(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】共振子および共振装置
(51)【国際特許分類】
H03H 9/24 20060101AFI20231212BHJP
【FI】
H03H9/24 B
(21)【出願番号】P 2022516835
(86)(22)【出願日】2020-11-17
(86)【国際出願番号】 JP2020042802
(87)【国際公開番号】W WO2021215036
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2022-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2020076309
(32)【優先日】2020-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100126480
【氏名又は名称】佐藤 睦
(72)【発明者】
【氏名】樋口 敬之
(72)【発明者】
【氏名】河合 良太
(72)【発明者】
【氏名】井上 義久
(72)【発明者】
【氏名】福光 政和
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-165509(JP,A)
【文献】国際公開第2017/064916(WO,A1)
【文献】特開2012-105044(JP,A)
【文献】特開2015-035818(JP,A)
【文献】特開2015-186019(JP,A)
【文献】特開2015-041785(JP,A)
【文献】国際公開第2017/208568(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/044634(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/00- 9/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前端および前記前端に対向する後端を有する基部と、固定端が前記基部の前記前端に接続されかつ前記前端から離れる方向に延びている複数の振動腕とを有し、前記複数の振動腕が、少なくとも一つの第1振動腕、および、前記少なくとも一つの第1振動腕を含む第1振動腕群の長手方向と交差する方向の両側に位置する一対の第2振動腕を含む、振動部と、
前記振動部の周囲の少なくとも一部に設けられた保持部と、
一端が前記基部に接続され、かつ、他端が前記保持部に接続された保持腕と、
を備え、
前記複数の振動
腕は、圧電膜と、前記圧電膜を間に挟んで対向して設けられた下部電極および上部電極とを有し、
前記複数の振動腕、前記基部及び前記保持腕は、所定の振動モードで振動可能である可動領域を有し、
前記一対の第2振動腕のそれぞれの前記上部電極を互いに連結する連結配線が、前記基部および前記保持腕の少なくとも一方の
前記可動領域に設けられる、
共振子。
【請求項2】
前記少なくとも一つの第1振動腕における前記上部電極には絶縁層が積層され、前記積層された絶縁層に前記連結配線が設けられる、
請求項1に記載の共振子。
【請求項3】
前記保持腕は、前記基部に接続された2つの接続部を含み、
前記連結配線は、前記2つの接続部に隣接する位置に設けられる、
請求項1または2に記載の共振子。
【請求項4】
前記保持腕は、前記基部に接続された3つ以上の接続部を含み、
前記連結配線は、前記3つ以上の接続部に隣接する位置に設けられる、
請求項1から3のいずれか一項に記載の共振子。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の共振子と、
前記共振子を間に挟んで互いに対向して設けられた上蓋および下蓋と、
前記複数の振動腕における前記上部電極と前記下部電極との間に電圧を印加する外部電極と、
を備える共振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共振子および共振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器において計時機能を実現するためのデバイスとして、圧電振動子等の共振子が用いられている。電子機器の小型化に伴い、共振子も小型化が要求されており、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて製造される共振子(以下、「MEMS振動子」ともいう。)