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特許7400766亜鉛系電気めっき鋼板およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】亜鉛系電気めっき鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 15/02 20060101AFI20231212BHJP
   C25D 5/26 20060101ALI20231212BHJP
   C25D 3/22 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
C25D15/02 G
C25D15/02 F
C25D5/26 F
C25D3/22 101
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021071870
(22)【出願日】2021-04-21
(65)【公開番号】P2022166581
(43)【公開日】2022-11-02
【審査請求日】2022-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】土本 和明
(72)【発明者】
【氏名】松田 武士
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-263252(JP,A)
【文献】特開2011-236471(JP,A)
【文献】特開昭54-146228(JP,A)
【文献】特開2013-108183(JP,A)
【文献】特開2010-095746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 15/02
C25D 5/26
C25D 3/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の少なくとも片面に亜鉛系めっき皮膜を備え、
前記亜鉛系めっき皮膜は、亜鉛を主体とし、Vを0.5~10.0質量%、SiOを0.1~15.0質量%含有することを特徴とする亜鉛系電気めっき鋼板。
【請求項2】
亜鉛イオンを含有するめっき浴中で、鋼板を陰極として電解し、前記鋼板の少なくとも片面に亜鉛系電気めっき皮膜を形成する亜鉛系電気めっき鋼板の製造方法であって、前記めっき浴は、VO2+ を0.10mol/L以上0.50mol/L以下、SiOを0.05mol/L以上含有し、pHが1.0以上であって、陰極電解処理の電流密度が20A/dm以上であることを特徴とする亜鉛系電気めっき鋼板の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の亜鉛系電気めっき鋼板の製造方法であって、
前記めっき浴は、Znイオンを0.10mol/L以上含有し、pHが2.5以下であることを特徴とする亜鉛系電気めっき鋼板の製造方法。
【請求項4】
請求項2または3に記載の亜鉛系電気めっき鋼板の製造方法であって、
前記めっき浴の相対流速が2m/s以上であって、陰極電解処理の電流密度が150A/dm以下であることを特徴とする亜鉛系電気めっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い耐食性を有する亜鉛系電気めっき鋼板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
亜鉛系電気めっき鋼板は、高い耐食性、皮膜の均一性および外観に優れていることから、家電製品、自動車、建材などの広範な用途で使用されている。しかし、亜鉛は枯渇性資源の一つであり、今後の価格高騰も予想されることから、亜鉛めっき付着量の低減や亜鉛めっきに替わる表面処理皮膜の開発が要求されている。
【0003】
ここで、亜鉛系めっき鋼板とは、亜鉛を主体として、亜鉛以外の金属成分や酸化物等の非金属成分を含有するめっき鋼板の総称である。
【0004】
亜鉛めっき付着量低減の手法の一つとして、めっき層の耐食性を向上させる技術が挙げられる。めっき層の耐食性が向上すれば、めっき層を薄くすることができ、亜鉛付着量の低減につながる。
