(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】捺染物、捺染物の製造方法及びインクジェット捺染装置
(51)【国際特許分類】
D06P 5/02 20060101AFI20231212BHJP
D06P 5/30 20060101ALI20231212BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20231212BHJP
D06M 15/643 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
D06P5/02
D06P5/30
B41M5/00 114
B41M5/00 120
B41M5/00 134
D06M15/643
(21)【出願番号】P 2023040882
(22)【出願日】2023-03-15
(62)【分割の表示】P 2022507146の分割
【原出願日】2021-03-05
【審査請求日】2023-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2020040980
(32)【優先日】2020-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】日置 潤
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-099790(JP,A)
【文献】特開2009-150010(JP,A)
【文献】特開2000-290884(JP,A)
【文献】特開平10-237776(JP,A)
【文献】特開2006-124855(JP,A)
【文献】特開2018-035273(JP,A)
【文献】特開2020-105304(JP,A)
【文献】特開平05-033274(JP,A)
【文献】特開昭62-078288(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103614910(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0151235(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2001/0018305(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06P
B41M 5/00
D06M 15/643
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
捺染対象の画像形成領域に顔料を含有するインク
が記録ヘッドで塗布された後にイオン性基含有シリコーンオイルを含む乳化粒子を含有する処理液が処理ヘッドで塗布された捺染物であって、
前記画像形成領域以外の領域のループ高さに対する前記画像形成領域の前記ループ高さの比率は、130%以下であり、
JIS L-0849:2013に記載の摩擦試験機II形法の湿潤試験により測定される前記画像形成領域の湿潤摩擦堅ろう度は、2級より大きい、捺染物。
【請求項2】
前記ループ高さは、前記捺染物を経糸に沿って二つ折りにした際の折り目における下側の前記捺染物と上側の前記捺染物との間の距離である、請求項1に記載の捺染物。
【請求項3】
JIS L-0849:2013に記載の摩擦試験機II形法の乾燥試験により測定される前記画像形成領域の乾燥摩擦堅ろう度は、4級以上である、請求項1又は2に記載の捺染物。
【請求項4】
前記画像形成領域以外の領域の前記ループ高さに対する前記画像形成領域の前記ループ高さの比率は、105%以上130%未満である、請求項1~3の何れか一項に記載の捺染物。
【請求項5】
前記捺染対象は、綿生地、絹生地、麻生地、アセテート生地、レーヨン生地、ナイロン生地、ポリウレタン生地、及びポリエステル生地のうちいずれかである、請求項1~
4の何れか一項に記載の捺染物。
【請求項6】
前記処理液の塗布量は、10g/m
2以上30g/m
2以下である、請求項
1~5の何れか一項に記載の捺染物。
【請求項7】
前記処理液の塗布量は、前記インクの塗布量に対して、0.5倍以上1.5倍以下である、請求項
6に記載の捺染物。
【請求項8】
前記画像形成領域は、カルボキシ変性シリコーンオイルが塗布されている、請求項
6又は7に記載の捺染物。
【請求項9】
顔料を含有するインクを記録ヘッドから捺染対象の画像形成領域に塗布する第1工程
と、
前記画像形成領域に処理ヘッドからイオン性基含有シリコーンオイルを含む乳化粒子を含有する処理液を塗布する第2工程と、
を備える捺染物の製造方法であって、
前記捺染物において、前記画像形成領域以外の領域のループ高さに対する前記画像形成領域の前記ループ高さの比率は、130%以下であり、
JIS L-0849:2013に記載の摩擦試験機II形法の湿潤試験により測定される前記画像形成領域の湿潤摩擦堅ろう度は、2級より大きい、捺染物の製造方法。
【請求項10】
前記ループ高さは、前記捺染物を経糸に沿って二つ折りにした際の折り目における下側の前記捺染物と上側の前記捺染物との間の距離である、請求項
9に記載の捺染物の製造方法。
【請求項11】
前記処理液の塗布量は、前記インクの塗布量に対して、0.5倍以上1.5倍以下である、請求項
9又は10に記載の捺染物の製造方法。
【請求項12】
前記捺染対象の前記画像形成領域に前記インクを吐出する記録ヘッドを備え、
前記インクを前記捺染対象に塗布することにより、請求項1~
5の何れか一項に記載の捺染物を製造する、インクジェット捺染装置。
【請求項13】
前記捺染対象の前記画像形成領域に前記インクを吐出する記録ヘッドと、
前記画像形成領域に前記処理液を吐出する処理ヘッドとを備え、
前記インク及び前記処理液を前記捺染対象に塗布することにより、請求項
6~8の何れか一項に記載の捺染物を製造する、インクジェット捺染装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捺染物、捺染物の製造方法及びインクジェット捺染装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット捺染方法においては、例えば、顔料を含有するインクが用いられる。画像が形成された捺染対象(以下、捺染物と記載することがある)の摩擦堅ろう度を向上させるため、顔料を含有するインクは、後処理液と共に用いられることがある。
【0003】
一方、特許文献1には、インクジェット記録装置用の搬送ローラーが記載されている。搬送ローラーの表面に対するインクの付着を抑制するために、この搬送ローラーの表面に対して、フラーレン及びフラーレン誘導体の一方又は両方を含有する処理液が塗布されている。この処理液の分散媒は、シリコーンオイルであってもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の搬送ローラーに塗布される処理液は、インクの付着を抑制する。そのため、この処理液を捺染物のインクに付着させて、捺染物の摩擦堅ろう度を向上させることは困難である。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、インクジェット捺染装置の処理ヘッドから吐出可能で、摩擦堅ろう度に優れた捺染物を形成でき、捺染物の触感の低下を抑制できるインクジェット用処理液を提供することである。また、本発明の別の目的は、摩擦堅ろう度に優れた捺染物を形成でき、捺染物の触感の低下を抑制できるインクジェット捺染装置、及びインクジェット捺染方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るインクジェット用処理液は、シリコーンオイルを含有する乳化粒子と、水性媒体とを含有する。インクジェット用処理液における、前記シリコーンオイルの含有率は、5質量%以上15質量%以下である。前記シリコーンオイルの粘度は、1000mm2/s以上である。前記シリコーンオイルは、イオン性基含有シリコーンオイルを少なくとも含有する。
【0008】
本発明に係るインクジェット捺染装置は、捺染対象の画像形成領域に、インクを吐出する記録ヘッドと、前記捺染対象の少なくとも前記画像形成領域に、処理液を吐出する処理ヘッドとを備える。前記処理液は、既に述べたインクジェット用処理液である。
【0009】
