(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ
(51)【国際特許分類】
G02B 27/01 20060101AFI20231212BHJP
B60K 35/00 20060101ALI20231212BHJP
G02B 26/10 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
G02B27/01
B60K35/00 A
G02B26/10 C
(21)【出願番号】P 2020067873
(22)【出願日】2020-04-03
【審査請求日】2023-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000231512
【氏名又は名称】日本精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智子
(72)【発明者】
【氏名】野本 貴之
【審査官】鈴木 俊光
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第02894509(EP,A1)
【文献】特開2021-039299(JP,A)
【文献】国際公開第2018/206314(WO,A1)
【文献】特開2015-225216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01
B60K 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体(VC)に搭載されるヘッドアップディスプレイ(1、1A、1B、1C)であって、
乗員の前方に位置する光透過部材(WS)に向けて第1画像に係る光と第2画像に係る光とを投射し、前記乗員に対応付けられる所定視点から視て、前記乗員の視野前方に、前記第1画像に係る光に基づく第1表示像(VI1)と、前記第2画像に係る光に基づく第2表示像(VI2)とを形成する画像光照射部(2)と、
前記光透過部材に設けられ、前記第1画像に係る光が入射するホログラム(3、3A、3B、3C)とを備え、
前記画像光照射部は、
レーザ光を出射する出射手段(10、51)と、
直交する第1方向及び第2方向で規定される平面内で規則的に配列され、入射する前記レーザ光を拡散する複数の光学素子(41)と、
一の前記光学素子のサイズよりも小さいスポット径で複数の前記光学素子のそれぞれに当たるように、前記平面を走査面として前記レーザ光を走査可能な走査手段(30、52)とを含み、
前記出射手段は、前記第1画像に応じた第1レーザ光と、前記第2画像に応じた第2レーザ光とを出射し、前記走査手段は、前記第1レーザ光を前記一の前記光学素子の中心よりも上下方向又は左右方向側に所定量だけずれた位置に入射し、前記第2レーザ光を前記第1レーザ光の前記一の前記光学素子の前記中心を挟んで前記上下方向又は前記左右方向の逆側の位置に入射し、前記一の前記光学素子は、前記第1レーザ光と前記第2レーザ光とを前記上下方向又は前記左右方向にオフセットした前記光透過部材の領域に出射し、
前記第1表示像は、前記所定視点から視て、前記第2表示像
と前記上下方向又は前記左右方向に隣接した位置に形成される、
ヘッドアップディスプレイ。
【請求項2】
前記第1画像及び前記第2画像は、前記第1表示像及び前記第2表示像の組み合わせにより視認可能な情報を生成する、請求項
1に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項3】
前記第1表示像は、前記所定視点から視て、前記第2表示像よりも遠方又は近傍の位置に形成される、請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヘッドアップディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
凹面鏡(拡大ミラー)を用いて表示像の拡大を図るヘッドアップディスプレイが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来技術では、凹面鏡の大型化だけで表示像の拡大を図るものであるので、ヘッドアップディスプレイが大型化してしまうという課題がある。
【0005】
