(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】不良部品予測モデルの作成方法、不良部品予測方法、不良部品予測プログラムおよび不良部品予測装置
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20231212BHJP
G01J 3/50 20060101ALI20231212BHJP
G01M 17/06 20060101ALI20231212BHJP
G01J 3/02 20060101ALI20231212BHJP
G06Q 50/04 20120101ALI20231212BHJP
G05B 23/02 20060101ALN20231212BHJP
【FI】
G01N17/00
G01J3/50
G01M17/06
G01J3/02 Z
G06Q50/04
G05B23/02 V
(21)【出願番号】P 2020108989
(22)【出願日】2020-06-24
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】弁理士法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】村井 千帆
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 剛
(72)【発明者】
【氏名】森 真人
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-204232(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0071029(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00-19/10
G01J 3/00- 4/04
7/00- 9/04
G01M 17/00-17/10
G05B 23/00-23/02
G06Q 10/00-10/10
30/00-30/08
50/00-50/20
50/26-99/00
G16Z 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部品交換によって環境試験で良判定された計測器ごとに、部品交換前の環境試験で得た計測データと、交換部品名とを関連付けて記録する記録ステップと、
計測器ごとに記録されている計測データを取得して、計測器の計測範囲を区分した領域ごとに当該領域に対応する計測データから特徴量を算出し、当該特徴量を成分とする特徴量ベクトルを作成する作成ステップと、
特徴量ベクトル同士の類否から、特徴量ベクトルを不良種別に分類する分類ステップと、
不良種別ごとに、当該不良種別に分類された特徴量ベクトルの作成に用いた計測データに関連付けられた交換部品名を対応付けるラベル付けステップと、を含む
ことを特徴とする不良部品予測モデルの作成方法。
【請求項2】
前記計測データは、複数の環境条件下に計測器をおいて得られた計測データを含む
ことを特徴とする請求項1に記載の不良部品予測モデルの作成方法。
【請求項3】
前記作成ステップは、互いに異なる環境条件に対応する計測データを組み合わせて、特徴量を生成する
ことを特徴とする請求項2に記載の不良部品予測モデルの作成方法。
【請求項4】
前記分類ステップは、クラスター分析によって、特徴量ベクトルを分類する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の不良部品予測モデルの作成方法。
【請求項5】
不良部品予測モデルを作成した後で、前記記録ステップで新たな計測データと不良部品名とを記録したら、当該新たな計測データを用いて前記作成ステップ、前記分類ステップおよび前記
ラベル付けステップを実行させて、不良部品予測モデルを更新する再学習ステップを含む
ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の不良部品予測モデルの作成方法。
【請求項6】
前記記録ステップは、更に、部品交換後の環境試験で得られた計測データと、当該環境試験の結果との少なくとも一方を前記計測データと関連付けて記録する
ことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の不良部品予測モデルの作成方法。
【請求項7】
前記環境試験は温湿度試験である
ことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の不良部品予測モデルの作成方法。
【請求項8】
前記計測器は分光測色計であって、
前記計測範囲は前記分光測色計が計測対象物の反射率を検出する波長領域である
ことを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の不良部品予測モデルの作成方法。
【請求項9】
環境試験で不良判定された計測器について、当該環境試験で得られた計測データを取得する取得ステップと、
取得した計測データから、計測器の計測範囲を区分した領域毎に特徴量を算出し、当該特徴量を成分とする特徴量ベクトルを作成する作成ステップと、
請求項1から8のいずれかに記載の作成方法で作成された不良部品予測モデルを用いて、前記特徴量ベクトルが属する不良種別を特定する種別特定ステップと、
前記不良部品予測モデルを用いて、不良種別に対応する不良部品名を予測する部品名予測ステップと、を含む
ことを特徴とする不良部品予測方法。
【請求項10】
特定した不良部品名を出力する出力ステップを備える
ことを特徴とする請求項9に記載の不良部品予測方法。
【請求項11】
計測器の部品ごとに不良発生確率を取得する確率取得ステップを含み、
前記出力ステップは、更に、部品ごとの不良発生確率を出力する
ことを特徴とする請求項10に記載の不良部品予測方法。
【請求項12】
環境試験で不良判定された計測器について、当該環境試験で得られた計測データを取得する取得ステップと、
取得した計測データから、計測器の計測範囲を区分した領域毎に特徴量を算出し、当該特徴量を成分とする特徴量ベクトルを作成する作成ステップと、
請求項1から8のいずれかに記載の作成方法で作成された不良部品予測モデルを用いて、前記特徴量ベクトルが属する不良種別を特定する種別特定ステップと、
前記不良部品予測モデルを用いて、不良種別に対応する不良部品名を予測する部品名予測ステップと、をコンピューターに実行させる
ことを特徴とする不良部品予測プログラム。
【請求項13】
環境試験で不良判定された計測器について、当該環境試験で得られた計測データを取得する取得手段と、