本発明に係るインクジェット捺染方法は、捺染対象の画像形成領域に、記録ヘッドからインクを吐出するインク吐出工程と、前記捺染対象の少なくとも前記画像形成領域に、処理ヘッドから処理液を吐出する処理工程とを含む。前記処理液は、既に述べたインクジェット用処理液である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る処理液は、インクジェット捺染装置の処理ヘッドから吐出可能で、摩擦堅ろう度に優れた捺染物を形成でき、捺染物の触感の低下を抑制できる。また、本発明に係るインクジェット捺染装置、及びインクジェット捺染方法によれば、摩擦堅ろう度に優れた捺染物を形成でき、捺染物の触感の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第2実施形態に係るインクジェット捺染装置の一例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本明細書において、体積中位径(D50)の測定値は、何ら規定していなければ、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製「LA-950」)を用いて測定されたメディアン径である。以下、体積中位径を「D50」と記載することがある。材料の「主成分」は、何ら規定していなければ、質量基準で、その材料に最も多く含まれる成分を意味する。「比重」は、何ら規定していなければ、25℃における比重を意味する。アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。本明細書に記載の各成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
[第1実施形態:インクジェット用処理液]
以下、本発明の第1実施形態に係るインクジェット用処理液(以下、処理液と記載することがある)を説明する。第1実施形態に係る処理液は、乳化粒子と、水性媒体とを含有する。処理液の水性媒体中に、乳化粒子が分散している。即ち、第1実施形態に係る処理液は、エマルションであり、より具体的には、水中油滴(O/W)型エマルションである。
【0014】
第1実施形態に係る処理液は、例えば、後述するインクジェット捺染装置、及びインクジェット捺染方法において好適に用いられる。第1実施形態に係る処理液は、例えば、後処理用の処理液である。詳しくは、インクにより捺染対象の画像形成領域に画像が形成された後、第1実施形態に係る処理液により画像形成領域が後処理される。
【0015】
<乳化粒子>
処理液に含有される乳化粒子は、シリコーンオイルを含有する。シリコーンオイルは、イオン性基含有シリコーンオイルを少なくとも含有する。シリコーンオイルは、イオン性基含有シリコーンオイルに加えて、それ以外のシリコーンオイル(以下、その他のシリコーンオイルと記載することがある)を更に含有してもよい。乳化粒子がシリコーンオイル、特にイオン性基含有シリコーンオイルを含有することで、次の第1~第4の利点が得られる。
【0016】
第1の利点を説明する。シリコーンオイルには、摩擦低減作用がある。捺染対象が処理液を用いて後処理されることにより、捺染対象に形成された画像がシリコーンオイルでコートされ、捺染対象の表面の摩擦が低減する。その結果、捺染対象に形成された画像が摩擦された場合であっても色落ちが生じ難く、乾燥摩擦堅ろう度及び湿潤摩擦堅ろう度に優れた捺染物を形成できる。また、摩擦低減作用があるシリコーンオイルでコートされることにより、捺染対象の糸同士の摩擦が低減する。その結果、画像形成により引き起こされる捺染対象のごわつきが低減され、捺染物の触感の低下が抑制される。
【0017】
第2の利点を説明する。シリコーンオイルは、撥水性を有する。処理液を用いて捺染対象が後処理されることにより、撥水性を有するシリコーンオイルで捺染対象がコートされ、捺染対象の表面に撥水性が付与される。その結果、捺染対象に形成された画像が湿潤状態で摩擦された場合であっても、色落ちが生じ難く、湿潤摩擦堅ろう度に優れた捺染物を形成できる。
【0018】
第3の利点を説明する。イオン性基含有シリコーンオイルがイオン性基を有することで、イオン性基と捺染対象との間、及びイオン性基と捺染対象上に吐出されたインクとの間に、結合が形成されると推測される。結合が形成されることにより、水によって、捺染対象及びインクから、イオン性基含有シリコーンオイルが洗い流され難くなる。その結果、湿潤摩擦堅ろう度に優れた捺染物を形成できる。
【0019】
第4の利点を説明する。イオン性基含有シリコーンオイルがイオン性基を有することで、処理液の水性媒体中に、イオン性基含有シリコーンオイルを含有する乳化粒子が好適に分散する。このような処理液は、インクジェット捺染装置の処理ヘッドから、好適に吐出可能である。処理ヘッドから処理液が吐出される場合、処理液に捺染物を浸漬させる場合と比較して、処理液の使用量が低減される。このため、捺染対象にごわつきが引き起こされ難く、捺染物の触感の低下が抑制される。また、処理液が処理ヘッドから吐出される場合、基油としてシリコーンオイルを含有するインクが記録ヘッドから吐出される場合と比較して、粘度の高いシリコーンオイルを使用することができる。このため、摩擦堅ろう度に優れた捺染物を形成できる。以上、第1~第4の利点を説明した。
【0020】
処理液におけるシリコーンオイルの含有率は、5質量%以上15質量%以下である。シリコーンオイルの含有率が5質量%未満であると、捺染物の乾燥摩擦堅ろう度、及び捺染物の触感が低下する。一方、シリコーンオイルの含有率が15質量%を超えると、シリコーンオイルに含有されるイオン性基含有シリコーンオイルのイオン性基の量が増加するため、捺染対象の表面に撥水性が付与され難く、捺染物の湿潤摩擦堅ろう度が低下する。
【0021】
処理液におけるシリコーンオイルの含有率は、処理液の質量に対する、シリコーンオイルの質量の百分率を意味する。乳化粒子が2種以上のシリコーンオイル(例えば、イオン性基含有シリコーンオイル及びその他のシリコーンオイル)を含有する場合には、シリコーンオイルの含有率は、処理液の質量に対する、2種以上のシリコーンオイルの合計質量の百分率を意味する。
【0022】
シリコーンオイルの粘度は、1000mm2/s(即ち、mm2/秒)以上である。シリコーンオイルの粘度が1000mm2/s以上であると、摩擦により捺染物からシリコーンオイルが脱離し難くなり、乾燥摩擦堅ろう度及び湿潤摩擦堅ろう度に優れた捺染物を形成できる。また、既に述べたように、第1実施形態に係る処理液は、インクジェット捺染装置の処理ヘッドから吐出可能である。処理ヘッドから処理液が吐出される場合は、処理液に捺染物を浸漬させる場合と比較して、処理液の使用量が低減される。このため、1000mm2/s以上の高い粘度のシリコーンオイルを処理液に使用した場合であっても、捺染対象にごわつきが引き起こされ難く、捺染物の触感の低下が抑制される。
【0023】
シリコーンオイルの粘度の上限は、特に限定されない。シリコーンオイルの粘度は、100000mm2/s以下であることが好ましく、6000mm2/s以下であることがより好ましい。シリコーンオイルの粘度は、例えば、1000mm2/s、1100mm2/s、1200mm2/s、1500mm2/s、1700mm2/s、1800mm2/s、2000mm2/s、3000mm2/s、5700mm2/s、及び6000mm2/sからなる群から選択される2つの値の範囲内であってもよい。
【0024】
シリコーンオイルの粘度は、25℃における動粘度を意味する。乳化粒子が2種以上のシリコーンオイル(例えば、イオン性基含有シリコーンオイル及びその他のシリコーンオイル)を含有する場合には、シリコーンオイルの粘度は、2種以上のシリコーンオイルの混合物の粘度を意味する。
【0025】
シリコーンオイルの粘度は、JIS(日本産業規格) Z8803:2011(液体の粘度測定方法)に記載の方法に準拠して測定される。なお、例えば、トルエンにて処理液からシリコーンオイルを抽出し、洗浄し、乾燥させることにより、処理液からシリコーンオイルを分離して、シリコーンオイルの粘度を測定することができる。
【0026】
乳化粒子の平均粒子径(水性媒体中での分散粒子径)は、100nm以上250nm以下であることが好ましく、120nm以上220nm以下であることがより好ましく、150nm以上200nm以下であることが更に好ましい。乳化粒子の平均粒子径がこのような範囲内であると、インクジェット捺染装置の処理ヘッドから、乳化粒子を含有する処理液を好適に吐出できる。乳化粒子の平均粒子径は、例えば、100nm、120nm、135nm、150nm、155nm、160nm、180nm、200nm、210nm、220nm、及び250nmからなる群から選択される2つの値の範囲内であってもよい。
