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特許7400837消費エネルギー推定プログラム、消費エネルギー推定方法及び消費エネルギー推定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】消費エネルギー推定プログラム、消費エネルギー推定方法及び消費エネルギー推定装置
(51)【国際特許分類】
   G01C 21/26 20060101AFI20231212BHJP
   G01C 21/34 20060101ALI20231212BHJP
   G08G 1/00 20060101ALI20231212BHJP
   G06Q 10/04 20230101ALI20231212BHJP
   G16Y 40/60 20200101ALI20231212BHJP
   G16Y 10/40 20200101ALI20231212BHJP
【FI】
G01C21/26 C
G01C21/34
G08G1/00 D
G06Q10/04
G16Y40/60
G16Y10/40
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021570571
(86)(22)【出願日】2020-01-16
(86)【国際出願番号】 JP2020001291
(87)【国際公開番号】W WO2021144923
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2022-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】工藤 拓
(72)【発明者】
【氏名】池田 拓郎
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-046106(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0076675(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 21/26 ~ 21/36
G08G 1/00 ~ 1/16
G06Q 10/04
G06Q 50/30
G16Y 40/60
G16Y 10/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動開始地と移動終了地と移動距離と消費エネルギーとを含む複数のトリップデータのそれぞれについて、道路をリンクの集合によって表現する地図データを参照して当該トリップデータに係る移動経路を示すリンクの集合を定し、
道路の特徴情報を記憶する記憶部を参照して、特定した前記リンクの集合に含まれる各リンクに対応する特徴情報を抽出し、
前記各リンクについて抽出した特徴情報と、前記複数のトリップデータに含まれる移動距離及び消費エネルギーとに基づいて、単位移動距離あたりの消費エネルギーであるエネルギー消費率を目的変数とし、前記特徴情報を説明変数とする回帰モデルを学習し、
指定された出発地と指定された目的地との間の移動経路の探索範囲に含まれる各リンクについて、当該リンクの特徴情報と前記回帰モデルとに基づいて消費エネルギーを算出し
前記探索範囲に含まれる各リンクについて算出した消費エネルギーを当該各リンクの重みとして、前記出発地と前記目的地との間の最適経路を推定する、
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする消費エネルギー推定プログラム。
【請求項2】
前記複数のトリップデータのそれぞれについて、道路の特徴に依存しない情報であって、消費エネルギーに影響する情報を抽出する処理をコンピュータに実行させ、
前記学習する処理は、前記情報に基づいて前記回帰モデルを学習し、
前記算出する処理は、前記情報に基づいて、消費エネルギーを算出する、
ことを特徴とする請求項1記載の消費エネルギー推定プログラム。
【請求項3】
移動開始地と移動終了地と移動距離と消費エネルギーとを含む複数のトリップデータのそれぞれについて、道路をリンクの集合によって表現する地図データを参照して当該トリップデータに係る移動経路を示すリンクの集合を特定し、
道路の特徴情報を記憶する記憶部を参照して、特定した前記リンクの集合に含まれる各リンクに対応する特徴情報を抽出し、
前記各リンクについて抽出した特徴情報と、前記複数のトリップデータに含まれる移動距離及び消費エネルギーとに基づいて、単位移動距離あたりの消費エネルギーであるエネルギー消費率を目的変数とし、前記特徴情報を説明変数とする回帰モデルを学習し、
指定された出発地と指定された目的地との間の移動経路の探索範囲に含まれる各リンクについて、当該リンクの特徴情報と前記回帰モデルとに基づいて消費エネルギーを算出し
前記探索範囲に含まれる各リンクについて算出した消費エネルギーを当該各リンクの重みとして、前記出発地と前記目的地との間の最適経路を推定する、
処理をコンピュータが実行することを特徴とする消費エネルギー推定方法。
【請求項4】
移動開始地と移動終了地と移動距離と消費エネルギーとを含む複数のトリップデータのそれぞれについて、道路をリンクの集合によって表現する地図データを参照して当該トリップデータに係る移動経路を示すリンクの集合を特定する特定部と、
道路の特徴情報を記憶する記憶部を参照して、特定した前記リンクの集合に含まれる各リンクに対応する特徴情報を抽出する抽出部と、
前記各リンクについて抽出した特徴情報と、前記複数のトリップデータに含まれる移動距離及び消費エネルギーとに基づいて、単位移動距離あたりの消費エネルギーであるエネルギー消費率を目的変数とし、前記特徴情報を説明変数とする回帰モデルを学習する学習部と、
指定された出発地と指定された目的地との間の移動経路の探索範囲に含まれる各リンクについて、当該リンクの特徴情報と前記回帰モデルとに基づいて消費エネルギーを算出する算出部と、
