(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】探針の先端径の取得方法およびSPM
(51)【国際特許分類】
G01Q 40/00 20100101AFI20231212BHJP
【FI】
G01Q40/00
(21)【出願番号】P 2020115931
(22)【出願日】2020-07-03
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯田 栄治
(72)【発明者】
【氏名】新井 浩
(72)【発明者】
【氏名】小暮 亮雅
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-122514(JP,A)
【文献】特開2011-089985(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0093990(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0180019(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01Q 10/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SPMにおいて形状が既知である既知試料を探針で測定することによって前記探針の先端径を取得する方法であって、
前記既知試料の表面に凸部が形成されており、
前記方法は、
前記凸部の高さおよび該凸部の幅のうちいずれか一方の第1距離
、および該凸部の曲率半径の入力をユーザから受付けるステップと、
前記凸部の表面に沿って前記探針を相対的に移動させて、前記凸部の先端から前記第1距離により規定される基準位置に前記探針が移動したときの、前記凸部の高さおよび該凸部の幅のうち他方の第2距離を特定するステップと、
前記第1距離
、前記第2距離
、および前記曲率半径に基づいて前記探針の先端径を取得するステップとを備える、方法。
【請求項2】
SPMにおいて形状が既知である既知試料を探針で測定することによって前記探針の先端径を取得する方法であって、
前記既知試料の表面に第1凸部と1以上の第2凸部が形成されており、
前記方法は、
前記第1凸部の高さおよび該第1凸部の幅のうちいずれか一方の第1距離
、該第1凸部の曲率半径、および前記1以上の第2凸部の曲率半径の入力をユーザから受付けるステップと、
前記第1凸部の表面に沿って前記探針を相対的に移動させて、前記第1凸部の先端から前記第1距離により規定される基準位置に前記探針が移動したときの、前記第1凸部の高さおよび該第1凸部の幅のうち他方の第2距離を特定するステップと、
前記1以上の第2凸部の各々について表面に沿って前記探針を相対的に移動させて、前記基準位置に前記探針が移動したときの、前記基準位置から該第2凸部の先端までの高さである第3距離、および前記基準位置における該第2凸部の幅である第4距離を特定するステップと、
前記第1距離
、前記第2距離
、および前記第1凸部の曲率半径に基づいて第1の先端径を取得するステップと、
前記1以上の第2凸部の各々について、前記第3距離
、前記第4距離
、および前記1以上の第2凸部の曲率半径に基づいて第2の先端径を取得するステップと、
前記第1の先端径と、前記1以上の第2凸部の各々の前記第2の先端径とに基づいて前記探針の先端径を取得するステップとを備える、方法。
【請求項3】
前記探針の先端径を取得するステップは、前記第1の先端径と、前記1以上の第2凸部の各々の前記第2の先端径との平均値を算出することにより前記探針の先端径を取得するステップを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記探針の先端径を表示装置に表示させるステップをさらに備える、請求項1または請求項3に記載の方法。
【請求項5】
距離に基づいて先端径を取得するステップは、
【数1】
という式が用いられ、
ただし、Rtは探針の先端径であり、Zは凸部の高さであり、rは凸部の幅であり、Rsは凸部の曲率半径である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記受付けるステップは、凸部の高さおよび該凸部の曲率半径の入力を受付け、
前記第2距離は、凸部の高さ方向に垂直な平面における該凸部の断面を円形状に近似した際の該円形状の半径である、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
探針を有する観察装置と、
情報処理装置とを備え、
前記観察装置は、形状が既知である既知試料を前記探針で測定し、該測定の結果を示す測定信号を前記情報処理装置に出力し、
前記既知試料の表面に凸部が形成されており、
前記情報処理装置は、
前記凸部の高さおよび該凸部の幅のうちいずれか一方の第1距離
、および該凸部の曲率半径の入力をユーザから受付け、
前記凸部の表面に沿って前記探針を相対的に移動させて、前記凸部の先端から前記第1距離により規定される基準位置に前記探針が移動したときの、前記凸部の高さおよび該凸部の幅のうち他方の第2距離を特定し、
前記第1距離
、前記第2距離
、および前記曲率半径に基づいて前記探針の先端径を取得する、SPM。
【請求項8】
探針を有する観察装置と、
情報処理装置とを備え、
前記観察装置は、形状が既知である既知試料を前記探針で測定し、該測定の結果を示す測定信号を前記情報処理装置に出力し、
前記既知試料の表面に第1凸部と1以上の第2凸部が形成されており、
前記情報処理装置は、
前記第1凸部の高さおよび該第1凸部の幅のうちいずれか一方の第1距離
、該第1凸部の曲率半径、および前記1以上の第2凸部の曲率半径の入力をユーザから受付け、
