IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱自動車工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車両制御装置 図1
  • 特許-車両制御装置 図2
  • 特許-車両制御装置 図3
  • 特許-車両制御装置 図4
  • 特許-車両制御装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/50 20160101AFI20231212BHJP
   B60K 6/442 20071001ALI20231212BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20231212BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20231212BHJP
   B60W 20/20 20160101ALI20231212BHJP
   B60W 20/13 20160101ALI20231212BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20231212BHJP
   B60L 50/61 20190101ALI20231212BHJP
   B60L 53/14 20190101ALI20231212BHJP
   B60L 58/13 20190101ALI20231212BHJP
【FI】
B60W20/50
B60K6/442 ZHV
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60W20/20
B60W20/13
B60L50/16
B60L50/61
B60L53/14
B60L58/13
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023502633
(86)(22)【出願日】2022-05-26
(86)【国際出願番号】 JP2022021532
(87)【国際公開番号】W WO2022259876
(87)【国際公開日】2022-12-15
【審査請求日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2021095806
(32)【優先日】2021-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177460
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 智子
(72)【発明者】
【氏名】椎野 陽広
(72)【発明者】
【氏名】清水 亮
(72)【発明者】
【氏名】生駒 憲彦
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-074267(JP,A)
【文献】特開2017-185839(JP,A)
【文献】特開2011-225034(JP,A)
【文献】特開2014-121962(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 20/50
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン及び電動機と、
前記エンジン駆動輪とを結ぶ第1の動力伝達経路と、前記電動機と前記駆動輪とを結ぶ第2の動力伝達経路を備えたトランスアクスルと、
前記トランスアクスルの温度を検出する温度検出手段と、
前記エンジンの回転により発電した電力を用いた前記電動機駆動による駆動力を前記第2の動力伝達経路を介して前記駆動輪に伝達することにより走行するシリーズ運転モードと、前記エンジン及び前記電動機の駆動によるそれぞれの駆動力を前記第1の動力伝達経路及び前記第2の動力伝達経路を介して前記駆動輪に伝達することにより走行するパラレル運転モードとを切り替える制御部と、
を備えたハイブリッド車の車両制御装置において、
前記制御部は、前記第1の動力伝達経路及び前記第2の動力伝達経路の動作に起因して変化する前記トランスアクスルの温度が第1所定温度以上の場合に前記パラレル運転モードによる走行を優先する第1の制御を行う車両制御装置。