【0027】
乳化粒子の平均粒子径は、キュムラント法に基づき算出された散乱光強度基準による調和平均粒子径(キュムラント平均粒子径とも呼ばれる)を意味する。乳化粒子の平均粒子径は、ISO 13321:1996(Particle size analysis-Photon correlation spectroscopy)に記載の方法に準拠して測定される。
【0028】
なお、乳化粒子は、シリコーンオイル以外の成分を更に含有してもよい。但し、摩擦堅ろう度に優れた捺染物を形成し且つ捺染物の触感の低下を抑制するために、乳化粒子は、シリコーンオイルのみを含有することが好ましい。
【0029】
既に述べたように、乳化粒子に含有されるシリコーンオイルは、イオン性基含有シリコーンオイルを少なくとも含有し、その他のシリコーンオイルを更に含有してもよい。以下、イオン性基含有シリコーンオイル、及びその他のシリコーンオイルについて説明する。
【0030】
(イオン性基含有シリコーンオイル)
イオン性基含有シリコーンオイルは、例えば、変性シリコーンオイルであり、より具体的には、イオン性基変性シリコーンオイルである。イオン性基変性シリコーンオイルとしては、例えば、側鎖にイオン性基が導入された変性シリコーンオイル、及び末端基にイオン性基が導入された変性シリコーンオイルが挙げられる。
【0031】
側鎖にイオン性基が導入された変性シリコーンオイルは、式(1a)で表される第1末端基と、式(1b)で表される繰り返し単位と、式(1c)で表される繰り返し単位と、式(1d)で表される第2末端基とを有する。
【0032】
【0033】
式(1a)中の*は、式(1b)又は(1c)で表される繰り返し単位中のケイ素原子に結合する結合手を示す。式(1d)中の*は、式(1b)又は(1c)で表される繰り返し単位中の酸素原子に結合する結合手を示す。式(1c)中のR1は、イオン性基を含む基を表す。イオン性基を含む基のイオン性基としては、アミノ基、カルボキシ基、フェノール性ヒドロキシ基、又はシラノール基が好ましい。
【0034】
末端基にイオン性基が導入された変性シリコーンオイルは、下記式(2a)で表される第1末端基と、式(2b)で表される繰り返し単位と、式(2c)で表される第2末端基とを有する。
【0035】
【0036】
式(2a)中の*は、式(2b)で表される繰り返し単位中のケイ素原子に結合する結合手を示す。式(2c)中の*は、式(2b)で表される繰り返し単位中の酸素原子に結合する結合手を示す。式(2a)中のR2、及び式(2c)中のR3は、各々独立に、イオン性基を含む基を表す。イオン性基を含む基のイオン性基としては、アミノ基、カルボキシ基、フェノール性ヒドロキシ基、又はシラノール基が好ましい。
【0037】
イオン性基含有シリコーンオイルは、アミノ変性シリコーンオイル、カルボキシ変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイル、及びシラノール変性シリコーンオイルからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、1種であることがより好ましい。アミノ変性シリコーンオイル、カルボキシ変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイル、及びシラノール変性シリコーンオイルは、各々、イオン性基として、アミノ基、カルボキシ基、フェノール性ヒドロキシ基、及びシラノール基を有する。
【0038】
水性媒体中で乳化粒子を好適に分散させるために、イオン性基含有シリコーンオイルの官能基当量は、1000g/mоl以上5500g/mоl以下であることが好ましい。官能基当量は、1mоlの官能基(イオン性基)あたりの分子量である。イオン性基含有シリコーンオイルの官能基当量は、例えば、1000g/mоl、1200g/mоl、1474g/mol、1490g/mоl、1500g/mol、2000g/mоl、3800g/mol、3900g/mоl、4000g/mol、5000g/mоl、5200g/mol、及び5500g/mоlからなる群から選択される2つの値の範囲内であってもよい。
【0039】
乳化粒子に含有されるシリコーンオイルの総質量に対する、イオン性基含有シリコーンオイルの含有率は、30質量%以上100質量%以下であることが好ましく、40質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0040】
(その他のシリコーンオイル)
シリコーンオイルがその他のシリコーンオイルを更に含有することで、シリコーンオイルの粘度を調整できる。その他のシリコーンオイルとしては、例えば、非変性シリコーンオイルが挙げられ、より具体的には、ジメチルポリシロキサンが挙げられる。
【0041】
その他のシリコーンオイルが含有される場合、乳化粒子に含有されるシリコーンオイルの総質量に対する、その他のシリコーンオイルの含有率は、70質量%以下であることが好ましく、50質量%以上70質量%以下であることがより好ましく、50質量%以上60質量%以下であることが更に好ましい。
【0042】
その他のシリコーンオイルが含有される場合、その他のシリコーンオイルの質量に対する、イオン性基含有シリコーンオイルの質量の比率は、0.5以上1.0以下であることが好ましく、0.6以上0.7以下であることがより好ましい。
【0043】
<水性媒体>
処理液に含有される水性媒体は、水を主成分とする媒体である。水性媒体は、溶媒として機能してもよく、分散媒として機能してもよい。水性媒体の具体例としては、水、又は水と極性溶媒との混合液が挙げられる。水性媒体に含有される極性溶媒の例としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、及びメチルエチルケトンが挙げられる。水性媒体における水の含有率は、90質量%以上であることが好ましく、100質量%であることが特に好ましい。水性媒体の含有率は、処理液の質量に対して、50質量%以上90質量%以下であることが好ましく、55質量%以上70質量%以下であることがより好ましい。
【0044】
<その他の成分>
処理液は、必要に応じて、乳化粒子及び水性媒体以外の成分(以下、その他の成分と記載することがある)を含有してもよい。その他の成分としては、酸、塩基、ポリオール、及び分散剤が挙げられる。
【0045】
(酸)
イオン性基含有シリコーンオイルが、アニオン性基を有する場合には、処理液は、酸を含有することが好ましい。酸によってアニオン性基の電離が促され、水性媒体中で、イオン性基含有シリコーンオイルを含有する乳化粒子が好適に分散する。酸としては、例えば、強酸、及び弱酸が挙げられる。強酸としては、例えば、塩酸、パラトルエンスルホン酸、及び硫酸が挙げられる。弱酸としては、例えば、安息香酸、及び酢酸が挙げられる。シリコーンオイルが有するアニオン性基の電離を促すために、酸としては、強酸が好ましく、塩酸、パラトルエンスルホン酸、又は硫酸がより好ましい。処理液が酸を含有する場合、濃度1mol/Lの酸の量に換算して、酸の含有率は、処理液の質量に対して、1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。
【0046】
(塩基)
イオン性基含有シリコーンオイルが、カチオン性基を有する場合には、処理液は、塩基を含有することが好ましい。塩基によってカチオン性基の電離が促され、水性媒体中で、イオン性基含有シリコーンオイルを含有する乳化粒子が好適に分散する。塩基としては、例えば、水酸化ナトリウムが挙げられる。処理液が塩基を含有する場合、濃度1mol/Lの塩基の量に換算して、塩基の含有率は、処理液の質量に対して、1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。
【0047】
(ポリオール)
処理液がポリオールを含有することで、処理液の粘度が好適に調整される。ポリオールとしては、ジオール又はトリオールが好ましい。ジオールとしては、例えば、グリコール化合物が挙げられ、より具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコ-ル、及びテトラエチレングリコールが挙げられる。トリオールとしては、例えば、グリセリンが挙げられる。処理液がポリオールを含有する場合、ポリオールの含有率は、処理液の質量に対して、10質量%以上40質量%以下であることが好ましく、15質量%以上35質量%以下であることがより好ましい。
