(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】キャスタ
(51)【国際特許分類】
B60B 33/00 20060101AFI20231212BHJP
【FI】
B60B33/00 501C
B60B33/00 V
B60B33/00 U
(21)【出願番号】P 2020085518
(22)【出願日】2020-05-14
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】弁理士法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】進藤 雄輔
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-086104(JP,A)
【文献】実開昭59-110701(JP,U)
【文献】特開平07-076201(JP,A)
【文献】特開2001-107987(JP,A)
【文献】米国特許第9757980(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下に延びる第1側壁と、前記第1側壁と対面し、上下に延びる第2側壁とを有し、荷重が載置される基台に対して上下に延びる旋回軸心周りで旋回可能なブラケットと、
前記第1側壁と前記第2側壁との間で水平に延びる車輪軸心周りで転動可能な車輪とを備え、
前記車輪軸心は、前記旋回軸心に対して偏心長さで離間しているキャスタにおいて、
前記車輪と前記第1側壁との間及び前記車輪と前記第2側壁との間には、前記旋回軸心と直交し、前方に位置する前端から後方に位置する後端まで前後方向に延びるガイドを有し、前記車輪軸心を前記ガイドに沿って案内して前記偏心長さを前記旋回軸心を跨いで変化させる偏心長さ変化機構が設けられ、
前記車輪と前記ブラケットとの間には、第1方向への前記車輪の転動を許容し、前記第1方向とは逆の第2方向への前記車輪の転動を禁止するワンウェイクラッチ機構が設けられ
、
前記ワンウェイクラッチ機構は、前記車輪と前記第1側壁との間に設けられ、前記車輪軸心が前記後端に位置すれば、前記車輪の前記前方への転動を許容するとともに前記車輪の前記後方への転動を禁止し、前記車輪軸心が前記前端に位置すれば、前記車輪の転動と無関係となる第1ワンウェイクラッチと、
前記車輪と前記第2側壁との間に設けられ、前記車輪軸心が前記前端に位置すれば、前記車輪の前記後方への転動を許容するとともに前記車輪の前記前方への転動を禁止し、前記車輪軸心が前記後端に位置すれば、前記車輪の転動と無関係となる第2ワンウェイクラッチとを有していることを特徴とするキャスタ。
【請求項2】
前記第1ワンウェイクラッチは、前記車輪に固定された第1ギヤと、前記第1側壁に前記車輪の回転方向と平行な面内で揺動可能に設けられた第1ドグと、前記第1ドグを前記第1ギヤに向かって付勢する第1付勢手段とを有し、
前記第1ドグは、前記車輪軸心が前記後端に位置して、前記車輪の前記前方への転動を許容し、前記第1ギヤと非係合となる状態と、前記車輪の前記後方への転動を禁止し、前記第1ギヤと係合した状態と、前記車輪軸心が前記前端に位置して、前記第1ギヤと無関係となる状態とを有し、
前記第2ワンウェイクラッチは、前記車輪に固定された第2ギヤと、前記第2側壁に前記車輪の回転方向と平行な面内で揺動可能に設けられた第2ドグと、前記第2ドグを前記第2ギヤに向かって付勢する第2付勢手段とを有し、
前記第2ドグは、前記車輪軸心が前記前端に位置して、前記車輪の前記後方への転動を許容し、前記第2ギヤと非係合となる状態と、前記車輪の前記前方への転動を禁止し、前記第2ギヤと係合した状態と、前記車輪軸心が前記後端に位置して、前記第2ギヤと無関係となる状態とを有する請求項
1記載のキャスタ。
【請求項3】
前記第1ドグは、第1揺動中心から径方向に延びる第1端面と、前記第1端面と直交する第1直交面とを有し、
前記第1ギヤは、前記車輪が前記前方に回転する際に前記第1付勢手段に抗して前記第1端面と当接して前記第1ドグを揺動させる第1揺動用歯面と、前記第1揺動用歯面と連続し、前記車輪が前記後方に回転する際に前記第1付勢手段に屈して前記第1直交面を係合させる第1係合用歯面とを有し、
