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特許7400729無機固体電解質二次電池用電極、および無機固体電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】無機固体電解質二次電池用電極、および無機固体電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20231212BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20231212BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20231212BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20231212BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20231212BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20231212BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20231212BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20231212BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20231212BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M10/0562
H01M4/139
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/485
H01M4/58
H01M10/052
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020557702
(86)(22)【出願日】2019-11-25
(86)【国際出願番号】 JP2019045952
(87)【国際公開番号】W WO2020110993
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2018220612
(32)【優先日】2018-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】三浦 克人
(72)【発明者】
【氏名】幸 琢寛
(72)【発明者】
【氏名】三輪 託也
(72)【発明者】
【氏名】鰐渕 瑞絵
(72)【発明者】
【氏名】田渕 雅人
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/147281(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/122290(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/046313(WO,A1)
【文献】特開2012-256506(JP,A)
【文献】特開2015-056282(JP,A)
【文献】特開2003-007338(JP,A)
【文献】特開2003-132877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖にエチレンオキシド単位を有するイオン伝導性ポリマー及びリチウム塩化合物を含むイオン伝導性ポリマー材料と、活物質とを含有する電極材料層を備え
前記イオン伝導性ポリマーは、側鎖にエチレンオキシド単位を有するポリエーテルであり、
前記電極材料層を形成する電極材料間の空隙が前記イオン伝導性ポリマー材料によって埋められている、無機固体電解質二次電池用電極。
【請求項2】
前記活物質が、LiMO2、LiM24、Li2MO3、LiMEO4(式中のMは、遷移金属からなり、Co、Mn、Ni、Cr、Fe、Tiの少なくとも一種を含んでいる。EはP、Siの少なくとも1種を含んでいる。)からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の無機固体電解質二次電池用電極。
【請求項3】
前記活物質が、炭素材料、シリコン系化合物、及びスズ系化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の無機固体電解質二次電池用電極。
【請求項4】
記側鎖にエチレンオキシド単位を有するポリエーテルは、側鎖にエチレンオキシド単位を有するエポキシ化合物から形成された構成単位を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の無機固体電解質二次電池用電極。
【請求項5】
無機固体電解質と共に、固体電解質二次電池に用いられる、請求項1~4のいずれか1項に記載の無機固体電解質二次電池用電極。
【請求項6】
前記無機固体電解質は、酸化物系固体電解質又は硫化物系固体電解質である、請求項5に記載の無機固体電解質二次電池用電極。
【請求項7】
活物質を含む層に、側鎖にエチレンオキシド単位を有するイオン伝導性ポリマー及びリチウム塩化合物を含むイオン伝導性ポリマー材料を含浸させる工程を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の無機固体電解質二次電池用電極の製造方法。
【請求項8】
前記イオン伝導性ポリマー材料を含浸させた層を、加熱又は活性エネルギー線照射によって架橋させる工程を含む、請求項7に記載の無機固体電解質二次電池用電極の製造方法。
【請求項9】
請求項1~6のいずれかに記載の無機固体電解質二次電池用電極を含む、無機固体電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機固体電解質二次電池用電極、その製造方法、及び無機固体電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン電池に代表される非水電解質二次電池は、電解質にイオン伝導性の点から溶液またはペースト状のものが用いられている。しかし、液漏れによる機器の損傷の恐れがあることから、種々の安全対策が必要であり、大型電池開発の障壁になっている。
【0003】
これに対し高分子固体電解質、無機固体電解質などの電解質が固体化された固体電解質が提案されている。高分子固体電解質は、一般に柔軟性、曲げ加工性、および成形性に優れ、応用されるデバイスの設計の自由度が高くなるなどの利点があるが、負荷特性や低温特性が悪いために、高温作動の電池用途に限られるという欠点がある。一方、無機固体電解質は、高分子固体電解質と比べて、イオン伝導性が高いものの、電解質が結晶質あるいは非晶質からなり、充放電時の正負極活物質による体積変化の緩和が難しく、更に、電極と電解質の界面抵抗が高いため、充放電特性が不十分という問題がある。
