(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】駆動制御装置、駆動装置およびパワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
H02P 27/08 20060101AFI20231212BHJP
H02M 7/493 20070101ALI20231212BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20231212BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
H02P27/08
H02M7/493
H02M7/48 E
B62D5/04
(21)【出願番号】P 2020563030
(86)(22)【出願日】2019-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2019048242
(87)【国際公開番号】W WO2020137509
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2018248224
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】ニデック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】鍋師 香織
(72)【発明者】
【氏名】北村 高志
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-073097(JP,A)
【文献】特開2002-345252(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0003409(US,A1)
【文献】国際公開第2013/190609(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0013283(US,A1)
【文献】国際公開第2018/180361(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/08
H02M 7/493
H02M 7/48
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの駆動を制御する駆動制御装置であって、
前記モータの巻線の一端に接続される第1インバータと、
前記一端に対する他端に接続される第2インバータと、
前記第1インバータに対してPWM制御を行う第1制御回路と、
前記第2インバータに対してPWM制御を行う第2制御回路と、
前記第1制御回路および前記第2制御回路の双方にPWM制御用のクロック信号を供給する共用クロックと、を備え
、
前記第1制御回路および前記第2制御回路はそれぞれプログラムに従って動作し、
前記第1制御回路および前記第2制御回路の一方のプログラムは、プログラムの先頭の命令からPWM制御のキャリア信号を開始させる命令までの間に時間調整のプログラム部分を含み、
前記時間調整のプログラム部分は、前記一方におけるキャリア信号の開始時間と、当該一方に対する他方における開始時間との差を、キャリア信号の周期の整数倍に合わせる調整時間を各命令の実行時間の累積によって生じさせる数の命令を有する駆動制御装置。
【請求項2】
前記第1制御回路および前記第2制御回路はそれぞれ内部クロックを備え、前記第1制御回路および前記第2制御回路は、前記共用クロックからのクロック信号を監視し、当該クロック信号が失陥した場合には前記内部クロックでPWM制御を行う請求項1に記載の駆動制御装置。
【請求項3】
前記第1制御回路および前記第2制御回路は、互いに同一長の配線で前記共用クロックに接続されてクロック信号が供給される請求項1または2に記載の駆動制御装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の駆動制御装置と、前記駆動制御装置によって駆動が制御されるモータと、を備える駆動装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の駆動制御装置と、前記駆動制御装置によって駆動が制御されるモータと、前記モータによって駆動されるパワーステアリング機構と、を備えるパワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動制御装置、駆動装置およびパワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、n相の巻線(コイル)を有し、それらのコイル相互間が無結線の無結線モータが知られる。また、このような無結線モータの駆動方法としては、各相のコイルの両端にインバータが接続されたフルブリッジと称される駆動システムが知られる。フルブリッジによる無結線モータの駆動では、通常時は二つのインバータで駆動し、異常時には一方のインバータを中性点に切り替えて三相制御を行うことができる。そして、故障率の低減の観点から二つのインバータを二つの制御回路にて制御する構造が知られている。 例えば特許文献1では、第1制御部は、第1インバータの駆動を制御し、第2制御部は、第2インバータの駆動を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
