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特許7400566計測方法、計測装置、計測システム及び計測プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】計測方法、計測装置、計測システム及び計測プログラム
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20231212BHJP
   G01G 19/03 20060101ALI20231212BHJP
   G01N 3/06 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
E01D22/00 A
G01G19/03
G01N3/06
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020047306
(22)【出願日】2020-03-18
(65)【公開番号】P2021147827
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】小林 祥宏
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-237805(JP,A)
【文献】特開2017-058177(JP,A)
【文献】特表2019-518889(JP,A)
【文献】特開昭56-030610(JP,A)
【文献】国際公開第2018/159003(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0316426(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 22/00
G01G 19/03
G01N 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体が構造物を移動する第1方向に沿って並ぶ前記構造物の第1の観測点及び第2の観測点のうちの前記第1の観測点を観測する観測装置による観測情報に基づいて、前記移動体の複数の部位が前記第1の観測点をそれぞれ通過した時刻及び前記複数の部位のそれぞれの前記第1の観測点への作用に対する応答である物理量を含む第1観測点情報を取得する第1観測点情報取得ステップと、
前記第2の観測点を観測する観測装置による観測情報に基づいて、前記複数の部位が前記第2の観測点をそれぞれ通過した時刻及び前記複数の部位のそれぞれの前記第2の観測点への作用に対する応答である物理量を含む第2観測点情報を取得する第2観測点情報取得ステップと、
前記第1観測点情報及び前記第2観測点情報と、所定の係数と、前記構造物のたわみの近似式とに基づいて、前記複数の部位のそれぞれによる前記構造物のたわみ波形を算出するたわみ波形算出ステップと、
前記たわみ波形算出ステップで算出した前記複数の部位のそれぞれによる前記構造物のたわみ波形を加算して、前記移動体による前記構造物のたわみ波形を算出する移動体たわみ波形算出ステップと、を含む、計測方法。
【請求項2】
前記第1の観測点は前記構造物の第1の端部に設定され、
前記第2の観測点は前記構造物の前記第1の端部とは異なる第2の端部に設定される、請求項1に記載の計測方法。
【請求項3】
前記移動体は、鉄道車両、自動車、路面電車、建設車両、又は軍用車両であり、
前記複数の部位のそれぞれは車軸又は車輪である、請求項1又は2に記載の計測方法。
【請求項4】
前記構造物のたわみの近似式は、前記第1の観測点と前記第2の観測点との中央位置におけるたわみの最大振幅で規格化された式である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の計測方法。
【請求項5】
前記構造物のたわみの近似式は、前記構造物の構造モデルに基づく式である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の計測方法。
【請求項6】
前記構造モデルは、両端を支持した単純梁である、請求項5に記載の計測方法。
【請求項7】
前記構造物のたわみの近似式は、正弦波の半波長の波形の式である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の計測方法。
【請求項8】
前記構造物は、橋梁の上部構造であって、
前記上部構造は、隣り合う橋台と橋脚、隣り合う2つの橋台、又は、隣り合う2つの橋脚のいずれか1つに渡された構造であり、
前記上部構造の両端部は、前記隣り合う橋台と橋脚の位置、前記隣り合う2つの橋台の位置、又は、前記隣り合う2つの橋脚の位置にあり、
前記橋梁は、道路橋又は鉄道橋である、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の計測方法。
【請求項9】
前記所定の係数は、前記第1の観測点と前記第2の観測点との間の前記構造物の部位のたわみと、前記構造物の前記部位の変位又は当該部位への荷重との相関を近似する関数の係数である、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の計測方法。
【請求項10】
前記第1の観測点を観測する前記観測装置及び前記第2の観測点を観測する前記観測装置は、加速度センサーである、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の計測方法。
【請求項11】
前記第1の観測点を観測する前記観測装置及び前記第2の観測点を観測する前記観測装置は、衝撃センサー、マイクロホン、歪計又はロードセルである、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の計測方法。
【請求項12】
前記構造物は、BWIM(Bridge Weigh in Motion)が機能する構造である、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の計測方法。
【請求項13】
移動体が構造物を移動する第1方向に沿って並ぶ前記構造物の第1の観測点及び第2の観測点のうちの前記第1の観測点を観測する観測装置による観測情報に基づいて、前記移動体の複数の部位が前記第1の観測点をそれぞれ通過した時刻及び前記複数の部位のそれぞれの前記第1の観測点への作用に対する応答である物理量を含む第1観測点情報を取得する第1観測点情報取得部と、
前記第2の観測点を観測する観測装置による観測情報に基づいて、前記複数の部位が前記第2の観測点をそれぞれ通過した時刻及び前記複数の部位のそれぞれの前記第2の観測点への作用に対する応答である物理量を含む第2観測点情報を取得する第2観測点情報取得部と、
前記第1観測点情報及び前記第2観測点情報と、所定の係数と、前記構造物のたわみの近似式とに基づいて、前記複数の部位のそれぞれによる前記構造物のたわみ波形を算出するたわみ波形算出部と、
前記たわみ波形算出部が算出した前記複数の部位のそれぞれによる前記構造物のたわみ波形を加算して、前記移動体による前記構造物のたわみ波形を算出する移動体たわみ波形算出部と、を含む、計測装置。
【請求項14】
請求項13に記載の計測装置と、
前記第1の観測点を観測する前記観測装置と、
前記第2の観測点を観測する前記観測装置と、を備えた、計測システム。
【請求項15】
移動体が構造物を移動する第1方向に沿って並ぶ前記構造物の第1の観測点及び第2の観測点のうちの前記第1の観測点を観測する観測装置による観測情報に基づいて、前記移動体の複数の部位が前記第1の観測点をそれぞれ通過した時刻及び前記複数の部位のそれぞれの前記第1の観測点への作用に対する応答である物理量を含む第1観測点情報を取得する第1観測点情報取得ステップと、
前記第2の観測点を観測する観測装置による観測情報に基づいて、前記複数の部位が前記第2の観測点をそれぞれ通過した時刻及び前記複数の部位のそれぞれの前記第2の観測点への作用に対する応答である物理量を含む第2観測点情報を取得する第2観測点情報取得ステップと、
前記第1観測点情報及び前記第2観測点情報と、所定の係数と、前記構造物のたわみの近似式とに基づいて、前記複数の部位のそれぞれによる前記構造物のたわみ波形を算出するたわみ波形算出ステップと、
前記たわみ波形算出ステップで算出した前記複数の部位のそれぞれによる前記構造物のたわみ波形を加算して、前記移動体による前記構造物のたわみ波形を算出する移動体たわみ波形算出ステップと、をコンピューターに実行させる、計測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測方法、計測装置、計測システム及び計測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、橋梁の維持管理をする上で、橋梁を通過する大型車両の車軸重量が、橋梁の損傷を予測するために重要な情報であって、この軸重測定ため、橋梁の主桁に設置したひずみ計から車両通過時のひずみ値を連続測定し、軸重を算出する手法Weight In Motionが提案されており、橋梁の主桁に配置されたひずみ計で計測したひずみ波形に基づいて、橋梁を通過する車両の車重を計測する橋梁通過車両監視システムが記載されている。詳細には、橋梁通過車両監視システムは、ひずみ計を配置して、ひずみ計で計測したひずみ波形から車軸の通過タイミングを検出して車両の軸間比率を算出し、算出した軸間比率と軸間距離データベースに登録された軸間距離から算出される軸間比率とを比較し、車両の軸間距離、車速および車種を特定する。また、橋梁通過車両監視システムは、車軸の通過タイミングに合わせて、基準軸重ひずみ波形を時間軸上に配置したひずみ波形を生成し、基準軸重ひずみ波形とひずみ計で計測したひずみ波形とを比較して各軸の軸重を算出する。そして、橋梁通過車両監視システムは、各軸の軸重を合計することにより車重を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-237805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のシステムでは、ひずみ波形と軸間距離データベースを用いることにより橋梁の変位を計測せずに車両の車重を計測することはできるが、ひずみ計で計測したひずみ波形に基づいて、橋梁等の構造物を移動する車両等の移動体による構造物のたわみ波形を算出することはできない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る計測方法の一態様は、
移動体が構造物を移動する第1方向に沿って並ぶ前記構造物の第1の観測点及び第2の観測点のうちの前記第1の観測点を観測する観測装置による観測情報に基づいて、前記移動体の複数の部位が前記第1の観測点をそれぞれ通過した時刻及び前記複数の部位のそれぞれの前記第1の観測点への作用に対する応答である物理量を含む第1観測点情報を取得する第1観測点情報取得ステップと、
