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特許7400790推定装置、推定方法および推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】推定装置、推定方法および推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01B 21/08 20060101AFI20231212BHJP
   G01K 13/024 20210101ALI20231212BHJP
【FI】
G01B21/08
G01K13/024
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021164834
(22)【出願日】2021-10-06
(65)【公開番号】P2023055443
(43)【公開日】2023-04-18
【審査請求日】2022-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 俊平
(72)【発明者】
【氏名】田中 仁章
(72)【発明者】
【氏名】波津久 達也
(72)【発明者】
【氏名】盛田 元彰
(72)【発明者】
【氏名】井原 智則
【審査官】飯村 悠斗
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-518905(JP,A)
【文献】特開昭61-026809(JP,A)
【文献】特開平07-218459(JP,A)
【文献】特開2012-197963(JP,A)
【文献】特開2021-162434(JP,A)
【文献】特開2004-101187(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
21/00-21/32
G01K 13/02
G01N 25/00-25/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流れる配管の内表面に析出物が付着した析出物発生位置における前記配管の外表面温度である第1の配管表面温度、および、前記析出物発生位置とは異なる基準位置における前記配管の外表面温度である第2の配管表面温度を取得する取得部と、
前記第2の配管表面温度に基づいて、前記析出物発生位置における前記流体の温度である管内流体温度を計算する計算部と、
前記管内流体温度および前記第1の配管表面温度に基づいて、前記析出物の厚さに関する情報を推定する推定部と、
を備え
前記取得部は、
前記第2の配管表面温度として、前記内表面に前記析出物が付着している前記基準位置における前記配管の外表面温度を取得し、
前記推定部は、
前記析出物の厚さに関する情報として、前記基準位置における前記析出物の厚さと前記析出物発生位置における前記析出物の厚さとの差分を推定する、
推定装置。
【請求項2】
前記取得部は、
前記第2の配管表面温度として、前記内表面に前記析出物が付着していない前記基準位置における前記配管の外表面温度を取得し、
前記推定部は、前記析出物の厚さに関する情報として、前記析出物発生位置における前記析出物の厚さを推定する、
請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記取得部は、
前記配管を被覆する断熱材の外表面温度である断熱材表面温度をさらに取得し、
前記計算部は、
前記第2の配管表面温度と、前記断熱材表面温度と、前記流体、前記配管および前記断熱材の各熱抵抗とを用いて、前記管内流体温度を計算し、
前記推定部は、
前記管内流体温度および前記第1の配管表面温度に対応付けられた析出物ごとの厚さ分布を用いて、前記析出物発生位置における前記析出物の厚さを推定する、
請求項1に記載の推定装置。
【請求項4】
前記計算部は、
前記析出物が付着していない状態の前記析出物発生位置を流れる前記流体の温度、前記配管内の前記流体の流速、および前記基準位置と前記析出物発生位置との距離を用いて、前記基準位置を流れる前記流体と前記析出物発生位置を流れる前記流体との温度差を計算し、前記温度差を用いて前記管内流体温度を計算する、
請求項2または3に記載の推定装置。
【請求項5】
前記計算部は、
複数の前記基準位置から前記第2の配管表面温度が取得された場合には、最も高い外表面温度を示す前記基準位置から取得された前記第2の配管表面温度に基づき、前記管内流体温度を計算する、
請求項に記載の推定装置。
【請求項6】
前記取得部は、
坑井から生産されるオイルまたはガスを輸送している前記配管において、前記第1の配管表面温度および前記第2の配管表面温度を取得し、
前記計算部は、
前記第2の配管表面温度に基づいて、前記オイルまたは前記ガスの前記管内流体温度を計算し、
前記推定部は、
前記管内流体温度および前記第1の配管表面温度に基づいて、ハイドレート、ワックス、アスファルテン、またはスケールの厚さに関する情報を推定する、
請求項1からのいずれか1項に記載の推定装置。
【請求項7】
コンピュータが、
流体が流れる配管の内表面に析出物が付着した析出物発生位置における前記配管の外表面温度である第1の配管表面温度、および、前記析出物発生位置とは異なる基準位置における前記配管の外表面温度である第2の配管表面温度を取得し、
前記第2の配管表面温度に基づいて、前記析出物発生位置における前記流体の温度である管内流体温度を計算し、
前記管内流体温度および前記第1の配管表面温度に基づいて、前記析出物の厚さに関する情報を推定し、
前記第2の配管表面温度として、前記内表面に前記析出物が付着している前記基準位置における前記配管の外表面温度を取得し、
前記析出物の厚さに関する情報として、前記基準位置における前記析出物の厚さと前記析出物発生位置における前記析出物の厚さとの差分を推定する、
処理を実行する推定方法。
【請求項8】
コンピュータに、
流体が流れる配管の内表面に析出物が付着した析出物発生位置における前記配管の外表面温度である第1の配管表面温度、および、前記析出物発生位置とは異なる基準位置における前記配管の外表面温度である第2の配管表面温度を取得し、
