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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】作業機械の油圧駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F15B 11/028 20060101AFI20231212BHJP
   E02F 9/22 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
F15B11/028 B
E02F9/22 R
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020038412
(22)【出願日】2020-03-06
(65)【公開番号】P2021139449
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100109058
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】柚本 夏輝
(72)【発明者】
【氏名】川本 真大
【審査官】北村 一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-173880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 11/00-11/22;21/14
E02F 3/42- 3/43; 3/84- 3/85; 9/20ー 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動要素を含む作業機械に設けられて当該可動要素を油圧により駆動するための油圧駆動装置であって、
作動油を吐出する油圧ポンプと、
シリンダ室を有する油圧シリンダからなり、前記可動要素に連結され、前記油圧ポンプにより吐出された作動油の供給を受けることにより前記可動要素を動かすように作動する油圧アクチュエータと、
前記油圧ポンプと前記油圧アクチュエータとの間に介在し、当該油圧ポンプから当該油圧アクチュエータへの作動油の供給を許容するように開弁することが可能なコントロールバルブと、
前記油圧アクチュエータを動かすためのアクチュエータ操作を受けることにより当該アクチュエータ操作に応じて前記コントロールバルブを開弁させる操作器と、
前記油圧ポンプにより吐出される作動油の圧力であるポンプ圧を検出するポンプ圧検出器と、
前記コントロールバルブが閉弁されているときの前記油圧アクチュエータの前記シリンダ室内の圧力であって前記油圧アクチュエータに加わる負荷に抗して当該油圧アクチュエータを停止状態に保持するのに必要な圧力であるアクチュエータ保持圧を検出するアクチュエータ保持圧検出器と、
パイロットポートを有するパイロット切換弁により構成され、前記油圧ポンプから吐出される作動油が前記コントロールバルブ及び前記油圧アクチュエータをバイパスしてタンクに直接戻ることを許容するアンロードラインに設けられ、前記パイロットポートに入力されるパイロット圧に対応した開度で開弁することにより当該開度に対応した流量で前記作動油が前記アンロードラインを流れることを可能にするアンロード弁と、
アンロード操作指令の入力を受けることが可能な電磁弁からなり、前記アンロード弁に入力される前記パイロット圧を前記アンロード操作指令に応じて変化させるように作動するアンロード操作弁と、
前記アクチュエータ保持圧検出器により検出される前記アクチュエータ保持圧に基づき前記ポンプ圧の目標圧力を算定する目標圧力算定部であって、前記目標圧力が前記油圧アクチュエータを前記負荷に抗して動かすために最低限必要な圧力以上の圧力でかつ予め設定された制限圧以下の圧力となるように当該目標圧力を算定する、目標圧力算定部と、
前記アンロード操作指令として前記ポンプ圧検出器により検出される前記ポンプ圧を前記目標圧力に追従させるような指令を生成して前記アンロード操作弁に入力するアンロード操作指令部と、を備える、作業機械の油圧駆動装置。
【請求項2】
請求項1記載の作業機械の油圧駆動装置であって、前記目標圧力算定部は、前記アクチュエータ保持圧に加えて前記アクチュエータ操作の大きさに対応する操作圧を前記目標圧力が含むように当該目標圧力を算定する、作業機械の油圧駆動装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の作業機械の油圧駆動装置であって、前記目標圧力算定部は、前記アクチュエータ保持圧に加えて前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータに至るまでの圧力損失に対応する加算圧力を前記目標圧力が含むように当該目標圧力を算定する、作業機械の油圧駆動装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の作業機械の油圧駆動装置であって、前記油圧アクチュエータの作動を検出するアクチュエータ作動検出器をさらに備え、前記アンロード操作指令部は、前記油圧アクチュエータの作動が検出された時点で前記ポンプ圧にかかわらず前記アンロード弁を全閉にするための指令をアンロード操作指令として前記アンロード操作弁に入力するように構成されている、作業機械の油圧駆動装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の作業機械の油圧駆動装置であって、前記油圧ポンプは可変容量型油圧ポンプであって当該油圧ポンプに入力される容量指令信号に応じて当該油圧ポンプの容量であるポンプ容量が変化するように構成されており、前記油圧駆動装置は、前記操作器に与えられる前記アクチュエータ操作の大きさを検出するアクチュエータ操作検出器と、前記アクチュエータ操作の増大に伴って前記油圧ポンプのポンプ容量を増大させるようなポンプ容量指令を生成して前記油圧ポンプに入力するポンプ容量指令部と、をさらに備える、作業機械の油圧駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械に含まれる可動要素を油圧によって駆動するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
