(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】車体構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/08 20060101AFI20231212BHJP
【FI】
B62D25/08 C
B62D25/08 L
(21)【出願番号】P 2020076644
(22)【出願日】2020-04-23
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】西田 健二
(72)【発明者】
【氏名】本田 正徳
(72)【発明者】
【氏名】氷室 雄也
【審査官】山本 賢明
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-206012(JP,A)
【文献】特開2010-083182(JP,A)
【文献】特開2019-177831(JP,A)
【文献】特開2007-145128(JP,A)
【文献】特開2018-069849(JP,A)
【文献】特開2004-276698(JP,A)
【文献】国際公開第2013/153872(WO,A1)
【文献】実開昭63-119178(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/08
B62D 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サスペンションが固定される上面部を有するサスペンションタワーと、
前記サスペンションタワーよりも車体における前後方向の端部側に位置する端部側骨格部材を有し、前記サスペンションタワーに連結されるとともに、前記車体の骨格をなす車体骨格部材と、
繊維強化樹脂製のバー部材を有し、前記サスペンションタワーと前記端部側骨格部材とに接続される補強部材と、
を備え、
前記サスペンションタワーは、前記車体の前部に設けられたフロントサスペンションタワーであり、
前記端部側骨格部材は、前記フロントサスペンションタワーの側方を前後方向に延び、少なくとも前端部が前記フロントサスペンションタワーよりも前記車体の前方側に位置するエプロンメンバであり、
前記補強部材は、長手方向の一端部が前記フロントサスペンションタワーの前記上面部に接続され、長手方向の他端部が前記エプロンメンバにおける前記前端部に接続されている、
車体構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車体構造において、
前記フロントサスペンションタワーは、前記車体の左方側に位置する左フロントサスペンションタワーと、前記車体の右方側に位置する右フロントサスペンションタワーと、を有し、
前記エプロンメンバは、前記車体の左方側に位置する左エプロンメンバと、前記車体の右方側に位置する右エプロンメンバと、を有し、
前記補強部材は、前記左フロントサスペンションタワーの前記上面部と前記左エプロンメンバの前記前端部とを接続する第1補強部材と、前記右フロントサスペンションタワーの前記上面部と前記右エプロンメンバの前記前端部とを接続する第2補強部材と、を有する、
車体構造。
【請求項3】
請求項1に記載の車体構造において、
前記フロントサスペンションタワーは、前記車体の左方側に位置する左フロントサスペンションタワーと、前記車体の右方側に位置する右フロントサスペンションタワーと、を有し、
前記エプロンメンバは、前記車体の左方側に位置する左エプロンメンバと、前記車体の右方側に位置する右エプロンメンバと、を有し、
前記補強部材は、前記左フロントサスペンションタワーの前記上面部と前記右エプロンメンバの前記前端部とを接続する第1補強部材と、前記右フロントサスペンションタワーの前記上面部と前記左エプロンメンバの前記前端部とを接続する第2補強部材と、を有する、
車体構造。
【請求項4】
サスペンションが固定される上面部を有するサスペンションタワーと、
前記サスペンションタワーよりも車体における前後方向の端部側に位置する端部側骨格部材を有し、前記サスペンションタワーに連結されるとともに、前記車体の骨格をなす車体骨格部材と、
繊維強化樹脂製のバー部材を有し、前記サスペンションタワーと前記端部側骨格部材とに接続される補強部材と、
を備え、
前記サスペンションタワーは、前記車体の前部に設けられたフロントサスペンションタワーであり、
前記端部側骨格部材は、前記フロントサスペンションタワーよりも前記車体の前方側において、前記車体の左右方向に延び、下部に枠状のシュラウドを支持するシュラウドアッパメンバであり、
前記補強部材は、長手方向の一端部が前記フロントサスペンションタワーの前記上面部に接続され、長手方向の他端部が前記シュラウドアッパメンバに接続されている、
車体構造。
【請求項5】
請求項4に記載の車体構造において、
前記フロントサスペンションタワーは、前記車体の左方に位置する左フロントサスペンションタワーと、前記車体の右方に位置する右フロントサスペンションタワーと、を有し、
前記補強部材は、前記左フロントサスペンションタワーの前記上面部と前記シュラウドアッパメンバにおける前記左右方向の中央部または当該中央部よりも左方側の部分とを接続する第1補強部材と、前記右フロントサスペンションタワーの前記上面部と前記シュラウドアッパメンバにおける前記中央部または当該中央部よりも右方側の部分とを接続する第2補強部材と、を有する、
車体構造。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れかに記載の車体構造において、
前記バー部材は、中空構造であり
、当該バー部材が延びる方向に対して直交する方向での断面において、前記バー部材の外周壁に沿った部分に閉断面形状の内部閉断面部を有する、
車体構造。
【請求項7】
請求項1から請求項5の何れかに記載の車体構造において、
前記バー部材は、
当該バー部材が延びる方向である第1方向に対して直交する方向での断面における断面形状が溝型の部材であって、前記直交する方向での断面において、当該直交する方向に含まれる第2方向に延びるアウタ第1壁部と、前記第2方向に対して前記溝型内側の角度である内側角がそれぞれ鈍角をなし、且つ、前記アウタ第1壁部の側から当該アウタ第1壁部とは反対側
へと離れるに従って互いの間隔が拡がるようにそれぞれが延びるアウタ第2壁部およびアウタ第3壁部と、を有するアウタ部材と、
前記第2方向に延びるインナ第1壁部と、前記アウタ第2壁部および前記アウタ第3壁部のそれぞれに対して沿うように設けられたインナ第2壁部およびインナ第3壁部を有するインナ部材と、
を備え、
前記バー部材の内方には、前記アウタ第2壁部と前記インナ第2壁部とが面同士で接合され、前記アウタ第3壁部と前記インナ第3壁部とが面同士で接合されることで、閉断面形状の内部閉断面部を有する、
車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車体においては、繊維強化樹脂製の補強部材が車体の部位同士の間を架け渡すように取り付けられてなる構造が採用される場合がある。
