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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】伝送線路の製造方法及び伝送線路
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/46 20060101AFI20231212BHJP
   H05K 3/22 20060101ALI20231212BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
H05K3/46 T
H05K3/46 G
H05K3/46 B
H05K3/22 B
H01L23/12 N
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021537353
(86)(22)【出願日】2020-08-05
(86)【国際出願番号】 JP2020030062
(87)【国際公開番号】W WO2021025073
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2019146236
(32)【優先日】2019-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020063451
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上坪 祐介
(72)【発明者】
【氏名】古村 知大
【審査官】黒田 久美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/065543(WO,A1)
【文献】特開2009-277623(JP,A)
【文献】特開2016-164882(JP,A)
【文献】国際公開第2018/211992(WO,A1)
【文献】特開2019-067864(JP,A)
【文献】特開2003-008225(JP,A)
【文献】国際公開第2018/155089(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/46
H05K 3/22
H01L 23/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ材質の異なる第1絶縁性樹脂基材層及び複数の第2絶縁性樹脂基材層を含む伝送線路の製造方法であって、
前記第1絶縁性樹脂基材層に導体膜及び前記導体膜に接する層間接続導体を形成して第1導体膜付き絶縁性樹脂基材を構成する第1工程、または少なくとも前記第1絶縁性樹脂基材層を含む積層体において、前記積層体の主面を有する前記第1絶縁性樹脂基材層の主面上に導体膜を形成し、かつ、前記第1絶縁性樹脂基材層に前記導体膜に接する層間接続導体を形成して第2導体膜付き絶縁性樹脂基材を構成する第2工程のいずれかの工程を含む導体膜付き絶縁性樹脂基材構成工程と、
前記導体膜が前記複数の第2絶縁性樹脂基材層のうち前記第1絶縁性樹脂基材層の天面側に配置される天面側第2絶縁性樹脂基材層に接触するように、前記第1導体膜付き絶縁性樹脂基材または前記第2導体膜付き絶縁性樹脂基材を他の基材層と積層する積層工程と、
前記第1導体膜付き絶縁性樹脂基材または前記第2導体膜付き絶縁性樹脂基材と前記他の基材層とを熱圧着する熱圧着工程と、を有し、
前記層間接続導体は、積層方向を向く天面及び前記積層方向の反対方向を向く底面を有し、
前記導体膜に対する前記第1絶縁性樹脂基材層の密着性は、前記導体膜に対する前記第2絶縁性樹脂基材層の密着性より高く、
前記導体膜は、信号導体、グランド導体及びグランド導体と導通する電極を含み、
前記電極は、前記積層方向を向く天面及び前記積層方向の反対方向を向く底面を有し、
前記第1絶縁性樹脂基材層と前記複数の第2絶縁性樹脂基材層のそれぞれとの接触面の位置と、前記導体膜と前記層間接続導体との接触面の位置とは、前記積層方向においてずれており、
前記伝送線路の一部分において、前記電極の天面、前記第1絶縁性樹脂基材層と前記天面側第2絶縁性樹脂基材層との接触面、前記電極の底面と前記層間接続導体との接触面、前記第1絶縁性樹脂基材層と前記複数の第2絶縁性樹脂基材層のうち前記第1絶縁性樹脂基材層の底面側に配置される底面側第2絶縁性樹脂基材層の接触面及び前記層間接続導体の底面は、前記積層方向においてこの順に並ぶ、
