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特許7400861遮光部材、レンズユニット、カメラモジュール、および、電子機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】遮光部材、レンズユニット、カメラモジュール、および、電子機器
(51)【国際特許分類】
   G03B 9/02 20210101AFI20231212BHJP
   G02B 5/00 20060101ALI20231212BHJP
   G02B 7/02 20210101ALI20231212BHJP
   G03B 30/00 20210101ALI20231212BHJP
【FI】
G03B9/02 A
G02B5/00 B
G02B7/02 D
G02B7/02 H
G03B30/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022068856
(22)【出願日】2022-04-19
(62)【分割の表示】P 2021534005の分割
【原出願日】2020-07-17
(65)【公開番号】P2022089934
(43)【公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2019133739
(32)【優先日】2019-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019133740
(32)【優先日】2019-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019167046
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019167047
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】西辻 清明
(72)【発明者】
【氏名】島村 槙一
(72)【発明者】
【氏名】相澤 弘康
【審査官】登丸 久寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-015815(JP,A)
【文献】特開2006-072151(JP,A)
【文献】特開2006-079073(JP,A)
【文献】特開2020-140130(JP,A)
【文献】特開2020-030387(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B 9/02
G02B 5/00
G02B 7/02
G03B 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リング状の金属製基材から形成される遮光部材であって、
表面と、
前記表面とは反対側の裏面と、
前記遮光部材の外周縁において、前記表面と前記裏面とを繋ぐ外周端面と、を備え、
前記表面に直交する平面に沿う断面において、前記外周端面は、前記遮光部材の径方向における外側に向けて前記外周端面のうちで最も突出した頂部を有し、
前記金属製基材の厚さ方向において前記金属製基材を貫通する開口部を備え、
前記開口部は、内周端面によって囲まれ、
前記内周端面は、前記遮光部材の前記径方向における内側に向けて前記内周端面のうちで最も突出したエッジ先端部を有し、
前記頂部が前記遮光部材の面方向外側に突き出る長さが、前記開口部の前記エッジ先端部が前記開口部の中心側に突き出る長さよりも短い
遮光部材。
【請求項2】
前記頂部の位置は、前記金属製基材の前記厚さ方向において、前記厚さ方向の中央部からずれている
請求項1に記載の遮光部材。
【請求項3】
前記遮光部材には、前記表面に対して外光が入射し、
前記内周端面は、前記表面での孔径が前記裏面での孔径よりも大きくなるようなテーパ状を有する
請求項1または2に記載の遮光部材。
【請求項4】
前記頂部は、前記金属製基材の前記厚さ方向において、前記裏面寄りに位置する
請求項3に記載の遮光部材。
【請求項5】
前記金属製基材を形成する材料は、アルミニウム、鉄、銅、クロム、ニッケル、コバルト、および、それらの合金からなる群から選択されるいずれか1つである
請求項1から4のいずれか一項に記載の遮光部材。
【請求項6】
前記金属製基材を形成する材料は、鉄‐ニッケル系合金、または、鉄‐ニッケル‐コバルト系合金である
請求項5に記載の遮光部材。
【請求項7】
前記金属製基材を形成する材料は、インバー、または、スーパーインバーである
請求項6に記載の遮光部材。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の遮光部材と、
複数のレンズと、
レンズホルダと、を備えるレンズユニット。
【請求項9】
請求項8に記載のレンズユニットと、
撮像素子と、を備えるカメラモジュール。
【請求項10】
請求項9に記載のカメラモジュールを備える電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮光部材、レンズユニット、カメラモジュール、および、電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラなどの光学機器、携帯情報端末装置およびパーソナルコンピュータなどの電子機器などに搭載されるカメラモジュールには、複数のレンズをレンズホルダ、すなわち鏡筒の内部に積み重ねた上で、固体撮像素子と組み合わせるレンズユニットが含まれる。固体撮像素子は、例えばCCDおよびCMOSなどのイメージセンサである。このようなレンズユニットにおいて、レンズとレンズとの間に、遮光およびアパーチャー決めのための遮光部材が用いられる。アパーチャーは、絞りを規定する開口である。
【0003】