【0005】
亜鉛めっきの耐食性を向上させる試みは古くからなされており、Ni、 Co, Fe等亜鉛よりも電気化学的に貴な金属との合金化が検討されてきた。しかしそれらの合金めっきは初期段階では高い耐食性を示すものが多いが、一旦腐食が始まると、亜鉛及び素材鋼板の腐食が促進され、早期に穴あき腐食が発生するという問題があった。それらの問題を解決するため、SiO、 TiO、 Al等の酸化物や、AlやVなど卑な活性金属を含む電気めっきの検討がなされてきた。
【0006】
特許文献1には、亜鉛めっき層中に2~15質量%のSiOを含む分散めっきで、耐食性が向上することが記載されている。
【0007】
特許文献2には、Zn-Si-P複合めっき鋼板が亜鉛めっき鋼板に比べて耐摩損性、耐応力腐食割れ性およびクロメート処理後の耐食性が向上することが記載されている。
【0008】
特許文献3には、Znイオンと、Al、 Sc、 Y、 La、 Ce、 Nd、 Zr及びVの1種以上の金属イオンと硝酸イオンを含有し、鋼板との相対流速0.6m/s以上で電解を行うことにより、優れた耐食性、外観均一性をもつ亜鉛系複合電気亜鉛めっき鋼板を製造できることが記載されている。
【0009】
特許文献4には、亜鉛めっき浴中に硝酸イオンを含有することで、効率よくSiO粒子をめっき層中に共析できることが記載されている。
【0010】
特許文献5には、SiO、TiO、ZrOなどの酸化物粒子にNi2+, Co2+, Fe2+を一定量以上吸着させて正に帯電化させ、亜鉛めっき浴中に安定に分散させて複合めっき浴を作成することで、効率よく共析できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開昭54-146228号公報
【文献】特開昭61-87890号公報
【文献】特開2011-111633号公報
【文献】特開昭62-199899号公報
【文献】特開昭58-141898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1、2、3に開示されているように、亜鉛に酸化物を分散共析することによって耐食性が向上する場合がある。しかし、特許文献1、2、3の技術では、酸化物をめっき層中に均一に分散共析させることは容易ではない。そこで、効率良く酸化物を分散させる手法が検討されてきた。
【0013】
特許文献4の技術では、硝酸イオンを添加することでSiOの共析量は増加するが、硝酸イオン濃度変化に伴うSiOの共析量変化が大きく、めっき浴中の硝酸イオン濃度を一定に保つことが困難であるため、SiOの共析量の安定した制御が難しい。
【0014】
特許文献5の技術でも、亜鉛と亜鉛よりも電気化学的に貴なNi, Co, Feとの合金めっきがベースとなるため、めっき進行に伴うNi2+, Co2+, Fe2+濃度変化によるSiO、TiO、ZrOなどの酸化物共析量の変化が大きく、共析量の制御が困難である。
【0015】
本発明の目的は、亜鉛めっき鋼板に共析させて耐食性を向上させる酸化物としてSiOに着目し、亜鉛めっき層中に安定して一定のSiO共析量を有する亜鉛系電気めっき鋼板およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、前記課題を解決すべく、亜鉛めっき層中に一定のSiO共析量を有する亜鉛系めっきを安定して得られる方法について鋭意研究を重ねた。特許文献4には、亜鉛めっき層中に浴中のSiOを分散析出させる方法として、硝酸イオンを添加する方法が開示されている。これは、硝酸イオンを添加することにより、硝酸イオンの酸化作用で鋼板界面のpHが上昇し、水酸化亜鉛の生成が促進され、水酸化亜鉛とSiOが共析し、亜鉛めっき層中にSiOが多く含まれるものと考えられている。
【0017】
しかし、硝酸イオンでは、pHを上昇させる作用が大きいため、鋼板界面のpHが急激に上昇し、皮膜中のSiO含有量の制御が困難であった。また、硝酸イオンを用いた場合、界面のpHが急激に上昇するため、亜鉛が局所的に水酸化物や酸化物の形で残存しやすく、めっき密着性が低下する課題があった。
【0018】