【0004】
無機固体電解質と電極の界面の抵抗を下げる方法として、例えば、特許文献1においては、リチウムイオン伝導性バインダーを含む溶媒中に活物質を分散させ、硫化物系固体電解質を添加し、加熱乾燥後、活物質シートを形成させている。しかしながら、活物質とリチウムイオン伝導性バインダーを分散させて、電極を作製すると、電極内に空隙ができる。電解液系では、電極内の空隙は、有機電解液で満たされており、電極内のイオン伝導性に寄与されるが、硫化物系固体電解質を含む電極には、空隙が存在するので、特に、体積エネルギー密度に不利な要素となる。また、硫化物系固体電解質の添加量は活物質100質量部に対して、25~100質量部が必要であり、電極の活物質量が少なく、高エネルギー密度の電池には不向きである。
【0005】
また、例えば特許文献2においては、高分子化合物と電解質塩と電極活物質を希釈剤に入れ、加熱攪拌後、被覆された電極活物質を得ている。この方法では、活物質同士の結着性に対して効果があるが、特許文献1と同様、電極内に空隙ができる。
【0006】
さらに、電極内に高分子固体電解質を含浸する方法として、例えば特許文献3の実施例には、モノマー状にあるポリエチレンオキシドとLiBF4を含浸させて重合の記載があるが、ポリエチレンオキシドを更に重合できる方法は知られていない。また、ポリエチレンオキシドは過酸化物などの重合開始剤を用いても、架橋することはできない。ポリエチレンオキシドは、結晶性が高く、融点(60℃)以下になると、結晶化に伴い、柔軟性がなくなり、結着性が弱くなる。また、融点以上になると、ポリエチレンオキシドが溶融するため形状維持ができなくなり、結着性が弱くなるという問題がある。ポリエチレンオキシドでは無機固体電解質の界面の抵抗を下げることは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-33918号公報
【文献】特開2016-197590号公報
【文献】特開2000-138073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、無機固体電解質二次電池に優れた充放電特性を発揮させる新規な無機固体電解質二次電池用電極を提供することを主な目的とする。さらに、本発明は、当該無機固体電解質二次電池用電極の製造方法、及び当該無機固体電解質二次電池用電極を利用した無機固体電解質二次電池を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、側鎖にエチレンオキシド単位を有するイオン伝導性ポリマー及びリチウム塩化合物を含むイオン伝導性ポリマー材料と、活物質とを含有する電極材料層を備える固体電解質二次電池用電極は、固体電解質二次電池に優れた充放電特性を発揮させることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 側鎖にエチレンオキシド単位を有するイオン伝導性ポリマー及びリチウム塩化合物を含むイオン伝導性ポリマー材料と、活物質とを含有する電極材料層を備える、無機固体電解質二次電池用電極。
項2. 前記活物質が、LiMO2、LiM24、Li2MO3、LiMEO4(式中のMは、遷移金属からなり、Co、Mn、Ni、Cr、Fe、Tiの少なくとも一種を含んでいる。EはP、Siの少なくとも1種を含んでいる。)からなる群より選択される少なくとも1種である、項1に記載の無機固体電解質二次電池用電極。
項3. 前記活物質が、炭素材料、シリコン系化合物、及びスズ系化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、項1に記載の無機固体電解質二次電池用電極。
項4. 前記イオン伝導性ポリマーは、側鎖にエチレンオキシド単位を有するポリエーテルである、項1~3のいずれか1項に記載の無機固体電解質二次電池用電極。
項5. 無機固体電解質と共に、固体電解質二次電池に用いられる、項1~4のいずれか1項に記載の無機固体電解質二次電池用電極。
項6. 前記無機固体電解質は、酸化物系固体電解質又は硫化物系固体電解質である、項5に記載の無機固体電解質二次電池用電極。
項7. 活物質を含む層に、側鎖にエチレンオキシド単位を有するイオン伝導性ポリマー及びリチウム塩化合物を含むイオン伝導性ポリマー材料を含浸させる工程を含む、無機固体電解質二次電池用電極の製造方法。
項8. 前記イオン伝導性ポリマー材料を含浸させた層を、加熱又は活性エネルギー線照射によって架橋させる工程を含む、項7に記載の無機固体電解質二次電池用電極の製造方法。
項9. 項1~6のいずれかに記載の無機固体電解質二次電池用電極を含む、無機固体電解質二次電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、無機固体電解質二次電池に優れた充放電特性を発揮させる新規な無機固体電解質二次電池用電極を提供することができる。さらに、本発明によれば、当該無機固体電解質二次電池用電極の製造方法、及び当該無機固体電解質二次電池用電極を利用した無機固体電解質二次電池を提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の無機固体電解質二次電池用電極は、側鎖にエチレンオキシド単位を有するイオン伝導性ポリマー及びリチウム塩化合物を含むイオン伝導性ポリマー材料と、活物質とを含有する電極材料層を備えることを特徴としている。本発明の無機固体電解質二次電池用電極は、このような構成を備えていることにより、無機固体電解質二次電池に優れた充放電特性を発揮させることができる。
【0013】
より具体的には、本発明の無機固体電解質二次電池用電極(以下、「本発明の電極」と表記することがある)においては、活物質に加えて、さらに、前記のイオン伝導性ポリマー材料が、電極材料層に含まれていることにより、電極材料層に含まれる活物質などの電極材料(具体的には、活物質粒子、バインダー、導電助剤、増粘剤、無機固体電解質など)の空隙がイオン伝導性ポリマー材料によって埋められ、電極材料層の内部の界面抵抗が効果的に低下し、結果として、優れた充放電特性が発揮されるものと考えられる。また、無機固体電解質二次電池は、高温環境(例えば100℃以上の高温環境)で使用されることもあるが、本発明の電極を用いることにより、高温環境において優れた充放電特性が発揮される。以下、本発明の無機固体電解質二次電池用電極、その製造方法、及び本発明の無機固体電解質二次電池用電極を利用した無機固体電解質二次電池について詳述する。
【0014】
なお、本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。複数の下限値と複数の上限値が別個に記載されている場合、任意の下限値と上限値を選択し、「~」で結ぶことができるものとする。
