IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社島津製作所の特許一覧

特許7400643X線分析装置、X線分析用信号処理装置およびX線分析方法
<>
  • 特許-X線分析装置、X線分析用信号処理装置およびX線分析方法 図1
  • 特許-X線分析装置、X線分析用信号処理装置およびX線分析方法 図2
  • 特許-X線分析装置、X線分析用信号処理装置およびX線分析方法 図3
  • 特許-X線分析装置、X線分析用信号処理装置およびX線分析方法 図4
  • 特許-X線分析装置、X線分析用信号処理装置およびX線分析方法 図5
  • 特許-X線分析装置、X線分析用信号処理装置およびX線分析方法 図6
  • 特許-X線分析装置、X線分析用信号処理装置およびX線分析方法 図7
  • 特許-X線分析装置、X線分析用信号処理装置およびX線分析方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】X線分析装置、X線分析用信号処理装置およびX線分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20231212BHJP
   G01T 1/17 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
G01N23/223
G01T1/17 F
G01T1/17 H
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020114763
(22)【出願日】2020-07-02
(65)【公開番号】P2021009149
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2019123555
(32)【優先日】2019-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 直也
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 佑多
【審査官】比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-002920(JP,A)
【文献】特開2019-066243(JP,A)
【文献】特開2015-021957(JP,A)
【文献】特開2009-229151(JP,A)
【文献】特開2003-215072(JP,A)
【文献】特開平07-229861(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0172231(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-G01N23/2276
G01T 1/00 -G01T 1/16
G01T 1/167-G01T 7/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDream3)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を検出するX線検出器と、
前記X線検出器で検出された階段波を微分波に変換する微分回路と、
前記微分波を入力波形として複数回の差分処理を行なうことによってピークを有する第1出力波形に変換する第1フィルタと、
前記微分波を台形波または三角波を有する第2出力波形に変換する第2フィルタと、
前記第1出力波形と前記第2出力波形とのうちのいずれかを選択する選択部と、
前記選択部によって選択された波形における前記ピークの波高値を計数するピーク検出器とを備え、
前記差分処理は、前記入力波形を遅延させる遅延処理と、前記遅延処理が行なわれた前記入力波形に対して係数を乗ずる乗算処理と、前記入力波形から前記乗算処理が行なわれた前記入力波形を減算する減算処理とを含む、X線分析装置。
【請求項2】
前記選択部は、ユーザからの選択指示にしたがって前記第1出力波形と前記第2出力波形とのうちのいずれかを選択する、請求項に記載のX線分析装置。
【請求項3】
前記第1フィルタは、前記微分波に対して2回の前記差分処理を行なうことによって前記第1出力波形に変換する、請求項1または2に記載のX線分析装置。
【請求項4】
前記ピーク検出器は、前記第1出力波形における正方向の第1ピークの大きさと、前記第1出力波形における負方向の第2ピークの大きさとの平均値を前記波高値として計数する、請求項1~のいずれかに記載のX線分析装置。
【請求項5】
X線検出器で検出された階段波が微分回路を用いて変換される微分波を入力波形として複数回の差分処理を行なうことによってピークを有する第1出力波形に変換する第1フィルタと、
前記微分波を台形波または三角波を有する第2出力波形に変換する第2フィルタと、
前記第1出力波形と前記第2出力波形とのうちのいずれかを選択する選択部と、
前記選択部によって選択された波形における前記ピークの波高値を計数するピーク検出器とを備え、
前記差分処理は、前記入力波形を遅延させる遅延処理と、前記遅延処理が行なわれた前記入力波形に対して係数を乗ずる乗算処理と、前記入力波形から前記乗算処理が行なわれた前記入力波形を減算する減算処理とを含む、X線分析用信号処理装置。
【請求項6】
X線検出器で検出された階段波を微分波に変換するステップと、
前記微分波を入力波形として、前記入力波形を遅延させる遅延処理と、前記遅延処理が行なわれた前記入力波形に対して係数を乗ずる乗算処理と、前記入力波形から前記乗算処理が行なわれた前記入力波形を減算する減算処理とを含む差分処理を複数回行なうことによってピークを有する第1出力波形に変換するステップと、
