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  • 特許-減速力抑制装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】減速力抑制装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/12 20060101AFI20231212BHJP
   B60T 7/04 20060101ALI20231212BHJP
   B60W 40/08 20120101ALI20231212BHJP
【FI】
B60T7/12 B
B60T7/04
B60W40/08
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020045734
(22)【出願日】2020-03-16
(65)【公開番号】P2021146777
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 佳佑
(72)【発明者】
【氏名】栗田 直幸
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-107980(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12
B60T 7/04
B60W 40/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つのペダルの操作状態に応じて車両の加減速から停止までを制御可能なワンペダルドライブ機能を持った車両の減速力抑制装置であって、
前記車両の運転者の、前記ワンペダルドライブ機能への習熟度を算出し、前記習熟度が高いほど前記ワンペダルドライブ機能による減速力の抑制量を小さくする制御部を備え
前記制御部は、前記ワンペダルドライブ機能使用時の前記ペダルの操作による減速回数が多いほど、前記習熟度を上げる減速力抑制装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記ワンペダルドライブ機能使用時の走行距離が長いほど前記習熟度を上げ、前記ワンペダルドライブ機能使用時のブレーキペダル踏込回数が多いほど前記習熟度を下げる請求項に記載の減速力抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速力抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
単一のペダルで加速と減速の双方が可能なワンペダルドライブ機能を有する車両において、運転者は単一のペダルの操作に不慣れな場合が多く、運転者の操作性をより向上させることが望まれている。
【0003】
特に、制動力を調整する際に、適切なペダル操作を行なえず、ペダルの操作不足や過剰な操作が生じる場合があり、制動の制御性が低下する場合がある。
【0004】
特許文献1には、単一のペダルで加速と減速の双方が可能な車両において、ペダルの踏み戻し時のペダルの操作量に応じて減速度を変化させることで、操作性と制動性を向上させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-141232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ワンペダルドライブ機能は、ペダルの踏み戻しにより車両停止まで減速を実施しており、通常のアクセルペダル及びブレーキペダルを操作する車両と比較すると、ペダル踏み戻し時の減速感が強く出るため、乗り慣れるまでは運転者に違和感を覚えさせることがある。
【0007】
そこで、本発明は、運転者がワンペダルドライブ機能に慣れるまでに感じる違和感を抑えることができる減速力抑制装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明は、一つのペダルの操作状態に応じて車両の加減速から停止までを制御可能なワンペダルドライブ機能を持った車両の減速力抑制装置であって、前記車両の運転者の、前記ワンペダルドライブ機能への習熟度を算出し、前記習熟度が高いほど前記ワンペダルドライブ機能による減速力の抑制量を小さくする制御部を備え、前記制御部は、前記ワンペダルドライブ機能使用時の前記ペダルの操作による減速回数が多いほど、前記習熟度を上げるものである。
【発明の効果】
【0009】
このように、本発明によれば、運転者がワンペダルドライブ機能に慣れるまでに感じる違和感を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施例に係る減速力抑制装置のブロック図である。
