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特許7400608水性グラビアまたはフレキソインキ、およびその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】水性グラビアまたはフレキソインキ、およびその利用
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/102 20140101AFI20231212BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
C09D11/102
B32B27/40
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020072322
(22)【出願日】2020-04-14
(65)【公開番号】P2021169547
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004436
【氏名又は名称】東洋インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小藤 通久
(72)【発明者】
【氏名】猪股 大貴
(72)【発明者】
【氏名】濱田 直宏
(72)【発明者】
【氏名】山上 朋恵
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-272587(JP,A)
【文献】特開平07-102204(JP,A)
【文献】特開2016-044282(JP,A)
【文献】国際公開第2008/007712(WO,A1)
【文献】特開2011-225863(JP,A)
【文献】特開平09-217034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D11/00-13/00
B41M1/00-3/18;7/00-9/04
C08G18/00-18/87;71/00-71/04
B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂を含有する水性グラビアまたはフレキソインキであって、
前記バインダー樹脂が、水性ポリウレタン樹脂を含有し、前記水性ポリウレタン樹脂の含有率が、インキの総質量中5~18質量%であり、
前記水性ポリウレタン樹脂が、ポリエーテルポリオール由来の構成単位を含有し、前記ポリエーテルポリオールの分子量分布(Mw/Mn)が、2.2~4であり、前記ポリエーテルポリオール由来の構成単位の含有率が、前記水性ポリウレタン樹脂の総質量中10~90質量%、かつ、前記水性ポリウレタン樹脂を構成するポリオールの総質量中50~100質量%であり、前記水性ポリウレタン樹脂の酸価が、15~60mgKOH/gである、水性グラビアまたはフレキソインキ。
【請求項2】
ポリエーテルポリオールが、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールより選ばれる少なくとも一種を含有する、請求項1に記載の水性グラビアまたはフレキソインキ。
【請求項3】
ポリエーテルポリオールが、バイオマス由来ジオールに由来する構成単位を含有する、請求項1または2に記載の水性グラビアまたはフレキソインキ。
【請求項4】
水性ポリウレタン樹脂の重量平均分子量が、25000~70000である、請求項1~3いずれか1項に記載の水性グラビアまたはフレキソインキ。
【請求項5】
更に、アセチレングリコール系化合物および/またはスチレンマレイン酸系化合物を含む、請求項1~いずれか1項に記載の水性グラビアまたはフレキソインキ。
【請求項6】
基材1上に請求項1~いずれか1項に記載の水性グラビアまたはフレキソインキからなる印刷層を有する印刷物。
【請求項7】
請求項に記載の印刷物の印刷層上に、接着剤層および基材2を順次有する積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装材料、特にラミネート積層体に好適に用いられる水性グラビアまたはフレキソインキに関する。
【背景技術】
【0002】
グラビアまたはフレキソインキは、絵柄印刷として、被印刷体に美粧性、機能性を付与させる目的で広く用いられているが、近年、包装物の多様性や包装技術の高度化、さらには有機溶剤に代表される法規制面からの環境課題に対する取組みなど、印刷インキへの要求は年々多様化している。
【0003】
近年の環境保全、法規制面への課題を解決するための手段として水性印刷インキへの転換が提案されている。水性印刷インキは一般包装紙や段ボール等の紙器等の印刷に広く用いられてきている。しかし、包装材用途を中心とした非浸透性のプラスチックフィルム基材に対する印刷分野においては、溶剤系の印刷インキと比較し、課題が未だ多いのが事実である。
【0004】
また、カーボンニュートラルという概念がある。これを行うと、植物原料などのバイオマス原料を使用し、燃焼で排出される二酸化炭素と、植物などの生長により吸収・固定される二酸化炭素の量とが同一量とすれば空気中の二酸化炭素を増加させることない。従って、印刷インキに用いる樹脂等に、バイオマス由来の原料を使用することは、温室効果ガスである二酸化炭素増加を避けるうえで有効とされている(特許文献1)。
【0005】
印刷インキの品質は、主にその主成分であるバインダー樹脂に大きく依存している。水性の印刷インキの場合においても、汎用化、高性能化を考慮し、水性ポリウレタン樹脂が主たるバインダー樹脂として広く使われている。これは、水性ポリウレタン樹脂は、硬くて強靱な塗膜から柔らかくかつ弾性のある塗膜まで自由な塗膜設計ができるためである。