が注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、4本の振動腕を有する振動子において、内側に位置している2本の振動腕と、外側に位置している2本の振動腕を逆相に屈曲振動させる構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術においては、複数の振動腕における屈曲振動の位相を制御するための配線の引き回しについて検討されていなかった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、配線の引き回しを簡素化することで、配線における電気容量を低減して振動特性を安定化させることができる共振子および共振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る共振子は、前端および前端に対向する後端を有する基部と、固定端が基部の前端に接続されかつ前端から離れる方向に延びている複数の振動腕とを有し、複数の振動腕が、少なくとも一つの第1振動腕、および、少なくとも一つの第1振動腕を含む第1振動腕群の長手方向と交差する方向の両側に位置する一対の第2振動腕を含む、振動部と、振動部の周囲の少なくとも一部に設けられた保持部と、一端が基部に接続され、かつ、他端が保持部に接続された保持腕と、を備え、複数の振動部は、圧電膜と、圧電膜を間に挟んで対向して設けられた下部電極および上部電極と、を有し、一対の第2振動腕のそれぞれの上部電極を互いに連結する連結配線が、基部および保持腕の少なくとも一方の領域に設けられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、配線の引き回しを簡素化することで、配線における電気容量を低減して振動特性を安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る共振装置の外観を概略的に示す斜視図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る共振装置の構造を概略的に示す分解斜視図である。
【
図3】上側基板を取り外した本発明の第1実施形態に係る共振子の平面図である。
【
図6】上側基板を取り外した本発明の第2実施形態に係る共振子の平面図である。
【
図8】上側基板を取り外した本発明の第3実施形態に係る共振子の平面図である。
【
図9】上側基板を取り外した本発明の第4実施形態に係る共振子の平面図である。
【
図10】上側基板を取り外した本発明の第5実施形態に係る共振子の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1実施形態]
以下、添付の図面を参照して本発明の第1実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る共振装置1の外観を概略的に示す斜視図である。また、
図2は、本発明の第1実施形態に係る共振装置1の構造を概略的に示す分解斜視図である。
【0011】
この共振装置1は、共振子10と、上蓋30と、下蓋20とを備えている。上蓋30および下蓋20は、共振子10を挟んで互いに対向するように設けられている。すなわち、共振装置1は、下蓋20と、共振子10と、上蓋30とがこの順で積層されて構成されている。
【0012】
また、共振子10と下蓋20とが接合され、かつ、共振子10と上蓋30とが接合されることで、共振子10が封止される。これにより、共振子10の振動空間が形成される。共振子10、下蓋20、および上蓋30の各々は、Si基板を用いて形成されている。そして、共振子10、下蓋20、および上蓋30は、Si基板同士が互いに接合される。共振子10および下蓋20は、SOI基板を用いて形成されてもよい。
【0013】
共振子10は、MEMS技術を用いて製造されるMEMS共振子である。なお、本実施形態においては、共振子10はシリコン基板を用いて形成されるものを例として説明する。以下、共振装置1の各構成について詳細に説明する。
【0014】
(1.上蓋30)
上蓋30はXY平面に沿って平板状に広がっており、その裏面には例えば矩形状の開口を有する凹部31が形成されている。凹部31は、側壁33に囲まれており、共振子10が振動する空間である振動空間の一部を形成する。
【0015】
(2.下蓋20)
下蓋20は、XY平面に沿って設けられる矩形平板状の底板22と、底板22の周縁部からZ軸方向(すなわち、下蓋20と共振子10との積層方向)に延びる側壁23とを有する。下蓋20には、共振子10と対向する面において、底板22の表面と側壁23の内面とによって形成される凹部21が設けられる。凹部21は、共振子10の振動空間の一部を形成する。上述した上蓋30と下蓋20とによって、この振動空間は気密に封止され、真空状態が維持される。この振動空間には、例えば不活性ガス等の気体が充填されてもよい。
【0016】
(3.共振子10)
図3は、本実施形態に係る共振子10の構造を概略的に示す平面図である。
図3を用いて本実施形態に係る共振子10の各構成について説明する。共振子10は、振動部120と、保持部140と、保持腕111、112と、配線191,192と、連結配線193を備えている。
【0017】