前記第1凸部の表面に沿って前記探針を相対的に移動させて、前記第1凸部の先端から前記第1距離により規定される基準位置に前記探針が移動したときの、前記第1凸部の高さおよび該第1凸部の幅のうち他方の第2距離を特定し、
前記1以上の第2凸部の各々について表面に沿って前記探針を相対的に移動させて、前記基準位置に前記探針が移動したときの、前記基準位置から該第2凸部の先端までの高さである第3距離、および前記基準位置における該第2凸部の幅である第4距離を特定し、
前記第1距離
、前記第2距離
、および前記第1凸部の曲率半径に基づいて第1の先端径を取得し、
前記1以上の第2凸部の各々について、前記第3距離
、前記第4距離
、および前記1以上の第2凸部の曲率半径に基づいて第2の先端径を取得し、
前記第1の先端径と、前記1以上の第2凸部の各々の前記第2の先端径との平均値を算出することにより、前記探針の先端径を取得する、SPM。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、探針の先端径の取得方法およびSPMに関する。
【背景技術】
【0002】
SPM(Scanning Probe Microscope:走査型プローブ顕微鏡)においては、カンチレバーの先端に探針が設けられており、試料に対して探針を接近させて試料表面の情報を取得し、この情報に基づいて観察画像が生成される。
【0003】
特許第5902485号公報(特許文献1)には、SPMにおいて、既知試料を測定して探針の曲率半径を算出する技術が開示されている。この既知試料には、曲率半径が10nm以下である凸部が形成されている。走査型プローブ顕微鏡は、この既知試料を測定することにより、凸部を示す観察画像を生成する。SPMは、この観察画像により示される1つの凸部の先端からの距離と、この距離により規定される位置における該凸部の幅との複数の組合せを測定し、この複数の組合せに基づいて探針の曲率半径を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の走査型プローブ顕微鏡では、1つの凸部の先端からの距離と、この距離により規定される位置における該凸部の幅との複数の組合せを測定する必要がある。したがって、探針の曲率半径を算出するための演算処理量が増大するという問題が生じ得る。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、演算処理量を増大させることなく探針の曲率半径を算出できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のある局面に従う方法は、SPMにおいて形状が既知である既知試料を探針で測定することによって探針の先端径を取得する方法である。既知試料の表面に凸部が形成されている。この方法は、凸部の高さおよび該凸部の幅のうちいずれか一方の第1距離の入力をユーザから受付けるステップを備える。また、この方法は、凸部の表面に沿って探針を相対的に移動させて、凸部の先端から第1距離により規定される基準位置に探針が移動したときの、凸部の高さおよび該凸部の幅のうち他方の第2距離を特定するステップを備える。さらに、この方法は、第1距離および第2距離に基づいて探針の先端径を取得するステップを備える。当該探針の先端径の取得は、例えば、第1距離および第2距離を所定式に代入することにより行うことができる。
【0008】
本開示の別の局面に従う方法は、SPMにおいて形状が既知である既知試料を探針で測定することによって探針の先端径を取得する方法である。既知試料の表面に第1凸部と1以上の第2凸部が形成されている。この方法は、第1凸部の高さおよび該第1凸部の幅のうちいずれか一方の第1距離の入力をユーザから受付けるステップを備える。また、この方法は、第1凸部の表面に沿って探針を相対的に移動させて、第1凸部の先端から第1距離により規定される基準位置に探針が移動したときの、第1凸部の高さおよび該第1凸部の幅のうち他方の第2距離を特定するステップを備える。また、この方法は、1以上の第2凸部の各々について表面に沿って探針を相対的に移動させて、基準位置に探針が移動したときの、基準位置から該第2凸部の先端までの高さである第3距離、および基準位置における該第2凸部の幅である第4距離を特定するステップを備える。また、この方法は、第1距離および第2距離に基づいて第1の先端径を取得するステップを備える。また、この方法は、1以上の第2凸部の各々について、第3距離および第4距離に基づいて第2の先端径を取得するステップを備える。さらに、この方法は、第1の先端径と、1以上の第2凸部の各々の第2の先端径との平均値を算出することにより、探針の先端径を取得するステップとを備える。当該第1の先端径の取得は、例えば、第1距離および第2距離を所定式に代入することにより行うことができ、第2の先端径の取得は、第3距離および第4距離を所定式に代入することにより行うことができる。
【発明の効果】
【0009】
本開示の技術によれば、凸部の高さおよび該凸部の幅のうちいずれか一方の距離がユーザから第1距離として入力されるとともに、これらの距離のうち他方である第2距離を、入力された第1距離に基づいて算出し、第1距離と、第2距離とに基づいて、探針の曲率半径を算出する。したがって、本開示の技術によれば、1つの凸部の先端からの距離と、この距離により規定される位置における該凸部の幅との複数の組合せを測定する必要がないことから、処理量を増大させることなく探針の曲率半径を算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態に係る走査型プローブ顕微鏡の構成を概略的に示す図である。
【
図2】情報処理装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図4】曲率半径を算出できる理由を説明するための図である。
