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特許7401027ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物および成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物および成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20231212BHJP
   C08L 25/12 20060101ALI20231212BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20231212BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20231212BHJP
   C08G 63/183 20060101ALI20231212BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
C08L67/02
C08L25/12
C08K3/013
C08L23/00
C08G63/183
C08J5/00 CFD
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023532474
(86)(22)【出願日】2023-05-23
(86)【国際出願番号】 JP2023019088
【審査請求日】2023-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2022098615
(32)【優先日】2022-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田邉 純樹
(72)【発明者】
【氏名】東城 裕介
(72)【発明者】
【氏名】梅津 秀之
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/020208(WO,A1)
【文献】特開平1-234419(JP,A)
【文献】特開2007-131692(JP,A)
【文献】特開2007-119645(JP,A)
【文献】特開2006-257338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/02
C08L 25/12
C08K 3/013
C08L 23/00
C08G 63/183
C08J 5/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールがテレフタル酸100モル%に対して0.1~2.0モル%化合したポリブチレンテレフタレート樹脂(A)(以下、「成分(A)」ということがある)と、成分(A)100重量部に対して、アクリロニトリル-スチレン共重合系樹脂(B)(以下、「成分(B)」ということがある)1~100重量部とが配合されたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であって、下記条件(i)を満たすポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
条件(i):ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物単位重量に含まれる、成分(A)に化合した前記炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールの残基の量(a)(モル)と、成分(B)中のシアノ基の量(b)(モル)の比((b)/(a))が5以上である。
【請求項2】
前記脂肪族アルコールの炭素数が16以上36以下である、請求項1に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
前記脂肪族アルコールは、その炭素数が16以上36以下であって、かつ、その炭素鎖において分岐構造を有する飽和脂肪族アルコールである、請求項1または2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
成分(A)100重量部に対し、さらに無機充填材(C)1~100重量部を配合してなる請求項1~3のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項5】
成分(A)100重量部に対し、さらにポリオレフィン樹脂(D)(以下、「成分(D)」ということがある)1~50重量部を配合してなる請求項1~4のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項6】
成分(D)の配合量に対する成分(B)の配合量の比(成分(B)の配合量(重量部)/成分(D)の配合量(重量部))が1より大きく15未満である請求項5に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を溶融成形してなる成形品。
【請求項8】
レドームとして用いられる、請求項7に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物およびそれを成形してなる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステル樹脂は、その優れた射出成形性や機械物性などの諸特性を生かし、機械機構部品、電気・電子部品および自動車部品などの幅広い分野に利用されている。
【0003】
さらに近年、周波数が1GHz帯以上の高周波を利用した高速通信規格に基づいた携帯用通信末端や自動車用ミリ波センサーなどの高周波伝送部品への適用に対して、比誘電率や誘電正接を低減した材料が求められている。高周波伝送部品の材料において、特に誘電正接が高いと、高周波信号と材料が接した場合に高周波が熱に変換されてしまうため、信号強度の低下により通信距離などの通信精度が低下する現象が起こり、課題となっている。
【0004】
熱可塑性ポリエステル樹脂の一種であるポリブチレンテレフタレート樹脂は加工性、機械物性ならびに耐熱性に優れ、高周波伝送部品に適応する材料として注目されている。ポリブチレンテレフタレート樹脂の誘電損失を低減する方法として、特定の脂肪族アルコールを導入することで、高周波下でエネルギー損失の大きい水酸基を低減し、これにより誘電損失を低減する方法が開示されており、その製造方法としてポリブチレンテレフタレート樹脂の重合工程における、テレフタル酸とブタンジオールのエステル化工程で、炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールを添加する方法が開示されている。(特許文献1)
一方、近年の高周波伝送部品に要求される特性は、低誘電正接だけではなく、さらに多岐に渡る。例えば、自動車部品の一つである、衝突回避などを目的としたミリ波レーダーを保護するためのレドーム材には、加工性に優れたポリブチレンテレフタレートなどの熱可塑性ポリエステル樹脂を用いることができるが、レーダーの電波を減衰なく透過させるための低誘電正接とロバスト性(外的要因によって性能などが変化しない性質)が必要とされる。ミリ波レーダーが設置される箇所はエンジンルーム近傍などの高温・多湿な環境であるため、レドーム材には特に、このような環境化において性質が変化しない特性が求められる。レドームに使用される材料として、例えば特許文献2には、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と、ガラス転移温度が100℃以上である(B)環状オレフィンから構成されるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2021/020208号
【文献】特開2013-43942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された方法は、高周波帯の誘電正接が低下する効果が示されているものの、その効果を高温・多湿環境下において維持することが困難であって、誘電特性の安定性ならびに耐候性が不十分である課題があった。
【0007】
さらに、特許文献2に開示された方法は、誘電正接を小さくすることに一定の効果はあるものの、高温・多湿環境下における誘電特性の安定性に課題があった。
【0008】