【0003】
特許文献1には、炭素繊維強化樹脂製のバー部材を有するサスタワーバー(サスペンションタワーバー)を、フロントサスペンションタワー間に架け渡した構造が開示されている。特許文献1では、サスタワーバーを設けることにより、車両走行中におけるサスペンションを介してフロントサスペンションタワーから入力される引っ張り力や捩り力に対する強度が確保され、車体の変形が抑制される、とされている。
【0004】
特許文献2には、炭素繊維強化樹脂製のバー部材を有する補強部材を、フロアパネルの下側に取り付けた構造が開示されている。特許文献2では、補強部材を、サイドシルとトンネルフレームとの間、および左右のトンネルフレーム同士の間に取り付けることにより、振動減衰特性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-173546号公報
【文献】特開2017-061170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1,2の技術を始めとする従来技術には、より効率的に歪エネルギを吸収してフロア振動の減衰特性を向上させる、との観点から改善の余地がある。例えば、上記特許文献1に開示の技術では、フロントサスペンションタワー同士の間を架け渡すように補強部材が設けられているが、車両走行時により振動が大きい箇所の振動減衰を行うことが必要となる。
【0007】
また、上記特許文献2に開示の技術でも、フロアパネルの下側に補強部材を取り付けてフロア振動の減衰を図ろうとしているが、さらに振動減衰特性の向上を図ろうとする場合には十分とはいえない。
【0008】
本発明は、上記のような問題の解決を図ろうとなされたものであって、高効率に歪エネルギを吸収してフロア振動の減衰特性の更なる向上を図ることができる車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る車体構造は、サスペンションが固定される上面部を有するサスペンションタワーと、前記サスペンションタワーよりも車体における前後方向の端部側に位置する端部側骨格部材を有し、前記サスペンションタワーに連結されるとともに、前記車体の骨格をなす車体骨格部材と、繊維強化樹脂製のバー部材を有し、前記サスペンションタワーと前記端部側骨格部材とに接続される補強部材と、を備え、前記サスペンションタワーは、前記車体の前部に設けられたフロントサスペンションタワーであり、前記端部側骨格部材は、前記フロントサスペンションタワーの側方を前後方向に延び、少なくとも前端部が前記フロントサスペンションタワーよりも前記車体の前方側に位置するエプロンメンバであり、前記補強部材は、長手方向の一端部が前記フロントサスペンションタワーの前記上面部に接続され、長手方向の他端部が前記エプロンメンバにおける前記前端部に接続されている。
【0010】
上記態様に係る車体構造では、サスペンションタワーと端部側骨格部材とを補強部材で接続することとしているので、高効率に歪エネルギを吸収してフロア振動の減衰特性の更なる向上を図ることができる。これは、本願発明者等が行った鋭意研究の結果に基づくものである。即ち、本願発明者等は、車体構造における荷重入力位置と振動が大きな位置との関係について研究し、荷重入力点となるサスペンションタワーに対して、当該サスペンションタワーよりも車体の前後方向における端部側で大きな振動が発生することを究明した。本願発明者等は、得られた知見に基づき、荷重入力点であるサスペンションタワーと、荷重入力に対して大きく変位する端部側骨格部材(サスペンションタワーよりも車体前後方向の端部側に位置する骨格部材)と、を補強部材で連結することで高効率に歪エネルギを吸収できることを確認した。
【0011】
また、上記態様に係る車体構造では、補強部材に含まれるバー部材(長尺状の部材)を繊維強化樹脂製としているので、車体の重量増加を抑えながら、高効率に歪エネルギを吸収してフロア振動の減衰特性の更なる向上を図ることができる。
【0013】
また、上記態様に係る車体構造において、荷重入力点として車体のフロント部分におけるフロントサスペンションタワーを考える場合には、フロントサスペンションタワーよりも車体の前方側に位置するエプロンメンバの前端部に対して補強部材の他端部を接続することで、車体のフロント部分での歪エネルギを効率的に吸収することができる。
【0014】
上記態様に係る車体構造において、前記フロントサスペンションタワーは、前記車体の左方側に位置する左フロントサスペンションタワーと、前記車体の右方側に位置する右フロントサスペンションタワーと、を有し、前記エプロンメンバは、前記車体の左方側に位置する左エプロンメンバと、前記車体の右方側に位置する右エプロンメンバと、を有し、前記補強部材は、前記左フロントサスペンションタワーの前記上面部と前記左エプロンメンバの前記前端部とを接続する第1補強部材と、前記右フロントサスペンションタワーの前記上面部と前記右エプロンメンバの前記前端部とを接続する第2補強部材と、を有する、としてもよい。
【0015】
上記のように、第1補強部材で左フロントサスペンションタワーの上面部と左エプロンメンバの前端部とを接続し、第2補強部材で右フロントサスペンションタワーの上面部と右エプロンメンバの前端部とを接続することとすれば、左右のエプロンメンバ同士の間の領域を補強部材が横切らない。よって、上記のような構成を採用する場合には、車体のフロント部分(左右のエプロンメンバ同士の間の部分)にエンジンやモータなどが搭載される構成においても、当該エンジンやモータ、さらにはそれらの付属機器の搭載およびメンテナンス等に支障をきたし難い。
【0016】
上記態様に係る車体構造において、前記フロントサスペンションタワーは、前記車体の左方側に位置する左フロントサスペンションタワーと、前記車体の右方側に位置する右フロントサスペンションタワーと、を有し、前記エプロンメンバは、前記車体の左方側に位置する左エプロンメンバと、前記車体の右方側に位置する右エプロンメンバと、を有し、前記補強部材は、前記左フロントサスペンションタワーの前記上面部と前記右エプロンメンバの前記前端部とを接続する第1補強部材と、前記右フロントサスペンションタワーの前記上面部と前記左エプロンメンバの前記前端部とを接続する第2補強部材と、を有する、としてもよい。
【0017】
上記のように、第1補強部材で左フロントサスペンションタワーの上面部と右エプロンメンバの前端部とを接続し、第2補強部材で右フロントサスペンションタワーの上面部と左エプロンメンバの前端部とを接続することとすれば、車体のフロント部分を上方から平面視する場合に、第1補強部材と第2補強部材とが交差するように配されることとなり、車体のフロント部分での歪エネルギをさらに効率的に吸収することができる。
【0018】