【0048】
(分散剤)
分散剤としては、例えば、界面活性剤、樹脂分散剤、及び多糖類が挙げられる。但し、処理液が分散剤を含有することなく、処理液中で乳化粒子が分散していることが好ましい。既に述べたように、イオン性基含有シリコーンオイルを含有する乳化粒子は、水性媒体中で好適に分散する。このため、分散剤が含有されない場合であっても、乳化粒子の分散状態を維持できる。分散剤は、親水性基を有することが多い。親水性基を有する分散剤が処理液に含有されないことで、処理液により処理された捺染物の湿潤摩擦堅ろう度が向上する。
【0049】
<処理液の製造方法>
処理液の製造方法の一例を説明する。ホモジナイザーを用いて、シリコーンオイルと、水性媒体と、必要に応じて添加される成分(例えば、酸又は塩基、及びポリオール)とを混合して乳化させる。このようにして、水性媒体中に、シリコーンオイルを含有する乳化粒子を分散させて、処理液を得る。
【0050】
乳化を好適に進行させるために、予め、乳化粒子を含有する原料エマルションを製造し、原料エマルションと水性媒体と必要に応じてポリオールとを混合して、処理液を得てもよい。原料エマルションは、例えば、シリコーンオイルと、水性媒体の一部と、必要に応じて酸又は塩基とを含有する。原料エマルションの製造において、乳化時間は、例えば、5分以上1時間以下である。乳化温度は、例えば、5℃以上40℃以下である。原料エマルションの含有率は、処理液の質量に対して、例えば、15質量%以上50質量%以下である。
【0051】
[第2実施形態:インクジェット捺染装置]
次に、
図1を参照しながら、本発明の第2実施形態に係るインクジェット捺染装置10を説明する。なお、理解しやすくするために、
図1は、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の大きさ、個数等は、適宜変更されてもよい。
図1は、第2実施形態に係るインクジェット捺染装置の一例であるインクジェット捺染装置10の要部を示す側面図である。
図1に示すインクジェット捺染装置10は、フラットベッド式のインクジェット捺染装置である。
【0052】
第2実施形態に係るインクジェット捺染装置10は、第1実施形態に係る処理液を用いて、捺染対象Pを処理する。第1実施形態に係る処理液が用いられるため、第1実施形態で述べたのと同じ理由により、インクジェット捺染装置10によれば、摩擦堅ろう度に優れた捺染物を形成でき、捺染物の触感の低下を抑制できる。
【0053】
図1に示すインクジェット捺染装置10は、記録ヘッド1と、処理ヘッド2と、載置台3とを備える。記録ヘッド1は、第1記録ヘッド1a、第2記録ヘッド1b、第3記録ヘッド1c、及び第4記録ヘッド1dを有する。
【0054】
記録ヘッド1は、捺染対象Pの画像形成領域に、インクを吐出する。記録ヘッド1が有する、第1記録ヘッド1a、第2記録ヘッド1b、第3記録ヘッド1c、及び第4記録ヘッド1dは、それぞれ、異なる色のインク(例えば、イエローインク、マゼンタインク、シアンインク、及びブラックインク)を吐出する。記録ヘッド1としては、特に限定されないが、例えば、ピエゾ方式ヘッド及びサーマルインクジェット方式ヘッドが挙げられる。
【0055】
処理ヘッド2は、捺染対象Pの少なくとも画像形成領域に、処理液を吐出する。処理液は、第1実施形態に係る処理液である。処理ヘッド2としては、特に限定されないが、例えば、ピエゾ方式ヘッド及びサーマルインクジェット方式ヘッドが挙げられる。
【0056】
載置台3には、捺染対象Pが載置される。捺染対象Pにインク及び処理液が吐出可能なように、載置台3の上方に、記録ヘッド1及び処理ヘッド2が配設されている。モーター(不図示)の駆動により、載置台3は、記録ヘッド1から処理ヘッド2に向かう方向(例えば、
図1の左方向)に、水平に移動する。載置台3が水平に移動することにより、載置台3上の捺染対象Pが搬送される。
【0057】
捺染対象Pは、織物であってもよいし、編み物であってもよい。捺染対象Pとしては、例えば、綿生地、絹生地、麻生地、アセテート生地、レーヨン生地、ナイロン生地、ポリウレタン生地、及びポリエステル生地が挙げられる。
【0058】
捺染物の形成において、まず、捺染対象Pを載置した載置台3が水平に移動して、記録ヘッド1と対向する位置に、捺染対象Pが搬送される。記録ヘッド1から、捺染対象Pの画像形成領域に、インクが吐出される。このようにして、捺染対象Pの画像形成領域に、インクによって画像が形成される。インクが吐出された後、捺染対象Pを載置した載置台3が更に水平に移動して、処理ヘッド2と対向する位置に、捺染対象Pが搬送される。処理ヘッド2から、捺染対象Pの少なくとも画像形成領域に、処理液が吐出される。このようにして、捺染対象Pの画像形成領域に形成された画像上に、処理液によって処理膜が形成される。
【0059】
処理ヘッド2は、捺染対象Pの画像形成領域のみに処理液を吐出してもよく、捺染対象Pの画像形成領域よりも広い領域に処理液を吐出してもよく、捺染対象Pの全面に処理液を吐出してもよい。処理液の使用量を低減させて捺染物の触感の低下を抑制するために、処理ヘッド2は、捺染対象Pの画像形成領域のみに処理液を吐出することが好ましく、画像形成領域の中でも記録ヘッド1によってインクが吐出された領域のみに処理液を吐出することがより好ましい。処理ヘッド2は処理液を吐出する位置を正確にコントロールできるため、インクが吐出された領域のみに処理液を吐出することが可能となる。処理液を吐出する位置を正確にコントロールするために、処理ヘッド2と、捺染対象Pとの間の距離は、1mm以上5mm以下であることが好ましい。また、効率的に処理液による後処理を進めるために、処理ヘッド2からは、処理液のみが吐出されることが好ましい。
【0060】
処理ヘッド2から捺染対象Pに処理液が吐出された後、捺染対象Pを載置した載置台3が更に水平に移動して、加熱部(不図示)と対向する位置に、捺染対象Pが搬送される。加熱部が捺染対象Pを加熱することにより、インク及び処理液が乾燥する。加熱温度は、例えば、120℃以上180℃以下である。加熱時間は、例えば、1分以上10分以下である。加熱により、インク及び処理液に含まれる揮発成分が乾燥し、捺染対象Pへのインク及び処理液の固定が促進される。その結果、インクにより画像が形成され且つ処理液により処理された捺染対象Pである、捺染物が形成される。
【0061】
以上、第2実施形態に係るインクジェット捺染装置10について説明した。但し、本発明のインクジェット捺染装置は、上記インクジェット捺染装置10に限定されず、例えば、以下の変形例で示すように変更可能である。第1の変形例に関し、インクジェット捺染装置10は、処理液を吐出する処理ヘッド2の代わりに、処理液を散布するスプレーを備えていてもよい。第2の変形例に関し、処理液による処理は、処理液が貯留されている槽に捺染対象Pを浸漬することにより実施されてもよい。浸漬させる場合、第3実施形態で後述する処理液の吐出量は、処理液の塗布量に相当する。第3の変形例に関し、インクジェット捺染装置10においては載置台3が水平に移動したが、載置台3が固定された状態で、記録ヘッド1及び処理ヘッド2が水平に移動してもよい。第4の変形例に関し、捺染対象Pの搬送方向に、載置台3が水平に移動、又は記録ヘッド1及び処理ヘッド2が水平に移動すると共に、記録ヘッド1及び処理ヘッド2が、捺染対象Pの搬送方向と直行する方向に水平に移動してもよい。第5の変形例に関し、記録ヘッド1の個数が1~3個又は5個以上であってもよい。第6の変形例に関し、フラットベッド式ではないインクジェット捺染装置であってもよい。記録ヘッド1及び処理ヘッド2を備えている限り、インクジェット捺染装置の様式に関わらず、第1実施形態に係る処理液を用いることによる効果を得ることができる。
【0062】
[第3実施形態:インクジェット捺染方法]
次に、引き続き
図1を参照しながら、本発明の第3実施形態に係るインクジェット捺染方法を説明する。第3実施形態に係るインクジェット捺染方法は、第1実施形態に係る処理液を用いて、捺染対象Pの画像形成領域に、画像を形成する。また、第3実施形態に係るインクジェット捺染方法は、第2実施形態に係るインクジェット捺染装置10を用いて、捺染対象Pの画像形成領域に、画像を形成する。第3実施形態に係るインクジェット捺染方法は、第1実施形態に係る処理液を用いるため、第1実施形態で述べたのと同じ理由により、摩擦堅ろう度に優れた捺染物を形成でき、捺染物の触感の低下を抑制できる。