前記第2の観測点を観測する観測装置による観測情報に基づいて、前記複数の部位が前記第2の観測点をそれぞれ通過した時刻及び前記複数の部位のそれぞれの前記第2の観測点への作用に対する応答である物理量を含む第2観測点情報を取得する第2観測点情報取得ステップと、
前記第1観測点情報及び前記第2観測点情報と、所定の係数と、前記構造物のたわみの近似式とに基づいて、前記複数の部位のそれぞれによる前記構造物のたわみ波形を算出するたわみ波形算出ステップと、
前記たわみ波形算出ステップで算出した前記複数の部位のそれぞれによる前記構造物のたわみ波形を加算して、前記移動体による前記構造物のたわみ波形を算出する移動体たわみ波形算出ステップと、を含む。
【0006】
前記計測方法の一態様において、
前記第1の観測点は前記構造物の第1の端部に設定され、
前記第2の観測点は前記構造物の前記第1の端部とは異なる第2の端部に設定されてもよい。
【0007】
前記計測方法の一態様において、
前記移動体は、鉄道車両、自動車、路面電車、建設車両、又は軍用車両であり、
前記複数の部位のそれぞれは車軸又は車輪であってもよい。
【0008】
前記計測方法の一態様において、
前記構造物のたわみの近似式は、前記第1の観測点と前記第2の観測点との中央位置におけるたわみの最大振幅で規格化された式であってもよい。
【0009】
前記計測方法の一態様において、
前記構造物のたわみの近似式は、前記構造物の構造モデルに基づく式であってもよい。
【0010】
前記計測方法の一態様において、
前記構造モデルは、両端を支持した単純梁であってもよい。
【0011】
前記計測方法の一態様において、
前記構造物のたわみの近似式は、正弦波の半波長の波形の式であってもよい。
【0012】
前記計測方法の一態様において、
前記構造物は、橋梁の上部構造であって、
前記上部構造は、隣り合う橋台と橋脚、隣り合う2つの橋台、又は、隣り合う2つの橋脚のいずれか1つに渡された構造であり、
前記上部構造の両端部は、前記隣り合う橋台と橋脚の位置、前記隣り合う2つの橋台の位置、又は、前記隣り合う2つの橋脚の位置にあり、
前記橋梁は、道路橋又は鉄道橋であってもよい。
【0013】
前記計測方法の一態様において、
前記所定の係数は、前記第1の観測点と前記第2の観測点との間の前記構造物の部位のたわみと、前記構造物の前記部位の変位又は当該部位への荷重との相関を近似する関数の係数であってもよい。
【0014】
前記計測方法の一態様において、
前記第1の観測点を観測する前記観測装置及び前記第2の観測点を観測する前記観測装置は、加速度センサーであってもよい。
【0015】
前記計測方法の一態様において、
前記第1の観測点を観測する前記観測装置及び前記第2の観測点を観測する前記観測装置は、衝撃センサー、マイクロホン、歪計又はロードセルであってもよい。
【0016】
前記計測方法の一態様において、
前記構造物は、BWIM(Bridge Weigh in Motion)が機能する構造であってもよい。
【0017】
本発明に係る計測装置の一態様は、
移動体が構造物を移動する第1方向に沿って並ぶ前記構造物の第1の観測点及び第2の観測点のうちの前記第1の観測点を観測する観測装置による観測情報に基づいて、前記移動体の複数の部位が前記第1の観測点をそれぞれ通過した時刻及び前記複数の部位のそれぞれの前記第1の観測点への作用に対する応答である物理量を含む第1観測点情報を取得する第1観測点情報取得部と、
前記第2の観測点を観測する観測装置による観測情報に基づいて、前記複数の部位が前記第2の観測点をそれぞれ通過した時刻及び前記複数の部位のそれぞれの前記第2の観測点への作用に対する応答である物理量を含む第2観測点情報を取得する第2観測点情報取得部と、
前記第1観測点情報及び前記第2観測点情報と、所定の係数と、前記構造物のたわみの近似式とに基づいて、前記複数の部位のそれぞれによる前記構造物のたわみ波形を算出するたわみ波形算出部と、
前記たわみ波形算出部が算出した前記複数の部位のそれぞれによる前記構造物のたわみ波形を加算して、前記移動体による前記構造物のたわみ波形を算出する移動体たわみ波形算出部と、を含む。
【0018】
本発明に係る計測システムの一態様は、
前記計測装置の一態様と、
前記第1の観測点を観測する前記観測装置と、
前記第2の観測点を観測する前記観測装置と、を備える。
【0019】
本発明に係る計測プログラムの一態様は、
移動体が構造物を移動する第1方向に沿って並ぶ前記構造物の第1の観測点及び第2の観測点のうちの前記第1の観測点を観測する観測装置による観測情報に基づいて、前記移動体の複数の部位が前記第1の観測点をそれぞれ通過した時刻及び前記複数の部位のそれぞれの前記第1の観測点への作用に対する応答である物理量を含む第1観測点情報を取得する第1観測点情報取得ステップと、
前記第2の観測点を観測する観測装置による観測情報に基づいて、前記複数の部位が前記第2の観測点をそれぞれ通過した時刻及び前記複数の部位のそれぞれの前記第2の観測点への作用に対する応答である物理量を含む第2観測点情報を取得する第2観測点情報取得ステップと、
前記第1観測点情報及び前記第2観測点情報と、所定の係数と、前記構造物のたわみの近似式とに基づいて、前記複数の部位のそれぞれによる前記構造物のたわみ波形を算出するたわみ波形算出ステップと、
前記たわみ波形算出ステップで算出した前記複数の部位のそれぞれによる前記構造物のたわみ波形を加算して、前記移動体による前記構造物のたわみ波形を算出する移動体たわみ波形算出ステップと、をコンピューターに実行させる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】計測システムの構成例を示す図。
図2】センサー及び観測点の配置例を示す図。
図3】センサー及び観測点の配置例を示す図。
図4】加速度センサーが検出する加速度の説明図。
図5】車軸情報の一例を示す図。
図6】センサー及び観測点の配置例を示す図。
図7】センサー及び観測点の配置例を示す図。
図8】観測点に対して検出される加速度の一例を示す図。
図9図8の各時刻の加速度振幅を加速度強度に変換した図。
図10図9の加速度強度を所定の閾値で2値化した図。
図11図10に対して退出時刻のパターンをスライドさせた図。
図12】橋梁の上部構造の構造モデルの説明図。
図13】橋梁の上部構造の構造モデルの説明図。
図14】規格化たわみ量の波形の一例を示す図。
図15】規格化たわみ量モデルの一例を示す図。
図16】各車軸による橋梁のたわみ波形の一例を示す図。
図17】車両による橋梁のたわみ波形の一例を示す図。
図18】荷重試験の結果をプロットした図。
図19】計測変位とたわみ波形から算出される変位の一例を示す図。
図20】第1実施形態の計測方法の手順の一例を示すフローチャート図。
図21】たわみ波形算出ステップの手順の一例を示すフローチャート図。
図22】第1実施形態における計測装置の構成例を示す図。
図23】荷重試験の結果をプロットした図。
図24】車両による荷重とたわみ波形から算出される荷重の一例を示す図。
図25】第2実施形態の計測方法の手順の一例を示すフローチャート図。
図26】第2実施形態における計測装置の構成例を示す図。
図27】第3実施形態における規格化たわみ量の波形の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0022】
1.第1実施形態
1-1.計測システム
以下では、構造物が橋梁の上部構造であり、移動体が車両である場合を例に挙げ、本実施形態の計測方法を実現するための計測システムについて説明する。本実施形態に係る橋梁を通過する車両は、鉄道車両、自動車、路面電車、建設車両、又は軍用車両等の重量が大きく、BWIM(Bridge Weigh in Motion)で計測可能な車両である。BWIMは、橋梁を「はかり」に見立て、橋梁の変形を計測することにより、橋梁を通行する車両の重量、軸数などを測定する技術である。変形やひずみなどの応答から通行する車両の重量を解析可能な橋梁の上部構造は、BWIMが機能する構造物であり、橋梁の上部構造への作用と応答の間の物理的なプロセスを応用するBWIMシステムが通行する車両の重量の計測を可能にする。
【0023】
図1は、本実施形態に係る計測システムの一例を示す図である。図1に示すように、本実施形態に係る計測システム10は、計測装置1と、橋梁5の上部構造7に設けられる少なくとも1つのセンサー21と、少なくとも1つのセンサー22と、を有している。また、計測システム10は、サーバー2を有してもよい。
【0024】
橋梁5は上部構造7と下部構造8からなり、上部構造7は、床板F、主桁G、不図示の横桁等からなる橋床7aと、支承7bと、を含む。下部構造8は、橋脚8aと、橋台8bと、を含む。上部構造7は、隣り合う橋台8bと橋脚8a、隣り合う2つの橋台8b、又は、隣り合う2つの橋脚8aのいずれか1つに渡された構造である。上部構造7の両端部は、隣り合う橋台8bと橋脚8aの位置、隣り合う2つの橋台8bの位置、又は、隣り合う2つの橋脚8aの位置にある。
【0025】
計測装置1と各センサー21,22とは、例えば、不図示のケーブルで接続され、CAN(Controller Area Network)等の通信ネットワークを介して通信を行う。あるいは、計測装置1と各センサー21,22とは、無線ネットワークを介して通信を行ってもよい。
【0026】
例えば、各センサー21は、移動体である車両6の上部構造7への進入による衝撃を表すデータを出力し、各センサー22は、車両6の上部構造7からの退出による衝撃を表すデータを出力する。本実施形態では、各センサー21,22は加速度センサーであり、例えば、水晶加速度センサーであってもよいし、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)加速度センサーであってもよい。
【0027】
本実施形態では、各センサー21は上部構造7の長手方向の第1の端部に設置され、各センサー22は上部構造7の長手方向の第1の端部とは異なる第2の端部に設置されている。
【0028】
各センサー21は、車両6の上部構造7への進入の際に生じる上部構造7の加速度を検出し、各センサー22は、車両6の上部構造7からの退出の際に生じる上部構造7の加速度を検出する。すなわち、本実施形態では、各センサー21は、車両6の上部構造7への進入を検知する加速度センサーであり、各センサー22は、車両6の上部構造7からの退出を検知する加速度センサーである。
【0029】
計測装置1は、各センサー21,22から出力される加速度データに基づいて、車両6の走行による上部構造7の撓みの変位を算出する。
【0030】
計測装置1とサーバー2とは、例えば、携帯電話の無線ネットワーク及びインターネット等の通信ネットワーク4を介して、通信を行うことができる。計測装置1は、車両6が上部構造7を走行した時刻や車両6の走行による上部構造7の変位等の情報をサーバー2に送信する。サーバー2は、当該情報を不図示の記憶装置に記憶し、例えば、当該情報に基づいて過積載の車両の監視や上部構造7の異常判定等の処理を行ってもよい。