本発明は、1GHz以上の高周波帯における誘電正接が小さく、高温・多湿環境下においても誘電特性が維持され、耐候性が向上したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物およびその成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記した課題を解決するために検討を重ねた結果、特定量の脂肪族アルコール成分が化合されたポリブチレンテレフタレート樹脂とアクリロニトリル-スチレン共重合系樹脂を配合してなる樹脂組成物であって、組成物中の脂肪族アルコール残基の量とシアノ基の量との比を制御することによって、上記した課題を解決できることを見出し、本発明に達した。すなわち本発明は、以下の構成を有する。
[1]炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールがテレフタル酸100モル%に対して0.1~2.0モル%化合したポリブチレンテレフタレート樹脂(A)(以下、「成分(A)」ということがある)と、成分(A)100重量部に対して、アクリロニトリル-スチレン共重合系樹脂(B)(以下、「成分(B)」ということがある)1~100重量部とが配合されたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であって、下記条件(i)を満たすポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
条件(i):ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物単位重量に含まれる成分(A)に化合した炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールの残基の量(a)(モル)と、成分(B)中のシアノ基の量(b)(モル)の比((b)/(a))が5以上である。
[2]前記脂肪族アルコールの炭素数が16以上36以下である、[1]に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[3]前記脂肪族アルコールは、その炭素数が16以上36以下であって、かつ、その炭素鎖において分岐構造を有する飽和脂肪族アルコールである、[1]または[2]に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[4]成分(A)100重量部に対し、さらに無機充填材(C)1~100重量部を配合してなる[1]~[3]のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[5]成分(A)100重量部に対し、さらにポリオレフィン樹脂(D)(以下、「成分(D)」ということがある)1~50重量部を配合してなる[1]~[4]のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[6]成分(D)の配合量に対する成分(B)の配合量の比(成分(B)の配合量(重量部)/成分(D)の配合量(重量部))が1より大きく15未満である[5]に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[7][1]~[6]のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を溶融成形してなる成形品。
[8]レドームとして用いられる、[7]に記載の成形品。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物によれば、高温・多湿環境下において、誘電特性が安定し、耐候性が向上した成形品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物について、詳細に説明する。
【0012】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールがテレフタル酸100モル%に対して0.1~2.0モル%化合したポリブチレンテレフタレート樹脂(A)と、該ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対して、アクリロニトリル-スチレン共重合系樹脂(B)1~100重量部が配合されてなり、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物単位重量に含まれる、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)に化合した前記炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールの残基の量(モル)と前記アクリロニトリル-スチレン共重合系樹脂(B)中のシアノ基の量(モル)の比(アクリロニトリル-スチレン共重合系樹脂(B)中のシアノ基の量/ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)に化合した前記炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールの残基の量)が5以上であることを特徴とする。なおここで、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)に用いられるブタンジオールとしては通常1,4-ブタンジオールが用いられる。
【0013】
テレフタル酸とブタンジオールとから得られるポリブチレンテレフタレート樹脂は、末端に存在するブタンジオール由来の水酸基の運動によって誘電損失が起こるため、誘電正接を下げることが困難である。そこで本発明では、炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールが、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を構成するテレフタル酸由来の構造単位(すなわち、テレフタロイル基)100モル%に対して0.1~2.0モル%化合せしめることによって、分子末端の水酸基が封鎖され、分子運動を抑制する効果により低誘電正接とすることができる。一方、高温・多湿の環境下においては、エステル結合の切断が進行して低分子量化するだけではなく、化合した脂肪族アルコール部位の脱離が進行することによって、誘電特性が安定しない問題、すなわち、耐候性の問題があった。これに対して、本発明では、成分(A)に対して成分(B)を特定量配合することで、成分(B)中のシアノ基が成分(A)中の前記炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールに由来する構造部に特異的に作用し、高温・多湿環境下において成分(A)中の脂肪族アルコール部位の分解や脱離を抑制することが可能となり、高温・多湿環境下において、誘電特性が安定し、耐候性が向上することを新たに見出した。以下、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を構成する各成分について詳細に説明する。
【0014】
本発明に用いるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)は、テレフタル酸とブタンジオールとが縮重合されて得られる構造を主構造単位とし、さらに炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールの残基がテレフタル酸100モル%に対して0.1~2.0モル%化合された重合体である。ここで、「主構造単位」とは、ジカルボン酸に由来する構造のうちテレフタル酸に由来する構造が50モル%以上占め、かつ、ジオールに由来する構造のうちブタンジオールに由来する構造が50モル%以上占めている状態を指し、それぞれは80モル%以上占めていることが好ましく、さらにはそれぞれが90モル%以上占めていることが好ましい態様である。すなわち、上記の限りにおいて、共重合可能な他のモノマーが共重合されたものであってもよい。なお、共重合体でなくても差し支えない。共重合可能なモノマーとしては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、ビス(p-カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体や、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、ダイマージオールなどの炭素数2~20の脂肪族または脂環式グリコール、ポリエチレングリコール、ポリ-1,3-プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの分子量200~100000の長鎖グリコール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t-ブチルハイドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどの芳香族ジオキシ化合物およびこれらのエステル形成性誘導体などジオール化合物などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0015】
