(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両
(51)【国際特許分類】
B60W 10/06 20060101AFI20231212BHJP
B60K 6/52 20071001ALI20231212BHJP
B60W 20/10 20160101ALI20231212BHJP
B60W 20/15 20160101ALI20231212BHJP
B60K 6/442 20071001ALI20231212BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
B60W10/06 900
B60K6/52 ZHV
B60W20/10
B60W20/15
B60K6/442
F02D45/00 362
(21)【出願番号】P 2023502632
(86)(22)【出願日】2022-06-16
(86)【国際出願番号】 JP2022024214
(87)【国際公開番号】W WO2023007979
(87)【国際公開日】2023-02-02
【審査請求日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2021123380
(32)【優先日】2021-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177460
【氏名又は名称】山崎 智子
(72)【発明者】
【氏名】那須 剛太
(72)【発明者】
【氏名】小熊 孝弘
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-057704(JP,A)
【文献】国際公開第2012/114509(WO,A1)
【文献】特開2009-214641(JP,A)
【文献】特開2015-116944(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/06
B60K 6/52
B60W 20/10
B60W 20/15
B60K 6/442
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンの出力軸と機械的に連結され回生動作あるいは力行動作可能な発電機と、前記発電機の回生動作時に発電した電力を蓄え、前記発電機の力行動作時に電力を供給するバッテリと、前記バッテリから供給される電力を駆動輪の駆動力に変換するモータと、前記エンジン、前記発電機および前記モータを制御する制御部と、を備えたハイブリッド車両であって、
前記制御部が、
前記エンジンを起動した時に
、アクセル操作を行っていない場合に所定値に設定される前記エンジンの要求出力と
、前記発電機の力行最大出力との合計値が所定の判定閾値より小さいか否かを判定し、
前記合計値が前記所定の判定閾値より小さい場合、前記エンジンの目標回転速度との偏差に応じて前記エンジンのトルクフィードバック補正量を算出し前記エンジンの要求トルクを
増加させて、前記目標回転速度で維持させる、
ことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項2】
前記合計値が前記所定の判定閾値よりも小さい場合とは、前記発電機の力行最大出力が不足状態である、ことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項3】
前記所定の判定閾値は、前記エンジンの目標回転速度ごとに前記エンジンの冷却水温に依存して予め設定されたことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項4】
前記制御部はさらに、
前記合計値が、前記所定の判定閾値にヒステリシス設定値を加えた値より小さいか否かを判定し、
前記合計値が前記所定の判定閾値にヒステリシス設定値を加えた値より小さい場合には、前記エンジンの目標回転速度との偏差に応じて前記エンジンのトルクフィードバック補正量を算出し前記エンジンの要求トルクを制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項5】
前記制御部はさらに、
前記合計値が、前記所定の判定閾値にヒステリシス設定値を加えた値より小さいか否かを判定し、
前記合計値が前記所定の判定閾値にヒステリシス設定値を加えた値より小さい場合には、前記エンジンの目標回転速度との偏差に応じて前記エンジンのトルクフィードバック補正量を算出し前記エンジンの要求トルクを制御する、
ことを特徴とする請求項
3に記載のハイブリッド車両。
【請求項6】
前記制御部が、前記エンジンの要求トルク制御の少なくとも終了時に前記エンジンのトルクフィードバック補正量を所定のレートで減少させることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項7】
前記制御部が、前記エンジンの要求トルク制御の少なくとも終了時に前記エンジンのトルクフィードバック補正量を所定のレートで減少させることを特徴とする請求項