【0031】
なお、本実施形態では、橋梁5は、道路橋であり、例えば、鋼橋や桁橋、RC(Reinforced-Concrete)橋等である。
【0032】
図2及び図3は、各センサー21,22の上部構造7への設置例を示す図である。なお、図2は、上部構造7をその上方から見た図であり、図3は、図2をA-A線又はB-B線で切断した断面図である。
【0033】
図2及び図3に示すように、上部構造7は、移動体である車両6が移動し得る第1~第Nの経路としてのN個のレーンL~L、及びK個の主桁G~Gを有している。ここで、N,Kはそれぞれ1以上の整数である。なお、図2及び図3の例では、主桁G~Gの各位置がレーンL~Lの各境界の位置と一致しており、N=K-1であるが、主桁G~Gの各位置がレーンL~Lの各境界の位置と一致している必要はなく、N≠K-1であってもよい。
【0034】
図2及び図3の例では、上部構造7の長手方向の第1の端部EA1において、主桁G~GK-1のそれぞれにセンサー21が設けられ、上部構造7の長手方向の第2の端部EA2において、主桁G~GK-1のそれぞれにセンサー22が設けられている。図2及び図3の例では、N=K-1であり、主桁Gにセンサー21,22が設けられていないが、主桁Gにセンサー21,22が設けられ、主桁G~GK-1のいずれか1つにセンサー21,22が設けられていなくてもよい。あるいは、N=Kであり、主桁G~Gのそれぞれにセンサー21,22が設けられていてもよい。
【0035】
なお、各センサー21,22を上部構造7の床板Fに設けると、走行車両によって破壊するおそれがあり、また橋床7aの局部的な変形により測定精度が影響を受けるおそれがあるため、図2及び図3の例では、各センサー21,22は上部構造7の主桁G~GK-1に設けられている。
【0036】
本実施形態では、N個のセンサー21に対応付けてN個の観測点P~Pがそれぞれ設定されている。観測点P~Pは、車両6が上部構造7を移動する第1方向と交差する第2方向に沿って並ぶ上部構造7のN個の観測点である。図2及び図3の例では、1以上N以下の各整数jに対して、観測点Pは、第1の端部EA1において、主桁Gに設けられたセンサー21の鉛直上方向にある床板Fの表面の位置に設定されている。すなわち、主桁Gに設けられたセンサー21は、観測点Pを観測する観測装置である。観測点Pを観測するセンサー21は、車両6の走行により観測点Pに生じる加速度を検出可能な位置に設けられていればよいが、観測点Pに近い位置に設けられることが望ましい。このように、観測点P~PはN個のセンサー21と1対1の関係にある。
【0037】
また、本実施形態では、N個のセンサー22に対応付けてN個の観測点Q~Qがそれぞれ設定されている。観測点Q~Qは、車両6が上部構造7を移動する第1方向と交差する第3方向に沿って並ぶ上部構造7のN個の観測点である。図2及び図3の例では、1以上N以下の各整数jに対して、観測点Qは、第2の端部EA2において、主桁Gに設けられたセンサー22の鉛直上方向にある床板Fの表面の位置に設定されている。すなわち、主桁Gに設けられたセンサー22は、観測点Qを観測する観測装置である。観測点Qを観測するセンサー22は、車両6の走行により観測点Qに生じる加速度を検出可能な位置に設けられていればよいが、観測点Qに近い位置に設けられることが望ましい。このように、観測点Q~QはN個のセンサー22と1対1の関係にある。
【0038】
本実施形態では、N個の観測点P~Pは、それぞれレーンL~Lに対応付けられている。同様に、N個の観測点Q~Qは、それぞれレーンL~Lに対応付けられている。レーンLに対応付けて設定される観測点P及び観測点Qは、車両6が上部構造7を移動する第1方向に沿って並んでいる。図2及び図3の例では、第1方向は、上部構造7のレーンL~Lに沿うX方向、すなわち、上部構造7の長手方向である。また、第2方向及び第3方向は、車両6が走行する上部構造7の面内においてX方向と直交するY方向、すなわち、上部構造7の幅員方向である。ただし、レーンL~Lがそれぞれ曲線状である場合等は、第2方向と第3方向は一致しなくてもよい。また、第2方向及び第3方向は、第1方向と直交していなくてもよく、例えば、上部構造7の車両6が進入する側の端から観測点P~Pまでの距離や、上部構造7の車両6が退出する側の端から観測点Q~Qまでの距離が異なっていてもよい。なお、1以上N以下の各整数jに対して、観測点Pは「第1の観測点」の一例であり、観測点Qは「第2の観測点」の一例である。
【0039】
なお、センサー21,22の数及び設置位置は、図2及び図3に示した例には限定されず種々の変形実施が可能である。
【0040】
計測装置1は、各センサー21,22から出力される加速度データに基づいて、第1方向であるX方向と、第2方向及び第3方向であるY方向とそれぞれ交差する第4方向の加速度を取得する。観測点P~P,Q~Qは、衝撃によりX方向及びY方向と直交する方向に変位するので、計測装置1は、衝撃の大きさを正確に算出するために、X方向及びY方向と直交する第4方向、すなわち、床板Fの法線方向の加速度を取得するのが望ましい。
【0041】
図4は、センサー21,22が検出する加速度を説明する図である。センサー21,22は、互いに直交する3軸の各軸方向に生じる加速度を検出する加速度センサーである。
【0042】
車両6の上部構造7への進入により観測点P~Pに加わる衝撃を検出するために、各センサー21は、3つの検出軸であるx軸、y軸、z軸のうち、1軸が第1方向及び第2方向と交差する方向となるように設置される。同様に、車両6の上部構造7からの退出により観測点Q~Qに加わる衝撃を検出するために、各センサー22は、3つの検出軸であるx軸、y軸、z軸のうち、1軸が第1方向及び第3方向と交差する方向となるように設置される。図2及び図3の例では、第1方向はX方向であり、第2方向及び第3方向はY方向であるから、各センサー21,22は、1軸がX方向及びY方向と交差する方向となるように設置される。観測点P~P,Q~Qは、衝撃によりX方向及びY方向と直交する方向に変位するので、衝撃の大きさを正確に検出するために、理想的には、各センサー21,22は、1軸をX方向及びY方向と直交する方向、すなわち、床板Fの法線方向に合わせて設置される。
【0043】
ただし、各センサー21,22を上部構造7に設置する場合、設置場所が傾いている場合もある。計測装置1は、各センサー21,22の3つの検出軸の1軸が、床板Fの法線方向に合わせて設置されなくても、概ね法線方向に向いていることで誤差は小さく無視できる。また、計測装置1は、各センサー21,22の3つの検出軸の1軸が、床板Fの法線方向に合わせて設置されなくても、x軸、y軸、z軸の加速度を合成した3軸合成加速度によって、各センサー21,22の傾斜による検出誤差の補正を行うことができる。また、各センサー21,22は、少なくとも鉛直方向にほぼ平行な方向に生ずる加速度、あるいは、床板Fの法線方向の加速度を検出する1軸加速度センサーであってもよい。
【0044】
以下、計測装置1が実行する本実施形態の計測方法の詳細について説明する。
【0045】
1-2.車軸情報の生成
本実施形態では、計測装置1は、観測装置としてのN個のセンサー21による観測情報である加速度データに基づいて、移動体である車両6の複数の部位が観測点Pをそれぞれ通過した時刻及び当該複数の部位のそれぞれの観測点Pへの作用に対する応答である物理量を含む第1観測点情報を取得する。同様に、本実施形態では、計測装置1は、観測装置としてのN個のセンサー22による観測情報である加速度データに基づいて、車両6の複数の部位が観測点Qをそれぞれ通過した時刻及び当該複数の部位のそれぞれの観測点Qへの作用に対する応答である物理量を含む第2観測点情報を取得する。ここで、jは1以上N以下の各整数である。
【0046】
本実施形態では、車両6が備える複数の車軸又は車輪による荷重が上部構造7に印加されるものと考え、第1観測点情報及び第2観測点情報を取得する対象となる複数の部位のそれぞれは、車軸又は車輪である。以下、本実施形態では、複数の部位のそれぞれは車軸であるものとする。
【0047】
また、本実施形態では、加速度センサーである各センサー21は、複数の車軸のそれぞれの観測点Pへの作用による加速度を検出する。同様に、加速度センサーである各センサー22は、複数の車軸のそれぞれの観測点Qへの作用による加速度を検出する。
【0048】
本実施形態では、図2に示したように、観測点P~Pは第1の端部EA1に設定され、観測点Q~Qは第2の端部EA2に設定される。したがって、車両6の複数の車軸が観測点Pをそれぞれ通過した時刻を、各車軸の上部構造7への進入時刻、より詳細にはレーンLへの進入時刻とみなすことができる。また、車両6の複数の車軸が観測点Qをそれぞれ通過した時刻を、各車軸の上部構造7からの退出時刻、より詳細にはレーンLからの退出時刻とみなすことができる。
【0049】
したがって、本実施形態では、第1観測点情報は、車両6の各車軸のレーンLへの進入時刻及び各車軸がレーンLに進入する時の作用に対する応答である物理量としての加速度強度を含む。また、第2観測点情報は、車両6の各車軸のレーンLからの退出時刻及び各車軸がレーンLから退出する時の作用に対する応答である物理量としての加速度強度を含む。
【0050】
さらに、車両6の各車軸の進入と退出は対応するから、第1観測点情報及び第2観測点情報を層別することができ、第1観測点情報、第2観測点情報及びこれらの層別情報を含めて車軸情報と呼ぶことにする。
【0051】
すなわち、車軸情報は、第1観測点情報及び第2観測点情報に加えて、車軸毎の、レーンLへの進入時刻、進入時の加速度強度、レーンLからの退出時刻及び退出時の加速度強度の対応情報や、車両6と車軸毎の当該対応情報との対応情報を含む。したがって、車軸情報により、上部構造7を通過した車両6毎に、各車軸が通過したレーンLや、観測点P,Qを通過した時刻及び通過時の加速度強度が特定される。
【0052】
図5に車軸情報の一例を示す。図5の例では、1列目~4列目の情報は車両番号が1の車両6に関する情報である。1列目の情報は車軸番号が1である先頭の車軸に関する情報であり、2列目の情報は車軸番号が2である2番目の車軸に関する情報であり、3列目の情報は車軸番号が3である3番目の車軸に関する情報であり、4列目の情報は車軸番号が4である4番目の車軸に関する情報である。例えば、1列目の対応情報は、車両番号が1の車両6の車軸番号が1である先頭の車軸について、レーンLへの進入時刻がti11であり、進入時の加速度強度がpai11であり、レーンLからの退出時刻がto11であり、退出時の加速度強度がpao11であることを示している。
【0053】
また、5列目~6列目の情報は車両番号が2の車両6に関する情報である。5列目の情報は車軸番号が1である先頭の車軸に関する対応情報であり、6列目の情報は車軸番号が2である2番目の車軸に関する対応情報である。例えば、5列目の対応情報は、車両番号が2の車両6の車軸番号が1である先頭の車軸について、レーンLへの進入時刻がti21であり、進入時の加速度強度がpai21であり、レーンLからの退出時刻がto21であり、退出時の加速度強度がpao21であることを示している。