【
図5】情報処理装置の機能ブロック図の一例である。
【
図6】情報処理装置のフローチャートの一例である。
【
図7】別の実施の形態の曲率半径を算出できる理由を説明するための図である。
【
図8】情報処理装置のフローチャートの一例である。
【
図9】情報処理装置のフローチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では図中の同一または相当部分に同一符号を付してその説明は原則的に繰返さないものとする。
【0012】
<第1の実施の形態>
[走査型プローブ顕微鏡の構成]
図1は、実施の形態に係るSPM100の構成を概略的に示す図である。SPM100は、探針(プローブ)と試料Sの表面との間に働く原子間力(引力または斥力)を利用して試料Sを観察する原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)である。
【0013】
図1を参照して、実施の形態に係るSPM100は、主たる構成要素として、観察装置80と、情報処理装置20と、表示装置26と、入力装置28とを備える。観察装置80は、主たる構成要素として、光学系1と、カンチレバー2と、スキャナ10と、試料保持部12と、駆動部16と、演算部17と、制御部18とを備える。
【0014】
スキャナ10は、試料Sと探針3との相対的な位置関係を変化させるための移動装置である。試料Sが、スキャナ10上に載置された試料保持部12の上に保持される。スキャナ10は、試料Sを互いに直交するX、Yの2軸方向に走査するXYスキャナと、試料SをZ軸方向に微動させるZスキャナとを有する。XYスキャナおよびZスキャナは、駆動部16から印加される電圧によって変形する圧電素子により構成されており、該圧電素子に印加される電圧に従って、スキャナ10は、3次元方向(X軸方向、Y軸方向、Z軸方向)に走査する。これにより、スキャナ10に載置された試料Sと探針3との間の相対的な位置関係を変化させることができる。
【0015】
カンチレバー2は、試料Sと対向する表面と、表面と反対側の裏面とを有しており、ホルダ4によって支持されている。カンチレバー2は、自由端である先端部の表面に探針3を有する。探針3は試料Sに対向して配置される。探針3は、試料Sの表面に沿って移動し、探針3と試料Sとの間に働く原子間力によって、カンチレバー2が変位する。
【0016】
カンチレバー2の上方には、カンチレバー2のZ軸方向の変位を検出するための光学系1が設けられている。光学系1は、試料Sの観察時に、レーザ光をカンチレバー2の裏面に照射し、カンチレバー2の裏面で反射されたレーザ光を検出する。光学系1は、レーザ光源6と、ビームスプリッタ5と、ミラー7と、光検出器8とを有する。
【0017】
レーザ光源6は、レーザ光を発射するレーザ発振器を有する。光検出器8は、入射されるレーザ光を検出する4分割フォトダイオードを有する。レーザ光源6から発射されたレーザ光LAは、ビームスプリッタ5で反射され、カンチレバー2の裏面に照射される。
【0018】
カンチレバー2は、シリコンまたは窒化シリコンなどで形成され、カンチレバー2の背面で光学系1から照射されたレーザ光を反射することができる。カンチレバー2の裏面で反射されたレーザ光は、さらにミラー7によって反射されて光検出器8に入射する。光検出器8にてレーザ光を検出することにより、カンチレバー2の変位を検出することができる。
【0019】
具体的には、光検出器8は、カンチレバー2の変位方向(Z軸方向)に複数(通常2つ)に分割された受光面を有する。あるいは、光検出器8は、Z軸方向およびY軸方向に4分割された受光面を有する。カンチレバー2が変位すると、これら複数の受光面に照射される光量の割合が変化する。光検出器8は、その複数の受光光量に応じた検出信号を演算部17に出力する。演算部17は、検出信号を受信すると、検出信号に基づいてカンチレバー2の変位量を算出する。演算部17は、探針3と試料S表面との間の原子間力が常に一定になるように試料SのZ方向位置を制御する。演算部17は、カンチレバー2の変位量に基づいてスキャナ10をZ軸方向に変位させる電圧値を算出し、スキャナ10に出力する。
【0020】
また、演算部17は、検出信号を制御部18に対して出力する。制御部18は、該検出信号に基づいて制御信号を生成し、該制御信号を情報処理装置20に出力する。制御信号は、本開示の「測定信号」に対応する。
【0021】
情報処理装置20は、制御部18、表示装置26、および入力装置28と通信可能に接続される。情報処理装置20は、制御部18からの制御信号に基づいて画像データ(プロファイルデータ)を生成する。
【0022】
情報処理装置20は、生成された画像データに基づいて、表示装置26に観察画像を表示する。観察画像は、試料Sの表面を示す画像である。また、情報処理装置20は、スキャナ10を3次元方向に駆動するように、制御部18を介して駆動部16を制御する。
【0023】
入力装置28は、ユーザの入力操作を受け付ける。入力装置28は、ユーザの操作内容に応じた信号を情報処理装置20へ出力する。情報処理装置20は、この信号を制御部18に出力する。制御部18は、この信号に基づいた制御を観察装置80に対して実行する。入力装置28は、表示装置26上に設けられたタッチパネルであってもよいし、専用の操作ボタン、マウスまたはキーボードなどの物理操作キーであってもよい。
【0024】
[情報処理装置のハードウェア構成]
図2は、情報処理装置20のハードウェア構成の一例を示す図である。情報処理装置20は、主たる構成要素として、CPU(Central Processing Unit)160と、ROM(Read Only Memory)162と、RAM(Random Access Memory)164と、HDD(Hard Disk Drive)166と、通信I/F(Interface)168と、表示I/F170と、入力I/F172とを有する。各構成要素はデータバスによって相互に接続されている。
