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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】車両用内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F01M 13/00 20060101AFI20231212BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20231212BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20231212BHJP
   F16H 59/70 20060101ALI20231212BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
F01M13/00 K
F01M13/00 J
F02D29/00 C
F02D29/02 341
F16H59/70
F16H63/50
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020037753
(22)【出願日】2020-03-05
(65)【公開番号】P2021139333
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】貞弘 真吾
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-156284(JP,A)
【文献】特開2015-224591(JP,A)
【文献】特開平8-53059(JP,A)
【文献】実開昭61-180862(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 13/00
F02D 29/02
B60T 8/00
F16H 59/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸を収容するクランク室を有し、前記クランク軸の動力を変速機に伝達する車両用内燃機関の制御装置であって、
前記クランク室の内圧を調整する内圧調整部と、
前記変速機の変速段を検出する変速段検出部と、
車両の速度を検出する車速検出部とを有し、
車両の走行中に前記変速段検出部の検出情報に基づき、前記変速機の変速段が低速段であること、かつ、前記車速検出部の検出情報に基づき、車両の速度が所定の速度以下であることを所定の条件として、前記内圧調整部によって前記クランク室の内圧を減圧する制御部とを有することを特徴とする車両用内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、車両の速度が所定の速度以下である場合に、前記変速機の変速段が低速段よりも高速段側から低速段に切り替えられるタイミングで前記内圧調整部によって前記クランク室の内圧を減圧することを特徴とする請求項1に記載の車両用内燃機関の制御装置。
【請求項3】
車両が走行する路面の勾配を検出する勾配検出部を有し、
前記制御部は、車両の走行中に、前記所定の条件に加えて、前記勾配検出部の検出情報に基づき、車両が走行する路面の勾配が所定値以下であることを条件として前記内圧調整部によって前記クランク室の内圧を減圧することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの抵抗によって制動力を発生させるエンジンブレーキを適宜変更するために、エンジンのクランク室の圧力を調整する内燃機関のブレーキ制御システムが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
このブレーキ制御システムは、クランク室内のブローバイガスをクランク室外に導くブローバイガス流通路が設けられている。ブローバイガス流通路にはクランク室内圧力制御バルブが設けられているとともに、クランク室内圧力制御バルブの弁開度を制御する制御装置が設けられている。
【0004】
このブレーキ制御システムは、車両がエンジンブレーキを作動させるときには、クランク室内圧力制御バルブを閉弁側に制御して、エンジンブレーキの作動前のクランク室内の圧力を維持してエンジンブレーキの制動力を増加させる制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-156284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような従来のブレーキ制御システムにあっては、車両がエンジンブレーキを作動させるときには、エンジンブレーキの制動力を増加させるので、低速段においてエンジンブレーキが効き過ぎてしまい、ドライバビリティが低下するおそれがある。
