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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】液体流入装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 61/16 20060101AFI20231212BHJP
   F02M 51/06 20060101ALI20231212BHJP
   B08B 3/10 20060101ALI20231212BHJP
   B08B 9/035 20060101ALI20231212BHJP
   B08B 13/00 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
F02M61/16 P
F02M51/06 U
F02M51/06 R
F02M61/16 M
B08B3/10 Z
B08B9/035
B08B13/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021015738
(22)【出願日】2021-02-03
(65)【公開番号】P2022118911
(43)【公開日】2022-08-16
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 謙
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-103871(JP,A)
【文献】特開2012-157814(JP,A)
【文献】特開2003-199825(JP,A)
【文献】特開平02-298662(JP,A)
【文献】米国特許第5295497(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 61/16
F02M 51/06
B08B 3/10
B08B 9/035
B08B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造物(90,95)の微細孔(92)に所定の液体(99)を流入させる液体流入装置であって、
前記液体を貯留する液体貯留部(21)と、
前記微細孔の一端開口部(93)が前記液体に浸るように前記製造物を保持する保持部(31,35)と、
前記微細孔の他端開口部(94)に連通する負圧室(42)を形成し、前記負圧室内を負圧にすることで前記液体を前記微細孔に吸い込ませる負圧形成部(41)と、
を備える、液体流入装置。
【請求項2】
前記負圧形成部は、前記製造物との間がシールされるシリンジ(43)と、前記シリンジと共に前記負圧室を区画形成し、前記負圧室の容積が大きくなるように移動して前記負圧室内を負圧にするピストン(44)とを有する、請求項1に記載の液体流入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体流入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、超音波を用いて液体を搬送する超音波ポンプが開示されている。この超音波ポンプは、微細孔を有するノズルと、ノズル内に液体が流入したとき微細孔に向かって超音波を発射する超音波振動子とを備える。超音波は、液体内を微細孔に向けて伝播し、微細孔を通過して導液管に達する。ノズル内の液体は、微細孔を通過する超音波に乗って導液管内に供給され、所定の箇所に搬送される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-101700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば0.1mm程度以下の微細孔を有する製造物の製造過程において、その微細孔に所定の液体を流入させることが必要になる場合がある。例えば、微細孔に液体を充填して次工程で製造物に所定の処理を行う場合、または微細孔に液体を通して洗浄する場合などである。しかし、製造物を単に液体に浸したとしても、微細孔が小さすぎるため、微細孔の内部には液体が流入しない。そこで特許文献1に開示されたように超音波を用いて微細孔に液体を流入させることが考えられるが、超音波振動子および発振器などが必要になるため、改善が望まれていた。
【0005】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、製造物の微細孔に所定の液体を流入させることができる液体流入装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、製造物(90,95)の微細孔(92)に所定の液体(99)を流入させる液体流入装置であって、液体を貯留する液体貯留部(21)と、微細孔の一端開口部(93)が液体に浸るように製造物を保持する保持部(31,35)と、微細孔の他端開口部(94)に連通する負圧室(42)を形成し、負圧室内を負圧にすることで液体を微細孔に吸い込ませる負圧形成部(41)と、を備える。このように微細孔の一端開口部と他端開口部との圧力差による液体吸引作用を利用して、微細孔に液体を流入させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態による液体流入装置の概略構成を示す断面図であって、吸液部が退避位置にある状態を示す図。
図2図1のII部拡大図。
図3】吸液部がノズルボデーの上空の作業位置にある状態を示す図。
図4図3の状態からワークシール用シリンダが下降した状態を示す図。
図5図4の状態からピストン上下動作用シリンダが上昇した状態を示す図。
図6図5のVI部拡大図。
図7】第2実施形態による液体流入装置の概略構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、複数の実施形態を図面に基づき説明する。実施形態同士で実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0009】
[第1実施形態]
図1に示すように、第1実施形態の液体流入装置10は、図示しないアルカリ改質機に適用されている。アルカリ改質機は、製造物としてのインジェクタ用のノズルボデー90の内外表面をアルカリ溶液99に浸漬し、アルカリ改質(すなわち酸化膜除去)を行う設備である。アルカリ改質が行われたノズルボデー90には、ALD(Atomic Layer Deposition)成膜が施される。これにより実車環境におけるノズルボデー90の表面の腐食を防止でき、インジェクタの長寿命化が実現する。
【0010】
図1図2に示すように、ノズルボデー90は有底筒状に形成されている。ノズルボデー90の先端部91側には、0.01~0.1mm程度の微細孔92が複数開いている。微細孔92はインジェクタの噴孔として機能する。
【0011】