【請求項2】
前記電動機に電力を供給する二次電池を備え、
前記第1の制御後の前記パラレル運転モードでの走行により、前記二次電池の充電状態が第1所定値未満に低下した場合には前記シリーズ運転モードに移行する第2の制御を行う請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記第2の制御後の前記シリーズ運転モードでの走行により、前記二次電池の充電状態が前記第1所定値よりも高い値に設定された第2所定値以上に回復した場合は、前記パラレル運転モードに移行する第3の制御を行う請求項2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記ハイブリッド車はプラグインハイブリッドカーであり、前記二次電池から外部への給電機能を有している請求項2に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記ハイブリッド車はプラグインハイブリッドカーであり、前記二次電池から外部への給電機能を有している請求項3に記載の車両制御装置。
【請求項6】
前記トランスアクスルの温度が前記第1所定温度よりも高い温度に設定された第2所定温度以上になった場合は、駆動トルク、エンジン出力、又は、エンジン回転数を制限する第4の制御を行う請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項7】
前記トランスアクスルの温度が前記第1所定温度よりも高い温度に設定された第2所定温度以上になった場合は、駆動トルク、エンジン出力、又は、エンジン回転数を制限する第4の制御を行う請求項2に記載の車両制御装置。
【請求項8】
前記トランスアクスルの温度が前記第1所定温度よりも高い温度に設定された第2所定温度以上になった場合は、駆動トルク、エンジン出力、又は、エンジン回転数を制限する第4の制御を行う請求項3に記載の車両制御装置。
【請求項9】
前記トランスアクスルの温度が前記第1所定温度よりも高い温度に設定された第2所定温度以上になった場合は、駆動トルク、エンジン出力、又は、エンジン回転数を制限する第4の制御を行う請求項4に記載の車両制御装置。
【請求項10】
前記トランスアクスルの温度が前記第1所定温度よりも高い温度に設定された第2所定温度以上になった場合は、駆動トルク、エンジン出力、又は、エンジン回転数を制限する第4の制御を行う請求項5に記載の車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ハイブリッド車の車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンとモータを併用して車両を駆動するハイブリッド車が広く普及している。ハイブリッド車は、エンジン(内燃機関)とモータ(電動機)とを備え、走行時にエンジンの駆動をモータでアシストし、減速時には電力を回生できるように構成されている。
【0003】
ハイブリッド車には種々の方式があり、例えば、マイルドハイブリッド方式と呼ばれるハイブリッド車には、車両の走行状態に応じてエンジンのみで走行する機能や、回生発電を実施する機能、モータによる駆動力でエンジンの駆動力をアシストする機能等が実装されている。また、ストロングハイブリッド方式と呼ばれるハイブリッド車では、上記の機能に加えて、モータのみで走行する機能が付加されている。このようなハイブリッド車のパワートレインを構成するトランスアクスル内には、駆動輪へ伝達されるトルク及び回転数を調整する減速機、駆動状態の切り換えを行うクラッチ、クラッチを駆動するためのクラッチ駆動装置等の多種の装置が備えられている。また、特許文献1,2には、そのトランスアクスル内の温度が過度に上昇することを抑える技術が開示されている。
【0004】
特許文献1に記載のハイブリッド車は、第1モータジェネレータ及び第2モータジェネレータの2つのモータジェネレータを備え、第1モータジェネレータと第2モータジェネレータの両方を駆動して走行するモードと、第2モータジェネレータのみを駆動して走行するモードとを選択できるようになっている。エンジン及び第1モータジェネレータから駆動輪へ通じる動力伝達経路上には遊星歯車機構が介在している。
【0005】