【0054】
また、7列目~8列目の情報は車両番号が3の車両6に関する情報である。7列目の情報は車軸番号が1である先頭の車軸に関する対応情報であり、8列目の情報は車軸番号が2である2番目の車軸に関する対応情報である。例えば、7列目の対応情報は、車両番号が3の車両6の車軸番号が1である先頭の車軸について、レーンLへの進入時刻がti31であり、進入時の加速度強度がpai31であり、レーンLからの退出時刻がto31であり、退出時の加速度強度がpao31であることを示している。
【0055】
一例として、図6及び図7に、N=2の場合の各センサー21,22及び観測点P,P,Q,Qの配置例を示し、図6及び図7に示す配置例の場合に、計測装置1が車軸情報を生成する手順について説明する。
【0056】
図6は、上部構造7をその上方から見た図であり、図7は、図6をA-A線又はB-B線で切断した断面図である。図6及び図7の例では、2個のセンサー21が、上部構造7の第1の端部EA1において主桁G,Gにそれぞれ設けられ、2個のセンサー22が、上部構造7の第2の端部EA2において主桁G,Gにそれぞれ設けられている。また、レーンLに対応する観測点P,Qがそれぞれ主桁Gに設けられたセンサー21,22の鉛直上方向にある床板Fの表面の位置に設定され、レーンLに対応する観測点P,Qがそれぞれ主桁Gに設けられたセンサー21,22の鉛直上方向にある床板Fの表面の位置に設定されている。主桁Gに設けられたセンサー21は観測点Pを観測し、主桁Gに設けられたセンサー21は観測点Pを観測する。また、主桁Gに設けられたセンサー22は観測点Qを観測し、主桁Gに設けられたセンサー22は観測点Qを観測する。計測装置1は、車軸情報を生成するために、各センサー21,22が検出した各時刻の加速度を振幅に変換し、加速度強度を取得する。
【0057】
図8は、4軸の車両6がレーンLを走行した場合に観測点P,P,Q,Qに対して検出される加速度の一例を示す図である。また、図9は、図8の各時刻の加速度振幅を加速度強度に変換した図である。図8及び図9の例では、車両6がレーンLを走行しているので、車両6の4つの車軸が観測点P,Qをそれぞれ通過する時刻において大きな加速度強度が取得されている。4つの車軸が観測点Pをそれぞれ通過する時刻において取得される加速度強度は第1観測点情報に含まれる。また、4つの車軸が観測点Qをそれぞれ通過する時刻において取得される加速度強度は第2観測点情報に含まれる。
【0058】
そして、計測装置1は、取得した加速度強度が所定の閾値を超えた時刻を先頭の車軸から順に各車軸が観測点P,Qを通過した時刻、すなわち、各車軸のレーンLへの進入時刻及びレーンLからの退出時刻として取得する。
【0059】
図10は、図9の加速度強度を所定の閾値で2値化した図である。図10の例では、4つの車軸のそれぞれのレーンLへの進入時刻とレーンLからの退出時刻が取得されている。4つの車軸のそれぞれのレーンLへの進入時刻は第1観測点情報に含まれる。また、4つの車軸のそれぞれのレーンLからの退出時刻は第2観測点情報に含まれる。
【0060】
さらに、計測装置1は、4つの車軸のそれぞれのレーンLへの進入時刻のパターン1と、4つの車軸のそれぞれのレーンLからの退出時刻のパターン2とを比較し、当該2つのパターンが同一の車両6の通過によるものが否かを判定する。4つの車軸の間隔は変化しないので、車両6が上部構造7を走行する速度が一定であれば、パターン1,2は一致することになる。例えば、計測装置1は、先頭の車軸の進入時刻と退出時刻を一致させるように、パターン1,2のいずれかの時刻をスライドさせ、2番目~4番目の各車軸の進入時刻と退出時刻の差が所定の閾値以下の場合はパターン1,2が同一の車両6の通過によるものと判定し、当該差が所定の閾値よりも大きい場合はパターン1,2が2台の車両6の通過によるものと判定する。なお、計測装置1は、2台の車両6が同じ速度で1つのレーンを連行する場合において先の車両6の複数の車軸と後の車両6の複数の車軸をすべて1台の車両6の車軸と誤判定しないように、2つの連続する車軸の進入時刻又は退出時刻の間隔が規定以上の時間差である場合には、当該2つの車軸の進入時刻及び退出時刻を2つの車両6に分ければよい。
【0061】
図11は、図10に対して、先頭の車軸の進入時刻と退出時刻を一致させるように、4つの車軸のそれぞれのレーンLからの退出時刻のパターン2をスライドさせた図である。なお、図11は、図10に対して横軸方向が拡大されている。図11の例では、4つの車軸のそれぞれのレーンLへの進入時刻のパターン1と、4つの車軸のそれぞれのレーンLからの退出時刻のパターン2とがほぼ一致しており、パターン1,2が同一の車両6の通過によるものと判定される。
【0062】
そして、計測装置1は、図10に示したレーンLへの4つの進入時刻、図9に示した観測点Pの4つの加速度強度のピーク値、図10に示したレーンLからの4つの退出時刻、及び、図9に示した観測点Qの4つの加速度強度のピーク値を、先頭から順に対応づけることにより、先頭の車軸の対応情報、2番目の車軸の対応情報、3番目の車軸の対応情報及び4番目の車軸の対応情報を取得する。さらに、計測装置1は、レーンLを走行した車両6と4つの車軸の対応情報とを対応付けた対応情報を取得する。これらの情報は、第1観測点情報及び第2観測点情報とともに、車軸情報に含まれる。
【0063】
計測装置1は、車軸情報により、上部構造7のレーンLを通過した任意の車両6に対して、当該車両6の各車軸の観測点Pへの進入時刻、各車軸による観測点Pの加速度強度、各車軸の観測点Qからの退出時刻、及び、各車軸による観測点Qの加速度強度を特定することができる。
【0064】
1-3.たわみ波形の生成
本実施形態では、橋梁5の上部構造7において、床板Fと主桁G~Gなどで構成される橋床7aが1つ或いは複数の連続配置される構成として考え、計測装置1は、1つの橋床7aの変位を長手方向の中央部における変位として算出する。上部構造7に印加される荷重は上部構造7の一端から他端へ移動する。この時、荷重の上部構造7上の位置と荷重量を用いて、上部構造7の中央部の変位であるたわみ量を表すことができる。本実施形態では、車両6の車軸が上部構造7上を移動するときのたわみ変形を、1点荷重の梁上の移動によるたわみ量の軌跡として表すために、図12に示す構造モデルを考え、当該構造モデルにおいて、中央部におけるたわみ量を算出する。図12において、Pは荷重である。aは、車両6が進入する側の上部構造7の端からの荷重位置である。bは、車両6が退出する側の上部構造7の端からの荷重位置である。lは、上部構造7の両端の間の距離である。図12に示す構造モデルは、両端を支点とする両端を支持した単純梁である。
【0065】
図12に示す構造モデルにおいて、車両6が進入する側の上部構造7の端の位置をゼロとしてたわみ量の観測位置をxとしたとき、単純梁の曲げモーメントMは式(1)で表される。
【0066】
【数1】
【0067】
式(1)において、関数Hは式(2)のように定義される。
【0068】
【数2】
【0069】
式(1)を変形し、式(3)が得られる。
【0070】
【数3】
【0071】
一方、曲げモーメントMは式(4)で表される。式(4)において、θは角度であり、Iは二次モーメントであり、Eはヤング率である。
【0072】
【数4】
【0073】
式(4)を式(3)に代入し、式(5)が得られる。
【0074】
【数5】
【0075】
式(5)を観測位置xについて積分する式(6)を計算し、式(7)が得られる。式(7)において、Cは積分定数である。
【0076】
【数6】
【0077】
【数7】
【0078】
さらに、式(7)を観測位置xについて積分する式(8)を計算し、式(9)が得られる。式(9)において、Cは積分定数である。
【0079】
【数8】
【0080】
【数9】
【0081】
式(9)において、θxはたわみ量を表し、θxをたわみ量wに置き換えて式(10)が得られる。
【0082】
【数10】
【0083】
図12より、b=l-aなので、式(10)は式(11)のように変形される。
【0084】
【数11】
【0085】
x=0でたわみ量w=0として、x≦aよりH=0であるから、式(11)にx=w=H=0を代入して整理すると、式(12)が得られる。
【0086】
【数12】
【0087】
また、x=lでたわみ量w=0として、x>aよりH=1であるから、式(11)にx=l,w=0,H=1を代入して整理すると、式(13)が得られる。
【0088】
【数13】
【0089】
式(13)にb=l-aを代入し、式(14)が得られる。
【0090】
【数14】
【0091】
式(10)に式(12)の積分定数C及び式(13)の積分定数Cを代入し、式(15)が得られる。
【0092】
【数15】
【0093】
式(15)を変形し、荷重Pが位置aに印加された時の観測位置xにおけるたわみ量wは、式(16)で表される。
【0094】
【数16】
【0095】
図13に、たわみ量の観測位置xが単純梁の中央位置に固定されている条件で、すなわちx=l/2の時に、荷重Pが単純梁の一端から他端へ移動する様子を示す。
【0096】
荷重位置aが観測位置x=l/2よりも左側にある時、x>aよりH=1であるから、式(16)にx=l/2,H=1を代入し、式(17)が得られる。
【0097】
【数17】
【0098】
式(17)にl=a+bを代入して整理すると式(18)が得られる。
【0099】
【数18】
【0100】
式(18)にa+b=lを代入し、荷重Pの位置が中央の観測位置x=l/2よりも左側にある場合の観測位置xのたわみ量wは式(19)のようになる。
【0101】
【数19】
【0102】
一方、荷重位置aが観測位置x=l/2よりも右側にある時、x≦aよりH=0であるから、式(16)にx=l/2,H=0を代入し、式(20)が得られる。
【0103】
【数20】
【0104】
式(20)にl=a+bを代入して整理すると、荷重Pの位置が中央の観測位置x=l/2よりも右側にある場合の観測位置xのたわみ量wは式(21)のようになる。
【0105】
【数21】
【0106】
また、荷重位置aが観測位置x=l/2と同じである時、x≦aよりH=0であるから、式(16)にH=0,a=b=l/2を代入して整理すると、式(22)が得られる。
【0107】
【数22】
【0108】
さらに、式(22)にa=l/2を代入すると、荷重Pの位置が中央の観測位置と同じである場合の観測位置xのたわみ量wは式(23)のようになる。
【0109】
【数23】
【0110】
両端支点の単純梁では、荷重Pが中央にある場合が最大たわみ変位となるので、式(23)より、最大たわみ量wmaxは式(24)で表される。
【0111】
【数24】
【0112】
荷重Pの位置が中央の観測位置x=l/2よりも左側にある場合の観測位置xのたわみ量wを最大たわみ量wmaxで除算して最大たわみ量wmaxで規格化すると、式(19)及び式(24)より、式(25)が得られる。