中でも、ポリエーテルポリオールを含有する水性ポリウレタン樹脂を用いた水性印刷インキは、柔軟性が高く、プラスチック基材との密着性が良好となることが知られている。例えば、特許文献2、3ではポリテトラメチレングリコールとポリエチレングリコールからなるポリウレタン樹脂を用いた水性印刷インキの技術開発が開示されているが、水性印刷インキの場合、印刷時の版カブリ性や各種プラスチックフィルム基材に対するラミネート強度、耐ブロッキング性等のインキの塗膜物性に関して技術難易度が高く未だ発展途上段階である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2018/199085パンフレット
【文献】特開2002-60451公報
【文献】特開2005-272587公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、印刷時の版カブリ性やレベリング性が良好であり、印刷層の耐ブロッキング性が良好であり、積層体でのラミネート強度が良好である水性グラビアまたはフレキソインキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記状況を鑑み鋭意検討を重ねた結果、以下に記載の水性グラビアまたはフレキソインキを使用することで課題解決できることを見出し、本願発明を成すに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、水性ポリウレタン樹脂をバインダー樹脂として含有する、水性グラビアまたはフレキソインキであって、
前記水性ポリウレタン樹脂が、ポリエーテルポリオール由来の構成単位を含有し、前記ポリエーテルポリオールの分子量分布(Mw/Mn)が、2.2~4であり、前記水性ポリウレタン樹脂の酸価が、15~60mgKOH/gである、水性グラビアまたはフレキソインキに関する。
【0010】
また、本発明は、ポリエーテルポリオールが、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールより選ばれる少なくとも一種を含有する、上記水性グラビアまたはフレキソインキに関する。
【0011】
また、本発明は、ポリエーテルポリオールが、バイオマス由来ジオールに由来する構成単位を含有する、上記水性グラビアまたはフレキソインキに関する。
【0012】
また、本発明は、水性ポリウレタン樹脂の重量平均分子量が、25000~70000である、上記水性グラビアまたはフレキソインキに関する。
【0013】
また、本発明は、水性ポリウレタン樹脂が、水性ポリウレタン樹脂総質量中に、ポリエーテルポリオール由来の構成単位を10~90質量%含む、上記水性グラビアまたはフレキソインキに関する。
【0014】
また、本発明は、更に、アセチレングリコール系化合物および/またはスチレンマレイン酸系化合物を含む、上記水性グラビアまたはフレキソインキに関する。
【0015】
また、本発明は、基材1上に上記水性グラビアまたはフレキソインキからなる印刷層を有する印刷物に関する。
【0016】
また、本発明は、上記印刷物の印刷層上に、接着剤層および基材2を順次有する積層体に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、印刷時の版カブリ性やレベリング性が良好であり、印刷層の耐ブロッキング性が良好であり、積層体でのラミネート強度が良好である水性グラビアまたはフレキソインキを提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下において、本発明の構成要件および実施形態を詳細に説明するが、これら形態は発明における一例であり、趣旨を損なわない限りこれら記載に限定されない。また、特に断らない限り、「%」、「部」は、それぞれ、「質量%」、「質量部」を表す。
【0019】
以下、本発明の水性グラビアまたはフレキソインキについて説明する。
【0020】
本発明は、水性ポリウレタン樹脂を含むバインダー樹脂を有する、水性グラビアまたはフレキソインキである。ラミネート用としての使用形態であることが好ましい。
当該ポリウレタン樹脂は分子量分布が2.2~4のポリエーテルポリオールを含有することで、バインダー樹脂としての適切な硬さと柔軟性を付与し、ラミネート強度や耐ブロッキング性等の特性向上に寄与するだけでなく、ポリウレタン樹脂の水への溶解性も良好となり、印刷適性のうち版カブリ性等が向上する。さらに、植物由来のバイオマス原料を構成単位とするポリエーテルポリオールを使用することで、環境保全としても寄与する。
【0021】
上記ポリウレタン樹脂の酸価は15~60mgKOH/gであり、好ましくは20~55mgKOH/gであり、より好ましくは25~50mgKOH/gであり、更に好ましくは25~45mgKOH/gである。上記範囲内であれば、酸性官能基が塩基で中和されることで、水への分散性及び溶解性が十分となり、インキの貯蔵安定性が得られるとともに、顔料分散性及び再溶解性にも優れ、さらにバインダーとして用いた場合のインキ皮膜の耐水性を確保することができる。なお、酸価は、酸をアルカリで滴定して算出した樹脂1g中の酸量を、水酸化カリウムのmg数に換算した値で、JISK0070に従って測定した値である。
【0022】
上記ポリウレタン樹脂の水酸基価は0.1~30mgKOH/gであることが好ましく、1~25mgKOH/gであることが好ましい。水性ポリウレタン樹脂の水への溶解性、印刷層の耐水性、更には基材密着性が良好となるためである。なお、水酸基価は、樹脂中の水酸基をエステル化またはアセチル化し、残存する酸をアルカリで逆滴定して算出した樹脂1g中の水酸基量を、水酸化カリウムのmg数に換算した値で、JISK0070に従って行った値である。
【0023】
なお本明細書において「グラビアまたはフレキソインキ」を単に「インキ」または「印刷インキ」と表記する場合があるが同義である。「水性ポリウレタン樹脂」は単に「ポリウレタン樹脂」「ウレタン樹脂」と表記する場合があるが同義である。
