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特許7400807繊維強化樹脂成形材料成形品およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂成形材料成形品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/12 20060101AFI20231212BHJP
   B29B 15/08 20060101ALI20231212BHJP
   B29C 70/42 20060101ALI20231212BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20231212BHJP
   B29K 105/12 20060101ALN20231212BHJP
【FI】
B29C70/12
B29B15/08
B29C70/42
C08J5/04
B29K105:12
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021508968
(86)(22)【出願日】2020-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2020010098
(87)【国際公開番号】W WO2020195756
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-13
(31)【優先権主張番号】P 2019060666
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】山中 雄介
(72)【発明者】
【氏名】橋本 貴史
(72)【発明者】
【氏名】本橋 哲也
(72)【発明者】
【氏名】大野 泰和
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/221655(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/143068(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/143067(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/12
B29B 15/08
B29C 70/42
C08J 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維束を切断して得られるチョップド繊維束[A]にマトリックス樹脂[B]を含浸させてなる繊維強化樹脂成形材料[C]からなる成形品[D]を製造する方法であって、前記チョップド繊維束[A]が、前記強化繊維束を拡幅し、カットした後に、ディストリビュータ[G]によって分散され、前記ディストリビュータ[G]は、回転軸の軸方向両側に側板を備えた円筒状に構成され、回転軸を中心に所定半径の円周上に側板間にわたって複数のロッドが設置されたものからなり、前記ロッドで前記チョップド繊維束を叩いて分散させるものであり、チョップド繊維束を叩くロッドの速度が0.1~8m/secの範囲にあり、前記成形品[D]の成形品端部から30mmを除く領域のうち、前記成形品[D]の任意の厚さ方向の断面について、成形品厚みと成形品厚みに直交する幅によって規定される面積40mm以上となる任意の矩形領域を設定し、設定した矩形領域中に存在する前記チョップド繊維束[A]の束厚み[E]に関して下記[1]~[3]の要件を満たすことを特徴とする、繊維強化樹脂成形材料成形品の製造方法。
[1]前記束厚み[E]を、0μmから10μm毎に区間を設定した度数分布を作成した場合に、最も大きな値を示す区間内の束厚み[E]の最頻値が、30~100μmの範囲にある。
[2]前記束厚み[E]が200μm以上のチョップド繊維束[A]の割合が5%以下である。
[3]前記束厚み[E]のCV値が10~60%の範囲にある。
【請求項2】
前記束厚み[E]が200μm以上のチョップド繊維束[A]の割合が0.1~5%の範囲にある、請求項に記載の繊維強化樹脂成形材料成形品の製造方法
【請求項3】
前記強化繊維束の拡幅幅について、拡幅の割合を300~1200%とする、請求項またはに記載の繊維強化樹脂成形材料成形品の製造方法。
【請求項4】
前記チョップド繊維束[A]が、前記強化繊維束を拡幅した後、前記強化繊維束の繊維配向方向に沿って断続的に切込みを設ける部分分繊処理を施した部分分線繊維束[F]をカットした後に、ディストリビュータ[G]によって分散される、請求項のいずれかに記載の繊維強化樹脂成形材料成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続強化繊維の繊維束を切断しシート状に堆積させたチョップド繊維束にマトリックス樹脂を含浸させてなる繊維強化樹脂成形材料の成形品と、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
連続強化繊維を切断した不連続強化繊維のチョップド繊維束をランダムに分散させたチョップド繊維束からなるシートと、マトリックス樹脂からなる繊維強化樹脂成形材料を用いて、加熱・加圧成形により、3次元形状等の複雑な形状の繊維強化プラスチックを成形する技術が知られている。この成形技術としては、シートモールディングコンパウンド(以下、SMCと言うこともある。)やスタンパブルシートを用いる技術が知られている。
【0003】
SMCやスタンパブルシートなどの繊維強化樹脂成形材料を用いた成形品は、所望の長さに切断したチョップド繊維束からなるシートに熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂であるマトリックス樹脂を含浸せしめたシートを、加熱型プレス機を用いて加熱加圧成形することにより得られる。多くの場合、加圧前にシートを成形品より小さく切断して金型に配置し、加圧により成形体の形状に流動させて成形を行うため、3次元形状等の複雑な形状にも追従可能となる。
【0004】
上記のような、ランダムに分散させたチョップド繊維束からなる繊維強化樹脂成形材料の成形品では、各繊維束端部での応力集中による破壊によって、繊維強化樹脂成形材料の成形体の強度が決定される。これに対して、特許文献1~3では、チョップド繊維束の平均束厚みを薄くすることによって繊維強化樹脂成形材料の成形品の強度を向上させる方法が開示されている。また、チョップド繊維束からなる繊維強化樹脂成形材料の成形品では、脆弱部が存在する場合、脆弱部から破壊を生じ、脆弱部の強度により成形品の強度が決定されるため、成形品の均質性を高めることが重要である。これに対して、特許文献4では、層厚みのCV値(変動係数)を低減し均質性を高める方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-202890号公報
