(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッドおよびそれを備える液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20231212BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20231212BHJP
B41J 2/17 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
B41J2/14 603
B41J2/18
B41J2/17
(21)【出願番号】P 2023107961
(22)【出願日】2023-06-30
(62)【分割の表示】P 2019103638の分割
【原出願日】2019-06-03
【審査請求日】2023-07-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】平井 啓太
(72)【発明者】
【氏名】小出 祥平
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 啓太
(72)【発明者】
【氏名】片山 寛
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-055492(JP,A)
【文献】国際公開第2016/111147(WO,A1)
【文献】特開2008-290292(JP,A)
【文献】米国特許第05574486(US,A)
【文献】特開2009-196208(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0297381(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が外部から供給される供給ポートが設けられた供給マニホールドと、
前記液体が外部に排出される帰還ポートが設けられた帰還マニホールドと、
上流端が前記供給マニホールドに接続され、下流端が前記帰還マニホールドに接続され、且つ、列をなしてノズル面に配置された複数のノズルに対して個別に連通した複数の個別流路と、を備え、
前記供給マニホールドおよび前記帰還マニホールドは前記列に沿った延在方向に延在し、
前記帰還マニホールドは、
前記供給マニホールドの下方に配置されると共に前記ノズル面に直交する平面視で前記供給マニホールドと重なるように配置された下方部分と、
前記下方部分における前記延在方向の両端のうち少なくとも一方の端部
から上方に立設する立設部分と、を含み、
前記供給ポートと前記帰還ポートとは前記延在方向の一方側に配置され、
前記供給ポートと前記帰還ポートとの間隔は、前記供給マニホールドと前記帰還マニホールドの前記下方部分との上下方向における間隔よりも大きい、液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記立設部分は、前記供給マニホールドの前記端部の、前記延在方向に直交する方向の幅よりも大きい幅を有する、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記供給マニホールドと前記帰還マニホールドとの間に空気層が設けられている、請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記ノズルはプレートに形成された貫通孔で構成され、
前記帰還マニホールドと前記プレートとの間に空気層が設けられている、請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記個別流路は金属プレートに形成される、請求項1乃至4の何れか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記供給マニホールドおよび前記帰還マニホールドの、前記延在方向に直交する方向の一方側には、前記液体が外部から供給される供給ポートが設けられたダミー供給マニホールドと前記液体が外部に排出される帰還ポートが設けられたダミー帰還マニホールドとが設けられている、請求項1乃至5の何れか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記帰還ポートは、前記帰還マニホールドの延在方向の両端のうち少なくとも一端に設けられている、請求項1乃至6の何れか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記供給ポートは、前記供給マニホールドの延在方向の両端に設けられている、請求項1乃至7の何れか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記供給ポートと前記帰還ポートとの間に空気が流入する空間が設けられている、請求項1乃至8の何れか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記供給ポートおよび前記帰還ポートは、少なくとも各々の一部が前記延在方向に重なるように配置されている、請求項1乃至9の何れか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れか1項に記載の液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドの上流に設けられ、前記液体の温度を検出するサーミスタと、を備えた、液体吐出装置。