3に記載のハイブリッド車両。
【請求項8】
前記制御部が、前記エンジンの要求トルク制御の少なくとも終了時に前記エンジンのトルクフィードバック補正量を所定のレートで減少させることを特徴とする請求項
4に記載のハイブリッド車両。
【請求項9】
前記制御部が、前記エンジンの要求トルク制御の少なくとも終了時に前記エンジンのトルクフィードバック補正量を所定のレートで減少させることを特徴とする請求項
5に記載のハイブリッド車両。
【請求項10】
前記所定の判定閾値は、前記エンジンの出力軸のフリクショントルク誤差を含む最大トルク誤差に対応した出力値であることを特徴とする請求項1から
9のいずれか1項に記載のハイブリッド車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモータ(電動機)とエンジン(内燃機関)とを備えるハイブリッド車両の制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
充電可能な二次電池(バッテリ)は低温時に出力性能が低下することが知られており、特にプラグインタイプやシリーズ方式のハイブリッド車両ではバッテリ出力低下による駆動力不足が重要な課題として認識されている。このような駆動力不足を解決するために、たとえば特許文献1には、バッテリの出力性能が低下する低温時において運転者がアクセル操作により所定値よりも大きい出力を要求した場合、エンジントルクを一時的に増大させ、発電機での発電量を増大させる制御方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された制御方法では、低温時に運転者が要求出力を所定値以上に増大させた場合、動力性能低下を抑制するようにエンジントルクを増大させる。したがって制御動作は運転者のアクセル操作に依存しており、走行中にしか作動しない。
【0005】
しかしながら、EVモードで走行中に、あるいは停車中に、運転者のアクセル操作とは関係なくエンジンを起動して発電を行う場合がある。このときにバッテリ出力が低下した状態ではエンジンの回転速度を目標値に維持できず、回転速度が低下してエンジンストール(エンスト)が発生し得る。詳しくは後述するが、本発明者は、このエンジン回転速度の低下がエンジンの水温と油温の上昇率の差により発生するエンジン-発電機間のトルク誤差に起因することを見いだした(
図3を参照)。アクセル操作をしていない場合にはエンジン要求出力は所定値に維持されているので、発電機の力行出力が十分であれば発電機の力行アシストによりトルク誤差を上回る出力で通常制御を維持できる。
【0006】
ところが、発電機の力行出力はバッテリから電力を持ち出して発電機をモータ駆動し、エンジンの回転速度を上昇させるので、バッテリ出力が低下するにつれて発電機の力行出力も低下し、極低温あるいはバッテリの劣化時にはゼロとなる。このように発電機の力行出力が低下すると、エンジン要求出力と発電機の力行出力との合計値がトルク誤差より小さくなり、エンジン回転速度が低下して最終的にはエンストを発生する。以下、
図1を参照しながら説明する。
【0007】
図1において、EV走行モードで走行中に、時点t1でエンジンが起動し時点t2でシリーズ走行に移行したとする。エンジン起動時には発電機がモータ駆動することでエンジン回転速度が上昇し目標回転速度に到達する。しかしながら、運転者がアクセル操作していない場合にはエンジン要求出力が一定値であり、バッテリ出力の低下に伴って発電機の力行出力が低下し発電機のアシストが小さくなると、エンジン要求出力と発電機の力行出力との合計値がトルク誤差を下回りはじめる。これによりエンジン回転速度が目標を維持できず徐々に低下しはじめ、時点txでエンジンが停止しエンストを発生する。上述した特許文献1のように運転者のアクセル操作に依存した制御方法では、このようなエンストを防止できない。
【0008】
本発明は前記事情に鑑み案出されたものであって、本発明の目的は、バッテリが出力低下状態であってもエンジン回転速度を維持してエンストを防止できるハイブリッド車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため本発明の一実施の形態によれば、エンジンと、前記エンジンの出力軸と機械的に連結され回生動作あるいは力行動作可能な発電機と、前記発電機の回生動作時に発電した電力を蓄え、前記発電機の力行動作時に電力を供給するバッテリと、前記バッテリから供給される電力を駆動輪の駆動力に変換するモータと、前記エンジン、前記発電機および前記モータを制御する制御部と、を備えたハイブリッド車両であって、前記制御部が、前記エンジンを起動した時に前記エンジンの要求出力と前記発電機の力行最大出力との合計値が所定の判定閾値より小さいか否かを判定し、前記合計値が前記所定の判定閾値より小さい場合、前記エンジンの目標回転速度との偏差に応じて前記エンジンのトルクフィードバック補正量を算出し前記エンジンの要求トルクを制御する、ことを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態によれば、前記所定の判定閾値は、前記エンジンの目標回転速度ごとに前記エンジンの冷却水温に依存して予め設定されてもよい。
