(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】樹脂多層基板
(51)【国際特許分類】
H05K 1/02 20060101AFI20231212BHJP
H05K 3/46 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
H05K1/02 P
H05K3/46 B
(21)【出願番号】P 2022505930
(86)(22)【出願日】2021-03-01
(86)【国際出願番号】 JP2021007750
(87)【国際公開番号】W WO2021182157
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2020042128
(32)【優先日】2020-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100183265
【氏名又は名称】中谷 剣一
(72)【発明者】
【氏名】糟谷 篤志
(72)【発明者】
【氏名】成岡 友彦
【審査官】齊藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-269616(JP,A)
【文献】国際公開第2010/103940(WO,A1)
【文献】特開平7-86814(JP,A)
【文献】特開2013-89841(JP,A)
【文献】実開平4-4405(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2009/0108369(US,A1)
【文献】特開平3-129895(JP,A)
【文献】特表2016-509391(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106783812(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/00―5/22
H05K 1/00―3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の樹脂基材層を厚さ方向に積層して形成された積層体と、
前記積層体の側面の少なくとも一部に設けられ、前記樹脂基材層の面方向の熱膨張率との差が前記樹脂基材層の前記厚さ方向の熱膨張率との差に比べて小さい熱膨張率を備える金属材料から作製された側面導体と、
前記積層体内に設けられ、回路を構成する回路構成要素と、
前記側面導体と前記回路構成要素との間に位置して且つ前記厚さ方向視で前記側面導体に沿うように前記積層体における前記複数の樹脂基材層の間に設けられ、前記厚さ方向視で少なくとも部分的に互いにオーバーラップし、ダミー導体またはグランド導体である複数の内部導体と、を有
し、
最も前記側面導体に近い前記内部導体と前記側面導体との間の距離を最小距離L
min、
最も前記側面導体に遠い前記内部導体と前記側面導体との間の距離を最大距離L
max
、
前記最大距離L
max
と前記最小距離L
min
との間の距離差を距離差ΔL、
前記複数の内部導体において前記内部導体と前記側面導体との対向方向の最小サイズを最小幅W
min
、とした場合、
前記最小幅W
min
は、前記距離差ΔLに比べて大きい樹脂多層基板。
【請求項2】
前記距離差ΔLが、前記最小距離L
min
に比べて大きい、請求項1に記載の樹脂多層基板。
【請求項3】
前記内部導体と前記側面導体との対向方向において、前記内部導体と前記側面導体との間の距離が、前記内部導体のサイズに比べて小さい、請求項1
または2に記載の樹脂多層基板。
【請求項4】
前記複数の内部導体が、前記面方向に対して平行であって且つ前記厚さ方向の前記積層体の中心を通過する平面を基準として平面対称に配置されている、請求項1
から3のいずれか一項に記載の樹脂多層基板。
【請求項5】
前記厚さ方向の前記積層体の両端面の少なくとも一方に設けられて前記側面導体と接続する端面導体を有する、請求項1から
4のいずれか一項に記載の樹脂多層基板。
【請求項6】
前記複数の内部導体において、前記端面導体に最も近い内部導体の厚さが、他の内部導体の厚さに比べて大きい、請求項
5に記載の樹脂多層基板。
【請求項7】
前記複数の内部導体の厚さの合計が、前記内部導体に対して前記厚さ方向に対向する前記樹脂基材層の部分の厚さの合計に比べて大きい、請求項
6に記載の樹脂多層基板。
【請求項8】
