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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】物品搬送設備
(51)【国際特許分類】
   B60L 7/14 20060101AFI20231212BHJP
   G05D 1/02 20200101ALI20231212BHJP
【FI】
B60L7/14
G05D1/02 P
G05D1/02 G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020150065
(22)【出願日】2020-09-07
(65)【公開番号】P2022044441
(43)【公開日】2022-03-17
【審査請求日】2022-11-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003643
【氏名又は名称】株式会社ダイフク
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】信田 清哉
(72)【発明者】
【氏名】西川 直
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-150083(JP,A)
【文献】特開2018-190235(JP,A)
【文献】特開平11-069609(JP,A)
【文献】特開昭59-180609(JP,A)
【文献】特開2010-035359(JP,A)
【文献】特開2009-142103(JP,A)
【文献】国際公開第2013/115035(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/163052(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
G05D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行経路に沿って走行して物品を搬送する物品搬送車を備えた物品搬送設備であって、
前記物品搬送車を制御する搬送車制御システムを備え、
前記物品搬送車は、
車輪を駆動する走行用モータと、
前記走行用モータに電力を供給する電源部と、
前記走行用モータの回生時に生じる回生電力が供給される回生抵抗と、
前記回生抵抗の温度を検出する温度センサと、
前記電源部と前記走行用モータとの電気的接続経路に配置されて前記電源部から前記走行用モータへの電力の供給を遮断可能な開閉器と、を備え、
前記搬送車制御システムは、
前記温度センサにより、前記回生抵抗の温度が、予め規定された定常状態の温度範囲である定常温度範囲よりも高い温度に設定された第1温度以上であると検出された場合は、前記物品搬送車の走行速度を予め規定された制限速度以下に制限し、
前記温度センサにより、前記回生抵抗の温度が、前記第1温度よりも高い温度に設定された第2温度以上であると検出された場合は、前記開閉器により前記電源部と前記走行用モータとの接続を遮断する、物品搬送設備。
【請求項2】
前記搬送車制御システムは、前記温度センサにより、前記回生抵抗の温度が、前記定常温度範囲よりも低い温度に設定された第3温度未満であると検出された場合は、前記物品搬送車の走行速度を前記制限速度以下に制限する、請求項1に記載の物品搬送設備。
【請求項3】
前記走行経路には、前記物品を搬送する場合に通る領域である搬送領域と、前記物品搬送車のメンテナンスを行う場合に通る領域であるメンテナンス領域とが含まれ、
前記搬送車制御システムは、
前記温度センサの検出結果に基づいて前記物品搬送車の走行速度を前記制限速度以下に制限し、
前記物品搬送車が前記物品を搬送中の場合には、搬送先に当該物品を搬送した後、前記メンテナンス領域へ当該物品搬送車を向かわせ、
前記物品搬送車が前記物品を搬送していない場合には、そのまま前記メンテナンス領域へ当該物品搬送車を向かわせる、請求項1又は2に記載の物品搬送設備。
【請求項4】
前記搬送車制御システムは、複数の前記物品搬送車による前記物品の搬送を制御する設備制御装置が備える搬送制御部と、それぞれの前記物品搬送車が備える車両制御部と、を含み、前記設備制御装置とそれぞれの前記物品搬送車とが双方向通信可能であり、
前記車両制御部は、前記温度センサの検出結果に基づく判定と、当該検出結果及び当該検出結果に基づく判定結果の少なくとも一方に基づく回生抵抗情報の前記搬送制御部への送信と、前記判定結果に基づく前記物品搬送車の走行速度の制御と、前記判定結果に基づく前記開閉器の制御と、を行い、