【0007】
このため、運転者に対して、低速段においてエンジンから変速機に伝わるエンジンブレーキによる違和感(過度な減速感)を与えてしまい、ドライバビリティがより一層低下するおそれがある。
【0008】
本発明は、上記のような事情に着目してなされたものであり、車両が低速段で走行するときにエンジンブレーキを抑制して、運転者に違和感を与えないようにでき、車両のドライバビリティが低下することを防止できる車両用内燃機関の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、クランク軸を収容するクランク室を有し、前記クランク軸の動力を変速機に伝達する車両用内燃機関の制御装置であって、前記クランク室の内圧を調整する内圧調整部と、前記変速機の変速段を検出する変速段検出部と、車両の速度を検出する車速検出部とを有し、車両の走行中に前記変速段検出部の検出情報に基づき、前記変速機の変速段が低速段であること、かつ、前記車速検出部の検出情報に基づき、車両の速度が所定の速度以下であることを所定の条件として、前記内圧調整部によって前記クランク室の内圧を減圧する制御部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
このように上記の本発明によれば、車両が低速段で走行するときにエンジンブレーキを抑制して、運転者に違和感を与えないようにでき、車両のドライバビリティが低下することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施例に係る車両用内燃機関を備えた車両の概略構成図である。
図2図2は、本発明の一実施例に係る車両用内燃機関の概略構成図である。
図3図3は、本発明の一実施例に係る車両用内燃機関の制御装置によって実行される内圧調整処理のフローチャートである。
図4図4は、本発明の一実施例に係る車両用内燃機関の制御装置によって実行される他の内圧調整処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施の形態に係る車両用内燃機関の制御装置は、クランク軸を収容するクランク室を有し、クランク軸の動力を変速機に伝達する車両用内燃機関の制御装置であって、クランク室の内圧を調整する内圧調整部と、変速機の変速段を検出する変速段検出部と、車両の走行中に変速段検出部の検出情報に基づき、変速機の変速段が低速段であることを所定の条件として、内圧調整部によってクランク室の内圧を減圧する制御部とを有する。
【0013】
これにより、本発明の一実施の形態に係る車両用内燃機関の制御装置は、車両が低速段で走行するときにエンジンブレーキを抑制して、運転者に違和感を与えないようにでき、車両のドライバビリティが低下することを防止できる。
【実施例
【0014】
以下、本発明の一実施例に係る車両用内燃機関の制御装置について、図面を用いて説明する。図1から図4は、本発明の一実施例に係る車両用内燃機関の制御装置を示す図である。
【0015】
まず、構成を説明する。
図1に示すように、車両1は、エンジン11と、エンジン11に連結され、動力を伝達する変速機12と、変速機12に設けられたディファレンシャル装置13と、左側のドライブシャフト14Lと、右側のドライブシャフト14Rと、左側の駆動輪15Lと、右側の駆動輪15Rとを含んで構成されている。
【0016】
変速機12から出力される動力は、ディファレンシャル装置13を介して左側のドライブシャフト14Lから左側の駆動輪15Lに伝達されるとともに、右側のドライブシャフト14Rから右側の駆動輪15Rに伝達される。
【0017】
車両1は、フロントエンジンフロントドライブからなるFF車であってもよく、フロントエンジンリアドライブからなるFR車であってもよく、フルタイム4WDなどの四輪駆動車であってもよい。
【0018】
変速機12は、例えば、エンジン11から動力が伝達される入力軸19と、入力軸19に設けられた複数の変速用の入力ギヤ19Aと、変速用の入力ギヤ19Aにそれぞれ噛み合う変速用の出力ギヤ20Aを備えた出力軸20とを有する。
【0019】
変速機12は、複数の入力ギヤ19Aと入力ギヤ19Aに噛み合う出力ギヤ20Aを適宜切り替えることにより、所定の変速段を成立可能である。所定の変速段は、例えば、低速段を構成する1速段および2速段、中速段を構成する3速段および4速段、高速段を構成する5速段および6速段である。なお、変速段の最高段は、7速段以上であってもよく、6速段未満であってもよい。なお、低速段は、ギヤ比が大きい変速段であり、高速段は、低速段に比べてギヤ比が小さい変速段である。したがって、低速段から高速段に変速されるのに伴いギヤ比が小さくなる。
【0020】