【0015】
本発明の電極は、側鎖にエチレンオキシド単位を有するイオン伝導性ポリマー及びリチウム塩化合物を含むイオン伝導性ポリマー材料と、活物質とを含有する電極材料層を備える。より具体的には、本発明の電極は、当該電極材料層に加えて、集電体を備えており、電極材料層は集電体の上に形成されている。イオン伝導性ポリマー材料の詳細については後述する。
【0016】
本発明の電極は、無機固体電解質二次電池において、正極及び負極のいずれとすることもできる。正極においては、集電体に正極材料層を形成し、負極においては、集電体に負極材料層を形成する。本発明の電極が正極である場合には、正極材料層が前記のイオン伝導性ポリマー材料と正極活物質とを含有する。また、本発明の電極が負極である場合には、負極材料層が前記のイオン伝導性ポリマー材料と負極活物質とを含有する。
【0017】
正極、負極には、公知の集電体を用いることができる。具体的には、正極には、集電体として、アルミニウム、ニッケル、ステンレス、金、白金、チタン等の金属が使用される。負極には、集電体として、銅、ニッケル、ステンレス、金、白金、チタン等の金属が使用される。
【0018】
また、正極材料層、負極材料層は、それぞれ、前記のイオン伝導性ポリマー材料に加えて、少なくとも正極活物質、負極活物質を含有し、更に導電助剤、バインダー、増粘剤を含有していてもよく、必要に応じて、後述の無機固体電解質を含有させてもよい。
【0019】
本発明で使用される正極活物質は、LiMO2、LiM24、Li2MO3、LiMEO4のいずれかの組成からなるリチウム金属含有複合酸化物粉末である。ここで式中のMは主として遷移金属からなり、Co、Mn、Ni、Cr、Fe、Tiの少なくとも一種を含んでいる。Mは遷移金属からなるが、遷移金属以外にもAl、Ga、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Si、P、Bなどが添加されていてもよい。EはP、Siの少なくとも1種を含んでいる。正極活物質の粒子径には50μm以下が好ましく、更に好ましくは20μm以下のものを用いる。これらの活物質は、3V(vs.Li/Li+)以上の起電力を有するものである。
【0020】
正極活物質の具体例としては、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、ニッケル/コバルト/マンガン酸リチウム(3元系)、スピネル型マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウムなどが挙げられる。
【0021】
本発明で使用される負極活物質は、リチウムイオンなどのアルカリ金属イオンを吸蔵・放出可能な構造(層間化合物)を有する炭素材料(天然黒鉛、人造黒鉛、非晶質炭素等)か、リチウムイオンなどのアルカリ金属イオンを吸蔵・放出可能なリチウム、アルミニウム系化合物、スズ系化合物、シリコン系化合物、チタン系化合物等の金属である。粉末の場合、粒子径は10nm以上100μm以下が好ましく、更に好ましくは20nm以上20μm以下である。また、金属と炭素材料との混合活物質として用いてもよい。
【0022】
導電助剤を用いる場合には、公知の導電助剤を用いることができ、黒鉛、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブなどの炭素繊維、または金属粉末等が挙げられる。これら導電助剤は1種または2種以上用いてもよい。
【0023】
バインダーとしては、例えばPVdF等のフッ素樹脂、フッ素ゴムやアクリルゴム、変性アクリルゴム、スチレン-ブタジエンゴム、アクリル系重合体、ビニル系重合体、前記記載のイオン伝導性ポリマーから選ばれる1種以上の化合物を用いることができる。これらバインダーは活物質を100質量部として、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、例えば0.01~2質量部添加する。
【0024】
増粘剤の具体例としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロースおよびこれらの塩(ナトリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩)、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩、ポリエチレンオキサイド等が挙げられるこれら増粘剤は1種または2種以上用いてもよい。これら増粘剤は活物質を100質量部として、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、例えば0.01~2質量部添加する。また、塗工液の粘度が低い場合には増粘剤を併用することができる。
【0025】
集電体と電極材料層を備える電極の作製方法は特に限定されず一般的な方法を利用することができる。例えば、正極活物質あるいは負極活物質、導電助剤、バインダー、水またはN-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の溶媒、必要に応じて増粘剤などからなる電極材料のペースト(塗工液)をドクターブレード法やシルクスクリーン法などにより集電体表面上に適切な厚さに均一に塗布することより行われる。
【0026】
例えばドクターブレード法では、負極活物質粉末や正極活物質粉末、導電助剤、バインダー等を水に分散してスラリー状にし、金属電極基板に塗布した後、所定のスリット幅を有するブレードにより適切な厚さに均一化する。電極は活物質塗布後、余分な有機溶剤を除去するため、例えば、100℃の熱風や80℃減圧状態で乾燥する。乾燥後の電極はプレス装置によってプレス成型することで、集電体の上に電極材料層を積層した電極前駆体を形成する。
【0027】
本発明の電極においては、このように形成された電極前駆体の電極材料層に、イオン伝導性ポリマー材料を含浸させることにより、イオン伝導性ポリマー材料と活物質とを含む電極を好適に製造することができる。すなわち、前述した従来の電極材料層の製造方法を利用して、電極材料層を形成すると、電極材料層を構成している電極材料間には活物質粒子などの空隙が形成される。本発明の電極においては、電極材料の空隙をイオン伝導性ポリマー材料が埋めるため、電極材料層の内部の界面抵抗を効率的に低下させることができる。
【0028】
イオン伝導性ポリマー材料は、側鎖にエチレンオキシド単位を有するイオン伝導性ポリマー及びリチウム塩化合物を含む。具体的には、本発明のイオン伝導性ポリマー材料は、側鎖にエチレンオキシド単位を有するイオン伝導性ポリマーと、リチウム塩化合物との混合物である。
【0029】