図2図2は、本発明の一実施例に係る減速力抑制装置の習熟度に応じた減速力の抑制量の例を示す図である。
図3図3は、本発明の一実施例に係る減速力抑制装置の減速力抑制制御処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施の形態に係る減速力抑制装置は、一つのペダルの操作状態に応じて車両の加減速から停止までを制御可能なワンペダルドライブ機能を持った車両の減速力抑制装置であって、車両の運転者の、ワンペダルドライブ機能への習熟度を算出し、習熟度が高いほどワンペダルドライブ機能による減速力の抑制量を小さくする制御部を備えるよう構成されている。
【0012】
これにより、本発明の一実施の形態に係る減速力抑制装置は、運転者がワンペダルドライブ機能に慣れるまでに感じる違和感を抑えることができる。
【実施例
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施例に係る減速力抑制装置について詳細に説明する。
【0014】
図1において、本発明の一実施例に係る減速力抑制装置を搭載した車両1は、駆動用モータ2と、表示部4と、制御部5とを含んで構成される。
【0015】
駆動用モータ2は、例えば、複数の永久磁石が埋め込まれたロータと、ステータコイルが巻きつけられたステータと、を備えた同期型モータで構成される。駆動用モータ2は、ステータコイルに三相交流電力が印加されることでステータに回転磁界が形成され、この回転磁界によりロータが回転して駆動力を生成する。
【0016】
また、駆動用モータ2は、発電時における回転抵抗を車両1の制動に利用するように駆動される。これにより、駆動用モータ2は、回生によって発電できる機能を有する。
【0017】
駆動用モータ2の回転軸は、図示しない減速機や駆動軸を介して車輪3に連結されている。駆動用モータ2は、車輪3を駆動する。
【0018】
表示部4は、液晶表示装置などによって構成される。表示部4は、各種情報を表示して運転者に報知する。
【0019】
制御部5は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、入力ポートと、出力ポートとを備えたコンピュータユニットによって構成されている。
【0020】
制御部5のROMには、各種制御定数や各種マップ等とともに、当該コンピュータユニットを制御部5として機能させるためのプログラムが記憶されている。すなわち、CPUがROMに記憶されたプログラムを実行することにより、当該コンピュータユニットは、制御部5として機能する。
【0021】
制御部5の入力ポートには、抑制制御キャンセルスイッチ51と、ユーザ識別部52と、アクセル開度センサ53と、ブレーキスイッチ54とを含む各種センサ類が接続されている。一方、制御部5の出力ポートには、前述の駆動用モータ2と、表示部4とを含む各種制御対象類が接続されている。
【0022】
抑制制御キャンセルスイッチ51は、ドライバの操作を受け付け、オン信号またはオフ信号を出力する。制御部5は、抑制制御キャンセルスイッチ51からオン信号が出力されていれば、ワンペダルドライブ機能のペダル解放時の減速度を抑制する減速力抑制制御を行なわない。また、制御部5は、抑制制御キャンセルスイッチ51からオフ信号が出力されていれば、減速力抑制制御を行なう。
【0023】
ユーザ識別部52は、車両1を運転する運転者を識別する。ユーザ識別部52は、運転者の操作によるユーザ識別情報の入力や、スマートフォンによるユーザ認証、体重などにより運転者を識別する。
【0024】
アクセル開度センサ53は、運転者によって操作される図示しないアクセルペダルの開度であるアクセル開度を検出する。
【0025】
ブレーキスイッチ54は、図示しないブレーキペダルが運転者により踏み込まれたか否かを検出する。
【0026】
制御部5は、図示しないワンペダルドライブモードスイッチによりワンペダルドライブ機能を使用することが選択された場合、アクセルペダルの操作状態に応じて、駆動用モータ2の動力(駆動力及び制動力)を制御して、車両1の加減速から停止までを制御する。
【0027】
制御部5は、ワンペダルドライブ機能を使用している場合に、抑制制御キャンセルスイッチ51がオフ信号を出力していると、運転者のワンペダルドライブ機能への習熟度に応じて、ワンペダルドライブ機能による減速力を抑制する。
【0028】
制御部5は、運転者のワンペダルドライブ機能への習熟度を算出する。制御部5は、例えば、ワンペダルドライブ機能使用中の、走行距離、ブレーキペダル踏込回数、アクセルペダルの踏み戻しであるアクセルペダル解放による減速回数などから運転者のワンペダルドライブ機能への習熟度を算出する。アクセルペダル解放による減速回数は、例えば、所定値以上の減速で1回と数える。