【文献】WO2014/017612号公報
【文献】特許第5572947号公報
【文献】WO2017/159264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~3では、強化繊維の繊維長、繊維束厚み、繊維束幅の平均値を規定した繊維強化樹脂成形材料や強化繊維シートが開示されている。しかし、繊維強化複合材料の成形品に存在する束厚み分布についての規定はなく、例えば成形品の脆弱部となる厚い束の割合を規定することによる成形品の強度と均質性について改善の余地があった。
【0007】
特許文献4では、層厚みのCV値を低減し均質性を高める方法が開示されているが、成形品中のチョップド繊維束の束厚み分布については規定されておらず、成形品に均一に厚い束が分布している場合について強度低下が生じる可能性があり、やはり改善の余地がある。
【0008】
そこで本発明の課題は、かかる背景技術に鑑み、繊維強化樹脂成形材料の成形品に含まれる繊維束厚みの分布を適切に制御することで、成形品とした場合に優れた均質性を示し、優れた力学特性を発現可能な繊維強化樹脂成形材料成形品と、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。
(1)強化繊維束を切断して得られるチョップド繊維束[A]にマトリックス樹脂[B]を含浸させてなる繊維強化樹脂成形材料[C]からなる成形品[D]であって、前記成形品[D]の成形品端部から30mmを除く領域のうち、前記成形品[D]の任意の厚さ方向の断面について、成形品厚みと成形品厚み方向に直交する方向の幅によって規定される面積40mm以上となる任意の矩形領域を設定し、設定した矩形領域中に存在する前記チョップド繊維束[A]の束厚み[E]に関して下記[1]~[3]の要件を満たすことを特徴とする繊維強化樹脂成形材料成形品。
[1]前記束厚み[E]を、0μmから10μm毎に区間を設定した度数分布を作成した場合に、最も大きな値を示す区間内の束厚み[E]の最頻値が、30~100μmの範囲にある。
[2]前記束厚み[E]が200μm以上のチョップド繊維束[A]の割合が5%以下である。
[3]前記束厚み[E]のCV値が10~60%の範囲にある。
(2)前記束厚み[E]が200μm以上のチョップド繊維束[A]の割合が0.1~5%の範囲にある、(1)に記載の繊維強化樹脂成形材料成形品
(3)前記束厚み[E]の平均値が50μm以上100μm以下である、(1)または(2)に記載の繊維強化樹脂成形材料成形品。
(4)前記強化繊維束が炭素繊維束である、(1)~(3)のいずれかに記載の繊維強化樹脂成形材料成形品。
(5)前記マトリックス樹脂[B]が、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂または不飽和ポリエステル樹脂から選ばれる熱硬化性樹脂である、(1)~(4)のいずれかに記載の繊維強化樹脂成形材料成形品。
(6)強化繊維束を切断して得られるチョップド繊維束[A]にマトリックス樹脂[B]を含浸させてなる繊維強化樹脂成形材料[C]からなる成形品[D]を製造する方法であって、前記成形品[D]の成形品端部から30mmを除く領域のうち、前記成形品[D]の任意の厚さ方向の断面について、成形品厚みと成形品厚みに直交する幅によって規定される面積40mm以上となる任意の矩形領域を設定し、設定した矩形領域中に存在する前記チョップド繊維束[A]の束厚み[E]に関して下記[1]~[3]の要件を満たすことを特徴とする、繊維強化樹脂成形材料成形品の製造方法。
[1]前記束厚み[E]を、0μmから10μm毎に区間を設定した度数分布を作成した場合に、最も大きな値を示す区間内の束厚み[E]の最頻値が、30~100μmの範囲にある。
[2]前記束厚み[E]が200μm以上のチョップド繊維束[A]の割合が5%以下である。
[3]前記束厚み[E]のCV値が10~60%の範囲にある。
(7)前記束厚み[E]が200μm以上のチョップド繊維束[A]の割合が0.1~5%の範囲にある、(6)に記載の繊維強化樹脂成形材料成形品の製造方法
(8)前記チョップド繊維束[A]が、前記強化繊維束を拡幅し、カットした後に、ディストリビュータ[G]によって分散される、(6)または(7)に記載の繊維強化樹脂成形材料成形品の製造方法。
(9)前記ディストリビュータ[G]が、ロッドで前記チョップド繊維束を叩いて分散させるものであり、チョップド繊維束を叩くロッドの速度が0.1~8m/secの範囲にある、(8)に記載の繊維強化樹脂成形材料成形品の製造方法。
(10)前記強化繊維束の拡幅幅について、拡幅の割合を300~1200%とする、(8)または(9)に記載の繊維強化樹脂成形材料成形品の製造方法。
(11)前記チョップド繊維束[A]が、前記強化繊維束を拡幅した後、前記強化繊維束の繊維配向方向に沿って断続的に切込みを設ける部分分繊処理を施した部分分繊繊維束[F]をカットした後に、ディストリビュータ[G]によって分散される、(6)~(10)のいずれかに記載の繊維強化樹脂成形材料成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた均質性と力学特性を発現できる繊維強化樹脂成形材料成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明における繊維強化樹脂成形材料を製造する工程の一例を示す概略構成図である。
図2】本発明で用いられるチョップド繊維束[A]の一例を示す2次元平面投影図であり、チョップド繊維束[A]の繊維長、繊維束幅および先端角度の鋭角θa、θbの測定箇所を示した図である。
図3】本発明の製造方法で用いられるディストリビュータ(分散器)の構造の一例を示す側面図(A)および正面図(B)である。
図4図3のディストリビュータの動作の一例を示す概略構成図である。
図5】本発明において部分分繊処理を施す場合の回転分繊手段を突き入れる移動サイクルの一例を示す説明図である。
図6】本発明における「束厚み[E]が200μm以上のチョップド繊維束[A]の割合」の技術的意味を説明するために用いた束厚みと束割合との関係図である。
図7】本発明における「束厚み[E]のCV値」の技術的意味を説明するために用いた束厚みと束割合との関係図である。