前記搬送制御部は、前記回生抵抗情報を受信し、前記回生抵抗情報に基づき前記物品搬送車の走行速度が前記制限速度以下に制限されると判定した場合には、前記メンテナンス領域内の地点を当該物品搬送車の目的地とする搬送指令を当該物品搬送車に送信する、請求項3に記載の物品搬送設備。
【請求項5】
前記物品搬送車は、前記走行経路における位置を検出する位置検出部を備え、検出した位置情報を前記搬送制御部に送信し、前記搬送制御部は、前記位置情報に基づいて生成した前記搬送指令を前記物品搬送車に送信する、請求項4に記載の物品搬送設備。
【請求項6】
前記開閉器は、前記電気的接続経路における前記回生抵抗よりも前記電源部側に配置されている、請求項1から5のいずれか一項に記載の物品搬送設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行経路に沿って走行して物品を搬送する物品搬送車を備えた物品搬送設備に関する。
【背景技術】
【0002】
物品搬送車には、走行経路に沿って配設された給電線から電力の供給を受けてモータ等を駆動して走行するものが知られている。モータは、減速する際には発電機として機能するが、発電された回生電力は、給電線に返すことができないため、抵抗器(回生抵抗)等によって当該電力を消費させる場合がある。特開平3-150083号公報には、交流の回転電機を駆動するインバータ(7)の直流側に回生抵抗(3)を備え、回生電流を回生抵抗(3)に流すことで、回生電力を消費させることが示されている(背景技術において括弧内の符号は参照する文献のもの。)。回生抵抗は、回生電流が流れることによって発熱する。回生抵抗の温度が定格を越えて上昇すると回生抵抗の故障等を招くおそれがあることから、例えば、温度センサによって回生抵抗の温度が過剰に上昇したことを検出して、インバータを停止させるような制御を行うことが考えられる。しかし、インバータの停止によって物品搬送車が停止すると、当該物品搬送車が走行経路を塞ぐことになるため、当該物品搬送車を撤去するまでの間、他の物品搬送車がその経路を通行することができなくなってシステム全体の効率が低下する。このため、特開平3-150083号公報では、回生抵抗の通電時間を計測して、回生抵抗の温度上昇を推定して、インバータの回生電力を抑制することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平3-150083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回生抵抗の温度は、回生電流が大きいほど早く上昇し、回生電流が流れる時間が長いほど早く上昇する。また、上昇する温度が同じであっても、環境温度が低ければ定格温度を超えるまでの時間は長くなり、環境温度が高ければ短時間で定格温度に達する。従って、回生抵抗の通電時間を計測するだけでは、回生抵抗の温度を適切に推定する上で不十分である。
【0005】
上記背景に鑑みて、システム効率の低下を抑制しつつ、回生抵抗の温度に応じて適切にシステムを制御する技術の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの態様として、上記に鑑みた、走行経路に沿って走行して物品を搬送する物品搬送車を備えた物品搬送設備は、前記物品搬送車を制御する搬送車制御システムを備え、前記物品搬送車は、車輪を駆動する走行用モータと、前記走行用モータに電力を供給する電源部と、前記走行用モータの回生時に生じる回生電力が供給される回生抵抗と、前記回生抵抗の温度を検出する温度センサと、前記電源部と前記走行用モータとの電気的接続経路に配置されて前記電源部から前記走行用モータへの電力の供給を遮断可能な開閉器と、を備え、前記搬送車制御システムは、前記温度センサにより、前記回生抵抗の温度が、予め規定された定常状態の温度範囲である定常温度範囲よりも高い温度に設定された第1温度以上であると検出された場合は、前記物品搬送車の走行速度を予め規定された制限速度以下に制限し、前記温度センサにより、前記回生抵抗の温度が、前記第1温度よりも高い温度に設定された第2温度以上であると検出された場合は、前記開閉器により前記電源部と前記走行用モータとの接続を遮断する。
【0007】
