(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】放音装置及び電子楽器と放音装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H04R 1/02 20060101AFI20231212BHJP
G10H 1/32 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
H04R1/02 102Z
G10H1/32 Z
H04R1/02 104Z
(21)【出願番号】P 2022172172
(22)【出願日】2022-10-27
【審査請求日】2022-10-31
(31)【優先権主張番号】P 2021207671
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001443
【氏名又は名称】カシオ計算機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002022
【氏名又は名称】弁理士法人コスモ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤井 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】島田 和夫
(72)【発明者】
【氏名】加藤 先勝
(72)【発明者】
【氏名】守屋 隆紘
【審査官】堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-106326(JP,A)
【文献】登録実用新案第3017242(JP,U)
【文献】特開平04-167899(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0213692(US,A1)
【文献】特開2019-068146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/02
G10H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放音部と、
少なくとも前記放音部の放音口に重なる形で設けられ、前記放音口と重なる部位に複数の開口部からなる開口領域を有する第1部材と、
前記第1部材の前記放音部側とは反対側に重なる形で、前記第1部材の前記開口領域を囲むように設けられた第2部材と、
前記第1部材及び前記第2部材の前記放音部側とは反対側を被覆するとともに前記第2部材に接着された被覆部材と、
を備え、
前記第2部材と前記被覆部材の間は、前記第2部材における前記第1部材の前記開口領域の周りを除く領域が第1の接着剤により、前記第2部材における前記第1部材の前記開口領域の周りの領域が前記第1の接着剤よりも接着強度が高い第2の接着剤により、接着されている、
ことを特徴とする放音装置。
【請求項2】
前記被覆部材は、少なくとも前記第2の接着剤により接着された部位に囲まれる領域に張力が掛けられた状態で前記第2部材に接着されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の放音装置。
【請求項3】
前記被覆部材のうち前記第1部材の前記開口領域と重なる部位と前記第1部材との間が離間している、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の放音装置。
【請求項4】
前記第1部材と前記被覆部材との間に配置され、前記第1部材に接着された緩衝部材を備える、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の放音装置。
【請求項5】
前記緩衝部材は、前記第1部材の前記開口領域における非開口部に沿った形で前記第1部材に接着されている、
ことを特徴とする請求項4に記載の放音装置。
【請求項6】
前記第1部材の前記開口領域は梁により設けられており、
前記緩衝部材は、前記第1部材の前記梁に沿った形で前記第1部材に接着されている、
ことを特徴とする請求項5に記載の放音装置。
【請求項7】
前記緩衝部材は、前記放音部の放音中心において前記非開口部に沿って設けられた梁状部を有する、
ことを特徴とする請求項5に記載の放音装置。
【請求項8】
前記緩衝部材と前記被覆部材との間が近接している、
ことを特徴とする請求項4に記載の放音装置。
【請求項9】
請求項1に記載の放音装置を備える電子楽器。
【請求項10】
複数の開口部からなる開口領域を有する第1部材を、前記開口領域を放音部の放音口に重ねる形で配置する第1配置工程と、