前記微分波を台形波または三角波を有する第2出力波形に変換するステップと、
前記第1出力波形と前記第2出力波形とのうちのいずれかを選択するステップと、
選択された波形における前記ピークの波高値を計数するステップとを含む、X線分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、X線分析装置、X線分析用信号処理装置およびX線分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線分析装置は、固体、粉体または液体の試料に励起X線(一次X線)を照射し、照射した一次X線により励起されて放出される蛍光X線を分光器で検出することによって、その試料に含まれる元素の定性分析または定量分析を行なうものである。このようなX線分析装置としては、波長分散型蛍光X線分析装置と、エネルギ分散型蛍光X線分析装置とがある。
【0003】
波長分散型蛍光X線分析装置は、分光結晶とスリットとを組み合わせたX線分光器により特定波長の蛍光X線を選別した上で検出器により検出する構成を有する。一方、エネルギ分散型蛍光X線分析装置は、こうした波長選別を行なわずに蛍光X線を直接半導体検出器等で検出し、その後の出力信号を波長λ(つまりX線エネルギE)ごとに分離する処理を行なうように構成される。したがって、蛍光X線スペクトルを作成する場合、波長分散型蛍光X線分析装置では波長走査を行なう必要があるのに対し、エネルギ分散型蛍光X線分析装置では多数の波長の情報が同時に得られるため、短時間で蛍光X線スペクトルを取得できる。
【0004】
特開2015-21957号公報(特許文献1)は、エネルギ分散型蛍光X線分析装置を開示する。エネルギ分散型蛍光X線分析装置は、X線検出器で検出された階段波を微分波に変換する微分回路と、微分波を台形波または三角波に変換するデジタルフィルタと、台形波または三角波におけるピークの波高値を分別して計数するピーク検出器とを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-21957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるX線分析装置によれば、階段波を微分波に変換することで、ダイナミックレンジを広くとれるため、分解能を高めることができる。そして、デジタルフィルタによって微分波を台形波または三角波に変換する変換処理を行なうことで、ピーク検出器においてピークの波高値を正確に算出することができる。
【0007】
しかしながら、三角波または台形波への変換処理を行なう場合には、ある程度の時間を積分することが求められるので、短時間に多くの微分波が入力されるような場合に変換された波形が重なり、それぞれの微分波に対応する波高値を正確に算出できない場合がある。そのため、高い計数率を確保できない場合がある。
【0008】
本開示の目的は、微分波を波形変換するフィルタを有するX線分析装置において、高い計数率を確保することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のX線分析装置は、X線を検出するX線検出器と、X線検出器で検出された階段波を微分波に変換する微分回路と、微分波を入力波形として複数回の差分処理を行なうことによってピークを有する第1出力波形に変換する第1フィルタと、第1出力波形におけるピークの波高値を計数するピーク検出器とを備える。差分処理は、入力波形を遅延させる遅延処理と、遅延処理が行なわれた入力波形に対して係数を乗ずる乗算処理と、入力波形から乗算処理が行なわれた入力波形を減算する減算処理とを含む。
【発明の効果】
【0010】
上記のX線分析装置において、差分処理による第1出力波形に変換する処理速度は、微分波におけるピークが立ち上がるまでの期間で決定される。そのため、三角波または台形波に変換する場合と比較して短時間で第1出力波形に変換することが可能となる。その結果、短時間に多くの微分波が入力されるような場合にもそれぞれの微分波に対応する波高値を正確に算出することができる。したがって、このX線分析装置によれば、高い計数率を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施の形態に係るX線分析装置の構成例を示す図である。
図2】微分波から台形波への変換処理について説明するための図である。
図3】台形波の重なりの一例について説明するための図である。
図4】2回差分フィルタの構成の一例を示す図である。
図5】2回差分フィルタの動作の一例を説明するための波形図である。
図6】信号処理装置において実行される処理の一例を示すフローチャートである。
図7】微分波と2回差分フィルタの出力波形との変化の一例を示すタイミングチャートである。
図8】第2の実施の形態のX線分析装置1において実行される処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さないものとする。
【0013】
[第1の実施の形態]
<X線分析装置1の構成について>
図1は、本実施の形態に係るX線分析装置1の構成例を示す図である。本実施の形態に係るX線分析装置1は、エネルギ分散型蛍光X線分析装置である。図1に示すように、X線分析装置1は、X線管球10と、エネルギ分散型分光器(以下、X線検出器と記載する)12と、プリアンプ14と、微分回路16と、アンプ18と、ADC(Analog to Digital Converter)20と、CPU(Central Processing Unit)30と、X線分析用信号処理装置(以下、単に信号処理装置と記載する)40とを備える。