故障率低減の観点から考えると、制御回路間で共有した回路部分がない独立駆動の方が好ましい。しかし、フルブリッジの駆動システムの場合、各制御回路におけるPMWキャリアの信号において同期がずれるとモータのトルクリップルが悪化してしまう。キャリア信号の同期としては、周波数の同期と位相の同期とが考えられ、周波数の同期がずれるとトルクリップルの悪化が顕著である。また、周波数の同期ずれよりも程度は低いが、位相の同期がずれることでもトルクリップルは悪化する。 そこで、本発明は、各制御回路の独立性を確保しつつ、トルクリップルの低減を図ることを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る駆動制御装置の一態様は、モータの駆動を制御する駆動制御装置であって、上記モータの巻線の一端に接続される第1インバータと、上記一端に対する他端に接続される第2インバータと、上記第1インバータに対してPWM制御を行う第1制御回路と、上記第2インバータに対してPWM制御を行う第2制御回路と、上記第1制御回路および上記第2制御回路の双方にPWM制御用のクロック信号を供給する共用クロックと、を備える。 また、本発明に係る駆動装置の一態様は、上記駆動制御装置と、上記駆動制御装置によって駆動が制御されるモータと、を備える。
【0006】
また、本発明に係るパワーステアリング装置の一態様は、上記駆動制御装置と、上記駆動制御装置によって駆動が制御されるモータと、上記モータによって駆動されるパワーステアリング機構と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、各制御回路の独立性が確保されつつ、トルクリップルの低減が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施形態によるモータ駆動ユニットのブロック構成を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、本実施形態によるモータ駆動ユニットの回路構成を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、モータの各相の各コイルに流れる電流値を示す図である。
【
図4】
図4は、PWM制御の下でのスイッチング動作における電圧印加の状態を模式的に示す図である。
【
図5】
図5は、PWM制御の下でのスイッチング動作における印加停止の状態を模式的に示す図である。
【
図7】
図7は、モータ駆動ユニットのハードウェア構成を模式的に示す図である。
【
図8】
図8は、制御回路のソフトウェア構成を模式的に示す図である。
【
図9】
図9は、回路配線が異なる変形例におけるモータ駆動ユニットの回路構成を示す図である。
【
図10】
図10は、本実施形態による電動パワーステアリング装置の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付の図面を参照しながら、本開示の駆動制御装置、駆動装置およびパワーステアリング装置の実施形態を詳細に説明する。但し、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするため、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。
【0010】
本明細書において、電源からの電力を、三相(U相、V相、W相)の巻線(「コイル」と表記する場合がある。)を有する三相モータに供給する駆動制御装置を例にして、本開示の実施形態を説明する。ただし、電源からの電力を、四相または五相などのn相(nは4以上の整数)の巻線を有するn相モータに供給する駆動制御装置も本開示の範疇である。
(モータ駆動ユニット1000の構造)
図1は、本実施形態によるモータ駆動ユニット1000のブロック構成を模式的に示す図である。 モータ駆動ユニット1000は、インバータ101、102、モータ200、制御回路301、302および外部クロック450を備える。
【0011】
