IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電気株式会社の特許一覧

特許7400967希土類化合物を用いた植物ホルモンのセンシング方法、それを用いたセンサー、及び植物の病気感染の早期検出方法
<>
  • 特許-希土類化合物を用いた植物ホルモンのセンシング方法、それを用いたセンサー、及び植物の病気感染の早期検出方法 図1
  • 特許-希土類化合物を用いた植物ホルモンのセンシング方法、それを用いたセンサー、及び植物の病気感染の早期検出方法 図2
  • 特許-希土類化合物を用いた植物ホルモンのセンシング方法、それを用いたセンサー、及び植物の病気感染の早期検出方法 図3
  • 特許-希土類化合物を用いた植物ホルモンのセンシング方法、それを用いたセンサー、及び植物の病気感染の早期検出方法 図4
  • 特許-希土類化合物を用いた植物ホルモンのセンシング方法、それを用いたセンサー、及び植物の病気感染の早期検出方法 図5
  • 特許-希土類化合物を用いた植物ホルモンのセンシング方法、それを用いたセンサー、及び植物の病気感染の早期検出方法 図6
  • 特許-希土類化合物を用いた植物ホルモンのセンシング方法、それを用いたセンサー、及び植物の病気感染の早期検出方法 図7
  • 特許-希土類化合物を用いた植物ホルモンのセンシング方法、それを用いたセンサー、及び植物の病気感染の早期検出方法 図8
  • 特許-希土類化合物を用いた植物ホルモンのセンシング方法、それを用いたセンサー、及び植物の病気感染の早期検出方法 図9
  • 特許-希土類化合物を用いた植物ホルモンのセンシング方法、それを用いたセンサー、及び植物の病気感染の早期検出方法 図10
  • 特許-希土類化合物を用いた植物ホルモンのセンシング方法、それを用いたセンサー、及び植物の病気感染の早期検出方法 図11
  • 特許-希土類化合物を用いた植物ホルモンのセンシング方法、それを用いたセンサー、及び植物の病気感染の早期検出方法 図12
  • 特許-希土類化合物を用いた植物ホルモンのセンシング方法、それを用いたセンサー、及び植物の病気感染の早期検出方法 図13
  • 特許-希土類化合物を用いた植物ホルモンのセンシング方法、それを用いたセンサー、及び植物の病気感染の早期検出方法 図14
  • 特許-希土類化合物を用いた植物ホルモンのセンシング方法、それを用いたセンサー、及び植物の病気感染の早期検出方法 図15
  • 特許-希土類化合物を用いた植物ホルモンのセンシング方法、それを用いたセンサー、及び植物の病気感染の早期検出方法 図16
  • 特許-希土類化合物を用いた植物ホルモンのセンシング方法、それを用いたセンサー、及び植物の病気感染の早期検出方法 図17
  • 特許-希土類化合物を用いた植物ホルモンのセンシング方法、それを用いたセンサー、及び植物の病気感染の早期検出方法 図18
  • 特許-希土類化合物を用いた植物ホルモンのセンシング方法、それを用いたセンサー、及び植物の病気感染の早期検出方法 図19
  • 特許-希土類化合物を用いた植物ホルモンのセンシング方法、それを用いたセンサー、及び植物の病気感染の早期検出方法 図20
  • 特許-希土類化合物を用いた植物ホルモンのセンシング方法、それを用いたセンサー、及び植物の病気感染の早期検出方法 図21
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】希土類化合物を用いた植物ホルモンのセンシング方法、それを用いたセンサー、及び植物の病気感染の早期検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/78 20060101AFI20231212BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20231212BHJP
   G01N 27/48 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
G01N21/78 C
C09K11/06
G01N27/48 311
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022528889
(86)(22)【出願日】2021-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2021021169
(87)【国際公開番号】W WO2021246480
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2022-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2020096909
(32)【優先日】2020-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021039138
(32)【優先日】2021-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】前田 勝美
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 繁之
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3134499(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2018/0180564(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0142277(US,A1)
【文献】国際公開第2011/088540(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/78
C09K 11/06
G01N 27/48
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サリチル酸メチルをセンシングする方法であり、サリチル酸メチルを認識するレセプターに希土類化合物を用いるセンシング方法。
【請求項2】
希土類化合物がスカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)の酢酸塩、塩化物、シュウ酸塩、硝酸塩、プロピオン酸塩、イソ酪酸塩、ピバル酸塩のいずれかの化合物である請求項1に記載のセンシング方法。
【請求項3】
希土類化合物がサマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)の酢酸塩、塩化物、シュウ酸塩、硝酸塩、プロピオン酸塩、イソ酪酸塩、ピバル酸塩のいずれかの化合物である請求項1に記載のセンシング方法。
【請求項4】
希土類化合物がホスフィンオキシド誘導体と錯体を形成した化合物である請求項1に記載のセンシング方法。
【請求項5】
サリチル酸メチルが希土類化合物と反応して希土類の錯体を形成することで蛍光発光する現象を利用する請求項1~4のいずれか一項に記載のセンシング方法。
【請求項6】
希土類化合物とサリチル酸メチルの反応により電気化学的挙動が変化する現象を利用する請求項1~4のいずれか一項に記載のセンシング方法。
【請求項7】