【0014】
X線管球10は、1次X線を試料Sに出射する。X線管球10は、たとえば、陽極であるターゲットと、陰極であるフィラメントと、ターゲットおよびフィラメントを収容する筐体とを有する。ターゲットに高電圧を印加するとともに、フィラメントに低電圧を印可すると、フィラメントから放射された熱電子がターゲットの端面に衝突し、当該端面にて1次X線を発生させる。ターゲットの端面で発生した1次X線は試料Sに出射される。1次X線が試料Sに照射されると、1次X線により励起された蛍光X線が試料Sから放出され、X線検出器12に入射される。
【0015】
X線検出器12は、予め定められた波長域の蛍光X線の強度を検出する。X線検出器12は、筐体内部に配置され、上記波長域の蛍光X線の強度を検出する検出素子を有する。検出素子は、たとえば、リチウムドリフト型Si半導体素子である。
【0016】
X線検出器12の出力信号はプリアンプ14で増幅される。プリアンプ14により出力信号は階段波状の信号となる。階段波状の信号の各段が蛍光X線を検出していることを示している。各段の高さが波長λ、すなわちX線エネルギEを表している。
【0017】
プリアンプ14で増幅された出力信号は、微分回路16に送られる。微分回路16は、コンデンサCおよび抵抗Rによって構成され、階段波を次式(1)で表す微分波に変換する。階段波を微分波に変換することで、ダイナミックレンジを広くとることができ、結果的に高分解能を得ることができる。微分波はアンプ18で増幅され、ADC20に送られる。
【0018】
【数1】
【0019】
ただし、τ(=RC)は時定数、Tはサンプリング周期、nはサンプル数、aは(exp(-T/τ))である。
【0020】
ADC20は、アナログ信号である微分波を所定のサンプリング周期でサンプリングしてデジタル信号(以下、微分波デジタル信号と記載する)に変換する。微分波デジタル信号は、信号処理装置40に入力される。
【0021】
信号処理装置40は、一般的に、FPGA(Field-Programmable Gate Array)をはじめとするロジックデバイスによって構成される。
【0022】
本実施の形態において信号処理装置40は、オフセット補正部44と、波形変換部46と、ベースライン補正部48と、ゲイン/オフセット調整部50と、ピーク検出器52と、ヒストグラムメモリ54とを含む。
【0023】
オフセット補正部44は、ADC20から与えられる微分波デジタル信号のオフセット補正を行ない、補正後の微分波デジタル信号を波形変換部46に出力する。
【0024】
波形変換部46は、補正後の微分波デジタル信号をピークを有する所定の出力波形に変換する。波形変換部46の出力波形の詳細については後述する。
【0025】
波形変換部46において生成された出力波形は、ベースライン補正部48およびゲイン/オフセット調整部50によってベースラインおよびゲインが調整された後、ピーク検出器52に入力される。
【0026】
ピーク検出器52は、出力波形におけるピークを検出して各ピークの波高値(ピークトップ値)を取得する。ピーク検出器52は、ピーク毎にピークトップ値に応じたX線エネルギEの計数値をインクリメントして、ヒストグラムメモリ54に格納する。
【0027】
CPU30は、ヒストグラムメモリ54に格納された計数値に基づいて、波高分布図(エネルギスペクトルヒストグラム)を作成する。波高分布図は横軸に蛍光X線エネルギEを示し、縦軸に元素の含有量(強度)を示す。波高分布図では、試料S中に含まれる元素から放出される蛍光X線のエネルギEに対応する位置に各元素固有のピークが現れる。CPU30は、このピークの出現位置およびそのX線強度値などに基づいて、含有元素の定性分析および定量分析を行なう。
【0028】
<波形変換部46の構成例について>
本実施の形態において、波形変換部46は、台形波変換フィルタ46aを含む。台形波変換フィルタ46aは、オフセット補正部44によって補正された微分波を式(2)で示される台形波に変換するように構成されるデジタルフィルタである。
【0029】
【数2】
【0030】
ここで、式(2)に示されるMは、台形波の上底の時間に相当し、式(2)で示されるNは、台形波の立ち上がり時間および立ち下がり時間を示す。
【0031】
図2は、微分波から台形波への変換処理について説明するための図である。図2の左側に示される微分波は、台形波変換フィルタ46aにおいて、図2の右側に示されるように、立ち上がり時間および立ち下がり時間がいずれもNであって、上底の時間がMとなる台形波に変換されることとなる。
【0032】
たとえば、波形変換部46として台形波変換フィルタ46aのみを有する場合には、以下のような課題が生じる。
【0033】
すなわち、台形波への変換処理を行なう場合には、ある程度の時間を積分することが求められるので、短時間に多くの微分波が入力されるような場合に変換された台形波が重なり、それぞれの微分波に対応する波高値を正確に算出できない場合がある。
【0034】