(a)振動部120
振動部120は、
図3の直交座標系におけるXY平面に沿って広がる矩形の輪郭を有している。振動部120は、保持部140の内側に設けられており、振動部120と保持部140との間には、所定の間隔で空間が形成されている。
図3の例では、振動部120は、基部130、および、4本の振動腕135A~135D(まとめて「振動腕135」とも呼ぶ。)を有している。なお、振動腕の数は、4本に限定されず、例えば3本以上の任意の数に設定される。本実施形態において、各振動腕135と、基部130とは、一体に形成されている。
【0018】
基部130は、Y軸方向における前端の面131A(以下、「前端131A」とも呼ぶ。)、および、Y軸方向における後端の面131B(以下、「後端131B」とも呼ぶ。)を有している。前端131Aと後端131Bとは、互いに対向するように設けられている。
【0019】
基部130の前端131Aは振動腕135に接続されている。基部130の後端131Bは保持腕111、112に接続されている。なお、基部130は、
図3の例では平面視において、略長方形の形状を有しているがこれに限定されず、長
辺の垂直二等分線に沿って規定される仮想平面Pに対して略面対称に形成されていればよい。基部130は、例えば、長
辺が長
辺より短い台形や、長
辺を直径とする半円の形状であってもよい。また、長
辺、短
辺は直線に限定されず、曲線であってもよい。
【0020】
基部130は、Y軸方向における前端131Aと後端131Bとの最長距離が例えば40μm程度である。また、基部130は、X軸方向における側端同士の最長距離が例えば285μm程度である。基部130の寸法は一例であり、本実施形態で示した数値に限定されるものではない。この点は他の部位の寸法についても同様である。
【0021】
振動腕135は、Y軸方向に延び、同一のサイズを有している。振動腕135は、基部130と保持部140との間にY軸方向に平行に設けられ、一端は、基部130の前端131Aと接続されて固定端となっており、他端は開放端となっている。また、振動腕135は、X軸方向に所定の間隔で並列して設けられている。なお、振動腕135は、例えばX軸方向の幅が50μm程度、例えばY軸方向の長さが420μm程度である。
【0022】
振動腕135の開放端は、錘部Gを有している。錘部Gは、振動腕135の他の部位よりもX軸方向の幅が広い。錘部Gは、例えば、X軸方向の幅が70μm程度である。錘部Gは、振動腕135と同一プロセスによって一体形成される。錘部Gが形成される。これにより、振動腕135は、単位長さ当たりの重さが、固定端側よりも開放端側の方が重くなっている。従って、振動腕135の開放端が錘部Gを有することで、振動腕135の上下方向の振幅を大きくすることができる。
【0023】
本実施形態の振動部120では、X軸方向において、外側に2本の振動腕135A、135Dが配置されており、内側に2本の振動腕135B、135Cが配置されている。X軸方向における、振動腕135Bと135Cとの間隔W1は、X軸方向における外側の振動腕135A、135D(第1振動腕の一例)と当該外側の振動腕135A、135Dに隣接する内側の振動腕135B、135C(第2振動腕の一例)との間の間隔W2よりも大きく設定される。間隔W1は例えば30μ程度、間隔W2は例えば25μm程度である。間隔W2は間隔W1より小さく設定することにより、振動特性が改善される。また、共振装置1を小型化できるように、間隔W1を間隔W2よりも小さく設定してもよいし、等間隔にしても良い。
【0024】
(b)保持部140
保持部140は、XY平面に沿って矩形の枠状に形成される。保持部140は、平面視において、XY平面に沿って振動部120の外側を囲むように設けられる。なお、保持部140は、振動部120の周囲の少なくとも一部に設けられていればよく、枠状の形状に限定されない。例えば、保持部140は、振動部120を保持しており、上蓋30および下蓋20と接合できる程度に、振動部120の周囲に設けられていればよい。
【0025】
本実施形態においては、保持部140は一体形成される角柱形状の枠体140a~140dからなる。
図3に示すように、枠体140aは、振動腕135の開放端に対向しており、長手方向がX軸に沿って設けられる。枠体140bは、基部130の後端131Bに対向しており、長手方向がX軸に沿って設けられる。枠体140cは、基部130の側端(短
辺)および振動腕135Aに対向しており、長手方向がY軸に沿って設けられる。枠体140cの両端は、枠体140a、140bの一端にそれぞれ接続される。枠体140dは、基部130の側端および振動腕135Dに対向しており、長手方向がY軸に沿って設けられる。枠体140dの両端は、枠体140a、140bの他端にそれぞれ接続される。
【0026】
(c)保持腕111、112