前記第2の配管表面温度に基づいて、前記析出物発生位置における前記流体の温度である管内流体温度を計算し、
前記管内流体温度および前記第1の配管表面温度に基づいて、前記析出物の厚さに関する情報を推定し、
前記第2の配管表面温度として、前記内表面に前記析出物が付着している前記基準位置における前記配管の外表面温度を取得し、
前記析出物の厚さに関する情報として、前記基準位置における前記析出物の厚さと前記析出物発生位置における前記析出物の厚さとの差分を推定する、
処理を実行させる推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推定装置、推定方法および推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オイルやガスのパイプラインでは、温度や圧力といった条件によってハイドレート、ワックス、アスファルテン、スケール等の析出物が発生する。このため、これらの析出物の発生を抑制するインヒビター(inhibitor)と呼ばれる薬剤を投入する手法や、ピグ(pig)と呼ばれる器具をパイプライン内に通す手法により、これらの析出物を除去する等の対処法が行われている。しかし、現状では、これらの析出物の発生厚さ(適宜、「析出物厚さ」)を測定する手段がないために、インヒビターやピグといった対処法を最適に運用することができていない。よって、配管内の析出物厚さを推定する技術が要求されており、そのような技術として特許文献1~3等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-133596号公報
【文献】米国特許出願公開2004/0059505号明細書
【文献】米国特許第8960305号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記技術では、配管内の析出物厚さを精度よく推定することは難しい。なぜならば、上記技術では以下のような課題があるからである。まず、特許文献1は、円周上の管表面に設置した複数の温度センサから析出物の形状を推定する技術であるが、この技術では、配管内外の流体の温度を精度よく推定あるいは測定できていなければ、析出物形状を精度よく推定することはできない。例えば、配管内外の流体温度の推定値が誤っていた場合は、この手法では析出物の形状を実際よりも厚くあるいは薄く推定してしまう。
【0005】
また、この特許文献1では、流体温度を経験あるいはフローシミュレータ等の解析から与えた場合には、その値が実際の値と大きく異なる可能性がある。これらの値を過去の測定結果をもとに推定する場合は、配管内外の温度が時間とともに変化する等の現象によって、推定値と実際の値の差が時間とともに大きくなる。
【0006】
特許文献2は、オイルやガスのパイプラインの配管表面温度をアレイ温度センサで測定することで、析出物を監視技術であるが、この技術では、配管内外の流体の温度を正確に推定あるいは測定できなければ、析出物形状を精度よく推定することができない。
【0007】
特許文献3は、DTS(Distributed Temperature Sensor)によってパイプラインの管軸方向の温度、振動、圧力、歪み分布を測定し、フローアシュランスシミュレータ等のパイプラインのモデルを校正することで、パイプライン全体の状態を監視する技術である。この技術では、管内の流体温度を精度よく推定できないために、精度よく析出物厚さを推定することはできない。以上より、配管内の析出物厚さを精度よく推定する推定装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、流体が流れる配管の内表面に析出物が付着した析出物発生位置における前記配管の外表面温度である第1の配管表面温度、および、前記析出物発生位置とは異なる基準位置における前記配管の外表面温度である第2の配管表面温度を取得する取得部と、前記第2の配管表面温度に基づいて、前記析出物発生位置における前記流体の温度である管内流体温度を計算する計算部と、前記管内流体温度および前記第1の配管表面温度に基づいて、前記析出物の厚さに関する情報を推定する推定部と、を備える推定装置を提供する。
【0009】
また、本発明は、コンピュータが、流体が流れる配管の内表面に析出物が付着した析出物発生位置における前記配管の外表面温度である第1の配管表面温度、および、前記析出物発生位置とは異なる基準位置における前記配管の外表面温度である第2の配管表面温度を取得し、前記第2の配管表面温度に基づいて、前記析出物発生位置における前記流体の温度である管内流体温度を計算し、前記管内流体温度および前記第1の配管表面温度に基づいて、前記析出物の厚さに関する情報を推定する、処理を実行する推定方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、コンピュータに、流体が流れる配管の内表面に析出物が付着した析出物発生位置における前記配管の外表面温度である第1の配管表面温度、および、前記析出物発生位置とは異なる基準位置における前記配管の外表面温度である第2の配管表面温度を取得し、前記第2の配管表面温度に基づいて、前記析出物発生位置における前記流体の温度である管内流体温度を計算し、前記管内流体温度および前記第1の配管表面温度に基づいて、前記析出物の厚さに関する情報を推定する、処理を実行させる推定プログラムを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、配管内の析出物厚さを精度よく推定することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係る推定システムの構成例を示す図である。
図2】実施形態に係る推定システムの構成例を示すブロック図である。
図3】実施形態に係る処理全体の流れの一例を示すフローチャートである。