【請求項12】
前記サーミスタの上流に、前記液体を加熱するヒータが設けられている、請求項11に記載の液体吐出装置。
【請求項13】
液体が外部から供給される供給ポートが設けられた供給マニホールドと、
前記液体が外部に排出される帰還ポートが設けられた帰還マニホールドと、
上流端が前記供給マニホールドに接続され、下流端が前記帰還マニホールドに接続され、且つ、列をなしてノズル面に配置された複数のノズルに対して個別に連通した複数の個別流路と、を備え、
前記供給マニホールドおよび前記帰還マニホールドは前記列に沿った延在方向に延在し、
前記帰還マニホールドは、
前記供給マニホールドの下方に配置されると共に前記ノズル面に直交する平面視で前記供給マニホールドと重なるように配置された下方部分と、
前記下方部分における前記延在方向の両端のうち少なくとも一方の端部
から上方に立設する立設部分と、を含み、
前記供給ポートおよび前記帰還ポートは、前記延在方向と直交する方向の一端に位置する前記ノズルよりも内側に配置され、且つ前記方向の他端に位置する前記ノズルよりも内側に配置されている、液体吐出ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドおよびそれを備える液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インク温度による吐出特性差を低減するために、液体吐出ヘッドにおける流路又はその近傍にサーミスタを配置し、当該サーミスタによるインク温度検出結果に基づき、圧力室内のインクに吐出エネルギーを付与するアクチェータの駆動電圧などを変化させることが知られている。この際、サーミスタの検出温度と圧力室内に流入するインクの実際の温度との差を少なくするために、サーミスタを出来る限り圧力室のすぐ上流に設置することが好ましい。しかし、各構成要素が高密度に配置された液体吐出ヘッド内にサーミスタを設置することは難しく、圧力室から離れた位置にサーミスタを設置することが強いられるのが現状である。インクは圧力室に到達するまでの流路において冷却されてしまうため、上記構成によれば、サーミスタにより検出された温度と圧力室に到達した際のインクの実際の温度との間に大きな差が生じる。
【0003】
一方で、流路内のインクの温度変化を抑制することを一つの目的として、供給マニホールドおよび帰還マニホールドを備えて、インクタンクと液体吐出ヘッドとの間でインクを循環させるようにした構成が知られている。例えば、特許文献1には、帰還マニホールドである共通排出路支流の上方に供給マニホールドである共通供給路支流が配置された液体吐出ヘッドが開示されている。これにより、供給マニホールドの下部が帰還マニホールドに覆われた状態、厳密には供給マニホールドの下部が帰還マニホールドにより外側空間からガードされた状態になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来の循環式の液体吐出装置であっても、インクが圧力室に至る供給路の途中で冷却されてしまう可能性が高いため、サーミスタの検出温度と圧力室に流入するインクの温度との差をさらに抑制する必要性がある。
【0006】
そこで、本発明は、液体が圧力室に至るまでに冷却されてしまうことを従来よりも抑制することができる液体吐出ヘッドおよびそれを備える液体吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の液体吐出ヘッドは、液体が外部から供給される供給ポートが設けられた供給マニホールドと、前記液体が外部に排出される帰還ポートが設けられた帰還マニホールドと、上流端が前記供給マニホールドに接続され、下流端が前記帰還マニホールドに接続され、且つ、列をなしてノズル面に配置された複数のノズルに対して個別に連通した複数の個別流路と、を備え、前記供給マニホールドおよび前記帰還マニホールドは前記列に沿った延在方向に延在し、前記帰還マニホールドは、前記供給マニホールドの下方に配置されると共に前記ノズル面に直交する平面視で前記供給マニホールドと重なるように配置された下方部分と、前記下方部分における前記延在方向の両端のうち少なくとも一方の端部にて、前記平面視で前記供給マニホールドの外側に配置され、且つ、前記延在方向から見て前記供給マニホールドの端部の少なくとも一部を覆う高さを有する立設部分と、を含むものである。
【0008】