【0024】
<バインダー樹脂>
バインダー樹脂とはグラビアまたはフレキソインキにおける結着樹脂成分をいう。バインダー樹脂はインキ総質量中に2~25質量%含有することが好ましく、4~20質量%含有することが好ましい。
【0025】
(水性ポリウレタン樹脂)
本発明において、水性ポリウレタン樹脂は、分子量分布が2.2~4のポリエーテルポリオール由来の構成単位を有する。
本発明におけるポリウレタン樹脂はバインダー樹脂として機能する。ポリウレタン樹脂の重量平均分子量は10000~100000であることが好ましく、より好ましく25000~70000である。重量平均分子量が10000~100000の範囲内であると、ラミネート強度が向上傾向にある。
【0026】
本発明におけるポリウレタン樹脂のバイオマス度はカーボンニュートラルという概念から、水性ポリウレタン樹脂のバイオマス度(後述)は、ポリウレタン樹脂総質量中に30質量%以上含有することが好ましく、40質量%以上含有することがなお好ましく、60質量%以上含有することが更に好ましい。また、本発明におけるポリウレタン樹脂を含むインキの不揮発分中のバイオマス度、すなわち印刷層のバイオマス度は、5質量%以上であることが好ましく、7質量%以上であることが好ましく、10質量%であることがなお好ましい。
【0027】
本発明における水性ポリウレタン樹脂は、ポリオールと、ポリヒドロキシカルボン酸およびポリイソシアネートとを縮合反応させてなるポリウレタン樹脂や、ポリオール、ポリヒドロキシカルボン酸と、ポリイソシアネートとの縮合反応物である末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、ポリアミンとの反応(鎖延長という)により得られるポリウレタン樹脂(ポリウレタンウレア樹脂)が好ましい。なお、ポリオール、ポリイソシアネートおよびポリアミンの少なくともいずれかがバイオマス由来成分を含むことが好ましい。
【0028】
この様な水性ポリウレタン樹脂は、例えばWO2018/199085号パンフレット、特開2018-131624号公報に記載の方法で製造をすることができ、上記ポリオール、ポリヒドロキシカルボン酸およびポリイソシアネートおよびポリアミンの残基が、縮合反応後、水性ポリウレタン樹脂の構成単位となる。
【0029】
上記ポリオールは、分子量分布が2.2~4のポリエーテルポリオールを含有する。ポリオールの数平均分子量が400~10000であることが好ましい。なお、ポリオール中、ポリエーテルポリオールを50~100質量%含有することが好ましく、70~98質量%含有することがなお好ましい。なおポリオールは、後述のポリヒドロキシカルボン酸である場合を含まない。
更に、上記ポリエーテルポリオール以外のポリオールを併用してもよい。かかるポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールおよびポリオレフィンポリオールなどが挙げられる。これらは原料ポリオール総量中、0~50質量%で使用することが好ましい。
【0030】
(ポリエーテルポリオール)
上記水性ポリウレタン樹脂は、分子量分布(Mw/Mn)が2.2~4のポリエーテルポリオールに由来する構成単位を含有する。含有量としては、ポリウレタン樹脂総質量中、10~90質量%であることが好ましく、25~85質量%であることがなお好ましく、40~80質量%であることが更に好ましく、50~80質量%であることが特に好ましい。上述したようにポリエーテルポリオールの分子量分布が2.2~4のポリエーテルポリオールを含有することで、印刷時の版カブリ性やラミネート強度等の塗膜物性が良好となる。当該ポリエーテルポリオールは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールより選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましく、二種であることがなお好ましい。当該ポリエーテルポリオールは、単独または2種以上を混合して用いることができ、なおこれらは共重合されたポリエーテルポリオールであってもよいし、単独のポリエーテルポリオールを併用した形態であってもよい。水性ポリウレタン樹脂は総質量中にエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオールより選ばれる少なくとも一種に由来する構成単位を有するポリエーテルポリオールを10~90質量%含有することが好ましく、さらに好ましくは40~80質量%である。
なお上記以外のポリエーテルポリオールを併用することも可能である。例えば、酸化メチレン、1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオールなどの重合体または共重合体が挙げられる。
【0031】
なお、市販のポリエーテルポリオールの分子量分布(Mw/Mn)は、2.0以下の狭いものが多いが、当該分子量分布が2.2~4のポリエーテルポリオールは、その重合方法を適切に選択することで得られる。重合方法として好ましくは、ジオールの縮合重合であり、例えば、特表2013-515144に記載の方法などが好適に挙げられる。縮合重合において、反応温度としては120~220℃であることが好ましい。撹拌速度としては、100~450rpmであることが好ましい。触媒としては、硫酸、1,1,2,2-テトラフルオロエタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸その他の酸性触媒を使用することが好ましい。これらの反応条件を組み合わせて分子量分布を任意に調整することができる。