取得した計測データから、計測器の計測範囲を区分した領域毎に特徴量を算出し、当該特徴量を成分とする特徴量ベクトルを作成する作成手段と、
請求項1から8のいずれかに記載の作成方法で作成された不良部品予測モデルを用いて、前記特徴量ベクトルが属する不良種別を特定する種別特定手段と、
前記不良部品予測モデルを用いて、不良種別に対応する不良部品名を予測する部品名予測手段と、を備える
ことを特徴とする不良部品予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、不良部品予測モデルの作成方法、不良部品予測方法、不良部品予測プログラムおよび不良部品予測装置に関し、特に、環境試験の結果データから当該環境試験で不良と判定された計測装置を構成する不良部品を特定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
分光測色計は、物体の色を各波長の反射または透過率から計測する計測器であり、他の電子部品や装置と同様に製品出荷に先立って品質管理を目的としたさまざまな試験が実施される。分光測色計は電子部品や光学部品といった多数の部品からなっており、最終製品について検査を実施して不良品であると判定された場合には不具合の原因になっていると推定される部品を交換して再度検査を行うことになる。
【0003】
しかしながら、組み立て品を構成する各部品はあらかじめ検査された上で組み立てられているので、不具合の原因になっている部品を推定することは必ずしも容易ではない。このため、不具合の原因になっていない部品を誤って不具合の原因になっている部品と推定してしまうと、当該部品を浪費したり、部品交換の手間が無駄になったり、工期が延長する等してコスト上の損失が発生する。
【0004】
また、最終製品の全数評価をしなければならなくなるので、特に、最終製品の部品点数が多く、不具合の原因になっている部品の推定精度が低い場合に、最終製品が不良品と判定されるたびに、試行錯誤で無駄な部品交換を何度も繰り返すと、コスト上の損失が膨大になってしまう。
【0005】
このような問題に対して、例えば、ステアリング装置などの組み立て品を機械的に動作させたときに発生する動作音から、当該組み立て品を構成する部品が良品であるか不良品であるかを機械学習モデルによって予測する技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0006】
また、工作機械を構成する主軸および主軸モーターの組み立て不良の有無と組み立て不良の種類を主軸モーターの電流値や振動値、音声値などから機械学習モデルを用いて推定する技術も提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【0007】
これらの従来技術を利用すれば、製品を機械的に動作させることによって得られた検査結果からどの部品が不具合を有しているかを推定するので、無駄な部品交換を抑制することができると期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2019-204232号公報
【文献】特開2019-204232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
分光測色計について実施される製品検査のひとつに環境試験がある。環境試験のうち、例えば、温湿度試験では、分光測色計が雰囲気の温度や湿度およびその変化にどのくらい耐性を有し、計測器としての性能を維持することができるかを確認する。温湿度試験で良品であることが確認された分光測色計は、合格証付きで製品出荷される。
【0010】
温湿度試験で不良品であると判定された場合にも、他の検査で不良品と判定された場合と同様に、部品交換などによる修正が試みられる。この修正コストを可能な限り低減する必要があることも、他の検査と同様である。
【0011】
しかしながら、分光測色計は機械的な動作を伴わずに計測動作を実行するため、機械的に動作させることによって、振動状態などから、どの部品が不具合を有しているかを推定する上記の従来技術をそのまま適用することはできない。また、電子部品が組み込まれてはいるものの、電流値や電圧値の変動量は限定的なので、電流値などから不良部品を特定することも難しい。
【0012】
このような問題は、分光測光計に限らず広く環境試験を実施する計測装置に共通する問題である。
【0013】
本開示は、上述のような問題に鑑みて為されたものであって、環境試験の結果データから当該環境試験で不良と判定された計測器を構成する不良部品を予測するための不良部品予測モデルの作成方法、不良部品予測方法、不良部品予測プログラムおよび不良部品予測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本開示の一形態に係る不良部品予測モデルの作成方法は、部品交換によって環境試験で良判定された計測器ごとに、部品交換前の環境試験で得た計測データと、交換部品名とを関連付けて記録する記録ステップと、計測器ごとに記録されている計測データを取得して、計測器の計測範囲を区分した領域ごとに当該領域に対応する計測データから特徴量を算出し、当該特徴量を成分とする特徴量ベクトルを作成する作成ステップと、特徴量ベクトル同士の類否から、特徴量ベクトルを不良種別に分類する分類ステップと、不良種別ごとに、当該不良種別に分類された特徴量ベクトルの作成に用いた計測データに関連付けられた交換部品名を対応付けるラベル付けステップと、を含むことを特徴とする。
【0015】
この場合において、前記計測データは、複数の環境条件下に計測器をおいて得られた計測データを含んでもよいし、前記作成ステップは、互いに異なる環境条件に対応する計測データを組み合わせて、特徴量を生成してもよい。
【0016】
また、前記分類ステップは、クラスター分析によって、特徴量ベクトルを分類してもよい。
【0017】
また、不良部品予測モデルを作成した後で、前記記録ステップで新たな計測データと不良部品名とを記録したら、当該新たな計測データを用いて前記作成ステップ、前記分類ステップおよび前記ラベル付けステップを実行させて、不良部品予測モデルを更新する再学習ステップを含んでもよい。
【0018】
また、前記記録ステップは、更に、部品交換後の環境試験で得られた計測データと、当該環境試験の結果との少なくとも一方を前記計測データと関連付けて記録してもよい。
【0019】
また、前記環境試験は温湿度試験であるのが望ましい。
【0020】
また、前記計測器は分光測色計であって、前記計測範囲は前記分光測色計が計測対象物の反射率を検出する波長領域であってもよい。
【0021】
