(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】ε-カプロラクタムの製造方法およびポリアミド6の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 223/10 20060101AFI20231212BHJP
C08G 69/16 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
C07D223/10
C08G69/16
(21)【出願番号】P 2022570174
(86)(22)【出願日】2022-10-17
(86)【国際出願番号】 JP2022038576
(87)【国際公開番号】W WO2023074432
(87)【国際公開日】2023-05-04
【審査請求日】2023-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2021178279
(32)【優先日】2021-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 浩平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 昌佑
(72)【発明者】
【氏名】加藤 昌史
(72)【発明者】
【氏名】西村 美帆子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 公哉
【審査官】土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第97/003048(WO,A1)
【文献】特開2000-191638(JP,A)
【文献】特開平11-035554(JP,A)
【文献】特開平10-287645(JP,A)
【文献】米国特許第05457197(US,A)
【文献】特表平11-508913(JP,A)
【文献】特開平06-032936(JP,A)
【文献】特表平10-510280(JP,A)
【文献】岡島いづみ、他,亜臨界水によるナイロン6のモノマー化,高分子論文集,2013年,70(12),pp.731-737
【文献】IWAYA, T. et al.,Kinetic analysis for hydrothermal depolymerization of nylon 6,Polymer Degradation and Stability,2006年,91,pp.1989-1995
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 223/10
C08G 69/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも0.3MPa以上の加圧下、少なくともポリアミド6を含む樹脂組成物(A)と、290℃以上350℃以下に加熱されたポリアミド6オリゴマー水溶液(C)を接触、または少なくともポリアミド6を含む樹脂組成物(A)と290℃以上350℃以下に加熱されたポリアミド6オリゴマー水溶液(C)に加え、さらに290℃以上350℃以下に加熱された水(B)を添加して接触させるに際し、水とポリアミド6およびポリアミド6オリゴマーの合計の質量比をX:1、反応温度をY℃とした場合、XとYの積が2,000以下
、かつ、反応温度Y℃における滞留時間をZ分とした場合、XとYとZの積が60,000以下の条件で接触させることを特徴とする、ε-カプロラクタムの製造方法。
【請求項2】
前記XとYの積が1,200以下であることを特徴とする、請求項1に記載のε-カプロラクタムの製造方法。
【請求項3】
前記XとYとZの積が20,000以下であることを特徴とする、請求項1に記載のε-カプロラクタムの製造方法。
【請求項4】
少なくともポリアミド6を含む樹脂組成物(A)と、290℃以上350℃以下に加熱された水(B)を添加し接触させてε-カプロラクタムを製造する方法において、さらにポリアミド6オリゴマー水溶液(C)を添加することを特徴とする、請求項1記載のε-カプロラクタムの製造方法。
【請求項5】
前記ポリアミド6オリゴマー水溶液(C)に使用するポリアミド6オリゴマーが、前記ε-カプロラクタムの製造方法において副生するポリアミド6オリゴマーであることを特徴とする、請求項1
~4のいずれかに記載のε-カプロラクタムの製造方法。
【請求項6】
前記ポリアミド6オリゴマーに含まれる線状2~12量体オリゴマー量が90質量%以上であることを特徴とする、請求項1
~4のいずれかに記載のε-カプロラクタムの製造方法。
【請求項7】
前記少なくともポリアミド6を含む樹脂組成物(A)が、アルカリ金属ハロゲン化物を含むことを特徴とする、請求項1
~4のいずれかに記載のε-カプロラクタムの製造方法。
【請求項8】
前記ポリアミド6オリゴマー水溶液(C)が、ポリアミド6製造時に生成物のポリアミド6からポリアミド6オリゴマーを熱水抽出する工程で得られた抽出液であることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載のε-カプロラクタムの製造方法。
【請求項9】
前記少なくともポリアミド6を含む樹脂組成物(A)が、少なくともポリアミド6を含有する樹脂成形体の廃棄物であることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載のε-カプロラクタムの製造方法。
【請求項10】
請求項1
~4のいずれかに記載の方法によりε-カプロラクタムを得る工程、および得られたε-カプロラクタムを重合してポリアミド6を得る工程を含む、ポリアミド6の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化石資源の循環利用と地球温暖化ガス排出量低減を両立するポリアミド6の解重合方法であって、より詳しくは、比熱容量および気化熱の高い水少量と線状ポリアミド6オリゴマーからなる水溶液を用いて、ポリアミド6の解重合を行い、高純度のε-カプロラクタムを高収率で回収するリサイクル方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、海洋プラスチック問題をトリガーに地球環境問題に対する関心が高まり、持続可能な社会の構築が必要であるとの認識が広まってきている。地球環境問題には、地球温暖化をはじめ、資源枯渇、水不足などがあるが、その多くは産業革命以降の急速な人間活動により、資源消費量と地球温暖化ガス排出量の増大が原因にある。そのため、持続可能な社会構築のためには、プラスチックなどの化石資源循環利用、および地球温暖化ガス排出量低減に関する技術がますます重要となる。
【0003】
プラスチック再資源化技術として、プラスチック廃材を熱分解し、ガス、オイルなどを回収する熱分解油化・ガス化技術が注目され、数多くの方法が提案されている。例えば、特許文献1には、廃プラスチックの熱分解、スチームクラッキングを含むプロセスにより炭化水素を製造する方法が開示されている。これらの方法は混合廃プラスチックを熱分解油化できるといった利点があるものの、熱分解油をプラスチックモノマーなどの二次原料に変換するためには800℃以上の高温でのクラッキングが必要であり、さらに廃プラスチック中に例えばポリ塩化ビニルのように塩素、ポリアリーレンスルフィドのように硫黄を含むプラスチックが混在した場合にはプラントの腐食課題、ポリアミドのように酸素や窒素を含むプラスチックが混在した場合には爆発の懸念がある。