図3は、台形波の重なりの一例について説明するための図である。図3に示すように、たとえば、時間T(0)において、1つの微分波が台形波変換フィルタ46aに入力される場合には、入力された微分波に対応する台形波が出力される。このとき、出力される台形波は、信号が立ち上がる区間と、信号が上底に相当する値で維持する区間と、信号が立ち下がる区間とを有する。これに対して、時間T(1)において、短時間に2つの微分波が台形波変換フィルタ46aに入力された場合には、入力された2つの微分波に対応する2つの台形波が重なって出力される。このとき、出力される台形波は、1つ目の微分波に対応する台形波の信号が立ち上がる区間と、信号が上底に相当する値で維持する区間と、2つ目の微分波に対応する台形波の信号が上底に相当する値で維持する区間と、信号が立ち下がる区間とを有する。このように、台形波が重なることによって1つ目の微分波に対応する台形波と、2つ目の微分に対応する台形波とを区別できない場合には、2つの台形波についての波高値を正確に算出できない場合がある。そのため、高い計数率を確保できない場合がある。
【0035】
そこで、本実施の形態においては、図1に示すように、波形変換部46は、台形波変換フィルタ46aに加えて、2回差分フィルタ46bと、選択部47とをさらに含むものとする。2回差分フィルタ46bは、微分波を入力波形として2回の差分処理を行なうことによってピークを有する所定の出力波形に変換する。なお、この差分処理は、入力波形を遅延させる遅延処理と、遅延処理が行なわれた入力波形に対して係数を乗ずる乗算処理と、入力波形から乗算処理が行なわれた入力波形を減算する減算処理とを含む。
【0036】
このようにすると、差分処理により所定の出力波形に変換する処理速度は、微分波におけるピークが立ち上がるまでの期間で決定されるため、台形波に変換する場合と比較して短時間で所定の出力波形に変換することが可能となる。そのため、短時間に多くの微分波が入力されるような場合にもそれぞれの微分波に対応する波高値を正確に算出することができる。
【0037】
<2回差分フィルタ46bの構成について>
以下、2回差分フィルタ46bの構成の一例について説明する。2回差分フィルタ46bは、上述したように、微分波に対して2回の差分処理を行なうことにより微分波を以下の式(3)で示されるピークを有する所定の出力波形に変換するデジタルフィルタである。
【0038】
【数3】
【0039】
ここで、式(3)に示されるLおよびM’は、いずれも差分処理における遅延時間を示す。本実施の形態において遅延時間であるLおよびM’は、たとえば、同じ値であるものとして説明するが異なる値であってもよい。なお、遅延時間であるLおよびM’は、たとえば、いずれも微分波において信号の立ち上がり開始時点からピークまでの期間を示す。kM’は、Z-1M’に乗算される所定の係数である。なお、Z-Lに乗算される所定の係数は、1であるものとする。
【0040】
図4は、2回差分フィルタ46bの構成の一例を示す図である。図4に示すように、2回差分フィルタ46bは、シフトレジスタ100,104と、加算器102,108と、乗算器106とを含む。
【0041】
シフトレジスタ100は、オフセット補正部44から入力される微分波と、遅延時間Lとを用いて入力された微分波をLだけ遅延させる遅延処理を行ない、遅延させた波形を加算器102に出力する。遅延時間Lは、たとえば、微分波のピークの位置の高さを1とした場合、ピークの位置から高さがaとなるまでの時間である。
【0042】
加算器102は、オフセット補正部44から入力される微分波に、シフトレジスタ100から入力される波形を反転させて加算する加算処理を行なう。
【0043】
シフトレジスタ104は、加算器102から入力される波形と、遅延時間M’とを用いて加算器102から入力される波形をM’だけ遅延させた波形を乗算器106に出力する。遅延時間M’は、たとえば、遅延時間Lと同じ時間である。
【0044】
乗算器106は、シフトレジスタ104から入力される波形と、係数kM’とを乗算する乗算処理を行なう。係数kM’は、たとえば、0よりも大きく、かつ、1よりも小さい、予め定められた値である。本実施の形態においては、たとえば、aである。
【0045】
加算器108は、加算器102から入力される波形に、乗算器106から入力される波形を反転させて加算する加算処理を行なう。
【0046】
このような構成を有する2回差分フィルタ46bの動作によって2回差分フィルタ46bに入力される微分波は、図5に示すように所定の出力波形に変換される。
【0047】
図5は、2回差分フィルタ46bの動作の一例を示す図である。図5の(A)のLN1は、2回差分フィルタ46bに入力される微分波を示す。図5の(B)のLN2は、加算器102において微分波に加算される波形を示す。図5の(C)のLN3は、加算器102から加算器108に入力される波形を示す。図5の(D)のLN4は、加算器108において加算器102から入力される波形に加算される波形を示す。図5の(E)のLN5は、加算器108から出力される波形を示す。
【0048】
たとえば、2回差分フィルタ46bに対して、図5(A)のLN1に示すような微分波が入力されると、2回差分フィルタ46bに入力される微分波は、シフトレジスタ100と加算器102との各々に入力される。
【0049】
シフトレジスタ100における遅延処理によって遅延された波形は、加算器102において、図5(B)のLN2に示すように反転されて、図5(A)のLN1に示す微分波に加算される。
【0050】
そのため、加算器102からは、図5(C)のLN3に示す波形が出力され、シフトレジスタ104および加算器108の各々に入力される。このとき、図5(A)のLN1において、ピーク位置における高さが1であって、ピーク位置からLだけ後の時点の高さがaである場合、図5(C)のLN3の負方向のピーク位置における高さは、1-aとなる。
【0051】
シフトレジスタ104における遅延処理によって遅延された波形は、乗算器106における乗算処理によって係数kM’を乗算され、図5(D)のLN4に示すような反転された波形が加算器108に入力される。
【0052】