本明細書では、構成要素としてモータ200を備えるモータ駆動ユニット1000を説明する。モータ200を備えるモータ駆動ユニット1000は、本発明の駆動装置の一例に相当する。ただし、モータ駆動ユニット1000は、構成要素としてモータ200が省かれた、モータ200を駆動するための装置であってもよい。モータ200が省かれたモータ駆動ユニット1000は、本発明の駆動制御装置の一例に相当する。
【0012】
モータ駆動ユニット1000は、2つのインバータ101、102によって、電源(
図2の403、404)からの電力を、モータ200に供給する電力に変換する。インバータ101、102は、例えば直流電力を、U相、V相およびW相の擬似正弦波である三相交流電力に変換することが可能である。2つのインバータ101、102は、それぞれ電流センサ401、402を備える。
【0013】
モータ200は、例えば三相交流モータである。モータ200は、U相、V相およびW相のコイルを有する。コイルの巻き方は、例えば集中巻きまたは分布巻きである。
【0014】
第1インバータ101は、モータ200のコイルの一端210に接続されて当該一端210に駆動電圧を印加し、第2インバータ102は、モータ200のコイルの他端220に接続されて当該他端220に駆動電圧を印加する。本明細書において、部品(構成要素)同士の「接続」とは、特に断らない限り電気的な接続を意味する。
【0015】
制御回路301、302は、後で詳述するようにマイクロコントローラ341、342などを備える。制御回路301、302は、電流センサ401、402および角度センサ321、322からの入力信号に基づいてインバータ101、102の駆動電圧を制御する。制御回路301、302によるインバータ101、102の制御手法としては、例えばベクトル制御、直接トルク制御(DTC)から選択された制御手法が用いられる。
【0016】
外部クロック450は2つの制御回路301、302に共通のクロック信号を供給し、2つの制御回路301、302におけるインバータ101、102の制御の主に周波数について同期させる。
図2を参照して、モータ駆動ユニット1000の具体的な回路構成を説明する。
図2は、本実施形態によるモータ駆動ユニット1000の回路構成を模式的に示す図である。
【0017】
モータ駆動ユニット1000はそれぞれ独立した第1電源403および第2電源404に接続される。電源403、404は所定の電源電圧(例えば12V)を生成する。電源403、404として、例えば直流電源が用いられる。ただし、電源403、404は、AC-DCコンバータまたはDC―DCコンバータであってもよいし、バッテリー(蓄電池)であってもよい。
図2では、一例として、第1インバータ101用の第1電源403および第2インバータ102用の第2電源404が示されるが、モータ駆動ユニット1000は、第1インバータ101および第2インバータ102に共通の単一電源に接続されてもよい。また、モータ駆動ユニット1000は、内部に電源を備えていてもよい。
【0018】
モータ駆動ユニット1000は、モータ200の一端210側に対応した第1系統と、モータ200の他端220側に対応した第2系統とを備える。第1系統には、第1インバータ101と第1の制御回路301が含まれる。第2系統には、第2インバータ102と第2の制御回路302が含まれる。第1系統のインバータ101および制御回路301は第1電源403から電力を供給される。第2系統のインバータ102および制御回路302は第2電源404から電力を供給される。
【0019】
第1インバータ101は、3個のレグを有するブリッジ回路を備える。第1インバータ101の各レグは、電源とモータ200との間に接続されたハイサイドスイッチ素子およびモータ200とグランドとの間に接続されたローサイドスイッチ素子を備える。具体的には、U相用レグは、ハイサイドスイッチ素子113Hおよびローサイドスイッチ素子113Lを備える。V相用レグは、ハイサイドスイッチ素子114Hおよびローサイドスイッチ素子114Lを備える。W相用レグは、ハイサイドスイッチ素子115Hおよびローサイドスイッチ素子115Lを備える。スイッチ素子としては、例えば電界効果トランジスタ(MOSFETなど)または絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBTなど)が用いられる。なお、スイッチ素子がIGBTである場合には、スイッチ素子と逆並列にダイオード(フリーホイール)が接続される。
【0020】
第1インバータ101は、例えば、U相、V相およびW相の各相の巻線に流れる電流を検出するための電流センサ401(
図1を参照)として、シャント抵抗113R、114Rおよび115Rをそれぞれ各レグに備える。電流センサ401は、各シャント抵抗に流れる電流を検出する電流検出回路(不図示)を備える。例えば、シャント抵抗は、ローサイドスイッチ素子113L、114Lおよび115Lとグランドとの間に接続され得る。シャント抵抗の抵抗値は、例えば0.5mΩ~1.0mΩ程度である。
【0021】