本発明に用いられる炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールは、炭素原子および水素原子からなる炭化水素基を主骨格とし、水酸基を一つ有する単官能のアルコールであり、炭素原子が鎖状につながった構造において直鎖もしくは分岐、環状構造を有していてよい。その例として、デシル基(C10)、ウンデシル基(C11)、ドデシル基(C12)、トリデシル基(C13)、テトラデシル基(C14)、ペンタデシル基(C15)、ヘキサデシル基(C16)、ヘプタデシル基(C17)、オクタデシル基(C18)、ノナデシル基(C19)、イコシル基(C20)、ヘンイコシル基(C21)、ドコシル基(C22)、トリコシル基(C23)、テトラコシル基(C24)、ペンタコシル基(C25)、ヘキサコシル基(C26)、ヘプタコシル基(C27)、オクタコシル基(C28)、トリアコンチル基(C30)、テトラコンチル基(C40)などの直鎖の飽和脂肪族基を有するアルコール化合物、ブチルヘキシル基(C10)、ブチルオクチル基(C12)、ヘキシルオクチル基(C14)、ヘキシルデシル基(C16)、オクチルデシル基(C18)、ヘキシルドデシル基(C18)、トリメチルブチルトリメチルオクチル基(C18)、ブチルテトラデシル基(C18)、ヘキシルテトラデシル基(C20)、オクチルテトラデシル基(C22)、オクチルヘキサデシル基(C24)、デシルテトラデシル基(C24)、ドデシルテトラデシル基(C26)、ドデシルヘキサデシル基(C28)、ドデシルヘキサデシル基(C28)、テトラデシルオクタデシル基(C32)、ヘキサデシルイコサシル基(C36)などの分岐を有する飽和脂肪族基を有するアルコール、パルミトレイル基(C16)、オレイル基(C18)、リノレイル基(C18)、エルシル基(C22)などの不飽和脂肪族基を有するアルコールが挙げられる。ここで、上記において「C」の後に記載されたた数字はその基に含まれる炭素の数を表す。これらの中で、色調の点から直鎖や分岐を有する飽和脂肪族基が好ましく、成分(B)との相溶性が向上し、高温・多湿環境下において、誘電特性が安定し、耐候性が向上する観点から、分岐を有する飽和脂肪族基であることが好ましい。脂肪族基の炭素数は10以上50以下であることで流動性の向上効果が得られ、さらに流動性を向上できる点で、炭素数の下限は16以上であることが好ましく、20以上であることがさらに好ましい。炭素数の上限は36以下であることが好ましく、30以下であることがさらに好ましい。
【0016】
成分(A)は、炭素数が16以上36以下の分岐を有する飽和脂肪族基を分子末端に有していることが好ましく、その官能基濃度が0.005mmol/g以上0.20mmol/g未満であることが好ましい。炭素数が16以上36以下の分岐を有する飽和脂肪族基の官能基濃度が0.005mmol/g以上であれば流動性および誘電特性を向上できるため好ましく、より好ましくは0.010mmol/g以上、さらに好ましくは0.020mmol/g以上である。一方、炭素数が16以上36以下の分岐を有する飽和脂肪族基の官能基濃度が0.20mmol/g未満であれば、機械物性や耐熱性を向上することができるため好ましく、より好ましくは0.18mmol/g未満であり、さらに好ましくは0.15mmol/g未満である。
【0017】
本発明において、成分(A)の分子末端に存在する脂肪族基の官能基濃度は、重ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒としてH-NMRによって測定した末端基由来のピークの積分比により求めた値である。
【0018】
成分(A)は、成分(B)との相溶性を高め、高温・多湿環境下において、誘電特性が安定し、耐候性が向上する観点から、炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールが、テレフタル酸100モル%に対して、0.1~2.0モル%化合したポリブチレンテレフタレート樹脂(A)である。成分(B)との相溶性をさらに高める観点から、炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールがテレフタル酸100モル%に対して化合する量は、0.5モル%以上が好ましく、0.7モル%以上がより好ましい。また、1.8モル%以下が好ましく、1.6モル%以下がより好ましい。
【0019】
成分(A)においては水酸基濃度が0.050mmol/g以下であることが好ましい。水酸基濃度は、高温・多湿環境下において誘電特性が安定する観点から、より好ましくは0.040mmol/g以下、さらに好ましくは0.030mmol/g以下、さらに好ましくは0.020mmol/g以下である。なお、水酸基濃度の下限は0mmol/gである。成分(A)の水酸基濃度は、重ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒としてH-NMRによって測定した末端基由来のピークの積分比により求めた値である。
【0020】
成分(A)においては、高温・多湿環境下において誘電特性が安定する観点から、カルボキシル基濃度が0.070mmol/g以下であることが好ましい。成分(A)のカルボキシル基濃度は、好ましくは0.060mmol/g以下であり、より好ましくは0.50mmol/g以下である。成分(A)のカルボキシル基濃度の下限値は、0mmol/gである。ここで、成分(A)のカルボキシル基濃度は、成分(A)をo-クレゾール/クロロホルム溶媒に溶解させた後、エタノール性水酸化カリウムで滴定し、測定した値である。
【0021】
成分(A)の融点は180℃以上であることが好ましい。融点が180℃以上であることで、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の高温・多湿環境下において誘電特性を安定させることができる。融点は耐熱性の点で、好ましくは190℃以上であり、より好ましくは200℃以上、さらに好ましくは210℃以上である。成分(A)の融点は、DSC(示差走査熱量測定)にて、25℃から20℃/minで昇温した時に得られる吸熱融解ピークのピーク温度の値である。
【0022】
成分(A)は、高温・多湿環境下において誘電特性を安定させる点で、重量平均分子量(Mw)が8,000以上であることが好ましい。成分(A)の重量平均分子量(Mw)は、より好ましくは9,000以上、さらに好ましくは10,000以上である。また、成分(A)の重量平均分子量(Mw)が500,000以下の場合、流動性が向上するため、好ましい。成分(A)の重量平均分子量(Mw)は、より好ましくは300,000以下であり、さらに好ましくは250,000以下である。本発明において、成分(A)の重量平均分子量(Mw)は、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを用いてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリメチルメタクリレート(PMMA)換算の値である。
【0023】
成分(A)は、高温・多湿環境下において誘電特性を安定させる点で、固有粘度(IV)が0.6dl/g以上であることが好ましい。成分(A)の固有粘度は、より好ましくは0.65dl/g以上、さらに好ましくは0.7dl/g以上である。また、成分(A)の固有粘度が2dl/g以下の場合、流動性が向上するため、好ましい。成分(A)の固有粘度は、より好ましくは1.7dl/g以下であり、さらに好ましくは1.4dl/g以下である。本発明において、成分(A)の固有粘度は、オルトクロロフェノールを溶媒にし、25℃における測定により求められる値である。
【0024】
成分(A)の23℃で円筒型空洞共振器摂動法にて測定した5.8GHzでの誘電正接は、0.0060以下であることが好ましい。この誘電正接が0.0060以下であれば、誘電損失を低減することができ、高周波信号の劣化を抑えることができるため、アンテナの利得やレーダーの精度などに優れるため、特にアンテナを保護するレドーム材に好適に用いられる。より好ましくは0.0055以下であり、さらに好ましくは0.0050以下である。
【0025】
