ質量分析装置の間にはトラップ管が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平3-220447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、TA-MS装置およびTA-GCMS装置は、それぞれ特徴を備えた装置であり、得られる結果の性質も異なる。したがって、同一の試料に対して、TA-MS装置およびTA-GCMS装置の両方の装置における分析結果が必要とされる場合もある。このような場合、TA-MS装置において試料の分析を行った後、TA-GCMS装置において同じ試料の分析を行う方法などがとられている。しかし、TA-MS装置およびTA-GCMS装置において同一の試料を用いた場合であっても、試料内部の分布により、発生ガスの成分の同一性が保たれない場合がある。
【0008】
本発明の目的は、熱分析装置から発生するガスの成分の同一性を確保しながら、質量分析およびガスクロマトグラフ質量分析の両方の分析結果を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一の態様は、熱分析部と、トラップ部と、ガスクロマトグラフと、質量分析部と、熱分析部において発生したガスが供給される第1流路と、第1流路から分岐して質量分析部に接続される第2流路と、第1流路から分岐してトラップ部に接続される第3流路と、トラップ部とガスクロマトグラフが有するカラムとを接続する第4流路と、カラムと質量分析部とを接続する第5流路とを備える複合分析装置に関する。
【0010】
本発明の他の態様は、熱分析部において試料を加熱することによりガスを発生させる第1工程と、熱分析部において発生したガスを質量分析部に供給して質量分析する第2工程と、第2工程と並行して、熱分析部において発生したガスをトラップ部に供給して、ガスをトラップする第3工程と、第2工程および第3工程の後、トラップ部においてトラップされているガスをガスクロマトグラフのカラムに供給する第4工程と、カラムから流出するガスを質量分析部に供給して質量分析する第5工程とを備える分析方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱分析装置から発生するガスの成分の同一性を確保しながら、質量分析およびガスクロマトグラフ質量分析の両方の分析結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施の形態に係る複合分析装置のブロック図である。
図2図2は、第1モードにおける複合分析装置の動作を表す図である。
図3図3は、第2モードにおける複合分析装置の動作を表す図である。
図4図4は、複合分析装置における分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(1)複合分析装置の構成
以下、本発明の実施の形態に係る複合分析装置および分析方法について、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、実施の形態に係る複合分析装置10のブロック図である。複合分析装置10は、熱分析装置1、接続装置2、ガスクロマトグラフ質量分析装置3(以下、GCMS装置3とする。)および制御部4を備える。
【0014】
熱分析装置1は、試料を加熱するヒータ11を備える。熱分析装置1は、ヒータ11により試料を加熱することで、試料の質量変化および示差熱の情報を取得する。また、熱分析装置1は、ヒータ11により試料を加熱することで発生したガスを、ガス流路Laに供給する。熱分析装置1は、キャリアガスの供給部を備えており、試料から発生したガスをキャリアガスによってガス流路Laに送り出す。以下の説明において、試料を加熱することで発生したガスを、キャリアガスと区別するために「発生ガス」と呼ぶ。熱分析装置1は、吊り下げ天秤式または上皿天秤式のいずれのタイプのものが使用されてもよい。
【0015】
接続装置2は、熱分析装置1およびGCMS装置3を接続する装置である。接続装置2は、発生ガスをトラップするトラップ部21を備える。接続装置2は、ガス流路La,Lb,Lc,Le,Lf,LgおよびLhを備える。接続装置2は、バルブV1,V2,V3およびV4を備える。接続装置2は、ドレイン路D1およびD2を備える。接続装置2は、フローガス供給路F1を備える。
【0016】
ガス流路Laは、熱分析装置1から延びて、熱分析装置1および接続装置2を接続している。ガス流路Laは、接続装置2においてバルブV1に接続される。バルブV1には、ガス流路LaおよびLbが接続される。また、バルブV1には、ドレイン路D1が接続される。ガス流路Lbの他端はバルブV2に接続される。バルブV2には、ガス流路Lb,LcおよびLeが接続される。ガス流路Lcは、接続装置2から延びて、接続装置2およびGCMS装置3を接続している。ガス流路Lcは、GCMS装置3内においてバルブV5に接続される。