【0113】
【数25】
【0114】
式(25)においてa/l=rと置くと式(26)が得られる。
【0115】
【数26】
【0116】
一方、荷重Pの位置が中央の観測位置x=l/2よりも右側にある場合の観測位置xのたわみ量wを最大たわみ量wmaxで除算して最大たわみ量wmaxで規格化すると、式(21)及び式(24)より、式(27)が得られる。
【0117】
【数27】
【0118】
ここで、a/l=r,a+b=lより、b=l×(1-r)であるから、式(27)にb=l×(1-r)を代入し、式(28)が得られる。
【0119】
【数28】
【0120】
式(25)、式(27)とまとめて、単純梁上を荷重Pが移動する際に中央部で観測される最大たわみ量で規格化された規格化たわみ量wstdは、式(29)で表される。
【0121】
【数29】
【0122】
式(29)において、r=a/l,1-r=b/lは、単純梁の支点間の距離lに対する荷重Pの位置の比を示し、式(30)に示すように変数Rを定義する。
【0123】
【数30】
【0124】
式(30)を用いて式(29)は式(31)に置き換えられる。
【0125】
【数31】
【0126】
式(30)及び式(31)は、単純梁の中央に観測位置がある場合、荷重Pの位置が中央よりも右側と左側でたわみ量が対称となることを示している。
【0127】
図14に、観測位置x=l/2の場合の規格化たわみ量wstdの波形の一例を示す。図14において、横軸は荷重Pの位置であり、縦軸は規格化たわみ量wstdである。図14の例では、単純梁の支点間の距離l=1である。
【0128】
前述の車軸情報に含まれるのは、車両6の各車軸のレーンLへの進入時刻及びレーンLからの退出時刻、すなわち、車両6が上部構造7の両端の位置をそれぞれ通過した時刻であるので、上部構造7の両端の位置を車軸の進入時刻及び退出時刻に対応させて、荷重位置a,bを時間に置き換える。ただし、車両6の速度はほぼ一定で、位置と時刻はほぼ比例するものとする。
【0129】
上部構造7の左端の荷重位置を進入時刻tと対応させ、上部構造7の右端の荷重位置を退出時刻tと対応させると、左端からの荷重位置aは進入時刻tからの経過時刻tに置き換える。経過時刻tは式(32)で表される。
【0130】
【数32】
【0131】
また、支点間の距離lは、進入時刻tから退出時刻tまでの時間tに置き換えられる。時間tは式(33)で表される。
【0132】
【数33】
【0133】
車両6の速度は一定なので、荷重位置aが上部構造7の中央にある時刻tは式(34)で表される。
【0134】
【数34】
【0135】
以上のように位置を時間に置き換えて、荷重Pの位置は、式(35)及び式(36)のようになる。
【0136】
【数35】
【0137】
【数36】
【0138】
式(35)及び式(36)を式(29)に代入し、時間に置き換えた規格化たわみ量wstdは、式(37)で表される。
【0139】
【数37】
【0140】
あるいは、式(30)及び式(31)より、変数Rを時間に置き換えて、最大振幅で規格化された規格化たわみ量wstdは、式(38)で表される。
【0141】
【数38】
【0142】
時間経過と規格化たわみ量の関係付けを観測データとして扱うことを考慮して、規格化たわみ量wstdを、両端支点の単純梁上の単一集中荷重の移動による梁中央の観測位置の規格化たわみ量モデルwstd(t)に置き換えて、式(38)は式(39)のようになる。式(39)は、構造物である上部構造7のたわみの近似式であり、上部構造7の構造モデルに基づく式である。具体的には、式(39)は、車両6が移動するレーンLにおける観測点Pと観測点Qとの中央位置におけるたわみの最大振幅で規格化され、最大値が1となる式である。
【0143】
【数39】
【0144】
この規格化たわみ量モデルwstd(t)に必要な時間情報は、前述の車軸情報から得られる。規格化たわみ量モデルwstd(t)は、上部構造7の中央位置において最大たわみ量wmaxとなるので、式(40)が得られる。
【0145】
【数40】
【0146】
また、前述の式(23)に示されるたわみ量wは、荷重Pの位置が中央の観測位置と同じである場合の観測位置x=l/2のたわみ量であり、最大たわみ量wmaxと一致するので、式(41)が得られる。
【0147】
【数41】
【0148】
図15に、規格化たわみ量モデルwstd(t)の一例を示す。図15の例では、進入時刻t=4、退出時刻t=6であり、時刻t=(t+t)/2=5において、規格化たわみ量モデルwstd(t)は、上部構造7の中央位置において最大たわみ量wmax=1となっている。
【0149】
仮に、構造物である上部構造7は、BWIM(Bridge Weigh in Motion)が機能すると仮定し、両端を支点とした単純梁に近似した変形をすると考える。また、移動体である車両6は上部構造7の一方の端部から上部構造7を概ね一定速度で通過し、もう一方の端部に移動するのであるから、上部構造7の中間部と上部構造7の端部は同じ荷重の作用を受けるので、観測される上部構造7の変位は、車軸情報から得られる車軸の加速度強度aに近似的に比例すると考えることができる。
【0150】
比例係数を、車軸情報から得られる車軸の加速度強度aと所定の係数pとの積であるものとして、式(42)により、各車軸による上部構造7のたわみ波形H(t)が得られる。なお、加速度強度aは、車軸情報に含まれる進入時の加速度強度でもよいし、退出時の加速度強度でもよいし、進入時の加速度強度と退出時の加速度強度との平均値等の統計値でもよい。
【0151】
【数42】
【0152】
式(39)を式(42)に代入し、たわみ波形H(t)は式(43)で表される。
【0153】
【数43】
【0154】
これまでは、上部構造7に単一荷重Pが印加されるものとしていたが、車両6が走行するレーンLには車両6の各車軸による荷重が印加されるので、式(43)は式(44)のようにたわみ波形Hjk(t)に置き換えられる。式(44)において、kは車軸番号を表す整数であり、jはレーン番号を表す整数である。式(44)に示すように、たわみ波形Hjk(t)は、所定の係数pと加速度強度apjkとの積に比例する。
【0155】
【数44】
【0156】
図16に、レーンLを走行する車両6に含まれる各車軸による上部構造7のたわみ波形の一例を示す。図16の例では、車両6は4軸車両であり、4つのたわみ波形Hj1(t),Hj2(t),Hj3(t),Hj4(t)が示されている。図16の例では、先頭と2番目の車軸による荷重は相対的に小さく、3番目と4番目の車軸による荷重は相対的に大きいため、たわみ波形Hj1(t),Hj2(t)の最大振幅は相対的に小さく、たわみ波形Hj3(t),Hj4(t)の最大振幅は相対的に大きくなっている。
【0157】
式(45)に示すように、レーンLを走行する車両6による上部構造7のたわみ波形CPjm(t)は、各車軸による上部構造7のたわみ波形Hjk(t)を加算して得られる。式(45)において、mは車両番号を表す整数であり、kは車軸番号を表す整数であり、jはレーン番号を表す整数である。
【0158】
【数45】
【0159】
図17に、図16に示した4つのたわみ波形Hj1(t),Hj2(t),Hj3(t),Hj4(t)を加算して得られる、車両番号がmの車両6による上部構造7のたわみ波形CPjm(t)を示す。
【0160】
1-4.変位の算出
式(45)に示されるたわみ波形CPjm(t)と、観測した変位CU(t)の相関を多項式で近似する。例えば、式(46)のように、変位CU(t)をたわみ波形CPjm(t)の1次式で近似する。式(46)において、sは1次係数であり、iは0次係数である。
【0161】
【数46】
【0162】
1次係数s及び0次係数iは、例えば、複数の車両による荷重試験によって算出される。例えば、レーンLの中央に変位計を設置し、複数の車両をそれぞれ単独でレーンLを走行させ、計測装置1は、車軸情報を生成するとともに、変位計によって計測された変位を取得する。そして、計測装置1は、計測された変位の最大値をCUmaxとし、車軸情報から式(45)によって得られるたわみ波形CPjm(t)の最大値をCPjm-maxとしてグラフにプロットし、近似直線の1次係数scu及び0次係数icuを求める。
【0163】
図18は、6台の車両による荷重試験の結果をプロットした図である。図18において、横軸は車両による上部構造7のたわみ波形の最大値CPjm-maxであり、縦軸は計測変位の最大値CUmaxである。図18において、6つの点は直線状に配置されており、6つの点に対する近似直線が点線で示されている。図18の例では、この近似直線の1次係数scuは3084.435944であり、0次係数icuは0.229180174である。
【0164】
計測装置1は、1次係数scu及び0次係数icuと、未知の車両6の車軸情報から式(45)によって得られるたわみ波形CPjm(t)とを用いて、式(47)によりレーンLの中央の変位CUest(t)を算出する。
【0165】
【数47】
【0166】
図19に、計測変位CU(t)とたわみ波形CPjm(t)から算出される変位CUest(t)の一例を示す。図19において、実線は計測変位CU(t)を示し、破線はたわみ波形CPjm(t)から算出される変位CUest(t)を示す。図19に示すように、たわみ波形CPjm(t)から算出される変位CUest(t)は計測変位CU(t)と近似している。したがって、計測装置1は、レーンLの中央の変位を計測することなく、式(47)により、レーンLを走行した未知の車両6による中央の変位を算出することができる。
【0167】
式(47)において、0次係数icuは小さい値であり、式(47)にicu=0を代入し、式(44)及び式(45)より、式(48)が得られる。
【0168】
【数48】
【0169】
式(48)より、所定の係数pと1次係数scuは入れ替えることができるので、所定の係数pは1次係数scuと同様の機能を有する係数である。すなわち、所定の係数pは、観測点Pと観測点Qとの間の上部構造7の部位のたわみと、上部構造7の当該部位の変位との相関を近似する関数の係数である。
【0170】
1-5.計測方法
図20は、第1実施形態の計測方法の手順の一例を示すフローチャート図である。本実施形態では、計測装置1が図20に示す手順を実行する。
【0171】
図20に示すように、まず、計測装置1は、観測点P~Pを観測するN個のセンサー21による観測情報に基づいて、車両6の複数の車軸が観測点P~Pのいずれかを通過した時刻及び複数の車軸のそれぞれの観測点P~Pのいずれかへの作用に対する応答である物理量としての加速度強度を含む第1観測点情報を取得する(ステップS1)。前述の通り、N個のセンサー21はそれぞれ加速度センサーであり、N個のセンサー21による観測情報は、観測点P~Pに生じた加速度の検出情報である。計測装置1は、N個のセンサー21がそれぞれ検出した加速度に基づいて第1観測点情報を取得する。このステップS1は、第1観測点情報取得ステップである。