前記積層体が、隣接し合う前記樹脂基材層の間に配置され、フッ素樹脂を含む接着層を備える、請求項1から
7のいずれか一項に記載の樹脂多層基板。
【請求項9】
前記樹脂基材層が、液晶ポリマー樹脂を含む熱可塑性樹脂から作製されている、請求項1から
8のいずれか一項に記載の樹脂多層基板。
【請求項10】
前記回路が高周波回路である、請求項1から
9のいずれか一項に記載の樹脂多層基板。
【請求項11】
前記側面導体が、前記積層体の側面全体にわたって、前記複数の樹脂基材層それぞれに設けられている、請求項1から
10のいずれか一項に記載の樹脂多層基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の樹脂基材層を積層して構成される樹脂多層基板に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、複数のシート状の樹脂基材層を積層して構成された樹脂多層基板が開示されている。この樹脂多層基板の側面には、側面導体が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載するような樹脂多層基板を構成する複数の樹脂基材層それぞれは、厚さ方向(積層方向)と面方向とで熱膨張率が異なることが多い。樹脂基材層の厚さ方向の熱膨張率が側面導体の熱膨張率に比べて高い場合、特許文献1に記載する樹脂多層基板においては、複数の樹脂基材層それぞれにおける側面導体近傍部分が厚さ方向に熱膨張し、それにより、側面導体が側面から剥離する可能性がある。
【0005】
そこで、本発明は、複数の樹脂基材層を積層して構成されて側面に側面導体が設けられている樹脂多層基板において、樹脂基材層の熱膨張による側面導体の側面からの剥離を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記技術的課題を解決するために、本発明の一態様によれば、
複数の樹脂基材層を厚さ方向に積層して形成された積層体と、
前記積層体の側面の少なくとも一部に設けられ、前記樹脂基材層の面方向の熱膨張率との差が前記樹脂基材層の前記厚さ方向の熱膨張率との差に比べて小さい熱膨張率を備える金属材料から作製された側面導体と、
前記積層体内に設けられ、回路を構成する回路構成要素と、
前記側面導体と前記回路構成要素との間に位置して且つ前記側面導体に沿うように前記積層体内に設けられ、前記厚さ方向視で少なくとも部分的に互いにオーバーラップし、ダミー導体またはグランド導体である複数の内部導体と、を有する、樹脂多層基板が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、複数の樹脂基材層を積層して構成されて側面に側面導体が設けられている樹脂多層基板において、樹脂基材層の熱膨張による側面導体の側面からの剥離を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る樹脂多層基板の斜視図
【
図3】
図2に示すA-A線に沿った樹脂多層基板の断面図
【
図6】内部導体に関連するパラメータを示す側面導体近傍の樹脂多層基板の拡大断面図
【
図7】実施の形態1の変形例に係る樹脂多層基板の上面図
【
図8】実施の形態1のさらなる変形例に係る樹脂多層基板の断面図
【
図9】本発明の実施の形態2に係る樹脂多層基板の断面図
【
図10】本発明の実施の形態3に係る樹脂多層基板の断面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一態様の樹脂多層基板は、複数の樹脂基材層を厚さ方向に積層して形成された積層体と、前記積層体の側面の少なくとも一部に設けられ、前記樹脂基材層の面方向の熱膨張率との差が前記樹脂基材層の前記厚さ方向の熱膨張率との差に比べて小さい熱膨張率を備える金属材料から作製された側面導体と、前記積層体内に設けられ、回路を構成する回路構成要素と、前記側面導体と前記回路構成要素との間に位置して且つ前記側面導体に沿うように前記積層体内に設けられ、前記厚さ方向視で少なくとも部分的に互いにオーバーラップし、ダミー導体またはグランド導体である複数の内部導体と、を有する。
【0010】
このような態様によれば、複数の樹脂基材層を積層して構成されて側面に側面導体が設けられている樹脂多層基板において、樹脂基材層の熱膨張による側面導体の側面からの剥離を抑制することができる。
【0011】
例えば、前記内部導体と前記側面導体との対向方向において、前記内部導体と前記側面導体との間の距離が、前記内部導体のサイズに比べて小さくてもよい。