【0025】
通信I/F168は、観察装置80と通信するためのインターフェースである。表示I/F170は、表示装置26と通信するためのインターフェースである。入力I/F170は、入力装置28と通信するためのインターフェースである。
【0026】
ROM162は、CPU160にて実行されるプログラムを格納する。RAM164は、CPU160におけるプログラムの実行により生成されるデータ、および通信I/F168を経由して入力されたデータを一時的に格納することができる。RAM164は、作業領域として利用される一時的なデータメモリとして機能できる。HDD166は、不揮発性の記憶装置である。また、HDD166に代えて、フラッシュメモリなどの半導体記憶装置を採用してもよい。
【0027】
また、ROM162に格納されているプログラムは、記憶媒体に格納されて、プログラムプロダクトとして流通されてもよい。または、プログラムは、情報提供事業者によって、いわゆるインターネットなどによりダウンロード可能なプログラムプロダクトとして提供されてもよい。情報処理装置20は、記憶媒体またはインターネットなどにより提供されたプログラムを読み取る。情報処理装置20は、読み取ったプログラムを所定の記憶領域(たとえば、ROM162)に記憶する。CPU160は、該記憶されたプログラムを実行することにより上述の表示処理を実行する。
【0028】
記憶媒体は、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)、CD-ROM(compact disc read-only memory)、FD(Flexible Disk)、ハードディスクに限られず、磁気テープ、カセットテープ、光ディスク(MO(Magnetic Optical Disc)/MD(Mini Disc)/DVD(Digital Versatile Disc)、光カード、マスクROM、EPROM(Electronically Programmable Read-Only Memory)、EEPROM(Electronically Erasable Programmable Read-Only Memory)、フラッシュROMなどの半導体メモリなどの固定的にプログラムを担持する媒体としてもよい。また、記録媒体は、プログラムなどをコンピュータが読取可能な非一時的な媒体である。ROM162と、RAM164と、HDD166とのうちの少なくとも1つが、本開示の「メモリ」に対応する。つまり、メモリは、情報処理装置により利用される情報を記憶する。
【0029】
[探針の先端径の取得]
観察装置80による試料Sの観測中に、探針3と試料Sとが接触する場合があり、探針3と試料Sとの接触回数が多くなると、探針3の先端の摩耗または探針3の先端への不純物の付着が生じる。探針3の先端の摩耗がまたは探針3の先端への不純物の付着が生じた状態で、探針3を用いた試料Sの測定が行われると、正確な測定を行うことができない。また、SPM100は、試料Sの弾性率を算出することが可能であり、探針3の先端径の正確な把握は、算出される弾性率の確からしさに直結する。このため、探針3の先端径を取得することが好ましい。なお、探針3の先端径は、「探針3の先端の曲率半径」または「探針3の曲率半径」とも称される。
【0030】
一般的に、探針3の先端が摩耗した場合には、探針3の曲率半径が長くなる。また、探針3の先端に不純物が付着した場合には、探針3の曲率半径が長くなる場合と短くなる場合とがある。そこで、本開示のSPM100は、探針3の曲率半径を算出する。
【0031】
以下に、本開示の探針3の曲率半径の算出手法を説明する。探針3の曲率半径の算出においては、形状が既知である既知試料が用いられる。既知試料は、N(Nは2以上の整数)個の単位試料から構成されるものであり、N個の単位試料の各々には凸部が形成されている。つまり、既知試料の表面には、N個の凸部が形成されている。
【0032】
本開示のSPM100においては、未知試料を測定する測定モードと、探針3の曲率半径を算出する算出モードとに切換可能である。ユーザにより入力装置28に対して所定の操作が行われた場合に、SPM100のモードは算出モードに切り換えられる。算出モードでは、観察装置80は、既知試料を測定して、この測定結果を示す検出信号を情報処理装置20に送信する。情報処理装置20は、この検出信号に基づいて既知試料の画像データを生成する。
図3は、生成された画像データにより示されるN個の凸部P1~PNの断面図である。
図3の例において、凸部の高さ方向をZ軸方向とし、Z軸方向に垂直な平面をXY平面とする。また、nは、2~Nまでの変数である。なお、N個の凸部をまとめて「凸部P」とも称する。
【0033】
本実施の形態の凸部P1~PNの各々は、所定値以上の曲率半径を有する。ここで、所定値は予め定められる値である。
【0034】
また、算出モードでは、SPM100は、凸部を粒子とみなして、凸部の測定を行う。したがって、XY平面における凸部P1~PNの断面は、円形状に近似される。この円形状の半径は、以下では、「円相当半径」とも称される。「凸部の円相当半径」は、本開示の「凸部の幅」に対応する。また、
図3に示すように、凸部P1~PNの各々の高さなどの形状は、一様ではない。また、情報処理装置20は、凸部の画像データを解析することにより、該凸部の高さ、および該凸部の円相当半径を特定することができる。
【0035】
まず、情報処理装置20は、画像データに基づいて、N個の凸部から1の凸部P1を決定し、凸部P1の測定に基づいた探針3の曲率半径を算出する。その後、情報処理装置20は、他の凸部Pn(n=2,...,N)の測定に基づいた探針3の曲率半径を算出する。