遮光性能に優れた遮光部材を製造する上で、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、錫(Sn)、SUS(ステンレス鋼)などの金属製基材を用いて製造される遮光部材についての先行技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、遮光性能を一層確実にするため、遮光部材の表面に、所定サイズ、所定ピッチ、かつ、所定の向きで配列された錐体状の複数の突部、すなわちモスアイ構造が形成される。このような遮光部材は、カメラモジュールのレンズユニットにおいて、迷光の進入、および、フレアおよびゴーストの発生を防止し、これによって撮影に有害な光を遮断してカメラモジュールの撮像性能を向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017‐15815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
厚みを持つ金属製基材を用いて遮光部材を製造する際、打ち抜き加工では、製造物に歪みおよび皺の少なくとも一方が発生してしまう。また、切断加工では、切断加工に応じて断裁面の金属光沢を有する部分が露出してしまう。そのため、何れの加工も遮光性能の低下を招く。特に、撮像性能に及ぼす影響の大きいアパーチャー部の成形面において、上述した2つの加工が遮光性能の低下に及ぼす影響は大きい。
【0006】
金属製基材を用いて遮光部材を製造する手法として、フォトエッチングを採用することも考えられる。等方的なフォトエッチングは、エッチング加工の進行方向と垂直な方向へのサイドエッチングを伴うため、厚みを持つ金属製基材に垂直な貫通孔を形成することは困難である。しかしながら、金属製基材の表面からのフォトエッチングと裏面からのフォトエッチングとを組み合わせて、サイドエッチングを積極的に応用して加工部の断面形状を制御することも可能である。
【0007】
フレアおよびゴーストを解消するためのアパーチャー部の成形面と、遮光部材の外形を規定する成形面とは、それぞれに好適な断面形状を有している。金属製基材の表面からの等方的なフォトエッチングと裏面からの等方的なフォトエッチングとの組み合わせでは、金属製基材の内部に向ってそれぞれ略円弧を描くようにエッチングが進行するので、表面および裏面から形成が進む円弧が交差する貫通箇所では、断面視におけるエッチングの交点であるエッジ、すなわち頂部が形成される。
【0008】
本発明は、リング状の遮光部材における内周縁であるアパーチャー部を規定する内径、および、外周縁である外形を規定する外径をフォトエッチングでの貫通孔により形成するにあたり、レンズユニットの組み立て工程における取扱い性に優れた外周縁の断面形状を有する遮光部材を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための遮光部材は、リング状の金属製基材から形成される遮光部材である。表面と、前記表面とは反対側の裏面と、前記遮光部材の外周縁において、前記表面と前記裏面とを繋ぐ外周端面と、を備える。前記表面に直交する平面に沿う断面において、前記外周端面は、前記遮光部材の径方向における外側に向けて前記外周端面のうちで最も突出した頂部を有する。前記頂部が前記遮光部材の面方向外側に突き出る長さが、前記エッジの先端部が前記開口部の中心側に突き出る長さよりも短い。
【0010】
上記遮光部材において、前記頂部の位置は、前記金属製基材の厚さ方向において、前記厚さ方向の中央部からずれていてもよい。
上記遮光部材において、前記遮光部材には、前記表面に対して外光が入射し、前記金属製基材の厚さ方向において前記金属製基材を貫通する開口部を備え、前記開口部は、内周端面によって囲まれ、前記内周端面は、前記表面での孔径が前記裏面での孔径よりも大きくなるようなテーパ状を有してもよい。
【0011】
上記遮光部材において、前記頂部は、前記金属製基材の厚さ方向において、前記裏面寄りに位置してもよい。
金属製基材を形成する材料は、アルミニウム、鉄、銅、クロム、ニッケル、コバルト、および、それらの合金からなる群から選択されるいずれか1つであってよい。
【0012】
金属製基材を形成する材料は、鉄‐ニッケル系合金、または、鉄‐ニッケル‐コバルト系合金であってよい。
金属製基材を形成する材料は、インバー、または、スーパーインバーであってよい。
【0013】
上記課題を解決するためのレンズユニットは、上記遮光部材と、複数のレンズと、レンズホルダと、を備える。
上記課題を解決するためのカメラモジュールは、上記レンズユニットと、撮像素子と、を備える。
【0014】
上記課題を解決するための電子機器は、上記カメラモジュールを備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、レンズユニットの組み立て工程における取扱い性に優れた断面形状を有した遮光部材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態の遮光部材における一部を示す拡大断面図。
図2図1が示す遮光部材の内周と外周の端面を近づけて示す断面図。
図3図1が示す遮光部材の構造を示す平面図。
図4】遮光部材を備えるカメラモジュールの一例における構造を示す断面図。
図5】エッチング手順の一例を示す説明図。
図6】板状のステンレス製基材の主表面に遮光部材を多面付け成形する手法の一例を示す説明図。
図7】設計変更に応じた遮光部材の光学特性について図示する概念図。
図8】第2実施形態の遮光部材の内周と外周の端面を近づけて示す断面図。
図9】第2実施形態の変更例において遮光部材の内周と外周の端面を近づけて示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1実施形態]
図4にカメラモジュール100の一例を示す。しかし、本開示の遮光部材が適用可能なカメラモジュールは当該カメラモジュール100に限定されない。図4において、カメラモジュール100は、レンズユニット50と、撮像素子(イメージセンサ)60を備える。カメラモジュール100は、例えばスマートフォンおよび携帯電話などに内蔵される。レンズユニット50は、第1レンズシート20、第2レンズシート22、遮光部材31,32,33、および、レンズホルダ(鏡筒)40を備える。レンズホルダ40には、レンズシート20,22および遮光部材31,32,33が組み込まれる。