この構成によれば、温度センサにより環境温度による影響も含めて回生抵抗の温度を検出し、検出された温度に基づいて、2つの異なる制御状態が選択されて物品搬送車が制御される。即ち、回生抵抗が第1温度以上であるか、第1温度よりも高い第2温度以上であるかに応じて制御状態が選択される。回生抵抗の温度が第2温度以上の場合には、開閉器により電源部と走行用モータとの電気的な接続が遮断される。回生抵抗の温度が第1温度以上第2温度未満の場合には、電源部と走行用モータとの電気的な接続が遮断されることなく、物品搬送車の走行速度が制限速度以下に制限された状態で走行が継続される。このように、電源部と走行用モータとの電気的な接続を遮断する前の段階で、物品搬送車の走行速度を制限することにより、物品搬送車の走行を維持しつつ回生抵抗の温度上昇を抑制することができる。従って、回生抵抗の温度上昇に起因して物品搬送車の走行を停止させる可能性を低減することができ、物品搬送設備の搬送効率の低下が抑制される。また、本構成によれば、予測値ではなく、実際の回生抵抗の温度が温度センサによって検出されるので、環境温度が変化しても回生抵抗の温度に応じて適切に物品搬送車を制御することができる。このように、本構成によれば、システム効率の低下を抑制しつつ、回生抵抗の温度に応じて適切にシステムを制御することができる。
【0008】
物品搬送設備のさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】物品搬送設備の平面図
図2】物品搬送車の側面図
図3】物品搬送車の正面図
図4】物品搬送車により物品を移載する例を示す図
図5】物品搬送設備の構成を示す模式的ブロック図
図6】受電部及び走行用モータ駆動回路の一例を示す回路ブロック図
図7】回生抵抗の温度と物品搬送車の制御との関係の一例を示すフローチャート
図8】回生抵抗の温度と物品搬送車の制御との関係の一例を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、物品保管設備の実施形態を図面に基づいて説明する。図1から図5に示すように、物品搬送設備200は、天井に吊り下げ支持されて走行経路1に沿って設置された走行レール2と、走行レール2に吊り下げ支持されて走行レール2上を走行経路1に沿って走行し、物品Wを搬送する物品搬送車3とを備えている。物品搬送車3は、例えば、半導体基板を収容するFOUP(Front Opening Unified Pod)やフォトマスク等を収容するレチクルを物品Wとして搬送する。本実施形態では、物品WとしてFOUPを例示している。また、以下の説明では、走行経路1に沿った方向を走行方向Y、水平面に沿うと共に走行方向Yに直交する方向を幅方向Xとする。上下方向Zは、走行方向Y及び幅方向Xに直交する方向である。
【0011】
図1に示すように、走行経路1は、例えば1つの環状の主経路1Mと、複数の処理装置202を経由する環状の複数の副経路1Sと、これら主経路1Mと副経路1Sとを備えている。物品搬送車3は、走行経路1は一方通行であり、物品搬送車3は、走行経路1を走行方向上流側から走行方向下流側に向かって走行する。また、走行経路1には、物品Wを搬送する場合に通る領域である搬送領域E1と、物品搬送車3のメンテナンスを行う場合に通る領域であるメンテナンス領域E2とが含まれている。メンテナンス領域E2には、例えば、メンテナンスのために、走行レール2に吊り下げられた物品搬送車3を地上側に降ろすためのメンテナンスリフタ204が配置されている。
【0012】
図2及び図3に示すように、物品搬送車3は、走行経路1に沿って天井から吊り下げ支持されて配置された一対の走行レール2に案内されて走行経路1に沿って走行する走行部9と、走行レール2の下方に位置して走行部9に吊り下げ支持された搬送車本体10と、走行経路1に沿って配設された給電線11から非接触で駆動用電力を受電する受電部4とを備えている。また、搬送車本体10には、物品Wを吊り下げて保持する物品保持部13と、物品保持部13を昇降させる昇降部14とが備えられている。物品搬送車3は、図2及び図3に示すように、物品保持部13を上昇させた状態で走行して物品Wを搬送する。
【0013】
図4に示すように、物品搬送設備200は、床面102の側に設置されて物品Wが載置される載置台203を備えている。物品搬送車3は、物品保持部13を下降させた状態で載置台203との間で物品Wを移載する。載置台203は、物品搬送設備200の複数箇所に配置されている。例えば、載置台203は、それぞれの処理装置202や、図1における図外の物品保管庫に配置されている。
【0014】
本実施形態では、図3に示すように、1台の物品搬送車3に2つの走行部9が備えられ、それぞれの走行部9により共通の搬送車本体10が吊り下げ支持されている。2つの走行部9は同じ構成であり、例えばそれぞれの走行部9に受電部4が備えられている。受電部4は、物品搬送車3に電力を供給する電源部に相当する。それぞれの走行部9は、物品搬送車3の走行方向Yに沿って並んで配置されている。
【0015】