【0172】
次に、計測装置1は、観測点Q~Qを観測するN個のセンサー22による観測情報に基づいて、車両6の複数の車軸が観測点Q~Qのいずれかを通過した時刻及び複数の車軸のそれぞれの観測点Q~Qのいずれかへの作用に対する応答である物理量としての加速度強度を含む第2観測点情報を取得する(ステップS2)。前述の通り、N個のセンサー22はそれぞれ加速度センサーであり、N個のセンサー22による観測情報は、観測点Q~Qに生じた加速度の検出情報である。計測装置1は、N個のセンサー22がそれぞれ検出した加速度に基づいて、第2観測点情報を取得する。このステップS2は、第2観測点情報取得ステップである。
【0173】
次に、計測装置1は、ステップS1で取得した第1観測点情報及びステップS2で取得した第2観測点情報と、所定の係数pと、上部構造7のたわみの近似式とに基づいて、複数の車軸のそれぞれによる上部構造7のたわみ波形Hjk(t)を算出する(ステップS3)。具体的には、計測装置1は、第1観測点情報と第2観測点情報とを用いて前述の車軸情報を生成し、車軸情報と所定の係数pとを用いて、前述の式(44)により、各レーンLを走行した車両6の各車軸による上部構造7のたわみ波形Hjk(t)を算出する。このステップS3は、たわみ波形算出ステップである。
【0174】
次に、計測装置1は、前述の式(45)により、ステップS3で算出した車両6の複数の車軸のそれぞれによる上部構造7のたわみ波形Hjk(t)を加算して、車両6による上部構造7のたわみ波形CPjm(t)を算出する(ステップS4)。このステップS4は、移動体たわみ波形算出ステップである。
【0175】
次に、計測装置1は、前述の式(47)により、ステップS4で算出した車両6による上部構造7のたわみ波形CPjm(t)に基づいて、上部構造7の変位CUest(t)を算出する(ステップS5)。このステップS5は、変位算出ステップである。
【0176】
次に、計測装置1は、ステップS5で算出した上部構造7の変位CUest(t)をサーバー2に出力する(ステップS6)。このステップS6は、出力ステップである。
【0177】
計測装置1は、計測を終了するまで(ステップS7のN)、ステップS1~S6の処理を繰り返し行う。
【0178】
図21は、図20のステップS3であるたわみ波形算出ステップの手順の一例を示すフローチャート図である。
【0179】
図21に示すように、まず、計測装置1は、整数jを1に設定し(ステップS30)、第1観測点情報及び第2観測点情報を用いて、各車軸のレーンLへの進入時刻のパターン1と各車軸のレーンLからの退出時刻のパターン2とを比較する(ステップS31)。
【0180】
そして、計測装置1は、パターン1に含まれる各車軸の進入時刻とパターン2に含まれる各車軸の退出時刻との差が閾値以下の場合は(ステップS32のY)、パターン1に含まれる各車軸の進入時刻及び加速度強度とパターン2に含まれる各車軸の退出時刻及び加速度強度とを1台の車両6と対応づけて車軸情報を生成する(ステップS33)。
【0181】
また、計測装置1は、パターン1に含まれる各車軸の進入時刻とパターン2に含まれる各車軸の退出時刻との差が閾値よりも大きい場合は(ステップS32のN)、ステップS33の処理を行わない。
【0182】
計測装置1は、整数jがNでない場合は(ステップS34のN)、整数jに1を加算し(ステップS35)、ステップS31~S33の処理を繰り返し行う。
【0183】
そして、整数jがNになると(ステップS34のY)、計測装置1は、整数jを1に設定し(ステップS36)、ステップS33で生成した車軸情報と所定の係数pを用いて、レーンLを走行した各車両6について、各車軸による上部構造7のたわみ波形Hjk(t)を算出する(ステップS37)。
【0184】
計測装置1は、整数jがNでない場合は(ステップS38のN)、整数jに1を加算し(ステップS39)、ステップS37の処理を繰り返し行う。
【0185】
そして、整数jがNになると(ステップS38のY)、計測装置1はたわみ波形算出ステップの処理を終了する。
【0186】
1-6.計測装置の構成
図22は、第1実施形態における計測装置1の構成例を示す図である。図22に示すように、計測装置1は、制御部110と、第1通信部120と、記憶部130と、第2通信部140と、操作部150と、を有している。
【0187】
制御部110は、上部構造7に設置された各センサー21,22から出力される加速度データに基づいて、車両6が上部構造7を走行した時刻や上部構造7の変位等を算出する。
【0188】
第1通信部120は、各センサー21,22から、加速度データを受信する。各センサー21,22から出力される加速度データは、例えば、デジタル信号である。第1通信部120は、各センサー21,22から受信した加速度データを制御部110に出力する。
【0189】
記憶部130は、制御部110が計算処理や制御処理を行うためのプログラムやデータ等を記憶するメモリーである。また、記憶部130は、制御部110が所定のアプリケーション機能を実現するためのプログラムやデータ等を記憶している。記憶部130は、例えば、ROM(Read Only Memory)やフラッシュROM、RAM(Random Access Memory)等の各種IC(Integrated Circuit)メモリーやハードディスク、メモリーカードなどの記録媒体等により構成される。
【0190】
記憶部130は、コンピューターにより読み取り可能な装置や媒体である不揮発性の情報記憶装置を含み、各種のプログラムやデータ等は当該情報記憶装置に記憶されていてもよい。情報記憶装置は、光ディスクDVD、CD等の光ディスク、ハードディスクドライブ、或いはカード型メモリーやROM等の各種のメモリー等であってもよい。また、制御部110が通信ネットワーク4を介して各種のプログラムやデータ等を受信して記憶部130に記憶させてもよい。
【0191】
第2通信部140は、通信ネットワーク4を介して、制御部110の計算結果等の情報をサーバー2に送信する。
【0192】
操作部150は、ユーザーからの操作データを取得し、制御部110に送信する処理を行う。
【0193】
制御部110は、第1観測点情報取得部111と、第2観測点情報取得部112と、たわみ波形算出部113と、移動体たわみ波形算出部114と、変位算出部115と、係数値算出部116と、出力処理部117と、を備えている。
【0194】
第1観測点情報取得部111は、観測点P~Pを観測するN個のセンサー21による観測情報に基づいて、車両6の複数の車軸が観測点P~Pのいずれかを通過した時刻及び複数の車軸のそれぞれの観測点P~Pのいずれかへの作用に対する応答である物理量としての加速度強度を含む第1観測点情報を取得する処理を行う。すなわち、第1観測点情報取得部111は、図20における第1観測点情報取得ステップの処理を行う。第1観測点情報取得部111が取得した第1観測点情報は、記憶部130に記憶される。
【0195】
第2観測点情報取得部112は、観測点Q~Qを観測するN個のセンサー22による観測情報に基づいて、車両6の複数の車軸が観測点Q~Qのいずれかを通過した時刻及び複数の車軸のそれぞれの観測点Q~Qのいずれかへの作用に対する応答である物理量としての加速度強度を含む第2観測点情報を取得する処理を行う。すなわち、第2観測点情報取得部112は、図20における第2観測点情報取得ステップの処理を行う。第2観測点情報取得部112が取得した第2観測点情報は、記憶部130に記憶される。
【0196】
たわみ波形算出部113は、第1観測点情報取得部111が取得した第1観測点情報及び第2観測点情報取得部112が取得した第2観測点情報と、所定の係数pと、上部構造7の構造モデルに基づく上部構造7のたわみの近似式とに基づいて、複数の車軸のそれぞれによる上部構造7のたわみ波形Hjk(t)を算出する処理を行う。すなわち、たわみ波形算出部113は、図20におけるたわみ波形算出ステップの処理を行う。たわみ波形算出部113が算出したたわみ波形Hjk(t)は、記憶部130に記憶される。また、所定の係数p及び上部構造7のたわみの近似式は、あらかじめ記憶部130に記憶されている。
【0197】
移動体たわみ波形算出部114は、たわみ波形算出部113が算出した車両6の複数の車軸のそれぞれによる上部構造7のたわみ波形Hjk(t)を加算して、車両6による上部構造7のたわみ波形CPjm(t)を算出する処理を行う。すなわち、移動体たわみ波形算出部114は、図20における移動体たわみ波形算出ステップの処理を行う。移動体たわみ波形算出部114が算出したたわみ波形CPjm(t)は、記憶部130に記憶される。
【0198】
変位算出部115は、移動体たわみ波形算出部114が算出した車両6による上部構造7のたわみ波形CPjm(t)に基づいて、上部構造7の変位CUest(t)を算出する処理を行う。すなわち、変位算出部115は、図20における変位算出ステップの処理を行う。変位算出部115が算出した変位CUest(t)は、記憶部130に記憶される。
【0199】
係数値算出部116は、複数の車両がそれぞれ上部構造7を単独で走行した時に、不図示の変位計が計測した上部構造7の変位の最大値CUmaxと移動体たわみ波形算出部114が算出したたわみ波形CPjm(t)の最大値CPjm-maxとの相関を近似する近似直線を求め、前述の式(47)の1次係数scuの値及び0次係数icuの値を算出する処理を行う。係数値算出部116が算出した1次係数scuの値及び0次係数icuの値は、記憶部130に記憶される。
【0200】
出力処理部117は、変位算出部115が算出した上部構造7の変位CUest(t)を、第2通信部140を介してサーバー2に出力する処理を行う。すなわち、出力処理部117は、図20における出力ステップの処理を行う。
【0201】
例えば、制御部110は、操作部150からの操作データに基づいて、未知の車両6が上部構造7を走行した時刻や上部構造7の変位等を算出する第1モードと、1次係数scuの値及び0次係数icuの値を算出する第2モードとを切り替える。例えば、N個のセンサー21及びN個のセンサー22が上部構造7に設置された後、制御部110が第2モードに設定された状態で複数の車両による荷重試験が行われ、荷重試験の終了後、制御部110は第1モードに設定される。
【0202】
本実施形態では、制御部110は、記憶部130に記憶された各種のプログラムを実行するプロセッサーであり、記憶部130に記憶された計測プログラム131を実行することにより、第1観測点情報取得部111、第2観測点情報取得部112、たわみ波形算出部113、移動体たわみ波形算出部114、変位算出部115、係数値算出部116、出力処理部117の各機能を実現する。換言すれば、計測プログラム131は、図20に示したフローチャートの各手順を、コンピューターである計測装置1に実行させるプログラムである。
【0203】