【0004】
繊維、フィルム、エンジニアリングプラスチックとして各分野で多量に使用されているポリアミド6の再資源化方法としては、リン酸触媒の存在下、過熱水蒸気を吹き込むことで原料であるε-カプロラクタムを得る方法が開示されている(例えば特許文献2参照)。
また、酸や塩基などの触媒を用いずにポリアミド6の解重合を行う方法として、ポリアミド6と加熱水を280℃から320℃の温度で接触させてラクタムを回収する方法が開示されている(例えば特許文献3、4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2019-533041号公報
【文献】特開平8-217746号公報
【文献】特表平10-510280号公報
【文献】特表平10-510282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に開示されたε-カプロラクタムの回収方法は、ポリアミド6の解重合収率が80%以上と高収率な反応ではあるものの、解重合反応に長時間を要する。さらにナイロン6繊維に対して約10倍量と多量の過熱水蒸気が必要であるため、化石資源循環利用と地球温暖化ガス排出量を両立するには課題の残る技術である。また、本手法はリン酸を触媒として用いた反応であるため、プラスチック中に含まれる添加剤や廃プラスチックにおける付着不純物による触媒失活など、不純物の影響を受けやすい反応である。実際、本発明者らがカリウム塩を含むポリアミド6を原料に、特許文献2記載の方法と同条件、類似条件で解重合実験を行った結果、ε-カプロラクタム収率が大幅に低下することが見出された。これはカリウム塩によるリン酸触媒作用の失活のためではないかと考えられる。
【0007】
一方、特許文献3、4に開示されたε-カプロラクタムの回収方法は解重合反応に用いているのは水のみで、上記リン酸のような触媒を用いていないため、添加剤や付着不純物などによる反応失活は起こらない利点がある。しかしながら、開示されているε-カプロラクタムの回収方法は、比熱容量が4.2kJ/kg・K、気化熱が2,250kJ/kgと非常に高い水をポリアミド6に対して約10倍量と多量に用いて長時間反応を行っているため、解重合反応および低濃度のε-カプロラクタム水溶液からのε-カプロラクタムの回収において多量のエネルギーを要する。また、同一条件または類似の条件で単純に水の使用量を下げてもε-カプロラクタムの回収率は低下するのみであった。これは単純に水の使用量を下げただけでは、解重合により生成したε-カプロラクタムとε-カプロラクタムの加水開環により生成する線状オリゴマーの熱力学的平衡点が線状オリゴマー側に移動したためであると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を有する。
1.少なくともポリアミド6を含む樹脂組成物(A)と、290℃以上350℃以下に加熱されたポリアミド6オリゴマー水溶液(C)を接触、または少なくともポリアミド6を含む樹脂組成物(A)と290℃以上350℃以下に加熱されたポリアミド6オリゴマー水溶液(C)に加え、さらに290℃以上350℃以下に加熱された水(B)を添加して接触させることを特徴とする、ε-カプロラクタムの製造方法。
2.少なくともポリアミド6を含む樹脂組成物(A)と、290℃以上350℃以下に加熱された水(B)を添加し接触させてε-カプロラクタムを製造する方法において、さらにポリアミド6オリゴマー水溶液(C)を添加することを特徴とする、1項記載のε-カプロラクタムの製造方法。
3.前記ポリアミド6オリゴマー水溶液(C)に使用するポリアミド6オリゴマーが、前記ε-カプロラクタムの製造方法において副生するポリアミド6オリゴマーであることを特徴とする、1または2項記載のε-カプロラクタムの製造方法。
4.前記ポリアミド6オリゴマーに含まれる線状2~12量体オリゴマー量が90質量%以上であることを特徴とする、1から3項のいずれかに記載のε-カプロラクタムの製造方法。
5.前記ε-カプロラクタムの製造方法において使用する、水とポリアミド6およびポリアミド6オリゴマーの合計の質量比をX:1、反応温度をY℃とした場合、XとYの積が2,000以下の条件で接触させることを特徴とする、1から4項のいずれかに記載のε-カプロラクタムの製造方法。
6.前記少なくともポリアミド6を含む樹脂組成物(A)が、アルカリ金属ハロゲン化物を含むことを特徴とする、1から5項のいずれかに記載のε-カプロラクタムの製造方法。
7.前記ポリアミド6オリゴマー水溶液(C)が、ポリアミド6製造時の生成物のポリアミド6からポリアミド6オリゴマーを熱水抽出する工程で得られた抽出液であることを特徴とする、1から6項のいずれかに記載のε-カプロラクタムの製造方法。
8.前記少なくともポリアミド6を含む樹脂組成物(A)が、少なくともポリアミド6を含有する樹脂成形体の廃棄物であることを特徴とする、1から7項のいずれかに記載のε-カプロラクタムの製造方法。
9.1から8項のいずれかの方法によりε-カプロラクタムを得て、ポリアミド6を重合するポリアミド6の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、ポリアミド6樹脂組成物の解重合において、比熱容量の高い水の少量使用での実施でも高収率、高選択率でε-カプロラクタムを製造可能であることから、エネルギー消費量の少ないε-カプロラクタムの製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
(1)樹脂組成物(A)
本発明は少なくともポリアミド6を含む樹脂組成物(A)に、290℃以上350℃以下に加熱された水(B)を添加し接触させる際に、さらにポリアミド6オリゴマー水溶液(C)を添加することを特徴とするε-カプロラクタムの製造方法である。
本発明で用いられるポリアミド6とは、6-アミノカプロン酸および/またはε-カプロラクタムを主たる原料とするポリアミド樹脂である。本発明の目的を損なわない範囲で、他の単量体が共重合されたものでもよい。ここで、「主たる原料とする」とは、ポリアミド樹脂を構成する単量体単位の合計100モル%中、6-アミノカプロン酸由来の単位またはε-カプロラクタム由来の単位を合計50モル%以上含むことを意味する。6-アミノカプロン酸由来の単位またはε-カプロラクタム由来の単位を70モル%以上含むことがより好ましく、90モル%以上含むことがさらに好ましい。
【0011】
共重合される他の単量体としては、例えば、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ω-ライロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペラジン、1-(2-アミノエチル)ピペラジンなどの脂環族ジアミン、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸などが挙げられる。これらを2種以上共重合してもよい。
【0012】
また、これらポリアミド6は重合度調節剤、末端基調整剤などが付加されていても良い。重合度調節剤、末端基調整剤としては、例えば酢酸や安息香酸などを挙げることができる。
【0013】