そして、両方のモータジェネレータを駆動する際に、遊星歯車機構の温度上昇を抑制できるように、要求駆動力に対する各モータジェネレータの駆動力分担割合が設定されている。具体的には、遊星歯車機構のピニオンギヤの温度が所定温度よりも高い場合は、所定温度以下である場合に対して、第1モータジェネレータの駆動力分担割合が低くなるように駆動力分担割合を設定している。これにより、ピニオンギヤの温度の上昇が抑制され、第1モータジェネレータと第2モータジェネレータの両方を駆動するモードが規制される事態を抑制できるとされている。
【0006】
また、特許文献2に記載のハイブリッド車は、動力源としてエンジンの他に第1回転機及び第2回転機を備え、さらに、動力伝達経路上に第1クラッチ及び第2クラッチを備えている。エンジン及び第1回転機から駆動輪へ通じる動力伝達経路上には遊星歯車機構が介在している。第1クラッチは、その動力伝達経路と第2回転機との間に配置されている。第2クラッチは、第1クラッチと並列に配置されたワンウェイクラッチである。第2回転機は、第1クラッチ及び第2クラッチの少なくともいずれか一方を介して、動力伝達経路との間で動力を伝達する。
【0007】
そして、第2回転機の回転を停止させて車両を前進走行させる所定走行モードでは、第1クラッチは開放状態とされる。第1クラッチが開放されて第2回転機が動力伝達経路から切り離されることにより、動力伝達経路の回転によって第2回転機が連れ回されることが抑制され、第2回転機の引き摺り損や機械損が低減され、結果的にエンジンの出力を低減できるとされている。また、このハイブリッド車が備える制御部は、油温が低い場合に、油温が高い場合よりも所定走行モードを許可する運転領域を制限する機能を備えている。具体的には、油温が所定温度よりも低温である場合に、所定走行モードを禁止し、第2回転機の発熱によってオイルを加熱して早期の油温上昇を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】日本国特開2017-149210号公報
【文献】日本国特開2015-131512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、ハイブリッド車における近年の車両重量の増大や、走行に必要な出力の増大、エンジンの最大回転数の増加等により、トランスアクスルの温度は従来よりも上昇する傾向にある。また、一般的な利用環境ではない過酷な環境下での運転が長時間継続した場合には、想定を超えるようなトランスアクスルの温度上昇も想定される。仮に、トランスアクスルの温度が許容温度を超過してその状態が長時間継続すると、オイル劣化が進み、ギヤやベアリング等への負担が増大するとともに、オイルシール等の樹脂部品の硬化を促進してしまうので好ましくない。このため、できる限りトランスアクスルの温度上昇を抑制したいという要請がある。
【0010】
また、特に、エンジンを発電用として用い、その発電した電力でモータを駆動させ走行するシリーズ運転モードと、最もエネルギを使う発進時や加速時等に、モータがエンジンをサポートして駆動するパラレル運転モードの両方を備えたハイブリッド車では、トランスアクスルの温度上昇を抑制するために、それぞれの運転モードをどのように使い分けるかが問題となる。
【0011】
この点、特許文献1は、遊星歯車機構のピニオンギヤの温度が高いときに、第1モータジェネレータの駆動力分担割合を低くするものであるが、シリーズ運転モード、パラレル運転モードを温度管理上どのように使い分けるかについては開示されていない。また、特許文献1は、第1モータジェネレータ及び第2モータジェネレータの両方による走行が制限される可能性を低くするのが目的であり、この技術はトランスアクスルの温度上昇の抑制には寄与していない。また、特許文献2は、油温が低いときに、油温が高いときよりも走行モードを制限するものであり、この技術もトランスアクスルの温度上昇の抑制に寄与するものではない。
【0012】