【0063】
第3実施形態に係るインクジェット捺染方法は、インク吐出工程と、処理工程とを含む。インク吐出工程において、捺染対象Pの画像形成領域に、記録ヘッド1からインクを吐出する。処理工程において、捺染対象Pの少なくとも画像形成領域に、処理ヘッド2から処理液を吐出する。処理液は、第1実施形態に係る処理液である。処理工程は、例えば、インク吐出工程の後に行われる。インクジェット捺染方法は、必要に応じて、加熱工程を更に含んでいてもよい。
【0064】
インク吐出工程において、捺染対象Pに対するインクの吐出量は、例えば、5g/m2以上40g/m2以下である。
【0065】
処理工程において、捺染対象Pに対する処理液の吐出量は、例えば、10g/m
2以上120g/m
2以下である。乾燥摩擦堅ろう度を特に向上させるために、処理液の吐出量は、15g/m
2以上30g/m
2以下であることが好ましい。乾燥摩擦堅ろう度に加えて、湿潤摩擦堅ろう度を特に向上させるために、処理液の吐出量は、17g/m
2以上25g/m
2以下であることがより好ましい。以上、
図1を参照して、第3実施形態に係るインクジェット捺染方法を説明した。
【0066】
[第2実施形態及び第3実施形態で用いられるインク]
次に、上記第2実施形態及び上記第3実施形態において使用されるインクについて説明する。インクは、例えば、顔料と、水性媒体とを含有する。インクは、必要に応じて、界面活性剤、ポリオール、及びバインダー樹脂粒子からなる群から選択される少なくとも1種を更に含有してもよい。
【0067】
(顔料)
顔料は、例えば、水性媒体に分散して存在する。画像濃度、色相、及び色の安定性に優れたインクを得る観点から、顔料のD50は、30nm以上250nm以下であることが好ましく、70nm以上160nm以下であることがより好ましい。
【0068】
顔料としては、例えば、黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、紫色顔料、及び黒色顔料が挙げられる。黄色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー(74、93、95、109、110、120、128、138、139、151、154、155、173、180、185、及び193)が挙げられる。橙色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ(34、36、43、61、63、及び71)が挙げられる。赤色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド(122及び202)が挙げられる。青色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー(15、より具体的には15:3)が挙げられる。紫色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントバイオレット(19、23、及び33)が挙げられる。黒色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブラック(7)が挙げられる。
【0069】
顔料の含有率は、インクの質量に対して、1質量%以上12質量%以下であることが好ましく、1質量%以上7質量%以下であることがより好ましい。顔料の含有率が1質量%以上であることで、形成される捺染物の画像濃度を向上できる。また、顔料の含有率が12質量%以下であることで、流動性の高いインクが得られる。
【0070】
(水性媒体)
インクに含有される水性媒体は、第1実施形態で述べた処理液に含有される水性媒体と同義である。水性媒体の含有率は、インクの質量に対して、5質量%以上70質量%以下であることが好ましく、40質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。
【0071】
(界面活性剤)
インクが界面活性剤を含有することで、捺染対象に対するインクの濡れ性が向上する。界面活性剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、及び両性界面活性剤が挙げられる。インクに含有される界面活性剤は、非イオン界面活性剤であることが好ましい。非イオン界面活性剤は、アセチレングリコール構造を有する界面活性剤であることが好ましく、アセチレンジオールエチレンオキサイド付加物であることがより好ましい。界面活性剤のHLB値は、3以上20以下であることが好ましく、6以上16以下であることがより好ましく、7以上10以下であることが更に好ましい。界面活性剤のHLB値は、例えば、グリフィン法により式「HLB値=20×(親水部の式量の総和)/分子量」から算出される。画像のオフセットを抑制しつつ、画像濃度を向上させるために、界面活性剤の含有率は、インクの質量に対して、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上2.0質量%以下であることがより好ましい。
【0072】
(ポリオール)
インクがポリオールを含有することで、インクの粘度が好適に調整される。インクに含有されるポリオールは、第1実施形態で述べた処理液に含有されるポリオールと同義である。インクがポリオールを含有する場合、インクの粘度を好適に調整するために、ポリオールの含有率は、インクの質量に対して、5質量%以上60質量%以下であることが好ましく、20質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。
【0073】
(バインダー樹脂粒子)
バインダー樹脂粒子は、水性媒体中に分散した状態で存在する。バインダー樹脂粒子は、捺染対象と顔料とを結合させるバインダーとして機能する。このため、インクがバインダー樹脂粒子を含有することで、顔料の定着性に優れた捺染物を得ることができる。
【0074】
バインダー樹脂粒子が含有する樹脂としては、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、スチレン-(メタ)アクリル樹脂、スチレン-マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン-(メタ)アクリル酸共重合体、及びビニルナフタレン-マレイン酸共重合体が挙げられる。バインダー樹脂粒子が含む樹脂としては、ウレタン樹脂が好ましい。バインダー樹脂粒子におけるウレタン樹脂の含有率は、80質量%以上であることが好ましく、100質量%であることがより好ましい。
【0075】
バインダー樹脂の含有率は、インクの質量に対して、1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、2質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。バインダー樹脂粒子の含有率が1質量%以上であると、顔料の定着性に優れた捺染対象を得ることができる。一方、バインダー樹脂粒子の含有率が20質量%以下であると、捺染対象にインクを安定的に吐出できる。
【0076】
(添加剤)
インクは、必要に応じて、公知の添加剤(より具体的には、溶解安定剤、乾燥防止剤、酸化防止剤、粘度調整剤、pH調整剤、及び防カビ剤等)を更に含有してもよい。
【0077】
(インクの製造方法)
インクは、例えば、攪拌機を用いて、顔料と、水性媒体と、必要に応じて添加される成分(例えば、界面活性剤、ポリオール、及びバインダー樹脂粒子)とを混合することにより製造される。混合時間は、例えば、1分以上30分以下である。
【実施例】
【0078】
以下、本発明の実施例を説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0079】
[処理液の作製]
以下の方法により、処理液(A-1)~(A-7)及び(B-1)~(B-5)を作製した。処理液(A-1)~(A-7)及び(B-1)~(B-5)の組成を、表1に示す。
【0080】
【0081】