作業機械に設けられる油圧駆動装置は、例えば特許文献1に記載されるように、作動油を吐出する油圧ポンプと、前記作業機械の可動要素に連結される油圧アクチュエータと、前記油圧ポンプと前記油圧アクチュエータとの間に介在するコントロールバルブと、このコントロールバルブを動かすための操作を受ける操作器と、リリーフ弁と、を含む。前記油圧アクチュエータは、前記油圧ポンプから供給される作動油により作動して前記可動要素を特定方向に動かすように作動する。前記コントロールバルブは、油圧パイロット切換弁からなり、当該コントロールバルブに入力されるパイロット圧に応じて開弁することにより、前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータに供給される作動油の方向及び流量を変化させる。前記操作器は、例えばリモコン弁により構成され、当該操作器の例えば操作レバーに与えられる操作に対応したパイロット圧が前記コントロールバルブに与えられるのを許容し、これにより、前記コントロールバルに前記操作に対応した開弁動作を行わせる。前記リリーフ弁は、回路圧の上限を規定するようにポンプ圧を制限する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-347040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のような油圧駆動装置では、油圧アクチュエータの起動時に前記油圧ポンプの吐出圧であるポンプ圧が急激に上昇し、これがエンジンの運転に著しい影響を与えるおそれがある。具体的に、前記油圧アクチュエータが静止している状態で操作レバーに操作が与えられて前記ポンプの吐出量が増加されるとともに前記コントロールバルブが大きく開弁すると、当該油圧アクチュエータが実際に動き始めるまでの間に増加するポンプ圧に対して前記リリーフ弁によりポンプ圧を調整する機能が追い付かない状態が瞬間的に発生し、前記ポンプ圧が前記油圧アクチュエータの負荷に相当する圧力まで跳ね上がる、すなわち、いわゆるサージ圧が発生する、おそれがある。このサージ圧の発生は、エンジンの負荷トルクを急上昇させてエンジン回転数を急減させる。このことは、前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータに供給される作動油の流量を低下させて起動時の応答性を低下させる可能性がある。
【0005】
前記特許文献1では、前記油圧ポンプとタンクとの間に介在するリリーフ弁におけるエネルギー損失を抑えるために、前記油圧ポンプを可変容量型油圧ポンプにより構成すること、及び、前記リリーフ弁を流れる作動油の流量であるリリーフ流量を0に近づけるように前記油圧ポンプの容量を調節すること、が記載されているが、このような制御によって前記サージ圧の発生を有効に抑止することはできない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、作業機械に設けられる油圧駆動装置であって、コントロールバルブの開弁に応じて油圧アクチュエータが確実に起動することを可能にしながら、当該コントロールバルブの開弁時におけるサージ圧の発生を有効に抑止することが可能な装置を提供することを目的とする。
【0007】
提供されるのは、可動要素を含む作業機械に設けられて当該可動要素を油圧により駆動するための油圧駆動装置であって、作動油を吐出する油圧ポンプと、前記可動要素に連結され、前記油圧ポンプにより吐出された作動油の供給を受けることにより前記可動要素を動かすように作動する油圧アクチュエータと、前記油圧ポンプと前記油圧アクチュエータとの間に介在し、当該油圧ポンプから当該油圧アクチュエータへの作動油の供給を許容するように開弁することが可能なコントロールバルブと、前記油圧アクチュエータを動かすためのアクチュエータ操作を受けることにより当該アクチュエータ操作に応じて前記コントロールバルブを開弁させる操作器と、前記油圧ポンプにより吐出される作動油の圧力であるポンプ圧を検出するポンプ圧検出器と、前記油圧アクチュエータに加わる負荷に抗して当該油圧アクチュエータを停止状態に保持するのに必要な圧力であるアクチュエータ保持圧を検出するアクチュエータ保持圧検出器と、パイロットポートを有するパイロット切換弁により構成され、前記油圧ポンプから吐出される作動油が前記コントロールバルブ及び前記油圧アクチュエータをバイパスしてタンクに直接戻ることを許容するアンロードラインに設けられ、前記パイロットポートに入力されるパイロット圧に対応した開度で開弁することにより当該開度に対応した流量で前記作動油が前記アンロードラインを流れることを可能にするアンロード弁と、アンロード操作指令の入力を受けることが可能な電磁弁からなり、前記アンロード弁に入力される前記パイロット圧を前記アンロード操作指令に応じて変化させるように作動するアンロード操作弁と、前記アクチュエータ保持圧検出器により検出される前記アクチュエータ保持圧に基づき前記ポンプ圧の目標圧力を算定する目標圧力算定部であって、前記目標圧力が前記油圧アクチュエータを前記負荷に抗して動かすために最低限必要な圧力以上の圧力でかつ予め設定された制限圧以下の圧力となるように当該目標圧力を算定する、目標圧力算定部と、前記アンロード操作指令であって前記ポンプ圧検出器により検出される前記ポンプ圧を前記目標圧力に追従させるような指令を生成して前記アンロード操作弁に入力するアンロード操作指令部と、を備える。
【0008】
この装置によれば、前記ポンプ圧の目標圧力が前記油圧アクチュエータをその負荷に抗して動かすために最低限必要な圧力以上の圧力であってかつ前記制限圧以下になるように当該目標圧力を前記アクチュエータ保持圧に基づいて算定することと、当該目標圧力に前記ポンプ圧が追従するように前記アンロード弁の操作を通じて前記ポンプ圧を制御することと、により、前記油圧アクチュエータの確実な作動を確保しながら前記コントロールバルブの開弁に伴って前記ポンプ圧が急激に跳ね上がること、すなわちサージ圧の発生、が抑制される。具体的に、前記装置では、前記目標圧力算定部が前記アクチュエータ保持圧に基づいて当該目標圧力を算定し、前記アンロード操作指令部が前記ポンプ圧を前記目標圧力に追従させるようなアンロード操作指令を生成して前記アンロード操作弁に入力することにより、前記油圧アクチュエータを前記コントロールバルブの開弁時に確実に作動させるために必要なポンプ圧を確保しながら、前記油圧アクチュエータが静止した状態での前記コントロールバルブの急な開弁にもかかわらず前記ポンプ圧が急激に上昇しサージ圧が発生することを抑制することができる。
【0009】