図8】本発明における、成形品[D]の端部での成形時流動による束厚みへの影響を排除するために、束厚みの測定を実施しない成形品[D]の端部から30mmの領域の例(例1、例2)を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明について、実施の形態とともに詳細に説明する。
本発明に係る繊維強化樹脂成形材料成形品は、強化繊維束を切断して得られるチョップド繊維束[A]にマトリックス樹脂[B]を含浸させてなる繊維強化樹脂成形材料[C]からなる成形品[D]であって、前記成形品[D]の成形品端部から30mmを除く領域のうち、前記成形品[D]の任意の厚さ方向の断面について、成形品厚みと成形品厚み方向に直交する方向の幅によって規定される面積40mm以上となる任意の矩形領域を設定し、設定した矩形領域中に存在する前記チョップド繊維束[A]の束厚み[E]に関して下記[1]~[3]の要件を満たすことを特徴とする。
[1]前記束厚み[E]を、0μmから10μm毎に区間を設定した度数分布を作成した場合に、最も大きな値を示す区間内の束厚み[E]の最頻値が、30~100μmの範囲にある。
[2]前記束厚み[E]が200μm以上のチョップド繊維束[A]の割合が5%以下である。
[3]前記束厚み[E]のCV値が10~60%の範囲にある。
【0013】
本発明におけるチョップド繊維束[A]とは、一方向に配列された多数本のフィラメントからなる連続強化繊維束を、繊維長手方向に一定の間隔をおいて切断した繊維束のことである。
【0014】
チョップド繊維束[A]としては、例えば、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンベンゾオキサゾール(PBO)繊維などの有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、チラノ繊維、玄武岩繊維、セラミックス繊維などの無機繊維、ステンレス繊維やスチール繊維などの金属繊維、その他、ボロン繊維、天然繊維、変性した天然繊維などを繊維として用いた強化繊維束が挙げられる。その中でも炭素繊維(特にPAN系炭素繊維)は、これら強化繊維の中でも軽量であり、しかも比強度および比弾性率において特に優れた性質を有しており、さらに耐熱性や耐薬品性にも優れていることから、好適である。
【0015】
本発明におけるマトリックス樹脂[B]としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂を用いることができる。樹脂としては、熱硬化性樹脂のみを用いてもよく、熱可塑性樹脂のみを用いてもよく、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の両方を用いてもよい。
【0016】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシアクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。特に、エポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂を用いると、強化繊維に対して優れた界面接着性を発現することから、好適である。熱硬化性樹脂としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリアミド6樹脂、ポリアミド6,6樹脂等のポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂などが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
また、マトリックス樹脂には、必要に応じて、硬化剤、内部離型剤、増粘剤、安定剤等の添加剤が配合されていてもよい。
【0019】
本発明における繊維強化樹脂成形材料[C]は、チョップド繊維束[A]にマトリックス樹脂[B]を含浸させることにより得られる。特にマトリックス樹脂[B]として熱硬化性樹脂を用いたものは、SMC(シートモールディングコンパウンド)と呼ばれ、成形品[D]の中間体として利用することができる。
【0020】
本発明の繊維強化樹脂成形材料[C]のチョップド繊維束[A]の重量含有率は、繊維強化樹脂成形材料[C]の総重量に対し、20重量%以上75重量%以下が好ましく、30~70重量%がより好ましく、40~70重量%がさらに好ましい。チョップド繊維束[A]の重量含有率が下限値以上であれば、力学特性に優れた繊維強化樹脂成形材料[C]の成形品[D]が得られやすい。チョップド繊維束[A]の繊維重量含有率が上限値以下であれば、成形時の流動抵抗が小さく、優れた流動性が得られるとともに、チョップド繊維束[A]の湾曲や配向ムラが低減できる。
【0021】
本発明における成形品[D]は、例えば、繊維強化樹脂成形材料[C]を金型内に配置して加熱し、プレス機を用いて加圧成形するものや、繊維強化樹脂成形材料[C]を加熱後金型内に配置し、プレス機を用いて加圧成形するものが挙げられる。
【0022】
本発明における束厚み[E]は、繊維強化樹脂成形材料[C]の成形品[D]の厚み方向に沿った断面に存在する、チョップド繊維束[A]の繊維方向に対して垂直な断面のうちの短径長である。また、本発明における束厚み[E]の最頻値とは、束厚み[E]を0μmから10μm毎に区間を設定し、度数分布を作成した場合に最も大きな値を示す区間内の最頻値を指す。但し、後述の実施例、比較例では、便宜的に、束厚み[E]を0μmから10μm毎に区間を設定し、度数分布を作成した場合に最も大きな値を示す区間の中央値とし、例えば30~40μm区間が当該区間であった場合、最頻値を35μmとした。
【0023】
チョップド繊維束[A]の束厚み[E]の測定は、繊維強化樹脂成形材料[C]の成形時に流動が乱れる成形品[D]の端部での流動による束厚みへの影響を排除した評価を実施するために、成形品[D]の端部から30mmの領域を除く断面領域の中で、測定のバラつきを考慮するため、任意の厚さ方向の断面について、成形品厚みと成形品厚みに直交する幅によって規定される面積40mm以上となる任意の矩形領域を設定し、矩形領域中に存在する、全ての強化繊維束の束厚み[E]を測定することにより実施する。このほかにも、例えば、ウェルドやリブなど繊維強化樹脂成形材料[C]の成形時に流動が乱れる成形品[D]の領域については、流動による束厚みへの影響を排除した評価を実施するために、強化繊維束の束厚み[E]を測定する断面から除く。図8に成形品[D]の端部での成形時流動による束厚みへの影響を排除するために、束厚みの測定を実施しない成形品[D]の端部から30mmの領域の例を図示する。例1に示す平板では、成形品端部から、30mmの領域を束厚みの測定を実施しない領域801としている。例2では孔付き成形品の孔から30mmの領域も束厚みの測定を実施しない領域801としている。また、成形品曲面部802については成形品端部から曲線長で30mmの領域を束厚みの測定を実施しない領域801としている。