表1中、各用語の意味は、次のとおりである。「量」は、処理液におけるシリコーンオイルの含有率を示す。乳化粒子が2種以上のシリコーンオイルを含有している場合、「量」は処理液における、2種以上のシリコーンオイルの合計含有率を示す。「wt%」は、質量%を示す。「粘度」は、シリコーンオイルの粘度を示す。乳化粒子が2種以上のシリコーンオイルを含有している場合、「粘度」は2種以上のシリコーンオイルの混合物の粘度を示す。「-」は、原料エマルションGを作製できず、処理液(B-4)の作製が実施できなかったことを示す。
【0082】
まず、各処理液の作製に使用するための原料エマルションA~Hを、以下に示す方法により作製した。
【0083】
<原料エマルションAの作製>
300gのアミノ変性シリコーンオイル(信越化学工業株式会社製「KF-864」、粘度:1,700mm2/s、比重:0.98、官能基当量:3,800g/mol)、600gのイオン交換水、及び100gの塩酸(濃度:1mol/L)を、ビーカーに入れた。ホモジナイザー(IKA社製「ウルトラタラックスT25」)を用いて、回転速度10000rpmで15分間、ビーカーの内容物を攪拌し、30分間静置した。次いで、120メッシュのステンレスフィルターで、ビーカーの内容物をろ過し、原料エマルションAを得た。原料エマルションAには、アミノ変性シリコーンオイルの乳化粒子が分散していた。原料エマルションAに含有される乳化粒子の平均粒子径は、150nmであった。
【0084】
<原料エマルションBの作製>
300gのカルボキシ変性シリコーンオイル(信越化学工業株式会社製「X-22-3701E」、粘度:2,000mm2/s、比重:0.98、官能基当量:4,000g/mol)、600gのイオン交換水、及び100gの水酸化ナトリウム水溶液(濃度:1mol/L)をビーカーに入れた。ホモジナイザー(IKA社製「ウルトラタラックスT25」)を用いて、回転速度10000rpmで15分間、ビーカーの内容物を攪拌し、30分間静置した。次いで、120メッシュのステンレスフィルターで、ビーカーの内容物をろ過し、原料エマルションBを得た。原料エマルションBには、カルボキシ変性シリコーンオイルの乳化粒子が分散していた。原料エマルションBに含有される乳化粒子の平均粒子径は、120nmであった。
【0085】
<原料エマルションCの作製>
300gのアミノ変性シリコーンオイル(信越化学工業株式会社製「KF-877」、粘度:5,700mm2/s、比重:0.98、官能基当量:5,200g/mol)、600gのイオン交換水、及び100gの塩酸(濃度:1mol/L)をビーカーに入れた。ホモジナイザー(IKA社製「ウルトラタラックスT25」)を用いて、回転速度10000rpmで15分間、ビーカーの内容物を攪拌し、30分間静置した。次いで、120メッシュのステンレスフィルターで、ビーカーの内容物をろ過し、原料エマルションCを得た。原料エマルションCには、アミノ変性シリコーンオイルの乳化粒子が分散していた。原料エマルションCに含有される乳化粒子の平均粒子径は、200nmであった。
【0086】
<原料エマルションDの作製>
180gの非変性シリコーンオイル(信越化学工業株式会社製「KF96-3000cs」、粘度:3,000mm2/s、比重:0.97)、及び120gのフェノール変性シリコーンオイル(信越化学工業株式会社製「KF2201」、粘度:97m2/s、比重:0.99、官能基当量:1,474g/mol)を混合し、粘度1,000mm2/sの混合物MDを得た。300gの混合物MD、600gのイオン交換水、及び100gの水酸化ナトリウム水溶液(濃度1mol/L)をビーカーに入れた。ホモジナイザー(IKA社製「ウルトラタラックスT25」)を用いて、回転速度10000rpmで15分間、ビーカーの内容物を攪拌し、30分間静置した。次いで、120メッシュのステンレスフィルターで、ビーカーの内容物をろ過し、原料エマルションDを得た。原料エマルションDには、非変性シリコーンオイルとフェノール変性シリコーンオイルとを含有する乳化粒子が分散していた。原料エマルションDに含有される乳化粒子の平均粒子径は、160nmであった。
【0087】
<原料エマルションEの作製>
180gの非変性シリコーンオイル(信越化学工業株式会社製「KF96-3000cs」、粘度:3,000mm2/s、比重:0.97)、及び120gのシラノール変性シリコーンオイル(信越化学工業株式会社製「KF9701」、粘度:60mm2/s、比重:0.977、官能基当量:1,500g/mol)を混合し、粘度1,200mm2/sの混合物MEを得た。300gの混合物ME、600gのイオン交換水、及び100gの水酸化ナトリウム水溶液(濃度1mol/L)をビーカーに入れた。ホモジナイザー(IKA社製「ウルトラタラックスT25」)を用いて、回転速度10000rpmで15分間、ビーカーの内容物を攪拌し、30分間静置した。次いで、120メッシュのステンレスフィルターで、ビーカーの内容物をろ過し、原料エマルションEを得た。原料エマルションEには、非変性シリコーンオイルとシラノール変性シリコーンオイルとを含有する乳化粒子が分散していた。原料エマルションEに含有される乳化粒子の平均粒子径は、220nmであった。
【0088】
<原料エマルションFの作製>
300gのアミノ変性シリコーンオイル(信越化学工業株式会社製「KF-865」、粘度:110mm2/s、比重:0.97、官能基当量:5,000g/mol)、600gのイオン交換水、及び100gの塩酸(濃度1mol/L)をビーカーに入れた。ホモジナイザー(IKA社製「ウルトラタラックスT25」)を用いて、回転速度10000rpmで15分間、ビーカーの内容物を攪拌し、30分間静置した。次いで、120メッシュのステンレスフィルターで、ビーカーの内容物をろ過し、原料エマルションFを得た。原料エマルションFには、アミノ変性シリコーンオイルの乳化粒子が分散していた。原料エマルションFに含有される乳化粒子の平均粒子径は、150nmであった。
【0089】
<原料エマルションGの作製の試み>
300gの非変性シリコーンオイル(信越化学工業株式会社製「KF-96-3000cs」、粘度:3,000mm2/s、比重:0.97)、600gのイオン交換水、及び100gの塩酸(濃度1mol/L)をビーカーに入れた。ホモジナイザー(IKA社製「ウルトラタラックスT25」)を用いて、回転速度10000rpmで15分間、ビーカーの内容物を攪拌したところ、平均粒子径が1μm以上である乳化粒子しか作製できなかった。また、攪拌後に、ビーカーの内容物を30分間静置したところ、水相と油相とが分離してしまい、原料エマルションGを作製することができなかった。
【0090】
<原料エマルションHの作製>
300gのポリエーテル変性シリコーンオイル(信越化学工業株式会社製「KF-352A」、粘度:1,600mm2/s、比重:1.03)、及び700gのイオン交換水をビーカーに入れた。ホモジナイザー(IKA社製「ウルトラタラックスT25」)を用いて、回転速度10000rpmで15分間、ビーカーの内容物を攪拌し、30分間静置した。次いで、120メッシュのステンレスフィルターで、ビーカーの内容物をろ過し、原料エマルションHを得た。原料エマルションHには、ポリエーテル変性シリコーンオイルの乳化粒子が分散していた。なお、ポリエーテル変性シリコーンオイルは、イオン性基を有していない。原料エマルションHに含有される乳化粒子の平均粒子径は、150nmであった。
【0091】
次に、作製した原料エマルションA~Hを使用して、以下に示す方法により、処理液(A-1)~(A-7)及び(B-1)~(B-5)作製した。なお、シリコーンオイルの含有率は、小数第1位を四捨五入することにより、算出した。
【0092】
<処理液(A-1)の作製>
33.30gの原料エマルションA(アミノ変性シリコーンオイルの含有率:30質量%、アミノ変性シリコーンオイルの含有量:9.99g)、33.35gのイオン交換水、及び33.35gのプロピレングリコールを混合して、処理液(A-1)を得た。処理液(A-1)において、アミノ変性シリコーンオイルの含有率は、10質量%であった。
【0093】
<処理液(A-2)の作製>
15.00gの原料エマルションA(アミノ変性シリコーンオイルの含有率:30質量%、アミノ変性シリコーンオイルの含有量:4.50g)、50.00gのイオン交換水、及び35.00gのプロピレングリコールを混合して、処理液(A-2)を得た。処理液(A-2)において、アミノ変性シリコーンオイルの含有率は、5質量%であった。
【0094】
<処理液(A-3)の作製>