本発明の別態様に係る車体構造は、サスペンションが固定される上面部を有するサスペンションタワーと、前記サスペンションタワーよりも車体における前後方向の端部側に位置する端部側骨格部材を有し、前記サスペンションタワーに連結されるとともに、前記車体の骨格をなす車体骨格部材と、繊維強化樹脂製のバー部材を有し、前記サスペンションタワーと前記端部側骨格部材とに接続される補強部材と、を備え、前記サスペンションタワーは、前記車体の前部に設けられたフロントサスペンションタワーであり、前記端部側骨格部材は、前記フロントサスペンションタワーよりも前記車体の前方側において、前記車体の左右方向に延び、下部に枠状のシュラウドを支持するシュラウドアッパメンバであり、前記補強部材は、長手方向の一端部が前記フロントサスペンションタワーの前記上面部に接続され、長手方向の他端部が前記シュラウドアッパメンバに接続されている。
【0019】
上記態様に係る車体構造では、サスペンションタワーと端部側骨格部材とを補強部材で接続することとしているので、高効率に歪エネルギを吸収してフロア振動の減衰特性の更なる向上を図ることができる。
また、上記態様に係る車体構造では、補強部材に含まれるバー部材(長尺状の部材)を繊維強化樹脂製としているので、車体の重量増加を抑えながら、高効率に歪エネルギを吸収してフロア振動の減衰特性の更なる向上を図ることができる。
また、上記態様に係る車体構造では、フロントサスペンションタワーの上面部とシュラウドアッパメンバとに対して補強部材を接続するので、入力荷重に対して車体前端部のシュラウドアッパメンバが大きく変位するのを補強部材の接続により抑えることができる。よって、上記態様に係る車体構造では、車体のフロント部分での歪エネルギをさらに効率的に吸収しフロア振動の減衰特性を向上させることができる。
【0020】
上記態様に係る車体構造において、前記フロントサスペンションタワーは、前記車体の左方側に位置する左フロントサスペンションタワーと、前記車体の右方側に位置する右フロントサスペンションタワーと、を有し、前記補強部材は、前記左フロントサスペンションタワーの前記上面部と前記シュラウドアッパメンバにおける前記左右方向の中央部または当該中央部よりも左方側の部分とを接続する第1補強部材と、前記右フロントサスペンションタワーの前記上面部と前記シュラウドアッパメンバにおける前記中央部または当該中央部よりも右方側の部分とを接続する第2補強部材と、を有する、としてもよい。
【0021】
上記のように、左フロントサスペンションタワーの上面部とシュラウドアッパメンバの中央部またはそれよりも左方側の部分とを第1補強部材で接続し、右フロントサスペンションタワーの上面部とシュラウドアッパメンバの中央部またはそれよりも右方側の部分とを第2補強部材で接続することとすれば、車体のフロント部分を上方から平面視する場合に、左エプロンメンバと第1補強部材とが平行にならず、右エプロンメンバと第2補強部材とが平行にならない。このため、上記の構成を採用する場合には、より効果的に車体のフロント部分の歪エネルギを吸収することができる。
【0028】
上記態様に係る車体構造において、前記バー部材は、中空構造であり、当該バー部材が延びる方向に対して直交する方向での断面において、前記バー部材の外周壁に沿った部分に閉断面形状の内部閉断面部を有する、としてもよい。
【0029】
上記のように、内部空間における外周壁に沿った部分に内部閉断面部を有することとすれば、重量増加を抑えながら、曲げ荷重の入力時における捩り剛性のコントロールがより確実に可能となる。よって、上記構成のバー部材を有する補強部材を採用する場合には、高い振動減衰特性を実現することができる。
【0030】
上記態様に係る車体構造において、前記バー部材は、当該バー部材が延びる方向である第1方向に対して直交する方向での断面における断面形状が溝型の部材であって、前記直交する方向での断面において、当該直交する方向に含まれる第2方向に延びるアウタ第1壁部と、前記第2方向に対して前記溝型内側の角度である内側角がそれぞれ鈍角をなし、且つ、前記アウタ第1壁部の側から当該アウタ第1壁部とは反対側へと離れるに従って互いの間隔が拡がるようにそれぞれが延びるアウタ第2壁部およびアウタ第3壁部と、を有するアウタ部材と、前記第2方向に延びるインナ第1壁部と、前記アウタ第2壁部および前記アウタ第3壁部のそれぞれに対して沿うように設けられたインナ第2壁部およびインナ第3壁部を有するインナ部材と、を備え、前記バー部材の内方には、前記アウタ第2壁部と前記インナ第2壁部とが面同士で接合され、前記アウタ第3壁部と前記インナ第3壁部とが面同士で接合されることで、閉断面形状の内部閉断面部を有する、としてもよい。
【0031】
上記のように、アウタ部材とインナ部材とを接合してバー部材を形成し、内方に内部閉断面部を有することとする場合には、重量増加を抑えながら、曲げ荷重の入力時における捩り剛性のコントロールが可能となる。よって、上記構成のバー部材を有する補強部材を採用する場合には、高い振動減衰特性を実現することができる。
【0032】
また、上記のように、アウタ第2壁部およびアウタ第3壁部が上記断面でアウタ第1壁部に対してなす上記内側角を鈍角とする場合には、アウタ部材に対してインナ部材を装着する際に、アウタ第2壁部とアウタ第3壁部との間隔が広い側(アウタ第1壁部の側とは反対側)からインナ部材を装着して行くこととなり、アウタ部材に対してインナ部材を容易に装着し接合することができる。よって、上記のような構成を採用する場合には、高い生産性を得ることができる。
【0033】
さらに、上記のように、アウタ第2壁部とインナ第2壁部とが面同士で接合され(面同士が当接または近接した状態で接合され)、アウタ第3壁部とインナ第3壁部とも面同士で接合され(面同士が当接または近接した状態で接合され)ているので、これらの接合時に例えば接着剤を用いるとした場合に、壁部同士の間でのせん断方向にかかる力を小さく抑えることができ、接着剤がこそぎ落とされ難い。この点からも、高い生産性をもって確実にアウタ部材とインナ部材とを接合してバー部材を形成することが可能である。
【発明の効果】
【0034】
上記の各態様に係る車体構造では、高効率に歪エネルギを吸収してフロア振動の減衰特性の更なる向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】第1実施形態に係る車体のフロント部分を示す斜視図である。
【
図4】第2実施形態に係る車体のフロント部分を示す平面図である。
【
図5】第3実施形態に係る車体のフロント部分を示す平面図である。
【
図6】第4実施形態に係る車体のリヤ部分を示す斜視図である。
【
図7】第5実施形態に係る車体のリヤ部分を示す斜視図である。
【
図8】変形例1に係るバー部材の構造を示す断面図である。
【
図9】変形例2に係る補強部材の構造を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下では、本発明の実施形態について、図面を参酌しながら説明する。なお、以下で説明の形態は、本発明を例示的に示すものであって、本発明は、その本質的な構成を除き何ら以下の形態に限定を受けるものではない。
【0037】
