(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】検査装置及び検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/90 20060101AFI20231212BHJP
【FI】
G01N21/90 C
(21)【出願番号】P 2022133569
(22)【出願日】2022-08-24
(62)【分割の表示】P 2021081475の分割
【原出願日】2021-05-13
【審査請求日】2022-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白坂 竜矢
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-010475(JP,A)
【文献】特開平07-128240(JP,A)
【文献】特表2013-544675(JP,A)
【文献】特開2007-003389(JP,A)
【文献】特開平09-062831(JP,A)
【文献】国際公開第2015/114833(WO,A1)
【文献】特開2015-223717(JP,A)
【文献】特開2002-286549(JP,A)
【文献】特開平09-300596(JP,A)
【文献】特開平09-096613(JP,A)
【文献】特開2004-257929(JP,A)
【文献】国際公開第2015/046119(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/84 - G01N 21/958
B41F 31/00 - B41F 35/06
G01B 11/00 - G01B 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属光沢のある下地に印刷が施された検査対象面のインキの膜厚を検査する検査装置であって、
前記検査対象面を撮像した検査画像データを取得する画像取得部と、
前記検査画像データに基づいて前記検査対象面のインキの膜厚を検査する検査部と、を備え、
前記検査画像データは、
光源から出射した光を前記検査対象面に照射し、前記検査対象面で反射した正反射光及び乱反射光を含む反射光をラインセンサで受光して取得した第1画像データと、
光源から出射した光を前記検査対象面に照射し、前記検査対象面で反射した乱反射光のみをラインセンサで受光して取得した第2画像データと、を含
み、
前記検査部は、前記検査対象面のうち少なくとも白色以外の色で印刷された領域に対して、前記第1画像データに基づいて前記検査対象面のインキの膜厚を検査する、検査装置。
【請求項2】
前記検査部は、前記検査対象面のうち少なくとも白色で印刷された領域に対して、前記第2画像データに基づいて前記検査対象面のインキの膜厚を検査する、請求項
1記載の検査装置。
【請求項3】
前記検査対象面は、前記検査対象面の少なくとも一部が、前記光源に向かって突出した曲面であり、
前記検査対象面を、前記曲面の曲率中心を回転軸として回転させながら前記検査対象面のインキの膜厚を検査する、請求項1
又は2記載の検査装置。
【請求項4】
金属光沢のある下地に印刷が施された検査対象面における前記金属光沢のある下地の上に印刷されたインキの印刷状態を検査する検査装置であって、
前記検査対象面を撮像した検査画像データを取得する画像取得部と、
前記検査画像データに基づいて前記検査対象面の印刷状態を検査する検査部と、を備え、
前記検査画像データは、
光源から出射した光を前記検査対象面に照射し、前記検査対象面で反射した正反射光及び乱反射光を含む反射光をラインセンサで受光して取得した第1画像データと、
光源から出射した光を前記検査対象面に照射し、前記検査対象面で反射した乱反射光のみをラインセンサで受光して取得した第2画像データと、を含み、
前記検査部は、
前記検査対象面のインキの色に応じて、前記第1画像データ及び前記第2画像データを含む画像データから適切な画像データを前記検査画像データとして用い、
前記検査対象面のうち少なくとも白色以外の色のインキで印刷された領域に対して、前記第1画像データに基づいて前記検査対象面のインキの印刷状態を検査し、
前記検査対象面のうち少なくとも白色のインキで印刷された領域に対して、前記第2画像データに基づいて前記検査対象面のインキの印刷状態を検査する、検査装置。
【請求項5】
金属光沢のある下地に印刷が施された検査対象面のインキの膜厚を検査する検査方法であって、