そこで、本開示は、ヘッドアップディスプレイの大型化を抑制しつつ、表示像の拡大を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、移動体に搭載されるヘッドアップディスプレイであって、乗員の前方に位置する光透過部材に向けて第1画像に係る光と第2画像に係る光とを投射し、前記乗員に対応付けられる所定視点から視て、前記乗員の視野前方に、前記第1画像に係る光に基づく第1表示像と、前記第2画像に係る光に基づく第2表示像とを形成する画像光照射部と、前記光透過部材に設けられ、前記第1画像に係る光が入射するホログラムとを備え、前記画像光照射部は、レーザ光を出射する出射手段(10、51)と、直交する第1方向及び第2方向で規定される平面内で規則的に配列され、入射する前記レーザ光を拡散する複数の光学素子(41)と、一の前記光学素子のサイズよりも小さいスポット径で複数の前記光学素子のそれぞれに当たるように、前記平面を走査面として前記レーザ光を走査可能な走査手段(30、52)とを含み、前記出射手段は、前記第1画像に応じた第1レーザ光と、前記第2画像に応じた第2レーザ光とを出射し、前記走査手段は、前記第1レーザ光を前記一の前記光学素子の中心よりも上下方向又は左右方向側に所定量だけずれた位置に入射し、前記第2レーザ光を前記第1レーザ光の前記一の前記光学素子の前記中心を挟んで前記上下方向又は前記左右方向の逆側の位置に入射し、前記一の前記光学素子は、前記第1レーザ光と前記第2レーザ光とを前記上下方向又は前記左右方向にオフセットした前記光透過部材の領域に出射し、前記第1表示像は、前記所定視点から視て、前記第2表示像と前記上下方向又は前記左右方向に隣接した位置に形成される、ヘッドアップディスプレイが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、ヘッドアップディスプレイの大型化を抑制しつつ、表示像の拡大を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】ヘッドアップディスプレイの車両搭載状態を車両側方視で概略的に示す図である。
【
図2】一実施例(実施例1)によるヘッドアップディスプレイの構成を示す概略図である。
【
図4】スクリーンを形成するマイクロレンズの配列の一例を示す概略図である。
【
図5】一実施例による上側用走査パターン及び下側用走査パターンを示す説明図である。
【
図6】上側用走査パターン及び下側用走査パターンによって2種類の表示像が生成される原理の説明図である。
【
図7】比較例によるヘッドアップディスプレイの構成を示す概略図である。
【
図8】他の一実施例(実施例2)によるヘッドアップディスプレイの構成を示す概略図である。
【
図9】他の一実施例(実施例3)によるヘッドアップディスプレイの構成を示す概略図である。
【
図10】他の一実施例(実施例4)によるヘッドアップディスプレイの構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら実施例について詳細に説明する。なお、
図4等では、見易さのために、複数存在する同一属性の部位や部分には、一部のみしか参照符号が付されていない場合がある。
【0010】
[ヘッドアップディスプレイの構成]
図1は、ヘッドアップディスプレイ1の車両(移動体の一例)への搭載状態を車両側方視で概略的に示す図である。
図2は、一実施例(実施例1)によるヘッドアップディスプレイ1の構成を示す概略図である。
図3は、画像光照射装置2の構成を示す概略図である。
図4は、スクリーン40を形成するマイクロレンズ41の配列の一例を示す概略図である。
図2には、ある一の視点(所定視点の一例)に係るアイボックス5に対応する位置の運転者(乗員の一例)の顔が模式的に示される。なお、アイボックス5は、表示像(虚像表示)VIを視認できる範囲を示し、視点が当該範囲内であれば表示像(虚像表示)VIを視認できる。また、
図3において、点線の矢印R0からR4は、電気信号の流れを模式的に示す。
【0011】
ヘッドアップディスプレイ1では、
図1に示すように、ウインドシールドWSに表示光が照射されると、車両VCを運転する運転者にとっては、ウインドシールドWSよりも前方に、当該照射によって得られた表示像(虚像表示)VIが見える。これにより、運転者は、前方風景と重畳させて表示像VIを視認できる。従って、運転者は、インストルメントパネル9内のメータを見る場合に比べて視線移動の少ない態様で車両情報等を把握でき、利便性及び安全性が向上する。
【0012】
ヘッドアップディスプレイ1は、画像光照射装置2(画像光照射部の一例)と、ホログラム3とを含む。
【0013】
画像光照射装置2は、運転者の前方に位置するウインドシールドWS(光透過部材の一例)の領域R510に向けて第1画像に係る光(