具体的に、前記目標圧力算定部は、前記アクチュエータ保持圧に加えて前記アクチュエータ操作の大きさに対応する操作圧を前記目標圧力が含むように当該目標圧力を算定するものが、好適である。前記目標圧力が前記アクチュエータ保持圧を含むことは、前記油圧アクチュエータを前記コントロールバルブの開弁時に確実に作動させるために最低限必要な圧力以上の圧力に前記ポンプ圧を迅速に追従させることを可能にする。さらに、前記目標圧力が前記アクチュエータ保持圧に加えて前記操作圧を含むことは、前記アクチュエータ操作に応じた前記アクチュエータの動作の応答性を確保することを可能にする。
【0010】
また、前記目標圧力算定部は、前記アクチュエータ保持圧に加えて前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータに至るまでの圧力損失以上の値に設定された加算圧力を前記目標圧力が含むように当該目標圧力を算定するものが、好適である。当該目標圧力算定部は、前記アクチュエータ保持圧に加えて前記加算圧力を前記目標圧力に含ませることにより、簡単な演算で、応答性悪化の要因となる圧損を考慮した、応答性を向上させるための制御を可能にする。
【0011】
前記油圧駆動装置は、前記油圧アクチュエータの作動を検出するアクチュエータ作動検出器をさらに備え、前記アンロード操作指令部は、前記油圧アクチュエータの作動が検出された時点で前記ポンプ圧にかかわらず前記アンロード弁を全閉にするための指令をアンロード操作指令として前記アンロード操作弁に入力するように構成されていることが、好ましい。このことは、前記油圧アクチュエータが動き出すまで前記アンロードラインを通じて逃がされていた作動油が当該油圧アクチュエータに供給されることを可能にして当該油圧アクチュエータの作動速度を高めることを可能にする。しかも、実際に前記油圧アクチュエータが動き始める始動時点で前記アンロード弁を全閉にしてもこれに起因するサージ圧の発生すなわちポンプ圧の急激な上昇は生じにくい。当該始動時点までには前記アンロード弁の開口面積がある程度減少しており、また、実際の油圧アクチュエータの作動によって(当該油圧アクチュエータが静止している場合に比べて)当該油圧アクチュエータでの作動油の圧縮が緩和されるためである。
【0012】
前記油圧駆動装置におけるポンプ圧の制御は、パイロット切換弁からなる前記アンロード弁と、当該アンロード弁に入力されるパイロット圧を変化させる電磁弁であるパイロット操作弁と、の組み合わせに基づいて行われるので、前記アンロード弁を用いているにもかかわらずポンプ容量制御の自由度が高い。具体的に、前記油圧ポンプが可変容量型油圧ポンプであって当該油圧ポンプに入力される容量指令信号に応じて当該油圧ポンプの容量であるポンプ容量が変化するように構成されている(つまりポンプ容量制御が可能である)場合、アンロード弁にロードセンシング圧をパイロット圧として入力することを前提とする、いわゆるロードセンシング制御を行うものと異なり、アンロード制御とポンプ容量制御とを相互独立して実行することが可能である。例えば、前記油圧駆動装置は、前記操作器に与えられる前記アクチュエータ操作の大きさを検出するアクチュエータ操作検出器と、前記アクチュエータ操作の増大に伴って前記油圧ポンプのポンプ容量を増大させるようなポンプ容量指令を生成して前記油圧ポンプに入力するポンプ容量指令部と、をさらに備えることにより、前記のようにポンプ圧の急激な上昇を抑制するアンロード制御と、前記アクチュエータ操作に基づくポンプ容量制御である、いわゆるポジティブコントロールと、の双方を実行することが可能である。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、作業機械に設けられる油圧駆動装置であって、コントロールバルブの開弁に応じて油圧アクチュエータが確実に起動することを可能にしながら、当該コントロールバルブの開弁時におけるサージ圧の発生を有効に抑止することが可能な装置が、提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態に係る作業機械の油圧駆動装置を示す回路図である。
図2】前記油圧駆動装置に含まれるコントローラの機能構成を示すブロック図である。
図3】前記コントローラが行う演算制御動作を示すフローチャートである。
図4】前記油圧駆動装置における油圧シリンダの動作速度であるシリンダ速度と前記コントローラにより操作される前記アンロード弁の開口の時間変化の例を示すグラフである。
図5】前記油圧駆動装置におけるポンプ圧の時間変化の例を示すグラフである。
図6】シリンダ操作に伴ってアンロード弁が急閉される場合のポンプ圧等の時間変化の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態にかかる作業機械の油圧駆動装置を示す回路図である。この油圧駆動装置は、油圧ポンプ10と、油圧シリンダ20と、コントロールバルブ30と、操作器40と、アンロード弁50と、アンロード操作弁56と、複数のセンサと、コントローラ70と、を備える。
【0017】
前記作業機械は、油圧により動かされることが可能な少なくとも一つの可動要素を含む。当該作業機械は、例えば油圧ショベル、油圧クレーン、油圧式解体機である。当該作業機械が油圧ショベルの場合、前記少なくとも一つの可動要素は、作業アタッチメントを構成するブーム、アーム及びバケット、下部走行体に含まれて走行動作を行うクローラ、上部旋回体に含まれて前記下部走行体に対して縦軸回りに旋回する上部旋回体、などを含む。
【0018】
前記油圧ポンプ10は、前記作業機械に搭載されるエンジンにより駆動され、これによりタンク内の作動油を吐出するように動作する。この実施の形態に係る油圧ポンプ10は、可変容量型油圧ポンプであり、変更可能なポンプ容量(押しのけ容積)をもつポンプ本体と、当該ポンプ容量を変化させるためのレギュレータ11と、を含む。前記レギュレータ11は、前記コントローラ70からの容量指令信号の入力を受けることにより、前記ポンプ本体の容量が当該容量指令信号に対応した容量になるように前記ポンプ本体を操作する。
【0019】
前記油圧シリンダ20は、本発明に係る油圧アクチュエータの例である。すなわち、当該油圧シリンダ20は、前記少なくとも一つの可動要素の中から選ばれる特定の可動要素18に連結され、前記油圧ポンプ10から吐出される作動油の供給を受けることにより伸縮して当該伸縮方向に前記可動要素18を動かす。前記作業機械が前記油圧ショベルである場合、前記油圧シリンダ20は、例えば、前記ブームを回動させるブームシリンダ、前記アームを回動させるアームシリンダ、あるいは前記バケットを回動させるバケットシリンダ、である。
【0020】
本発明に係る前記油圧アクチュエータは、油圧シリンダ以外のアクチュエータ、例えば油圧モータ、であってもよい。前記作業機械が前記油圧ショベルである場合、前記油圧モータは、例えば、前記上部旋回体を旋回させる旋回モータ、前記クローラに走行動作を行わせる走行モータである。