伝送線路の製造方法。
【請求項2】
前記導体膜の線膨張係数と、前記第1絶縁性樹脂基材層の線膨張係数との差は、前記導体膜の線膨張係数と前記第2絶縁性樹脂基材層の線膨張係数との差より大きく、
前記第1絶縁性樹脂基材層の厚みは前記第2絶縁性樹脂基材層の厚みよりも薄い、
請求項1に記載の伝送線路の製造方法。
【請求項3】
前記積層体は、前記第1絶縁性樹脂基材層と前記第2絶縁性樹脂基材層とで構成される、
請求項1又は2に記載の伝送線路の製造方法。
【請求項4】
前記導体膜付き絶縁性樹脂基材構成工程の前記第2工程は、前記第2絶縁性樹脂基材層を前記第1絶縁性樹脂基材層で前記積層方向に挟み込んだ積層体の表面に前記導体膜を形成する工程である、
請求項1から3のいずれかに記載の伝送線路の製造方法。
【請求項5】
前記第1絶縁性樹脂基材層は、フッ素樹脂である、
請求項1から4のいずれかに記載の伝送線路の製造方法。
【請求項6】
前記導体膜は、前記積層方向に直交する方向に延びる形状を有しており、
幅を前記積層方向及び前記導体膜が延びる方向に直交する方向の長さと定義し、
前記導体膜が前記第1絶縁性樹脂基材層に接する部分の前記幅は、前記導体膜が前記第2絶縁性樹脂基材層に接する部分の前記幅よりも長い、
請求項1から5のいずれかに記載の伝送線路の製造方法。
【請求項7】
それぞれ材質の異なる第1絶縁性樹脂基材層及び、前記第1絶縁性樹脂基材層の線膨張係数より低い線膨張係数を有する第2絶縁性樹脂基材層を含む伝送線路の製造方法であって、
前記第1絶縁性樹脂基材層に導体膜を形成して第1導体膜付き絶縁性樹脂基材を構成する第1工程、または少なくとも前記第1絶縁性樹脂基材層を含む積層体において、前記積層体の主面を有する前記第1絶縁性樹脂基材層の主面上に導体膜を形成して第2導体膜付き絶縁性樹脂基材を構成する第2工程のいずれかの工程を含む導体膜付き絶縁性樹脂基材構成工程と、
前記第1導体膜付き絶縁性樹脂基材または前記第2導体膜付き絶縁性樹脂基材を他の基材層と積層する積層工程と、
前記第1導体膜付き絶縁性樹脂基材または前記第2導体膜付き絶縁性樹脂基材と前記他の基材層とを熱圧着する熱圧着工程と、を有し、
前記導体膜は、信号導体を含み、かつ、グランド導体又はグランド導体と導通する電極の少なくともいずれかを含み、
前記伝送線路の一部分において、前記第2絶縁性樹脂基材層、前記第1絶縁性樹脂基材層、前記導体膜、前記第1絶縁性樹脂基材層及び前記第2絶縁性樹脂基材層は、積層方向に平行な直線上にこの順に並び、
前記導体膜は、前記第1絶縁性樹脂基材層に接し、かつ、前記第2絶縁性樹脂基材層には接しない、
伝送線路の製造方法。
【請求項8】
それぞれ材質の異なる第1絶縁性樹脂基材層及び複数の第2絶縁性樹脂基材層を含み、導体膜が形成された前記第1絶縁性樹脂基材層に前記複数の第2絶縁性樹脂基材層が積層された伝送線路であって、
前記導体膜と接する層間接続導体を有し、
前記層間接続導体は、積層方向を向く天面及び前記積層方向の反対方向を向く底面を有し、
前記第1絶縁性樹脂基材層と前記導体膜との密着強度は、前記第2絶縁性樹脂基材層と前記導体膜との密着強度よりも高く、
前記導体膜は、信号導体、グランド導体及びグランド導体と導通する電極を含み、
前記電極は、前記積層方向を向く天面及び前記積層方向の反対方向を向く底面を有し、
前記第1絶縁性樹脂基材層と前記複数の第2絶縁性樹脂基材層のそれぞれとの接触面の位置と、前記導体膜と前記層間接続導体との接触面の位置とは、前記積層方向においてずれており、
前記伝送線路の一部分において、前記電極の天面、前記第1絶縁性樹脂基材層と前記複数の第2絶縁性樹脂基材層のうち前記第1絶縁性樹脂基材層の天面側に配置される天面側第2絶縁性樹脂基材層の接触面、前記電極の底面と前記層間接続導体との接触面、前記第1絶縁性樹脂基材層と前記複数の第2絶縁性樹脂基材層のうち前記第1絶縁性樹脂基材層の底面側に配置される底面側第2絶縁性樹脂基材層の接触面及び前記層間接続導体の底面は、前記積層方向においてこの順に並ぶ、
伝送線路。
【請求項9】
前記導体膜は、当該導体膜の一方面で前記第1絶縁性樹脂基材層に接し、他方面で前記第2絶縁性樹脂基材層に接し、
前記導体膜の、前記第1絶縁性樹脂基材層に接する面積は、前記第2絶縁性樹脂基材層に接する面積よりも大きい、
請求項8に記載の伝送線路。
【請求項10】
前記導体膜の線膨張係数と前記第1絶縁性樹脂基材層の線膨張係数との差は、前記導体膜の線膨張係数と前記第2絶縁性樹脂基材層の線膨張係数との差よりも大きく、
