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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】半導体装置および半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/739 20060101AFI20231212BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20231212BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20231212BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20231212BHJP
   H01L 29/861 20060101ALI20231212BHJP
   H01L 29/868 20060101ALI20231212BHJP
   H01L 21/8234 20060101ALI20231212BHJP
   H01L 27/06 20060101ALI20231212BHJP
   H01L 21/322 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
H01L29/78 655B
H01L29/78 652G
H01L29/06 301D
H01L29/06 301V
H01L29/78 657D
H01L29/78 652S
H01L29/78 652Q
H01L29/78 655G
H01L29/78 658H
H01L29/78 653A
H01L29/78 652J
H01L29/91 C
H01L29/91 J
H01L29/78 658A
H01L27/06 102A
H01L21/322 L
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021565577
(86)(22)【出願日】2020-12-14
(86)【国際出願番号】 JP2020046623
(87)【国際公開番号】W WO2021125147
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2021-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2019228298
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】窪内 源宜
【審査官】岩本 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-266233(JP,A)
【文献】国際公開第2014/208404(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/100155(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/181852(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/030444(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/739
H01L 29/78
H01L 29/06
H01L 21/336
H01L 29/861
H01L 21/8234
H01L 21/322
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面および下面を有し、バルク・ドナーを含む半導体基板と、
前記上面から前記下面に向かって、水素化学濃度が単調に増加する水素増加部と
を備え、
前記水素増加部は、前記半導体基板の深さ方向における厚みの30%以上に渡って設けられ、
前記水素増加部におけるドナー濃度は、バルク・ドナー濃度よりも高く、
前記水素増加部は、キャリアのライフタイムを調整するライフタイム調整部を含む
半導体装置。
【請求項2】
上面および下面を有し、バルク・ドナーを含む半導体基板と、
前記上面から前記下面に向かって、水素化学濃度が単調に増加する水素増加部と
を備え、
前記水素増加部は、前記半導体基板の深さ方向における厚みの30%以上に渡って設けられ、
前記水素増加部におけるドナー濃度は、バルク・ドナー濃度よりも高く、
前記半導体基板において前記水素増加部以外の領域に設けられた水素濃度ピークを有し、
前記半導体基板に設けられた第1導電型のドリフト領域と、
前記半導体基板の前記上面と前記ドリフト領域との間に設けられた、前記ドリフト領域よりもドーピング濃度の高い第1導電型の蓄積領域と、
前記半導体基板の前記上面と前記蓄積領域との間に設けられた第2導電型のベース領域と、
前記半導体基板の前記上面と前記ベース領域との間に設けられた、前記ドリフト領域よりもドーピング濃度の高い第1導電型のエミッタ領域と、
前記半導体基板の前記上面から前記ドリフト領域に達する深さ位置まで設けられたゲートトレンチ部と
を備え、
前記蓄積領域は、前記水素濃度ピークを含み、
前記水素増加部は、前記ゲートトレンチ部の下端と、前記半導体基板の前記下面の間に配置されている
半導体装置。
【請求項3】
上面および下面を有し、バルク・ドナーを含む半導体基板と、
前記上面から前記下面に向かって、水素化学濃度が単調に増加する水素増加部と
を備え、
前記水素増加部は、前記半導体基板の深さ方向における厚みの30%以上に渡って設けられ、
前記水素増加部におけるドナー濃度は、バルク・ドナー濃度よりも高く、
前記半導体基板において前記水素増加部以外の領域に設けられた水素濃度ピークを有し、
前記水素濃度ピークが、前記水素増加部よりも前記半導体基板の下面側に配置され、
前記水素濃度ピークよりも前記半導体基板の下面側に配置された、水素化学濃度の谷部を更に備える
半導体装置。
【請求項4】
上面および下面を有し、バルク・ドナーを含む半導体基板と、
前記上面から前記下面に向かって、水素化学濃度が単調に増加する水素増加部と
を備え、
前記水素増加部は、前記半導体基板の深さ方向における厚みの30%以上に渡って設けられ、
前記水素増加部におけるドナー濃度は、バルク・ドナー濃度よりも高く、
前記水素増加部は、水素化学濃度の分布形状を近似した直線に対して、±7%以下の変動を有する
半導体装置。
【請求項5】
上面および下面を有し、バルク・ドナーを含む半導体基板と、
前記上面から前記下面に向かって、水素化学濃度が単調に増加する水素増加部と
を備え、
前記水素増加部は、前記半導体基板の深さ方向における厚みの30%以上に渡って設けられ、
前記水素増加部におけるドナー濃度は、バルク・ドナー濃度よりも高く、
前記水素増加部は、前記半導体基板の下面側において、深さ方向の水素化学濃度分布の傾きが前記下面に近づくほど増加する部分を有し、
前記半導体基板は、水素濃度ピークを有さない
半導体装置。
【請求項6】
局所的な水素濃度ピークが設けられた部分を除き、前記上面から前記下面まで前記水素化学濃度が単調に増加している
請求項1からのいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項7】
上面および下面を有し、バルク・ドナーを含む半導体基板と、
前記上面から前記下面に向かって、水素化学濃度が単調に増加する水素増加部と
を備え、
前記水素増加部は、前記半導体基板の深さ方向における厚みの30%以上に渡って設けられ、
前記水素増加部におけるドナー濃度は、バルク・ドナー濃度よりも高く、
前記水素増加部の前記上面側の端部における水素化学濃度より、前記水素増加部の前記下面側の端部における水素化学濃度のほうが高く、
前記水素増加部は、前記半導体基板の下面側において、深さ方向の水素化学濃度分布の傾きが前記下面に近づくほど増加する部分を有する
半導体装置。
【請求項8】
上面および下面を有し、バルク・ドナーを含む半導体基板と、
前記上面から前記下面に向かって、水素化学濃度が単調に増加する水素増加部と
を備え、
前記水素増加部は、前記半導体基板の深さ方向における厚みの70%以上に渡って設けられ、
前記水素増加部におけるドナー濃度は、バルク・ドナー濃度よりも高く、
前記水素増加部の前記上面側の端部における水素化学濃度より、前記水素増加部の前記下面側の端部における水素化学濃度のほうが高い
半導体装置。
【請求項9】
上面および下面を有し、バルク・ドナーを含む半導体基板と、
前記上面から前記下面に向かって、水素化学濃度が単調に増加する水素増加部と、
前記半導体基板において前記水素増加部以外の領域に設けられた水素濃度ピークと、
前記半導体基板に設けられた第1導電型のドリフト領域と、
前記半導体基板の前記上面と前記ドリフト領域との間に設けられた第2導電型のベース領域と、
前記半導体基板の前記上面と前記ベース領域との間に設けられた、前記ドリフト領域よりもドーピング濃度の高い第1導電型のエミッタ領域と、
前記半導体基板の前記下面と前記ドリフト領域との間に設けられた、前記ドリフト領域よりもドーピング濃度の高い第1導電型のバッファ領域と、
前記半導体基板の前記上面から前記ドリフト領域に達する深さ位置まで設けられたゲートトレンチ部と
を備え、
前記水素増加部は、前記半導体基板の深さ方向における厚みの30%以上に渡って設けられ、
前記水素増加部におけるドナー濃度は、バルク・ドナー濃度よりも高く、
前記水素増加部の前記上面側の端部における水素化学濃度より、前記水素増加部の前記下面側の端部における水素化学濃度のほうが高く、
前記バッファ領域は、前記水素濃度ピークを含み、
前記水素増加部は、前記ゲートトレンチ部の下端から、前記バッファ領域の上端まで設けられている
半導体装置。
【請求項10】
前記バッファ領域における前記水素化学濃度の分布は、前記水素濃度ピークから前記下面に向かう下側裾と、前記水素濃度ピークから前記上面に向かう上側裾を有し、
前記上側裾は、前記下側裾よりも急峻に水素化学濃度が変化し、
前記ゲートトレンチ部の下端から前記上側裾まで、前記水素化学濃度が単調に増加している
請求項に記載の半導体装置。
【請求項11】
前記バッファ領域における前記水素化学濃度の分布は、前記水素濃度ピークから前記下面に向かう下側裾と、前記水素濃度ピークから前記上面に向かう上側裾を有し、
前記下側裾は、前記上側裾よりも急峻に水素化学濃度が変化し、
前記ゲートトレンチ部の下端から前記上側裾まで、前記水素化学濃度が単調に増加している
請求項9に記載の半導体装置。
【請求項12】
上面および下面を有する半導体基板を備える半導体装置の製造方法であって、
前記半導体基板の前記上面から、前記半導体基板の内部の予め定められた第1注入位置に水素イオンを注入する第1水素注入段階と、
前記半導体基板の前記下面を研削して、水素が存在する領域の一部を除去する研削段階と、
前記半導体基板を熱処理する熱処理段階と
を備え、
前記第1注入位置は、前記研削段階の後の前記半導体基板の深さ方向の中央よりも下方に配置されている
半導体装置の製造方法。
【請求項13】
上面および下面を有する半導体基板を備える半導体装置の製造方法であって、
前記半導体基板の前記下面を研削する研削段階と、
前記半導体基板の前記上面から、前記半導体基板の内部の予め定められた第1注入位置に水素イオンを注入する第1水素注入段階と、
前記半導体基板を熱処理する熱処理段階と
を備え、
前記第1注入位置は、前記研削段階の後の前記半導体基板の深さ方向の中央よりも下方に配置されている
半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記研削段階において、前記第1注入位置を含む領域を除去する
請求項12に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項15】
前記第1注入位置は、前記半導体基板が研削されて除去された領域内の位置である
請求項13に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項16】
前記熱処理段階の前に、前記半導体基板の前記上面または前記下面から、前記半導体基板の内部の予め定められた第2注入位置に水素イオンを注入する第2水素注入段階を備える
請求項12から15のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項17】
前記研削段階において、前記第2注入位置を含む領域を除去する
請求項16に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項18】
前記第1水素注入段階により注入された水素の第1水素濃度ピークと、前記第2水素注入段階により注入された水素の第2水素濃度ピークとが重なるように、前記第2注入位置に水素を注入する
請求項16または17に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項19】
前記第2注入位置は、前記研削段階で研削されない位置に配置されている
請求項16に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体基板の所定の深さに水素を注入して拡散させることで、水素が通過した領域に形成された格子欠陥と水素が結合してドナー化し、ドーピング濃度を高くできる技術が知られている(例えば、特許文献1-3参照)。