前記第2ドグは、第2揺動中心から径方向に延びる第2端面と、前記第2端面と直交する第2直交面とを有し、
前記第2ギヤは、前記車輪が前記後方に回転する際に前記第2付勢手段に抗して前記第2端面と当接して前記第2ドグを揺動させる第2揺動用歯面と、前記第2揺動用歯面と連続し、前記車輪が前記前方に回転する際に前記第2付勢手段に屈して前記第2直交面を係合させる第2係合用歯面とを有している請求項
2記載のキャスタ。
【請求項4】
前記第1付勢手段は前記第1ドグの自重であり、
前記第2付勢手段は前記第2ドグの自重である請求項
2又は
3記載のキャスタ。
【請求項5】
前記第1付勢手段及び前記第2付勢手段は引っ張りばねである請求項
2又は
3記載のキャスタ。
【請求項6】
前記車輪は、前記車輪軸心と同心をなすホイールと、前記ホイールに保持されたタイヤと、前記ホイールに保持された軸受装置と、前記軸受装置によって前記車輪軸心周りで回転可能であり、前記車輪軸心方向に延びる回転軸とからなる請求項
5記載のキャスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はキャスタに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の
図7に一般的なキャスタが開示されている。このキャスタは、ブラケットと車輪とを備えている。ブラケットは、上下に延びる第1側壁と、第1側壁と対面し、上下に延びる第2側壁とを有している。ブラケットは、荷重が載置される基台に対して上下に延びる旋回軸心周りで旋回可能となっている。車輪は、第1側壁と第2側壁との間で水平に延びる車輪軸心周りで転動可能である。車輪軸心は、旋回軸心に対して偏心長さで離間している。
【0003】
一般的な台車は、基台と、基台の下面に固定され、基台を水平に支持する上記のような4個のキャスタと、基台から上方に延びるハンドルとを備えている。この台車を例えば無人搬送車によって牽引し、牽引後に作業者がその台車を牽引されてきた方向に押し返す場合、キャスタの車輪は旋回軸心周りで180°旋回される。また、前後式無人搬送車がその台車を前進した後、後進する場合も同様である。このように、基台に大きな荷重を載置したまま、台車をこれまでとは逆の方向に移動させなければならない場合、車輪が床面を摺接しながら旋回軸心周りで180°旋回されることになるため、初動負荷が大きい。
【0004】
このため、特許文献1では、第1側壁及び第2側壁に旋回軸心及び車輪軸心と直交する方向に延びる長穴を設けることを提案している。上記のように台車をこれまでとは逆の方向に移動させなければならない場合、車輪軸心が両長穴に沿って移動するため、車輪が床面を摺接しながら旋回軸心周りで180°旋回する必要がなく、初動負荷を小さくできる。なお、特許文献1に開示されたキャスタでは、長穴と同様に延びるラックを第1側壁及び第2側壁に設けるとともに、車輪にそれぞれのラックと噛合するピニオンを設け、車輪軸心が両長穴を移動する際の車輪軸心のねじれを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来のキャスタでは、車輪軸心が両長穴を移動する際、床面を転動し易い。このため、車輪軸心が両長穴内を後端から前端まで移動し難く、初動負荷軽減の効果が減殺されている。
【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、台車をこれまでとは逆の方向に移動させなければならない場合の初動負荷軽減の効果を増大可能なキャスタを提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のキャスタは、上下に延びる第1側壁と、前記第1側壁と対面し、上下に延びる第2側壁とを有し、荷重が載置される基台に対して上下に延びる旋回軸心周りで旋回可能なブラケットと、
前記第1側壁と前記第2側壁との間で水平に延びる車輪軸心周りで転動可能な車輪とを備え、
前記車輪軸心は、前記旋回軸心に対して偏心長さで離間しているキャスタにおいて、