【0017】
ガス流路Leの他端は、バルブV3に接続される。バルブV3には、ガス流路LeおよびLfが接続される。また、バルブV3には、フローガス供給路F1が接続される。ガス流路Lfの他端はトラップ部21に接続される。トラップ部21は、ガス流路Lfから供給される発生ガスをトラップする。トラップ部21は、例えば、テナックスが充填されたトラップ管であり、テナックスに発生ガスを吸着させる。あるいは、トラップ部21は、液体窒素や液体炭酸ガスにより発生ガスを冷却してトラップするものであってもよい。
【0018】
トラップ部21には、また、ガス流路Lgが接続される。ガス流路Lgの他端はバルブV4に接続される。バルブV4には、ガス流路LgおよびLhが接続される。また、バルブV4には、ドレイン路D2が接続される。ガス流路Lhは、接続装置2から延びて、接続装置2およびGCMS装置3を接続している。ガス流路Lhは、GCMS装置3内において、カラム311に接続される。
【0019】
GCMS装置3は、ガスクロマトグラフ31および質量分析装置32を備える。ガスクロマトグラフ31は、カラム311を備える。ガスクロマトグラフ31においては、カラム311を通過する間に発生ガスの成分分離が行われる。質量分析装置32は、ガスクロマトグラフ31から供給される発生ガスをイオン化することで質量分析する。
【0020】
GCMS装置3は、また、ガス流路Lc,Ld,LhおよびLiを備える。GCMS装置は、また、バルブV5を備える。接続装置2から延びるガス流路Lhが、カラム311の一端に接続される。ガス流路Lhから供給される発生ガスは、カラム311において成分分離される。カラム311の他端にはガス流路Liが接続される。カラム311において成分分離された発生ガスは、ガス流路Liに流れる。ガス流路LiはバルブV5に接続される。バルブV5には、ガス流路Lc,LdおよびLiが接続される。ガス流路Ldは、質量分析装置32に接続される。
【0021】
質量分析装置32の構成は特に限定されない。質量分析装置32のイオン化部としては、電子衝撃イオン化法(EI)、正化学イオン化法(PCI)または負化学イオン化法(NCI)などが用いられる。質量分析装置32の質量分離部としては、四重極型、イオントラップ型または飛行時間型などが用いられる。また、質量分析装置32の検出部としては、光電子増倍管または二次電子増倍管などが用いられる。
【0022】
上述したガス流路LaおよびLbにより第1流路L1が構成される。ガス流路LcおよびLdにより第2流路L2が構成される。ガス流路LeおよびLfにより第3流路L3が構成される。ガス流路LgおよびLhにより第4流路L4が構成される。ガス流路LiおよびLdにより第5流路L5が構成される。
【0023】
制御部4は、熱分析装置1、接続装置2およびGCMS装置3に接続され、複合分析装置10の全体制御を行う。制御部4は、熱分析装置1、接続装置2またはGCMS装置3のいずれかの装置の中に配置されてもよいし、別の装置として設けられてもよい。
【0024】
(2)分析方法
次に、図2および図3を参照しながら、実施の形態に係る分析方法について説明する。図2は、複合分析装置10が第1モードで動作するときの状態を示す図である。図3は、複合分析装置10が第2モードで動作するときの状態を示す図である。ここで、第1モードとは、複合分析装置10が、TA-MS装置として動作するモードである。また、第1モードでは、複合分析装置10は、トラップ部21において発生ガスのトラップを行うモードでもある。第2モードは、複合分析装置10が、TA-GCMS装置として動作するときのモードである。なお、以下に説明するバルブV1~V5の制御は、制御部4により行われる。
【0025】
なお、図2および図3において、実線で示す流路は、バルブV1~V5の切り替えにより有効化され、ガスが流れる流路であり、破線で示す流路は、バルブV1~V5の切り替えにより遮断され、ガスが流れない流路である。
【0026】
(2-1)第1モード
まず、図2を参照して、第1モードにおける複合分析装置10の動作について説明する。バルブV1は、ガス流路LaおよびLbが接続するように切り替えられる。これにより、熱分析装置1において試料から発生したガスおよびキャリアガスは、ドレイン路D1においてドレインされることなく、バルブV2に送られる。
【0027】