【0021】
前記油圧シリンダ20は、シリンダ本体22と、ピストン24と、シリンダロッド26と、を含む。前記シリンダ本体22は、シリンダ室を囲む筒状をなす。前記ピストン24は前記シリンダ本体22内に格納されて前記シリンダ室をヘッド側室22hとロッド側室22rとに区画する。前記シリンダロッド26は前記ピストン24から前記ロッド側室22rを軸方向に貫く方向に延び、前記シリンダ本体22の外部に突出しかつ駆動対象である前記可動要素18に連結される。前記油圧シリンダ20は、前記ヘッド側室22hに作動油が供給されることにより前記ロッド側室22rから作動油を排出しながら伸長する一方、前記ロッド側室22rに作動油が供給されることにより前記ヘッド側室22hから作動油を排出しながら収縮する。
【0022】
前記コントロールバルブ30は、前記油圧ポンプ10と油圧アクチュエータである前記油圧シリンダ20との間に介在する。当該コントロールバルブ30は、閉弁することにより前記油圧ポンプ10から前記油圧シリンダ20に作動油が供給されることを阻止し、開弁することによりその開口面積に対応した流量で作動油が前記油圧シリンダ20に供給されることを許容する。
【0023】
この実施の形態に係る前記コントロールバルブ30は、パイロット操作式の3位置方向切換弁により構成される。具体的に、当該コントロールバルブ30は、それぞれがパイロット圧の入力を受けることが可能な第1パイロットポート32A及び第2パイロットポート32Bを有する。
【0024】
前記コントロールバルブ30は、前記第1及び第2パイロットポート32A,32Bのいずれにもパイロット圧が入力されないときは中立位置34Nに保たれて前記油圧ポンプ10と前記油圧シリンダ20との間を遮断する。すなわち、前記油圧ポンプ10から前記油圧シリンダ20への作動油の供給を遮断するように閉弁する。
【0025】
前記コントロールバルブ30は、前記第1パイロットポート32Aに作動油が供給されると前記中立位置34Nから前記パイロット圧の大きさに対応したストロークで第1駆動位置34Aにシフトされる。すなわち、当該ストロークに応じた開口面積で開弁する。これにより、当該コントロールバルブ30は、前記油圧ポンプ10から吐出される作動油が前記開口面積に対応した流量で前記油圧シリンダ20のヘッド側室22hに供給されることを許容する油路と、前記油圧シリンダ20のロッド側室22rから排出される作動油がタンクに戻るのを許容する油路と、を形成する。
【0026】
前記コントロールバルブ30は、逆に、前記第2パイロットポート32Bに作動油が供給されると前記中立位置34Nから前記パイロット圧の大きさに対応したストロークで第2駆動位置34Bにシフトされる。すなわち、当該ストロークに応じた開口面積で開弁する。これにより、当該コントロールバルブ30は、前記油圧ポンプ10から吐出される作動油が前記開口面積に対応した流量で前記油圧シリンダ20のロッド側室22rに供給されることを許容する油路と、前記油圧シリンダ20のヘッド側室22hから排出される作動油がタンクに戻るのを許容する油路と、を形成する。
【0027】
前記操作器40は、油圧アクチュエータである前記油圧シリンダ20を動かすためのオペレータによるシリンダ操作(アクチュエータ操作)を受け、当該シリンダ操作に対応したパイロット圧を前記コントロールバルブ30に入力するように作動する。すなわち、前記操作器40は、当該操作器40に与えられる前記シリンダ操作に対応して前記コントロールバルブ30を開弁させ、これにより、当該コントロールバルブ30に接続される油圧シリンダ20が作動することを可能にする。
【0028】
具体的に、この実施の形態に係る前記操作器40は、操作レバー42と、パイロット弁44と、を有する。前記操作レバー42には、前記シリンダ操作として当該操作レバー42を第1方向及びこれと反対の第2方向にそれぞれ倒す操作が与えられる。前記パイロット弁44は、入口ポートと一対の出口ポートとを有する。前記入口ポートは、パイロット圧油圧源、例えば図1に示されるパイロットポンプ15、に接続される。前記一対の出口ポートは、前記第1及び第2パイロットポート32A,32Bにそれぞれ第1パイロットライン36A及び第2パイロットライン36Bを介して接続される。前記パイロット弁44は、前記操作レバー42の動きに連動して開弁動作をするように当該操作レバー42に連結される。当該パイロット弁44は、当該操作レバー42に与えられる前記シリンダ操作に対応して前記パイロット圧供給源から前記第1及び第2パイロットポート32A,32Bのいずれかに前記シリンダ操作の大きさに対応した大きさをもつパイロット圧が入力されるのを許容するように開弁する。
【0029】
前記アンロード弁50は、アンロードライン51の途中に設けられる。前記アンロードライン51は、前記油圧ポンプ10から吐出される作動油が前記コントロールバルブ30及び前記油圧シリンダ20をバイパスしてタンクに直接戻ることを許容するラインである。
【0030】
前記アンロード弁50は、パイロット操作式の切換弁すなわちパイロット切換弁であり、かつ、流量調整機能を有する。具体的に、当該アンロード弁50は、前記パイロットポンプ15に接続される単一のパイロットポート52を有し、当該パイロットポンプ15から当該パイロットポート52に入力されるパイロット圧の大きさに対応した開口面積で開口し、これにより、前記油圧ポンプ10から吐出される作動油が前記アンロードライン51を通じて前記開口面積に対応した流量でタンクに逃がされることを可能にする。この実施の形態に係る前記アンロード弁50は、前記パイロットポート52にパイロット圧が入力されないときは閉位置53に保持されて前記アンロードライン51を完全に遮断する一方、前記パイロットポート52にパイロット圧が入力されるとそのパイロット圧の大きさに対応したストロークで前記閉位置53から開位置54にシフトされ、当該ストロークに対応した開口面積で開弁する。
【0031】
前記アンロード操作弁56は、前記パイロットポンプ15と前記パイロットポート52との間に介在し、当該パイロットポンプ15から当該パイロットポート52に入力されるパイロット圧を変化させるように開閉動作を行う。当該アンロード操作弁56は、ソレノイドを有する電磁弁により構成され、前記コントローラ70から前記ソレノイドに与えられるアンロード操作指令、具体的には当該ソレノイドを流れる励磁電流、に対応した開度で開くことにより、当該アンロード操作指令に対応したパイロット圧が前記パイロットポート52に入力されることを許容する。前記電磁弁は、前記励磁電流に比例した開度で開く電磁比例弁であってもよいし、当該励磁電流が大きいほど開度が小さくなる電磁逆比例弁であってもよい。