なお、当該ジオールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールなどが好適に挙げられ、バイオマス由来であることが好ましい。また、当該ポリエーテルポリオールの数均分子量は、500~10000であることが好ましく、800~6000であることがなお好ましい。なお、数平均分子量および分子量分布(Mw/Mn)はゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)による測定値である。
【0032】
(ポリヒドロキシカルボン酸)
本発明の水性ポリウレタン樹脂で用いるポリヒドロキシカルボン酸としては、例えば、2,2-ジメチロールプロパン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロール吉草酸等のジメチロールアルカン酸等が挙げられ、これらの1種以上を組み合わせて使用してもよい。なかでも、他のウレタン原料との相溶性及び反応性から、2,2-ジメチロールプロパン酸、及び/又は、2,2-ジメチロールブタン酸を用いることが好ましい。なお、ポリヒドロキシカルボン酸は、水性ポリウレタン樹脂の製造時に、当該水酸基はポリイソシアネートと反応してウレタン結合となるが、当該カルボキシル基はイソシアネート基とは難反応性なのでそのほとんどはカルボキシル基のままであり、水性ポリウレタン樹脂において中和され、水性化されるための酸価となる。
【0033】
(ポリイソシアネート)
本発明におけるポリイソシアネートとしてはジイソシアネートが好ましく、かかる化合物としては、芳香族、脂肪族または脂環族の各種公知のジイソシアネートを使用することができる。例えば、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4、4’-ジベンジルイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ブタン-1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、m-テトラメチルキシリレンジイソシアネートやダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート等が代表例として挙げられる。これらは単独または2種以上を混合して用いることができる。中でもイソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましく、溶解性の観点からイソホロンジイソシアネートがさらに好ましい。
【0034】
上記水性ポリウレタン樹脂はポリアミンにより鎖延長されてウレア結合を有することが好ましい。ウレア結合を有する水性ポリウレタン樹脂は例えば、少なくとも脂肪族ポリカーボネートポリオールを含有するポリオール、ポリヒドロキシカルボン酸およびポリイソシアネートの反応物として、末端にイソシアネート基を含有するウレタンプレポリマーをあらかじめ製造しておき、更にポリアミンにより鎖延長させることで製造できる。
【0035】
(ポリアミン)
当該ポリアミンは、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジアミン、さらにダイマー酸のカルボキシル基をアミノ基に転化したダイマージアミン、2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等を用いることができ、好ましくは水酸基を有するポリアミンである。水酸基を有することで、水への溶解性を上げることができる。これらは単独または2種以上を混合して用いることができる。さらに好ましくは、イソホロンジアミン、及び2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン(2-アミノエチルエタノールアミン)である。
【0036】
ポリアミンを用いた鎖延長反応には、モノアミンを反応停止剤として使用してもよい。反応停止剤としては、例えばジブチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミンなどのジアルキルアミン類などの他、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、トリ(ヒドロキシメチル)アミノメタン、等の水酸基を有するアミン類も用いることができる。
【0037】
上記水性ポリウレタン樹脂はインキ総質量中に5~18質量%含有することが好ましく、5~15質量%含有することがなお好ましい。
【0038】
(媒体)
本実施形態における水性インキは液状媒体として水を含有するが、アルコ-ル系、ケトン系、及びエステル系等の有機溶剤を含んでもよく、環境対応の点からはアルコール系有機溶剤が好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-ブタノール、2-メチル-2-プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールなどが挙げられ、中でもn-プロパノール、及び/またはイソプロピルアルコールが好ましい。有機溶剤はインキ総質量中に25質量%以下で含有することが好ましく、10質量%以下で含有することがなお好ましい。
【0039】
(着色剤)
本発明の水性インキは、着色剤が配合されていてもよい。本発明の水性インキに必要とされる機能を有するために配合される着色剤としては、一般のインキ、塗料、および記録剤などに使用されている有機、無機顔料や染料を挙げることができる。有機顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、ペリレン系、ペリノン系、キナクリドン系、チオインジゴ系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、アゾメチンアゾ系、ジクトピロロピロール系、イソインドリン系などの顔料が挙げられる。無機顔料としては、カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化クロム、シリカ、ベンガラ、アルミニウム、マイカ(雲母)などが挙げられる。白インキには酸化チタン、墨インキにはカーボンブラック、金、銀インキにはアルミニウム、パールインキにはマイカ(雲母)を使用することがコストや着色力の点から好ましい。