本発明に従えば、帰還マニホールドの下方部分および立設部分によって供給マニホールドをL字状に覆うことができるため、外気が供給マニホールドに触れる領域を従来よりも低減することができる。これによって、供給マニホールド内を流れる液体が圧力室に至るまでに冷却されてしまうことを従来よりも抑制することができる。したがって、液体吐出ヘッドの外にあるサーミスタの検出温度と圧力室に流入する液体温度との差を小さくすることができるので、サーミスタによる検出温度に基づく圧電素子の駆動電圧の制御を現実の液体温度に近い状態で行うことができる。これにより、液体の吐出乱れを抑制することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、液体が圧力室に至るまでに冷却されてしまうことを従来よりも抑制することができる液体吐出ヘッドおよびそれを備える液体吐出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係る液体吐出ヘッドを備える液体吐出装置の概略構成を示す平面図である。
【
図2】
図1の液体吐出ヘッドを延在方向に直交する線分で切断した断面図である。
【
図3】供給マニホールドおよび帰還マニホールドの概略形状を示す斜視図である。
【
図4】供給マニホールド、帰還マニホールドおよび個別流路を示す平面図である。
【
図5】複数の液体吐出ヘッドが搭載されたフレームの平面図である。
【
図7】第2実施形態における複数の液体吐出ヘッドが搭載されたフレームの平面図である。
【
図8】第2実施形態における供給マニホールドおよび帰還マニホールドを幅方向から見た場合の形状を示す側面図である。
【
図9】変形例における液体吐出ヘッドを延在方向に直交する線分で切断した断面図である。
【
図10】他の変形例における液体吐出ヘッドを延在方向に直交する線分で切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係る液体吐出ヘッドについて図面を参照して説明する。以下に説明する液体吐出ヘッドは本発明の一実施形態に過ぎない。従って、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で追加、削除および変更が可能である。
【0012】
<第1実施形態>
<液体吐出装置の構成>
本実施形態に係る液体吐出ヘッド20を備える液体吐出装置10は、例えばインク等の液体を吐出するものである。以下では、液体吐出装置10をインクジェットプリンタに適用した例について説明するが、液体吐出装置10の適用対象はこれに限定されるものではない。
【0013】
図1に示すように、液体吐出装置10は、ラインヘッド方式が採用され、プラテン11、搬送部、ヘッドユニット16、およびサブタンクを有するタンク12を備えている。但し、液体吐出装置10はラインヘッド方式に限定されず、例えばシリアルヘッド方式等の他の方式も採用し得る。
【0014】
プラテン11は、平板部材であり、上面に用紙14が配置され、その用紙14とヘッドユニット16との距離を決定する役割を担う。なお、プラテン11よりもヘッドユニット16側を上側と称し、その反対側を下側と称するが、液体吐出装置10の配置はこれに限定されない。
【0015】
搬送部は、例えば2つの搬送ローラ15および図略の搬送モータを有する。2つの搬送ローラ15は、上記搬送モータに連結され、プラテン11を互いに挟んだ状態で用紙14の搬送方向に直交する方向(直交方向)に沿って互いに平行に配置されている。搬送モータが駆動されると、搬送ローラ15が回転し、プラテン11上の用紙14が搬送方向に搬送される。
【0016】
ヘッドユニット16は、上記直交方向における用紙14の長さ以上の長さを有している。ヘッドユニット16には、複数の液体吐出ヘッド20が設けられている。
【0017】
液体吐出ヘッド20は、流路形成体および容積変更部の積層体を有する。流路形成体は、内部に液体流路が形成され、吐出面(ノズル面)40aに複数のノズル孔21aが開口している。容積変更部は、駆動されて液体流路の容積を変更する。この場合、ノズル孔21aでは、メニスカスが振動し、液体が吐出される。なお、液体吐出ヘッド20の詳細については後述する。
【0018】
液体が例えばインクの場合、タンク12は当該インクの種類ごとに設けられている。タンク12は例えば4つ設けられ、4つのタンク12内には、ブラック、イエロー、シアン、およびマゼンタのインクがそれぞれ貯留されている。タンク12のインクは、対応するノズル孔21aに供給される。
【0019】
<液体吐出ヘッドの構成>
液体吐出ヘッド20は、上述の通り、流路形成体および容積変更部を備えている。
図2に示すように、流路形成体は複数のプレート(例えば金属プレート)の積層体であり、容積変更部は振動板55および圧電素子60を有している。
【0020】
複数のプレートは、ノズルプレート40、第1流路プレート41、第2流路プレート42、第3流路プレート43、第4流路プレート44、第5流路プレート45、第6流路プレート46、第7流路プレート47、第8流路プレート48、第9流路プレート49、第10流路プレート50、第11流路プレート51、第12流路プレート52、第13流路プレート53、および第14流路プレート54を含む。これらのプレートはこの順で積層されている。