【0029】
ワンペダルドライブ機能使用中の走行距離は、走行距離が長くなれば長くなるほど習熟度を上げるようにする。これは、走行距離が長いほどワンペダルドライブ機能を使用しての走行経験が多いことになるためである。制御部5は、例えば、走行距離が10kmになる毎に走行距離のカウンタを1カウントアップする。
【0030】
ワンペダルドライブ機能使用中のブレーキペダル踏込回数は、ブレーキペダルの踏込回数が多いほど習熟度を下げるようにする。これは、ブレーキペダルの踏込回数が多いということは、アクセルペダル解放による減速、つまりワンペダルドライブ機能を使用しての減速をあまり利用していないことになるためである。ブレーキペダルの踏込は、ブレーキスイッチ54により検出される。制御部5は、例えば、ブレーキペダル踏込回数1回毎にブレーキペダル踏込回数のカウンタを1カウントダウンする。
【0031】
ワンペダルドライブ機能使用中のアクセルペダル解放による減速回数は、アクセルペダル解放による減速回数が多いほど習熟度を上げるようにする。これは、アクセルペダル解放による減速回数が多いということは、ワンペダルドライブ機能をよく利用しているということになるためである。制御部5は、例えば、アクセルペダル解放による減速回数1回毎にアクセルペダル解放による減速回数のカウンタを1カウントアップする。
【0032】
なお、アクセルペダル解放による減速度が低い場合、ブレーキペダルへの踏みかえによる減速の可能性があり、その場合は、ワンペダルドライブ機能をよく利用しているとはいえないため、アクセルペダル解放での減速度が所定値以下の場合は、習熟度への反映は行なわない。
【0033】
習熟度Prは、走行距離のカウンタ、ブレーキペダル踏込回数のカウンタ、アクセルペダル解放による減速回数のカウンタの値に基づいて、以下の式により算出される。
習熟度Pr=K1×走行距離-K2×ブレーキペダル踏込回数+K3×アクセルペダル解放による減速回数
ここで、K1、K2、K3は重み係数であり、制御部5により任意に設定される。重み係数は、例えば、アクセルペダル解放による減速回数が多ければ、ワンペダル操作になれていると判断できるため、K3を高く設定する。また、長距離を従来通りに走行していると判断した場合は、習熟度の上昇を遅らせるため、K1とK2を同程度に設定する。
【0034】
また、重み係数を運転者の年齢に応じて変えてもよい。例えば、高齢者は若年者と比較して、ワンペダルの操作の習得に時間がかかると考えられるため、重み係数を若年者と比べて低く設定することで、習熟完了までに係る時間を長くし、徐々に慣れていくようにする。
【0035】
制御部5は、習熟度Prが所定の値になると、習熟完了と判断し、減速力をワンペダル操作本来の減速力とする。
【0036】
制御部5は、習熟度が高ければ高いほど、減速力をワンペダル操作本来の減速力に近い値とする。
【0037】
習熟度による減速力の抑制量は、図2に示すように、複数のパターンで設定してもよい。図2のaで示す線は、習熟度に応じてリニアに減速力の抑制量を解除(小さく)していく場合である。図2のbで示す線は、習熟度が低いうちは減速力の抑制量の解除量を小さくし、徐々に解除量を大きくする場合である。
【0038】
例えば、習熟度の上昇が早ければ、図2のaで示す線のようにリニアに減速力の抑制を解除することで、減速力の抑制が解除されることを実感できるようにし、逆に習熟度の上昇が遅ければ、図2のbの線のように徐々に減速力の抑制を解除していくことで、減速力の抑制の解除が大きくなることによる違和感を軽減させる。
【0039】
制御部5は、ユーザ識別部52により識別された運転者毎に習熟度を記憶し、運転者毎に習熟度を更新する。
【0040】
以上のように構成された本実施例に係る減速力抑制装置による減速力抑制制御処理について、図3を参照して説明する。なお、以下に説明する減速力抑制制御処理は、制御部5が動作を開始すると開始され、予め設定された時間間隔で実行される。
【0041】
ステップS1において、制御部5は、抑制制御キャンセルスイッチ51がオン信号を出力しているか否かを判定する。抑制制御キャンセルスイッチ51がオン信号を出力していると判定した場合には、制御部5は、ステップS7の処理を実行する。
【0042】
抑制制御キャンセルスイッチ51がオン信号を出力していないと判定した場合には、制御部5は、ステップS2の処理を実行する。
【0043】
ステップS2において、制御部5は、ユーザ識別部52により運転者を識別する。ステップS2の処理を実行した後、制御部5は、ステップS3の処理を実行する。