【0040】
着色剤はインキの濃度・着色力を確保するのに充分な量、すなわちインキの総質量に対して1~50質量%の割合で含まれることが好ましい。また、着色剤は単独または2種以上を混合して用いることができる。
【0041】
(添加剤)
本実施形態における水性インキは、必要に応じて消泡剤、増粘剤、レベリング剤、顔料分散剤、硬化剤及び紫外線吸収剤等の公知の添加剤を含むことができる。
【0042】
顔料を水性媒体中に安定に分散させるには、本発明の水性ポリウレタン樹脂単独でも分散可能であるが、さらに顔料を安定に分散するため分散剤を併用することもできる。分散剤としては、アニオン性、ノニオン性、カチオン性、両イオン性などの界面活性剤を使用することができる。分散剤は、インキの保存安定性の観点からインキの総質量に対して0.05質量%以上、ラミネート強度の観点から5質量%以下でインキ中に含まれることが好ましく、さらに好ましくは、0.1~2質量%の範囲である。
【0043】
本発明において水性グラビアまたはフレキソインキは、顔料分散性の観点から、アセチレングリコール系化合物および/またはスチレンマレイン酸系化合物を含むことが好ましい。
【0044】
(アセチレングリコール系化合物)
本発明の水性インキは、さらに、アセチレングリコール系化合物が配合されていてもよい。
当該アセチレングリコール系化合物はアセチレン基を中央に持ち、左右対称の構造をした非イオン性化合物であり、界面活性剤である。アセチレングリコール系化合物は、エチレンオキサイド付加物であることがさらに好ましい。アセチレングリコール系化合物と、本発明の水性ポリウレタン樹脂と併用すれば、レベリング性・版カブリ性の向上に寄与する。アセチレングリコール系化合物の添加量は、インキ100質量%中に0.1~5質量%であることが好ましく、0.3~3質量%であることがなお好ましい。アセチレングリコール系化合物の市販品としては日信化学工業社製オルフィンE1010、オルフィンE1020、エアープロダクツアンドケミカルズ社製サーフィノール104、サーフィノール420、サーフィノール440、サーフィノール465、サーフィノール485等が挙げられる。
【0045】
(スチレンマレイン酸系化合物)
本発明の水性インキは、さらに、スチレンマレイン酸系化合物が配合されていてもよい。
スチレンマレイン酸系化合物と、本発明の水性ポリウレタン樹脂と併用すれば、レベリング性・版カブリ性が向上する。スチレンマレイン酸系化合物としては、スチレンとマレイン酸が共重合した水性樹脂であればよく、例えば、スチレンマレイン酸モノブチルエステルコポリマーなどが挙げられる。スチレンマレイン酸系化合物の添加量は、インキ100質量%中、0.1~3質量%であることが好ましい。0.1~2質量%であることがなお好ましい。
【0046】
(硬化剤)
本発明の水性グラビアまたはフレキソインキには、水性ポリウレタン樹脂に対して硬化剤を用いて架橋させることで基材への密着性向上、ラミネート強度、耐水性向上させることができる。当該水性ポリウレタン樹脂はカルボキシル基を有するので、硬化剤としてはヒドラジン系化合物、カルボジイミド化合物またはエポキシ化合物を使用することが好ましい。
ヒドラジン系化合物としてはアジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドその他のジヒドラジド化合物が好ましい。
カルボジイミド化合物とは、カルボジイミド基を有する化合物であり、例えば日清紡社製カルボジライトE-02、E-03A、SV-02、V-02、V02-L2、V-04等が挙げられる。
エポキシ化合物とはエポキシ基を有する化合物をいい、例えばADEKA社製アデカレジンEP-4000、EP-4005、7001などの脂環式エポキシが挙げられる。
当該硬化剤はインキ総質量中に、0.05~5質量%で使用することが好ましく、0.1~3質量%で使用することがより好ましい。
【0047】
(その他樹脂)
また、本発明の趣旨を損なわない範囲で上記水性ポリウレタン樹脂以外の水性樹脂を、インキのバインダー樹脂として含んでもよい。当該樹脂としては、例えば、上記水性ポリウレタン樹脂以外の従来の水性ポリウレタン樹脂や、水性ポリエステル樹脂、水性アクリル樹脂、水性スチレン-アクリル樹脂、水性ロジン変性マレイン酸樹脂、水性セルロース系樹脂、水性塩化ビニル共重合樹脂及び水性塩素化ポリオレフィン等の水性樹脂が挙げられ、これらの複数種を併用することもできる。
【0048】
(水性グラビアまたはフレキソインキの製造)
水性グラビアまたはフレキソインキの製造方法は、特に限定されないが、配合成分を、例えばボールミル、アトライター、又はビーズミル等を使用して混合または分散することにより、好ましく製造できる。例えば、顔料、水性ポリウレタン樹脂、および水をディスパーで20分程度混合したのち、サンドミルその他のビーズミルを用いて10分程度分散することで製造できる。
【0049】
前記方法で製造された水性インキのインキ粘度は、顔料の沈降を防ぎ、適度に分散させる観点から10mPa・s以上、インキ製造時や印刷時の作業性効率の観点から1000mPa・s以下の範囲であることが好ましい。尚、上記粘度はトキメック社製B型粘度計で25℃において測定された粘度である。
【0050】
(印刷物)
本実施形態における印刷物は、基材1であるプラスチック基材の表面に、上述の水性インキを用いて形成される印刷層を有するものである。目的とする印刷物に応じて、グラビア印刷法またはフレキソ印刷法のどちらの版方式にも用いることができる。