変速機12は、例えば、AMT(Automated Manual Transmission)やMT(manual transmission)から構成されている。なお、変速機12は、AMTやMTに限らず、AT(automatic Transmission)、DCT(Dual Clutch Transmission)、CVT(Continuously Variable Transmission)等から構成されてもよい。要は、エンジン11の動力(回転速度)を変速して駆動輪15L、15Rに伝達できる変速機であればどのような形態の変速機でもよい。
【0021】
また、変速機12は、出力軸20に設けられ、ディファレンシャル装置13の図示しないファイナルドリブンギヤに噛み合う図示しないファイナルドライブギヤ等を備えており、エンジン11の動力(回転速度)を変速してディファレンシャル装置13に伝達する。
【0022】
図2に示すように、エンジン11は、シリンダブロック21と、シリンダブロック21の上部に設けられたシリンダヘッド22と、シリンダヘッド22の上部に設けられたシリンダヘッドカバー23とを備えている。本実施例のエンジン11は、本発明の車両用内燃機関を構成する。
【0023】
シリンダブロック21には複数のシリンダ25が設けられており(シリンダ25は、図示1つ)、シリンダ25にはピストン26が昇降自在に設けられている。ピストン26にはコネクティングロッド27の上端が連結されており、コネクティングロッド27の下端は、クランク軸28に連結されている。
【0024】
これにより、ピストン26の昇降運動は、コネクティングロッド27を介してクランク軸28の回転運動に変換される。
【0025】
シリンダブロック21の下部にはクランク軸28を回転自在に支持するクランクケース21Aが一体で設けられている。クランクケース21Aは密閉されたクランク室29が形成されている。
【0026】
シリンダヘッド22は、シリンダ25の配列方向に沿って延び、吸気カム30aを備えた吸気カム軸30と、吸気カム軸30と平行に配置されてシリンダ25の配列方向に沿って延び、排気カム31aを備えた排気カム軸31とを備えている。
【0027】
エンジン11は、吸気カム軸30および排気カム軸31が収容されるシリンダヘッド22とシリンダヘッドカバー23の間の空間が動弁室32を構成している。
【0028】
シリンダヘッド22には吸気ポート33および排気ポート34が形成されており、吸気ポート33および排気ポート34は、吸気カム30aおよび排気カム31aの回転に伴って駆動される吸気バルブ35および排気バルブ36によってそれぞれ開閉される。
【0029】
シリンダヘッド22には吸気マニホールド37が取付けられており、吸気マニホールド37には吸気管38を介してエアクリーナ39が接続されている。吸気マニホールド37および吸気管38の内部には吸気通路43が形成されている。
【0030】
エアクリーナ39は、外部から取り入れられる空気を浄化する。エアクリーナ39によって浄化された空気は、吸気管38の吸気通路43を通してから吸気マニホールド37の吸気通路43に吸入される。
【0031】
吸気マニホールド37の吸気通路43に吸入される空気は、吸気マニホールド37によって各吸気ポート33に分配された後、各シリンダ25に供給される。吸気管38にはスロットルバルブ40が設けられており、スロットルバルブ40は、吸気通路43の開度、すなわち、吸気通路43の開口面積を調整し、シリンダ25に吸入される空気量を調整する。
【0032】
シリンダブロック21にはブローバイガス通路41が設けられており、ブローバイガス通路41は、クランク室29と動弁室32とを連通している。
【0033】
吸気マニホールド37とシリンダヘッドカバー23は、ブローバイガス還流管42によって連結されている。ブローバイガス還流管42の内部にはブローバイガス還流通路42Aが形成されている。
【0034】
ブローバイガス還流通路42Aは、動弁室32およびブローバイガス通路41を介してクランク室29に連通しているとともに吸気マニホールド37の吸気通路43に連通している。
【0035】
これにより、クランク室29は、ブローバイガス通路41、動弁室32およびブローバイガス還流通路42Aを介してスロットルバルブ40の下流側(吸気ポート33側)の吸気通路43に連通している。ここで、下流とは吸気通路43に吸入される空気の流れる方向に対して下流を意味する。
【0036】
ブローバイガス還流管42とシリンダヘッドカバー23の連結部にはソレノイドバルブ44が設けられている。ソレノイドバルブ44は、クランク室29とスロットルバルブ40の下流側の吸気通路43との圧力差によってクランク室29から吸気通路43に還流させるブローバイガスの流量を制御する。
【0037】
ここで、ブローバイガスは、エンジン11の運転中に、ピストン26とシリンダ25との間の隙間を通じてクランク室29に漏出する未燃焼の混合気や燃焼ガスである(図2にブローバイガスGで示す)。