保持腕111および保持腕112は、保持部140の内側に設けられ、基部130の後端131Bと枠体140c、140dとを接続する。
図3に示すように、保持腕111と保持腕112とは、基部130のX軸方向の中心線に沿ってYZ平面に平行に規定される仮想平面Pに対して略面対称に形成される。
【0027】
保持腕111は、腕111a、111b、111cを有している。保持腕111は、一端が基部130の後端131Bに接続しており、そこから枠体140bに向かって延びている。そして、保持腕111は、枠体140cに向かう方向(すなわち、X軸方向)に屈曲し、さらに枠体140aに向かう方向(すなわち、Y軸方向)に屈曲し、再度、枠体140cに向かう方向(すなわち、X軸方向)に屈曲して、他端が枠体140cに接続している。
【0028】
腕111aは、一端が基部130の後端131Bに接続されている。腕111aの他端は、その側面において、腕111bの一端に接続されている。腕111aは、例えば、X軸方向に規定される幅が20μm程度であり、Y軸方向に規定される長さが40μm程度である。
【0029】
腕111bは、長手方向がX軸方向に平行になるように設けられている。腕111bは、一端が、腕111aの他端であって枠体140cに対向する側の側面に接続し、そこから腕111aに対して略垂直、すなわち、X軸方向に延びている。また、腕111bの他端は、腕111cの一端であって振動部120と対向する側の側面に接続している。腕111bは、例えば、Y軸方向に規定される幅が20μm程度であり、X軸方向に規定される長さが75μm程度である。
【0030】
腕111cは、長手方向がY軸方向に平行になるように設けられている。腕111cの一端は、その側面において、腕111bの他端に接続されており、他端は枠体140cに接続されている。腕111cは、例えば、X軸方向に規定される幅が20μm程度、Y軸方向に規定される長さが140μm程度である。
【0031】
このように、保持腕111は、腕111aにおいて基部130と接続し、腕111aと腕111bとの接続箇所、および、腕111bと111cとの接続箇所で屈曲した後に、保持部140へと接続する構成となっている。
【0032】
保持腕112は、腕112a、112b、112cを有している。保持腕112は、一端が基部130の後端131Bに接続され、かつ、他端が枠体140dに接続されている。保持腕112は、基部130の後端131Bから枠体140bに向かって延び、枠体140dに向かう方向(すなわち、X軸方向)に屈曲している。また、保持腕112は、枠体140aに向かう方向(すなわち、Y軸方向)に屈曲し、再度、枠体140dに向かう方向(すなわち、X軸方向)屈曲することで、枠体140dに接続されている。
【0033】
なお、腕112a、112b、112cの構成は、それぞれ腕111a、111b、111cと対称な構成であるため、詳細な説明については省略する。
【0034】
(d)配線191,192
配線191、192は、共振子10の表面に露出した圧電薄膜F3上に形成される。配線191,192は、共振子10の圧電薄膜F3上に形成された金属層E2を交流電源に接続させるための配線である。
【0035】
図3に示す例では、金属層E2は、第1領域E2Aと、第2領域E2Bと、第3領域E2Cとを含む。第1領域E2Aは、X軸方向における外側の振動腕135Aの先端から基部130の後端131Bに亘って延び、振動腕135Aに隣接する内側の振動腕135Bに向けて屈曲している。第2領域E2Bは、X軸方向における外側の振動腕135Dの先端から基部130の後端131Bに亘って延び、振動腕135Dに隣接する内側の振動腕135Cに向けて屈曲している。第3領域E2Cは、振動腕135A、135Dに隣接する内側の振動腕135B、135Cの各々の先端から基部130の後端131Bに亘って延び、基部130において接続されている。第1領域E2Aと第3領域E2Cとの間には隙間が介在しており、第3領域E2Cにおける第1領域E2Aに隣接する端面には、配線191を引き回すための凹部194が形成されている。同様に、第2領域E2Bと第3領域E2Cとの間には隙間が介在している。
【0036】
配線191は、金属層E2の第1領域E2Aから枠体140dの方向へ延び、そこから枠体140bの方へ屈曲し、保持腕111へと延びる。さらに、配線191は、保持腕111上において、保持腕111に沿って枠体140cまで延び、保持腕111と枠体140cとの接続部において屈曲し、枠体140bの方向へ延び、共振子10の外部に引き出される。
【0037】
配線192は、金属層E2の第3領域E2Cから枠体140bの方向へ延び、保持腕112へと延びる。さらに、配線192は、保持腕112上において、保持腕112に沿って枠体140dまで延び、保持腕112と枠体140dとの接続部において屈曲し、枠体140bの方向へ延び、共振子10の外部に引き出される。
【0038】
(e)連結配線193
