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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】自動運転装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/09 20120101AFI20231212BHJP
   B60W 30/10 20060101ALI20231212BHJP
   B60W 40/04 20060101ALI20231212BHJP
   B60W 40/06 20120101ALI20231212BHJP
   B60W 40/107 20120101ALI20231212BHJP
   B60W 40/114 20120101ALI20231212BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20231212BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
B60W30/09
B60W30/10
B60W40/04
B60W40/06
B60W40/107
B60W40/114
B60W60/00
G08G1/16 C
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022153057
(22)【出願日】2022-09-26
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(74)【代理人】
【識別番号】100167793
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 学
(72)【発明者】
【氏名】原 英之
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-038620(JP,A)
【文献】特開2022-038621(JP,A)
【文献】特開2022-052876(JP,A)
【文献】特開2022-052874(JP,A)
【文献】特開2022-054264(JP,A)
【文献】国際公開第2021/027568(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00 ~ 60/00
G08G 1/00 ~ 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転行動として前記自車両の加速度及びヨーレートを決定する自動運転装置であって、
前記自車両の走行軌道に応じた前記自車両の目標速度と現時刻の速度との差に比例する引力又は斥力ポテンシャルであり、かつ前記自車両の車速の推奨度合いを示す車速ポテンシャル及び前記自車両の走行軌道に応じた前記自車両の目標位置を基準とし、前記目標位置と現時刻の位置との差に比例する引力ポテンシャルであり、かつ前記自車両の目標位置の推奨度合いを示す車線ポテンシャルを生成する基本走行ポテンシャル生成部と、
前記自車両の周辺の障害物と前記自車両とが接触するリスクを示す斥力ポテンシャルである障害物ポテンシャルを生成する障害物ポテンシャル生成部と、
前記自車両の進行方向の前方に前記自車両が停止すべき位置が特定されると、前記自車両が交通ルールに違反する違反リスクを示す斥力ポテンシャルであり、かつ前記自車両の停止位置の推奨度合いを示す停止位置ポテンシャルを生成する交通ポテンシャル生成部と、
所定の車速予測時間内の前記車速ポテンシャルと、前記車速予測時間と異なる障害物リスク予測時間内の前記障害物ポテンシャルに基づく障害物リスクと、前記車速予測時間及び前記障害物リスク予測時間と異なる違反リスク予測時間内の前記停止位置ポテンシャルに基づく前記違反リスクとを含み、前記自車両の加速度をパラメータとする加速度コスト関数と、
前記車速予測時間、前記障害物リスク予測時間及び前記違反リスク予測時間と異なる車線予測時間内の前記車線ポテンシャルと、前記障害物リスクと、前記違反リスクとを含み、前記自車両のヨーレートをパラメータとするヨーレートコスト関数と、を生成するコスト関数生成部と、
前記加速度コスト関数を最小化する加速度を求めた後、前記ヨーレートコスト関数を最小化するヨーレートを求めて、求めた当該加速度及び求めた当該ヨーレートを前記自車両の運転行動として決定する運転行動決定部と、
を備える自動運転装置。
【請求項2】
前記コスト関数生成部は、前記目標位置と前記自車両の位置との距離に応じて前記車線予測時間を設定する、
請求項1に記載の自動運転装置。
【請求項3】
前記コスト関数生成部は、前記加速度コスト関数を最小化する加速度及び前記ヨーレートコスト関数を最小化するヨーレートの少なくともいずれかで前記自車両が走行するときの、前記障害物リスクが所定のリスク閾値以上であれば、前記障害物リスク予測時間よりも短い短期最大リスク予測時間内の前記障害物ポテンシャルに基づく短期最大リスクを含み前記加速度及び前記ヨーレートをパラメータとする障害物回避コスト関数を生成し、
前記運転行動決定部は、前記障害物回避コスト関数が生成された場合には、前記障害物回避コスト関数が最小になる前記加速度及び前記ヨーレートを同時に求めて、前記自車両の運転行動を決定する、
請求項1に記載の自動運転装置。
【請求項4】
前記運転行動決定部は、前記自車両が前記走行軌道に沿って走行するように定めた初期ヨーレートが入力された前記加速度コスト関数を最小化する加速度を決定する、
請求項1に記載の自動運転装置。
【請求項5】
前記運転行動決定部は、前記加速度コスト関数を最小化する加速度が入力された前記ヨーレートコスト関数を最小化するヨーレートを決定する、
請求項3に記載の自動運転装置。
【請求項6】