本発明のポリアミド6の重合度には特に制限はないが、樹脂濃度0.01g/mLの98%濃硫酸溶液中、25℃で測定した相対粘度が1.5~5.0の範囲であることが好ましい。相対粘度がこのような好ましい範囲にあることにより少量の水との反応効率が高くなる傾向となるため好ましく例示できる。
【0014】
本発明のポリアミド6は、下記式(a)に示す環状オリゴマーを含みうる。ポリアミド6に含まれる下記式(a)に示す環状オリゴマー量に特に制限はないが、2.0質量%以下であることが好ましく、1.8質量%以下であることがより好ましく、1.5質量%以下であることがさらに好ましく例示できる。下記式(a)に示す環状オリゴマーにおいて、mは2~4の整数である。下記式(a)に示す環状オリゴマーは溶融揮発し、ライン閉塞等の原因となるため、環状オリゴマー量が好ましい範囲にあることにより溶融揮発に因るライン閉塞を抑制できる傾向にある。なお、下記式(a)に示すmが5以上の環状オリゴマーはその揮発の程度を考慮して本発明では着目していない。
【化1】
【0015】
本発明の樹脂組成物(A)には、本発明の目的を損なわない範囲で、さらにアルカリ金属ハロゲン化物を含むことができる。アルカリ金属ハロゲン化物としては、例えばヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどのアルカリ金属ハロゲン化物などが挙げられ、これらを2種以上併用することができる。これらの中でも、入手が容易で、ポリアミド6への分散性に優れ、ラジカルとの反応性がより高く、かつ高温での滞留安定性をより向上させるという観点からヨウ化カリウムが好ましい。さらに、これらアルカリ金属ハロゲン化物はヨウ化銅(I)、臭化銅(I)、塩化銅(I)などの第11族金属ハロゲン化物と併用されることがさらに高温での滞留安定性が向上するためより好ましく用いられる。
【0016】
これらアルカリ金属ハロゲン化物はポリアミド6が100質量部に対して0.01~1質量部配合してなることが好ましい。アルカリ金属ハロゲン化物をこれら好ましい範囲配合することで、本プロセスにおける加水分解以外の副反応を抑制することができ、ラクタム収率が高くなる傾向にある。アルカリ金属ハロゲン化物の配合量は0.02~0.5質量部がより好ましく、0.03~0.4質量部であることがさらに好ましい。
【0017】
本発明の樹脂組成物(A)には繊維状充填材を含んでいても良い。ここでの繊維状充填材は、繊維状の形状を有するいずれの充填材でもよい。具体的には、ガラス繊維、ポリアクリロニトリル(PAN)系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、ポリエステル繊維、芳香族ポリアミド繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、ワラステナイト、アルミナシリケートなどの繊維状、ウィスカー状充填材、ニッケル、銅、コバルト、銀、アルミニウム、鉄およびこれらの合金からなる群より選ばれる1種以上の金属で被覆されたガラス繊維、炭素繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリエステル繊維などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。繊維状充填材の含有量は、樹脂組成物(A)100質量部に対し、1~200質量部であることが好ましい。
【0018】
本発明の樹脂組成物(A)には、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに繊維状充填材以外の充填剤、ポリアミド6以外の熱可塑性樹脂、各種添加剤などを配合することができる。繊維状充填材以外の充填剤としては、有機充填剤、無機充填剤のいずれでもよいし、例えば非繊維状充填材が挙げられ、これらを2種以上配合しても良い。非繊維状充填材としては、例えば、タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケート、珪酸カルシウムなどの非膨潤性珪酸塩、Li型フッ素テニオライト、Na型フッ素テニオライト、Na型四珪素フッ素雲母、Li型四珪素フッ素雲母の膨潤性雲母などの膨潤性層状珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、シリカ、珪藻土、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化スズ、酸化アンチモンなどの金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドロマイト、ハイドロタルサイトなどの金属炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの金属硫酸塩、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウムなどの金属水酸化物、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイトなどのスメクタイト系粘土鉱物やバーミキュライト、ハロイサイト、カネマイト、ケニヤイト、燐酸ジルコニウム、燐酸チタニウムなどの各種粘土鉱物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、セラミックビーズ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化珪素、燐酸カルシウム、カーボンブラック、黒鉛などが挙げられる。上記の膨潤性層状珪酸塩は、層間に存在する交換性陽イオンが有機オニウムイオンで交換されていてもよい。有機オニウムイオンとしては、例えば、アンモニウムイオンやホスホニウムイオン、スルホニウムイオンなどが挙げられる。
【0019】
各種添加剤の具体例としては、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナミド)、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどのフェノール系化合物、リン系化合物、メルカプトベンゾイミダゾール系化合物、ジチオカルバミン酸系化合物、有機チオ酸系化合物などの硫黄系化合物、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミンなどのアミン系化合物などの熱安定剤、イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤、ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミなどの金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、シリコーン系化合物などの離型剤、次亜リン酸塩などの着色防止剤、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤、発泡剤などを挙げることができる。これら添加剤を含有する場合、その含有量は、ポリアミド6を100質量部とした場合、10質量部以下が好ましく、1質量部以下がより好ましい。
【0020】
樹脂組成物(A)に含まれるポリアミド6以外の熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリアミド6以外のポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂などが挙げられる。これらを2種以上配合しても良い。また、ここでのポリアミド6以外の熱可塑性樹脂の配合量は、本発明の熱可塑性樹脂(A)におけるポリアミド6を100質量部に対し30質量部以下とすることが好ましく例示できる。