特許文献1 米国特許出願公開第2015/0050754号明細書
特許文献2 再公表特許第2016-204227号
特許文献3 特開2007-266233号公報
【解決しようとする課題】
【0003】
半導体基板の所定の深さに水素を注入すると、当該深さ近傍におけるドナー濃度が高くなってしまう。
【一般的開示】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、半導体装置を提供する。半導体装置は、上面および下面を有し、バルク・ドナーを含む半導体基板を備えてよい。半導体装置は、上面から下面に向かって、水素化学濃度が単調に増加する水素増加部を備えてよい。水素増加部は、半導体基板の前記深さ方向における厚みの30%以上に渡って設けられてよい。水素増加部におけるドナー濃度は、バルク・ドナー濃度よりも高くてよい。
【0005】
局所的な水素濃度ピークが設けられた部分を除き、上面から下面まで水素化学濃度が単調に増加していてよい。
【0006】
水素増加部は、半導体基板の下面側において、深さ方向の水素化学濃度分布の傾きが下面に近づくほど増加する部分を有してよい。
【0007】
半導体基板において水素増加部以外の領域に設けられた水素濃度ピークを有してよい。
【0008】
半導体装置は、半導体基板に設けられた第1導電型のドリフト領域を備えてよい。半導体装置は、半導体基板の上面とドリフト領域との間に設けられた第2導電型のベース領域を備えてよい。半導体装置は、半導体基板の上面とベース領域との間に設けられた、ドリフト領域よりもドーピング濃度の高い第1導電型のエミッタ領域を備えてよい。半導体装置は、半導体基板の下面とドリフト領域との間に設けられた、ドリフト領域よりもドーピング濃度の高い第1導電型のバッファ領域を備えてよい。半導体装置は、半導体基板の上面からドリフト領域に達する深さ位置まで設けられたゲートトレンチ部を備えてよい。バッファ領域は、水素濃度ピークを含んでよい。水素増加部は、トレンチ部の下端と、バッファ領域の上端の間に配置されていてよい。
【0009】
水素増加部は、トレンチ部の下端から、バッファ領域の上端まで設けられていてよい。
【0010】
バッファ領域における水素化学濃度分布は、水素濃度ピークから下面に向かう下側裾と、水素濃度ピークから上面に向かう上側裾を有してよい。上側裾は、下側裾よりも急峻に水素化学濃度が変化してよい。トレンチ部の下端から上側裾まで、水素化学濃度が単調に増加していてよい。
【0011】
水素増加部は、キャリアのライフタイムを調整するライフタイム調整部を含んでよい。
【0012】
半導体装置は、半導体基板に設けられた第1導電型のドリフト領域を備えてよい。半導体装置は、半導体基板の上面とドリフト領域との間に設けられた、ドリフト領域よりもドーピング濃度の高い第1導電型の蓄積領域を備えてよい。半導体装置は、半導体基板の上面と蓄積領域との間に設けられた第2導電型のベース領域を備えてよい。半導体装置は、半導体基板の上面とベース領域との間に設けられた、ドリフト領域よりもドーピング濃度の高い第1導電型のエミッタ領域を備えてよい。半導体基板の上面からドリフト領域に達する深さ位置まで設けられたゲートトレンチ部を備えてよい。蓄積領域は、水素濃度ピークを含んでよい。水素増加部は、トレンチ部の下端と、半導体基板の下面の間に配置されていてよい。
【0013】
本発明の第2の態様においては、上面および下面を有する半導体基板を備える半導体装置の製造方法を提供する。製造方法は、半導体基板の上面から、半導体基板の内部の予め定められた第1注入位置に水素イオンを注入する第1水素注入段階を備えてよい。製造方法は、半導体基板の下面を研削して、水素が存在する領域の一部を除去する研削段階を備えてよい。製造方法は、半導体基板を熱処理する熱処理段階を備えてよい。第1注入位置は、研削段階の後の半導体基板における下面側に配置されていてよい。研削段階は、第1水素注入段階の前であってもよい。
【0014】
研削段階において、第1注入位置を含む領域を除去してよい。第1水素注入段階の前に研削段階を行う場合、第1注入位置は、前記半導体基板が研削されて除去された領域内の位置であってもよい。製造方法は、熱処理段階の前に、半導体基板の上面または下面から、半導体基板の内部の予め定められた第2注入位置に水素イオンを注入する第2水素注入段階を備えてよい。
【0015】
研削段階において、第2注入位置を含む領域を除去してよい。
【0016】
第1水素注入段階により注入された水素の第1水素濃度ピークと、第2水素注入段階により注入された水素の第2水素濃度ピークとが重なるように、第2注入位置に水素を注入してよい。
【0017】
第2注入位置は、研削段階で研削されない位置に配置されていてよい。
【0018】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】半導体装置100の一例を示す断面図である。
図2図1のA-A線に示した位置における、深さ方向の水素化学濃度Dhの分布、ドナー濃度Ddの分布、および、バルク・ドナー濃度D0の分布の例を示している。
図3】直線部204における水素化学濃度Dhの分布例を説明する図である。
図4図1のA-A線に示した位置における、深さ方向の水素化学濃度Dhの分布、ドナー濃度Ddの分布、および、バルク・ドナー濃度D0の分布の他の例を示している。
図5図1のA-A線に示した位置における、深さ方向の水素化学濃度Dhの分布、ドナー濃度Ddの分布、および、バルク・ドナー濃度D0の分布の他の例を示している。
図6】半導体装置100の他の構成例を示す図である。
図7図6のB-B線に示した位置における、深さ方向の水素化学濃度Dhの分布、ドナー濃度Ddの分布、および、バルク・ドナー濃度D0の分布の例を示している。
図8A】半導体装置100の他の構成例を示す図である。
図8B】半導体装置100の他の構成例を示す図である。
図9A図8AのC-C線に示した位置における、深さ方向の水素化学濃度Dhの分布、ドナー濃度Ddの分布、および、バルク・ドナー濃度D0の分布の例を示している。
図9B図8BのI-I線に示した位置における、深さ方向の水素化学濃度Dhの分布、ドナー濃度Ddの分布、および、バルク・ドナー濃度D0の分布の例を示している。
図10A図1のA-A断面における水素化学濃度Dhと、キャリア濃度Dcの各分布例を示す図である。
図10B図1のA-A断面における水素化学濃度Dhと、キャリア濃度Dcの各分布例を示す別の図である。
図11A図8AのC-C断面における水素化学濃度Dhと、キャリア濃度Dcの各分布例を示す図である。
図11B図8AのC-C断面における水素化学濃度Dhと、キャリア濃度Dcの各分布例を示す別の図である。
図12】半導体装置100の一例を示す上面図である。
図13図12における領域Dの拡大図である。
図14図13におけるe-e断面の一例を示す図である。
図15図14におけるF-F線におけるドーピング濃度Ddp、および、水素化学濃度Dhの分布例を示す図である。
図16図14におけるF-F線におけるドーピング濃度Ddp、および、水素化学濃度Dhの他の分布例を示す図である。
図17図13におけるe-e断面の他の例を示す図である。
図18】半導体装置100の製造方法の一例を示す図である。
図19】半導体装置100の製造方法の他の例を示す図である。
図20】半導体装置100の製造方法の他の例を示す図である。
図21】半導体装置100の製造方法の他の例を示す図である。
図22】半導体装置100の他の例を示す断面図である。
図23図22のG-G線に示した位置における、深さ方向の水素化学濃度Dhの分布、ドナー濃度Ddの分布、および、バルク・ドナー濃度D0の分布の例を示している。
図24】半導体装置100の製造方法の他の例を示す図である。
図25】半導体装置100の一例を示す断面図である。
図26図25のH-H線に示した位置における、深さ方向の水素化学濃度Dhの分布、ドナー濃度Ddの分布、および、バルク・ドナー濃度D0の分布の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0021】
本明細書においては半導体基板の深さ方向と平行な方向における一方の側を「上」、他方の側を「下」と称する。基板、層またはその他の部材の2つの主面のうち、一方の面を上面、他方の面を下面と称する。「上」、「下」の方向は、重力方向または半導体装置の実装時における方向に限定されない。
【0022】
本明細書では、X軸、Y軸およびZ軸の直交座標軸を用いて技術的事項を説明する場合がある。直交座標軸は、構成要素の相対位置を特定するに過ぎず、特定の方向を限定するものではない。例えば、Z軸は地面に対する高さ方向を限定して示すものではない。なお、+Z軸方向と-Z軸方向とは互いに逆向きの方向である。正負を記載せず、Z軸方向と記載した場合、+Z軸および-Z軸に平行な方向を意味する。
【0023】
本明細書では、半導体基板の上面および下面に平行な直交軸をX軸およびY軸とする。また、半導体基板の上面および下面と垂直な軸をZ軸とする。本明細書では、Z軸の方向を深さ方向と称する場合がある。また、本明細書では、X軸およびY軸を含めて、半導体基板の上面および下面に平行な方向を、水平方向と称する場合がある。
【0024】
また、半導体基板の深さ方向における中心から、半導体基板の上面までの領域を、上面側と称する場合がある。同様に、半導体基板の深さ方向における中心から、半導体基板の下面までの領域を、下面側と称する場合がある。
【0025】
本明細書において「同一」または「等しい」のように称した場合、製造ばらつき等に起因する誤差を有する場合も含んでよい。当該誤差は、例えば10%以内である。
【0026】
本明細書においては、不純物がドーピングされたドーピング領域の導電型をP型またはN型として説明している。本明細書においては、不純物とは、特にN型のドナーまたはP型のアクセプタのいずれかを意味する場合があり、ドーパントと記載する場合がある。本明細書においては、ドーピングとは、半導体基板にドナーまたはアクセプタを導入し、N型の導電型を示す半導体またはP型の導電型を示す半導体とすることを意味する。
【0027】
本明細書においては、ドーピング濃度とは、熱平衡状態におけるドナーの濃度またはアクセプタの濃度を意味する。本明細書においては、ネット・ドーピング濃度とは、ドナー濃度を正イオンの濃度とし、アクセプタ濃度を負イオンの濃度として、電荷の極性を含めて足し合わせた正味の濃度を意味する。一例として、ドナー濃度をN、アクセプタ濃度をNとすると、任意の位置における正味のネット・ドーピング濃度はN-Nとなる。本明細書では、ネット・ドーピング濃度を単にドーピング濃度と記載する場合がある。
【0028】
ドナーは、半導体に電子を供給する機能を有している。アクセプタは、半導体から電子を受け取る機能を有している。ドナーおよびアクセプタは、不純物自体には限定されない。例えば、半導体中に存在する空孔(V)、酸素(O)および水素(H)が結合したVOH欠陥は、電子を供給するドナーとして機能する。本明細書では、VOH欠陥を水素ドナーと称する場合がある。
【0029】
本明細書においてP+型またはN+型と記載した場合、P型またはN型よりもドーピング濃度が高いことを意味し、P-型またはN-型と記載した場合、P型またはN型よりもドーピング濃度が低いことを意味する。また、本明細書においてP++型またはN++型と記載した場合には、P+型またはN+型よりもドーピング濃度が高いことを意味する。本明細書の単位系は、特に断りがなければSI単位系である。長さの単位をcmで表示することがあるが、諸計算はメートル(m)に換算してから行ってよい。
【0030】
本明細書において化学濃度とは、電気的な活性化の状態によらずに測定される不純物の原子密度を指す。化学濃度は、例えば二次イオン質量分析法(SIMS)により計測できる。上述したネット・ドーピング濃度は、電圧-容量測定法(CV法)により測定できる。また、拡がり抵抗測定法(SR法)により計測されるキャリア濃度を、ネット・ドーピング濃度としてよい。CV法またはSR法により計測されるキャリア濃度は、熱平衡状態における値としてよい。また、N型の領域においては、ドナー濃度がアクセプタ濃度よりも十分大きいので、当該領域におけるキャリア濃度を、ドナー濃度としてもよい。同様に、P型の領域においては、当該領域におけるキャリア濃度を、アクセプタ濃度としてもよい。本明細書では、N型領域のドーピング濃度をドナー濃度と称する場合があり、P型領域のドーピング濃度をアクセプタ濃度と称する場合がある。
【0031】
また、ドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度分布がピークを有する場合、当該ピーク値を当該領域におけるドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度としてよい。ドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度がほぼ均一な場合等においては、当該領域におけるドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度の平均値をドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度としてよい。本明細書において、単位体積当りの濃度表示にatоms/cm、または、/cmを用いる。この単位は、半導体基板内のドナーまたはアクセプタ濃度、または、化学濃度に用いられる。atоms表記は省略してもよい。