前記探索範囲に含まれる各リンクについて算出した消費エネルギーを当該各リンクの重みとして、前記出発地と前記目的地との間の最適経路を推定する推定部と、
を有することを特徴とする消費エネルギー推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消費エネルギー推定プログラム、消費エネルギー推定方法及び消費エネルギー推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車はガソリン車と比べて航続可能距離が短いため、消費電力の推定により、航続可能距離等をユーザに提示する技術が求められている(例えば、特許文献1、特許文献2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-182035号公報
【文献】特開2013-50367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の消費電力の推定技術は、移動実績の有る経路に適用されることが前提とされており、移動実績の無い経路に対する有効性は低いと考えられる。
【0005】
なお、このような事情は、電気自動車のみならず、ガソリン等、電気以外の他のエネルギーを利用する移動体についても同様であると考えられる。
【0006】
そこで、一側面では、移動実績のない経路の消費エネルギーを推定可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一つの案では、移動開始地と移動終了地と移動距離と消費エネルギーとを含む複数のトリップデータのそれぞれについて、道路をリンクの集合によって表現する地図データを参照して当該トリップデータに係る移動経路を示すリンクの集合を定し、道路の特徴情報を記憶する記憶部を参照して、特定した前記リンクの集合に含まれる各リンクに対応する特徴情報を抽出し、前記各リンクについて抽出した特徴情報と、前記複数のトリップデータに含まれる移動距離及び消費エネルギーとに基づいて、単位移動距離あたりの消費エネルギーであるエネルギー消費率を目的変数とし、前記特徴情報を説明変数とする回帰モデルを学習し、指定された出発地と指定された目的地との間の移動経路の探索範囲に含まれる各リンクについて、当該リンクの特徴情報と前記回帰モデルとに基づいて消費エネルギーを算出し前記探索範囲に含まれる各リンクについて算出した消費エネルギーを当該各リンクの重みとして、前記出発地と前記目的地との間の最適経路を推定する、処理をコンピュータに実行させる。

【発明の効果】
【0008】
一態様によれば、移動実績のない経路の消費エネルギーを推定可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態における消費電力推定システム1の構成例を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における消費電力推定装置10のハードウェア構成例を示す図である。
図3】本発明の実施の形態における消費電力推定装置10の機能構成例を示す図である。
図4】トリップデータ記憶部121の構成例を示す図である。
図5】消費電力推定装置10が電力消費率推定モデルm1の学習時に実行する処理手順の一例を説明するためのフローチャートである。
図6】移動距離の推定処理の概要を説明するための図である。
図7】推定経路の特定結果の一例を示す図である。
図8】電力消費率推定モデルm1の第1構成例の学習処理を説明するための図である。
図9】推定経路の表現例を示す図である。
図10】電力消費率推定モデルm1の第2構成例の学習処理を説明するための図である。
図11】或る移動経路を電気自動車20が移動した場合の消費電力の推定時に消費電力推定装置10が実行する処理手順の一例を説明するためのフローチャートである。
図12】第1構成例の電力消費率推定モデルm1を用いた場合の予定経路の消費電力の推定処理を説明するための図である。
図13】第2構成例の電力消費率推定モデルm1を用いた場合の予定経路の消費電力の推定処理を説明するための図である。
図14】電費の観点における最適経路を推定する場合の処理手順の一例を説明するためのフローチャートである。
図15】電費の観点における最適経路を推定する場合の処理手順の一例を説明するための地図データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の実施の形態における消費電力推定システム1の構成例を示す図である。図1に示される消費電力推定システム1において、消費電力推定装置10は、複数の電気自動車20のそれぞれに搭載された情報処理装置(車載器)と、移動体通信網等を含むネットワークを介して接続される。
【0011】
消費電力推定装置10は、各電気自動車20のトリップごとの実績データに基づいて、電力消費率を推定するための回帰モデルを学習し、当該回帰モデルを用いて、新たに指定される移動経路の消費電力を推定する1以上のコンピュータである。なお、トリップとは、電気自動車20の電源がONにされて移動が開始されてから、電源がOFFにされて移動が終了するまでの区間をいう。ガソリン車であれば、トリップは、イグニッションがONにされてからOFFにされてまでの区間である。
【0012】
図2は、本発明の実施の形態における消費電力推定装置10のハードウェア構成例を示す図である。図2の消費電力推定装置10は、それぞれバスBで相互に接続されているドライブ装置100、補助記憶装置102、メモリ装置103、CPU104、及びインタフェース装置105等を有する。
【0013】
消費電力推定装置10での処理を実現するプログラムは、記録媒体101によって提供される。プログラムを記録した記録媒体101がドライブ装置100にセットされると、プログラムが記録媒体101からドライブ装置100を介して補助記憶装置102にインストールされる。但し、プログラムのインストールは必ずしも記録媒体101より行う必要はなく、ネットワークを介して他のコンピュータよりダウンロードするようにしてもよい。補助記憶装置102は、インストールされたプログラムを格納すると共に、必要なファイルやデータ等を格納する。