【0032】
前記複数のセンサのそれぞれは、前記コントローラ70により行われる演算制御動作を可能にするための情報を検出し、当該情報を含む電気信号(検出信号)を生成して前記コントローラ70に入力する。この実施の形態に係る前記複数のセンサは、ポンプ圧センサ60と、ヘッド圧センサ63Hと、ロッド圧センサ63Rと、シリンダ速度センサ66と、第1パイロット圧センサ62Aと、第2パイロット圧センサ62Bと、を含む。
【0033】
前記ポンプ圧センサ60は、前記油圧ポンプ10のポンプ圧Pd、すなわち、前記油圧ポンプ10から吐出される作動油の圧力、を検出するポンプ圧検出器である。
【0034】
前記ヘッド圧センサ63H及び前記ロッド圧センサ63Rは、それぞれ、前記油圧シリンダ20のヘッド圧Ph及びロッド圧Prを検出するものである。前記ヘッド圧センサ63H及び前記ロッド圧センサ63Rは、アクチュエータ保持圧Pahを検出するアクチュエータ保持圧検出器として機能することが可能である。前記アクチュエータ保持圧Pahは、この実施の形態では、前記油圧シリンダ20をこれに作用する負荷に抗して停止状態に保つための圧力、すなわちシリンダ保持圧、である。
【0035】
具体的に、前記ヘッド圧Phは、前記ヘッド側室22h内の作動油の圧力であり、前記油圧シリンダ20に対してこれを収縮させる方向の負荷が作用しているときに当該負荷に抗して当該油圧シリンダ20を停止状態に保つための圧力である。前記ロッド圧Prは、前記ロッド側室22r内の作動油の圧力であり、前記油圧シリンダ20に対してこれを伸長させる方向の負荷が作用しているときに当該負荷に抗して当該油圧シリンダ20を停止状態に保つための圧力である。従って、前記油圧シリンダ20が伸長方向に駆動される負荷が作用しているときは前記ロッド圧センサ63Rが前記アクチュエータ保持圧検出器として機能し、前記油圧シリンダ20が収縮方向に駆動される負荷が作用しているときは前記ヘッド圧センサ63Hが前記アクチュエータ保持圧検出器として機能する。
【0036】
前記シリンダ速度センサ66は、シリンダ速度Scを検出する。当該シリンダ速度Scは、前記油圧シリンダ20が伸縮する速度、換言すれば、前記シリンダ本体22に対する前記シリンダロッド26の軸方向の移動速度、である。従って、当該シリンダ速度センサ66は、本発明に係る油圧アクチュエータに相当する前記油圧シリンダ20の作動の有無を検出するアクチュエータ作動検出器として機能することが可能である。
【0037】
ただし、本発明に係るアクチュエータ作動検出器は、前記のような速度センサに限られない。当該アクチュエータ作動検出器は、例えば、前記シリンダ本体22に対する前記シリンダロッド26の軸方向位置を検出する位置センサと、その軸方向位置を時間微分する微分器と、の組み合わせや、前記シリンダロッド26の加速度と、当該加速度を積分する積分器と、の組み合わせであってもよい。また、本発明に係る油圧アクチュエータが油圧モータである場合、例えば、その回転角度を検出するロータリエンコーダと、その検出された回転角度を時間微分する微分器と、の組み合わせによって前記アクチュエータ作動検出器が構成されることが可能である。
【0038】
前記第1及び第2パイロット圧センサ62A,62Bのそれぞれは、前記シリンダ操作(アクチュエータ操作)に対応して前記操作器40から前記コントロールバルブ30に入力されるパイロット圧を検出するものであり、アクチュエータ操作検出器に相当する。具体的に、前記第1パイロット圧センサ62Aは、前記操作器40から前記第1パイロットライン36Aを通じて前記第1パイロットポート32Aに入力されるパイロット圧(伸長駆動用パイロット圧)を検出し、前記第2パイロット圧センサ62Bは、前記操作器40から前記第2パイロットライン36Bを通じて前記第2パイロットポート32Bに入力されるパイロット圧(収縮駆動用パイロット圧)を検出する。
【0039】
前記コントローラ70は、前記アンロード弁50の操作を通じての前記油圧ポンプ10のポンプ圧Pdの制御と、前記油圧ポンプ10のポンプ容量の制御と、を行う。具体的に、当該コントローラ70は、前記制御を実行するための機能として、図2に示される目標圧力算定部73、アンロード操作指令部76及びポンプ容量指令部78を有する。
【0040】
前記目標圧力算定部73は、前記ポンプ圧Pdについての目標圧力Pdoを算定する。この目標圧力Pdoは、後に詳述するように、前記アクチュエータ保持圧Pahに基づいて(つまり当該アクチュエータ保持圧Pahが大きいほど当該目標圧力Pdoが大きくなるように)算定される。
【0041】
前記アンロード操作指令部76は、前記目標圧力Pdoと、前記ポンプ圧センサ60により検出される実際のポンプ圧Pdと、前記シリンダ速度センサ66により検出されるシリンダ速度Scと、に基づいてアンロード操作指令を生成し、これを前記アンロード操作弁56のソレノイドに入力する。これにより、アンロード弁50に入力されるパイロット圧が前記アンロード操作指令に応じて変化し、当該アンロード弁50の開度が当該パイロット圧の大きさに対応した開度に調節される。
【0042】
前記ポンプ容量指令部78は、前記ポンプ圧Pdと、前記第1及び第2パイロット圧センサ62A,26Bにより検出されるパイロット圧と、に基づいてポンプ容量指令を生成し、これを前記油圧ポンプ10のレギュレータ11に入力することにより、当該油圧ポンプ10についてのポンプ容量制御を行う。この実施の形態に係る前記ポンプ容量指令部78は、前記ポンプ容量制御としてポジティブコントロールと馬力制御とを実行するためのポンプ容量指令を生成する。前記ポジティブコントロールは、前記第1及び第2パイロット圧センサ62A,62Bにより検出されるパイロット圧の増大すなわち前記シリンダ操作(アクチュエータ操作)の増大に応じて前記油圧ポンプ10の容量を増大させる制御であり、前記馬力制御は、前記ポンプ圧Pdとポンプ容量とに基づいて算定されるポンプ馬力(油圧ポンプ10を駆動するために必要な馬力)を前記エンジンの馬力曲線に基づいて制限する制御である。
【0043】
次に、前記コントローラ70が実際に行う演算制御動作及びこれに伴う装置の作用を、図3のフローチャート及び図4のグラフを併せて参照しながら説明する。
【0044】
前記コントローラ70は、前記複数のセンサのそれぞれが生成する検出信号を取り込み(ステップS10)、これらの検出信号に基づいて下記の演算制御を行う。