希土類化合物とサリチル酸メチルの反応により生じる電流値の変化を利用する請求項6に記載のセンシング方法。
【請求項8】
サリチル酸メチルを検出するサリチル酸メチルセンサーであって、
i)希土類化合物を有するサリチル酸メチルの認識部と、
ii)該認識部にサリチル酸メチルが認識されたことを検出する検出部
を少なくとも備えているサリチル酸メチルセンサー。
【請求項9】
請求項8に記載のサリチル酸メチルセンサーを農作物の近傍に設置し、該センサーによりサリチル酸メチルを検出することにより農作物の病原菌感染を検出する方法。
【請求項10】
サリチル酸メチルを検出するサリチル酸メチルセンサーであって、サリチル酸メチルを認識するレセプターである希土類化合物を有するサリチル酸メチルの認識部と、該認識部にサリチル酸メチルが認識されたことを検出する検出部を少なくとも備え、該検出部が光学的及び/または電気化学的な検出素子とコンピュータを含み、該コンピュータに、
i)光学的及び/または電気化学的な検出素子からの信号を受信する段階、
ii)受信した信号を分析してサリチル酸メチルの有無及び/またはその濃度を決定する段階、並びに
iii)分析結果を出力する段階
を実行させるプログラムを有するサリチル酸メチルセンサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物が病気に感染した際に放出する植物ホルモンのセンシング方法、及び植物の病気感染を早期に検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物は、糸状菌等の病原菌の感染を受けたり、害虫等による食害を受けたり、さらに環境の変動によるストレスを受けたりすると、それに対抗して独自の防御機構が働くことが知られている。具体的には、植物は病原菌による感染を受けると感染した場所でシグナル物質であるサリチル酸を合成する。そして、サリチル酸が師管組織を経由して植物体内を移動し、未感染組織に防御機構を誘導することで、結果として病原菌に対して全身で抵抗性を発現する(全身獲得抵抗性)。また、害虫による食害を受けることでエチレンやジャスモン酸を合成し、サリチル酸と同様に植物体内を移動することで全身に防御機構を誘導する(誘導全身抵抗性)。さらに乾燥、低温、塩害などの生育環境の変動に対してはアブシジン酸を植物体内で合成し環境ストレスに適用することが知られている。
【0003】
また、植物は病原菌感染や害虫による食害を受けた際に、被害を受けた植物自身だけでなく、周囲の植物にも知らせるメカニズムが存在することが知られている(非特許文献1)。具体的には、病原菌に感染した際に合成されるサリチル酸はメチル化されてサリチル酸メチルになり、揮発性シグナル物質として植物から放出されて周囲の植物に病原菌の感染を知らせることで予め防御機構を促す。また、害虫の被害の際に合成されるジャスモン酸もメチル化されてジャスモン酸メチルとなり揮発性シグナルとなり植物から放出されることで、周囲の植物に予め抵抗性を誘導することが知られている。
【0004】
このように植物は病害虫による被害を受けた際にシグナル物質として植物ホルモンを放出することが知られており、そのシグナル物質をいち早くセンシングすることで病害虫被害を早期に検出することが可能となる。
【0005】
害虫被害の際に揮発性シグナルとして放出されるジャスモン酸をセンシングすることで被害の早期発見する方法として、栽培している農作物の傍に、発光タンパク質遺伝子を有するモニター植物を一緒に栽培し、そして農作物が害虫被害を受けた際に放出されたジャスモン酸メチルをモニター植物が感知してモニター植物が発光する現象を利用する方法が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2019/082942号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】J. Japan Association on Odor Environment, Vol.36, No.3, 153-155(2005).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、農作物を含む植物の栽培において、病気感染した際に放出される植物ホルモンであるサリチル酸メチルをセンシングする方法、及び該センサーを提供し、それによって植物の病気感染を早期に、その場で検出する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、揮発性植物ホルモンであるサリチル酸メチルを選択的に認識して錯体を形成する希土類化合物をセンサーのレセプターとして利用することを特徴とする。また、本発明はサリチル酸メチルと希土類化合物が反応して生成した錯体の蛍光発光現象を利用することによって、植物の病気感染を早期に検出することを特徴とする。さらに、本発明はサリチル酸メチルと希土類化合物が反応して、電気化学的挙動が変化する現象を利用することによって、植物の病気感染を早期に検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の希土類化合物をセンサーのレセプターに用いることにより、植物が病原菌に感染した際に放出される揮発性植物ホルモンのサリチル酸メチルを選択的にセンシングでき、さらにサリチル酸メチルと希土類化合物が反応して形成された錯体からの蛍光発光現象を利用したり、電気化学的挙動の変化を利用することで植物の病原菌による感染を早期に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1において蛍光発光を確認した写真である。
図2】比較例1において蛍光発光を確認した写真である。
図3】実施例2において蛍光発光を確認した写真である。
図4】実施例3において蛍光発光を確認した写真である。
図5】実施例4において蛍光発光を確認した写真である。
図6】比較例2において蛍光発光を確認した写真である。
図7】実施例5において得られた蛍光発光を確認した写真である。
図8】比較例3において得られた蛍光発光を確認した写真である。
図9】実施例6において得られた蛍光発光を確認した写真である。
図10】比較例4において得られた蛍光発光を確認した写真である。
図11】実施例7において得られた蛍光発光を確認した写真である
図12】比較例5において得られた蛍光発光を確認した写真である。
図13】実施例8において得られた蛍光発光を確認した写真である。
図14】実施例9において得られた蛍光発光を確認した写真である。
図15】実施例10において得られた蛍光スペクトル曲線である。
図16】実施例11において得られた蛍光発光を確認した写真である。
図17】実施例12において得られた蛍光発光を確認した写真である。
図18】実施例13における蛍光スペクトル曲線である。
図19】実施例13において得られた蛍光強度をプロットしたグラフである。
図20】実施例14において得られた電流-電圧曲線(サイクリックボルタモグラム)を示すグラフである。
図21】実施例15において得られた蛍光スペクトル曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための形態について図面等を用いて説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がされているが、発明の範囲を以下に限定するものではない。