そこで、この発明の課題は、ハイブリッド車におけるトランスアクスルの温度上昇を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、この発明は、エンジン及び電動機と、前記エンジン及び前記電動機と駆動輪とを結ぶ動力伝達経路を備えたトランスアクスルと、前記トランスアクスルの温度を検出する温度検出手段と、前記エンジンの回転により発電した電力で前記電動機を駆動させ走行するシリーズ運転モードと、前記エンジン及び前記電動機の駆動により走行するパラレル運転モードとを切り替える制御部とを備えたハイブリッド車の車両制御装置において、前記制御部は、トランスアクスルの温度が第1所定温度以上の場合に前記パラレル運転モードによる走行を優先する第1の制御を行う車両制御装置を採用した。
【0014】
ここで、前記電動機に電力を供給する二次電池を備え、前記第1の制御後の前記パラレル運転モードでの走行により、前記二次電池の充電状態が第1所定値未満に低下した場合には前記シリーズ運転モードに移行する第2の制御を行う構成を採用できる。
【0015】
また、前記第2の制御後の前記シリーズ運転モードでの走行により、前記二次電池の充電状態が第1所定値よりも高い値に設定された第2所定値以上に回復した場合は、前記パラレル運転モードに移行する第3の制御を行う構成を採用できる。
【0016】
これらの各態様において、前記トランスアクスルの温度が前記第1所定温度よりも高い温度に設定された第2所定温度以上になった場合は、駆動トルク、エンジン出力、又は、エンジン回転数を制限する第4の制御を行う構成を採用できる。
【0017】
なお、前記ハイブリッド車はプラグインハイブリッドカーであり、前記二次電池から外部への給電機能を有している構成を採用できる。
【発明の効果】
【0018】
この発明は、トランスアクスルの温度が第1所定温度以上の場合にパラレル運転モードによる走行を促進するようにしたので、トランスアクスルの温度上昇を効果的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】この発明の一実施形態を示す車両の模式図である。
図2】制御の例を示すグラフ図である。
図3】制御の例を示すフローチャートである。
図4】制御の例を示すフローチャートである。
図5】制御の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。この発明に係る車両制御装置が搭載された車両10は、図1に示すように、エンジン(内燃機関)6とモータ(電動機)4とを駆動源として走行するストロングハイブリッド方式の車両である。この実施形態では、車両10を、前輪を駆動輪8としたFF方式のプラグインハイブリッドカーとしている。
【0021】
車両10は、駆動輪8である前輪と、エンジン6及びモータ4とをそれぞれ結ぶパワートレイン(動力伝達経路)7を備えている。動力伝達経路7には、駆動状態の切り換えを行うクラッチ3、クラッチ3を駆動するための油圧のポンプ2、駆動輪8へ伝達されるトルク及び回転数を調整する減速機等を備え、これらでトランスアクスル1を構成している。エンジン6及びモータ4の駆動力は、トランスアクスル1を介して駆動輪8に伝達され、車両10を走行させる。また、車両10は、ジェネレータ(発電機)5を備えている。
【0022】
エンジン6として、ガソリンを燃料とするガソリンエンジン、又は、軽油を燃料とするディーゼルエンジンを採用できる。燃料の燃焼によってクランクシャフト6aが回転し、その回転が入力軸11に伝達される。
【0023】
モータ4は、回転軸4aと一体に回転するロータ4bと、そのロータ4bの外周においてケーシングに固定されたステータ4cとを備えている。バッテリ30に蓄えられた電力によってロータ4bとともに回転軸4aが回転する。バッテリ30として、例えば、リチウムイオン電池やニッケル水素電池等の二次電池を採用できる。以下、バッテリ30を二次電池30と称する。モータ4には、二次電池30から供給される直流電流を交流電流に変換するインバータが併設されている。インバータを制御することによって、モータ4の回転速度を調節できる。
【0024】
ジェネレータ5は、エンジン6のスタータとして機能する電動機であるとともに、そのエンジン6や駆動輪8の回転によって発電を行う発電機であり、モータジェネレータとも呼ばれる。ジェネレータ5は、回転軸5aと一体に回転するロータ5bと、そのロータ5bの外周においてケーシングに固定されたステータ5cとを備えている。ジェネレータ5によって発電された電力は、モータ4への電力供給源である二次電池30(駆動用バッテリ)に充電されるとともに、運転条件に応じて、モータ4へ直接供給される。また、ジェネレータ5によるエンジン6の始動は、二次電池30(低電圧バッテリ)から供給される電力によって行われる。