連結配線193は、X軸方向における外側の振動腕135A、135Dのそれぞれの金属層E2を互いに連結する。
図3に示す例では、連結配線193は、基部130において第3領域E2Cを間に挟んで第1領域E2Aおよび第2領域E2Bを直線状に連結する。この場合、外側の振動腕135A、135Dに隣接する内側の振動腕135B、135Cの金属層E2(第3領域E2C)には絶縁層Sが積層され、積層された絶縁層Sに連結配線193が設けられている。
【0039】
(4.積層構造)
図4を用いて共振子10の積層構造について説明する。
図4は、
図3のAA´断面、および共振子10の電気的な接続態様を模式的に示す概略図である。
【0040】
共振子10では、保持部140、基部130、振動腕135、保持腕111,112は、同一プロセスで一体的に形成される。共振子10では、まず、Si(シリコン)基板F2の上に、金属層E1(下部電極の一例である。)が積層されている。そして、金属層E1の上には、金属層E1を覆うように、圧電薄膜F3(圧電膜の一例である。)が積層されており、さらに、圧電薄膜F3の表面には、金属層E2(上部電極の一例である。)の第1領域E2A、第2領域E2B、および、第3領域E2Cが積層されている。尚、抵抗体となる縮退したシリコン基板を用いる事で、Si基板F2自体が金属層E1を兼ねる事で、金属層E1を省略する事も可能である。さらに、金属層E2の第3領域E2Cの表面には、絶縁層Sが積層されている。絶縁層Sの表面には、連結配線193が積層されている。
【0041】
Si基板F2は、例えば、厚さ6μm程度の縮退したn型Si半導体から形成されており、n型ドーパントとしてP(リン)やAs(ヒ素)、Sb(アンチモン)などを含むことができる。Si基板F2に用いられる縮退したSiの抵抗値は、例えば1.6mΩ・cm未満であり、より好ましくは1.2mΩ・cm以下である。さらにSi基板F2の下面には酸化ケイ素(例えばSiO2)層(温度特性補正層)F21が形成されている。これにより、温度特性を向上させることが可能になる。
【0042】
金属層E1、E2は、例えば厚さ0.1~0.2μm程度のMo(モリブデン)やアルミニウム(Al)等を用いて形成される。金属層E1、E2は、エッチング等により、所望の形状に形成される。
【0043】
金属層E1は、例えば振動部120上においては、下部電極として機能するように形成される。また、金属層E1は、保持腕111,112や保持部140上においては、共振子10の外部に設けられた交流電源に下部電極を接続するための配線として機能するように形成される。
【0044】
金属層E2は、振動部120上においては、上部電極として機能するように形成される。また、金属層E2は、保持腕111、112や保持部140上においては、共振子10の外部に設けられた回路に上部電極を接続するための配線として機能するように形成される。
【0045】
なお、交流電源から下部配線または上部配線への接続にあたっては、上蓋30の外面に電極(外部電極の一例である。)を形成して、当該電極が回路と下部配線または上部配線とを接続する構成や、上蓋30内にビアを形成し、当該ビアの内部に導電性材料を充填して配線を設け、当該配線が交流電源と下部配線または上部配線とを接続する構成が用いられてもよい。
【0046】
絶縁層Sは、金属層E2の第1領域E2Aと第3領域E2Cとの間、および、金属層E2の第2領域E2Bと第3領域E2Cとの間に介在しており、これらの間を電気的に絶縁している。
【0047】
連結配線193は、金属層E2の第1領域E2Aと第2領域E2Bとの間を接続している。連結配線193は、金属層E2の第1領域E2Aと第3領域E2Cとの間、および、金属層E2の第2領域E2Bと第3領域E2Cとの間の絶縁を確保した状態で、金属層E2の第1領域E2Aと第2領域E2Bとの間を電気的に接続している。
【0048】
圧電薄膜F3は、印加された電圧を振動に変換する圧電膜であり、例えば、AlN(窒化アルミニウム)等の窒化物や酸化物を主成分とすることができる。具体的には、圧電薄膜F3は、ScAlN(窒化スカンジウムアルミニウム)により形成することができる。ScAlNは、窒化アルミニウムにおけるアルミニウムの一部をスカンジウムに置換したものである。また、圧電薄膜F3は、例えば、1μmの厚さを有するが、0.2μmから2μm程度を用いることも可能である。
【0049】
圧電薄膜F3は、金属層E1、E2によって圧電薄膜F3に印加される電界に応じて、XY平面の面内方向すなわちY軸方向に伸縮する。この圧電薄膜F3の伸縮によって、振動腕135は、下蓋20および上蓋30の内面に向かってその開放端を変位させ、面外の屈曲振動モードで振動する。
【0050】
(5.共振子の機能)