また、本開示の一形態に係る不良部品予測方法は、環境試験で不良判定された計測器について、当該環境試験で得られた計測データを取得する取得ステップと、取得した計測データから、計測器の計測範囲を区分した領域毎に特徴量を算出し、当該特徴量を成分とする特徴量ベクトルを作成する作成ステップと、請求項1から8のいずれかに記載の作成方法で作成された不良部品予測モデルを用いて、前記特徴量ベクトルが属する不良種別を特定する種別特定ステップと、前記不良部品予測モデルを用いて、不良種別に対応する不良部品名を予測する部品名予測ステップと、を含むことを特徴とする。
【0022】
この場合において、特定した不良部品名を出力する出力ステップを備えてもよい。また、計測器の部品ごとに不良発生確率を取得する確率取得ステップを含み、前記出力ステップは、更に、部品ごとの不良発生確率を出力してもよい。
【0023】
また、本開示の一形態に係る不良部品予測プログラムは、環境試験で不良判定された計測器について、当該環境試験で得られた計測データを取得する取得ステップと、取得した計測データから、計測器の計測範囲を区分した領域毎に特徴量を算出し、当該特徴量を成分とする特徴量ベクトルを作成する作成ステップと、請求項1から8のいずれかに記載の作成方法で作成された不良部品予測モデルを用いて、前記特徴量ベクトルが属する不良種別を特定する種別特定ステップと、前記不良部品予測モデルを用いて、不良種別に対応する不良部品名を予測する部品名予測ステップと、をコンピューターに実行させることを特徴とする。
【0024】
また、本開示の一形態に係る不良部品予測装置は、環境試験で不良判定された計測器について、当該環境試験で得られた計測データを取得する取得手段と、取得した計測データから、計測器の計測範囲を区分した領域毎に特徴量を算出し、当該特徴量を成分とする特徴量ベクトルを作成する作成手段と、請求項1から8のいずれかに記載の作成方法で作成された不良部品予測モデルを用いて、前記特徴量ベクトルが属する不良種別を特定する種別特定手段と、前記不良部品予測モデルを用いて、不良種別に対応する不良部品名を予測する部品名予測手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
環境試験で不良判定された計測器の計測データが基準となる公差範囲内から逸脱して、所望の精度を達成していない場合、計測器の計測範囲を区分したどの領域の計測データが基準を満たしていないかによって、交換すべき部品が異なる場合がある。このような場合、交換によって環境試験が良判定となった部品と、特徴量ベクトルを分類した不良種別とを対応付けておけば、計測データから作成した特徴量ベクトルがどの不良種別に該当するかによって、交換すべき部品を精度よく予測する予測モデルを作成することができる。
【0026】
このような予測モデルを用いれば、環境試験で不良判定された計測器を構成する不良部品を特定するための部品ロスと工数を低減することができる。また、環境試験で良判定されるまで何度も部品交換を繰り返す場合には、環境試験もまた繰り返すことになるが、この再試験の回数もまた低減することができるので、再試験の手間とコストも低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】不良部品予測システムの主要な構成を示す図である。
【
図2】(a)は温湿度試験における温度および湿度の設定と分光測色計111による計測タイミングとを例示するグラフであり、(b)は温湿度試験の担当者が行う作業の流れを表したフローチャートであって、本実施の形態に係る作業の流れと、従来の作業の流れとを比較している。
【
図3】(a)は、繰り返し性検査におけるσ反射率と波長との関係を例示するグラフであり、(b)は、事前フェーズAと高温フェーズBとの差検査におけるΔ反射率と波長との関係を例示するグラフである。
【
図4】(a)は、繰り返し性検査における規格値と良品のσ反射率の3σとの関係を例示するグラフであり、(b)は、事前フェーズAと高温フェーズBとの差検査における規格値と良品のΔ反射率の±3σのとの関係を例示するグラフである。
【
図5】温湿度試験の各フェーズと、分光測色計111の計測範囲を区分した波長領域との組み合わせを中心として、説明変数をまとめた表である。
【
図6】(a)は、高温高湿環境下でのリーク電流の発生メカニズムを説明する図であり、(b)は、相対湿度とリーク電流量との関係を例示するグラフである。
【
図7】分光測色計111の部品ごとの特性を動作原理から考察することによって、説明変数ごとに交換すべき部品を推察した表である。
【
図8】特徴量ベクトルを不良種別ごとに分類したクラスターを説明する概念図である。
【
図9】不良部品予測装置100の主要なハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図10】(a)は、不良部品の予測モデルを作成するために不良部品予測装置100が備える機能構成を表すブロック図であり、(b)は、不良部品を予測するために不良部品予測装置100が備える機能構成を表すブロック図である。
【
図11】(a)は、不良部品の予測モデルを作成するための不良部品予測装置100の動作を表すフローチャートであり、(b)は、不良品を予測するための不良部品予測装置100の動作を表すフローチャートである。
【
図12】(a)は、部品単体では規格を満足するものの製品トータルでは規格を満足しない例1を説明する表であり、(b)は、規格を満足する部品が環境条件によって規格を満足しなくなったために製品トータルで規格を満足しない例2を説明する表である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本開示に係る不良部品予測装置、不良部品予測方法および不良部品予測プログラムの実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
[1]不良部品予測システムの構成
まず、本実施の形態に係る不良部品予測システムの構成について説明する。
【0029】
図1に示すように、不良部品予測システム1は、分光測色計111に関する環境試験(温湿度試験)の結果データを用いて、分光測色計111のどの部品が不良部品であるかを予測するシステムであって、不良部品予測装置100および外部記憶装置101を備えている。
【0030】
分光測色計111は、計測対象物123に照明光を照射し、その反射光を検出することによって、計測対象物123の分光反射率を計測する装置である。分光測色計111が分光反射率を検出する波長領域は、紫外領域と可視光領域とを含むことが多く、赤外領域の分光反射率を検出することができる分光測色計111もある。
【0031】