バルブV2は、ガス流路Lb,LcおよびLeが接続するように切り替えられる。これにより、ガス流路Lbを通って供給された発生ガスおよびキャリアガスは、バルブV2において分岐し、ガス流路LcおよびLeに流れる。
【0028】
バルブV3は、ガス流路LeおよびLfが接続するように切り替えられる。これにより、ガス流路Leを通って供給された発生ガスおよびキャリアガスは、ガス流路Lfを介してトラップ部21に流れ込む。なお、フローガス供給路F1は、バルブV3においてガス流路LeおよびLfと遮断される。
【0029】
バルブV4は、ガス流路Lgおよびドレイン路D2が接続するように切り替えられる。これにより、トラップ部21から流出したキャリアガスは、ガス流路Lgおよびドレイン路D2を通って大気中に排気される。なお、ガス流路Lhは、バルブV4においてガス流路Lgおよびドレイン路D2と遮断される。
【0030】
バルブV5は、ガス流路LcおよびLdが接続するように切り替えられる。これにより、ガス流路Lcを通って供給された発生ガスおよびキャリアガスは、ガス流路Ldを介して質量分析装置32に流れ込む。なお、ガス流路Liは、バルブV5においてガス流路LcおよびLdと遮断される。
【0031】
このように、第1モードにおいては、熱分析装置1において試料から発生したガスは、第1流路L1に供給される。第1流路L1に供給された発生ガスは、バルブV2において分岐し、第2流路L2を通って質量分析装置32に供給される。また、第1モードにおいては、第1流路L1に供給された発生ガスは、バルブV2において分岐し、第3流路L3を通ってトラップ部21に供給される。
【0032】
第1モードにおいて、熱分析装置1が備えるヒータ11により試料が加熱され、ガスが発生する。熱分析装置1においては、試料の昇温時の質量変化および示差熱の情報が取得される。そして、発生ガスは、第1流路L1および第2流路L2を通って質量分析装置32に供給される。これにより、質量分析装置32において発生ガスのマススペクトルが取得される。発生ガスは、第1流路L1および第2流路L2を通過して直接質量分析装置32に供給されるので、熱分析装置1における分析結果と質量分析装置32における分析結果の間では時間情報が維持される。これにより、本実施の形態の複合分析装置10は、熱分析装置1において取得された質量変化および示差熱の情報と、質量分析装置32において取得されたマススペクトルの情報とから、試料の同定を行うことが可能である。
【0033】
また、第1モードにおいて、熱分析装置1において試料から発生したガスは、第1流路L1および第3流路L3を通ってトラップ部21に供給される。これにより、トラップ部21において発生ガスがトラップされる。つまり、第1モードにおいては、発生ガスを質量分析する動作に並行して、発生ガスのトラップ動作が行われる。
【0034】
(2-2)第2モード
次に、図3を参照して、第2モードにおける複合分析装置10の動作について説明する。バルブV1は、ガス流路Laおよびドレイン路D1が接続するように切り替えられる。これにより、熱分析装置1から流出するキャリアガスは、ドレイン路D1から大気中に排気される。後で説明するように、第2モードにおいては、試料からガスが発生しないため、熱分析装置1からはキャリアガスだけが流出する。なお、ガス流路Lbは、バルブV1において、ガス流路Laおよびドレイン路D1と遮断される。
【0035】
バルブV3は、フローガス供給路F1およびガス流路Lfが接続するように切り替えられる。これにより、フローガス供給路F1から供給されたフローガスは、ガス流路Lfを介してトラップ部21に流れ込む。なお、ガス流路Leは、バルブV3においてフローガス供給路F1およびガス流路Lfと遮断される。第1モードにおいてトラップ部21にトラップされていた発生ガスは、フローガス供給路F1から送られるフローガスによってトラップ部21から脱離され、トラップ部21の下流側へ送り出される。
【0036】
バルブV4は、ガス流路LgおよびLhが接続するように切り替えられる。これにより、トラップ部21から流出する発生ガスおよびフローガスは、ガス流路LgおよびLhを通ってカラム311に流れ込む。なお、ドレイン路D2は、バルブV4においてガス流路LgおよびLhと遮断される。
【0037】
カラム311に流れ込んだ発生ガスは、移動相となるフローガスと共にカラム311を通過する。そして、発生ガスは、カラム311における固定相との相互作用によって分離される。カラム311において分離された発生ガスは、ガス流路Liに流出する。
【0038】
バルブV5は、ガス流路LiおよびLdが接続するように切り替えられる。これにより、ガス流路Liを通って供給された発生ガス(カラム311において分離された発生ガス)は、ガス流路Ldを介して質量分析装置32に流れ込む。なお、ガス流路Lcは、バルブV5においてガス流路LiおよびLdと遮断される。