【0021】
各プレートには、大小様々な孔および溝が形成されている。各プレートが積層された流路形成体の内部では孔および溝が組み合わされて、複数のノズル21、複数の個別流路64、供給マニホールド22および帰還マニホールド23が液体流路として形成されている。
【0022】
ノズル21はノズルプレート40を積層方向(上下方向)に貫通し形成されている。ノズルプレート40の吐出面40aには、ノズル21の先端である複数のノズル孔21aが所定の列(ノズル列)に沿った方向(以下、延在方向と呼ぶ)に並設されている。なお、延在方向は上記の積層方向および後記の幅方向にそれぞれ直交する方向である。
【0023】
供給マニホールド22は、延在方向に延在しており、複数の個別流路64に接続されている。帰還マニホールド23は、延在方向に延在しており、複数の個別流路64に接続されている。供給マニホールド22の少なくとも一部は、帰還マニホールド23の上に積層されている。これにより、平面視において供給マニホールド22と帰還マニホールド23とは少なくとも一部重なって配置されている。
【0024】
ここで、供給マニホールド22および帰還マニホールド23の概略形状について説明する。
図3は本実施形態における供給マニホールド22および帰還マニホールド23の概略形状を示す斜視図である。なお、供給マニホールド22および帰還マニホールド23は液体流路であって空洞であるが、
図3はその空洞を外線により図示したものである。
【0025】
図3に示すように、本実施形態において、供給マニホールド22および帰還マニホールド23は共にL字型に形成されている。供給マニホールド22は、延在方向に沿って延在する延在部分122aと、この延在部分122aの一端において積層方向に立設された立設部分122bとを含む。本実施形態において延在部分122aの幅(幅方向における長さ)と立設部分122bの幅(幅方向における長さ)とは同じである。
【0026】
帰還マニホールド23は、下方部分123aおよび立設部分123bを含む。本実施形態において下方部分123aの幅と立設部分123bの幅とは同じである。
【0027】
帰還マニホールド23の下方部分123aは、供給マニホールド22の延在部分122aの下方に配置されると共に平面視において供給マニホールド22の延在部分122aと重なるように配置されている。すなわち、平面視において、供給マニホールド22の延在部分122aは、帰還マニホールド23の下方部分123aの内側に位置されている。また、下方部分123aは、延在方向の一方側(
図3の紙面の手前側)において延在部分122aよりも延在方向に若干長くなっている。それにより、下方部分123aが延在部分122aと同じ長さの場合よりも、断熱効果を若干向上することができる。
【0028】
帰還マニホールド23の立設部分123bは、下方部分123aにおける延在方向の一方の端部において、平面視で供給マニホールド22の立設部分122bの外側に配置されている。また、供給マニホールド22の立設部分122bは、延在方向の他方側(
図3の紙面の奥側)から見て、帰還マニホールド23の立設部分123bの内側に配置されている。すなわち、延在方向の他方側から見て、立設部分122bは立設部分123bにより覆われている。
【0029】
供給マニホールド22の延在部分122aは、第8流路プレート48~第11流路プレート51を積層方向に貫通した貫通孔、および、第12流路プレート52の下面から窪んだ窪みが積層方向に重なって形成されている。このため、供給マニホールド22の延在部分122aの下端は第7流路プレート47に覆われ、その上端は第12流路プレート52における上側部分に覆われている。また、供給マニホールド22の立設部分122bは、
図6に示すように第8流路プレート48~第14流路プレート54を積層方向に貫通した貫通孔で形成されている。
【0030】
帰還マニホールド23の下方部分123aは、第2流路プレート42~第5流路プレート45を積層方向に貫通した貫通孔、および、第6流路プレート46の下面から窪んだ窪みが積層方向に重なって形成されている。このため、帰還マニホールド23の下方部分123aの下端は第1流路プレート41に覆われ、その上端は第6流路プレート46における上側部分に覆われている。また、帰還マニホールド23の立設部分123bは、
図6に示すように第2流路プレート42~第14流路プレート54を積層方向に貫通した貫通孔で形成されている。
【0031】