前記車輪と前記第1側壁との間及び前記車輪と前記第2側壁との間には、前記旋回軸心と直交し、前方に位置する前端から後方に位置する後端まで前後方向に延びるガイドを有し、前記車輪軸心を前記ガイドに沿って案内して前記偏心長さを前記旋回軸心を跨いで変化させる偏心長さ変化機構が設けられ、
前記車輪と前記ブラケットとの間には、第1方向への前記車輪の転動を許容し、前記第1方向とは逆の第2方向への前記車輪の転動を禁止するワンウェイクラッチ機構が設けられ、
前記ワンウェイクラッチ機構は、前記車輪と前記第1側壁との間に設けられ、前記車輪軸心が前記後端に位置すれば、前記車輪の前記前方への転動を許容するとともに前記車輪の前記後方への転動を禁止し、前記車輪軸心が前記前端に位置すれば、前記車輪の転動と無関係となる第1ワンウェイクラッチと、
前記車輪と前記第2側壁との間に設けられ、前記車輪軸心が前記前端に位置すれば、前記車輪の前記後方への転動を許容するとともに前記車輪の前記前方への転動を禁止し、前記車輪軸心が前記後端に位置すれば、前記車輪の転動と無関係となる第2ワンウェイクラッチとを有していることを特徴とする。
【0009】
本発明のキャスタを備えた台車を例えば前方に移動させる場合、偏心長さ変化機構により、車輪軸心はガイドの後端に位置する。この状態では、ワンウェイクラッチ機構は、台車が前進する第1方向への車輪の転動を許容する。台車が停止され、そのまま後方に移動させる場合、偏心長さ変化機構が車輪軸心をガイドに沿って案内し、偏心長さを旋回軸心を跨いで変化させる。このため、車輪軸心は前端に向かって移動する。この間、ワンウェイクラッチ機構は、台車が後進する第2方向への車輪の転動を禁止する。このため、このキャスタでは、車輪軸心がガイドに沿って移動する際、車輪が床面を摺接しながら旋回軸心P周りで180°旋回する必要はなく、かつ車輪が床面を転動しない。このため、車輪軸心がガイドに沿って後端から前端まで移動し易く、初動負荷軽減の効果が発揮される。車輪軸心が前端に位置すれば、ワンウェイクラッチ機構は、台車が後進する第2方向への車輪の転動を許容する。
【0010】
したがって、このキャスタでは、台車をこれまでとは逆の方向に移動させなければならない場合の初動負荷軽減の効果を増大することができる。
【0011】
ワンウェイクラッチ機構は、車輪と第1側壁との間に設けられた第1ワンウェイクラッチと、車輪と第2側壁との間に設けられた第2ワンウェイクラッチとを有している。第1ワンウェイクラッチは、車輪軸心が後端に位置すれば、車輪の前方への転動を許容するとともに車輪の後方への転動を禁止、つまり逆転を禁止する。また、第1ワンウェイクラッチは、車輪軸心が前端に位置すれば、車輪の転動と無関係となる。第2ワンウェイクラッチは、車輪軸心が前端に位置すれば、車輪の後方への転動を許容するとともに車輪の前方への転動を禁止、つまり逆転を禁止する。また、第2ワンウェイクラッチは、車輪軸心が後端に位置すれば、車輪の転動と無関係となる。このため、比較的簡易な構造で本発明の作用効果を実現できる。
【0012】
第1ワンウェイクラッチは、車輪に固定された第1ギヤと、第1側壁に車輪の回転方向と平行な面内で揺動可能に設けられた第1ドグと、第1ドグを第1ギヤに向かって付勢する第1付勢手段とを有し得る。第1ドグは、車輪軸心が後端に位置して、車輪の前方への転動を許容し、第1ギヤと非係合となる状態と、車輪の後方への転動を禁止し、第1ギヤと係合した状態と、車輪軸心が前端に位置して、第1ギヤと無関係となる状態とを有し得る。第2ワンウェイクラッチは、車輪に固定された第2ギヤと、第2側壁に車輪の回転方向と平行な面内で揺動可能に設けられた第2ドグと、第2ドグを第2ギヤに向かって付勢する第2付勢手段とを有し得る。第2ドグは、車輪軸心が前端に位置して、車輪の後方への転動を許容し、第2ギヤと非係合となる状態と、車輪の前方への転動を禁止し、第2ギヤと係合した状態と、車輪軸心が後端に位置して、第2ギヤと無関係となる状態とを有し得る。この場合、比較的簡易な構造で本発明の作用効果を実現できる。
【0013】