前記第1絶縁性樹脂基材層の厚みは前記第2絶縁性樹脂基材層の厚みよりも薄い、
請求項8又は9に記載の伝送線路。
【請求項11】
前記導体膜が前記第1絶縁性樹脂基材層で前記積層方向に挟み込まれた部分を有する、
請求項8から10のいずれかに記載の伝送線路。
【請求項12】
前記導体膜は、当該導体膜の一方面で前記第1絶縁性樹脂基材層に接し、かつ、前記当該導体膜の他方面で前記第2絶縁性樹脂基材層に接し、
前記一方面は、前記積層方向に視て、前記他方面と重なっている、
請求項8から11のいずれかに記載の伝送線路。
【請求項13】
前記第1絶縁性樹脂基材層は、フッ素樹脂である、
請求項8から12のいずれかに記載の伝送線路。
【請求項14】
前記導体膜は、前記積層方向に直交する方向に延びる形状を有しており、
幅を前記積層方向及び前記導体膜が延びる方向に直交する方向の長さと定義し、
前記導体膜が前記第1絶縁性樹脂基材層に接する部分の前記幅は、前記導体膜が前記第2絶縁性樹脂基材層に接する部分の前記幅よりも長い、
請求項8から13のいずれかに記載の伝送線路。
【請求項15】
それぞれ材質の異なる第1絶縁性樹脂基材層及び、前記第1絶縁性樹脂基材層の線膨張係数より低い線膨張係数を有する第2絶縁性樹脂基材層を含み、導体膜が形成された前記第1絶縁性樹脂基材層に前記第2絶縁性樹脂基材層が積層された伝送線路であって、
前記導体膜は、信号導体を含み、かつ、グランド導体又はグランド導体と導通する電極の少なくともいずれかを含み、
前記伝送線路の一部分において、前記第2絶縁性樹脂基材層、前記第1絶縁性樹脂基材層、前記導体膜、前記第1絶縁性樹脂基材層及び前記第2絶縁性樹脂基材層は、積層方向に平行な直線上にこの順に並び、
前記導体膜は、前記第1絶縁性樹脂基材層に接し、かつ、前記第2絶縁性樹脂基材層には接しない、
伝送線路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の絶縁性樹脂基材が積層されて形成された伝送線路の製造方法及び伝送線路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導体パターンが形成された絶縁性樹脂基材が積層され熱圧着されることで構成される多層基板が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、それぞれ異なる材質からなる2つの絶縁性樹脂基材層を含む多層基板が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/047540号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
単一の絶縁性樹脂基材を積層して多層基板を構成する場合に比べて、材質の異なる2つの絶縁性樹脂基材層を積層して多層基板を構成する場合には、それ特有の問題がある。例えば、それぞれ異なる材質からなる第1絶縁性樹脂基材層と第2絶縁性樹脂基材層との間に導体パターンが配置される場合に、第1絶縁性樹脂基材層と第2絶縁性樹脂基材層と導体パターンに対する密着強度が異なるため、配置の仕方によっては、積層時の導体パターンの剥がれや、絶縁性樹脂基材層の流動に伴って、積層体内で本来の位置からずれたりして、所期の電気的特性が得られない場合がある。
【0006】
本発明の目的は、2つの絶縁性樹脂基材層を含む伝送線路において、導体パターンの位置ずれが抑制された、電気的特性の安定性の高い伝送線路の製造方法、及び伝送線路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一例としての伝送線路の製造方法は、それぞれ材質の異なる第1絶縁性樹脂基材層及び第2絶縁性樹脂基材層を含む伝送線路の製造方法であって、前記第1絶縁性樹脂基材層に導体膜を形成して第1導体膜付き絶縁性樹脂基材を構成する第1工程、または少なくとも前記第1絶縁性樹脂基材層を含む積層体において、前記積層体の主面を有する前記第1絶縁性樹脂基材層の主面上に導体膜を形成して第2導体膜付き絶縁性樹脂基材を構成する第2工程のいずれかの工程を含む導体膜付き絶縁性樹脂基材構成工程と、前記導体膜が前記第2絶縁性樹脂基材層に接触するように、前記第1導体膜付き絶縁性樹脂基材または前記第2導体膜付き絶縁性樹脂基材を、他の基材層と積層する積層工程と、前記第1導体膜付き絶縁性樹脂基材または前記第2導体膜付き絶縁性樹脂基材と前記他の基材層とを熱圧着する熱圧着工程と、を有し、前記導体膜に対する前記第1絶縁性樹脂基材層の密着性が、前記導体膜に対する前記第2絶縁性樹脂基材層の密着性より高く、前記導体膜は、信号導体を含み、かつ、グランド導体又はグランド導体と導通する電極の少なくともいずれかを含むことを特徴とする。