【0045】
(1)アクチュエータ保持圧Pahの特定(ステップS11)
前記シリンダ操作(アクチュエータ操作)がない状態、すなわち前記第1及び第2パイロット圧センサ62A,62Bによりパイロット圧が検出されない状態において、前記油圧シリンダ20は停止状態に保持される。このときの、前記油圧シリンダ20のヘッド圧Ph及びロッド圧Prが前記ヘッド圧センサ63H及び前記ロッド圧センサ63Rにより検出される。前記コントローラ70の目標圧力算定部73は、検出された前記ヘッド圧Ph及び前記ロッド圧Prのうち大きい方の圧力をアクチュエータ保持圧(シリンダ保持圧)Pahとして特定する。
【0046】
具体的に、前記油圧シリンダ20がブームシリンダである場合には、作業アタッチメントを構成するブーム、アーム、バケット及び当該バケットに保持される物体に対して重力が作用する。この重力に抗してブームシリンダを静止状態に保持するための前記ブームシリンダのヘッド圧Phは、前記ブームシリンダのロッド圧Prと比して大きくなる。したがって、この場合に前記目標圧力算定部73は前記ブームシリンダのヘッド圧Phを前記アクチュエータ保持圧として特定する。
【0047】
(2)シリンダ操作(アクチュエータ操作)の有無の判定(ステップS12)
前記コントローラ70のアンロード操作指令部76は、前記シリンダ操作(アクチュエータ操作)の有無を、前記第1及び第2パイロット圧センサ62A,62Bより検出されるパイロット圧の有無により判定する。前記第1及び第2パイロット圧センサ62A,62Bの何れかによりパイロット圧が検出される、つまり前記シリンダ操作が検出される場合(ステップS12でYES)には、次に述べるステップS13の処理が行われる。前記第1及び第2パイロット圧センサ62A,62Bのどちらにおいてもパイロット圧が検出されない場合(ステップS12でNO)、前記アンロード操作指令部76は次のステップS18の処理を行う。
【0048】
(3)待機時の制御(ステップS18)
前記シリンダ操作(アクチュエータ操作)が検出されない場合(ステップS12でNO)に、前記コントロールバルブ30は中立位置34Nに保持されている(完全に閉弁している)。この中立位置34Nにおいて、前記コントロールバルブ30は、前記油圧ポンプ10と前記油圧シリンダ20の間の油路およびタンクと前記油圧シリンダ20の間の油路との間を遮断して当該油圧シリンダ20を停止状態に保つ。このとき、前記コントローラ70のポンプ容量指令部78は、前記油圧ポンプ10のポンプ容量が最小になるようにレギュレータ11に容量信号指令を入力する。一方、当該コントローラ70のアンロード操作指令部は、アンロード弁50にこれを全開又はこれに近い状態にするようなパイロット圧を入力させるためのアンロード操作指令をアンロード操作弁56に入力する(ステップS18)。このようなアンロード弁50の開弁操作は、回路圧を最低圧に近い待機圧Pwtに抑えてエンジンへの負荷を最小にする。
【0049】
(4)目標圧力の算定(ステップS13でYES,ステップS14)
前記シリンダ操作(アクチュエータ操作)が検出された場合(ステップS12でYES)に、前記目標圧力算定部73は、前記シリンダ速度センサ66により検出される実際のシリンダ速度Scが図4に示すように当該シリンダ速度Scについて予め設定された作動判定速度Sco未満であるか否かを判定する(ステップS13)。前記作動判定速度Scoは、前記油圧シリンダ20が実際に動き始めている(作動している)か否かを判定するために設定される微小な値である。
【0050】
前記目標圧力算定部73は、前記シリンダ速度Scが前記作動判定速度Sco未満である場合(ステップS13でYES)、つまり、前記油圧シリンダ20が未だ作動していないとみなせる場合、に前記ポンプ圧Pdについての目標圧力Pdoを算定する(ステップS14)。
【0051】
この実施の形態の特徴として、前記目標圧力算定部73は、前記油圧シリンダ20の保持圧であるアクチュエータ保持圧Pahに基づき、目標圧力Pdoを算定する。前記アクチュエータ保持圧Pahは、前記油圧シリンダ20に対してこれを収縮させる方向の負荷が作用しているときは当該負荷に抗して当該油圧シリンダ20を停止状態に保つための圧力、つまりヘッド圧センサ63Hにより検出されるヘッド圧Phであり、前記油圧シリンダ20に対してこれを伸長させる方向の負荷が作用しているときは当該負荷に抗して当該油圧シリンダ20を停止状態に保つための圧力、すなわちロッド圧センサ63Rにより検出されるロッド圧Prである。
【0052】
具体的に、前記目標圧力算定部73は、ステップS11にて特定されたアクチュエータ保持圧Pah、すなわち、前記油圧シリンダ20に加わる伸長または収縮の負荷に抗して当該油圧シリンダ20を停止状態に保つために必要な保持圧、に操作圧ΔPop及び加算圧力ΔPadを加えた圧力を前記目標圧力Pdoとして算定する。前記操作圧ΔPopは、第1パイロット圧センサ62Aより検出されるパイロット圧の大きさに対応する圧力であり、前記加算圧力ΔPadは、前記油圧ポンプ10から前記油圧シリンダ20に至るまでの作動油の圧力損失に対応する圧力である。
【0053】
前記アクチュエータ保持圧Pahは、前記ポンプ圧Pdを当該アクチュエータ保持圧Pahまで引き上げるために前記目標圧力Pdoに含められる。前記操作圧ΔPopは、第1パイロット圧センサ62Aより検出されるパイロット圧の大きさに対応して前記ポンプ圧Pdを変動させるために前記目標圧力Pdoに含められる。前記加算圧力ΔPadは、前記コントロールバルブ30における圧力損失及びそれぞれの配管における圧力損失を含むものであって、このような圧力損失に抗して前記油圧シリンダ20を確実に作動させるポンプ圧Pdを得るために前記目標圧力Pdoに含められる。
【0054】
つまり、前記目標圧力Pdoを設定するための演算の例として、例えば次式(1)に基づく演算が挙げられる。
【0055】
Pdo=Pah+ΔPop+ΔPad …(1)
前記アクチュエータ保持圧Pahは、前記油圧シリンダ20に対してこれを収縮させる方向の負荷が作用しているときには当該負荷に抗して当該油圧シリンダ20を停止状態に保つための圧力すなわち前記ヘッド圧センサ63Hにより検出されるヘッド圧Phに相当し、前記油圧シリンダ20に対してこれを伸長させる方向の負荷が作用しているときには当該負荷に抗して当該油圧シリンダ20を停止状態に保つための圧力すなわち前記ロッド圧センサ63Rにより検出されるロッド圧Prに相当する。前記操作圧ΔPopは第1パイロット圧センサ62Aより検出されるパイロット圧の大きさに対応する。前記加算圧力ΔPadは前記圧力損失に基づいて設定される。当該加算圧力ΔPadは、前記圧力損失よりも大きな値であって、かつ、当該加算圧力ΔPadを含む前記目標圧力Pdoが予め設定された制限圧Pdr以下となるような値に設定される。