【0025】
トランスアクスル1は、駆動源であるエンジン6やモータ4と、駆動輪8に接続されたドライブシャフト9との間の動力伝達経路として機能する。また、トランスアクスル1は、その動力伝達経路の途中に、図示しないトランスミッション(減速機)や、ディファレンシャルギヤ16aを備えた差動装置16を含むファイナルドライブ(終減速機)等を備えている。図1に示すように、この実施形態では、トランスアクスル1の内部に、第1経路31、第2経路32、第3経路33の3つの動力伝達経路が設定されている。
【0026】
第1経路31(第1動力伝達機構)は、エンジン6のクランクシャフト6aとドライブシャフト9との間を結んでいる。第1経路31のいずれかの箇所には、動力伝達を入断するクラッチ3が配置されている。クラッチ3として、例えば、多板式クラッチを採用できる。クラッチ3の内部には、エンジン6からの駆動力が入力される駆動側係合要素3aと、駆動輪8側に駆動力を出力する被駆動側係合要素3bとが設けられている。駆動側係合要素3a及び被駆動側係合要素3bは、ポンプ2から供給される油圧によって、互いの接近(係合)及び離反(切断)が制御されている。
【0027】
第2経路32(第2動力伝達機構)は、モータ4の回転軸4aとドライブシャフト9との間を結んでいる。モータ4は、運転状態に応じて、エンジン6の駆動力をアシストでき、また、そのモータ4の駆動力のみでの車両10の走行もできる。例えば、車両10の発進時や低速走行時には、エンジン6の駆動力によらず、モータ4の駆動力のみで車両10が走行する電動運転モード(シリーズ運転モード)が設定される。また、車両10の走行速度が所定の車速以上になると、運転状態に応じて、モータ4の駆動力がエンジン6の駆動力に付加されるアシスト運転モード(パラレル運転モード)が設定され、あるいは、モータ4による駆動が停止しエンジン6の駆動力のみで走行を行うエンジン運転モードが設定される。
【0028】
第3経路33(第3動力伝達経路)は、エンジン6のクランクシャフト6aとジェネレータ5の回転軸5aとの間を結んでいる。駆動輪8側からの回転、あるいは、エンジン6側からの回転が第3経路33を介してジェネレータ5に入力され、その回転の入力によって発電が行われる。以下、クランクシャフト6aに接続されるトランスアクスル1内の回転軸を入力軸11と称する。また、ドライブシャフト9、モータ4の回転軸4a、ジェネレータ5の回転軸5aのそれぞれに接続されるトランスアクスル1内の回転軸を、それぞれ出力軸12、モータ軸13、ジェネレータ軸14と称する。さらに、トランスアクスル1内に配置されるクラッチ3の回転中心軸をクラッチ軸15、ポンプ2の回転中心軸をポンプ軸2b、出力軸12に対して平行に配置されるカウンタシャフトをカウンタ軸17と称する。
【0029】
図1に示すように、入力軸11には、第1ギヤ11a及び第2ギヤ11bが軸方向に並列して設けられている。第1ギヤ11aは、ジェネレータ軸14に固定された第3ギヤ14aと噛み合い、ジェネレータ軸14に動力を伝達する。第2ギヤ11bは、クラッチ3の駆動側係合要素3aに接続された第4ギヤ15aと噛み合っている。駆動側係合要素3aに対向して配置される被駆動側係合要素3bは、クラッチ軸15に固定されている。クラッチ軸15には出力軸12側に駆動力を伝達する第5ギヤ15bも設けられる。第5ギヤ15bは、出力軸12に固定されたディファレンシャルギヤ16aに噛み合っている。
【0030】
クラッチ軸15の一端には、ポンプ軸2bが接続される。ポンプ軸2bは、ポンプ2に内蔵される駆動体2aに接続されている。実施形態のポンプ2はベーン式ポンプであり、駆動体2aはロータに相当する。ポンプ2は、この実施形態には限定されず、他にもピストン式ポンプやギヤポンプを採用してもよい。駆動体2aは、クラッチ軸15側から伝達される駆動力(駆動輪8側の回転)を利用して油圧を発生させ、作動油を油圧回路に圧送する。油圧はクラッチ3に伝達され、駆動側係合要素3a及び被駆動側係合要素3bを互いに接近させて係合させる圧力として利用されている。すなわち、車両10の走行速度が所定の車速以上となって、ポンプ2で発生する油圧が、駆動側係合要素3a及び被駆動側係合要素3bを係合させるに足りるまで上昇した際に、クラッチ3が接続状態となる。クラッチ3が接速状態となると、エンジン6の駆動力が第1経路31を介して駆動輪8に伝達される。このとき、エンジン6が稼働していない場合は、適宜エンジン6が始動される。車両10の走行速度が所定の車速未満であればクラッチ3が切断され、エンジン6が停止するように制御される。