本発明の電極において、電極材料層に含まれるイオン伝導性ポリマー材料の含有量としては、特に制限されないが、充放電特性を好適に向上させる観点から、活物質100質量部に対して、好ましくは5~50質量部、より好ましくは15~30質量部である。
【0030】
側鎖にエチレンオキシド単位を有するイオン伝導性ポリマーとしては、例えば、側鎖にエチレンオキシド単位を有するポリエーテル、側鎖にエチレンオキシド単位を有するホウ酸エステル、側鎖にエチレンオキシド単位を有するポリオレフィン等があり、好ましくは側鎖にエチレンオキシド単位を有するポリエーテルである。
【0031】
側鎖にエチレンオキシド単位を有するポリエーテルは、側鎖にエチレンオキシド単位を有するエポキシ化合物から形成された構成単位を含むことが好ましい。すなわち、イオン伝導性ポリマーは、側鎖にエチレンオキシド単位を有するエポキシ化合物を少なくとも単量体としたポリマーであることが好ましい。
【0032】
側鎖にエチレンオキシド単位を有するエポキシ化合物としては、例えば、下記式(2)で表される単量体が挙げられ、下記式(2)、必要により下記式(1)、下記式(3)で表される単量体を用いた分岐型ポリエーテルは、側鎖にエチレンオキシド単位を有するポリエーテル(i)となる。式(1)~(3)で表される単量体は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0033】
【化1】
【0034】
【化2】
【0035】
[式(2)中、Rは-CH2O(CH2CH2O)n4であり、R4は炭素数1~6のアルキル基であり、nは0~12の数である。]
【0036】
【化3】
【0037】
[式(3)中、R5は、エチレン性不飽和基を含有する基を表す。]
【0038】
式(3)の単量体としては、アリルグリシジルエーテル、4-ビニルシクロヘキシルグリシジルエーテル、α-テルピニルグリシジルエーテル、シクロヘキセニルメチルグリシジルエーテル、p-ビニルベンジルグリシジルエーテル、アリルフェニルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテル、3,4-エポキシ-1-ブテン、3,4-エポキシ-1-ペンテン、4,5-エポキシ-2-ペンテン、1,2-エポキシ-5,9-シクロドデカンジエン、3,4-エポキシ-1-ビニルシクロヘキセン、1,2-エポキシ-5-シクロオクテン、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、ソルビン酸グリシジル、ケイ皮酸グリシジル、クロトン酸グリシジル、グリシジル-4-ヘキセノエートが用いられる。好ましくは、アリルグリシジルエーテル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルである。
【0039】
側鎖にエチレンオキシド単位を有するポリエーテル(i)の合成は、例えば、次のようにして行うことができる。開環重合触媒として有機アルミニウムを主体とする触媒系、有機亜鉛を主体とする触媒系、有機錫-リン酸エステル縮合物触媒系などの配位アニオン開始剤、または対イオンにK+を含むカリウムアルコキシド、ジフェニルメチルカリウム、水酸化カリウムなどのアニオン開始剤を用いて、各単量体を溶媒の存在下又は不存在下、反応温度10~120℃、撹拌下で反応させることによってポリエーテル(i)が得られる。重合度、あるいは得られる共重合体の性質などの点から、配位アニオン開始剤が好ましく、なかでも有機錫-リン酸エステル縮合物触媒系が取り扱い易く特に好ましい。
【0040】
側鎖にエチレンオキシド単位を有するポリエーテル(i)において、式(1)の単量体に由来する繰り返し単位(A)と、式(2)の単量体に由来する繰り返し単位(B)と、式(3)の単量体に由来する繰り返し単位(C)とのモル比は、(A)95~5モル%、(B)5~95モル%、および(C)0~20モル%が適当であり、好ましくは(A)92~9モル%、(B)7~90モル%、および(C)1~15モル%、更に好ましくは(A)88~18モル%、(B)10~80モル%、および(C)2~15モル%である。繰り返し単位(A)が95モル%以下であるとガラス転移温度の上昇とオキシエチレン鎖の結晶化を招かず、結果的にイオン伝導性の点で好ましい。
【0041】
側鎖にエチレンオキシド単位を有するポリエーテル(i)の具体例としては、エチレンオキシド/ジエチレングリコールメチルグリシジルエーテル/アリルグリシジルエーテル三元共重合体、エチレンオキシド/ジエチレングリコールメチルグリシジルエーテル/メタクリル酸グリシジル三元共重合体、エチレンオキシド/ジエチレングリコールメチルグリシジルエーテル/アクリル酸グリシジル三元共重合体等が挙げられる。
【0042】
側鎖にエチレンオキシド単位を有するポリエーテル(i)の重量平均分子量は特に限定されないが、1万~300万であってよく、5万~250万であることがより好ましく、10万~200万であることが特に好ましい。重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で、溶媒としてジメチルホルムアミド(DMF)を使用して、標準ポリスチレン換算により算出する。
【0043】
イオン伝導性ポリマー材料に含まれるイオン伝導性ポリマーの含有量としては、導電性ポリマー材料全体を100質量部として、好ましくは5~95質量部、より好ましくは10~90質量部である。
【0044】
イオン伝導性ポリマーは、架橋体を含んでいてもよい。
【0045】
リチウム塩化合物としては、リチウムイオン電池に一般的に利用されているような、広い電位窓を有するリチウム塩化合物が好適である。リチウム塩化合物としては、例えば、LiBF4、LiPF6、LiClO4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22(LiTFSI),LiN(SFO22(LiFSI)、LiN(C25SO22、LiN[CF3SC(C25SO232などを挙げられるが、これらに限定されない。これらは、単独で用いても、2種類以上を混合して用いても良い。
【0046】
イオン伝導性ポリマー材料に含まれるリチウム塩化物の含有量としては、リチウム塩化合物のモル数/イオン伝導性ポリマーのエーテル酸素原子の総モル数の値が0.0001~5が好ましく、更に好ましくは0.001~0.5の範囲がよい。
【0047】
また、イオン伝導性ポリマー材料には、常温溶融塩が含まれていてもよい。常温溶融塩は、常温において少なくとも一部が液状を呈する塩をいい、常温とは電源が通常作動すると想定される温度範囲をいう。電源が通常作動すると想定される温度範囲とは、上限が120℃程度、場合によっては60℃程度であり、下限は-40℃程度、場合によっては-20℃程度である。
【0048】