第1ドグは、第1揺動中心から径方向に延びる第1端面と、第1端面と直交する第1直交面とを有し得る。第1ギヤは、車輪が前方に回転する際に第1付勢手段に抗して第1端面と当接して第1ドグを揺動させる第1揺動用歯面と、第1揺動用歯面と連続し、車輪が後方に回転する際に第1付勢手段に屈して第1直交面を係合させる第1係合用歯面とを有し得る。第2ドグは、第2揺動中心から径方向に延びる第2端面と、第2端面と直交する第2直交面とを有し得る。第2ギヤは、車輪が後方に回転する際に第2付勢手段に抗して第2端面と当接して第2ドグを揺動させる第2揺動用歯面と、第2揺動用歯面と連続し、車輪が前方に回転する際に第2付勢手段に屈して第2直交面を係合させる第2係合用歯面とを有し得る。この場合、第1ドグと第2ドグとを勝手違いに製造し、第1ギヤと第2ギヤとを表裏逆の同一品として製造できるため、製造コストの低廉化を実現できる。
【0014】
第1付勢手段は第1ドグの自重であり、第2付勢手段は第2ドグの自重であり得る。また、第1付勢手段及び第2付勢手段は引っ張りばねであり得る。
【0015】
車輪は、車輪軸心と同心をなすホイールと、ホイールに保持されたタイヤと、ホイールに保持された軸受装置と、軸受装置によって車輪軸心周りで回転可能であり、車輪軸心方向に延びる回転軸とからなり得る。この場合、車輪が軸受装置によって好適に回転軸周りで回転するため、床面上を好適に転動できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のキャスタでは、台車をこれまでとは逆の方向に移動させなければならない場合の初動負荷軽減の効果を増大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施例1のキャスタの分解斜視図である。
【
図2】
図2は、実施例1のキャスタの斜視図である。
【
図3】
図3は、実施例1のキャスタの縦断面図である。
【
図4】
図4は、実施例1のキャスタに係り、前進時の横断面図である。
【
図5】
図5は、実施例1のキャスタに係り、後進時の横断面図である。
【
図6】
図6は、実施例1のキャスタに係り、前進時の右側面図である。
【
図7】
図7は、実施例1のキャスタに係り、前進時の左側面図である。
【
図8】
図8は、実施例1のキャスタに係り、切替時の右側面図である。
【
図9】
図9は、実施例1のキャスタに係り、切替時の左側面図である。
【
図10】
図10は、実施例1のキャスタに係り、後進時の右側面図である。
【
図11】
図11は、実施例1のキャスタに係り、後進時の左側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した実施例1、2を図面を参照しつつ説明する。
【0019】
(実施例1)
実施例1のキャスタは、
図1及び
図2に示すように、ブラケット1と車輪3とワンウェイクラッチ機構5を備えている。
【0020】
ブラケット1は、天板7と、第1側壁9と、第2側壁11とを有している。天板7は、左右の長さが前後の長さよりも長い長方形状の平板である。天板7の四隅にはねじ通し穴7a~7dが貫設されている。
【0021】
第1側壁9は、上部分9Uと下部分9Dとが一体をなして上下に延びる平板である。上部分9Uは正方形状であり、下部分9Dは上部分9Uよりも前後が突出している。上部分9Uの上面の前後にはねじ穴9a、9bが凹設されている。下部分9Dには、前後に延びる長穴9cが貫設されている。長穴9cがガイドに相当する。また、下部分9Dには、長穴9cの後方上部にねじ穴9dが貫設されている。
【0022】
第2側壁11も、上部分11Uと下部分11Dとが一体をなして上下に延びる平板である。上部分11Uは正方形状であり、下部分11Dは上部分11Uよりも前後が突出している。上部分11Uの上面の前後にはねじ穴11a、11bが凹設されている。下部分11Dには、前後に延びる長穴11cが貫設されている。長穴11cもガイドに相当する。また、下部分11Dには、長穴11cの前方上部にねじ穴11dが貫設されている。第1側壁9と第2側壁11とは、ねじ穴9d、11dを除いて面対称となっている。
【0023】