ところで、Vの分散めっきにおいては、Zn2+より低いpHで加水分解するVO2+をめっき液に添加し、陰極電解処理をすることで、亜鉛めっき皮膜中にVが酸化物の形で共析することが知られている。VO2+をめっき液に添加し陰極電解処理した場合、鋼板界面のpHが上昇すると考えられるが、VO2+の酸化作用は硝酸イオンよりも弱いため、鋼板界面のpH上昇は硝酸イオン添加の場合に比べて少なく、鋼板界面のpH上昇を制御しやすいのではないかと考えた。その技術思想に基づき、SiOを分散させ、Vイオンを含有するめっき浴を用いて陰極電解処理を行った結果、亜鉛めっき層中に安定して一定のSiO共析量を得ることが可能であることを見出し、高い耐食性を持つ亜鉛系めっきが得られることが明らかになった。
【0019】
更に、VO2+をめっき液に添加し陰極電解処理した場合、めっき皮膜中にV酸化物が析出し、SiOのみを含有する場合よりも耐食性が向上することを見出した。
【0020】
なお、Vイオンとしては、めっき浴中でVO2+となることが必要であり、使用するめっき浴のめっき条件(pH、温度、他のイオンの存在量等)下でVO2+となるV化合物をめっき浴に添加することが可能である。
【0021】
本発明はこのような知見に基づきなされたもので、その要旨は以下の通りである。
[1]鋼板の少なくとも片面に亜鉛系めっき皮膜を備え、
前記亜鉛系めっき皮膜は、亜鉛を主体とし、Vを0.5~10.0質量%、SiOを0.1~15.0質量%含有することを特徴とする亜鉛系電気めっき鋼板
[2]亜鉛イオンを含有するめっき浴中で、鋼板を陰極として電解し、前記鋼板の少なくとも片面面に亜鉛系電気めっき皮膜を形成する亜鉛系電気めっき鋼板の製造方法であって、
前記めっき浴は、VO2+を0.10mol/L以上、SiOを0.05mol/L以上含有し、pHが1.0以上であって、陰極電解処理の電流密度が20A/dm以上であることを特徴とする、亜鉛系電気めっき鋼板の製造方法。
[3][2]に記載の亜鉛系電気めっき鋼板の製造方法であって、
前記めっき浴は、Znイオンを0.10mol/L以上含有し、pHが2.5以下であることを特徴とする、亜鉛系電気めっき鋼板の製造方法。
[4][2]または[3]に記載の亜鉛系電気めっき鋼板の製造方法であって、
前記めっき浴の相対流速が2m/s以上であって、陰極電解処理の電流密度が150A/dm以下であることを特徴とする、亜鉛系電気めっき鋼板の製造方法。
ここで、亜鉛系めっき皮膜が亜鉛を主体とするとは、めっき皮膜が亜鉛を50質量%以上含有し、残部が亜鉛以外の元素からなることを意味する。亜鉛系めっき皮膜は、亜鉛を主体とし、Vを0.5~10.0質量%、SiOを0.1~15.0質量%含有するが、めっき皮膜が亜鉛を50質量%以上含有し、上記範囲のVとSiOを含有し、残部が本発明の作用効果を阻害しない成分と不可避的不純物からなることを意味する。亜鉛系めっき皮膜が亜鉛と上記範囲のVとSiOを含有し、残部不可避的不純物からなる場合も当然本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、電気亜鉛めっき層中に安定して一定のSiO含有量とV酸化物を含有する亜鉛系めっき鋼板の製造が可能となり、耐食性の良好な亜鉛系電気めっき鋼板を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
めっき浴中にZnイオンが存在する状態で、鋼板を陰極電解し、その後水洗を行う。なお、必要に応じて、その後、乾燥を行ってもよい。なお、水洗、乾燥の方法は特に限定されず、一般的な方法を採用可能である。
【0024】
亜鉛めっきが施される鋼板の種類は特に限定されるものではなく、低炭素鋼、極低炭素鋼、IF鋼、各種合金元素を添加した高張力鋼板等の種々の鋼板を用いることができる。また、前記鋼板は、熱延鋼板、冷延鋼板のいずれも用いることができる。鋼板の厚さは特に限定されないが、家電、自動車車体、建材等の用途に用いる観点から、0.4~5.0mmが好ましい。
【0025】
亜鉛系めっき皮膜のV含有率は0.5質量%以上10.0質量%以下とする必要がある。Vが0.5質量%未満では皮膜中のSiO含有量が0.1質量%以上でも良好な耐食性が得られない。また、Vが10.0質量%より多いと結晶の凹凸が大きくなり、鋼板との密着性が低下し、加工後の耐食性が低下する。