【0013】
本発明者らは、上述の課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、植物が病原菌に感染した際に放出する揮発性シグナル物質であるサリチル酸メチルは希土類化合物を用いることで選択的にセンシングできることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
以下に、本実施形態に係るについて詳述する。
【0015】
<サリチル酸メチルのレセプター:希土類化合物>
サリチル酸メチルをセンシングするためのレセプターに利用できる希土類化合物としては、希土類元素の塩、例えば、希土類元素に属するスカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)の塩、特に、酢酸塩、塩化物、シュウ酸塩、硝酸塩、プロピオン酸塩、イソ酪酸塩、ピバル酸塩等の化合物が挙げられる。具体的には、酢酸スカンジウム水和物、酢酸イットリウム四水和物、酢酸ランタン水和物、酢酸セリウム一水和物、酢酸プラセオジム一水和物、酢酸ネオジム一水和物、酢酸サマリウム水和物、酢酸ユウロピウム水和物、酢酸ガドリニウム四水和物、酢酸テルビウム四水和物、酢酸ジスプロシウム四水和物、酢酸ホルミウム四水和物、酢酸エルビウム四水和物、酢酸ツリウム四水和物、酢酸イッテルビウム四水和物、酢酸ルテチウム四水和物、塩化ユウロピウム六水和物、塩化テルビウム六水和物、塩化ジスプロシウム六水和物、硝酸テルビウム六水和物、シュウ酸テルビウム十水和物、プロピオン酸テルビウム、イソ酪酸テルビウム、ピバル酸テルビウム等が挙げられるが、これらだけに限定されるものではない。
【0016】
例えば、酢酸テルビウムはサリチル酸メチルと下記式(1)に示す反応により錯体を形成することでサリチル酸メチルを選択的に認識することができる。
【0017】
【化1】
【0018】
また、希土類元素の塩がホスフィンオキシド誘導体と錯体を形成した化合物も利用できる。ホスフィンオキシド誘導体としては、トリフェニルホスフィンオキシド、トリブチルホスフィンオキシド、トリヘキシルホスフィンオキシド、トリシクロヘキシルホスフィンオキシド、トリス(4-メトキシフェニル)ホスフィンオキシド、4-(ジメチルアミノ)フェニルジフェニルホスフィンオキシド、トリ(2-チエニル)ホスフィンオキシド、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンジオキシド、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタンジオキシド、ビス[2-(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテルジオキシド、4,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)-9,9-ジメチルキサンテンジオキシド等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
これら希土類元素の塩のホスフィンオキシド誘導体は、希土類元素の塩とホスフィンオキシドをメタノール中で加熱反応させることで合成される。
例えば、下記式(2)で示すように酢酸テルビウムとトリフェニルホスフィンオキシドをメタノール中4時間加熱還流させることで酢酸テルビウムとトリフェニルホスフィンオキシドの錯体が合成される。
【0019】
【化2】
そして、酢酸テルビウムとホスフィンオキシドの錯体はサリチル酸メチルと下記式(3)に示す反応により錯体を形成することでサリチル酸メチルを選択的に認識することができる。
【0020】
【化3】
【0021】
よって、本発明の一部の実施形態は、希土類化合物とサリチル酸メチルとを反応させて錯体を形成する工程を含む、サリチル酸メチルの検出方法に関する。
【0022】
また、本発明の一部の実施形態は、サリチル酸メチルを選択的に認識するレセプターとして、希土類化合物を用いることを特徴とする、サリチル酸メチルのセンシング方法に関する。
【0023】
一部の実施形態では、希土類化合物として、酢酸テルビウム(III)四水和物が用いられうる。また、一部の実施形態では、希土類化合物として、酢酸ジスプロシウム(III)四水和物が用いられる。また、一部の実施形態では、希土類化合物として、酢酸ガドリニウム(III)四水和物が用いられる。
【0024】
一部の実施形態では、希土類化合物とサリチル酸メチルとの反応は溶液中で行われる。溶液は、例えば、ジメチルスルホキシド溶液、メタノール溶液、または水溶液でありうるが、これらに限定されるものではない。一部の実施形態において、希土類化合物の濃度は、例えば、0.00001mol/L~5mol/Lの範囲内、例えば、0.00004mol/L~1mol/Lの範囲内の濃度でありうる。
【0025】
一部の実施形態では、希土類化合物とサリチル酸メチルとの反応は希土類化合物を含有する固体媒体中で行われる。固体媒体は、例えば、紙またはガラス(例えば、ガラス繊維、多孔質ガラス基板等)、または樹脂(例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ナイロン樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンオキサイド、水溶性ポリマー(セルロース系、アガロース、でんぷん系、アルギン酸ナトリウム、アクリル酸系、アクリルアミド系、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン等)でありうるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
<蛍光発光現象>
希土類化合物とサリチル酸メチルの反応により生成した錯体は、新たに蛍光発光を示す。具体的には、希土類化合物とサリチル酸メチルの反応で形成された錯体に、波長が200~400nmの励起光をあてることで蛍光発光を示す。一方、希土類化合物のみではほとんど蛍光発光を示さず、これによってサリチル酸メチルを検出することが可能となる。
【0027】
よって、本発明の一部の実施形態は、(i)希土類化合物と、サリチル酸メチルとを反応させて錯体を形成する工程、(ii)錯体に励起光をあてる工程、(iii)錯体が発する蛍光を検出する工程を含む、サリチル酸メチルの検出方法に関する。一部の実施態様では、励起波長として200~400nmの範囲内の適切な波長が選択される。さらに、一部の実施形態では、検出された蛍光の強度をあらかじめ決められた参照値と比較することにより、サリチル酸メチルの濃度を決定する工程も実施されうる。
【0028】
また、本発明の一部の実施形態は、サリチル酸メチルが、希土類化合物と反応して、希土類の錯体を形成することで蛍光発光する現象を利用することを特徴とする、サリチル酸メチルのセンシング方法に関する。
【0029】
<電気化学的挙動>
希土類化合物とサリチル酸メチルの反応により生成した錯体は、レセプターの希土類化合物とは異なる電気化学的挙動を示す。具体的には、希土類化合物とサリチル酸メチルから成る錯体を含有する電気化学セルのサイクリックボルタンメトリの測定により、ある特定の電位付近で電流値の大きな変化が生ずる。これによって、この電流値をモニターすることでサリチル酸メチルを検出することが可能となる。