図5を参照して共振子10の機能について説明する。本実施形態では、外側の振動腕135A、135Dに印加される電界の位相と、内側の振動腕135B、135Cに印加される電界の位相とが互いに逆位相になるように設定される。これにより、外側の振動腕135A、135Dと内側の振動腕135B、135Cとが互いに逆方向に変位する。例えば、外側の振動腕135A、135Dが上蓋30の内面に向かって開放端を変位すると、内側の振動腕135B、135Cは下蓋20の内面に向かって開放端を変位する。
【0051】
これによって、本実施形態に係る共振子10では、逆位相の振動時、すなわち、
図5に示す振動腕135Aと振動腕135Bとの間でY軸に平行に延びる中心軸r1回りに振動腕135Aと振動腕135Bとが上下逆方向に振動する。また、振動腕135Cと振動腕135Dとの間でY軸に平行に延びる中心軸r2回りに振動腕135Cと振動腕135Dとが上下逆方向に振動する。これによって、中心軸r1とr2とで互いに逆方向の捩れモーメントが生じ、基部130で屈曲振動が発生する。
【0052】
本実施形態に係る共振子10では、外側の振動腕135A、135Dのそれぞれの金属層E2が基部130において連結配線193により連結されている。そのため、例えば、外側の振動腕135A、135Dを互いに連結する連結配線を保持部140などにおいて迂回して引き回した場合に比して、連結配線193の配線距離が短くなり、連結配線193の寄生容量が抑えられる。これにより、共振子10の発振回路による発振を安定化させることができる。また、連結配線193の配線距離が短くなることで、共振子10の小型化にも寄与することができる。
【0053】
[第2の実施形態]
第2の実施形態以降では第1の実施形態と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については実施形態毎には逐次言及しない。
【0054】
図6は、本実施形態に係る共振子10の構造の一例を概略的に示す平面図である。以下に、本実施形態に係る共振子10の詳細構成のうち、第1の実施形態との差異点を中心に説明する。本実施形態に係る共振子10は、第1の実施形態で説明した連結配線193について、外側の振動腕135A、135Dのそれぞれの金属層E2が基部130において連結配線193により連結されている点では共通するものの、連結配線193の周辺構成が第1実施形態とは異なる。
【0055】
具体的には、
図7に示すように、本実施形態に係る共振子10では、連結配線193の表面には、絶縁層SAが積層されている。絶縁層SAは、連結配線193の表面が外部に露出することを抑制している。なお、
図6の平面図では、説明の便宜上、
図7の絶縁層SAの記載を省略している。
【0056】
本実施形態に係る共振子10では、連結配線193の表面が絶縁層SAにより積層されることで、連結配線193に異物が付着しにくくなり、連結配線193において電気の短絡(ショート)が発生することを抑制できる。
【0057】
[第3実施形態]
図8は、本実施形態に係る共振子10の構造の一例を概略的に示す平面図である。以下に、本実施形態に係る共振子10の詳細構成のうち、第1の実施形態との差異点を中心に説明する。本実施形態に係る共振子10は、第1の実施形態で説明した連結配線193の周辺構成が第1実施形態とは異なる。
【0058】
(a)保持腕113
本実施形態では、保持腕113は、一端が枠体140cに接続されており、そこから枠体140bに向かって延びている。そして、保持腕113は、枠体140dに向かう方向(X軸方向)に屈曲して延びており、そこから枠体140aに向かう方向(Y軸方向)に屈曲して、他端が枠体140dに接続されている。保持腕113は、X軸方向に延びる部分において、一つの接続部195を介して基部130の後端131Bと接続されている。
【0059】
(b)配線191、191A、192
【0060】
図8に示す例では、配線191は、金属層E2の第1領域E2Aから枠体140dの方向へ延び、そこから枠体140bの方へ屈曲し、接続部195を通って保持腕113へと延びる。さらに、配線191は、保持腕113上において、保持腕113に沿って枠体140cまで延び、保持腕113と枠体140cとの接続部において屈曲し、枠体140bの方向へ延び、共振子10の外部に引き出される。
【0061】
配線191Aは、金属層E2の第2領域E2Bから枠体140cの方向へ延び、そこから枠体140bの方へ屈曲し、接続部195を通って保持腕113まで延びている。
【0062】
配線192は、金属層E2の第3領域E2Cから枠体140cの方向へ延び、そこから枠体140bの方へ屈曲し、接続部195を通って保持腕113へと延びる。さらに、配線192は、保持腕113上において、保持腕113に沿って枠体140dまで延び、保持腕113と枠体140dとの接続部において屈曲し、枠体140bの方向へ延び、共振子10の外部に引き出される。
【0063】
(c)連結配線193
連結配線193は、X軸方向における外側の振動腕135A、135Dのそれぞれの金属層E2から延びた配線191、191Aを互いに連結する。