【0021】
本発明のポリアミド6を含む樹脂組成物(A)は、少なくともポリアミド6を含有する樹脂成形体の廃棄物であっても良い。ポリアミド6を含有する樹脂成形体の廃棄物としては、ポリアミド6製品、ポリアミド6製品製造過程で発生する産業廃棄物、あるいはポリアミド6製品使用済み廃棄物などを含む。ポリアミド6製品としては、例えば古着、ユニホーム、スポーツウエアおよびインナーウエアなどの衣料用繊維構造物、カーテン、カーペット、ロープ、網、ベルトおよびシートなどの産業用繊維構造物、住宅建材用成形部品、電気電子成形部品、航空機部品、産業用機械部品、フィルム製品、押出成形品、現場重合成形品、RIM成形品などが挙げられる。さらに、これらの生産工程で発生する製品屑、ペレット屑、塊状屑、切削加工時の切り屑なども廃棄物の対象となる。
【0022】
(2)ポリアミド6オリゴマー
本発明のε-カプロラクタムの製造方法は、少なくともポリアミド6を含む樹脂組成物(A)に、290℃以上350℃以下に加熱されたポリアミド6オリゴマー水溶液(C)を接触、または少なくともポリアミド6を含む樹脂組成物(A)と290℃以上350℃以下に加熱されたポリアミド6オリゴマー水溶液(C)に加え、さらに290℃以上350℃以下に加熱された水(B)を添加して接触させることを特徴とする。
ここでのポリアミド6オリゴマーとは、6-アミノカプロン酸および/またはε-カプロラクタムを主たる構成成分とするポリアミド6オリゴマーである。本発明の目的を損なわない範囲で、他の単量体を含んでいても良い。ここでの「主たる構成要素とする」とは、ポリアミド6オリゴマーを構成する単量体単位の合計100モル%中、6-アミノカプロン酸由来の単位またはε-カプロラクタム由来の単位を合計50モル%以上含むことを意味する。6-アミノカプロン酸由来の単位またはε-カプロラクタム由来の単位を70モル%以上含むことがより好ましく、90モル%以上含むことがさらに好ましい。
【0023】
ポリアミド6オリゴマーに含まれる他の単量体としては、例えば、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ω-ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペラジン、1-(2-アミノエチル)ピペラジンなどの脂環族ジアミン、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸などが挙げられる。これらを2種以上含んでいてもよい。
【0024】
本発明のポリアミド6オリゴマーの数平均分子量に特に制限はないが、数平均分子量が100~5000の範囲であることが好ましく、200~3000の範囲にあることがより好ましく、200~2000の範囲にあることが特に好ましく例示できる。ポリアミド6オリゴマーの分子量がこのような好ましい範囲にあることにより、水への溶解性が高くなり、本発明に用いるポリアミド6オリゴマー水溶液(B)が調製しやすくなる傾向にある。なお、ここでの数平均分子量は1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノールを溶媒としたGPC分析により算出した。カラムには昭和電工社製GPC-HFIP805を用い、標準物質はPMMAを用いた。
【0025】
また、本発明に用いるポリアミド6オリゴマーの組成に特に制限はないが、ポリアミド6オリゴマーに含まれる、2~12量体の線状ポリアミド6オリゴマーの含有量が90%質量%以上であることが好ましく例示できる。線状2~12量体オリゴマー量が93質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが特に好ましく例示できる。ポリアミド6オリゴマーに含まれる2~12量体の線状ポリアミド6オリゴマーの含有量がこのような好ましい範囲にあることにより、水への溶解性が高くなり、さらにポリアミド6オリゴマーの末端カルボン酸濃度が高くなるため、ポリアミド6と水との反応が促進されε-カプロラクタムの生成効率が高くなる傾向にある。なお、ここでのポリアミド6オリゴマー中の線状2~12量体オリゴマー量は、ギ酸水溶液およびギ酸アセトニトリル溶液を溶離液に用いた高速液体クロマトグラフィーにより定量分析を行った。
【0026】
本発明に用いるポリアミド6オリゴマーの調製方法に特に制限はなく、例えば、通常の脂肪酸系ポリアミド6樹脂製造時、ポリアミド6樹脂を熱水抽出した際に抽出液に含まれるポリアミド6オリゴマーや、通常の脂肪酸系ポリアミド6樹脂の合成法と同じ方法で調製したポリアミド6オリゴマーを用いても良い。また、少なくともポリアミド6を含む樹脂組成物と、290℃以上350℃以下に加熱された水を接触させてε-カプロラクタムを製造する際に、副生物として得られるポリアミド6オリゴマーを用いても良い。さらにまた、少なくともポリアミド6を含む樹脂組成物(A)と290℃以上350℃以下に加熱されたポリアミド6オリゴマー水溶液(C)を接触、または少なくともポリアミド6を含む樹脂組成物(A)と290℃以上350℃以下に加熱されたポリアミド6オリゴマー水溶液(C)に加え、さらに290℃以上350℃以下に加熱された水(B)を接触させてε-カプロラクタムを製造する際に、副生物として得られるポリアミド6オリゴマーを用いても良い。ε-カプロラクタムを製造する際の産業廃棄物を低減するとの観点から、290℃以上350℃以下に加熱された水を接触させてε-カプロラクタムを製造する際の副生物、少なくともポリアミド6を含む樹脂組成物(A)と290℃以上350℃以下に加熱されたポリアミド6オリゴマー水溶液(C)を接触させてε-カプロラクタムを製造する際の副生成物、または少なくともポリアミド6を含む樹脂組成物(A)と290℃以上350℃以下に加熱されたポリアミド6オリゴマー水溶液(C)に加え、さらに290℃以上350℃以下に加熱された水(B)を接触させてε-カプロラクタムを製造する際に副生物として回収されるポリアミド6オリゴマーを用いることが好ましい。
【0027】
(3)ポリアミド6オリゴマー水溶液(C)
本発明で用いるポリアミド6オリゴマー水溶液(C)は、前記ポリアミド6オリゴマーと水を加熱混合することにより調製する。
ポリアミド6オリゴマー水溶液(C)を調製する際に用いる水に特に制限なく、水道水、イオン交換水、蒸留水、井戸水などを用いることができるが、共存する塩の影響による副反応を抑制するとの観点からはイオン交換水や蒸留水が好ましく用いられる。
また、本発明に用いるポリアミド6オリゴマー水溶液(C)におけるポリアミド6オリゴマーの濃度は、290℃以上350℃以下に加熱した際にポリアミド6オリゴマーが水に溶解していればいずれの濃度でも問題ないが、好ましくは20質量%以下であることが例示でき、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく例示できる。ポリアミド6オリゴマーの濃度がこれら好ましい範囲にあることにより、ポリアミド6オリゴマー水溶液(C)を調製する際の水への溶解性が高くなり、より低温でポリアミド6オリゴマー水溶液(C)を調製することが可能となる。
