(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】クロマトグラフ用接続アセンブリ
(51)【国際特許分類】
G01N 30/26 20060101AFI20231212BHJP
【FI】
G01N30/26 N
(21)【出願番号】P 2020196184
(22)【出願日】2020-11-26
【審査請求日】2023-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100098305
【氏名又は名称】福島 祥人
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】藤次 陽平
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-516563(JP,A)
【文献】特表2010-540926(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0269157(US,A1)
【文献】特開2014-202496(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0227831(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0230340(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 -30/96
G01N 21/03 -21/15
G01N 21/00 -21/61
G01N 21/62 -21/74
G01N 21/75 -21/83
F16L 21/00 -21/08
F16L 17/00 -19/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロマトグラフの流路の接続に用いられるクロマトグラフ用接続アセンブリであって、
前記流路を形成するチューブと、
前記チューブの端部を挿入可能な開口部を有するハウジングと、
耐薬品性を有する樹脂により形成され、前記チューブを取り囲みつつ前記ハウジングの前記開口部内で前記チューブを前記ハウジングに保持するフェルールとを備え、
前記フェルールは、前記チューブに接触する内周面と、前記ハウジングに接触する外周面とを有し、
前記フェルールの前記内周面と前記チューブとの間の摩擦係数、および前記外周面と前記ハウジングとの間の摩擦係数が0.3以上である、クロマトグラフ用接続アセンブリ。
【請求項2】
前記フェルールの前記内周面と前記チューブとの間の摩擦係数、および前記外周面と前記ハウジングとの間の摩擦係数が0.35以上である、請求項1記載のクロマトグラフ用接続アセンブリ。
【請求項3】
前記フェルールは、フッ素樹脂により形成される、請求項1または2記載のクロマトグラフ用接続アセンブリ。
【請求項4】
前記フェルールは、ETFE(Ethylene Tetra Fluoro Ethylene)により形成される、請求項3記載のクロマトグラフ用接続アセンブリ。
【請求項5】
前記チューブは、石英により形成される、請求項1~4のいずれか一項に記載のクロマトグラフ用接続アセンブリ。
【請求項6】
前記ハウジングは、ステンレスにより形成される、請求項1~5のいずれか一項に記載のクロマトグラフ用接続アセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマトグラフ用接続アセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
試料に含まれる物質を異なる成分ごとに分離する装置としてクロマトグラフが知られている。例えば、特許文献1に記載された液体クロマトグラフ装置においては、分析対象の試料がオートサンプラにより流路を通して分離カラムに導入される。また、溶離液が移動相として溶離液ポンプにより流路を通して分離カラムに供給される。分離カラムに導入された試料は、化学的性質または組成の違いにより成分ごとに溶離され、検出器により検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、クロマトグラフにおいては、流路がオートサンプラ、溶離液ポンプ、分離カラムまたは検出器等の接続対象に接続される。しかしながら、流路と接続対象との締結が不十分である場合、流路の接続部分から移動相等の液漏れが発生する。
【0005】