【0008】
上記製造方法により、積層工程で、導体膜が第1絶縁性樹脂基材層から剥がれず、積層体内における導体膜の位置ずれの少ない伝送線路が得られる。
【0009】
本開示の一例としての伝送線路は、それぞれ材質の異なる第1絶縁性樹脂基材層及び第2絶縁性樹脂基材層を含み、導体膜が形成された前記第1絶縁性樹脂基材層に前記第2絶縁性樹脂基材層が積層された伝送線路であって、前記第1絶縁性樹脂基材層と前記導体膜との密着強度は、前記第2絶縁性樹脂基材層と前記導体膜との密着強度よりも高く、前記導体膜は、信号導体を含み、かつ、グランド導体又はグランド導体と導通する電極の少なくともいずれかを含むことを特徴する。
【0010】
上記構造により、積層体内における導体膜の位置ずれの少ない、安定した電気的特性を有する伝送線路が得られる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、2つの絶縁性樹脂基材層を含む伝送線路において、導体パターンの位置ずれが抑制された、電気的特性の安定性の高い伝送線路が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は第1の実施形態に係る多層基板101の斜視図である。
図2図2(A)は、伝送線路を有する多層基板101の実装状態を示す、携帯電子機器の断面図であり、図2(B)は当該携帯電子機器の筐体内部の平面図である。
図3図3は、多層基板101を構成する積層体の各層の平面図である。
図4図4は、図3に示した各層の部分断面図である。
図5図5は多層基板101の全体の断面図である。
図6図6(A)は、多層基板101のA-A断面でのY-Z面に平行な面の断面図であり、図6(B)は、B-B断面でのY-Z面に平行な面の断面図である。
図7図7は、図6に示す部分の、積層前における断面図である。
図8図8(A)、図8(B)は、導体膜付き絶縁性樹脂基材の製造工程を示す断面図である。
図9図9は、第2の実施形態に係る多層基板の、各絶縁性樹脂基材層の積層前における、信号導体に延伸方向に対する垂直な面での断面図である。
図10図10は、図9に示す部分の積層後における断面図である。
図11図11は、第3の実施形態に係る多層基板の、各絶縁性樹脂基材層の積層前における、信号導体に延伸方向に対する垂直な面での断面図である。
図12図12は、図11に示す部分の積層後における断面図である。
図13図13(A)、図13(B)は、多層基板にコネクタを実装した構成の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以降、図を参照して幾つかの具体的な例を挙げて、本発明を実施するための複数の形態を示す。各図中には同一箇所に同一符号を付している。要点の説明又は理解の容易性を考慮して、便宜上実施形態を分けて示すが、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換又は組み合わせが可能である。第2の実施形態以降では第1の実施形態と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については実施形態毎には逐次言及しない。
【0014】
《第1の実施形態》
図1は第1の実施形態に係る多層基板101の斜視図である。この多層基板101は、所定の導体パターンが形成された絶縁性樹脂基材層の積層体で構成されている。本実施形態では、2つの端子電極11及びグランド導体21を有する伝送線路が構成されている。
【0015】
図2(A)は、上記伝送線路を有する多層基板101の実装状態を示す、携帯電子機器の断面図であり、図2(B)は当該携帯電子機器の筐体内部の平面図である。
【0016】
携帯電子機器301は、薄型の筐体210を備える。筐体210内には、回路基板201a,201bと、バッテリーパック202等が配置される。回路基板201a,201bの表面には、チップ部品が実装される。
【0017】