第2部材を、前記第1部材の前記放音部側とは反対側に重ねる形で、前記第1部材の前記開口領域を囲むように配置する第2配置工程と、
被覆部材を、前記第1部材及び前記第2部材の前記放音部側とは反対側を被覆するように前記第2部材に接着する接着工程と、
を備え、
前記接着工程は、前記第2部材と前記被覆部材の間のうち、前記第2部材における前記第1部材の前記開口領域の周りを除く領域を第1の接着剤で接着し、前記第2部材における前記第1部材の前記開口領域の周りの領域を前記第1の接着剤よりも接着強度が高い第2の接着剤で接着する、
ことを特徴とする放音装置の製造方法。
【請求項11】
前記接着工程は、前記被覆部材のうち少なくとも前記第2の接着剤により接着する部位に囲まれる領域に張力を掛けた状態で、前記被覆部材を前記第2部材に接着する、
ことを特徴とする請求項10に記載の放音装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放音装置及び電子楽器と放音装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子楽器等の音響デバイスにおけるスピーカ装置等の放音装置の放音側に設けられて、その放音口を被覆するサランネット等の被覆部材が提案されている。例えば特許文献1には、放音体に音響透過可能な被覆部材が固定された放音構造体が開示されている。この放音構造体では、放音体に固定部材を押込むための溝部が設けられており、放音体を被覆部材により被覆した状態で、被覆部材の一部を溝部と固定部材との間に挟み込んで固定部材を溝部に押し込むことにより、放音体に対して被覆部材を強固に固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電子楽器等の放音装置の放音側を被覆部材により被覆する構成では、放音口と被覆部材との間に発生する共振が問題とされる。このような共振の発生は、放音口と被覆部材との間が近接又は当接した状態となっていることや、放音口と重なる位置に設けられた被覆部材に張力が掛かっておらず、振動し易い状態となっていることに起因する。特許文献1の放音構造体では、被覆部材が強固に固定されることにより被覆部材に張力が掛かっているものの、放音口と被覆部材の間に十分な間隔が確保されておらず、共振が発生する虞がある。
【0005】
本発明は、電子楽器等の放音部の放音口と被覆部材との間の間隔を確保しつつ被覆部材に張力を掛けることにより、共振の発生を防止ないし抑制することができる放音装置及び放音装置の製造方法と、共振の発生を防止ないし抑制することができる放音装置を備えた電子楽器とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様の放音装置は、放音部と、少なくとも前記放音部の放音口に重なる形で設けられ、前記放音口と重なる部位に複数の開口部からなる開口領域を有する第1部材と、前記第1部材の前記放音部側とは反対側に重なる形で、前記第1部材の前記開口領域を囲むように設けられた第2部材と、前記第1部材及び前記第2部材の前記放音部側とは反対側を被覆するとともに前記第2部材に接着された被覆部材と、を備え、前記第2部材と前記被覆部材の間は、前記第2部材における前記第1部材の前記開口領域の周りを除く領域が第1の接着剤により、前記第2部材における前記第1部材の前記開口領域の周りの領域が前記第1の接着剤よりも接着強度が高い第2の接着剤により、接着されている。
【0007】
そして、本発明の一態様の電子楽器は、上述の放音装置を備えるものである。
【0008】
また、本発明の一態様の放音装置の製造方法は、複数の開口部からなる開口領域を有する第1部材を、前記開口領域を放音部の放音口に重ねる形で配置する第1配置工程と、第2部材を、前記第1部材の前記放音部側とは反対側に重ねる形で、前記第1部材の前記開口領域を囲むように配置する第2配置工程と、被覆部材を、前記第1部材及び前記第2部材の前記放音部側とは反対側を被覆するように前記第2部材に接着する接着工程と、を備え、前記接着工程は、前記第2部材と前記被覆部材の間のうち、前記第2部材における前記第1部材の前記開口領域の周りを除く領域を第1の接着剤で接着し、前記第2部材における前記第1部材の前記開口領域の周りの領域を前記第1の接着剤よりも接着強度が高い第2の接着剤で接着する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、放音部の放音口と被覆部材との間の間隔を確保しつつ被覆部材に張力を掛けることにより、共振の発生を防止ないし抑制することができる放音装置及び放音装置の製造方法と、共振の発生を防止ないし抑制することができる放音装置を備えた電子楽器とを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る電子楽器の外観を示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係るスピーカ装置の要部を示す全体斜視図である。