【0051】
本明細書において「ラミネート用」とは、基材1、本発明の水性グラビアまたはフレキソインキにより形成された印刷層、および、基材2を順次有する積層体としての使用形態を意味し、印刷層と基材2の間に接着剤層を有することも好ましい。
【0052】
(基材1)
基材の種類及び厚み等は特に限定されないがプラスチックのフィルム状であることが好ましく、基材の種類としては、ポリエステル系基材、ナイロン(ポリアミド)基材、及びポリオレフィン基材、並びにこれらの金属酸化物の蒸着物等が挙げられる。ポリオレフィン基材の場合、水酸基又はカルボニル基等の官能基を有するコロナ放電処理ポリオレフィン基材を用いると、良好な印刷物を得ることができる。プラスチック基材としては1軸もしくは2軸延伸された基材であることが好ましい。印刷物は常時巻取り物として扱われ、必要に応じてその後ラミネート工程、スリット工程等を経て特定のサイズにカットされる。
【0053】
(基材2)
基材2としては、基材1と同一でも異なっていてもよく、熱可塑性(ヒートシール性)を有することが好ましい。たとえば、未延伸ポリオレフィン基材が挙げられる。
【0054】
本実施形態におけるプラスチック基材印刷物の製造方法は、巻取りプラスチック基材の表面に、上述の水性インキを用いて印刷することを含むものである。印刷後は、ラミネート、スリット(幅部分の不要部をカット)、製袋(切り取ってヒートシールして袋にする)等の工程を行うことができる。
【0055】
グラビア印刷法またはフレキソ印刷法は両者ともに印刷は巻き取り方式であり、高速印刷が可能であり、生産性に優れる。
グラビア印刷は、通常、円筒状のシリンダーの周面に絵柄及び/又は文字などを表現するセル(凹部)を設けたグラビア版を用い、このセルに印刷インキが充填され、被印刷体(プラスチック基材)をグラビア版と圧胴との間を圧接通過させることにより、前記セルに充填した印刷インキを被印刷体に転移させて、被印刷体に絵柄及び/又は文字などを再現する印刷方式である。
フレキソ印刷では、印刷インキを溜める容器からインキを直接、又はインキ供給用ポンプ等を介して、表面に凹凸形状を有するアニロックスローラに供給し、このアニロックスローラに供給されたインキが、版面の凸部との接触により版面に転移し、さらに版面とプラスチック基材との接触により最終的にプラスチック基材に転移して、絵柄及び/又は文字が形成される。
【0056】
プラスチック基材は巻取方式であるため規定の幅に揃えられたロール状のものである。従って、1枚1枚が予め切り離されている枚葉紙とは異なる。基材の幅は、使用する印刷機の版幅、及びグラビア版の画像(絵柄)部分の幅を基準として適宜選択される。複数色の印刷インキを重ねて印刷する場合、当該インキはそれらの印刷の順番について特に限定されない。
【0057】
グラビア印刷及びフレキソ印刷方式において印刷を行う場合、裏刷りの場合では巻取りプラスチック基材に、先に色インキを印刷し、次に白インキを印刷するのが一般的である。色インキが複数色の場合、例えばブラック、シアン、マゼンタ、及びイエローの順に印刷することができるが、特に制限されるものではない。なお、大型印刷機では更に、前記基本色に加えて特色等を用いることができる。すなわち、大型印刷機には5~10色に対応する複数の印刷ユニットがあり、1印刷ユニットには1色のインキが備えられ、5~10色の重ね印刷を一度に行うことができる。
【0058】
(積層体)
本発明における積層体は、上記印刷物の印刷層上に、更にラミネート工程を経て得ることができる。印刷層上にアンカーコートまたは接着剤等を塗布し、乾燥後、基材2と貼り合せることで得られる。当該基材2は上記の基材1と同一でもよいし、異なっていてもよい。なお当該積層体において水性グラビアまたはフレキソインキからなる印刷層は中間層(例えば、基材1/印刷層/接着剤層/基材2)として位置する。
【0059】
上記ラミネ-トの方法としては、1)得られた印刷物の印刷層上に、必要に応じてアンカーコート剤を塗布後、溶融樹脂および基材2をこの順に積層する押し出しラミネート法、又は、2)得られた印刷物の印刷層上に、接着剤を塗布後、必要に応じて乾燥させ、基材2を積層するドライラミネート法等が挙げられる。溶融樹脂としては、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、及びエチレン-酢酸ビニル共重合体等が使用でき、接着剤としてはイミン系、イソシアネート(ウレタン)系、ポリブタジエン系、及びチタネート系等が挙げられる。
【0060】
ラミネートされた積層体は、包装材料として好ましく使用することができ、一般の包装材料のほか、特には食品用途の包装材料として好適に用いられる。
【実施例
【0061】
以下、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明の技術的思想を逸脱しない限り、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。また、本発明における部および%は、特に注釈のない場合、質量部および質量%を表す。
【0062】
(重量平均分子量、数平均分子量、分子量分布)
重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、および分子量分布(Mw/Mn)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定を行い、ポリスチレンを標準物質に用いた換算分子量として求めた。測定条件を以下に示す。
GPC装置:昭和電工社製 Shodex GPC-104
カラム:下記カラムを直列に連結して使用した。
昭和電工社製 Shodex LF-404 2本
昭和電工社製 Shodex LF-G