【0014】
メモリ装置103は、プログラムの起動指示があった場合に、補助記憶装置102からプログラムを読み出して格納する。CPU104は、メモリ装置103に格納されたプログラムに従って消費電力推定装置10に係る機能を実行する。インタフェース装置105は、ネットワークに接続するためのインタフェースとして用いられる。
【0015】
なお、記録媒体101の一例としては、CD-ROM、DVDディスク、又はUSBメモリ等の可搬型の記録媒体が挙げられる。また、補助記憶装置102の一例としては、HDD(Hard Disk Drive)又はフラッシュメモリ等が挙げられる。記録媒体101及び補助記憶装置102のいずれについても、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に相当する。
【0016】
図3は、本発明の実施の形態における消費電力推定装置10の機能構成例を示す図である。図3において、消費電力推定装置10は、経路推定部11、変数値抽出部12、モデル学習部13及び消費電力推定部14等を有する。これら各部は、消費電力推定装置10にインストールされた1以上のプログラムが、CPU104に実行させる処理により実現される。消費電力推定装置10は、また、トリップデータ記憶部121、地図データ記憶部122及び気象ログデータ記憶部123等の記憶部を利用する。これら各記憶部は、例えば、補助記憶装置102、又は消費電力推定装置10にネットワークを介して接続可能な記憶装置等を用いて実現可能である。
【0017】
トリップデータ記憶部121には、各電気自動車20の過去のトリップごとに、当該トリップに関する実績情報を含むデータ(以下「トリップデータ」という。)が記憶されている。
【0018】
図4は、トリップデータ記憶部121の構成例を示す図である。図4において、1行が1つのトリップデータに対応する。各トリップデータは、車両ID、移動開始地、移動終了地、移動距離、平均速度、移動開始日時、移動終了日時、消費電力及び加減速頻度等の値を含む。
【0019】
車両IDは、各電気自動車20の識別情報である。移動開始地は、移動(トリップ)が開始された位置の位置情報である。移動終了地は、移動(トリップ)が終了した位置の位置情報である。これらの位置情報は、正確な緯度及び経度でもよいし、個人情報保護の観点から、地図をメッシュ状(例えば、100m四方)に区切った場合においていずれかのメッシュに対応する地域を示す情報であってもよい。
【0020】
移動距離は、トリップにおける総移動距離[km]である。平均速度は、トリップにおける平均速度[km/h]である。移動開始日時は、移動(トリップ)の開始日時である。移動終了日時は、移動(トリップ)の終了日時である。消費電力は、トリップにおける消費電力[kW]である。加減速頻度は、移動開始日時から移動終了日時までの期間に対する、±の加速度の絶対値が閾値以上である状態の継続時間の総和の割合である。なお、加減速頻度は、運転手による運転の仕方の傾向(癖)を示すパラメータの一例である。同趣旨の異なるパラメータが加減速頻度の代わりに用いられてもよい。また、空調の使用率、荷物の積載量等、図4に示されていないパラメータのうち、電気自動車20側において計測可能であって、かつ、電気自動車20の電力消費率(単位走行距離当たりの消費電力)[Wh/km]に影響する(相関を有する)パラメータがトリップデータに含まれてもよい。
【0021】
このように、トリップデータは、1回のトリップを要約したデータであり、瞬時的な位置情報や消費電力等を時系列には含まないデータである。例えば、トリップデータは、各電気自動車20から所定のタイミングで消費電力推定装置10に送信されてもよい。又は、ディーラにおいて各電気自動車20からトリップデータが取得され、ディーラにおける端末から消費電力推定装置10に対してトリップデータが送信されてもよい。
【0022】
経路推定部11は、トリップデータ記憶部121に記憶されているトリップデータごとに、1つの移動経路を推定する。すなわち、トリップデータには、トリップの移動経路を示す情報は含まれていない。そこで、経路推定部11は、トリップデータに含まれている移動開始地、移動終了地及び移動距離と、地図データ記憶部122に記憶されている地図データとに基づいて、当該トリップデータに係るトリップにおける移動経路を推定する。地図データとは、リンクとノードとの集合によって道路を表現するデータや、各種の施設(POI(Point Of Interest)等)に関する情報を含むデータである。経路推定部11による移動経路の推定結果(以下「推定経路」という。)も、地図データと同様にリンクの集合(複数のリンクが1本に接続された形状)によって表現される。
【0023】
変数値抽出部12は、推定経路ごとに(すなわち、移動経路が推定されたトリップデータごとに)、トリップデータ、地図データ記憶部122及び気象ログデータ記憶部123から電力消費率推定モデルm1の学習データを抽出する。本実施の形態において、電力消費率推定モデルm1は、電力消費率を目的変数とし、リンク(道路)の特徴情報、運転の傾向、及び気象条件等を説明変数とする回帰モデルである。したがって、当該目的変数及び当該説明変数のそれぞれの実績値が学習データとして抽出される。リンクの特徴情報(勾配等)は、地図データ記憶部122から取得可能である。気象条件は、気象ログデータ記憶部123から取得可能である。すなわち、気象ログデータ記憶部123には、各地の気象条件のログデータ(以下「気象データ」という。)が記憶されている。
【0024】
モデル学習部13は、変数値抽出部12によって抽出された、電力消費率推定モデルm1の説明変数及び目的変数の実績値群に基づいて、電力消費率推定モデルm1を学習する。