【0024】
繊維強化樹脂成形材料[C]の成形品[D]の破壊は、チョップド繊維束[A]の端部の応力集中部を起点に発生する。したがって、チョップド繊維束[A]の端部の応力集中を軽減することによって成形品[D]の強度を向上することができる。チョップド繊維束[A]端部の応力集中の軽減方法として、チョップド繊維束[A]の束厚み[E]を薄く制御することが挙げられる。以上より、本発明での成形品[D]では上述の如く以下の[1]~[3]の要件を満たすことが重要である。
[1]束厚み[E]を、0μmから10μm毎に区間を設定した度数分布を作成した場合に、最も大きな値を示す区間内の束厚み[E]の最頻値が、30~100μmの範囲にある。
[2]束厚み[E]が200μm以上のチョップド繊維束[A]の割合が5%以下である。
[3]束厚み[E]のCV値が10~60%の範囲にある。
【0025】
上述の[1]について、束厚み[E]の目標厚みに相当する、束厚み[E]の最頻値を薄く設定すると、応力集中を低減し、繊維強化樹脂成形材料[C]の成形品[D]の高強度化を達成できる。しかしながら、束厚み[E]の最頻値を薄く設定した場合、繊維強化樹脂成形材料[C]製造時の工程通過性が低下する。以上を鑑みて、束厚み[E]の最頻値が30~100μmの範囲にあることが必要であり、束厚み[E]の最頻値が30~90μmの範囲にあることが好ましく、束厚み[E]の最頻値が30~80μmの範囲にあることがより好ましい。この場合、前記の改善効果が大きく、優れた力学特性の成形品[D]が得られる。
【0026】
上述の[2]について、成形品[D]に脆弱部が存在する場合、脆弱部から破壊を生じ、脆弱部の強度により成形品[D]の強度が決定される。したがって、成形品[D]に脆弱部が生じないように成形品[D]の均質性を高めることが、力学特性の向上に必要である。
【0027】
繊維強化樹脂成形材料[C]の成形品[D]のチョップド繊維束[A]の束厚み[E]は一定範囲の分布を持つ。束厚み[E]が厚い束では、チョップド繊維束[A]端部での応力集中が大きく成形品[D]の脆弱部となる。このため、繊維強化樹脂成形材料[C]の成形品[D]の強度は、束厚み[E]の分布により変化し、束厚み[E]の最頻値が同一であっても、束厚み[E]の厚いものが成形品[D]中に多く存在している場合、成形品[D]の強度が低下する。したがって、束厚み[E]の厚いチョップド繊維束[A]の割合を低減させることが繊維強化樹脂成形材料[C]の成形品[D]の強度向上に必要である。しかし、厚いチョップド繊維束[A]の割合を低くすると繊維強化樹脂成形材料[C]製造時の工程通過性が低下するおそれがある。以上を鑑みて、成形品[D]の強度向上のためには、束厚み[E]が200μm以上であるチョップド繊維束[A]の割合が5%以下であることが必要である。また、工程通過性の低下を回避するためには、束厚み[E]が200μm以上であるチョップド繊維束[A]の割合が0.1~5%の範囲にあることが好ましい。より好ましい束厚み[E]が200μm以上であるチョップド繊維束[A]の割合は0.1~3%の範囲である。このような束厚み[E]が200μm以上であるチョップド繊維束[A]の割合の場合、前記の改善効果が大きく、優れた力学特性の成形品[D]が得られる。
【0028】
上述の[3]について、繊維強化樹脂成形材料[C]の成形品[D]の束厚み[E]は一定範囲の分布を持つ。このため、繊維強化樹脂成形材料[C]の成形品[D]の強度は、束厚み[E]の分布により変化し、束厚み[E]の最頻値が同一であっても、束厚み[E]が広く分布する場合、繊維強化樹脂成形材料[C]の成形品[D]の強度がばらつく。したがって、束厚み[E]の分布範囲を狭くすることが繊維強化樹脂成形材料[C]の成形品[D]の強度ばらつきの低減に必要である。以上を鑑みて、束厚み[E]の変動係数(CV)が、10~60%の範囲にあることが必要であり、束厚み[E]の変動係数(CV)が、10~50%の範囲にあることが好ましく、束厚み[E]の変動係数(CV)が、10~40%の範囲にあることがより好ましい。この場合、前記の改善効果が大きく、優れた均質性を示す成形品[D]が得られる。
【0029】
上記のような本発明における要求特性の概念を例えば図6図7を用いて説明する。本発明における「束厚み[E]が200μm以上のチョップド繊維束[A]の割合」の技術的意味を説明するための図6に示すように、厚い束が多い分布と厚い束が少ない分布は例えば図に示すような分布となるが、両分布においては、束厚み平均値が同じであっても、厚い束が少ない分布の方が高強度になる。これまでに平均束厚みが例えば100μm以下という提案は多く見られるが、厚い束の割合について明確に規定した提案はない。つまり、束厚みは強度に寄与し(束厚み増加に伴い強度低下)、束厚みの平均値が同じであっても、厚い束があればそこを起点に破壊を生じるため、同じ平均値であっても厚い束が少なければ強度は高くなる。
【0030】
また、本発明における「束厚み[E]のCV値」の技術的意味を説明するための図7に示すように、束厚み分布バラつきの大きい分布と束厚み分布バラつきの小さい分布は例えば図に示すような分布となるが、両分布においては、束厚み平均値が同じであっても、束厚み分布バラつきの小さい分布の方が強度CV値は低い。これまでに平均束厚みが例えば100μm以下という提案は多く見られるが、束厚み分布のCV値を規定した提案はない。つまり、束厚みは強度に寄与するので(束厚み増加に伴い強度低下)、束厚み分布のCV値の低減により強度バラつきを低減することが可能になる。
【0031】
また、本発明における繊維強化樹脂成形材料[C]では、束厚み[E]の平均値が100μm以下であることが好ましく、束厚み[E]の平均値が80μm以下であることがより好ましい。束厚み[E]の平均値が前述の上限値以下であれば、成形品[D]のチョップド繊維束[A]端部の応力集中を軽減し、繊維強化樹脂成形材料[C]の成形品[D]の強度を向上することが出来る。しかし、平均束厚みを薄くしすぎた場合、繊維強化樹脂成形材料[C]製造時の工程通過性が低下する。以上を鑑みて、束厚み[E]の平均値は50μm以上であることが好ましい。