前記検査対象面を撮像した検査画像データを取得する画像取得ステップと、
前記検査画像データに基づいて前記検査対象面のインキの膜厚を検査する検査ステップと、を備え、
前記検査画像データは、
光源から出射した光を前記検査対象面に照射し、
前記検査対象面で反射した乱反射光のみをラインセンサで受光して取得した第2画像データである、検査方法。
【請求項6】
金属光沢のある下地に印刷が施された検査対象面のインキの膜厚を検査する検査方法であって、
前記検査対象面を撮像した検査画像データを取得する画像取得ステップと、
前記検査画像データに基づいて前記検査対象面のインキの膜厚を検査する検査ステップと、を備え、
前記検査画像データは、
光源から出射した光を前記検査対象面に照射し、前記検査対象面で反射した正反射光及び乱反射光を含む反射光をラインセンサで受光して取得した第1画像データと、
光源から出射した光を前記検査対象面に照射し、前記検査対象面で反射した乱反射光のみをラインセンサで受光して取得した第2画像データと、を含む、検査方法。
【請求項7】
金属光沢のある下地に印刷が施された検査対象面における前記金属光沢のある下地の上に印刷されたインキの印刷状態を検査する検査方法であって、
前記検査対象面を撮像した検査画像データを取得する画像取得ステップと、
前記検査画像データに基づいて前記検査対象面の印刷状態を検査する検査ステップと、を備え、
前記検査画像データは、
光源から出射した光を前記検査対象面に照射し、前記検査対象面で反射した正反射光及び乱反射光を含む反射光をラインセンサで受光して取得した第1画像データと、
光源から出射した光を前記検査対象面に照射し、前記検査対象面で反射した乱反射光のみをラインセンサで受光して取得した第2画像データと、を含み、
前記検査ステップは、
前記検査対象面のインキの色に応じて、前記第1画像データ及び前記第2画像データを含む画像データから適切な画像データを前記検査画像データとして用い、
前記検査対象面のうち少なくとも白色以外の色のインキで印刷された領域に対して、前記第1画像データに基づいて前記検査対象面のインキの印刷状態を検査し、
前記検査対象面のうち少なくとも白色のインキで印刷された領域に対して、前記第2画像データに基づいて前記検査対象面のインキの印刷状態を検査する、検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査装置及び検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被印刷物に印刷された画像の検査を行う検査装置が知られている(例えば、特許文献1)。
特許文献1には、検査基準となる第1画像データと検査対象となる第2画像データとを比較し、両画像データの色調について色差ΔEを検出して検査を行う画像検査装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、被印刷物に印刷された画像の色調や色の濃度は、下地(印刷面)の素材や色、インキの種類や膜厚などによって変化する。例えば、金属面にインキを転写して印刷を行う場合には、印刷面上のインキの膜厚によって色(色の濃度)が変化する。
このような金属面に対する印刷物の印刷状態を検査する場合、検査基準となる印刷面を撮像した基準画像と検査対象面を撮像した検査画像とから検出した色差ΔEでは印刷状態を正しく把握できない場合がある。すなわち、色差ΔEとインキの膜厚との関連性が色毎に異なるため、色によっては基準となる印刷面の膜厚と検査対象面の膜厚との差をΔEから判定できない場合もある。このため、金属面に対する印刷においては、上述の特許文献1のように基準画像と検査画像との色差であるΔEに基づく検査では、印刷面(検査対象面)の印刷状態を正確に把握することができない。
【0005】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、上述のような問題点を解決することを課題の一例とする。すなわち、本発明の課題の一例は、検査対象面の印刷状態(インキの膜厚)を正確に把握することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、金属光沢のある下地に印刷が施された検査対象面の印刷状態を検査する検査装置であって、前記検査対象面を撮像した検査画像データを取得する画像取得部と、前記検査画像データに基づいて前記検査対象面の印刷状態を検査する検査部と、を備え、前記検査画像データは、光源から出射した光を前記検査対象面に照射し、前記検査対象面で反射した正反射光及び乱反射光を含む反射光をラインセンサで受光して取得した第1画像データである、検査装置を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、検査対象面の印刷状態を正確に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る検査装置を含む印刷システムの構成を示す図である。