【0030】
本発明の一部の実施形態は、(i)溶液中で希土類化合物とサリチル酸メチルとを反応させて錯体を形成する工程、(ii)一定の電圧下で流れる電流を測定する工程、(iii)錯体の形成により生じる電流値の変化を検出する工程を含む、サリチル酸メチルの検出方法に関する。一部の実施態様では、電圧の値として-1~2V(vs.Normal Hydrogen Electrode(NHE))の範囲内の適切な値が選択される。溶液は、支持電解質として、例えば、テトラブチルアンモニウムパークロレートを含みうるが、これに限定はされない。さらに、一部の実施形態では、検出された電流値の変化をあらかじめ決められた参照値と比較することにより、サリチル酸メチルの濃度を決定する工程も実施されうる。
【0031】
また、本発明の一部の実施形態は、希土類化合物が、サリチル酸メチルとの反応により錯体を生成し、その錯体の電気化学的挙動が希土類化合物とは異なる現象を利用する、サリチル酸メチルのセンシング方法に関する。
【0032】
さらに、本発明の一部の実施形態は、希土類化合物が、サリチル酸メチルとの反応により錯体を生成し、その錯体のある電位領域での電流値が希土類化合物とは異なる現象を利用する、サリチル酸メチルのセンシング方法に関する。
【0033】
一部の実施形態において、本発明のサリチル酸メチルのセンシング方法は、農作物の病原菌感染の検出のために用いられうる。
【0034】
<サリチル酸メチルセンサー>
本発明の希土類化合物をレセプターに用いたサリチル酸メチルセンサーは、少なくともサリチル酸メチルの認識部と、該認識部にサリチル酸メチルが認識されたことを検出する検出部から構成される。認識部には、少なくともレセプターである希土類化合物を含む。希土類化合物は、サリチル酸メチル以外の他の植物ホルモン、例えばジャスモン酸メチルとは反応せず認識しないため、サリチル酸メチルを選択的に認識することができる。前記検出部は、前記サリチル酸メチルの認識部にサリチル酸メチルが認識されたことを光学的、及び/または電気化学的に検出できるように構成されている。例えば、光学的な検出部では、希土類化合物とサリチル酸メチルで生成した錯体の蛍光発光を検出するため、少なくとも励起光源と検出素子から構成され、蛍光強度の変化からサリチル酸メチルの検出並びにその濃度を測定する。また、電気化学的な検出部では電気化学的挙動の変化を検出するため、例えば希土類化合物とサリチル酸メチルの反応で生成した錯体の酸化還元反応により生じる電流を検出するように電極を有する電気化学セル(検出素子)を構築して、該電気化学セルの電気化学的挙動の変化(例えば、ある電位での電流値の変化)を用いてサリチル酸メチルの検出、及びその濃度を測定する。
【0035】
よって、本発明の一部の実施形態は、サリチル酸メチルを検出するサリチル酸メチルセンサーであって、サリチル酸メチルを選択的に認識するレセプターである希土類化合物を有するサリチル酸メチルの認識部と、該認識部にサリチル酸メチルが認識されたことを検出する検出部を少なくとも備えていることを特徴とするサリチル酸メチルセンサーに関する。一部の実施形態において、本発明のサリチル酸メチルセンサーは、農作物が病原菌に感染した際に放出される植物ホルモンのサリチル酸メチルを検出する。よって、本発明のサリチル酸メチルセンサーは、農作物の病原菌感染検出用のセンサーとして用いられうる。一部の実施形態において、本発明のサリチル酸メチルセンサーは、ジャスモン酸メチルに比べて、サリチル酸メチルを選択的に検出することができる。
【0036】
また、本発明の一部の実施形態は、サリチル酸メチルを検出するサリチル酸メチルセンサーであって、(i)希土類化合物を有するサリチル酸メチルの認識部と、(ii)該認識部にサリチル酸メチルが認識されたことを光学的に検出する検出部を少なくとも備えていることを特徴とするサリチル酸メチルセンサーに関する。一部の実施形態において、光学的な検出部は、少なくとも励起光源と検出素子とを含む。一部の実施形態において、本発明のサリチル酸メチルセンサーは、観測された蛍光強度の変化に基づき、サリチル酸メチルの検出及び/または濃度測定を行うことができる。
【0037】
さらに、本発明の一部の実施形態は、サリチル酸メチルを検出するサリチル酸メチルセンサーであって、(i)希土類化合物を有するサリチル酸メチルの認識部と、(ii)該認識部にサリチル酸メチルが認識されたことを電気化学的に検出する検出部を少なくとも備えていることを特徴とするサリチル酸メチルセンサーに関する。一部の実施形態において、電気化学的な検出部は、希土類化合物とサリチル酸メチルが形成する錯体の酸化還元反応により生じる電流を検出する電極を有する電気化学セルを含む。一部の実施形態において、本発明のサリチル酸メチルセンサーは、電気化学セルの電流値の変化に基づき、サリチル酸メチルの検出及び/または濃度測定を行うことができる。
【0038】
一部の実施態様では、検出部は、サリチル酸メチルの検出及び/または濃度測定を処理するプログラムを実行するコンピュータを含みうる。そのようなプログラムは、例えば、コンピュータに、光学的及び/または電気化学的な検出素子からの信号を受信する段階、受信した信号を分析してサリチル酸メチルの有無及び/またはその濃度を決定する段階、並びに、分析結果を出力する段階を実行させるプログラムでありうる。一部の実施態様において、受信した信号の分析は、例えば、受信した信号をあらかじめ決められた参照値と比較することにより、サリチル酸メチルの有無及び/またはその濃度を決定することを含みうる。また、一部の実施態様において、分析結果は、例えば、センサーに接続されたディスプレイ装置、またはネットワークを介して接続された他の機器等に出力されうる。
【0039】
よって、本発明の一部の実施形態は、サリチル酸メチルを検出するサリチル酸メチルセンサーであって、サリチル酸メチルを選択的に認識するレセプターである希土類化合物を有するサリチル酸メチルの認識部と、該認識部にサリチル酸メチルが認識されたことを検出する検出部を少なくとも備え、該検出部が検出素子とコンピュータを含むことを特徴とし、コンピュータに、(i)光学的及び/または電気化学的な検出素子からの信号を受信する段階、(ii)受信した信号を分析してサリチル酸メチルの有無及び/またはその濃度を決定する段階、並びに(iii)分析結果を出力する段階を実行させるプログラムを有するサリチル酸メチルセンサーに関する。
【0040】
<農作物の病原菌感染を早期に検出する方法>
本発明のサリチル酸メチルセンサーの用途の一つとして、サリチル酸メチルセンサーを農作物が植えられている傍らに設置し、センサーによりサリチル酸メチルを検出することによって、農作物の病原菌感染を早期に検出することが可能である。
【0041】
よって、本発明の一部の実施形態は、サリチル酸メチルセンサーを農作物の近傍に設置し、該センサーによりサリチル酸メチルを検出することにより農作物の病原菌感染を検出する方法に関する。一部の実施態様において、サリチル酸メチルセンサーは、サリチル酸メチルを選択的に認識するレセプターである希土類化合物を有するサリチル酸メチルの認識部と、該認識部にサリチル酸メチルが認識されたことを検出する検出部を少なくとも備えていることを特徴とする、サリチル酸メチルセンサーである。また、一部の実施態様において、サリチル酸メチルセンサーは、(i)希土類化合物を有するサリチル酸メチルの認識部と、(ii)該認識部にサリチル酸メチルが認識されたことを光学的及び/又は電気化学的に検出する検出部を少なくとも備えていることを特徴とするサリチル酸メチルセンサーである。