【0032】
本発明に係る繊維強化樹脂成形材料成形品の製造方法は、強化繊維束を切断して得られるチョップド繊維束[A]にマトリックス樹脂[B]を含浸させてなる繊維強化樹脂成形材料[C]からなる成形品[D]を製造する方法であって、前記成形品[D]の成形品端部から30mmを除く領域のうち、前記成形品[D]の任意の厚さ方向の断面について、成形品厚みと成形品厚みに直交する幅によって規定される面積40mm以上となる任意の矩形領域を設定し、設定した矩形領域中に存在する前記チョップド繊維束[A]の束厚み[E]に関して下記[1]~[3]の要件を満たすことを特徴とする方法である。
[1]前記束厚み[E]を、0μmから10μm毎に区間を設定した度数分布を作成した場合に、最も大きな値を示す区間内の束厚み[E]の最頻値が、30~100μmの範囲にある。
[2]前記束厚み[E]が200μm以上のチョップド繊維束[A]の割合が5%以下である。
[3]前記束厚み[E]のCV値が10~60%の範囲にある。
【0033】
上述の[2]については、前述したように、成形品[D]の強度向上のためには、束厚み[E]が200μm以上であるチョップド繊維束[A]の割合が5%以下であることが必要である。また、工程通過性の低下を回避することを考慮すると、束厚み[E]が200μm以上であるチョップド繊維束[A]の割合が0.1~5%の範囲にあることが好ましい。より好ましい束厚み[E]が200μm以上であるチョップド繊維束[A]の割合は0.1~3%の範囲である。
【0034】
本発明における繊維強化樹脂成形材料[C]は、特に限定されないが、例えば、図1に示した装置を用いて製造される。図1に示した装置では、以下の散布工程及び含浸工程を順次行う。本発明の繊維強化樹脂成形材料[C]の成形品[D]は、特に限定されないが、例えば以下の成形工程により製造される。
【0035】
<散布工程>
散布工程では、連続強化繊維束が巻き取られたボビン102から供給した連続強化繊維束103を引き出し、ニップロール104を経た後、裁断機105において所定の長さとなるように連続的に裁断し、第1樹脂シート112の上に散布する。裁断時には、連続強化繊維束をカット角度θが、0°<θ<90°の範囲内となる所定の角度にカットしてもよい。ここで、カット角度とは図2に示すように、LaまたはLbとチョップド繊維束[A]201の切断線がなす角度のうち小さい方の角度(鋭角)θa、θbをいう。連続強化繊維束を所定の角度にカットする方法としては、裁断機105へ糸を搬送する際に角度を持たせる場合と糸に対して裁断機105に角度を持たせる場合が例示できる。
【0036】
裁断機105としては、本発明の課題を阻害しないかぎり、特に制限がなく、ギロチン刃式やロータリーカッター式が例示される。前述したように、強化維ストランドが搬送される方向に対して、カットするための刃の向きは特に制限されるものではなく、前記強化繊維ストランドを搬送する機構と同様に角度を持たせてもよい。
【0037】
束長が異なる不連続強化繊維束を得る方法として、裁断機105を複数用意し、束長が異なる不連続強化繊維束を得る方法などが例示できる。
【0038】
これにより、走行する第1樹脂シート112上に、チョップド繊維束[A]108がディストリビュータ(分散器)106を介してランダムに散布されたチョップド繊維束[A]からなるシート113が連続的に形成される。このとき、チョップド繊維束[A]が不要な箇所に飛散されるのを防止するために飛散防止板107を設けておいてもよい。
【0039】
<含浸工程>
含浸工程では、第1シートロール110から第1キャリアシート111を引き出して第1コンベヤ114へと供給し、第1樹脂バス109によりドクターブレードによりマトリックス樹脂[B]のペーストを所定の厚みで塗布して第1樹脂シート112を形成する。
【0040】
第2シートロール115から長尺の第2キャリアシート116を引き出して第2コンベヤ117へと供給する。第2樹脂バス118により、第2キャリアシート116の面上にマトリックス樹脂[B]のペーストを所定の厚みで塗布し、第2樹脂シート119を形成する。
【0041】
第2キャリアシート116を搬送することで第2樹脂シート119を走行させ、チョップド繊維束[A]からなるシート113上に第2キャリアシート116とともに第2樹脂シート119を貼り合わせて積層する。これにより、チョップド繊維束[A]からなるシート113が第1樹脂シート112及び第2樹脂シート119で挟み込まれた繊維強化樹脂成形材料前駆体120が連続的に形成される。
【0042】
加圧機構121により、繊維強化樹脂成形材料前駆体120を両面から加圧し、第1樹脂シート112及び第2樹脂シート119のマトリックス樹脂[B]をチョップド繊維束[A]からなるシート113に含浸させ、第1キャリアシート111と第2キャリアシート116の間で繊維強化樹脂成形材料[C]122を形成する。
【0043】
<成形工程>
繊維強化樹脂成形材料[C]から製造される成形品[D]の製造工程は特に限定されないが、前記繊維強化樹脂成形材料[C]を用い、一般的に用いられるプレス成形法にて得ることができる。すなわち、目的の成形品形状をなした上下分離可能な金型を準備し、金型のキャビティの投影面積よりも小さくかつキャビティ厚よりも厚い状態でキャビティ内に繊維強化樹脂成形材料[C]を配置する。この際、本発明の繊維強化樹脂成形材料[C]は単独で用いてもよく、繊維強化樹脂成形材料[C]を複数枚重ねて用いてもよい。次に、加熱加圧し、金型を開き成形品を取り出すことで製造する。なお、成形温度、成形圧力、成形時間は目的とする成形品の形状に合わせて適宜選択することができる。
【0044】
強化繊維束を切断して得られるチョップド繊維束[A]にマトリックス樹脂[B]を含浸させてなる繊維強化樹脂成形材料[C]からなる成形品[D]の製造方法であって、前記チョップド繊維束[A]が、前記強化繊維束を拡幅した後、カットした後に、ディストリビュータ[G]106によって分散し製造されることにより、前記成形品[D]の成形品端部から30mmを除く領域のうち、前記成形品[D]の任意の厚さ方向の断面について、成形品厚みと成形品厚みに直交する幅によって規定される面積40mm以上となる任意の矩形領域を設定し、矩形領域中に存在する前記チョップド繊維束[A]の束厚み[E]が前述の[1]~[3]の要件を満たすことを特徴とする成形品[D]が得られやすくなる。
【0045】
ディストリビュータ[G]106としては、カット後のチョップド繊維束[A]に対して、衝撃を与えて分散させるものであって図3にディストリビュータ106を例示するように、回転軸301の軸方向両側に側板を備えた円筒状であり、距離Lcの側板間に複数のロッド302が設置されたディストリビュータ挙げられる。