成分(A)の誘電正接は、自由空間Sパラ法、コルゲート円形導波管Sパラ法などのSパラメータ法や平衡型円板共振器法、ファブリーペロー開放型共振器法、スプリットシリンダー空洞共振器法、スプリットポスト誘電体共振器法、円筒型空洞共振器摂動法、遮断円筒導波管法などの空洞共振法から求められるが、測定値の精度の観点から、本発明においては空洞共振法により求めた値により定義する。また、本発明においては、空洞共振法のうち円筒型空洞共振器摂動法により求めた値を用いる。
【0026】
本発明に用いるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を得るにあたり、ポリブチレンテレフタレートの調製には公知の重縮合法や開環重合法を用いることができ、重縮合を進めながら水酸基を低減する方法(重縮合反応による製造方法)や、固相重合法によって水酸基を低減する方法(固相重合による製造方法)を用いることができる。重縮合反応による製造方法としてはバッチ重合および連続重合のいずれでもよく、また、エステル交換反応および直接重合による反応、ならびに直接重合による反応のいずれでも適用することができるが、水酸基を低減する観点からはバッチ重合が好ましく、また、直接重合がより好ましく用いられる。
【0027】
また、成分(A)の製造においては、テレフタル酸とブタンジオールを混合してスラリーを形成する工程、触媒溶液を調製する工程、エステル化後の反応物を金属製のメッシュ等からなるフィルターにてフィルタリングする工程、溶融樹脂を水浴に吐出しストランドカッターなどでカッティングする工程など、エステル化反応と重縮合反応以外の公知のポリエステル樹脂の製造工程を含んでいてもよい。
【0028】
重縮合反応による製造方法の場合は、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体とを、エステル化反応またはエステル交換反応し、次いで重縮合反応する過程において、炭素数10以上50以下の脂肪族アルコールをエステル化反応、エステル交換反応、および重縮合反応から選択されるいずれかの任意の段階で加えることにより製造することができる。特に誘電特性に優れる樹脂が得られる点で、炭素数10以上50以下の脂肪族アルコールをエステル化反応、エステル交換反応のいずれかの任意の段階で加えることにより製造することが好ましい。
【0029】
また、成分(A)を得るにあたっては、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体の水酸基と反応可能な化合物(以下、「水酸基封鎖剤」と表す場合がある)を成分(A)の製造工程におけるエステル交換反応、もしくは重縮合反応の任意の段階で加えることにより、成分(A)の水酸基濃度を低減することができる。前述の通り、水酸基濃度を低減することにより、高温・多湿環境下において誘電特性を安定させることができる。水酸基封鎖剤は、成分(A)中のフリーな水酸基量を低減することができ、そのようなものとしては、例えば、単官能のカルボン酸や酸無水物、イソシアネート化合物などが挙げられる。
【0030】
単官能のカルボン酸としては、例えば酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、シクロヘキサンカルボン酸などの炭素数1~50の脂肪族カルボン酸または脂環式カルボン酸、安息香酸、トルイル酸、ナフトエ酸、アントラセンカルボン酸、フェニル安息香酸、クロロ安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、フタル酸などの炭素数1~50の芳香族カルボン酸が挙げられる。
【0031】
酸無水物としては、例えば上記のカルボン酸化合物を脱水縮合した無水酢酸や無水安息香酸などの酸無水物が挙げられる。
【0032】
イソシアネート化合物としては、フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ナフチルイソシアネート、フェニレンジイソシアナート、ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシネートなどの化合物が挙げられる。
【0033】
本発明においては、成分(A)のエステル化反応および重縮合反応のいずれかの工程において、フェノール系酸化防止剤をさらに添加することが脂肪族アルコール化合物の熱分解を抑制し、ポリブチレンテレフタレート樹脂の水酸基末端をより低減できる点で好ましい。
【0034】
本発明に好適に用いられるフェノール系酸化防止剤としては、t-ブチル基を有するフェノール化合物であり、具体的にはトリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホネート ジエチルエステル、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビスもしくはトリス(3-t-ブチル-6-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマミド)、N,N’-トリメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマミド)などが挙げられる。
【0035】
フェノール系酸化防止剤の添加量は、成分(A)100重量部に対して、0.01~0.20重量部が好ましい。ポリブチレンテレフタレート樹脂の水酸基末端を低減できる点で、より好ましくは0.02重量部以上であり、さらに好ましくは0.03重量部以上である。フェノール系酸化防止剤の添加量の上限は、分子量を向上できる点でより好ましくは0.15重量部以下であり、より好ましくは0.10重量部以下である。
【0036】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂(A)のエステル化反応および重縮合反応を効果的に進めるために、これらの反応時に重合反応触媒を添加することが好ましい。重合反応触媒の具体例としては、チタン酸のメチルエステル、テトラ-n-プロピルエステル、テトラ-n-ブチルエステル、テトライソプロピルエステル、テトライソブチルエステル、テトラ-tert-ブチルエステル、シクロヘキシルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステル、トリルエステルあるいはこれらの混合エステルなどの有機チタン化合物、ジブチルスズオキシド、メチルフェニルスズオキシド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキシド、シクロヘキサヘキシルジスズオキシド、ジドデシルスズオキシド、トリエチルスズハイドロオキシド、トリフェニルスズハイドロオキシド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキシド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸などのアルキルスタンノン酸などのスズ化合物、ジルコニウムテトラ-n-ブトキシドなどのジルコニア化合物、三酸化アンチモンおよび酢酸アンチモンなどのアンチモン化合物などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0037】
これらの重合反応触媒の中でも、有機チタン化合物およびスズ化合物が好ましく、チタン酸のテトラ-n-ブチルエステル(TBT)がさらに好ましく用いられる。重合反応触媒の添加量は、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対して、0.01~0.2重量部の範囲が好ましい。重合反応触媒の添加量は0.01重量部以上であれば重合を短時間で完結できるため好ましく、より好ましくは0.03重量部以上であり、さらに好ましくは0.04重量部以上である。一方、重合反応触媒の添加量は0.2重量部以下であれば色調を向上できることから好ましく、より好ましくは0.15重量部以下であり、さらに好ましくは0.1重量部以下である。
【0038】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対して、アクリロニトリル-スチレン共重合系樹脂(B)が1~100重量部配合されてなり、さらに、下記の条件(i)を充たす。
【0039】
条件(i):ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物単位重量に含まれる、成分(A)に化合した前記炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールの残基の量(a)(モル)と、成分(B)中のシアノ基の量(b)(モル)の比((b)/(a))が5以上である。
【0040】