【0012】
例えば、前記複数の内部導体が、前記面方向に対して平行であって且つ前記厚さ方向の前記積層体の中心を通過する平面を基準として平面対称に配置されてもよい。
【0013】
例えば、前記樹脂多層基板が、前記厚さ方向の前記積層体の両端面の少なくとも一方に設けられて前記側面導体と接続する端面導体を有してもよい。
【0014】
例えば、前記複数の内部導体において、前記端面導体に最も近い内部導体の厚さが、他の内部導体の厚さに比べて大きくてもよい。
【0015】
例えば、前記複数の内部導体の厚さの合計が、前記内部導体に対して前記厚さ方向に対向する前記樹脂基材層の部分の厚さの合計に比べて大きくてもよい。
【0016】
例えば、前記積層体が、隣接し合う前記樹脂基材層の間に配置され、フッ素樹脂を含む接着層を備えてもよい。
【0017】
例えば、前記樹脂基材層が、液晶ポリマー樹脂を含む熱可塑性樹脂から作製されてもよい。
【0018】
例えば、前記回路が高周波回路であってもよい。
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0020】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る樹脂多層基板の斜視図である。また、
図2は、樹脂多層基板の上面図である。さらに、
図3は、
図2に示すA-A線に沿った樹脂多層基板の断面図である。なお、図に示すX-Y-Z直交座標系は本発明の理解を容易にするためのものであって、発明を限定するものではない。また、本明細書では、X軸方向およびY軸方向は面方向であって、Z軸方向は厚さ方向である。
【0021】
図1~
図3に示すように、本実施の形態1に係る樹脂多層基板10は、積層体12と、積層体12の側面12aに設けられた側面導体14と、積層体12内に設けられ、回路を構成する回路構成要素である回路導体16と、積層体12の厚さ方向(Z軸方向)の両端面12b、12cそれぞれに設けられた端面導体18、20を有する。
【0022】
樹脂多層基板10の積層体12は、複数の樹脂基材層を積層した積層体である。
【0023】
図4は、積層体を構成する複数の樹脂基材層の断面図である。
【0024】
図4に示すように、樹脂多層基板10の積層体12は、シート状の複数の樹脂基材層22A~22Eをその厚さ方向(Z軸方向)に積層することによって構成されている。本実施の形態1の場合、樹脂基材層22A~22Eは、液晶ポリマー樹脂を主原料とする熱可塑性樹脂である。なお、樹脂基材層22A~22Eは、同一の厚さであってもよいし、異なる厚さであってもよい。
【0025】
本実施の形態1の場合、積層体12は、複数の樹脂基材層22A~22Eをその厚さ方向(Z軸方向)に積層した状態で、これらを加熱しつつ厚さ方向にプレスすることによって作製される。すなわち、樹脂基材層同士が互いに直接的に加熱圧着されることにより、積層体12が作製される。
【0026】
また、複数の樹脂基材層22A~22Eそれぞれには、例えば銅箔から作製された導体が設けられている。
【0027】
複数の樹脂基材層22A~22Eにおいて厚さ方向(Z軸方向)の外側に位置する樹脂基材層22A、22Eそれぞれには、厚さ方向(Z軸方向)の一方の端面に、その全体にわたって設けられた端面導体18、20が設けられている。複数の樹脂基材層22A~22Eにおいて厚さ方向の中心に位置する樹脂基材層22Cには、回路導体16が設けられている。本実施の形態1の場合、回路導体16は、高周波信号を伝送する信号線であって、
図3に示すように、端面導体18、20の間に配置されることにより、ストリップラインとして機能する。回路導体16は、例えば、樹脂基材層22Cの厚さ方向の一方の端面全体にわたって設けられた銅箔に対してエッチングによるパターニング処理を行うことによって作製されている。
【0028】
さらに、
図3に示すように、積層体12の側面12a(厚さ方向(Z軸方向)に直交する方向(X軸方向およびY軸方向)に対して交差する面)には、側面導体14が設けられている。本実施の形態1の場合、
図2に示すように、側面導体14は、積層体12の側面12a全体にわたって設けられている。また、側面導体14は、端面導体18、20に接続している。このような側面導体14は、スパッタリングなどの成膜処理によって作製される。
【0029】
図5は、側面導体が設けられる前の積層体の断面図である。
【0030】