この供給マニホールド22の延在部分122aと帰還マニホールド23の下方部分123aとの間には、バッファー空間である空気層24が配置されている。空気層24は、第7流路プレート47の下面から窪んだ窪みにより形成されている。このため、積層方向において、供給マニホールド22の延在部分122aと空気層24とは第7流路プレート47の上側部分を介して隣接し、帰還マニホールド23の下方部分123aと空気層24とは第6流路プレート46の上側部分を介して隣接している。このように供給マニホールド22の延在部分122aと帰還マニホールド23の下方部分123aとの間に空気層24を挟むことにより、供給マニホールド22の延在部分122aにおける液体の圧力および帰還マニホールド23の下方部分123aにおける液体の圧力が互いに作用することを低減することができる。
【0032】
供給マニホールド22の立設部分122bの上部には例えば筒状の供給ポート22aが設けられている。この供給ポート22aの内部空間には供給路22bの上端が接続されている。供給路22bは供給ポート22aから下方に延びている。例えば、供給路22bは、第12流路プレート52の上側部分、第13流路プレート53、第14流路プレート54、振動板55および絶縁膜56を貫通している。供給路22bの下端は、供給マニホールド22に設けられた供給口22cに接続されている。
【0033】
また、帰還マニホールド23の立設部分123bの上部には例えば筒状の帰還ポート23aが設けられている。この帰還ポート23aには図略の帰還路の下端が接続されている。帰還路は帰還ポート23aから上方に延びている。例えば、帰還路は、第12流路プレート52の上側部分、第13流路プレート53、第14流路プレート54、振動板55および絶縁膜56を貫通している。帰還ポート23aは、供給ポート22aよりも延在方向の一方側(
図4では紙面の上方側)に配置されている。
【0034】
ここで、
図6に示すように、供給ポート22aと帰還ポート23aとの間に空気が流入する冷却抑制空間66が設けられている。この冷却抑制空間66は、第9流路プレート49、第10流路プレート50、第11流路プレート51、第12流路プレート52、第13流路プレート53、および第14流路プレート54の各々に設けられた孔部が積層方向に連なることで形成されている。冷却抑制空間66の深さ(積層方向における距離)は適宜変更可能である。なお、
図6では振動板55、絶縁膜56および圧電素子60の図示を省略している。
【0035】
液体吐出装置10は、上述のタンク12の他に、さらに、サーミスタ70と、ヒータ71と、ポンプ72とを備えている。これらのサーミスタ70、ヒータ71、ポンプ72およびタンク12は、液体吐出ヘッド20の上流側に設けられている。ヒータ71はサーミスタ70の上流に設けられ、ポンプ72はヒータ71の上流に設けられ、タンク12はポンプ72の上流に設けられている。このような構成において、タンク12に貯留されている液体がポンプ72により吸い上げられた後、ヒータ71により所定温度に加熱されて供給ポート22aに供給されるようになっている。また、液体が供給ポート22aに供給される前に、サーミスタ70により当該液体の温度が検出される。サーミスタ70による液体温度検出結果に基づき、圧力室28内の液体に吐出エネルギーを付与する圧電素子60の駆動電圧が制御される。
【0036】
図6において、供給ポート22aと帰還ポート23aとの延在方向における間隔L1は、供給マニホールド22の延在部分122aと帰還マニホールド23の下方部分123aとの積層方向における間隔L2よりも大きく設定されている。なお、
図6は、理解を容易にするために、積層方向の寸法を延在方向の寸法に比べて10倍に拡大して図示している。
【0037】
図2に戻り、複数の個別流路64は、供給マニホールド22および帰還マニホールド23に接続されている。個別流路64は、その上流端が供給マニホールド22に接続され、その下流端が帰還マニホールド23に接続されており、この間においてノズル21の基端に接続されている。個別流路64は、第1連通孔25、供給絞り路26、第2連通孔27、圧力室28、ディセンダ29、帰還絞り路31、および第3連通孔32を有し、これらはこの順に配置されている。
【0038】
第1連通孔25は、その下端が供給マニホールド22の上端に接続し、供給マニホールド22から積層方向の上方に延び、第12流路プレート52における上側部分を積層方向に貫通している。第1連通孔25は、供給マニホールド22の幅方向の中央よりも一方側(
図2では右側)に配置されている。
【0039】
供給絞り路26の一端26b(
図4参照)は第1連通孔25の上端に接続されている。供給絞り路26は、例えばハーフエッチング加工により形成され、第13流路プレート53の下面から窪んだ溝により構成されている。供給絞り路26は平面視で幅方向と交差するように配置されている。また、第2連通孔27は、その下端が供給絞り路26の他端26a(
図4参照)に接続され、供給絞り路26から積層方向の上方に延び、第13流路プレート53における上側部分を積層方向に貫通している。第2連通孔27は、幅方向における供給マニホールド22の中央よりも他方側(
図2では左側)に配置されている。
【0040】
圧力室28は、その一端28b(
図4参照)が第2連通孔27の上端に接続されている。圧力室28は、第14流路プレート54を積層方向に貫通して形成されている。