【0046】
ここで、ロッドとしてはカット後のチョップド繊維束[A]に対して、衝撃を与えられるものであれば、その材質は問わず、例えば金属製やプラスチック製などが考えられる。また、ロッドの形状についても、カット後のチョップド繊維束[A]に対して、衝撃を与えられるものであれば、その形状は問わず、丸棒、ワイヤー、多角形断面の棒などが例示される。
【0047】
ディストリビュータ[G]を用いて分散させることによって、繊維強化樹脂成形材料[C]の目付けのばらつきが低減され材料の均質性が向上するほか、強化繊維束のカット時に重なったチョップド繊維束[A]の重なりを排除し束厚み[E]を薄くする効果があるほか、束厚み[E]のバラつきを小さくする効果があり、束厚み[E]が前述の[1]~[3]の要件の範囲内である優れた力学特性の成形品[D]が得られやすくなる。
【0048】
例えば図4に示すように、チョップド繊維束[A]にカットされる際等に生じやすいチョップド繊維束[A]108の重なりを、回転されるディストリビュータ[G]106の複数のロッド302で叩いて分散させることが可能になる。
【0049】
上記のようにディストリビュータ[G]106が、ロッドでチョップド繊維束[A]を叩いて分散させるものである場合、チョップド繊維束[A]を叩くロッドの速度が0.1~8m/secであると束厚み[E]が前述の[1]~[3]の要件の範囲内である優れた力学特性の成形品[D]が得られやすくなり、ディストリビュータの動きに伴う随伴流の影響による繊維強化樹脂成形材料[C]の目付けのばらつきやチョップド繊維束[A]の配向が生じにくくなる。チョップド繊維束[A]を叩くロッドの速度は、0.5~5m/secであるとより好ましく、1.5~5m/secであるとさらに好ましい。
【0050】
また、カットされる前の強化繊維束の拡幅幅について、拡幅の割合を300~1200%とすることにより、前記成形品[D]の成形品端部から30mmを除く領域のうち、成形品[D]の任意の厚さ方向の断面について、成形品厚みと成形品厚みに直交する幅によって規定される面積40mm以上となる任意の矩形領域を設定し、矩形領域中に存在する前記チョップド繊維束[A]の束厚み[E]が前述の[1]~[3]の要件を満たす成形品[D]が得られやすくなる。
【0051】
強化繊維束の拡幅手段としては、例えば、振動ロールに強化繊維束を通過させ、各開繊バーによる加熱、擦過、揺動などにより繊維束が幅方向に拡幅される振動拡幅法、強化繊維束に圧縮した空気を吹き付けるエア拡幅法などが挙げられる。前記強化繊維束の拡幅幅について、拡幅の割合を300~1200%とすることにより、チョップド繊維束[A]の束厚み[E]が薄くなり、かつ工程通過性を維持することができる。上記強化繊維束の拡幅幅について、拡幅の割合として500~1200%がより好ましく、800~1200%がさらに好ましい。
【0052】
チョップド繊維束[A]が、上記強化繊維束を拡幅した後、強化繊維束の繊維配向方向に沿って断続的に切込みを設ける部分分繊処理を施した部分分繊繊維束[F]をカットした後に、ディストリビュータ[G]によって分散されることにより、高い工程通過性を維持したまま、前記成形品[D]の成形品端部から30mmを除く領域のうち、前記成形品[D]の任意の厚さ方向の断面について、成形品厚みと成形品厚みに直交する幅によって規定される面積40mm以上となる任意の矩形領域を設定し、矩形領域中に存在する前記チョップド繊維束[A]の束厚み[E]が前述の[1]~[3]の要件を満たす成形品[D]が得られやすくなる。
【0053】
部分分繊処理としては、例えば図5に示すように、複数の単糸からなる強化繊維束401を長手方向(繊維束走行方向)に沿って走行させながら、複数の突出部404を具備する回転分繊手段(例えば、分繊処理用鉄製プレート402)を繊維束401に突き入れ分繊処理部を生成するとともに、少なくとも1つの分繊処理部における突出部404との接触部403において単糸が交絡する絡合部405を形成し(図5(A)、(B))、しかる後に分繊手段を繊維束から抜き取り、絡合部405を含む絡合蓄積部を経過した後、再度分繊手段を繊維束401に突き入れる(図5(C)))手法や、複数の単糸からなる強化繊維束に複数の突出部を具備する分繊手段を繊維束に突き入れ、分繊手段を繊維束の長手方向に沿って走行させながら分繊処理部を生成するとともに、少なくとも1つの分繊処理部における突出部との接触部に単糸が交絡する絡合部を形成し、しかる後に分繊手段を繊維束から抜き取り、絡合部を含む絡合蓄積部を経過する位置まで分繊手段を走行させた後、再度分繊手段を繊維束に突き入れる手法が挙げられる。
【0054】
部分分繊繊維束[F]としては、複数の単糸からなる強化繊維束に強化繊維束の長手方向に沿って部分的に分繊処理が施された分繊処理区間と、隣接する分繊処理区間の間に形成される未分繊処理区間とが、交互に形成されている強化繊維束が挙げられる。部分分繊繊維束[F]を用いて製造することにより、チョップド繊維束[A]の繊維本数を制御し、力学特性を向上でき、繊維束の収束性を維持したまま、工程を通過させることができるため、高いプロセス性を維持できる。
【実施例
【0055】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
チョップド繊維束[A]を裁断、散布した後、マトリックス樹脂[B]を含浸させることで繊維強化樹脂成形材料[C]を作製し、作製した繊維強化樹脂成形材料[C]を用いてプレス成形を行い、以下の評価方法にて曲げ特性を取得した。
【0056】
<使用原料>
マトリックス樹脂[B]:ビニルエステル(VE)樹脂(ダウ・ケミカル(株)製、“デラケン790”(登録商標))100重量部、tert-ブチルパーオキシベンゾエート(日本油脂(株)製、“パーブチルZ”(登録商標))1重量部、ステアリン酸亜鉛(堺化学工業(株)製、SZ-2000)2重量部、酸化マグネシウム(協和化学工業(株)製、MgO#40)4重量部を混合した樹脂を用いた。
【0057】
<束厚み[E]の評価方法>