常温溶融塩はイオン液体とも呼ばれており、ピリジン系、脂肪族アミン系、脂環族アミン系の4級アンモニウム有機物カチオンが知られている。4級アンモニウム有機物カチオンとしては、ジアルキルイミダゾリウム、トリアルキルイミダゾリウム、などのイミダゾリウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、アルキルピリジニウムイオン、ピラゾリウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオンなどが挙げられる。特に、イミダゾリウムカチオンが好ましい。
【0049】
なお、テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、トリメチルエチルアンモニウムイオン、トリメチルエチルアンモニウムイオン、トリメチルプロピルアンモニウムイオン、トリメチルヘキシルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、トリエチルメチルアンモニウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
また、アルキルピリジウムイオンとしては、N-メチルピリジウムイオン、N-エチルピリジニウムイオン、N-プロピルピリジニウムイオン、N-ブチルピリジニウムイオン、1-エチル-2メチルピリジニウムイオン、1-ブチル-4-メチルピリジニウムイオン、1-ブチル-2,4ジメチルピリジニウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
イミダゾリウムカチオンとしては、1,3-ジメチルイミダゾリウムイオン、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-メチル-3-エチルイミダゾリウムイオン、1-メチル-3-ブチルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1,2,3-トリメチルイミダゾリウムイオン、1,2-ジメチル-3-エチルイミダゾリウムイオン、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0052】
なお、これらのカチオンを有する常温溶融塩は、単独で用いてもよく、または2種以上を混合して用いても良い。
【0053】
イオン伝導性ポリマー材料に常温溶融塩が含まれる場合、その含有量としては、イオン伝導性ポリマー100質量部に対して、好ましくは10~1000質量部、より好ましくは20~500質量部である。
【0054】
イオン伝導性ポリマー材料は、可塑剤などを含んでいてもよい。可塑剤としては、特に限定されないが、ジシアノ化合物、分岐型エーテル化合物が好ましい。可塑剤を添加する場合は、イオン伝導性ポリマーを架橋することが好ましい。この架橋は、化学架橋であり、イオン伝導性ポリマー材料からの可塑剤の流出を抑制できる。
【0055】
ジシアノ化合物としてはスクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、1,5-ジシアノペンタン、1,6-ジシアノヘキサン、1,7-ジシアノヘプタン、1,8-ジシアノオクタン等が挙げられる。分岐型エーテル化合物の例として、下記の多分岐型エーテル化合物などが挙げられる。
【0056】
【化4】
【0057】
【化5】
【0058】
イオン伝導性ポリマー材料に可塑剤が含まれる場合、可塑剤の含有量としては、イオン伝導性ポリマー100質量部に対して、好ましくは10~1000質量部、より好ましくは20~500質量部である。
【0059】
イオン伝導性ポリマー材料の形成には、熱反応開始剤、光反応開始剤、架橋助剤を用いてもよい。
【0060】
熱反応開始剤としては、有機過酸化物、アゾ化合物等から選ばれるラジカル開始剤が用いられる。有機過酸化物としては、ケトンパーオキシド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキシド、ジアルキルパーオキシド、ジアシルパーオキシド、パーオキシエステル等、通常架橋用途に使用されているものが用いられ、アゾ化合物としてはアゾニトリル化合物、アゾアミド化合物、アゾアミジン化合物等、通常架橋用途に使用されているものが用いられる。ラジカル開始剤の添加量は種類により異なるが、通常、イオン伝導性ポリマーを100質量部として0.1~10質量部の範囲内である。
【0061】
光反応開始剤としては、アルキルフェノン系、ベンゾフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、チタノセン類、トリアジン類、ビスイミダゾール類、オキシムエステル類などラジカル開始剤が用いられる。これらのラジカル重合開始剤の添加量は種類により異なるが、通常、イオン伝導性ポリマーを100質量部として0.01~5.0質量部の範囲内である。
【0062】
架橋助剤としては、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、オリゴエチレングリコールジアクリレート、オリゴエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、ジアリルマレート、トリアリルイソシアヌレート、マレイミド、フェニルマレイミド、無水マレイン酸等を任意に用いることができる。
【0063】
イオン伝導性ポリマー材料には、後述する方法のため、側鎖にエチレンオキシド単位を有するイオン伝導性ポリマー、リチウム塩化合物を溶解させる溶媒を含有してもよく、アセトニトリル、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、水等の極性の高い溶媒を用いることができる。
【0064】
電極材料間の空隙にイオン伝導性ポリマー材料を含ませる方法としては、前述の通り、特に限定されないが、側鎖にエチレンオキシド単位を有するイオン伝導性ポリマーおよびリチウム塩化合物が溶媒によって完全に溶解された溶液(組成物)を、活物質を含む層(より具体的には電極材料層前駆体を構成する電極材料の空隙)に含浸させることにより行うことができる。含浸する条件は、できる限り、低い温度(好ましくは、室温以下)で、溶媒をゆっくり蒸発させながら、空隙にイオン伝導性ポリマーおよびリチウム塩化合物を含有させる。また、電極材料層が厚膜の場合には、減圧下で行うこともできる。
【0065】
側鎖にエチレンオキシド単位を有するイオン伝導性ポリマーを架橋する場合には、イオン伝導性ポリマー材料を含浸させた層を、加熱又は活性エネルギー線照射(紫外線照射など)によって架橋させることができる。
【0066】
無機固体電解質二次電池
本発明の無機固体電解質二次電池は、本発明の無機固体電解質二次電池用電極を含む。より具体的には、正極及び負極(少なくとも一方は、本発明の電極によって構成されている)と、正極と負極の間に配置された無機固体電解質とを備える。なお、正極及び負極のうち、本発明の電極を用いなかった電極には、固体電解質二次電池に用いられる公知の電極を用いることができる。本発明の無機固体電解質二次電池用電極については、前述の通りである。