図2及び図3に示すように、それぞれの走行部9には、電動式の走行用アクチュエータ35(図5参照)にて回転駆動される一対の走行輪15が備えられている。走行用アクチュエータ35は、例えばモータ(走行用モータ)である。走行輪15は、走行レール2のそれぞれの上面にて形成される走行面を転動する。また、それぞれの走行部9には、上下方向Zに沿う軸心周り(上下軸心周り)で自由回転する一対の案内輪16が、一対の走行レール2における内側面に接当する状態で備えられている。搬送車本体10には、図5に示すように、物品保持部13を昇降させる昇降用アクチュエータ34、物品Wを把持することによって保持する物品保持部13を駆動する保持用アクチュエータ33等のアクチュエータ、及びそれらのアクチュエータを駆動する駆動回路等が備えられている。尚、これらのアクチュエータは、例えばモータやソレノイド等である。
【0016】
物品搬送車3は、物品搬送設備200の全体を管理する設備制御装置H(MCP:Material Control Processor)からの搬送指令に基づいて、物品Wを異なる載置台203の間で搬送する。本実施形態では、設備制御装置Hとそれぞれの物品搬送車3とは、ワイヤレス通信によって通信可能に構成されている。それぞれの物品搬送車3は、車両制御部31を備えており、搬送指令に基づいて自律制御により物品搬送車3を走行させ、指定された載置台203の上方で停止して、物品保持部13を昇降させることによって物品Wを移載する。
【0017】
また、走行経路1には、走行経路1における位置を示す位置指標Bが走行経路1に沿って配置されている。物品搬送車3は、これら複数の位置指標Bを利用して、走行経路1における位置を検出する位置検出センサ32(位置検出部)を備えている。位置指標Bは、例えば一次元又は二次元バーコード等や、数字や文字が記載されたマーカーとすることができる。位置検出センサ32は、バーコードリーダや画像認識装置、数字や文字を認識する文字認識装置とすることができる。位置検出センサ32によって検出された位置情報は、車両制御部31に伝達される。物品搬送車3は、検出された位置情報を搬送制御部H1に送信し、搬送制御部H1は、位置情報に基づいて生成した搬送指令を物品搬送車3に送信する。
【0018】
図5に示すように、本実施形態では、物品搬送車3を制御する搬送車制御システム100として、複数の物品搬送車3によるW物品の搬送を制御する設備制御装置Hが備える搬送制御部H1と、それぞれの物品搬送車3が備える車両制御部31を含む。そして、設備制御装置Hとそれぞれの物品搬送車3とが双方向通信可能である。
【0019】
受電部4は、本実施形態では、HID(High Efficiency Inductive Power Distribution Technology)と称されるワイヤレス給電技術を用いて、物品搬送車3に駆動用電力を供給する。具体的には、誘導線である給電線11に高周波電流を流し、給電線11の周囲に磁界を発生させる。受電部4は、ピックアップコイル41や磁性体コア42を備えて構成されており、ピックアップコイル41は磁界からの電磁誘導によって誘起される。誘起された電力は、全波整流回路43(図6参照)によって整流される。平滑コンデンサ49は、全波整流回路43で生じる脈動を平滑化する。
【0020】
図6には、この電力により走行部9の走行用アクチュエータ35が駆動される例を示している。つまり、受電部4は、走行用アクチュエータ35(走行用モータ)に電力を供給する電源部に相当する。走行用アクチュエータ35は交流モータであり、全波整流回路43を介して整流された直流電力を交流電力に変換するインバータ6を介して駆動される。インバータ6は、複数のスイッチング素子を備えて構成されており、車両制御部31により生成され不図示のドライブ回路を介して入力されるスイッチング制御信号に従ってスイッチングすることにより、直流と交流との間で電力を変換する。
【0021】
受電部4とインバータ6とは、受電部4の側に配置されたコンタクタ90と、インバータ6の側に配置された開閉器8とを介して電気的に接続されている。コンタクタ90は、例えばサーキットプロテクタ(遮断機)であり、開閉器8は、例えば電磁リレーなどのマグネットコンタクタである。コンタクタ90及び開閉器8の少なくとも一方が開放状態(オフ状態)の時、受電部4とインバータ6との電気的接続が遮断される。コンタクタ90と開閉器8との間には、例えばDC/DCコンバータ48が接続されており、車両制御部31や後述する位置検出センサ32等に供給する電圧が生成される。DC/DCコンバータ48は、コンタクタ90が非開放状態(オン状態)であれば、受電部4に電気的に接続されて、車両制御部31や後述する位置検出センサ32等に電力を供給することができる。開閉器8は、コンタクタ90が非開放状態(オン状態)であっても、受電部4と走行用アクチュエータ35との電気的接続経路に配置されて受電部4から走行用アクチュエータ35への電力の供給を遮断可能である。