図5に示すように、積層体12は、キャリアフィルム26上に、例えば感圧接着剤を介して設けられる。次に、積層体12の端面導体18上にレジスト層28が形成される。そして、側面導体14は、例えば、銅のターゲットを用いて積層体12に対してスパッタリング処理を行うことにより、積層体12の側面12aに形成される。この側面導体14は、積層体12内の回路(回路導体)から外部への電磁波の放射を防ぐシールドとして機能する。なお、レジスト層28は、除去してもよいし、そのまま残してもよい。レジスト層28が残っていても、レジスト層28は、
端面導体18を介して回路導体16に対向するので、回路導体16の高周波特性に影響しない。
【0031】
さらにまた、
図3に示すように、積層体12内には、回路を構成する回路導体16と異なる内部導体24A~24Cが設けられている。
【0032】
内部導体24A~24Cそれぞれは、ダミー導体であって、
図2および
図3に示すように、側面導体14と回路導体16との間に位置するように積層体12内に設けられている。内部導体24A~24Cは、例えば銅箔である。また、内部導体24A~24Cそれぞれは、
図2に示すように、側面導体14に沿うように積層体12内に設けられている。さらに、内部導体24A~24Cそれぞれは、厚さ方向(Z軸方向)視で少なくとも部分的に互いにオーバーラップするように、積層体12内に設けられている。
【0033】
本実施の形態1の場合、
図4に示すように、内部導体24A~24Cそれぞれは、樹脂基材層22B~22Dに設けられている。内部導体24A~24Cは、例えば、樹脂基材層22B~22Dの厚さ方向(Z軸方向)の一方の端面全体にわたって設けられた銅箔に対してエッチングによるパターニング処理を行うことによって作製されている。
【0034】
このような内部導体24A~24Cを積層体12内に設ける理由について説明する。
【0035】
図4に示すように、積層体12は、シート状の複数の樹脂基材層22A~22Eを積層することによって構成されている。このような樹脂基材層22A~22Eにおいては、厚さ方向(Z軸方向)の熱膨張率と面方向(X軸方向およびY軸方向)の熱膨張率が異なる。例えば、厚さ方向の熱膨張率が面方向の熱膨張率に比べて高い。
【0036】
なお、樹脂基材層の「厚さ方向の熱膨張率」は、例えば、レーザ干渉法を用いて求めることができる。温度条件を変化させながら、基材層を厚さ方向に挟む反射板で反射されたレーザ光によって生じる干渉縞を撮像する。その干渉縞の変化と厚さ方向の変化には対応関係があるので、温度変化による干渉縞の変化に基づいて、温度変化による基材層の厚さ方向の変化、すなわち「厚さ方向の熱膨張率」を算出することができる。また、基材層単体を取り出さなくても、基材層が積層された積層体で同様の測定を行い、「厚さ方向の熱膨張率」を算出してもよい。その際、測定自体は、例えば、表面にレジスト層などの保護層がない無垢な状態で、かつ、表面および内部に導体がない積層体の一部を測定領域として測定を行う。
【0037】
また、樹脂基材層の「面方向の熱膨張率」は、例えば、TMA(Thermo Mechanical Analysis)法を用いて求めることができる。面方向に一定の引っ張り応力が生じた状態で、温度条件を変化させ、樹脂基材層の面方向の変化量を測定する。それにより、温度変化による樹脂基材層の面方向の変化、すなわち「面方向の熱膨張率」を算出することができる。また、基材層単体を取り出さなくても、基材層が積層された積層体で同様の測定を行い、「面方向の熱膨張率」を算出してもよい。その際、測定自体は、例えば、表面にレジスト層などの保護層がない無垢な状態で、かつ、表面および内部に導体がない積層体の一部を測定領域として測定を行う。
【0038】
このような樹脂基材層の熱膨張率の異方性により、複数の樹脂基材層22A~22E、すなわち積層体12は、信号を伝送する回路導体16の発熱などによって高温状態になると、面方向(X軸方向およびY軸方向)に比べて大きく厚さ方向(Z軸方向)に熱膨張する。
【0039】
このとき、樹脂基材層の面方向(X軸方向およびY軸方向)の熱膨張率との差が厚さ方向(Z軸方向)の熱膨張率との差に比べて小さい熱膨張率を備える金属材料から側面導体14が作製されている場合、その側面導体14が剥離しうる。例えば、側面導体14の金属材料が銅である場合、その熱膨張率は約17ppmである。一方、樹脂基材層が液晶ポリマー樹脂から作製されている場合、面方向の熱膨張率は約16ppmであって、厚さ方向の熱膨張率は約300ppmである。この場合、積層体12の側面12a近傍の領域で厚さ方向に大きな熱膨張が生じると、側面12aが大きく変形し、その側面12a上の側面導体14が同程度に変形することができずに剥離する可能性がある。また、本実施の形態1の場合、側面導体14と端面導体18、20との間の接続部にクラックが発生する可能性がある。