【0032】
SR法により計測されるキャリア濃度が、ドナーまたはアクセプタの濃度より低くてもよい。拡がり抵抗を測定する際に電流が流れる範囲において、半導体基板のキャリア移動度が結晶状態の値よりも低い場合がある。キャリア移動度の低下は、格子欠陥等による結晶構造の乱れ(ディスオーダー)により、キャリアが散乱されることで生じる。
【0033】
CV法またはSR法により計測されるキャリア濃度から算出したドナーまたはアクセプタの濃度は、ドナーまたはアクセプタを示す元素の化学濃度よりも低くてよい。一例として、シリコンの半導体においてドナーとなるリンまたはヒ素のドナー濃度、あるいはアクセプタとなるボロン(ホウ素)のアクセプタ濃度は、これらの化学濃度の99%程度である。一方、シリコンの半導体においてドナーとなる水素のドナー濃度は、水素の化学濃度の0.1%から10%程度である。本明細書における各濃度は、室温における値でよい。室温における値は、一例として300K(ケルビン)(約26.9℃)のときの値を用いてよい。
【0034】
図1は、半導体装置100の一例を示す断面図である。半導体装置100は半導体基板10を備える。半導体基板10は、半導体材料で形成された基板である。一例として半導体基板10はシリコン基板である。
【0035】
半導体基板10には、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor:IGBT)等のトランジスタ素子、および、還流ダイオード(FWD)等のダイオード素子の少なくとも一方が形成されている。図1においては、トランジスタ素子およびダイオード素子の各電極、半導体基板10の内部に設けられた各領域を省略している。トランジスタ素子およびダイオード素子の構成例は後述する。
【0036】
本例の半導体基板10は、N型のバルク・ドナーが全体に分布している。バルク・ドナーは、半導体基板10の元となるインゴットの製造時に、インゴット内に略一様に含まれたドーパントによるドナーである。本例のバルク・ドナーは、水素以外の元素である。バルク・ドナーのドーパントは、例えばリン、アンチモン、ヒ素、セレンまたは硫黄であるが、これに限定されない。本例のバルク・ドナーは、リンである。バルク・ドナーは、P型の領域にも含まれている。
【0037】
半導体基板10は、半導体のインゴットから切り出したウエハであってよく、ウエハを個片化したチップであってもよい。半導体のインゴットは、チョクラルスキー法(CZ法)、磁場印加型チョクラルスキー法(MCZ法)、フロートゾーン法(FZ法)のいずれかで製造されよい。本例におけるインゴットは、MCZ法で製造されている。MCZ法で製造された基板に含まれる酸素濃度は1×1017~7×1017/cmである。FZ法で製造された基板に含まれる酸素濃度は1×1015~5×1016/cmである。酸素濃度が高い方が水素ドナーが生成しやすい傾向がある。バルク・ドナー濃度は、半導体基板10の全体に分布しているバルク・ドナーの化学濃度を用いてよく、当該化学濃度の90%から100%の間の値であってもよい。また、半導体基板10は、リン等のドーパントを含まないノンドープ基板を用いてもよい。その場合、ノンドーピング基板のバルク・ドナー濃度(D0)は例えば1×1010/cm以上、5×1012/cm以下である。ノンドーピング基板のバルク・ドナー濃度(D0)は、好ましくは1×1011/cm以上である。ノンドーピング基板のバルク・ドナー濃度(D0)は、好ましくは5×1012/cm以下である。
【0038】
半導体基板10は、下面を研削することで、所定の耐圧に応じた厚みに調整される。図1においては、研削前の下面19と、研削後の下面23を示している。また、研削により除去された半導体基板10の領域を破線で示している。本明細書では、特に説明した場合を除き、半導体基板10を研削後の基板として説明する。
【0039】
研削後の半導体基板10は、互いに向かい合う上面21および下面23を有する。上面21および下面23は、半導体基板10の2つの主面である。本明細書では、上面21および下面23と平行な面における直交軸をX軸およびY軸、上面21および下面23と垂直な軸をZ軸とする。
【0040】
研削前の半導体基板10には、上面21から、第1注入位置Zi1に水素イオン(例えばプロトン)が注入されている。第1注入位置Zi1は、深さ方向(Z軸方向)における上面21からの距離がZi1の位置である。本明細書においては、特に定義される場合を除き、Z軸方向における位置を上面21からの距離で規定する。水素イオンが半導体基板10の内部を通過する平均距離(飛程とも称される)は、水素イオンを加速する加速エネルギーにより制御できる。本例においては、水素イオンの飛程が、距離Zi1となるように加速エネルギーが調整される。
【0041】
第1注入位置Zi1において水素化学濃度がピークを示す。また、半導体基板10の内部において、水素イオンが通過した領域には、一部の水素イオンが残留する。このため、上面21から第1注入位置Zi1まで、水素を分布させることができる。本明細書では、注入された水素イオンが通過した領域を通過領域と称する場合がある。図1の例では、半導体基板10の上面21から第1注入位置Zi1までが通過領域である。上面21の全体に水素イオンが注入されてよく、一部の領域だけに水素イオンを注入してもよい。
【0042】
半導体基板10において水素イオンが通過した通過領域には、水素が通過したことにより、単原子空孔(V)、複原子空孔(VV)等の、空孔を主体とする格子欠陥が形成されている。空孔に隣接する原子は、ダングリング・ボンドを有する。格子欠陥には格子間原子や転位等も含まれ、広義ではドナーやアクセプタも含まれ得るが、本明細書では空孔を主体とする格子欠陥を空孔型格子欠陥、空孔型欠陥、あるいは単に格子欠陥と称する場合がある。また、半導体基板10への水素イオン注入により、格子欠陥が多く形成されることで、半導体基板10の結晶性が強く乱れることがある。本明細書では、この結晶性の乱れをディスオーダーと称する場合がある。
【0043】
また、半導体基板10の全体には酸素が含まれる。当該酸素は、半導体のインゴットの製造時において、意図的にまたは意図せずに導入される。半導体基板10の内部では、水素(H)、空孔(V)および酸素(O)が結合し、VOH欠陥が形成される。また、半導体基板10を熱処理することで水素が拡散し、VOH欠陥の形成が促進される。VOH欠陥は、電子を供給するドナーとして機能する。本明細書では、VOH欠陥を単に水素ドナーと称する場合がある。本例の半導体基板10には、水素イオンの通過領域に水素ドナーが形成される。水素ドナーのドーピング濃度は、水素の化学濃度よりも低い。水素の化学濃度に対する水素ドナーのドーピング濃度の割合を活性化率とすると、活性化率は0.1%~30%の値であってよい。本例では、活性化率は1%~5%である。
【0044】
半導体基板10の通過領域に水素ドナーを形成することで、通過領域におけるドナー濃度を、バルク・ドナー濃度よりも高くできる。通常は、半導体基板10に形成すべき素子の特性、特に定格電圧または耐圧に対応させて、所定のバルク・ドナー濃度を有する半導体基板10を準備しなければならない。これに対して、図1に示した半導体装置100によれば、水素イオンのドーズ量を制御することで、半導体基板10のドナー濃度を調整できる。このため、素子の特性等に対応していないバルク・ドナー濃度の半導体基板を用いて、半導体装置100を製造できる。半導体基板10の製造時におけるバルク・ドナー濃度のバラツキは比較的に大きいが、水素イオンのドーズ量は比較的に高精度に制御できる。このため、水素イオンを注入することで生じる格子欠陥の濃度も高精度に制御でき、通過領域のドナー濃度を高精度に制御できる。
【0045】
また、下面19を研削する工程においては、水素が存在する領域の一部が除去される。第1注入位置Zi1の近傍まで下面19を研削してよい。図1の例では、第1注入位置Zi1よりも上面21側まで半導体基板10の下面19を研削している。第1注入位置Zi1の近傍には、水素ドナーが比較的に多く形成される。第1注入位置Zi1の近傍まで研削することで、水素ドナーの濃度ピーク近傍の高濃度領域の少なくとも一部を除去できる。これにより、不要な高濃度領域を除去して、半導体装置100の特性を調整しやすくなる。また、第1注入位置Zi1の近傍には、格子欠陥が比較的に多く形成される。第1注入位置Zi1の近傍まで研削することで、格子欠陥が多い領域の少なくとも一部を除去して半導体装置100の特性を調整しやすくなる。
【0046】
研削後の下面23は、第1注入位置Zi1よりも上面21側に配置していてよく、下面19側に配置していてよく、第1注入位置Zi1に配置していてもよい。下面23と第1注入位置Zi1のZ軸方向における距離は、10μm以下であってよく、5μm以下であってよく、1μm以下であってもよい。なお、本明細書においては、上面21の深さ位置をZ1(つまり、上面21と深さ位置Z1との距離は0μmである)、下面23の深さ位置をZ2、下面19の深さ位置をZ3とする。
【0047】
図2は、図1のA-A線に示した位置における、深さ方向の水素化学濃度Dhの分布、ドナー濃度Ddの分布、および、バルク・ドナー濃度D0の分布の例を示している。図2の横軸は、上面21からの深さ位置を示す線形軸であり、縦軸は、単位体積当たりの濃度を示す対数軸である。図2におけるドナー濃度Ddは、例えばCV法またはSR法で計測される。図2における水素化学濃度Dhは、例えばSIMS法で計測される水素濃度である。バルク・ドナー濃度D0は、例えばSIMS法で計測されるリン濃度である。ただし、局所的に半導体基板10に注入されたリン濃度は除外している。バルク・ドナー濃度D0は、半導体基板10の全面において均一である。図2では、水素化学濃度Dhを実線で示し、ドナー濃度Ddおよびバルク・ドナー濃度D0を破線で示している。
【0048】
図2においては、半導体基板10の深さ方向における中央位置をZcとする。また、半導体基板10の上面21における水素化学濃度をDh1、ドナー濃度をDd1とし、下面23における水素化学濃度をDh2、ドナー濃度をDd2とし、第1注入位置Zi1における水素化学濃度をDhi1、ドナー濃度をDdi1とする。
【0049】
第1注入位置Zi1において、水素化学濃度Dhは第1水素濃度ピーク201を有し、ドナー濃度Ddは第1ドナー濃度ピーク211を有する。水素化学濃度Dhの分布は、第1水素濃度ピーク201から下面23に向かう下側裾202と、第1水素濃度ピーク201から上面21に向かう上側裾203とを有する。上面21から第1注入位置Zi1に水素イオンを注入しているので、第1注入位置Zi1よりも下面23側の領域では、水素化学濃度が急峻に減少する。このため、下側裾202は、上側裾203よりも水素化学濃度の変化が急峻である。ドナー濃度Ddの分布は、第1ドナー濃度ピーク211から下面23に向かう下側裾212と、第1ドナー濃度ピーク211から上面21に向かう上側裾213とを有する。下側裾212は、上側裾213よりもドナー濃度の変化が急峻である。
【0050】
半導体基板10は、上面21から下面23に向かって、水素化学濃度Dhが単調に増加する水素増加部180を備える。単調に増加とは、上面21から下面23に向かって、水素化学濃度Dhが減少する部分が無いことを指す。つまり、水素増加部180は、上面21から下面23に向かって、水素化学濃度Dhが変化しない領域と、水素化学濃度Dhが増加する領域とで構成されている。上面21から第1注入位置Zi1に水素イオンを注入しているので、第1注入位置Zi1に近いほど水素化学濃度Dhは高くなり、上面21に近いほど水素化学濃度Dh低くなりやすい。また、半導体基板10を熱処理することで、第1注入位置Zi1の近傍における高濃度の水素が上面21に向かって拡散するので、第1注入位置Zi1に近いほど水素化学濃度Dhは高くなりやすい。このため、半導体基板10には、水素増加部180が形成される。
【0051】
水素増加部180は、半導体基板10の深さ方向における厚みZ2の30%以上に渡って連続して設けられている。これにより、半導体基板10の当該領域のドナー濃度を調整できる。水素増加部180は、半導体基板10の厚みZ2の50%以上に渡って連続して設けられてよく、70%以上に渡って連続して設けられてよく、80%以上に渡って連続して設けられてもよい。
【0052】
水素増加部180は、半導体基板10の中央位置Zcを跨いで設けられてよい。つまり水素増加部180は、半導体基板10の上面21側から、下面23側まで設けられてよい。なお、第1注入位置Zi1は、半導体基板10の下面23側に配置されている。図2の例では、下面23が、第1注入位置Zi1よりも上面21側に配置されている。この場合、上面21から下面23まで、水素増加部180が設けられてよい。また、下面23が、第1注入位置Zi1よりも下面19側に配置されている場合、半導体基板10の内部に第1水素濃度ピーク201が配置される。この場合、水素増加部180は、上面21から、第1注入位置Zi1まで設けられる。
【0053】