50.00gの原料エマルションA(アミノ変性シリコーンオイルの含有率:30質量%、アミノ変性シリコーンオイルの含有量:15.00g)、35.00gのイオン交換水、及び15.00gのプロピレングリコールを混合して、処理液(A-3)を得た。処理液(A-3)において、アミノ変性シリコーンオイルの含有率は、15質量%であった。
【0095】
<処理液(A-4)の作製>
原料エマルションA(アミノ変性シリコーンオイルの含有率:30質量%)を、原料エマルションB(カルボキシ変性シリコーンオイルの含有率:30質量%)に変更したこと以外は、処理液(A-1)と同じ方法により、処理液(A-4)を得た。処理液(A-4)において、カルボキシ変性シリコーンオイルの含有率は、10質量%であった。
【0096】
<処理液(A-5)の作製>
原料エマルションA(アミノ変性シリコーンオイルの含有率:30質量%)を、原料エマルションC(アミノ変性シリコーンオイルの含有率:30質量%)に変更したこと以外は、処理液(A-1)と同じ方法により、処理液(A-5)を得た。処理液(A-5)において、アミノ変性シリコーンオイルの含有率は、10質量%であった。
【0097】
<処理液(A-6)の作製>
原料エマルションA(アミノ変性シリコーンオイルの含有率:30質量%)を、原料エマルションD(フェノール変性シリコーンオイルと非変性シリコーンオイルとの混合物の含有率:30質量%)に変更したこと以外は、処理液(A-1)と同じ方法により、処理液(A-6)を得た。処理液(A-6)において、フェノール変性シリコーンオイルと非変性シリコーンオイルとの混合物の含有率は、10質量%であった。
【0098】
<処理液(A-7)の作製>
原料エマルションA(アミノ変性シリコーンオイルの含有率:30質量%)を、原料エマルションE(シラノール変性シリコーンオイルと非変性シリコーンオイルとの混合物の含有率:30質量%)に変更したこと以外は、処理液(A-1)と同じ方法により、処理液(A-7)を得た。処理液(A-7)において、シラノール変性シリコーンオイルと非変性シリコーンオイルとの混合物の含有率は、10質量%であった。
【0099】
<処理液(B-1)の作製>
10.00gの原料エマルションA(アミノ変性シリコーンオイルの含有率:30質量%、アミノ変性シリコーンオイルの含有量:3.00g)、55.00gのイオン交換水、及び35.00gのプロピレングリコールを混合して、処理液(B-1)を得た。処理液(B-1)において、アミノ変性シリコーンオイルの含有率は、3質量%であった。
【0100】
<処理液(B-2)の作製>
65.00gの原料エマルションA(アミノ変性シリコーンオイルの含有率:30質量%、アミノ変性シリコーンオイルの含有量:19.50g)、及び35.00gのプロピレングリコールを混合して、処理液(B-2)を得た。処理液(B-2)において、アミノ変性シリコーンオイルの含有率は、20質量%であった。
【0101】
<処理液(B-3)の作製>
原料エマルションA(アミノ変性シリコーンオイルの含有率:30質量%)を、原料エマルションF(アミノ変性シリコーンオイルの含有率:30質量%)に変更したこと以外は、処理液(A-1)と同じ方法により、処理液(B-3)を得た。処理液(B-3)において、アミノ変性シリコーンオイルの含有率は、10質量%であった。
【0102】
<処理液(B-4)の作製>
既に述べたように原料エマルションGを作製できなかったことから、処理液(B-4)の作製は行わなかった。また、処理液(B-4)の作製を行っていないことから、処理液(B-4)に対する評価も行わなかった。
【0103】
<処理液(B-5)の作製>
原料エマルションA(アミノ変性シリコーンオイルの含有率:30質量%)を、原料エマルションH(ポリエーテル変性シリコーンオイルの含有率:30質量%)に変更したこと以外は、処理液(A-1)と同じ方法により、処理液(B-5)を得た。処理液(B-5)において、ポリエーテル変性シリコーンオイルの含有率は、10質量%であった。
【0104】
[測定方法]
<平均粒子径の測定>
乳化粒子の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(マルバーン社製「ゼータサイザー ナノZS」)を用いて、ISO 13321:1996(Particle size analysis-Photon correlation spectroscopy)に記載の方法に準拠して測定した。乳化粒子の平均粒子径の測定には、処理液を水で1000倍に希釈した測定試料を用いた。なお、原料エマルションに含有される乳化粒子の平均粒子径と、処理液に含有される乳化粒子の平均粒子径とは、互いに同一となる。
【0105】
<粘度の測定>
シリコーンオイルの粘度は、温度25℃の環境下で、JIS Z8803:2011(液体の粘度測定方法)に記載の方法に準拠して測定した。シリコーンオイルの粘度の測定には、JIS Z8803:2011の「6.2.3 ウベローデ粘度計」に記載のウベローデ粘度計を用いた。
【0106】
[評価方法]
<評価用インクの作製>
処理液の評価に使用するためのインクa及びbを、以下に示す方法により作製した。
【0107】
(インクaの作製)
攪拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコに、125gのイオン交換水、及び2gのノニオン界面活性剤(日信化学工業株式会社製「サーフィノール(登録商標)440」、内容:アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物)を入れた。フラスコの内容物を攪拌しながら、165gのプロピレングリコール、100gの黒色顔料分散液(山陽色素株式会社製「AE2078F」、内容:C.I.Pigment Black 7、固形分濃度:20質量%)、及び108gのバインダー樹脂粒子分散液(第一工業製薬株式会社「スーパーフレックス470」、内容:ポリウレタン分散液、固形分濃度:38質量%)を、フラスコ内に順に添加した。フラスコの内容物を10分間攪拌して、インクaを得た。
【0108】
(インクbの作製)
攪拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコに、140gのイオン交換水、及び2gのノニオン界面活性剤(日信化学工業株式会社製「サーフィノール(登録商標)440」、内容:アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物)を入れた。フラスコの内容物を攪拌しながら、225gのプロピレングリコール、83gの黒色顔料分散液(大日精化工業株式会社製「AC-AK1」、内容:C.I.Pigment Black 7、固形分濃度:15質量%、)、及び50gのバインダー樹脂粒子分散液(宇部興産株式会社製「Eternacoll(登録商標)UW-1527F」、内容:ポリウレタン分散液、固形分濃度:40質量%)を、フラスコ内に順に添加した。フラスコの内容物を10分間攪拌して、インクbを得た。
【0109】
<評価用捺染物の作製>
表2に示すインク及び処理液を用いて、評価用捺染物を作製した。例えば、表2の実施例1の評価には、処理液(A-1)及びインクaを使用した。
【0110】
捺染対象として、綿ブロード生地(株式会社色染社製、サイズ:A4サイズ、経糸及び緯糸の綿番手:40/1、経糸の密度:130本/インチ、緯糸の密度:75本/インチ、目付:122g/m2)を使用した。評価用捺染物の作製には、インクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製「Colorio(登録商標)PX-045A」)を使用した。第1カートリッジの第1インク室に、インクを充填した。第2カートリッジの第2インク室に、処理液を充填した。第1カートリッジ及び第2カートリッジを、インクジェットプリンターに装着した。なお、第1インク室に充填されたインクは、インクジェットプリンターの記録ヘッドから吐出される。第2インク室に充填された処理液は、インクジェットプリンターの処理ヘッドから吐出される。
【0111】
インクジェットプリンターを用いて、インクの吐出量が20g/m2になるように、記録ヘッドから捺染対象にインクを吐出して、インクのソリッド画像を形成した。次いで、インクジェットプリンターを用いて、処理液の吐出量が20g/m2になるように、処理ヘッドから捺染対象に処理液を吐出した。このようにして、インクのソリッド画像上に、処理液によってソリッド画像と同じサイズの処理膜を形成した。次いで、捺染対象を160℃で3分間加熱して、インク及び処理液を乾燥させて、評価用捺染物を得た。