分光測色計111の環境試験は、環境試験装置121を用いて実施される。環境試験装置121は、調温調湿装置122を備えており、内部を所望の温度および湿度に調節することができる。分光測色計111の環境試験においては、環境試験装置121に分光測色計111と計測対象物123とを収容した状態で、内部を所定の温度および湿度に調節し、分光測色計111で計測対象物123を測色する。
【0032】
本実施の形態においては、計測対象物123として、被計測面が白色になっている部材を用いる。白色になっているとは、波長ごとの反射率のバラツキが所定の範囲内に収まっていることをいう。
【0033】
測色の結果、得られた計測データは、分光測色計111に端末装置102を接続して回収する。端末装置102は、例えば、RS-232C等のシリアルインターフェイスを用いて分光測色計111に接続してもよいし、他のインターフェイスを用いてもよい。環境試験の担当者は、当該計測データを参照して、分光測色計111が良品であるか不良品であるかを判定する。
【0034】
端末装置102は、LAN(Local Area Network)やインターネットといった通信ネットワーク130を経由して、不良部品予測装置100と相互通信可能に接続されている。環境試験の担当者は、分光測色計111が不良品であると判定すると、計測データを不良部品予測装置100へ送信する。なお、端末装置102から外部記憶装置101に対して直接、計測データを書き込んで、不良部品予測装置100に参照させてもよい。
【0035】
不良部品予測装置100は、端末装置102から受け付けた計測データや外部記憶装置101から読み出した計測データを参照して、分光測色計111の不良部品を予測する。
[2]環境試験
次に、分光測色計111に対して実施する環境試験について説明する。
【0036】
上述のように、分光測色計111に対する環境試験として、本実施の形態においては温湿度試験を実施する。温湿度試験は、(1)温度および湿度やその変化の計測データへの影響が規格範囲内であるか、(2)主として光学部品や回路部品の温度特性に起因する計測データの変動が規格範囲内に収まっているか、(3)湿度に起因してリークパスが発生し、当該リークパスを流れるリーク電流に起因する計測データの変動が規格範囲内に収まっているかを確認することを目的として実施される。また、分光測色計111の温湿度試験は全数評価であり、すべての分光測色計111が試験対象になる。
【0037】
分光測色計111は、計測対象物からの反射光を光電変換することによって電気信号に変換して、当該反射光量を検出するため、検出回路の初段で扱う電流は電流量が数フェムトAという微小電流になる場合もある。また、高性能な光学部品を使用していることも特徴である。これらは、環境温湿度の影響を受け易く、計測データに誤差を生じる原因になるため、分光測色計111の正常な動作を担保するためには、温湿度試験が必須になる。
【0038】
本実施の形態に係る温湿度試験では、
図2(a)に例示するように、環境試験装置121の内部に分光測色計111を収容した状態で、まず、事前フェーズAでは、環境試験装置121の内部を所定の時間だけ常温常湿状態を維持してから、タイミングT1に分光測色計111で計測対象物123を計測する。分光測色計111は、計測データとして分光反射率を記録する。
【0039】
次の高温フェーズBでは、環境試験装置121の内部を所定の時間だけ高温常湿状態を維持してから、タイミングT2に分光測色計111で計測対象物123を計測し、計測データを記録する。更に、高温高湿フェーズCでは、環境試験装置121の内部を所定の時間だけ高温高湿状態を維持してから、タイミングT3に分光測色計111で計測対象物123を計測し、計測データを記録する。
【0040】
その後、環境試験装置121の内部をフェーズB、Cよりも高い最高温状態に所定の時間だけ放置してから、事後フェーズDで、環境試験装置121の内部を所定の時間だけ常温常湿状態を維持してから、タイミングT4に分光測色計111で計測対象物123を計測し、計測データを記録する。
【0041】
なお、環境試験装置121の内部を所定の温度および湿度に維持する時間は、例えば、分光測色計111の内部を含む全体が当該温度および湿度になるのに足りる時間であってもよい。フェーズ毎に検出したい不良の種類に応じた時間を設定するのが望ましい。事前フェーズAを開始してから事後フェーズDを完了するまでに長時間を要する場合には、環境試験を夜間に自動実行させることもある。つまり、試験担当者が試験準備をしておき、夕方に環境試験の自動実行を開始させ、翌朝に試験結果を回収するといった試験手順がとられる。
【0042】
図2(b)に示すように、温湿度試験の担当者は、上述のように温湿度試験を実施した後(S201)、分光測色計111の計測データを参照して、当該分光測色計111の良否を判定する。試験結果が不良である場合には(S202:NG)、試験担当者が端末装置102を用いて計測データを不良部品予測装置100に入力すると(S203)、不良部品予測装置100は当該計測データから不良部品予測モデルを用いて不良部品を予測する(S204)。
【0043】
試験担当者は、不良部品予測装置100が不良部品であると予測した部品を交換して(S205)、再度、温湿度試験を実施する(S201)。試験結果が良である場合には(S202:OK)、良と判定した温湿度試験の直前に交換した部品名と、当該交換の直前に実施した温湿度試験で得られた計測データと、を関連付けて外部記憶装置101に記録しておく(S206)。
【0044】
このように計測データと交換部品とを関連付けて記録しておけば、外部記憶装置101に蓄積した計測データを解析することによって、交換すべき部品に対応する計測データの傾向を把握することができる。その後、当該分光測色計111を出荷することができる(S207)。再度、不良と判定した場合には(S202:NG)、上記の手順を繰り返す。
【0045】
従来は、試験結果が不良となった場合(S202:NG)、試験担当者は、分光測色計111の機種担当者(技術者など)に連絡し(S203´)、連絡を受けた機種担当者が計測データを確認して、試験担当者に対応を指示し(S204´)、この指示に従って試験担当者は分光測色計111の部品を交換して(S205´)、再度、温湿度試験を実施していた(S201)。
【0046】
しかしながら、機種担当者が計測データを解析して、過去の知見も利用して推定した不良部品を交換しても、試験結果がなかなか良にならない場合や、計測データを詳細に解析しても不具合の原因が特定できない場合も多い。例えば、