本例の水素化学濃度Dhの分布は、直線部204を有する。直線部204は、水素化学濃度Dhの分布形状が直線で近似される領域である。直線部204は、水素化学濃度Dhが下面23に向かって単調に増加し、または、ほぼ均一である。半導体基板10の内部に上側裾203が残存している場合、水素化学濃度Dhの分布は、直線部204と上側裾203とを接続する接続部205を有する。水素化学濃度Dhの分布の傾きは、接続部205において、下面23に近づくほど増大している。上側裾203を半導体基板10に残存させることで、比較的に水素化学濃度Dhの高い領域を残存させることができるので、当該領域から上面21に向かって水素を拡散できる。このため、水素ドナーを形成しやすくなる。また、ドナー濃度Ddが高い領域が残存するので、高濃度のN型領域として用いることができる。下面23における水素化学濃度Dh2は、上面21における水素化学濃度Dh1の2倍以上であってよく、5倍以上であってよく、10倍以上であってもよい。
【0054】
ドナー濃度Ddの分布は、直線部214を有する。直線部214は、ドナー濃度Ddの分布形状が直線で近似される領域である。半導体基板10の内部に上側裾213が残存している場合、ドナー濃度Ddの分布は、直線部214と上側裾213とを接続する接続部215を有する。ドナー濃度Ddの分布の傾きは、接続部215において、下面23に近づくほど増大してよい。下面23におけるドナー濃度Dd2は、上面21におけるドナー濃度Dd1の2倍以上であってよく、5倍以上であってよく、10倍以上であってもよい。
【0055】
図3は、直線部204における水素化学濃度Dhの分布例を説明する図である。本図の縦軸および横軸はリニア・スケールである。直線部204における水素化学濃度Dhは、均一か、または、下面23に向かって単調に増加する。ただし、水素化学濃度Dhの分布は、測定誤差等により、微小な凹凸を有していてもよい。
【0056】
上述したように、直線部204における水素化学濃度Dhの分布は、直線190で近似される。直線190は、平坦か、または、上面21から下面23に向かって水素化学濃度Dhが増加する直線である。直線部204における水素化学濃度Dhは、直線190に対して、±7%以下の変動を有してよい。直線190に対して±7%の幅を有する範囲を、帯状範囲192とする。帯状範囲192の幅は、直線190の値の±17%であってよく、直線190の値の±30%であってもよい。
【0057】
水素化学濃度Dhが帯状範囲192内に収まる領域を直線部204としてよい。直線部204は、半導体基板10の厚みの30%以上の長さに渡って連続して設けられてよく、50%以上の長さに渡って連続して設けられてよく、70%以上の長さに渡って連続して設けられてもよい。
【0058】
直線部204の深さ方向の両端の水素化学濃度Dhを直線で結んだ分布を、直線190としてよい。直線190は、所定の領域における水素化学濃度Dhを一次関数でフィッティングさせた直線であってもよい。
【0059】
直線部204における直線190の傾きの絶対値は、深さ(μm)に対して、0/(cm・μm)以上、2×1012/(cm・μm)以下であってよく、0/(cm・μm)より大きく、1×1012/(cm・μm)以下であってもよい。さらに、直線部204における直線190の傾きの絶対値は、深さ(μm)に対して、1×1010/(cm・μm)以上、1×1012/(cm・μm)以下であってよく、1×1010/(cm・μm)以上、5×1011/(cm・μm)以下であってもよい。ここで、5×1011/(cm・μm)は、5×1015/cmと同じ傾き(同等)である。
【0060】
直線190の傾きの別の指標として、片対数傾きを用いてもよい。直線部204の深さ方向の一方の端の位置をx1(cm)、他方の端の位置x2(cm)とする。x1における濃度をN1(/cm)、x2における濃度をN2(/cm)とする。所定の領域における片対数傾きη(/cm)を、η=(log10(N2)-lоg10(N1))/(x2-x1)と定義する。直線部204における直線190の片対数傾きηの絶対値は、0/cm以上、50/cm以下であってよく、0/cm以上、30/cm以下であってもよい。さらに、直線部204における直線190の片対数傾きηの絶対値は、0/cm以上、20/cm以下であってよく、0/cm以上、10/cm以下であってもよい。
【0061】
図4は、図1のA-A線に示した位置における、深さ方向の水素化学濃度Dhの分布、ドナー濃度Ddの分布、および、バルク・ドナー濃度D0の分布の他の例を示している。本例においては、第1注入位置Zi1と、下面23の深さ位置Z2とが一致している。他の構造は、図2の例と同一である。本例では、下面23における水素化学濃度Dh2は、第1水素濃度ピーク201の水素化学濃度Dhi1と一致する。また、上面21から下面23までの全体が水素増加部180となる。本例によれば、第1水素濃度ピーク201が半導体基板10に含まれるので、上面21側への水素の拡散が容易である。また、高濃度のN型領域を形成できる。
【0062】
図5は、図1のA-A線に示した位置における、深さ方向の水素化学濃度Dhの分布、ドナー濃度Ddの分布、および、バルク・ドナー濃度D0の分布の他の例を示している。本例においては、第1注入位置Zi1が、下面23よりも上面21側に配置されている。他の構造は、図2の例と同一である。本例では、半導体基板10の下面23側において、水素化学濃度Dhが、下側裾202と、第1水素濃度ピーク201と、上側裾203とを有する。下面23の深さ位置Z2は、下側裾202が設けられた範囲内に配置されてよい。この場合、半導体基板10には、下側裾202の一部だけが残存する。本例では、下面23における水素化学濃度Dh2は、第1水素濃度ピーク201の水素化学濃度Dhi1より小さい。本例によれば、上面21側への水素の拡散が更に容易である。また、高濃度のN型領域を形成できる。
【0063】
図6は、半導体装置100の他の構成例を示す図である。本例の半導体装置100は、第2注入位置Zi2にも水素イオンが注入されている点で図1から図5に示した例と異なる。他の構造は、図1から図5において説明したいずれかの態様の半導体装置100と同様である。
【0064】
本例の第2注入位置Zi2は、半導体基板10の上面21側に配置されている。第2注入位置Zi2は、上面21からの深さ方向の距離が5μm以下であってよく、10μm以下であってよく、20μm以下であってもよい。図6の例では、上面21から第2注入位置Zi2に水素イオンを注入している。他の例では、下面23から第2注入位置Zi2に水素イオンを注入してもよい。
【0065】
第2注入位置Zi2に水素イオンを注入した後に熱処理することで、第2注入位置Zi2から下面23に向かって水素を拡散させることができる。これにより、第1注入位置Zi1に水素イオンを注入したときの水素イオンの通過領域に、十分な濃度の水素を供給できる。このため、水素ドナーを容易に形成できる。
【0066】
図7は、図6のB-B線に示した位置における、深さ方向の水素化学濃度Dhの分布、ドナー濃度Ddの分布、および、バルク・ドナー濃度D0の分布の例を示している。本例の半導体基板10は、第2注入位置Zi2において、第2水素濃度ピーク206と、第2ドナー濃度ピーク216を有する。水素化学濃度Dhの分布は、第2水素濃度ピーク206から下面23に向かう下側裾207と、第2水素濃度ピーク206から上面21に向かう上側裾208とを有する。第2水素濃度ピーク206の半値全幅は、半導体基板10の厚みの1/10以下であってよい。上面21から第2注入位置Zi2に水素イオンを注入しているので、下側裾207は、上側裾208よりも水素化学濃度の変化が急峻である。ドナー濃度Ddの分布は、第2ドナー濃度ピーク216から下面23に向かう下側裾217と、第2ドナー濃度ピーク216から上面21に向かう上側裾218とを有する。下側裾217は、上側裾218よりもドナー濃度の変化が急峻である。他の構造は、図1から図5において説明したいずれかの態様の半導体装置100と同様である。
【0067】
第2水素濃度ピーク206の水素化学濃度Dhi2は、下面23における水素化学濃度Dh2より大きくてよく、小さくてもよい。第2水素濃度ピーク206の水素化学濃度Dhi2を大きくすることで、下面23側に向かって水素が拡散しやすくなる。また、第2水素濃度ピーク206の水素化学濃度Dhi2を小さくすることで、第2注入位置Zi2の近傍に形成される格子欠陥の濃度を低くできる。第2水素濃度ピーク206の水素化学濃度Dhi2は、下面23における水素化学濃度Dh2の10倍以上であってよい。第2水素濃度ピーク206の水素化学濃度Dhi2は、第1水素濃度ピーク201の水素化学濃度Dhi1より大きくてよく、小さくてもよい。
【0068】
第2ドナー濃度ピーク216のドナー濃度Ddi2は、下面23におけるドナー濃度Dd2より大きくてよく、小さくてもよい。第2ドナー濃度ピーク216のドナー濃度Ddi2は、下面23におけるドナー濃度Dd2の10倍以上であってよい。
【0069】
第2水素濃度ピーク206は、水素増加部180以外の領域に配置されている。本例においては、水素増加部180が、第2水素濃度ピーク206から、下面23まで設けられている。また、局所的な第2水素濃度ピーク206(上側裾208および下側裾207を含む)が設けられた部分を除き、上面21から下面23まで水素化学濃度Dhが単調に増加している。
【0070】
図8Aは、半導体装置100の他の構成例を示す図である。本例の半導体装置100は、第2注入位置Zi2にも水素イオンが注入されている点で図1から図5に示した例と異なる。他の構造は、図1から図5において説明したいずれかの態様の半導体装置100と同様である。
【0071】
本例の第2注入位置Zi2は、半導体基板10の下面23側に配置されている。第2注入位置Zi2は、下面23からの深さ方向の距離が5μm以下であってよく、10μm以下であってよく、20μm以下であってもよい。また、第2注入位置Zi2は、第1注入位置Zi1と上面21との間に配置されてよい。第2注入位置Zi2は、第1注入位置Zi1からの深さ方向の距離が1μm以下であってよく、5μm以下であってよく、10μm以下であってもよい。第2注入位置Zi2は、第1注入位置Zi1と一致していてもよい。第2注入位置Zi2は、第1注入位置Zi1より下面側に位置してもよい。
【0072】
第2注入位置Zi2に水素イオンを注入した後に熱処理することで、第2注入位置Zi2から上面21に向かって水素を拡散させることができる。これにより、第1注入位置Zi1に水素イオンを注入したときの水素イオンの通過領域に、十分な濃度の水素を供給できる。このため、水素ドナーを容易に形成できる。
【0073】
図8Bは、半導体装置100の他の構成例を示す図である。本例の半導体装置100は、下面23の位置が、第1注入位置Zi1および第2注入位置Zi2のいずれよりも上面21側に配置されている点で、図8Aの例と相違する。他の構造は、図8Aの例と同一である。本例では、熱処理をすることで水素を拡散させた後に、下面19を研削する。これにより研削後の半導体基板10には、第1注入位置Zi1および第2注入位置Zi2における高濃度の水素が残らない。
【0074】
図9Aは、図8AのC-C線に示した位置における、深さ方向の水素化学濃度Dhの分布、ドナー濃度Ddの分布、および、バルク・ドナー濃度D0の分布の例を示している。本例の半導体基板10は、第2注入位置Zi2において、第2水素濃度ピーク206と、第2ドナー濃度ピーク216を有する。また、第2注入位置Zi2と第1注入位置Zi1との間において、水素化学濃度の谷部209と、ドナー濃度の谷部219とを有する。谷部は、濃度が極小値となる部分である。
【0075】
第2水素濃度ピーク206の水素化学濃度Dhi2は、下面23における水素化学濃度Dh2より大きくてよく、小さくてもよい。第2水素濃度ピーク206の水素化学濃度Dhi2は、第1水素濃度ピーク201の水素化学濃度Dhi1より大きくてよく、小さくてもよい。第2水素濃度ピーク206の水素化学濃度Dhi2は、下面23における水素化学濃度Dh2の10倍以上であってよく、第1水素濃度ピーク201の水素化学濃度Dhi1の10倍以上であってもよい。
【0076】
第1水素濃度ピーク201と、第2水素濃度ピーク206とは、重なるように配置されてよい。ピークが重なるとは、一方のピークの半値全幅の範囲内に、他方のピークの頂点が配置されていることを指してよい。また、谷部209の水素化学濃度が、水素化学濃度Dhi1および水素化学濃度Dhi2の低い方の半分以上である場合に、第1水素濃度ピーク201と、第2水素濃度ピーク206とが重なっているとしてもよい。
【0077】
第2ドナー濃度ピーク216の水素化学濃度Ddi2は、下面23におけるドナー濃度Dd2より大きくてよく、小さくてもよい。第2ドナー濃度ピーク216のドナー濃度Ddi2は、下面23におけるドナー濃度Dd2の10倍以上であってよく、第1ドナー濃度ピーク211の10倍以上であってもよい。
【0078】
図9Bは、図8BのI-I線に示した位置における、深さ方向の水素化学濃度Dhの分布、ドナー濃度Ddの分布、および、バルク・ドナー濃度D0の分布の例を示している。図8Bにおいて説明したように、本例における深さ位置Z2は、第1水素濃度ピーク201および第2水素濃度ピーク206の位置よりも、上面21側にあってよい。