【0044】
ステップS3において、制御部5は、識別された運転者が習熟完了済みであるか否かを判定する。識別された運転者が習熟完了済みであると判定した場合には、制御部5は、ステップS7の処理を実行する。
【0045】
識別された運転者が習熟完了済みでないと判定した場合には、制御部5は、ステップS4の処理を実行する。
【0046】
ステップS4において、制御部5は、識別された運転者の習熟度を表示部4に表示させる。ステップS4の処理を実行した後、制御部5は、ステップS5の処理を実行する。
【0047】
ステップS5において、制御部5は、識別された運転者の習熟度に応じた、ワンペダルドライブによる減速力の抑制状態を表示部4に表示させる。ステップS5の処理を実行した後、制御部5は、ステップS6の処理を実行する。
【0048】
ステップS6において、制御部5は、識別された運転者の習熟度に応じた減速力の抑制を行なう。ステップS6の処理を実行した後、制御部5は、減速力抑制制御処理を終了する。
【0049】
ステップS7において、制御部5は、表示部4への習熟度の表示を非表示とする。ステップS7の処理を実行した後、制御部5は、ステップS8の処理を実行する。
【0050】
ステップS8において、制御部5は、表示部4へのワンペダルドライブによる減速力の抑制状態の表示を非表示とする。ステップS8の処理を実行した後、制御部5は、ステップS9の処理を実行する。
【0051】
ステップS9において、制御部5は、減速力の抑制を行なわないものとする。ステップS9の処理を実行した後、制御部5は、減速力抑制制御処理を終了する。
【0052】
このように、本実施例では、制御部5は、習熟度が高いほど、ワンペダルドライブ機能における減速力の抑制量を小さくする。
【0053】
これにより、運転者の習熟度が高いほど減速力の抑制量が小さくされ、ワンペダルドライブ機能に不慣れな運転者のアクセルペダルの操作に対する違和感を抑えることができる。
【0054】
また、制御部5は、アクセルペダル解放による減速回数が多いほど習熟度を上げる。アクセルペダル解放による減速を実施しているということは、ワンペダルドライブでの減速や車両1の停止を利用していることになるため、アクセルペダル解放による減速回数が多いほど習熟度を上げる。
【0055】
これにより、アクセルペダル解放による減速回数が多いほど習熟度が上がり、ワンペダルドライブ機能を使っていると判断される場合は習熟度を上げて、ワンペダルドライブ機能に不慣れな運転者のアクセルペダルの操作に対する違和感を抑えることができる。
【0056】
また、制御部5は、ワンペダルドライブ機能を使った走行距離が長いほど習熟度を上げる。ワンペダルドライブ機能を使った走行距離が長ければ、ワンペダルドライブ機能の使用に時間を費やしていることとなるため、所定の走行距離を超える毎に習熟度を上げる。
【0057】
これにより、ワンペダルドライブ機能を使った走行距離が長いほど習熟度が上がり、ワンペダルドライブ機能を使っていると判断される場合は習熟度を上げて、ワンペダルドライブ機能に不慣れな運転者のアクセルペダルの操作に対する違和感を抑えることができる。
【0058】
また、制御部5は、ワンペダルドライブ機能を使った走行中のブレーキペダル踏込回数が多いほど習熟度を下げる。ブレーキペダル踏込回数が多いということは、ワンペダルドライブ機能での減速や車両1の停止を利用していないということとなるため、ブレーキペダル踏込回数が多いほど習熟度を下げる。
【0059】
これにより、ワンペダルドライブ機能を使った走行中のブレーキペダル踏込回数が多いほど習熟度が下がり、ワンペダルドライブ機能を使っていないと判断される場合は習熟度を下げて、ワンペダルドライブ機能に不慣れな運転者のアクセルペダルの操作に対する違和感を抑えることができる。
【0060】
本実施例では、各種センサ情報に基づき制御部5が各種の判定や算出を行なう例について説明したが、これに限らず、車両1が外部サーバ等の車外装置と通信可能な通信部を備え、該通信部から送信された各種センサの検出情報に基づき車外装置によって各種の判定や算出が行なわれ、その判定結果や算出結果を通信部で受信して、その受信した判定結果や算出結果を用いて各種制御を行なってもよい。
【0061】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正及び等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0062】
1 車両
2 駆動用モータ
5 制御部
51 抑制制御キャンセルスイッチ
52 ユーザ識別部
53 アクセル開度センサ
54 ブレーキスイッチ
図1
図2
図3