【0026】
亜鉛系めっき皮膜のSiO含有率は0.1質量%以上15.0質量%以下とする必要がある。SiOが0.1質量%未満では良好な耐食性が得られない。また、SiO含有率15.0質量%を超えるめっきを安定して製造することは困難である。
【0027】
めっき付着量は5~40g/mが好ましい。めっき付着量が5g/m以上であるとより高い耐食性が発揮される。40g/mを超えるとコストが増加してしまう。
【0028】
亜鉛系めっき皮膜へは、性能向上を目的に、Fe、Mn、Co、Crなどの合金元素を合計20質量%以下含有してもよく、合計15質量%以下であることがより好ましい。
【0029】
めっき浴中のZnイオンは0.10mol/L以上が好ましい。0.10mol/L未満では、亜鉛の供給が不足し、均一なめっき皮膜が形成できないため、めっき密着性が低下する場合がある。また、Znイオンは1.00mol/L以下が好ましい。1.00mol/Lを超えると、コストが増加する。
【0030】
亜鉛めっき浴としては、鋼板界面のpH上昇が起こり得る酸性のめっき浴であれば特に限定は無く、硫酸浴、塩化物浴等が適用可能である。工業生産には、薬液コストがより安価で、製造設備の制約が少なく、高電流密度でのめっきが可能な硫酸浴が好ましい。
【0031】
めっき浴中のVO2+は、0.10mol/L以上とする必要がある。0.10mol/L未満では、めっき皮膜中のV濃度が低く、かつSiOを共析させる効果が得られない。また、VO2+は0.50mol/L以下が好ましい。0.50mol/Lを超えると、皮膜中のVの割合が増加してしまい、めっき密着性が低下する。
【0032】
めっき浴中のVO2+添加は、使用するめっき浴中でVO2+となるV化合物の添加で行うことが可能である。そのような化合物としては、酸化硫酸バナジウム、二塩化酸化バナジウム等を例示できる。
【0033】
めっき浴に含有させるSiOは、0.05mol/L以上とする必要がある。0.05mol/L未満では、皮膜中のSiO量が少なく、耐食性を向上させる効果が得られない。また、SiOは0.50mol/L未満が好ましい。0.50mol/Lを超えても、皮膜中のSiO量は増加せず、コストが増加する。めっき浴に添加するSiOとしては、コロイダルシリカ、SiOナノ粒子分散液等が使用できる。中でもコロイダルシリカが浴の安定性、コストの理由で好適である。
【0034】
めっき浴のpHは1.0以上とする必要がある。p1.0未満では、電解でのpH上昇が不十分となり、皮膜中にVおよびSiOが共析されない。また、pHは2.5以下が好ましい。pHが2.5を超えると、局所的にpHが上がりすぎ、めっきの密着性が低下する場合がある。
【0035】
めっき浴の浴温は特に限定されないが、30~60℃が好ましい。30℃未満では浴電導度が低く電気代ロスが大きく、60℃を超えると液の蒸発が課題となる。
【0036】
めっき浴へは、浴電導度向上を目的に、硫酸ナトリウムなど電導度補助剤を添加したり、Fe、Mn、Co、Crなどの他の金属イオンを含有させてもよい。
【0037】
鋼板とめっき浴の相対流速は2m/s以上が好ましい。流速が2m/s未満の場合には、陰極電解により局所的に界面pHが上昇する場合があり、より安定して外観良好なめっきを得るためには2m/s以上が好ましい。上限は限定されないが、6m/sを超えても品質への効果は見られないので、製造コストの観点からは6m/s以下が好ましい。
【0038】
陰極電解の電流密度は、20A/dm以上とする。20A/dm未満では、界面pHの上昇が不十分となり、皮膜中にVおよびSiOが共析されない。上限は150A/dm以下が好ましい。150A/dmを超えると局所的にpHが上がる場合があり、より安定して外観良好なめっきを得るためには150A/dm以下が好ましい。
【0039】
電気めっき処理後、必要により、耐食性、耐疵付き性、加工性等の各種性能の更なる向上を目的として、クロメート又はクロメートフリー型の各種化成処理皮膜(塗布型、反応型、電解型)、更にはその上に樹脂被覆処理等を実施することができる。なお、これらの処理を施した鋼板についても、本発明の効果は得られる。
【実施例
【0040】