前記コスト関数生成部は、現時点から前記車速予測時間が経過した時点までの前記車速ポテンシャルの累積値と、前記障害物リスク予測時間内の複数の時点の各々の前記障害物ポテンシャルに基づく障害物リスクのうちの最大障害物リスクと、前記違反リスク予測時間内の複数の時点の各々の前記停止位置ポテンシャルに基づく違反リスクのうちの最大違反リスクと、を含む前記加速度コスト関数を生成する、
請求項1から4のいずれか一項に記載の自動運転装置。
【請求項7】
前記コスト関数生成部は、前記車速ポテンシャルの累積値、前記最大障害物リスク及び前記最大違反リスクに加えて、前記運転行動決定部が直前に決定した加速度周辺で正則化するための正則化項を含む前記加速度コスト関数を生成する、
請求項6に記載の自動運転装置。
【請求項8】
前記コスト関数生成部は、現時点から前記車線予測時間が経過した時点までの前記車線ポテンシャルの累積値と、前記障害物リスク予測時間内の複数の時点の各々の前記障害物ポテンシャルに基づく障害物リスクのうちの最大障害物リスクと、前記違反リスク予測時間内の複数の時点の各々の前記停止位置ポテンシャルに基づく違反リスクのうちの最大違反リスクと、を含む前記ヨーレートコスト関数を生成する、
請求項1から4のいずれか一項に記載の自動運転装置。
【請求項9】
前記コスト関数生成部は、前記車線ポテンシャルの累積値、前記最大障害物リスク及び前記最大違反リスクに加えて、前記運転行動決定部が直前に決定したヨーレート又は前記自車両の走行経路の曲率と前記車速との積で算出されるヨーレート周辺で正則化するための正則化項を含む前記ヨーレートコスト関数を生成する、
請求項8に記載の自動運転装置。
【請求項10】
前記基本走行ポテンシャル生成部は、前記車速予測時間、前記障害物リスク予測時間、前記違反リスク予測時間及び前記車線予測時間と異なる軌道予測時間内の前記障害物ポテンシャルを含む軌道コスト関数を最小化する前記走行軌道に応じて前記車速ポテンシャル及び前記車線ポテンシャルを生成する、
請求項1から4のいずれか一項に記載の自動運転装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両の運転行動を決定する自動運転装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リスクポテンシャル法により自車両の運転行動を決定する技術が知られている。特許文献1には、所定の予測時間内における各時刻のポテンシャルの累積値によってコスト関数を評価して、制動や操舵等の運転行動を決定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-18062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、複雑な交通状況に対する運転行動を同じ予測時間を使って決定すると、時間的に遠い衝突のリスクを考慮することができない等、自車両の安全性が低下するおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、自動運転車両の安全性を向上する運転行動を決定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様においては、ポテンシャル場に基づいて自車両の運転行動を決定する自動運転装置であって、前記自車両の走行軌道に応じて、前記自車両の車速の推奨度合いを示す車速ポテンシャル及び前記自車両の目標位置の推奨度合いを示す車線ポテンシャルを生成する基本走行ポテンシャル生成部と、前記自車両の周辺の障害物に応じて、障害物ポテンシャルを生成する障害物ポテンシャル生成部と、前記自車両の進行方向の前方に前記自車両が停止すべき位置が特定されると、前記自車両の停止位置の推奨度合いを示す停止位置ポテンシャルを生成する交通ポテンシャル生成部と、所定の車速予測時間内の前記車速ポテンシャルと、前記車速予測時間と異なる障害物リスク予測時間内の前記障害物ポテンシャルに基づく障害物リスクと、前記車速予測時間及び障害物リスク予測時間と異なる違反リスク予測時間内の前記停止位置ポテンシャルに基づく違反リスクとを含み、前記自車両の加速度をパラメータとする加速度コスト関数と、前記車速予測時間、前記障害物リスク予測時間及び前記違反リスク予測時間と異なる車線予測時間内の前記車線ポテンシャルと、前記障害物リスクと、前記違反リスクとを含み、前記自車両のヨーレートをパラメータとするヨーレートコスト関数と、を生成するコスト関数生成部と、前記加速度コスト関数を最小化する加速度を求めた後、前記ヨーレートコスト関数を最小化するヨーレートを求めて、前記自車両の運転行動を決定する運転行動決定部と、を備える自動運転装置を提供する。
【0007】
前記コスト関数生成部は、前記目標位置と前記自車両の位置との距離に応じて前記車線予測時間を設定してもよい。
【0008】
前記コスト関数生成部は、前記加速度コスト関数を最小化する加速度及び前記ヨーレートコスト関数を最小化するヨーレートの少なくともいずれかで前記自車両が走行するときの、前記障害物リスクが所定のリスク閾値以上であれば、前記障害物リスク予測時間よりも短い短期最大リスク予測時間内の前記障害物ポテンシャルに基づく短期最大リスクを含み前記加速度及び前記ヨーレートをパラメータとする障害物回避コスト関数を生成し、前記運転行動決定部は、前記障害物回避コスト関数が生成された場合には、前記障害物回避コスト関数が最小になる前記加速度及び前記ヨーレートを同時に求めて、前記自車両の運転行動を決定してもよい。
【0009】
前記運転行動決定部は、前記自車両が前記走行軌道に沿って走行するように定めた初期ヨーレートが入力された前記加速度コスト関数を最小化する加速度を決定してもよい。
【0010】
前記運転行動決定部は、前記加速度コスト関数を最小化する加速度が入力された前記ヨーレートコスト関数を最小化するヨーレートを決定してもよい。
