(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】半導体装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/336 20060101AFI20231212BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20231212BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20231212BHJP
H01L 21/322 20060101ALI20231212BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20231212BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20231212BHJP
H01L 29/861 20060101ALI20231212BHJP
H01L 29/868 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
H01L29/78 658H
H01L21/265 Z
H01L21/322 L
H01L29/06 301D
H01L29/06 301V
H01L29/78 652J
H01L29/78 653A
H01L29/78 655B
H01L29/78 658A
H01L29/91 J
(21)【出願番号】P 2022079956
(22)【出願日】2022-05-16
(62)【分割の表示】P 2020556179の分割
【原出願日】2019-11-14
【審査請求日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2018215548
(32)【優先日】2018-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿形 泰典
(72)【発明者】
【氏名】田村 隆博
(72)【発明者】
【氏名】安喰 徹
【審査官】上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/146148(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/047285(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/204227(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/047276(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/089256(WO,A1)
【文献】特開2007-266233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/265、21/322、21/336、
29/06、29/739、
29/78、29/861
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面および下面を有する半導体基板を備える半導体装置であって、
前記半導体基板は、水素を含む水素含有領域を有し、
前記水素含有領域は、ヘリウムを含み、
前記水素含有領域の深さ方向におけるキャリア濃度分布は、
キャリア濃度が極大値となる第1極大点と、
前記第1極大点よりも前記上面側において前記キャリア濃度が極大値となる点のうち、前記第1極大点の最も近くに配置された第2極大点と、
前記第1極大点および前記第2極大点の間に配置され、前記キャリア濃度が極小値となる第1中間点と、
前記第2極大点よりも前記上面側において前記キャリア濃度が極小値となるか、または、前記深さ方向において前記キャリア濃度が一定となる点のうち、前記第2極大点の最も近くに配置された第2中間点と
を含み、
前記ヘリウムの深さ方向におけるヘリウム化学濃度分布のヘリウム濃度ピークの頂点は、前記第1極大点および前記第2極大点の間に配置され、
前記第1中間点における前記キャリア濃度は、前記第2中間点における前記キャリア濃度よりも低い
半導体装置。
【請求項2】
前記キャリア濃度分布は、前記第1極大点よりも前記下面側において前記キャリア濃度が極小値となるか、または、前記深さ方向において前記キャリア濃度が一定となる点のうち、前記第1極大点の最も近くに配置された第3中間点を含み、
前記第1中間点の前記キャリア濃度は、前記第3中間点の前記キャリア濃度よりも低い
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第1中間点の前記キャリア濃度は、前記半導体基板のベースドーピング濃度より高い
請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記第1中間点の前記キャリア濃度は、前記半導体基板のベースドーピング濃度より低い
請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記キャリア濃度分布は、前記第2極大点よりも前記上面側において前記キャリア濃度が極大値となる点のうち、前記第2極大点の最も近くに配置された第3極大点を含み、
前記第2中間点は、前記第2極大点と前記第3極大点との間において前記キャリア濃度が極小値を示す点である
請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記キャリア濃度分布は、前記第1極大点よりも前記下面側において前記キャリア濃度が極大値となる点のうち、前記第1極大点の最も近くに配置された第4極大点を含み、
前記第3中間点は、前記第1極大点と前記第4極大点との間において前記キャリア濃度が極小値を示す点である
請求項2に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記水素含有領域の深さ方向における水素化学濃度分布は1つ以上の水素濃度谷部を有し、それぞれの前記水素濃度谷部において、水素化学濃度が酸素化学濃度の1/10以上であり、
少なくとも一つの前記水素濃度谷部において、前記水素化学濃度がヘリウム化学濃度以上である
請求項1から6のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項8】
それぞれの前記水素濃度谷部において、前記水素化学濃度が炭素化学濃度以上である
請求項7に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記水素含有領域の前記深さ方向における前記水素化学濃度分布は1つ以上の水素濃度ピークを有し、
前記水素濃度ピークにおいて、前記水素化学濃度が前記酸素化学濃度の1/2以上である
請求項7または8に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記ヘリウム濃度ピークよりも深い位置に設けられた前記水素濃度谷部において、前記水素化学濃度がヘリウム化学濃度以上である