【0031】
モータ軸13には第6ギヤ13aが設けられ、カウンタ軸17には第7ギヤ17a及び第8ギヤ17bが軸方向に並列して設けられている。第6ギヤ13aは、カウンタ軸17の第7ギヤ17aと噛み合い、第8ギヤ17bは出力軸12に固定されたディファレンシャルギヤ16aに噛み合っている。このため、モータ4の駆動力は、第2経路32を介して駆動輪8に伝達される。
【0032】
なお、エンジン6、クラッチ3、モータ4、ジェネレータ5、その他各部の装置は、この車両10が搭載した電子制御ユニット(electronic control unit)20が備える制御部21によって制御されている。また、電子制御ユニット20は、電池モジュールの電圧等に基づいて、二次電池30の充電状態、すなわち、二次電池30が蓄電可能な電力の満容量に対する残容量の比率(残容量/満容量)を算出する充電状態検出手段22を備えている。以下、特に、複数備える二次電池30のうち、駆動用バッテリの充電状態をState Of Charge(SOC)と称する。
【0033】
車両10は、トランスアクスル1の温度を検出する温度検出手段34を備えている。実施形態では、温度検出手段34として温度センサを採用し、トランスアクスル1内の作動油又は潤滑油の温度を検出し、その検出した温度をトランスアクスル1の温度としている。以下、温度検出手段34が検出するトランスアクスル1の温度を、T/A温度と称する。
【0034】
電子制御ユニット20の制御部21は、エンジン6の回転により発電した電力でモータ4を駆動させ走行するシリーズ運転モードと、エンジン6及びモータ4の両方の駆動により走行するパラレル運転モードとを切り替える制御を行う。また、SOCが所定の値よりも少ない場合等は、エンジン6のみの駆動により走行するエンジン運転モードを選択する制御も行う。シリーズ運転モードでは、モータ4から第2経路32を通じて駆動輪8へ駆動力が伝達される。パラレル運転モードでは、エンジン6から第1経路31を通じて駆動輪8へ駆動力が伝達されるとともに、モータ4から第2経路32を通じて駆動輪8へ駆動力が伝達される。
【0035】
温度検出手段34で検出されるT/A温度の情報は、電子制御ユニット20の温度情報受信部23に送られる。制御部21は、トランスアクスル1の温度が第1所定温度T1以上の場合にパラレル運転モードによる走行を優先する第1の制御を行う。第1の制御では、例えば、図2のグラフA中に符号aで示すように、T/A温度(図2のグラフAでは油温[℃]で表記)が第1所定温度T1(実施形態では、T1=125℃に設定)以上になると、その時点までシリーズ運転モードで走行していたとしても、パラレル運転モードに移行(遷移)する制御が行われる。その時点までパラレル運転モードで走行していた場合は、そのパラレル運転モードを継続する制御が行われる。すなわち、第1の制御では、パラレル運転モードが促進(優先)される。なお、図2に示す各グラフ図の横軸は時間を示し、それぞれ対応している。
【0036】
第1の制御のフローを図3に示す。ステップs11で制御が開始され、ステップs12で車速が判別される。車速が所定の速度以上であれば(s12にてYes)ステップs13へ進み、車速が所定の速度未満であれば(s12にてNo)、T/A温度が過度に上昇する危惧が少なく本制御の対象外であるので、ステップs30へ移行して制御を終了する。続いて、ステップs13で要求出力(要求トルク)が判別される。要求出力が所定の出力以上であれば(s13にてYes)ステップs14へ進み、要求出力が所定の出力未満であれば(s13にてNo)、T/A温度が過度に上昇する危惧が少なく本制御の対象外であるので、同じく制御を終了する。ステップs14で運転モードが判別される。運転モードがシリーズ運転モードであれば(s14にてYes)ステップs15へ進み、運転モードがシリーズ運転モードでなければ(s14にてNo)、同じく制御を終了する。ステップs15でT/A温度が判別される。T/A温度が第1所定温度T1未満であれば(s15にてYes)ステップs16へ進み、シリーズ運転モードが継続され、ステップs12へ戻る。T/A温度が第1所定温度T1以上であれば(s15にてNo)ステップs17へ進み、パラレル運転モードに移行する。