【
図2】検査画像データにおける各色とL*値との相関性を示すグラフである。
【
図3】本実施形態に係る検査装置において、検査画像データに対する検査処理を説明する図である。
【
図4】本実施形態に係る検査装置において、検査画像データに対する検査処理を説明する図である。
【
図6】
図5の印刷装置におけるインキ供給部の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の説明において、同一の符号は同一の機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係る検査装置10を備えた印刷システム1の概略構成を示している。
図1に示す印刷システム1では、印刷装置20によって印刷された印刷物を搬送する過程において、搬送路から任意に抜き取った印刷物の印刷状態を検査し、検査結果を印刷処理に反映させることにより印刷品質を維持する。
【0011】
このような印刷システム1は、被印刷物に所定の印刷を施す印刷装置20、印刷装置20により印刷された印刷物のインキ等を乾燥させる乾燥装置30、印刷物を搬送する搬送装置40、搬送装置40によって搬送される印刷物を任意に抜き取り、印刷物の検査対象面を撮像する撮像装置50、撮像装置50から取得した検査画像データに基づいて検査対象面の印刷状態を検査する検査装置10、及び、検査装置10から検査結果を取得してインキ供給量を制御するインキ供給量制御装置60を備えている。なお、
図1の実線は被印刷物及び印刷物の流れを示し、破線は電気信号の流れを示している。
【0012】
印刷システム1における被印刷物は、例えば、2ピース缶等の略円筒形状を有する缶体(缶の中間成形体を含む)、又は、平板の金属板であり、いずれも下地となる印刷面は金属光沢を有している。以下、本実施形態においては、印刷システム1は缶体を被印刷物として缶体に印刷処理を行う例について説明する。
【0013】
検査装置10は、印刷装置20により印刷されて搬送装置40により搬送される缶体から抜き取られた任意の缶体を検査対象として検査する。検査装置10は、
図1に示すように、画像取得部11、測定部12、及び、検査部13を備えている。検査装置10及び検査装置10が有する機能の詳細は後述する。
【0014】
印刷装置20は、例えば、中間転写体を介してインキ壺から複数のローラを備えるローラ群によって供給されるインキを被印刷物である缶体に転写するオフセット印刷機を用いることができる。印刷装置20の詳細は後述する。
乾燥装置30は、印刷装置20においてインキが転写され、オーバーコート等が施された缶体に対し、インキ及びオーバーコート等を乾燥させて定着させる。
搬送装置40は、例えば、所定間隔で配置された支持杆に設けられて無端状に回動するピンチェーンコンベアを備え、乾燥装置30から所定の搬送先に被印刷物である缶体を搬送する。
【0015】
撮像装置50は、搬送装置40により搬送される複数の缶体から抜き取られた任意の缶体の印刷面を検査対象面として撮像する。撮像装置50では、第1画像データ及び第2画像データを含む少なくとも2種の画像データを撮像する。第1画像データは、撮像装置50において、光源から出射した光を検査対象面に照射し、検査対象面で反射した正反射光及び乱反射光を含む反射光をラインセンサなどによって受光して取得した画像データである。また、第2画像データは、撮像装置50において、光源から出射した光を検査対象面に照射し、検査対象面で反射した乱反射光のみをラインセンサで受光して取得した画像データである。撮像装置50の構成については後述する。
【0016】
インキ供給量制御装置60は、検査装置10による検査結果に基づいて、例えば、印刷装置20のダクターローラを制御してインキの供給量、即ちインキの膜厚を制御する。
【0017】
[検査装置について]