ブラケット1は、天板7の下面の右端に第1側壁9の上部分9Uの上面が当接され、ねじ通し穴7a、7bとねじ穴9a、9bとが整合され、ねじ通し穴7a及びねじ穴9aにねじ13aが螺合されているとともに、ねじ通し穴7b及びねじ穴9bにねじ13bが螺合されている。また、ブラケット1は、天板7の下面の左端に第2側壁11の上部分11Uの上面が当接され、ねじ通し穴7c、7dとねじ穴11a、11bとが整合され、ねじ通し穴7c及びねじ穴11aにねじ13cが螺合されているとともに、ねじ通し穴7d及びねじ穴11bにねじ13dが螺合されている。
【0024】
車輪3は、
図3に示すように、ホイール15と、タイヤ17と、軸受装置19と、回転軸21とからなる。ホイール15は、左右で水平に延びる車輪軸心Oと同軸の円筒状をなす円筒部15aと、円筒部15aの右端で車輪軸心Oから遠ざかる方向に広がる第1フランジ15bと、円筒部15aの左端で車輪軸心Oから遠ざかる方向に広がる第2フランジ15cとからなる。
【0025】
タイヤ17はホイール15の円筒部15a、第1フランジ15b及び第2フランジ15c内に固着されている。円筒部15a内には軸受装置19が設けられており、軸受装置19内には円筒状の回転軸21が圧入されている。ブラケット1及び車輪3は、長穴9c、11c及び回転軸21が車輪軸心Oを長穴9c、11cに沿って案内する偏心長さ変化機構4を構成している。
【0026】
ワンウェイクラッチ機構5は、
図1及び
図2に示すように、第1ワンウェイクラッチ23と第2ワンウェイクラッチ25とを有している。第1ワンウェイクラッチ23は、第1ギヤ27と、第1ドグ29と、ウェイト31とを有している。第2ワンウェイクラッチ25は、第2ギヤ33と、第2ドグ35と、ウェイト37とを有している。
【0027】
第1ギヤ27は、
図3~5に示すように、ホイール15の第1フランジ15bに固定されている。ブラケット1の第1側壁9は第1ギヤ27の右側に位置している。第1ギヤ27は、
図6、
図8及び
図10に示すように、外周面に第1歯面27aと第2歯面27bとが互いに連続しながら交互に形成されている。各第1歯面27aは車輪軸心Oを含む平面上に位置している。各第2歯面27bは車輪軸心Oを含む平面上に位置している。第1歯面27aが第1揺動用歯面に相当し、第2歯面27bが第1係合用歯面に相当する。
【0028】
第1ドグ29は、
図1~5に示すように、上下に棒状に延びるロッド29Rと、ロッド29Rの下端左面に固定された板状のストッパ29Sとからなる。ロッド29Rの上端にはピン穴29aが貫設されている。ストッパ29Sの後端には切欠きが形成されており、切欠きにはボルトとナットとからなるウェイト31が固定されている。第1ドグ29は、ブラケット1の第1側壁9のねじ穴9dにロッド29Rのピン穴29aを整合させ、ねじ39をねじ穴9dに螺合することによって前後に揺動するようになっている。ねじ39の中心が第1揺動中心S1に相当する。
図4及び
図5に示すように、ストッパ29Sの前面291は第1揺動中心S1から径方向に延びている。前面291が第1端面に相当する。ストッパ29Sの上面292は前面291と直交している。上面292が第1直交面に相当する。ウェイト31は第1付勢手段に相当する。
【0029】
車輪3の回転軸21は第1側壁9の長穴9cを挿通しており、回転軸21の右端にリング41が圧入されている。第1ドグ29は、第1揺動中心S1周りで揺動するが、前方への揺動はロッド29Rがリング41と当接することによって規制される。ロッド29Rがリング41と当接しておれば、ロッド29Rは上下に延びた状態になっている。
【0030】
第2ギヤ33は、
図3~5に示すように、ホイール15の第2フランジ15cに固定されている。ブラケット1の第2側壁11は第2ギヤ33の左側に位置している。第2ギヤ33は、
図7、
図9及び
図11に示すように、外周面に第1歯面33aと第2歯面33bとが互いに連続しながら交互に形成されている。各第1歯面33aは車輪軸心Oを含む平面上に位置している。各第2歯面33bは車輪軸心Oを含む平面上に位置している。第1歯面33aが第2揺動用歯面に相当し、第2歯面33bが第2係合用歯面に相当する。
【0031】
第2ドグ35は、
図1、