【0042】
監視対象となりうる農作物としては、例えば、キュウリ、スイカ、トマト、ナス、ピーマン、パプリカ、シシトウ、メロン、ハクサイ、キャベツ、ダイコン、レタス、ネギ、ブロッコリー、タマネギ、ニンニク、ヤマノイモ、アスパラガス、ニンジン、バレイショ、セルリー、タバコ、イネ、イチゴが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0043】
検出されうる病害としては、例えば、輪紋病、白星病、褐色輪紋病、葉かび病、萎凋病、根腐萎凋病、半身萎凋病、褐色根腐病、灰色疫病、根腐病、黒点根腐病、白絹病、苗立枯病、褐斑病、ベと病、うどんこ病、灰色かび病、炭疽病、黒星病、菌核病、つる枯病、斑点病、疫病、モザイク病、黄化えそ病、黄化葉巻病、青枯病、軟腐病、かいよう病、茎えそ細菌病、黒班細菌病、斑点細菌病等が挙げられるが、これらに限定はされず、また、検出されうる病原菌感染としては、上記の病害の原因菌による感染が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0044】
本開示の文脈において、センサーを農作物の近傍に設置すると言った場合、用語「近傍」の例としては、例えば、監視対象の農作物から2m以内、1m以内、75cm以内、50cm以内、40cm以内、30cm以内、20cm以内、10cm以内、または5cm以内の距離が挙げられるが、これらに限定はされず、適切な距離が種々の要因を考慮して適宜選択される。当業者であれば、センサーを設置する位置を様々な条件を考慮した上で適宜設定することが可能であろう。
【0045】
さらに、本発明の一部の実施形態は、農作物の病原菌感染の検出における、サリチル酸メチルセンサーの使用に関する。また、本発明の一部の実施形態は、サリチル酸メチルセンサーの製造における、希土類化合物の使用に関する。
【実施例
【0046】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
酢酸テルビウム(III)四水和物(TbA)0.05gを水2mlに溶解した溶液0.2mlを円形ろ紙(45mmΦ)に滴下し乾燥させて、TbAを含むろ紙を得た。得られたろ紙にUVランプ(波長365nm)で励起させて蛍光発光があるか確認した(図1(a))。次にそのろ紙に植物が病原菌に感染した際に放出するサリチル酸メチル(MSA)のアセトニトリル溶液(0.1mol/L)0.03mlを滴下し乾燥させ、得られたろ紙に同様にUVランプで励起させて蛍光発光があるか確認した(図1(b))。その結果、TbAは単独では蛍光を発しないが、サリチル酸メチルと反応して蛍光発光を示し、サリチル酸メチルをセンシングできることが分かった。
【0048】
(比較例1)
酢酸テルビウム(III)四水和物(TbA)0.05gを水2mlに溶解した溶液0.2mlを円形ろ紙(45mmΦ)に滴下し乾燥させて、TbAを含むろ紙を得た。得られたろ紙にUVランプ(波長365nm)で励起させて蛍光発光があるか確認した(図2(a))。次にそのろ紙に植物が害虫被害を受けた際に放出するシグナル物質であるジャスモン酸メチルのアセトニトリル溶液(0.1mol/L)0.03mlを滴下し乾燥させ、得られたろ紙に同様にUVランプで励起させて蛍光発光があるか確認した(図2(b))。その結果、TbAはジャスモン酸メチルとは反応せず、蛍光発光を示ないことが分かった。
【0049】
実施例1と比較例1の結果から、TbAは植物が病原菌感染時に放出するサリチル酸メチルを選択的にセンシングできることが分かった。
【0050】
(実施例2)
酢酸テルビウム(III)四水和物(TbA)0.05gを水2mlに溶解した溶液0.2mlを円形ろ紙(45mmΦ)に滴下し乾燥させて、TbAを含むろ紙を得た。次にこのろ紙とサリチル酸メチル0.05gをシャーレにいれたものをデシケータ内に直接接触しないように静置し保管した。1時間後にろ紙を取り出し、ろ紙にUVランプ(波長365nm)で励起させて蛍光発光があるか評価した結果、黄緑色の蛍光が確認された(図3)。この結果から、植物が病原菌感染の際に放出するサリチル酸メチルを揮発性シグナルとしてセンシングできることが分かった。
【0051】
(実施例3)
酢酸テルビウム(III)四水和物(TbA)0.1gとポリメチルメタクリレート(PMMA)0.1gをジメチルスルホキシド2mlに溶解した。次にその溶液を円形ガラス基板(30mmφ)にスピンコート塗布し、その後、ホットプレート上で90℃で5分乾燥させて、TbA含有PMMA塗布膜を得た。得られたガラス基板にUVランプ(波長365nm)で励起させて蛍光発光があるか確認したところ、蛍光は確認されなかった(図4(a))。次にこのガラス基板とサリチル酸メチル0.05gをシャーレにいれたものをデシケータ内に直接接触しないように静置し保管した。21時間後にガラス基板を取り出し、ガラス基板にUVランプ(波長365nm)で励起させて蛍光発光があるか評価した結果、黄緑色の蛍光が確認された(図4(b))。この結果から、TbAは、植物が病原菌感染の際に放出するサリチル酸メチルを揮発性シグナルとしてセンシングできることが分かった。
【0052】
(実施例4)
酢酸ガドリニウム(III)四水和物(GdA)0.2gを水2mlに溶解した溶液0.2mlを円形ろ紙(45mmΦ)に滴下し乾燥させて、GdAを含むろ紙を得た。得られたろ紙にUVランプ(波長365nm)で励起させて蛍光発光があるか確認した(図5(a))。次にそのろ紙に植物が病原菌に感染した際に放出するサリチル酸メチル(MSA)のアセトニトリル溶液(0.1mol/L)0.03mlを滴下し乾燥させ、得られたろ紙に同様にUVランプで励起させて蛍光発光があるか確認した(図5(b))。その結果、GdAは単独では蛍光を発しないが、サリチル酸メチルと反応して蛍光発光を示し、サリチル酸メチルをセンシングできることが分かった。
【0053】
(比較例2)
酢酸ガドリニウム(III)四水和物(GdA)0.2gを水2mlに溶解した溶液0.2mlを円形ろ紙(45mmΦ)に滴下し乾燥させて、GdAを含むろ紙を得た。得られたろ紙にUVランプ(波長365nm)で励起させて蛍光発光があるか確認した(図6(a))。次にそのろ紙に植物が害虫被害を受けた際に放出するシグナル物質であるジャスモン酸メチルのアセトニトリル溶液(0.1mol/L)0.03mlを滴下し乾燥させ、得られたろ紙に同様にUVランプで励起させて蛍光発光があるか確認した(図6(b))。その結果、GdAはジャスモン酸メチルとは反応せず、蛍光発光を示ないことが分かった。
【0054】
実施例4と比較例2の結果から、GdAは植物が病原菌感染時に放出するサリチル酸メチルを選択的にセンシングできることが分かった。
【0055】
(実施例5)