【0036】
ここで、凸部P1を決定する基準は、如何なる基準であってもよく、たとえば、最も高い凸部を凸部P1に決定してもよい。凸部P1は、本開示の「第1凸部」に対応する。また、他の凸部Pnの各々は、本開示の「第2凸部」に対応する。
【0037】
次に、凸部P1の測定に基づいた探針3の曲率半径の算出方法を説明する。以下では、凸部P1の先端Q1のZ座標を「Zmax1」と称する。情報処理装置20は、画像データに基づいて、Zmaxを取得できる。凸部P1の高さZ1は、ユーザにより入力される。情報処理装置20は、Zmax-Zを演算することにより、ZminのZ座標を算出することができる。さらに、情報処理装置20は、画像データに基づいて(つまり、凸部P1の測定により)、Zminにおける円相当半径rを算出する。Zminは、本開示の「基準位置」に対応する。
【0038】
次に、探針3の曲率半径Rtの算出式を説明する。
図4は、この算出式を説明するための図である。この算出式は、上述の所定式の例である。
【0039】
円300は、探針3に対応する円である。円300は、探針3の曲率半径Rtにより形成される円である。円340は、凸部Pに対応する円である。円340は、凸部Pの曲率半径Rsにより形成される円である。円340の中心を「中心340C」と称する。円320は、探針3が凸部Pの表面に沿って移動する場合の先端3Aの軌跡に対応する円である。円320は、この軌跡の曲率半径Riにより形成される円である。円320の中心を「中心320C」と称する。
【0040】
図4において、探針3の先端3Aが位置A、位置B、および位置Cの各々に存在するときときの円300が示されている。位置Aは、探針3の先端3AのZ座標がZmaxである場合の位置である。位置Bは、探針3の先端3AのZ座標がZminである場合の位置である。位置Bは、凸部Pの先端Qからユーザにより入力される距離Zにより規定される基準位置である。円相当半径rは、基準位置Bにおいて凸部の高さ方向と直交する断面である円の半径である。高さZは、本開示の「第1距離」に対応する。また、
図4のZが、ユーザにより入力されるZ1に対応する。円相当半径rは、本開示の「第2距離」に対応する。位置Cは、1つの凸部Pの測定において、探針3の先端3AのZ座標が最小値である場合の位置である。Z座標が最小値である場合とは、たとえば、探針3が試料保持部12に位置している場合である。また、「探針3の先端3Aが位置Bであるときの中心320Cと先端3Aとを結ぶ線」と、「凸部の高さ方向の線」とがなす角度を「角度θ」とも称する。
【0041】
図4に示すように、円相当半径rについて以下の式(1)が成立する。
r=Ri・sinθ (1)
また、sinθおよびcosθについて以下の式(2)が成立する。
【0042】
sin2θ+cos2θ=1 (2)
式(1)を式(2)に代入すると、以下の式(3)が成立する。
【0043】
cosθ={1-(r/Ri)2}1/2 (3)
また、高さZについては、以下の式(4)が成立する。
【0044】
Z=Ri(1-cosθ) (4)
式(3)を式(4)に代入すると、以下の式(5)が成立する。
【0045】
Z=Ri-(Ri2-r2)1/2 (5)
式(5)をRiについて解くと以下の式(6)が成立する。
【0046】
Ri=(Z2+r2)/(2Z) (6)
また、Rt、Ri、およびRsについて以下の式(7)が成立する。
【0047】
Ri=Rt+Rs (7)
式(7)を式(6)に代入すると、以下の式(8)が成立する。
【0048】
【0049】
この式(8)が、本実施の形態における曲率半径Rtの算出式である。上述のように、高さZ1は、
図3で説明したようにユーザにより入力される値である。また、円相当半径rは、高さZにより規定される基準位置における値である。Rsは、凸部の曲率半径であり、ユーザにより入力される値である。なお、ユーザは、既知試料の凸部の曲率半径Rsを、既知試料のマニュアルなどから把握して、SPM100に入力することになる。
【0050】
情報処理装置20は、凸部P1の高さZ1、円相当半径r1、および凸部Pの曲率半径Rsを、式(8)のZ、r、およびRsに代入することにより、凸部P1の測定による曲率半径Rt1を算出する。曲率半径Rt1は、本開示の「第1の先端径」に対応する。
【0051】
説明を
図3に戻す。次に、他の凸部Pnの算出の手法を説明する。
図3に示すように、凸部P1により算出されたZminが、他の凸部Pnの各々に適用される。情報処理装置20は、他の凸部Pnの各々について、Zmaxnを算出する。情報処理装置20は、Zmaxn-Zminを実行することにより、他の凸部Pnの各々の高さZnを算出する。この高さZnは、基準位置Zminから、凸部Pnの先端Qnまでの高さである。さらに、情報処理装置20は、他の凸部Pnの、基準位置Zminにおける円相当半径rnを算出する。高さZnが、本開示の「第3距離」に対応し、円相当半径rnが、本開示の「第4距離」に対応する。
【0052】
このように、情報処理装置20は、他の凸部Pnの画像データに基づいて(つまり、他の凸部Pnの測定により)、高さZnおよび円相当半径rnを算出する。
【0053】
そして、情報処理装置20は、凸部Pnの高さZnおよび円相当半径rnと、曲率半径Rsを、式(8)のZ、r、およびRsに代入することにより、凸部Pnの測定による曲率半径Rtnを算出する。この曲率半径Rtn(n=2,...,N)は、N-1個の曲率半径を示す。曲率半径Rtnは、本開示の「第2の先端径」に対応する。なお、曲率半径Rsは、曲率半径Rt1を算出するために用いられた曲率半径Rsと同一とされる。
【0054】
[情報処理装置の機能ブロック図]
図5は、情報処理装置20の機能ブロック図の一例である。情報処理装置20は、第1入力部302と、生成部304と、処理部306と、第2入力部310と、記憶部312とを含む。