図3(a)に例示するグラフは、個々の分光測色計111に対して計測データを繰り返し記録した場合の波長ごとの反射率の標準偏差(以下、「σ反射率」という。)を示しており、横軸は波長である。
【0047】
図3(a)では、破線のグラフ300がσ反射率の規格値であるのに対して、グラフ301で表した計測データは規格を充足している一方、グラフ302は短波長域で規格が充足されておらず、グラフ303は中波長域で規格が充足されていない。また、グラフ304は長波長域で規格が充足されていない。
【0048】
また、分光測色計111は、常温であっても高温であっても精度よく測色できることが要求されるため、事前フェーズAと高温フェーズBとの間の計測データの差は小さいのが望ましい。
図3(b)では、縦軸が反射率の差(以下、「Δ反射率」という。)を、横軸が波長を表しており、破線310+、310-はΔ反射率の上下限の規格値を表している。
【0049】
グラフ311は、波長領域全体に亘って規格値の範囲内にあるが、グラフ312は長波長域においてΔ反射率の下限の規格値から外れている部分がある。このように、計測データを参照すれば、分光測色計111が不良判定された理由は容易に理解することができるものの、どの部品が不良判定の原因になっているのかは、機種担当者であってもすぐには分からない場合が多い。
【0050】
このような理由から、不良と判定された分光測色計111を良品にするまでには平均して4回の部品交換が必要になっている。この4回の部品交換では不良部品以外の部品も交換している可能性が高く、また、温湿度試験のやり直しの手間もかかることから、従来は、分光測色計111のコストを押し上げる要因になっている。
[3]不良部品予測モデル
次に、分光測色計111の温湿度試験の計測データから不良部品を予測する不良部品予測モデルについて説明する。
【0051】
分光測色計111を用いた計測データが規格値を充足しているかどうかは、製品の品質を管理する上では重要であるが、不良部品を予測するための説明変数としては必ずしも妥当するとは限らない。このため、本実施の形態においては、σ反射率およびΔ反射率の良し悪しを判断する尺度として、良品と判定された分光測色計111のσ反射率およびΔ反射率の3σ(標準偏差σの3倍)の範囲内に収まっているかどうかを説明変数とする。
【0052】
図4(a)においては、破線のグラフ300が、分光測色計111の製品としてのσ反射率の規格値を表し、実線のグラフ400が不良部品を特定するための閾値を表している。グラフ400は、良品判定された分光測色計111のσ反射率の平均値に3σを加算したグラフであるので、必ずしも滑らかではないものの、当然ながら波長領域全体に亘って規格値(グラフ300)を充足している。
【0053】
また、
図4(b)においては、破線のグラフ310+、310-が、分光測色計111の製品としてのΔ反射率の上下限の規格値を表し、実線のグラフ410+、410-が不良部品を特定するための上下の閾値を表している。グラフ410+は、良品判定された分光測色計111のΔ反射率の平均値に3σを加算したグラフであり、グラフ410-は、良品判定された分光測色計111のΔ反射率の平均値から3σを減算したグラフであるので、当然ながら波長領域全体に亘って規格値(グラフ310+、310-)を充足している。
【0054】
温湿度試験で得られた分光測色計111の計測データが、これらの閾値を充足しているかどうかを説明変数として、以下「高温ΔRef」というものとする。
また、説明変数としてσΔE/ΔEも用いる。ΔEは色空間Labにおける2つの色の色差である。本実施の形態においては、計測対象物123の色のLab座標値と、温湿度試験で分光測色計111を用いて得た計測データが表す色のLab座標値と、から色差ΔEを算出する。この算出には国際照明委員会(CIE: Commission international de l'eclairage)が1976年に規定した算出方法を用いる。
【0055】
σΔEは、分光測色計111を用いて繰り返し計測データを記録した場合におけるΔEのバラツキを表す値であって、次式(1)
σΔE={(σL)2+(σa)2+(σb)2}1/2 …(1)
を用いて算出される。
【0056】
同様にして、事前フェーズAと高温フェーズBとの間の色差ΔEを求め、この色差ΔEが所定の閾値よりも小さくなっているかも説明変数とする。この説明変数を「高温ΔE」というものとする。
【0057】
また、σ反射率が規格値を充足していないのがどの波長領域であるかについても説明変数とする。本実施の形態においては、400nm以上、460nm以下の波長領域を短波長域といい、短波長域でσ反射率が規格値を充足していないことを「短波長NG」という。同様に、470nm以上、640nm以下を中波長域、670nm以上、700nm以下を長波長域といい、これらの波長領域で規格値が充足されていないことを、それぞれ「中波長NG」、「長波長NG」という。
【0058】
なお、波長領域を区分する際の部分領域の数が3つに限定されないのは言うまでもなく、2つであってもよいし、4つ以上であってもよい。また、上記のように、波長領域どうしは必ずしも隣接している必要は無く、短波長域の上限460nmと中波長領域の下限470nmのように、間が空いていてもよい。また、波長領域の範囲についても上記には限定されない。
【0059】
波長領域は最終的な交換部品に応じて区分するのが望ましい。とりあえず波長領域を細かく区分しておき、後述するクラスタリングによって互いに異なる波長領域どうしを不良種別ごとにまとめることも考えられるが、説明変数の数が多くなり過ぎると、予測モデルの作成が難しくなる恐れがあるので必ずしも有効ではない。
【0060】
図5は、説明変数をまとめた表である。分光測色計111に関する温湿度試験の過去の実績から、
図5に示すように、分光測色計111が不良判定される要因には、短波長NG、長波長NG、湿度リーク、σΔE NG、高温ΔRef NGおよび高温ΔE NGが有ることが分かった。
【0061】
なお、湿度リークは、分光測色計111がおかれている環境が高温高湿状態にある場合に発生し得る現象であって、
図6(a)に例示するように、回路基板上の電源パターン601と信号パターン603とに跨って付着したごみや汚れ602が、高温高湿環境の影響を受けて導通することによって、電源パターン601と信号パターン603とが短絡し、漏れ電流が流れる現象である。
【0062】
図6(b)に示すグラフは漏れ電流と相対湿度との関係を表したグラフであって、例えば、環境温度が35℃である場合、相対湿度RHが高くなるほど、漏れ電流が多くなる傾向があり、この傾向は高湿環境下で特に顕著である。なお、湿度リークは分光測色計111の品質に影響を及ぼすほどではないため、品質試験では必ずしも問題になっていない。