図2のラインL1参照)を、ウインドシールドWSの領域R520(領域R520上のホログラム3)に向けて第2画像に係る光(
図2のラインL2参照)を、それぞれ略同時に投射する。ウインドシールドWS及びホログラム3は、アイボックス5内にそれぞれの画像に係る光を反射する。この場合、アイボックス5に係る視点から視て、運転者の視野前方に、第1画像に係る光に基づく表示像VI1(第1表示像の一例)と、第2画像に係る光に基づく表示像VI2(第2表示像の一例)とを形成する。
【0014】
画像光照射装置2は、第1画像に係る光と第2画像に係る光とをウインドシールドWS上の領域R510と領域R520に投射できる構成であれば、任意である。例えば、画像光照射装置2は、液晶ディスプレイにおけるパララックスバリア方式やレンチキュラレンズ方式のような、立体視画像を生成する原理を利用して、第1画像に係る光と第2画像に係る光を生成してもよい。あるいは、DLP(Digital Light Processing)プロジェクタのようなプロジェクタを利用して、第1画像に係る光と第2画像に係る光を生成してもよい。また、画像光照射装置2は、2つ以上の画像投射装置の組み合わせにより実現されてもよい。
【0015】
以下では、画像光照射装置2によりウインドシールドWS及びホログラム3に投射される画像(光)を、「中間像」とも称する。本実施例では、上述したように、第1画像と第2画像に係る2つの中間像が画像光照射装置2によりウインドシールドWS及びホログラム3に投射される。
【0016】
本実施例では、一例として、画像光照射装置2は、
図3に示すように、レーザユニット10と、ダイクロイックミラーユニット20と、集光レンズ28と、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)スキャナ30と、スクリーン40と、制御装置50とを含む。
【0017】
レーザユニット10は、赤、青、緑の各色のレーザ照射装置11、12、13を含む。レーザ照射装置11は、赤色の波長域のレーザ光を出射する。レーザ照射装置12は、青色の波長域のレーザ光を出射する。レーザ照射装置13は、緑色の波長域のレーザ光を出射する。なお、本実施例では、かかる3色のレーザ光を出射可能であるので、フルカラーの表示像VIを生成可能である。ただし、変形例では、表示可能な色のバリエーションは少なくてもよい。
【0018】
ダイクロイックミラーユニット20は、レーザ照射装置11、12、13のそれぞれに対応するダイクロイックミラー21、22、23を有する。ダイクロイックミラー21は、赤色の波長域のみを反射する。従って、ダイクロイックミラー21は、レーザ照射装置11から入射するレーザ光のみを、集光レンズ28に向けて反射できる。ダイクロイックミラー22は、赤色の波長域を透過し、青色の波長域を反射する。従って、ダイクロイックミラー22は、ダイクロイックミラー21から入射するレーザ光を透過しつつ、レーザ照射装置12から入射するレーザ光を、集光レンズ28に向けて反射できる。同様に、ダイクロイックミラー23は、赤色及び青色の波長域を透過し、緑色の波長域を反射する。従って、ダイクロイックミラー23は、ダイクロイックミラー22から入射するレーザ光を透過しつつ、レーザ照射装置13から入射するレーザ光を、集光レンズ28に向けて反射できる。
【0019】
集光レンズ28は、上述したようにダイクロイックミラーユニット20から入射するレーザ光(赤、青、緑の各色のレーザ光)を集光して、MEMSスキャナ30に向けて出射する。
【0020】
集光レンズ28は、ダイクロイックミラーユニット20から入射するレーザ光が、スクリーン40を形成する複数のマイクロレンズ41(後述)のそれぞれのサイズよりも小さいスポット径(直径)で、スクリーン40上に投射されるように構成・配置される。例えば、スポット径は、以下の関係式が成り立つように適合される。
スポット径≦レンズピッチ/画像分離数ここで、レンズピッチは、後述する複数のマイクロレンズ41の配列のピッチ(
図4のPT1、PT2参照)であり、画像分離数は、中間像の数に対応し、本実施例では、一例として、“2”である。
【0021】
MEMSスキャナ30は、集光レンズ28から入射するレーザ光を、スクリーン40上に投射する。MEMSスキャナ30は、直交する2軸まわりに回転可能なMEMSミラーを備える。スクリーン40上のレーザ光の投射位置は、MEMSミラーの向きに応じて変化する。従って、MEMSスキャナ30は、スクリーン40上のレーザ光の投射位置を任意に変化させることができる。
【0022】