なお、以下の説明で用いる図において、「Fr」は車体前方、「Re」は車体後方、「Le」は車体左方、「Ri」は車体右方、「Up」は車体上方、「Lo」は車体下方をそれぞれ示す。
【0038】
[第1実施形態]
1.車体1におけるフロント部分の構成
図1は、本実施形態に係る車体1のフロント部分を示す斜視図である。
【0039】
図1に示すように、車体1は、エンジンおよびその付属機器を搭載するための空間であるエンジンルーム1aと、エンジンルーム1aよりも後方側に設けられた車室1bと、を備える。エンジンルーム1aと車室1bとの間には、左右方向に延びるダッシュパネル2が設けられている。ダッシュパネル2の上部には、カウルパネル3が設けられ、下部には、ダッシュクロスメンバ4が設けられている。
【0040】
エンジンルーム1aには、それぞれがダッシュパネル2の下部から前方に向けて延び、互いに左右方向に間隔を空けて配された左右一対のフロントサイドフレーム5が設けられている。左右一対のフロントサイドフレーム5のそれぞれに対しては、前方にクラッシュカン6が接合されている。左右のクラッシュカン6の前端部同士の間には、左右方向に延びるバンパビーム7が架け渡されている。
【0041】
ダッシュパネル2の上部側方からは、それぞれが前方に延び、互いに左右方向に間隔を空けて配されたエプロンメンバ8L,8Rが設けられている。左右のエプロンメンバ8L,8Rの前端部8La,8Ra同士の間には、左右方向に延びるシュラウドアッパメンバ9が架け渡されている。シュラウドアッパメンバ9の下部には、上下方向および左右方向に延びるシュラウド10が支持されている。シュラウド10は、ラジエータ(図示を省略。)を支持する枠状の部材である。
【0042】
左エプロンメンバ8Lの後部内側には、左フロントサスペンションタワー11Lが設けられている。右エプロンメンバRの後部内側には、右フロントサスペンションタワー11Rが設けられている。フロントサスペンションタワー11L,11Rのそれぞれは、下部にサスペンションが固定される上面部11La,11Raを有する。なお、以下では、左フロントサスペンションタワー11Lを「左Fサスペンションタワー11L」と記載し、右フロントサスペンションタワー11Rを「右Fサスペンションタワー11R」と記載する。
【0043】
ここで、本実施形態に係る車体1においては、エプロンメンバ8L,8Rおよびシュラウドアッパメンバ9がフロント部分の骨格をなす「骨格部材」に該当する。そして、本実施形態では、左エプロンメンバ8Lにおける左Fサスペンションタワー11Lよりも前方の部分が「端部側骨格部材」に該当し、右エプロンメンバ8Rにおける右Fサスペンションタワー11Rよりも前方の部分が「端部側骨格部材」に該当する。
【0044】
本実施形態に係る車体1のエンジンルーム1aでは、3本の補強部材12~14が設けられている。補強部材12~14の構造については、後述する。
【0045】
図1に示すように、補強部材12は、一端部が左Fサスペンションタワー11Lの上面部11Laに接続され(箇所P6)、他端部が右Fサスペンションタワー11Rの上面部11Raに接続されている(箇所P5)。補強部材13は、一端部が左Fサスペンションタワー11Lの上面部11Laに接続され(箇所P3)、他端部が左エプロンメンバ8Lの前端部8Laに接続されている(箇所P4)。なお、箇所P3は、左エプロンメンバ8Lの前端部8Laにおけるシュラウドアッパメンバ9との接合箇所またはその近傍箇所である。
【0046】
補強部材14は、一端部が右Fサスペンションタワー11Rの上面部11Raに接続され(箇所P1)、他端部が右エプロンメンバ8Rの前端部8Raに接続されている(箇所P2)。なお、箇所P2は、右エプロンメンバ8Rの前端部8Raにおけるシュラウドアッパメンバ9との接合箇所またはその近傍箇所である。
【0047】
2.補強部材12~14の構成
図2は、補強部材14の外観構成を示す斜視図である。
図3は、補強部材14におけるバー部材141の構成を示す模式図である。なお、
図2および
図3では、補強部材12~14のうちの補強部材14だけを図示し、以下でも補強部材14についてのみ説明するが、補強部材12,13についても同様の構成を有する。
【0048】
図2に示すように、補強部材14は、X方向に延びる長尺状のバー部材141と、バー部材141の一端部141aに接合された継手部材142と、バー部材141の他端部141bに接合された継手部材143と、を有する。本実施形態に係るバー部材141は、A部に示すように、中実の矩形断面形状を有する帯状の部材である。
【0049】
図3に示すように、バー部材141は、母材である樹脂1410と、強化繊維である炭素繊維1411とから構成されている。即ち、バー部材141は、繊維強化樹脂(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)を用いて形成された部材である。なお、炭素繊維1411は、主たる配向が長手方向に揃えられている。
【0050】
図2に戻って、継手部材142には、車体1を構成する部材との接続のためのボルトを挿通させる通し孔142aが設けられている。同様に、継手部材143にも、車体1を構成する部材との接続のためのボルトを挿通させる通し孔143aが設けられている。
【0051】
3.効果
本実施形態に係る車体1のフロント部分の構造では、Fサスペンションタワー11L,11Rとエプロンメンバ8L,8Rの前端部8La,8Ra(端部側骨格部材)とを補強部材13,14で接続することとしているので、高効率に歪エネルギを吸収してフロア振動の減衰特性の更なる向上を図ることができる。即ち、車体1のフロント部分において、荷重入力点となるFサスペンションタワー11L,11Rと、荷重入力に対して大きく変位するエプロンメンバ8L,8Rと、を補強部材13,14で連結することで高効率に歪エネルギを吸収することができる。
【0052】
また、本実施形態に係る車体1では、補強部材12~14に含まれる長尺状のバー部材141を繊維強化樹脂製としているので、車体1の重量増加を抑えながら、高効率に歪エネルギを吸収してフロア振動の減衰特性の更なる向上を図ることができる。
【0053】
また、本実施形態に係る車体1では、第1補強部材に該当する補強部材13で左Fサスペンションタワー11Lの上面部11Laと左エプロンメンバ8Lの前端部8Laとを接続し、第2補強部材である補強部材14で右Fサスペンションタワー11Rの上面部11Raと右エプロンメンバ8Rの前端部8Raとを接続しているので、左右のエプロンメンバ8L,8R同士の間の領域(エンジンルーム1a)を補強部材13,14が横切らない。よって、本実施形態に係る車体1のフロント部分では、エンジンルーム1aへのエンジンやその付属機器の搭載やメンテナンス等に支障をきたし難い。
【0054】
[第2実施形態]
1.車体50におけるフロント部分の構成
図4は、本実施形態に係る車体50のフロント部分を示す斜視図である。なお、
図4では、上記第1実施形態に係る車体1と同様の部材に対しては同じ符号を付し、重複する部分については以下での説明を省略する。
【0055】