【0025】
消費電力推定部14は、学習済みの電力消費率推定モデルm1を用いて、指定された移動経路(例えば、ユーザが走行予定の経路)を走行した場合の消費電力を推定する。
【0026】
以下、消費電力推定装置10が実行する処理手順について説明する。図5は、消費電力推定装置10が電力消費率推定モデルm1の学習時に実行する処理手順の一例を説明するためのフローチャートである。
【0027】
ステップS110において、経路推定部11は、トリップデータ記憶部121に記憶されている各トリップデータについて、移動経路の推定処理を実行する。
【0028】
図6は、移動距離の推定処理の概要を説明するための図である。図6において処理対象とされているトリップデータを「対象トリップデータ」という。
【0029】
図6に示されるように、経路推定部11は、まず、対象トリップデータ及び地図データを参照して、経路探索を行う(S111)。具体的には、経路推定部11は、対象トリップデータの移動開始地と移動終了地との間の経路を、地図データを参照して探索する。ここでは、複数の経路が探索されうる。続いて、経路推定部11は、探索された各経路について推定される移動距離を、対象トリップデータに含まれる移動距離と比較して、移動距離の誤差率に基づいて、1つの推定経路を特定する。
【0030】
移動距離の推定処理について、更に具体的に、第1手法及び第2手法の2つの例を説明する。但し、他の方法によって移動経路が推定されてもよい。以下の説明におけるステップ番号は、図6のステップ番号に対応する。
【0031】
[移動距離の推定処理の第1手法]
ステップS111において、経路推定部11は、地図データを参照して、対象トリップデータの移動開始地及び移動終了地の間において所要時間が短い順に所定数の経路を探索し、それぞれの経路の移動距離の推定値を計算する。経路の移動距離の推定値は、例えば、当該経路を構成する各リンクの距離の総和を求めることで計算することができる。
【0032】
ステップS112において、経路推定部11は、探索された各経路について計算された移動距離の推定値のうち、対象トリップデータの移動距離との誤差率が最も高い推定値に係る経路を対象トリップデータに対する推定経路として特定する。ここで、誤差率とは、対象トリップデータの移動距離をDとし、探索された経路の移動距離の推定値をDとした場合に、以下の式で得られる値である。
誤差率=|D-D|÷D
誤差率が高いとは、誤差率の値が小さいことをいう。なお、誤差率が最も高い推定値が複数有る場合、任意の方法によって一つの推定値が選択され、当該推定値に係る経路が推定経路として特定されればよい。
【0033】
[移動距離の推定処理の第2手法]
ステップ111において、経路推定部11は、対象トリップデータの移動開始地及び移動終了地の間における最短経路を、地図データを参照して探索し、当該最短経路の移動距離の推定値を計算する。例えば、ダイクストラ法等の公知の方法が用いられて最短経路が探索されればよい。
【0034】
ステップS112において、経路推定部11は、最短経路の移動距離の推定値と対象トリップデータの移動距離との誤差率が閾値未満であれば、ステップS111において探索した最短経路を対象トリップデータの推定経路とする。なお、当該誤差率が閾値以上である場合、対象トリップデータの推定経路は無しとされる。したがって、この場合、以降の処理において対象トリップデータは使用されない。
【0035】
図7は、推定経路の特定結果の一例を示す図である。図7では、トリップデータごとに推定経路が特定されることが示されている。但し、第2手法が採用された場合、推定経路が特定されないトリップデータも有りうる。なお、図7では、便宜上、各推定経路が同様の形状をしているが、実際には各推定経路は異なった形状となる。
【0036】
図5に戻る。ステップS110に続いて、変数値抽出部12は、ステップS110において特定された推定経路ごとに、電力消費率推定モデルm1の学習データ(電力消費率推定モデルm1の各説明変数及び目的変数のそれぞれの値(実績値))の抽出処理を実行する(S120)。
【0037】
電力消費率推定モデルm1の目的変数は、電力消費率[Wh/km]である。電力消費率は、トリップデータの消費電力を移動距離で除することで得られる。
【0038】
電力消費率推定モデルm1の説明変数は、道路(地図データのリンク)に依存する変数(以下「リンクの特徴変数」という。)と、道路に依存しない(以下「リンクに依存しない」という。)変数とが有る。リンクの特徴変数の値は、リンクの特徴情報(又は特徴量)ともいえる。一方、リンクに依存しない変数の値は、道路の特徴に依存しない情報であって、かつ、消費エネルギー(消費エネルギー率)に影響する(相関を有する)情報であるといえる。それぞれについて、以下に例示する。
【0039】
[リンクの特徴変数の一例]
・リンクに対応する道路の勾配
・リンクに対応する道路の種類(高速道路、国道、その他等)
・リンクに対応する道路の幅
・リンクに対応する道路周辺の信号機の数
・リンクに対応する道路周辺の店舗の数
なお、本実施の形態ではリンクの位置情報はリンクの特徴変数とはされない。電力消費率推定モデルm1をリンクの位置情報に依存させないようにするためである。電力消費率推定モデルm1がリンクの位置情報に依存しないことで、電力消費率推定モデルm1は、過去に移動した実績がない道路(リンク)であっても電力消費率の推定を可能にすることができる。例えば、本実施の形態で示す処理に、リンクの位置情報を含む情報を更に加えることで移動実績を加味した電力消費率を推定することは可能である。
【0040】
[リンクに依存しない変数の一例]
・推定経路の移動距離
・加減速頻度
・空調の使用率
・荷物の積載量
・気温
・風向・風速
・天候