【0040】
このような積層体12の側面12a近傍での熱膨張を抑制するために、内部導体24A~24Cは、側面導体14と回路導体16との間に位置するように、且つ、側面導体14に沿うように積層体12内に設けられている。また、内部導体24A~24Cは、厚さ方向(Z軸方向)視で少なくとも部分的に互いにオーバーラップするように積層体12内に設けられている。
【0041】
このような内部導体24A~24Cの配置により、側面導体14が設けられた側面12a近傍の積層体12の領域において、導体の体積割合が増加し、代わりに樹脂の体積割合が減少する(内部導体24A~24Cが存在しない場合に比べて)。それにより、この領域において、樹脂基材層に伝わる熱量が減少し、樹脂基材層の厚さ方向(Z軸方向)の熱膨張が抑制される、すなわち積層体12の厚さ方向(Z軸方向)の熱膨張が抑制される。その結果、積層体12の側面12aの変形が抑制され、その側面12aからの側面導体14の剥離や側面導体14と端面導体18、20との間の接続部でのクラック発生が抑制される。
【0042】
なお、端面導体18、20については、樹脂基材層との熱膨張率の違いによる積層体12からの剥離は実質的に生じない。その理由は、端面導体18、20の金属材料の熱膨張率と樹脂基材層の面方向の熱膨張率との差が小さいからである。例えば、樹脂基材層が液晶ポリマー樹脂を主原料とする熱可塑性樹脂から作製されている場合、その面方向(X軸方向およびY軸方向)の熱膨張率は、約16ppmであって、端面導体18、20の材料である銅の熱膨張率(約17ppm)と実質的に同じである。
【0043】
すなわち、端面導体18、20は、側面導体14に比べて優先的に剥離が抑制されている。その優先理由は、端面導体18、20は、側面導体14に比べて、回路導体16に対して近い距離で且つ大きな対向面積で対向しているからである。そして、このような端面導体18、20が剥離すると、回路導体16の高周波特性が大きく変化するからである。
【0044】
内部導体24A~24Cと側面導体14との対向方向(Y軸方向)において、内部導体と側面導体との間の距離は、小さい方が好ましく、少なくとも内部導体のサイズ(幅)に比べて小さい方が好ましい。ただし、内部導体24A~24Cは、積層体12の側面12aを介して外部に露出しない。内部導体24A~24Cが外部に露出していると、その内部導体を挟んで隣接し合う樹脂基材層が互いに剥離しやすくなる。
【0045】
また、内部導体24A~24Cそれぞれは、大きい幅(側面導体14との対向方向(Y軸方向)のサイズ)を備えるのが好ましく、厚さ方向(Z軸方向)視で互いにオーバーラップする面積が大きい方が好ましい。これにより、複数の樹脂基材層22A~22Eを加熱しつつプレスするときにいずれかの樹脂基材層が面方向にずれても、内部導体24A~24Cは厚さ方向に確実にオーバーラップすることができる。
【0046】
図6は、内部導体に関連するパラメータを示す側面導体近傍の樹脂多層基板の拡大断面図である。
【0047】
図6に示すように、最も側面導体14に近い内部導体と側面導体14との間の距離L
minは、小さい方が好ましく、少なくとも複数の内部導体24A~24Cにおける最小幅(内部導体と側面導体14との対向方向(Y軸方向)のサイズ)幅W
minに比べて小さい方がよい。これと異なり、距離L
minが幅W
minに比べて大きい場合、内部導体と側面導体14との間の領域が大きくなるので、内部導体による側面導体14が設けられた側面12a近傍の積層体12の領域での熱膨張の抑制効果が弱まる。
【0048】
また、最も側面導体14に遠い内部導体とその側面導体14との間の距離Lmaxと、最も側面導体14に近い内部導体とその側面導体14との間の距離Lminとの距離差ΔLは、小さい方が好ましく、少なくとも内部導体の最小幅Wminに比べて小さい方が好ましい。これと異なり、距離差ΔLが最小幅Wminに比べて大きい場合、内部導体のオーバーラップ量OAが減少し、内部導体による側面12a近傍の積層体12の領域での熱膨張の抑制効果が弱まる。なお、距離差ΔLは、最小距離Lminに比べて大きくてもよい。
【0049】
すなわち、複数の内部導体24A~24Cは、側面導体14との最小距離L