【0079】
図10Aは、図1のA-A断面における水素化学濃度Dhと、キャリア濃度Dcの各分布例を示す図である。水素化学濃度Dhの分布は、図2、または図4、または図5の例と同一であってよい。本例の半導体装置100は、水素増加部180にライフタイム調整部231を有する。ライフタイム調整部231は、格子欠陥等のライフタイムキラーの密度分布が極大値を示す部分である。ライフタイムキラーは、正孔または電子と結合することで、キャリアのライフタイムを短くする。また、ライフタイム調整部231は、キャリアのライフタイムが極小値を示す部分であってもよい。
【0080】
上面21から第1注入位置Zi1に水素イオンを注入することで、水素イオンが通過した領域には格子欠陥が形成される。特に、第1注入位置Zi1の周辺には格子欠陥が高密度に形成される。ただし、第1注入位置Zi1の近傍においては、水素も高濃度に存在するので、格子欠陥と水素が結合して水素ドナーとなる。このため、第1注入位置Zi1において、キャリア濃度Dcはキャリア濃度ピーク220を有する。一方で、第1注入位置Zi1よりも上面21側の領域では、水素化学濃度が比較的に低いので、格子欠陥が多く残存しうる。このため、キャリア濃度Dcは、キャリア濃度ピーク220と接して、ライフタイム調整部231を有する場合がある。
【0081】
図10Bは、図1のA-A断面における水素化学濃度Dhと、キャリア濃度Dcの各分布例を示す別の図である。図10Aとは、キャリア濃度ピーク220の上面21側の領域において、キャリア濃度Dcの低下がなく、キャリアのライフタイム調整部231を備えていない点で異なる。本例では、キャリアのライフタイムが極小値を備えなくてもよい。下面23におけるキャリア濃度をDc2とし、第1注入位置Zi1におけるキャリア濃度をDci(図10Bの例ではDc2=Dci)とする。キャリア濃度Dc2、Dciは、ドナー濃度Dd2、Ddiと同一であってよい。
【0082】
図11Aは、図8AのC-C断面における水素化学濃度Dhと、キャリア濃度Dcの各分布例を示す図である。水素化学濃度Dhの分布は、図9Aの例と同一であってよい。本例においては、第1水素濃度ピーク201と接して、第2水素濃度ピーク206が配置されている。第2水素濃度ピーク206を設けることで、第2水素濃度ピーク206の近傍における格子欠陥が水素と結合して水素ドナー化する。このため、第2水素濃度ピーク206の近傍におけるキャリアライフタイムは回復する。本例では、下面19を研削した後に、下面23から第2注入位置Zi2に水素イオンを注入してよい。これにより、第2注入位置Zi2への水素イオンの加速エネルギーを小さくでき、第2注入位置Zi2に水素イオンを注入したことに起因する格子欠陥の形成を抑制できる。
【0083】
本例のライフタイム調整部230は、第2水素濃度ピーク206よりも上面21側において、第2水素濃度ピーク206と接して設けられている。また、第2水素濃度ピーク206を設けることで、ライフタイム調整部230の深さ方向における長さを調整できる。このため、深さ方向におけるキャリアライフタイムの分布を制御しやすくなる。一般にライフタイムキラーは、ヘリウム等の水素以外の粒子を照射することで形成される。本例においては、水素を照射することでライフタイム調整部230を形成できる。このため、本例のライフタイム調整部230にはヘリウムが含まれていない。
【0084】
なお、第2注入位置Zi2には、半導体基板10の下面側から水素イオンが注入されている。このため、第2水素濃度ピーク206の上側裾208は、下側裾207よりも水素化学濃度が急峻に変化してよい。本例では、ゲートトレンチ部40の下端から、上側裾208の上端まで、水素化学濃度が単調に増加している。
【0085】
図11Bは、図8AのC-C断面における水素化学濃度Dhと、キャリア濃度Dcの各分布例を示す別の図である。図11Aとは、キャリア濃度ピーク220の上面21側の領域において、キャリア濃度Dcの低下がなく、キャリアのライフタイム調整部230を備えていない点で異なる。本例では、キャリアのライフタイムが極小値を備えなくてもよい。
【0086】
図12は、半導体装置100の一例を示す上面図である。図12においては、各部材を半導体基板10の上面に投影した位置を示している。図12においては、半導体装置100の一部の部材だけを示しており、一部の部材は省略している。
【0087】
半導体装置100は、半導体基板10を備えている。半導体基板10は、図1から図11Bにおいて説明した水素化学濃度分布、ドナー濃度分布およびキャリア濃度分布を有してよい。ただし半導体基板10は、図1から図11Bにおいて説明した各濃度ピークとは異なる他の濃度ピークを更に有していてよい。後述するバッファ領域20のように、水素イオンを注入して半導体基板10におけるN型領域を形成する場合がある。この場合、水素化学濃度分布は、図1から図11Bにおいて説明した水素化学濃度Dhの分布の他に、局所的な水素濃度ピークを有し得る。また、後述するエミッタ領域12のように、リン等の水素以外のN型不純物を注入して半導体基板10におけるN型領域を形成する場合がある。この場合、ドナー濃度分布は、図1から図11Bにおいて説明したドナー濃度分布の他に、局所的なドナー濃度ピークを有し得る。また、後述するベース領域14のように、ボロン等のP型不純物を注入して半導体基板10におけるP型領域を形成する場合がある。この場合、キャリア濃度分布は、図10Aから図11Bにおいて説明したキャリア濃度分布の他に、局所的なキャリア濃度ピークを有し得る。
【0088】
半導体基板10は、上面視において端辺162を有する。本明細書で単に上面視と称した場合、半導体基板10の上面側から見ることを意味している。本例の半導体基板10は、上面視において互いに向かい合う2組の端辺162を有する。図12においては、X軸およびY軸は、いずれかの端辺162と平行である。またZ軸は、半導体基板10の上面と垂直である。
【0089】
半導体基板10には活性部160が設けられている。活性部160は、半導体装置100が動作した場合に半導体基板10の上面と下面との間で、深さ方向に主電流が流れる領域である。活性部160の上方には、エミッタ電極が設けられているが図12では省略している。
【0090】
活性部160には、IGBT等のトランジスタ素子を含むトランジスタ部70と、還流ダイオード(FWD)等のダイオード素子を含むダイオード部80の少なくとも一方が設けられている。図12の例では、トランジスタ部70およびダイオード部80は、半導体基板10の上面における所定の配列方向(本例ではX軸方向)に沿って、交互に配置されている。他の例では、活性部160には、トランジスタ部70およびダイオード部80の一方だけが設けられていてもよい。
【0091】
図12においては、トランジスタ部70が配置される領域には記号「I」を付し、ダイオード部80が配置される領域には記号「F」を付している。本明細書では、上面視において配列方向と垂直な方向を延伸方向(図12ではY軸方向)と称する場合がある。トランジスタ部70およびダイオード部80は、それぞれ延伸方向に長手を有してよい。つまり、トランジスタ部70のY軸方向における長さは、X軸方向における幅よりも大きい。同様に、ダイオード部80のY軸方向における長さは、X軸方向における幅よりも大きい。トランジスタ部70およびダイオード部80の延伸方向と、後述する各トレンチ部の長手方向とは同一であってよい。
【0092】
ダイオード部80は、半導体基板10の下面と接する領域に、N+型のカソード領域を有する。本明細書では、カソード領域が設けられた領域を、ダイオード部80と称する。つまりダイオード部80は、上面視においてカソード領域と重なる領域である。半導体基板10の下面には、カソード領域以外の領域には、P+型のコレクタ領域が設けられてよい。本明細書では、ダイオード部80を、後述するゲート配線までY軸方向に延長した延長領域81も、ダイオード部80に含める場合がある。延長領域81の下面には、コレクタ領域が設けられている。
【0093】
トランジスタ部70は、半導体基板10の下面と接する領域に、P+型のコレクタ領域を有する。また、トランジスタ部70は、半導体基板10の上面側に、N型のエミッタ領域、P型のベース領域、ゲート導電部およびゲート絶縁膜を有するゲート構造が周期的に配置されている。
【0094】
半導体装置100は、半導体基板10の上方に1つ以上のパッドを有してよい。本例の半導体装置100は、ゲートパッド164を有している。半導体装置100は、アノードパッド、カソードパッドおよび電流検出パッド等のパッドを有してもよい。各パッドは、端辺162の近傍に配置されている。端辺162の近傍とは、上面視における端辺162と、エミッタ電極との間の領域を指す。半導体装置100の実装時において、各パッドは、ワイヤ等の配線を介して外部の回路に接続されてよい。
【0095】
ゲートパッド164には、ゲート電位が印加される。ゲートパッド164は、活性部160のゲートトレンチ部の導電部に電気的に接続される。半導体装置100は、ゲートパッド164とゲートトレンチ部とを接続するゲート配線を備える。図12においては、ゲート配線に斜線のハッチングを付している。
【0096】
本例のゲート配線は、外周ゲート配線130と、活性側ゲート配線131とを有している。外周ゲート配線130は、上面視において活性部160と半導体基板10の端辺162との間に配置されている。本例の外周ゲート配線130は、上面視において活性部160を囲んでいる。上面視において外周ゲート配線130に囲まれた領域を活性部160としてもよい。また、外周ゲート配線130は、ゲートパッド164と接続されている。外周ゲート配線130は、半導体基板10の上方に配置されている。外周ゲート配線130は、アルミニウム等を含む金属配線であってよい。
【0097】
活性側ゲート配線131は、活性部160に設けられている。活性部160に活性側ゲート配線131を設けることで、半導体基板10の各領域について、ゲートパッド164からの配線長のバラツキを低減できる。
【0098】
活性側ゲート配線131は、活性部160のゲートトレンチ部と接続される。活性側ゲート配線131は、半導体基板10の上方に配置されている。活性側ゲート配線131は、不純物がドープされたポリシリコン等の半導体で形成された配線であってよい。
【0099】
活性側ゲート配線131は、外周ゲート配線130と接続されてよい。本例の活性側ゲート配線131は、Y軸方向の略中央で一方の外周ゲート配線130から他方の外周ゲート配線130まで、活性部160を横切るように、X軸方向に延伸して設けられている。活性側ゲート配線131により活性部160が分割されている場合、それぞれの分割領域において、トランジスタ部70およびダイオード部80がX軸方向に交互に配置されてよい。
【0100】
また、半導体装置100は、ポリシリコン等で形成されたPN接合ダイオードである不図示の温度センス部や、活性部160に設けられたトランジスタ部の動作を模擬する不図示の電流検出部を備えてもよい。
【0101】
本例の半導体装置100は、上面視において、活性部160と端辺162との間に、エッジ終端構造部90を備える。本例のエッジ終端構造部90は、外周ゲート配線130と端辺162との間に配置されている。エッジ終端構造部90は、半導体基板10の上面側の電界集中を緩和する。エッジ終端構造部90は、活性部160を囲んで環状に設けられたガードリング、フィールドプレートおよびリサーフのうちの少なくとも一つを備えていてよい。
【0102】
図13は、図12における領域Dの拡大図である。領域Dは、トランジスタ部70、ダイオード部80、および、活性側ゲート配線131を含む領域である。本例の半導体装置100は、半導体基板10の上面側の内部に設けられたゲートトレンチ部40、ダミートレンチ部30、ウェル領域11、エミッタ領域12、ベース領域14およびコンタクト領域15を備える。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30は、それぞれがトレンチ部の一例である。また、本例の半導体装置100は、半導体基板10の上面の上方に設けられたエミッタ電極52および活性側ゲート配線131を備える。エミッタ電極52および活性側ゲート配線131は互いに分離して設けられる。
【0103】
エミッタ電極52および活性側ゲート配線131と、半導体基板10の上面との間には層間絶縁膜が設けられるが、図13では省略している。本例の層間絶縁膜には、コンタクトホール54が、当該層間絶縁膜を貫通して設けられる。図13においては、それぞれのコンタクトホール54に斜線のハッチングを付している。
【0104】
エミッタ電極52は、ゲートトレンチ部40、ダミートレンチ部30、ウェル領域11、エミッタ領域12、ベース領域14およびコンタクト領域15の上方に設けられる。エミッタ電極52は、コンタクトホール54を通って、半導体基板10の上面におけるエミッタ領域12、コンタクト領域15およびベース領域14と接触する。また、エミッタ電極52は、層間絶縁膜に設けられたコンタクトホールを通って、ダミートレンチ部30内のダミー導電部と接続される。エミッタ電極52は、Y軸方向におけるダミートレンチ部30の先端において、ダミートレンチ部30のダミー導電部と接続されてよい。
【0105】