加算器108における加算処理によって図5(E)のLN5に示す波形が生成され、2回差分フィルタ46bの出力波形として出力される。
【0053】
このとき、図5(C)の波形がM(=L)だけ遅延され、係数kM’(=a)が乗算され、かつ、反転させることによって図5(D)のLN4の波形となり、図5(C)のLN3の波形の負方向のピーク位置と図5(D)のLN4の波形の負方向のピーク位置とが一致する。このとき、図5(D)のLN4の負方向のピーク位置の高さがaであって、図5(C)のLN3の負方向のピーク位置の高さが1-aであるため、加算器108における加算処理によって生成された図5(E)のLN5の波形における負方向のピーク位置の高さは、正方向のピーク位置の高さと同じ1となる。
【0054】
なお、加算器102における加算処理は、入力波形から遅延波形(L)を減算する減算処理に相当する。また、加算器108における加算処理は、加算器102から出力された波形から乗算器106から出力された波形を減算する減算処理に相当する。
【0055】
<選択部47の構成について>
選択部47は、モード選択情報を用いて台形波変換フィルタ46aの出力波形と、2回差分フィルタ46bの出力波形とのうちのいずれかを選択する。選択部47は、たとえば、ユーザによって選択されたモードに対応した出力波形を選択する。モードとしては、たとえば、高分解能モードと、高計数モードとが含まれる。高分解能モードは、分解能が高い台形波変換フィルタ46aを用いて波高値を検出するモードである。高計数モードは、計数率の高い微分波に対して波高値を正確に検出するモードである。モード選択情報は、ユーザによって選択されたモードの情報を含む。選択部47は、モード選択情報に従って選択されたモードに対応する出力波形をベースライン補正部48に出力する。
【0056】
選択部47は、たとえば、高計数モードが選択される場合には、2回差分フィルタ46bからの出力波形のみをベースライン補正部48に入力する。一方、選択部47は、たとえば、高分解能モードが選択される場合には、台形波変換フィルタ46aからの出力波形のみをベースライン補正部48に入力する。
【0057】
<波高値の取得について>
上述したとおり、波形変換部46において生成された出力波形は、ベースライン補正部48およびゲイン/オフセット調整部50によってベースラインおよびゲインが調整された後、ピーク検出器52に入力される。
【0058】
ピーク検出器52は、出力波形におけるピークを検出してピークの波高値(ピークトップ値)を取得する。波形変換部46において生成された出力波形が台形波である場合には、ピーク検出器52は、ベースラインから台形波の上底までの高さをピークの波高値として取得する。波形変換部46において生成された出力波形が、図5(E)のLN5に示す波形である場合には、ベースラインから正方向のピーク位置および負方向のピーク位置のうちの少なくともいずれかまでの高さをピークの波高値として取得する。本実施の形態において、ピーク検出器52は、たとえば、正方向のピーク位置の高さを波高値として取得するものとする。
【0059】
<X線分析装置1による一連の処理内容について>
以下にX線分析装置1による一連の処理内容について図6を用いて説明する。図6は、X線分析装置1において実行される処理の一例を示すフローチャートである。
【0060】
図6に示すように、ステップ(以下、ステップをSと記載する)10にて、X線分析装置1は、蛍光X線の強度を階段波として検出する。S20にて、X線分析装置1は、階段波を微分波に変換する。S30にて、X線分析装置1は、微分波デジタル信号に変換する。
【0061】
S40にて、X線分析装置1は、ADC20から入力される微分波デジタル信号に対してオフセット補正を実行する。
【0062】
S50にて、X線分析装置1は、波形変換処理を実行する。X線分析装置1は、オフセット補正された微分波デジタル信号を台形波変換フィルタ46aを用いて台形波に変換する処理と、2回差分フィルタ46bを用いて所定の出力波形に変換する処理とを実行する。
【0063】
S60にて、X線分析装置1は、選択処理を実行する。X線分析装置1は、選択部47に入力されたモード選択情報から高分解モードと高計数モードとのうちのいずれのモードが選択されているかを特定し、特定されたモードに対応する出力波形をベースライン補正の対象とする。
【0064】
S70にて、X線分析装置1は、特定されたモードに対応する出力波形のベースラインを補正する。S80にて、X線分析装置1は、ベースラインが補正された出力波形のゲインまたはオフセットを調整する。
【0065】
S90にて、X線分析装置1は、調整後の出力波形のピークの波高値を検出する。なお、ピークの波高値の検出については上述したとおりであるため、その詳細な説明は繰り返さない。
【0066】
S100にて、X線分析装置1は、ヒストグラムメモリ54に格納された計数値を更新する。X線分析装置1は、ヒストグラムメモリ54に格納された計数値のうちの検出された波高値に対応する計数値をインクリメントすることによって更新する。S110にて、X線分析装置1は、波高分布図を作成する。
【0067】
<X線分析装置1の動作について>
以上のように説明したX線分析装置1の動作について説明する。たとえば、ユーザが高計数モードを選択している場合を想定する。この場合、選択部47に入力されるモード選択情報には、高計数モードが選択されていることを示す情報が含まれる。
【0068】
微分回路16において階段波から微分波に変換された波形は、ADC20において微分波デジタル信号に変換される。ADC20から出力される微分波デジタル信号に対して、オフセット補正部44によるオフセット補正が行なわれる。