また、ポリアミド6製造時の生成物のポリアミド6からポリアミド6オリゴマーを熱水抽出する工程におけるポリアミド6オリゴマーを含む抽出液を、ポリアミド6オリゴマー水溶液(C)として用いることもできる。通常、ε-カプロラクタムを重合して得られるポリアミド6樹脂中は、不純物として、重合平衡反応で生じる未反応モノマーや、ポリアミド6オリゴマーを含有しており、これらを除去するために重合後のペレットを熱水抽出塔に供給し、熱水抽出により未反応モノマーやポリアミド6オリゴマーの抽出除去を行っている。このポリアミド6製造時のポリアミド6からポリアミド6オリゴマーを熱水抽出する工程における抽出液を本発明のポリアミド6オリゴマー水溶液(C)として用いることも、産業廃棄物低減の観点から好ましい形態として例示できる。
【0028】
(4)ε-カプロラクタムの製造方法
本発明のε-カプロラクタムの製造方法は、少なくともポリアミド6を含む樹脂組成物(A)と、290℃以上350℃以下に加熱されたポリアミド6オリゴマー水溶液(C)を接触、または少なくともポリアミド6を含む樹脂組成物(A)と290℃以上350℃以下に加熱されたポリアミド6オリゴマー水溶液(C)に加え、さらに290℃以上350℃以下に加熱された水(B)を添加することを特徴とする。
【0029】
本発明のε-カプロラクタムの製造方法においては、290℃以上350℃以下に加熱されたポリアミド6オリゴマー水溶液(C)中の水、または290℃以上350℃以下に加熱されたポリアミド6オリゴマー水溶液(C)中の水および290℃以上350℃以下に加熱された水によりポリアミド6の加水分解を行う。水は圧力22.1MPa、温度374.2℃まで上げると液体でも気体でもない状態を示す。この点を水の臨界点と言い、臨界点よりも低い温度および圧力の熱水を亜臨界水と言う。この亜臨界水は水であるにも関わらず、(i)誘電率が低い、(ii)イオン積が高いといった特徴があり、この亜臨界水の誘電率、イオン積は温度や水の分圧に依存し、制御することが可能である。誘電率が低くなることにより、水でありながらも有機化合物の優れた溶媒となり、イオン積が高くなることにより水素イオンおよび水酸化物イオン濃度が高くなることから優れた加水分解作用を有する。本発明の水(B)およびポリアミド6オリゴマー水溶液(C)の温度としては300℃以上340℃以下であることが好ましく、320℃以上340℃以下であることがさらに好ましい。このような好ましい範囲にあることにより反応時の装置腐食を抑制できる傾向にある。また、ポリアミド6オリゴマー水溶液(C)、またはポリアミド6オリゴマー水溶液(C)と水(B)を併用する場合の水の圧力としては飽和蒸気圧よりも高いことが好ましく例示できる。水としては、液体状態でも水蒸気のような気体状態でも、その両者を用いても良いが、反応場としては気体状態よりも液体状態の方が反応が進みやすいため、水の圧力としては飽和蒸気圧よりも高いことが好ましい。また、水の圧力の上限としては特に制限はないが、20MPa以下であることが例示できる。このような圧力範囲にあることにより、上記した水のイオン積が高くなる傾向にあるため好ましい。水をこのような圧力範囲とするために圧力容器内部を加圧して密閉する方法が挙げられる。圧力容器内部を加圧するには、ポリアミド6オリゴマー水溶液(C)、またはポリアミド6オリゴマー水溶液(C)と水(B)に加え気体を封入すればよく、このような気体としては、空気、アルゴン、窒素などを挙げることができるが、酸化反応などの副反応を抑制するとの観点から、窒素、アルゴンを用いることが好ましい。気体の加圧の程度としては、目的の圧力となるように設定するため特に限定はされないが、0.3MPa以上を挙げることができる。
【0030】
本発明のε-カプロラクタムの製造方法における水の使用量に特に制限はないが、水とポリアミド6およびポリアミド6オリゴマーの合計の質量比をX:1、反応温度をY℃とした場合にXとYの積が2,000以下の条件とするように水の使用量を調整することが好ましく例示できる。XとYの積は1,600以下の条件とすることがより好ましく、1,300以下の条件とすることがさらに好ましく、1,200以下の条件とすることが特に好ましく例示できる。また、XとYの積の下限に特に制限はないが、好ましくは300以上の条件とすることであり、より好ましくは320以上、特に好ましくは340以上の条件を例示できる。本発明は化石資源の循環利用と地球温暖化ガス排出量低減の両立を目的としたポリアミド6樹脂組成物からの省エネルギーでのε-カプロラクタムの製造に関するものである。水の比熱容量は4.3kJ/kg・K、気化熱が2,250kJ/kgと、他の有機溶剤と比べると非常に高いため、水の使用量を減らすことが重要であり、XとYの積がこれら範囲にあることによりε-カプロラクタムの生成効率と省エネルギーを両立することができる。また、反応温度Y℃における滞留時間をZ分とした場合、XとYとZの積が60,000以下の条件とすることを好ましく例示できる。より好ましくは40,000以下、さらに好ましくは30,000以下、特に好ましくは20,000以下の条件とすることを挙げることができる。また、XとYとZの積の下限に特に制限はないが、5,000以上の条件とすることが好ましく、8,000以上の条件がより好ましく、9,000以上の条件が特に好ましく例示できる。XとYとZの積がこのような好ましい条件範囲とすることにより省エネルギーでのε-カプロラクタムの製造効率が高くなる傾向にあるため好ましい。ポリアミド6と水との反応ではε-カプロラクタムの生成に加え、副反応としてε-カプロラクタムと水との反応による線状オリゴマー生成の副反応が進行し、単純に水の使用量を減らした場合は線状オリゴマーが多量に生成するため、ε-カプロラクタムの生成効率は大幅に低下する。本発明者らは、ポリアミド6とポリアミド6オリゴマー水溶液中の水との反応によるε-カプロラクタムの生成反応、および線状オリゴマー生成の副反応の熱力学的平衡点を解明した結果、XとYの積、ならびにX、YおよびZの積を上記条件範囲とすることで線状オリゴマーの副生を抑制し、ε-カプロラクタムの生成効率を大幅に向上させることを見出し本発明に至った。
【0031】
本発明のε-カプロラクタムの製造には、バッチ式および連続方法など公知の各種反応方式を採用することができる。例えばバッチ式であれば、いずれも撹拌機と加熱機能を備えたオートクレーブ、縦型・横型反応器、撹拌機と加熱機能に加えてシリンダー等の圧縮機構を備えた縦型・横型反応器などが挙げられる。連続式であれば、いずれも加熱機能を備えた押出機、管型反応器、バッフルなどの混合機構を備えた管型反応器、ラインミキサー、縦型・横型反応器、撹拌機を備えた縦型・横型反応器、塔などが挙げられる。また、製造における雰囲気は非酸化性雰囲気下が望ましく、窒素、ヘリウム、およびアルゴンなどの不活性雰囲気下で行うことが好ましく、経済性および取り扱いの容易さの面からは窒素雰囲気下が好ましい。
【0032】
(5)ε-カプロラクタムの回収方法
本発明のε-カプロラクタムの回収方法には特に制限はなく、何れの方法も採用できる。例えば、解重合反応をバッチ式で行う場合は、解重合反応が終了してから水とともに留出させてε-カプロラクタム水溶液を得る。解重合反応を連続式で行う場合には、反応の進行とともにε-カプロラクタム水溶液を得ることができる。得られたε-カプロラクタム水溶液は蒸留により水と分離することで純度の高いε-カプロラクタムを回収することができる。また、回収したε-カプロラクタム水溶液中に水に不溶の成分があれば事前に固液分離などの公知の方法により分離し、蒸留分離に供することもできる。