【0018】
図4に示す例では、第1レンズシート20の表裏にレンズ部20a,20bが形成され、第2レンズシート22の表裏にレンズ部22a,22bが形成されている。なお、レンズシートの枚数は2に限らず、すなわちレンズ部の数は4に限らず、レンズユニット50の設計に応じて適宜に増減される。遮光部材31,32,33は、リング状のシートである。遮光部材31,32,33は、レンズ部22a上における光の入射面側、レンズ部22bとレンズ部20aとの間、レンズ部20bに対する光の射出面側と、撮像素子60の封止ガラス板7との間に1つずつ配置される。遮光部材31,32,33は、撮影と無関係な光を遮断する。遮光部材31,32,33のそれぞれは、各遮光部材31,32,33が隣接するレンズに応じた大きさおよび開口サイズを有している。開口サイズは、各遮光部材31,32,33が有する開口部の孔径である。
【0019】
固体撮像素子のシリコン基板1において、シリコン基板1の上面である受光素子面に、色分解用のカラーフィルタ26および集光用のマイクロレンズ27が画素毎に形成されている。固体撮像素子にて得られる画像情報の電気信号は、アルミ電極28を経由してスルー・シリコン・ビア(TSV)内に充填された、もしくは、TSVの内壁を被覆する導電物質2によりシリコン基板1の裏面に導かれる。そして、電気信号は、パターン化された絶縁層3と導電層4によって、BGA方式による接続端子5に導かれ、接続端子5から外部回路に入力される。シリコン基板1の上方には、枠壁6を介して封止ガラス板7が位置している。封止ガラス板7が枠壁6に貼りあわせられることによって、受光領域が気密性を有する。枠壁6は薄く、50μm程度の厚さを有する。カメラモジュール100の最上部にはカバーガラス板23が位置している。
【0020】
以下、遮光部材31,32,33の第1実施形態について説明する。図3の平面図に示すように、遮光部材は略リング状に成型されたシートである。図3(a)および図3(b)において示される遮光部材が有する形状の相違については後述する。遮光部材31,32,33は、外径、内径、および、厚さ以外は同様の構成であるので、遮光部材33について具体的に説明し、遮光部材31,32の説明は略す。
【0021】
遮光部材33の製造にあたっては、打ち抜き法、レーザ加工法、エッチング法の何れの方法も採用可能であるが、本開示においては成形加工面を好適な形状に加工する上でエッチング法を採用する。
【0022】
遮光部材33を形成する金属製基材としては、厚さが10μm以上100μm以下のステンレス製基材が好適である。ステンレスは、例えばSUS304によって代表される。ステンレスは、クロムまたはクロムとニッケルを含み、鉄を主成分とする合金である。
【0023】
遮光部材33の厚さが10μm以上である場合には、金属製基材の反りが遮光部材33の形状に対して影響を与えることが抑えられる。また、遮光部材33の厚さが100μm以下である場合には、開口部を形成する際のエッチングの精度が低下することが抑えられる。なお、遮光部材33は、ステンレス以外の他の金属によって形成されてもよい。この場合には、ステンレス製の遮光部材が有する遮光性能と、ステンレス以外の金属によって形成された遮光部材が有する遮光性能とが同等であればよい。
【0024】
金属製基材を形成する他の金属は、アルミニウム、鉄、銅、クロム、ニッケル、コバルト、および、それらの合金からなる群から選択されるいずれか1つであってよい。金属製基材に対して黒色系メッキおよび粗面化などの各種表面処理を行なう観点、また、強度などの特性の向上を図る観点では、他の金属はアルミニウムであることが好ましい。アルミニウムは、加工の容易さと取扱い性とに優れている。
【0025】
金属製基材を形成する他の合金は、鉄‐ニッケル系合金および鉄‐ニッケル‐コバルト系合金であってよい。鉄‐ニッケル系合金の熱膨張係数は、ステンレスの熱膨張係数よりも小さい。そのため、鉄‐ニッケル系合金製の遮光部材は、外気温の変化に伴う変形が少なく、遮光部材における反りの発生が抑えられる。さらに、遮光部材自体の反り、熱膨張、および、熱収縮に伴う内径の変形を要因とする外気温の変化に伴う外光の入射量における変化を抑えることができる。なお、外光の入射量とは、遮光部材を通じてレンズに入射する外光の入射量である。それ故に、遮光部材が鉄‐ニッケル系合金によって形成されることは、外光の入射量における変化に伴うゴーストおよびフレアの抑制に有効である。
【0026】
なお、鉄‐ニッケル系合金は、鉄とニッケルとを主成分とし、かつ、例えば、30質量%以上のニッケルと、残余分としての鉄を含む合金である。鉄‐ニッケル系合金の中でも、36質量%のニッケルを含む合金、すなわちインバーが、遮光部材を形成するための材料として好ましい。インバーにおいて、36質量%のニッケルに対する残余分は、主成分である鉄以外の添加物を含む場合がある。添加物は、例えば、クロム、マンガン、炭素、および、コバルトなどである。鉄‐ニッケル系合金に含まれる添加物は、最大でも1質量%以下である。
【0027】
鉄‐ニッケル‐コバルト系合金の熱膨張係数は、鉄‐ニッケル系合金の熱膨張係数よりも小さい。そのため、鉄‐ニッケル‐コバルト系合金製の遮光部材は、外気温の変化に伴う変形がより小さく、遮光部材の反りの発生をより抑えられる。さらに、遮光部材自体の反りや熱膨張や熱収縮に伴う内径の変形を要因とする外気温の変化に伴う外光の入射量における変化をより抑えることができる。それ故に、遮光部材が鉄‐ニッケル‐コバルト系合金によって形成されることは、外光の入射量における変化に伴うゴーストおよびフレアの抑制にさらに有効である。
【0028】