min、距離差ΔL、および最小幅W
minが、数式1で示す関係を満たすように積層体12に設けるのが好ましい。
【数1】
【0050】
さらに、
図3に示すように、複数の内部導体24A~24Cは、面方向(X軸方向およびY軸方向)に対して平行であって且つ厚さ方向(Z軸方向)の積層体12の中心を通過する平面Pcを基準として平面対称に配置されているのが好ましい。これにより、側面導体14近傍の積層体12の領域において、厚さ方向について一様に熱膨張を抑制することができる。その結果、側面導体14が設けられた側面12aが局所的に変形し、その局所的に変形した側面12aの部分から側面導体14が剥離し始めることを抑制することができる。
【0051】
なお、複数の内部導体24A~24Cそれぞれは、
図2に示すように、側面導体14全体に対して連続的に沿うように設けられている。しかしながら、本発明の実施の形態はこれに限らない。
【0052】
図7は、実施の形態1の変形例に係る樹脂多層基板の上面図である。
【0053】
図7に示すように、実施の形態1の変形例に係る樹脂多層基板110において、複数の内部導体124A~124Cは、厚さ方向(Z軸方向)視で互いにオーバーラップするように、且つ、側面導体114全体に対して断続的に沿うように設けられている。
【0054】
また、
図3に示すように、樹脂多層基板10における複数の内部導体24A~24Cは
、回路導体16を伝わる信号に実質的に関与しないダミー導体である。しかしながら、本発明の実施の形態はこれに限らない。
【0055】
図8は、実施の形態1のさらなる変形例に係る樹脂多層基板の断面図である。
【0056】
図8に示すように、実施の形態1のさらなる変形例に係る樹脂多層基板210において、複数の内部導体224A~224Cは、回路導体216を伝わる信号、例えば高周波信号に関与するグランド導体である。また、内部導体224Aと224Bとが層間接続導体226を介して接続され、内部導体224Bと224Cとが層間接続導体228を介して接続されている。層間接続導体226、228は、例えば、内部導体224A、224Bが設けられた樹脂基材層を貫通するスルーホール導体である。
【0057】
以上のような本実施の形態1によれば、複数の樹脂基材層22A~22Eを積層して構成され、積層体12の側面12aに側面導体14が設けられている樹脂多層基板10において、樹脂基材層22A~22Eの熱膨張による側面導体14の側面12aからの剥離を抑制することができる。
【0058】
また、本実施の形態1の場合には、側面導体14と端面導体18、20との間の接続部でのクラック発生を抑制することができる。
【0059】
(実施の形態2)
本実施の形態2は、内部導体を除いて、上述の実施の形態1と実質的に同一である。したがって、異なる点を中心に、本実施の形態2について説明する。
【0060】
図9は、本発明の実施の形態2に係る樹脂多層基板の断面図である。
【0061】
図9に示すように、本実施の形態2に係る樹脂多層基板310は、複数の樹脂基材層を積層して構成された積層体312と、積層体312の側面312aに設けられた側面導体314と、積層体312内に設けられ、回路を構成する回路導体316と、積層体312の厚さ方向(Z軸方向)の両端面312b、312cそれぞれに設けられた端面導体318、320を有する。
【0062】
積層体312内には、回路導体316と異なる内部導体324A~324Cが設けられている。
【0063】
複数の内部導体324A~324Cにおいて、端面導体318、320に最も近い内部導体324A、324Cの厚さta、tcは、他の内部導体324Bの厚さtbに比べて大きい。そのため、側面導体314近傍の積層体312の領域内において、端面導体318、320に近づくほど、樹脂(樹脂基材層)の体積割合が減少する。これにより、端面導体318、320近傍の積層体312の領域の熱膨張が、端面導体318、320から離れた領域の熱膨張に比べて小さくすることができる。その結果、側面導体314と端面導体318、320との接続部でのクラック発生をさらに抑制することができる。
【0064】
なお、複数の内部導体の厚さの合計が、内部導体に対して厚さ方向に対向する樹脂基材層の部分の厚さの合計に比べて大きくなるように、すなわち積層体の厚さの50%以上になるように、その複数の内部導体を積層体内に設けるのが好ましい。これにより、側面導体の剥離をさらに抑制することができる。
【0065】