【0041】
ディセンダ29は、第1流路プレート41~第13流路プレート53を積層方向に貫通し、幅方向において供給マニホールド22および帰還マニホールド23よりも他方側(
図2では左側)に配置されている。ディセンダ29は、その上端が圧力室28の他端28a(
図4参照)に接続され、その下端がノズル21に接続されている。例えば、ノズル21は、積層方向においてディセンダ29に重なり、積層方向に直交する方向においてディセンダ29の中央に配置されている。なお、ディセンダ29の断面積は、積層方向に一定であってもよいし、変化してもよい。
【0042】
帰還絞り路31は、その一端31b(
図4参照)がディセンダ29の下端に接続されている。帰還絞り路31は、例えばハーフエッチング加工により形成され、第1流路プレート41の下面から窪んだ溝により構成されている。
【0043】
第3連通孔32は、その下端が帰還絞り路31の他端31a(
図4参照)に接続され、帰還絞り路31から積層方向の上方に延び、第1流路プレート41における上側部分を積層方向に貫通している。第3連通孔32は、その上端が帰還マニホールド23の下端に接続されている。第3連通孔32は、幅方向における帰還マニホールド23の中央よりも他方側(
図2では左側)に配置されている。
【0044】
振動板55は、第14流路プレート54の上に積層されており、圧力室28の上端開口を覆っている。なお、振動板55は、第14流路プレート54と一体的に形成されていてもよい。この場合、圧力室28は積層方向に第14流路プレート54の下面から窪んで形成される。この第14流路プレート54において圧力室28よりも上側部分が振動板55として機能する。
【0045】
圧電素子60は、共通電極61、圧電層62および個別電極63を含み、これらはこの順で配置されている。共通電極61は、絶縁膜56を介して振動板55の全面を覆っている。圧電層62は、圧力室28毎に設けられ、当該圧力室28に重なるように共通電極61上に配置されている。個別電極63は、圧力室28毎に設けられ、圧電層62上に配置されている。この場合、1つの個別電極63、共通電極61および両電極で挟まれた部分の圧電層62(活性部)により、1つの圧電素子60が構成される。
【0046】
個別電極63は、ドライバICに電気的に接続されている。このドライバICは、図略の制御部から制御信号を受けて、駆動信号(電圧信号)を生成し、個別電極63に印加する。これに対し、共通電極61は、常にグランド電位に保持されている。
【0047】
駆動信号に応じて、圧電層62の活性部が、2つの電極61,63と共に面方向に伸縮する。これに応じて、振動板55が協働して変形し、圧力室28の容積を増減する方向に変化する。これにより、圧力室28に、液体をノズル21から吐出させる吐出圧力が当該圧力室28の容積に応じて付与される。
【0048】
続いて、
図5に本実施形態の液体吐出ヘッド20が複数搭載されたフレーム65の平面図を示す。
【0049】
図5に示すように、複数の液体吐出ヘッド20がそれぞれ延在方向に沿って配置されている。
図4でも説明したように、延在方向の一方側(
図5では左側)に供給ポート22aおよび帰還ポート23aが設けられている。供給ポート22aおよび帰還ポート23aは、供給マニホールド22および帰還マニホールド23ごとに設けられている。
【0050】
各供給ポート22aおよび各帰還ポート23aは、幅方向一端および他端に位置する供給マニホールド22および帰還マニホールド23よりも、幅方向の中央寄りに配置されている。具体的には、各供給ポート22aおよび各帰還ポート23aは、これら各々の少なくとも一部が幅方向の一端(
図5では上端)に位置するノズル21よりも内側に配置され、且つ、上記各々の少なくとも一部が幅方向の他端(
図5では下端)に位置するノズル21よりも内側に配置されるように設けられている。また、供給ポート22aおよび帰還ポート23aは、少なくとも各々の一部が延在方向に重なるように配置されている。
【0051】
<液体の流れ>
本実施形態の液体吐出ヘッド20におけるインク等の液体の流れについて説明する。供給ポート22aは図略の供給配管によりタンク12に接続され、帰還ポート23aは図略の帰還配管によりタンク12に接続されている。このような構成において、供給配管のポンプ72および帰還配管の図略の負圧ポンプが駆動すると、液体はタンク12から供給配管を通り、供給ポート22aを介して供給マニホールド22に流入する。
【0052】
この間に液体の一部は個別流路64に流入する。液体は、供給マニホールド22から第1連通孔25を介して供給絞り路26に流入し、供給絞り路26から第2連通孔27を介して圧力室28に流入する。そして、液体は、ディセンダ29を上端から下端へ積層方向に流れ、ノズル21に流入する。そして、圧電素子60により圧力室28に吐出圧力が付与されると、液体はノズル孔21aから吐出される。
【0053】