【0055】
第1入力部302は、制御部18からの制御信号の入力を受け、該制御信号を生成部304に出力する。生成部304は、制御信号に基づいて画像データを生成し、該画像データを処理部306に出力する。
【0056】
また、ユーザは、入力装置28を用いて、高さZ1および凸部Pの曲率半径Rsを入力する。第2入力部310は、高さZ1および凸部の曲率半径Rsの入力を受け付ける。この高さZ1および凸部Pの曲率半径Rsは記憶部312に記憶される。
【0057】
処理部306は、生成部304からの画像データと、記憶部312に記憶されている高さZ1とに基づいて、凸部P1の円相当半径r1と、凸部Pnの円相当半径rnと、凸部Pnの高さZnとを特定する。処理部306は、凸部P1の円相当半径r1と、記憶部312に記憶されている高さZ1および曲率半径Rsとを、式(8)に代入することにより、凸部P1の測定よる曲率半径Rt1を算出する。さらに、処理部306は、凸部Pnの円相当半径rnと、凸部Pnの高さZnと、記憶部312に記憶されている曲率半径Rsとを、式(8)に代入することにより、凸部Pnの測定よる曲率半径Rtnを算出する。
【0058】
処理部306は、曲率半径Rt1と、N-1個の曲率半径Rtnとの平均値Ravgを算出する。処理部306は、平均値Ravgを、探針3の曲率半径として表示装置26に表示させる。
【0059】
なお、処理部306は、他の装置に出力するようにしてもよい。他の装置は、たとえば、プリンタである。この場合には、プリンタは、探針3の曲率半径を用紙に印刷して出力する。
【0060】
たとえば、特許文献1に記載の走査型プローブ顕微鏡においては、1つの凸部の高さZ1~Zmと、該Z1~Zmの各々により規定される位置での円相当半径r1~rmとの組合せ(Z1、r1)、(Z2、r2)・・・(Zm、rm)を用いて、探針の曲率半径を算出する。mは2以上の整数であるとする。つまり、従来の走査型プローブ顕微鏡では、m個の組合せを抽出する必要があった。
【0061】
一方、本実施の形態のSPM100は、既知試料の高さZと、高さZにより規定される位置における幅(以下に示す円相当半径r)とに基づいて、1つの凸部について探針3の曲率半径Rtを算出できる(式(8)参照)。したがって、本開示のSPM100は、従来の走査型プローブ顕微鏡と比較して、探針3の曲率半径を算出するための演算処理量を低減できる。
【0062】
また、1個の凸部(たとえば、第1凸部)のみにより探針3の曲率半径を算出し、この曲率半径と基準値とを比較する構成が考えられる。しかし、この構成では、抽出された第1凸部の形状によって、算出される曲率半径のばらつきが生じる場合がある。
【0063】
そこで、本実施の形態では、処理部306は平均値Ravgを探針3の曲率半径として算出する。したがって、上述の曲率半径のばらつきを低減でき、その結果、探針3の曲率半径の算出精度を向上させることができる。
【0064】
また、情報処理装置20は、探針3の曲率半径を表示装置26に表示させる。したがって、ユーザは、探針3の曲率半径を容易に認識することができる。
【0065】
[情報処理装置のフローチャート]
図6は、情報処理装置20のフローチャートの一例である。
図6の処理は、算出モードに切り換えられたときに開始される。
【0066】
まず、ステップS2において、第2入力部310により凸部の高さZ1および凸部Pの曲率半径Rsの入力を受付ける。次に、ステップS4において、生成部304は、観察装置80からの検出信号に基づいて、N個の凸部を含む既知資料の画像データを生成する。次に、ステップS6において、処理部306は、N個の凸部のうちから第1凸部P1を決定し、該第1凸部P1のZmax1を算出する。
【0067】
次に、ステップS8において、処理部306は、第1凸部P1のZmax1と、高さZ1とに基づいてZminを特定する。次に、ステップS10において、処理部306は、画像データに基づいて、Zmin(基準位置)における第1凸部P1の円相当半径r1を特定する。
【0068】
次に、ステップS12において、第2凸部Pn(1以上の第2凸部)の各々の円相当半径rnと、高さZnとを特定する。
【0069】
次に、ステップS14において、処理部306は、上記式(8)に対して、第1凸部P1のZmax1および高さZ1と、凸部の曲率半径Rsを代入することにより、曲率半径Rt1を算出する。さらに、ステップS14において、処理部306は、上記式(8)に対して、第2凸部PnのZmaxnおよび高さZnと、凸部の曲率半径Rsを代入することにより、曲率半径Rtnを算出する。
【0070】
次に、ステップS16において、処理部306は、曲率半径Rt1と曲率半径Rtnとの平均値Ravgを算出する。次に、ステップS18において、処理部306は、平均値Ravgを探針3の曲率半径として表示装置26に表示する。
【0071】
<第2の実施の形態>
第1の実施の形態では、既知試料が含む凸部の曲率半径Rsは所定値以上である構成を説明した。第2の実施の形態では、既知試料の凸部がカーボンナノチューブのような極めて細い形状であり、曲率半径Rsが所定値未満である構成(たとえば、曲率半径Rsがほぼ0である構成)の場合について説明する。
【0072】
第2の実施の形態における探針3の曲率半径Rtを算出するための式は、以下の式(9)により示される。
【0073】
【0074】
式(9)は、式(8)に対して、Rs=0を代入することにより得られる式である。
次に、式(9)により曲率半径Rtを算出できる理由を説明する。
図7は、曲率半径Rtを算出できる理由を説明するための図である。
図7において、円300と、半直線420とが示されている。円300は、探針3の曲率半径Rtにより形成される円である。半直線420は、曲率半径がほぼ0である凸部を半直線に近似したものである。さらに、