さらに高純度のε-カプロラクタムを得る方法としては、回収したε-カプロラクタムを精密蒸留する方法、微量の水酸化ナトリウムを添加して減圧蒸留する方法、活性炭処理する方法、イオン交換処理する方法、再結晶する方法等の精製方法と組み合わせることができる。これらの方法により、蒸留分離では分離困難な不純物も効率的に除去することができる。
【0033】
(6)ポリアミド6およびその成形品
本発明の記載のε-カプロラクタムの製造方法では、純度の高いε-カプロラクタムを得ることができることから、ポリアミド6の重合原料として用いることができる。ポリアミド6は、ε-カプロラクタムを少量の水の存在下に加熱溶融重合する通常公知の方法によって製造することができる。
【0034】
また、このようにして得られたポリアミド6は、必要に応じて繊維状充填材や各種添加剤と溶融混練することによりポリアミド6樹脂組成物を製造し、射出成形や押出成形などの通常公知の方法でシートやフィルムなどの各種成形品を得ることができる。
本発明のポリアミド6およびその成形品は、その優れた特性を活かし、電気・電子部品、建築部材、各種容器、日用品、生活雑貨および衛生用品など各種用途に利用することができる。とりわけ、靭性および剛性が要求される航空機用部品、電気・電子部品用途に特に好ましく用いられる。具体的には、ランディングギアポッド、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、エレベーター、フェイリング、リブなどの航空機関連部品、電気・電子部品としては、例えば、発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、抵抗器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、遮断機、スイッチ、ナイフスイッチ、多極ロッド、モーターケース、テレビハウジング、ノートパソコンハウジングおよび内部部品、CRTディスプレーハウジングおよび内部部品、プリンターハウジングおよび内部部品、携帯電話、モバイルパソコン、ハンドヘルド型モバイルなどの携帯端末ハウジングおよび内部部品、ICやLED対応ハウジング、コンデンサー座板、ヒューズホルダー、各種ギヤー、各種ケース、キャビネットなどの電気部品、コネクタ、SMT対応のコネクタ、カードコネクタ、ジャック、コイル、コイルボビン、センサー、LEDランプ、ソケット、抵抗器、リレー、リレーケース、リフレクター、小型スイッチ、電源部品、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップシャーシ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、SiパワーモジュールやSiCパワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、トランス部材、パラボナアンテナ、コンピューター関連部品などの電子部品などが挙げられる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
各実施例には下記原料を用いた。
【0036】
[ポリアミド6(PA6-A)]
ポリアミド6樹脂(東レ株式会社製“アミラン”(登録商標)CM1017)、ηr=2.70、融点225℃、環状2~4量体オリゴマー量0.2質量%。
ここで、上記溶液粘度ηrは、98%濃硫酸の0.01g/mL溶液を用いて25℃にて測定した。また、融点は、示差走査型熱量計を用いて、窒素ガス雰囲気下、ポリアミドを溶融状態から20℃/分の降温速度で30℃まで降温した後、20℃/分の昇温速度で融点+40℃まで昇温した場合に現れる吸熱ピークの温度とした。ただし、吸熱ピークが2つ以上検出される場合には、ピーク強度の最も大きい吸熱ピークの温度を融点とした。
ここで、上記環状2~4量体オリゴマー量は、ポリアミド6を粉砕し、JIS標準ふるい24meshを通過し、124meshは不透過であるポリアミド6粉末を集め、当該ポリアミド6粉末20gをメタノール200mLで3時間ソックスレー抽出器を用いて抽出し、抽出液に含まれる環状オリゴマーを高速液体クロマトグラフィーを用いて定量分析を行った。測定条件は次の通り。
〈測定条件〉
高速液体クロマトグラフィー:ウォーターズ社600E
カラム:GLサイエンス社ODS-3
検出器:ウォーターズ社484Tunable Absorbance Detector
検出波長:254nm
溶媒:メタノール/水(メタノール水の組成は20:80→80:20のグラジエント分析)
流速:1mL/min
【0037】
[繊維状充填材]
ガラス繊維(日本電気硝子株式会社製 T-249)
【0038】
[アルカリ金属ハロゲン化物]
ヨウ化カリウム(東京化成工業株式会社製)
【0039】
[参考例1]ヨウ化カリウム添加ガラス繊維強化ポリアミド6(PA6-B)
ポリアミド6、ヨウ化カリウムおよびガラス繊維をポリアミド6とヨウ化カリウム、ガラス繊維の質量比が70/0.2/30となるように配合して、シリンダー設定温度250℃、スクリュー回転数150rpmに設定した二軸押出機(日本製鋼所社製TEX30α)を用い、ポリアミド6とヨウ化カリウムを主フィーダーより供給し、ガラス繊維をサイドフィーダーより供給し、押出されたガットをペレタイズしてヨウ化カリウム添加ガラス繊維強化ポリアミド6(PA6-B)を調製した。
【0040】
[参考例2]ポリアミド6樹脂成形体の廃棄物I(PA6-C)
ガラス繊維を30質量%含有するポリアミド6樹脂(東レ株式会社製“アミラン”(登録商標)CM1011G30)を成形してダンベル片とした後、破砕してペレット状のポリアミド6成形体廃棄物I(PA6-C)とした。
【0041】
[参考例3]ポリアミド6樹脂成形体の廃棄物II(PA6-D)
非強化ポリアミド6製ファスナー部品(ポリアミド6含有割合99質量%以上)を回収し、破砕してポリアミド6成形体廃棄物II(PA6-D)とした。上記した高速液体クロマトグラフィー分析を行った結果、ポリアミド成形体廃棄物IIにおけるポリアミド6中の環状2~4量体オリゴマー量は0.4質量%であった。
【0042】
[参考例4]ポリアミド6オリゴマーの製造
撹拌機を具備したSUS316L製オートクレーブに、ポリアミド6(PA6-A)20.0g、脱イオン水60.0gを仕込んだ。水とポリアミド6の質量比(X:1)は3:1である。
反応容器の窒素置換を行い、窒素加圧0.5MPa下に密閉した後、200rpmで撹拌しながら320℃で15分間保持し反応を行った。反応終了後、室温にまで冷却して反応混合物を回収した。反応温度Y℃は320℃であることから、XとYの積は、960、反応温度320℃での滞留時間が15分であることから、XとYとZの積は14,400である。
回収した反応混合物の高速液体クロマトグラフィー測定により算出したε-カプロラクタム収率は78%であった。
得られた反応混合物に10倍量(質量)のメタノールを加え、撹拌してスラリー状にした後、ガラスフィルター(平均孔径10~16μm)で濾過して固形分を得た。さらに得られた固形分に対し5倍量のメタノールを加え撹拌してスラリー状にしてガラスフィルターで濾過する操作を3回繰り返した後、濾上物を50℃で12時間真空乾燥を行いポリアミド6オリゴマーを得た。得られたポリアミド6オリゴマーの高速液体クロマトグラフィー分析を行った結果、線状2~12量体オリゴマーが95.8質量%であることが分かった。ここでの高速液体クロマトグラフィー測定条件は下記の通りである。