【0069】
そして、オフセット補正部44により補正された微分波デジタル信号は、台形波変換フィルタ46aおよび2回差分フィルタ46bの各々に出力される。台形波変換フィルタ46aは、オフセット補正部44からの補正された微分波を台形波に変換して選択部47に出力する。一方、2回差分フィルタ46bは、オフセット補正部44からの補正された微分波を図5(E)のLN5に示す所定の出力波形に変換して選択部47に出力する。
【0070】
選択部47は、台形波と所定の出力波形とのうち入力されたモード選択情報にしたがって所定の出力波形を選択してベースライン補正部48に出力する。選択部47から出力された所定の出力波形は、ベースライン補正部48およびゲイン/オフセット調整部50によってベースラインおよびゲインが調整された後にピーク検出器52に入力される。ピーク検出器52は、所定の出力波形の正方向のピーク位置の波高値をピークの波高値として取得する。
【0071】
図7は、微分波と2回差分フィルタ46bの出力波形との変化の一例を示すタイミングチャートである。図7のLN6は、微分波の波高値の時間変化を示す。図7のLN7は、2回差分フィルタ46bの出力波形の時間変化を示す。図7のLN6に示すように、時間T(2)および時間T(3)の各々において立ち上がる微分波が入力されると、時間T(2)と時間T(3)との間、および、時間T(2)と時間T(4)との間に、図7のLN7に示すように正方向と負方向とにそれぞれピークを有する所定の出力波形が2回差分フィルタ46bからそれぞれ出力される。さらに、図7のLN6に示すように、時間T(4)において立ち上がる1つ目の微分波が入力された後に、1つめの微分波がベースラインまで立ち下がる前に2つ目の微分波が入力されるような場合にも、図7のLN7に示すように、時間T(4)以降において、正方向と負方向とにそれぞれピークを有する所定の出力波形が2回差分フィルタ46bから連続して出力される。そのため、短時間に2つの微分波が入力される場合にもそれぞれに対応する所定の出力波形のピークの波高値の取得が可能となる。
【0072】
ピーク検出器52は、取得した波高値を用いてヒストグラムメモリ54に格納されたデータを更新する。具体的には、ピーク検出器52は、取得した波高値に対応する計数値をインクリメントする。CPU30は、信号処理装置40から出力される計数値に基づいて、波高分布図を作成する。
【0073】
次に、ユーザが高分解能モードを選択している場合を想定する。この場合、選択部47に入力されるモード選択情報には、高分解能モードが選択されていることを示す情報が含まれる。
【0074】
選択部47は、台形波と所定の出力波形とのうち入力されたモード選択情報にしたがって台形波を選択してベースライン補正部48に出力する。選択部47から出力された台形波は、ベースライン補正部48およびゲイン/オフセット調整部50によってベースラインおよびゲインが調整された後にピーク検出器52に入力される。ピーク検出器52は、台形波の上底までの高さをピークの波高値として取得し、取得した波高値を用いてヒストグラムメモリ54に格納されたデータを更新する。
【0075】
<作用効果について>
以上のようにして、この実施の形態によれば、選択部47によって2回差分フィルタ46bの出力波形が選択される場合において、台形波変換フィルタ46aを用いて台形波に変換する場合と比較して短時間で所定の出力波形への変換処理を行なうことが可能となる。これは、微分波を2回差分フィルタ46bによって図5(E)に示す出力波形に変換する処理速度は、微分波におけるピークが立ち上がるまでの期間で決定されるためである。そのため、短時間に多くの微分波が入力されるような場合にも波高値を正確に算出することができる。したがって、高い計数率を確保することができる。
【0076】
さらに、この実施の形態によれば、台形波変換フィルタ46aが選択される場合には、高い分解能で微分波に対応する波高値を算出することができる。さらに、この実施の形態によれば、ユーザは、使用環境または分析対象等に応じて台形波変換フィルタ46aの出力波形と、2回差分フィルタ46bの出力波形とのうちのいずれかを選択することができる。
【0077】
<変形例について>
以下、変形例について説明する。
【0078】
上述の信号処理装置40において、波形変換部46は、微分波を台形波に変換する台形波変換フィルタ46aを有するものとして説明したが、波形変換部46は、台形波変換フィルタ46aに代えて微分波を三角波に変換する三角波変換フィルタを有するようにしてもよい。あるいは、波形変換部46は、台形波変換フィルタ46aおよび選択部47を省略し、2回差分フィルタ46bのみを有する構成としてもよい。あるいは、波形変換部46は、台形波変換フィルタ46aと2回差分フィルタ46bに加えて微分波を三角波に変換する三角波変換フィルタあるいは差分処理と異なる変換処理によって微分波を所定の出力波形に変換するフィルタを有するようにしてもよい。
【0079】
さらに上述の信号処理装置40において、波形変換部46は、微分波に対して2回の差分処理を行なう2回差分フィルタ46bを有するものとして説明したが、たとえば、2回差分フィルタ46bに代えて微分波に対して3回以上の複数回の差分処理を行なうフィルタを有するようにしてもよい。
【0080】
なお、上記した変形例は、その全部または一部を適宜組み合わせて実施してもよい。
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態のX線分析装置1は、ピーク検出器52の機能が異なる点を除き、第1の実施の形態のX線分析装置1と同様のハードウェア構成を有する。そのため、ピーク検出器52以外についてその詳細な説明は繰り返さない。