シャント抵抗の数は3つ以外でもよい。例えば、U相、V相用の2つのシャント抵抗113R、114R、V相、W相用の2つのシャント抵抗114R、115R、または、U相、W相用の2つのシャント抵抗113R、115Rが用いられてもよい。使用されるシャント抵抗の数およびシャント抵抗の配置は、製品コストおよび設計仕様などが考慮されて適宜決定される。
【0022】
第2インバータ102は、3個のレグを有するブリッジ回路を備える。第2インバータ102の各レグは、電源とモータ200との間に接続されたハイサイドスイッチ素子およびモータ200とグランドとの間に接続されたローサイドスイッチ素子を備える。具体的には、U相用レグは、ハイサイドスイッチ素子116Hおよびローサイドスイッチ素子116Lを備える。V相用レグは、ハイサイドスイッチ素子117Hおよびローサイドスイッチ素子117Lを備える。W相用レグは、ハイサイドスイッチ素子118Hおよびローサイドスイッチ素子118Lを備える。第1インバータ101と同様に、第2インバータ102は、例えば、シャント抵抗116R、117Rおよび118Rを備える。
【0023】
モータ駆動ユニット1000はコンデンサ105、106を備える。コンデンサ105、106は、いわゆる平滑コンデンサであり、モータ200で発生する環流電流を吸収することで電源電圧を安定化させてトルクリップルを抑制する。コンデンサ105、106は、例えば電解コンデンサであり、容量および使用する個数は設計仕様などによって適宜決定される。
【0024】
再び
図1を参照する。制御回路301、302は、例えば、電源回路311、312と、角度センサ321、322と、入力回路331、332と、マイクロコントローラ341、342と、駆動回路351、352と、ROM361、362とを備える。制御回路301、302はインバータ101、102に接続される。そして、第1制御回路301は第1インバータ101を制御し、第2制御回路302は第2インバータ102を制御する。
【0025】
制御回路301、302は、目的とするロータの位置(回転角)、回転速度、および電流などを制御してクローズドループ制御を実現することができる。回転速度は、例えば、回転角(rad)を時間微分することにより得られ、単位時間(例えば1分間)にロータが回転する回転数(rpm)で表される。制御回路301、302は、目的とするモータトルクを制御することも可能である。制御回路301、302は、トルク制御のためにトルクセンサを備えてもよいがトルクセンサが省かれていてもトルク制御は可能である。また、角度センサ321、322に変えてセンサレスアルゴリズムを備えてもよい。 電源回路311、312は、制御回路301、302内の各ブロックに必要なDC電圧(例えば3V、5V)を生成する。
【0026】
角度センサ321、322は、例えばレゾルバまたはホールICである。角度センサ321、322は、磁気抵抗(MR)素子を有するMRセンサとセンサマグネットとの組み合わせによっても実現される。角度センサ321、322は、モータ200のロータの回転角を検出し、検出した回転角を表した回転信号をマイクロコントローラ341、342に出力する。モータ制御手法(例えばセンサレス制御)によっては、角度センサ321、322は省かれる場合がある。
【0027】
入力回路331、332は、電流センサ401、402によって検出されたモータ電流値(以下、「実電流値」と表記する。)を受け取る。入力回路331、332は、マイクロコントローラ341、342の入力レベルに実電流値のレベルを必要に応じて変換し、実電流値をマイクロコントローラ341、342に出力する。入力回路331、332は、アナログデジタル変換回路である。
【0028】
マイクロコントローラ341、342は、角度センサ321、322によって検出されたロータの回転信号を受信するとともに、入力回路331、332から出力された実電流値を受信する。マイクロコントローラ341、342は、実電流値およびロータの回転信号などに従って目標電流値を設定してPWM信号を生成し、生成したPWM信号を駆動回路351、352に出力する。例えば、マイクロコントローラ341、342は、インバータ101、102における各スイッチ素子のスイッチング動作(ターンオンまたはターンオフ)を制御するためのPWM信号を生成する。
【0029】
各マイクロコントローラ341、342におけるPWM信号の生成は、共通の外部クロック450から供給されるクロック信号の周波数に各々が同期して実行される。つまり、外部クロック450は、第1の制御回路301および第2の制御回路302の双方にPWM制御用のクロック信号を供給する共用クロックの一例である。外部クロック450から得られるクロック信号は制御回路301、302同士で周波数が同一であるので、独立性が確保された2つの制御回路301、302におけるPWM制御の周波数が同期し、トルクリップルの低減が図られる。