請求項7から9のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項11】
1つ以上の前記水素濃度ピークとして、第1水素濃度ピークと、前記第1水素濃度ピークよりも前記上面側で前記第1水素濃度ピークと隣り合う第2水素濃度ピークと、前記第2水素濃度ピークよりも前記上面側の第3水素濃度ピークと、前記第1水素濃度ピークよりも前記下面側の第4水素濃度ピークと、を含み、
前記ヘリウム化学濃度分布の前記ヘリウム濃度ピークの半値全幅が、それぞれの前記水素濃度ピークの間隔よりも大きい
請求項9に記載の半導体装置。
【請求項12】
前記第1極大点は、前記第1水素濃度ピークに対応し、
前記第2極大点は、前記第2水素濃度ピークに対応している
請求項11に記載の半導体装置。
【請求項13】
前記水素含有領域の前記深さ方向における水素化学濃度分布は、第1水素濃度ピークと、前記第1水素濃度ピークよりも前記上面側で前記第1水素濃度ピークと隣り合う第2水素濃度ピークと、前記第2水素濃度ピークよりも前記上面側の第3水素濃度ピークと、前記第1水素濃度ピークよりも前記下面側の第4水素濃度ピークと、を含み、
前記第3極大点は、前記第3水素濃度ピークに対応している
請求項5に記載の半導体装置。
【請求項14】
前記キャリア濃度分布は、前記ヘリウム濃度ピークよりも前記上面側において、前記第2水素濃度ピークおよび前記第3水素濃度ピークと同一の深さ位置か、または当該深さ位置から前記半導体基板の前記下面と当該深さ位置の距離の10%以内の範囲の深さ位置に、前記第2極大点および前記第3極大点が配置されていて、
前記ヘリウム濃度ピークよりも前記上面側において、前記第2極大点および前記第3極大点の間における前記キャリア濃度分布は、ピークを有さない
請求項13に記載の半導体装置。
【請求項15】
前記水素含有領域の前記深さ方向における水素化学濃度分布は、第1水素濃度ピークと、前記第1水素濃度ピークよりも前記上面側で前記第1水素濃度ピークと隣り合う第2水素濃度ピークと、前記第2水素濃度ピークよりも前記上面側の第3水素濃度ピークと、前記第1水素濃度ピークよりも前記下面側の第4水素濃度ピークと、を含み、
前記第4極大点は、前記第4水素濃度ピークに対応している
請求項6に記載の半導体装置。
【請求項16】
前記第1中間点は、前記ヘリウム濃度ピークと同一の深さ位置か、または当該深さ位置から前記下面と当該深さ位置の距離の10%以内の範囲の深さ位置に配置されている
請求項14に記載の半導体装置。
【請求項17】
前記水素含有領域の深さ方向における空孔欠陥濃度分布は、前記第1中間点の前後における前記第1極大点および前記第2極大点の間にのみ分布する
請求項16に記載の半導体装置。
【請求項18】
全ての前記水素濃度谷部において、前記水素化学濃度がヘリウム化学濃度以上である
請求項7から12のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項19】
上面および下面を有する半導体基板を備える半導体装置の製造方法であって、
前記半導体基板に水素を注入し、第1の熱処理を行って水素含有領域を形成し、
前記水素含有領域の少なくとも一部の領域にヘリウムが含まれるように、前記半導体基板にヘリウムを注入し、
前記半導体基板に第2の熱処理をし、
前記水素含有領域の深さ方向におけるキャリア濃度分布は、
キャリア濃度が極大値となる第1極大点と、
前記第1極大点よりも前記上面側において前記キャリア濃度が極大値となる点のうち、前記第1極大点の最も近くに配置された第2極大点と、
前記第1極大点および前記第2極大点の間に配置され、前記キャリア濃度が極小値となる第1中間点と、
前記第2極大点よりも前記上面側において前記キャリア濃度が極小値となるか、または、前記深さ方向において前記キャリア濃度が一定となる点のうち、前記第2極大点の最も近くに配置された第2中間点と
を含み、
前記ヘリウムの深さ方向におけるヘリウム化学濃度分布のヘリウム濃度ピークの頂点は、前記第1極大点および前記第2極大点の間に配置され、
前記第2の熱処理の後において、前記第1中間点における前記キャリア濃度は、前記第2中間点における前記キャリア濃度よりも
低い
半導体装置の製造方法。
【請求項20】
前記キャリア濃度分布は、前記第1極大点よりも前記下面側において前記キャリア濃度が極小値となるか、または、前記深さ方向において前記キャリア濃度が一定となる点のうち、前記第1極大点の最も近くに配置された第3中間点を含み、
前記第2の熱処理の後において、前記第1中間点の前記キャリア濃度が、前記第3中間点の前記キャリア濃度よりも
低い
請求項19に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項21】
前記水素含有領域の深さ方向における水素化学濃度分布は1つ以上の水素濃度谷部を有し、少なくとも一つの前記水素濃度谷部が、水素化学濃度が酸素化学濃度の1/10以上となるように、前記半導体基板に前記水素を注入し、
少なくとも一つの前記水素濃度谷部において、前記水素化学濃度がヘリウム化学濃度以上となるように、前記半導体基板に前記水素を注入する
請求項19または20に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項22】
前記ヘリウム濃度ピークよりも深い位置に設けられた前記水素濃度谷部において、前記水素化学濃度がヘリウム化学濃度以上となるように、前記半導体基板に前記水素を注入する
請求項21に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体基板に水素を注入することで、N型の領域を形成することが知られている(例えば、特許文献1および2参照)。
特許文献1 特表2017―47285号公報
特許文献2 特表2017-146148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
キャリア濃度分布の形状は、精度よく制御できることが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様においては、上面および下面を有する半導体基板を備える半導体装置を提供する。前記半導体基板は、水素を含む水素含有領域を有してよい。前記水素含有領域は、ヘリウムを含んでよい。前記水素含有領域の深さ方向におけるキャリア濃度分布は、キャリア濃度が極大値となる第1極大点と、前記第1極大点よりも前記上面側において前記キャリア濃度が極大値となる点のうち、前記第1極大点の最も近くに配置された第2極大点と、前記第1極大点および前記第2極大点の間に配置され、前記キャリア濃度が極小値となる第1中間点と、前記第2極大点よりも前記上面側において前記キャリア濃度が極小値となるか、または、前記深さ方向において前記キャリア濃度が一定となる点のうち、前記第2極大点の最も近くに配置された第2中間点とを含んでよい。前記ヘリウムの深さ方向におけるヘリウム化学濃度分布のヘリウム濃度ピークの頂点は、前記第1極大点および前記第2極大点の間に配置されてよい。前記第1中間点における前記キャリア濃度は、前記第2中間点における前記キャリア濃度よりも低くてよい。