本実施形態の多層基板101は可撓性を有するので隙間に沿って曲げられる。この多層基板101は、その厚み方向と、筐体210の厚み方向とが一致するように配置することで、バッテリーパック202と筐体210との間に、多層基板101を通すことができる。これにより、バッテリーパック202を中間に配して離間された回路基板201a,201bを多層基板101で接続できる。
【0018】
以降、本実施形態の多層基板101の構造及び製造方法について各図を参照して説明する。
【0019】
図3は、多層基板101を構成する積層体の各層の平面図である。第1絶縁性樹脂基材層1Aの上面にはグランド導体22が形成されている。この第1絶縁性樹脂基材層1Aの内部には、破線で示す円形状の層間接続導体が形成されている。第2絶縁性樹脂基材層2Aには開口Hが形成されている。第1絶縁性樹脂基材層1Bの上面には信号導体10及び電極24が形成されている。この第1絶縁性樹脂基材層1Bの内部には、破線で示す円形状の層間接続導体が形成されている。第2絶縁性樹脂基材層2Bには開口Hが形成されている。第1絶縁性樹脂基材層1Cの下面にはグランド導体21及び端子電極11が形成されている。
【0020】
図3に示した各層を積層し、例えば180℃以上320℃以下の範囲内の所定の温度(例えば300℃)で加熱プレスすることにより、信号導体10の端部10Eは層間接続導体を介して端子電極11に導通する。また、グランド導体21とグランド導体22とは層間接続導体及び電極24を介して導通する。
【0021】
図4は、図3に示した各層の部分断面図である。図5は多層基板101の全体の断面図である。本実施形態の多層基板の製造方法では、第1絶縁性樹脂基材層1A,1B,1Cに導体膜を形成して導体膜付き絶縁性樹脂基材3A,3B,3Cを構成する、導体膜付き絶縁性樹脂基材構成工程(第1工程)を備える。図4に示す例では、第1絶縁性樹脂基材層1Aに銅箔を貼付し、それをフォトリソグラフィによりパターンニングすることでグランド導体22を形成する。同様に、第1絶縁性樹脂基材層1Cに銅箔を貼付し、それをフォトリソグラフィによりパターンニングすることでグランド導体21を形成する。また、第1絶縁性樹脂基材層1Bに銅箔を貼付し、それをフォトリソグラフィによりパターンニングすることで、信号導体10及び電極24を形成する。言い換えると、第1絶縁性樹脂基材層1Bに信号導体10を形成して導体膜付き絶縁性樹脂基材3B(第1導体膜付き絶縁性樹脂基材)を構成する。
【0022】
なお、図4に示す例では、第1絶縁性樹脂基材層1Aに、グランド導体22に接する層間接続導体Vを形成し、第1絶縁性樹脂基材層1Cに、グランド導体21に接する層間接続導体Vを形成し、第1絶縁性樹脂基材層1Bに、電極24に接する層間接続導体V及び信号導体10に接する層間接続導体Vを形成する。
【0023】
本実施形態の多層基板の製造方法では、上記導体膜付き絶縁性樹脂基材構成工程の後に、導体膜付き絶縁性樹脂基材3A,3B,3Cを、第2絶縁性樹脂基材層2A,2Bを介して積層する積層工程を有する。図4に示す例では、導体膜付き絶縁性樹脂基材3Aの層間接続導体Vと導体膜付き絶縁性樹脂基材3Bの電極24とが、第2絶縁性樹脂基材層2Aの開口Hを介して接する。言い換えると、積層工程では、信号導体10が第2絶縁性樹脂基材層2Aに接触するように、導体膜付き絶縁性樹脂基材3B(第1導体膜付き絶縁性樹脂基材)を、第2絶縁性樹脂基材層2Aと積層する。同様に、導体膜付き絶縁性樹脂基材3Cの層間接続導体Vと導体膜付き絶縁性樹脂基材3Bの層間接続導体Vとが、第2絶縁性樹脂基材層2Bの開口Hを介して接する。
【0024】
図6(A)は、多層基板101のA-A断面でのY-Z面に平行な面の断面図であり、図6(B)は、B-B断面でのY-Z面に平行な面の断面図である。第1絶縁性樹脂基材層1A,1B,1Cは例えばフッ素樹脂等の可撓性を有する樹脂シートである。また、第2絶縁性樹脂基材層2A,2Bは液晶ポリマー(LCP)やポリ・エーテル・エーテル・ケトン(PEEK)等の可撓性を有する樹脂シートである。
【0025】
銅箔に対する第1絶縁性樹脂基材層(1A,1B,1C)の密着性(密着強度)は、銅箔に対する第2絶縁性樹脂基材層2A,2Bの密着性(密着強度)より高い。図6(A)、図6(B)、図7に示した例では、信号導体10に対する第1絶縁性樹脂基材層1Bの密着性(密着強度)は、信号導体10に対する第2絶縁性樹脂基材層2Aの密着性(密着強度)より高い。
【0026】
上記製造方法により、積層工程で、信号導体10が第1絶縁性樹脂基材層1Bから剥がれず、積層体内における信号導体10の位置ずれの少ない多層基板が得られる。その結果、電気的特性の安定性の高い多層基板が得られる。