また、本発明の一実施の形態によれば、前記制御部はさらに、前記合計値が、前記所定の判定閾値にヒステリシス設定値を加えた値より小さいか否かを判定し、前記合計値が前記所定の判定閾値にヒステリシス設定値を加えた値より小さい場合には、前記エンジンの目標回転速度との偏差に応じて前記エンジンのトルクフィードバック補正量を算出し前記エンジンの要求トルクを制御することができる。
また、本発明の一実施の形態によれば、前記制御部が、前記エンジンの要求トルク制御の少なくとも終了時に前記エンジンのトルクフィードバック補正量を所定のレートで減少させることができる。
また、本発明の一実施の形態によれば、前記所定の判定閾値は、前記エンジンの出力軸のフリクショントルク誤差を含む最大トルク誤差に対応した出力値であり得る。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施の形態によれば、エンジンの要求出力と発電機の力行最大出力との合計値が所定の判定閾値より小さい場合にエンジンのトルクフィードバック補正量によりエンジン要求トルクを制御するので、たとえば低温時でバッテリが出力低下状態であっても、運転者の操作に依存することなく、エンジン回転速度を維持してエンストを防止する上で有利となる。
また、本発明の一実施の形態によれば、所定の判定閾値がエンジンの目標回転速度ごとにエンジン水温に依存して予め設定されることで、高速で正確な判定処理が可能となり、エンストを未然にかつ確実に防止する上で有利となる。
また、本発明の一実施の形態によれば、エンジンの要求出力と発電機の力行最大出力との合計値が所定の判定閾値にヒステリシス設定値を加えた値より小さいか否かを判定してエンジン要求トルクを制御するので、ハイブリッド車両の補機等のオンオフに依存した消費電力の増減による制御ハンチングを防止できる。
また、本発明の一実施の形態によれば、エンジン要求トルク制御の少なくとも終了時にトルクフィードバック補正量を徐々に減少させるので、車両の振動や運転者の違和感を緩和できる上で有利となる。
また、本発明の一実施の形態によれば、所定の判定閾値をエンジンの出力軸のフリクショントルク誤差を含む最大トルク誤差に対応した出力値にすることで、最大トルク誤差を考慮してトルクフィードバック補正量を算出しエンストを防止する上で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】背景技術によるハイブリッド車両におけるバッテリ出力低下時のエンジン要求トルク、回転速度および発電機トルクの変化を示すタイムチャートである。
【
図2】本発明の一実施形態によるハイブリッド車両における制御系の概略的構成を示すブロック図である。
【
図3】エンジンの水温、油温およびそれらの温度差の時間変化の一例を示すグラフである。
【
図4A】ハイブリッド車両におけるエンジン、発電機およびバッテリ間のエネルギの流れを示す模式的ブロック図である。
【
図4B】本実施形態による制御に用いられる判定閾値を説明するための模式図である。
【
図5】本実施形態による制御方法を示すフローチャートである。
【
図6】本実施形態による制御装置の動作の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.車両構成
図2に例示するように、本発明の一実施形態によるハイブリッド車両10において、バッテリ100はインバータ101、102および103に接続され、それぞれのインバータがフロントモータ104、リアモータ105および発電機106に接続されている。インバータ101および102は、バッテリ100から供給される直流電力を三相交流電力に変換してフロントモータ104およびリアモータ105へそれぞれ供給する。
【0013】
インバータ103は発電機106により発電された三相交流電力を直流電力に変換し、バッテリ100の充電や図示しない補機の電源として利用される。なお、ハイブリッド車両10の回生制動時には、フロントモータ104およびリアモータ105が発電機として機能し、それぞれのモータで発電された三相交流電力がインバータ101および102により直流電力に変換され、バッテリ100の充電に利用される。
【0014】
発電機106の回転子軸はエンジン107の出力軸と機械的に連結され、エンジン107の回転により発電を行う。ここではエンジン107と発電機106の回転速度は一致している。また発電機106はモータとしても動作する。具体的にはエンジン107の始動用のスタータとして動作させたり、あるいはエンジン107を負荷として回転させて廃電に利用したりすることもできる。
【0015】
なお、ハイブリッド車両10がプラグインタイプ(PHEV:外部充電が可能なプラグインハイブリッド)であれば、バッテリ100は、図示しない充電装置を介して、家庭用の商用電源あるいは充電スタンドの急速充電用電源などから供給される電力によって充電されてもよい。