繊維強化樹脂成形材料[C]を265×265mmに切り出し、繊維強化樹脂成形材料[C]製造装置での繊維強化樹脂成形材料[C]の搬送方向(MD方向)に揃えて3枚重ね、300×300mmのキャビティを有する平板金型上の中央部に配置(チャージ率にして80%相当)した後、加熱型プレス成形機により、13MPaの加圧のもと、約140℃×5分間の条件により硬化せしめ、(長さ×幅)300×300mm×(厚み)3mmの平板状の成形品[D]を得た。続いて、繊維強化樹脂成形材料[C]の成形品[D]を厚み方向に沿って切断し、デジタルマイクロスコープ(製品名:VHX-6000)により倍率200倍で観察した際に、チョップド繊維束[A]を構成する単糸が明確に確認できる程度に切断面の研磨を行い、顕微鏡画像で撮影した画像について、チョップド繊維束[A]の束厚み[E]を0.001mmの精度で測定した。測定した束厚み[E]について、最頻値を導出するために、0μmから10μm毎に区間を設定し、度数分布を作成した場合に最も大きな値を示す区間の中央値とし、例えば30~40μm区間が当該区間であった場合、最頻値を35μmとした。
【0058】
<曲げ特性の評価方法>
JIS-K7017(1999)に準拠して曲げ強度、曲げ弾性率を測定した。SMCの成形板の曲げ強度と曲げ弾性率とを測定するため、SMCの成形板から、SMCの搬送方向(0°方向)と幅方向(90°方向)に沿って、試験片の長さ/試験片の厚み=50、試験片の幅25mmとなるよう、試験片をそれぞれ6枚切り出した。そして、5kNインストロン万能試験機を用いて、支点間距離/試験片の厚み=40.5、支点間距離=3×圧子間距離、クロスヘッド速度10mm/分で4点曲げ試験を各試験片に対して行い、それぞれの曲げ強度と曲げ弾性率とを測定し、それぞれの平均値、変動係数(CV)を求めた。その評価結果をまとめたものを表1に示す。
【0059】
<引張特性の評価方法>
JIS-K7164(2005)に準拠して引張強度、引張弾性率を測定した。SMCの成形板の引張強度と引張弾性率とを測定するため、SMCの成形板から、SMCの搬送方向(0°方向)と幅方向(90°方向)に沿って、長さ250mm、厚み3mm、幅25mmの試験片をそれぞれ6枚切り出した。そして、500kNインストロン万能試験機を用いて、クロスヘッド速度2mm/分で引張試験を各試験片に対して行い、それぞれの引張強度と引張弾性率とを測定し、それぞれの平均値、変動係数(CV)を求めた。その評価結果をまとめたものを表1に示す。曲げ試験では材料表面に最大応力が負荷されるため、材料表面の欠陥にのみ影響されるが、引張試験では材料内部に一様の応力が負荷されるため、材料中全ての欠陥の影響を受ける。したがって欠陥が存在による強度低下の影響は引張試験で確認しやすい。
【0060】
(実施例1)
強化繊維束として、フィラメント数50,000本の連続した炭素繊維束(ZOLTEK社製、製品名:“ZOLTEK(登録商標)”PX35-50K)を用いた。ワインダーを用いて一定速度10m/minで巻出し、巻き出した強化繊維束を5Hzで軸方向へ振動する振動拡幅ロールに通して強化繊維束を拡幅した後に、50mm幅に規制された幅規制ロールを通すことで50mmへ拡幅した厚み0.03mm(30μm)の拡幅強化繊維束を得た。得られた拡幅繊維束に対して、厚み0.3mm、幅3mm、高さ20mmの突出形状を具備する分繊処理用鉄製プレートを、強化繊維束の幅方向に対して5mmの等間隔に並行にセットした分繊処理手段を準備した。この分繊処理手段を拡幅強化繊維束に対して、図5に示す様に間欠式に抜き挿しし、部分分繊繊維束を作成した。
【0061】
第1の原反ロール(第1シートロール)からポリプロピレン製の第1キャリアシートを引き出して第1コンベヤへと供給し、マトリックス樹脂[B]ペーストをドクターブレードを用いて所定の厚みで塗布して第1樹脂シートを形成した。
【0062】
部分分繊繊維束を、一定の速度で裁断機へ糸を搬送する際にカット角度が約15°となるよう角度を持たせながら供給し、連続的に繊維束を斜めに裁断した。次にチョップド繊維束[A]をディストリビュータ(分散器)で分散させて、第1樹脂シート上に落下させて散布し、繊維束がランダムに配向したシート状繊維束を連続的に形成した。ディストリビュータは、円筒状であり、かつ側面に回転軸を中心に半径10cmの円周上に複数のロッドが設置されたものが、裁断機の真下に位置するように設置し、ディストリビュータの回転軸がチョップド繊維束[A]からなるシートの厚み方向と垂直かつ、チョップド繊維束[A]からなるシートの搬送方向と垂直となるように設置し、ディストリビュータの回転方向を図1の矢印のように、搬送方向に対して右手から見たときに、分散器の回転軸に対して時計周りの方向に速度400rpmで回転させた。
【0063】
次に第2の原反ロール(第2シートロール)からポリプロピレン製の第2キャリアシートを引き出して第2コンベヤへと供給し、マトリックス樹脂[B]ペーストをドクターブレードを用いて所定の厚みで塗工して第2樹脂シートを形成した。
【0064】
チョップド繊維束[A]からなるシート上に第2キャリアシートとともに第2樹脂シートを貼り合わせて積層し、両面から加圧して、マトリックス樹脂[B]をチョップド繊維束[A]からなるシートに含浸させ、繊維強化樹脂成形材料[C]を作製した。その後、作製した繊維強化樹脂成形材料[C]を製造後から1週間、25±5℃の温度で養生し、各評価を実施した。
【0065】
繊維強化樹脂成形材料[C]の厚みはノギスで測定した場合、2.1mmであった。得られたチョップド繊維束[A]の目付は1160g/mであり、作製した繊維強化樹脂成形材料[C]の繊維重量含有率は57.2%であった。
【0066】
また、繊維強化樹脂成形材料[C]を265×265mmに切り出し、繊維強化樹脂成形材料[C]製造装置での繊維強化樹脂成形材料[C]の搬送方向(MD方向)を揃えかつ、片方の繊維強化樹脂成形材料[C]の最外層F1が、別の繊維強化樹脂成形材料[C]の表面F3に接するように3枚重ね、300×300mmのキャビティを有する平板金型上の中央部に配置(チャージ率にして80%相当)した後、加熱型プレス成形機により、10MPaの加圧のもと、約140℃×5分間の条件により硬化せしめ、300×300mm×3mmの平板状の成形品[D]を得た。得られた成形品[D]を厚み方向に沿って切断し、成形品[D]の端部から30mmの領域を除く、断面領域の中で設定した、幅15mmの領域に存在するチョップド繊維束[A]の束厚み[E]を全て測定した。評価の結果を表1に示す。この成形品の曲げ強度は381MPa、曲げ弾性率は41GPaで、引張強度は333MPa、引張弾性率は41GPaであった。評価結果を表1に示す。
【0067】
(実施例2)
強化繊維束として、フィラメント数12,000本の連続した炭素繊維束(東レ社製、製品名:“トレカ(登録商標)” T700SC-12000)を用いた。厚み0.02mmの炭素繊維束に対して、厚み0.3mm、幅3mm、高さ20mmの突出形状を具備する分繊処理用鉄製プレートを、強化繊維束の幅方向に対して5mmの等間隔に並行にセットした分繊処理手段を準備した。この分繊処理手段を拡幅強化繊維束に対して、図5に示す様に間欠式に抜き挿しし、部分分繊繊維束を作成した。