酢酸サマリウム(III)水和物(SmA)0.1gをジメチルスルホキシド(DMSO)3mlに溶解し、SmA溶液を調製した。次にSmA溶液1.5mlにMSAのアセトニトリル溶液(0.1mol/L)0.2mlを加えてMSA含有のSmA溶液を調製した。得られた2種の溶液にUVランプ(波長365nm)で励起させて蛍光発光があるか確認した(図7)。その結果、SmAのみの溶液(a)では蛍光発光がみられなかったが、MSAを加えた溶液(b)では、サマリウム錯体特有の赤色の蛍光発光を示し、サリチル酸メチルをセンシングできることが分かった。
【0056】
(比較例3)
酢酸サマリウム(III)水和物(SmA)0.1gをDMSO 3mlに溶解し、SmA溶液を調製した。次にSmA溶液1.5mlにジャスモン酸メチル(MJA)のアセトニトリル溶液(0.1mol/L)0.2mlを加えてMJA含有のSmA溶液を調製した。得られた2種の溶液にUVランプ(波長365nm)で励起させて蛍光発光があるか確認した(図8)。その結果、SmAのみの溶液(a)、およびMJAを加えた溶液(b)のいずれも蛍光発光を示ないことが分かった。
【0057】
実施例5と比較例3の結果から、SmAは植物が病原菌感染時に放出するサリチル酸メチルを選択的にセンシングできることが分かった。
【0058】
(実施例6)
酢酸ジスプロシウム(III)四水和物(DyA)0.2gをメタノール2mlに溶解した溶液0.2mlを円形ろ紙(45mmΦ)に滴下し乾燥させて、DyAを含むろ紙を得た。得られたろ紙にUVランプ(波長365nm)で励起させて蛍光発光があるか確認した(図9(a))。次にそのろ紙に植物が病原菌に感染した際に放出するサリチル酸メチル(MSA)のアセトニトリル溶液(0.1mol/L)0.03mlを滴下し乾燥させ、得られたろ紙に同様にUVランプで励起させて蛍光発光があるか確認した(図9(b))。その結果、DyAは単独では蛍光を発しないが、サリチル酸メチルと反応して黄色い蛍光発光を示し、サリチル酸メチルをセンシングできることが分かった。
【0059】
(比較例4)
酢酸ジスプロシウム(III)四水和物(DyA)0.2gをメタノール2mlに溶解した溶液0.2mlを円形ろ紙(45mmΦ)に滴下し乾燥させて、DyAを含むろ紙を得た。得られたろ紙にUVランプ(波長365nm)で励起させて蛍光発光があるか確認した(図10(a))。次にそのろ紙に植物が害虫被害を受けた際に放出するシグナル物質であるジャスモン酸メチルのアセトニトリル溶液(0.1mol/L)0.03mlを滴下し乾燥させ、得られたろ紙に同様にUVランプで励起させて蛍光発光があるか確認した(図10(b))。その結果、DyAはジャスモン酸メチルとは反応せず、蛍光発光を示ないことが分かった。
【0060】
実施例6と比較例4の結果から、DyAは植物が病原菌感染時に放出するサリチル酸メチルを選択的にセンシングできることが分かった。
【0061】
(実施例7)
塩化テルビウム(III)六水和物(TbC)0.05gを水2mlに溶解した溶液0.2mlを円形ろ紙(45mmΦ)に滴下し乾燥させて、TbCを含むろ紙を得た。得られたろ紙にUVランプ(波長365nm)で励起させて蛍光発光があるか確認した(図11(a))。次にそのろ紙に植物が病原菌に感染した際に放出するサリチル酸メチル(MSA)のアセトニトリル溶液(0.1mol/L)0.03mlを滴下し乾燥させ、得られたろ紙に同様にUVランプで励起させて蛍光発光があるか確認した(図11(b))。その結果、TbCは単独では蛍光を発しないが、サリチル酸メチルと反応して蛍光発光を示し、サリチル酸メチルをセンシングできることが分かった。
【0062】
(比較例5)
塩化テルビウム(III)六水和物(TbC)0.05gを水2mlに溶解した溶液0.2mlを円形ろ紙(45mmΦ)に滴下し乾燥させて、TbCを含むろ紙を得た。得られたろ紙にUVランプ(波長365nm)で励起させて蛍光発光があるか確認した(図12(a))。次にそのろ紙に植物が害虫被害を受けた際に放出するシグナル物質であるジャスモン酸メチルのアセトニトリル溶液(0.1mol/L)0.03mlを滴下し乾燥させ、得られたろ紙に同様にUVランプで励起させて蛍光発光があるか確認した(図12(b))。その結果、TbCはジャスモン酸メチルとは反応せず、蛍光発光を示ないことが分かった。
【0063】
実施例7と比較例5の結果から、TbCは植物が病原菌感染時に放出するサリチル酸メチルを選択的にセンシングできることが分かった。
【0064】
(合成例1)
[酢酸テルビウムとトリフェニルホスフィンオキシドの錯体(TbA-TPO)]
酢酸テルビウム四水和物0.3gとトリフェニルホスフィンオキシド0.409gをメタノール15mlに溶解し、4時間加熱還流させる。放冷後、析出した結晶を濾別することで目的の酢酸テルビウムとトリフェニルホスフィンオキシドの錯体を0.177g得た。
【0065】
【化4】
【0066】
(合成例2)
[酢酸テルビウムとトリス(4-メトキシフェニル)ホスフィンオキシドの錯体(TbA-MTPO)]
酢酸テルビウム四水和物0.3gとトリス(4-メトキシフェニル)ホスフィンオキシド0.665gをメタノール15mlに溶解し、4時間加熱還流させる。放冷後、析出した結晶を濾別することで目的の酢酸テルビウムとトリス(4-メトキシフェニル)ホスフィンオキシドの錯体を0.118g得た。
【0067】
【化5】
【0068】
(実施例8)
酢酸テルビウムとトリフェニルホスフィンオキシドの錯体(TbA-TPO)0.01gをDMSO 1mlに溶解した溶液0.2mlを円形ろ紙(45mmΦ)に滴下し乾燥させて、TbA-TPOを含むろ紙を得た。得られたろ紙にUVランプ(波長365nm)で励起させて蛍光発光があるか確認した(図13(a))。次にそのろ紙に植物が病原菌に感染した際に放出するサリチル酸メチル(MSA)のアセトニトリル溶液を滴下し乾燥させ、得られたろ紙に同様にUVランプで励起させて蛍光発光があるか確認した(図13(b))。その結果、TbA-TPOは単独では蛍光を発しないが、サリチル酸メチルと反応して蛍光発光を示し、サリチル酸メチルをセンシングできることが分かった。
【0069】
また、TbA-TPOを含むろ紙(図13(c))に植物が害虫被害を受けた際に放出するシグナル物質であるジャスモン酸メチル(MJA)のアセトニトリル溶液を滴下し乾燥させ、得られたろ紙に同様にUVランプで励起させて蛍光発光があるか確認した(図13(d))。その結果、TbA-TPOはジャスモン酸メチルとは反応せず、蛍光発光を示さず、TbA-TPOは植物が病原菌感染時に放出するサリチル酸メチルを選択的にセンシングできることが分かった。
【0070】
(実施例9)
酢酸テルビウムとトリス(4-メトキシトリフェニル)ホスフィンオキシドの錯体(TbA-MTPO)0.01gをDMSO 1mlに溶解した溶液0.2mlを円形ろ紙(45mmΦ)に滴下し乾燥させて、TbA-MTPOを含むろ紙を得た。得られたろ紙にUVランプ(波長365nm)で励起させて蛍光発光があるか確認した(図14(a))。次にそのろ紙に植物が病原菌に感染した際に放出するサリチル酸メチル(MSA)のアセトニトリル溶液を滴下し乾燥させ、得られたろ紙に同様にUVランプで励起させて蛍光発光があるか確認した(図14(b))。その結果、TbA-MTPOは単独では蛍光を発しないが、サリチル酸メチルと反応して蛍光発光を示し、サリチル酸メチルをセンシングできることが分かった。
【0071】