装置 :島津株式会社製 LC-10Avpシリーズ
カラム :Mightysil RP-18GP150-4.6
検出器 :フォトダイオードアレイ検出器(UV=205nm)
流速 :1mL/min
カラム温度 :40℃
移動相 :0.1%ギ酸水溶液/0.1%ギ酸アセトニトリル溶液
ポリアミド6オリゴマー組成 :各ポリアミド6オリゴマーのピーク面積比率よりポリアミド6オリゴマーにおける線状2~12量体オリゴマー量を算出
【0043】
≪評価方法≫
[ε-カプロラクタムの収率(HPLC)]
本発明のε-カプロラクタム収率(HPLC)の算出は高速液体クロマトグラフィー測定により実施した。測定条件を下記する。
装置 :島津株式会社製 LC-10Avpシリーズ
カラム :Mightysil RP-18GP150-4.6
検出器 :フォトダイオードアレイ検出器(UV=205nm)
流速 :1mL/min
カラム温度 :40℃
移動相 :0.1%酢酸水溶液/アセトニトリル
サンプル :反応混合物を約0.1g量取り、約10gの脱イオン水で希釈、濾過により脱イオン水に不溶な成分を分離除去することにより高速液体クロマトグラフィー分析サンプルを調製した。
ε-カプロラクタムの定量 :絶対検量線法によりポリアミド6に対するε-カプロラクタム量を定量した。
【0044】
[実施例1]
撹拌機を具備したSUS316L製オートクレーブに、ポリアミド6(PA6-A)17.6g、脱イオン水25.5gを量り取り、さらに濃度6.5質量%のポリアミド6オリゴマー水溶液36.9gを添加した。水とポリアミド6およびポリアミド6オリゴマーの質量比(X:1)は3:1である。なお、ここで用いたポリアミド6オリゴマーは参考例4記載のポリアミド6オリゴマーである。
反応容器の窒素置換を行い、窒素加圧0.5MPa下に密閉した後、200rpmで撹拌しながら320℃で15分間保持し反応を行った。反応時の到達圧力は10.5MPaであった。反応終了後、室温にまで冷却して反応混合物を回収した。反応温度Y℃は320℃であることから、XとYの積は960、反応温度320℃での滞留時間が15分であることから、XとYとZの積は14,400である。
回収した反応混合物の高速液体クロマトグラフィー測定により算出したε-カプロラクタムの生成量は15.8gであり、反応に用いたポリアミド6(PA6-A)に対する収率は89.8%であった。
また、上記反応により回収した反応混合物を減圧30mmHg、加熱温度55℃で水の蒸留分離を行い、濃縮ε-カプロラクタム水溶液を得て、さらに減圧5mmHg、加熱温度150~170℃で蒸留し、留出ε-カプロラクタムを得た。濃縮、蒸留収率は95.8%であった。留出ε-カプロラクタムのHPLC不純物は0.48%であり、ポリアミド6の重合原料として使用可能な品質であった。
ポリアミド6と水を接触させることにより反応を行った参考例4との比較により、ポリアミド6と水を接触させる際に、さらにポリアミド6オリゴマー水溶液を添加して反応を行うことで、原料に用いたポリアミド6に対するε-カプロラクタムの収率が大幅に向上していることが分かる。
【0045】
[参考例5]
実施例1と同条件で反応を行うことで反応混合物を調製した。得られた反応混合物に約10倍量(質量)のメタノールを加え、撹拌してスラリー状にした後、ガラスフィルター(平均孔径10~16μm)で濾過して固形分を回収した。さらに回収した固形分に対して約5倍量のメタノールを加えて撹拌してスラリー状とし、ガラスフィルターで濾過する操作を4回繰り返した後、濾上物を50℃で12時間真空乾燥を行いポリアミド6オリゴマーを回収した。[参考例4]記載の条件で、回収したポリアミド6オリゴマーの高速液体クロマトグラフィー測定を行った結果、線状2~12量体オリゴマーが96.8質量%と高純度のポリアミド6オリゴマーであることが分かった。
【0046】
[実施例2]
撹拌機を具備したSUS316L製オートクレーブに、ポリアミド6(PA6-A)17.6g、脱イオン水25.5gを量り取り、さらに参考例5記載の方法で調製したポリアミド6オリゴマーを用いて濃度6.5質量%に調製したポリアミド6オリゴマー水溶液を36.9g添加した。水とポリアミド6およびポリアミド6オリゴマーの質量比(X:1は3:1である。
反応容器の窒素置換を行い、窒素加圧0.5MPa下に密閉した後、200rpmで撹拌しながら320℃で15分間保持し反応を行った。反応終了後、室温にまで冷却して反応混合物を回収した。反応温度Y℃は320℃であることから、XとYの積は960、反応温度320℃での滞留時間が15分であることから、XとYとZの積は14,400である。
回収した反応混合物の高速液体クロマトグラフィー測定により算出したε-カプロラクタムの生成量は15.7gであり、反応に用いたポリアミド6(PA6-A)に対する収率は89.2%であった。
実施例1と実施例2との比較により、異なる方法により調製したポリアミド6オリゴマーを用いても、反応に用いたポリアミド6に対するε-カプロラクタムの収率に影響がないことが分かる。
【0047】
[実施例3]
撹拌機を具備したSUS316L製オートクレーブに、参考例1で調製したPA6-B25.1g、脱イオン水25.5gを量り取り、さらに濃度6.5質量%のポリアミド6オリゴマー水溶液36.9gを添加した。水とポリアミド6およびポリアミド6オリゴマーの質量比(X:1)は3:1である。なお、ここで用いたポリアミド6オリゴマーは参考例4記載のポリアミド6オリゴマーである。
反応容器の窒素置換を行い、窒素加圧0.5MPa下に密閉した後、200rpmで撹拌しながら340℃で15分間保持し反応を行った。反応終了後、室温にまで冷却して反応混合物を回収した。反応温度Y℃は340℃であることから、XとYの積は1,020、反応温度340℃での滞留時間が15分であることから、XとYとZの積は15,300である。
回収した反応混合物の高速液体クロマトグラフィー測定より算出したε-カプロラクタムの生成量は15.0gであり、反応に用いたPA6-BにおけるPA6-Bにおけるポリアミド6に対する収率は85.4%である。
【0048】
[実施例4]
撹拌機を具備したSUS316L製オートクレーブに、参考例2記載のPA6-Cを25.1g、脱イオン水25.5gを量り取り、さらに濃度6.5質量%のポリアミド6オリゴマー水溶液36.9gを添加した。水とポリアミド6およびポリアミド6オリゴマーの質量比(X:1)は3:1である。なお、ここで用いたポリアミド6オリゴマーは参考例4記載のポリアミド6オリゴマーである。
反応容器の窒素置換を行い、窒素加圧0.5MPa下に密閉した後、200rpmで撹拌しながら320℃で15分間保持し反応を行った。反応終了後、室温にまで冷却して反応混合物を回収した。反応温度Y℃は320℃であることから、XとYとの積は960、反応温度320℃での滞留時間が15分であることから、XとYとZの積は14,400である。
回収した反応混合物の高速液体クロマトグラフィー測定により算出したε-カプロラクタムの生成量は14.9gであり、反応に用いたPA6-Cにおけるポリアミド6に対する収率は84.8%であった。
【0049】
[実施例5]
PA6-Aの代わりに、参考例3記載のPA6-Dを用いたこと以外は実施例1と同条件で反応を行い反応混合物を調製した。