活性側ゲート配線131は、層間絶縁膜に設けられたコンタクトホールを通って、ゲートトレンチ部40と接続する。活性側ゲート配線131は、Y軸方向におけるゲートトレンチ部40の先端部41において、ゲートトレンチ部40のゲート導電部と接続されてよい。活性側ゲート配線131は、ダミートレンチ部30内のダミー導電部とは接続されない。
【0106】
エミッタ電極52は、金属を含む材料で形成される。図13においては、エミッタ電極52が設けられる範囲を示している。例えば、エミッタ電極52の少なくとも一部の領域はアルミニウムまたはアルミニウム‐シリコン合金、例えばAlSi、AlSiCu等の金属合金で形成される。エミッタ電極52は、アルミニウム等で形成された領域の下層に、チタンやチタン化合物等で形成されたバリアメタルを有してよい。さらにコンタクトホール内において、バリアメタルとアルミニウム等に接するようにタングステン等を埋め込んで形成されたプラグを有してもよい。
【0107】
ウェル領域11は、活性側ゲート配線131と重なって設けられている。ウェル領域11は、活性側ゲート配線131と重ならない範囲にも、所定の幅で延伸して設けられている。本例のウェル領域11は、コンタクトホール54のY軸方向の端から、活性側ゲート配線131側に離れて設けられている。ウェル領域11は、ベース領域14よりもドーピング濃度の高い第2導電型の領域である。本例のベース領域14はP-型であり、ウェル領域11はP+型である。
【0108】
トランジスタ部70およびダイオード部80のそれぞれは、配列方向に複数配列されたトレンチ部を有する。本例のトランジスタ部70には、配列方向に沿って1以上のゲートトレンチ部40と、1以上のダミートレンチ部30とが交互に設けられている。本例のダイオード部80には、複数のダミートレンチ部30が、配列方向に沿って設けられている。本例のダイオード部80には、ゲートトレンチ部40が設けられていない。
【0109】
本例のゲートトレンチ部40は、配列方向と垂直な延伸方向に沿って延伸する2つの直線部分39(延伸方向に沿って直線状であるトレンチの部分)と、2つの直線部分39を接続する先端部41を有してよい。図13における延伸方向はY軸方向である。
【0110】
先端部41の少なくとも一部は、上面視において曲線状に設けられることが好ましい。2つの直線部分39のY軸方向における端部どうしを先端部41が接続することで、直線部分39の端部における電界集中を緩和できる。
【0111】
トランジスタ部70において、ダミートレンチ部30はゲートトレンチ部40のそれぞれの直線部分39の間に設けられる。それぞれの直線部分39の間には、1本のダミートレンチ部30が設けられてよく、複数本のダミートレンチ部30が設けられていてもよい。ダミートレンチ部30は、延伸方向に延伸する直線形状を有してよく、ゲートトレンチ部40と同様に、直線部分29と先端部31とを有していてもよい。図13に示した半導体装置100は、先端部31を有さない直線形状のダミートレンチ部30と、先端部31を有するダミートレンチ部30の両方を含んでいる。
【0112】
ウェル領域11の拡散深さは、ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の深さよりも深くてよい。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30のY軸方向の端部は、上面視においてウェル領域11に設けられる。つまり、各トレンチ部のY軸方向の端部において、各トレンチ部の深さ方向の底部は、ウェル領域11に覆われている。これにより、各トレンチ部の当該底部における電界集中を緩和できる。
【0113】
配列方向において各トレンチ部の間には、メサ部が設けられている。メサ部は、半導体基板10の内部において、トレンチ部に挟まれた領域を指す。一例としてメサ部の上端は半導体基板10の上面である。メサ部の下端の深さ位置は、トレンチ部の下端の深さ位置と同一である。本例のメサ部は、半導体基板10の上面において、トレンチに沿って延伸方向(Y軸方向)に延伸して設けられている。本例では、トランジスタ部70にはメサ部60が設けられ、ダイオード部80にはメサ部61が設けられている。本明細書において単にメサ部と称した場合、メサ部60およびメサ部61のそれぞれを指している。
【0114】
それぞれのメサ部には、ベース領域14が設けられる。メサ部において半導体基板10の上面に露出したベース領域14のうち、活性側ゲート配線131に最も近く配置された領域をベース領域14-eとする。図13においては、それぞれのメサ部の延伸方向における一方の端部に配置されたベース領域14-eを示しているが、それぞれのメサ部の他方の端部にもベース領域14-eが配置されている。それぞれのメサ部には、上面視においてベース領域14-eに挟まれた領域に、第1導電型のエミッタ領域12および第2導電型のコンタクト領域15の少なくとも一方が設けられてよい。本例のエミッタ領域12はN+型であり、コンタクト領域15はP+型である。エミッタ領域12およびコンタクト領域15は、深さ方向において、ベース領域14と半導体基板10の上面との間に設けられてよい。
【0115】
トランジスタ部70のメサ部60は、半導体基板10の上面に露出したエミッタ領域12を有する。エミッタ領域12は、ゲートトレンチ部40に接して設けられている。ゲートトレンチ部40に接するメサ部60は、半導体基板10の上面に露出したコンタクト領域15が設けられていてよい。
【0116】
メサ部60におけるコンタクト領域15およびエミッタ領域12のそれぞれは、X軸方向における一方のトレンチ部から、他方のトレンチ部まで設けられる。一例として、メサ部60のコンタクト領域15およびエミッタ領域12は、トレンチ部の延伸方向(Y軸方向)に沿って交互に配置されている。
【0117】
他の例においては、メサ部60のコンタクト領域15およびエミッタ領域12は、トレンチ部の延伸方向(Y軸方向)に沿ってストライプ状に設けられていてもよい。例えばトレンチ部に接する領域にエミッタ領域12が設けられ、エミッタ領域12に挟まれた領域にコンタクト領域15が設けられる。
【0118】
ダイオード部80のメサ部61には、エミッタ領域12が設けられていない。メサ部61の上面には、ベース領域14およびコンタクト領域15が設けられてよい。メサ部61の上面においてベース領域14-eに挟まれた領域には、それぞれのベース領域14-eに接してコンタクト領域15が設けられてよい。メサ部61の上面においてコンタクト領域15に挟まれた領域には、ベース領域14が設けられてよい。ベース領域14は、コンタクト領域15に挟まれた領域全体に配置されてよい。
【0119】
それぞれのメサ部の上方には、コンタクトホール54が設けられている。コンタクトホール54は、ベース領域14-eに挟まれた領域に配置されている。本例のコンタクトホール54は、コンタクト領域15、ベース領域14およびエミッタ領域12の各領域の上方に設けられる。コンタクトホール54は、ベース領域14-eおよびウェル領域11に対応する領域には設けられない。コンタクトホール54は、メサ部60の配列方向(X軸方向)における中央に配置されてよい。
【0120】
ダイオード部80において、半導体基板10の下面と隣接する領域には、N+型のカソード領域82が設けられる。半導体基板10の下面において、カソード領域82が設けられていない領域には、P+型のコレクタ領域22が設けられてよい。カソード領域82およびコレクタ領域22は、半導体基板10の下面23と、バッファ領域20との間に設けられている。図13においては、カソード領域82およびコレクタ領域22の境界を点線で示している。
【0121】
カソード領域82は、Y軸方向においてウェル領域11から離れて配置されている。これにより、比較的にドーピング濃度が高く、且つ、深い位置まで形成されているP型の領域(ウェル領域11)と、カソード領域82との距離を確保して、耐圧を向上できる。本例のカソード領域82のY軸方向における端部は、コンタクトホール54のY軸方向における端部よりも、ウェル領域11から離れて配置されている。他の例では、カソード領域82のY軸方向における端部は、ウェル領域11とコンタクトホール54との間に配置されていてもよい。
【0122】
図14は、図13におけるe-e断面の一例を示す図である。e-e断面は、エミッタ領域12およびカソード領域82を通過するXZ面である。本例の半導体装置100は、当該断面において、半導体基板10、層間絶縁膜38、エミッタ電極52およびコレクタ電極24を有する。
【0123】
層間絶縁膜38は、半導体基板10の上面に設けられている。層間絶縁膜38は、ホウ素またはリン等の不純物が添加されたシリケートガラス等の絶縁膜、熱酸化膜、および、その他の絶縁膜の少なくとも一層を含む膜である。層間絶縁膜38には、図13において説明したコンタクトホール54が設けられている。
【0124】
エミッタ電極52は、層間絶縁膜38の上方に設けられる。エミッタ電極52は、層間絶縁膜38のコンタクトホール54を通って、半導体基板10の上面21と接触している。コレクタ電極24は、半導体基板10の下面23に設けられる。エミッタ電極52およびコレクタ電極24は、アルミニウム等の金属材料で形成されている。本明細書において、エミッタ電極52とコレクタ電極24とを結ぶ方向(Z軸方向)を深さ方向と称する。
【0125】
半導体基板10は、N型またはN-型のドリフト領域18を有する。ドリフト領域18は、トランジスタ部70およびダイオード部80のそれぞれに設けられている。
【0126】
トランジスタ部70のメサ部60には、N+型のエミッタ領域12およびP-型のベース領域14が、半導体基板10の上面21側から順番に設けられている。ベース領域14の下方にはドリフト領域18が設けられている。メサ部60には、N+型の蓄積領域16が設けられてもよい。蓄積領域16は、ベース領域14とドリフト領域18との間に配置される。
【0127】
エミッタ領域12は半導体基板10の上面21に露出しており、且つ、ゲートトレンチ部40と接して設けられている。エミッタ領域12は、メサ部60の両側のトレンチ部と接していてよい。エミッタ領域12は、ドリフト領域18よりもドーピング濃度が高い。
【0128】
ベース領域14は、エミッタ領域12の下方に設けられている。本例のベース領域14は、エミッタ領域12と接して設けられている。ベース領域14は、メサ部60の両側のトレンチ部と接していてよい。
【0129】
蓄積領域16は、ベース領域14の下方に設けられている。蓄積領域16は、ドリフト領域18よりもドーピング濃度が高いN+型の領域である。ドリフト領域18とベース領域14との間に高濃度の蓄積領域16を設けることで、キャリア注入促進効果(IE効果)を高めて、オン電圧を低減できる。蓄積領域16は、各メサ部60におけるベース領域14の下面全体を覆うように設けられてよい。
【0130】
ダイオード部80のメサ部61には、半導体基板10の上面21に接して、P-型のベース領域14が設けられている。ベース領域14の下方には、ドリフト領域18が設けられている。メサ部61において、ベース領域14の下方に蓄積領域16が設けられていてもよい。
【0131】
トランジスタ部70およびダイオード部80のそれぞれにおいて、ドリフト領域18の下にはN+型のバッファ領域20が設けられてよい。バッファ領域20のドーピング濃度は、ドリフト領域18のドーピング濃度よりも高い。バッファ領域20は、ドリフト領域18よりもドーピング濃度の高い濃度ピーク25を有する。濃度ピーク25のドーピング濃度とは、濃度ピーク25の頂点におけるドーピング濃度を指す。また、ドリフト領域18のドーピング濃度は、ドーピング濃度分布がほぼ平坦な領域におけるドーピング濃度の平均値を用いてよい。
【0132】
本例のバッファ領域20は、半導体基板10の深さ方向(Z軸方向)において、3つ以上の濃度ピーク25を有する。バッファ領域20の濃度ピーク25は、例えば水素(プロトン)またはリンの濃度ピークと同一の深さ位置に設けられていてよい。バッファ領域20は、ベース領域14の下端から広がる空乏層が、P+型のコレクタ領域22およびN+型のカソード領域82に到達することを防ぐフィールドストップ層として機能してよい。本明細書では、バッファ領域20の上端の深さ位置をZfとする。深さ位置Zfは、ドーピング濃度が、ドリフト領域18のドーピング濃度より高くなる位置であってよい。
【0133】
トランジスタ部70において、バッファ領域20の下には、P+型のコレクタ領域22が設けられる。コレクタ領域22のアクセプタ濃度は、ベース領域14のアクセプタ濃度より高い。コレクタ領域22は、ベース領域14と同一のアクセプタを含んでよく、異なるアクセプタを含んでもよい。コレクタ領域22のアクセプタは、例えばボロンである。
【0134】
ダイオード部80において、バッファ領域20の下には、N+型のカソード領域82が設けられる。カソード領域82のドナー濃度は、ドリフト領域18のドナー濃度より高い。カソード領域82のドナーは、例えば水素またはリンである。なお、各領域のドナーおよびアクセプタとなる元素は、上述した例に限定されない。コレクタ領域22およびカソード領域82は、半導体基板10の下面23に露出しており、コレクタ電極24と接続している。コレクタ電極24は、半導体基板10の下面23全体と接触してよい。エミッタ電極52およびコレクタ電極24は、アルミニウム等の金属材料で形成される。