上述のように、検査装置10は、画像取得部11、測定部12、及び、検査部13を備えている。検査装置10には、CPU、メモリ及びHDD装置を含む専用又は汎用のコンピュータを適用することができる。検査装置10の上記各部の機能は、予めHDD装置に格納されたプログラムをCPUがメモリにロードし、実行することにより実現することができる。また、上述した各部の機能の一部または全部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などのハードウェアで構成することも可能である。
【0018】
以下、検査装置10に含まれる各部の機能について説明する。
画像取得部11は、印刷状態の検査に際して基準となる印刷面を撮像した基準画像データ81を予め取得するとともに、検査対象となる缶体の検査対象面を撮像装置50によって撮像した検査画像データ82を取得する。なお、基準画像データは、予めHDD装置やメモリなどの記憶装置(図示せず)に記憶させておくことができる。
【0019】
測定部12は、検査画像データのL*a*b*表示系において色毎にL*値を測定する。このため、測定部12は、画像取得部11により取得したRGB空間の検査画像データをLab空間のデータに変換し、変換された検査画像データを用いてL*a*b*表示系において色毎にL*値を測定する。また、測定部12は、基準画像データのL*a*b*表示系におけるL*値と検査画像データのL*値との差分値ΔL*を算出する。なお、測定部12は、基準画像データのL*a*b*表示系におけるL*値は予め測定して、記憶装置(図示せず)等に記憶させておいてもよい。
【0020】
本実施形態では、検査対象面の下地が金属光沢を有することから、撮像装置50において検査対象面で反射した正反射光及び乱反射光を含む反射光をラインセンサなどによって受光して取得した第1画像データを検査画像データとして用いる。正反射光を受光して取得した第1画像データは、下地である金属光沢面のL*値を高い値とすることができ、このような画像を検査画像データとすることで、検査対象面のインキの膜厚とL*値との相関性を検証することができる。
【0021】
すなわち、
図2(B)~(F)に示すように、インキの膜厚が厚くなるほど、下地である金属面が透けにくくなり金属面の色から遠ざかり、L*値が小さくなる。反対に、インキの膜厚が薄くなるほど、下地である金属面が透けやすくなり金属面の色に近くなるので、L*値が大きくなる(
図2)。
【0022】
一方、例えば、インキの色が白である場合などは、白色インキのL*値が高いため、第1画像データを用いた場合は、L*値が必ずしも膜厚に依存せず、L*値と膜厚の相関性が判別しにくい場合がある。このような場合には、撮像装置50において検査対象面で反射した乱反射光のみをラインセンサなどによって受光して取得した第2画像データを検査画像データとして用いる。乱反射光のみを受光して取得した第2画像データを検査画像データとすることで、金属光沢面のL*値は小さくなり、L*値と膜厚との相関性が判別しやすくなる。
【0023】
すなわち、
図2(A)に示すように、第2画像データを検査画像データとして用い、白色を示す領域を検査する場合、インキの膜厚が厚くなるほど、下地である金属面が透けにくくなり金属面の色から遠ざかり、L*値が大きくなる。反対に、インキの膜厚が薄くなるほど、下地である金属面が透けやすくなり金属面の色に近くなるので、L*値が小さくなる。
【0024】
このように、検査装置10では、検査対象面の印刷内容(色)に応じて、第1画像データ及び第2画像データを含む画像データから適切な画像データを検査画像データとして用いることが好ましい。以下の検査装置10に関する説明においては、第1画像データまたは第2画像データを識別せず、単に検査画像データとして説明する。なお、第2画像データを用いるのは白色に限定されず、白色と同様に第2画像データを用いたL*値と膜厚の相関性を有する色については、第2画像データを用いることが好ましい。
【0025】
図3に示すように、測定部12は、検査画像データのL*値の測定及び差分値ΔL*の算出に際して、基準画像データ81及び検査画像データ82からそれぞれ色毎の画像データを抽出し(
図3(B)及び(C))、色毎にL*値の測定及び差分値ΔL*の算出を行う。
図3に示す例では、測定部12は、基準画像データ81及び検査画像データ82からそれぞれ、イエローYの領域のみを抽出した基準画像データ81Y及び検査画像データ82Yを抽出する(
図3(B))。また、測定部12は、シアンCの領域のみを抽出した基準画像データ81C及び検査画像データ82Cを抽出する(
図3(C))。