図8に示す例では、連結配線193は、保持腕113において配線192を間に挟んで配線191および配線191Aを直線状に連結する。この場合、配線192には絶縁層が積層され、積層された絶縁層に連結配線193が設けられている。
【0064】
本実施形態に係る共振子10は、外側の振動腕135A、135Dのそれぞれの金属層E2を連結する連結配線193が保持腕113に設けられている。これにより、振幅の小さい箇所に連結配線193が設けられるため、共振子10の振動特性を安定化させることができる。
【0065】
[第4実施形態]
図9は、本実施形態に係る共振子10の構造の一例を概略的に示す平面図である。以下に、本実施形態に係る共振子10の詳細構成のうち、第1の実施形態との差異点を中心に説明する。本実施形態に係る共振子10は、第1の実施形態で説明した連結配線19
3の周辺構成が第1実施形態とは異なる。
【0066】
(a)保持腕113
本実施形態では、保持腕113は、一端が枠体140cに接続されており、そこから枠体140bに向かって延びている。そして、保持腕113は、枠体140dに向かう方向(X軸方向)に屈曲して延びており、そこから枠体140aに向かう方向(Y軸方向)に屈曲して、他端が枠体140dに接続されている。保持腕113は、X軸方向に延びる部分において、二つの接続部195A、195Bを介して基部130の後端131Bと接続されている。
【0067】
(b)配線191、191A、192
【0068】
図9に示す例では、配線191は、金属層E2の第1領域E2Aから枠体140dの方向へ延び、そこから枠体140bの方へ屈曲し、接続部195Aを通って保持腕113へと延びる。さらに、配線191は、保持腕113上において、保持腕113に沿って枠体140cまで延び、保持腕113と枠体140cとの接続部において屈曲し、枠体140bの方向へ延び、共振子10の外部に引き出される。
【0069】
配線191Aは、金属層E2の第2領域E2Bから枠体140cの方向へ延び、そこから枠体140bの方へ屈曲し、接続部195Bを通って保持腕113まで延びている。
【0070】
配線192は、金属層E2の第3領域E2Cから枠体140cの方向へ延び、そこから枠体140bの方へ屈曲し、接続部195Bを通って保持腕113へと延びる。さらに、配線192は、保持腕113上において、保持腕113に沿って枠体140dまで延び、保持腕113と枠体140dとの接続部において屈曲し、枠体140bの方向へ延び、共振子10の外部に引き出される。
【0071】
(c)連結配線193
連結配線193は、X軸方向における外側の振動腕135A、135Dのそれぞれの金属層E2から延びた配線191、191Aを互いに連結する。
図9に示す例では、連結配線193は、保持腕113において配線192を間に挟んで配線191および配線191Aを直線状に連結する。この場合、配線192には絶縁層が積層され、積層された絶縁層に連結配線193が設けられている。また、連結配線193は、2つの接続部195A、195Bに隣接する位置に設けられている。2つの接続部1
95A、195Bに隣接する位置とは、例えば、保持腕113におけるX軸方向に延びる部分のY軸方向の中心位置よりも基部130側の位置である。
【0072】
本実施形態に係る共振子10は、連結配線193は、2つの接続部195A、195Bに隣接する位置に設けられている。これにより、基部130と保持腕113とを接続する接続部195A、195Bの強度を増大させることができる。
【0073】
[第5実施形態]
図10は、本実施形態に係る共振子10の構造の一例を概略的に示す平面図である。以下に、本実施形態に係る共振子10の詳細構成のうち、第1の実施形態との差異点を中心に説明する。本実施形態に係る共振子10は、第1の実施形態で説明した連結配線19
3の周辺構成が第1実施形態とは異なる。
【0074】
(a)保持腕113
本実施形態では、保持腕113は、一端が枠体140cに接続されており、そこから枠体140bに向かって延びている。そして、保持腕113は、枠体140dに向かう方向(X軸方向)に屈曲して延びており、そこから枠体140aに向かう方向(Y軸方向)に屈曲して、他端が枠体140dに接続されている。保持腕113は、X軸方向に延びる部分において、三つの接続部195A、195B、195Cを介して基部130の後端131Bと接続されている。
【0075】
(b)配線191、191A、192
【0076】
図10に示す例では、配線191は、金属層E2の第1領域E2Aから枠体140dの方向へ延び、そこから枠体140bの方へ屈曲し、接続部195Aを通って保持腕113へと延びる。さらに、配線191は、保持腕113上において、保持腕113に沿って枠体140cまで延び、保持腕113と枠体140cとの接続部において屈曲し、枠体140bの方向へ延び、共振子10の外部に引き出される。