検出器:RI(示差屈折計)
測定条件:カラム温度40℃
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:0.3mL/分
【0063】
(水酸基価および酸価)
JISK0070に記載の方法に従って求めた。
【0064】
[合成例a~h]
(ポリエーテルポリオールE1~E7並びにF2)
表1に記載の原料を用いて、特表2013-515144の実施例に記載の方法に従い、表1に記載のポリエーテルポリオールE1~E7並びにF2を合成した。バイオマス度、数平均分子量Mn、および分子量分布Mw/Mnを表1に示した。なお表1中の略称は以下を示す。
PEG:ポリエチレングリコール
PPG:ポリプロピレングリコール
PTMG:ポリテトラメチレングリコール
PPD:ポリトリメチレングリコール
PTG2000SN:保土谷化学社製 ポリテトラメチレングリコール
【0065】
【表1】
【0066】
[合成例1](ポリウレタン樹脂P1の合成)
還流冷却管、滴下漏斗、ガス導入管、撹拌装置、及び温度計を備えた反応器中で窒素ガスを導入しながら、ポリエーテルポリオールE1を255.2部、2,2-ジメチロールブタン酸(DMBA)33.3部、及びメチルエチルケトン(MEK)200部を混合、撹拌しながらイソホロンジイソシアネート(IPDI)71.5部と2-エチルヘキサン酸すず(II)0.2部を添加し、90℃で7時間反応させて、末端水酸基の溶剤型ウレタン樹脂溶液を得た。次に、イソプロパノール(IPA)120部を70℃で徐々に添加して希釈し、25%アンモニア水15.3部及びイオン交換水904.7部を徐々に添加して中和することにより水溶化し、さらにMEK及びIPAを減圧留去した後、水を加えて固形分調整を行い、固形分30%の水性ポリウレタン樹脂P1溶液を得た。水性ポリウレタン樹脂P1の酸価、水酸基価および重量平均分子量等の値は表2に記載した。
【0067】
[合成例2~15、比較合成例1~4](ポリウレタン樹脂P2~P15、PP1~PP4の合成)
表2に記載の原料およびの仕込み比率を用いた以外は、合成例1と同様の操作で、ポリウレタン樹脂P2~P15、PP1~PP4を得た。樹脂物性等を同表に示した。
【0068】
[合成例16](ポリウレタン樹脂P16の合成)
還流冷却管、滴下漏斗、ガス導入管、撹拌装置、及び温度計を備えた反応器中で窒素ガスを導入しながら、ポリエーテルポリオールE1を233.7部、DMBA33.3部、及びメMEK200部を混合、撹拌しながらIPDI90.3部を1時間かけて滴下し、80℃で4時間反応させて末端イソシアネートプレポリマーとし、末端イソシアネートプレポリマー溶液を得た。得られた末端イソシアネートプレポリマーに対し、2-アミノエチルエタノールアミン(AEA)2.7部及びIPA150部を混合したものを室温で徐々に添加して、40℃で2時間反応させ、溶剤型ポリウレタン樹脂溶液を得た。次に、25%アンモニア水15.3部及びイオン交換水824.7部を上記溶剤型ポリウレタン樹脂溶液に徐々に添加して中和することにより水溶化し、さらにMEK及びIPAを減圧留去した後、水を加えて固形分調整を行い、固形分30%の水性ポリウレタン樹脂P16溶液を得た。水性ポリウレタン樹脂P16の酸価、水酸基価および重量平均分子量等の値は表2に記載した。
【0069】
【表2】
【0070】
[合成例17~19](ポリウレタン樹脂P17~19の合成)
表2に記載の原料およびの仕込み比率を用いた以外は、合成例16と同様の操作で、ポリウレタン樹脂P17~P19を得た。バイオマス度、樹脂物性等を同表に示した。
なお、表1中に記載の略称は以下を表す。
・ PMPA:メチルペンタンジオールアジペート
・ DMPA:2,2-ジメチロールプロパン酸
・ PDIA:N,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)アニリン
・ CHDM:1,4-シクロヘキサンジメタノール
・ 1,3-PD:1,3-プロパンジオール
・ IPDA:イソホロンジアミン
【0071】
[実施例1](藍色印刷インキS1の製造)
銅フタロシアニン藍(トーヨーカラー社製 フタロシアニン顔料 リオノールブルーFG-7330)15.0部、ポリウレタン樹脂P1溶液(固形分30%)を30.0部、消泡剤0.1部、n-プロピルアルコール(NPA)5.0部、水9.9部を撹拌混合しサンドミルで練肉した後、ポリウレタン樹脂溶液P1(固形分30%)10.0部、SM系樹脂(スチレンマレイン酸系樹脂、固形分22.5%、分子量17,000、酸化185mg/KOH)を1.0部、サーフィノール420(アセチレングリコール系化合物 エアープロダクツジャパン社製、固形分100%)を1.0部、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)0.2部、水27.8部を攪拌混合し、藍色印刷インキS1を得た。
【0072】
[実施例2~24、比較例1~4](藍色印刷インキS2~S24、SS1~SS4の製造)
表3に記載の原料および仕込み比率を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、藍色印刷インキS2~S24、SS1~SS4を得た。
【0073】
【表3】
【0074】
[実施例25](白色印刷インキS25の製造)
酸化チタン42.0部、ポリウレタン樹脂P1溶液(固形分30%)を30.0部、消泡剤0.1部、NPAを5.0部、水2.9部を撹拌混合しサンドミルで練肉した後、ポリウレタン樹脂溶液P1(固形分30%)3.4部、SM系樹脂を1.0部、サーフィノール420(エアープロダクツジャパン社製、固形分100%)を1.0部、ADHを0.2部、水14.4部を攪拌混合し、白色印刷インキS27を得た。
【0075】