【0030】
外部クロック450からのクロック信号は、各マイクロコントローラ341、342が有する例えばフェイルセーフクロックモニタなどといったモニタ機能によって監視される。各マイクロコントローラ341、342には内部クロック371、372が備えられる。外部クロック450からのクロック信号が失陥した場合には、その失陥がモニタ機能によって検出され、各マイクロコントローラ341、342の動作は、内部クロック371、372からのクロック信号に従った動作に切り替わる。この結果、各マイクロコントローラ341、342は、内部クロック371、372からのクロック信号によってPWM信号の生成を継続する。つまり、制御回路301、302は、外部クロック450からのクロック信号を監視し、当該クロック信号が失陥した場合には内部クロック371、372でPWM制御を行う。この結果、外部クロック450が故障した場合であってもPWM制御によるモータの駆動制御が継続される。
【0031】
駆動回路351、352は、典型的にはゲートドライバである。駆動回路351、352は、第1インバータ101および第2インバータ102における各スイッチ素子のスイッチング動作を制御する制御信号(例えば、ゲート制御信号)をPWM信号に従って生成し、生成した制御信号を各スイッチ素子に与える。 マイクロコントローラ341、342は、駆動回路351、352の機能を有していてもよい。その場合、駆動回路351、352は省かれる。
【0032】
ROM361、362は、例えば書き込み可
能なメモリ(例えばPROM)、書き換え可能なメモリ(例えばフラッシュメモリ)または読み出し専用のメモリである。ROM361、362は、マイクロコントローラ341、342にインバータ101、102などを制御させるための命令群を含む制御プログラムを格納する。例えば、制御プログラムはブート時にRAM(不図示)に一旦展開される。 以下、モータ駆動ユニット1000の動作の具体例を説明し、主としてインバータ101、102の動作の具体例を説明する。
【0033】
制御回路301、302は、第1インバータ101および第2インバータ102の両方を用いて三相通電制御することによってモータ200を駆動する。具体的に、制御回路301、302は、第1インバータ101のスイッチ素子と第2インバータ102のスイッチ素子とをスイッチング制御することにより三相通電制御を行う。
図3は、モータ200の各相の各コイルに流れる電流値を示す図である。
【0034】
図3には、三相通電制御に従って第1インバータ101および第2インバータ102が制御されたときにモータ200のU相、V相およびW相の各コイルに流れる電流値をプロットして得られる電流波形(正弦波)が例示されている。
図3の横軸は、モータ電気角(deg)を示し、縦軸は電流値(A)を示す。I
pkは各相の最大電流値(ピーク電流値)を表す。なお、インバータ101、102は、
図3に例示した正弦波以外に、例えば矩形波を用いてモータ200を駆動することも可能である。
【0035】
図3に例示されたような電流波形は、そのような電流波形に応じた波形の電圧がモータ200に印加されることで生じる。そして、そのような電圧は、第1インバータ101のスイッチ素子と第2インバータ102のスイッチ素子がPWM制御によって例えば20kHzというような高速でスイッチングすることによって生じる。
図4および
図5は、PWM制御の下でのスイッチング動作を模式的に示す図であり、
図4には電圧印加の状態が示され、
図5には印加停止の状態が示される。
【0036】
図4および
図5には、インバータ101、102が有するレグのうち例えばU相のレグが示される。上述したようにU相のレグには、第1インバータ101側のハイサイドスイッチ素子113Hおよびローサイドスイッチ素子113Lと、第2インバータ102側のハイサイドスイッチ素子116Hおよびローサイドスイッチ素子116Lとが含まれる。
【0037】
第1インバータ101側のハイサイドスイッチ素子113Hおよびローサイドスイッチ素子113Lは、同時にオン状態とはならず、一方がオン状態となる場合には他方はオフ状態になる。第2インバータ102側のハイサイドスイッチ素子116Hおよびローサイドスイッチ素子116Lも同様に、同時にオン状態とはならない。
【0038】
モータ200の巻線に電圧が印加される場合には、2つのインバータ101、102の一方(
図4の場合は第2インバータ102)でハイサイドスイッチ素子113H、116Hがオン状態となり、他方(
図4の場合は第1インバータ101)でローサイドスイッチ素子113L、116Lがオン状態となる。この結果、当該一方側から当該他方側へと図中の矢印のように電流が流れることになる。
【0039】
印加停止時には、全てのスイッチ素子がオフ状態となる。オフ状態となった直後には、コンデンサ(