【0038】
また、ソレノイドバルブ44は、後述するECU51によって駆動されることにより、ブローバイガス還流管42の開度、すなわち、開口面積を調整する。すなわち、ソレノイドバルブ44は、クランク室29とスロットルバルブ40の下流側の吸気通路43との圧力差によって開閉する機能と、後述するECU51によって駆動されることにより、ブローバイガス還流管42の開度を調整する機能とを有する。
【0039】
本実施例のソレノイドバルブ44およびブローバイガス還流管42は、本発明の内圧調整部を構成する。
【0040】
ソレノイドバルブ44が閉じられた状態では、ブローバイガス還流管42が閉じられているので、クランク室29と吸気通路43との連通が遮断される。これにより、クランク室29の圧力が維持される。
【0041】
一方、ソレノイドバルブ44が開いた状態では、ブローバイガス還流管42によって動弁室32と吸気通路43が連通されるので、クランク室29がブローバイガス通路41および動弁室32を介してブローバイガス還流管42に連通される。これにより、クランク室29と吸気通路43とが連通され、エンジン1の吸気負圧によってクランク室29の圧力が減圧される。
【0042】
クランク室29の圧力が高くなると、エンジン11のポンピングロスが増大してエンジン11の回転速度が抑制される。これにより、エンジンブレーキが大きくなる。一方、クランク室29の圧力が低くなると、エンジン11のポンピングロスが減少され、エンジン11の回転速度が抑制され難くなり、エンジンブレーキが小さくなる。このため、エンジンブレーキが抑制される。
【0043】
図1に示すように、車両1は、電子制御ユニットであるECU(Electronic Control Unit)51を備えている。ECU51は、それぞれ図示しないCPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory) と、ROM(Read Only Memory)と、フラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートとを含んで構成されるマイクロコンピュータによって構成されている。
【0044】
ECU51には、ポジションセンサ52、車速センサ53、傾斜角センサ54が接続されている。
【0045】
ポジションセンサ52は、運転者によって操作されるシフトレバー55の操作位置を検出することにより、変速機12の変速段を検出する。具体的には、ポジションセンサ52は、シフトレバーがニュートラル位置、1速段、2速段、3速段、4速段、5速段、6速段および後進段のいずれのシフト位置にあるか否かを検出し、シフト位置情報をECU51に出力する。
【0046】
車速センサ53は、車両1の速度(車速)を検出して検出情報をECU51に出力する。 傾斜角センサ54は、車両1の傾斜角を検出して車両1の傾斜角に応じた信号をECU51に出力する。
【0047】
ECU51は、傾斜角センサ54から出力された信号に基づいて車両1が走行している路面の勾配を算出する。ここで、路面の勾配とは、車両1が走行する路面の水平方向に対する傾きである。
【0048】
本実施例のポジションセンサ52は、本発明の変速段検出部を構成し、車速センサ53は、本発明の車速検出部を構成する。傾斜角センサ54は、本発明の勾配検出部を構成する。
【0049】
ECU51は、車両1の走行中にポジションセンサ52の検出情報に基づき、変速機12の変速段が低速段(1速段または2速段)であることを所定の条件として、ソレノイドバルブ44を開いてクランク室29の内圧を減圧する。
【0050】
また、ECU51は、車両1の走行中にポジションセンサ52および車速センサ53の検出情報に基づき、変速機12の変速段が低速段であり、かつ、車両1の速度が所定の速度以下であることを条件として、ソレノイドバルブ44を開いてクランク室29の内圧を減圧する。
【0051】
本実施例のECU51は、本発明の制御部を構成し、ECU51、ブローバイガス還流管42、ソレノイドバルブ44、ポジションセンサ52、車速センサ53および傾斜角センサ54は、本発明の制御装置を構成する。
【0052】
次に、作用を説明する。
図3は、クランク室29の内圧調整処理のプログラムフローチャートである。この内圧調整処理のプログラムは、ECU51のROMまたはRAMに格納されており、CPUによって実行される。
【0053】
まず、ECU51は、車速センサ53の検出情報に基づいて車両1が停止しているか否かを判別する(ステップS1)。ステップS1において、ECU51は、車両1が停止しているものと判断した場合には今回の処理を終了する。
【0054】