条件(i)において、「単位重量」は上記のモル比((b)/(a))を求めることができる量であれば、任意に定めることができる。
【0041】
成分(A)に化合する脂肪族アルコールは、前述したとおり、成分(A)の誘電正接を下げることに効果があるが、高温・多湿環境下においては、脂肪族アルコール部位の脱離が促進され、誘電正接が安定せず、また成形品の表面に脱離した脂肪族アルコールに由来する成分がブリードアウトして耐候性が悪化する課題があった。本発明者らはかかる課題に対して鋭意検討を進め、成分(B)を、成分(A)100重量部に対して1~100重量部配合するとともに、前記条件(i)が充たされる組成物とすることで、成分(B)のシアノ基が成分(A)の脂肪族アルコール部位に特異的に作用し、前記課題を解消できることを見出した。成分(B)のシアノ基は炭素原子と窒素原子が三重結合で結合したニトリルとも呼ばれる官能基であり、適度に分極した構造であるため、成分(A)の脂肪族アルコール部位に作用しやすい。一方、フェニル基などと比較して分子半径は小さいため、配合量を前記した範囲とすることで、成分(A)に対して良く分散し、成分(B)中のシアノ基が脂肪族アルコール部位を効果的に作用して捕捉・安定化することができる。
【0042】
成分(A)中において良く分散し、高温・多湿環境下において、誘電特性が安定し、耐候性が向上する観点から、成分(A)100重量部に対する成分(B)の配合量は、20重量部以上が好ましく、27重量部以上がさらに好ましく、35重量部以上が最も好ましい。また、成分(A)100重量部に対する成分(B)の配合量は、80重量部以下が好ましく、75重量部以下がさらに好ましく、70重量部以下がさらに好ましい。ただし、条件(i)が充たされる必要がある。
【0043】
前記条件(i)におけるモル比(b)/(a)は、高温・多湿環境下において、誘電特性が安定し、耐候性が向上する観点から、10以上が好ましく、15以上がさらに好ましく、20以上が最も好ましい。また、前記条件(i)におけるモル比(b)/(a)は、65以下が好ましく、50以下がさらに好ましく、40以下が最も好ましい。
【0044】
成分(B)は、アクリロニトリルとスチレンとを用いて得られるビニル樹脂であって、成分(B)の全構造単位中、アクリロニトリルとスチレン由来の構造単位の合計が95重量%以上であるビニル樹脂であることが好ましい。また、成分(B)におけるスチレンとアクリロニトリルの共重合比率に特に制限はないが、両者の合計を100重量%としたとき、スチレン50~99重量%、アクリロニトリル50~1重量%であることが好ましい。
【0045】
また、成分(B)は、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、アクリロニトリルとスチレン以外のモノマーが用いて共重合がされたものであってもよく、そのようなモノマーとして、例えば、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、ブタジエン、マレイミド、N-フェニルマレイミド、イソプレン、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジルなどの不飽和有機酸のグリシジルエステル類、アリルグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル類および2-メチルグリシジルメタクリレートなどの上記の誘導体類が挙げられる。これらは単独ないし2種以上を組み合わせて使用することができる。中でも、成分(A)と成分(B)の相溶性を高め、誘電正接の安定性を高め、耐候性が向上する観点から、成分(B)は、アクリロニトリルとスチレン以外の構造単位として、メタクリル酸グリシジルを用いて得る構造単位を成分(B)の重量対比で5重量%未満、さらに好ましくは3重量%未満、最も好ましくは1重量%未満含むことが好ましい。
【0046】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、構成する構造単位が異なる成分(B)を2種以上組み合わせて使用することができる。
【0047】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、成分(A)100重量部に対して、さらに無機充填材(C)1~100重量部を含むことが好ましい。無機充填材(C)を配合することにより、誘電正接の安定性を高め、耐候性を向上させることができ、機械強度も向上することができる。
【0048】
無機充填材(C)の配合量は、強度と耐熱性の観点から、10重量部以上が好ましく、20重量部以上がより好ましく、25重量部以上がさらに好ましい。また、流動性と成形性の観点から、90重量部以下が好ましく、80重量部以下がより好ましい。
【0049】
前記の無機充填材(C)の具体例としては、例えば、繊維状、ウィスカー状、針状、粒状、粉末状または層状の無機充填材が挙げられ、具体的には、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維や液晶性ポリエステル繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、硫酸カルシウムウィスカー、針状酸化チタン、ガラスビーズ、ミルドファイバー、ガラスフレーク、ワラステナイト、シリカ、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムの混合物、微粉ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、酸化ケイ素、スメクタイト系粘土鉱物(モンモリロナイト、ヘクトライト)、バーミキュライト、マイカ、フッ素テニオライト、燐酸ジルコニウム、燐酸チタニウム、およびドロマイトなどが挙げられる。本発明に使用する上記の無機充填材は、その表面が公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理されていてもよい。また、本発明に使用する上記の無機充填材は、2種以上を併用してもよい。
【0050】
無機充填材(C)は、特に機械強度、耐熱性の点からガラス繊維が好ましい。ガラス繊維としては、チョップドストランドタイプやロービングタイプのガラス繊維であり、その表面をアミノシラン化合物やエポキシシラン化合物などのシランカップリング剤および/またはウレタン、アクリル酸/スチレン共重合体などのアクリル酸からなる共重合体、アクリル酸メチル/メタクリル酸メチル/無水マレイン酸共重合体などの無水マレイン酸からなる共重合体、酢酸ビニル、ビスフェノールAジグリシジルエーテルやノボラック系エポキシ化合物などの1種以上のエポキシ化合物などを含有した集束剤で処理されたガラス繊維が好ましく用いられる。
【0051】
無機充填材(C)は、成分(A)との反応性に優れる観点で、エポキシ化合物などを含有した集束剤で処理されたガラス繊維が特に好ましい。シランカップリング剤および/または集束剤はエマルジョン液に混合されて使用されていてもよい。また、繊維状強化材の繊維径は通常1~30μmの範囲が好ましい。ガラス繊維の繊維径の下限値は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中の分散性の観点から、好ましくは5μmである。ガラス繊維の繊維径の上限値は、機械強度の観点から、好ましくは15μmである。また、ガラス繊維の断面は通常円形状であるが、任意の縦横比の楕円形ガラス繊維、扁平ガラス繊維およびまゆ型形状ガラス繊維など任意な断面を持つ繊維状強化材を用いることもでき、射出成形時の流動性向上と、反りの少ない成形品が得られる特徴がある。また、ガラス繊維の種類としては一般に樹脂の強化材として用いるものであれば特に限定はないが、機械特性、耐熱性に優れるEガラスや、低誘電性に優れる低誘電ガラスが好ましい。
【0052】
また、本発明で用いられる無機充填材(C)として、上記のガラス繊維以外に例えばミルドファイバー、ガラスフレーク、カオリン、タルクおよびマイカを用いた場合は、異方性低減に効果があるため反りの少ない成形品が得られる。また、滞留安定性をより向上させる目的では、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムの混合物、微粉ケイ酸、ケイ酸アルミニウムおよび酸化ケイ素が用いられる。
【0053】
粒状、粉末状および層状の無機充填材の平均粒径は、衝撃強度の点から0.1~20μmであることが好ましい。無機充填材の樹脂中での分散性の観点から、平均粒径は特に0.2μm以上であることが好ましく、機械強度の観点から10μm以下であることが好ましい。