【0011】
前記コスト関数生成部は、現時点から前記車速予測時間が経過した時点までの前記車速ポテンシャルの累積値と、前記障害物リスク予測時間内の複数の時点の各々の前記障害物ポテンシャルに基づく障害物リスクのうちの最大障害物リスクと、前記違反リスク予測時間内の複数の時点の各々の前記停止位置ポテンシャルに基づく違反リスクのうちの最大違反リスクと、を含む前記加速度コスト関数を生成してもよい。
【0012】
前記コスト関数生成部は、前記車速ポテンシャルの累積値、前記最大障害物リスク及び前記最大違反リスクに加えて、前記運転行動決定部が直前に決定した加速度周辺で正則化するための正則化項を含む前記加速度コスト関数を生成してもよい。
【0013】
前記コスト関数生成部は、現時点から前記車線予測時間が経過した時点までの前記車線ポテンシャルの累積値と、前記障害物リスク予測時間内の複数の時点の各々の前記障害物ポテンシャルに基づく障害物リスクのうちの最大障害物リスクと、前記違反リスク予測時間内の複数の時点の各々の前記停止位置ポテンシャルに基づく違反リスクのうちの最大違反リスクと、を含む前記ヨーレートコスト関数を生成してもよい。
【0014】
前記コスト関数生成部は、前記車線ポテンシャルの累積値、前記最大障害物リスク及び前記最大違反リスクに加えて、前記運転行動決定部が直前に決定したヨーレート又は前記自車両の走行経路の曲率と前記車速との積で算出されるヨーレート周辺で正則化するための正則化項を含む前記ヨーレートコスト関数を生成してもよい。
【0015】
前記基本走行ポテンシャル生成部は、前記車速予測時間、前記障害物リスク予測時間、前記違反リスク予測時間及び前記車線予測時間と異なる軌道予測時間内の前記障害物ポテンシャルを含む軌道コスト関数を最小化する前記走行軌道に応じて前記車速ポテンシャル及び前記車線ポテンシャルを生成してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、自動運転車両の安全性を向上する運転行動を決定できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施の形態に係る自動運転装置が実行する処理の概要を説明するための図である。
図2】自動運転装置の構成を説明するための図である。
図3】運転行動決定する処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[自動運転装置1が実行する処理の概要]
図1は、実施の形態に係る自動運転装置が実行する処理の概要を説明するための図である。自動運転装置は、自動運転装置が搭載された自車両の運転行動である加速度及びヨーレートをポテンシャル場に基づいて決定する。
【0019】
自動運転装置は、自車両の複数の走行モードから一の走行モードを選択することにより自車両の基本走行モードを決定する(図1(1))。複数の走行モードは、車線維持モード、右車線変更モード、左車線変更モード、障害物右回避モード及び障害物左回避モードである。自動運転装置は、自車両の基本走行モードを、各走行モードに対応する走行軌道のうちの走行軌道に対応する軌道コスト関数の関数値が最小になる走行軌道を走行する走行モードに決定する。
【0020】
自動運転装置は、自車両の加速度をパラメータとする加速度コスト関数を生成する(図1(2))。加速度コスト関数は、自車両の車速の推奨度合を示す車速ポテンシャルの累積値、自車両周辺の障害物に基づく障害物ポテンシャルによる接触リスク及び停止位置の推奨度合いを示す停止位置ポテンシャルによる交通ルールに違反する違反リスクの各々を、それぞれ異なる予測時間で予測するコスト関数である。加速度コスト関数の詳細は後述する。次に、自動運転装置は、加速度コスト関数を最小化する加速度を決定する(図1(3))。
【0021】
自動運転装置は、加速度を決定した後、自車両のヨーレートをパラメータとするヨーレートコスト関数を生成する(図1(4))。ヨーレートコスト関数は、自車両の車速の推奨度合を示す車線ポテンシャルの累積値、接触リスク及び違反リスクの各々をそれぞれ異なる予測時間で予測するコスト関数である。自動運転装置は、ヨーレートコスト関数を最小化するヨーレートを決定する(図1(5))。
【0022】
自動運転装置は、加速度及びヨーレートを決定したら、自車両の周辺に存在する障害物と自車両が接触するリスクを示す最大障害物リスクがリスク閾値未満であるか否かを判定する(図1(6))。リスク閾値は、自車両Vの周辺の障害物を直ちに回避する必要があるか否かを判定するための閾値である。リスク閾値は、平均的な運転者が車両を運転する際に直ちに障害物を回避する必要があると判断する場合の基準リスクよりも低い値である。基準リスクは、実験などにより適宜定めればよい。
【0023】
自動運転装置は、障害物を直ちに回避すべき状況でなければ、決定した加速度とヨーレートを通常運転行動に決定する(図1(7))。これにより、アクセルやブレーキを操作して加速度を決定した後にハンドルを操作してヨーレートを決定するという運転者の運転行動に即した運転行動を決定できる。その結果、旋回中に加速してしまう等、安全性が低下するおそれのある運転行動を決定してしまうことを抑制できるので、自動運転車両の安全性を向上する運転行動を決定できる。
【0024】
一方、最大障害物リスクがリスク閾値以上であれば、自動運転装置は、障害物を直ちに回避すべき状況であると判定し、緊急運転行動を決定する処理を実行する。具体的には、まず、自動運転装置は、障害物回避コスト関数を生成する(図1(8))。障害物回避コスト関数は、短期最大リスクのみを含み、自車両の加速度及びヨーレートをパラメータとするコスト関数である。障害物回避コスト関数の詳細は後述する。次に、自動運転装置は、障害物回避コスト関数を最小化する加速度及びヨーレートを同時に決定する(図1(9))。