ステップS1において、ECU51は、車両1が走行中であるものと判断した場合には、ポジションセンサ52の検出情報に基づいて変速段が低速段よりも大きいか否か、すなわち、変速段が中速段または高速段であるか否かを判別する(ステップS2)。
【0055】
ステップS2において、ECU51は、変速段が中速段または高速段であるものと判断した場合には、今回の処理を終了し、変速段が低速段であるものと判断した場合には、車速センサ53の検出情報に基づいて車速が所定の速度以下であるか否かを判別する(ステップS3)。
【0056】
ステップS3において、ECU51は、車速が所定の速度より大きいものと判断した場合には、今回の処理を終了し、車速が所定の速度以下であるものと判断した場合には、クランク室29の内圧を減圧する(ステップS4)。
【0057】
ステップS4において、ECU51は、ソレノイドバルブ44を開いて、ブローバイガス還流管42によって動弁室32と吸気通路43を連通し、吸気通路43の吸気負圧によってクランク室29の内圧(圧力)を減圧する。図2において、クランク室29から吸気通路43に吸引される空気Aiの流れを示す。
【0058】
このため、エンジン11のポンピングロスが減少され、エンジン11の回転速度が抑制され難くなり、エンジンブレーキが抑制される。
【0059】
このように本実施例のエンジン11の制御装置は、クランク室29の内圧を調整するブローバイガス還流管42およびソレノイドバルブ44と、変速機12の変速段を検出するポジションセンサ52と、車両1の走行中にポジションセンサ52の検出情報に基づき、変速機12の変速段が低速段であることを所定の条件として、ソレノイドバルブ44によってクランク室29の内圧を減圧するECU51とを有する。
【0060】
これにより、エンジン11の振動を減衰可能なトルクコンバータ等の流体継手が設けられていないAMTやMTから構成される変速機12を有する車両1において、車両1が低速段で走行するときにエンジンブレーキを抑制して、運転者に違和感、具体的には過度な減速感を与えないようにでき、車両1のドライバビリティが低下することを防止できる。
【0061】
また、低速段でクランク室29を減圧しているので、エンジン11のポンピングロスを低減でき、アクセルペダルを踏み込んだ状態で車両1を加速する場合に、エンジン11の燃費を向上できる。
【0062】
また、車両1が中速段や高速段で走行している場合には、ソレノイドバルブ44が閉じた状態であり、クランク室29と吸気通路43との圧力差によってソレノイドバルブ44の開度が大きくなり、ブローバイガス還流通路42Aを介してクランク室29から吸気通路43に吸入されるブローバイガス量を増大できる。
【0063】
また、本実施例のエンジン11の制御装置は、車両1の速度を検出する車速センサ53を有し、ECU51は、車両1の走行中にポジションセンサ52および車速センサ53の検出情報に基づき、変速機12の変速段が低速段であり、かつ、車両1の速度が所定の速度以下であることを条件として、ソレノイドバルブ44によってクランク室29の内圧を減圧する。
【0064】
これにより、車両1が低速段で低速、または極低速で走行中にエンジンブレーキを抑制して、運転者が過度な減速感を感じないようにでき、車両1のドライバビリティが低下することを防止できる。
【0065】
また、ECU51は、変速機12の変速段が低速段であり、かつ、車両1の速度が所定の速度より大きいものと判断した場合には、ソレノイドバルブ44を閉じた状態にしてクランク室29の内圧を現状の内圧に維持する。
【0066】
これにより、ECU51は、車両1が低速段で中速または高速で走行している場合には、車両1が降坂路や高速道路を走行中であり、エンジンブレーキが必要な状況であるものと判断し、エンジンブレーキを効かせることができる。
【0067】
このため、降坂路でブレーキペダルが多用されることを防止でき、フェード現象やベーパロック現象が発生することを確実に防止できる。
【0068】
また、本実施の形態の制御装置は、ソレノイドバルブ44を閉弁することにより、クランク室29の内圧を維持することができ、エンジンブレーキが必要な場合にはエンジンブレーキを確実に効かすことができる。
【0069】
また、低速段で車両1が減速中において、エンジンブレーキの強さ(効き具合)が急激に変わると運転者が違和感を抱くおそれがある。
【0070】
このため、本実施例のECU51は、車両の速度が所定の速度以下である場合に、変速機12の変速段が低速段(1速段または2速段)よりも高速段側(3速段から6速段のいずれかの変速段)から低速段側に切り替えられるタイミングでソレノイドバルブ44を開いて、クランク室29の内圧を減圧することが好ましい。
【0071】