図4】実施形態に係る温度取得処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図5】実施形態に係る流体温度計算処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図6】実施形態に係る析出物厚さ推定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図7】実施形態に係る配管と温度センサの具体例1を示す図である。
図8】実施形態に係る配管と温度センサの具体例2を示す図である。
図9】実施形態に係る配管と温度センサの具体例3を示す図である。
図10】実施形態に係る配管と温度センサの具体例4を示す図である。
図11】ハードウェア構成例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の一実施形態に係る推定装置、推定方法および推定プログラムを、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態により限定されるものではない。
【0014】
〔実施形態〕
以下に、本実施形態に係る推定システム100の構成、推定装置10等の構成、各処理の流れ、配管と温度センサの具体例を順に説明し、最後に本実施形態の効果を説明する。
【0015】
[推定システム100の構成]
図1を用いて、本実施形態に係る推定システム(以下、適宜、本システムともいう)100の構成を詳細に説明する。図1は、実施形態に係る推定システムの構成例を示す図である。以下に、本システム100全体の構成例を示した上で、本システム100の処理について説明する。なお、本実施形態では、オイルやガスのパイプラインを一例にして説明するが、対象を限定するものではなく、冷却水を発電所に導く配管や温泉水を所定の場所に導く配管等、様々な流体が流れる配管に適用することができる。
【0016】
(システム全体の構成例)
本システム100は、推定装置10、温度センサ40(40A、40B、40C)、および析出物厚さデータベース(DB)70を有する。ここで、推定装置10と、温度センサ40と、析出物厚さDB70とは、図示しない所定の通信網を介して、有線または無線により通信可能に接続される。また、図1に示した推定システム100には、複数台の推定装置10、複数の析出物厚さDB70が含まれてもよい。
【0017】
ここで、温度センサ40は、オイルやガスのパイプラインの配管20の外表面、配管20を被覆する断熱材30の外表面に設置される。また、オイルやガス等の流体50は、配管20内を流れる。また、ハイドレート、ワックス、アスファルテン、スケール等の析出物60は、配管20の内表面に発生する。
【0018】
(システム全体の処理)
上記のようなシステムにおいて、配管内の析出物厚さを推定する例を説明する。まず、推定装置10は、配管20の内表面において析出物60が付着していない位置(適宜、「基準位置」)に対応する外表面の温度である配管表面温度を、温度センサ40Aから取得する(ステップS1)。また、推定装置10は、断熱材30の外表面の温度である断熱材表面温度を、温度センサ40Cから取得する(ステップS2)。さらに、推定装置10は、配管20の内表面において析出物60が付着している位置(適宜、「析出物発生位置」)に対応する外表面の温度である配管表面温度を、温度センサ40Bから取得する(ステップS3)。
【0019】
ここで、温度センサ40(40A、40B、40C)は、例えば、熱電対、測温抵抗体、DTS、サーモカメラ等である。温度センサ40Aは、基準位置の配管表面温度を測定する。温度センサ40Bは、析出物発生位置の配管表面温度を測定する。温度センサ40Cは、断熱材30の表面温度を測定する。図1では、温度センサ40A、40B、40Cは、それぞれ1つずつ設置されているが、配管または断熱材全体に複数台を設置することができる。
【0020】
次に、推定装置10は、温度センサ40から取得した測定値を用いて、析出物発生位置を流れる流体50の温度(適宜、「管内流体温度」)を計算する(ステップS4)。なお、管内流体温度の計算処理の詳細な説明については、(流体温度計算処理の流れ)にて後述する。
【0021】
そして、推定装置10は、計算した管内流体温度をもとに析出物厚さDB70に記憶された析出物厚さに関する情報を検索し(ステップS5)、析出物厚さを推定する(ステップS6)。なお、析出物厚さの推定処理の詳細な説明については、(析出物厚さ推定処理の流れ)にて後述する。
【0022】
上述のステップS1~S6の処理を実行することにより、オイルやガスのパイプライン内部の流体温度を測定することなく、パイプライン内部に発生する析出物の厚さを精度よく推定することができる。
【0023】
[推定装置10等の構成]
図2を用いて、図1に示したシステム100が有する各装置の機能構成について説明する。図2は、実施形態に係る推定システムの構成例を示すブロック図である。以下では、本実施形態に係る推定装置10の構成、温度センサ40の構成、析出物厚さデータベース(DB)70の構成を順に説明する。
【0024】
(推定装置10の構成)
推定装置10は、入力部11、出力部12、通信部13、記憶部14および制御部15を有する。入力部11は、当該推定装置10への各種情報の入力を司る。例えば、入力部11は、マウスやキーボード等で実現され、当該推定装置10への設定情報等の入力を受け付ける。また、出力部12は、当該推定装置10からの各種情報の出力を司る。例えば、出力部12は、ディスプレイ等で実現され、当該推定装置10に記憶された設定情報等を出力する。
【0025】
通信部13は、他の装置との間でのデータ通信を司る。例えば、通信部13は、図示しないネットワーク装置を介して、各装置との間でデータ通信を行う。また、通信部13は、図示しないオペレータの端末との間でデータ通信を行うことができる。
【0026】
記憶部14は、制御部15が動作する際に参照する各種情報や、制御部15が動作した際に取得した各種情報を記憶する。ここで、記憶部14は、例えば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、または、ハードディスク、光ディスク等の記憶装置等で実現され得る。なお、図2の例では、記憶部14は、推定装置10の内部に設置されているが、推定装置10の外部に設置されてもよいし、複数の記憶部が設置されていてもよい。