【0022】
ところで、物品搬送車3が減速すると、走行用アクチュエータ35としての走行用モータが発電機として機能し、インバータ6から受電部4へ向かって回生電流が流れる。給電線11から供給される電力により駆動される走行用アクチュエータ35からの回生電流は、給電線11に戻すことができない。このため、走行用アクチュエータ35の回生時に生じる回生電力が供給される回生抵抗5が備えられている。回生抵抗5は、インバータ6の直流側の正極と負極との間に接続され、回生電流が熱として消費される。
【0023】
ここで、回生電流が多く生じるような場合には、回生抵抗5の温度が上昇する。回生抵抗5の温度が使用温度範囲を超えると、回生抵抗5の故障や、回生抵抗5の周辺の回路の故障を招く可能性がある。このため、回生抵抗5の温度を検出する温度センサ7が備えられている。本実施形態では、温度が上がると抵抗値が低くなるNTCサーミスタを用いた温度センサ7が備えられている。温度センサ7は、温度検出回路70に備えられた分圧抵抗71と直列接続され、温度センサ7と分圧抵抗71との接続点の電圧が、温度検出値として車両制御部31に伝達される。上述したように、車両制御部31と設備制御装置Hとは双方向通信可能であり、温度検出値は、設備制御装置Hにも伝達することが可能である。
【0024】
例えば、回生抵抗5の温度が上昇すると、温度検出値の電圧が高くなる。車両制御部31は、予め規定された閾値と比較することによって、回生抵抗5の状態を判定することができる。また、温度センサ7が故障した場合、例えばサーミスタ又はサーミスタの配線に短絡等が生じていると、温度センサ7の抵抗値が低くなり、温度検出値の電圧が高くなる。また、サーミスタ又はサーミスタの配線に断線等が生じていると、温度センサ7の抵抗値が高くなり、温度検出値の電圧が低くなる。
【0025】
搬送車制御システム100は、温度検出値に基づいて、物品搬送車3に対してフェールセーフ制御を実行する。温度センサ7により環境温度による影響も含めて回生抵抗5の温度が適切に検出され、検出された温度検出値に基づいて、実行するフェールセーフ制御が選択される。搬送車制御システム100は、温度センサ7により、回生抵抗5の温度(TH(図7参照))が、予め規定された定常状態の温度範囲である定常温度範囲よりも高い温度に設定された第1温度TH1以上であると検出された場合は、物品搬送車3の走行速度を予め規定された制限速度(第1制限速度)以下に制限する。また、搬送車制御システム100は、温度センサ7により、回生抵抗5の温度(TH)が、第1温度TH1よりも高い温度に設定された第2温度TH2以上であると検出された場合は、開閉器8により受電部4と走行用アクチュエータ35との接続を遮断する。また、搬送車制御システム100は、温度センサ7により、回生抵抗5の温度が、定常温度範囲よりも低い温度に設定された第3温度TH3未満であると検出された場合は、物品搬送車3の走行速度を制限速度(第2制限速度)以下に制限する。尚、第1制限速度と第2制限速度とは、同じ速度であってもよいし、異なる速度であってもよい。
【0026】
図7のフローチャートは、回生抵抗5の温度(TH)と物品搬送車3の制御との関係の一例を示している。搬送車制御システム100(特に車両制御部31)は、回生抵抗5の温度(TH)が第1温度TH1以上であるか否かを判定し(#1)、第1温度TH1以上と判定された場合には次に回生抵抗5の温度(TH)が第2温度TH2以上であるか否かを判定する(#2)。回生抵抗5の温度(TH)が第2温度TH2未満と判定された場合、車両制御部31は走行速度を例えば第1制限速度に制限する(#5)。ステップ#1において第1温度TH1未満と判定された場合には次に回生抵抗5の温度(TH)が第3温度TH3未満であるか否かを判定する(#3)。回生抵抗5の温度(TH)が第3温度TH3未満の場合、車両制御部31は走行速度を例えば第2制限速度に制限する(#5)。ステップ#1において第1温度TH1以上と判定され、ステップ#2において第2温度TH2以上と判定されると、車両制御部31は開閉器8を開放して、受電部4と走行用アクチュエータ35との接続を遮断し、走行用アクチュエータ35への電力の供給を遮断する(#4)。
【0027】