なお、鉄‐ニッケル‐コバルト系合金は、鉄、ニッケル、および、コバルトを主成分とし、かつ、例えば、30質量%以上のニッケル、3質量%以上のコバルト、および、残余分としての鉄を含む合金である。鉄‐ニッケル‐コバルト系合金の中でも、32質量%のニッケルと、4質量%以上5質量%以下のコバルトとを含む合金、すなわちスーパーインバーが、遮光部材を形成するための材料として好ましい。スーパーインバーにおいて、32質量%のニッケル、および、4質量%以上5質量%以下のコバルトに対する残余分は、主成分である鉄以外の添加物を含む場合がある。添加物は、例えば、クロム、マンガン、および、炭素などである。鉄‐ニッケル‐コバルト系合金に含まれる添加物は、最大でも0.5質量%以下である。
【0029】
また、金属製基材を形成する合金は、ステンレスインバーであってもよい。ステンレスインバーにおいて、ニッケルおよびコバルトの含有量が、スーパーインバーよりも大きく、かつ、ステンレスインバーはクロムを含む。ステンレスインバーにおける熱膨張係数は、スーパーインバーにおける熱膨張係数よりもさらに小さい。以降は、ステンレス製基材を採用した説明を中心として行う。
【0030】
遮光部材33は、フォトリソグラフィ手法によって得られる。フォトリソグラフィ手法では、板状のステンレス製基材の主表面に形成したレジストパターンをマスクとして、ステンレス製基材のエッチングが可能なエッチャントによってステンレス製基材を一方の主表面、すなわちおもて面(表面)からエッチングする。その後、他方の主表面、すなわち裏面からステンレス製基材をエッチングすることにより、所望の形状を有した遮光部材33をステンレス製基材から切り抜く、すなわち、分離することができる。なお、後述するように、ステンレス製基材は、裏面からエッチングされた後に、表面からエッチングされてもよい。
【0031】
図1は、ステンレス製基材11をエッチングして所望形状に切り抜いて得られた遮光部材33の一部を示す拡大図である。なお、図1は、図3における符号15において一点鎖線で示される外周縁の断面構造を拡大して示している。図1に示す遮光部材33は、対向する一対の主表面11a,11bと、端面(外周端面)11cとを有する。ステンレス製基材11の主表面11a,11bにそれぞれレジストパターン12a,12bを形成し、そのレジストパターン12a,12bをマスクとしてステンレス製基材11をエッチングする。これにより、エッチングがステンレス製基材11の対向する両主表面11a,11bからそれぞれ等方的に進行するために、主表面11a(表面)からのエッチングと、主表面11b(裏面)からのエッチングとにより端面11cに頂部15が形成される。
【0032】
このエッチングにおいては、断面視において、主表面11aおよび主表面11bからステンレス製基材11の内部に向かって略円弧を描くようにエッチングが進行する。そのため、ステンレス製基材11が切り抜かれる際には、端面11cは、ステンレス製基材11の厚さ方向における中央部付近において円弧が交差した形状を有する。図1(a)に示すように、頂部15は端面11cにおいて最も突出する部分である。主表面11a,11bとレジストパターン12a,12bとの界面において、サイドエッチングが進行する部分が先端部である。先端部は、レジストパターン12a,12bを剥離した遮光部材33の各主表面11a,11bにおけるエッジ部である。先端部のうち、表面11aに位置する先端部が表面先端部13aであり、裏面11bに位置する先端部が裏面先端部13bである。
【0033】
エッチング手法の一例を図5に示す。なお、図5では図示上の制限から、便宜的に断面を省略して、1箇所の貫通孔のみについて記載している。ステンレス製基材11を一方の主表面11b側からのみ途中までハーフエッチングした後(図5(b))、一旦エッチングを中断する。そして、エッチング加工した凹部に耐エッチング用ニス19を埋め込み(図5(c))、次いでステンレス製基材11を他方の主表面11a側からのみ上記耐エッチング用ニス19に達するまで再度エッチングし(図5(d))、これによってステンレス製基材11に貫通孔を形成する(図5(e))。表面のエッチングが耐エッチング用ニス19に到達した後は、ステンレス製基材11に対するエッチング液の供給が、耐エッチング用ニス19によって制御される。これにより、ステンレス製基材11が10μm以上100μm以下の広い範囲において、精度の高い断面形状を形成できる。
【0034】
上述した手法によれば、過剰なサイドエッチングを抑制して、微細孔の寸法を正確に制御して成形することが可能である。これにより、エッチング加工される端面の断面形状の制御も可能である。図5においては、レジストパターン12aの孔径は、レジストパターン12bの孔径よりも大きくなるように形成されている。2段階のエッチングでは、第1孔、すなわち小孔が形成された後に、第2孔、すなわち大孔が形成されるエッチングの順序を採用しているが、これに限るものではない。例えば、同一の孔径でレジストパターン12a,12bを形成しておき、2段階のエッチング時間、および、エッチャントのスプレー方法などに差異を持たせるなどの変更により、エッチング加工される孔の端面の断面形状の制御も可能である。
【0035】
図1(a)では、ステンレス製基材11の厚さ方向において、中央部からやや下方に偏心した位置に頂部15が位置する断面形状が図示される。図1(b)では、ステンレス製基材11の厚さ方向において、中央部から大幅に下方に偏心した位置に頂部15が位置する断面形状が図示される。すなわち、頂部15は、ステンレス製基材11の厚さ方向における中央部からずれている。頂部15は、ステンレス製基材11の厚さ方向において、裏面11b寄りに位置している。
【0036】
主表面11aから頂部15までのステンレス製基材11の厚さtと主表面11bから頂部15までのステンレス製基材11の厚さtの値とが、図1(a)では略同等である。これに対して、図1(b)では、厚さtに対して厚さtが大幅に大きい。厚さtと厚さtとの関係における変更は、主表面11a,11bのそれぞれに形成するレジストパターン12a,12bにおける孔径の設計、あるいは、主表面11a側からのエッチング時間と主表面11b側からのエッチング時間の制御、または、それらの組み合わせの変更に基づいてなされる。さらには、これらの方法によって、鋭角的な頂部15の形状の変更も可能である。