【0135】
半導体基板10の上面21側には、1以上のゲートトレンチ部40、および、1以上のダミートレンチ部30が設けられる。各トレンチ部は、半導体基板10の上面21から、ベース領域14を貫通して、ドリフト領域18に到達している。エミッタ領域12、コンタクト領域15および蓄積領域16の少なくともいずれかが設けられている領域においては、各トレンチ部はこれらのドーピング領域も貫通して、ドリフト領域18に到達している。トレンチ部がドーピング領域を貫通するとは、ドーピング領域を形成してからトレンチ部を形成する順序で製造したものに限定されない。トレンチ部を形成した後に、トレンチ部の間にドーピング領域を形成したものも、トレンチ部がドーピング領域を貫通しているものに含まれる。
【0136】
上述したように、トランジスタ部70には、ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30が設けられている。ダイオード部80には、ダミートレンチ部30が設けられ、ゲートトレンチ部40が設けられていない。本例においてダイオード部80とトランジスタ部70のX軸方向における境界は、カソード領域82とコレクタ領域22の境界である。
【0137】
ゲートトレンチ部40は、半導体基板10の上面21に設けられたゲートトレンチ、ゲート絶縁膜42およびゲート導電部44を有する。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁を覆って設けられる。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁の半導体を酸化または窒化して形成してよい。ゲート導電部44は、ゲートトレンチの内部においてゲート絶縁膜42よりも内側に設けられる。つまりゲート絶縁膜42は、ゲート導電部44と半導体基板10とを絶縁する。ゲート導電部44は、ポリシリコン等の導電材料で形成される。
【0138】
ゲート導電部44は、深さ方向において、ベース領域14よりも長く設けられてよい。当該断面におけるゲートトレンチ部40は、半導体基板10の上面21において層間絶縁膜38により覆われる。ゲート導電部44は、ゲート配線に電気的に接続されている。ゲート導電部44に所定のゲート電圧が印加されると、ベース領域14のうちゲートトレンチ部40に接する界面の表層に電子の反転層によるチャネルが形成される。
【0139】
ダミートレンチ部30は、当該断面において、ゲートトレンチ部40と同一の構造を有してよい。ダミートレンチ部30は、半導体基板10の上面21に設けられたダミートレンチ、ダミー絶縁膜32およびダミー導電部34を有する。ダミー導電部34は、エミッタ電極52に電気的に接続されている。ダミー絶縁膜32は、ダミートレンチの内壁を覆って設けられる。ダミー導電部34は、ダミートレンチの内部に設けられ、且つ、ダミー絶縁膜32よりも内側に設けられる。ダミー絶縁膜32は、ダミー導電部34と半導体基板10とを絶縁する。ダミー導電部34は、ゲート導電部44と同一の材料で形成されてよい。例えばダミー導電部34は、ポリシリコン等の導電材料で形成される。ダミー導電部34は、深さ方向においてゲート導電部44と同一の長さを有してよい。
【0140】
本例のゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30は、半導体基板10の上面21において層間絶縁膜38により覆われている。なお、ダミートレンチ部30およびゲートトレンチ部40の底部は、下側に凸の曲面状(断面においては曲線状)であってよい。本明細書では、ゲートトレンチ部40の下端の深さ位置をZtとする。
【0141】
ドリフト領域18は、図1から図11Bにおいて説明した直線部214または水素増加部180のドナー濃度と同一のドナー濃度を有してよい。つまりドリフト領域18は、主にバルク・ドナー濃度D0と、水素ドナー(VOH欠陥)濃度とによって定まるドナー濃度Ddを有する。ドリフト領域18以外の領域には、局所的にドーパントが注入されている。このため、これらの領域におけるドーピング濃度は、図1から図11Bにおいて説明したドナー濃度とは異なる。
【0142】
図15は、図14におけるF-F線におけるドーピング濃度Ddp、および、水素化学濃度Dhの分布例を示す図である。本例の半導体装置100は、ライフタイム調整部を有していない。ドーピング濃度Ddpは、図1から図11Bにおいて説明したいずれかの態様のドナー濃度Ddの分布に、各領域における局所的な濃度ピークを重畳した形状を有してよい。
【0143】
エミッタ領域12およびカソード領域82は、リン等のN型ドーパントを含む。コレクタ領域22およびベース領域14は、ボロン等のP型ドーパントを含む。蓄積領域16は、リンまたは水素等のN型ドーパントを含む。それぞれの領域のドーピング濃度は、各ドーパント濃度ピークに応じたドーピング濃度ピークを有する。
【0144】
本例のバッファ領域20は、ドーピング濃度Dpの分布において、複数のドーピング濃度ピーク25-1、25-2、25-3、25-4を有する。本例では、それぞれのドーピング濃度ピーク25は、水素イオンを局所的に注入することで形成されている。他の例では、いずれかのドーピング濃度ピーク25は、リン等のN型ドーパントを注入することで形成されてもよい。
【0145】
本例の水素化学濃度Dhの分布は、バッファ領域20において局所的な水素濃度ピーク103を複数有する。水素濃度ピーク103の半値幅は、半導体基板10の深さ方向における厚みの1/10以下である。水素化学濃度Dhの分布は、局所的な水素濃度ピーク103が設けられた領域を除き、平坦か、下面23に向かって単調に増加する。本例では、半導体基板10の上面21からバッファ領域20の上端の深さ位置Zfまで、水素増加部180が設けられている。水素増加部180は、複数の水素濃度ピーク103のうち、最も上面21に近い水素濃度ピーク103-4の頂点位置まで設けられていてもよい。バッファ領域20の上端の深さ位置Zfは、最も上面21に近い水素濃度ピーク103-4の頂点の位置であってよい。
【0146】
複数の水素濃度ピーク103のうち、最も上面21に近い水素濃度ピーク103-4が、図1から図11Bにおいて説明した第1水素濃度ピーク201であってよい。つまり、当該水素濃度ピーク103の位置には、上面21から水素イオンが注入されてよい。他の水素濃度ピーク103の位置には、下面23から水素イオンが注入されてよい。本例では、水素増加部180が、ゲートトレンチ部40の下端の深さ位置Ztから、水素濃度ピーク103-4の上側裾203まで設けられている。水素増加部180は、上側裾203を含んでよい。
【0147】
他の例では、いずれか2つの水素濃度ピーク103が、図8Aまたは図9Aにおいて説明した第1水素濃度ピーク201および第2水素濃度ピーク206であってもよい。深さ方向において隣り合って配置された2つの水素濃度ピーク103が、第1水素濃度ピーク201および第2水素濃度ピーク206であってもよい。複数の水素濃度ピーク103のうち、最も上面21に近い水素濃度ピーク103-4が、第2水素濃度ピーク206であり、次に上面21に近い水素濃度ピーク103-3が、第1水素濃度ピーク201であってよい。第2水素濃度ピーク206の位置には、下面23から水素イオンが注入されてよい。
【0148】
図16は、図14におけるF-F線におけるドーピング濃度Ddp、および、水素化学濃度Dhの他の分布例を示す図である。本例の蓄積領域16は、水素イオンを注入することで形成されている。つまり蓄積領域16のドナーは、水素ドナーである。他の構造は、図15の例と同一であってよい。図16の例では、水素濃度ピーク103-4が、第1水素濃度ピーク201に対応している。
【0149】
本例の水素化学濃度Dhの分布は、蓄積領域16の深さ位置に、第2水素濃度ピーク206を有する。第2水素濃度ピーク206の位置には、上面21から水素イオンが注入されてよい。蓄積領域16を水素ドナーで形成することで、蓄積領域16から下面23に向かって水素を拡散させることができる。これにより、水素増加部180を容易に形成できる。なお、第2水素濃度ピーク206の水素化学濃度Dhi6は、水素濃度ピーク103-4の水素化学濃度Dhi4より大きくてよく、小さくてもよい。
【0150】
水素増加部180の少なくとも一部は、ゲートトレンチ部40の下端の深さ位置Ztと、半導体基板10の下面23との間に配置される。バッファ領域20が水素濃度ピーク103を有する場合、水素増加部180は、ゲートトレンチ部40の下端の深さ位置Ztと、バッファ領域20の上端の深さ位置Zfとの間に配置される。図16の例では、水素増加部180は、ゲートトレンチ部40の下端の深さ位置Ztから、バッファ領域20の上端の深さ位置Zfまで設けられている。水素増加部180は、蓄積領域16の下端の深さ位置から、バッファ領域20の上端の深さ位置Zfまで設けられてもよい。蓄積領域16の下端の深さ位置は、下側裾207から下面23に向かって、水素化学濃度Dhが上昇し始める位置である。
【0151】
図17は、図13におけるe-e断面の他の例を示す図である。本例の半導体装置100は、バッファ領域20の上側にライフタイム調整部230を有する。他の構造は、図13の例と同様である。
【0152】
ライフタイム調整部230は、図11Aにおいて説明した構造を有してよい。本例のライフタイム調整部230は、バッファ領域20において最も上面21側に配置された水素濃度ピーク103-4(図15等参照)に接して配置されてよい。水素濃度ピーク103-4は、図11Aにおいて説明した第2水素濃度ピーク206であってよい。
【0153】
図18は、半導体装置100の製造方法の一例を示す図である。本例の製造方法は、上面側構造形成段階S1800、第1水素注入段階S1802、研削段階S1804、下面側構造形成段階S1806、熱処理段階S1808および電極形成段階S1810を備える。
【0154】
上面側構造形成段階S1800において、半導体装置100の構造のうち、半導体基板10の上面21側の構造を形成する。上面側構造形成段階S1800における半導体基板10は、下面19(図1参照)を有する研削前の基板である。上面21側の構造には、例えばベース領域14、エミッタ領域12、蓄積領域16、ゲートトレンチ部40、ダミートレンチ部30、ウェル領域11、エミッタ電極52、層間絶縁膜38、ゲート配線等が含まれる。
【0155】
次に第1水素注入段階S1802において、半導体基板10の上面21から、半導体基板10の内部の予め定められた第1注入位置Zi1に水素イオンを注入する。第1水素注入段階S1802における半導体基板10は、下面19を有する研削前の基板である。第1注入位置Zi1は、研削段階S1804の後の半導体基板の深さ方向の中央Zcよりも下方に配置されている。図2等において説明したように、第1注入位置Zi1は、研削後の下面23の近傍に配置されてよい。第1注入位置Zi1は、図1から図17において説明したいずれの位置であってもよい。
【0156】
一例として、第1水素注入段階S1802における水素イオンのドーズ量は、1×1013ions/cm以上、1×1014ions/cm以下である。上面21から第1注入位置Zi1までの通過領域には、格子欠陥が形成される。
【0157】
次に研削段階S1804において、半導体基板10の下面19を研削して、水素が存在する領域の一部を除去する。研削段階S1804においては、研削後の下面23の位置は、図1から図17において説明したいずれの例と同一であってもよい。例えば研削段階S1804において、下面19から、第1注入位置Zi1を越えた位置までを除去する。
【0158】
次に下面側構造形成段階S1806において、半導体基板10の下面23側の構造を形成する。下面23側の構造には、例えばコレクタ領域22、カソード領域82、バッファ領域20等が含まれる。なお、第1水素注入段階S1802よりも後の工程では、注入した水素が半導体基板10の外に放出されないように、半導体基板10の全体を500℃以上に加熱する工程が存在しないことが好ましい。下面側構造形成段階S1806においてコレクタ領域22、カソード領域82等を形成する場合、レーザーアニールで局所的なアニール行ってよい。また、図17に示したゲート絶縁膜42等の酸化膜は、1000℃程度の高温による熱酸化で形成される場合がある。このため、第1水素注入段階S1802は、熱酸化工程よりも後に行うことが好ましい。
【0159】
次に、熱処理段階S1808において半導体基板10を熱処理して、水素ドナー(VOH欠陥)を形成する。熱処理段階S1808においては、半導体基板10を熱処理炉に投入して、半導体基板10の全体を加熱してよい。熱処理段階S1808においては、水素を拡散させ、また、水素ドナーの形成を促進できる条件で熱処理を行う。熱処理段階S1808においては、350℃以上、380℃以下の温度で、3時間以上、10時間以下の期間、熱処理を行ってよい。熱処理段階S1808により、水素イオンの通過領域に水素ドナーを形成して、通過領域におけるドナー濃度および比抵抗を調整できる。形成される水素ドナーの濃度は、第1水素注入段階S1802における水素イオンのドーズ量で精度よく制御できる。このため、通過領域におけるドナー濃度および比抵抗を精度よく制御できる。従って、半導体装置100の特性、特に耐圧のばらつきを抑制できる。