回生抵抗5の温度が第2温度TH2以上の場合には、受電部4と走行用アクチュエータ35との電気的な接続が遮断されるが、回生抵抗5の温度が第1温度TH1以上第2温度TH2未満の場合には、受電部4と走行用アクチュエータ35との電気的な接続が遮断されることなく、物品搬送車3の走行速度が制限された状態で走行が継続される。このように、受電部4と走行用アクチュエータ35との電気的な接続を遮断する前の段階で、物品搬送車3の走行速度を制限することにより、物品搬送車3の走行を維持しつつ、回生抵抗5の温度を低下させ或いは回生抵抗5の温度上昇の速度を遅くすることができる。従って、回生抵抗の温度上昇に起因して物品搬送車の走行を停止させる可能性を低減することができる。このため、物品搬送設備200の搬送効率の低下が抑制される。
【0028】
また、上述したように、温度センサ7や温度検出回路70に断線等の故障を生じていると、温度センサ7による温度検出値が著しく低くなる場合がある。このような場合に、ステップ#1において正常であると判定されて物品搬送車3が走行を続けていると、回生抵抗5の温度が定格範囲を超えて上昇してしまうおそれがある。回生抵抗5の温度が第3温度TH3未満の場合に、物品搬送車3の走行速度が制限されると、そのような温度上昇を抑制することができる。
【0029】
ところで、走行速度が制限された物品搬送車3をそのまま走行させていると、やがて走行不可能な程度まで故障が進展する可能性がある。また、走行速度が制限された物品搬送車3が走行していると、走行速度が制限されていない他の物品搬送車3の走行の妨げとなって、例えば物品搬送車3の渋滞等を招き、搬送効率を低下させる可能性がある。このため、走行速度が制限された物品搬送車3は、メンテナンス領域E2に退避させることが好ましい。但し、物品搬送車3が物品Wを搬送中の場合には、作業者が当該物品Wを搬送先まで運んだり、当該物品Wを他の物品搬送車3に積み替えたりといった作業の工数を発生させないように、搬送中の物品Wを目的地まで搬送した後、メンテナンス領域E2に退避させると好適である。
【0030】
図8のフローチャートは、回生抵抗5の温度(TH)と物品搬送車3の制御との関係の一例を示している。即ち、搬送車制御システム100は、温度センサ7の検出結果に基づいて物品搬送車3の走行速度を制限速度以下に制限し(#5)、物品搬送車3が物品Wを搬送中の場合には(#6)、搬送先に当該物品Wを搬送した後(#7)、メンテナンス領域E2へ当該物品搬送車3を向かわせる(#8)。また、搬送車制御システム100は、物品搬送車3が物品Wを搬送していない場合には(#6)、そのままメンテナンス領域E2へ当該物品搬送車3を向かわせる(#8)。
【0031】
上述したように、搬送車制御システム100は、複数の物品搬送車3による物品Wの搬送を制御する設備制御装置Hが備える搬送制御部H1と、それぞれの物品搬送車3が備える車両制御部31とを含み、設備制御装置Hとそれぞれの物品搬送車3とは双方向通信可能である。車両制御部31は、温度センサ7の検出結果に基づく判定と、当該検出結果及び当該検出結果に基づく判定結果の少なくとも一方に基づく回生抵抗情報の搬送制御部への送信と、判定結果に基づく物品搬送車3の走行速度の制御と、判定結果に基づく開閉器8の制御と、を行う。搬送制御部H1は、回生抵抗情報を受信し、回生抵抗情報に基づき物品搬送車3の走行速度が制限速度以下に制限されると判定した場合には、メンテナンス領域E2内の地点を当該物品搬送車3の目的地とする搬送指令を当該物品搬送車3に送信する。
【0032】
それぞれの物品搬送車3の車両制御部31が、回生抵抗5の温度(TH)に基づいて物品搬送車3の走行速度等を制御するので、回生抵抗5の温度が検出されてから迅速に物品搬送車3を制御することができる。また、搬送制御部H1は、温度センサ7の検出結果及び当該検出結果に基づく判定結果の少なくとも一方に基づく回生抵抗情報を受け取り、物品搬送車3の走行速度が制限されていることを判定した場合であっても、当該物品搬送車3が物品Wを搬送中の場合には、当該物品Wの搬送指令を維持する。従って、作業者が当該物品Wを搬送先まで運んだり、当該物品Wを他の物品搬送車3に積み替えたりといった作業の工数を発生させることなく、搬送中の物品Wを目的地まで搬送することができる。
【0033】
搬送制御部H1は、受信した回生抵抗情報に基づいて物品搬送車3の走行速度が制限されていることを判定した場合、当該物品搬送車3が物品Wを搬送中で無ければ、メンテナンス領域E2内の地点を当該物品搬送車3の目的地とする搬送指令を当該物品搬送車3に送信する。搬送指令を受けた当該物品搬送車3の車両制御部31は、搬送指令に基づいてメンテナンス領域E2へ向けて走行する。当該物品搬送車3が物品Wを搬送中の場合は、上記のように当該物品Wの搬送指令を維持し、搬送後に、メンテナンス領域E2内の地点を当該物品搬送車3の目的地とする搬送指令を当該物品搬送車3に送信する。搬送指令を受けた当該物品搬送車3の車両制御部31は、搬送指令に基づいてメンテナンス領域E2へ向けて走行する。