図4に示すように、本実施形態に係る車体50のフロント部分には、補強部材12,15,16を有する。このうち、補強部材15は、一端部が左Fサスペンションタワー11Lの上面部11Laに接続され(箇所P9)、他端部が右エプロンメンバ8Rの前端部8Raに接続されている(箇所P10)。なお、箇所P10については、上記第1実施形態と同様に、右エプロンメンバ8Rの前端部8Raにおけるシュラウドアッパメンバ9との接合箇所またはその近傍箇所である。
【0056】
補強部材16は、一端部が右Fサスペンションタワー11Rの上面部11Raに接続され(箇所P7)、他端部が左エプロンメンバ8Lの前端部8Laに接続されている(箇所P8)。なお、箇所P8についても、左エプロンメンバ8Lの前端部8Laにおけるシュラウドアッパメンバ9との接合箇所またはその近傍箇所である。
【0057】
なお、本実施形態に係る車体50では、フロントスペース50aにエンジンや駆動用モータ等の搭載を行わない構成を想定している。例えば、リヤ部分にエンジンや駆動用モータ等を搭載する形態や、ホイールごとに駆動用モータを取り付ける形態などを想定している。このため、
図4に示す平面視で、フロントスペース50a上を交差するように補強部材15,16を設けることとしても問題を生じない。
【0058】
2.効果
本実施形態に係る車体50のフロント部分においても、荷重入力点となるFサスペンションタワー11L,11Rと、荷重入力に対して大きく変位するエプロンメンバ8L,8Rと、を補強部材15,16で連結することで高効率に歪エネルギを吸収することができる。
【0059】
また、本実施形態でも、補強部材15,16に含まれる長尺状のバー部材を繊維強化樹脂製としているので、車体50の重量増加を抑えながら、高効率に歪エネルギを吸収してフロア振動の減衰特性の更なる向上を図ることができる。
【0060】
さらに、本実施形態に係る車体50のフロント部分では、第1補強部材に該当する補強部材15で左Fサスペンションタワー11Lの上面部11Laと右エプロンメンバ8Rの前端部8Raとを接続し、第2補強部材に該当する補強部材16で右Fサスペンションタワー11Rの上面部11Raと左エプロンメンバ8Lの前端部8Laとを接続しているので、
図4のように車体50のフロント部分を上方から平面視する場合に、補強部材15と補強部材16とが互いに交差するように配され、当該フロント部分での歪エネルギを上記第1実施形態にも増して効率的に吸収することができる。
【0061】
[第3実施形態]
1.車体100におけるフロント部分の構成
図5は、本実施形態に係る車体100のフロント部分を示す斜視図である。なお、
図5でも、上記第1実施形態に係る車体1と同様の部材に対しては同じ符号を付し、重複する部分については以下での説明を省略する。
【0062】
図5に示すように、本実施形態に係る車体100のフロント部分には、補強部材12,17,18を有する。このうち、補強部材17は、一端部が左Fサスペンションタワー11Lの上面部11Laに接続され(箇所P13)、他端部がシュラウドアッパメンバ9における中央部よりも左寄りに位置する左中間部9aに接続されている(箇所P14)。補強部材18は、一端部が右Fサスペンションタワー11Rの上面部11Raに接続され(箇所P11)、他端部がシュラウドアッパメンバ9における中央部よりも右寄りに位置する右中間部9bに接続されている(箇所P12)。
【0063】
ここで、本実施形態に係る車体100では、シュラウドアッパメンバ9がFサスペンションタワー11L,11Rよりも車体100の前方側に位置する「端部側骨格部材」に該当する。
【0064】
なお、本実施形態では、補強部材17の他端部を接続する箇所P14をシュラウドアッパメンバ9の左中間部9aとし、補強部材18の他端部を接続する箇所P12をシュラウドアッパメンバ9の右中間部9bとしたが、これら接続箇所P12,P14をシュラウドアッパメンバ9における左右方向の中央部とすることや、シュラウドアッパメンバ9をエプロンメンバ8L,8Rとの各接合箇所により近い箇所とすることもできる。
【0065】
2.効果
本実施形態に係る車体100のフロント部分においても、荷重入力点となるFサスペンションタワー11L,11Rと、荷重入力に対して大きく変位するシュラウドアッパメンバ9と、を補強部材17,18で連結することで高効率に歪エネルギを吸収することができる。
【0066】
また、本実施形態でも、補強部材17,18に含まれる長尺状のバー部材を繊維強化樹脂製としているので、車体100の重量増加を抑えながら、高効率に歪エネルギを吸収してフロア振動の減衰特性の更なる向上を図ることができる。
【0067】
さらに、本実施形態に係る車体100のフロント部分では、左Fサスペンションタワー11Lの上面部11Laとシュラウドアッパメンバ9の左中間部9aとを第1補強部材に該当する補強部材17で接続し、右Fサスペンションタワー11Rの上面部11Raとシュラウドアッパメンバ9の右中間部9bとを第2補強部材に該当する補強部材18で接続しているので、車体100のフロント部分を上方から平面視する場合に、左エプロンメンバ8Lと補強部材17とが平行にならず、右エプロンメンバ8Rと補強部材18とが平行にならない。このため、本実施形態に係る車体100では、より高効率にフロント部分の歪エネルギを吸収することができる。
【0068】
なお、本実施形態では、補強部材17の他端部を接続する箇所P14をシュラウドアッパメンバ9の左中間部9aとし、補強部材18の他端部を接続する箇所P12をシュラウドアッパメンバ9の右中間部9bとしているので、
図5に示す上方からの平面視で、補強部材17,18がエンジンルーム100aの上を横切る領域を小さく抑えることができ、エンジンや駆動用モータ、さらには付属機器の搭載およびメンテナンスを良好なものとすることができる。
【0069】
[第4実施形態]
1.車体150におけるリヤ部分の構成
図6は、本実施形態に係る車体150のリヤ部分を示す斜視図である。なお、
図6では、車体150のリヤ部分のうち、右側部分だけを図示しているが、左側部分についても同様の構成を有する。
【0070】
図6に示すように、本実施形態に係る車体150は、ハッチバックタイプの車体を想定したものであり、リヤサイド開口部150cとリヤ開口部150dとを備える。リヤサイド開口部150cには、リヤドアが取り付けられる。リヤ開口部150dには、リヤハッチが取り付けられる。
【0071】
車体150のリヤ部分には、側方において前後方向に延びるリヤサイドフレーム19と、同じく側方において内方に膨らんだ状態で設けられたリヤサスペンションタワー20と、を備える。リヤサスペンションタワー20は、下部にサスペンション21が固定される上面部20aを有する。
【0072】
リヤ部分の下部におけるリヤサスペンションタワー20よりも前方側の部分には、左右方向に延びるフロアクロスメンバ22が設けられており、フロアクロスメンバ22の上部には、上下方向に延びるブレースメンバ23が設けられている。
【0073】