【0026】
そして、測定部12は、色毎の検査画像データ82Yにおいて、L*値の測定対象として所定画素数(例えば、3画素×3画素)の注目領域Ryを設定し、注目領域Ry毎に平均化したL*値を測定する。同様に、色毎の検査画像データ82Cにおいて、L*値の測定対象として所定画素数(例えば、3画素×3画素)の注目領域Rcを設定し、注目領域Rc毎に平均化したL*値を測定する。
【0027】
続いて、測定部12は、色毎の基準画像データ81Y,81Cにおいて、色毎の検査画像データ82Y,82Cに設定された注目領域Ry,Rcと対応する注目領域毎に平均化されたL*値を算出し、色毎の基準画像データに設定された注目領域におけるL*値と、色毎の検査画像データに設定された注目領域におけるL*値との差分値ΔL*を算出する。つまり、測定部12は、注目領域毎にL*値の測定と、基準画像データと検査画像データとの対応する注目領域間のL*値の差分値ΔL*の算出を行う。なお、ΔL*の算出は1画素単位で行っても良いが、注目領域毎に平均化することにより、各画像データのノイズなどの影響を低減することができる。また、基準画像データのL*値の測定は基準画像データの撮像前に予め行っていても良く、基準画像データに対し先に注目領域を設定しても良い。
【0028】
この結果、基準画像データ及び検査画像データ中のイエローYを示す画像データに設定された注目領域毎のΔL*は、例えば、
図4に示す例のようになる。
図4において、イエローYを示す領域は、
図4中、縦方向に複数の領域#1,#2,#3…に分割され、領域#1は6つの注目領域、領域#2及び領域#3は9つの注目領域を含んでいる。
図4においては、説明の便宜上、注目領域毎に差分値ΔL*を付している。
【0029】
検査部13は、基準画像データのL*値と検査画像データのL*値との差分値ΔL*に基づいて検査対象面を検査する。より具体的には、検査部13は、上述した領域#1,#2,#3…毎にΔL*の平均値を算出する。
図4に示す例では、各領域のΔL*の平均値は、領域#1では+0.66、領域#2で+1、領域#3では-0.77である。検査部13は、領域#1,#2,#3…のΔL*の平均値に基づいて、各領域の印刷状態を検査する。領域#1,#2,#3…毎に算出したΔL*の平均値は検査結果データとしてインキ供給量制御装置60に出力する。インキ供給量制御装置60では、領域#1,#2,#3…毎に、ΔL*の平均値が0に近づくように、インキ供給量(インキ膜厚)を制御する。
【0030】
なお、領域#1,#2,#3…は、後述する印刷装置20のダクターローラ203(後述)の分割領域に対応させて便宜上分割された領域である。これは、印刷装置20に用いられるダクターローラ203が軸方向に複数に分割され、それぞれ独立して進退することで、分割領域ごとにインキの供給量を調整することができることに起因する。したがって、検査部13では、検査対象面を印刷した印刷装置に用いられているダクターローラの分割領域に対応させて#1,#2,#3…の領域を設定することが好ましい。
【0031】
[印刷装置について]
印刷装置20は、
図5に示すように、2ピース缶等の略円筒形状を有する缶体(被印刷物)Pの外周面(外面)に対してインキを転写して印刷するオフセット式の印刷機である。
【0032】
図5に示すように、印刷装置20は、インキを供給するインキングユニット110と、ブランケット125を回転させるブランケットホイール120と、被印刷物を搬送する搬送ユニット130と、缶体Pを保持するマンドレルを回転させるマンドレルホイール140と、インキが転写された缶体Pに仕上げ処理等を行うバーニッシュアプリケータ150と、缶体Pを搬送するトランスファユニット160とを備えている。
【0033】
インキングユニット110は、印刷版114へインキを供給する装置である。インキングユニット110は、インキの色毎に異なる複数のインキングユニット110、すなわち第1インキングユニット110a~第8インキングユニット110hからなる。これらの複数のインキングユニット110は、それぞれブランケットホイール120の外周面に沿って配置される。インキングユニット110は、所定のインキを収容するインキ供給部111と、各インキ供給部111のインキに応じた印刷版114が装着された版胴113とを含む。
【0034】