【0005】
前記キャリア濃度分布は、前記第1極大点よりも前記下面側において前記キャリア濃度が極小値となるか、または、前記深さ方向において前記キャリア濃度が一定となる点のうち、前記第1極大点の最も近くに配置された第3中間点を含み、前記第1中間点の前記キャリア濃度は、前記第3中間点の前記キャリア濃度よりも低くてよい。
【0006】
前記第1中間点の前記キャリア濃度は、前記半導体基板のベースドーピング濃度より高くてよい。前記第1中間点の前記キャリア濃度は、前記半導体基板のベースドーピング濃度より低くてよい。
【0007】
前記キャリア濃度分布は、前記第2極大点よりも前記上面側において前記キャリア濃度が極大値となる点のうち、前記第2極大点の最も近くに配置された第3極大点を含み、前記第2中間点は、前記第2極大点と前記第3極大点との間において前記キャリア濃度が極小値を示す点であってよい。
【0008】
前記キャリア濃度分布は、前記第1極大点よりも前記下面側において前記キャリア濃度が極大値となる点のうち、前記第1極大点の最も近くに配置された第4極大点を含み、前記第3中間点は、前記第1極大点と前記第4極大点との間において前記キャリア濃度が極小値を示す点であってよい。
【0009】
前記水素含有領域の深さ方向における水素化学濃度分布は1つ以上の水素濃度谷部を有し、それぞれの前記水素濃度谷部において、水素化学濃度が酸素化学濃度の1/10以上であり、少なくとも一つの前記水素濃度谷部において、前記水素化学濃度がヘリウム化学濃度以上であってよい。
【0010】
それぞれの前記水素濃度谷部において、前記水素化学濃度が炭素化学濃度以上であってよい。前記水素含有領域の前記深さ方向における前記水素化学濃度分布は1つ以上の水素濃度ピークを有し、前記水素濃度ピークにおいて、前記水素化学濃度が前記酸素化学濃度の1/2以上であってよい。前記ヘリウム濃度ピークよりも深い位置に設けられた前記水素濃度谷部において、前記水素化学濃度がヘリウム化学濃度以上であってよい。
【0011】
1つ以上の前記水素濃度ピークとして、第1水素濃度ピークと、前記第1水素濃度ピークよりも前記上面側で前記第1水素濃度ピークと隣り合う第2水素濃度ピークと、前記第2水素濃度ピークよりも前記上面側の第3水素濃度ピークと、前記第1水素濃度ピークよりも前記下面側の第4水素濃度ピークと、を含み、前記ヘリウム化学濃度分布の前記ヘリウム濃度ピークの半値全幅が、それぞれの前記水素濃度ピークの間隔よりも大きくてよい。前記第1極大点は、前記第1水素濃度ピークに対応し、前記第2極大点は、前記第2水素濃度ピークに対応してよい。前記第3極大点は、前記第3水素濃度ピークに対応してよい。
【0012】
前記キャリア濃度分布は、前記ヘリウム濃度ピークよりも前記上面側において、前記第2水素濃度ピークおよび前記第3水素濃度ピークと同一の深さ位置か、または当該深さ位置から前記半導体基板の前記下面と当該深さ位置の距離の10%以内の範囲の深さ位置に、前記第2極大点および前記第3極大点が配置されていて、前記ヘリウム濃度ピークよりも前記上面側において、前記第2極大点および前記第3極大点の間における前記キャリア濃度分布は、ピークを有さなくてよい。前記水素含有領域の前記深さ方向における水素化学濃度分布は、第1水素濃度ピークと、前記第1水素濃度ピークよりも前記上面側で前記第1水素濃度ピークと隣り合う第2水素濃度ピークと、前記第2水素濃度ピークよりも前記上面側の第3水素濃度ピークと、前記第1水素濃度ピークよりも前記下面側の第4水素濃度ピークと、を含み、前記第4極大点は、前記第4水素濃度ピークに対応していてよい。前記第1中間点は、前記ヘリウム濃度ピークと同一の深さ位置か、または当該深さ位置から前記下面と当該深さ位置の距離の10%以内の範囲の深さ位置に配置されていてよい。前記水素含有領域の深さ方向における空孔欠陥濃度分布は、前記第1中間点の前後における前記第1極大点および前記第2極大点の間にのみ分布してよい。全ての前記水素濃度谷部において、前記水素化学濃度がヘリウム化学濃度以上であってよい。
【0013】
本発明の第2の態様においては、上面および下面を有する半導体基板を備える半導体装置の製造方法であって、前記半導体基板に水素を注入し、第1の熱処理を行って水素含有領域を形成し、前記水素含有領域の少なくとも一部の領域にヘリウムが含まれるように、前記半導体基板にヘリウムを注入し、前記半導体基板に第2の熱処理をし、前記水素含有領域の深さ方向におけるキャリア濃度分布は、キャリア濃度が極大値となる第1極大点と、前記第1極大点よりも前記上面側において前記キャリア濃度が極大値となる点のうち、前記第1極大点の最も近くに配置された第2極大点と、前記第1極大点および前記第2極大点の間に配置され、前記キャリア濃度が極小値となる第1中間点と、前記第2極大点よりも前記上面側において前記キャリア濃度が極小値となるか、または、前記深さ方向において前記キャリア濃度が一定となる点のうち、前記第2極大点の最も近くに配置された第2中間点とを含み、前記ヘリウムの深さ方向におけるヘリウム化学濃度分布のヘリウム濃度ピークの頂点は、前記第1極大点および前記第2極大点の間に配置され、前記第1中間点における前記キャリア濃度は、前記第2中間点における前記キャリア濃度よりも低くなるように、前記半導体基板に前記ヘリウムを注入するか、または前記第2の熱処理をする半導体装置の製造方法を提供する。前記キャリア濃度分布は、前記第1極大点よりも前記下面側において前記キャリア濃度が極小値となるか、または、前記深さ方向において前記キャリア濃度が一定となる点のうち、前記第1極大点の最も近くに配置された第3中間点を含んでよい。前記第1中間点の前記キャリア濃度が、前記第3中間点の前記キャリア濃度よりも低くなるように、前記半導体基板に前記ヘリウムを注入するか、または前記第2の熱処理をしてよい。前記水素含有領域の深さ方向における水素化学濃度分布は1つ以上の水素濃度谷部を有し、少なくとも一つの前記水素濃度谷部が、水素化学濃度が酸素化学濃度の1/10以上となるように、前記半導体基板に前記水素を注入し、少なくとも一つの前記水素濃度谷部において、前記水素化学濃度がヘリウム化学濃度以上となるように、前記半導体基板に前記水素を注入してよい。前記ヘリウム濃度ピークよりも深い位置に設けられた前記水素濃度谷部において、前記水素化学濃度がヘリウム化学濃度以上となるように、前記半導体基板に前記水素を注入してよい。
【0014】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】半導体装置100の一例を示す断面図である。
【
図2】
図1のA-A線における水素化学濃度、ヘリウム化学濃度およびキャリア濃度の分布の参考例を示す図である。
【
図3】本発明の一つの実施例に係る、水素化学濃度、ヘリウム化学濃度およびキャリア濃度の分布を示す図である。
【
図4】水素含有領域102における水素化学濃度分布と、ヘリウム化学濃度分布の他の例を示す図である。