図2の105、106)にモータ200からの環流電流が流れるが、その後は電流が流れない。また、環流電流はモータ200のトルクには寄与しない。
【0040】
2つのインバータ101、102では、
図4に示す電圧印加の状態と
図5に示す印加停止の状態とが高速で繰り返される。インバータ101、102における電圧印加と印加停止との繰り返しは、制御回路301、302のマイクロコントローラ341、342によって生成されるPWM信号に従って実行される。
図6は、PWM信号を示す図である。
【0041】
PWM信号は2値のパルス信号であり、電圧印加を表す第1値と印加停止を表す第2値とが交互に生じる。PWM信号のパルスは周期T0で繰り返され、周期T0は第1値の継続時間T1と第2値の継続時間T2とに案分される。
【0042】
PWM信号は上述した様に例えば20kHzといった高周波数の信号であるため周期T0は例えば50μ秒といった短周期となる。従って、モータ200に印加される実効的な電圧(実効電圧)は、周期T0で均された電圧となり、周期T0と第1値の継続時間T1との比(デューティー)が電源電圧と実効電圧との比に等しい。実効電圧は、例えば
図3に示す電流波形のように変化する電流値に対応して時間変化する電圧である。実効電圧のそのような時間変化は、マイクロコントローラ341、342によってPWM信号のデューティーが制御されることで実現される。
【0043】
2つのマイクロコントローラ341、342それぞれが周期T0のキャリア信号を生成し、そのキャリア信号に基づいてPWM信号を生成するが、各マイクロコントローラ341、342における周期T0は、外部クロックから与えられるクロック信号の周期に同期する。このため、マイクロコントローラ341、342同士で周期T0が同期(即ち信号周波数が同期)し、インバータ101、102同士でスイッチング動作の周波数が同期するので、周期T0のズレによるトルクリップルが抑制される。
(モータ駆動ユニット1000のハードウェア構成)
次に、モータ駆動ユニット1000のハードウェア構成について説明する。
図7は、モータ駆動ユニット1000のハードウェア構成を模式的に示す図である。
【0044】
モータ駆動ユニット1000は、ハードウェア構成として、上述したモータ200と、第1実装基板1001と、第2実装基板1002と、ハウジング1003と、コネクタ1004、1005とを備える。
【0045】
モータ200からは、コイルの一端210と他端220が突き出し第2実装基板1002に向かって延びる。第2実装基板1002には、コイルの一端210と他端220が接続される。
【0046】
第1実装基板1001と第2実装基板1002とは基板面が互いに対向する。基板面が対向した方向に、モータ200の回転軸が延びる。第1実装基板1001と第2実装基板1002とモータ200は、ハウジング1003内に収容されることで互いの位置が固定される。
【0047】
第1実装基板1001および第2実装基板1002にはコネクタ1004、1005が取り付けられる。各コネクタ1004、1005には、第1電源403および第2電源404双方からの電源コードが接続される。
【0048】
第1実装基板1001はいわゆる制御基板であり、第1実装基板1001には、第1の制御回路301と第2の制御回路302が実装される。また、第1実装基板1001には外部クロック450も実装され、第1の制御回路301と第2の制御回路302は外部クロック450を中心として互いに対象(線対称あるいは点対称)に配置される。そして、第1の制御回路301と第2の制御回路302は互いに同一長の配線で外部クロック450に接続されてクロック信号が供給される。このため、第1の制御回路301と第2の制御回路302に供給されるクロック信号同士における位相ずれが低減され、第1の制御回路301と第2の制御回路302のそれぞれにおけるPWM制御の位相が同期する。
(ソフトウェア構成)
次に、制御回路301、302のソフトウェア構成について説明する。
図8は、制御回路301、302のソフトウェア構成を模式的に示す図である。
【0049】
本実施形態では、モータ駆動ユニット1000が外部装置との通信などを行う場合に2つの制御回路301、302のうち第1の制御回路301がメインとなって通信などを行う。このため、2つの制御回路301、302ではソフトウェア構成が異なる。
【0050】
図8には、第1の制御回路301に組み込まれているメイン用のプログラム1101と、第2の制御回路302に組み込まれているサブ用のプログラム1102が示される。第1の制御回路301および第2の制御回路302はそれぞれプログラム1101、1102に従って動作する。
【0051】
メイン用のプログラム1101には、外部装置との通信などを可能にする初期設定部分1103と、第1のインバータ101等を制御する駆動制御部分1104が含まれる。サブ用のプログラム1102には、メイン用のプログラム1101と同様の駆動制御部分1106が含まれるとともに時間調整部分1105も含まれる。