【0077】
配線191Aは、金属層E2の第2領域E2Bから枠体140cの方向へ延び、そこから枠体140bの方へ屈曲し、接続部195Cを通って保持腕113まで延びている。
【0078】
配線192は、金属層E2の第3領域E2Cから枠体140bの方へ延び、接続部195Bを通って保持腕113へと延びる。さらに、配線192は、保持腕113上において、保持腕113に沿って枠体140dまで延び、保持腕113と枠体140dとの接続部において屈曲し、枠体140bの方向へ延び、共振子10の外部に引き出される。
【0079】
(c)連結配線193
連結配線193は、X軸方向における外側の振動腕135A、135Dのそれぞれの金属層E2から延びた配線191、191Aを互いに連結する。
図10に示す例では、連結配線193は、保持腕113において配線192を間に挟んで配線191および配線191Aを直線状に連結する。この場合、配線192には絶縁層が積層され、積層された絶縁層に連結配線193が設けられている。また、連結配線193は、3つの接続部195A、195B、195Cに隣接する位置に設けられている。3つ以上の接続部1
95A、195Bに隣接する位置とは、例えば、保持腕113におけるX軸方向に延びる部分のY軸方向の中心位置よりも基部130側の位置である。
【0080】
本実施形態に係る共振子10は、連結配線193は、3つの接続部195A、195B、195Cに隣接する位置に設けられている。これにより、基部130と保持腕113とを接続する接続部195A、195B、195Cの強度を増大させることができる。
【0081】
また、本実施形態に係る共振装置1は、上述の共振子10と、共振子10を間に挟んで互いに対向して設けられた上蓋30及び下蓋20と、外部電極とを備える。本実施形態に係る共振装置1は、振動部120上に形成された保護膜に電荷が帯電することを抑制できるため、振動部120に帯電した電荷による共振周波数の変動を防止することができる。
【0082】
以下に、本発明の実施形態の一部又は全部を付記し、その効果について説明する。なお、本発明は以下の付記に限定されるものではない。
【0083】
本発明の一態様によれば、前端および前端に対向する後端を有する基部と、固定端が基部の前端に接続されかつ前端から離れる方向に延びている複数の振動腕とを有し、複数の振動腕が、少なくとも一つの第1振動腕、および、少なくとも一つの第1振動腕を含む第1振動腕群の長手方向と交差する方向の両側に位置する一対の第2振動腕を含む、振動部と、振動部の周囲の少なくとも一部に設けられた保持部と、一端が基部に接続され、かつ、他端が保持部に接続された保持腕と、を備え、複数の振動部は、圧電膜と、圧電膜を間に挟んで対向して設けられた下部電極および上部電極とを有し、一対の第2振動腕のそれぞれの上部電極を互いに連結する連結配線が、基部および保持腕の少なくとも一方の領域に設けられる、共振子が提供される。
【0084】
一態様として、少なくとも一つの第1振動腕における上部電極には絶縁層が積層され、積層された絶縁層に連結配線が設けられる、共振子が提供される。
【0085】
一態様として、保持腕は、基部に接続された2つの接続部を含み、連結配線は、複数の振動腕の長手方向と交差する方向において、2つの接続部と重なる位置に設けられる、共振子が提供される。
【0086】
一態様として、保持腕は、基部に接続された3つ以上の接続部を含み、連結配線は、複数の振動腕の長手方向と交差する方向において、3つ以上の接続部と重なる位置に設けられる、共振子が提供される。
【0087】
一態様として、前述のいずれかの共振子と、共振子を間に挟んで互いに対向して設けられた上蓋および下蓋と、一対の電極に電圧を印加する外部電極と、を備える、共振装置が提供される。
【0088】
以上説明したように、本発明の一態様によれば、配線の引き回しを簡素化することで、配線における電気容量を低減して振動特性を安定化させることができる。
【0089】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更/改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。即ち、各実施形態に当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、各実施形態が備える各要素及びその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、各実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0090】
10 共振子
30 上蓋
20 下蓋
140 保持部
140a~d 枠体
111、112、113 保持腕
120 振動部
130 基部
135A~D 振動腕
F2 Si基板
191、191A、192 配線
193 連結配線