【0027】
ここで、記憶部14は、計算部15bによる流体温度計算処理に用いられる情報を記憶する。例えば、記憶部14は、配管、断熱材のそれぞれの熱伝導率k、kと、配管の外半径(=断熱材の内半径)rp2と、配管の内半径rp1と、断熱材の外半径rとを記憶する。また、記憶部14は、配管径、配管内の流体の流速、断熱材の材質・厚さ、周囲の気温、風の有無等、温度センサ40の配置、配管の構造等を記憶する。
【0028】
制御部15は、当該推定装置10全体の制御を司る。制御部15は、取得部15a、計算部15bおよび推定部15cを有する。ここで、制御部15は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)等の電子回路やASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の集積回路により実現され得る。
【0029】
取得部15aは、流体50が流れる配管20の内表面に析出物60が付着した析出物発生位置における配管20の外表面温度である配管表面温度(第1の配管表面温度)、および、析出物発生位置とは異なる基準位置における配管20の外表面温度である配管表面温度(第2の配管表面温度)を取得する。
【0030】
例えば、取得部15aは、基準位置に対応する配管表面温度として、内表面に析出物が付着していない基準位置における配管20の外表面温度を取得する。また、取得部15aは、基準位置に対応する配管表面温度として、内表面に析出物が付着している基準位置における配管20の外表面温度を取得する。さらに、取得部15aは、配管20を被覆する断熱材30の外表面温度である断熱材表面温度を取得する。
【0031】
上記例で説明すると、取得部15aは、坑井から生産されるオイルまたはガスを輸送している配管(パイプライン)において、温度センサ40Aによって測定された基準位置に対応する配管表面温度、および温度センサ40Bによって測定された析出物発生位置に対応する配管表面温度を取得する。一方、取得部15aの処理は上記例に限定されず、例えば、取得部15aは、冷却水を発電所に輸送する配管や、温泉水を所定の場所に輸送する配管等において、基準位置における配管表面温度、および析出物発生位置における配管表面温度を取得することもできる。
【0032】
計算部15bは、取得部15aによって取得された基準位置に対応する配管表面温度に基づいて、析出物発生位置における流体50の温度である管内流体温度を計算する。例えば、計算部15bは、第2の配管表面温度と、断熱材表面温度と、流体、配管および断熱材の各熱抵抗とを用いて、管内流体温度を計算する。
【0033】
上記例で説明すると、計算部15bは、温度センサ40Aによって測定された基準位置の配管表面温度に基づいて、坑井から生産されるオイルまたはガスの管内流体温度を計算する。一方、計算部15bの処理は上記例に限定されず、例えば、計算部15bは、発電所に輸送される冷却水の管内流体温度や、所定の場所に輸送される温泉水の管内流体温度を計算することもできる。
【0034】
また、計算部15bは、析出物60が付着していない状態の析出物発生位置を流れる流体50の温度、配管20内の流体50の流速、および基準位置と析出物発生位置との距離を用いて、基準位置を流れる流体50と析出物発生位置を流れる流体50との温度差を計算し、温度差を用いて前記管内流体温度を計算する。
【0035】
すなわち、析出物発生検出のための温度センサ40Bと、管内流体温度の推定のための温度センサ40Aの距離が離れている場合は、この2つの位置での流体温度が異なることもあるが、計算部15bは、両者の温度差の予測値や測定値等を用いて流体温度を補正することで、析出物発生位置での流体温度をより高精度に推定できる。
【0036】
例えば、計算部15bは、2つの位置(温度センサ40A、温度センサ40B)でともに析出物が付着していない段階で両者の温度を事前に取得することで、それぞれの位置の流体温度差を求めることができる。また、計算部15bは、配管径、配管内の流体の流速、断熱材の材質・厚さ、周囲の気温、風の有無等から、単位長さあたりにどれだけ流体温度が変化するかを計算し、2つの位置の距離から、両者の位置の温度差を求めることができる。なお、計算部15bは、記憶部14に記憶された計算に必要な上記情報を参照し、計算処理に用いてもよい。
【0037】
また、計算部15bは、以下のように取得された温度センサ40の測定時刻の情報を用いて、析出物発生位置での流体温度を補正することもできる。すなわち、計算部15bは、2つの測定位置間の距離が短い場合は、有線通信等で取得されたすべての温度センサ40の測定値を同一時刻の情報として計算処理を実行してもよいが、2つの測定位置が離れている場合には、無線通信等で取得されたそれぞれの位置の温度測定値と測定時刻の情報を用いて計算処理を実行することもできる。
【0038】
まず、計算部15bは、取得部15aが測定値および測定時刻を取得した後には、ある時刻の析出物の付着しない点の配管表面温度から流体温度を計算し、同時刻における析出物厚さ推定位置の析出物厚さの推定処理に用いてもよい。
【0039】
一方、計算部15bは、同時刻ではなく、管内流速と2つの位置の距離から、析出物が付着しない点から析出物厚さ推定位置までに流体が流れるのに必要な時間を計算し、析出物厚さ推定にはその時間分だけ前の時刻において得られた流体温度を利用してもよい。この例は、析出物の付着しない点が、析出物厚さ推定位置より上流の場合であり、逆に下流の場合は、流体が流れるのに必要な時間分だけ前の時刻において得られた流体温度を利用してもよい。なお、計算部15bは、記憶部14が記憶した温度測定位置の配置やパイプラインの構造や流速等の流体の情報を参照し、時間差を計算してもよい。
【0040】