【
図3】第1実施形態におけるスピーカ近傍を拡大した正面図である。
【
図4】第1実施形態に係るスピーカ装置においてサランネットと第2カバーとクッション材を取り外した状態の第1カバーを正面側から視た斜視図である。
【
図5】
図3におけるIV-IV断面の断面図であってスピーカの横断面図である。
【
図6】第1実施形態において各支持部材とサランネットの間の接着態様を示す図であって、(a)は正面図であり、(b)は背面図である。
【
図7】第1実施形態におけるスピーカを拡大した正面図であって、開口領域におけるクッション部材の配置態様を示す正面図である。
【
図8】第2実施形態におけるスピーカを拡大した正面図であって、開口領域におけるクッション部材の配置態様を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図に基づいて説明する。
図1に示す音響デバイスである電子鍵盤楽器100(電子楽器)は、61鍵の鍵盤130と、楽器ケース119とを備える。電子鍵盤楽器100の上面111には、調整ノブ113を備える操作部131が設けられている。また、楽器ケース119の背面は、
図2に示すように、スピーカ10を複数備えた放音装置として形成されている。
【0012】
そして、この放音装置の実施形態につき、以下、
図2~
図7を参照して本発明に係る放音装置の第1実施形態について説明する。
図2は、本実施形態に係るスピーカ装置(放音装置)1の要部を示す全体斜視図である。
図2に示すように、スピーカ装置1は、放音側を略正面側(
図2に示す手前側)に向けて配置された4つのスピーカ(放音部)10を備えている。以下では、
図2及び
図3における上側をスピーカ装置1の上側、反対側を下側とし、
図2及び
図3における右側をスピーカ装置1の右側、反対側を左側とし、
図2及び
図3における手前側(各スピーカ10の放音側)を前側(正面側)、反対側を後側(背面側)として説明する。
【0013】
スピーカ装置1は、その正面側に第1カバー(第1部材)50と、第1カバー50の前方に配置された第2カバー(第2部材)60と、4つのスピーカ10、第1カバー50、及び第2カバー60の前方側を被覆するサランネット70とを備えている(
図2及び
図5参照)。スピーカ装置1は、その外観が横長直方体状をなしており、正面側を除く部分は電子鍵盤楽器100(電子楽器)の楽器ケース119による筐体として構成される。筐体の内部には、スピーカ装置1を制御するための図示しない制御回路基板等が配置されている。なお、
図2では、スピーカ装置1の外観を構成する筐体の一部(上側パネル20)のみを図示している。スピーカ装置1の筐体の他の部分は、スピーカ装置1の後側、左右両側面側、及び下側を構成する一般的なパネル部材等の楽器ケース119として構成される。
【0014】
スピーカ装置1の上側には、筐体の一部である横長矩形板状の上側パネル20が設けられている。4つのスピーカ10は、その放音口10aが正面側から視てそれぞれ横長の楕円形状をなしており、スピーカ装置1の左右両側に2つずつ並列配置されている。スピーカ装置1の正面側において、左側に配置された2つのスピーカの右側上部には、これらの2つのスピーカ10の電源をオンオフするための電源スイッチ24が設けられており、右側に配置された2つのスピーカ10の左側上部には、これらの2つのスピーカ10の電源をオンオフするための電源スイッチ24が設けられている。また、スピーカ装置1の正面側における略中央部下側には、各種端子を挿し込むための端子パネル30が設けられている。
【0015】
スピーカ装置1に設けられた4つのスピーカ10は同様の構成となっている。
図5に示すように、各スピーカ10は、一般的なコーン型のスピーカであり、放音口10aを前方側に向けた姿勢でスピーカ装置1の前側部分に設けられている。各スピーカ10は、後側に配置されるマグネット部12、マグネット部12の内側中央部に配置されるコイル部14、中央部前側に配置されるキャップ部16、前方側に向かって拡径する略円錐台形状の振動板18、及び振動板18の外側を支持するフレーム部19等を有している。振動板18の外周縁部はエッジ部18aとされる。各スピーカ10は、そのキャップ部16の上部に放音中心Cが位置している。