【0027】
また、図6(A)、図6(B)に示すように、多層基板101の厚み方向の一方端にあるグランド導体22は、第1絶縁性樹脂基材層1Aに埋没しており、多層基板101の厚み方向の他方端にあるグランド導体21は、第1絶縁性樹脂基材層1Cに埋没している。このように、電極を第1絶縁基材に埋没させることによって、電極と第1絶縁基材との接触面積を大きくでき、接合強度を向上できる。また、上述のように、第1絶縁性樹脂基材層1A、1Cは、それぞれグランド導体22、21に対する密着性(密着強度)が高い。多層基板101を、図2(A)に示すように、折り曲げて使用する場合、厚み方向の両端に応力が係り易い。しかしながら、上述の構成を備えることによって、グランド導体21、22の剥離を抑制できる。なお、ここでは、グランド導体21、22の厚み方向の全体が埋まっている態様を示しているが、少なくとも一部が埋没していればよい。ただし、剥離の抑制には、埋没量は多いほど好ましいので、第1絶縁性樹脂基材層1Aは、グランド導体22よりも厚く、第1絶縁性樹脂基材層1Cは、グランド導体21よりも厚いことが好ましい。
【0028】
また、図6(B)に示すように、端子電極11、および、グランド導体21の端子電極は、外部の電極等への接合面を除いて、第1絶縁性樹脂基材層1Cに埋没している。第1絶縁性樹脂基材層1Cは、これら電極に対する密着性(密着強度)が高い。外部の電極等へ接合される端子電極は、応力が係り易く、剥離や接合不良が発生し易い。しかしながら、上記構成を備えることによって、端子電極11、および、グランド導体21の端子電極の剥離を抑制でき、これによる接合不良も抑制できる。同様に、グランド導体22も第1絶縁性樹脂基材層1Aに埋没しているので、グランド導体22を端子電極として用いる場合にも、剥離を抑制でき、これによる接合不良も抑制できる。なお、ここでは、電極や導体の厚み方向の全体が埋まっている態様を示しているが、少なくとも一部が埋没していればよい。ただし、剥離、接合不良の抑制には、埋没量は多いほど好ましいので、第1絶縁性樹脂基材層1Aは、グランド導体22よりも厚く、第1絶縁性樹脂基材層1Cは、端子電極11およびグランド導体21よりも厚いことが好ましい。
【0029】
既に述べたとおり、グランド導体21,22及び信号導体10は銅箔であり、その線膨張係数は17[ppm/℃]である。第1絶縁性樹脂基材層1A,1B,1Cはフッ素樹脂であり、その線膨張係数は、例えば室温からリフロー温度までの温度範囲において120[ppm/℃]である。第2絶縁性樹脂基材層2A,2BはLCPであり、その線膨張係数は、例えば室温からリフロー温度までの温度範囲において20[ppm/℃]である。したがって、グランド導体21,22及び信号導体10の線膨張係数と第1絶縁性樹脂基材層1A,1B,1Cの線膨張係数との差は、信号導体10の線膨張係数と第2絶縁性樹脂基材層2A,2Bの線膨張係数との差より大きい。しかし、第1絶縁性樹脂基材層1A,1B,1Cの厚みは第2絶縁性樹脂基材層2A,2Bの厚みより薄い。このことにより、上記線膨張係数の差によって生じる内部残留応力が小さく抑えられる。したがって、第1絶縁性樹脂基材層1A,1B,1Cの材質としては、上記線膨張係数の差よりも、銅箔との密着性(密着強度)を優先して選択することが好ましい。
【0030】
次に、本実施形態の多層基板内における導体パターンの断面形状の特徴について、図8(A)、図8(B)を参照して説明する。図8(A)、図8(B)は、導体膜付き絶縁性樹脂基材の製造工程を示す断面図である。まず、図8(A)に示すように、第1絶縁性樹脂基材層1Bに銅箔による導体膜MFをラミネートする。その後、図8(B)に示すように、導体膜MFをフォトリソグラフィによりパターンニングすることで、信号導体10を形成する。このフォトリソグラフィのケミカルエッチングによって、第絶縁性樹脂基材層2Aに接する側で先細りの、断面テーパー形状となる。
【0031】
信号導体10の断面形状が上記テーパー形状であることにより、積層加熱プレスを行うことにより、信号導体10の周囲の絶縁性樹脂基材層の形状は図6に示したようになる。つまり、信号導体10が第1絶縁性樹脂基材層1Bに部分的に埋没することにより、信号導体10の、第1絶縁性樹脂基材層1Bに接する面積は、信号導体10の上面に位置する第2絶縁性樹脂基材層2Aに接する面積よりも大きくなる。
【0032】