プロセッサーは、例えば各部の機能が個別のハードウェアで実現されてもよいし、或いは各部の機能が一体のハードウェアで実現されてもよい。例えば、プロセッサーはハードウェアを含み、そのハードウェアは、デジタル信号を処理する回路及びアナログ信号を処理する回路の少なくとも一方を含むことができる。プロセッサーは、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、或いはDSP(Digital Signal Processor)等であってもよい。ただし、制御部110は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのカスタムIC(Integrated Circuit)として構成され、各部の機能を実現してもよいし、CPUとASICとによって各部の機能を実現してもよい。
【0204】
なお、制御部110は係数値算出部116を含まなくてもよい。例えば、サーバー2あるいは他の装置が、1次係数scuの値及び0次係数icuの値を算出する処理を行い、これらの値を計測装置1の記憶部130に記憶させてもよい。
【0205】
1-7.作用効果
以上に説明した第1実施形態の計測方法では、計測装置1は、観測点P~Pを観測するN個のセンサー21による観測情報に基づいて、車両6の各車軸について観測点P~Pのいずれかを通過した時刻および加速度強度を含む第1観測点情報を取得する。また、計測装置1は、観測点Q~Qを観測するN個のセンサー22による観測情報に基づいて、車両6の各車軸について観測点Q~Qのいずれかを通過した時刻および加速度強度を含む第2観測点情報を取得する。そして、計測装置1は、第1観測点情報及び第2観測点情報と、所定の係数pと、上部構造7の構造モデルに基づく上部構造7のたわみの近似式(39)とに基づいて、式(44)により各車軸による上部構造7のたわみ波形Hjk(t)を算出し、たわみ波形Hjk(t)を加算して車両6による上部構造7のたわみ波形CPjm(t)を算出する。したがって、第1実施形態の計測方法によれば、計測装置1は、構造物である上部構造7の変位を計測せずに、上部構造7を移動する移動体である車両6による上部構造7のたわみ波形を算出することができる。
【0206】
また、第1実施形態の計測方法では、計測装置1は、相関式(47)により、車両6による上部構造7のたわみ波形CPjm(t)からレーンLの変位CUest(t)を算出することができる。したがって、第1実施形態の計測方法によれば、計測装置1は、上部構造7の変位を計測することなく、上部構造7の変位を推定することができる。
【0207】
また、第1実施形態の計測方法によれば、上部構造7の変位を計測するための観測点を設定する必要がないので、観測装置による観測点の数が低減され、計測システムが簡易になるため、計測に要するコストが低減される。
【0208】
また、第1実施形態の計測方法によれば、観測点P~PN,~Qは上部構造7の両端部に設定され、上部構造7の中央部等に観測点が設定されないので、計測システム10の構築やメンテナンスが容易になり、計測に要するコストが低減される。
【0209】
また、第1実施形態の計測方法によれば、計測装置1は、上部構造7を通過する車両6の車軸重量による上部構造7の変形であるたわみ波形を算出することができるため、上部構造7の損傷を予測するための橋梁5の維持管理のために十分な情報を提供することができる。
【0210】
2.第2実施形態
第1実施形態の計測方法では、計測装置1は、車両6による上部構造7のたわみ波形CPjm(t)に基づいて上部構造7の変位CUest(t)を算出するのに対して、第2実施形態の計測方法では、車両6による上部構造7のたわみ波形CPjm(t)に基づいて、車両6による荷重を算出する。以下、第2実施形態について、第1実施形態と同様の構成要素には同じ符号を付して第1実施形態と重複する説明を省略又は簡略し、主に第1実施形態と異なる内容について説明する。
【0211】
本実施形態では、前述の式(45)に示されるたわみ波形CPjm(t)と、車両による仮想的な荷重CW(t)の相関を多項式で近似する。例えば、式(49)のように、荷重CW(t)をたわみ波形CPjm(t)の1次式で近似する。式(49)において、sは1次係数であり、iは0次係数である。
【0212】
【数49】
【0213】
1次係数s及び0次係数iは、例えば、複数の車両による荷重試験によって算出される。例えば、荷重試験の前に複数の車両の重量をそれぞれ計測しておく。複数の車両をそれぞれ単独でレーンLを走行させ、計測装置1は、車軸情報を生成するとともに、各車両の重量を取得する。そして、計測装置1は、各車両の重量を荷重CWtestとし、車軸情報から式(45)によって得られるたわみ波形CPjm(t)の最大値をCPjm-maxとしてグラフにプロットし、近似直線の1次係数scp及び0次係数icpを求める。
【0214】
図23は、5台の車両による荷重試験の結果をプロットした図である。図23において、横軸は車両による上部構造7のたわみ波形の最大値CPjm-maxであり、縦軸は車両の重量CWtestである。図23において、5つの点は直線状に配置されており、5つの点に対する近似直線が点線で示されている。図23の例では、この近似直線の1次係数scpは-13714.92504であり、0次係数icpは-0.880179651である。
【0215】
計測装置1は、1次係数scp及び0次係数icpと、未知の車両6の車軸情報から式(45)によって得られるたわみ波形CPjm(t)とを用いて、式(50)により車両6による荷重CWest(t)を算出する。
【0216】
【数50】
【0217】
図24に、車両による荷重CW(t)とたわみ波形CPjm(t)から算出される仮想的な荷重CWest(t)の一例を示す。図24において、実線は車両による荷重CW(t)を示し、破線はたわみ波形CPjm(t)から算出される荷重CWest(t)を示す。図24に示すように、たわみ波形CPjm(t)から算出される荷重CWest(t)は車両による荷重CW(t)と近似している。したがって、計測装置1は、レーンLの中央の変位を計測することなく、式(50)により、レーンLを走行した未知の車両6による荷重を算出することができる。
【0218】
式(50)において、0次係数icpは小さい値であり、式(50)にicp=0を代入し、前述の式(44)及び式(45)より、式(51)が得られる。
【0219】
【数51】
【0220】
式(51)より、所定の係数pと1次係数scpは入れ替えることができるので、所定の係数pは1次係数scpと同様の機能を有する係数である。すなわち、所定の係数pは、観測点Pと観測点Qとの間の上部構造7の部位のたわみと、車両6による当該部位への荷重との相関を近似する関数の係数である。
【0221】
図25は、第2実施形態の計測方法の手順の一例を示すフローチャート図である。本実施形態では、計測装置1が図25に示す手順を実行する。図25において、図20と同様の処理を行うステップには同じ符号が付されており、その説明を省略する。
【0222】
図25に示すように、第1実施形態と同様、計測装置1は、ステップS1~S4の処理を行う。
【0223】
次に、計測装置1は、式(50)により、ステップS4で算出した車両6による上部構造7のたわみ波形CPjm(t)に基づいて、車両6による仮想的な荷重CWest(t)を算出する(ステップS8)。このステップS8は、荷重算出ステップである。
【0224】
次に、計測装置1は、ステップS8で算出した車両6の荷重CWest(t)をサーバー2に出力する(ステップS9)。このステップS9は、出力ステップである。
【0225】
計測装置1は、計測を終了するまで(ステップS10のN)、ステップS1~S9の処理を繰り返し行う。
【0226】
図26は、第2実施形態における計測装置1の構成例を示す図である。図26において、図22と同様の構成要素には同じ符号が付されている。図26に示すように、第1実施形態と同様、計測装置1は、制御部110と、第1通信部120と、記憶部130と、第2通信部140と、操作部150と、を有している。
【0227】
第1通信部120、記憶部130、第2通信部140及び操作部150がそれぞれ行う処理は、第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0228】
制御部110は、上部構造7に設置された各センサー21,22から出力される加速度データに基づいて、車両6が上部構造7を走行した時刻や車両6による荷重等を算出する。
【0229】
制御部110は、第1観測点情報取得部111と、第2観測点情報取得部112と、たわみ波形算出部113と、移動体たわみ波形算出部114と、荷重算出部118と、係数値算出部116と、出力処理部117と、を備えている。
【0230】
第1観測点情報取得部111、第2観測点情報取得部112、たわみ波形算出部113及び移動体たわみ波形算出部114がそれぞれ行う処理は、第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0231】
荷重算出部118は、移動体たわみ波形算出部114が算出した車両6による上部構造7のたわみ波形CPjm(t)に基づいて、車両6による荷重CWest(t)を算出する処理を行う。すなわち、荷重算出部118は、図25における荷重算出ステップの処理を行う。荷重算出部118が算出した荷重CWest(t)は、記憶部130に記憶される。
【0232】
係数値算出部116は、複数の車両がそれぞれ上部構造7を単独で走行した時に、車両の重量CWtestと移動体たわみ波形算出部114が算出したたわみ波形CPjm(t)の最大値CPjm-maxとの相関を近似する近似直線を求め、式(50)の1次係数scpの値及び0次係数icpの値を算出する処理を行う。係数値算出部116が算出した1次係数scpの値及び0次係数icpの値は、記憶部130に記憶される。
【0233】
出力処理部117は、荷重算出部118が算出した車両6の荷重CWest(t)を、第2通信部140を介してサーバー2に出力する処理を行う。すなわち、出力処理部117は、図25における出力ステップの処理を行う。
【0234】
例えば、制御部110は、操作部150からの操作データに基づいて、未知の車両6が上部構造7を走行した時刻や車両6による荷重等を算出する第1モードと、1次係数scpの値及び0次係数icpの値を算出する第2モードとを切り替える。例えば、N個のセンサー21及びN個のセンサー22が上部構造7に設置された後、制御部110が第2モードに設定された状態で複数の車両による荷重試験が行われ、荷重試験の終了後、制御部110は第1モードに設定される。
【0235】
第1実施形態と同様、制御部110は、記憶部130に記憶された各種のプログラムを実行するプロセッサーであり、記憶部130に記憶された計測プログラム131を実行することにより、第1観測点情報取得部111、第2観測点情報取得部112、たわみ波形算出部113、移動体たわみ波形算出部114、荷重算出部118、係数値算出部116、出力処理部117の各機能を実現する。換言すれば、計測プログラム131は、図25に示したフローチャートの各手順を、コンピューターである計測装置1に実行させるプログラムである。ただし、制御部110は、ASICなどのカスタムICとして構成され、各部の機能を実現してもよいし、CPUとASICとによって各部の機能を実現してもよい。