【
図5】水素含有領域102におけるヘリウム化学濃度分布と、キャリア濃度分布との関係の一例を示す図である。
【
図7】
図6のB-B線の位置における、深さ方向のキャリア濃度分布の一例を示す図である。
【
図8】半導体装置100の製造方法における一部の工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0017】
本明細書においては半導体基板の深さ方向と平行な方向における一方の側を「上」、他方の側を「下」と称する。基板、層またはその他の部材の2つの主面のうち、一方の面を上面、他方の面を下面と称する。「上」、「下」の方向は、重力方向または半導体装置の実装時における方向に限定されない。
【0018】
本明細書では、X軸、Y軸およびZ軸の直交座標軸を用いて技術的事項を説明する場合がある。直交座標軸は、構成要素の相対位置を特定するに過ぎず、特定の方向を限定するものではない。例えば、Z軸は地面に対する高さ方向を限定して示すものではない。なお、+Z軸方向と-Z軸方向とは互いに逆向きの方向である。正負を記載せず、Z軸方向と記載した場合、+Z軸および-Z軸に平行な方向を意味する。
【0019】
本明細書において「同一」または「等しい」のように称した場合、製造ばらつき等に起因する誤差を有する場合も含んでよい。当該誤差は、例えば10%以内である。また、当該誤差を含めて「略同一」、「略等しい」のように表現する場合がある。
【0020】
本明細書において化学濃度とは、活性化の状態によらずに測定される不純物の濃度を指す。化学濃度は、例えば二次イオン質量分析法(SIMS)により計測できる。本明細書においてドーピング濃度は、ドナーおよびアクセプタの濃度を指す。ドナーおよびアクセプタの濃度差を、ドナーまたはアクセプタのうちの多い方の正味のドーピング濃度とする場合がある。当該濃度差は、電圧-容量測定法(CV法)により測定できる。CV法により測定した濃度をキャリア濃度として用いてもよい。またキャリア濃度は、拡がり抵抗測定法(SR)によっても測定できる。N型の領域、または、P型の領域において、キャリア濃度、ドーピング濃度、または、化学濃度がピークを有する場合、当該ピーク値を当該領域における濃度値としてよい。当該領域において、キャリア濃度、ドーピング濃度、または、化学濃度がほぼ均一な場合等においては、当該領域における濃度の平均値を、当該領域の濃度値としてよい。
【0021】
本明細書において単に濃度と称した場合、単位体積当たりの濃度(/cm3)を指す。例えば不純物の化学濃度は、単位体積当たりに含まれる当該不純物の原子数(atoms/cm3)である。
【0022】
図1は、半導体装置100の一例を示す断面図である。半導体装置100は、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)等のトランジスタ素子、および、還流ダイオード(FWD)等のダイオード素子が設けられているが、
図1においてはこれらの素子構造の詳細を省略している。
【0023】
半導体装置100は半導体基板10を備える。半導体基板10は、半導体材料で形成された基板である。一例として半導体基板10はシリコン基板である。半導体基板10には、半導体インゴットの製造時に意図的にまたは意図せずに添加された不純物が含まれる。半導体基板10は、製造時に注入された不純物等によって定まるドーピング濃度を有する。本例の半導体基板10の導電型はN-型である。本明細書では、半導体基板10におけるドーピング濃度をベースドーピング濃度Dbと称する場合がある。
【0024】
一例として半導体インゴットがシリコンの場合、ベースドーピング濃度Dbを設定するためのN型不純物(ドーパント)はリン、アンチモン、ヒ素等であり、P型不純物(ドーパント)はホウ素、アルミニウム等である。ベースドーピング濃度Dbは、半導体インゴットのドーパントの化学濃度よりも低くてよい。一例として、ドーパントがリンまたはホウ素の場合、ベースドーピング濃度Dbはドーパントの化学濃度の50%以上あるいは90%以上であってよい。他の例として、ドーパントがアンチモンの場合、ベースドーピング濃度Dbはドーパントの化学濃度の5%以上、あるいは10%以上、あるいは50%以上であってよい。また、半導体基板10には、炭素および酸素が含まれてよい。炭素および酸素は、半導体基板10の全体に分布していてよい。半導体インゴットの製造方法は、一例として磁場印加チョクラルスキー(MCZ)法であるが、他の方法であってもよい。他の方法として、チョクラルスキー(CZ)法、フロートゾーン(FZ)法であってもよい。
【0025】
半導体基板10は、上面21および下面23を有する。上面21および下面23は、半導体基板10の2つの主面である。本明細書では、上面21および下面23と平行な面における直交軸をX軸およびY軸、上面21および下面23と垂直な軸をZ軸とする。
【0026】
半導体基板10は、水素を含む水素含有領域102を有する。本例においては、半導体基板10の下面23側から、水素含有領域102に水素イオンが注入される。本例において水素イオンはプロトンである。水素イオンは、デュトロン、トリトンであってもよい。水素含有領域102は、水素の化学濃度が、他のN型不純物およびP型不純物のいずれの化学濃度よりも高い領域である。水素含有領域102においては、水素の化学濃度が、他のN型不純物およびP型不純物のうち最も化学濃度の高い不純物の化学濃度の、100倍以上であってよい。水素含有領域102は、水素の化学濃度が、ベースドーピング濃度Dbの10倍以上の領域であってもよい。水素含有領域102は、水素の化学濃度が、ベースドーピング濃度Dbよりも高濃度の領域であってもよい。水素含有領域102の少なくとも一部の領域には、ヘリウムが含まれている。ヘリウムは、半導体基板10のキャリアのライフタイムを調整する調整用不純物として機能してよい。
【0027】
半導体基板10の下面23から注入された水素イオンは、加速エネルギーに応じた深さにまで、半導体基板10の内部を通過する。水素イオンが通過した領域には、空孔(V)、複空孔(VV)等の空孔欠陥が発生する。本明細書では、特に言及がなければ空孔は複空孔も含むものとする。空孔欠陥は、空孔または複空孔に存在する未結合手(ダングリングボンド)を含んでよく、ダングリングボンドの不対電子を含んでもよい。水素イオンを注入した後に半導体基板10を熱処理することで水素が拡散する。拡散した水素が、空孔(V)および酸素(O)と結合することで、VOH欠陥が形成される。VOH欠陥は、電子を供給するドナーとして機能する。また、拡散した水素自体が活性化して水素ドナーとして機能する。これにより、水素含有領域102は、ベースドーピング濃度Dbよりも高濃度のN+型の領域となる。なお、本明細書では特に言及がなければ、用語「VOH欠陥」を、水素ドナーあるいは水素イオン注入によって新たに形成されたドナーも含めて用いる。
【0028】