【0037】
図2は、リング形状の遮光部材33における内周端面11dと外周端面11cとを、それぞれの断面形状を対比する上で好適な様に、便宜的に近づけて示す説明図である。なお、遮光部材33の内周は、図3に示す開口の外形線であるエッジ先端部16が連なる点線である。また、遮光部材33の外周は、図3に示すリングの外形線である頂部15が連なる一点鎖線である。
【0038】
遮光部材33に形成される開口(アパーチャー)は、レンズユニットを構成する各レンズの絞りを決定し、レンズユニットの光学特性および撮像性能に直接的に影響するだけに、そのエッジ形状には厳格な設計が要求される。すなわち、図2右側に示す内周端面11dにおけるエッジ先端部16は、レンズユニット内で直下に隣接するレンズに対して、エッジ先端部16の先端で発生する反射光が入射することなく、加えて、エッジ先端部16とレンズとの間に回り込むノイズ光による影響を排除することが求められる。遮光部材33において、外光は表面11aに対して入射する。そのため、エッジ先端部16には、直下のレンズに隣接する箇所(下側の主表面11b側)で鋭利な先端形状(尖端)とすることが求められる。そのため、遮光部材33の開口部11hは外光が入射する側がその反対側よりも孔径が大きくなるようにするのが良い。すなわち、遮光部材33の開口部11hでは、表面11aでの孔径が、裏面11bでの孔径よりも大きいことが好ましい。また、エッジ先端部16は、遮光部材33が備える開口部11hにおける裏面11bでの開口である。なお、開口部11hにおいて、表面11aでの開口が表面先端部14aであり、裏面11bでの開口が裏面先端部14bでもある。
【0039】
対して、図2左側に示す端面(外周)11cの頂部15は、レンズユニットの光学特性および撮像性能に及ぼす影響は少ない。頂部15の断面形状は、主にレンズユニットの組み立て(アセンブリ)工程における取扱い性の観点から設計される。
【0040】
図4に示すレンズユニット50は、レンズホルダ(鏡筒)40の内部に、遮光部材31、第1レンズシート20、遮光部材32、第2レンズシート22、遮光部材33、カバーガラス板23を順に投入して積層することによって形成される。あるいは、レンズユニット50は、この順に積層一体化してなる構造体に鏡筒40をかぶせる手順によって形成される。
【0041】
遮光部材31,32,33をハンドリングする際、冶具(例えば、ピンセット)にて遮光部材31,32,33を挟持する操作が行なわれる。遮光部材31,32,33の開口部11h(アパーチャー)内壁にあたる図2に示される端面(内周)11d、および、精細で鋭利な構造であるエッジ先端部16に冶具を接触させることは、開口部11hおよびエッジ先端部16の損傷の可能性を招くため避けなければならない。そのため、遮光部材33における冶具の接触部は、図2に示される端面(外周)11cでなくてはならない。本実施形態の遮光部材31,32,33は、頂部15を有するから、遮光部材31,32,33の表面11aと直交する平面に沿う断面において、外周端面11cが平坦である場合に比べて、遮光部材31,32,33を治具によって把持しやすいから、遮光部材31,32,33の取り扱い性を高めることが可能である。
【0042】
また、外周端面11cが頂部15を有する場合には、外周端面11cが平坦である場合に比べて、外周端面11cに接着剤を塗布したときに、外周端面11c上に接着剤が留まりやすい。この点においても、外周端面11cが頂部15を有することによって、遮光部材の取り扱い性を高めることが可能である。
【0043】
円形の外周において直径方向での端部の2箇所を、それぞれ頂部15で接触して挟持する場合、冶具での挟み込みによる変形および損傷を招かない機械的強度を確保するには、頂部15の先端は極めて鋭利な形状ではなく、端面が図示で90°に近い切り立った円筒面(端面のテーパ少)であっても良い。すなわち、頂部15を含む外周端面11cは、遮光部材33の表面11aに直交する断面において、端面11cが直角三角形状を有してもよい。ただし、頂部15が図示で過剰に下方にあると、冶具の接触部が下方となり、レンズユニットの組み立て(アセンブリ)工程では、遮光部材31,32,33を挟持する冶具が直下のレンズ面に接触してしまうリスクを有することになる。そのため、頂部15は遮光部材31,32,33の下側の主表面11bから適度に離間した厚さに位置することが望ましい。
【0044】
そのため、頂部15の先端から一定距離Lを置いた面内方向での遮光部材の厚みで表した場合、図2に示される頂部15(外周側)の厚さtoutはエッジ先端部16(内周側)の厚さtinよりも厚いことが要求される。厚さ10~100μmのステンレス製基材を用いて成形してなる遮光部材の場合には、頂部15(外周側)の厚さtoutは、実質的な厚み(ノギスなどでの計測や冶具で挟持することが可能な箇所)として最小箇所でも3.0μm以上であることが望ましい。また、図1で示される頂部15までの遮光部材の主表面11bからの厚さtが0でない、すなわち0よりも大きいことが望ましい。
【0045】
言い換えれば、頂部15の厚さtout、および、エッジ先端部16の厚さtinは、以下のように定義することができる。すなわち、被写界深度が0.4μmである撮像条件において、頂部15にピントを合わせた状態で遮光部材33の径方向に沿って遮光部材33を撮像したときに、遮光部材33の厚さ方向において、遮光部材33のうち頂部15を含む第1の厚さの部分にピントが合う。当該第1の厚さが、頂部15の厚さtoutである。
【0046】