【0054】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、さらにポリブチレンテレフタレート樹脂成分(A)100重量部に対して、ポリオレフィン樹脂(D)(以下、「成分(D)」ということがある)を配合することが好ましい。成分(D)を配合することで、高温・多湿環境下において、成分(A)の脂肪族アルコール部位の脱離をさらに抑制することができ、高温・多湿環境下において、誘電特性が安定し、耐候性が向上する。
【0055】
ポリオレフィン樹脂(D)は、エチレン、プロピレン、ブテン、イソプレン、ペンテンなどのオレフィン由来の構造単位を必ず含んでいる熱可塑性樹脂である。好ましく係るオレフィン由来の構造単位は全構造単位の50モル%以上である。具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリ-1-ペンテン、ポリメチルペンテンなどのオレフィンの単独重合体、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/プロピレン/非共役ジエン共重合体、エチレン/ブテン-1共重合体、エチレン/メチルアクリレート共重合体、エチレン/エチルアクリレート共重合体、エチレン/ブチルアクリレート共重合体、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン/ブテン-1/グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン/プロピレン/グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン/オクテン-1/グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン/アクリル酸エステル/グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン/無水マレイン酸共重合体、エチレン/ブテン-1/無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/無水マレイン酸共重合体、エチレン/アクリル酸エステル/無水マレイン酸共重合体などのオレフィンを共重合成分とする重合体が挙げられる。これら単独ないしは2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0056】
成分(A)に対する分散性に優れ、高温・多湿環境下において、誘電特性が安定し、耐候性が向上する観点から、成分(D)は、エチレンが共重合されたポリオレフィン樹脂であることが好ましく、中でも、エチレン/メチルアクリレート共重合体、エチレン/エチルアクリレート共重合体、エチレン/ブチルアクリレート共重合体のいずれかであることが好ましい。
【0057】
成分(D)は、成分(A)100重量部に対して、1~50重量部配合していることが好ましい。成分(A)への分散性に優れ、高温・多湿環境下において、誘電特性が安定し、耐候性が向上する観点から、成分(D)の配合量は、成分(A)100重量部に対して、5重量部以上がより好ましく、10重量部以上がさらに好ましい。また、成分(D)の配合量は、成分(A)100重量部に対して、35重量部以下がより好ましく、30重量部以下がさらに好ましく、20重量部以下がさらに好ましい。
【0058】
成分(A)中の脂肪族アルコール部位の脱離をさらに抑制することができ、高温・多湿環境下において、誘電特性が安定し、耐候性が向上するため、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中における、成分(D)の配合量に対する成分(B)の配合量の比(成分(B)の配合量(重量部)/成分(D)の配合量(重量部))は、1より大きく15未満とすることがとなることが好ましい。分散性がさらに向上することから、この配合量の比の下限としては1.5以上とすることが好ましく、2以上とすることがさらに好ましい。また、この配合量の比の上限としては10以下とすることが好ましく、7以下とすることがさらに好ましい。
【0059】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、難燃剤、離型剤、顔料、染料および帯電防止剤などの任意の添加剤を配合することができる。
【0060】
難燃剤としては、例えば、リン系難燃剤、臭素系難燃剤などのハロゲン系難燃剤、トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌル酸との塩、シリコーン系難燃剤および無機系難燃剤などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。
【0061】
難燃剤の配合量は、成分(A)100重量部に対し、1~50重量部が好ましい。配合量は、難燃性の観点から、下限としては5重量部以上とすることがより好ましく、耐熱性の観点から上限としては40重量部以下とすることがより好ましい。
【0062】
離型剤としては、例えばモンタン酸やステアリン酸などの高級脂肪酸エステル系ワックス、ポリオレフィン系ワックス、エチレンビスステアロアマイド系ワックスなどが挙げられる。離型剤を配合することで溶融加工時に金型からの離型性をよくすることができる。
【0063】
離型剤の配合量は、成分(A)100重量部に対し、0.01~1重量部が好ましい。配合量は、離型性の観点から、下限としては0.03重量部以上とすることがより好ましく、耐熱性の観点から上限としては0.6重量部以下とすることがより好ましい。
【0064】
顔料や染料を1種以上配合することにより、種々の色に調色することや、耐候(光)性および導電性を改良することも可能である。顔料としては、例えばカーボンブラックや酸化チタンなどが挙げられる。
【0065】
顔料や染料の配合量は、成分(A)100重量部に対し、0.01~3重量部が好ましい。配合量は、着色ムラ防止の観点から、下限としては0.03重量部以上とすることがより好ましく、機械強度の観点から上限としては1重量部以下とすることがより好ましい。
【0066】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を製造する方法としては、例えば、成分(A)と成分(B)と、必要に応じて各種添加剤を予備混合して、溶融混練機に供給して溶融混練する方法、あるいは、重量フィダーなどの定量フィダーを用いて各成分を所定量溶融混練機に供給して溶融混練する方法などが挙げられる。溶融混練機としては、例えば“ユニメルト”あるいは“ダルメージ”タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸押出機、三軸押出機、コニカル押出機およびニーダータイプの混練機などを用いることができる。
【0067】
上記の予備混合の例として、ドライブレンドする方法や、タンブラー、リボンミキサーおよびヘンシェルミキサー等の機械的な混合装置を用いて混合する方法などが挙げられる。また、無機充填材(C)は、二軸押出機などの多軸押出機の元込め部とベント部の途中にサイドフィーダーを設置して添加してもよい。また、液体の添加剤の場合は、二軸押出機などの多軸押出機の元込め部とベント部の途中に液添ノズルを設置してプランジャーポンプを用いて添加する方法や、元込め部などから定量ポンプで供給する方法などを用いてもよい。
【0068】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、ペレット化して、成形加工に供することが好ましい。ペレット化の方法として、溶融混練機などを用いて溶融混練されたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を、ストランド状に吐出し、ストランドカッターでカッティングする方法が挙げられる。
【0069】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を溶融成形することにより、フィルム、繊維およびその他各種形状の成形品を得ることができる。溶融成形方法としては、例えば、射出成形、押出成形およびブロー成形などが挙げられ、射出成形が特に好ましく用いられる。
【0070】
射出成形の方法としては、通常の射出成形方法以外にもガスアシスト成形、2色成形、サンドイッチ成形、インモールド成形、インサート成形およびインジェクションプレス成形などが知られているが、いずれの成形方法も適用できる。
【0071】
本発明の成形品は、高温・多湿環境下において、誘電特性が安定し、耐候性が向上する特徴を活かして、機械機構部品、電気部品、電子部品および自動車部品から選ばれる成形品として好適に用いることができる。本発明の成形品は、高周波帯での誘電特性に優れることから、特に高周波伝送部品に有用である。