本例の水素含有領域102は、ライフタイム制御領域104を有する。ライフタイム制御領域104は、キャリアのライフタイムを調整するライフタイムキラーが形成されたことで、キャリアのライフタイムが減少している領域である。ライフタイムキラーは、キャリアの再結合中心であって、結晶欠陥であってよく、空孔、複空孔などの空孔欠陥、これらと半導体基板10を構成する元素または当該元素以外の不純物との複合欠陥、転位、ヘリウム、ネオン、アルゴンなどの希ガス元素、白金などの金属元素などでよい。本例では、半導体基板10にヘリウムを注入することで生じた空孔欠陥等が、ライフタイムキラーとして機能する。
【0029】
本例においては、半導体基板10の下面23側からヘリウムを注入してライフタイム制御領域104を形成する。本明細書において、半導体基板10の深さ方向における相対的な位置を深い、浅い等のように表現した場合、下面23を基準とした深さを示している。つまり、より深い位置に設けられた要素は、下面23からの距離がより大きく、より浅い位置に設けられた要素は、下面23からの距離がより小さい。ただし、基準面を明示して深さを表現した場合には、当該基準面からの深さを示している。
【0030】
半導体基板10には、ドリフト領域18が設けられていてよい。ドリフト領域18は、水素含有領域102よりもドーピング濃度の低いN-型の領域である。ドリフト領域18のドーピング濃度は、ベースドーピング濃度Dbと同一であってよい。ドリフト領域18は、ドーピング濃度がベースドーピング濃度Dbより高い領域を含んでよい。ドリフト領域18のドーピング濃度分布は、所定の深さ範囲L0でほぼ一様または平坦であってよい。一様または平坦であるとは、一例として、所定の深さ範囲L0で、ドーピング濃度の変化が、ベースドーピング濃度Dbの80%以上120%以下の値の範囲を示す分布である。所定の深さ範囲L0とは、半導体基板10の厚さW0の10%以内の長さ(すなわちL0≦0.1W0)であってよく、30%以内の長さ(すなわちL0≦0.3W0)であってよく、50%以内の長さ(すなわちL0≦0.5W0)であってよく、70%以内の長さ(すなわちL0≦0.7W0)であってよい。
【0031】
図2は、
図1のA-A線における水素化学濃度、ヘリウム化学濃度およびキャリア濃度の分布の参考例を示す図である。A-A線は、深さ方向における水素含有領域102の全体と、ドリフト領域18の一部を含んでいる。
図2等の濃度分布を示す図において、縦軸は各濃度を示す対数軸であり、横軸は下面23からの深さ位置を示す線形軸である。なお各図面における濃度分布は、半導体装置100の完成時(すなわち、熱処理後)における分布を示している。また、
図2における水素化学濃度およびヘリウム化学濃度は、例えばSIMS法で計測される濃度である。
図2におけるキャリア濃度は、例えばSR法で計測される。
【0032】
水素含有領域102における水素化学濃度分布は、1つ以上の水素濃度ピーク115と、1つ以上の水素濃度谷部114とを有する。水素化学濃度分布が複数の水素濃度ピーク115を有する場合、半導体基板10には、飛程を変更して複数回水素イオンが注入されてよい。飛程の変更は、イオン注入時における水素イオンの加速エネルギーの変更であってよい。本例の水素化学濃度分布は、半導体基板10の下面23側から順番に、水素濃度ピーク115-1、水素濃度谷部114-1、水素濃度ピーク115-2、水素濃度谷部114-2、水素濃度ピーク115-3、水素濃度谷部114-3、水素濃度ピーク115-4を有する。ピークとは、濃度分布において極大値となる点を含む山形の部分であってよい。谷部とは、濃度分布において極小値となる点を含む谷形の部分であってよい。
【0033】
ヘリウム化学濃度分布はヘリウム濃度ピーク113を有する。ヘリウム濃度ピーク113は、2つの水素濃度ピーク115(本例では水素濃度ピーク115-2と、水素濃度ピーク115-3)との間に配置されてよい。例えば、ヘリウム濃度ピーク113が極大値となる深さ位置は、いずれの水素濃度ピーク115の半値全幅(FWHM)の範囲にも含まれていない。ヘリウム濃度ピーク113の位置を、水素濃度ピーク115とは異ならせることで、ヘリウム照射により形成された空孔欠陥を、水素と結合させずに残すことができ、キャリアライフタイムを低減できる。このため、ライフタイム制御領域104を容易に形成できる。下面23側からヘリウムを注入した場合、ヘリウム化学濃度分布の極大値よりも下面23側のスロープの傾きは、下面23とは逆側のスロープの傾きよりも小さくなりやすい。
【0034】
キャリア濃度分布は、1つ以上の水素対応ピーク111を有する。水素対応ピーク111は、キャリア濃度分布において、水素濃度ピーク115と同一の深さに配置されたピークである。なお、水素濃度ピーク115の深さ位置と、水素対応ピーク111の深さ位置は、厳密に一致していなくてもよい。例えば、水素濃度ピーク115の半値全幅の範囲内に、水素対応ピーク111が極大値を示す点が含まれていれば、水素濃度ピーク115と水素対応ピーク111とは同一の深さ位置に配置されているとしてよい。本例のキャリア濃度分布は、半導体基板10の下面23側から順番に、水素対応ピーク111-1、水素対応ピーク111-2、水素対応ピーク111-3、水素対応ピーク111-4を有する。水素対応ピーク111-mは、水素濃度ピーク115-mと同一の深さに配置されている。mは1以上の整数である。
【0035】
上述したように、水素含有領域102においては、VOH欠陥および水素自体が、ドナーとして機能する。このため、水素含有領域102におけるドナー濃度分布およびキャリア濃度分布は、水素濃度分布と相似する。つまり、水素濃度分布を制御することで、水素含有領域102におけるドナー濃度分布およびキャリア濃度分布を調整できる。
【0036】
ライフタイム制御領域104にヘリウムを注入した場合、ヘリウムの注入により空孔が生じる。空孔の一部は、水素含有領域102に存在する水素および酸素と結合してVOH欠陥となる。ヘリウムの飛程近傍では、高濃度に空孔が形成されるので、空孔に対して水素および酸素の少なくとも一方が不足する。このため、VOH欠陥とならずに残る空孔の割合が高くなる。従って、ライフタイム制御領域104におけるキャリア密度は低下する。一方で、ヘリウムの飛程から離れた領域では、空孔の濃度が低くなるので、空孔に対して水素および酸素が不足しない。このため、VOH欠陥とならずに残る空孔の割合は低くなる。従って、ヘリウムの飛程から離れた領域では、ヘリウム注入に起因するVOH欠陥により、ドナー濃度およびキャリア濃度が増大する場合がある。つまり、ライフタイム制御領域104以外においても、キャリア濃度分布が水素濃度分布と相似しない場合がある。このため、ドナー濃度分布およびキャリア濃度分布の制御性が低下してしまう。
【0037】
本例のキャリア濃度分布は、水素対応ピーク111-3と、水素対応ピーク111-4との間に、ヘリウム対応ピーク112を有する。ヘリウム対応ピーク112は、ヘリウムの注入に起因するVOH欠陥のピークである。本例のヘリウム対応ピーク112は、ヘリウム濃度ピーク113よりも深い位置に配置されている。より具体的には、ヘリウム対応ピーク112とヘリウム濃度ピーク113との間には、少なくとも一つの水素濃度ピーク115が配置されている。