【0016】
クラッチCLはエンジン107の回転トルクのギア機構108への伝達を機械的に切断あるいは連結する。クラッチCLを切断することでエンジン107の出力軸は発電機106のみに機械的に接続され、ハイブリッド車両10はEV走行モードあるいはシリーズ走行モードとなる。クラッチCLを連結することでエンジン107の出力軸は発電機106だけでなくギア機構108にも接続される。ギア機構108はフロントモータ104の駆動トルクを前輪109へ伝達し、またクラッチCLが連結状態であればエンジン107の駆動トルクも前輪109へ伝達することもできる。またリアモータ105はギア機構110を介して後輪111に駆動トルクを伝達する。
【0017】
電子制御ユニット(ECU)112はハイブリッド車両10の制御部を構成する。詳しくは、各種検出量及び各種作動情報に基づいてハイブリッド車両10の走行に必要な車両要求出力を算出し、クラッチCLおよびインバータ101,102および103を制御することで走行モード(EVモード、シリーズモード)を切り換えるとともに、エンジン107の出力制御、フロントモータ104およびリアモータ105の出力制御、発電機106の出力制御等を実行する。
【0018】
なお、ハイブリッド車両10の走行モードについては以下の通りである。
・EVモードでは、クラッチCLを切断するとともにエンジン107を停止し、バッテリ100から供給される電力によってフロントモータ104およびリアモータ105を駆動して走行させる。また、バッテリ100から供給される電力が要求出力に足りない場合は、次に説明するシリーズモードに切り替えてエンジン107を始動し発電機106によって発電された電力もフロントモータ104およびリアモータ105の駆動に用いる。
・シリーズモードでは、クラッチCLを切断し、エンジン107の駆動力を全て発電機106に付与する。そして、発電機106によって発電された電力によりフロントモータ104およびリアモータ105を駆動して走行させる。この時、発電機106の発電電力が要求出力に足りない場合は、バッテリ100に蓄電された電力もフロントモータ104およびリアモータ105の駆動に用いる。また、発電機106の発電電力が要求出力よりも大きい場合には、余剰電力をバッテリ100の充電に利用する。
【0019】
さらにECU112は、後述する判定閾値テーブル113に保存された判定閾値と以下のセンサ信号とを入力して本実施形態によるエンジントルク制御を実行する:・運転者が操作するアクセルペダルの操作量や操作速度を検出するアクセルポジションセンサ(図示せず)からのアクセル開度信号;・エンジン107の出力軸の回転速度[rpm]を検出する回転速度センサ(図示せず)からのエンジン回転速度信号;・エンジン107の冷却水の温度を検出する水温センサ(図示せず)からのエンジン水温信号;および・バッテリ100の電池残量や充電状態を検出するSOC(State Of Charge)センサ(図示せず)からのSOC信号。
【0020】
なお、ECU112は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、プロセッサが実行する制御プログラム等を格納するROM(Read-only memory)、制御プログラムの作動領域としてのRAM(Random access memory)、周辺回路等とのインターフェース部などを含んで構成される。上記判定閾値テーブル113は消去可能書換可能なROMに保存されてもよい。本実施形態による制御方法はECU112のプロセッサ上でプログラムを実行することによりに実装され得る。以下、エンジンと発電機との間のトルク誤差について説明した後、本実施形態による制御方法について詳細に説明する。
【0021】
2.トルク誤差の算出
既に述べたように、低温時あるいはバッテリの劣化時にバッテリ出力が低下して発電機の力行アシストがなくなると、運転者がエンジン要求出力を増大させない限り、トルク誤差によりエンジンの回転速度が目標値を維持できない現象が生じ得る。このトルク誤差は次に述べるようにエンジンの水温と油温が乖離することにより発生する。
【0022】
図3に示すように、エンジンの水温(ENG水温)と油温(ENG油温)とは温度の上昇率が異なるので時間と共に温度差が変化する。特に短時間にエンジン始動とエンジン停止を繰り替えされる状況下では,水温と油温の乖離が大きくなる傾向にある。エンジンの出力軸に作用する摩擦に起因するフリクショントルクは油温とエンジン回転速度により決まり、油温が低い程フリクショントルク値は大きくなる。油温は水温から推定される場合、水温と油温の乖離が大きくなると実際のフリクショントルク値と水温から算出するフリクショントルク値に誤差が発生してしまう。これにエンジン指令に対する誤差やエンジンと接続している減速機のフリクショントルクなどを加算することで最大トルク誤差量が算出される。したがって、この最大トルク誤差量によるエンジン回転速度の減少を防止するようにエンジン要求出力を増大させる制御が必要となる。