以上のような本実施の形態2も、上述の実施の形態1と同様に、複数の樹脂基材層を積層して構成され、積層体312の側面312aに側面導体314が設けられている樹脂多層基板310において、樹脂基材層の熱膨張による側面導体314の側面312aからの剥離を抑制することができる。
【0066】
(実施の形態3)
本実施の形態3は、積層体の構成方法が、上述の実施の形態1と異なる。したがって、異なる点を中心に、本実施の形態3について説明する。
【0067】
図10は、本発明の実施の形態3に係る樹脂多層基板の断面図である。
【0068】
図10に示すように、本実施の形態3に係る樹脂多層基板410は、複数の樹脂基材層を積層して構成された積層体412と、積層体412の側面に設けられた側面導体414と、積層体412内に設けられ、回路を構成する回路導体416と、積層体412の厚さ方向(Z軸方向)の両端面それぞれに設けられた端面導体418、420を有する。
【0069】
また、積層体412内には、回路導体416と異なる内部導体424A~424Cが設けられている。
【0070】
本実施の形態3の場合、積層体412は、複数の樹脂基材層422A~422Dと、隣接し合う樹脂基材層の間に配置された接着層430とから構成されている。すなわち、複数の樹脂基材層422A~422Dは、上述の実施の形態1における複数の樹脂基材層22A~22Eと異なり、接着層(接着剤)430を介して間接的に互いに接着されている。接着層430は、厚さ方向(Z軸方向)への熱膨張率が小さい接着剤、例えばフッ素樹脂を含む接着剤である。
【0071】
この接着層430の存在により、側面導体414近傍の積層体412の領域において、樹脂基材層の体積割合がさらに減少し、その結果として、積層体412の熱膨張がさらに抑制される。
【0072】
以上のような本実施の形態3も、上述の実施の形態1と同様に、複数の樹脂基材層を積層して構成され、積層体412の側面に側面導体414が設けられている樹脂多層基板410において、樹脂基材層の熱膨張による側面導体414の側面からの剥離を抑制することができる。
【0073】
以上、複数の実施の形態1~3を挙げて本発明を説明したが、本発明の実施の形態はこれらに限らない。
【0074】
例えば、上述の実施の形態1の場合、
図3に示すように、積層体12の両端面12b、12cそれぞれに端面導体18、20が設けられている。しかしながら、本発明の実施の形態はこれに限らない。端面導体18、20の少なくとも一方が存在しない樹脂多層基板も本発明の実施の形態に含まれている。
【0075】
また、上述の実施の形態1の場合、
図2および
図3に示すように、積層体12の側面12a全体にわたって側面導体14が設けられている。しかしながら、本発明の実施の形態はこれに限らない。側面導体14は、積層体12の側面12aの一部にのみ設けられてもよい。
【0076】
さらに、上述の実施の形態1の場合、
図3に示すように、積層体12内には、回路を構成する回路構成要素として、高周波信号を伝送する回路導体16が設けられている。し
かしながら、本発明の実施の形態において、回路構成要素はこれに限らない。回路構成要素は、例えば、マイクロプロセッサチップ、コンデンサなどであってもよい。本発明の実施の形態における回路構成要素は、ダミー導体である内部導体に対して電気的に接続されない、あるいはグランド導体である内部導体によってグランド電位が付与される回路構成要素であればよい。
【0077】
すなわち、本発明の実施の形態に係る樹脂多層基板は、広義には、複数の樹脂基材層を前記厚さ方向に積層して形成された積層体と、前記積層体の側面の少なくとも一部に設けられ、前記樹脂基材層の面方向の熱膨張率との差が前記樹脂基材層の前記厚さ方向の熱膨張率との差に比べて小さい熱膨張率を備える金属材料から作製された側面導体と、前記積層体内に設けられ、回路を構成する回路構成要素と、前記側面導体と前記回路構成要素との間に位置して且つ前記側面導体に沿うように前記積層体内に設けられ、前記厚さ方向視で少なくとも部分的に互いにオーバーラップし、ダミー導体またはグランド導体である複数の内部導体と、を有する。
【0078】
以上、複数の実施の形態を挙げて本発明を説明したが、ある実施の形態に対して少なくとも1つの別の実施の形態を全体としてまたは部分的に組み合わせて本発明に係るさらなる実施の形態とすることが可能であることは、当業者にとって明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、複数の樹脂基材層を積層して構成される樹脂多層基板に適用可能である。