【0160】
次に、電極形成段階S1810において、コレクタ電極24を形成する。S1800からS1810の工程は、ウエハ状態の半導体基板を用いて行ってよい。この場合、S1810の後に、ウエハを個片化してチップ状態の半導体装置100を製造してよい。
【0161】
図19は、半導体装置100の製造方法の他の例を示す図である。本例においては、熱処理段階S1808を行うタイミングが、図18の例とは相違する。他の工程は、図18の例と同一である。
【0162】
本例では、第1水素注入段階S1802の後、研削段階S1804の前に、熱処理段階S1808を行う。つまり、研削段階S1804よりも前に、水素ドナーを形成する。熱処理段階S1808における熱処理条件は、図18の例と同一であってよい。
【0163】
熱処理段階S1808の後に、研削段階S1804、下面側構造形成段階S1806および電極形成段階S1810を行う。このような工程によっても、半導体装置100を製造できる。
【0164】
図20は、半導体装置100の製造方法の他の例を示す図である。本例の製造方法は、図18に示した工程において、上面側構造形成段階S1800よりも後で、且つ、熱処理S1808よりも前に第2水素注入段階S2000を更に備える。他の工程は、図18の例と同一である。
【0165】
第2水素注入段階S2000においては、半導体基板10の上面21または下面23から、半導体基板10の内部の予め定められた第2注入位置Zi2に水素イオンを注入する。第2注入位置Zi2は、図1から図17において説明したいずれの位置であってもよい。図9Aの例のように、第1水素注入段階S1802により注入された水素の第1水素濃度ピーク201と、第2水素注入段階S2000により注入された水素の第2水素濃度ピーク206とが重なるように、第2注入位置Zi2に水素を注入してよい。
【0166】
第2水素注入段階S2000は、研削段階S1804の前に行ってよく、後に行ってもよい。第2水素注入段階S2000は、第1水素注入段階S1802の前に行ってよく、後に行ってもよい。図20の例では、第1水素注入段階S1802と、研削段階S1804の間において、第2水素注入段階S2000を行っている。
【0167】
第2水素注入段階S2000における水素イオンの飛程は、第1水素注入段階S1802における水素イオンの飛程より短くてよい。第2水素注入段階S2000における水素イオンの加速エネルギーは、第1水素注入段階S1802における水素イオンの加速エネルギーよりも低くてよい。これにより、第2注入位置Zi2の近傍に形成される格子欠陥の密度を小さくできる。
【0168】
一例として、第2水素注入段階S2000における水素イオンのドーズ量は、1×1013ions/cm以上、1×1015ions/cm以下である。第2水素注入段階S2000における水素イオンのドーズ量は、第1水素注入段階S1802における水素イオンのドーズ量よりも多くてよい。これにより、水素ドナーを形成するための水素を多く供給できる。
【0169】
図20の例では、第2水素注入段階S2000よりも後に、研削段階S1804を行う。研削段階S1804においては、図1から図17において説明したいずれの位置まで半導体基板10を研削してもよい。研削段階S1804においては、第2注入位置Zi2を含む領域を除去してよい。第2注入位置Zi2は、研削段階S1804で研削されない領域に配置されていてもよい。また、研削段階S1804においては、第1注入位置Zi1を含む領域を除去してよい。また、第1注入位置Zi1は、研削段階S1804で研削されない領域に配置されていてもよい。研削段階S1804の後に、下面側構造形成段階S1806、熱処理段階S1808および電極形成段階S1810を行う。これにより半導体装置100を製造できる。
【0170】
図21は、半導体装置100の製造方法の他の例を示す図である。本例においては、熱処理段階S1808を行うタイミングが、図20の例とは相違する。他の工程は、図20の例と同一である。
【0171】
本例では、第1水素注入段階S1802および第2水素注入段階S2000の後、且つ、研削段階S1804の前に、熱処理段階S1808を行う。つまり、研削段階S1804よりも前に、水素ドナーを形成する。熱処理段階S1808における熱処理条件は、図18の例と同一であってよい。
【0172】
熱処理段階S1808の後に、研削段階S1804、下面側構造形成段階S1806および電極形成段階S1810を行う。このような工程によっても、半導体装置100を製造できる。
【0173】
図18から図21において説明した各工程の順番は、適宜入れかえることができる。例えば、第1水素注入段階S1802と、第2水素注入段階S2000の間に研削段階S1804を行ってよい。第2水素注入段階S2000において下面側から水素イオンを注入する場合には、研削段階S1804を先に行うことで、第2水素注入段階S2000における水素イオンの加速エネルギーを低くできる。これにより、半導体基板10に与えるダメージを抑制できる。
【0174】
また、下面構造形成段階S1806の後に、各水素注入段階と、熱処理段階S1808を行ってもよい。また、熱処理段階S1808は、下面構造形成段階S1806の途中に行ってもよい。また、各水素注入段階は、上面側構造形成段階S1800または下面側構造形成段階S1806に含まれていてもよい。図15等で説明したように、バッファ領域20を形成する工程で、各水素注入段階を行ってよい。図16等で説明したように、蓄積領域16を形成する工程で、第2水素注入段階S2000を行ってもよい。
【0175】
図22は、半導体装置100の他の例を示す断面図である。本例の半導体装置100は、半導体基板10を研削した後に、第1注入位置Zi1に水素イオンを注入して形成する点で、図1から図21において説明した半導体装置100と相違する。他の点において、本例の半導体装置100は、図1から図21において説明したいずれかの半導体装置100と同様である。本例の半導体装置100の構造は、図1から図21において説明した半導体装置100と同一であってよい。
【0176】
研削後の半導体基板10は、上面21および下面23を有する。本例では、上面21から第1注入位置Zi1に水素イオンを注入する。第1注入位置Zi1は、半導体基板10の外側の位置であり、且つ、半導体基板10の下面23よりも下側の位置である。第1注入位置Zi1は、前記半導体基板が研削されて除去された領域内の位置であってよい。下面23の深さ位置Z2と、第1注入位置Zi1との距離は、図1から図21において説明したいずれかの例と同様であってよく、異なっていてもよい。第1注入位置Zi1に水素イオンを注入する場合の加速エネルギーは、図1から図21において説明したいずれかの例と同様であってよく、異なっていてもよい。半導体基板10のドナー濃度を高精度に制御できる。
【0177】
図23は、図22のG-G線に示した位置における、深さ方向の水素化学濃度Dhの分布、ドナー濃度Ddの分布、および、バルク・ドナー濃度D0の分布の例を示している。なお、水素化学濃度Dhの分布およびドナー濃度Ddの分布のうち、半導体基板10の内部における分布を実線で示し、半導体基板10の外側における仮想的な分布を破線で示している。仮想的な分布は、当該領域にも半導体基板10が存在していたと仮定した場合の濃度分布である。
【0178】
水素化学濃度Dhの第1水素濃度ピーク201の頂点は、半導体基板10の下面23よりも下側に配置されている。つまり、第1注入位置Zi1は、深さ位置Z2よりも下側に配置されている。図23においては、第1注入位置Zi1と深さ位置Z2との距離は、第1水素濃度ピーク201の半値全幅FWHMより小さい。他の例では、第1注入位置Zi1と深さ位置Z2との距離は、第1水素濃度ピーク201の半値全幅FWHMの1倍以上であってよく、5倍以上であってよく、10倍以上であってもよい。また、第1水素濃度ピーク201の頂点の両側において、水素化学濃度がピーク濃度Dhi1の1%となる2点間の距離を、FW1%Mとする。第1注入位置Zi1と深さ位置Z2との距離は、FW1%Mの1倍以上であってよく、5倍以上であってよく、10倍以上であってもよい。第1注入位置Zi1と深さ位置Z2との距離を大きくすることで、半導体基板10の内部における水素化学濃度Dhおよびドナー濃度Ddの分布を均一にできる。
【0179】
本例の半導体装置100においても、図12から図21において説明したように、トランジスタおよびダイオードの少なくとも一方が形成されてよい。本例の半導体装置100も、図15または図16に示した各濃度分布を有してよい。
【0180】
図24は、半導体装置100の製造方法の他の例を示す図である。本例の製造方法は、研削段階S1804と、第1水素注入段階S1802の順番が入れ替わっている点で、図18の例と相違する。他の段階は、図18の例と同様である。なお、図19から図21において説明したそれぞれの例においても、本例と同様に研削段階S1804を、第1水素注入段階S1802より先に行ってよい。
【0181】
図25は、半導体装置100の一例を示す断面図である。本例の半導体装置100は、図1から図24において説明した例とは、第1注入位置Zi1が、半導体基板10を研削する前の下面19の位置Z3よりも、さらに半導体基板10の外側(-Z軸側)に位置する点で異なる。他の点において、本例の半導体装置100は、図1から図24において説明したいずれかの半導体装置100と同様である。
【0182】
図26は、図25のH-H線に示した位置における、深さ方向の水素化学濃度Dhの分布、ドナー濃度Ddの分布、および、バルク・ドナー濃度D0の分布の例を示している。図2とは、研削前の半導体基板10の下面19の位置Z3が、第1水素濃度ピーク201よりも上面21側に位置する点で異なる。下面19の位置Z3は、上側裾203よりも上面21側に位置してよい。下面19の位置Z3は、接続部205よりも上面21側に位置してよい。
【0183】
実際には、第1水素濃度ピーク201は、半導体基板10には形成されない。しかしながら、公知のシミュレーション技術により、予め第1水素濃度ピーク201の位置Zi1および水素イオン注入の加速エネルギーを設定し、水素化学濃度Dhの分布、ドナー濃度Ddの分布等を計算してよい。
【0184】
下面23における水素化学濃度Dh2は、上面21における水素化学濃度Dh1の1.2倍以上であってよく、1.5倍以上であってよく、2倍以上であってもよい。下面23における水素化学濃度Dh2は、上面21における水素化学濃度Dh1の10倍以下であってよく、5倍以下であってよく、3倍以下であってよい。水素イオンの注入は、半導体基板10を研削する前に行ってよく、研削後に行ってもよい。また、本例の製造方法は、図18から図21図24のいずれかの例と同じであってよく、また、各工程の順番は、適宜入れかえてよい。
【0185】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、請求の範囲の記載から明らかである。
【0186】
請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0187】
10・・・半導体基板、11・・・ウェル領域、12・・・エミッタ領域、14・・・ベース領域、15・・・コンタクト領域、16・・・蓄積領域、18・・・ドリフト領域、19・・・下面、20・・・バッファ領域、21・・・上面、22・・・コレクタ領域、23・・・下面、24・・・コレクタ電極、25・・・濃度ピーク、29・・・直線部分、30・・・ダミートレンチ部、31・・・先端部、32・・・ダミー絶縁膜、34・・・ダミー導電部、38・・・層間絶縁膜、39・・・直線部分、40・・・ゲートトレンチ部、41・・・先端部、42・・・ゲート絶縁膜、44・・・ゲート導電部、52・・・エミッタ電極、54・・・コンタクトホール、60、61・・・メサ部、70・・・トランジスタ部、80・・・ダイオード部、81・・・延長領域、82・・・カソード領域、90・・・エッジ終端構造部、100・・・半導体装置、103・・・水素濃度ピーク、130・・・外周ゲート配線、131・・・活性側ゲート配線、160・・・活性部、162・・・端辺、164・・・ゲートパッド、180・・・水素増加部、190・・・直線、192・・・帯状範囲、201・・・第1水素濃度ピーク、202・・・下側裾、203・・上側裾、204・・・直線部、205・・・接続部、206・・・第2水素濃度ピーク、207・・・下側裾、208・・・上側裾、209・・・谷部、211・・・第1ドナー濃度ピーク、212・・・下側裾、213・・・上側裾、214・・・直線部、215・・・接続部、216・・・第2ドナー濃度ピーク、217・・・下側裾、218・・・上側裾、219・・・谷部、220・・・キャリア濃度ピーク、230・・・ライフタイム調整部、231・・・ライフタイム調整部
図1
図2
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図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
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