ブレースメンバ23は、上部でリヤサイドパネル24に接合されている。そして、リヤサイドパネル24の上部は、車体150の前後方向に延びるルーフサイドレール25に接合されてる。ルーフサイドレール25の後端部には、前方から後方に向けて斜め下方に延びるリヤピラー26が設けられている。
【0074】
リヤピラー26は、リヤ開口部150dの縁部に設けられた「骨格部材」であり、リヤ開口部150dの下縁部に設けられたリヤエンドクロスメンバ27に接合されている。なお、リヤピラー26は、リヤサスペンションタワー20よりも車体150の端部側に位置する骨格部材である「端部側骨格部材」に該当する。
【0075】
ここで、本実施形態に係る車体150では、リヤサスペンションタワー20とリヤピラー26との間が、連結部材28により連結されている。連結部材28は、金属板をプレス加工等により曲折してなる部材である。
【0076】
さらに、車体150のリヤ部分においては、リヤサスペンションタワー20の上面部20aとリヤピラー26との間が補強部材29によっても接続されている。具体的に、車体150のリヤ部分では、補強部材29の一端部がリヤサスペンションタワー20の上面部に接続され(箇所P15)、補強部材29の他端部がリヤピラー26に接続されている(箇所P16)。
【0077】
なお、補強部材29の構造については、上記第1実施形態に係る補強部材12~14と同じである。
【0078】
2.効果
本実施形態に係る車体150では、リヤサスペンションタワー20が荷重入力点になるものと考えられ、当該リヤサスペンションタワー20よりも車体150の後方側に位置する端部側骨格部材であるリヤピラー26に対して補強部材29の他端部を接続することで、車体150のリヤ部分での歪エネルギを効率的に吸収することができる。
【0079】
なお、リヤピラー26は車体150のリヤ開口部150dの縁部に設けられているため、リヤサスペンションタワー20から入力された荷重に対して大きく変位する端部側骨格部材である。
【0080】
本実施形態に係る車体150でも、補強部材29に含まれる長尺状のバー部材を繊維強化樹脂製としているので、車体150の重量増加を抑えながら、高効率に歪エネルギを吸収してフロア振動の減衰特性の更なる向上を図ることができる。
【0081】
[第5実施形態]
1.車体200におけるリヤ部分の構成
図7は、本実施形態に係る車体200のリヤ部分を示す斜視図である。なお、
図7では、上記第4実施形態に係る車体150と同様の部材に対しては同じ符号を付し、重複する部分については以下での説明を省略する。
【0082】
図7に示すように、本実施形態に係る車体200のリヤ部分には、補強部材30を有する。補強部材30は、一端部がブレースメンバ23に接続され(箇所P19)、他端部がリヤピラー26に接続され(箇所P18)、ブレースメンバ23との接続箇所P19よりも後方であってリヤピラー26よりも前方の箇所P17でリヤサスペンションタワー20の上面部20aに接続されている。
【0083】
ここで、本実施形態に係る車体200でも、リヤピラー26がリヤサスペンションタワー20よりも車体200の後方側に位置する「端部側骨格部材」に該当し、ブレースメンバ23が車体200の「骨格部材」に該当する。
【0084】
2.効果
本実施形態に係る車体200でも、リヤサスペンションタワー20が荷重入力点になるものと考えられ、リヤサスペンションタワー20の上面部20aと骨格部材に該当するブレースメンバ23とを補強部材30の前部30bで接続し、リヤサスペンションタワー20の上面部20aと端部側骨格部材に該当するリヤピラー26とを補強部材30の後部30aで接続しているので、車体200のリヤ部分での歪エネルギをさらに効率的に吸収することができる。即ち、リヤサスペンションタワー20とブレースメンバ23とリヤピラー26の3箇所を補強部材30で接続することとすることにより、リヤサスペンションタワー20から入力された荷重によるリヤピラー26の変位がより確実に抑えられることになる。
【0085】
なお、車体200のリヤ部分においては、フロアクロスメンバ22とブレースメンバ23とリヤサイドパネル24とルーフサイドレール25とにより、車体200の前後方向に対して交差する方向における「環状構造」が形成されており、車体200のリヤ部分において高剛性な構造部分となっている。そして、環状構造の構成要素の一部であるブレースメンバ23にも補強部材30を接続することで、車体のリヤ部分における歪エネルギを高効率に吸収するのに優位な構造となっている。
【0086】
本実施形態に係る車体200でも、補強部材30に含まれる長尺状のバー部材を繊維強化樹脂製としているので、車体200の重量増加を抑えながら、高効率に歪エネルギを吸収してフロア振動の減衰特性の更なる向上を図ることができる。
【0087】
[変形例1]
図8は、変形例1に係るバー部材310の構造を示す断面図である。なお、上記第1実施形態から上記第5実施形態の各補強部材12~18,29,30では、帯板状のバー部材141を含む構造を有することとしたが、本変形例に係る補強部材は、バー部材310の断面構造が異なる。
【0088】
図8に示すように、本変形例に係るバー部材310は、ともにハット状の断面形状を有する4つの部材311~314を有する。4つの部材311~314は、炭素繊維強化樹脂製の部材である。Z方向上部の外殻を構成するアウタ部材311は、Y方向に延びるアウタ第1壁部311aと、アウタ第1壁部311aの方向両端からそれぞれZ方向下方に延びるアウタ第2壁部311bおよびアウタ第3壁部311cと、アウタ第2壁部311bおよびアウタ第3壁部311cのそれぞれの下端からY方向外側に延びるアウタ第4壁部311dおよびアウタ第5壁部311eと、が一体形成されてなる。
【0089】
Z方向下部の外殻を構成するアウタ部材312も、アウタ第1壁部312aと、アウタ第2壁部312bおよびアウタ第3壁部312cと、アウタ第4壁部312dおよびアウタ第5壁部312eと、が一体形成されてなる。
【0090】
Z方向上部の内殻を構成するインナ部材313も、Y方向に延びるインナ第1壁部313aと、インナ第1壁部313aの方向両端からそれぞれZ方向下方に延びるインナ第2壁部313bおよびインナ第3壁部313cと、インナ第2壁部313bおよびインナ第3壁部313cのそれぞれの下端からY方向外側に延びるインナ第4壁部313dおよびインナ第5壁部313eと、が一体形成されてなる。
【0091】
Z方向下部の内殻を構成するインナ部材314も、インナ第1壁部314aと、インナ第2壁部314bおよびインナ第3壁部314cと、インナ第4壁部314dおよびインナ第5壁部314eと、が一体形成されてなる。
【0092】
なお、インナ部材313,314のそれぞれにおけるインナ第1壁部313a,314aは、Y方向の幅がアウタ部材311,312のそれぞれにおけるアウタ第1壁部311a,312aよりも狭く形成されている。このため、アウタ第2壁部311b,312bとインナ第2壁部313b,314bとの間には、間隔W2が空けられ、アウタ第3壁部311c,312cとインナ第3壁部313c,314cとの間には、間隔1が空けられている。本変形例では、W1とW2が次の関係を満たすようにバー部材310が形成されている。