【0056】
前記圧力損失は作動油の状態(作動油の粘度を左右する温度や作動油の種類)及び流量により変化するので、前記加算圧力ΔPadはこのような圧力損失の変動を見越した値に設定されることが好ましい。例えば、当該加算圧力ΔPadは、前記圧力損失について推定される最大の値よりもわずかに大きい一定の値に設定されてもよいし、作動油の温度(気温であってもよい)や流量に応じて変化する変数として設定されてもよい。
【0057】
一方、前記制限圧Pdrは、サージ圧を抑制することができるように設定された前記目標圧力Pdoの上限圧である。当該制限圧Pdrは、前記ポンプ圧の瞬間的な増加を考慮して設定されることが好ましい。
【0058】
前記目標圧力Pdoの演算は、前記式(1)に基づくものに限定されない。当該演算が他の数式に基づいて行われてもよい。具体的には、前記目標圧力Pdoが前記油圧シリンダ20を前記負荷に抗して動かすために最低限必要な圧力以上の圧力でかつ前記制限圧Pdr以下となる条件を満たす範囲で、前記演算の手法が適宜設定されることが可能である。
【0059】
(5)アンロード操作指令の生成及び入力(ステップS16、S20)
前記アンロード操作指令部76は、前記油圧シリンダ20の作動の有無、この実施の形態では前記シリンダ速度Scと前記作動判定速度Scoとの大小関係,に応じて次のようなアンロード操作指令の生成を行う。
【0060】
前記シリンダ速度Scが前記作動判定速度Sco未満である段階(ステップS13でYES)、つまり、前記油圧シリンダ20が実質的に動き始めていないとみなされる段階、では、前記アンロード操作指令部76は、前記ポンプ圧センサ60により検出される実際のポンプ圧Pdを前記目標圧力Pdoに追従させるようなアンロード操作指令を生成する(ステップS16)。具体的に、この実施の形態に係る前記アンロード操作指令部76は、前記目標圧力Pdoに対する前記ポンプ圧Pdの偏差δPd(=Pd-Pdo)を求め、当該偏差δPdに基づき前記ポンプ圧Pdのフィードバック制御(例えばPID制御)を実行するためのアンロード操作指令を生成する。
【0061】
前記アンロード操作指令部76は、前記のようにして生成されたアンロード操作指令をアンロード操作弁56に入力し(ステップS20)、これにより、当該アンロード操作指令に対応したパイロット圧をアンロード弁50のパイロットポート52に入力させる。当該アンロード弁50は、前記パイロット圧に対応した開口面積で開弁し、これにより、前記油圧ポンプ10から吐出される作動油が前記開口面積に対応した流量でタンクに直接逃がされることを許容する。
【0062】
図6は、前記のように制御されるポンプ圧Pdの時間変化の例を示す。この例において、時刻t1に至るまでは前記シリンダ操作(アクチュエータ操作)が検出されておらず(ステップS12でNO)、よって前記ポンプ圧Pdは待機圧Pwtに維持される。時刻t1以降にて前記シリンダ操作(アクチュエータ操作)が検出され(ステップS12でYES)、前記コントローラ70は前記ポンプ圧Pdを前記目標圧力Pdoに追従させる制御を開始する。
【0063】
前記目標圧力Pdoは、前記アクチュエータ保持圧Pah(前記油圧シリンダ20に対してこれを収縮させる方向の負荷が作用しているときに当該負荷に抗して当該油圧シリンダ20を停止状態に保つためのヘッド圧センサ63Hにより検出されるヘッド圧Ph、前記油圧シリンダ20に対してこれを伸長させる方向の負荷が作用しているときに当該負荷に抗して当該油圧シリンダ20を停止状態に保つためのロッド圧センサ63Rにより検出されるロッド圧Pr)に、第1パイロット圧センサ62Aより検出されるパイロット圧の大きさに対応する操作圧ΔPopと、前記圧力損失に対応する圧力であって前記制限圧Pdrを考慮して設定された加算圧力ΔPadと、を加えた圧力に算定される。このような目標圧力Pdoに基づく制御は、前記ポンプ圧Pdが前記アクチュエータ保持圧Pahを上回ることを可能にする。
【0064】
前記コントロールバルブ30が開弁してから実際に油圧シリンダ20が動き始めるまでにはタイムラグがあるため、当該油圧シリンダ20が静止した状態のまま前記ポンプ圧Pdが上昇する。
【0065】
ここでは、コントローラ70の目標圧力算定部73により算定される目標圧力Pdoに実際のポンプ圧Pdを追従させるようなアンロード操作指令をアンロード操作指令部76が生成してアンロード操作弁56に入力する。前記のような加算圧力ΔPadの設定は、前記ポンプ圧Pdが前記制限圧Pdrを超えることを阻んでサージ圧の発生の抑止を可能にする。前記制限圧Pdrは、エンジンが出力することのできるトルクの増加速度に対して、瞬間的なポンプ圧Pdの増加に対して要求されるエンジントルクの増加速度が超過することを防止できる圧力に設定される。これによって、前記油圧シリンダ20が静止した状態での前記コントロールバルブ30の急激な開弁に起因して前記ポンプ圧Pdが急激に上昇すること、すなわちサージ圧の発生、を有効に抑止することができる。
【0066】
そして、前記油圧シリンダ20が動き始めると、ポンプ圧Pdが低下してサージ圧の発生のおそれがさらに低下する。
【0067】
前記油圧シリンダ20が実際に動き始めてそのシリンダ速度Scが図4に示されるように作動判定速度Scoに到達した時点(始動時点)T1で(ステップS12でNO)、アンロード操作指令部76は実際のポンプ圧Pdに関係なくアンロード弁50を全閉にするようなアンロード操作指令を生成してアンロード操作弁56に入力する(ステップS17)。これにより、油圧ポンプ10から吐出される作動油はアンロードライン51を通じて逃がされることなく油圧シリンダ20に供給される。このことは、当該油圧ポンプ10から当該油圧シリンダ20に供給される作動油の流量を増やして高いシリンダ速度Scを確保することを可能にする。
【0068】
以上述べた効果を、図6に示す比較例に係る制御と対比しながら説明する。当該比較例に係る制御は、操作器にアクチュエータ操作が付与される時点であるアクチュエータ操作時点T2でアンロード弁を直ちに全閉にして油圧アクチュエータへの作動油の供給流量を確保する制御である。このように前記アクチュエータ操作が与えられてから前記油圧アクチュエータが動き出す前にアンロード弁がそれまでの全開の状態から全閉にされる、つまりアンロード弁の開口が急激に大きく減少する、ことにより、ポンプ圧において大きなサージ圧Psgが発生する。具体的に、前記サージ圧Psgは次式(2)で表される。