このようにすれば、車両1の減速中に変速段を高速段側から低速段にシフトダウンしたタイミングでエンジンブレーキを抑制できる。具体的には、運転者の意志により高速段側から低速段にシフトダウンしたときに、運転者がエンジンブレーキの抑制による違和感を抱くことを抑制でき、車両1のドライバビリティが低下することをより効果的に防止できる。
【0072】
また、本実施例のECU51は、ポジションセンサ52と車速センサ53の検出情報に基づいてクランク室29の内圧を調整しているが、ECU51は、傾斜角センサ54の検出情報を加味してクランク室29の内圧を調整してもよい。
【0073】
図4は、クランク室29の他の内圧調整処理のプログラムフローチャートである。この内圧調整処理のプログラムは、ECU51のROMまたはRAMに格納されており、CPUによって実行される。なお、ステップS11からステップS13は、図3のステップS1からステップS3と同一の処理であり、説明を省略する。
【0074】
図4において、ステップS13でECU51は、車速が所定の速度以下であるものと判断した場合には、路面の勾配が所定値以下であるか否かをする(ステップS14)。ステップS14において、ECU51は、路面の勾配が所定値よりも大きいものと判断した場合には、勾配が急な坂道を車両1が走行中であるものと判断して今回の処理を終了する。
【0075】
ステップS14において、ECU51は、路面の勾配が所定値以下であるものと判断した場合には、緩やかな勾配の路面または平坦路を車両1が走行中であるものと判断し、クランク室29の内圧を減圧する(ステップS15)。
【0076】
ステップS15において、ECU51は、ソレノイドバルブ44を開いて、ブローバイガス還流通路42Aによって動弁室32と吸気通路43を連通させ、吸気通路43の吸気負圧によってクランク室29の内圧を減圧することにより、エンジンブレーキを抑制する。
【0077】
このように本実施例の制御装置は、車両1が走行する路面の勾配を検出する傾斜角センサ54を有し、ECU51は、車両1の走行中にポジションセンサ52および傾斜角センサ54の検出情報に基づき、変速段が低速段であり、車両1が走行する路面の勾配が所定値以下であることを条件としてソレノイドバルブ44によってクランク室29の内圧を減圧している。
【0078】
これにより、低速段で勾配が緩やかな路面または平坦路を車両1が走行するときにエンジンブレーキを抑制して、運転者に過度な減速感を与えないようにして、車両1のドライバビリティが低下することをより効果的に防止できる。
【0079】
また、車両1が低速段で勾配が急な降坂路を走行中に、エンジンブレーキを効かせることができる。なお、本実施例のECU51は、低速段でクランク室29の内圧を減圧する際に、1速段で走行中のソレノイドバルブ44の開度を2速段で走行中の開度よりも大きくする。
【0080】
このようにすれば、2速段よりもエンジンブレーキが効き易い1速段においてエンジンブレーキを抑制して、運転者に過度な減速感を与えないようにして、車両1のドライバビリティが低下することをより効果的に防止できる。
【0081】
また、ECU51は、車両1が障害物を感知し、衝突に備えて自動的にブレーキを作動させる自動緊急ブレーキの作動時に、変速段や車速にかかわらずにソレノイドバルブ44を閉じ、クランク室29を減圧しないようにしてもよい。
【0082】
また、ECU51は、図示しないオートクルーズスイッチが操作され、オートクルーズシステム(ACC)が設定されることにより、車両1が定速走行する場合には、変速段が高速段や中速段であってもソレノイドバルブ44を開いてクランク室29を減圧してもよい。
【0083】
このようにすれば、低速段から高速段に亙ってエンジン11のポンピングロスを低減でき、エンジン11の燃費を向上できる。
【0084】
なお、本実施例ではブローバイガス還流管42を利用してクランク室29の内圧を減圧しているが、これに限定されるものではない。例えば、吸気マニホールド37とシリンダヘッドカバー23とを図示しないバイパス管で連結する。
【0085】
そして、バイパス管とシリンダヘッドカバー23の連結部に図示しないソレノイドバルブを設け、車速が所定の速度以下である場合に、ECU51がソレノイドバルブを開いてクランク室29の内圧を減圧してもよい。
【0086】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0087】
1...車両、11...エンジン(車両用内燃機関)、12...変速機、28...クランク軸、29...クランク室、41...ブローバイガス通路、42...ブローバイガス還流管(内圧調整部)、43...吸気通路、44...ソレノイドバルブ(内圧調整部)、51...ECU(制御部、制御装置)、52...ポジションセンサ(変速段検出部、制御装置)、53...車速センサ(車速検出部)、54...傾斜角センサ(勾配センサ)
図1
図2
図3
図4