リンクの特徴変数の値については、リンクの位置情報に基づいて地図データ記憶部122から抽出(取得)することができる。すなわち、変数値抽出部12は、推定経路ごとに、当該推定経路を構成する各リンクについて、当該リンクの特徴変数の値を、当該リンクの位置情報に基づいて地図データから取得する。なお、周辺の信号機の数や周辺の店舗の数については、例えば、地図データをグリッド状に区切り、対象のリンクが含まれるグリッド内の信号機又は店舗の数がカウントされてもよい。
【0041】
一方、リンクに依存しない変数の値について、変数値抽出部12は、推定経路ごとにトリップデータ又は気象データ等から抽出(取得)する。例えば、変数値抽出部12は、各推定経路について、当該推定経路に対応するトリップデータの移動開始日時及び移動開始地における気温、風向・風速及び天候等の気象条件を気象データから抽出(取得)し、抽出された値を当該推定経路を構成する各リンクに付与する。また、変数値抽出部12は、各推定経路について、当該推定経路に対応するトリップデータから移動距離、加減速頻度、空調の使用率及び荷物の積載量等を抽出(取得)し、抽出された値を当該推定経路を構成する各リンクに付与する。すなわち、リンクに依存しない変数の値は、同じ推定経路に属する各リンクに対しては同じ値が付与される。なお、長距離移動に対するトリップデータの存在も考えられる。この場合、移動の間において気象条件等が変化する場合も考えられる。そこで、気象データから値が抽出される説明変数については、リンクごとに値が抽出されてもよい。この場合、推定経路における各リンクを電気自動車20が通過した日時は、当該推定経路に対応するトリップデータの移動開始日時から移動終了日時までの経過時間を各リンクの距離に基づいて按分することで求められてもよい。このようにして求められた日時とリンクの位置情報に対応した気象データに基づく気象条件等が、当該リンクに付与されてもよい。
【0042】
ステップS120に続いて、モデル学習部13は、変数値抽出部12によって各推定経路の各リンクについて抽出された説明変数の値及び目的変数の値を用いて、電力消費率推定モデルm1の学習処理を実行する(S130)。
【0043】
本実施の形態では、電力消費率推定モデルm1について第1構成例及び第2構成例の2つの構成例を示す。電力消費率推定モデルm1の学習処理は、構成例ごとに異なるため、構成例ごとに以下に説明する。
【0044】
[電力消費率推定モデルm1の第1構成例の学習処理]
図8は、電力消費率推定モデルm1の第1構成例の学習処理を説明するための図である。図8において、電力消費率推定モデルm1は、リンク非依存モデルm21、リンク依存モデルm22及び合成モデルm23を含む。
【0045】
リンク非依存モデルm21は、リンク(道路)の特徴に依存しないモデルである。すなわち、リンク非依存モデルm21は、リンクに依存しないが消費電力率に影響する(相関を有する)変数を説明変数とし、電力消費率を目的変数とする回帰モデルである。リンク依存モデルm22は、リンク(道路)の特徴に依存するモデルである。すなわち、リンク依存モデルm22は、リンクの特徴変数を説明変数とし、電力消費率を目的変数とする回帰モデルである。合成モデルm23は、例えば、リンク依存モデルm22の推定値とリンク非依存モデルm21の推定値とのそれぞれに重みを与えて、電力消費率推定モデルm1の最終的な出力としての電力消費率を算出するモデルである。当該各重みの最適化には、例えば、グリッドサーチ等、公知技術を用いることができる。
【0046】
図8では、或るトリップデータに対応する推定経路に関して抽出されて当該推定経路の各リンクに付与された、リンクに依存しない変数の値がリンク非依存モデルm21に入力されることが示されている。また、当該推定経路の各リンクに関して抽出されて当該各リンクに付与された、リンクの特徴変数の値がリンク依存モデルm22に入力されることが示されている。また、リンク非依存モデルm21及びリンク依存モデルm22のそれぞれからの出力(推定値)が、合成モデルm23に入力されることが示されている。更に、合成モデルm23からの出力(推定値)が、当該トリップデータから導出される電力消費率の実績値と比較されることで、電力消費率推定モデルm1の学習が行われることが示されている。
【0047】
電力消費率推定モデルm1が図8に示されるように3つのモデルを含む場合、3つのモデルの学習方法として、第1学習方法及び第2学習方法の2つの学習方法が一例として挙げられる。第1学習方法は、リンク非依存モデルm21及びリンク依存モデルm22を学習した後に、学習済みのリンク非依存モデルm21及び学習済みのリンク依存モデルm22を利用して合成モデルm23を学習する方法である。第2学習方法は、3つのモデルを同時に学習する方法である。
【0048】
まず、第1学習方法について説明する。第1学習方法において、リンク非依存モデルm21及びリンク依存モデルm22の学習は独立に(並列に)実行可能である。
【0049】
リンク非依存モデルm21については、モデル学習部13が、以下の(1)~(2)の手順を実行することで、学習が行われる。
【0050】
(1)各推定経路の目的変数を以下の通り(すなわち、1トリップ全体の電力消費率[Wh/km])とする。
【0051】
【数1】
但し、Pは、推定経路を図9に示されるように表現した場合における、リンクiの消費電力である。また、Dは、リンクiの距離である。mは、推定経路に含まれるリンクの総数である。なお、
【0052】
【数2】
は、推定経路に対応するトリップデータ(図4)の消費電力である。
【0053】
(2)ステップS120において推定経路ごとに抽出されている、リンクに依存しない変数の値と、(1)における目的変数とによって、以下のようなデータセットが学習データとして得られる。そこで、モデル学習部13は、当該学習データを用いて、例えば、重回帰や非線形多変量回帰の手法によってリンク非依存モデルm21を学習する。
推定経路1の学習データ:目的変数の値,説明変数1の値・・・説明変数kの値
推定経路2の学習データ:目的変数の値,説明変数1の値・・・説明変数kの値



推定経路nの学習データ:目的変数の値,説明変数1の値・・・説明変数kの値