図7において、探針3の先端3Aが凸部の表面に沿って移動する場合の先端3Aの軌跡410も示されている。また、凸部の先端では、先端3Aの軌跡410は、半円形状となり、この半円形状が、半円412として示されている。
図7に示すように、円300の半径(つまり、曲率半径Rt)と、半円412の半径とは同一となる。つまり、
図7において、Rt=Riとなる。よって、上記式(6)に、Rt=Riを代入することにより、式(9)が成立する。
【0075】
なお、rは、凸部の実際の円相当半径ではなく、曲率半径Rsがほぼ0である凸部Pの表面に沿って探針3を相対的に移動させて算出される値である。したがって、算出されるrは、凸部Pの実際の円相当半径よりも大きくなる。
【0076】
図8は、本実施の形態の情報処理装置20のフローチャートである。
図8は、
図6のステップS14をステップS14Aに代替された図である。ステップS14Aでは、処理部306は、上記式(9)に対して、第1凸部P1のZmax1と、高さZ1とを代入することにより、曲率半径Rt1を算出する。さらに、ステップS14Aにおいて、処理部306は、上記式(9)に対して、第2凸部PnのZmaxnと、高さZnとを代入することにより、曲率半径Rtnを算出する。他の処理は、
図6と同一である。
【0077】
本実施の形態のSPM100であれば、既知試料が含む凸部の曲率半径がほぼ0であっても、探針3の曲率半径Rtを算出することができる。
【0078】
<第3の実施の形態>
上述の実施の形態では、情報処理装置20は、凸部P1および凸部Pnの測定に基づいて、曲率半径Rt1および曲率半径Rtnを算出し、これらの平均値Ravgを探針3の曲率半径として算出する構成を説明した。しかしながら、情報処理装置20は、曲率半径Rt1を探針3の曲率半径として算出するようにしてもよい。
【0079】
図9は、第3の実施の形態の情報処理装置20のフローチャートである。
図9は、
図6のステップS12およびステップS14が省略され、かつステップS18がステップS18Aに代替された図である。ステップS14において、処理部306は、曲率半径Rt1を算出する。そして、ステップS18Aにおいて、処理部306は、曲率半径Rt1を探針3の曲率半径として表示装置26に表示する。また、
図9のステップS14においては、処理部306は、式(9)に基づいて、曲率半径Rt1を算出するようにしてもよい。
【0080】
このような構成であっても情報処理装置20は、探針3の曲率半径を算出することができる。
【0081】
<その他の実施の形態>
(A) 上述の実施の形態の情報処理装置20は、高さZ1の入力をユーザから受付け、この高さZ1に基づいて、円相当半径r1を算出する構成を説明した。しかしながら、情報処理装置20は、円相当半径r1の入力をユーザから受付け、円相当半径r1に基づいて、高さZ1を算出するようにしてもよい。
【0082】
(B) 上述の算出モードにおいて、式(8)を用いて曲率半径Rtを算出する第1モードと、式(9)を用いて曲率半径Rtを算出する第2モードとをユーザが選択可能な構成が採用されてもよい。たとえば、探針3の曲率半径の算出に用いられる既知試料が有する凸部の曲率半径が所定値以上であるとユーザが判断した場合には、ユーザは第1モードを選択し、この曲率半径が所定値未満であるユーザが判断した場合には、ユーザは第2モードを選択する。
【0083】
(C) 第1の実施の形態では、既知試料の凸部の曲率半径Rsは、ユーザにより入力される構成を説明した。しかしながら、観察装置80が、既知試料の凸部の曲率半径Rsを測定するようにしてもよい。この場合には、情報処理装置20は、測定された曲率半径Rsが所定値以上であるか否かを判断し、所定値以上である場合には、上述の第1モードに切換え、所定値未満である場合には、上述の第2モードに切換えるようにしてもよい。
【0084】
(D) 上述の実施の形態では、既知試料の凸部の曲率半径Rsの算出式は、式(8)または式(9)である構成を説明した。しかしながら、この算出式は、高さZ、および円相当半径rに基づく式であれば、他の算出式であってもよい。
【0085】
(E) 上述の実施の形態では、第1凸部の測定による探針3の曲率半径Rt1と、第2凸部の測定による探針3の曲率半径Rtnとの平均値Ravgを、探針3の曲率半径として算出する構成を説明した。しかしながら、たとえば、曲率半径Rt1と、曲率半径Rtnとに基づいて探針3の曲率半径を算出する構成であれば、他の手法により、探針3の曲率半径を算出するようにしてもよい。たとえば、曲率半径Rt1に重み係数w1を乗算した値と、曲率半径Rtn(n=1,...N)の各々に重み係数w2を乗算した値とを加算し、この加算値をNで除算した値を、探針3の曲率半径として算出するようにしてもよい。たとえば、以下の式(10)のように探針3の曲率半径Rtを算出するようにしてもよい。
【0086】
【0087】
[態様]
上述した複数の例示的な実施の形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0088】
(第1項) 一態様に係る方法は、SPMにおいて形状が既知である既知試料を探針で測定することによって探針の先端径を取得する方法であって、既知試料の表面に凸部が形成されており、方法は、凸部の高さおよび該凸部の幅のうちいずれか一方の第1距離の入力をユーザから受付けるステップと、凸部の表面に沿って探針を相対的に移動させて、凸部の先端から第1距離により規定される基準位置に探針が移動したときの、凸部の高さおよび該凸部の幅のうち他方の第2距離を特定するステップと、第1距離および第2距離に基づいて探針の先端径を取得するステップとを備える。
【0089】
第1項に記載の方法によれば、処理量を増大させることなく探針の曲率半径を算出できる。