また、上記撮像条件において、エッジ先端部16にピントを合わせた状態で遮光部材33の径方向に沿って遮光部材33を撮像したときに、遮光部材33の厚さ方向において、遮光部材33のうちエッジ先端部16を含む第2の厚さの部分にピントが合う。当該第2の厚さが、エッジ先端部16の厚さtinである。第1の厚さ、すなわち頂部15の厚さtoutが、第2の厚さ、すなわちエッジ先端部16の厚さtinよりも厚い。
【0047】
本実施形態では、頂部15の厚さtoutがエッジ先端部16の厚さtinよりも厚いから、頂部15の厚さtoutがエッジ先端部16の厚さtin以下である場合に比べて、治具によって把持される頂部15の機械的な強度を高めることが可能である。そのため、治具による挟持に起因した遮光部材33の変形を抑え、また、治具による遮光部材33の挟持を容易にすることが可能である。
【0048】
頂部15の角度は、エッジ先端部16の角度よりも大きいことが好ましい。頂部15の角度およびエッジ先端部16の角度は、例えば以下のように測定することが可能である。すなわち、遮光部材33の表面11aに直交する平面に沿って遮光部材33を切断することによって、遮光部材33の断面を露出させる。次いで、遮光部材33のうち、頂部15を含む部分と、エッジ先端部16を含む部分とを、それぞれ撮像する。この際に、頂部15を含む部分と、エッジ先端部16を含む部分とを同一の倍率で撮像する。
【0049】
次いで、頂部15を形成する2つの直線を画像上に設定し、当該2つの直線によって形成される頂部15の角度を測定する。一方で、エッジ先端部16を形成する2つの直線を画像上に設定し、当該2つの直線によって形成されるエッジ先端部16の角度を測定する。
【0050】
頂部15の角度がエッジ先端部16の角度よりも大きいことによって、頂部15の角度がエッジ先端部16の角度以下である場合に比べて、頂部15の機械的強度を高めることが可能である。これにより、遮光部材33を治具によって挟む際に、遮光部材33の取り扱い性を高めることが可能である。
【0051】
頂部15およびエッジ先端部16の形状が及ぼす光学的な影響を説明するため、図7に、円弧が交差した端面形状、すなわちエッチング成形による端面形状に代えて、外周端面、および、内周端面が仮想的に直線形状の頂部を有する場合の遮光部材の光学特性について図示する。なお、図7には、4種類の頂部、および、4種類のエッジ先端部が図示されている。各頂部の頂角θは30°、45°、60°、90°のいずれかである。
【0052】
図7左側は、4種類の頂角を持つ頂部がそれぞれ上下で均等な角度に突き出している状態を示している。図7右側は、4種類の頂角を持つ頂部のそれぞれ一辺が遮光部材の下方の主表面11bに一致する様に突き出している状態を示している。なお、頂角が90°である場合には、頂部を形成する両辺が、下方の主表面11bに一致していない。
【0053】
図7左側において、頂角θが90°である場合、頂部の斜面に沿って左下がり45°で入射する撮像不要な有害光は、遮光部材の下方にノイズ光として至ってしまうことが想定される。頂角θが30°,45°,60°の頂部では、同様に頂部の斜面に沿って左下がり45°で入射する撮像不要な有害光は、それぞれの頂部斜面に当たり、上方に反射されることになり、遮光部材の下方に至ることは回避される。
【0054】
図7右側において、頂角θが90°の頂部の斜面(遮光部材の下方の主表面に対し非直角に配置)に沿って右下がり90°弱で入射する撮像不要な有害光は、遮光部材の下方にノイズ光として至ってしまう場合が想定される。頂角θが30°、45°、60°の頂部では、同様に頂部の斜面に沿って右下がり90°弱で入射する撮像不要な有害光は、それぞれの頂部に当たり、反射される。なお、頂角θが45°、60°の頂部では、頂部に当たった光は補助線(点線)よりも下方に向かい、遮光部材の下方に至るノイズ光は完全に排除されない。
【0055】
図4に示すレンズユニットの場合、レンズ部20a,20b,22a,22bの有効領域外で発生し、遮光部材の外周端面11cに入射する可能性のある有害光は度外視しても構わない。これに対して、遮光部材に形成される開口(アパーチャー)の内側で発生し、レンズ部およびイメージセンサに入射する可能性のある有害光は極力排除する必要がある。そのため、エッジ表面の黒化処理だけでなく、開口(アパーチャー)を決定するエッジ形状については、鋭利な先端形状(尖端)とすることが求められ、その頂角は45°未満であることが好ましい。
【0056】
以上説明した断面形状、平面形状を有するステンレス製基材からなる遮光部材をエッチングで成形した場合、光学濃度(OD)は十分であるが、金属光沢を有する部分によるノイズ光成分の反射を低減する必要があり、遮光部材には公知の黒化処理が施される。黒化処理としては、ニッケルを含む電界めっき液を用いた電界めっき法、ホスフィン酸塩を還元剤として用いたNi‐P(ニッケル‐リン)めっきによる無電界めっき法、それらと酸化処理による酸化膜形成の併用、表面マット化、モスアイ構造の付与などが例示される。黒化処理後の遮光部材は、マクベス濃度計にて光学濃度2.0以上の濃度という遮光性能を有することが好ましい。
【0057】
遮光部材31,32,33のエッチング成形にあたっては、図6に示すように、板状のステンレス製基材11の主表面に成形対象となる開口(アパーチャー)サイズがそれぞれ異なる遮光部材31,32,33に応じたレジストパターンを多面付け(3列×2行を例示する)して形成した上で各遮光部材31,32,33を保持するブリッジ17を残さないようにエッチングして、所望の形状に切り抜く。エッチング成形から黒化処理後、同図に示す点線のダイシングラインに沿って断裁することで、各遮光部材31,32,33が個片化される。ダイシングはダイシングブレードのような機械的に断裁する手段でもよく、レーザーダイシングであってもよい。ダイシングブレードは断裁速度に優れるが、基材の変形などの原因ともなる。レーザーダイシングは基材の変形が抑えられるが、断裁速度はレーザーダイシングよりは劣る。
【0058】