【0069】
Psg=ρ×c×ΔV …(2)
この式(2)において、ρは作動油の密度、cは波動伝播速度、νは作動油の流速の変化である。
【0070】
このようなサージ圧の発生は、図6に示されるように、ポンプ流量及びポンプトルクの急増を伴い、これにより、エンジン回転数を一時的に著しく低下させるおそれがある。そのようなポンプトルクの急増を抑制する手段として、ポンプ圧の上昇に伴い可変容量型油圧ポンプのポンプ容量を減少させることが考えられるが、コントローラが油圧ポンプへの容量指令信号を変化させてから実際にポンプ容量が減少しかつトルクが低下するまでには大きな応答遅れがあるため、有効な手段とはなりにくい。
【0071】
これに対して図3及び図4に示されるような制御では、コントロールバルブ30が開弁してから実際に油圧シリンダ20が動き始めるまでの間、前記アクチュエータ保持圧Pah(ヘッド圧Phまたはロッド圧Pr)、前記操作圧、前記圧力損失に基づいて算定される目標圧力Pdoに実際のポンプ圧Pdが追従するようにアンロード弁50の開口面積が操作されるので、前記サージ圧の発生すなわち前記ポンプ圧Pdの跳ね上がりを直接的かつ有効に抑止することが可能である。
【0072】
さらに、前記制御では、前記油圧シリンダ20が実際に始動したとみなされる時点T1でアンロード弁50を全閉にすることにより、当該油圧シリンダ20の高い駆動速度を確保することができる。しかも、このような始動時点T1での前記アンロード弁50の全閉は、前記比較例のようなコントロールバルブ30の開弁時点におけるアンロード弁50の全閉と異なり、サージ圧の発生を伴いにくい。なぜならば、図6に示されるように、操作レバーに操作が与えられて前記ポンプの吐出量が増加されるとともに前記コントロールバルブが開弁する際に増加するポンプ圧Pdに対して、アンロード弁50を開くことによって、前記制限圧を上回る分については、上昇を回避するからである。
【0073】
また、操作レバーに操作が与えられた段階においてポンプ圧Pdは少なくとも前記アクチュエータ保持圧まで上昇させるので、前記油圧シリンダ20を起動させる圧力に迅速に追従させることができ応答性の向上が図られる。
【0074】
また、前記制御は、パイロットポート52を有するパイロット切換弁からなるアンロード弁50と、当該パイロットポート52に入力されるパイロット圧を変化させる電磁弁からなるアンロード操作弁56と、の組み合わせにより実行されるので、油圧ポンプが前記油圧ポンプ10のように可変容量型油圧ポンプからなってポンプ容量制御が可能である場合に、例えばアンロード弁にロードセンシング圧がパイロット圧として入力されることを前提とするロードセンシング制御を行う装置に比べ、適用可能なポンプ容量制御の自由度が高いという利点がある。具体的に、前記実施の形態に係る装置では、前記アンロード操作弁56を通じた前記アンロード弁50の操作によってサージ圧の抑制に有効なポンプ圧制御を行いながら、第1及び第2パイロット圧センサ62A,62Bにより検出されるパイロット圧に基づく(すなわちシリンダ操作の大きさに基づく)ポジティブコントロールや、ポンプ圧Pdに基づく馬力制御を併せて実行することが可能である。
【0075】
本発明は、以上説明した実施の形態に限定されるものではない。本発明は、例えば次のような態様を包含する。
【0076】
(A)コントロールバルブについて
本発明に係るコントロールバルブは、操作器に与えられるアクチュエータ操作に応じて開弁動作をすることが可能なものであればよく、図1に示されるコントロールバルブ30、すなわち3位置のパイロット切換弁、に限定されない。本発明に係るコントロールバルブは、例えば、2位置切換弁であってもよく、また、電磁切換弁であってもよい。
【0077】
(B)操作器について
本発明に係る操作器は、オペレータによるアクチュエータ操作を受けて当該アクチュエータ操作に対応した開弁をコントロールバルブに行わせるものであればよい。本発明に係る操作器は、例えば、与えられたアクチュエータ操作を電気信号である操作信号に変換する電気レバー装置と、コントロールバルブに入力されるパイロット圧を変化させるための電磁弁と、前記操作信号に対応した開弁動作を前記コントロールバルブに行わせるように当該操作信号に対応したパイロット圧指令を前記電磁弁に入力するパイロット圧指令部と、の組み合わせによるものでもよい。
【0078】
(C)アンロード操作指令部について
本発明に係るアンロード操作指令部は、実際のポンプ圧をその目標圧力に追従させるようなアンロード操作指令を生成するものであればよく、その具体的な生成手段は限定されない。すなわち、本発明に係るアンロード操作指令部は、前記アンロード操作指令部76のように目標圧力Pdoに対するポンプ圧Pdの偏差δPdに基づいてフィードバック制御のためのアンロード操作指令を演算するものに限定されない。例えば、本発明に係るアンロード操作指令部は、入力されるポンプ圧及びアクチュエータ保持圧と出力すべきアンロード操作指令との関係を特定するために用意されたマップを格納し、当該マップを用いて前記アンロード操作指令を決定するものでもよい。すなわち、シーケンス制御が実行されてもよい。
【0079】
また、本発明においてアクチュエータの作動を検出するアクチュエータ作動検出器及びその検出に基づいてアンロード弁を全閉する制御は必須ではない。例えば、本発明に係るアンロード操作指令部は、アクチュエータの作動後もポンプ圧をアクチュエータ保持圧に追従させるようなアンロード操作指令の生成を続行するものでもよい。
【0080】
(D)ポンプ容量制御について
本発明において、ポンプ容量制御は必須のものではない。従って、本発明に係る油圧ポンプは前記油圧ポンプ10のような可変容量型油圧ポンプに限定されず、固定容量型油圧ポンプであってもよい。
【符号の説明】
【0081】
10 油圧ポンプ
15 パイロットポンプ
18 可動要素
20 油圧シリンダ(油圧アクチュエータ)
30 コントロールバルブ
40 操作器
50 アンロード弁
51 アンロードライン
56 アンロード操作弁
60 ポンプ圧センサ(ポンプ圧検出器)
62A 第1パイロット圧センサ(アクチュエータ操作検出器)
62B 第2パイロット圧センサ(アクチュエータ操作検出器)
63H ヘッド圧センサ(アクチュエータ保持圧検出器)
63R ロッド圧センサ(アクチュエータ保持圧検出器)
66 シリンダ速度センサ(アクチュエータ作動検出器)
70 コントローラ
73 目標圧力算定部
76 アンロード操作指令部
78 ポンプ容量指令部
図1
図2
図3
図4
図5
図6