また、TbA-MTPOを含むろ紙(図14(c))に植物が害虫被害を受けた際に放出するシグナル物質であるジャスモン酸メチル(MJA)のアセトニトリル溶液を滴下し乾燥させ、得られたろ紙に同様にUVランプで励起させて蛍光発光があるか確認した(図14(d))。その結果、TbA-MTPOはジャスモン酸メチルとは反応せず、蛍光発光を示さず、TbA-MTPOは植物が病原菌感染時に放出するサリチル酸メチルを選択的にセンシングできることが分かった。
【0072】
(実施例10)
[蛍光スペクトル測定]
酢酸テルビウム四水和物(TbA)とトリフェニルホスフィンオキシドの錯体(TbA-TPO)のDMSO溶液(濃度0.0015mol/L)0.9mlとサリチル酸メチル(MSA)のDMSO溶液(濃度0.0015mol/L)0.1mlを混合し、10分後に20倍に希釈してその溶液を石英セルに入れ、励起波長365nmで蛍光スペクトルを測定した。また、TbA-TPOのDMSO溶液(濃度0.0015mol/L)0.9mlとDMSO 0.1mlを混合し、さらに20倍に希釈してその溶液を石英セルに入れ、励起波長365nmで蛍光スペクトルを測定した。同様に、MSAのDMSO溶液(濃度0.0015mol/L)0.1mlとDMSO 0.9mlを混合し、さらに20倍に希釈してその溶液を石英セルに入れ、励起波長365nmで蛍光スペクトルを測定した。得られた蛍光スペクトル曲線を図15に示す。実線はTbA-TPO+MSAの蛍光スペクトル、破線はTbA-TPOのみの蛍光スペクトル、一点鎖線はMSAのみの蛍光スペクトルを表す。
【0073】
この結果から、TbA-TPOはそれ自身では蛍光を示さないがMSAと反応することで蛍光発光(極大波長546nm)を示すことが分かった。また、MSA単体でも480~630nmの範囲では蛍光発光を示さず、TbA-TPOとサリチル酸メチルが反応することで蛍光発光することが分かった。
【0074】
(実施例11)
[希土類塩含有アガロースゲルによるMSAの検出]
酢酸テルビウム四水和物(TbA)0.125gとアガロース1gを水49gに分散させ、95℃で加熱攪拌することでアガロースを溶解してゾル化した。その後、放冷することTbA含有のゲルを得た。得られたゲルの一部を取り出してUVランプ(波長365nm)で励起させて蛍光発光があるか確認したところ、蛍光は確認されなかった(図16(a))。
【0075】
次にこのゲルとサリチル酸メチル10mgをシャーレにいれたものをデシケータ内に直接接触しないように静置し保管した。6時間後にゲルを取り出し、UVランプ(波長365nm)で励起させて蛍光発光があるか評価した結果、黄緑色の蛍光が確認された(図16(b))。この結果から、TbA含有ゲルは、植物が病原菌感染の際に放出するサリチル酸メチルを揮発性シグナルとしてセンシングできることが分かった。
【0076】
(実施例12)
[濃度13ppmのMSAの検出]
酢酸テルビウム四水和物(TbA)0.1gを水2mlに溶解した溶液0.2mlを円形ろ紙(45mmΦ)に滴下し乾燥させて、TbAを含むろ紙を得た。得られたろ紙を、MSA濃度13ppmに調整した容量800mlのデシケータ内に設置し、3時間後にろ紙を取り出し、励起波長365nmで蛍光発光を確認した結果を図17に示す。未曝露(左)では、Tb錯体特有の黄緑色の蛍光発光が見られないが、3時間曝露後(右)には、黄緑色の蛍光発光が確認できた。この結果から、TbAは10ppmレベルのMSAをセンシングできることが分かった。
【0077】
(実施例13)
[蛍光強度の定量性評価]
TbAのDMSO溶液(濃度0.0005mol/L)0.5mlとMSAのDMSO溶液(濃度0.0005mol/L)0.5mlを加え、10分後に40倍に希釈してその溶液を石英セルに入れ、励起波長365nmで蛍光スペクトルを測定した結果、図18に示す蛍光スペクトル曲線が得られた。その時の蛍光強度が一番強いピーク波長は547nmであり、テルビウム錯体特有の蛍光発光波長を有することが分かった。次に、TbAのDMSO溶液(濃度0.0005mol/L)0.9mlとMSAのDMSO溶液(濃度0.0005mol/L)0.1mlを加え、10分後に40倍に希釈して励起波長365nmで蛍光スペクトルを測定し、波長547nmでの蛍光強度を求めた。
【0078】
同様にTbA溶液0.8mlとMSA溶液0.2mlでの蛍光強度、さらにTbA溶液0.7mlとMSA溶液0.3mlでの蛍光強度を求めた。得られた蛍光強度をプロットしたものを図19に示す。この結果から、MSAの比率が増大するとともに蛍光強度も増大しており、MSAを定量的に検出できることが分かった。
【0079】
(実施例14)
[電気化学的挙動の測定]
支持電解質としてテトラブチルアンモニウムパークロレートをDMSOに溶解し電解液を調製し(濃度:0.1mol/L)、ガラス容器に電解液10mlを入れ、作用極、対極、参照電極から成る三電極方式の電気化学セルを構成した。なお作用極にはグラッシーカーボン、対極にはPt、参照電極にはAg/Ag電極を用いた。そこにTbAのDMSO溶液(濃度:0.1mol/L)を0.1ml加え、室温でサイクリックボルタンメトリ(CV)を測定した(掃引電位:-0.8~1.2V、掃引速度:0.1V/s)。
【0080】
次にそこにサリチル酸メチル(MSA)のDMSO溶液(濃度:0.1mol/L)を0.1ml加え、同様にCV測定を行った。
【0081】
得られた電流-電圧曲線(サイクリックボルタモグラム)を図20に示す。破線はTbAのみ、実線はTbAにMSAを添加した後の測定結果である。この結果から、MSA添加後には、添加前に比べて、電位が-0.08Vと-0.46Vに新たに還元ピークが現れることが分かった。このことは、例えばMSAとの反応前後で電流値が大きく変化する電圧(Ag/Ag電極に対して-0.08Vと-0.46V)で電極に流れる電流値をモニターすることで、電流値の変化で植物ホルモンであるサリチル酸メチルをセンシングできることを示している。
【0082】
(合成例3)
[ピバル酸テルビウム]
塩化テルビウム六水和物1gを水20mlに溶解し、そこにピバル酸ナトリウム1.142gを水20mlに溶解したものを加え、室温で1時間攪拌する。析出した結晶を濾別し、水で洗浄することで白色粉末のピバル酸テルビウムを0.742g得た。
【0083】
(実施例15)
[ピバル酸テルビウムによるサリチル酸メチルの蛍光検出]
ピバル酸テルビウム(TbPv)のDMSO溶液(濃度0.0015mol/L)0.9mlとサリチル酸メチル(MSA)のDMSO溶液(濃度0.0015mol/L)0.1mlを混合し、10分後に20倍に希釈してその溶液を石英セルに入れ、励起波長365nmで蛍光スペクトルを測定した。また、TbPvのDMSO溶液(濃度0.0015mol/L)0.9mlとDMSO 0.1mlを混合し、さらに20倍に希釈してその溶液を石英セルに入れ、励起波長365nmで蛍光スペクトルを測定した。得られた蛍光スペクトル曲線を図21に示す。実線はTbPv+MSAの蛍光スペクトル、破線はTbPvのみの蛍光スペクトルを表す。この結果から、TbPvはそれ自身では蛍光を示さないがMSAと反応することで蛍光発光(極大波長546nm)を示すことが分かった。
【0084】
上記の実施形態の一部または全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、本出願の開示事項は以下の付記に限定されない。