複数のインキ供給部111は、第1インキ供給部111a~第8インキ供給部111hからなる。複数の印刷版114は、第1インキ供給部111a~第8インキ供給部111hからそれぞれインキが供給される第1印刷版114a~第8印刷版114hからなる。上述のように、複数の印刷版114は、印刷に用いるインキ色毎に、各色を刷り重ねるように製版されている。そして、版胴113は、第1印刷版114a~第8印刷版114hをそれぞれ装着する第1版胴113a~第8版胴113hからなる。
【0035】
版胴113は、支軸の周りを回転可能な略円柱形状を有し、その外周面には印刷版114が脱着可能に装着される。版胴113は、ブランケットホイール120に対する距離を変更可能に設けられる。
【0036】
図6に示すように、インキ供給部111は、インキ収容部(インキ壺)201と版胴113との間に、順にファウンテンローラ202、ダクターローラ203、ファウンテンローラ204、ディストリビュータローラ205、バイブレータローラ206、ディストリビュータローラ207、208、バイブレータローラ209、210、フォームローラ211,212からなるインキローラ群213を備えている。
【0037】
これらのインキローラ群213のうち、ファウンテンローラ202からファウンテンローラ204までが、インキ収容部201からインキを供給する機能を有している。ディストリビュータローラ205からフォームローラ211,212までが主に印刷版114に供給されるインキを均す機能を有している。
【0038】
インキローラ群213に含まれる各ローラが回転することによってインキ収容部201のインキが版胴113に装着された印刷版114に供給される。ダクターローラ203は、ファウンテンローラ202に接触する位置と、ファウンテンローラ204に接触する位置との間で進退し、ファウンテンローラ202からインキを受け取ってファウンテンローラ204に引き渡す。
【0039】
また、ダクターローラ203がファウンテンローラ202に接触するデューティ比を制御することにより、印刷濃度を制御する。ダクターローラ203は軸方向に複数に分割されており、それぞれ独立して進退することで、分割領域ごとにインキの供給量を調整し、印刷濃度を制御することができる。インキローラ群213の一部のローラの内部には、温調水が循環されており、インキの温度が適正に保たれる。
【0040】
[撮像装置について]
撮像装置50の例について説明する。
図7に示す撮像装置は、第1光源51と、第2光源52と、ラインセンサ54とを備えている。
図7中、実線は正反射光を示し、破線は乱反射光を示している。
第1光源51は、第1光源51から出射した光がラインセンサ54に対して検査対象面P1において正反射の角度ではない位置に配置されている。第2光源52は、第2光源52から出射した光がラインセンサ54に対して検査対象面P1で正反射するように配置されている。
図7では、第1光源51は1つの角度から照射しているが、複数の光源を用いて異なる角度から照射するのが好ましい。
【0041】
図7(A)では、第1光源51及び第2光源52を点灯させることで、検査対象面P1において反射した正反射光及び乱反射光を含む反射光をラインセンサ54で受光して、第1画像データを取得する例を示している。第1画像データを用いることで、検査対象面の白色以外の領域の印刷状態の検査に有効である。すなわち、第1画像データから得られる第1L*値に基づいて印刷状態の検査を行うことで、検査対象面の白色以外の領域の印刷状態(インキの膜厚)を正確に把握することができる。
【0042】
図7(B)では、第1光源51を点灯させる一方で、第2光源52を消灯し、検査対象面P1において反射した乱反射光のみをラインセンサ54で受光した第2画像データを取得する。第2画像データを用いることで、検査対象面の白色の領域の印刷状態の検査に有効である。すなわち、第2画像データから得られる第2L*値に基づいて印刷状態の検査を行うことで、検査対象面の白色の領域の印刷状態(インキの膜厚)を正確に把握することができる。なお、検査対象面P1の撮像には、ラインセンサ54だけでなく、エリアセンサ又はカメラ等の、検査画像データを取得可能な各種センサを用いることができる。
【0043】
撮像装置50は、
図8に示すように、拡散筒53を備えていてもよい。
図8の例では、第1光源51は、第1光源51から出射した光が拡散筒53において拡散反射するように配置されている。第2光源52は、第2光源52から出射した光が拡散筒53を通過してラインセンサに対して検査対象面P1で正反射するように配置されている。
【0044】