【0016】
図4に示すように、第1カバー50は、合成樹脂製とされた横長矩形板状の部材であり、スピーカ装置1の右側部分と左側部分において、隣り合う2つのスピーカ10の前方側を覆う形で配置されている。即ち、スピーカ装置1は2つの第1カバー50を備えている。第1カバー50は、2つのスピーカ10の放音口10aにそれぞれ重なる形で設けられている2つの網目状部52と、各網目状部52の周りをそれぞれ枠状に囲む形で設けられている枠状部54と、枠状部54の外側に設けられている横長板状の板状部56と、を有している。
【0017】
板状部56は、その両板面を前後方向に向けた姿勢で、上側パネル20やスピーカ装置1の内部の制御回路基板等にビス止め等により取り付けられる。枠状部54は、板状部56の前面から前方側に段差状にせり出しており、各網目状部52の周りを横長の略正八角形状をなして枠状に囲むように設けられている。
【0018】
各網目状部52は、枠状部54の全面から前方側にわずかにせり出して設けられており、その外縁部52aが各スピーカ10の放音口10aと同様の横長の略楕円形状をなしている。第1カバー50は、網目状部52の外縁部52aがスピーカ10の振動板18におけるエッジ部18aを囲むように配置されている。各網目状部52は、外縁部52aから略正六角形状の網目状をなすいわゆるハニカム構造に張り巡らされた第1の梁52bと、外縁部52aから縦横方向に張り巡らされた第2の梁52cとにより構成される複数の開口部からなる開口領域53となっている。
図3等に示すように、開口領域53は、スピーカ10の放音中心Cと重なる位置に設けられた開口部53aを含んでいる。
【0019】
ここで、
図3及び
図7に示すように、開口領域53の略中央部における前面(第1カバー50と後述するサランネット70との間)には、第1の梁52b及び第2の梁52cに沿った形状の縦長の略長方形状の薄いクッション部材(緩衝部材)80が配置されている。即ちクッション部材80は、開口領域53における非開口部に沿った形で配置され、さらに、その中央部にスピーカ10の放音中心Cの非開口部に沿って略くの字状に屈曲する屈曲梁状部(梁状部)80aを有している。従って、クッション部材80はスピーカ10の放音中心Cと重なる位置に配置されている。クッション部材80は、発泡ウレタン、エラストマー、シリコン等により形成されており、その厚みは例えば1mmとされる。クッション部材80は、第1の梁52b及び第2の梁52cに対して接着剤等により貼り付けられている。よって、クッション部材80は、上記の屈曲梁状部80aを含むことにより平面視における面内強度を高めることができ、クッション部材80を第1カバー50に貼り付ける際の作業性を向上させることができる。
【0020】
図2及び
図7に示すように、第2カバー60は、合成樹脂製とされ、その前面が平坦面とされた横長矩形板状の部材であり、スピーカ装置1の前側のうち各電源スイッチ24と端子パネル30と各スピーカ10の放音口10aを除く部位を覆う形で配置されている。そして、第2カバー60は、各スピーカ10の放音口10aと重なる位置にそれぞれ放音口を臨む放音口開口部60aを有している。換言すれば、第2カバー60は、第1カバー50のスピーカ10側とは反対側に重なる形で、第1カバー50における開口領域53をそれぞれ囲むように設けられている。このため、各スピーカ10から放音される音響が第2カバー60によって遮られないようになっている。
【0021】
図5に示すように、具体的には、第2カバー60は、第1カバー50における板状部56及び枠状部54の前面に当接するとともに、その放音口開口部60aが第1カバー50における網目状部52の外縁部52aに近接する形で配置されている。第2カバー60が第1カバーの前面側に配置された状態では、第2カバー60の前面は、第1カバー50の網目状部52よりも前方側(
図5における上側)に位置している。
【0022】
サランネット70は、例えばポリエステル等の化学繊維製とされ、各スピーカ10から放音される音響の透過損失が少ない部材(音響透過に優れた部材)であり、全体として第2カバー60より一回り大きな横長矩形状をなしている。サランネット70は、