【0039】
このように、第2モードにおいては、第1モードにおいてトラップ部21でトラップされていた発生ガスが、カラム311において分離される。そして、第2モードでは、カラム311で分離された発生ガスが質量分析装置32に供給される。これにより、質量分析装置32においては、熱分析装置1において試料から発生し、カラム311において分離された発生ガスのマススペクトルが取得される。これにより、本実施の形態の複合分析装置10は、第2モードにおいてはTA-GCMS装置としての役割を実行することができる。熱分析装置1において試料から発生したガスは、カラム311において分離されるので、同一のm/zを有する異なる成分についても質量分析装置32において区別して検出可能である。
【0040】
制御部4は、複合分析装置10を第1モードで動作させた後、第2モードで動作させる。これにより、第1モードにおいてトラップ部21においてトラップした発生ガスに対して、第2モードにおいてカラム分離および質量分析を行う。これにより、第1モードにおいて質量分析した発生ガスの成分と、第2モードで質量分析した発生ガスの成分の同一性が確保される。つまり、本実施の形態の複合分析装置10は、熱分析装置1において試料から発生するガスの成分の同一性を確保しながら、質量分析およびガスクロマトグラフ質量分析の両方の分析結果を得ることが可能である。
【0041】
制御部4は、第2モードの動作中、熱分析装置1のヒータ11を制御し、熱分析装置1内の温度を一定に維持する。これにより、第1モードにおいて試料からガスが発生した後、第2モードにおいては、熱分析装置1内において試料から新たなガスが発生することが抑制される。そして、制御部4は、第2モードの動作が終了すると、再び、ヒータ11を制御して熱分析装置1の加熱を再開し、第1モードを実行する。このように、制御部4は、第1モードおよび第2モードを1つのセットとし、このモードセットを繰り返し実行させる。第2モードにおいては熱分析装置1内の温度が一定に保たれるので、モードセットごとに新たなガスを発生させて、試料から発生するガスを順次分析することができる。
【0042】
(3)分析結果
図4は、本実施の形態に係る複合分析装置10による分析結果を示すグラフである。図4の上段のグラフは、熱分析装置1における加熱時間と、試料の温度変化および質量変化との関係を示す図である。図4の下段のグラフは、トータルイオンカレント(TIC)クロマトグラムである。つまり、図4の下段のグラフは、熱分析装置1における加熱時間と、質量分析装置32において取得された全ての質量(m/z)の検出強度の合算値との関係を示す図である。
【0043】
上段のグラフに示すように、第1モードにおいては、加熱時間が進むにつれて試料の温度が上昇するとともに、試料の質量が減少している。また、下段のグラフに示すように、第1モードにおいて、検出強度のピークが発生している。第1モードにおいては、試料が昇温するとともに、試料からガスが発生し、試料の質量が減少していることが分かる。また、試料から発生したガスが質量分析装置32において検出されていることが分かる。
【0044】
上段のグラフに示すように、第2モードにおいては、熱分析装置1内の温度が一定に保たれる。このため、上段のグラフに示すように、試料の温度が一定に保たれている。また、試料の温度が一定に保たれているため、試料からはガスが発生せず、試料の質量減少も見られない。なお、下段のグラフにおいて、第2モードにおける質量の検出強度は図示していない。
【0045】
以上説明したように、本実施の形態の複合分析装置10によれば、熱分析装置1から発生するガスの成分の同一性を確保しながら、質量分析およびガスクロマトグラフ質量分析の両方の分析結果を得ることができる。また、複合分析装置10は、第1モードおよび第2モードをモードセットとして繰り返し実行することにより、熱分析装置1から順次発生するガスの分析を行うことができる。さらに、第2モードにおいては、熱分析装置1の温度が一定に保たれる。第2モードにおいてはガスの発生を抑制し、第1モードでのみガスを発生させるようにすることができる。
【0046】
(4)他の実施の形態
上記実施の形態においては、熱分析装置1、接続装置2およびGCMS装置3が別の装置として相互に接続される場合を例に説明したが、複合分析装置10の構成はこれに限定されるものではない。熱分析装置1、接続装置2およびGCMS装置3が全体で1つの装置として構成されてもよい。また、上述したように、制御部4は、いずれの装置に収納されてもよいし、別装置として付属されてもよい。
【0047】
(5)態様