【0081】
<波高値の取得について>
本実施の形態におけるピーク検出器52は、出力波形におけるピークを検出してピークの波高値(ピークトップ値)を取得する。波形変換部46において生成された出力波形が台形波である場合には、ピーク検出器52は、ベースラインから台形波の上底までの高さをピークの波高値として取得する。波形変換部46において生成された出力波形が、図5(E)のLN5に示す波形である場合には、ピーク検出器52は、ベースラインから正方向のピーク位置と負方向のピーク位置とを用いて波高値を取得する。本実施の形態において、ピーク検出器52は、たとえば、ベースラインを基準とした正方向のピークの大きさとベースラインを基準とした負方向のピークの大きさとの平均値を波高値として取得するものとする。
【0082】
<X線分析装置1による一連の処理内容について>
以下にX線分析装置1による一連の処理内容について図8を用いて説明する。図8は、第2の実施の形態のX線分析装置1において実行される処理の一例を示すフローチャートである。図8のフローチャートに示す処理は、図6のフローチャートに示す処理と比較して、S90の処理に代えてS200の処理が実行される点が異なる。S200の処理以外の処理は同じ処理内容であり、同じステップ番号が付与される。そのため、それらの処理についての詳細な説明は繰り返さない。
【0083】
S200にて、X線分析装置1は、調整後の出力波形のピークの波高値を検出する。すなわち、X線分析装置1は、波形変換部46において生成された出力波形が台形波である場合には、ベースラインから台形波の上底までの高さをピークの波高値として取得する。波形変換部46において生成された出力波形が、2回差分フィルタを用いた出力波形(すなわち、図5(E)のLN5に示す波形)である場合には、X線分析装置1は、正方向のピーク位置の大きさ(絶対値)および負方向のピーク位置の大きさ(絶対値)の平均値を波高値として取得する。
【0084】
<X線分析装置1の動作について>
以上のように説明したX線分析装置1の動作について説明する。たとえば、ユーザが高計数モードを選択している場合を想定する。この場合、選択部47に入力されるモード選択情報には、高計数モードが選択されていることを示す情報が含まれる。
【0085】
微分回路16において階段波から微分波に変換された波形は、ADC20において微分波デジタル信号に変換される。ADC20から出力される微分波デジタル信号に対して、オフセット補正部44によるオフセット補正が行なわれる。
【0086】
そして、オフセット補正部44により補正された微分波デジタル信号は、台形波変換フィルタ46aおよび2回差分フィルタ46bの各々に出力される。台形波変換フィルタ46aは、オフセット補正部44からの補正された微分波を台形波に変換して選択部47に出力する。一方、2回差分フィルタ46bは、オフセット補正部44からの補正された微分波を図5(E)のLN5に示す所定の出力波形に変換して選択部47に出力する。
【0087】
選択部47は、台形波と所定の出力波形とのうち入力されたモード選択情報にしたがって所定の出力波形を選択してベースライン補正部48に出力する。選択部47から出力された所定の出力波形は、ベースライン補正部48およびゲイン/オフセット調整部50によってベースラインおよびゲインが調整された後にピーク検出器52に入力される。ピーク検出器52は、所定の出力波形の正方向のピーク位置の大きさと、負方向のピーク位置の大きさとの平均値を波高値として取得する。
【0088】
微分波と2回差分フィルタ46bの出力波形との変化は、上述の第1の実施の形態において図7を用いて説明したとおりである。そのため、その詳細な説明は、繰り返さない。
【0089】
ピーク検出器52は、取得した波高値を用いてヒストグラムメモリ54に格納されたデータを更新する。具体的には、ピーク検出器52は、取得した波高値に対応する計数値をインクリメントする。CPU30は、信号処理装置40から出力される計数値に基づいて、波高分布図を作成する。
【0090】
なお、ユーザが高分解能モードを選択している場合のX線分析装置1の動作については、上述の第1の実施の形態において説明したX線分析装置1の動作と同様である。そのため、その詳細な説明は繰り返さない。
<作用効果について>
以上のようにして、この実施の形態によれば、上述の第1の実施の形態における作用効果に加えて、選択部47によって2回差分フィルタ46bの出力波形が選択される場合には、正方向のピークの大きさと負方向のピークの大きさとの平均値を波高値として計数することによって、正方向のピークおよび負方向のピークのうちのいずれかを波高値として計数する場合と比較して、積算回数が2倍となる。そのため、ノイズ等により入力波形に変動が生じた場合でも平均化によりその変動の影響を低減し、分解能を向上させることができる。
【0091】
<変形例について>
以下、変形例について説明する。
【0092】
上述の信号処理装置40において、波形変換部46は、微分波を台形波に変換する台形波変換フィルタ46aを有するものとして説明したが、波形変換部46は、台形波変換フィルタ46aに代えて微分波を三角波に変換する三角波変換フィルタを有するようにしてもよい。あるいは、波形変換部46は、台形波変換フィルタ46aおよび選択部47を省略し、2回差分フィルタ46bのみを有する構成としてもよい。あるいは、波形変換部46は、台形波変換フィルタ46aと2回差分フィルタ46bに加えて微分波を三角波に変換する三角波変換フィルタあるいは差分処理と異なる変換処理によって微分波を所定の出力波形に変換するフィルタを有するようにしてもよい。