【0037】
パラレル運転モードに移行することで、モータ4の負担が減少してT/A温度が低下する。シリーズ運転モードによる走行に比べて、パラレル運転モードによる走行は、モータ4の出力やエンジン6の回転数が低く、クラッチ3における回転数差も少なくなるため、T/A温度が上昇しにくいからである。これにより、トランスアクスル1の温度上昇を抑制しつつ、また、車両10の車速や駆動トルクを犠牲にすることなく(図2のグラフB,E参照)、その走行を継続できる。すなわち、第1の制御では、T/A温度が第1所定温度以上の場合にパラレル運転モードによる走行を促進して、T/A温度の上昇を抑制している。なお、このとき、発電出力やエンジン回転数は変化しているが(図2のグラフ図F,Gの<1>地点参照)、これはパラレル運転モードへ移行したことによるものであり、車速や駆動トルクには影響を及ぼさない。
【0038】
第1の制御を行った後、パラレル運転モードでの走行を継続していると、二次電池30の充電状態の指標であるSOC(図2のグラフCでは残充電量[%]で表記)が徐々に低下していく。SOCが低下していく様子は、図2のグラフ図C中に、地点bへ向かう右下がりの矢印で表記されている。SOCが、予め設定された第1所定値S1未満に低下した場合には、シリーズ運転モードに移行する第2の制御を行う。すなわち、パラレル運転モードでの走行によりSOCが第1所定値S1を下回ると、パラレル運転モードが禁止となりシリーズ運転モードに移行する。第1所定値S1は、車種や運転条件に応じて、例えば、10%、20%、30%等といった数値に設定できる。なお、同じく、このとき、発電出力やエンジン回転数は変化しているが(図2のグラフ図F,Gの<2>地点参照)、これはシリーズ運転モードへ移行したことによるものであり、車速や駆動トルクには影響を及ぼさない。
【0039】
つぎに、第2の制御を行った後、シリーズ運転モードでの走行を継続していると、二次電池30のSOCが回復していく。SOCが上昇していく様子は、図2のグラフ図C中に、地点cへ向かう右上がりの矢印で表記されている。そして、SOCが、第1所定値S1よりも高い値に設定された第2所定値S2以上に回復した場合は、T/A温度を低下させる制御を再開すべく、パラレル運転モードに移行する第3の制御を行う。すなわち、シリーズ運転モードでの走行によりSOCが第2所定値S2以上となると、シリーズ運転モードが禁止となりパラレル運転モードに移行する。パラレル運転モードに移行すると、その後はT/A温度が低下していく。SOCが低下していく様子は、図2のグラフ図C中に、地点dへ向かう右下がりの矢印で表記されている。なお、第2所定値S2は、車種や運転条件に応じて、例えば、70%、80%、90%等といった数値に設定できる。同じく、このとき、発電出力やエンジン回転数は変化しているが(図2のグラフ図F,Gの<3>地点参照)、これはパラレル運転モードへ移行したことによるものであり、車速や駆動トルクには影響を及ぼさない。
【0040】
その後、SOCの状況に応じて、第2の制御と第3の制御が交互に繰り返し行われる。ここで、図2のグラフ図Aに示すように、T/A温度は徐々に上昇していく。これは、シリーズ運転モード中におけるT/A温度の上昇量が、パラレル運転モード中のT/A温度の低下量を超えるため、トータルとしてT/A温度が上昇していくことによるものである。T/A温度が徐々に上昇していく様子は、図2のグラフ図A中に、地点eへ向かう右上がりの矢印で表記されている。
【0041】
第2の制御及び第3の制御のフローを図4に示す。第1の制御でパラレル運転モードに移行した後、ステップs18でSOCが判別される。SOCが第1所定値S1以上であれば(s18にてYes)ステップs19へ進み、パラレル運転モードが継続され、その後、ステップs18へ戻る。SOCが第1所定値S1未満であれば(s18にてNo)、ステップs20へ進みシリーズ運転モードへ移行する。続いて、ステップs21で再度SOCが判別される。SOCが第2所定値S2以上であれば(s21にてYes)ステップs22へ進み、パラレル運転モードへ移行してステップs18へ戻る。SOCが第2所定値S2未満であれば(s21にてNo)、ステップs23へ進みシリーズ運転モードをさらに継続する。