図5に示すように、平坦面とされた第2カバー60の前面、第2カバー60の側面、及び第2カバー60の後面の一部にそれぞれ接着された形で設けられており、これにより、第2カバー60の前面及び側面、第1カバー50の網目状部52(スピーカ10の放音口10a)を被覆している。サランネット70と第1カバー50の網目状部52の間(サランネット70と第1カバー50が重なる領域)は離間しており、その間隔D1は例えば2mmとされる。また、サランネット70とクッション部材80の間は近接しており、その間隔は例えば1mmとされる。以上のようにサランネット70は、第1カバー50と第2カバー60の2つの部材によりスピーカ10の放音口10a側に支持されている。
【0023】
次に、
図6を参照して、サランネット70の第2カバー60に対する接着態様について詳しく説明する。第2カバー60の前面のうち放音口開口部60a(第1カバー50の開口領域53と重なる部分)の周りを除く領域A1とサランネット70との間は、第1の接着剤B1により接着されている。第1の接着剤B1は、例えば粘性が低いスチレンブタジエンゴム(SBR)系溶剤形の接着剤である。一方、第2カバー60の前面のうち放音口開口部60a(第1カバー50の開口領域53と重なる部分)の周りの領域A2とサランネット70との間は、第1の接着剤B1より接着強度が高い第2の接着剤B2により接着されている。第2の接着剤B2は、例えば粘性が高いクロロプレンゴム系溶剤形の接着剤である。なお、ここでいう接着強度が高いとは、接着後に固化した際に剥離し難いことをいう。また、第1の接着剤B1及び第2の接着剤B2は、その状態において接着剤が固化する前の状態及び接着後の固化した状態を含む。
【0024】
このように第2カバー60の前面のうち放音口開口部60aの周りの領域A2とサランネット70との間が接着強度に優れた第2の接着剤B2により接着されていることで、サランネット70のうち放音口開口部60aと重なる部分、即ち第2の接着剤B2により接着された部位に囲まれる領域A3は、張力が掛けられた状態となっている。ここでいうサランネット70に張力が掛けられた状態とは、サランネット70上に皺や弛みがほとんど見られず、押圧された際の弾発力(弾性復帰力)が大きな状態をいう。
【0025】
次に、本実施形態に係るスピーカ装置1の製造方法について説明する。なお、上側パネル20の組付け工程やスピーカ装置1内に制御回路基板等を組み付ける工程は、公知のスピーカ装置の製造方法を適用できるため、説明を省略する。本製造方法では、まず、第1カバー50における開口領域53をスピーカ10の放音口10aに重ねる形で、第1カバー50を各スピーカ10の前側に配置して組み付ける(第1配置工程)。次に、第1カバー50の開口領域53を囲むように第1カバー50の前側に第2カバー60を重ねる形で配置する(第2配置工程)。即ち、第2カバー60の放音口開口部60aを第1カバー50の開口領域53に重ねる形で第2カバー60を配置して組み付ける。
【0026】
次に、領域A1及び領域A2(
図6参照)に、上記の第1の接着剤B1をスプレー等により塗布する。次に、第2カバー60の前面のうち放音口開口部60aの周りの領域A2(
図6参照)に、第1の接着剤B1より接着強度が高い上記の第2の接着剤B2を刷毛等により塗布する。次に、サランネット70を第1の接着剤B1が塗布された領域A1及び第1の接着剤B1、第2の接着剤B2が塗布された領域A2に対して接着し、第1カバー50及び第2カバー60の前側をサランネット70により被覆する(接着工程)。
【0027】
このとき、サランネット70のうち放音口開口部60aと重なる部分、即ち第2の接着剤B2により接着する部位に囲まれる領域A3(
図6参照)に張力を掛けた状態で、サランネット70を第2カバー60に接着する。サランネット70への張力の付与は、例えば第2の接着剤B2が塗布された領域A2の周りからサランネット70を均等な力を掛けて引っ張ることにより行うことができる。
ここで、接着強度が高い第2の接着剤B2だけを使用した場合、サランネット70を接着する工程の作業性が悪くなる。サランネット70の接着工程は、全面に張力を掛けて一気に接着する工程にはなっておらず、手動で部分的に張力を掛けて少しずつ接着していくのが現状である。接着したい箇所以外のサランネット70と接着剤が触れた場合、接着強度が高い第2の接着剤B2だと望まない状態で強く接着してしまう。一方、接着強度が低い第1の接着剤B1だけを使用した場合、サランネット70は共振の発生を防止するために大きな張力が必要であり、接着強度が低い第1の接着剤B1だと、大きな張力が確保できない。そこで、2つの接着材を使うことにより、サランネット70を接着する工程の作業性を確保しつつ、サランネット70に大きな張力を掛けることができる。
【0028】