図6においてDL,DLで例示するダイシングラインは、ステンレス製基材11を断裁する箇所だけでなく遮光部材31,32,33の外形が規定される輪帯状の空間部に沿った箇所を通過する割合も多いため、ダイシングブレード(刃)にかかる負荷も小さくなり、個片化の作業上でも優位性を持つ。DLのダイシングラインに沿って断裁すると、個片化される遮光部材は、図3(a)に示される様にブリッジ17を残さないリング状の構成となる。一方で、DLのダイシングラインに沿って断裁すると、図3(b)に示されるように、遮光部材は外周部にブリッジ17を残した構成となる。ダイシングラインによる遮光部材の外形は、レンズユニット50を構成する際の鏡筒40の内壁形状(ガイド溝の有無)などに応じて適宜選択される。また、レーザーダイシングは、遮光部材の断裁において、ブリッジやその周辺箇所といった微小領域を断裁するうえで、変形が生じないため有利である。さらに微小領域の断裁であれば、ダイシングブレードのように必然的にブレードといった大きさを有する手段と比較して、精度よい断裁が可能である。
【0059】
同図の下段に示す様に、各遮光部材上に各遮光部材31,32,33の仕様を表わす識別記号18などをエッチングパターンとして残しておくことができる。これにより、個片化後のアセンブリにおいて、各遮光部材の認識にあたって誤認がなく、正しい配置箇所で取り扱う上での助力となり得る。スマートフォンなど携帯端末に搭載されるカメラのレンズユニットでは、複数枚組み込まれる遮光部材の開口(アパーチャー)がイメージセンサに近づくにつれて大サイズになっていくことがイメージセンサに映る像を大きくする上では好ましく、配置箇所の異なる遮光部材の識別を間違いなく的確に行なう必要がある。同一の遮光部材であっても、表裏で形成される孔径が異なる場合もあり、表裏の識別の上でも有効である。
【0060】
[第2実施形態]
図8および図9を参照して、遮光部材の第2実施形態を説明する。第2実施形態の遮光部材は、第1実施形態の遮光部材と比べて、遮光部材の頂部およびエッジ先端部における形状が異なる。そのため以下では、こうした相違点を詳しく説明する一方で、それ以外の説明を省略する。
【0061】
図8は、リング形状の遮光部材33における内周と外周の端面11c、11dを、それぞれの断面形状を対比する上で好適な様に、便宜的に近づけて示す説明図である。なお、遮光部材33の内周は、図3に示す開口の外形線であるエッジ先端部16が連なる点線である。また、遮光部材33の外周は、図3に示すリングの外形線である頂部15が連なる一点鎖線である。
【0062】
遮光部材33に形成される開口(アパーチャー)は、レンズユニットを構成する各レンズの絞りを決定し、レンズユニットの光学特性および撮像性能に直接的に影響するだけに、そのエッジ形状には厳格な設計が要求される。すなわち、図9右側に示す内周の端面11dにおけるエッジ先端部16は、レンズユニット内で直下に隣接するレンズに対して、エッジ先端部16で発生する反射光が入射することなく、加えて、エッジ先端部16の先端とレンズとの間に回り込むノイズ光による影響を排除することが求められる。そのため、エッジ先端部16には、直下のレンズに隣接する箇所(下側の主表面側)で鋭利な先端形状(尖端)とすることが求められる。そのため、遮光部材33の開口部は外光が入射する側がその反対側よりも孔径が大きくなるようにするのが良い。すなわち、遮光部材33の開口部では、表面11aでの孔径が、裏面11bでの孔径よりも大きいことが好ましい。
【0063】
対して、図8左側に示す端面(外周)11cの頂部15は、レンズユニットの光学特性および撮像性能に及ぼす影響は少ない。頂部15の断面形状は、主にレンズユニットの組み立て(アセンブリ)工程における取扱い性の観点から設計される。
【0064】
図4に示すレンズユニット50は、レンズホルダ(鏡筒)40の内部に、遮光部材31,第1レンズシート20、遮光部材32、第2レンズシート22、遮光部材33、カバーガラス板23を順に投入して積層することによって形成される。あるいは、レンズユニット50は、この順に積層一体化してなる構造体に鏡筒40をかぶせる手順によって形成される。
【0065】
遮光部材31,32,33をハンドリングする際、冶具(例えば、ピンセット)にて遮光部材を挟持する操作が行なわれる。遮光部材の開口部(アパーチャー)内壁にあたる図8に示される端面(内周)11d、および、精細で鋭利な構造であるエッジ先端部16には冶具を接触させることは、開口部およびエッジ先端部16の損傷の可能性を招くため避けなければならない。そのため、遮光部材33における冶具の接触部は、図8に示される端面(外周)11cでなくてはならない。
【0066】
円形の外周において直径方向での端部の2箇所を、それぞれ頂部15で接触して挟持する場合、冶具での挟み込みによる変形および損傷を招かない機械的強度を確保するには、頂部15の先端は極めて鋭利な形状ではなく、端面が図示で90°に近い切り立った円筒面(端面のテーパ少)であっても良い。すなわち、頂部15を含む外周端面11cは、遮光部材33の表面11aに直交する断面において、端面11cが直角三角形状を有してもよい。ただし、頂部15が図示で過剰に下方にあると、冶具の接触部が下方となり、レンズユニットの組み立て(アセンブリ)工程では、遮光部材を挟持する冶具が直下のレンズ面に接触してしまうリスクを有することになる。そのため、頂部15は遮光部材の下側の主表面11bから適度に離間した厚さに位置することが望ましい。すなわち、裏面11bと頂部15との間の距離L15は、治具による把持が可能な程度の大きさを有することが好ましい。
【0067】
図8に示す頂部15(外周側)が遮光部材の面方向外側に突き出る長さLoutは、エッジ先端部16(内周側)が開口部の中心側に突き出る長さLinに対して短い構成であることが要求される。Loutは、遮光部材の主表面における端部(裏面先端部)13b(下側)からの長さよりも大きくなる表面先端部13a(上側)からの長さであってもLinよりも短いことが好ましい。Loutが極力短い断面形状では、レンズユニットを構成する鏡筒の内壁面との接触により頂部15が損傷することが回避される。