【0067】
本発明の無機固体電解質二次電池に用いられる本発明の電極は、活物質に加えて、さらに、前記のイオン伝導性ポリマー材料が、電極材料層に含まれていることにより、電極材料層に含まれる活物質などの電極材料(具体的には、活物質粒子、バインダー、導電助剤、増粘剤、無機固体電解質など)の空隙がイオン伝導性ポリマー材料によって埋められ、電極材料層の内部の界面抵抗が効果的に低下し、結果として、優れた充放電特性が発揮されるものと考えられる。また、本発明の固体電解質二次電池は、高温環境(例えば100℃以上の高温環境)で使用されることもあるが、本発明の電極を用いることにより、高温環境において優れた充放電特性が発揮される。
【0068】
無機固体電解質としては、酸化物系固体電解質、及び硫化物系固体電解質を例示することができる。無機固体電解質は、一般に、電解質を構成する無機固体粒子の集合体である。
【0069】
酸化物系固体電解質は、酸素を含有し、かつ、周期律表第1族または第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものであれば特に限定されるものではない。
【0070】
酸化物系固体電解質を構成する具体的な化合物としては、LixLayTiO3〔x=0.3~0.7、y=0.3~0.7〕(LLT)、LixLayZrzmn(MはAl,Mg,Ca,Sr,V,Nb,Ta,Ti,Ge,In,Snの少なくとも1種以上の元素でありxは5≦x≦10を満たし、yは1≦y≦4を満たし、zは1≦z≦4を満たし、mは0≦m≦2を満たし、nは5≦n≦20を満たす。)Lixyzn(式中MはC,S,Al,Si,Ga,Ge,In,Snの少なくとも1種以上の元素でありxは0≦x≦5を満たし、yは0≦y≦1を満たし、zは0≦z≦1を満たし、nは0≦n≦6を満たす。)、Lix(Al,Ga)y(Ti,Ge)zSiamn(ただし、1≦x≦3、0≦y≦1、0≦z≦2、0≦a≦1、1≦m≦7、3≦n≦13)、Li(3-2x)xDO(xは0以上0.1以下の数を表し、Mは2価の金属原子を表す。Dはハロゲン原子または2種以上のハロゲン原子の組み合わせを表す。)、LixSiyz(1≦x≦5、0<y≦3、1≦z≦10)、Lixyz(1≦x≦3、0<y≦2、1≦z≦10)、Li3BO3-Li2SO4、Li2O-B23-P25、Li2O-SiO2、Li6BaLa2Ta212、Li3PO(4-3/2w)w(wはw<1)、LISICON(Lithium super ionic conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO4、ペロブスカイト型結晶構造を有するLa0.55Li0.35TiO3、NASICON(Natrium super ionic conductor)型結晶構造を有するLiTi2312、Li(1+x+y)(Al,Ga)x(Ti,Ge)(2-x)Siy(3-y)12(ただし、0≦x≦1、0≦y≦1)、ガーネット型結晶構造を有するLi7La3Zr2O12等が挙げられる。またLi、P及びOを含むリン化合物も望ましい。例えばリン酸リチウム(Li3PO4)、リン酸リチウムの酸素の一部を窒素で置換したLiPON、LiPOD(Dは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Ag、Ta、W、Pt、Au等から選ばれた少なくとも1種)等が挙げられる。また、LiAON(Aは、Si、B、Ge、Al、C、Ga等から選ばれた少なくとも1種)等も好ましく用いることができる。
【0071】
その中でも、LixLayTiO3〔x=0.3~0.7、y=0.3~0.7〕(LLT)、LixLayZrzmn(MはAl,Mg,Ca,Sr,V,Nb,Ta,Ti,Ge,In,Snの少なくとも1種以上の元素でありxは5≦x≦10を満たし、yは1≦y≦4を満たし、zは1≦z≦4を満たし、mは0≦m≦2を満たし、nは5≦n≦20を満たす。)、Li7La3Zr212(LLZ)、Li3BO3、Li3BO3-Li2SO4、Li3BO3-Li2CO3、Lix(Al,Ga)y(Ti,Ge)zSiamn(ただし、1≦x≦3、0≦y≦1、0≦z≦2、0≦a≦1、1≦m≦7、3≦n≦13)が好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
硫化物系固体電解質は、硫黄を含有し、かつ、周期律表第1族または第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものであれば特に限定されるものではない。例えば下記式で示される組成を満たすリチウムイオン伝導性無機固体電解質が挙げられる。
【0073】
Liabcde
【0074】
式中、Mは、B、Zn、Sn、Si、Cu、Ga、Sb、Al及びGeから選択される元素を示す。なかでも、B、Sn、Si、Al、Geが好ましく、Sn、Al、Geがより好ましい。Aは、I、Br、Cl、Fを示し、I、Brが好ましく、Iが特に好ましい。a~eは各元素の組成比を示し、a:b:c:d:eは1~12:0~1:1:2~12:0~5を満たす。aはさらに、1~9が好ましく、1.5~4がより好ましい。bは0~0.5が好ましい。dはさらに、3~7が好ましく、3.25~4.5がより好ましい。eはさらに、0~3が好ましく、0~2がより好ましい。
【0075】
式において、Li、M、P、S及びAの組成比は、好ましくはb、eが0であり、より好ましくはb=0、e=0で且つa、c及びdの比(a:c:d)がa:c:d=1~9:1:3~7であり、さらに好ましくはb=0、e=0で且つa:c:d=1.5~4:1:3.25~4.5である。
【0076】
無機固体電解質が粒子状である場合、その粒子径としては、例えば0.01~100μm、好ましくは0.1~20μmが挙げられる。
【0077】
本発明の固体電解質二次電池においては、正極と無機固体電解質との間、及び負極と前記無機固体電解質との間の少なくとも一方に、リチウム塩化合物を含む側鎖にエチレンオキシド単位を有するイオン伝導性ポリマー材料の架橋フィルムを配置してもよい。イオン伝導性ポリマー材料の架橋フィルムは、リチウム塩化合物とイオン伝導性ポリマーを含む組成物の架橋フィルムである。当該架橋フィルムを配置することにより、電極や無機固体電解質の界面抵抗をより一層低下させることができる。
【0078】
架橋フィルムは、少なくとも、リチウム塩化合物と、側鎖にエチレンオキシド単位を有するイオン伝導性ポリマーとを含む組成物を架橋することにより形成される。すなわち、架橋フィルムは、リチウム塩化合物とイオン伝導性ポリマーを含む組成物の架橋フィルムである。リチウム塩化合物及びイオン伝導性ポリマーについては、前述の通りである。