スクリーン40は、平面内に延在する。本実施例では、一例として、スクリーン40は、水平面内に延在するが、水平面に対して若干傾斜する向きで配置されてもよい。スクリーン40は、
図4に示すように、平面内で規則的に配列される複数のマイクロレンズ41(光学素子の一例)を含む。すなわち、スクリーン40は、2次元のマイクロレンズアレイを含む。複数のマイクロレンズ41は、典型的には、それぞれ同じ形態であるが多少異なっていても良い。本実施例では、一例として、スクリーン40に対して垂直方向に視て、矩形(正方形)の外形であるが、六角形のような他の外形であってもよい。スクリーン40は、入射面が、複数のマイクロレンズ41に係る凸状の形態であり、出射面が平面であってよい(
図6参照)。
【0023】
図4に示す例では、複数のマイクロレンズ41は、X方向(第1方向の一例)とY方向(第2方向の一例)を含む平面(配列面)内に配置され、複数のマイクロレンズ41は、好ましくは、
図4に示すように、一定のピッチで規則的に配列される。なお、
図4では、X方向とY方向での各ピッチPT1、PT2は、同じであるが、異なってもよい。本実施例では、一例として、複数のマイクロレンズ41は、X方向に9列かつY方向に8列で配列されるが、X方向及びY方向における列の数は任意である。なお、X方向及びY方向は、前出の
図3においてもスクリーン40に対応付けて図示されている。
【0024】
制御装置50は、ECU(Electronic Control Unit)のようなコンピュータにより実現されてよい。制御装置50は、レーザ制御部51と、スキャナ制御部52とを含む。なお、本実施例では、レーザ制御部51は、上述したレーザユニット10と協動して、出射手段の一例を形成し、スキャナ制御部52は、上述したMEMSスキャナ30と協動して、走査手段の一例を形成する。
【0025】
レーザ制御部51は、表示像VIを生成するための画像信号に基づいて、レーザユニット10を制御する(
図3の矢印R1からR3参照)。本実施例では、一例として、画像信号は、アイボックス5から視て上側に視認可能な表示像VIを生成するための第1画像信号と、同アイボックス5から視て下側に視認可能な表示像VIを生成するための第2画像信号と、を含む。なお、第1画像信号及び第2画像信号は、外部のECUにより生成されて、制御装置50に与えられてもよいし(
図3の矢印R0参照)、制御装置50が自身で生成してもよい。
図2には、第1画像信号に基づく光の経路がラインL1で示されるとともに、
図2には、第2画像信号に基づく光の経路がラインL2で示されている。
【0026】
以下では、説明上、区別のため、アイボックス5から視て上側に視認可能な表示像VIを「表示像VI1」とも表記し、アイボックス5から視て下側に視認可能な表示像VIを「表示像VI2」とも表記する。また、以下では、特に言及しない限り、「表示像VI1(表示像VI2も同様)」とは、表示像VI1の全体を指し、表示像VI1に係る出力範囲の全体を表す。例えば、表示像VI1が、速度を表す文字に関する場合、表示像VI1とは、当該文字部分だけを指すのではなく、当該文字部分を含む出力範囲の全体を指す。
【0027】
表示像VI1、VI2は、アイボックス5から視て可視であり、互いに対して対応付けられた位置関係となるように形成される。例えば、表示像VI1、VI2は、上下方向で連続し、組み合わせにより1つの表示像を形成してもよい。この場合、表示像VI1、VI2の一部が重なる場合に比べて、大きな表示像を形成できる。
【0028】
第1画像信号と第2画像信号とは、同じ信号であってもよいし、異なる信号であってもよい。本実施例では、一例として、第1画像信号と第2画像信号とは、表示像VI1、VI2の組み合わせにより視認可能な情報を生成するように形成される。すなわち、表示像VI1、VI2は、単独では実質的に意味をなさない情報を生成し、2つが組み合わせられることで実質的に意味のある情報を生成する。あるいは、表示像VI1、VI2は、2つが組み合わせられることで表すことができる情報量が、単独でそれぞれ表すことができる情報量よりも多い。
【0029】
例えば、表示像VI1は、ナビゲーション関連情報(例えば地図情報)の一部を表し、表示像VI2は、同ナビゲーション関連情報の残りの部分を表す。この場合、2つの表示像VI1、VI2の組み合わせを同時に見ることで、一のナビゲーション関連情報を視認できる。
【0030】
あるいは、表示像VI1は、警報メッセージの一部を表し、表示像VI2は、同警報メッセージの残りの部分を表す。この場合、2つ表示像VI1、VI2の組み合わせを同時に見ることで、一の警報メッセージを視認できる。
【0031】