さらに、計算部15bは、複数の基準位置から配管表面温度が取得された場合には、最も高い外表面温度を示す基準位置から取得された配管表面温度に基づき、管内流体温度を計算する。すなわち、計算部15bは、析出物が付着しない点が明確でない場合、例えば析出物が全面に付着するわけではなく一部に付着することが予想できるがその場所の特定はできない場合には、位置を離した多数の場所に温度センサ40を設置し、それぞれの温度と測定時刻の情報を無線通信等で取得し、計算処理を実行することができる。
【0041】
例えば、計算部15bは、それぞれの測定位置が近く、それぞれの位置での流体温度の差が小さい場合には、他の地点と比較して配管表面温度が高い点には析出物が付着していないと判断し、その点の測定温度から流体温度を計算し、他の位置の析出物の厚さ推定に利用することができる。
【0042】
推定部15cは、管内流体温度および析出物発生位置に対応する配管表面温度に基づいて、析出物60の厚さに関する情報を推定する。例えば、推定部15cは、管内流体温度および配管表面温度に対応付けられた析出物ごとの厚さ分布を用いて、析出物発生位置における析出物60の厚さを推定する。
【0043】
ここで、配管の外表面温度の測定値に基づいて析出物厚さを推定する方法は、特許文献1に開示されている。なお、配管20の外表面温度の測定値に基づいて推定部15cが析出物60の厚さを推定する方法は、上記の特許文献1に開示された方法に限定されるものではない。例えば、上記の特許文献1では、流体温度および外界の気温(外気温)における析出物厚さ分布を用いているが、外気温ではなく断熱材表面温度における析出部厚さ分布を用いてもよい。
【0044】
さらに、推定部15cは、析出物60の厚さに関する情報として、析出物発生位置における析出物60の厚さを推定する。また、推定部15cは、析出物60の厚さに関する情報として、基準位置における析出物の厚さと析出物発生位置における析出物の厚さとの差分を推定する。また、推定部15cは、管内流体温度および析出物発生位置に対応する配管表面温度に基づいて、ハイドレート、ワックス、アスファルテン、またはスケールの厚さに関する情報を推定する。
【0045】
(温度センサ40の構成)
温度センサ40(40A、40B、40C)は、温度を測定する測定部(図示せず)や、他の装置との間での各種データの送受信を司る送受信部(図示せず)等の機能部を有する。
【0046】
温度センサ40Aの測定部は、配管20において析出物60が析出しない基準位置の外表面温度である第2の配管表面温度を測定する。また、温度センサ40Cの測定部は、断熱材30の外表面温度である断熱材表面温度を測定する。また、温度センサ40Bの測定部は、配管20において析出物60が析出した析出物発生位置の外表面温度である第1の配管表面温度を測定する。
【0047】
温度センサ40Aの送受信部は、測定された第2の配管表面温度を推定装置10に送信する。また、温度センサ40Cの送受信部は、測定された断熱材表面温度を推定装置10に送信する。また、温度センサ40Bの送受信部は、測定された第1の配管表面温度を推定装置10に送信する。
【0048】
(析出物厚さデータベース70の構成)
析出物厚さデータベース(DB)70は、析出物60の種類ごとに、配管の周方向の表面温度分布と、析出物の周方向の厚さ分布である析出物厚さ分布とを対応付けて記憶するデータベースである。この析出物厚さDB70は、計算機シミュレーションにより作成されてもよいし、あるいは、予め蓄積された実測値により作成されてもよい。
【0049】
析出物厚さDB70は、配管の周方向の表面温度分布として、表面温度と、外周位置との関係を表すグラフを記憶する。例えば、析出物厚さDB70は、析出物がワックスであるときの流体温度100℃、外気温20℃における配管20の複数の表面温度分布を記憶する。また、析出物厚さDB70は、析出物厚さ分布として、配管内に付着した析出物の厚さと、外周位置との関係を表すグラフを記憶する。すなわち、析出物厚さDB70は、流体温度と外気温をパラメータとした複数の表面温度分布の各々に対応付けられた析出物厚さ分布のデータを記憶する。
【0050】
[各処理の流れ]
図3図6を用いて、本実施形態に係る各処理の流れを説明する。以下では、実施形態に係る処理全体の流れ、温度取得処理の流れ、流体温度計算処理の流れ、析出物厚さ推定処理の流れの順に説明する。
【0051】
(1.処理全体の流れ)
図3を用いて、本実施形態に係る処理全体の流れを説明する。図3は、実施形態に係る処理全体の流れの一例を示すフローチャートである。まず、推定装置10の取得部15aは、温度取得処理を実行する(ステップS101)。次に、推定装置10の計算部15bは、流体温度計算処理を実行する(ステップS102)。そして、推定装置10の推定部15cは、析出物厚さ推定処理を実行し(ステップS103)、処理を終了する。
【0052】
(2.温度取得処理の流れ)
図4を用いて、本実施形態に係る温度取得処理の流れを説明する。図4は、実施形態に係る温度取得処理の流れの一例を示すフローチャートである。まず、推定装置10の取得部15aは、温度センサ40Aから、配管20において析出物60が析出しない基準位置の外表面温度(第2の配管表面温度)を取得する(ステップS201)。次に、取得部15aは、温度センサ40Cから、断熱材30の外表面温度(断熱材表面温度)を取得する(ステップS202)。そして、取得部15aは、温度センサ40Bから、配管20において析出物60が析出した析出物発生位置の外表面温度(第1の配管表面温度)を取得する(ステップS203)。
【0053】
取得部15aは、上記のステップS201~S203の処理を実行し、温度測定処理を終了する。なお、ステップS201~S203の処理の順序や実行のタイミングは、動的に、または静的に変更することができる。また、ステップS201~S203の処理のうち、省略される処理があってもよい。
【0054】
(3.流体温度計算処理の流れ)
図5を用いて、本実施形態に係る流体温度計算処理の流れを説明する。図5は、実施形態に係る流体温度計算処理の流れの一例を示すフローチャートである。以下では、本実施形態に係る流体温度計算方式について数式を用いて説明した上で、本実施形態に係る流体温度計算処理の流れを詳細に説明する。
【0055】
(流体温度計算方式)