【0038】
本例では、ヘリウム濃度ピーク113よりも浅い領域では、水素化学濃度が比較的に高濃度である。このため当該領域では、水素に起因するドナー濃度が、ヘリウムに起因するドナー濃度よりも十分に高く、キャリア濃度分布と、水素化学濃度との相似性が保たれている。
【0039】
このように、水素含有領域102にヘリウムを注入すると、キャリア濃度分布およびドナー濃度分布においてヘリウム対応ピーク112等が生じ、キャリア濃度分布およびドナー濃度分布が水素化学濃度分布と相似しない場合がある。このため、例えば水素含有領域102にライフタイム制御領域104を形成した場合に、水素含有領域102におけるキャリア濃度分布およびドナー濃度分布の制御性が低下してしまう。
【0040】
図3は、本発明の一つの実施例に係る、水素化学濃度、ヘリウム化学濃度およびキャリア濃度の分布を示す図である。本例の半導体装置100は、水素含有領域102における水素化学濃度が、
図2に説明した例よりも高い。水素化学濃度を高くすることで、キャリア濃度分布およびドナー濃度分布と、水素化学濃度分布との相似性を維持できる。このため、キャリア濃度分布およびドナー濃度分布の制御性を高めることができる。なお、
図3以降において特に説明しない事項については、
図2の例と同様であってよい。
【0041】
本例では、それぞれの水素濃度谷部114において、水素化学濃度が、酸素化学濃度DOの1/10以上である。それぞれの水素濃度谷部114の水素化学濃度は、水素濃度谷部114における化学濃度の極小値である。
図3では、酸素化学濃度DOは、半導体基板10の全体において均一である。本例では、複数の水素濃度谷部114における水素濃度の極小値のうちの最小値D2が、0.1×DO以上である。
図3では、水素濃度谷部114-3が、最小の極小値D2を有している。
【0042】
水素化学濃度、特に少なくとも1つの水素濃度谷部114における水素化学濃度を酸素化学濃度DOの1/10以上とすることで、水素含有領域102に存在する酸素が、水素の注入に起因する空孔と結合する割合を高くできる。つまり、水素含有領域102に存在する酸素が、ヘリウムの注入に起因する空孔と結合する割合を小さくできる。このため、キャリア濃度分布およびドナー濃度分布と、水素化学濃度分布との相似性を高くして、キャリア濃度分布およびドナー濃度分布の制御性を高めることができる。
【0043】
ヘリウムの注入は、水素の注入および熱処理工程の後に行うことが好ましい。これにより、水素の注入に起因する空孔と酸素とを結合させた後に、ヘリウムの注入に起因する空孔と酸素とを結合させることができる。それぞれの水素濃度谷部114における水素化学濃度は、酸素化学濃度DOの2/10以上であってよく、1/2以上であってよく、1倍以上であってもよい。あるいは、それぞれの水素濃度谷部114における水素化学濃度は、酸素化学濃度DOより高くてよい。
【0044】
図2に示した参考例では、水素濃度谷部114-3において、水素化学濃度D2が、酸素化学濃度DOの1/10より小さい。この場合、キャリア濃度分布にヘリウム対応ピーク112が生じてしまう。
【0045】
図3に示した実施例では、ヘリウム濃度ピーク113よりも深い位置において、それぞれの水素対応ピーク111-3、111-4の間におけるキャリア濃度分布は、ヘリウム対応ピーク112を有さない。つまり水素対応ピーク111-3、111-4の間におけるキャリア濃度分布は、極大値を有さない。水素対応ピーク111-3、111-4の間におけるキャリア濃度分布は、下に凸の形状であってよい。
【0046】
水素含有領域102における酸素化学濃度DOは、1×10
17/cm
3以上であってよい。水素含有領域102における酸素化学濃度DOは、5×10
17/cm
3以上であってよく、1×10
18/cm
3以上であってもよい。一方、酸素誘起欠陥を抑えるために、水素含有領域102における酸素化学濃度DOは、3×10
18/cm
3以下であってよい。酸素化学濃度DOが高いほど、
図2に示したヘリウム対応ピーク112が顕著にあらわれるが、水素化学濃度を酸素化学濃度DOの1/10以上とすることで、ヘリウム対応ピーク112を抑制できる。
【0047】
また、ヘリウム対応ピーク112は、水素含有領域102における炭素の化学濃度が高いほど顕著にあらわれることが実験で確認された。ただし炭素の化学濃度が高くても、水素化学濃度を酸素化学濃度DOの1/10以上とすることで、ヘリウム対応ピーク112を抑制できる。水素含有領域102における炭素の化学濃度は、1×1014/cm3以上であってよく、5×1014/cm3以上であってよく、1×1015/cm3以上であってもよい。
【0048】
MCZ法を用いて製造したMCZ基板は、酸素化学濃度および炭素化学濃度が比較的に高くなる場合がある。この場合でも、水素化学濃度を酸素化学濃度DOの1/10以上とすることで、ヘリウム対応ピーク112を抑制できる。つまり、MCZ基板の水素含有領域102にライフタイム制御領域104を形成した場合であっても、水素含有領域102におけるキャリア濃度分布およびドナー濃度分布を精度よく制御できる。
【0049】
それぞれの水素濃度谷部114において、水素化学濃度が、炭素化学濃度DC以上であってよい。水素化学濃度を高くすることで、ヘリウム対応ピーク112を抑制できる。それぞれの水素濃度谷部114において、水素化学濃度が、炭素化学濃度DCの2倍以上であってよく、5倍以上であってよく、10倍以上であってもよい。
【0050】
また、それぞれの水素濃度ピーク115における水素化学濃度の極大値は、酸素化学濃度DOの1/2以上であってよい。本例では、複数の水素濃度ピーク115における水素濃度の極大値のうちの最小値D4が、0.5×DO以上である。
図3では、水素濃度ピーク115-3が、最小の極大値D4を有している。水素化学濃度を高めることで、ヘリウム対応ピーク112を抑制できる。それぞれの水素濃度ピーク115における水素化学濃度の極大値は、DO以上であってよく、2×DO以上であってもよい。
【0051】
また、少なくとも一つの水素濃度谷部114において、水素化学濃度が、ヘリウム化学濃度以上であってよい。本例では、ヘリウム濃度ピーク113よりも深い位置に設けられた水素濃度谷部114-3において、水素化学濃度D2が、ヘリウム化学濃度D1以上である。水素化学濃度D2は、ヘリウム化学濃度D1の1.5倍以上であってよく、2倍以上であってもよい。水素化学濃度D2をヘリウム化学濃度D1よりも高くすることで、ヘリウム対応ピーク112を抑制できる。水素含有領域102において、水素濃度谷部114-3よりも深い位置では、水素化学濃度が、ヘリウム化学濃度以上であってよい。
【0052】