なお、説明変数kは、リンクmに対して付与されたリンクに依存しない変数のうちk番目の変数である。
【0054】
一方、リンク依存モデルm22については、以下の関数F(例えば、ニューラルネットワーク)によって表現される。
【0055】
【数3】
但し、αは、リンクiの重み、各Xは、リンクiに付与された、リンクの特徴変数である。jは、リンクの特徴変数の総数である。また、重みαiは、リンクiの電力消費率(P÷D)に相当する。
【0056】
この場合、モデル学習部13が以下の(1)の手順を実行することで、学習が行われる。
【0057】
(1)モデル学習部13は、以下の式が満たされるように、関数Fの学習パラメータ(ニューラルネットワークの学習パラメータ)を最適化する。
【0058】
【数4】
関数Fの学習パラメータの値は、例えば、以下の絶対値を損失とした誤差逆伝播法等により最適化することができる。
【0059】
【数5】
関数Fの学習パラメータが最適化されることにより、任意のリンクiのD及び各変数Xを関数Fに入力することで、リンクiの電力消費率を回帰することができる。すなわち、関数Fが、リンク依存モデルm22に相当する。但し、図8に示したリンク依存モデルm22の1つの推定経路あたりの出力は、以下の通りである。
【0060】
【数6】
但し、mは、推定経路に含まれるリンクの総数である。
【0061】
リンク非依存モデルm21及びリンク依存モデルm22の学習が終了すると、モデル学習部13は、合成モデルm23の学習を行う。具体的には、モデル学習部13は、推定経路ごとに、以下の(1)~(3)の手順を実行する。
【0062】
(1)モデル学習部13は、リンクに依存しない変数の値をリンク非依存モデルm21に入力し、処理対象の推定経路の各リンクの特徴変数の値をリンク依存モデルm22に入力し、2つのモデルからの電力消費率の推定値を得る。
【0063】
(2)モデル学習部13は、2つの推定値を合成モデルm23に入力し、合成モデルm23から出力される値(電力消費率の推定値)を得る。
【0064】
(3)モデル学習部13は、合成モデルm23から出力される推定値と、処理対象の推定経路に対応するトリップデータに基づく電力消費率の実績値との差分に基づいて、合成モデルm23のパラメータ(例えば、リンク非依存モデルm21及びリンク依存モデルm22のそれぞれに対する重み)を更新する。
【0065】
当該差分が収束すると、合成モデルm23の学習処理が終了する。
【0066】
次に、第2学習方法について説明する。第2学習方法では、電力消費率の実績値との比較対象は合成モデルm23から出力される推定値のみとされる。モデル学習部13は、合成モデルm23の推定値の電力消費率の実績値に対する誤差から、リンク非依存モデルm21及びリンク依存モデルm22それぞれの誤差を逆算して、各モデルを最適化する。
【0067】
例えば、合成モデルm23がリンク非依存モデルm21とリンク依存モデルm22の重み付き平均を出力するモデルであり、各パラメータが以下の通りであるとして説明する。
リンク非依存モデルm21の出力:a
リンク依存モデルm22の出力:b
合成モデルm23の出力:c
リンク非依存モデルm21に対する重み:w1
リンク依存モデルm22に対する重み:w2
この場合、合成モデルm23の出力cは、以下の通りである。
c=a×w1+b×w2
ここで、電力消費率の実績値がxであるとすると、合成モデルm23の誤差Ecは、以下の通りである。
Ec=c-x
第2学習方法では、誤差Ecがリンク非依存モデルm21の出力の誤差Eaとリンク依存モデルm22の誤差Ebとが合成モデルm23で足し合わされたものであると考える。
【0068】
そこで、モデル学習部13は、以下の演算を実行する。
Ea=w1/(w1+w2)*Ec
Eb=w2/(w1+w2)*Ec
すると、リンク非依存モデルm21での誤差とモデルリンク依存モデルm22での誤差が合成モデルm23での誤差と重みから計算できることになる。
【0069】
モデル学習部13は、重みw1及びw2を更新しつつ、リンク非依存モデルm21及びリンク依存モデルm22をくりかえし最適化し、最もEcが小さくなるw1及びw2の組み合わせを見つけることで、リンク非依存モデルm21、リンク依存モデルm22及び合成モデルm23を最適化(学習)することができる。
【0070】
[電力消費率推定モデルm1の第2構成例の学習処理]
図10は、電力消費率推定モデルm1の第2構成例の学習処理を説明するための図である。図10において、電力消費率推定モデルm1は、図8のように複数のモデルに分割されていない1つのモデルである。図10における電力消費率推定モデルm1は、リンクに依存しない変数及びリンクの特徴変数を説明変数とし、電力消費率を目的変数とする回帰モデル(例えば、ニューラルネットワーク、決定木、重回帰モデル等)である。
【0071】
この場合、モデル学習部13は、推定経路ごとに、当該推定経路について抽出されたリンクに依存しない変数の値と、当該推定経路について抽出されたリンクの特徴変数の値とを電力消費率推定モデルm1に入力する。モデル学習部13は、電力消費率推定モデルm1から出力される電力消費率の推定値と、当該推定経路に対応するトリップモデルから取得可能な電力消費率の実績値とを比較し、比較結果に基づいて電力消費率推定モデルm1の学習パラメータを更新する。モデル学習部13は、当該比較結果が収束するまで学習パラメータを更新する。その結果、任意の経路のリンクに依存しない変数の値と、当該経路を構成する各リンクの特徴変数の値とを入力すると、電力消費率の推定値を出力する電力消費率推定モデルm1が学習される。
【0072】
次に、学習済みの電力消費率推定モデルm1を用いて実行される処理手順の一例について説明する。図11は、或る移動経路を電気自動車20が移動した場合の消費電力の推定時に消費電力推定装置10が実行する処理手順の一例を説明するためのフローチャートである。
【0073】