上述した複数の例示的な実施の形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0048】
(第1項)一態様に係る複合分析装置は、
熱分析部と、
トラップ部と、
ガスクロマトグラフと、
質量分析部と、
前記熱分析部において発生したガスが供給される第1流路と、
前記第1流路から分岐して前記質量分析部に接続される第2流路と、
前記第1流路から分岐して前記トラップ部に接続される第3流路と、
前記トラップ部と前記ガスクロマトグラフが有するカラムとを接続する第4流路と、
前記カラムと前記質量分析部とを接続する第5流路と、
を備える。
【0049】
この複合分析装置によれば、熱分析装置から発生したガスを、第2流路および第3流路に分岐させ、質量分析部およびトラップ部に同時に供給することができる。また、この複合分析装置によれば、トラップ部においてトラップされているガスを、質量分析装置に供給することができる。これにより、熱分析部から発生するガスの成分の同一性を確保しながら、質量分析およびガスクロマトグラフ質量分析の両方の分析結果を得ることができる。
【0050】
(第2項)第1項に記載の複合分析装置において、
前記複合分析装置は、さらに、
前記第1流路および前記第2流路を介して前記熱分析部から前記質量分析部へ至る経路を有効にすることで、前記熱分析部から発生した前記ガスを前記質量分析部に供給して質量分析を実行するとともに、前記第1流路および前記第3流路を介して前記熱分析装置から前記トラップ部へ至る経路を有効にすることで、前記熱分析装置から発生した前記ガスを前記トラップ部においてトラップする第1モードと、前記第4流路および前記第5流路を介して前記トラップ部から前記質量分析部へ至る経路を有効にすることで、前記トラップ部においてトラップされている前記ガスを前記カラムを介して前記質量分析部に供給して質量分析を実行する第2モードとを切り替える制御部を備えてもよい。
【0051】
第1モードおよび第2モードを切り替えることにより、熱分析装置から発生するガスの成分の同一性を確保しながら、質量分析およびガスクロマトグラフ質量分析の両方の分析結果を得ることができる。
【0052】
(第3項)第2項に記載の複合分析装置において、
前記制御部は、前記第1モードに続いて前記第2モードを実行するモードセットを繰り返し実行させてもよい。
【0053】
熱分析部から発生するガスを順次、質量分析およびガスクロマトグラフ質量分析することができる。
【0054】
(第4項)第2項または第3項記載の複合分析装置において、
前記制御部は、前記第2モードの実行中、前記熱分析部における加熱温度を一定に維持してもよい。
【0055】
第2モードにおいて試料からガスが発生することを抑制し、第1モードでのみガスを発生させるようにすることができる。
【0056】
(第5項)他の一態様に係る分析方法は、
熱分析部において試料を加熱することによりガスを発生させる第1工程と、
前記熱分析部において発生した前記ガスを質量分析部に供給して質量分析する第2工程と、
前記第2工程と並行して、前記熱分析部において発生した前記ガスをトラップ部に供給して、前記ガスをトラップする第3工程と、
前記第2工程および前記第3工程の後、前記トラップ部においてトラップされている前記ガスをガスクロマトグラフのカラムに供給する第4工程と、
前記カラムから流出する前記ガスを前記質量分析部に供給して質量分析する第5工程と、
を備える。
【0057】
この分析方法によれば、熱分析装置から発生したガスを、第2工程および第3工程によって、質量分析部およびトラップ部に同時に供給することができる。また、この分析方法によれば、第4工程および第5工程によって、トラップ部においてトラップされているガスを、質量分析装置に供給することができる。これにより、熱分析部から発生するガスの成分の同一性を確保しながら、質量分析およびガスクロマトグラフ質量分析の両方の分析結果を得ることができる。
【0058】
(第6項)第5項に記載の分析方法において、
この分析方法は、前記第1~第5工程を1つのセット工程として、前記セット工程を繰り返し実行してもよい。
【0059】
(第7項)第6項に記載の分析方法において、
この分析方法は、前記第4工程および前記第5工程の実行している間、前記熱分析部において加熱温度が一定に維持されてもよい。
【符号の説明】
【0060】
10…複合分析装置、1…熱分析装置、2…接続装置、21…トラップ部、3…GCMS装置、31…ガスクロマトグラフ、311…カラム、32…質量分析装置、4…制御部、La,Lb,Lc,Ld,Le,Lf,Lg,Lh,Li…ガス流路、D1,D2…ドレイン路、F1…フローガス供給路、V1,V2,V3,V4,V5…バルブ
図1
図2
図3
図4