上記信号導体10の断面形状によって、第1絶縁性樹脂基材層1Bに対する密着性(密着強度)が効果的に高まる。このことにより、信号導体10の位置ずれが効果的に抑制される。
【0033】
本実施形態の多層基板101は、第1絶縁性樹脂基材層1Bが第2絶縁性樹脂基材層2Aよりも低誘電率であり、また、低誘電正接であるので、高周波信号に対する損失は抑えられる。しかも、上記のとおり、信号導体10と第1絶縁性樹脂基材層1Bとの接触面積が増大するので、上記損失は効果的に抑制される。
【0034】
《第2の実施形態》
第2の実施形態では、第1絶縁性樹脂基材層だけでなく、第2絶縁性樹脂基材層を有する積層体を用いる多層基板の製造方法について示す。
【0035】
図9は、第2の実施形態に係る多層基板の、各絶縁性樹脂基材層の積層前における、信号導体に延伸方向に対する垂直な面での断面図である。図10は、その部分の積層後における断面図である。
【0036】
グランド導体22は第1絶縁性樹脂基材層1A及び第2絶縁性樹脂基材層2Aと共に、予め積層されている。同様に、グランド導体21は第1絶縁性樹脂基材層1C及び第2絶縁性樹脂基材層2Cと共に、予め積層されている。また、信号導体10は第1絶縁性樹脂基材層1B及び第2絶縁性樹脂基材層2Bと共に、予め積層されている。
【0037】
言い換えると、導体膜付き絶縁性樹脂基材構成工程(の第2工程)では、少なくとも第1絶縁性樹脂基材層1Bを含む積層体(この例では、第1絶縁性樹脂基材層1B及び第2絶縁性樹脂基材層2Bによって構成されている)において、積層体の主面を有する第1絶縁性樹脂基材層1Bの主面上に信号導体10を形成して第2導体膜付き絶縁性樹脂基材を構成する。また、積層工程において、信号導体10は、第2絶縁性樹脂基材層2Aに接触するように、第2導体膜付き絶縁性樹脂基材を第2絶縁性樹脂基材層2Aと積層する。
【0038】
第1の実施形態において図7に示した例とは異なり、グランド導体21は、第1絶縁性樹脂基材層1Cよりも、積層方向において信号導体10に近接する側に設けられている。また、第1の実施形態とは異なり、第1絶縁性樹脂基材層1Cに第2絶縁性樹脂基材層2Cが積層されている。
【0039】
第1絶縁性樹脂基材層1A,1B,1Cは例えばフッ素樹脂等のシートであり、第2絶縁性樹脂基材層2A,2B,2Cは液晶ポリマー(LCP)やポリ・エーテル・エーテル・ケトン(PEEK)等のシートである。グランド導体21,22及び信号導体10はいずれも銅箔をパターンニングしたものである。
【0040】
第2の実施形態によれば、第1絶縁性樹脂基材層1A,1B,1Cが薄くても、第2絶縁性樹脂基材層2A,2B,2Cに積層された積層体状態でハンドリングされるので、この積層体(ハイブリッド基材)は破損し難い。
【0041】
導体膜として、例えば、銅膜、第2絶縁性樹脂基材層として、例えば、LCPが使用された場合、LCPよりも銅膜に対して密着性の高いフッ素樹脂、例えば、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)またはパーフルオロエチレン・プロペンコポリマー(FEP)が第1絶縁性樹脂基材層として使用される。
【0042】
《第3の実施形態》
第3の実施形態では、導体パターンの両面に第1絶縁性樹脂基材層が設けられた多層基板の製造方法について示す。
【0043】
図11は、第3の実施形態に係る多層基板の、各絶縁性樹脂基材層の積層前における、信号導体に延伸方向に対する垂直な面での断面図である。図12は、その部分の積層後における断面図である。
【0044】
第2絶縁性樹脂基材層2Aの上面に第1絶縁性樹脂基材層1Aが積層されていて、下面に第1絶縁性樹脂基材層1B1が積層されている。同様に、第2絶縁性樹脂基材層2Bの上面に第1絶縁性樹脂基材層1B2が積層されていて、下面に第1絶縁性樹脂基材層1Cが積層されている。
【0045】
図12において、第1絶縁性樹脂基材層1Bは、図11に示す第1絶縁性樹脂基材層1B1,1B2の積層による層である。
【0046】
グランド導体22は第1絶縁性樹脂基材層1Aの上面に設けられている。信号導体10は第1絶縁性樹脂基材層1B2の上面に形成されている。グランド導体21は第2絶縁性樹脂基材層2Cの上面に設けられている。
【0047】