【0052】
時間調整部分1105は、駆動制御部分1106内に組み込まれたPWMキャリア開始命令によってPWM制御のキャリア信号が開始される時刻を、メイン用のプログラム1101におけるキャリア信号の開始時刻に近づける。具体的には、時間調整部分1105は、メイン用のプログラム1101の初期設定部分1103に含まれた命令が第1の制御回路301で実行されるのに要する実行時間と同等の時間を第2の制御回路302に経過させるための命令数を有する。
【0053】
言い換えるならば、第1の制御回路301および第2の制御回路302の一方のプログラム(例えばサブ用のプログラム1102)は、プログラムの先頭の命令からPWM制御のキャリア信号を開始させるPWMキャリア開始命令までの間に時間調整のプログラム部分を含む。この時間調整のプログラム部分は、上記一方におけるキャリア信号の開始時間と、当該一方に対する他方における開始時間との差を、キャリア信号の周期の整数倍(本実施形態では例えば0倍)に合わせる命令数を有する。
【0054】
メイン用のプログラム1101とサブ用のプログラム1102は、モータ駆動ユニット1000における電源投入によってプログラムの先頭の命令から実行が開始される。そして、メイン用のプログラム1101の初期設定部分1103が第1の制御回路301で実行される間、第2の制御回路302では、サブ用のプログラム1102の時間調整部分1105が実行される。この結果、第1の制御回路301と第2の制御回路302とで駆動制御部分1104、1106の開始時刻が合い、PWMキャリア開始命令の実行に伴うキャリア信号の開始時刻も合う。従って、第1の制御回路301と第2の制御回路302とでキャリア信号同士の位相ずれが低減されPWM制御の位相が同期する。 次に、本実施形態の変形例について説明する。
図9は、回路配線が異なる変形例におけるモータ駆動ユニット1000の回路構成を示す図である。
図9に示す変形例では、第1インバータ101と第2インバータ102とのグランド端同士が分離する。このように分離した構成であっても、キャリア信号の周波数にずれが生じるとトルクリップルが発生する。従って、
図9に示す変形例でも、第1インバータ101と第2インバータ102との双方におけるキャリア信号の周波数が、共通の外部クロック450によって互いに同期されることでトルクリップルが抑制される。また、この変形例でも、
図7に示すハードウェア構成や
図8に示すソフトウェア構成によってキャリア信号の位相の同期が図られることでトルクリップルが更に抑制される。
(パワーステアリング装置の実施形態)
【0055】
自動車等の車両は一般的に、パワーステアリング装置を備える。パワーステアリング装置は、運転者がステアリングハンドルを操作することによって発生するステアリング系の操舵トルクを補助するための補助トルクを生成する。補助トルクは、補助トルク機構によって生成され、運転者の操作の負担を軽減することができる。例えば、補助トルク機構は、操舵トルクセンサ、ECU、モータおよび減速機構などから構成される。操舵トルクセンサは、ステアリング系における操舵トルクを検出する。ECUは、操舵トルクセンサの検出信号に基づいて駆動信号を生成する。モータは、駆動信号に基づいて操舵トルクに応じた補助トルクを生成し、減速機構を介してステアリング系に補助トルクを伝達する。
【0056】
上記実施形態のモータ駆動ユニット1000は、パワーステアリング装置に好適に利用される。
図10は、本実施形態による電動パワーステアリング装置2000の構成を模式的に示す図である。 電動パワーステアリング装置2000は、ステアリング系520および補助トルク機構540を備える。
【0057】
ステアリング系520は、例えば、ステアリングハンドル521、ステアリングシャフト522(「ステアリングコラム」とも称される。)、自在軸継手523A、523B、および回転軸524(「ピニオン軸」または「入力軸」とも称される。)を備える。
【0058】
また、ステアリング系520は、例えば、ラックアンドピニオン機構525、ラック軸526、左右のボールジョイント552A、552B、タイロッド527A、527B、ナックル528A、528B、および左右の操舵車輪(例えば左右の前輪)529A、529Bを備える。
【0059】
ステアリングハンドル521は、ステアリングシャフト522と自在軸継手523A、523Bとを介して回転軸524に連結される。回転軸524にはラックアンドピニオン機構525を介してラック軸526が連結される。ラックアンドピニオン機構525は、回転軸524に設けられたピニオン531と、ラック軸526に設けられたラック532とを有する。ラック軸526の右端には、ボールジョイント552A、タイロッド527Aおよびナックル528Aをこの順番で介して右の操舵車輪529Aが連結される。右側と同様に、ラック軸526の左端には、ボールジョイント552B、タイロッド527Bおよびナックル528Bをこの順番で介して左の操舵車輪529Bが連結される。ここで、右側および左側は、座席に座った運転者から見た右側および左側にそれぞれ一致する。