以下に、析出物が付着しない点の管表面温度から管内流体温度を推定する手法の例を示す。まず、析出物が付着しない点の配管表面温度と断熱材表面温度を測定するとする。配管表面の温度をT、断熱材表面温度がTであり、管内流体温度がTinnerであった場合、管内流体から管外部への熱移動量Qは、管内流体から配管表面までの熱の移動を考えることで、下記(1)式のように表わされる。
【0056】
【数1】
【0057】
また、配管表面から断熱材表面までの熱の移動を考えることで、熱移動量Qについて、下記(2)式の関係が得られる。
【0058】
【数2】
【0059】
ここで、Rpipe、Rinsulationはそれぞれ、配管、断熱材の熱抵抗であり、Rinnerは配管内部の流体の熱伝達による熱抵抗である。RpipeおよびRinsulationは、配管、断熱材のそれぞれの熱伝導率k、kと、配管の外半径(=断熱材の内半径)rp2と、配管の内半径rp1と、断熱材の外半径rと、熱の移動を考える領域の管軸方向の長さLとを用いて、下記(3)式および(4)式のように計算できる。なお、式中の「ln」は、自然対数である。
【0060】
【数3】
【0061】
【数4】
【0062】
また、Rinnerは、配管内の熱伝達率hinnerを用いて、下記(5)式のように計算できる。
【0063】
【数5】
【0064】
そして、上記(1)式および(2)式より、管内流体温度Tinnerは、下記(6)式のように求めることができる。
【0065】
【数6】
【0066】
なお、Lは上記(6)式の計算結果には影響を与えないので、計算しやすいように、例えば1m等としてよい。また、断熱材表面温度の代わりに管周囲の気温を測定あるいは予測した場合も、同様の考え方で管内流体温度を推定できるし、断熱材を持たない配管であっても同様に管内流体温度を推定することが可能である。
【0067】
(計算処理の流れ)
以下に、管内流体温度の計算処理の流れの例を示す。第1に、推定装置10の計算部15bは、基準位置の外表面温度である配管表面温度Tの入力を受け付ける(ステップS301)。第2に、計算部15bは、断熱材表面温度Tの入力を受け付ける(ステップS302)。第3に、計算部15bは、配管、断熱材の半径や長さに関わる数値として、rp1、rp2、r、Lの入力を受け付ける(ステップS303)。第4に、計算部15bは、熱伝導率や熱伝達率の数値として、k、k、hinnerの入力を受け付ける(ステップS304)。第5に、計算部15bは、管内流体温度の計算値として、Tinnerを出力する(ステップS305)。
【0068】
計算部15bは、上記のステップS301~S305の処理を実行し、流体温度計算処理を終了する。なお、ステップS301~S304の入力受付処理の順序や実行のタイミングは、動的に、または静的に変更することができる。
【0069】
(4.析出物厚さ推定処理の流れ)
図6を用いて、本実施形態に係る析出物厚さ推定処理の流れを説明する。図6は、実施形態に係る析出物厚さ推定処理の流れの一例を示すフローチャートである。以下では、本実施形態に係る推定処理に用いる析出物厚さデータベース(DB)70に格納される情報について説明した上で、本実施形態に係る析出物厚さ推定処理の流れを詳細に説明する。
【0070】
(析出物厚さDB70の情報)
析出物厚さDB70には、析出物の種類ごとに、配管の周方向の表面温度分布と、析出物の周方向の厚さ分布である析出物厚さ分布とを対応付けた情報が格納される。この情報は、計算機シミュレーションにより作成されてもよいし、あるいは、予め蓄積された実測値により作成されてもよい。
【0071】
析出物厚さDB70には、配管の周方向の表面温度分布として、表面温度と、外周位置との関係を表すグラフが格納される。例えば、析出物厚さDB70には、管内流体温度、外界の温度(例:外気温、断熱材表面温度、配管外流体温度等)における複数の表面温度分布を示すグラフが格納される。また、析出物厚さDB70には、析出物厚さ分布として、配管内に付着した析出物の厚さと、外周位置との関係を表すグラフが格納される。すなわち、析出物厚さDB70には、管内流体温度と断熱材表面温度をパラメータとした複数の表面温度分布の各々に対応付けられた析出物厚さ分布のデータが格納される。
【0072】
(推定処理の流れ)
以下に、析出物厚さの推定処理の流れの例を示す。第1に、推定装置10の推定部15cは、計算部15bによって計算された管内流体温度の入力を受け付ける(ステップS401)。第2に、推定部15cは、断熱材表面温度の入力を受け付ける(ステップS402)。第3に、推定部15cは、配管表面温度の入力を受け付ける(ステップS403)。第4に、推定部15cは、析出物厚さの推定値を出力する(ステップS404)。
【0073】
このとき、推定部15cは、計算された管内流体温度および断熱材表面温度をキーにして、析出物厚さDB70の中から、表面温度値が最もマッチングする表面温度分布を検索する。そして、推定部15cは、検索された表面温度分布に対応付けられた析出物厚さ分布に基づいて析出物60の厚さを推定する。
【0074】
推定部15cは、上記のステップS401~S404の処理を実行し、析出物厚さ推定処理を終了する。なお、ステップS401~S403の入力受付処理の順序や実行のタイミングは、動的に、または静的に変更することができる。
【0075】
[配管と温度センサの具体例]
図7図10を用いて、配管と温度センサの配置や利用の具体例について説明する。具体例1~3では、析出物の発生位置が明確である配管における推定処理について説明し、具体例4では、析出物の発生位置が明確ではない配管における推定処理について説明する。なお、図7図10で示した配管は、断熱材によって被覆された配管であるが、断熱材のない配管であってもよいし、断熱材の表面や内部に測定点を増やして、周囲環境の影響の補正を行ってもよい。
【0076】
(具体例1)
図7を用いて、析出物の発生位置が明確である配管における推定処理について説明する。図7は、実施形態に係る配管と温度センサの具体例1を示す図である。また、図7は、断熱材31によって被覆された配管21の断面を表わす図であり、流体51が流れることにより、配管21の中央付近の上部および下部にそれぞれ析出物61-1、61-2が付着している。