第1画像信号は、例えば、所定のサイズ及び所定の分解能の画像の各画素の画素値(輝度や色)を表す信号である。また、第2画像信号は、例えば、所定のサイズ及び所定の分解能の画像の各画素の画素値(輝度や色)を表す信号である。この場合、所定のサイズ及び所定の分解能は、第1画像信号と第2画像信号とで同じであってよい。なお、画像の各画素は、スクリーン40の各位置(走査面上の各位置)と対応付けられる。例えば、画像の各画素は、スクリーン40の各位置(走査面上の各位置)と一対一の関係で対応付けられてよい。なお、スクリーン40の各位置は、MEMSスキャナ30のMEMSミラーの各向きと対応付けられる。
【0032】
レーザ制御部51は、第1画像信号に基づいて、レーザユニット10を制御するときは、第1画像信号に含まれる各画素の画素値に基づいて、レーザユニット10から各画素に応じたタイミングで各画素値に応じた色のレーザ光が出射されるように、レーザユニット10を制御する。第2画像信号の場合も同様である。
【0033】
スキャナ制御部52は、MEMSスキャナ30を制御する(
図3の矢印R4参照)。すなわち、スキャナ制御部52は、MEMSスキャナ30のMEMSミラーの向きを制御することで、レーザ光をスクリーン40上で走査する。ここで、「レーザ光をスクリーン40上で走査する」とは、スクリーン40に係る平面上のレーザ光の投射位置(スクリーン40に係る平面に垂直に視たときの、投射位置)を変化させることを指す。また、以下で「走査パターン」とは、投射位置の軌跡(スクリーン40に係る平面上での、レーザ光の投射位置の軌跡)を指す。また、スクリーン40に係る平面(すなわち、複数のマイクロレンズ41が配列される平面)を、「走査面」とも称する。
【0034】
具体的には、スキャナ制御部52は、レーザ制御部51と協動して、第1画像信号に応じたレーザ光(第1レーザ光の一例)を、上側用走査パターンで走査し、第2画像信号に応じたレーザ光(第2レーザ光の一例)を、下側用走査パターンで走査する。すなわち、第1画像信号に基づいて動作するときは、スキャナ制御部52は、第1画像信号に含まれる各画素の画素値に基づいて、各画素に対応した走査面上の各位置に、レーザユニット10からのレーザ光が投射されるように、MEMSスキャナ30を制御する。第2画像信号の場合も同様である。
【0035】
[上側用走査パターン及び下側用走査パターン]
次に、
図5から
図6を参照して、上側用走査パターン及び下側用走査パターンの好ましい例について説明する。
【0036】
図5は、一実施例による上側用走査パターン及び下側用走査パターンを示す説明図であり、スクリーン40を平面視で示す図である。
図6は、上側用走査パターン及び下側用走査パターンによって表示像VI1、VI2が生成される原理の説明図である。
図5には、X方向のX1側とX2側が定義されるとともに、Y方向のY1側とY2側が定義される。
図6では、スクリーン40については、Y方向に並んだ3つのマイクロレンズ41だけを取り出して断面視で示される。Y方向は、スクリーン40が水平面内に位置するとき車両前後方向に対応する。このとき、X方向は、車両横方向(車幅方向)に対応する。なお、
図6では、紙面に直角な方向がX方向である。
【0037】
図5に示す例では、上側用走査パターンは、複数の上側用走査部分L401を含み、下側用走査パターンは、複数の下側用走査部分L402を含む。上側用走査部分L401と、下側用走査部分L402とは、各マイクロレンズ41を通り、互いに対してY方向で所定のオフセット量(=α+β)だけオフセットされる。換言すると、上側用走査部分L401は、各マイクロレンズ41の中心Oに対してY方向Y1側に所定量αだけオフセットし、下側用走査部分L402は、各マイクロレンズ41の中心Oに対してY方向Y2側に所定量βだけオフセットする。
【0038】
このような上側用走査パターン及び下側用走査パターンによれば、上側用走査パターンで走査されるレーザ光(第1画像信号に応じたレーザ光)により表示像VI1を生成でき、下側用走査パターンで走査されるレーザ光(第2画像信号に応じたレーザ光)により表示像VI2を生成できる。
【0039】
より具体的には、上側用走査パターンで走査されるレーザ光(第1画像信号に応じたレーザ光)は、
図6に示すように、マイクロレンズ41の中心OよりもY方向Y1側に所定量αだけずれた位置に入射する(矢印R51参照)。この場合、マイクロレンズ41からは、マイクロレンズ41の入射面の形態(球形の形態)に応じた方向に出射する(矢印R511参照)。他方、下側用走査パターンで走査されるレーザ光(第2画像信号に応じたレーザ光)は、