【0025】
これにより、自動運転装置は、障害物を直ちに回避すべき状況であれば、短期最大リスクのみを含む障害物回避コスト関数を最小化するので、複数のポテンシャル及びリスクを含むコスト関数を最小化する値を求める場合よりも短い時間で運転行動を決定できる。また、自動運転装置は、加速度及びヨーレートを同時に決定することにより、自車両と障害物の接触を回避できる確率を高める最適な運転行動を決定できる。
【0026】
[自動運転装置1の構成]
図2は、自動運転装置1の構成を説明するための図である。自動運転装置1は、自動運転車両である自車両Vに搭載されている。自車両Vは、自動運転装置1の他に、センサ群2及びECU(Electronic Control Unit)3を搭載している。
【0027】
センサ群2は、自車両Vの状態及び周辺環境を検出するセンサである。センサ群2は、例えば自車両Vの状態として車速をセンサ及び加速度を検出する加速度センサを含み、自車両Vの車速及び加速度を検出する。センサ群2は、車両の位置を検出するためのGPS(Global Positioning System)受信機を含み、自車両Vの位置を検出する。また、センサ群2は、自車両Vの状態として、ヨーレートを検出するセンサを含み、ヨーレートを検出する。
【0028】
センサ群2は、周辺環境を検出するセンサとして、カメラ、レーダ、LIDAR等の外部センサを有する。センサ群2は、外部センサの出力値を自動運転装置1に出力する。
【0029】
ECU3は、自車両Vを制御するECUである。ECU3は、自動運転装置1が決定した運転行動に従い、自車両Vのアクセルや操舵角を制御する。
【0030】
自動運転装置1は、記憶部11及び制御部12を備える。記憶部11は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及びハードディスク等を含む記憶媒体である。記憶部11は、制御部12が実行するプログラムを記憶する。記憶部11は、自車両Vが走行する道路を含む地図を記憶していてもよい。例えば、記憶部11は、信号機の位置、停止線の位置、横断歩道の位置及び交差点の位置を含む地図を記憶する。
【0031】
制御部12は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを含む計算リソースである。制御部12は、記憶部11に記憶されたプログラムを実行することにより、障害物検出部121、障害物ポテンシャル生成部122、基本走行モード決定部123、基本走行ポテンシャル生成部124、交通ポテンシャル生成部125、コスト関数生成部126及び運転行動決定部127としての機能を実現する。
【0032】
障害物検出部121は、センサ群2の出力値に基づいて自車両Vの周囲の障害物を検出する。例えば、障害物検出部121は、移動障害物(例えば、他車両、自転車、歩行者等)及び静止障害物(塀、ガードレール、標識、看板等)を検出する。また、センサ群2は、自車両Vが走行する走行車線の位置や幅等を検出する。障害物検出部121は、記憶部11に記憶された地図を参照して、自車両Vの位置から基準距離よりも長い検出距離以内の静止障害物を検出してもよい。基準距離は、例えば50メートルであるが、これに限定するものではない。例えば、障害物検出部121は、検出距離を、自車両Vの車速が大きいほど基準距離よりも長くする。一例を挙げると、障害物検出部121は、自車両Vの走行経路上の停止線及び横断歩道の位置を取得することにより、自車両Vの走行経路上の停止線及び横断歩道を特定する。
【0033】
障害物ポテンシャル生成部122は、自車両の周辺の障害物に応じて、障害物ポテンシャルを生成する。具体的には、障害物ポテンシャル生成部122は、障害物検出部121が検出した自車両Vの周辺の移動障害物に応じて移動障害物ポテンシャル場を生成する。移動障害物ポテンシャル場は、移動障害物の速度及び向きに応じて所定時間毎に更新される時系列ポテンシャルである。また、障害物ポテンシャル生成部122は、静止障害物に応じて占有グリッドマップを生成する。具体的には、障害物ポテンシャル生成部122は、自車両Vが進入可能な領域と進入不可能な領域を区別するための占有グリッドマップを生成する。障害物ポテンシャル生成部122は、移動障害物ポテンシャル場及び占有グリッドマップを合成した障害物ポテンシャルを生成する。障害物ポテンシャルは、障害物と自車両が接触するリスクを示す斥力ポテンシャルである。
【0034】
基本走行モード決定部123は、複数の走行モードから一の走行モードを選択することにより自車両Vの基本走行モードを決定する。基本走行モード決定部123は、自車両Vが走行中の走行車線を走行し続けるように、基本走行モードを車線維持モードに決定し、自車両Vが走行中の走行車線の幅方向における中心位置を走行する走行軌道を生成する。走行軌道には、例えば、現時点から所定の予測時間後までの各時刻における自車両の目標速度、目標位置及び目標位置に到達する目標時刻を示す情報が含まれている。
【0035】
基本走行モード決定部123は、自車両Vの走行車線の進行方向前方に障害物が検出されたら、当該障害物を回避するための、自車両Vの複数の走行モードの各々に応じた走行軌道を生成する。基本走行モード決定部123は、走行軌道のコストを予測するための軌道コスト関数Cを最小化する走行軌道に対応する走行モードを、自車両の走行モードに決定する。軌道コスト関数は、軌道コスト予想時間ΔT内の障害物ポテンシャルを含む、走行モードIをパラメータとするコスト関数である。軌道コスト関数Cは、下記式(1)で示される。
(I)=-w s/(VtgtΔT)+w (R max/Rth)…(1)
【0036】