【0068】
以上に記載した部分分繊繊維束の作製方法以外は、実施例1と同様に、成形品を得た。実施例1と同様に、束厚み[E]を測定した結果を表1に示す。この成形品の曲げ強度は434MPa、曲げ弾性率は42GPaで、引張強度は355MPa、引張弾性率は42GPaであった。評価結果を表1に示す。
【0069】
(実施例3)
強化繊維束として、フィラメント数6,000本の連続した炭素繊維束(東レ社製、製品名:“トレカ(登録商標)” T700SC-6000)を用いた。厚み0.01mmの炭素繊維束に対して、厚み0.3mm、幅3mm、高さ20mmの突出形状を具備する分繊処理用鉄製プレートを、強化繊維束の幅方向に対して5mmの等間隔に並行にセットした分繊処理手段を準備した。この分繊処理手段を拡幅強化繊維束に対して、図5に示す様に間欠式に抜き挿しし、部分分繊繊維束を作成した。
【0070】
以上に記載した部分分繊繊維束の作製方法以外は、実施例1と同様に、成形品を得た。実施例1と同様に、束厚み[E]を測定した結果を表1に示す。この成形品の曲げ強度は453MPa、曲げ弾性率は43GPaで、引張強度は360MPa、引張弾性率は42GPaであった。評価結果を表1に示す。
【0071】
(実施例4)
強化繊維束として、フィラメント数50,000本の連続した炭素繊維束(ZOLTEK社製、製品名:“ZOLTEK(登録商標)”PX35-50K)を用いた。ワインダーを用いて一定速度10m/minで巻出し、巻き出した強化繊維束を5Hzで軸方向へ振動する振動拡幅ロールに通して強化繊維束を拡幅した後に、75mm幅に規制された幅規制ロールを通すことで75mmへ拡幅した厚み0.02mm(20μm)の拡幅強化繊維束を得た。得られた拡幅繊維束に対して、厚み0.3mm、幅3mm、高さ20mmの突出形状を具備する分繊処理用鉄製プレートを、強化繊維束の幅方向に対して5mmの等間隔に並行にセットした分繊処理手段を準備した。この分繊処理手段を拡幅強化繊維束に対して、図5に示す様に間欠式に抜き挿しし、部分分繊繊維束を作成した。
【0072】
以上に記載した部分分繊繊維束の作製方法以外は、実施例1と同様に、成形品を得た。実施例1と同様に、束厚み[E]を測定した結果を表1に示す。この成形品の曲げ強度は420MPa、曲げ弾性率は41GPaで、引張強度は345MPa、引張弾性率は42GPaであった。評価結果を表1に示す。
【0073】
(比較例1)
強化繊維束として、フィラメント数50,000本の連続した炭素繊維束(ZOLTEK社製、製品名:“ZOLTEK(登録商標)”PX35-50K)を用いた。続いて、繊維束を拡幅せずに、厚み0.3mm、幅3mm、高さ20mmの突出形状を具備する分繊処理用鉄製プレートを、強化繊維束の幅方向に対して5mmの等間隔に並行にセットした分繊処理手段を準備した。この分繊処理手段を炭素繊維束に対して、図5に示す様に間欠式に抜き挿しし、部分分繊繊維束を作成した。
【0074】
以上に記載した部分分繊繊維束の作製方法以外は、実施例1と同様に、成形品を得た。実施例1と同様に、束厚み[E]を測定した結果を表1に示す。この成形品の曲げ強度は379MPa、曲げ弾性率は42GPaで、引張強度は300MPa、引張弾性率は41GPaであった。評価結果を表1に示す。
【0075】
(比較例2)
実施例1と同様に作製した部分分繊繊維束について、ディストリビュータを使用せず分散し散布した作製方法以外は実施例1と同様にチョップド繊維束を作製し、実施例1と同様に、成形品を得た。実施例1と同様に、束厚み[E]を測定した結果を表1に示す。この成形品の曲げ強度は375MPa、曲げ弾性率は41GPaで、引張強度は328MPa、引張弾性率は42GPaであった。評価結果を表1に示す。
【0076】
(比較例3)
強化繊維束として、フィラメント数24,000本の連続した炭素繊維束(東レ社製、製品名:“トレカ(登録商標)” T700SC-24000)を用いた。厚み0.10mmの炭素繊維束に対して、厚み0.3mm、幅3mm、高さ20mmの突出形状を具備する分繊処理用鉄製プレートを、強化繊維束の幅方向に対して5mmの等間隔に並行にセットした分繊処理手段を準備した。この分繊処理手段を拡幅強化繊維束に対して、図5に示す様に間欠式に抜き挿しし、部分分繊繊維束を作成した。
【0077】
以上に記載した部分分繊繊維束の作製方法以外は、実施例1と同様に、成形品を得た。実施例1と同様に、束厚み[E]を測定した結果を表1に示す。この成形品の曲げ強度は407MPa、曲げ弾性率は43GPaで、引張強度は328MPa、引張弾性率は42GPaであった。評価結果を表1に示す。
【0078】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の繊維強化樹脂成形材料成形品の用途としては、軽量性および優れた力学特性が要求される、ドアやバンパー補強材やシート(パネルやフレーム)などの自動車部材、クランクやホイールリムなどの自転車部材、ヘッドやラケットなどのゴルフやテニスなどのスポーツ部材、内装材などの交通車輌/航空機部材、ロボットアームなどの産業機械部材が挙げられる。中でも、軽量に加え、複雑な形状の成形追従性が要求されるドアやバンパー補強材やシート(パネルやフレーム)等の自動車部材に好ましく適用できる。
【符号の説明】
【0080】
102:連続強化繊維束が巻き取られたボビン
103:連続強化繊維束
104:ニップロール
105:裁断機
106:ディストリビュータ(分散器)
107:飛散防止板
108:チョップド繊維束[A]
109:第1樹脂バス
110:第1シートロール
111:第1キャリアシート
112:第1樹脂シート
113:チョップド繊維束[A]からなるシート
114:第1コンベヤ
115:第2シートロール
116:第2キャリアシート
117:第2コンベヤ
118:第2樹脂バス
119:第2樹脂シート
120:繊維強化樹脂成形材料前駆体
121:加圧機構
122:繊維強化樹脂成形材料[C]
201:チョップド繊維束[A]
301:ディストリビュータ(分散器)の回転軸
302:ロッド
401:強化繊維束
402:分繊処理用鉄製プレート
403:接触部
404:突出部
405:絡合部
801:束厚みの測定を実施しない領域
802:成形品曲面部
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8