【0072】
機械機構部品、電気部品、電子部品および自動車部品の具体的な例としては、ブレーカー、電磁開閉器、フォーカスケース、フライバックトランス、複写機やプリンターの定着機用成形品、一般家庭電化製品、OA機器などのハウジング、バリコンケース部品、各種端子板、変成器、プリント配線板、端子ブロック、コイルボビン、コネクター、リレー、ディスクドライブシャーシー、トランス、スイッチ部品、コンセント部品、モーター部品、ソケット、プラグ、コンデンサー、各種ケース類、抵抗器、金属端子や導線が組み込まれる電気・電子部品、コンピューター関連部品、音響部品などの音声部品、照明部品、電信機器関連部品、電話機器関連部品、エアコン部品、VTRやテレビなどの家電部品、複写機用部品、ファクシミリ用部品、光学機器用部品、自動車点火装置部品、自動車用コネクター、および各種自動車用電装部品などが挙げられる。
【0073】
さらに高周波伝送部品の具体的な例としては、携帯通信端末や通信基地局の各部材、ミリ波センサー用の各部材、車載通信機器などに使われる電気・電子部品のアンテナ基材、コネクター、レーダーやセンサーの発生源を保護する筐体(カバー)であるレドームが挙げられ、高温・多湿環境下において、誘電特性が安定し、耐候性が向上するため、ロバスト性が重要視されるレドームに最適に用いることができる。
【実施例
【0074】
次に、実施例により本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物について例を挙げて具体的に説明する。下記の樹脂名中の「/」は共重合を意味する。なお、本発明はここに挙げた具体的な例に限定して解釈されるものではない。
【0075】
[各特性や物性の測定方法]
各実施例および比較例においては、次に記載する測定方法によって、その特性や物性を評価した。
【0076】
1.融点
株式会社パーキンエルマー製DSC7を用いて、ポリブチレンテレフタレート樹脂の試料を25℃から300℃まで窒素雰囲気下10℃/minの昇温速度で分析し、得られた吸熱ピークの中で最も高温のピーク温度を求めた。
【0077】
2.官能基濃度(脂肪族基、水酸基)
ポリブチレンテレフタレート樹脂の試料2gをヘキサフルオロイソプロパノール5mLに溶解させ、エタノール50mLにより再沈殿させ、沈殿物を捕集して真空乾燥機にて真空下80℃で乾燥し、精製した。精製物30mgを重ヘキサフルオロイソプロパノール0.7mLに溶解させて、日本電子(株)製JNM-ECZ500Rにて、H-NMR測定を行った。得られたH-NMRスペクトルを、Macromol.Chem.Phys.2014,215,2138-2160に記載の方法でスペクトルのピークを帰属し、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体由来の残基のピークの積分値Saとその水素原子数Ha、および官能基(脂肪族基、水酸基)由来のピークの積分値Sbとその水素原子数Hbを求め、以下の式から官能基濃度を求めた。
官能基濃度(mmol/g)={(Sb/Sa)×(Ha/Hb)}/ユニット平均分子量×1000
ここで、ユニット平均分子量は、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体由来の残基とジオールまたはそのエステル形成性誘導体由来の残基とヒドロキシカルボン酸の残基またはそのエステル形成性誘導体由来の残基の分子量に各残基の含有比率を掛け合わせて積算した値である。なお、ここでいう「残基」には、エステル結合を構成する部分の構造を含む。たとえば、ポリブチレンテレフタレートのホモポリマーの場合、ユニット平均分子量は220である。
【0078】
3.高周波誘電特性(比誘電率、誘電正接)
ポリブチレンテレフタレート樹脂の試料を、ソディック製TR30EHA射出成形機を用いて、金型温度80℃の温度条件で、射出時間と保圧時間は合わせて3秒、冷却時間15秒の成形サイクル条件で、試験片厚み0.5mmの30mm×30mm角板を得た。得られた角板から樹脂の流れ方向に平行に1mm幅で切削し、30mm×1mm×0.5mm厚の誘電特性評価用試験片を得た。得られた角板から樹脂の流れ方向に平行に1mm幅で切削し、80mm×1mm×1mm厚の誘電特性評価用試験片を得た。それら誘電特性評価用試験片の誘電特性をアジレント・テクノロジー(株)製ネットワークアナライザE5071Cおよび(株)関東電子応用開発製空洞共振器CP521を用いた空洞共振器摂動法によって23℃、5.8GHzにおける比誘電率および誘電正接を求めた。
【0079】
4.組成分析(脂肪族アルコールの残基の量、および、シアノ基の量の分析)
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の試料20mgおよび内部標準物質(1,4-ビス(トリメチルシリル)ベンゼン-d)5mgを重クロロホルムと重ヘキサフルオロイソプロパノールの1:1(体積比)混合溶液0.7mLに溶解させて、日本電子(株)製JNM-ECZ500Rにて、H-NMR測定を行った。得られたH-NMRスペクトルより、前記2.官能基濃度に示したピークの帰属方法によりポリブチレンテレフタレート樹脂成分に由来する脂肪族アルコール部位に由来するピークの積分値Sbとその水素原子数Hbを求め、内部標準物質由来のピークの積分値Scとその水素原子数Hc、内部標準物質の分子量Mc、および内部標準物質の混合量(5mg=0.5×10-3(g))用いて、下記式により樹脂組成物中におけるポリブチレンテレフタレート樹脂成分に由来する脂肪族アルコールの残基の量(a)(モル)を算出した。
脂肪族アルコールの残基の量(a)(モル)=(0.5×10-3(g)/Mc)×(Sb/Sc)×(Hc/Hb) 。
【0080】
さらに、前記H-NMRスペクトルを測定した同一のサンプルの13C-NMRスペクトルを測定し、JOURNAL OF POLYMER SCIENCE, PART A: POLYMER CHEMISTRY.2017,55,919-927に記載の方法で(B)のシアノ基のピークを帰属し(120ppm付近)、成分(B)由来のピークの積分値Sdとその炭素原子数Cdを求め、内部標準物質由来のピークの積分値Scとその水素原子数Cc、内部標準物質の分子量Mc、および内部標準物質の混合量(0.5mg=0.5×10-3(g))を用いて、下記式により樹脂組成物中における(B)のシアノ基の量(b)(モル)を算出した。
シアノ基の量(b)(モル)=(0.5×10-3(g)/Mc)×(Sd/Sc)×(Cc/Cd) 。
【0081】
得られた脂肪族アルコールの残基の量(a)(モル)およびシアノ基の量(b)(モル)より、(b)/(a)を算出し、表に示した。
【0082】
5.高温・多湿環境下における誘電特性の安定性(誘電特性安定性)の評価
試料の樹脂組成物を、日精樹脂工業株式会社製NEX1000射出成形機を用いて、金型温度80℃の温度条件で、射出時間と保圧時間は合わせて15秒、冷却時間15秒の成形サイクル条件で射出成形し、試験片厚み1mmの80mm×80mm角板を得た。得られた角板から樹脂の流れ方向に平行に1mm幅で切削し、80mm×1mm×1mm厚の誘電特性評価用試験片(α)を得た。得られた誘電特性評価用試験片(α)の誘電特性をアジレント・テクノロジー(株)製ネットワークアナライザE5071Cおよび(株)関東電子応用開発製空洞共振器CP521を用いた空洞共振器摂動法によって23℃、5.8GHzにおける誘電正接を求めた。続いて、前記と同じ方法で調製した試験片(α)を、85℃×85%RHの温度と湿度に設定されたエスペック(株)社製恒温恒湿器LHL-114に投入し、1500時間加圧湿熱処理を行い、誘電特性評価用試験片(β)を得た。上記試験片(α)に対して行った条件と同様の条件にて、試験片(β)について23℃、5.8GHzにおける誘電正接を求め、下記式で求められる誘電正接の変化率を求めた。変化率が30%以下であれば、高温・多湿環境下における誘電特性の安定性に優れるとし、25%以下であればより優れ、20%以下であると特に優れると判断した。
誘電正接の変化率(%)=100×(試験片(β)の誘電正接-試験片(α)の誘電正接)/(試験片(α)の誘電正接) 。
【0083】
6.耐候性