本発明の目的は、流路からの液漏れを容易に防止可能なクロマトグラフ用接続アセンブリを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、クロマトグラフの流路の接続に用いられるクロマトグラフ用接続アセンブリであって、前記流路を形成するチューブと、前記チューブの端部を挿入可能な開口部を有するハウジングと、耐薬品性を有する樹脂により形成され、前記チューブを取り囲みつつ前記ハウジングの前記開口部内で前記チューブを前記ハウジングに保持するフェルールとを備え、前記フェルールは、前記チューブに接触する内周面と、前記ハウジングに接触する外周面とを有し、前記フェルールの前記内周面と前記チューブとの間の摩擦係数、および前記外周面と前記ハウジングとの間の摩擦係数が0.3以上である、クロマトグラフ用接続アセンブリに関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、流路からの液漏れを容易に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施の形態に係るクロマトグラフ用接続アセンブリを含むクロマトグラフの構成を示す図である。
【
図2】
図1の接続アセンブリの構成を示す断面図である。
【
図3】流路の接続から1年経過後のフェルールとチューブとの間の接触面圧を示すシミュレーション結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(1)クロマトグラフの構成
以下、本発明の実施の形態に係るクロマトグラフ用接続アセンブリについて図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施の形態に係るクロマトグラフ用接続アセンブリを含むクロマトグラフの構成を示す図である。なお、本例では、クロマトグラフ200は液体クロマトグラフであるが、超臨界流体クロマトグラフまたはガスクロマトグラフ等であってもよい。
【0010】
図1に示すように、クロマトグラフ200は、流路110、移動相容器120、ポンプ130、試料供給部140、分離カラム150、検出器160および処理装置170を備える。流路110は、1以上のチューブ内に形成される。移動相容器120、ポンプ130、試料供給部140、分離カラム150および検出器160は、流路110により接続される。
【0011】
移動相容器120は、水溶液または有機溶媒を移動相として貯留する。ポンプ130は、移動相容器120に貯留された移動相を流路110を通して圧送する。試料供給部140は、例えばサンプルインジェクタであり、ポンプ130により圧送される移動相に分析対象の試料を供給する。試料供給部140により供給された試料は、移動相に混合され、分離カラム150に導入される。
【0012】
分離カラム150は、試料の各成分と分離カラム150および移動相との親和性に依存して異なる時間だけ試料の成分を保持する。なお、分離カラム150は、図示しないカラム恒温槽の内部に収容され、所定の一定温度に調整される。検出器160は、分離カラム150による保持時間の経過後、分離カラム150から溶出される試料の成分を順次検出する。
【0013】
処理装置170は、検出器160による検出結果を処理することにより、各成分の保持時間と検出強度との関係を示す液体クロマトグラムを生成する。本例では、流路110と検出器160とを接続するためにクロマトグラフ用接続アセンブリ100(以下、接続アセンブリ100と呼ぶ。)が用いられる。以下、接続アセンブリ100の構成について詳述する。
【0014】
(2)接続アセンブリの構成
図2は、
図1の接続アセンブリ100の構成を示す断面図である。
図2に示すように、接続アセンブリ100は、一方向(以下、軸方向と呼ぶ。)に延び、チューブ10、ハウジング20、フェルール30および押し込み部材40を備える。軸方向における接続アセンブリ100の一端を先端と呼び、軸方向における接続アセンブリ100の他端を後端と呼ぶ。
【0015】
チューブ10内に流路110が形成される。チューブ10は、例えば石英により形成されるが、PEEK(Poly Ether Ether Ketone)等の耐薬品性を有する樹脂により形成されてもよい。ハウジング20は、ステンレス等の耐薬品性を有する金属により形成され、例えば検出器160のフローセルに設けられる。ハウジング20には、開口部21および貫通孔22が形成される。開口部21は、大径部21a、テーパ部21bおよび小径部21cを含む。
【0016】
大径部21aは、ハウジング20の後端面から先端に向かって延び、比較的大径を有する。テーパ部21bは、大径部21aから先端に向かって延びる。テーパ部21bの径は、後端から先端に向かって漸次減少する。小径部21cは、テーパ部21bから先端に向かって延び、比較的小径を有する。貫通孔22は、小径部21cの底面から先端に向かってハウジング20を貫通する。