ステップS210において、消費電力推定部14は、出発地(移動開始予定地)及び目的地(移動終了予定地)のそれぞれの位置情報(例えば、緯度及び経度等)の入力を受け付ける。出発地及び目的地は、例えば、消費電力推定装置10とネットワークを介して接続されるユーザ端末のユーザによって指定されてもよい。
【0074】
続いて、消費電力推定部14は、出発地から目的地までの移動経路(以下、「予定経路」という。)を決定する(S220)。例えば、消費電力推定部14が、地図データ記憶部122を参照して、出発地から目的地までの複数通りの経路を探索し、当該複数通りの経路の中からユーザによって選択された経路が、予定経路として決定されてもよい。又は、出発地から目的地までの最短経路が予定経路として決定されてもよい。なお、予定経路は、リンクとノードの集合によって表現される。
【0075】
なお、ここでは、消費電力推定部14が予定経路を探索する例を示したが、他のコンピュータにおいて探索された移動経路が、予定経路として消費電力推定部14に対して入力されてもよい。
【0076】
続いて、消費電力推定部14は、予定経路に関して、電力消費率推定モデルm1の説明変数の値を取得する(S230)。具体的には、消費電力推定部14は、予定経路に含まれる各リンクについて、リンクの特徴変数の値を取得する。消費電力推定部14は、また、予定経路について、リンクに依存しない変数の値を取得する。気象データ等、値の取得について日時が特定される必要が有る変数については、現在日時が適用されてもよい。又は、予定経路と共に、予定経路を移動予定の日時が消費電力推定部14に入力されてもよい。基本的に、各説明変数の値の取得方法は、変数値抽出部12による各変数の抽出と同様の方法で行われればよい。但し、移動予定の日時が未来である場合、気象データについては、未来の日時に対応する天気予報のデータが用いられてもよい。
【0077】
続いて、消費電力推定部14は、取得した説明変数の値を、学習済みの電力消費率推定モデルm1に入力することで、予定経路の消費電力[kW]の推定値を計算する(S240)。
【0078】
ステップS240については、電力消費率推定モデルm1が第1構成例(図8)の場合と第2構成例(図10)の場合との2つの例について説明する。
【0079】
図12は、第1構成例の電力消費率推定モデルm1を用いた場合の予定経路の消費電力の推定処理を説明するための図である。
【0080】
消費電力推定部14が、リンクに依存しない変数の値を、学習済みのリンク非依存モデルm21に入力すると、リンク非依存モデルm21は、予定経路に対する1つの電力消費率の推定値を出力する(S241a)。
【0081】
また、消費電力推定部14が、予定経路のリンクごとに、当該リンクに関して取得された特徴変数の値(リンクの特徴量)を、学習済みのリンク依存モデルm22に入力すると、リンク依存モデルm22は、予定経路のリンクごとに、当該リンクに対する電力消費率の推定値を出力する(S242a)。なお、図12では、リンク依存モデルm22が、リンクごとに図示されているが、これは、リンクごとにリンク非依存モデルm21が存在することを示すものではなく、リンクごとにリンク非依存モデルm21による計算が行われることを示す。この点は、合成モデルm23についても同様である。
【0082】
ステップS241a及びS242にaに続いて、消費電力推定部14が、予定経路のリンクごとに、当該予定経路についてリンク非依存モデルm21から出力された推定値と、当該リンクについてリンク依存モデルm22から出力された推定値とを、学習済みの合成モデルm23に入力すると、合成モデルm23は、予定経路のリンクごとに、2つの推定値を合成することで得られる、当該リンクに対する電力消費率の推定値を出力する(S243a)。なお、リンク非依存モデルm21からの出力は、全てのリンクに対して同じ値が適用される。
【0083】
続いて、消費電力推定部14は、予定経路のリンクごとに、当該リンクについて合成モデルm23から出力された推定値と当該リンクの距離との積を計算することで、当該リンクの消費電力[kW]の推定値を算出する(S244a)。なお、各リンクの距離は、地図データから取得可能である。
【0084】
続いて、消費電力推定部14は、リンクごとに算出された消費電力の推定値の総和を計算することで、予定経路の消費電力の推定値を算出する(S245a)。
【0085】
一方、図13は、第2構成例の電力消費率推定モデルm1を用いた場合の予定経路の消費電力の推定処理を説明するための図である。
【0086】
消費電力推定部14が、予定経路のリンクごとに、リンクに依存しない変数の値と、当該リンクの特徴変数の値とを学習済みの電力消費率推定モデルm1に入力すると、電力消費率推定モデルm1は、当該リンクごとに電力消費率の推定値を出力する(S241b)。
【0087】
続いて、消費電力推定部14は、予定経路のリンクごとに、当該リンクについて電力消費率推定モデルm1から出力された推定値と当該リンクの距離との積を計算することで、当該リンクの消費電力[kW]の推定値を算出する(S242b)
続いて、消費電力推定部14は、リンクごとに算出された消費電力の推定値の総和を計算することで、予定経路の消費電力の推定値を算出する(S243b)。
【0088】
次に、学習済みの電力消費率推定モデルm1を用いて、電気自動車20の電費の観点において最適経路を推定する場合の処理手順について説明する。図14は、電費の観点における最適経路を推定する場合の処理手順の一例を説明するためのフローチャートである。また、図15は、電費の観点における最適経路を推定する場合の処理手順の一例を説明するための地図データを示す図である。
【0089】
ステップS310において、消費電力推定部14は、移動経路の探索範囲として指定された範囲内の全ての地図データを地図データ記憶部122から取得する。その結果、図15の(1)に示されるような情報が取得される。なお、探索範囲は、出発地と目的地を最小限カバーするように決めてもよいし、計算資源が許すならば、例えば、日本国内全域とされてもよい。