試料の樹脂組成物を、日精樹脂工業株式会社製NEX1000射出成形機を用いて、金型温度80℃の温度条件で、射出時間と保圧時間は合わせて15秒、冷却時間15秒の成形サイクル条件で、試験片厚み1mmの80mm×80mm角板を得た。得られた角板をサンシャインウェザーメーター(スガ試験機(株)製WEL-SUN-HCH型)を用い、ブラックパネル温度:63℃、サイクル:120分(降雨18分)、放射照度;255W/mの条件で200時間耐候処理した。紫外線照射前後の角板の中央部付近の色(b値)の変化(照射後のb値-照射前のb値)を、日本電色工業(株)社製Spectro Color Meter SE2000を用いて測定した。色(b値)の変化量が20以下であれば、耐候性に優れるとし、14以下であるとより優れ、12以下であると特に優れると判断した。
【0084】
実施例および比較例で用いた原料等を次に示す。
【0085】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)
以下の製造例1~5によりポリブチレンテレフタレート樹脂樹脂(A)を得て、上記方法で評価し、表1にその結果を示した。
【0086】
[製造例1]
エステル化反応におけるジオール成分とジカルボン酸成分のモル比(ジオール成分/ジカルボン酸成分)を1.5とし、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸:2000g、ジオール成分として1,4-ブタンジオール:1627g、分岐を有する飽和脂肪族アルコールとして2-ヘキシル-1-ドデカノール:49g(テレフタル酸100モル%に対して1.5モル%)、重合反応触媒としてTBT(テトラ-n-ブチルチタネート):生成する熱可塑性樹脂100gに対して7.5×10-5モル(熱可塑性樹脂100重量部に対して0.025重量部)を、精留塔の付いた反応器に仕込み、温度160℃、窒素気流下にてエステル化反応を開始した。その後、徐々に昇温し、最終的に温度225℃の条件下でエステル化反応を行った。留出液の状態などによりエステル化反応の終了を確認し、エステル化反応の反応時間を220分間とした。得られた反応物に、重合反応触媒としてTBT:生成するポリエステル樹脂100gに対して7.5×10-5モル(熱可塑性樹脂100重量部に対して0.025重量部)を添加し、温度260℃、圧力100Paの条件で重縮合反応を行った。反応物の粘度などにより重縮合反応の終了を確認し、熱可塑性樹脂を得るための重縮合反応の反応時間を140分間とし、合計360分間反応を実施し、ポリブチレンテレフタレート(A-1)を得た。
【0087】
[製造例2]
分岐を有する飽和脂肪族アルコールとして2-デシル-1-テトラデカノール:64g(テレフタル酸100モル%に対して1.5モル%)を用いる以外は、製造例1と同様に反応を実施し、ポリブチレンテレフタレート(A-2)を得た。
【0088】
[製造例3]
分岐を有する飽和脂肪族アルコールとして2-テトラデシル-1-オクタデカノール:84g(テレフタル酸100モル%に対して1.5モル%)を用いる以外は、製造例1と同様に反応を実施し、ポリブチレンテレフタレート(A-3)を得た。
【0089】
[製造例4]
飽和脂肪族アルコールとして1-オクタデカノール:49g(テレフタル酸100モル%に対して1.5モル%)を用いる以外は、製造例1と同様に反応を実施し、ポリブチレンテレフタレート(A-4)を得た。
【0090】
[製造例5]
エステル化反応におけるジオール成分とジカルボン酸成分のモル比(ジオール成分/ジカルボン酸成分)を1.7とし、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸:2000g、ジオール成分として1,4-ブタンジオール:1840g、エステル化反応触媒としてTBT:生成する熱可塑性樹脂100gに対して7.5×10-5モル(熱可塑性樹脂100重量部に対して0.025重量部)を、精留塔の付いた反応器に仕込み、温度160℃、圧力90kPaの減圧下にてエステル化反応を開始した。その後、徐々に昇温し、最終的に温度225℃の条件下でエステル化反応を行った。留出液の状態などによりエステル化反応の終了を確認し、エステル化反応の反応時間を180分間とした。得られた反応物に、重縮合反応触媒としてTBT:生成するポリエステル樹脂100gに対して7.5×10-5モル(熱可塑性樹脂100重量部に対して0.025重量部)を添加し、温度245℃、圧力100Paの条件で重縮合反応を行った。反応物の粘度などにより重縮合反応の終了を確認し、熱可塑性樹脂を得るための重縮合反応の反応時間を150分間とし、合計330分間反応を実施し、ポリブチレンテレフタレート(A-5)を得た。
【0091】
アクリロニトリル-スチレン共重合系樹脂(B)
(B-1)スチレン/アクリロニトリル(74/26重量%)共重合体のAS樹脂を用いた。
(B-2)スチレン/アクリロニトリル/メタクリル酸グリシジル(74/25.5/0.5重量%)共重合体を用いた。
(B-3)ポリスチレン樹脂:PSジャパン(株)製GPPS、HF77を用いた。
【0092】
無機充填材(C)
(C-1)ガラス繊維:日本電気硝子(株)製ガラス繊維ECS03T―187、断面の直径13μm、繊維長3mm、エポキシ系集束剤処理品を用いた。
【0093】
ポリオレフィン樹脂(D)
(D-1)エチレン/エチルアクリレート共重合樹脂:三井デュポンケミカル(株)製、“エルバロイ”(登録商標)AC22534を用いた。
(D-2)直鎖状低密度ポリエチレン樹脂:(株)プライムポリマー製“ウルトゼックス”(登録商標)4570を用いた。
【0094】
[実施例1~13、比較例1~6]
スクリュー径30mm、L/D35の同方向回転ベント付き二軸押出機(日本製鋼所製、TEX-30α)を用いて、ポリブチレンテレフタレート(A)、アクリロニトリル-スチレン共重合系樹脂(B)、オレフィン樹脂(D)およびその他添加剤を表2に示した組成で混合した後、二軸押出機の元込め部から添加した。なお、無機充填材(C)は、元込め部とベント部の途中にサイドフィーダーを設置して添加した。混練温度260℃、スクリュー回転150rpmの押出条件で溶融混合を行い、得られた樹脂組成物をストランド状に吐出し、冷却バスを通して固化させた後、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットを110℃の温度の熱風乾燥機で6時間乾燥後、前記方法で評価し、表2にその結果を示した。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2-1】
【0097】
【表2-2】
【0098】
実施例1~13と比較例1~6の比較より、炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールが化合したポリブチレンテレフタレート樹脂(A)に対して、アクリロニトリル-スチレン共重合系樹脂(B)を特定量配合することによって、高温・多湿環境下において、誘電特性が安定し、耐候性が向上することが分かった。
【0099】
実施例9~13と、実施例8の比較によって、さらに無機充填剤(C)やポリオレフィン樹脂(D)を配合することによって、高温・多湿環境下において、誘電特性が安定し、耐候性が向上する事が分かった。
【0100】
実施例10,11と、実施例12,13の比較によって、アクリロニトリル-スチレン共重合系樹脂(B)とポリオレフィン樹脂(D)の配合量を特定の範囲とすることで、高温・多湿環境下において、さらに、誘電特性が安定し、耐候性が向上することが分かった。
【要約】
本発明は、1GHz以上の高周波帯における誘電正接が小さく、高温・多湿環境下においても誘電特性が維持され、耐候性が向上したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物およびその成形品を提供することを課題とし、炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールがテレフタル酸100モル%に対して0.1~2.0モル%化合したポリブチレンテレフタレート樹脂(A)(「成分(A)」)と、成分(A)100重量部に対して、アクリロニトリル-スチレン共重合系樹脂(B)(「成分(B)」)1~100重量部とが配合されたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であって、下記条件(i)を満たすポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
条件(i):ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物単位重量に含まれる、成分(A)に化合した前記炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールの残基の量(a)(モル)と、成分(B)中のシアノ基の量(b)(モル)の比((b)/(a))が5以上であることを本旨とする。