W1>W2・・(数1)
【0093】
アウタ部材311,312およびインナ部材13,314は、アウタ第4壁部311d,312dとインナ第4壁部313d,314dとが間隔を空けて対向する部分が接着剤などにより接合され(接合部315)、アウタ第5壁部311e,312eとインナ第5壁部313e,314eとが間隔を空けて対向する部分が接着剤などにより接合されている(接合部316)。
【0094】
ここで、アウタ部材311のアウタ第4壁部311dとアウタ部材312のアウタ第4壁部312dとの間隔はG1であり、アウタ部材311のアウタ第5壁部311eとアウタ部材312のアウタ第5壁部312eとの間隔はG2である。本変形例では、G1とG2が次の関係を満たすようにバー部材310が形成されている。
G1<G2・・(数2)
【0095】
同様に、インナ部材313のインナ第4壁部313dとインナ部材314のインナ第4壁部314dとの間隔はG3であり、インナ部材313のインナ第5壁部313eとインナ部材314のインナ第5壁部314eとの間隔はG4である。本変形例では、G3とG4が次の関係を満たすようにバー部材310が形成されている。
G3<G4・・(数3)
【0096】
以上のように形成されたバー部材310では、アウタ部材311,312のアウタ第1壁部311a,312aおよびアウタ第2壁部311b,312bおよびアウタ第3壁部311c,312cに沿った部分の内方に4つの内部閉断面部310a,310b,310c,310dが設けられている。内部閉断面部310a,310b,310,310dのそれぞれは、アウタ部材311,312の稜線RLの内方側の部分を含むように設けられている。
【0097】
なお、バー部材310は、上記(数1)の関係を満たすように形成されているので、内部閉断面部310a,310cのY方向幅よりも、内部閉断面部310b,310dのY方向幅よりも狭くなり、閉断面の断面積が、内部閉断面部310b,310dよりも内部閉断面部310a,310cの方が小さい。
【0098】
本変形例に係るバー部材310では、内方に内部閉断面部310a,310b,310c,310dを有するので、重量増加を抑えながら、曲げ荷重の入力時における捩り剛性のコントロールが可能となり、高い振動減衰効果を得ることができる。
【0099】
また、バー部材310では、アウタ部材311,312の稜線RLの内方側を含むように内部閉断面部310a,310b,310c,310dが形成されているので、高い強度を得ることができる。
【0100】
また、バー部材310は、4つのハット状断面形状の部材311~314を接合して形成されているので、製造が容易であり、高い生産性を実現することも可能である。
【0101】
さらに、バー部材310では、内部閉断面部310a,310cの閉断面面積と内部閉断面部310b,310dの閉断面面積とを異なるようにしているので、曲げ荷重の入力時における捩り剛性をバー部材310全体でバランスさせることが可能となる。
【0102】
[変形例2]
図9は、変形例2に係る補強部材32の構造を示す斜視図である。
図10は、
図9のX-X線断面を示す断面図である。
【0103】
図9に示すように、本変形例に係る補強部材32は、X方向に沿って延びるように設けられた長尺状のバー部材320と、バー部材320の端部320aに固定された継手部材323とを有する。なお、
図9では、バー部材320の一方の端部320aおよび当該端部320aに固定される継手部材323だけを図示しているが、バー部材320のもう一方の端部にも同じ継手部材323が固定されている。
【0104】
図10に示すように、バー部材320は、アウタ部材321とインナ部材322とが接合されてなる。アウタ部材321およびインナ部材322は、それぞれ炭素繊維強化樹脂(CFRP)製の部材である。アウタ部材321は、Y方向に沿って延びるように設けられたアウタ第1壁部321aと、アウタ第1壁部321aのY方向左端から左斜め下方に延びるアウタ第2壁部321bと、アウタ第1壁部321aのY方向右端から右斜め下方に延びるアウタ第3壁部321cと、が一体形成されている。
【0105】
インナ部材322は、アウタ部材321のアウタ第1壁部321aに沿ってY方向に延びるインナ第1壁部322aと、アウタ部材321のアウタ第2壁部321bに沿って左斜め下方に延びるインナ第2壁部322fと、アウタ部材321のアウタ第3壁部321cに沿って右斜め下方に延びるインナ第3壁部322gと、インナ第1壁部322aのY方向左端から下方に延びるインナ第4壁部322bと、インナ第1壁部322aのY方向右端から下方に延びるインナ第5壁部322cと、インナ第4壁部322bの下端とインナ第2壁部322fの上端とを接続するインナ第6壁部322dと、インナ第5壁部322cの下端とインナ第3壁部322gの上端とを接続するインナ第7壁部322eと、が一体形成されている。
【0106】
アウタ部材321とインナ部材322とは、アウタ第1壁部321aとインナ第1壁部322aとが面同士で当接する箇所、アウタ第2壁部321bとインナ第2壁部322fとが面同士で当接する箇所、アウタ第3壁部321cとインナ第3壁部322gとが面同士で当接する箇所のそれぞれで接着剤を用いて接合されている。
【0107】
上記のようにアウタ部材321とインナ部材322との接合により形成されたバー部材320においては、互いにY方向に離間した2つの内部閉断面部320d,320eが形成される。内部閉断面部320d,320eは、アウタ部材321における稜線RLの内方側の部分を含むように設けられている。
【0108】
なお、バー部材320では、アウタ第1壁部321aのY方向での幅がW3であり、アウタ第2壁部321bとアウタ第3壁部321cの下端同士のY方向での間隔がW4である。また、インナ第1壁部322aのY方向での幅がW5である。バー部材320は、W3,W4,W5が次の関係を満たすように形成されている。
W4>W3>W5・・(数4)
【0109】
ここで、バー部材320では、上記(数4)の関係を満たすように形成されているので、アウタ第1壁部321aとアウタ第2壁部321bおよびアウタ第3壁部321cのそれぞれとがなす内側角(インナ部材322側の角度)がともに鈍角(90°よりも大きい角度)となっている。このため、バー部材320の形成に際して、アウタ部材321とインナ部材322とを重ね合わせるのに煩雑な作業を必要とせず高い生産性を実現することができる。
【0110】
また、上記のようにアウタ部材321の各内側角を鈍角とすることにより、アウタ第2壁部321bとアウタ第3壁部321cとは、Z方向上側から下側に向けて間隔が漸次拡がる形状を有しており、アウタ部材321とインナ部材322とを重ね合わせて行く場合に、アウタ第2壁部321bまたはインナ第2壁部322f、およびナアウタ第3壁部321cまたはインナ第3壁部322gに塗布した接着剤がこそぎ落とされ難い。
【0111】