以上説明したように本実施形態に係るスピーカ装置1によれば、スピーカ10の放音口10aに開口領域53が重なる形で第1カバー50が設けられ、第1カバー50のスピーカ10側とは反対側(前側)において、放音口開口部60aが開口領域53に重なる形で第2カバー60が設けられ、第1カバー50と第2カバー60のスピーカ10側とは反対側(前側)を被覆するとともに第2カバー60に接着された形でサランネット70が設けられている。これにより、第1カバー50と第2カバー60の2つの部材によってスピーカ10の放音口10a側にサランネット70が支持されている。このような構成とされていることで、スピーカ10の放音口10aと重なる位置では、スピーカ10の放音口10a及び第1カバー50の開口領域53と、サランネット70との間に十分な間隔が確保されている。
【0029】
さらに、本実施形態に係るスピーカ装置1では、領域A1において第2カバー60とサランネット70との間が第1の接着剤B1により接着されており、第2カバー60の前面のうち放音口開口部60aの周りの領域A2において第2カバー60とサランネット70との間が第1の接着剤B1より接着強度が高い第2の接着剤B2により接着されている。このような構成とされていることで、第2の接着剤B2により接着された部位に囲まれる領域A3では、第1の接着剤B1により接着された領域A1に比して大きな張力が掛けられた状態となっている。以上のように本実施形態に係るスピーカ装置1では、スピーカ10の放音口10aとサランネット70との間の間隔を確保しつつサランネット70に大きな張力を掛けることができ、共振の発生を防止ないし抑制することができる。
【0030】
また、スピーカ装置1では、サランネット70は、少なくとも第2の接着剤B2により接着された部位に囲まれる領域A3に張力が掛けられた状態で第2カバー60に接着されている。これにより、領域A3においてサランネット70に対してより大きな張力を掛けることができ、スピーカ装置1において共振の発生をより効果的に防止ないし抑制することができる。
【0031】
また、スピーカ装置1では、サランネット70のうち第1カバー50の開口領域53と重なる領域との間が離間している。これにより、第1カバー50の開口領域53と、サランネット70との間に十分な間隔を確保するための具体的な構成を提供することができる。
【0032】
また、スピーカ装置1では、第1部材の開口領域53は、スピーカ10の放音中心Cと重なる位置に設けられた開口部53aを含む。これにより、最も音響が大きな放音中心Cから放音される音響がこの開口部53aを透過するため、スピーカ10から放音される音響が第1カバー50により損なわれることを防止することができる。
【0033】
また、スピーカ装置1では、第1カバー50とサランネット70との間に配置され、第1カバー50に接着されたクッション部材80を備えている。このため、スピーカ10から放音される音響による第1カバー50の振動をクッション部材80により抑制することができ、共振の発生を効果的に防止ないし抑制することができる。
【0034】
また、スピーカ装置1では、クッション部材80は、第1カバー50の開口領域53における非開口部に沿った形で第1カバー50に接着されている。このため、スピーカ10から放音される音響による第1カバー50の振動をクッション部材80により一層抑制することができ、共振の発生をより効果的に防止ないし抑制することができる。
【0035】
また、スピーカ装置1では、第1カバー50の開口領域53は第1の梁52b及び第2の梁52cにより設けられており、クッション部材80は、第1カバー50の第1の梁52b及び第2の梁52cに沿った形で第1カバー50に接着されている。これにより、クッション部材80を開口領域53における非開口部に沿った形で配置するための具体的な構成を提供することができる。
【0036】
また、スピーカ装置1では、クッション部材80は、スピーカ10の放音中心Cにおいて非開口部に沿って設けられた屈曲梁状部80aを有する。これにより、クッション部材80において屈曲梁状部80aが梁としての機能を果たすため、クッション部材80の平面視における面内強度を高めることができ、さらに、クッション部材80を第1カバー50に貼り付ける際の作業性を向上させることができる。
【0037】
また、スピーカ装置1では、クッション部材80とサランネット70との間が近接している。これにより、サランネット70が振動した場合にサランネット70がクッション部材80に干渉し、その振動がクッション部材80により吸収されるため、共振の発生をより効果的に防止ないし抑制することができる。
【0038】
そして、このスピーカ装置1を備えた電子楽器である電子鍵盤楽器100は、放音に際し、共振の発生をより効果的に防止ないし抑制して、良質な放音を行うことができる。