式(1)の第1項のw sは、走行軌道において現時点から軌道コスト予想時間ΔTまでに自車両Vが走行すると予想される道のりの長さを示す。また、第1項は、走行距離の道のりの長さw sを、目標速度Vtgtと軌道コスト予想時間ΔTとの積で算出された理想的な道のりの長さで除することで正規化されている。第1項は、負のコストである利得であり、予想される道のりの長さが理想的な道のりの長さに近いほど絶対値が小さくなる。
【0037】
式(1)の第2項は、走行軌道を走行するリスクを正規化した値である。最大衝突リスクR maxは、走行軌道の複数の経路点の各々の衝突リスクのうちの最大値である。各経路点の衝突リスクは、障害物ポテンシャルにより定まる。閾値Rthは、例えば、平均的な運転者が車両を運転する際の衝突リスクよりも低い値である。第2項は、正のコストである罰則であり、最大衝突リスクR maxが閾値Rthよりも小さいほど絶対値が小さくなる。
【0038】
基本走行モード決定部123は、軌道コスト関数Cに各走行軌道の情報を入力することにより、各走行軌道に対応する軌道コスト関数Cの関数値を算出する。基本走行モード決定部123は、複数の軌道コスト関数Cの関数値のうちの、関数値が最小の走行モードを、基本走行モードに決定する。一例を挙げると、基本走行モード決定部123は、複数の関数値のうちの最小の関数値に対応する走行モードが障害物右回避モードであれば、基本走行モードを障害物右回避モードに決定する。
【0039】
基本走行ポテンシャル生成部124は、基本走行モード決定部123が決定した走行モードの走行軌道を走行するように設定された基本走行ポテンシャルを生成する。具体的には、基本走行ポテンシャル生成部124は、自車両Vの車速の推奨度合いを示す車速ポテンシャル及び目標位置の推奨度合いを示す車線ポテンシャルを生成する。車速ポテンシャルUvalは、自車両の目標速度と現時刻の速度との差に比例する引力又は斥力ポテンシャルである。車線ポテンシャルUlaneは、自車両の目標位置を基準とするポテンシャルであり、自車両の目標位置と現時刻の位置との差に比例する引力ポテンシャルである。
【0040】
交通ポテンシャル生成部125は、自車両Vの進行方向の前方の停止位置に対応する停止位置ポテンシャルUstopを生成する。停止位置ポテンシャルUstopは、停止位置に対する自車両Vの停止位置の推奨度合いを示すポテンシャルであり、自車両Vが交通ルールに違反する違反リスクを示す斥力ポテンシャルである。交通ポテンシャル生成部125は、自車両Vの進行方向の前方に停止位置が特定されなくなったら、生成した停止位置ポテンシャルUstopを消去する。
【0041】
交通ポテンシャル生成部125は、センサ群2の出力値に基づいて、自車両Vの進行方向の前方の自車両Vが停止すべき停止位置を特定する。停止位置は、自車両Vの走行車線の進行方向前方の停止線、横断歩道の手前及び交差点の手前であるが、これに限定するものではない。具体的には、交通ポテンシャル生成部125は、カメラが撮像した撮像画像を解析することにより、自車両Vの進行方向前方の停止線及び横断歩道を特定する。交通ポテンシャル生成部125は、特定した停止線の位置及び横断歩道の手前に停止位置ポテンシャルUstopを生成する。
【0042】
コスト関数生成部126は、自車両Vの通常運転行動を決定するためのコスト関数を生成する。まず、コスト関数生成部126は、加速度コスト関数C を生成する。例えば、コスト関数生成部126は、車速ポテンシャルと、障害物ポテンシャルに基づく障害物リスクと、停止位置ポテンシャルに基づく違反リスクとを含み、自車両の加速度をパラメータとする加速度コスト関数C を生成する。加速度コスト関数C は、下記式(2)で示される。
【数1】
【0043】
式(2)の第1項は、現時点tから車速予測時間ΔTvelが経過した時点までの車速ポテンシャルUvalの累積値である。車速予測時間ΔTvelは、軌道コスト予想時間ΔTと異なる。車速予測時間ΔTvelの具体的な値は、2秒であるが、これに限定するものではない。例えば、コスト関数生成部126は、自車両Vの車速が大きいほど車速予測時間ΔTvelを2秒よりも短くする。式(2)の第1項は、累積値を車速予測時間ΔTvelで除することで単位をそろえている。
【0044】
式(2)の第2項の最大障害物リスクR maxは、障害物リスク予測時間ΔT内の複数の時点の各々の障害物ポテンシャルに基づく障害物リスクR のうちの最大値である。障害物リスク予測時間ΔTは、車速予測時間ΔTvel、及び軌道コスト予想時間ΔTと異なる。障害物リスク予測時間ΔTの具体的な値は、例えば1秒以上2秒未満であるが、これに限定するものではない。
【0045】
最大障害物リスクR maxは、下記式(3)で表される。各時刻の障害物リスクR は、下記式(4)で表される。
【数2】
式(3)の距離時間ΔTは、自車両Vと障害物の距離に基づく時間であり、例えば自車両Vと他車両との車間距離が0になるまでの時間である。距離時間ΔTは、自車両Vの周辺の障害物との距離が長いほど長くする。具体的には、距離時間ΔTは、自車両Vの進行方向前方の先行車両と自車両Vの車間距離が長いほど長くする。距離時間ΔTの具体的な値は3秒であるが、これに限定するものではない。
【0046】
障害物ポテンシャルUobj は、各時刻の障害物ポテンシャルである。障害物リスクR は、各時刻における自車両Vの外縁と障害物の接触リスクの大きさを示している。
【0047】
eval は、各時刻の自車両Vの外縁のX座標を示す。Yeval は、各時刻の自車両Vの外縁のY座標を示す。Xeval 及びYeval は、運動学モデル又は動力学モデルを用いて予測される。本実施の形態の自車両運動の予測は例えば、後輪軸の中心点が微小時間Δt内の二つの時刻の各々の自車両Vの向きの間の向きに直線運動すると仮定して計算される。運動学モデルは、後輪軸中心ですべり角による横速度の発生を想定しないモデルである。運動学モデルを用いた場合、計算が簡単になり、計算に必要な時間が短くなる。運動学モデルは特に極低速域で安定かつ高速に精度の良い予測を得ることができる。一方、本実施の形態の動力学モデルは、自車両運動の将来予測中に後輪軸中心での滑り角による横速度の発生を想定するモデルである。動力学モデルを用いることにより、車速が高い領域での各時刻の自車両Vの位置の予測精度が向上する。