【0236】
なお、制御部110は係数値算出部116を含まなくてもよい。例えば、サーバー2あるいは他の装置が、1次係数scpの値及び0次係数icpの値を算出する処理を行い、これらの値を計測装置1の記憶部130に記憶させてもよい。
【0237】
以上に説明した第2実施形態の計測方法によれば、第1実施形態の計測方法と同様、計測装置1は、構造物である上部構造7の変位を計測せずに、上部構造7を移動する移動体である車両6による上部構造7のたわみ波形を算出することができる。
【0238】
また、第2実施形態の計測方法では、計測装置1は、相関式(50)により、車両6による上部構造7のたわみ波形CPjm(t)から車両6による荷重CWest(t)を算出することができる。したがって、第2実施形態の計測方法によれば、計測装置1は、上部構造7の変位を計測することなく、車両6によって上部構造7に印加される荷重を推定することができる。
【0239】
また、第2実施形態の計測方法によれば、第1実施形態の計測方法と同様、計測に要するコストが低減される。
【0240】
3.第3実施形態
第1実施形態及び第2実施形態の計測方法では、上部構造7のたわみの近似式を上部構造7の構造モデルに基づく式としているため、前述の式(29)に示されるように、規格化たわみ量wstdは、荷重位置aがl/2よりも小さい区間とl/2よりも大きい区間で式が異なる。これに対して、第3実施形態の計測方法では、荷重位置aがl/2よりも小さい区間とl/2よりも大きい区間とで式が同じになるように、上部構造7のたわみの近似式を正弦波の半波長の式で近似する。以下、第3実施形態について、第1実施形態又は第2実施形態と同様の構成要素には同じ符号を付して第1実施形態又は第2実施形態と重複する説明を省略又は簡略し、主に第1実施形態及び第2実施形態と異なる内容について説明する。
【0241】
本実施形態では、規格化たわみ量wstdは、式(52)で表される。
【0242】
【数52】
【0243】
式(52)において、荷重位置aは0≦a≦lなので、式(52)により、規格化たわみ量wstdは正弦半波で近似される。
【0244】
図27に、観測位置x=l/2の場合に式(52)によって算出される規格化たわみ量wstdの波形の一例を実線で示す。図27において、横軸は荷重Pの位置であり、縦軸は規格化たわみ量wstdである。図27の例では、単純梁の支点間の距離l=10である。図27には、前述の式(29)によって算出される規格化たわみ量wstdの波形が破線で示されている。
【0245】
図27に示すように、式(52)によって算出される規格化たわみ量wstdの波形は、式(29)によって算出される規格化たわみ量wstdの波形と近似しており、式(29)を式(52)に置き換えることが可能である。この置き換えにより、前述の式(39)は式(53)に置き換えられる。式(53)は、最大値が1となるように規格化された式である。また、式(53)は、構造物である上部構造7のたわみの近似式であり、正弦波の半波長の波形の式である。
【0246】
【数53】
【0247】
式(53)より、前述の式(44)は式(54)に置き換えられる。
【0248】
【数54】
【0249】
たわみ波形算出部113は、式(54)により、レーンLを走行する車両6の各車軸による上部構造7のたわみ波形Hjk(t)を算出する。
【0250】
移動体たわみ波形算出部114は、前述の式(45)により、たわみ波形算出部113が算出したたわみ波形Hjk(t)を加算して、車両番号がmの車両6による上部構造7のたわみ波形CPjm(t)を算出する。
【0251】
変位算出部115は、1次係数scu及び0次係数icuと、移動体たわみ波形算出部114が算出したたわみ波形CPjm(t)とを用いて、式(47)によりレーンLの中央の変位CUest(t)を算出する。
【0252】
あるいは、荷重算出部118は、1次係数scp及び0次係数icpと、移動体たわみ波形算出部114が算出したたわみ波形CPjm(t)とを用いて、式(50)により車両6による荷重CWest(t)を算出する。
【0253】
以上に説明した第3実施形態では、計測装置1は、第1観測点情報及び第2観測点情報と、所定の係数pと、正弦波の半波長の波形の式である上部構造7のたわみの近似式(53)とに基づいて、式(54)により各車軸による上部構造7のたわみ波形Hjk(t)を算出し、たわみ波形Hjk(t)を加算して車両6による上部構造7のたわみ波形CPjm(t)を算出する。したがって、第3実施形態の計測方法によれば、計測装置1は、構造物である上部構造7の変位を計測せずに、上部構造7を移動する移動体である車両6による上部構造7のたわみ波形を算出することができる。
【0254】
また、第3実施形態の計測方法では、第1実施形態の計測方法又は第2実施形態の計測方法と同様、計測装置1は、上部構造7の変位を計測することなく、上部構造7の変位又は車両6によって上部構造7に印加される荷重を推定することができる。
【0255】
また、第3実施形態の計測方法によれば、第1実施形態の計測方法及び第2実施形態の計測方法と同様、計測に要するコストが低減される。
【0256】
4.変形例
本発明は本実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0257】
上記の各実施形態では、計測装置1は、上部構造7の変位と荷重のいずれか一方を算出しているが、上部構造7の変位と荷重の両方を算出してもよい。例えば、計測装置1は、前述の式(47)により変位CUest(t)を算出し、前述の式(50)により荷重CWest(t)を算出してもよい。
【0258】
また、計測装置1は、式(47)により変位CUest(t)を算出し、所定の相関式により、変位CUest(t)を荷重に変換してもよい。例えば、上部構造7の観測位置Rの荷重CW(t)と変位x(t)の関係は式(55)のように表される。ここで、荷重CW(t)はBWIMにおいて変位波形が対応する荷重波形とする。式(55)の1次係数Sckk及び0次係数Icは、複数の車両による荷重試験によって得られる。
【0259】
【数55】
【0260】
式(55)において、Icが十分に小さいものとすると、式(56)が得られる。
【0261】
【数56】
【0262】
式(56)において、変位x(t)を変位CUest(t)に置き換えて、荷重CW(t)と変位CUest(t)の相関式は、式(57)のようになる。計測装置1は、相関式(57)により、変位CUest(t)を荷重CW(t)に変換することができる。
【0263】
【数57】
【0264】
また、計測装置1は、式(50)により荷重CWest(t)を算出し、所定の相関式により、荷重CWest(t)を変位に変換してもよい。式(56)において、荷重CWk(t)を荷重CWest(t)に置き換えて整理すると、変位x(t)と荷重CWest(t)の相関式は、式(58)のようになる。計測装置1は、相関式(58)により、荷重CWk(t)を変位x(t)に変換することができる。
【0265】
【数58】
【0266】
また、上記の各実施形態では、観測点P~Pを観測する観測装置及び観測点Q~Qを観測する観測装置は、それぞれ加速度センサーであるが、これに限られず、例えば、衝撃センサー、マイクロホン、歪計又はロードセルであってもよい。観測装置と観測点が1対1に対応している必要はなく、1つの観測装置が観測点P~P,Q~Qの一部又は全部を観測してもよい。
【0267】
衝撃センサーは、車両6の各車軸の観測点P~P,Q~Qへの作用に対する応答として衝撃加速度を検出する。計測装置1は、観測点P~Pに対する衝撃加速度に基づいて第1観測点情報を取得し、観測点Q~Qに対する衝撃加速度に基づいて第2観測点情報を取得する。マイクロホンは、車両6の各車軸の観測点P~P,Q~Qへの作用に対する応答として音響を検出する。計測装置1は、観測点P~Pに対する音響に基づいて第1観測点情報を取得し、観測点Q~Qに対する音響に基づいて第2観測点情報を取得する。歪計、ロードセルは、車両6の各車軸の観測点P~P,Q~Qへの作用に対する応答として応力変化を検出する。計測装置1は、観測点P~Pの応力変化に基づいて第1観測点情報を取得し、観測点Q~Qの応力変化に基づいて第2観測点情報を取得する。
【0268】
また、上記の各実施形態では、車両6がレーンL~Lを走行する方向はすべて同じであるが、レーンL~Lのうちの少なくとも1つのレーンと他のレーンとは車両6の走行方向が異なっていてもよい。例えば、車両6がレーンLでは観測点Pから観測点Qに向かう方向に走行し、レーンLでは観測点Qから観測点Pに向かう方向に走行してもよい。この場合、計測装置1は、観測点Pを観測するセンサー21から出力される加速度データに基づいて、車両6のレーンLへの進入時刻を取得し、観測点Qを観測するセンサー22から出力される加速度データに基づいて、車両6のレーンLからの退出時刻を取得する。また、計測装置1は、観測点Qを観測するセンサー22から出力される加速度データに基づいて、車両6のレーンLへの進入時刻を取得し、観測点Pを観測するセンサー21から出力される加速度データに基づいて、車両6のレーンLからの退出時刻を取得する。
【0269】
また、上記の各実施形態では、各センサー21,22は、それぞれ上部構造7の主桁Gに設けられているが、上部構造7の表面や内部、床板Fの下面、橋脚8a等に設けられていてもよい。また、上記の各実施形態では、橋梁5として道路橋を例に挙げたが、これに限られず、例えば、橋梁5は鉄道橋であってもよい。また、上記の各実施形態では、構造物として橋梁の上部構造を例に挙げたが、これに限られず、構造物は移動体の移動によって変形するものであればよい。
【0270】
上述した実施形態および変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば、各実施形態および各変形例を適宜組み合わせることも可能である。
【0271】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0272】
1…計測装置、2…サーバー、4…通信ネットワーク、5…橋梁、6…車両、7…上部構造、7a…橋床、7b…支承、G…主桁、F…床板、8…下部構造、8a…橋脚、8b…橋台、10…計測システム、21…センサー、22…センサー、110…制御部、111…第1観測点情報取得部、112…第2観測点情報取得部、113…たわみ波形算出部、114…移動体たわみ波形算出部、115…変位算出部、116…係数値算出部、117…出力処理部、118…荷重算出部、120…第1通信部、130…記憶部、131…計測プログラム、140…第2通信部、150…操作部
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