図6に示すように、マイクロレンズ41の中心OよりもY方向Y2側に所定量βだけずれた位置に入射する(矢印R52参照)。この場合、マイクロレンズ41からは、マイクロレンズ41の入射面の形態(球形の形態)に応じた方向に出射する(矢印R521参照)。このとき、一のマイクロレンズ41における入射位置(スポット位置)であって、上側用走査パターンで走査されるレーザ光(第1画像信号に応じたレーザ光)に係る入射位置と、下側用走査パターンで走査されるレーザ光(第2画像信号に応じたレーザ光)に係る入射位置とは、同マイクロレンズ41の中心Oを挟んでY方向の逆側に位置する。このため、マイクロレンズ41からのレーザ光の出射方向であって、上側用走査パターンで走査されるレーザ光(第1画像信号に応じたレーザ光)に係る出射方向(矢印R511参照)と、下側用走査パターンで走査されるレーザ光(第2画像信号に応じたレーザ光)に係る出射方向(矢印R521参照)とは、
図6に模式的に示すように、互いに対して傾斜する(非平行となる)。従って、ウインドシールドWSにおけるマイクロレンズ41からのレーザ光が入射する領域であって、上側用走査パターンで走査されるレーザ光(第1画像信号に応じたレーザ光)に係る領域R510と、下側用走査パターンで走査されるレーザ光(第2画像信号に応じたレーザ光)に係る領域R520とは、互いに離間する。具体的には、領域R510、R520は、ウインドシールドWSにおける上下方向にオフセットする。この結果、
図2に模式的に示すように、上下方向にオフセットした領域R510、R520から運転者側の同一のアイボックス5内へとレーザ光を投射できるので、アイボックス5から視認可能な表示像VI1、VI2を生成できる。なお、所定のオフセット量は、表示像VI1と表示像VI2との位置関係に相関する。所定量α、βは、領域R510、R520の所望の位置(ひいては表示像VI1、VI2の所望の位置)に応じて適合されてよい。
【0040】
なお、1回の走査が、上側用走査パターンと下側用走査パターンを組み合わせた走査パターンで実現される場合や、上側用走査パターンによる第1画像信号の発生と下側用走査パターンによる第2画像信号の発生とが時間的に近接して実現される場合は、表示像VI1、VI2を実質的に同時に生成できる。表示像VI1、VI2は、上述したアイボックス5から視て可視であり、互いに対して対応付けられた位置関係となるように形成される。従って、運転者は、アイボックス5に対応付けられた視点から視点を移動させることなく、表示像VI1、VI2を同時に視認できる。
【0041】
なお、本実施例では、上述のように、表示像VI1、VI2が生成される構成であるが、表示像VI1、VI2に加えて、表示像VI1、VI2とは異なる更なる他の1つ以上の表示像が生成される構成であってもよい。
【0042】
また、本実施例では、上述したように、スクリーン40からの光は、直接的にウインドシールドWS及びホログラム3に投射されるが、光学部材を介して投射されてもよい。例えば、スクリーン40からの光は、凹面鏡で反射されてからウインドシールドWS及びホログラム3に投射されてもよい。これは、画像光照射装置2が、液晶ディスプレイにおけるパララックスバリア方式や、レンチキュラレンズ方式、DLPプロジェクタ方式のような他の方式の装置である場合も同様である。
【0043】
[ホログラム3及びその関連の構成]
次に、
図2及び
図7以降を参照して、ホログラム3及びその関連の構成について説明する。
【0044】
ホログラム3は、
図2に示すように、ウインドシールドWSに設けられる。ホログラム3は、ウインドシールドWSの室内側の表面に貼り付けられてもよいし、ウインドシールドWSの内層(例えば中間膜内)に設けられてもよい。
【0045】
ホログラム3は、例えば、フォトポリマーにより形成されてよい。ホログラム3のタイプは、反射型、位相型、かつ体積型である。ホログラム3は、厚さ数ミクロンのホログラムフィルムであってもよい。ホログラム3には、干渉縞が例えば屈折率の変化の形で記録される。なお、ホログラム3にはRGBの波長各々に係る干渉縞が記憶される。この場合、RGBの波長各々に係る干渉縞ごとホログラム層を作成し、その3つのホログラム層を積層することで積層型のホログラム3を形成してもよい。あるいは、RGBの干渉縞を重ねて記録する多重型のホログラム3が実現されてもよい。
【0046】