【0112】
<摩擦堅ろう度の評価>
JIS L-0849:2013(摩擦に対する染色堅ろう度試験方法)に記載の摩擦試験機II形(学振形)法の乾燥試験及び湿潤試験に従って、評価用捺染物に形成されたソリッド画像を、摩擦用白綿布を用いて摩擦した。JIS L-0801:2011(染色堅ろう度試験方法通則)の箇条10(染色堅ろう度の判定)に記載の「変退色の判定基準」に準拠し、摩擦後の摩擦用白綿布の着色の程度を評価した。摩擦用白綿布の着色の程度は、9段階(汚染の程度が大きい順番に、1級、1~2級、2級、2~3級、3級、3~4級、4級、4~5級、及び5級)で判定した。摩擦堅ろう度は、摩擦用白綿布の着色の程度が小さい(5級に近い)ほど良好である。摩擦試験後の摩擦用白綿布の着色の程度から、下記基準に従って、乾燥摩擦堅ろう度、及び湿潤摩擦堅ろう度を評価した。なお、上記乾燥試験の判定結果を、乾燥摩擦堅ろう度とし、上記湿潤試験の判定結果を、湿潤摩擦堅ろう度とした。評価がA及びBである場合を合格とし、評価がCである場合を不合格とした。判定された摩擦堅ろう度、及びその評価結果を、表2に示す。
【0113】
(乾燥摩擦堅ろう度の評価基準)
評価A:乾燥摩擦堅ろう度が、4級以上である。
評価B:乾燥摩擦堅ろう度が、3~4級である。
評価C:乾燥摩擦堅ろう度が、3級以下である。
【0114】
(湿潤摩擦堅ろう度の評価基準)
評価A:湿潤摩擦堅ろう度が、3級以上である。
評価B:湿潤摩擦堅ろう度が、2~3級である。
評価C:湿潤摩擦堅ろう度が、2級以下である。
【0115】
<触感の低下抑制に関する評価>
未使用の捺染対象を経糸に沿って(長さ方向に)に二つ折りにし、折り目における下側の生地と上側の生地との間の距離(ループ高さ)を測定した。測定された未使用の捺染対象のループ高さを、捺染前のループ高さとした。次に、評価用捺染物のソリッド画像が形成された領域を、経糸に沿って(長さ方向に)に二つ折りにし、ループ高さを測定した。測定された評価用捺染物のループ高さを、捺染後のループ高さとした。式「ループ高さの変化率=100×捺染後のループ高さ/捺染前のループ高さ」に従って、捺染前後におけるループ高さの変化率(単位:%)を算出した。ループ高さの変化率が低い程、捺染後も捺染対象が硬くならずふくらまないため、捺染物の触感の低下が抑制されていることを示す。ループ高さの変化率から、下記基準に従って、捺染物の触感の低下が抑制されているか否かを評価した。評価がA及びBである場合を合格とし、評価がCである場合を不合格とした。測定されたループ高さの変化率、及び触感の低下抑制に関する評価結果を、表2に示す。
【0116】
(触感の低下抑制に関する評価基準)
評価A:ループ高さの変化率が、125%以下である。
評価B:ループ高さの変化率が、125%超130%以下である。
評価C:ループ高さの変化率が、130%超である。
【0117】
【0118】
表2及び後述する表3において、各用語の意味は、次のとおりである。「触感」は、捺染物の触感の低下抑制に関する評価を示す。「高さ」は、捺染前後におけるループ高さの変化率を示す。摩擦堅ろう度の欄の「1-2」、「2-3」、「3-4」及び「4-5」は、各々、摩擦用白綿布の着色の程度が、1~2級、2~3級、3~4級、及び4~5級であることを示す。「-」は、既に述べたように原料エマルションGを作製できず、処理液(B-4)の作製を行っていないため、処理液(B-4)に対する評価が実施できなかったことを示す。
【0119】
<処理液の吐出量の検討>
次に、処理液の吐出量を変更しながら捺染物を作成し、捺染物の摩擦堅ろう度及び触感の低下の抑制について評価した。
【0120】
(実施例1、9、10、11、及び8の処理液を使用した捺染物の作製)
実施例1、9、10、11、及び8の処理液を使用した捺染物の作製に関し、以下の点を変更したこと以外は、上記<評価用捺染物の作製>と同じ方法により、評価用捺染物を作製した。第1カートリッジの第1インク室に表3に示すインクを充填し、第2カートリッジの第2インク室に表3に示す処理液を充填した。処理液の吐出量を、表3に示す吐出量に設定した。なお、インクの吐出量は、20g/m2のまま変更しなかった。
【0121】
(実施例12の処理液を使用した捺染物の作製)
実施例12の処理液を使用した捺染物の作製に関し、以下の点を変更したこと以外は、上記<評価用捺染物の作製>と同じ方法により、インクのソリッド画像が形成された捺染対象を作製した。第1カートリッジの第1インク室に表3に示すインクを充填し、第2カートリッジの第2インク室には処理液を充填しなかった。処理液の吐出量を、0g/m2に設定した。即ち、処理液は吐出されなかった。なお、インクの吐出量は、20g/m2のまま変更しなかった。
【0122】
次いで、インクのソリッド画像が形成された捺染対象を、処理液(A-1)に含侵させた後、処理液(A-1)から取り出して軽く絞った。詳しくは、ピックアップ率が100%、且つ処理液(A-1)の塗布量が120g/m2となるように、捺染対象を絞った。絞った捺染対象を160℃で3分間加熱して、インク及び処理液を乾燥させて、評価用捺染物を得た。
【0123】
(捺染物の摩擦堅ろう度及び触感の低下の抑制の評価)
作製した実施例1、9、10、11、12、及び8の処理液を用いて作製した捺染物に対し、上記<摩擦堅ろう度の評価>、及び上記<触感の低下抑制に関する評価>と同じ方法により、評価を実施した。評価結果を、表3に示す。なお、実施例1及び8の処理液を用いて作製した捺染物に対する評価結果は、表2で既に示しているが、理解を助けるために、表3で再度示す。
【0124】
【0125】
表1に示すように、処理液(A-1)~(A-7)は、何れも、次に示す構成を有していた。処理液は、シリコーンオイルを含有する乳化粒子と、水性媒体とを含有していた。処理液における、シリコーンオイルの含有率は、5質量%以上15質量%以下であった。シリコーンオイルの粘度は、1000mm2/s以上であった。シリコーンオイルは、イオン性基含有シリコーンオイル(より具体的には、アミノ変性シリコーンオイル、カルボキシ変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイル、又はシラノール変性シリコーンオイル)を少なくとも含有していた。一方、処理液(B-1)~(B-5)は、上記構成の少なくとも1つを有していなかった。
【0126】
表2に示すように、処理液(A-1)~(A-7)を用いて形成された捺染物に関し、乾燥摩擦堅ろう度の評価、湿潤摩擦堅ろう度の評価、及び触感の低下抑制の評価は、A又はBであった。一方、表2に示すように、処理液(B-1)~(B-3)及び(B-5)を用いて形成された捺染物に関し、乾燥摩擦堅ろう度の評価、湿潤摩擦堅ろう度の評価、及び触感の低下抑制の評価のうち、少なくとも1つの評価がCであった。また、既に述べたように、処理液(B-4)を作製することはできなかった。従って、処理液(A-1)~(A-7)を包含する本発明の処理液によれば、摩擦堅ろう度に優れた捺染物を形成でき、捺染物の触感の低下を抑制できると判断される。
【0127】
また、表3に示すように、10g/mm2以上120g/mm2以下の吐出量又は塗布量の処理液(A-1)を用いて形成された捺染物に関し、乾燥摩擦堅ろう度の評価、湿潤摩擦堅ろう度の評価、及び触感の低下抑制の評価は、A又はBであった。従って、10g/mm2以上120g/mm2以下の吐出量又は塗布量で本発明の処理液を吐出又は塗布することにより、摩擦堅ろう度に優れた捺染物を形成でき、捺染物の触感の低下を抑制できると判断される。
【0128】
また、表3に示すように、15g/m2以上30g/m2以下の吐出量の処理液(A-1)を用いて形成された捺染物に関し、乾燥摩擦堅ろう度の評価がAであった。従って、15g/m2以上30g/m2以下の吐出量で本発明の処理液を吐出することにより、乾燥摩擦堅ろう度に特に優れた捺染物を形成できると判断される。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明に係る処理液、インクジェット捺染装置、及びインクジェット捺染方法は、捺染物を形成するために用いることができる。
【符号の説明】
【0130】
1 :記録ヘッド
1a :第1記録ヘッド
1b :第2記録ヘッド
1c :第3記録ヘッド
1d :第4記録ヘッド
2 :処理ヘッド
3 :載置台
10 :インクジェット捺染装置
P :捺染対象