【0017】
フェルール30は、耐薬品性を有する樹脂より形成される。フェルール30は、軸方向に延びる貫通孔31を有する。フェルール30は、チューブ10を取り囲みつつハウジング20の開口部21内でチューブ10をハウジング20に保持する。すなわち、フェルール30は、チューブ10に接触する内周面32と、開口部21内でハウジング20に接触する外周面33とを有する。フェルール30の内周面32および外周面33を含む表面に粗化処理が行われる。これにより、フェルール30の外周面33とハウジング20との間の摩擦係数(静止摩擦係数)、およびフェルール30の内周面32とチューブ10との間の摩擦係数(静止摩擦係数)が0.3以上に向上される。
【0018】
フェルール30は、フッ素樹脂により形成されてもよい。本例では、フェルール30はETFE(Ethylene Tetra Fluoro Ethylene)により形成される。この場合、上記の摩擦係数を容易に0.3以上に向上させることができる。上記の摩擦係数は、0.35以上に向上されてもよい。また、上記の摩擦係数は、0.6以下に調整されてもよい。
【0019】
本例では、粗化処理はエッチング剤を用いるエッチング処理であるが、実施の形態はこれに限定されない。粗化処理は、研磨剤を用いるブラスト処理であってもよいし、一般的な機械加工であってもよい。エッチング処理が行われる場合には、フェルール30の表面に粘着性を付与するエッチング剤を用いてもよい。この場合、上記の摩擦係数をより容易に向上させることができる。
【0020】
押し込み部材40は、座面部41および軸部42を含み、軸方向に延びる貫通孔43を有する。座面部41は、図示しないねじによりハウジング20と密着するように力を受ける。軸部42は、座面部41から先端に突出するように設けられる。軸部42は、円筒形状を有し、ハウジング20の円形の開口部21との間のすきまばめになる。
【0021】
チューブ10の後端部は、フェルール30の貫通孔31および押し込み部材40の貫通孔43にこの順で挿通される。チューブ10の先端部は、フェルール30から先端に突出する。この状態で、押し込み部材40の軸部42がハウジング20の開口部21に嵌め込まれ、押し込み部材40がねじにより締め付けられる。
【0022】
ここで、押し込み部材40の先端面がフェルール30の後端面を押圧することにより、フェルール30の外周面33がハウジング20のテーパ部21bに押圧される。この場合、フェルール30が変形する。これにより、フェルール30の外周面33の一部または全面とハウジング20のテーパ部21bとが密着するとともに、フェルール30の内周面32の一部または全面とチューブ10とが密着する。これにより、チューブ10が保持されつつ、開口部21のテーパ部21bと大径部21aとの間がシールされる。
【0023】
(3)効果
本実施の形態に係る接続アセンブリ100においては、クロマトグラフ200の流路110を形成するチューブ10の端部が、ハウジング20の開口部21に挿入される。チューブ10の端部は、フェルール30により取り囲まれつつハウジング20の開口部21内でハウジング20に保持される。フェルール30の内周面32とチューブ10との間の摩擦係数、および外周面33とハウジング20との間の摩擦係数が0.3以上である。
【0024】
図3は、流路110の接続から1年経過後のフェルール30とチューブ10との間の接触面圧を示すシミュレーション結果である。
図3の横軸はフェルール30の内周面32とチューブ10との間の摩擦係数を示し、縦軸はフェルール30の内周面32とチューブ10との間の接触面圧を示す。
図3に示すように、フェルール30の内周面32とチューブ10との間の摩擦係数が0.3以上である場合には、フェルール30の内周面32とチューブ10との間の接触面圧が15MPaを超える。
【0025】
このように、フェルール30とチューブ10との間が十分な面圧で接触する。同様に、フェルール30とハウジング20との間も十分な面圧で接触する。そのため、長期的な使用によりフェルール30にクリープ現象が発生した場合でも、シール性が維持されつつチューブ10とハウジング20とが強固に締結される。これにより、流路110からの液漏れを容易に防止することができる。特に、接続アセンブリ100が検出器160のフローセルに設けられる場合には、フローセル内での液漏れが防止される。この場合、検出器160の感度が低下することを防止することができる。
【0026】