図3~5に示すように、上下に棒状に延びるロッド35Rと、ロッド35Rの下端右面に固定された板状のストッパ35Sとからなる。ロッド35Rの上端にはピン穴35aが貫設されている。ストッパ35Sの前端には切欠きが形成されており、切欠きにはボルトとナットとからなるウェイト37が固定されている。第2ドグ35は、ブラケット1の第2側壁11のねじ穴11dにロッド35Rのピン穴35aを整合させ、ねじ43をねじ穴11dに螺合することによって前後に揺動するようになっている。ねじ43の中心が第2揺動中心S2に相当する。
図4及び
図5に示すように、ストッパ35Sの後面351は第2揺動中心S2から径方向に延びている。後面351が第2端面に相当する。ストッパ35Sの上面352は後面351と直交している。上面352が第2直交面に相当する。ウェイト37は第2付勢手段に相当する。
【0032】
車輪3の回転軸21は第2側壁11の長穴11cを挿通しており、回転軸21の左端にリング45が圧入されている。第2ドグ35は、第2揺動中心S2周りで揺動するが、後方への揺動はロッド35Rがリング45と当接することによって規制される。ロッド35Rがリング45と当接しておれば、ロッド35Rは上下に延びた状態になっている。
【0033】
図1~3に示すように、ブラケット1の天板7の上面には軸受装置47が図示しない固定手段によって固定されている。軸受装置47の中心が図示しない基台に対して上下に延びる旋回軸心Pである。軸受装置47の内輪には基台から下方に突出する脚49が固定されている。このため、ブラケット1は旋回軸心P周りで旋回できるようになっている。第1、2側壁9、11の長穴9c、11cは旋回軸心Pの前後に延びている。このため、車輪軸心Oは、旋回軸心Pに対して偏心長さで離間しているが、偏心長さは偏心長さ変化機構4によって旋回軸心Pを跨いで変化する。
【0034】
台車は、基台と、上記の4個のキャスタと、基台から上方に延びるハンドルとを備えている。基台には荷重が載置される。この台車を例えば無人搬送車によって牽引し、牽引後に作業者がその台車を牽引されてきた方向に押し返す場合を検討する。
【0035】
まず、この台車を前方に移動させる場合、
図4、
図6及び
図7に示すように、慣性力によって車輪軸心Oは長穴9cの後端に位置する。この状態では、第1ワンウェイクラッチ23は、
図6に示すように、台車が前進する車輪3の右回りの転動を許容する。つまり、第1ドグ29は、車輪軸心Oが長穴9cの後端に位置していることから、ストッパ29Sの前面291が第1ギヤ27の第1歯面27aに当接し、後方に揺動する。後方に揺動した第1ドグ29は、ウェイト31による自重によって前方に揺動し、ロッド29Rがリング41と当接することによって次の当接、揺動を迎える。こうして、第1ドグ29は、ストッパ29Sの前面291が第1ギヤ27の第1歯面27aに順次当接し、後方に順次揺動する。一方、第2ワンウェイクラッチ25は、車輪軸心Oが長穴9cの後端に位置していることから、
図7に示すように、第2ドグ35が車輪3と無関係となっている。このため、車輪3は前進するための転動が許容される。
【0036】
台車を停止させ、車輪軸心Oが長穴9cの後端に位置した状態で台車をそのまま後方に移動させようとすると、第1ワンウェイクラッチ23は、
図6に示すように、車輪3の後方への転動を禁止する。つまり、車輪3が逆転しようとすると、第1ギヤ27の第2歯面27bが第1ドグ29のストッパ29Sの上面292に当接し、車輪3の逆転を禁止する。一方、第2ワンウェイクラッチ25は、
図7に示すように、第2ドグ35が車輪3と無関係となっている。このため、車輪3は前進するための転動のみが許容される。
【0037】
このため、このキャスタでは、車輪軸心Oが長穴9c、11cに沿って移動する際、車輪3が床面を摺接しながら旋回軸心P周りで180°旋回する必要はなく、かつ車輪3が床面を転動しない。このため、車輪軸心Oが長穴9c、11cに沿って後端から前端まで移動し易く、初動負荷軽減の効果が発揮される。
【0038】
なお、台車を停止させ、
図8及び
図9に示すように、慣性力によって車輪軸心Oが長穴9c、11cのほぼ中央に位置すれば、車輪3は停止していることから、第1ワンウェイクラッチ23の第1ドグ29も第2ワンウェイクラッチ25の第2ドグ35も揺動が停止する。
【0039】
台車を後方に移動させるため、
図5、
図10及び