図9に戻って、継手部材323は、バー部材320の端部320aに対してZ方向上側(アウタ側)から装着されるアウタ側部材324と、バー部材320の端部320aに対してZ方向下側(インナ側)から装着されるインナ側部材325と、で構成される。アウタ側部材324は、バー部材320におけるアウタ部材321に対して略相似形の断面形状を有し、アウタ部材321のZ方向上側(アウタ側)の面に沿うように形成されている。
【0112】
インナ側部材325は、X方向の一部がバー部材320におけるインナ部材322NOZ方向下側(インナ側)の面に沿うように形成されている。また、インナ側部材325は、X方向の他部(X方向右側の部分)でアウタ側部材324と直に接合されている。そして、インナ側部材35は、さらにX方向右側の部分に、車体を構成する各部材へ固定する際のボルトが挿通するための通し孔325aを有する。
【0113】
バー部材320の端部320aには、2つの通し孔320b,320cが設けられている。そして、アウタ側部材324には、バー部材320に設けられた通し孔320b,320cに対応する通し孔324b,324cが設けられている。さらに、インナ側部材325には、バー部材320に設けられた通し孔320b,320cに対応するネジ孔325b,325cが設けられている。
【0114】
また、アウタ側部材324には、Y方向に互いに間隔を空けて2つの通し孔324d,324eも設けられている。そして、インナ側部材325にも、アウタ側部材324の通し孔324d,324eに対応するネジ孔325d,325eが設けられている。
【0115】
継手部材323は、バー部材320に対してアウタ側部材324およびインナ側部材325を装着し、4本のボルトで締結することによりバー部材320に固定される。
【0116】
本変形例に係る補強部材32では、アウタ部材321とインナ部材322とを接合してバー部材320を形成し、内方に内部閉断面部320d,320eを有しているので、重量増加を抑えながら、曲げ荷重の入力時における捩り剛性のコントロールが可能となる。よって、本変形例に係る補強部材32を車体の補強に採用する場合にも、高い振動減衰特性を実現することができる。
【0117】
また、本変形例に係る補強部材32では、アウタ部材321において、アウタ第1壁部321aに対してアウタ第2壁部321bおよびアウタ第3壁部321cがそれぞれなす内側角(インナ側の角度)をともに鈍角としているので、上述のようにアウタ部材321に対してインナ部材322を装着する際に、煩雑な作業を伴わず、高い生産性を実現することができる。
【0118】
さらに、本変形例に係る補強部材32では、アウタ第2壁部321bとインナ第2壁部322fとが面同士で接合され(面同士が当接または近接した状態で接合され)、アウタ第3壁部321cとインナ第3壁部322gとも面同士で接合され(面同士が当接または近接した状態で接合され)ているので、これらの接合時に例えば接着剤を用いるとした場合に、壁部同士の間でのせん断方向にかかる力を小さく抑えることができ、接着剤がこそぎ落とされ難い。この点からも、高い生産性をもって確実にアウタ部材321とインナ部材322とを接合してバー部材320を形成することが可能である。
【0119】
[その他の変形例]
上記第1実施形態から上記第5実施形態および上記変形例1,2では、繊維強化樹脂の一例として炭素繊維強化樹脂(CFRP)を採用することとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、ガラス繊維強化樹脂(GFRP)や、アラミド繊維強化樹脂(ArFRP)や、炭化ケイ素繊維強化樹脂(SiCFRP)や、非鉄金属などの金属繊維を用いた繊維強化樹脂などを採用することも可能である。
【0120】
上記第1実施形態から上記第5実施形態では、補強部材13~18におけるバー部材141が中実の矩形断面を有することとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、中空断面のバー部材や、円形あるいは楕円形、さらには長円形の断面形状を有するバー部材を採用することも可能である。
【0121】
上記変形例1に係るバー部材310では、内方に4つの内部閉断面部310a,310b,310c,310dを有することとしたが、内部閉断面部の形成数については、これに限定を受けるものではない。例えば、3つ以下の内部閉断面部を有することとしてもよいし、5つ以上の内部閉断面部を有することとしてもよい。
【0122】
また、上記変形例1では、内部閉断面部310a,310cの閉断面面積と、内部閉断面部310b,310dの閉断面面積とが異なる構造を採用したが、互いに同じ閉断面席を有する複数の内部閉断面部を有することとしてもよい。
【0123】
また、上記変形例1では、4つの部材311~314を接合してバー部材310を形成し、上記変形例2では、2つの部材321,322を接合してバー部材320を形成することとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。3つの部材を接合してバー部材を形成することとしてもよいし、5つ以上の部材を接合してバー部材を形成することとしてもよい。
【0124】
上記第1実施形態および上記第2実施形態では、フロントサスペンションタワー11L,11Rとエプロンメンバ8L,8Rとの間を接続するように補強部材13~16を架設し、上記第3実施形態では、フロントサスペンションタワー11L,11Rとシュラウドアッパメンバ9との間を接続するように補強部材17,18を架設することとし、上記第4実施形態および上記第5実施形態では、リヤサスペンションタワー20とリヤピラー26とを接続するように補強部材29,30を架設することとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、車体のフロント部分であれば補強部材の他端部をフロントサイドフレームなどに接続することとしてもよいし、リヤ部分であれば補強部材の他端部をリヤサイドフレームなどに接続することとしてもよい。
【0125】
上記第1実施形態から上記第5実施形態および上記変形例1,2では、直線状のバー部材141,310,320を有する補強部材12~18,29,30,32を採用することとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。曲線状に延びるバー部材や、クランク部を間に有して延びるバー部材などを有する補強部材を採用することもできる。
【符号の説明】
【0126】
1,50,100,150,200 車体
8L,8R エプロンメンバ(端部側骨格部材)
9 シュラウドアッパメンバ(端部側骨格部材)
10 シュラウド
11L,11R フロントサスペンションタワー
12~18,29,30,32 補強部材
20 リヤサスペンションタワー
22 フロアクロスメンバ
23 ブレースメンバ(骨格部材)
24 リヤサイドパネル
25 ルーフサイドレール
26リヤピラー(端部側骨格部材)
141,310,320 バー部材