回収した反応混合物の高速液体クロマトグラフィーにより算出したε-カプロラクタムの生成量は15.7gであり、反応に用いたPA6-Dにおけるポリアミド6に対する収率は89.2%であった。
【0050】
[実施例6]ポリアミド6の重合
試験管に実施例1に記載の方法で回収したε-カプロラクタム10g、安息香酸2.2mg、イオン交換水10.0gを量り取った。試験管をオートクレーブ内に仕込み、オートクレーブ内を窒素置換した後、ジャケット温度を250℃に設定し、加熱を開始した。内圧を1.0MPaに到達した後、内圧を1.0MPaで3時間保持した。その後1.5時間かけて内圧を常圧に放圧、内温が228℃に到達した時点で、加熱を停止した。重合完了後、試験管からポリマーを回収し破砕処理を行った。破砕したポリマーを95℃の熱水中で15時間処理し、未反応モノマーや低重合物を抽出除去した。抽出後のポリマーは80℃で24時間真空乾燥に処して、融点225℃、ηr=2.69のポリアミド6樹脂を得た。
【0051】
[実施例7]
撹拌機を具備したSUS316L製オートクレーブに、ポリアミド6(PA6-A)39.6g、脱イオン水57.4gを量り取り、さらに参考例4記載の方法で調製したポリアミド6オリゴマーを用いて濃度6.5質量%に調製したポリアミド6オリゴマー水溶液を83.0g添加した。水とポリアミド6およびポリアミド6オリゴマーの質量比(X:1は3:1)である。
反応容器の窒素置換を行い、窒素加圧5.0MPa下に密閉した後、200rpmで撹拌しながら320℃で15分間保持し反応を行った。反応時の到達圧力は19.7MPaであった。
反応終了後、室温にまで冷却して反応混合物を回収した。反応温度Y℃は320℃であることから、XとYの積は960、反応温度320℃での滞留時間が15分であることから、XとYとZの積は14,400である。
回収した反応混合物の高速液体クロマトグラフィー測定により算出したε-カプロラクタムの生成量は36.9gであり、反応に用いたポリアミド6(PA6-A)に対する収率は93.2%であった。
実施例1との比較により、反応時の圧力を飽和蒸気圧以上の高圧とすることにより、ε-カプロラクタムを高収率で得られる傾向にあることが分かる。
【0052】
[実施例8]
撹拌機を具備したSUS316L製オートクレーブに、ポリアミド6(PA6-A)26.4g、脱イオン水25.5gを量り取り、さらに参考例4記載の方法で調製したポリアミド6オリゴマーを用いて濃度9.8質量%に調製したポリアミド6オリゴマー水溶液を36.9g添加した。水とポリアミド6およびポリアミド6オリゴマーの質量比(X:1は2:1)である。
反応容器の窒素置換を行い、窒素加圧0.5MPa下に密閉した後、200rpmで撹拌しながら320℃で15分保持し反応を行った。
反応終了後、室温にまで冷却して反応混合物を回収した。反応時間Y℃は320℃であることから、XとYの積は640、反応温度320℃での滞留時間が15分であることから、XとYとZの積は9,600である。
回収した反応混合物の高速液体クロマトグラフィー測定により算出したε-カプロラクタムの生成量は18.8gであり、反応に用いたポリアミド6(PA6-A)に対する収率は71.0%であった。
【0053】
[実施例9]
撹拌機を具備したSUS316L製オートクレーブに、ポリアミド6(PA6-A)52.6g、脱イオン水51.0gを量り取り、さらに参考例4記載の方法で調製したポリアミド6オリゴマーを用いて濃度9.8質量%に調製したポリアミド6オリゴマー水溶液を73.8g添加した。水とポリアミド6およびポリアミド6オリゴマーの質量比(X:1は2:1)である。
反応容器の窒素置換を行い、窒素加圧5.0MPa下に密閉した後、200rpmで撹拌しながら320℃で15分間保持し反応を行った。反応時の到達圧力は19.8MPaであった。
反応終了後、室温にまで冷却して反応混合物を回収した。反応時間Y℃は320℃であることから、XtoYの積は640、反応温度320℃での滞留時間が15分であることから、XとYとZの積は9,600である。
回収した反応混合物の高速液体クロマトグラフィー測定により算出したε-カプロラクタムの生成量は45.1gであり、反応に用いたポリアミド6(PA6-A)に対する収率は85.7%であった。
実施例8との比較により、反応時の圧力を飽和蒸気圧以上の高圧とすることにより、ε-カプロラクタムを高収率で得られる傾向にあることが分かる。
【0054】
[参考例6]ポリアミド6の熱水抽出
70リットルのオートクレーブに、ε-カプロラクタム20kgと安息香酸4.32g、イオン交換水3.0kgを仕込み、重合缶内を密閉化し、十分に窒素置換した後に撹拌しながら、重合反応装置の缶内圧力が0.98MPaになるまで昇温させ、この缶内圧力を維持したまま250℃まで昇温を続けた。250℃到達後、40分かけて大気圧になるまで放圧を行った。その後、大気圧で250℃で180分保持した後、ポリアミド6ポリマーを吐出して冷却/カッティングし、ペレット状にした。
このペレットを20倍量の98℃の熱水を用いて抽出を行い、未反応カプロラクタムおよびポリアミド6オリゴマーを含む抽出液を回収した。抽出液中の未反応カプロラクタムおよびポリアミド6オリゴマーの合計量は0.5質量%であり、ポリアミド6オリゴマーは0.1質量%であった。
【0055】
[実施例10]
参考例6記載の方法で得られたPA6製造工程における熱水抽出液を未反応カプロラクタムおよびポリアミド6オリゴマーの濃度が6.5質量%になるまで濃縮を行い、得られた濃縮液を用いた解重合を実施した。
撹拌機を具備したSUS316L製オートクレーブに、ポリアミド6(PA6-A)17.6g、脱イオン水25.5gを量り取り、さらに前記濃縮液を36.9g添加した。水とポリアミド6およびポリアミド6オリゴマーの質量比(X:1)は3.3:1である。
反応容器の窒素置換を行い、窒素加圧0.5MPa下に密閉した後、200rpmで撹拌しながら320℃で15分間保持し反応を行った。反応終了後、室温にまで冷却して反応混合物を回収した。反応温度Y℃は320℃であることから、XとYの積は1056、反応温度320℃での滞留時間が15分であることから、XとYとZの積は15,840である。
回収した反応混合物の高速液体クロマトグラフィー測定により算出したε-カプロラクタムの生成量は14.8gであり、反応に用いたポリアミド6(PA6-A)に対する収率は84.1%であった。
【0056】
[実施例11]
参考例6記載の方法で得られたPA6製造工程における熱水抽出液を未反応カプロラクタムおよびポリアミド6オリゴマーの合計濃度が6.5質量%になるまで濃縮を行い、得られた濃縮液を用いた解重合を実施した。
撹拌機を具備したSUS316L製オートクレーブに、ポリアミド6(PA6-A)20.0g、前記濃縮液を65.0g添加した。水とポリアミド6およびポリアミド6オリゴマーの質量比(X:1)は2.9:1である。
反応容器の窒素置換を行い、窒素加圧0.5MPa下に密閉した後、200rpmで撹拌しながら320℃で15分間保持し反応を行った。反応終了後、室温にまで冷却して反応混合物を回収した。反応温度Y℃は320℃であることから、XとYの積は928、反応温度320℃での滞留時間が15分であることから、XとYとZの積は13,920である。
回収した反応混合物の高速液体クロマトグラフィー測定により算出したε-カプロラクタムの生成量は15.7gであり、反応に用いたポリアミド6(PA6-A)に対する収率は78.5%であった。