【0063】
分光測色計111を構成する部品には、例えば、発光基板、メイン基板、キセノン管、ミラー、アナログ基板、デジタル基板、セルブロック等がある。キセノン管は、計測対象物123を照明するための光源であり、発光基板はキセノン管を発光させるための発光回路を実装した回路基板である。ミラーは、計測対象物123をあらゆる方向から均等に照明するために用いられる光学部材(積分球)である。メイン基板は、分光測色計111のメイン回路が実装されている回路基板である。
【0064】
アナログ基板は、計測対象物123からの反射光を検出する受光回路などのアナログ回路が実装されている回路基板であり、デジタル基板は、デジタル化された検出信号などに対してデジタル信号処理などを実行するデジタル回路が実装されている回路基板である。セルブロックは、分光光学系のユニットである。
【0065】
分光測色計111の部品ごとの特性をその動作原理から考察すると、当該部品が不良である場合には、
図7に示す表のような不具合が説明変数に現れると推察される。すなわち、発光基板に不具合が生じて、キセノン管の発光が不安定になると、短波長域では特に光量が少ないので繰り返し性が悪化して短波長NGが発生する。この結果、波長領域全体に関するσΔEもまた悪化する。なお、キセノン管が不良である場合も同様である。
【0066】
アナログ基板については、原理的に湿度リーク現象を発生させる回路部分を有していることが分かっている。
【0067】
ミラーは、環境温度が変化すると反射率が変動するので、高温ΔRef NGを発生させる。
【0068】
セルブロックと長波長NGとの関係、並びにミラーと短波長NGとの関係については、必ずしも原理的な考察ではないが、交換前後の計測データを比較する等したところ部品と説明変数との関係が示唆されている。
【0069】
しかしながら、動作原理からの考察だけでは、実際の計測データから不良部品を特定することは容易ではないため、従来は試行錯誤的に部品交換を繰り返さざるを得ない。
【0070】
これに対して、分光測色計111が良品と判定された直前に交換した部品、言い換えると分光測色計111が不良品と判定された原因となった不良部品であると推定される部品と、当該部品を交換する直前に行った温湿度試験における説明変数の値、言い換えると当該不良部品が原因で発生したと推定される計測データの特徴との関係をクラスタリングアルゴリズム(本実施の形態ではk平均法)を用いて分析したところ、短波長NG、長波長NG、湿度リーク、σΔE NG、高温ΔRef NGおよび高温ΔE NGの6つの説明変数を用いれば、セルブロック、ミラー、アナログ基板および発光基板のいずれの部品を交換すれば分光測色計111が良品と判定される不良部品であるかを予測することができることが分かった。
【0071】
すなわち、計測データから得られたσ反射率やΔ反射率などの特徴量がどのクラスターに属しているかを確認することによって、当該特徴量が属しているクラスターに対応する部品を交換すれば、次の温湿度試験で分光測色計111を良品と判定させることができる。
【0072】
図8の例では、計測データから得られた特徴量A、B、Cを成分とする特徴量ベクトルから分光測色計111が3つのクラスター811、812、813に分類されている。クラスター811は部品□を交換することによって、温湿度試験で良品と判断されるようになった分光測色計111であり、クラスター812は部品〇を交換することによって、温湿度試験で良品と判断されるようになった分光測色計111である。また、クラスター813は部品△を交換することによって、温湿度試験で良品と判断されるようになった分光測色計111である。
【0073】
新たに温湿度試験を行った分光測色計111の計測データに対応する特徴量ベクトルが星印800のような座標にある場合、星印800はクラスター813に属しているので、当該分光測色計111が温湿度試験で良品と判断されるようにするためには、クラスター813に対応する部品△を交換すればよいことになる。
[4]不良部品予測装置100の構成
次に、上記のような不良部品予測モデルを用いて、温湿度試験で不良品と判定された分光測色計111の計測データから不良部品を予測する装置である不良部品予測装置100の構成について説明する。
【0074】
図9に示すように、不良部品予測装置100は、CPU(Central Processing Unit)911やROM(Read Only Memory)912、RAM(Random Access Memory)913等を備えている。CPU911は、不良部品予測装置100に電源が投入される等してリセットされると、ROM912からブートプログラムを読み出して起動し、RAM913を作業用記憶領域として、HDD(Hard Disk Drive)914から読み出した予測モデル作成プログラム900や不良部品予測プログラム901、OS(Operating System)902等を実行する。
【0075】
NIC(Network Interface Card)915は、不良部品予測装置100が通信ネットワーク130を経由して端末装置102から計測データを受け付ける等のための通信処理を実行する。CPU911、ROM912、RAM913、HDD914及びNIC915は内部バス916を経由して相互にデータや制御信号などを送受信する。
【0076】
図9においては、外部記憶装置101もまた内部バス916に接続されているが、外部記憶装置101を通信ネットワーク130に接続して、不良部品予測装置100と通信させてもよい。
【0077】
不良部品予測装置100は、不良部品の予測モデルを作成するために、
図10(a)に示すような機能構成を備えている。まず、外部記憶装置101には、部品交換によって温湿度試験で良品と判定された分光測色計111の交換部品名1002が、当該部品交換を行う直前の温湿度試験での計測データ1001と関連付けて記録されている。
【0078】
特徴量作成部1003は、外部記憶装置101から計測データ1001と交換部品名1002とを読み出して、波長領域毎のσ反射率、Δ反射率、ΔE等の特徴量を算出する。以下、この特徴量を成分とするベクトルを「特徴量ベクトル」という。
【0079】
分類部1004は、特徴量ベクトルを分類する。本実施の形態においてはk平均法を用いたクラスタリングによって、特徴量ベクトルをそれぞれ交換すべき不良部品に対応する4つのクラスターに分類する。特徴量の作成と特徴量ベクトルの分類には、市販の統計解析ソフトウェアを用いてもよく、例えば、JMP(米国SAS Institute inc.の登録商標。)を用いることができる。
【0080】