【0079】
架橋フィルムに含まれるイオン伝導性ポリマーの含有量としては、架橋フィルム全体を100質量部として、好ましくは10~90質量部、より好ましくは20~80質量部である。
【0080】
架橋フィルムに含まれるリチウム塩化物の含有量リチウム塩化合物のモル数/イオン伝導性ポリマーのエーテル酸素原子の総モル数の値が0.0001~5が好ましく、更に好ましくは0.001~0.5の範囲がよい。
【0081】
また、架橋フィルムには、常温溶融塩が含まれていてもよい。常温溶融塩については、前述の通りである。
【0082】
架橋フィルムに常温溶融塩が含まれる場合、その含有量としては、イオン伝導性ポリマー100質量部に対して、好ましくは10~1000質量部、より好ましくは20~500質量部である。
【0083】
架橋フィルムは、可塑剤などを含んでいてもよい。可塑剤については、前述の通りである。
【0084】
架橋フィルムに可塑剤が含まれる場合、可塑剤の含有量としては、イオン伝導性ポリマー100質量部に対して、好ましくは10~1000質量部、より好ましくは20~500質量部である。
【0085】
リチウム塩化合物とイオン伝導性ポリマーを含む組成物に反応開始剤や架橋助剤を配合して、架橋フィルムを形成してもよい。反応開始剤としては、熱反応開始剤、光反応開始剤が挙げられる。
【0086】
熱反応開始剤、光反応開始剤、及び架橋助剤については、前述の通りである。
【0087】
リチウム塩化合物とイオン伝導性ポリマーを含む組成物には、有機溶媒を配合してもよく、有機溶媒としては、トルエン、キシレン、ベンゼン、アセトニトリル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、THF(テトラヒドロフラン)が挙げられる。
【0088】
架橋フィルムの作製方法は、例えば、イオン伝導性ポリマー、必要に応じて反応開始剤、及びリチウム塩化合物を有機溶媒に混合して溶解して組成物を形成し、基材(例えばPETフィルムやテフロン(登録商標)板など)上に組成物をキャスティングし、溶媒を除去後、加熱又は紫外線などの活性エネルギー線照射によって架橋フィルムを作製する方法が挙げられる。また、直接、無機固体電解質の表面に当該組成物をキャスティングして、架橋フィルムを作製することもできる。
【0089】
架橋フィルムの膜厚は、好ましくは0.1μm~200μm、より好ましくは0.5μm~100μmの範囲内である。
【0090】
本発明の無機固体電解質二次電池の積層構成としては、例えば、以下の構成が挙げられる。
正極、無機固体電解質、及び負極が順に積層された積層構成;
正極、架橋フィルム、無機固体電解質、架橋フィルム、及び負極が順に積層された積層構成;
正極、架橋フィルム、無機固体電解質、及び負極が順に積層された積層構成;
正極、無機固体電解質、架橋フィルム、及び負極が順に積層された積層構成。
【0091】
本発明の無機固体電解質二次電池においては、無機固体電解質と前述の架橋フィルムとが接触していることが好ましい。無機固体電解質は、一般に、電解質を構成する無機固体粒子の集合体により形成されており、粒子間には空隙が存在している。架橋フィルムは、リチウム塩化合物を含むイオン伝導性ポリマーを含む組成物の架橋体であることから、イオン伝導性を有しており、かつ、無機材料と比較して高い柔軟性を有している。従って、当該架橋フィルムは、無機固体電解質との接触面積が大きくなり、その結果、無機固体電解質の界面抵抗が効果的に低下し、本発明の無機固体電解質二次電池は優れた充放電特性を発揮するものと考えられる。なお、電極材料層に含まれる活物質粒子なども空隙を形成することから、本発明の無機固体電解質二次電池においては、架橋フィルムが電極の電極材料層と接触していることも好ましいし、架橋フィルムが電極材料層と無機固体電解質の両方と接触していることも好ましい。
【0092】
固体電解質二次電池の製造方法
本発明の固体電解質二次電池の製造方法は特に限定されず、少なくとも、正極、負極、及び無機固体電解質で構成され、公知の方法にて製造される。例えば、コイン型のリチウムイオン電池の場合、正極、無機固体電解質、負極を配置して、外装缶に挿入する。その後、封口体とタブ溶接などで接合して、封口体を封入し、カシめることで蓄電池が得られる。電池の形状は限定されないが、例としてはコイン型、円筒型、シート型などがあげられ、2個以上の電池を積層した構造でもよい。
【実施例
【0093】
以下の実施例において本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0094】
本実施例では、コイン電池を作製し、コイン電池の充放電特性の性能評価を以下の実験にて行った。
【0095】
[作製した電池の評価]
作製した電池の評価としては充放電装置を用いて充放電試験を行い、充電容量および放電容量を求めた。
【0096】
充放電測定
0.1C(10時間率)に相当する電流で4.2VまでCCCV充電(0.01Cカット)後、0.1Cに相当する電流で、2.5VまでCCCV放電(0.01Cカット)を行った。試験温度は100℃環境とした。
【0097】
[正極前駆体の実施作製例]
正極活物質としてNCM(ニッケル/コバルト/マンガン酸リチウム=5/2/3)100質量部に、導電助剤としてアセチレンブラック3質量部、黒鉛3質量部、バインダーとしてPVdF3質量部を加え、さらにスラリーの固形分濃度が35質量%となるようにNMP溶液中に加えて、十分に混合して正極用スラリーを得た。得られた正極スラリーを厚さ20μmのアルミ集電体上にダイコーターを用いて塗布し、100℃で12時間以上乾繰後、ロールプレス機にてプレスを行い、厚さ20μmの正極を作製した。正極活物質の目付量6.6mg/cm2、正極密度3.1g/cm3、空隙率26%。
【0098】
[負極前駆体の実施作製例]
負極活物質として人造黒鉛(粒径10μm) 100質量部に、導電助剤として気相成長炭素繊維(VGCF)2質量部、バインダーとしてSBR 3質量部、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩 2質量部を加え、さらにスラリーの固形分濃度が35質量%となるように水を加えて、十分に混合して負極用スラリーを得た。得られた負極スラリーを厚さ16.5μmの銅集電体上にダイコーターを用いて塗布し、100℃で12時間以上乾繰後、ロールプレス機にてプレスを行い、厚さ22μmの負極を作製した。負極活物質の目付量3.1mg/cm2、負極密度1.2g/cm3、空隙率23%。
【0099】
[固体電解質二次電池用正極(正極前駆体にイオン伝導性ポリマー及びリチウム塩化合物を含浸した正極)の実施作製例]