図11に示すように、車輪軸心Oが長穴9cの前端に位置すれば、第1ワンウェイクラッチ23は、
図10に示すように、台車が後進する車輪3の左回りの転動を許容する。つまり、第1ワンウェイクラッチ23は、車輪軸心Oが長穴9cの前端に位置していることから、第1ドグ29が車輪3と無関係となっている。一方、第2ワンウェイクラッチ25は、
図11に示すように、車輪軸心Oが長穴9cの前端に位置していることから、ストッパ35Sの後面351が第2ギヤ33の第1歯面33aに当接し、前方に揺動する。前方に揺動した第2ドグ35は、ウェイト37による自重によって後方に揺動し、ロッド35Rがリング45と当接することによって次の当接、揺動を迎える。こうして、第2ドグ35は、ストッパ35Sの後面351が第2ギヤ33の第1歯面33aに順次当接し、前方に順次揺動する。このため、車輪3は後進するための転動が許容される。
【0040】
台車を再び停止させ、車輪軸心Oが長穴9cの前端に位置した状態で台車をそのまま前方に移動させようとすると、第2ワンウェイクラッチ25は、
図11に示すように、車輪3の前方への転動を禁止する。つまり、車輪3が逆転しようとすると、第2ギヤ33の第2歯面33bが第2ドグ35のストッパ35Sの上面352に当接し、車輪3の逆転を禁止する。一方、第1ワンウェイクラッチ23は、
図10に示すように、第1ドグ29が車輪3と無関係となっている。このため、車輪3は後進するための転動のみが許容される。
【0041】
したがって、このキャスタでは、台車を無人搬送車によって牽引し、牽引後に作業者がその台車を牽引されてきた方向に押し返す場合の初動負荷軽減の効果を増大することができる。前後式無人搬送車がその台車を前進した後、後進する場合も同様である。なお、このキャスタも、軸受装置47によって床面上を旋回することは可能である。
【0042】
また、このキャスタは、第1ドグ29と第2ドグ35とを勝手違いに製造し、第1ギヤ27と第2ギヤ33とを表裏逆の同一品として製造できるため、製造コストの低廉化を実現できる。さらに、このキャスタは、車輪3が軸受装置19によって好適に回転軸21周りで回転するため、床面上を好適に転動できる。
【0043】
(実施例2)
実施例2のキャスタは、
図12に示すように、第1付勢手段が引っ張りばね51である。このため、第1ドグ29のストッパ29Sが小型化されている。第2付勢手段も図示はしないが、引っ張りばねである。このため、第2ドグ35のストッパ35Sも小型化されている。このキャスタにおいても、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。
【0044】
以上において、本発明を実施例1、2に即して説明したが、本発明は上記実施例1、2に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0045】
例えば、偏心長さ変化機構4として、車輪軸心Oが長穴9cを移動する際の車輪軸心Oのねじれを防止するように構成することも可能である。また、ガイドとして、第1側壁9や第2側壁11を貫通する長穴9c、11cではなく、第1側壁9や第2側壁11に凹設されたものを採用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は台車等に利用可能である。
【符号の説明】
【0047】
9…第1側壁
11…第2側壁
P…旋回軸心
1…ブラケット
O…車輪軸心
3…車輪
9c、11c…ガイド(長穴)
4…偏心長さ変化機構
5、23、25…ワンウェイクラッチ機構(23…第1ワンウェイクラッチ、25…第2ワンウェイクラッチ)
27…第1ギヤ
29…第1ドグ
31、51…第1付勢手段(51…引っ張りばね)
33…第2ギヤ
35…第2ドグ
31…第2付勢手段
S1…第1揺動中心
291…第1端面(前面)
292…第1直交面(上面)
27a…第1揺動用歯面(第1歯面)
27b…第1係合用歯面(第2歯面)
S2…第2揺動中心
351…第2端面(後面)
352…第2直交面(上面)
33a…第2揺動用歯面(第1歯面)
33b…第2係合用歯面(第2歯面)
15…ホイール
17…タイヤ
19…軸受装置
21…回転軸