ラベル付与部1005は、特徴量ベクトルのクラスター毎に、交換すべき不良部品名を表すラベルを付与する。例えば、「セルブロック」、「ミラー」、「アナログ基板」、「発光基板」などである。
【0081】
不良部品予測装置100は、更に、不良部品を予測するために、
図10(b)に示すような機能構成も備えている。まず、外部記憶装置101には、温湿度試験で不良品と判定された分光測色計111の計測データが記録されている。
【0082】
入力部1011は、外部記憶装置101から分光測色計111の計測データを読み出して、特徴量ベクトルを作成する。
【0083】
処理部1012は、入力部1011で作成した特徴量ベクトルから、不良部品の予測モデルを用いて、不良部品を予測する。上述のように、特徴量ベクトルがいずれかのクラスターに属している場合には、当該クラスターに付与されたラベルによって交換すべき不良部品が予測される。
【0084】
また、特徴量ベクトルが、
図8の星印801に例示するような座標にあって、どのクラスターにも属していない場合には、当該特徴量ベクトル801からクラスター811、812、813までの距離D1、D2、D3を求める。この距離は、例えば、特徴量空間における特徴量ベクトル801からクラスター811、812、813の各重心までのユークリッド距離であってもよいし、特徴量成分ごとに重み付けを行ってもよい。ユークリッド距離以外にもさまざまな距離を用いることができる。
【0085】
このようにして算出した距離D1、D2、D3を用いて、部品ごとに交換すべき不良部品に該当する確率(特徴量ベクトルがクラスター811、812、813に属し得る確率)を算出してもよい。例えば、クラスター811に付与されているラベルに対応する部品を交換すべき確率P1は、
P1 = D1/(D1+D2+D3) …(2)
としてもよい。クラスター812、813に係る部品についても、当該部品を交換すべき確率P2、P3を同様に算出することができる。
【0086】
また、距離D1、D2、D3がどれも所定の閾値よりも大きい場合には、交換すべき部品を予測することができなかったと判断してもよい。温湿度試験で分光測色計111が不良品と判定された原因が、予測モデルで想定している部品不良以外の原因である可能性が高いからである。このような閾値としては、例えば、クラスター毎に当該クラスターにおける特徴量ベクトルの分布を考慮して3σの範囲を用いることができる。
【0087】
出力部1013は、処理部1012による不良部品の予測結果を不良部品に関する情報1015として外部記憶装置101に記録する。この場合において、不良部品に関する情報1015に外部記憶装置101に記録したことを端末装置102に通知してもよいし、不良部品に関する情報1015を端末装置102に送信してもよい。
[5]不良部品予測装置100の動作
次に、不良部品予測装置100の動作について説明する。
(5-1)不良部品の予測モデルを作成する動作
不良部品予測装置100は、不良部品の予測モデルを作成する場合には、
図11(a)に示すように、外部記憶装置101に記録されている不良部品の予測モデルを作成するため記録してある計測データについて温湿度試験ごとにステップS1101からS1104までの処理を実行する。具体的には、外部記憶装置101から計測データを取得する(S1102)。ステップS1101およびS1104は、上述の温湿度試験ごとに処理を繰り返すループ処理を表す記号である。
【0088】
ここで、予測モデル作成用の計測データとは、過去に部品交換によって温湿度試験で良品と判定された分光測色計111に関して、最後の部品交換の直前に実施した温湿度試験、言い換えると良品判定された温湿度試験の1回前の温湿度試験において分光測色計111を用いて得られた計測データである。上述のように、外部記憶装置101には当該計測データと関連付けて最後に交換した部品の部品名が記録されている。
【0089】
次に、計測データから特徴量ベクトルを作成する(S1103)。このため、例えば、環境条件(温湿度試験におけるフェーズ)と、波長領域との組み合わせ毎に反射率から特徴量ベクトルの成分となる特徴量を算出する。特徴量のうち、σ反射率は、波長ごとに反射率Rを複数回繰り返し計測した場合の、波長ごとの反射率Rの標準偏差であって、次式(3)を用いて算出される。
【0090】
(σ反射率)=[Σ{(反射率R)-(反射率Rの平均値)}2]/N …(3)
なお、反射率Rの標本数はNとし、ΣはN個の反射率に関する総和である。いうまでもなく、
(反射率Rの平均値)=Σ(反射率R)/N …(4)
である。
また、Δ反射率は、事前フェーズAで計測した反射率Rと、高温フェーズBで計測した反射率Rとの差を波長ごとに求めたものである。すなわち、
(Δ反射率)=(事前フェーズAの反射率R)-(高温フェーズBの反射率R) …(5)
である。
【0091】
色差ΔEの算出には国際照明委員会CIEが1976年に規定した算出方法を用いる。σΔEはΔEの標準偏差であって、反射率RをN回計測した場合には、
(σΔE)=[Σ{(ΔE)-(ΔEの平均値)}2]/N …(6)
である。
【0092】
予測モデルを作成する際には、このような計測データをすべて用いてもよいし、その一部を選択して用いてもよい。また、一旦、予測モデルを作成した後で、別の計測データを追加してもよい。この場合には、追加した計測データについてのみステップS1101からステップS1104までの処理を実行してもよい。
【0093】
また、特徴量を算出する際には、不良部品と紐づく原理的な観点から導き出されたルールに基づいてデータ加工を行っても良いし、同一不良部品のデータ群から導き出されたルールに基づいてデータ加工を行っても良い。
【0094】
次に、k平均クラスタリングアルゴリズムを用いて、特徴量ベクトルを不良種別に分類する(S1105)。また、外部記憶装置101から交換部品情報を取得して、不良種別ごとに当該不良種別に属する特徴量ベクトルの算出に用いた計測データに関連付けられている交換部品を特定して(S1106)、不良種別にラベルを付与することによって、不良種別と交換部品名とを対応付ける(S1108)。
【0095】
最後に、予測モデルとして、計測データから作成された特徴量ベクトルがどの不良種別のクラスターに含まれるか、また、特徴量ベクトルと各クラスターとの距離を案出するための情報と、不良種別と交換部品名との対応関係とを、外部記憶装置101に記録して(S1109)、処理を終了する。
(5-2)不良部品を予測する動作
不良部品予測装置100は、不良部品を予測する場合には、