微細孔92の内表面にアルカリ改質を行うためには、微細孔92の内部に所定の液体としてのアルカリ溶液99を流入させる必要がある。しかし、ノズルボデー90を単にアルカリ溶液99に浸したとしても、微細孔92が小さすぎるため、微細孔92の内部にアルカリ溶液99が流入しない。そこでアルカリ改質工程の前工程として、液体流入装置10を用いて微細孔92にアルカリ溶液99を流入させる液体流入工程が行われる。
【0012】
液体流入装置10は、アルカリ溶液99を貯留する液体貯留部21と、ノズルボデー90を保持する保持部31とを備える。
【0013】
保持部31は、微細孔92の一端開口部93が液体貯留部21のアルカリ溶液99に浸るようにノズルボデー90を保持する。第1実施形態では、ノズルボデー90は先端部91側が下向きになるように保持部31の通孔32に挿入され、ノズルボデー90の外側の段差部が通孔32の開口縁部に支持されるようになっている。ノズルボデー90は、図示しない搬送部により保持部31に搬送される。
【0014】
図1図6に示すように、さらに液体流入装置10は、負圧形成部41と、ピストン上下動作用シリンダ51と、ワークシール用シリンダ52と、吸液部スライド用シリンダ53とを備える。
【0015】
負圧形成部41は、微細孔92の他端開口部94に連通する負圧室42を形成し、負圧室42内を負圧にすることでアルカリ溶液99を微細孔92に吸い込ませる。具体的には、負圧形成部41は、吸液用シリンジ43および吸液用ピストン44を有する。吸液用シリンジ43は、ノズルボデー90の上端面(すなわち開放側端面)に接触するように配置され、ノズルボデー90との間がシールされる。吸液用シリンジ43には、ノズルボデー90との間をシールする図示しないOリングが設けられている。吸液用ピストン44は、吸液用シリンジ43内に挿入されており、吸液用シリンジ43と共に負圧室42を区画形成する。吸液用ピストン44は、負圧室42の容積が大きくなるように移動して負圧室42内を負圧にする。
【0016】
ピストン上下動作用シリンダ51は、吸液用ピストン44を上下方向、すなわち負圧室42の容積が変化する方向へ移動させる。ワークシール用シリンダ52は、吸液用シリンジ43をノズルボデー90に接近および離間する方向へ移動させ、吸液用シリンジ43がノズルボデー90に接触したとき両者間をシールさせる。以下、負圧形成部41、ピストン上下動作用シリンダ51およびワークシール用シリンダ52を含むユニットのことを適宜「吸液部」と記載する。吸液部スライド用シリンダ53は、吸液部をノズルボデー90の上空の作業位置と、作業位置から離れた退避位置との間で移動させる。
【0017】
次に、液体流入装置10の動作(すなわち液体流入装置10を用いた微細孔92への液体流入方法)を説明する。先ず、図1図2に示すようにノズルボデー90が保持部31に配置される。続いて、図3に示すように吸液用シリンジ43がノズルボデー90の上空に来るように吸液部スライド用シリンダ53が動作して、吸液部全体が移動する。続いて、図4に示すようにワークシール用シリンダ52が下降し、吸液用シリンジ43がノズルボデー90と接触して、吸液用シリンジ43とノズルボデー90との間がシールされる。これにより吸液用シリンジ43と吸液用ピストン44に囲まれた空間によって負圧室42が区画形成される。
【0018】
続いて、図5図6に示すようにピストン上下動作用シリンダ51が上昇することにより、シールされた空間である負圧室42の容積が大きくなり、注射器と同様の仕組みで負圧室42が負圧となる。これにより微細孔92の一端開口部93と他端開口部94との間で圧力差が生まれ、高圧側の一端開口部93にあるアルカリ溶液99が低圧側の他端開口部94に向けて流れることで、アルカリ溶液99を微細孔92内に通すことができる。続いて負圧室42の負圧が開放され、ワークシール用シリンダ52が上昇し、吸液部スライド用シリンダ53が動作して吸液用シリンジ43が退避する。負圧室42の負圧が開放されても、表面張力の作用により微細孔92内にはアルカリ溶液99が保持されたままとなる。その後、ノズルボデー90がアルカリ改質工程を行う場所に搬送される。
【0019】
(効果)
以上説明したように、第1実施形態では、液体流入装置10は、アルカリ溶液99を貯留する液体貯留部21と、微細孔92の一端開口部93がアルカリ溶液99に浸るようにノズルボデー90を保持する保持部31と、微細孔92の他端開口部94に連通する負圧室42を形成し、負圧室42内を負圧にすることでアルカリ溶液99を微細孔92に吸い込ませる負圧形成部41と、を備える。このように微細孔92の一端開口部93と他端開口部94との圧力差による液体吸引作用を利用して微細孔92にアルカリ溶液99を流入させることができる。これにより、これまで不可能であったディーゼルインジェクタノズルの微細孔92内部のアルカリ改質が可能となった。さらに、製品の傾向として、燃費向上を目指し、ディーゼルエンジンの燃圧高圧化とともに微細孔92の小径化も進むと考えられるが、液体吸引作用を利用する液体流入装置10によれば、微細孔92の更なる小径化にも対応可能である。
【0020】
また第1実施形態では、負圧形成部41は、ノズルボデー90との間がシールされる吸液用シリンジ43と、吸液用シリンジ43と共に負圧室42を区画形成し、負圧室42の容積が大きくなるように移動して負圧室42内を負圧にする吸液用ピストン44とを有する。このように吸液用シリンジ43および吸液用ピストン44を用いて微細孔92にアルカリ溶液99を吸引させることができ、液体流入装置10を簡易な構成とするとともに低コストに製作することができる。
【0021】
[第2実施形態]
第2実施形態では、図7に示すように液体流入装置15は、板状部材95の微細孔92に所定の液体99を流入させる。液体流入装置15は、保持部35の形状が異なるのみであり、その他の構成は第1実施形態の液体流入装置10と同様である。このように液体流入装置15は、ディーゼルインジェクタのノズルボデーに限らず、微細孔92内部への液体流入を必要とする製造物全般に使用可能である。
【0022】
[他の実施形態]
他の実施形態では、液体流入装置は、アルカリ改質機に限らず、他の処理を行う他の設備に適用されてもよい。微細孔に流入させる液体は、アルカリ溶液に限らず、他の液体であってもよい。
【0023】
他の実施形態では、製造物は、筒状または板状に限らず、他の形状であってもよい。要するに微細孔を有するものであって、負圧形成部が微細孔の他端開口部に連通する負圧室を形成可能であればよい。
【0024】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0025】
10 液体流入装置、21 液体貯留部、31,35 保持部、41 負圧形成部、
42 負圧室、90 ノズルボデー(製造物)、92 微細孔、93 一端開口部、
94 他端開口部、95 板状部材(製造物)、99 アルカリ溶液(液体)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7