側鎖にエチレンオキシド単位を有するイオン伝導性ポリマーとしてエチレンオキシド/ジエチレングリコールメチルグリシジルエーテル/アリルグリシジルエーテル=80/17/3モル%三元共重合体(重量平均分子量150万)100質量部、リチウム塩化合物としてホウフッ化リチウム12質量部、架橋助剤として、トリメチロールプロパントリアクリレート 10質量部、ラジカル開始剤としてベンゾイルパーオキシド(ナイパーBMT、日油株式会社製)0.3質量部をアセトニトリル 900質量部に完全に溶解させた電極含浸用塗工溶液を調製した。実施作製例で得られた正極前駆体に、電極含浸用塗工溶液を140μm厚さとなるように塗工した。その後、2時間静置することにより、溶媒を除去しながら、正極前駆体内の空隙にイオン伝導性ポリマーとリチウム塩化合物を含浸した。100℃で2時間、減圧下、含浸したイオン伝導性ポリマーの架橋を行い、固体電解質二次電池用正極を作製した。正極の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)分析を行った。SEMにより、正極内の空隙にイオン伝導性ポリマーが観測された。
【0100】
[固体電解質二次電池用正極の比較作製例]
実施作製例の固体電解質二次電池用正極において、側鎖にエチレンオキシド単位を有するイオン伝導性ポリマーの代わりに、ポリエチレンオキシド100質量部(重量平均分子量110万)を用いて、同様にして、比較用の固体電解質二次電池用正極を作製した。正極の断面について、SEM分析を行った。SEMにより、正極内の空隙にポリエチレンオキシドが観測された。
【0101】
[固体電解質二次電池用負極(負極前駆体にイオン伝導性ポリマー及びリチウム塩化合物を含浸した負極)の実施作製例]
側鎖にエチレンオキシド単位を有するイオン伝導性ポリマーとしてエチレンオキシド/ジエチレングリコールメチルグリシジルエーテル/アリルグリシジルエーテル=80/17/3モル%三元共重合体(重量平均分子量150万)100質量部、リチウム塩化合物としてLiTFSI38質量部を、架橋助剤として、トリメチロールプロパントリアクリレート10質量部、ラジカル開始剤としてベンゾイルパーオキシド(ナイパーBMT、日油株式会社製)0.3質量部をアセトニトリル900質量部に完全に溶解させた電極含浸用塗工溶液を調製した。負極の実施作製例で得られた負極前駆体に、電極含浸用塗工溶液を120μm厚さとなるように塗工した。その後、2時間静置することにより、溶媒を除去しながら、負極前駆体内の空隙にイオン伝導性ポリマーとリチウム塩化合物を含浸した。100℃で2時間、減圧下、含浸した側鎖にエチレンオキシド単位を有するイオン伝導性ポリマーの架橋を行い、固体電解質二次電池用負極を作製した。負極の断面をSEM-EDX(走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法)分析を行った。SEMにより、負極内の空隙にイオン伝導性ポリマーが観測され、また、EDXにより空隙にFイオンの分布が観測され、これにより、LiTFSIが空隙の中に含まれていることが確認できた。
【0102】
[イオン伝導性ポリマー材料の架橋フィルムの作製例]
側鎖にエチレンオキシド単位を有するイオン伝導性ポリマーとしてエチレンオキシド/ジエチレングリコールメチルグリシジルエーテル/アリルグリシジルエーテル=80/17/3モル%三元共重合体(重量平均分子量150万)100質量部、リチウム塩化合物としてLiTFSI38質量部を、架橋助剤として、トリメチロールプロパントリアクリレート 10質量部、ラジカル開始剤としてベンゾイルパーオキシド(ナイパーBMT、日油株式会社製)0.3質量部をアセトニトリル 900質量部に溶解させた溶液を調製した。この溶液をポリテトラフルオロエチレン製モールド上にキャストして、室温で乾燥した後、100℃、2時間、熱架橋を行い、厚さ20μmのイオン伝導性ポリマー材料の架橋フィルムを作製した。
【0103】
電池の製造例
[固体電解質二次電池の実施製造例1]
ドライルーム内において、固体電解質二次電池用正極の実施作製例で得た正極、作製例のイオン伝導性ポリマー材料の架橋フィルム、無機固体電解質としてLi7La3Zr212(LLZ, 豊島製作所製 膜厚500μm)、作製例のイオン伝導性ポリマー材料の架橋フィルム、負極としての金属リチウム箔の順に積層後、カシめ、試験用2032型コイン電池を製造した。
<充放電条件>
下限電圧2.5V-上限電圧4.2V、100℃
CC(0.1C)-CV(0.01C)充電
CC(0.1C)-CV(0.01C)放電
<充放電試験結果>
充電容量168mAh/g、放電容量162mAh/g
【0104】
[固体電解質二次電池の実施製造例2]
ドライルーム内において、固体電解質二次電池用正極の実施作製例で得た正極、作製例のイオン伝導性ポリマー材料の架橋フィルム、無機固体電解質としてLi7La3Zr212(LLZ, 豊島製作所製 膜厚500μm)、作製例のイオン伝導性ポリマー材料の架橋フィルム、固体電解質二次電池用負極の実施作製例で得た負極の順に積層後、カシめ、試験用2032型コイン電池を製造した。
<充放電条件>
下限電圧2.5V-上限電圧4.2V、100℃
CC(0.1C)-CV(0.01C)充電
CC(0.1C)-CV(0.01C)放電
<充放電試験結果>
充電容量155mAh/g 放電容量140mAh/g
【0105】
[固体電解質二次電池の比較製造例1]
ドライルーム内において、固体電解質二次電池用正極の比較例のポリエチレンオキシドを用いた正極、無機固体電解質としてLi7La3Zr212(LLZ, 豊島製作所製 膜厚500μM)、作製例のイオン伝導性ポリマー材料の架橋フィルム、負極としての金属リチウム箔の順に積層後、カシめ、試験用2032型コイン電池を製造した。
<充放電条件>
下限電圧2.5V-上限電圧4.2V、100℃
CC(0.1C)-CV(0.01C)充電
CC(0.1C)-CV(0.01C)放電
<充放電試験結果>
充電容量100mAh/g 放電容量50mAh/g
【0106】
電極材料の空隙がイオン伝導性ポリマー材料によって埋められた電極は、埋められていない電極、ポリエチレンオキシドによって埋められた電極と比較して、明らかに、充電および放電容量を向上させていることがわかる。ポリエチレンオキシドは、結晶性が高く、架橋できないので、100℃の高温では溶融のため形状維持ができなくなり、結着性が弱くなっていることが原因であると考えられる。側鎖にエチレンオキシド単位を有するイオン伝導性ポリマーは、柔軟性と結着性を有するので、無機固体電解質との界面での抵抗を下げる効果があるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の固体電解質二次電池用電極は、固体電解質二次電池の電極として利用されることにより、優れた充放電特性を発揮させることができ、電気自動車やハイブリッド電気自動車などの車載用途や家庭用電力貯蔵用の蓄電池といった大型の電池用途に好適に利用可能である。