第1、第2の実施形態と同様に、第1絶縁性樹脂基材層1A,1B1,1B2,1Cは例えばフッ素樹脂等のシートであり、第2絶縁性樹脂基材層2A,2B,2Cは液晶ポリマー(LCP)やポリ・エーテル・エーテル・ケトン(PEEK)等のシートである。グランド導体21,22及び信号導体10はいずれも銅箔をパターンニングしたものである。
【0048】
第3の実施形態によれば、信号導体10の両面が第1絶縁性樹脂基材層1B1,1B2で被覆されるので、また、グランド導体21,22の表面が第1絶縁性樹脂基材層1C,1Aで被覆されるので、信号導体10とグランド導体21,22との間にそれぞれ3層の絶縁性樹脂基材層が介在する。そのため、積層、加熱プレス工程で、信号導体10が傾いたり変形したりしても、その信号導体10とグランド導体21,22との接触が効果的に抑制される。
【0049】
《端子部の構造》
上述の多層基板にコネクタを実装する場合、次の構成であることが好ましい。図13(A)、図13(B)は、多層基板にコネクタを実装した構成の断面図である。
【0050】
図13(A)、図13(B)に示すように、コネクタCNは、信号用端子CNSが端子電極11に重なり、グランド用端子CNGがグランド導体21の端子電極に重なるように、配置される。そして、端子電極11と信号用端子CNSとは、はんだ等の導電性接合材90で接合される。同様に、グランド導体21の端子電極とグランド用端子CNGとは、はんだ等の導電性接合材90で接合される。
【0051】
ここで、端子電極11、および、グランド導体21の端子電極は、それぞれに接続する層間接続導体に対して、平面視して重なっている。すなわち、多層基板101とコネクタCNとが導電性接合材90によって接合される箇所は、層間接続導体の位置と、平面視して重なっている。これにより、端子電極11、および、グランド導体21の端子電極に係る応力は抑制され、剥離は抑制される。
【0052】
さらに、図13(B)に示すように、多層基板101Rの厚み方向の端子電極11およびグランド導体21が形成されている側の面に、保護膜40を形成することで、次の作用効果を奏することができる。まず、上述のように、端子電極11およびグランド導体21の端子電極が第1絶縁性樹脂基材層1Cに埋没していることによって、保護膜形成面の平坦性を高めることができ、段差に対する被覆性が低い保護膜でも、容易に形成できる。また、端子電極11およびグランド導体21の端子電極に対して、部分的に覆う、所謂のオーバーレジストを採用することによって、端子電極11およびグランド導体21の端子電極の剥離を抑制できる。なお、図13(B)に示すように、保護膜40は、多層基板101Rの両面に形成されていてもよいが、端子電極11およびグランド導体21が形成されている側の面に少なくとも形成されていればよい。この場合、端子電極11およびグランド導体21に重なる位置に開口400を設ける。
【0053】
最後に、上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではない。当業者にとって変形及び変更が適宜可能である。例えば、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換又は組み合わせが可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0054】
例えば、信号導体とグランド導体を有するストリップライン型の伝送線路を備える多層基板を例示したが、本発明における「導体膜」は信号導体やグランド導体に限るものではなく、その他の導体パターンを有する多層基板にも適用できる。例えばコイルデバイス、インダクタ、アンテナ、アクチュエータ、センサ等各種電子部品として用いる多層基板にも適用できる。
【0055】
以上に示した各実施形態では、一単位の部品について図示したが、当然ながら、複数の素子形成部を含む集合基板状態で各工程の処理がなされ(大判プロセスによって製造され)、最後に個片に分離されてもよい。
【符号の説明】
【0056】
H…開口
MF…導体膜
V…層間接続導体
1A,1B,1C…第1絶縁性樹脂基材層
1B1,1B2…第1絶縁性樹脂基材層
2A,2B,2C…第2絶縁性樹脂基材層
3A,3B,3C…導体膜付き絶縁性樹脂基材
10…信号導体
10E…信号導体の端部
11…端子電極
21,22…グランド導体
24…電極
101…多層基板
201a,201b…回路基板
202…バッテリーパック
210…筐体
301…携帯電子機器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13