ノズル孔21aから吐出されなかった液体の一部は、帰還絞り路31を流れ、第3連通孔32を介して帰還マニホールド23に流入する。そして、第3連通孔32を介して帰還マニホールド23に流入した液体は、帰還マニホールド23内を流れて、帰還ポート23aから外部へ排出され、帰還配管を通りタンク12へ戻る。これにより、ノズル孔21aから吐出されなかった液体はタンク12と個別流路64との間を循環する。
【0054】
以上説明したように、本実施形態の液体吐出ヘッド20によれば、帰還マニホールド23の下方部分123aおよび立設部分123bによって供給マニホールド22をL字状に覆うことができるため、外気が供給マニホールド22に触れる領域を従来よりも低減することができる。これによって、供給マニホールド22内を流れるインク等の液体が圧力室28に至るまでに冷却されてしまうことを従来よりも抑制することができる。したがって、サーミスタ70の検出温度と圧力室28に流入する液体温度との差を小さくすることができるので、サーミスタ70による検出温度に基づく圧電素子60の駆動電圧の制御を現実の液体温度に近い状態で行うことができる。これにより、液体の吐出乱れを抑制することができる。
【0055】
また、本実施形態では、帰還マニホールド23の立設部分123bは、供給マニホールド22の立設部分122bの幅方向における幅よりも大きい幅を有しているので、供給マニホールド22の立設部分122bを帰還マニホールド23の立設部分123bでより大きく覆うことができる。言い換えれば、立設部分122bを立設部分123bによって、外部空間からより大きくガードすることができる。これによって、供給マニホールド22内の液体が冷却されてしまうことをより抑制することができる。
【0056】
また、本実施形態では、供給マニホールド22と帰還マニホールド23との間に空気層24が設けられている。このように、金属よりも熱伝導率の低い空気層24を設けることで、供給マニホールド22内の液体が冷却されてしまうことをさらに抑制することができる。
【0057】
また、本実施形態では、個別流路64を金属プレートに形成するが、金属プレートは流路を形成し易い一方で、熱伝導率が高い故に液体が冷却され易いという側面があるが、本実施形態のように帰還マニホールド23の下方部分123aおよび立設部分123bによって供給マニホールド22をL字状に覆うことで、液体が冷却され易くなることが抑制されている。
【0058】
また、本実施形態では、供給ポート22aと帰還ポート23aとの延在方向における間隔L1は、供給マニホールド22の延在部分122aと帰還マニホールド23の下方部分123aとの積層方向における間隔L2よりも大きく設定されている。これによって、供給ポート22aと帰還ポート23aとの間の隔壁の厚み(延在方向における厚み)を厚くすることができる。これにより、供給ポート22aおよび帰還ポート23aを形成し易くなると共に冷却抑制空間66の体積を大きくすることができる。
【0059】
また、本実施形態では、供給ポート22aと帰還ポート23aとの間の隔壁に、空気が流入する冷却抑制空間66が設けられている。このように、熱伝導率の低い空気が充填される冷却抑制空間66を設けることで、供給マニホールド22内の液体が冷却されてしまうことをさらに抑制することができる。
【0060】
また、本実施形態では、供給ポート22aおよび帰還ポート23aは、これら各々の少なくとも一部が幅方向の一端(
図5では上端)に位置するノズル21よりも内側に配置され、且つ、上記各々の少なくとも一部が幅方向の他端(
図5では下端)に位置するノズルよりも内側に配置されるように設けられている。すなわち、各供給ポート22aおよび各帰還ポート23aは、幅方向一端および他端に位置する供給マニホールド22および帰還マニホールド23よりも、幅方向の中央寄りに配置されている。これにより、各供給マニホールド22内の液体の熱が冷め難くなる。
【0061】
さらに、本実施形態では、供給ポート22aおよび帰還ポート23aは、少なくとも各々の一部が延在方向に重なるように配置されている。これにより、供給マニホールド22をコンパクトサイズの帰還マニホールド23で覆うことができる。
【0062】
<第2実施形態>
上述の第1実施形態は、供給マニホールド22および帰還マニホールド23の延在方向の一方側に供給ポート22aおよび帰還ポート23aが設けられている態様であったが、
図7に示すように、供給マニホールド22および帰還マニホールド23の延在方向の一方側(
図7では左側)に設けられた供給ポート22aおよび帰還ポート23aに加えて、延在方向の他方側(
図7では右側)にも供給ポート22aおよび帰還ポート23aをさらに設けてもよい。この場合においても、延在方向の他方側の各供給ポート22aおよび各帰還ポート23aは、幅方向一端および他端に位置する供給マニホールド22および帰還マニホールド23よりも、幅方向の中央寄りに配置されている。具体的には、各供給ポート22aおよび各帰還ポート23aは、これら各々の少なくとも一部が幅方向の一端(