水素濃度谷部114-3の位置VH3では、水素化学濃度が、ヘリウム化学濃度以上であってよい。水素濃度谷部114-3の位置VH3は、下面23を基準として、水素対応ピーク111-3(または水素化学濃度ピーク115-3)よりも深くに配置されている。また、水素対応ピーク111-3(または水素化学濃度ピーク115-3)は、ヘリウム濃度ピーク113よりも深くに配置されている。また、水素濃度谷部114-1の位置VH1では、水素化学濃度が、ヘリウム化学濃度以上であってよい。水素濃度谷部114-1の位置VH1は、下面23を基準として、水素対応ピーク111-2(または水素化学濃度ピーク115-2)よりも浅くに配置されている。また、水素対応ピーク111-2(または水素化学濃度ピーク115-2)は、ヘリウム濃度ピーク113よりも浅くに配置されている。
【0053】
水素含有領域102におけるキャリア濃度は、半導体基板10のベースドーピング濃度Dbより高くてもよい。ただし、ライフタイム制御領域104におけるキャリア濃度は、ベースドーピング濃度Dbより高くてよく、ベースドーピング濃度Db以下であってもよい。
【0054】
図4は、水素含有領域102における水素化学濃度分布と、ヘリウム化学濃度分布の他の例を示す図である。本例においては、水素化学濃度分布の全ての水素濃度谷部114において、水素化学濃度が、ヘリウム化学濃度以上である。全ての水素濃度谷部114における水素化学濃度は、ヘリウム化学濃度のピーク値D3以上であってもよい。これにより、ヘリウム対応ピーク112を更に抑制できる。
【0055】
また、それぞれの水素濃度ピーク115の間のピーク間領域の幅をLとする。
図4の例では、水素濃度ピーク115-1と115-2との間のピーク間領域の幅をL12とし、水素濃度ピーク115-2と115-3との間のピーク間領域の幅をL23とし、水素濃度ピーク115-3と115-4との間のピーク間領域の幅をL34とする。
【0056】
ヘリウム濃度ピーク113の半値全幅FWHMは、いずれのピーク間領域の幅Lよりも大きくてよい。ヘリウム濃度ピーク113の半値全幅FWHMの範囲には、複数の水素濃度ピーク115が含まれてよい。
図4の例では、水素濃度ピーク115-2、115-3が、半値全幅FWHMの範囲に含まれている。ヘリウム濃度ピーク113の半値全幅FWHMは、5μm以上であってよく、10μm以上であってもよい。
図3の例においても、ヘリウム濃度ピーク113の半値全幅FWHMは、
図4の例と同様であってよい。
【0057】
また、ヘリウム濃度ピーク113が極大値となる深さ位置をPHeとする。水素濃度ピーク115-1、115-2、115-3、115-4のそれぞれが極大値となる深さ位置をPH1、PH2、PH3、PH4とする。それぞれの深さ位置は、ヘリウムまたは水素を半導体基板10に注入するときの飛程に対応する。
【0058】
水素濃度ピーク115のそれぞれの位置PH1、PH2、PH3、PH4は、半導体基板10の下面23から、深さ位置2×PHeまでの範囲に配置されてよい。水素濃度ピーク115を、ヘリウム濃度ピーク113の周囲の比較的に狭い範囲に配置することで、水素濃度谷部114の水素化学濃度を容易に高くできる。このため、ヘリウム対応ピーク112を抑制できる。
図3の例においても、水素濃度ピーク115およびヘリウム濃度ピーク113の位置は、
図4の例と同様であってよい。
【0059】
図5は、水素含有領域102におけるヘリウム化学濃度分布と、キャリア濃度分布との関係の一例を示す図である。
図5には、空孔欠陥濃度分布のピーク119も図示している。空孔欠陥濃度分布は、ヘリウムイオンのイオン注入により生じた空孔欠陥の濃度の分布である。
図5において説明する構成は、
図3に示した例、および、
図4に示した例のいずれに適用してもよい。
【0060】
キャリア濃度分布は、それぞれの水素対応ピーク111の間にキャリア濃度谷部116を有する。本例のキャリア濃度分布は、半導体基板10の下面23側から順番に、キャリア濃度谷部116-1、116-2、116-3を有する。キャリア濃度谷部116は、キャリア濃度が一定の平坦領域を含んでもよい。
【0061】
それぞれのキャリア濃度谷部116のキャリア濃度の極小値をD5とする。極小値D5は、2つの水素対応ピーク111に挟まれた範囲における、キャリア濃度の最小値である。
【0062】
ヘリウム濃度ピーク113と同一の深さ位置におけるキャリア濃度谷部116-2のキャリア濃度の極小値D5-2は、キャリア濃度谷部116-2の前後におけるキャリア濃度谷部116-1、116-3のキャリア濃度の極小値D5-1、D5-3のいずれよりも低くてよい。これにより、ライフタイム制御領域104を形成できる。キャリア濃度谷部116-2のキャリア濃度の極小値D5-2は、半導体基板10のベースドーピング濃度Dbより高くてよい。
【0063】
空孔欠陥濃度分布のピーク119は、ヘリウム濃度分布のヘリウム濃度ピーク113の近傍に位置してよい。本例では、ピーク119のピーク位置PVとヘリウム濃度ピーク113のピーク位置PHeは一致している。空孔欠陥濃度分布のピーク119は、ヘリウム濃度分布のヘリウム濃度ピーク113の分布幅よりも狭く分布する。空孔欠陥濃度分布のピーク119は、キャリア濃度の水素対応ピーク111‐2と111‐3の間に分布してよい。調整用不純物のイオン注入により、半導体基板10の内部に空孔欠陥が形成される。空孔欠陥の周辺に存在する水素は、空孔欠陥のダングリングボンドを終端する。そのため、形成された空孔欠陥の濃度は減少する。水素化学濃度が高い水素対応ピーク111-2および水素対応ピーク111-3では、水素化学濃度が高いため、空孔欠陥濃度が特に減少する。これにより、空孔欠陥濃度は水素対応ピーク111-2と水素対応ピーク111-3の間のみに分布する。空孔欠陥濃度分布のピーク位置PVを挟んだ両側の濃度スロープの傾きは、ヘリウム濃度分布のピーク位置PHeを挟んだ両側の濃度スロープの傾きよりも大きくてよい。
【0064】
図6は、半導体装置100の構造例を示す図である。本例の半導体装置100は、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)として機能する。本例の半導体装置100は、半導体基板10、層間絶縁膜38、エミッタ電極52およびコレクタ電極54を有する。層間絶縁膜38は、半導体基板10の上面21のすくなくとも一部を覆って形成される。層間絶縁膜38には、コンタクトホール等の貫通孔が形成されている。コンタクトホールにより、半導体基板10の上面21が露出する。層間絶縁膜38は、PSG、BPSG等のシリケートガラスであってよく、酸化膜または窒化膜等であってもよい。
【0065】
エミッタ電極52は、半導体基板10および層間絶縁膜38の上面に形成される。エミッタ電極52は、コンタクトホールの内部にも形成されており、コンタクトホールにより露出する半導体基板10の上面21と接触している。
【0066】
コレクタ電極54は、半導体基板10の下面23に形成される。コレクタ電極54は、半導体基板10の下面23全体と接触してよい。エミッタ電極52およびコレクタ電極54は、アルミニウム等の金属材料で形成される。
【0067】
本例の半導体基板10には、N-型のドリフト領域18、N+型のエミッタ領域12、P-型のベース領域14、N+型の蓄積領域16、N+型のバッファ領域20、および、P+型のコレクタ領域22が設けられている。