【0034】
この際、搬送制御部H1は、当該物品搬送車3の位置、走行経路1の配置形状、他の物品搬送車3の位置等に基づいて、メンテナンス領域E2へ向かう搬送指令を生成して車両制御部31へ送信する。従って、搬送制御部H1は、走行速度が制限された物品搬送車3を適切な経路でメンテナンス領域E2へ向かわせることができる。例えばメンテナンス領域E2が複数箇所に設定されている場合においても、位置情報に基づいて最適なメンテナンス領域E2に物品搬送車3を向かわせることができる。
【0035】
〔その他の実施形態〕
以下、その他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0036】
(1)上記においては、物品搬送車3として、天井側に吊り下げ支持された天井搬送車を例示した。しかし、走行経路1に搬送領域E1とメンテナンス領域E2とが含まれている物品搬送設備であれば、物品搬送車3は地上側を走行する搬送車であってもよい。
【0037】
(2)上記においては、搬送対象の物品Wとして、FOUPやレチクルを例示したが、物品Wはこれらに限らず他のものであってもよい。
【0038】
(3)上記においては、走行速度が制限された物品搬送車3が物品Wを搬送中の場合には、搬送先に当該物品Wを搬送した後、メンテナンス領域E2へ当該物品搬送車3を向かわせる形態を例示した。しかし、この場合であっても、そのまま物品搬送車3をメンテナンス領域E2へ向かわせることを妨げるものではない。
【0039】
(4)上記においては、電源部として、給電線11から電力の供給を受ける受電部4を備える形態を例示したが、電源部としてバッテリ等の蓄電装置を備える形態であってもよい。
【0040】
〔実施形態の概要〕
以下、上記において説明した物品搬送設備の概要について簡単に説明する。
【0041】
1つの態様として、走行経路に沿って走行して物品を搬送する物品搬送車を備えた物品搬送設備は、前記物品搬送車を制御する搬送車制御システムを備え、前記物品搬送車は、車輪を駆動する走行用モータと、前記走行用モータに電力を供給する電源部と、前記走行用モータの回生時に生じる回生電力が供給される回生抵抗と、前記回生抵抗の温度を検出する温度センサと、前記電源部と前記走行用モータとの電気的接続経路に配置されて前記電源部から前記走行用モータへの電力の供給を遮断可能な開閉器と、を備え、前記搬送車制御システムは、前記温度センサにより、前記回生抵抗の温度が、予め規定された定常状態の温度範囲である定常温度範囲よりも高い温度に設定された第1温度以上であると検出された場合は、前記物品搬送車の走行速度を予め規定された制限速度以下に制限し、前記温度センサにより、前記回生抵抗の温度が、前記第1温度よりも高い温度に設定された第2温度以上であると検出された場合は、前記開閉器により前記電源部と前記走行用モータとの接続を遮断する。
【0042】
この構成によれば、温度センサにより環境温度による影響も含めて回生抵抗の温度を検出し、検出された温度に基づいて、2つの異なる制御状態が選択されて物品搬送車が制御される。即ち、回生抵抗が第1温度以上であるか、第1温度よりも高い第2温度以上であるかに応じて制御状態が選択される。回生抵抗の温度が第2温度以上の場合には、開閉器により電源部と走行用モータとの電気的な接続が遮断される。回生抵抗の温度が第1温度以上第2温度未満の場合には、電源部と走行用モータとの電気的な接続が遮断されることなく、物品搬送車の走行速度が制限速度以下に制限された状態で走行が継続される。このように、電源部と走行用モータとの電気的な接続を遮断する前の段階で、物品搬送車の走行速度を制限することにより、物品搬送車の走行を維持しつつ回生抵抗の温度上昇を抑制することができる。従って、回生抵抗の温度上昇に起因して物品搬送車の走行を停止させる可能性を低減することができ、物品搬送設備の搬送効率の低下が抑制される。また、本構成によれば、予測値ではなく、実際の回生抵抗の温度が温度センサによって検出されるので、環境温度が変化しても回生抵抗の温度に応じて適切に物品搬送車を制御することができる。このように、本構成によれば、システム効率の低下を抑制しつつ、回生抵抗の温度に応じて適切にシステムを制御することができる。
【0043】
また、前記搬送車制御システムは、前記温度センサにより、前記回生抵抗の温度が、前記定常温度範囲よりも低い温度に設定された第3温度未満であると検出された場合は、前記物品搬送車の走行速度を前記制限速度以下に制限すると好適である。