[実施例26~48、比較例5~8](白色印刷インキS26~S48、SS5~SS8の製造)
表4に記載の原料および仕込み比率を用いた以外は、実施例25と同様の方法で、白色印刷インキS26~S48、SS5~SS8を得た。
【0076】
【表4】
【0077】
(実施例1の印刷物および積層体作製)
(インキS1を用いた印刷物1の作成)[OPP/印刷層]
グラビア印刷:上記で得られたインキS1を、水/n-プロパノール混合溶剤(質量比1/1)の混合溶剤を用いて、ザーンカップ#3(離合社製)で16秒になるように調整し、岩瀬印刷機械社製のグラビア印刷機を用い、プラスチック基材(ポリプロピレン(OPP) FOQ-AQ 膜厚20μm(フタムラ化学社製))に速度50m/minで印刷して60℃で乾燥し、印刷物を得た。版は、腐食250線版深15μmベタ版を用いた。本印刷物を用いてレベリング性評価を行った。
(インキS1を用いた積層体の作成)[OPP/印刷層/LLDPE]
上記OPP印刷物1の印刷層上に、イソシアネート系アンカーコート剤(東洋モ-トン株式会社製、EL557A/B)を塗工後、低密度ポリエチレンを溶融させて押し出し、更にプラスチック基材(未延伸ポリエチレン(LLDPE)基材 TUX-FCD 膜厚40μm)と貼りあわせてラミネート加工を行い、積層体1を得た。本積層体1を用いてラミネート強度評価を行った。
【0078】
(インキS1を用いた印刷物2の作成)[PET/印刷層]
プラスチック基材に(ポリエステル(PET) E5100 膜厚12μm(東洋紡績社製))を用い、上記と同様の操作を行い、印刷物2を得た。
(インキS1を用いた積層体の作成)[PET/印刷層/LLDPE]
上記PET印刷物2を用い、上記と同様の操作を行い、積層体2を得た。本積層体2を用いてラミネート強度評価を行った。
【0079】
(実施例2~48および比較例1~8の印刷物および積層体)
上記インキS2~S48(実施例)およびSS1~SS8(比較例)についてもS1と同様の手法にて印刷物および積層体を得た。
【0080】
[特性評価]
インキS1~S48(実施例)およびSS1~SS8(比較例)およびそれを使用した印刷物、積層体を用いて、以下に記載する方法により、版カブリ、加湿耐ブロッキング、ラミネート強度の評価を行った。
【0081】
[版カブリ性]
実施例および比較例で作製したインキを、版深度15μmのグラビア版、刃先厚み60μmのドクターブレード「Kセラミックドクター0.15×50 1460」(富士商興社製)を備えたグラビア輪転印刷機で、150m/分のシリンダー回転速度で60分間空転した後、厚さ12μmのコロナ放電処理ポリエステルフィルム「エステルフィルムE5100」(東洋紡績社製)のコロナ放電処理面に印刷速度150m/分で印刷、60℃の熱風で乾燥し、印刷物を得た。
評価基準を下記に示す。実用レベルは3~5である。
5:印刷物を10枚重ねても、非画像部にインキ由来の着色が見られない。
4:印刷物を10枚重ねると、非画像部にインキ由来の着色が見られる。
3:印刷物を5枚重ねると、非画像部にインキ由来の着色が見られる。
2:印刷物を1枚でも、非画像部にインキ由来の着色が見られる。
1:非画像部にインキ由来の着色多い。
【0082】
[レベリング性]
印刷物1[OPP/印刷層]について、レベリング性の評価を行った。評価基準を下記に示す。実用レベルは3~5である。
5:網点100%部に蛍光灯に透かしてもムラがない。
4:網点100%部に蛍光灯に透かして分かるムラがある。
3:網点100%部に台紙上で分かるムラがある。(藍インキでは白地の台紙、白インキでは黒字の台紙を使用する。)
2:網点90%部まで抜けが有りベタ形成が不十分で、100%部はベタ形成している。
1:網点100%部で抜けが有りベタ形成が不十分である。
【0083】
[加湿耐ブロッキング]
実施例および比較例で作製した印刷物1を、印刷層の面と、FOQ-AQ 膜厚20μmの非処理面を40℃、2kg/cm、80RH%の条件で12時間圧着させ、剥がした際の印刷層の剥がれの度合いを評価した。なお実用可能である評価は3以上である。
[評価基準]
5: 剥離はなく、抵抗も感じられない(良好)
4: 剥離はないものの、抵抗が感じられる(やや良好)
3: 20%未満の薄い剥離あり(実用可)
2: 20%以上薄い剥離および/または濃い剥離有り(やや不良)
1: 50%以上剥離有り(不良)
【0084】
[ラミネート強度]
実施例および比較例で作製した積層体について、幅15mmで裁断し、インキ面と溶融樹脂層の間で剥離させた際の剥離強度を、インテスコ製201万能引張り試験機を用いて測定した。評価基準を下記に示す。実用レベルは3~5である。
5:剥離強度が1.0N/15mm以上のもの。
4:剥離強度が0.7N/15mm以上、1.0N/15mm未満のもの。
3:剥離強度が0.5N/15mm以上、0.7N/15mm未満のもの。
2:剥離強度が0.3N/15mm以上、0.5N/15mm未満のもの。
1:剥離強度が0.3N/15mm未満のもの。
【0085】
評価結果を表3および4にまとめた。実施例1~48の水性印刷インキは、比較例1~8の水性印刷インキと比較して、版カブリ、加湿耐ブロッキング、ラミネート強度に優れたインキを提供することができた。
【0086】
[実施例49](フレキソ印刷による評価)
フレキソ版(感光性樹脂版 版厚1mm 版線数150線)及びアニロックスロールを具備したフレキソ印刷機にてフレキソ印刷法により印刷を行った以外は実施例1と同様の方法でインキS1に関する印刷物、積層体および包装袋を得た。更に上記と同様の特性評価を行ったところ、上記実施例1における評価結果と同一であった。
【0087】
以上の結果より、本発明の実施形態の水性グラビアまたはフレキソインキを用いれば、良好な印刷適性を示し、かつラミネート構成の積層体においては良好なラミネート強度や耐ブロッキング性を発現することが示された。