【0077】
推定装置10は、図7のように配管の一部分にのみに析出物が付着することが分かっているならば、その上流か下流の析出物が付着しない点の温度を測定することで、管内流体温度を推定できる。すなわち、推定装置10は、上流の基準位置の配管表面温度として温度センサ41A-1が測定した温度を取得し、下流の基準位置の配管表面温度として温度センサ41A-2が測定した温度を取得する。一方、推定装置10は、析出物発生位置の配管表面温度として、温度センサ41B-1、41B-2が測定した温度を取得する。なお、一部にのみ析出物が発生する原因としては、管周囲環境の違い、管径の違い、管内流体温度の違い等がありうる。
【0078】
(具体例2)
図8を用いて、析出物の発生位置が明確である配管における推定処理について説明する。図8は、実施形態に係る配管と温度センサの具体例2を示す図である。また、図8は、断熱材32によって被覆された配管22の断面を表わす図であり、流体52が流れることにより、配管22のエルボ部の上部に析出物62が付着している。
【0079】
推定装置10は、図8のように配管の一部分にのみに析出物が付着することが分かっているならば、図7と同様にその上流か下流の析出物が付着しない点の温度を測定することで、管内流体温度を推定できる。すなわち、推定装置10は、上流の基準位置の配管表面温度として温度センサ42A-1が測定した温度を取得し、下流の基準位置の配管表面温度として温度センサ42A-3が測定した温度を取得する。さらに、推定装置10は、配管の上部にのみ析出物62が付着するのであれば、その反対側の配管表面温度として温度センサ42A-2が測定した温度を取得してもよい。一方、推定装置10は、析出物発生位置の配管表面温度として、温度センサ42Bが測定した温度を取得する。
【0080】
(具体例3)
図9を用いて、析出物の発生位置が明確である配管における推定処理について説明する。図9は、実施形態に係る配管と温度センサの具体例3を示す図である。また、図9は、断熱材33によって被覆された配管23の断面を表わす図であり、流体53が流れることにより、配管23の枝分かれ部に析出物63-1、63-2が付着している。
【0081】
推定装置10は、図9のように配管の一部分にのみに析出物が付着することが分かっているならば、枝分かれ元や別の分岐先の配管表面温度を測定してもよい。すなわち、推定装置10は、枝分かれ元の基準位置の配管表面温度として温度センサ43A-1が測定した温度を取得し、別の分岐先の基準位置の配管表面温度として温度センサ43A-2が測定した温度を取得する。一方、推定装置10は、析出物発生位置の配管表面温度として、温度センサ43B-1、43B-2が測定した温度を取得する。
【0082】
(具体例4)
図10を用いて、析出物の発生位置が明確ではない配管における推定処理について説明する。図10は、実施形態に係る配管と温度センサの具体例4を示す図である。また、図10は、断熱材34によって被覆された配管24の断面を表わす図であり、流体54が流れているが、析出物の発生位置が明確ではない。
【0083】
このとき、推定装置10は、それぞれの測定位置が離れており、位置ごとでの流体温度の差が大きい場合には、上述の管内流体温度の計算式である(6)式のようにそれぞれの位置で析出物が存在しないと仮定した上での流体温度を推定する。すなわち、推定装置10は、位置ごとの流体温度差や時間差を計算に入れた上で、ある基準位置の流体温度の推定値として最も高い温度が得られる測定位置を析出物の存在しない位置として、その位置の測定値から得られた流体温度の推定値を他の測定位置での析出物厚さ推定に利用することができる。
【0084】
図10では、温度センサ44-1、44-2、44-3、44-4の4点の管内表面温度を測定する。例えば、この中で温度センサ44-1の点を基準点とする(他の点でもよい)。次に、測定点間の距離と流速から、温度センサ44-1の点から温度センサ44-2の点、温度センサ44-3の点、温度センサ44-4の点までに流体54が流れるのに必要な時間δt2-1、δt3-1、δt4-1を求める。ここで、時刻tにおける、温度センサ44-1~44-4の4点における配管表面温度から推定した、それぞれの位置に析出物が付着していないと仮定した上でのそれぞれの位置の管内流体温度の推定値を、Ti1(t)、Ti2(t)、Ti3(t)、Ti4(t)と置く。これより、温度センサ44-1~44-4の点における配管表面温度から、ある時刻tにおける温度センサ44-1の点における流体温度を推定すると、それぞれTi1(t)、Ti2(t+δt2-1)、Ti3(t+δt3-1)、Ti4(t+δt4-1)となる。そして、この4つの推定温度の中で最も高い温度が得られた点には析出物が付着していないとして、その点から管内流体温度を推定し、その管内流体温度を他の点の析出物厚さ推定に使用する。したがって、温度センサ44-1~44-4の4点の中で少なくとも1つの位置で析出物が付着していなければ、この方法で析出物厚さを推定できる。
【0085】
[実施形態の効果]
第1に、上述した本実施形態に係る処理では、流体50が流れる配管20の内表面に析出物60が付着した析出物発生位置における配管20の外表面温度である第1の配管表面温度、および、析出物発生位置とは異なる基準位置における配管20の外表面温度である第2の配管表面温度を取得し、取得した第2の配管表面温度に基づいて、析出物発生位置における流体50の温度である管内流体温度を計算し、計算した管内流体温度および取得した第1の配管表面温度に基づいて、析出物60の厚さに関する情報を推定する。このため、本処理では、配管内の析出物厚さを精度よく推定することができる。
【0086】
第2に、上述した本実施形態に係る処理では、第2の配管表面温度として、内表面に析出物60が付着していない基準位置における配管20の外表面温度を取得し、析出物発生位置における析出物60の厚さを推定する。このため、本処理では、析出物が付着していない基準位置の情報を用いて、配管内の析出物厚さを精度よく推定することができる。