図11(b)に示すように、端末装置102から受け付けるか、外部記憶装置101から読み出すかして温湿度試験の計測データを取得し(S1111)、当該計測データからから特徴量ベクトルを作成する(S1112)。次に、外部記憶装置101から予測モデルを読み出して、特徴量ベクトルが属するクラスターを特定したり、特徴量ベクトルが各クラスターに属し得る確率を算出したりして、不良部品を予測する(S1113)。
【0096】
特徴量ベクトルが属するクラスターを特定することができた場合には、当該クラスターの不良種別に付与されているラベルから不良部品を予測することができる。また、特徴量ベクトルが属し得る確率を算出した場合には、最も確率が高いクラスター不良種別に付与されているラベルから不良部品を予測してもよい。
【0097】
最後に、予測結果を出力する(S1114)。予測結果は、外部記憶装置101に記録してもよいし、端末装置102に送信してもよい。また、その両方を実行してもよい。
[6]変形例
以上、本開示を実施の形態に基づいて説明してきたが、本開示が上述の実施の形態に限定されないのは勿論であり、以下のような変形例を実施することができる。
(6-1)温湿度試験は製品が完成してから実施される試験であるため、当該分光測色計111はどの部品も温湿度試験よりも上流工程で実施される試験で良品と判定されている。それに関わらず、温湿度試験の段階で不良部品が残っているのは次のような場合があり得る。
【0098】
例えば、部品A~Eによって構成されている製品の繰り返し性検査を実施する場合について考える。部品の受入検査においては、各部品の供給元が規定の公差を満足しているかが確認される。例えば、部品Aの公差の規格値が1.15である場合には、当該公差1.15を満足しているかどうかを受入検査で確認する。
【0099】
しかしながら、部品を採用する場合に、部品の公差を厳しくし過ぎると部品のコストが上昇するため、公差だけでなく、部品の実力値も参考にする。例えば、部品Aの公差の規格値が1.15であったとしても、概ねどの部品Aも公差0.94を満足している場合には、公差0.94を実力値として当該部品Aを採用する場合がある。実力値を満足しない部品Aがあったとしても少数なので、部品Aそのものが安価であれば供給元にも供給先にも双方ともにコストメリットがあるからである。
【0100】
そこで、
図12(a)の表に例示するように、他の部品B~Eまでの公差も含めて製品トータルの公差の規格値1.20を満足するように設計する。
【0101】
しかしながら、部品Aのロットによっては公差が1.1になっており、規格値である1.15は満足しているので、受入検査では良品と判定されるものの、実力値0.94を満足していない場合があり得る。このような場合には、部品A~Eがどれも受入検査で良品と判定されていても、製品トータルの公差が1.30となって、規格値1.20を満足しないので、不良品と判定される。
【0102】
また、部品Aの公差が実力値0.94を満足していても、次のような場合があり得る。すなわち、部品Aの公差が常温下で規格値0.94を満足すればよいとだけ規定されているような場合である。このような部品Aは通常は実力値として高温高湿の環境下でも公差が常温下の規格値を満足していても、ロットによっては、或いは単体で高温高湿の環境下での公差が常温下の規格値を満足しなくなることがある(例えば、
図12(b)の表では1.2)。
【0103】
このような場合にも、部品A~Eはすべて受入検査で良品と判定されているものの、製品トータルでは温湿度試験をパスすることができない。
【0104】
このように、どの部品もすべて受入検査をパスしていても、製品トータルでの検査をパスしない場合があり、そのような場合には不良部品を特定するのが難しくなる。
(6-2)上記実施の形態においては、不良部品予測装置100と端末装置102とが別体である場合を例にとって説明したが、本開示がこれに限定されないのは言うまでもなく、これに代えて次のようにしてもよい。
【0105】
例えば、不良部品の予測処理は、端末装置102で実行してもよい。この場合には、不良部品予測装置100は、端末装置102から計測データおよび交換部品のデータを受け付けて、不良品を予測するための予測モデルの作成のみを行い、作成した予測モデルを端末装置102に提供してもよい。予測モデルの提供は、不良部品予測装置100から端末装置102に直接送信することによって行ってもよい。
【0106】
また、不良部品予測装置100が予測モデルを一旦、外部記憶装置101に記録し、端末装置102が外部記憶装置101から予測モデルを取得してもよい。このようにすれば、特に、複数の端末装置102が共通の予測モデルを使用する場合に、不良部品予測装置100の処理負荷を低減することができる。
(6-3)上記実施の形態においては、環境試験が温湿度試験である場合を例にとって説明したが、本開示がこれに限定されないのは言うまでもなく、環境試験は温湿度試験以外の環境試験であってもよい。また、環境試験以外の試験であってもよく、試験の種類に関係なく本開示の効果を得ることができる。
(6-4)上記実施の形態においては、試験対象の計測器が分光測色計である場合を例にとって説明したが、本開示がこれに限定されないのは言うまでもなく、分光測色計以外の計測器が試験対象であってもよい。また、分光測色計以外の計測器を試験対象とする場合には、波長領域を分割する代わりに、当該計測器の計測範囲を区分した領域毎に特徴量を生成するのが望ましい。
(6-5)上記実施の形態においては、部品交換によって温湿度試験で分光測色計111が良品と判定される直前の温湿度試験で得られた分光測色計111の計測データを外部記憶装置101に記録する場合を例にとって説明したが、本開示がこれに限定されないのは言うまでもなく、これに加えて、部品交換後の温湿度試験で得られた分光測色計111の計測データや温湿度試験の結果データ(OKまたはNGなど)も外部記憶装置101に記録してもよい。このようにすれば、部品交換が分光測色計111の計測データや温湿度試験の結果に与える影響を分析することができるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本開示に係る不良部品予測装置、不良部品予測方法および不良部品予測プログラムは、環境試験で不良判定された計測器について、交換すべき不良部品を特定するための手間とコストを低減する技術として有用である。
【符号の説明】
【0108】
1………………………不良部品予測システム
100…………………不良部品予測装置
101…………………外部記憶装置
102…………………端末装置
111…………………分光測色計
121…………………環境試験装置
122…………………調温消失装置
123…………………計測対象物
1001、1014…計測データ
1002………………交換部品名
1015………………不良部品に関する情報