【0068】
頂部15が突き出る長さLoutは、表面11aに直交する平面に沿う断面において、遮光部材33の表面11aと頂部15を含む端面11cとが繋がる部分と頂部15との間の距離であって、遮光部材33の径方向に沿う距離である。エッジ先端部16が突き出る長さLinは、表面11aに直交する平面に沿う断面において、開口部における表面11aの開口と、開口部における裏面11bの開口との間の距離であって、遮光部材33の径方向に沿う距離である。エッジ先端部16が突き出る長さLinは、表面11aに直交する平面に沿う断面において、表面先端部14aと裏面先端部14bとの間の距離であって、遮光部材33の径方向に沿う距離である。
【0069】
頂部15が突き出る長さLoutが、エッジ先端部16が突き出る長さLinよりも短いことによって、頂部15が突き出る長さLoutが、エッジ先端部16が突き出る長さLin以上である場合に比べて、頂部15における機械的強度の低下が抑えられる。これにより、遮光部材33を治具によって把持する場合において、遮光部材33の取り扱い性を高めることが可能である。
【0070】
開口(アパーチャー)の表裏の孔径、外周端面11cおよび内周端面11dが有する頂部の形状、それらの突き出し長さが以上説明した関係を満たす場合、図9に示す断面形状を持つ遮光部材の設計変更例も採用可能である。すなわち、エッジ先端部16も、頂部15と同等あるいはそれ以上に遮光部材の下側の主表面(裏面)11bから離間した厚さに位置する構成でもよい。裏面11bとエッジ先端部16との間の距離L16は、裏面11bと頂部15との間の距離L15と等しくてもよいし、異なってもよい。
【0071】
[変更例]
なお、上述した各実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
[外周端面]
・外周端面11cは、表面11aに直交する平面に沿う断面において、遮光部材33の径方向における外側に向けて突き出た三角形状を有してもよい。すなわち、外周端面11cのうち、表面11aと頂部15とを繋ぐ部分が直線状を有してよく、また、裏面11bと頂部15とを繋ぐ部分が直線状を有してもよい。この場合であっても、外周端面11cが頂部15を有することによって、遮光部材33の取り扱い性が高められる。
【0072】
[遮光部材]
・第1実施形態における遮光部材33の構造は、第2実施形態における遮光部材33の構造と組み合わせて実施することが可能である。すなわち、遮光部材33は、上述した厚さtout,tinにおける関係と、長さLout,Linにおける関係との両方を満たす構造を有してもよい。
【0073】
[付記]
上述した実施形態および変更例から導き出される技術的思想を以下に付記する。
[付記1]
リング状の金属製基材から形成される遮光部材であって、
表面と、
前記表面とは反対側の裏面と、
前記遮光部材の外周縁において、前記表面と前記裏面とを繋ぐ外周端面と、を備え、
前記表面に直交する平面に沿う断面において、前記外周端面は、前記遮光部材の径方向における外側に向けて前記外周端面のうちで最も突出した頂部を有する
遮光部材。
[付記2]
前記頂部の位置は、前記金属製基材の厚さ方向において、前記厚さ方向の中央部からずれている
付記1に記載の遮光部材。
[付記3]
前記遮光部材には、前記表面に対して外光が入射し、
前記金属製基材の厚さ方向において前記金属製基材を貫通する開口部を備え、
前記開口部は、内周端面によって囲まれ、
前記内周端面は、前記表面での孔径が前記裏面での孔径よりも大きくなるようなテーパ状を有する
付記1または2に記載の遮光部材。
[付記4]
前記頂部は、前記金属製基材の厚さ方向において、前記裏面寄りに位置する
付記3に記載の遮光部材。
[付記5]
被写界深度が0.4μmである撮像条件において、前記頂部にピントを合わせた状態で前記遮光部材の前記径方向に沿って前記遮光部材を撮像したときに、前記厚さ方向において、前記遮光部材のうち前記頂部を含む第1の厚さの部分にピントが合い、
前記撮像条件において、前記開口部のエッジ先端部にピントを合わ
せた状態で前記遮光部材の前記径方向に沿って前記遮光部材を撮像したときに、前記厚さ方向において、前記遮光部材のうち前記エッジ先端部を含む第2の厚さの部分にピントが合い、
前記第1の厚さが、前記第2の厚さよりも厚い
付記3または4に記載の遮光部材。
[付記6]
前記頂部が前記遮光部材の面方向外側に突き出る長さが、前記開口部のエッジ先端部が前記開口部の中心側に突き出る長さよりも短い
付記3から5のいずれか一項に記載の遮光部材。
[付記7]
金属製基材を形成する材料は、アルミニウム、鉄、銅、クロム、ニッケル、コバルト、および、それらの合金からなる群から選択されるいずれか1つである
付記1から6のいずれか一項に記載の遮光部材。
[付記8]
金属製基材を形成する材料は、鉄‐ニッケル系合金、または、鉄‐ニッケル‐コバルト系合金である
付記7に記載の遮光部材。
[付記9]
金属製基材を形成する材料は、インバー、または、スーパーインバーである
付記8に記載の遮光部材。
[付記10]
付記1から9のいずれか一項に記載の遮光部材と、
複数のレンズと、
レンズホルダと、を備えるレンズユニット。
[付記11]
付記10に記載のレンズユニットと、
撮像素子と、を備えるカメラモジュール。
[付記12]
付記11に記載のカメラモジュールを備える電子機器。
【符号の説明】
【0074】
11…ステンレス製基材
11a…主表面(表面)
11b…主表面(裏面)
11c…端面(外周端面)
11d…端面(内周端面)
12a,12b…レジストパターン
15…頂部
16…エッジ先端部
23…カバーガラス板
40…レンズホルダ(鏡筒)
50…レンズユニット
20…第1レンズシート
20a,20b,22a,22b…レンズ部
22…第2レンズシート
31,32,33…遮光部材
100…カメラモジュール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9