【0090】
(第2項) 一態様に係る方法は、SPMにおいて形状が既知である既知試料を探針で測定することによって探針の先端径を取得する方法であって、既知試料の表面に第1凸部と1以上の第2凸部が形成されており、方法は、第1凸部の高さおよび該第1凸部の幅のうちいずれか一方の第1距離の入力をユーザから受付けるステップと、第1凸部の表面に沿って探針を相対的に移動させて、第1凸部の先端から第1距離により規定される基準位置に探針が移動したときの、第1凸部の高さおよび該第1凸部の幅のうち他方の第2距離を特定するステップと、1以上の第2凸部の各々について表面に沿って探針を相対的に移動させて、基準位置に探針が移動したときの、基準位置から該第2凸部の先端までの高さである第3距離、および基準位置における該第2凸部の幅である第4距離を特定するステップと、第1距離および第2距離に基づいて第1の先端径を取得するステップと、1以上の第2凸部の各々について、第3距離および第4距離に基づいて第2の先端径を取得するステップと、第1の先端径と、1以上の第2凸部の各々の第2の先端径とに基づいて探針の先端径を取得するステップとを備える。
【0091】
第2項に記載の方法によれば、処理量を増大させることなく探針の曲率半径を算出できる。さらに、凸部の形状によって生じる、算出される曲率半径のばらつきを低減できる。
【0092】
(第3項) 第2項に記載の方法は、探針の先端径を取得するステップは、第1の先端径と、1以上の第2凸部の各々の第2の先端径との平均値を算出することにより探針の先端径を取得するステップを含む。
【0093】
第3項に記載の方法によれば、凸部の形状によって生じる、算出される曲率半径のばらつきを低減できる。
【0094】
(第4項) 第1項~第3項のいずれか1項に記載の方法は、探針の先端径を表示装置に表示させるステップをさらに備える。
【0095】
第4項に記載の方法によれば、探針の先端径が表示装置に表示される。したがって、ユーザは容易に探針の先端径を把握できる。
【0096】
(第5項) 第1項~第4項のいずれか1項に記載の方法において、距離に基づいて先端径を取得するステップは、
【0097】
【0098】
という式が用いられ、
ただし、Rtは探針の先端径であり、Zは凸部の高さであり、rは凸部の幅であり、Rsは凸部の曲率半径である。
【0099】
第5項に記載の方法によれば、凸部の高さと、該凸部の幅と、凸部の曲率半径とに基づいて、凸部の先端径Rtを算出できる。
【0100】
(第6項) 第1項~第4項のいずれか1項に記載の方法において、距離に基づいて先端径を取得するステップは、
【0101】
【0102】
という式が用いられ、
ただし、Rtは探針の先端径であり、Zは凸部の高さであり、rは凸部の幅である。
【0103】
第6項に記載の方法によれば、凸部の高さと、該凸部の幅とに基づいて、凸部の曲率半径Rtを算出できる。
【0104】
(第7項) 一態様に係るSPMは、探針を有する観察装置と、情報処理装置とを備え、観察装置は、形状が既知である既知試料を探針で測定し、該測定の結果を示す測定信号を情報処理装置に出力し、既知試料の表面に凸部が形成されており、情報処理装置は、凸部の高さおよび該凸部の幅のうちいずれか一方の第1距離の入力をユーザから受付け、凸部の表面に沿って探針を相対的に移動させて、凸部の先端から第1距離により規定される基準位置に探針が移動したときの、凸部の高さおよび該凸部の幅のうち他方の第2距離を特定し、第1距離および第2距離に基づいて探針の先端径を取得する。
【0105】
第7項に記載のSPMによれば、処理量を増大させることなく探針の曲率半径を算出できる。
【0106】
(第8項) 一態様に係るSPMは、探針を有する観察装置と、情報処理装置とを備え、観察装置は、形状が既知である既知試料を探針で測定し、該測定の結果を示す測定信号を情報処理装置に出力し、既知試料の表面に第1凸部と1以上の第2凸部が形成されており、情報処理装置は、第1凸部の高さおよび該第1凸部の幅のうちいずれか一方の第1距離の入力をユーザから受付け、第1凸部の表面に沿って探針を相対的に移動させて、第1凸部の先端から第1距離により規定される基準位置に探針が移動したときの、第1凸部の高さおよび該第1凸部の幅のうち他方の第2距離を特定し、1以上の第2凸部の各々について表面に沿って探針を相対的に移動させて、基準位置に探針が移動したときの、基準位置から該第2凸部の先端までの高さである第3距離、および基準位置における該第2凸部の幅である第4距離を特定し、第1距離および第2距離に基づいて第1の先端径を取得し、1以上の第2凸部の各々について、第3距離および第4距離に基づいて第2の先端径を取得し、第1の先端径と、1以上の第2凸部の各々の第2の先端径との平均値を算出することにより、探針の先端径を取得する。
【0107】
第8項に記載のSPMによれば、処理量を増大させることなく探針の曲率半径を算出できる。さらに、凸部の形状によって生じる、算出される曲率半径のばらつきを低減できる。
【0108】
今回開示された各実施の形態は、技術的に矛盾しない範囲で適宜組合わせて実施することも予定されている。そして、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本実施の形態の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0109】
1 光学系、2 カンチレバー、3 探針、4 ホルダ、5 ビームスプリッタ、6 レーザ光源、7 ミラー、8 光検出器、10 スキャナ、12 試料保持部、16 駆動部、17 演算部、18 制御部、20 情報処理装置、26 表示装置、28 入力装置、80 観察装置、162 ROM、164 RAM、304 生成部、306 処理部、310 第2入力部、312 記憶部。