本発明を実施例により説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0041】
素材鋼板として、板厚0.7mmの冷延鋼板を使用し、これをアルカリで電解脱脂、水洗および酸洗処理(硫酸濃度:70g/L、液温:25~40℃、5秒浸漬)を施した。次いで、表1に示す条件により亜鉛系電気めっき鋼板を製造した。
【0042】
亜鉛めっき浴は硫酸亜鉛浴を用いた。
【0043】
VO2+は酸化硫酸バナジウムとして添加した。また、SiOはコロイダルシリカ(日産化学製スノーテックスO)として添加した。
【0044】
めっき付着量、めっき皮膜中のSiO、Vはめっきを酸で剥離し、ICPを用いて定量分析した。
【0045】
以上のようにして得られた試験片について、以下の評価を行った。得られた結果を、表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
(1)平板部耐食性
めっき鋼板から50mm×150mmの試験片を切り出し、せん断端面をシール後、JISZ2371の塩水噴霧試験を実施し、5%赤錆発生時間により平板部の耐食性を評価した。
◎および〇の場合を耐食性良好と判定した。
【0048】
◎:赤錆発生時間>48時間
○:48時間≧赤錆発生時間>24時間
×:赤錆発生時間≦24時間
(2)加工部耐食性
めっき鋼板から50mm×150mmの試験片を切り出し、エリクセン7mm押し出し加工を行い、せん断端面をシール後、JISZ2371の塩水噴霧試験を実施し、5%赤錆発生時間により加工部の耐食性を評価した。
◎および〇の場合を耐食性良好と判定した。
【0049】
◎:赤錆発生時間>48時間
○:48時間≧赤錆発生時間>24時間
×:赤錆発生時間≦24時間
(3)めっき密着性
30mm×100mmに切り出した試験片の評価面を外側に向け、先端が2.0Rで90°の金型を用いて曲げ加工を加えた後にセロハンテープ(登録商標)を評価面全面に貼り付けて引き離した後、テープに付着しためっき付着量を測定し、密着性を評価した。
◎および〇の場合を耐食性良好と判定した。
【0050】
◎:めっき残存率≧初期の90%
○:初期の90%>めっき残存率≧初期の80%
×:めっき残存率<初期の80%
表1において、No.1はVO2+を添加し、SiOを添加しない場合の比較例である。めっき皮膜中にVは本発明技術範囲で含有しているがSiOは含有しておらず、平板部耐食性と加工部耐食性が劣っている。No.2はSiOを必要量添加し、VO2+を添加しない場合の比較例である。めっき皮膜中にVもSiOも含有しておらず、平板部耐食性と加工部耐食性が劣っている。
【0051】
No.3はSiOを必要量添加し、VO2+添加量が0.05mol/Lと必要量よりも少ない場合である。めっき皮膜中にSiOを含有しておらず、V含有量が本発明技術範囲外で少ないため、平板部耐食性と加工部耐食性は劣っている。
【0052】
No.4はVO2+添加量が1.00mol/Lと、本発明技術範囲より多すぎる場合であるが、平板部耐食性は良好となるものの、加工部耐食性とめっき密着性は不良である。
【0053】
No.5はめっき浴pHが0.8と低い場合であるが、めっき皮膜中にVもSiOも含有しておらず、平板部耐食性と加工部耐食性が劣っている。
【0054】
No.6は電流密度が低い場合であるが、めっき皮膜中にSiOを含有しておらず、平板部耐食性と加工部耐食性が劣っている。
【0055】
No.7~10は本件発明例であり、平板部耐食性と加工部耐食性とめっき密着性のいずれもが〇であるが、めっき浴pH、Zn濃度、相対流速、電流密度のいずれかが好適範囲を外れており、めっき浴pH、Zn濃度、相対流速、電流密度がすべて好適範囲内でありめっき密着性がすべて◎で、平板部耐食性と加工部耐食性の多くも◎であるNo.11~22に比較して、性能は劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の亜鉛系電気めっき鋼板は、亜鉛めっき層中に安定して必要量のSiOを含有し、更にはV酸化物を含有することにより、高い耐食性と密着性を有し、家電製品、自動車、建材などの広範な用途で好適に使用することが可能である。