【0039】
また、スピーカ装置1の製造方法は、複数の開口部からなる開口領域53を有する第1カバー50を、開口領域53をスピーカ10の放音口10aに重ねる形で配置する第1配置工程と、第2カバー60を、第1カバー50のスピーカ10側とは反対側に重ねる形で、第1カバー50の開口領域53を囲むように配置する第2配置工程と、サランネット70を、第1カバー50及び第2カバーのスピーカ10側とは反対側を被覆するように第2カバー60に接着する接着工程と、を備え、接着工程は、第2カバー60とサランネット70の間のうち、領域A1を第1の接着剤B1で接着し、第1カバー50の開口領域53の周りの領域A2を第1の接着剤B1よりも接着強度が高い第2の接着剤B2で接着する。
【0040】
上記の製造方法によれば、第1配置工程及び第2配置工程により、スピーカ10の放音口10aと重なる位置において、スピーカ10の放音口10a及び第1カバー50の開口領域53と、サランネット70との間に十分な間隔が確保された状態で、第1カバー、第2カバー、及びサランネット70を組み付けることができる。さらに、接着工程により、第2の接着剤B2により接着された部位に囲まれる領域A3において、第1の接着剤B1により接着された領域A1に比して大きな張力が掛けられた状態で、サランネット70を第2カバー60に対して接着することができる。これにより、スピーカ10の放音口10aとサランネット70との間の間隔を確保しつつサランネット70に大きな張力が掛けられており、共振の発生を防止ないし抑制することが可能なスピーカ装置1を製造することができる。
【0041】
また、スピーカ装置1の製造方法は、接着工程は、サランネット70のうち少なくとも第2の接着剤B2により接着する部位に囲まれる領域A3に張力を掛けた状態で、サランネット70を第2カバー60に接着する。これにより、接着工程において、領域A3においてサランネット70に対してより大きな張力を掛けることができ、共振の発生をより効果的に防止ないし抑制することが可能なスピーカ装置1を製造することができる。
【0042】
次に、
図8を参照してスピーカ装置(放音装置)1の第2実施形態を説明する。第2実施形態は、クッション部材180の形状が第1実施形態のクッション部材80と異なっている。その他の構成は第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
図8に示すように、第2実施形態に係るクッション部材180は、開口領域53のうちスピーカ10の放音中心Cと重なる位置に設けられた開口部53aを囲む部分が第2の梁52cに沿った形状ではなく、左右方向に沿った直線状の直線梁状部(梁状部)180aとなっている。第2実施形態に係るクッション部材180は、このような形状であっても、第1実施形態に係るクッション部材80と同様の効果を奏することができる。さらに、第2実施形態に係るクッション部材180は、上記の直線梁状部180aを含むことにより平面視における面内強度を高めることができ、クッション部材80を第1カバー50に貼り付ける際の作業性を向上させることができる。
【0043】
なお、以上説明した実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。例えば、上記の各実施形態では、開口領域上にクッション部材が配置された構成を例示したが、スピーカ装置がクッション部材を備えていない構成であってもよい。このような構成であっても、スピーカ装置は、スピーカの放音口とサランネットとの間の間隔を確保しつつサランネットに大きな張力を掛けることができ、共振の発生を防止ないし抑制することができ、良質な放音を行う電子楽器とすることができる。
【符号の説明】
【0044】
1 スピーカ装置 10 スピーカ
10a 放音口 12 マグネット部
14 コイル部 16 キャップ部
18 振動板 18a エッジ部
19 フレーム部 20 上側パネル
24 電源スイッチ 30 端子パネル
50 第1カバー 52 網目状部
52a 外縁部 52b 第1の梁
52c 第2の梁
53 開口領域 53a 開口部
54 枠状部 56 板状部
60 第2カバー 60a 放音口開口部
70 サランネット 80 クッション部材
100 電子鍵盤楽器 111 上面
113 調整ノブ 119 楽器ケース
130 鍵盤 131 操作部
80a 屈曲梁状部 180 クッション部材
180a 直線梁状部
A1,A2,A3 領域
B1 第1の接着剤
B2 第2の接着剤
C 放音中心
D1 間隔