【0087】
第3に、上述した本実施形態に係る処理では、第2の配管表面温度として、内表面に析出物60が付着している基準位置における配管20の外表面温度を取得し、基準位置における析出物60の厚さと析出物発生位置における析出物の厚さとの差分を推定する。このため、本処理では、析出物が付着している基準位置の情報を用いて、配管内の析出物厚さの差分を精度よく推定することができる。
【0088】
第4に、上述した本実施形態に係る処理では、配管20を被覆する断熱材30の外表面温度である断熱材表面温度をさらに取得し、第2の配管表面温度と、断熱材表面温度と、流体50、配管20および断熱材30の各熱抵抗とを用いて、管内流体温度を計算し、管内流体温度および第1の配管表面温度に対応付けられた析出物ごとの厚さ分布を用いて、析出物発生位置における析出物60の厚さを推定する。このため、本処理では、配管内の析出物厚さを非侵襲的に精度よく推定することができる。
【0089】
第5に、上述した本実施形態に係る処理では、析出物60が付着していない状態の析出物発生位置を流れる流体50の温度、配管20内の流体50の流速、および基準位置と析出物発生位置との距離を用いて、基準位置を流れる流体50と析出物発生位置を流れる流体50との温度差を計算し、計算した温度差を用いて管内流体温度を計算する。このため、本処理では、精度よく管内流体温度を計算し、配管内の析出物厚さを精度よく推定することができる。
【0090】
第6に、上述した本実施形態に係る処理では、複数の基準位置から第2の配管表面温度が取得された場合には、最も高い外表面温度を示す基準位置から取得した第2の配管表面温度に基づき、管内流体温度を計算する。このため、本処理では、析出部が付着していない位置が明確でなくとも、配管内の析出物厚さを精度よく推定することができる。
【0091】
第7に、上述した本実施形態に係る処理では、坑井から生産されるオイルまたはガスを輸送している配管20において、第1の配管表面温度および第2の配管表面温度を取得し、第2の配管表面温度に基づいて、オイルまたはガスの管内流体温度を計算し、管内流体温度および第1の配管表面温度に基づいて、ハイドレート、ワックス、アスファルテン、またはスケールの厚さに関する情報を推定する。このため、本処理では、オイルまたはガスのパイプラインにおいて、配管内の析出物厚さを精度よく推定することができる。
【0092】
〔システム〕
上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0093】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散や統合の具体的形態は図示のものに限られない。つまり、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。
【0094】
さらに、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPUおよび当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【0095】
〔ハードウェア〕
次に、推定装置10のハードウェア構成例を説明する。なお、他の装置も同様のハードウェア構成とすることができる。図11は、ハードウェア構成例を説明する図である。図9に示すように、推定装置10は、通信装置10a、HDD(Hard Disk Drive)10b、メモリ10c、プロセッサ10dを有する。また、図11に示した各部は、バス等で相互に接続される。
【0096】
通信装置10aは、ネットワークインタフェースカードなどであり、他のサーバとの通信を行う。HDD10bは、図2に示した機能を動作させるプログラムやDBを記憶する。
【0097】
プロセッサ10dは、図2に示した各処理部と同様の処理を実行するプログラムをHDD10b等から読み出してメモリ10cに展開することで、図2等で説明した各機能を実行するプロセスを動作させる。例えば、このプロセスは、推定装置10が有する各処理部と同様の機能を実行する。具体的には、プロセッサ10dは、取得部15a、計算部15b、推定部15c等と同様の機能を有するプログラムをHDD10b等から読み出す。そして、プロセッサ10dは、取得部15a、計算部15b、推定部15c等と同様の処理を実行するプロセスを実行する。
【0098】
このように、推定装置10は、プログラムを読み出して実行することで各種処理方法を実行する情報処理装置として動作する。また、推定装置10は、媒体読取装置によって記録媒体から上記プログラムを読み出し、読み出された上記プログラムを実行することで上記した実施形態と同様の機能を実現することもできる。なお、この他の実施形態でいうプログラムは、推定装置10によって実行されることに限定されるものではない。例えば、他のコンピュータまたはサーバがプログラムを実行する場合や、これらが協働してプログラムを実行するような場合にも、本発明を同様に適用することができる。
【0099】
このプログラムは、インターネットなどのネットワークを介して配布することができる。また、このプログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD-ROM、MO(Magneto-Optical disk)、DVD(Digital Versatile Disc)などのコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することができる。
【符号の説明】
【0100】
10 推定装置
11 入力部
12 出力部
13 通信部
14 記憶部
15 制御部
15a 取得部
15b 計算部
15c 推定部
20、21、22、23、24 配管
30、31、32、33、34 断熱材
40、41、42、43、44 温度センサ
50、51、52、53、54 流体
60、61、62、63、64 析出物
70 析出物厚さデータベース
100 推定システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11