【0048】
加速度コスト関数C (式(2)を参照)の第3項の最大違反リスクRvio maxは、違反リスク予測時間ΔT内の複数の時点の各々の停止位置ポテンシャルUstopに基づく交通ルールに対する違反リスクRvio のうちの最大値である。違反リスクRvio は、自車両Vが停止することなく停止位置を超えて進行してしまい、交通ルールに違反してしまうリスクである。違反リスク予測時間ΔTは、車速予測時間ΔTvel、障害物リスク予測時間ΔT、及び軌道コスト予想時間ΔTと異なる。違反リスク予測時間ΔTは、交通ルールに違反してしまうリスクを予測するための時間である。違反リスク予測時間ΔTの具体的な値は、例えば3秒よりも大きいが、これに限定するものではない。最大違反リスクRvio maxは、下記式(5)で表される。各時刻の違反リスクRvio は、下記式(6)で表される。
【数3】
【0049】
front は、自車両Vの先端のX座標を示す。Yfront は、自車両Vの先端のY座標を示す。違反リスクRvio は、各時刻において自車両Vが停止位置を超えてしまうリスクの大きさを示している。
【0050】
加速度コスト関数C (式(2)を参照)の第4項は、加速度αref周辺で正則化するための正規化項である。加速度αrefは、例えば0であるが、直前に決定された加速度であってもよい。コスト関数生成部126は、加速度αrefを直前の加速度にした加速度コスト関数を生成することにより、加速度を急激に変化させないようにする加速度コスト関数C を生成できる。
【0051】
コスト関数生成部126は、自車両Vが走行軌道に沿って走行するように定めた初期ヨーレートγrefを入力した加速度コスト関数を生成する。例えば、コスト関数生成部126は、曲線の道路の走行車線の幅方向の中心位置を走行するように設定された走行軌道に沿って走行するように定めた初期ヨーレートγrefを入力した加速度コスト関数を生成する。また、コスト関数生成部126は、自車両Vが走行する道路の曲率又は走行軌道の曲率に基づいて初期ヨーレートγrefを定めてもよい。
【0052】
運転行動決定部127は、初期ヨーレートγrefが入力された加速度コスト関数C を最小化する加速度α*を以下の式(7)に基づいて求める。
【数4】
【0053】
コスト関数生成部126は、運転行動決定部127が加速度コスト関数C を最小化する加速度α*を求めた後、ヨーレートコスト関数を生成する。具体的には、コスト関数生成部126は、車線予測時間ΔTlane内の車線ポテンシャルと、最大障害物リスクR maxと、最大違反リスクRvio maxとを含み、自車両のヨーレートをパラメータとするヨーレートコスト関数を生成する。車線予測時間ΔTlaneは、車速予測時間ΔTvel、及び障害物リスク予測時間ΔTと異なる。
【0054】
コスト関数生成部126は、目標位置と自車両の距離に応じて車線予測時間ΔTlaneを設定する。例えば、コスト関数生成部126は、目標位置と自車両の距離が大きいほど大きくした車線予測時間ΔTlaneを設定する。具体的には、コスト関数生成部126は、最小車線予測時間以上、最大車線予測時間以下の範囲内で、目標位置と自車両の距離が大きいほど大きくした車線予測時間ΔTlaneを設定する。最小車線予測時間は、例えば2秒であり、最大車線予測時間は例えば3秒であるが、これに限定するものではない。
【0055】
コスト関数生成部126は、加速度コスト関数C を最小化する加速度α*を入力したヨーレートコスト関数C を生成する。ヨーレートコスト関数は、下記式(8)で示される。
【数5】
【0056】
式(8)の第1項は、現時点tから車線予測時間ΔTlaneが経過した時点までの車線ポテンシャルUlaneの累積値である。式(8)の第1項は、累積値を車線予測時間ΔTlaneで除することで単位をそろえている。
【0057】
式(8)の第4項は、ヨーレートγref周辺で正則化するための正規化項である。ヨーレートγrefは、0であるが、直前に決定されたヨーレートであってもよい。コスト関数生成部126は、ヨーレートγrefを直前のヨーレートにしたヨーレートコスト関数を生成することにより、ヨーレートを急激に変化させないようにするヨーレートコスト関数を生成できる。また、ヨーレートγrefは、目標とする走行経路の曲率と自車両Vの積で算出されるヨーレートであってもよい。この場合、コスト関数生成部126は、曲率に車速を乗じてヨーレートγrefを算出し、算出したヨーレートγrefを入力したヨーレートコスト関数を生成する。これにより、コスト関数生成部126は、走行経路に沿うヨーレートに近づくようなヨーレートコスト関数を生成できる。
【0058】
運転行動決定部127は、加速度コスト関数C を最小化する加速度α*が入力されたヨーレートコスト関数C を最小化するヨーレートγ*を以下の式(9)に基づいて求める。
【数6】
運転行動決定部127は、加速度コスト関数C を最小化する加速度α*及びヨーレートコスト関数C を最小化するヨーレートγ*を、自車両Vの運転行動として決定する。
【0059】
このように、加速度コスト関数及びヨーレートコスト関数、車速ポテンシャルUvalの累積値、車線ポテンシャルUlaneの累積値、最大障害物リスクR max及び最大違反リスクRvio maxの各々に対して、それぞれ異なる予測時間が用いられている。そのため、運転行動決定部127は、車速ポテンシャルUvalの累積値、車線ポテンシャルUlaneの累積値、最大障害物リスクR max及び最大違反リスクRvio maxの各々を算出する際に、それぞれ最適な予測時間を用いた値を算出できる。つまり、運転行動決定部127は、車速ポテンシャルUvalの累積値を算出するのに最適な車速予測時間ΔTvelを用いることができ、車線ポテンシャルUlaneの累積値を算出するのに最適な車線予測時間ΔTlaneを用いることができる。