【0068】
エミッタ領域12は、半導体基板10の上面21に接して設けられ、ドリフト領域18よりもドナー濃度の高い領域である。エミッタ領域12は、例えばリン等のN型不純物を含む。
【0069】
ベース領域14は、エミッタ領域12とドリフト領域18との間に設けられている。ベース領域14は、例えばボロン等のP型不純物を含む。
【0070】
蓄積領域16は、ベース領域14とドリフト領域18との間に設けられ、ドリフト領域18よりもドナー濃度の高い1つ以上のドナー濃度ピークを有する。蓄積領域16は、リン等のN型不純物を含んでよく、水素を含んでいてもよい。
【0071】
コレクタ領域22は、半導体基板10の下面23に接して設けられている。コレクタ領域22のアクセプタ濃度は、ベース領域14のアクセプタ濃度より高くてよい。コレクタ領域22は、ベース領域14と同一のP型不純物を含んでよく、異なるP型不純物を含んでもよい。
【0072】
バッファ領域20は、コレクタ領域22とドリフト領域18との間に設けられ、ドリフト領域18よりもドナー濃度の高い1つ以上のドナー濃度ピークを有する。バッファ領域20は、水素等のN型不純物を有する。バッファ領域20は、ベース領域14の下面側から広がる空乏層が、コレクタ領域22に到達することを防ぐフィールドストップ層として機能してよい。
【0073】
図1から
図5において説明した水素含有領域102が、バッファ領域20に含まれている。本例では、水素含有領域102が、バッファ領域20の全体として機能する。本例のバッファ領域20は、
図1から
図5において説明したライフタイム制御領域104を有している。
【0074】
本例の半導体装置100によれば、バッファ領域20におけるキャリア濃度分布およびドナー濃度分布を精度よく制御できる。このため、半導体装置100の特性を精度よく制御できる。
【0075】
ゲートトレンチ部40は、半導体基板10の上面21から、エミッタ領域12、ベース領域14および蓄積領域16を貫通して、ドリフト領域18に達している。本例の蓄積領域16は、ゲートトレンチ部40の下端よりも上側に配置されている。蓄積領域16は、ベース領域14の下面全体を覆うように設けられてよい。ドリフト領域18とベース領域14との間に、ドリフト領域18よりも高濃度の蓄積領域16を設けることで、キャリア注入促進効果(IE効果、Injection‐Enhancement effect)を高めて、IGBTにおけるオン電圧を低減することができる。
【0076】
ゲートトレンチ部40は、半導体基板10の上面側に形成されたゲートトレンチ、ゲート絶縁膜42およびゲート導電部44を有する。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁を覆って形成される。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁の半導体を酸化または窒化して形成してよい。ゲート導電部44は、ゲートトレンチの内部においてゲート絶縁膜42よりも内側に形成される。つまりゲート絶縁膜42は、ゲート導電部44と半導体基板10とを絶縁する。ゲート導電部44は、ポリシリコン等の導電材料で形成される。
【0077】
ゲート導電部44は、ゲート絶縁膜42を挟んでベース領域14と対向する領域を含む。当該断面におけるゲートトレンチ部40は、半導体基板10の上面において層間絶縁膜38により覆われているが、ゲート導電部44は、他の断面においてゲート電極と接続されている。ゲート導電部44に所定のゲート電圧が印加されると、ベース領域14のうちゲートトレンチ部40に接する界面の表層に電子の反転層によるチャネルが形成される。
【0078】
図7は、
図6のB-B線の位置における、深さ方向のキャリア濃度分布の一例を示す図である。
図7の縦軸は、キャリア濃度を示す対数軸であり、横軸は下面23からの距離を示す線形軸である。
【0079】
本例のバッファ領域20におけるキャリア濃度分布は、深さ方向において異なる位置に設けられた複数の水素対応ピーク111を有する。バッファ領域20におけるキャリア濃度分布を精度よく制御できるので、上面21側からの空乏層の広がりを精度よく抑制できる。
【0080】
本例の蓄積領域16は、複数のピーク25を有しているが、蓄積領域16は単一のピーク25を有していてもよい。ピーク25は、ドナー濃度のピークである。ピーク25は、水素を注入することで形成してもよい。この場合、蓄積領域16に、水素含有領域102が含まれてもよい。
【0081】
図8は、半導体装置100の製造方法における一部の工程を示す図である。
図8においては、水素含有領域102を形成する工程を示している。
図8に示す工程の前後に、
図6に示した各構造を形成する。
【0082】
S702において、半導体基板10の下面23側から水素イオンを注入する。S702においては、飛程を変更して複数回水素イオンを注入してよい。次にS704において、半導体基板10をアニールする。これにより、水素ドナーおよびVOH欠陥を生じさせて、水素含有領域102を形成する。
【0083】
次にS706において、水素含有領域102の少なくとも一部の領域にヘリウムが含まれるように、半導体基板10の下面23側からヘリウムを注入する。S702における水素イオンの総ドーズ量は、S706におけるヘリウムの総ドーズ量の5倍以上であってよい。水素イオンのドーズ量を多くすることで、ヘリウム対応ピーク112を抑制できる。水素イオンの総ドーズ量は、ヘリウムの総ドーズ量の10倍以上であってもよい。また、水素イオンの各飛程におけるドーズ量が、ヘリウムの総ドーズ量の5倍以上であってもよい。なお、S702およびS706におけるドーズ量および飛程は、
図1から
図7において説明した各濃度分布が形成できるように調整される。
【0084】
次にS708において、半導体基板10をアニールする。S708におけるアニール条件は、S704におけるアニール条件と同一であってよく、異なっていてもよい。S708において半導体基板10を熱処理することで、水素含有領域102にライフタイム制御領域104を形成する。
【0085】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0086】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0087】
10・・・半導体基板、12・・・エミッタ領域、14・・・ベース領域、16・・・蓄積領域、18・・・ドリフト領域、20・・・バッファ領域、21・・・上面、22・・・コレクタ領域、23・・・下面、25・・・ピーク、38・・・層間絶縁膜、40・・・ゲートトレンチ部、42・・・ゲート絶縁膜、44・・・ゲート導電部、52・・・エミッタ電極、54・・・コレクタ電極、100・・・半導体装置、102・・・水素含有領域、104・・・ライフタイム制御領域、111・・・水素対応ピーク、112・・・ヘリウム対応ピーク、113・・・ヘリウム濃度ピーク、114・・・水素濃度谷部、115・・・水素濃度ピーク、116・・・キャリア濃度谷部、119・・・ピーク