【0060】
ステアリング系520によれば、運転者がステアリングハンドル521を操作することによって操舵トルクが発生し、ラックアンドピニオン機構525を介して左右の操舵車輪529A、529Bに伝わる。これにより、運転者は左右の操舵車輪529A、529Bを操作することができる。
【0061】
補助トルク機構540は、例えば、操舵トルクセンサ541、ECU542、モータ543、減速機構544および電力供給装置545を備える。補助トルク機構540は、ステアリングハンドル521から左右の操舵車輪529A、529Bに至るステアリング系520に補助トルクを与える。なお、補助トルクは「付加トルク」と称されることがある。
【0062】
ECU542としては、例えば
図1などに示された制御回路301、302が用いられる。また、電力供給装置545としては、例えば
図1などに示されたインバータ101、102が用いられる。また、モータ543としては、例えば
図1などに示されたモータ200が用いられる。ECU542、モータ543および電力供給装置545が、一般的に「機電一体型モータ」と称されるユニットを構成する場合には、当該ユニットとしては、例えば
図7に示されたハードウェア構成のモータ駆動ユニット1000が好適に用いられる。
図10に示された各要素のうち、ECU542、モータ543および電力供給装置545を除いた要素で構成された機構は、モータ543によって駆動されるパワーステアリング機構の一例に相当する。
【0063】
操舵トルクセンサ541は、ステアリングハンドル521によって付与されたステアリング系520の操舵トルクを検出する。ECU542は、操舵トルクセンサ541からの検出信号(以下、「トルク信号」と表記する。)に基づいてモータ543を駆動するための駆動信号を生成する。モータ543は、操舵トルクに応じた補助トルクを駆動信号に基づいて発生する。補助トルクは、減速機構544を介してステアリング系520の回転軸524に伝達される。減速機構544は、例えばウォームギヤ機構である。補助トルクはさらに、回転軸524からラックアンドピニオン機構525に伝達される。
【0064】
パワーステアリング装置2000は、補助トルクがステアリング系520に付与される箇所によって、ピニオンアシスト型、ラックアシスト型、およびコラムアシスト型等に分類される。
図10には、ピニオンアシスト型のパワーステアリング装置2000が示される。ただし、パワーステアリング装置2000は、ラックアシスト型、コラムアシスト型等にも適用される。
【0065】
ECU542には、トルク信号だけでなく、例えば車速信号も入力され得る。ECU542のマイクロコントローラは、トルク信号や車速信号などに基づいてモータ543をPWM制御することができる。
【0066】
ECU542は、少なくともトルク信号に基づいて目標電流値を設定する。ECU542は、車速センサによって検出された車速信号を考慮し、さらに角度センサによって検出されたロータの回転信号を考慮して、目標電流値を設定することが好ましい。ECU542は、電流センサ(
図1参照)によって検出された実電流値が目標電流値に一致するように、モータ543の駆動信号、つまり、駆動電流を制御することができる。
【0067】
パワーステアリング装置2000によれば、運転者の操舵トルクにモータ543の補助トルクを加えた複合トルクを利用してラック軸526によって左右の操舵車輪529A、529Bを操作することができる。特に、上記実施形態のモータ駆動ユニット1000が利用されることにより、トルクリップルの少ない円滑なパワーアシストが実現される。
【0068】
なお、ここでは、本発明の駆動制御装置、駆動装置における使用方法の一例としてパワーステアリング装置が挙げられるが、本発明の駆動制御装置、駆動装置の使用方法は上記に限定されず、ポンプ、コンプレッサなど広範囲に使用可能である。
【0069】
上述した実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0070】
101、102:インバータ 200:モータ 301、302:制御回路 311,312:電源回路 321、322:角度センサ 331、332:入力回路 341、342:マイクロコントローラ 351、352:駆動回路 361、362:ROM 401、402:電流センサ 403、404:電源 450:外部クロック 1000:モータ駆動ユニット 1001、1002:実装基板 2000:パワーステアリング装置