【0090】
続いて、消費電力推定部14は、電力消費率推定モデルm1の説明変数の値を取得する(S320)。当該値の取得方法は、図11のステップS230と同様でよい。但し、ステップS320では、探索範囲の全てのリンクについて説明変数の値が取得される。なお、気象データ等、リンクに依存しない変数の値が未知である場合、例えば、探索範囲の地域における平均気温等、過去の実績値に基づいてリンクに依存しない変数の値が計算されてもよい。
【0091】
続いて、消費電力推定部14は、当該リンクごとに、学習済みの電力消費率推定モデルm1に対して説明変数の値を入力することで、当該リンクごとの電力消費率を算出する(S330)。
【0092】
続いて、消費電力推定部14は、当該リンクごとに、ステップS330において算出された電力消費率に対して当該リンクの距離を乗じることで、消費電力を算出する(S340)。その結果、図15の(2)に示されるような情報が得られる。すなわち、図15の(2)において、各リンクを示す線の太さは、消費電力の大きさを示す。
【0093】
続いて、消費電力推定部14は、各リンクについて算出された消費電力を各リンクのコスト(重み)として経路最適化問題を解くことで、最適経路を推定する(S350)。図15の(3)には、最適経路の一例が破線によって示されている。なお、経路最適化問題の解法としては、ダイクストラ法やA*法など、公知のアルゴリズムが用いられればよい。
【0094】
なお、上記では、電力消費率推定モデルm1が利用される例について説明したが、電力消費率推定モデルm1の全部ではなく、第1構成例(図8)におけるリンク依存モデルm22のみが用いられてもよい。この場合、ステップS320では、リンクの特徴変数の値が取得されればよい。ステップS330では、リンクの特徴変数の値がリンク依存モデルm22に入力されることで、各リンクの電力消費率が算出されればよい。
【0095】
また、ステップS310~S340は、ステップS350とは非同期に(例えば、事前に)実行されてもよいし、ステップS350と同期的に(リアルタイムに)実行されてもよい。
【0096】
但し、事前に各リンクの重み(消費電力)が計算される場合(すなわち、ステップS310~S340が事前に実行される場合)、重みが計算が実行される時点では、最適経路を移動する日時における気象条件等の道路リンクに依存しない変数の値を取得できない可能性が有る。そのため、最適経路に含まれる各リンクの当該重みの合計を最適経路の消費電力として計算すると、消費電力の推定値が劣化する可能性がある。
【0097】
そこで、最適経路の消費電力を計算する必要が有る場合、消費電力推定部14は、最適経路について、図11のステップS230及びS240を実行することで、最適経路の消費電力の推定値を計算してもよい。そうすることで、当該推定値の精度の向上を期待することができる。
【0098】
上述したように、本実施の形態によれば、過去のトリップ(移動)の移動経路に含まれるリンクの特徴情報と当該トリップの電力消費率とに基づいて、回帰モデルが学習される。この際、リンクの位置情報は特徴量には含まれない。したがって、当該回帰モデルを用いて、過去に移動実績のない経路であっても消費電力を推定することができる。
【0099】
これにより、例えば、電気自動車20について現在のバッテリー残量で目的地まで到達可能か否かを示す情報や、消費電力を節約したいユーザへの適切な経路の提示等を可能とすることができる。
【0100】
また、本実施の形態によれば、リンクに依存しない変数(リンクに依存しない特徴量)も回帰モデルの説明変数とされる。これにより、消費電力の推定において、リンクに依存しない状況(気象条件等)をも考慮することができ、推定精度の向上を期待することができる。
【0101】
また、本実施に形態によれば、例えば、1回のトリップ内においてリアルタイム(例えば、周期的)に各種のセンサ等から取得される各種の時系列データを必要とせず、トリップデータに基づいて回帰モデルを学習することができる。これにより、電気自動車20からリアルタイムにデータを取得する必要がなくなり、データ取得のためのネットワーク構築にかかるコストを削減可能とすることができる。
【0102】
なお、本実施の形態では、電気自動車20が消費するエネルギー(電力)を推定する例について説明したが、他のエネルギーを消費して移動する移動体(例えば、ガソリン車、ディーゼル車等)について、本実施の形態が適用されてもよい。この場合、電力消費率は、各移動体に対応するエネルギー消費率(単位移動距離当たりの消費エネルギー(例えば、ガソリンの消費量))によって置き換えら、消費電力は、消費エネルギーによって置き換えられればよい。
【0103】
なお、本実施の形態において、消費電力推定装置10は、消費エネルギー推定装置の一例である。経路推定部11は、第1の推定部の一例である。変数値抽出部12は、抽出部の一例である。モデル学習部13は、学習部の一例である。消費電力推定部14は、第2の推定部の一例である。
【0104】
以上、本発明の実施の形態について詳述したが、本発明は斯かる特定の実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0105】
1 消費電力推定システム
10 消費電力推定装置
11 経路推定部
12 変数値抽出部
13 モデル学習部
14 消費電力推定部
20 電気自動車
100 ドライブ装置
101 記録媒体
102 補助記憶装置
103 メモリ装置
104 CPU
105 インタフェース装置
121 トリップデータ記憶部
122 地図データ記憶部
123 気象ログデータ記憶部
B バス
m1 電力消費率推定モデル
m21 リンク非依存モデル
m22 リンク依存モデル
m23 合成モデル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15