【0044】
例えば、温度センサが断線等の故障を生じていると、温度センサによる検出値が著しく低くなる場合がある。このような場合に、正常であると判定されて物品搬送車が走行を続けていると、回生抵抗の温度が定格範囲を超えて上昇してしまうおそれがある。本構成のように、回生抵抗の温度が定常範囲よりも低い第3温度未満の場合に、物品搬送車の走行速度が制限速度以下に制限されると、そのような温度上昇を抑制することができる。尚、この場合の制限速度は、回生抵抗の温度が第1温度以上の場合と同じ速度であっても良いし、異なる速度であってもよい。
【0045】
また、前記走行経路には、前記物品を搬送する場合に通る領域である搬送領域と、前記物品搬送車のメンテナンスを行う場合に通る領域であるメンテナンス領域とが含まれ、前記搬送車制御システムは、前記温度センサの検出結果に基づいて前記物品搬送車の走行速度を前記制限速度以下に制限し、前記物品搬送車が前記物品を搬送中の場合には、搬送先に当該物品を搬送した後、前記メンテナンス領域へ当該物品搬送車を向かわせ、前記物品搬送車が前記物品を搬送していない場合には、そのまま前記メンテナンス領域へ当該物品搬送車を向かわせると好適である。
【0046】
走行速度が制限された物品搬送車をそのまま走行させていると、やがて走行不可能な程度まで故障が進展する可能性がある。また、走行速度が制限された物品搬送車が走行していると、走行速度が制限されていない物品搬送車の走行の妨げとなって、例えば物品搬送車の渋滞等を招き、搬送効率を低下させる可能性がある。このため、走行速度が制限された物品搬送車は、メンテナンス領域に退避すると好ましい。本構成によれば、物品搬送車が物品を搬送していない場合には、そのままメンテナンス領域へ当該物品搬送車を向かわせて、迅速に当該物品搬送車のメンテナンスを行うことができる。また、物品搬送車が物品を搬送中の場合には、搬送先に当該物品を搬送した後、メンテナンス領域へ当該物品搬送車を向かわせるので、作業者が当該物品を搬送先まで運んだり、当該物品を他の物品搬送車に積み替えたりといった作業等の工数を要することなく、物品を搬送先まで搬送することができると共に、当該物品搬送車のメンテナンスを適切に行うことができる。
【0047】
また、前記搬送車制御システムは、複数の前記物品搬送車による前記物品の搬送を制御する設備制御装置が備える搬送制御部と、それぞれの前記物品搬送車が備える車両制御部と、を含み、前記設備制御装置とそれぞれの前記物品搬送車とが双方向通信可能であり、前記車両制御部は、前記温度センサの検出結果に基づく判定と、当該検出結果及び当該検出結果に基づく判定結果の少なくとも一方に基づく回生抵抗情報の前記搬送制御部への送信と、前記判定結果に基づく前記物品搬送車の走行速度の制御と、前記判定結果に基づく前記開閉器の制御と、を行い、前記搬送制御部は、前記回生抵抗情報を受信し、前記回生抵抗情報に基づき前記物品搬送車の走行速度が前記制限速度以下に制限されると判定した場合には、前記メンテナンス領域内の地点を当該物品搬送車の目的地とする搬送指令を当該物品搬送車に送信する。
【0048】
この構成によれば、物品搬送車自身の車両制御部が回生抵抗の温度に基づいて物品搬送車の走行速度等を制御するので、回生抵抗の温度が検出されてから迅速に物品搬送車を制御することができる。また、搬送制御部は、走行速度が制限された物品搬送車を適切な経路でメンテナンス領域へ向かわせることができる。
【0049】
また、前記物品搬送車は、前記走行経路における位置を検出する位置検出部を備え、検出した位置情報を前記搬送制御部に送信し、前記搬送制御部は、前記位置情報に基づいて生成した前記搬送指令を前記物品搬送車に送信すると好適である。
【0050】
この構成によれば、例えばメンテナンス領域が複数箇所に設定されている場合においても、位置情報に基づいて最適なメンテナンス領域に物品搬送車を向かわせることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 :走行経路
3 :物品搬送車
4 :受電部(電源部)
5 :回生抵抗
7 :温度センサ
8 :開閉器
31 :車両制御部
32 :位置検出センサ(位置検出部)
35 :走行用アクチュエータ(走行用モータ)
100 :搬送車制御システム
200 :物品搬送設備
E1 :搬送領域
E2 :メンテナンス領域
H :設備制御装置
H1 :搬送制御部
TH1 :第1温度
TH2 :第2温度
TH3 :第3温度
W :物品
図1
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図8