(付記1)
サリチル酸メチルをセンシングする方法であり、サリチル酸メチルを選択的に認識するレセプターに希土類化合物を用いるセンシング方法。
(付記2)
希土類化合物がスカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)の酢酸塩、塩化物、シュウ酸塩、硝酸塩、プロピオン酸塩、イソ酪酸塩、ピバル酸塩のいずれかの化合物である付記1に記載のセンシング方法。
(付記3)
希土類化合物がサマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)の酢酸塩、塩化物、シュウ酸塩、硝酸塩、プロピオン酸塩、イソ酪酸塩、ピバル酸塩のいずれかの化合物であることを付記1に記載のセンシング方法。
(付記4)
希土類化合物がホスフィンオキシド誘導体と錯体を形成した化合物である付記1に記載のセンシング方法。
(付記5)
サリチル酸メチルが希土類化合物と反応して希土類の錯体を形成することで蛍光発光する現象を利用する付記1~4のいずれか一項に記載のセンシング方法。
(付記6)
希土類化合物とサリチル酸メチルの反応により電気化学的挙動が変化する現象を利用する付記1~5のいずれか一項に記載のセンシング方法。
(付記7)
希土類化合物とサリチル酸メチルの反応により生じる電流値の変化を利用する付記6に記載のセンシング方法。
(付記8)
サリチル酸メチルを検出するサリチル酸メチルセンサーであって、i)希土類化合物を有するサリチル酸メチルの認識部と、ii)該認識部にサリチル酸メチルが認識されたことを検出する検出部を少なくとも備えているサリチル酸メチルセンサー。
(付記9)
付記8に記載のサリチル酸メチルセンサーを農作物の近傍に設置し、該センサーによりサリチル酸メチルを検出することにより農作物の病原菌感染を検出する方法。
(付記10)
サリチル酸メチルを検出するサリチル酸メチルセンサーであって、サリチル酸メチルを選択的に認識するレセプターである希土類化合物を有するサリチル酸メチルの認識部と、該認識部にサリチル酸メチルが認識されたことを検出する検出部を少なくとも備え、該検出部が光学的及び/または電気化学的な検出素子とコンピュータを含むことを特徴とし、該コンピュータに、i)光学的及び/または電気化学的な検出素子からの信号を受信する段階、ii)受信した信号を分析してサリチル酸メチルの有無及び/またはその濃度を決定する段階、並びにiii)分析結果を出力する段階を実行させるプログラムを有するサリチル酸メチルセンサー。
(付記11)
サリチル酸メチルを検出するサリチル酸メチルセンサーを制御するプログラムであって、該サリチル酸メチルセンサーが、サリチル酸メチルを選択的に認識するレセプターである希土類化合物を有するサリチル酸メチルの認識部と、該認識部にサリチル酸メチルが認識されたことを検出する検出部を少なくとも備え、該検出部が光学的及び/または電気化学的な検出素子とコンピュータを含むことを特徴とし、該コンピュータに、i)光学的及び/または電気化学的な検出素子からの信号を受信する段階、ii)受信した信号を分析してサリチル酸メチルの有無及び/またはその濃度を決定する段階、並びにiii)分析結果を出力する段階を実行させるプログラム。
(付記12)
(i)希土類化合物と、サリチル酸メチルとを反応させて錯体を形成する工程、(ii)錯体に励起光をあてる工程、(iii)錯体が発する蛍光を検出する工程を含む、サリチル酸メチルの検出方法。
(付記13)
励起波長として200~400nmの範囲内の波長を用いる付記12に記載の検出方法。
(付記14)
検出された蛍光の強度をあらかじめ決められた参照値と比較することにより、サリチル酸メチルの濃度を決定する工程をさらに含む付記12または13に記載の検出方法。
(付記15)
(i)溶液中で希土類化合物と、サリチル酸メチルとを反応させて錯体を形成する工程、(ii)一定の電圧下で溶液に流れる電流を測定する工程、(iii)錯体の形成により生じる電流値の変化を検出する工程を含む、サリチル酸メチルの検出方法。
(付記16)
電圧の値が-1~2Vの範囲内である付記15に記載の検出方法。
(付記17)
溶液が、支持電解質として、テトラブチルアンモニウムパークロレートを含む付記15または16に記載の検出方法。
(付記18)
検出された電流値の変化をあらかじめ決められた参照値と比較することにより、サリチル酸メチルの濃度を決定する工程をさらに含む付記15~17のいずれか一項に記載の検出方法。
(付記19)
希土類化合物が、酢酸テルビウム(III)四水和物、酢酸ガドリニウム(III)四水和物、酢酸サマリウム(III)水和物、酢酸ジスプロシウム(III)四水和物、ピバル酸テルビウムおよび塩化テルビウム(III)六水和物から成る群より選択される付記12~18のいずれか一項に記載の検出方法。
(付記20)
サリチル酸メチルを検出するサリチル酸メチルセンサーであって、(i)希土類化合物を有するサリチル酸メチルの認識部と、(ii)該認識部にサリチル酸メチルが認識されたことを光学的に検出する検出部を少なくとも備えているサリチル酸メチルセンサー。
(付記21)
光学的な検出部が、少なくとも励起光源と検出素子とを含む付記20に記載のサリチル酸メチルセンサー。
(付記22)
サリチル酸メチルを検出するサリチル酸メチルセンサーであって、(i)希土類化合物を有するサリチル酸メチルの認識部と、(ii)該認識部にサリチル酸メチルが認識されたことを電気化学的に検出する検出部を少なくとも備えているサリチル酸メチルセンサー。
(付記23)
電気化学的な検出部が、希土類化合物とサリチル酸メチルが形成する錯体の酸化により生じる電流を検出する電極を有する電気化学セルを含む付記22に記載のサリチル酸メチルセンサー。
(付記24)
付記10に記載のサリチル酸メチルセンサーを農作物の近傍に設置し、該センサーによりサリチル酸メチルを検出することにより農作物の病原菌感染を検出する方法。
(付記25)
付記10に記載のサリチル酸メチルセンサーを農作物から2m以内に設置することを特徴とする、付記9または付記24に記載の農作物の病原菌感染を検出する方法。
【0085】
この出願は、2020年6月3日に出願された日本出願特願2020-96909および2021年3月11日に出願された日本出願特願2021-39138を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【0086】
以上、実施形態および実施例を参照して本願発明を説明したが、本願発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の実施形態による希土類化合物を植物ホルモンであるサリチル酸メチルを検出するレセプターに用いたセンシングは、サリチル酸メチルと選択的に錯体を形成し、且つ蛍光発光現象や電気化学的挙動の変化を発現することから、植物が病原菌感染の際に放出する植物ホルモンであるサリチル酸メチルを選択的に検出することを可能とする。
そして、希土類化合物を認識部とするセンサーを用いることで、植物の病気感染を早期に検出することができ、具体的には農作物の病気感染を早期に検出できるセンサーとしてハウス等の施設園芸での農業ICT用の新たなセンサーとして利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21