図7では上端)に位置するノズル21よりも内側に配置され、且つ、上記各々の少なくとも一部が幅方向の他端(
図7では下端)に位置するノズル21よりも内側に配置されるように設けられている。また、供給ポート22aおよび帰還ポート23aは、少なくとも各々の一部が延在方向に重なるように配置されている。
【0063】
ここで、第1実施形態では、帰還マニホールド23の下方部分123aおよび立設部分123bによって供給マニホールド22をL字状に覆うようにしたが、上記のような態様の第2実施形態においては、供給マニホールドおよび帰還マニホールドの形状は以下のものが好ましい。
【0064】
第2実施形態の供給マニホールド222は、
図8に示すように、延在方向に延在する延在部分222aと、この延在部分222aの延在方向の両端においてそれぞれ立設する立設部分222bとを含む。
【0065】
また、帰還マニホールド223は、延在方向に延在し、供給マニホールド222の延在部分222aの下方に配置された下方部分223aと、この下方部分223aの延在方向の両端においてそれぞれ立設する立設部分223bとを含む。
【0066】
このような態様の液体吐出ヘッド20によれば、帰還マニホールド223の下方部分223aおよび延在方向両側にある立設部分223bによって供給マニホールド222を略U字状に覆うことができるため、外気が供給マニホールド222に触れる領域を従来よりも低減することができる。これによって、供給マニホールド222内を流れるインク等の液体が圧力室28に至るまでに冷却されてしまうことを従来よりも抑制することができる。したがって、サーミスタ70の検出温度と圧力室28に流入する液体温度との差を小さくすることができるので、サーミスタ70による検出温度に基づく圧電素子60の駆動電圧の制御を現実の液体温度に近い状態で行うことができる。これにより、液体の吐出乱れを抑制することができる。
【0067】
<変形例>
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。例えば以下の通りである。
【0068】
図2の空気層24に代えて、
図9の液体吐出ヘッド20Aにおいて、ノズル21が形成されたノズルプレート40と帰還マニホールド23との間に空気層24aが設けられてもよい。このように熱伝導率の低い空気層24aを設けることで、供給マニホールド22内の液体が冷却されてしまうことを抑制することができる。なお、液体吐出ヘッド20Aでは、第2流路プレート42を例えばハーフエッチング加工することで帰還絞り路31cが形成される。
【0069】
また、
図10の液体吐出ヘッド20Bに示すように、供給マニホールド22および帰還マニホールド23の、幅方向の一方側(
図10では右側)に、液体が外部から供給される供給ポートが設けられたダミー供給マニホールド80と液体が外部に排出される帰還ポートが設けられたダミー帰還マニホールド81とを設けてもよい。ダミー供給マニホールド80は、第8流路プレート48~第11流路プレート51を積層方向に貫通した貫通孔、および、第12流路プレート52の下面から窪んだ窪みが積層方向に重なって形成される。また、ダミー帰還マニホールド81は、第2流路プレート42~第5流路プレート45を積層方向に貫通した貫通孔、および、第6流路プレート46の下面から窪んだ窪みが積層方向に重なって形成される。このようなダミー供給マニホールド80およびダミー帰還マニホールド81を液体吐出ヘッド20Bに設けることで、ダミー供給マニホールド80およびダミー帰還マニホールド81内の空気により断熱効果が向上し、それゆえインク等の液体が圧力室28に至るまでに冷却されてしまうことをより抑制することができる。
【0070】
また、上記実施形態では、供給マニホールド22の形状をL字型としたが、これに限定されるものではなく、延在部分122aのみで供給マニホールド22を構成してもよい。
【0071】
さらに、上記実施形態では、供給マニホールド22の延在部分122aが、平面視で見たときに、帰還マニホールド23の下方部分123aの内側に位置し、下方部分123aが、延在方向の一方側(
図3手前側)において延在部分122aよりも当該延在方向に若干長くなるように構成した。しかし、これに限定されるものではなく、供給マニホールド22の延在部分122aの幅と帰還マニホールド23の下方部分123aの幅とを同じにしてもよい。また、延在部分122aの延在方向の一方側における端面と下方部分123aの延在方向の一方側における端面とを平面視で面一にしてもよい。
【符号の説明】
【0072】
10 液体吐出装置
20,20A,20B 液体吐出ヘッド
21 ノズル
22 供給マニホールド
22a 供給ポート
23 帰還マニホールド
23a 帰還ポート
24,24a 空気層
64 個別流路
66 冷却抑制空間(空間)
70 サーミスタ
71 ヒータ
80 ダミー供給マニホールド
81 ダミー帰還マニホールド
123a 帰還マニホールドの下方部分
123b 供給マニホールドの立設部分