【0042】
第2の制御と第3の制御が交互に繰り返し行われる中で、その後、T/A温度が第1所定温度T1よりも高い温度に設定された第2所定温度T2以上になった場合は、シリーズ運転モードの下で、モータ4の駆動トルク、エンジン6の出力、又は、エンジン6の回転数を制限する第4の制御(出力制限制御)を行う。すなわち、第4の制御では、例えば、図2のグラフA中に符号eで示すように、T/A温度が第2所定温度T2(実施形態では、T2=140℃に設定)以上になると、シリーズ運転モードの下で、モータ4の駆動トルク、エンジン6の出力、エンジン6の回転数のいずれか、又は、それらの中から複数の項目、あるいは、全部の項目を所定の上限値未満に制限することで、T/A温度の低下を図る制御を行う。ここで、モータ4の駆動トルクとは、運転者のアクセル操作量に基づいて入力される要求トルクに対して、電子制御ユニット20が実際に制御を指令し実行されるトルクを意味する。第4の制御を行うことで、トランスアクスル1への負担が減少してT/A温度を低下できる。なお、第4の制御としてエンジン6の出力やエンジン6の回転数を制限する制御を行う場合、エンジン6の出力や回転数には上限値と下限値が設定され、その下限値以上、上限値未満の範囲内で運転が継続するように規制が行われる。T/A温度が第1所定温度T1を下回れば、これらの第4の制御は解除され、通常の運転モードに復帰する。
【0043】
第4の制御のフローを図5に示す。第3の制御の後のシリーズ運転モードが継続中に、ステップs24でT/A温度が判別される。T/A温度が第2所定温度T2以上であれば(s24にてYes)ステップs25へ進み、出力制限制御を行う。また、T/A温度が第2所定温度T2未満であれば(s24にてNo)ステップs27へ進み、さらに、T/A温度が第1所定温度T1未満であれば(s27にてNo)、温度低減の必要性が減少しているので、ステップs30へ進んで制御を終了する。また、ステップs27でT/A温度が第1所定温度T1以上であれば(s27にてYes)、ステップs28へ進みシリーズ運転モードを継続するとともに、ステップs29でT/A温度が第2所定温度T2以上となった場合は(s29にてYes)、ステップs25へ進んで出力制限制御を行う。ステップs25の出力制限制御によって、T/A温度が第1所定温度T1未満になれば(s26にてYes)、ステップs30へ進んで制御を終了する。なおも、T/A温度が第1所定温度T1以上であれば(s26にてNo)、ステップs25へ戻って出力制限制御を継続する。
【0044】
上記の実施形態では、温度検出手段34として温度センサを採用し、トランスアクスル1内の作動油又は潤滑油の温度を検出するようにしているが、温度検出手段34は、トランスアクスル1内の温度を検出するものであれば他の手段を用いてもよい。例えば、トランスアクスル1内のギヤ等の部材の温度を検出するセンサ等を用いてもよい。
【0045】
また、上記の実施形態では、車両10を、前輪を駆動輪8としたFF方式のハイブリッド車としているが、これを、後輪を駆動輪8としたFR方式、又は、前後輪を駆動輪8とした4WD方式車としてもよい。また、上記の実施形態では、車両10をプラグインハイブリッドカー(PHEV:外部充電又は外部給電が可能なプラグインハイブリッド)として、二次電池30から外部への給電機能を備えたものとしているが、車両10はプラグインハイブリッドカーには限定されず、他の形式からなるハイブリッド車であってよい。
【0046】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0047】
なお、本出願は、2021年6月8日出願の日本特許出願(特願2021-095806)に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。
【符号の説明】
【0048】
1 トランスアクスル
2 ポンプ
3 クラッチ
4 モータ(電動機)
5 ジェネレータ(発電機)
6 エンジン
8 駆動輪
21 制御部
30 二次電池
図1
図2
図3
図4
図5