【0023】
3.エンジントルク制御
図4Aに示すように、回生動作時にはエンジン107の回転トルクが発電機106に伝達され、発電機106が発電してバッテリ100を充電する。また力行動作時にはバッテリ100から発電機106へ電力が供給され、発電機106がモータとしてエンジン107を回転させる。たとえばエンジン107の回転速度が目標値より低下すると、ECU112は発電機106を制御してモータとして動作させることでエンジン107の回転速度を目標値近傍に維持できる。しかしながらバッテリ100が出力低下状態であれば、発電機106の力行出力を十分に増加させることができなくなる。言い換えれば、発電機106の力行出力の可能値はバッテリ100の出力可能値に対応する。
【0024】
図4Bに示すように、トルク誤差によりエンジン107の回転速度を低下させないためには、エンジン107の要求出力P
ENG-RQと発電機106の力行最大出力P
GEN-DRVとの合計値をトルク誤差以上にすることが必要である。そこで、最大トルク誤差が発生した際にエンジン107の回転速度を低下させないエンジン要求出力P
ENG-RQと発電機力行最大出力P
GEN-DRVとの合計値を判定閾値P
THとする。
【0025】
判定閾値PTHはエンジン107の目標回転速度毎にエンジン水温に依存して予め設定され、ECU112内の判定閾値テーブル113あるいは別個の記憶装置にテーブル形式で保存されてもよい。判定閾値テーブル113に想定された複数の判定閾値PTHを保存しておくことで、ECU112はエンジンの目標回転速度と水温のセンサデータから正確な判定に必要な判定閾値PTHを高速に取得できる。なお、エンジン要求出力PENG-RQ、発電機力行最大出力PGEN-DRVおよび判定閾値PTHの単位はパワー[kW]であり、エンジン要求出力PENG-RQはエンジン要求発電出力である。
【0026】
望ましくは、判定閾値PTHにヒステリシス設定値ΔHを加算して判定する。ヒステリシス設定値ΔHの加算は、車両10内の補機(エアコンなど)での消費電力による変動を吸収するためである。すなわち、通常のエンジン要求出力値には補機の消費電力も含まれるために、補機のオンオフにより消費電力が変動する。したがって補機のオンオフの度にエンジン要求出力PENG-RQと発電機力行最大出力PGEN-DRVとの合計値が判定閾値PTHを上回ったり下回ったりして制御のハンチングが発生する。ヒステリシス設定値ΔHの加算は制御のハンチング防止のためである。
【0027】
ECU112は、次に述べるように、エンジン要求出力PENG-RQと発電機力行最大出力PGEN-DRVとの合計値が判定閾値PTHを下回る場合には、エンジン回転速度の目標回転速度との偏差に応じてエンジントルク補正量をフィードバック(F/B)し、エンジン目標回転速度に追従するようにエンジントルクを制御する。
【0028】
図5に示すように、ECU112は現在の走行モードがシリーズモードであるか否かを判断し(ステップ201)、シリーズモードであれば(ステップ201のYES)、エンジンの目標回転速度とエンジン水温を入力して判定閾値テーブル113から判定閾値P
THを取得し、現在のエンジン要求出力P
ENG-RQと発電機力行最大出力P
GEN-DRVとの合計値が判定閾値P
THより小さいか否かを判断する(ステップ202)。
【0029】
現在のエンジン要求出力PENG-RQと発電機力行最大出力PGEN-DRVとの合計値が判定閾値PTHより小さい場合には(ステップ202のYES)、上述したようにトルク誤差によりエンジン107の回転速度が低下してエンストが発生する可能性がある。そこでECU112はエンストを回避するように現在のエンジン回転速度と目標回転速度との差に応じたエンジントルクF/B補正量を算出し、算出されたエンジントルクF/B補正量に従ってエンジン107のエンジントルクを制御する(ステップ203)。このときエンジントルクF/B補正量によるエンジントルクの変動を緩やかにすることが望ましい。たとえばエンジントルクF/B補正の開始時に急激に増加させるのではなく、所定の増加レートを設定して車両10の振動や運転者の違和感を軽減できる。
【0030】
なお、エンジントルクF/B補正量は、後述するように、積分項と比例項とからなるPI(Proportional-Integral)制御により算出される。積分補正だけでは回転速度のハンチングが生じるために、制御の安定化のために比例補正が追加される。なおエンジントルクF/B補正量の単位は[Nm]である。
【0031】
続いて、ECU112は、上記制御されたエンジン要求出力PENG-RQと発電機力行最大出力PGEN-DRVとの合計値が判定閾値PTHとヒステリシス設定項ΔHとの和より小さいか否かを判断する(ステップ204)。PENG-RQ+PGEN-DRV<PTH+ΔHであれば(ステップ204のYES)、ECU112は、上記エンジントルクF/B補正制御(ステップ203)を繰り返す。
【0032】