上記の摩擦係数が0.35以上である場合には、フェルール30とチューブ10との間、およびフェルール30とハウジング20との間がより十分な面圧で接触するので、シール性が維持されつつチューブ10とハウジング20とがより強固に締結される。これにより、流路110からの液漏れをより容易に防止することができる。
【0027】
チューブ10が石英により形成される場合には、フェルール30とチューブ10との間の接触面圧を容易に大きくすることができる。これにより、フェルール30とチューブ10との間のシール性を容易に向上させることができる。また、ハウジング20がステンレスにより形成される場合には、フェルール30とハウジング20との間の接触面圧を容易に大きくすることができる。これにより、フェルール30とハウジング20との間のシール性を容易に向上させることができる。
【0028】
(4)他の実施の形態
上記実施の形態において、接続アセンブリ100は検出器160のフローセルと流路110との接続に用いられるが、実施の形態はこれに限定されない。接続アセンブリ100は、ポンプ130または試料供給部140等と流路110との接続に用いられてもよいし、流路110同士の接続に用いられてもよい。
【0029】
(5)態様
上記の複数の例示的な実施の形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0030】
(第1項)一態様に係るクロマトグラフ用接続アセンブリは、
クロマトグラフの流路の接続に用いられるクロマトグラフ用接続アセンブリであって、
前記流路を形成するチューブと、
前記チューブの端部を挿入可能な開口部を有するハウジングと、
耐薬品性を有する樹脂により形成され、前記チューブを取り囲みつつ前記ハウジングの前記開口部内で前記チューブを前記ハウジングに保持するフェルールとを備え、
前記フェルールは、前記チューブに接触する内周面と、前記ハウジングに接触する外周面とを有し、
前記フェルールの前記内周面と前記チューブとの間の摩擦係数、および前記外周面と前記ハウジングとの間の摩擦係数が0.3以上であってもよい。
【0031】
この構成によれば、フェルールとチューブとの間、およびフェルールとハウジングとの間が十分な面圧で接触する。そのため、長期的な使用によりフェルールにクリープ現象が発生した場合でも、シール性が維持されつつチューブとハウジングとが強固に締結される。これにより、流路からの流体の漏れを容易に防止することができる。
【0032】
(第2項)第1項に記載のクロマトグラフ用接続アセンブリにおいて、
前記フェルールの前記内周面と前記チューブとの間の摩擦係数、および前記外周面と前記ハウジングとの間の摩擦係数が0.35以上であってもよい。
【0033】
この場合、フェルールとチューブとの間、およびフェルールとハウジングとの間がより十分な面圧で接触するので、シール性が維持されつつチューブとハウジングとがより強固に締結される。これにより、流路からの流体の漏れをより容易に防止することができる。
【0034】
(第3項)第1項または第2項に記載のクロマトグラフ用接続アセンブリにおいて、
前記フェルールは、フッ素樹脂により形成されてもよい。
【0035】
この場合、フェルールの表面の摩擦係数を容易に向上させることができる。
【0036】
(第4項)第3項に記載のクロマトグラフ用接続アセンブリにおいて、
前記フェルールは、ETFE(Ethylene Tetra Fluoro Ethylene)により形成されてもよい。
【0037】
この場合、フェルールの表面の摩擦係数をより容易に向上させることができる。
【0038】
(第5項)第1項~第4項のいずれか一項に記載のクロマトグラフ用接続アセンブリにおいて、
前記チューブは、石英により形成されてもよい。
【0039】
この場合、フェルールとチューブとの間の接触面圧を容易に大きくすることができる。これにより、フェルールとチューブとの間のシール性を容易に向上させることができる。
【0040】
(第6項)第1項~第5項のいずれか一項に記載のクロマトグラフ用接続アセンブリにおいて、
前記ハウジングは、ステンレスにより形成されてもよい。
【0041】
この場合、フェルールとハウジングとの間の接触面圧を容易に大きくすることができる。これにより、フェルールとハウジングとの間のシール性を容易に向上させることができる。
【符号の説明】
【0042】
10…チューブ,20…ハウジング,21…開口部,21a…大径部,21b…テーパ部,21c…小径部,22,31,43…貫通孔,30…フェルール,32…内周面,33…外周面,40…押し込み部材,41…座面部,42…軸部,100…接続アセンブリ,110…流路,120…移動相容器,130…ポンプ,140…試料供給部,150…分離カラム,160…検出器,170…処理装置,200…クロマトグラフ