【0060】
また、運転行動決定部127は、最大障害物リスクR max及び最大違反リスクRvio maxの各々を予測するのに最適な予測時間を用いて評価できる。そのため、自動運転装置1は、いずれかのリスクを過剰に評価したり過少に評価してしまったりすることを抑制して、最大障害物リスクR max及び最大違反リスクRvio maxを適切に評価できる。
【0061】
そして、運転行動決定部127は、加速度を決定した後、ヨーレートを決定することにより、アクセルやブレーキを操作して加速度を決定した後にハンドルを操作してヨーレートを決定するという運転者の運転行動に即した運転行動を決定できる。また、運転行動決定部127は、加速度とヨーレートを個別に最適化するので、運転に必須の車速維持と車線維持をともに最適化できる。さらに、自動運転装置1は、加速度とヨーレートを個別に決定することにより、加速度とヨーレートを同時に求める場合よりも計算時間を低減できるので、運転行動の決定に必要な時間を短くできる。
【0062】
コスト関数生成部126は、運転行動決定部127が加速度及びヨーレートを決定した後、最大障害物リスクR maxがリスク閾値以上であれば、自車両Vの運転行動を決定するための障害物回避コスト関数を生成する。例えば、コスト関数生成部126は、加速度コスト関数を最小化する加速度及びヨーレートコスト関数を最小化するヨーレートの少なくともいずれかで自車両が走行するときの最大障害物リスクR maxがリスク閾値以上であれば、障害物回避コスト関数を生成する。具体的には、コスト関数生成部126は、短期最大リスクを含み加速度及びヨーレートをパラメータとする障害物回避コスト関数を生成する。
【0063】
短期最大リスクは、決定した加速度及びヨーレートで自車両が走行するときの短期最大リスク予測時間内の障害物ポテンシャルに基づく自車両の周辺に存在する障害物と自車両が接触するリスクを示す。短期最大リスクR maxは、障害物リスク予測時間ΔTよりも短い短期最大リスク予測時間ΔT内の複数の時点の各々の短期障害物リスクR のうちの最大値である。短期最大リスク予測時間ΔTは、軌道コスト予想時間ΔT、車線予測時間ΔTlane、車速予測時間ΔTvel、及び障害物リスク予測時間ΔTと異なる。短期最大リスク予測時間ΔTは、例えば1秒未満であるが、これに限定するものではない。短期最大リスクR maxは、下記式(10)で表される。短期障害物リスクR は、下記式(11)で表される。
【数7】
コスト関数生成部126は、最大障害物リスクR maxがリスク閾値以上であれば、当該短期最大リスクR maxを含み加速度及びヨーレートをパラメータとする障害物回避コスト関数Cを生成する。障害物回避コスト関数Cは、下記式(12)で表される。
(α,γ)=R max+Wαα+Wγγ…(12)
【0064】
式(12)の第2項及び第3項は、0周りで正則化するための正規化項である。上記の式(12)のとおり、障害物回避コスト関数Cは、短期最大リスクR maxのみを含み、車速ポテンシャルUval及び車線ポテンシャルUlaneの累積値と、停止位置ポテンシャルUstopに基づく最大違反リスクRvio maxとを含まない。
【0065】
運転行動決定部127は、障害物回避コスト関数Cが生成された場合には、障害物回避コスト関数Cが最小になる加速度α及びヨーレートγを同時に求めて、自車両Vの運転行動を決定する。具体的には、運転行動決定部127は、下記式(13)に基づいて運転行動を決定する。
【数8】
【0066】
このように、運転行動決定部127は、最大障害物リスクR maxがリスク閾値以上であり、障害物を直ちに回避すべき状況で、短期最大リスクR maxのみを含み、通常運転行動を予測する時間(例えば障害物リスク予測時間ΔT)よりも短い短期最大リスク予測時間ΔTでの障害物回避コスト関数Cを最小化する。そのため、運転行動決定部127は、通常運転行動を決定するためのコスト関数よりも含まれる項の数が少ないコスト関数を、通常運転行動を予測する時間よりも短い時間内で最小化する値を求めることができる。その結果、障害物を緊急回避する運転行動を決定するのに必要な時間が、通常運転行動を決定するのに必要な時間よりも短くなるので、自車両Vが障害物を回避可能な時間内で自車両Vの運転行動を決定できる。
【0067】
また、運転行動決定部127は、加速度及びヨーレートを同時に決定することにより、障害物を回避できる確率を高められる運転行動を決定できる。具体的には、運転行動決定部127は、減速だけでなく、操舵による回避や、加速による回避も運転行動として決定することができるようになる。
【0068】
なお、コスト関数生成部126は、最大障害物リスクR maxがリスク閾値未満であれば、障害物回避コスト関数Cを生成しない。運転行動決定部127は、最大障害物リスクR maxがリスク閾値未満であれば、決定した加速度及びヨーレートを通常運転行動に決定する。このように、運転行動決定部127は、最大障害物リスクR maxがリスク閾値以上であれば障害物との接触を回避するための最適な運転行動を決定でき、最大障害物リスクR maxがリスク閾値未満であれば車速維持と車線維持をともに最適化できる。その結果、運転行動決定部127は、安全性を向上するとともに、運転に必須の操作の最適化を同時に達成できるようになる。
【0069】
[運転行動決定処理]
図3は、運転行動決定する処理の一例を示すフローチャートである。図3のフローチャートは、自車両Vが走行している間及び一時停止している間、繰り返し実行される。
【0070】