拡散筒53は、円筒などの中空の筒状物であり、拡散筒53の内周面の少なくとも一部は、拡散筒53の中心軸を曲率中心とした曲面を有している。拡散筒53の内周面は、拡散反射材で一様に覆われており、いわゆる積分球の代替物として機能する。拡散反射材は、拡散反射率の高い白色の塗料や材料で構成され、例えば、硫酸バリウム又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を適用することができる。なお、拡散筒53の底面の内面側も拡散反射材で一様に覆われていることが好ましい。
【0045】
拡散筒53には、第1光源51から出射された光を導くポート55と、第2光源52から出射された光を導くポート56と、拡散筒53内で反射した拡散反射光又は拡散筒53を通過した直接光を検査対象面に導くポート57、検査対象面で反射した光をラインセンサ54へ導くポート58とが設けられている。
【0046】
拡散筒53は、拡散筒53の長手方向と検査対象面P1を有する缶体Pの軸方向とが略平行になるように配置されている。
第1光源51から出射してポート55を介して拡散筒53に入射し内周面で拡散反射した拡散反射光は、ポート57を介して検査対象面P1を照明する。
第2光源52から出射してポート56を介して拡散筒53を通過した直接光は、ポート57を介して検査対象面P1を照明する。
【0047】
ラインセンサ54は、検査対象面P1で拡散反射光を反射した乱反射光と第2光源52から出射した直接光を検査対象面P1で正反射した正反射光とを受光することができる。
このように構成された撮像装置50においては、第1光源51及び第2光源52を点灯させることで、第1光源から出射し拡散筒53を介して検査対象面P1において反射した乱反射光及び第2光源から出射し検査対象面P1において反射した正反射光を含む反射光をラインセンサ54で受光して、第1画像データを取得する。
【0048】
また、第1光源51を点灯させる一方で、第2光源52を消灯することで、第1光源から出射し拡散筒53で拡散反射され、検査対象面P1において反射した乱反射光のみをラインセンサ54で受光した第2画像データを取得する。この場合、拡散筒53には正反射の位置にポート56があるため、拡散反射光には正反射となる成分が含まれないため、乱反射光のみをラインセンサ54が受光することになる。
【0049】
以上述べたように、本実施形態に係る印刷システム1における検査装置10では、検査対象を撮像した検査画像データのL*a*b*表示系において色毎にL*値を測定し、これに応じて印刷状態を検査する。検査では色毎にL*値とインキの膜厚との相関を判断するので、検査対象面の印刷内容(色)に応じた検査を行うことができ、検査対象面の印刷状態を正確に把握することができる。また、検査対象面の印刷内容(色)に応じて、第1画像データ及び第2画像データを含む画像データから適切な画像データを検査画像データとして用いることができるので、L*値とインキの膜厚との相関が判別しにくい色であっても印刷内容に応じて正確に印刷状態を把握することができる。
【0050】
[その他]
上述の実施形態は、変形例を含めて各実施形態同士で互いの技術を適用することができる。上述の実施形態は、本発明の内容を限定するものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない程度に変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 印刷システム
10 検査装置
11 画像取得部
12 測定部
13 検査部
20 印刷装置
30 乾燥装置
40 搬送装置
50 撮像装置
53 拡散筒
54 ラインセンサ
55,56,57,58 ポート
60 インキ供給量制御装置
81,81Y,81C 基準画像データ
82,82Y,82C 検査画像データ
110 インキングユニット
111 インキ供給部
113 版胴
114 印刷版
120 ブランケットホイール
130 搬送ユニット
140 マンドレルホイール
150 バーニッシュアプリケータ
160 トランスファユニット
201 インキ収容部(インキ壺)
202 ファウンテンローラ
203 ダクターローラ
204 ファウンテンローラ
205 ディストリビュータローラ
206 バイブレータローラ
207 ディストリビュータローラ
208 ディストリビュータローラ
209 バイブレータローラ
210 バイブレータローラ
213 インキローラ群
211,212 フォームローラ
P 缶体
P1 検査対象面
Ry,Rc 注目領域