ホログラム3は、ウインドシールドWSにおける表示像VI1に係る光が入射する領域R510に延在する。すなわち、ウインドシールドWSは、画像光照射装置2からの光が入射される領域として、表示像VI1に係る光が入射する領域R510と、表示像VI2に係る光が入射する領域R520とを有し、ホログラム3は、当該2つの領域R510、R520のうちの、表示像VI1に係る光が入射する領域R510に設けられる。なお、ホログラム3の一部は、表示像VI2に係る光が入射する領域R520に延在してもよい。すなわち、領域R510及び領域R520とは一部が重複してもよい。
【0047】
ホログラム3は、アイボックス5から視て、表示像VI1を表示像VI2に対応付けられた位置に形成する。すなわち、表示像VI1及び表示像VI2は、ホログラム3を利用して、アイボックス5から視て、互いに対して対応付けられた位置関係となるように形成される。
【0048】
なお、ホログラム3の特性は、アイボックス5や、ウインドシールドWSにおける表示像VI1に係る光が入射する領域R510、画像光照射装置2、表示像VI2等の位置関係に基づいて、表示像VI1が表示像VI2に対応付けられた位置に視認されるように適合されてよい。
【0049】
ここで、
図7を対比して、本実施例の効果について説明する。
【0050】
図7は、比較例によるヘッドアップディスプレイ1’の構成を示す概略図である。比較例によるヘッドアップディスプレイ1’は、本実施例によるヘッドアップディスプレイ1に対して、ホログラム3を備えていない点が異なる。従って、比較例では、表示像VI1’に係る光(ラインL1’参照)が領域R510に入射し、かつ、表示像VI2に係る光(ラインL2参照)が領域R520に入射すると、それぞれの光は、同じ態様で、領域R510及び領域R520から運転者に向かって反射する。このため、
図7に模式的に示すように、領域R510に入射した光の一部は、アイボックス5外へと反射する。この場合、表示像VI1の全体を視認するためには、運転者は、視点を上側に移動する必要がある。
【0051】
また、比較例によるヘッドアップディスプレイ1’では、
図7に模式的に示すように、表示像VI1と表示像VI2との間の上下方向の重複領域が大きくなる。従って、比較例によるヘッドアップディスプレイ1’では、表示像VI1と表示像VI2との組み合わせによる表示像は、当該上下方向の重複領域の分だけ全体としてのサイズが小さくなる。
【0052】
これに対して、本実施例によれば、上述したようにホログラム3を備えることで、領域R510に入射した光の実質的に全部は、アイボックス5内へと反射することができる。換言すると、ホログラム3は、領域R510に入射した光の実質的に全部をアイボックス5内へと反射するように形成される。また、本実施例によれば、上述したようにホログラム3を備えることで、表示像VI1と表示像VI2との間の上下方向の重複領域を小さくでき又は無くすことができる。この結果、表示像VI1と表示像VI2との組み合わせによる表示像VIのサイズを効率的大きくすることができる。
【0053】
このようにして本実施例によれば、凹面鏡の大型化を伴わずに、ホログラム3を利用して、表示像VI1と表示像VI2との組み合わせによる比較的大きい表示像VIを形成できる。すなわち、ヘッドアップディスプレイ1の大型化を抑制しつつ、表示像VIの拡大を図ることができる。
【0054】
また、本実施例によれば、凹面鏡のみを用いて同様のサイズの表示像VIを実現した場合に比べて、表示像VIの品質(見易さ)を高めることができる。すなわち、凹面鏡のみを用いて比較的大きいサイズの表示像VIを実現した場合、この凹面鏡は高倍率にしなければならず、表示像VIに歪が生じやすくなる。これに対して、本実施例によれば、2つの表示像VI1、VI2の組み合わせにより表示像VIを生成するので、かかる歪を低減又は無くすことができる。
【0055】
次に、
図8から
図10を参照して、他の実施例について説明する。以下、区別のため、上述した実施例を、「実施例1」とも称する。
【0056】
図8は、他の一実施例(実施例2)によるヘッドアップディスプレイ1Bの構成を示す概略図である。
【0057】
本実施例のヘッドアップディスプレイ1Bは、上述した実施例1のヘッドアップディスプレイ1に対して、ホログラム3がホログラム3Bで置換された点が異なる。ホログラム3Bは、領域R520に設けられる。ホログラム3Bは、領域R520に入射した光の実質的に全部をアイボックス5内へと反射するように形成される。また、ホログラム3Bは、表示像VI2が表示像VI1(上述した実施例1の表示像VI1と同じ位置)よりも近傍の位置に視認されるように適合される。
【0058】