PENG-RQ+PGEN-DRVがPTH+ΔH以上になれば(ステップ204のNO)、ECU211は、エンジントルク補正制御を終了するが、そのときにエンジントルクF/B補正量によるエンジントルクの変動を緩やかにするテーリング処理を実行する(ステップ205)。エンジントルクF/B補正の終了時に急激に幻想させるのではなく、所定の減少レートを設定することで車両10の振動や運転者の違和感を軽減できる。この時点ではエンジン107のエンストの可能性は少ないと考えられるので、ステップ203におけるエンジントルクF/B補正量の増加レートよりも減少レートを小さくでき、車両10の振動や運転者の違和感をさらに軽減できる。
【0033】
ステップ202においてPENG-RQ+PGEN-DRVがPTH以上の場合(ステップ202のNO)あるいはテーリング処理(ステップ205)が完了した場合には、ECU112は通常のシリーズモード走行時の制御を実行し(ステップ206)、走行モードがシリーズモード以外であれば(ステップ201のNO)、本実施形態による制御を終了し通常の制御が続行される。
【0034】
4.動作
次に
図6を参照しながら本実施形態によるハイブリッド車両10の動作について詳細に説明する。
【0035】
まず、
図6の(B)および(C)に示すように、ECU112は、エンジン要求出力P
ENG-RQ、発電機力行最大出力P
GEN-DRV、エンジン回転速度およびエンジン水温を入力して判定閾値P
THを決定し、P
ENG-RQ+P
GEN-DRV<P
TH+ΔHの状態、すなわち発電機106の力行出力が不足状態であると判定したものとする。
【0036】
図6(A)に示すように、発電機106の力行出力不足状態でEV走行中に時点t1でエンジン107が起動し、時点t2でシリーズ走行に移行したとする。エンジン起動時には、
図6(F)および(G)に示すように、発電機106の力行によりエンジンが回転しはじめ目標回転速度に到達する。
【0037】
時点t2でシリーズ走行に移行すると、ECU112は、
図6の(F)に示すようにエンジン107の回転速度と目標回転速度との偏差を参照しながら、
図6の(d1)に示す比例補正量(エンジントルクF/B補正量(P項)[Nm])と
図6の(d2)に示す積分補正量(エンジントルクF/B補正量(I項)[Nm])とを算出し、比例補正量と積分補正量との和に立ち上がりの増加レートを用いた切替係数(
図6の(d3))を乗算することで
図6の(D)に示す要求エンジントルクF/B補正量を算出する。
【0038】
要求エンジントルクF/B補正量は、時点t2後にエンジン回転速度が目標回転速度を若干オーバーシュートするので(
図6の(F))負の値を示すが、その後は曲線301に示すように増加して正の値が維持される。その結果、
図6の(E)に示すようにエンジン要求トルクが増加し、増加した状態で維持され、それに実トルク302が追従している。
【0039】
エンジン要求トルクが増加することで、
図6の(F)に示すように、エンジン回転速度303は時点t2の後も目標値をほぼ維持しながら推移し、従来の曲線401のような回転速度の低下、そしてエンスト402の発生を防止している。
【0040】
以上のシリーズ走行が継続し、
図6の(B)および(C)に示すように、時点t3でP
ENG-RQ+P
GEN-DRVがP
TH+ΔH以上になると、ECU112は発電機106の力行出力が復帰したと判定し、
図6の(d3)に示すように切替係数304を時点t3から時点t4にかけて徐々に低下させる。これに伴い、
図6の(D)に示すように、要求エンジントルクF/B補正量も時点t3から低下し始め時点t4でゼロになる。
【0041】
要求エンジントルクF/B補正量がゼロになることで、
図6の(E)に示すように、そのときのエンジン要求トルクの値がそれ以降も維持され、それによって
図6の(F)に示すようにエンジン回転速度も維持される。また発電機106は、
図6の(G)に示すように、時点t3以降は力行出力が復帰したので、必要に応じて発電機あるいはモータとして動作可能となる。
【0042】
なお、
図6に例示するタイムチャートは、運転者がアクセル操作により出力を増大させないでシリーズ走行する場合を示しており、運転者がエンジン要求出力を増加させる場合には本実施形態による制御は非作動になる。すなわち、本実施形態による制御は、ハイブリッド車両10が停車時あるいは低出力での走行時に適用される。
【0043】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0044】
なお、本出願は、2021年7月28日出願の日本特許出願(特願2021-123380)に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。
【符号の説明】
【0045】
10 ハイブリッド車両
100 バッテリ
101、102、103 インバータ
104 フロントモータ
105 リアモータ
106 発電機
107 エンジン
108 ギア機構
109 前輪
110 ギア機構
111 後輪
112 電子制御ユニット(ECU)