【0093】
さらに上述の信号処理装置40において、波形変換部46は、微分波に対して2回の差分処理を行なう2回差分フィルタ46bを有するものとして説明したが、たとえば、2回差分フィルタ46bに代えて微分波に対して3回以上の複数回の差分処理を行なうフィルタを有するようにしてもよい。
【0094】
なお、上記した変形例は、その全部または一部を適宜組み合わせて実施してもよい。
[態様]
上述した複数の例示的な実施の形態およびその変形例は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0095】
(第1項)一態様に係るX線分析装置は、X線を検出するX線検出器と、X線検出器で検出された階段波を微分波に変換する微分回路と、微分波を入力波形として複数回の差分処理を行なうことによってピークを有する第1出力波形に変換する第1フィルタと、第1出力波形におけるピークの波高値を計数するピーク検出器とを備える。差分処理は、入力波形を遅延させる遅延処理と、遅延処理が行なわれた入力波形に対して係数を乗ずる乗算処理と、入力波形から乗算処理が行なわれた入力波形を減算する減算処理とを含む。
【0096】
第1項に記載のX線分析装置において、差分処理による第1出力波形に変換する処理速度は、微分波におけるピークが立ち上がるまでの期間で決定される。そのため、三角波または台形波に変換する場合と比較して短時間で第1出力波形に変換することが可能となる。その結果、短時間に多くの微分波が入力されるような場合にもそれぞれの微分波に対応する波高値を正確に算出することができる。したがって、このX線分析装置によれば、高い計数率を確保することができる。
【0097】
(第2項)第1項に記載のX線分析装置は、微分波を台形波または三角波を有する第2出力波形に変換する第2フィルタと、第1出力波形と第2出力波形とのうちのいずれかを選択する選択部とをさらに備える。ピーク検出器は、選択部によって選択された波形の波高値を計数する。
【0098】
第2項に記載のX線分析装置によれば、たとえば、第1フィルタが選択される場合には、短時間に多くの微分波が入力されるときにそれぞれの微分波に対応する波高値を正確に算出することができる。さらに、第2フィルタが選択される場合には、高い分解能で微分波に対応する波高値を算出することができる。
【0099】
(第3項)第2項に記載のX線分析装置において、選択部は、ユーザからの選択指示にしたがって第1出力波形と第2出力波形とのうちのいずれかを選択する。
【0100】
第3項に記載のX線分析装置によれば、ユーザは、使用環境または分析対象等に応じて出力波形を選択することができる。
【0101】
(第4項)第1項から第3項のいずれか1項に記載のX線分析装置において、第1フィルタは、微分波に対して2回の差分処理を行なうことによって第1出力波形に変換する。
【0102】
第4項に記載のX線分析装置によれば、短時間に多くの微分波が入力されるような場合にも2回の差分処理によってそれぞれの微分波に対応する波高値を正確に算出することができる。
【0103】
(第5項)第1項から第4項のいずれか1項に記載のX線分析装置において、ピーク検出器は、第1出力波形における正方向の第1ピークの大きさと、第1出力波形における負方向の第2ピークの大きさとの平均値を波高値として計数する。
【0104】
第5項に記載のX線分析装置によれば、正方向の第1ピークの大きさと負方向の第2ピークの大きさとの平均値を波高値として計数することによってノイズによる波高値の変動の影響を平均化により低減し、分解能を向上させることができる。
【0105】
(第6項)一態様に係るX線分析用信号処理装置は、X線検出器で検出された階段波が微分回路を用いて変換される微分波を入力波形として複数回の差分処理を行なうことによってピークを有する第1出力波形に変換するフィルタと、第1出力波形におけるピークの波高値を計数するピーク検出器とを備える。差分処理は、入力波形を遅延させる遅延処理と、遅延処理が行なわれた入力波形に対して係数を乗ずる乗算処理と、入力波形から乗算処理が行なわれた入力波形を減算する減算処理とを含む。
【0106】
(第7項)一態様に係るX線分析方法は、X線検出器で検出された階段波を微分波に変換するステップと、微分波を入力波形として、入力波形を遅延させる遅延処理と、遅延処理が行なわれた入力波形に対して係数を乗ずる乗算処理と、入力波形から乗算処理が行なわれた入力波形を減算する減算処理とを含む差分処理を複数回行なうことによってピークを有する第1出力波形に変換するステップと、第1出力波形におけるピークの波高値を計数するステップとを含む。
【0107】
第6項に記載のX線分析用信号処理装置および第7項に記載のX線分析方法によれば、高い計数率を確保することができる。
【0108】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0109】
1 エネルギ分散型蛍光X線分析装置、10 X線管球、12 検出器、14 プリアンプ、16 微分回路、18 アンプ、20 ADC、30 CPU、40 信号処理装置、44 オフセット補正部、46 波形変換部、46a 台形波変換フィルタ、46b 2回差分フィルタ、47 選択部、48 ベースライン補正部、50 オフセット調整部、52 ピーク検出器、54 ヒストグラムメモリ、100,104 シフトレジスタ、102,108 加算器、106 乗算器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8