コスト関数生成部126は、加速度をパラメータとする加速度コスト関数を生成する(ステップS1)。具体的には、コスト関数生成部126は、自車両Vが走行軌道に沿って走行するように定めた初期ヨーレートγrefを入力した加速度コスト関数C を生成する。運転行動決定部127は、生成された加速度コスト関数C を最小化する加速度α*を求める(ステップS2)。
【0071】
コスト関数生成部126は、ヨーレートをパラメータとするヨーレートコスト関数C を生成する(ステップS3)。具体的には、コスト関数生成部126は、加速度コスト関数C を最小化する加速度α*を入力したヨーレートコスト関数C を生成する。運転行動決定部127は、生成されたヨーレートコスト関数C を最小化するヨーレートγ*を求める(ステップS4)。
【0072】
コスト関数生成部126は、最大障害物リスクR maxがリスク閾値未満か否かを判定する(ステップS5)。コスト関数生成部126は、最大障害物リスクR maxがリスク閾値未満であれば(ステップS5でYes)、緊急回避コスト関数Cを生成せず、運転行動決定部127は、加速度コスト関数C を最小化する加速度α*と、ヨーレートコスト関数C を最小化するヨーレートγ*とを自車両Vの運転行動に決定する(ステップS6)。
【0073】
コスト関数生成部126は、最大障害物リスクR maxがリスク閾値以上であれば(ステップS5でNo)、加速度及びヨーレートをパラメータとする障害物回避コスト関数Cを生成する(ステップS7)。具体的には、コスト関数生成部126は、短期最大リスクR maxのみを含み加速度及びヨーレートをパラメータとする障害物回避コスト関数Cを生成する。障害物回避コスト関数Cが生成されたら、運転行動決定部127は、障害物回避コスト関数Cを最小化する加速度及びヨーレートを同時に求める(ステップS8)。そして、運転行動決定部127は、同時に求めた加速度及びヨーレートを自車両Vの運転行動に決定する。
【0074】
[自動運転装置1の効果]
以上説明したとおり、自動運転装置1は、車速ポテンシャル、障害物ポテンシャル及び停止位置ポテンシャルの各々をそれぞれ異なる時間で予測する、加速度をパラメータとする加速度コスト関数と、車線ポテンシャル、障害物ポテンシャル及び停止位置ポテンシャルの各々をそれぞれ異なる時間で予測する、ヨーレートをパラメータとするヨーレートコスト関数とを生成する。そして、自動運転装置1は、加速度コスト関数を最小化する加速度を決定した後、ヨーレートコスト関数を最小化するヨーレートを決定する。
【0075】
このようにすることで、自動運転装置1は、車速ポテンシャルの累積値、車線ポテンシャルの累積値、障害物ポテンシャルに基づく最大障害物リスク及び停止位置ポテンシャルに基づく最大違反リスクの各々を求めるのに、それぞれ異なる予測時間を用いることができる。そのため、自動運転装置1は、車速ポテンシャルの累積値、車線ポテンシャルの累積値、最大障害物リスク及び最大違反リスクの各々を予測する際に、それぞれに最適な予測時間を用いることができる。つまり、自動運転装置1は、車速ポテンシャルの累積値を算出するのに最適な車速予測時間を用いて車速ポテンシャルの累積値を算出でき、車線ポテンシャルの累積値を算出するのに最適な車線予測時間を用いて車線ポテンシャルの累積値を算出できる。
【0076】
また、最大障害物リスク及び最大違反リスクの各々を同じ予測時間で予測してしまうと、いずれかのリスクを過剰に評価したり過少に評価してしまったりする。自動運転装置1は、最大障害物リスク及び最大違反リスクの各々を、それぞれ最適な予測時間を用いて予測できる。そのため、自動運転装置1は、リスクを過剰に評価したり過少に評価してしまったりすることを抑制して、最大障害物リスク及び最大違反リスクを適切に評価できる。
【0077】
さらに、自動運転装置1は、加速度を決定した後、ヨーレートを決定するので、アクセルやブレーキを操作して加速度を決定した後にハンドルを操作してヨーレートを決定するという運転者の運転行動に即した運転行動を決定できる。その結果、旋回中に加速してしまう等、安全性が低下するおそれのある運転行動を決定してしまうことを抑制できるので、自動運転車両の安全性を向上する運転行動を決定できる。また、自動運転装置1は、加速度とヨーレートを個別に決定することにより、加速度とヨーレートを同時に求める場合よりも計算時間を低減できるので、運転行動の決定に必要な時間を短くできる。
【0078】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0079】
1 自動運転装置
11 記憶部
12 制御部
121 障害物検出部
122 障害物ポテンシャル生成部
123 基本走行モード決定部
124 基本走行ポテンシャル生成部
125 交通ポテンシャル生成部
125 交通ポテンシャル生成部
126 コスト関数生成部
127 運転行動決定部
2 センサ群
3 ECU
【要約】      (修正有)
【課題】自動運転車両の安全性を向上する運転行動を決定する。
【解決手段】自動運転装置1は、車速及び車線ポテンシャルを生成する基本走行ポテンシャル生成部124、障害物ポテンシャルを生成する障害物ポテンシャル生成部122、停止位置ポテンシャルを生成する交通ポテンシャル生成部125、車速予測時間内の車速ポテンシャル、障害物リスク予測時間内の障害物ポテンシャルに基づく障害物リスク及び違反リスク予測時間内の停止位置ポテンシャルに基づく違反リスクを含み自車両Vの加速度をパラメータとする加速度コスト関数、及び車線予測時間内の車線ポテンシャル、障害物リスク及び違反リスクを含み自車両のヨーレートをパラメータとするヨーレートコスト関数を生成するコスト関数生成部126及び加速度コスト関数を最小化する加速度を求めた後、ヨーレートコスト関数を最小化するヨーレートを求める運転行動決定部127を備える。
【選択図】図2
図1
図2
図3