本実施例によっても、上述した実施例1と同様の効果が奏される。また、本実施例によれば、表示像VI1よりも運転者にとって手前側に表示像VI2が視認されるので、表示像VI1と表示像VI2との組み合わせによる表示像VIを斬新な態様(例えば立体的な態様)で運転者に見せることができる。なお、このような表示像VIは、例えば拡張現実(AR:RAugmented Reality)に応用できる。
【0059】
なお、本実施例では、表示像VI1よりも運転者にとって手前側に表示像VI2が視認されるように構成されるが、逆であってよい。例えば、領域R510にホログラム3Bと同様のホログラム(図示せず)を設けることで、表示像VI2よりも運転者にとって手前側に表示像VI1が視認される関係を実現してもよい。
【0060】
図9は、他の一実施例(実施例3)によるヘッドアップディスプレイ1Cの構成を示す概略図である。
【0061】
本実施例のヘッドアップディスプレイ1Cは、上述した実施例1のヘッドアップディスプレイ1に対して、ホログラム3がホログラム3Cで置換された点が異なる。ホログラム3Cは、領域R510に設けられる。ホログラム3Cは、領域R510に入射した光の実質的に全部をアイボックス5内へと反射するように形成される。また、ホログラム3Cは、表示像VI1が表示像VI2(上述した実施例1の表示像VI2と同じ位置)よりも遠方の位置に視認されるように適合される。
【0062】
本実施例によっても、上述した実施例1と同様の効果が奏される。また、本実施例によれば、表示像VI2よりも運転者にとって奥側(前方側)に表示像VI1が視認されるので、表示像VI1と表示像VI2との組み合わせによる表示像VIを斬新な態様(例えば立体的な態様)で運転者に見せることができる。なお、このような表示像VIは、例えば拡張現実に応用できる。
【0063】
なお、本実施例では、表示像VI1よりも運転者にとって奥側に表示像VI2が視認されるように構成されるが、逆であってよい。例えば、領域R520にホログラム3Cと同様のホログラム(図示せず)を設けることで、表示像VI1よりも運転者にとって奥側に表示像VI2が視認される関係を実現してもよい。
【0064】
図10は、他の一実施例(実施例4)によるヘッドアップディスプレイ1Aの構成を示す概略図である。
【0065】
本実施例のヘッドアップディスプレイ1Aは、上述した実施例1のヘッドアップディスプレイ1に対して、ホログラム3Aが追加された点が異なる。ホログラム3Aは、領域R520に設けられる。ホログラム3Aは、領域R520に入射した光の実質的に全部をアイボックス5内へと反射するように形成される。
【0066】
本実施例によっても、上述した実施例1と同様の効果が奏される。また実施例2,3においても同様にホログラムを2つ用いることにより、実施例2,3と同様の効果を得ることができる。
そして、この2つのホログラムに反射率を高めたホログラムを用いることにより、光利用効率を高めることができる。これにより、光源(レーザユニット10)が出力する光量が少なく済み、省電力化、発熱量の低減、光源を冷却するヒートシンクの小型化に寄与する。
【0067】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。
【0068】
例えば、上述した実施例1(実施例2から実施例4も同様)では、領域R510、R520はウインドシールドWS上に上下に設定され、ホログラム3は、表示像VI1、VI2が上下方向に隣接する態様で視認されるように適合されているが、これに限られない。領域R510、R520はウインドシールドWS上に左右に設定され、ホログラム3は、表示像VI1、VI2が設定方向に隣接する態様で視認されるように適合されてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1 ヘッドアップディスプレイ
1A ヘッドアップディスプレイ
1B ヘッドアップディスプレイ
1C ヘッドアップディスプレイ
2 画像光照射装置
3 ホログラム
3A ホログラム
3B ホログラム
3C ホログラム
5 アイボックス
9 インストルメントパネル
10 レーザユニット
11 レーザ照射装置
12 レーザ照射装置
13 レーザ照射装置
20 ダイクロイックミラーユニット
21 ダイクロイックミラー
22 ダイクロイックミラー
23 ダイクロイックミラー
28 集光レンズ
30 MEMSスキャナ
40 スクリーン
41 マイクロレンズ
50 制御装置
51 レーザ制御部
52 スキャナ制御部
L1 ライン
L2 ライン
VC 車両
VI 表示像(虚像表示)
VI1 表示像
VI2 表示像
WS ウインドシールド