(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】表面処理鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 11/38 20060101AFI20231212BHJP
C25D 9/10 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
C25D11/38 301Z
C25D9/10
(21)【出願番号】P 2023544609
(86)(22)【出願日】2023-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2023016772
【審査請求日】2023-07-24
(31)【優先権主張番号】P 2022115038
(32)【優先日】2022-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100195785
【氏名又は名称】市枝 信之
(72)【発明者】
【氏名】植野 卓嗣
(72)【発明者】
【氏名】友澤 方成
(72)【発明者】
【氏名】中川 祐介
(72)【発明者】
【氏名】大塚 真司
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-038429(JP,A)
【文献】特開平06-340998(JP,A)
【文献】特開平06-108265(JP,A)
【文献】特開平10-130891(JP,A)
【文献】特表2016-501985(JP,A)
【文献】特開昭57-131392(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 11/38
C25D 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板と、
前記鋼板の少なくとも一方の面に配されたクロム含有層とを備える表面処理鋼板であって、
前記クロム含有層のクロム付着量が、片面当たり40.0~500.0mg/m
2
であり、
前記クロム含有層を表面方向から観察した際、クロムより原子番号が小さい元素が濃化した線状領域が存在し、
前記クロムより原子番号が小さい元素が、O、C、N、およびSからなる群より選択される少なくとも1つであり、
前記線状領域の数が、5.0本/100nm以上である、表面処理鋼板。
【請求項2】
前記線状領域が、網目状に連結した構造を有する、請求項1に記載の表面処理鋼板。
【請求項3】
前記網目の円相当径の標準偏差が30nm以下である、請求項2に記載の表面処理鋼板。
【請求項4】
前記網目の真円度の平均値が0.5~1.0である、請求項2に記載の表面処理鋼板。
【請求項5】
前記網目の真円度の平均値が0.5~1.0である、請求項3に記載の表面処理鋼板。
【請求項6】
前記クロム含有層の酸化クロム付着量が、片面当たり40.0mg/m
2以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の表面処理鋼板。
【請求項7】
前記クロム含有層を表面方向から観察した際の結晶領域の面積率が30%以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の表面処理鋼板。
【請求項8】
前記クロム含有層を表面方向から観察した際の結晶領域の面積率が30%以下である、請求項
6に記載の表面処理鋼板。
【請求項9】
鋼板と、前記鋼板の少なくとも一方の面に配されたクロム含有層とを備える表面処理鋼板の製造方法であって、
硫酸イオンを
濃度3~200g/Lで含有する水溶液
に前記鋼板を接触させ、前記鋼板の表面に前記水溶液が1.0~30.0g/m
2存在する状態で0.1~20.0秒保持する鋼板表面調整工程と、
3価クロムイオンを0.05mol/L以上含有する電解液中で前記鋼板を陰極電解処理する陰極電解処理工程とを含む、表面処理鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記電解液は、3価クロムイオン源、カルボン酸化合物、および水を混合し、pHを4.0~7.0に調整するとともに、温度を40~70℃に調整することによって調製される、請求項
9に記載の表面処理鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理鋼板(surface-treated steel sheet)に関し、特に、BPA(ビスフェノールA)フリー塗装加工部耐食性に優れる表面処理鋼板に関する。本発明の表面処理鋼板は、缶などの容器に好適に用いることができる。また、本発明は、前記表面処理鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Snめっき鋼板(ぶりき)や、ティンフリー鋼板(TFS)は、飲料缶、食品缶、ペール缶、18リットル缶などの各種金属缶の素材として、広く使用されてきた。
【0003】
ぶりきやTFSは、さまざまな内容物に対応するために、エポキシ系塗料やPETフィルムなどの有機樹脂被覆を施して使用される。ぶりきやTFSに有機樹脂被覆を施す場合は、6価Crを含む水溶液中で鋼板を電解処理あるいは浸漬処理することで最表面に形成した酸化Cr層が、有機樹脂被覆層との優れた密着性を発揮する。そのため、製缶に伴う鋼板の変形に有機樹脂被覆層の変形も追随し、製缶後もさまざまな内容物に対する耐食性が担保されることとなる。
【0004】
一方で、エポキシ系塗料に含まれるBPAが人間に有害な影響がある可能性が示唆されている。そのため、BPAを含有しないポリエステル系樹脂を用いたBPAフリー塗料の開発が進められており(特許文献1、2)、エポキシ系塗料からBPAフリー塗料への置き換えが求められている。しかし、これまでのぶりきやTFSは、エポキシ系塗料に対する密着性と比較し、BPAフリー塗料に対する密着性が乏しいことから、製缶に伴う鋼板の変形にBPAフリー塗料の変形が追随できず、製缶後にさまざまな内容物に対する耐食性が十分に確保できなかった。そのため、各種金属缶へのBPAフリー塗料の適用は進んでいないという現状がある。
【0005】
さらに近年、環境に対する意識の高まりから、世界的に6価Crの使用が規制される方向に向かっている。そのため、各種金属缶に用いられる表面処理鋼板の分野においても、6価クロムを使用しない製造方法の確立が求められている。
【0006】
6価クロムを使用せずに表面処理鋼板を形成する方法としては、例えば、特許文献3~6で提案されている方法が知られている。これらの方法では、塩基性硫酸クロムなどの3価クロム化合物を含む電解液中で電解処理を行うことによって表面処理層を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-144753号公報
【文献】特開2008-50486号公報
【文献】特表2016-501985号公報
【文献】特表2016-505708号公報
【文献】特開2020-172700号公報
【文献】特開2020-172701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3~6で提案されている方法によれば、6価クロムを用いることなく表面処理層を形成することができる。そして、特許文献3~6によれば、前記方法により、エポキシ系塗料との密着性に優れる表面処理鋼板を得ることができる。また、特許文献3、4によれば、エポキシ系塗料を塗装し、変形を施した後でも優れた耐食性を示す表面処理鋼板を得ることができる。
【0009】
しかし、特許文献3~6で提案されているような従来の方法で得られる表面処理鋼板は、エポキシ系塗料に対する密着性には優れており、エポキシ系塗装加工部耐食性に優れるものの、BPAフリー塗装加工部耐食性が十分ではなかった。そのため、さまざま内容物への耐食性を確保したまま、従来のエポキシ系塗料をBPAフリー塗料へ置き換えることができなかった。
【0010】
そのため、6価クロムを用いることなく製造することができ、BPAフリー塗装加工部耐食性に優れる表面処理鋼板が求められている。
【0011】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、6価クロムを用いることなく製造することができ、かつBPAフリー塗装加工部耐食性に優れる表面処理鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行なった結果、次の(1)および(2)の知見を得た。
【0013】
(1)少なくとも片面にクロム含有層を有する表面処理鋼板において、クロム含有層を表面方向から観察した際に認められる、クロムより原子番号が小さい元素が濃化した線状領域の数を特定の範囲に制御することにより、BPAフリー塗装加工部耐食性に優れた表面処理鋼板を得ることができる。
【0014】
(2)上記表面処理鋼板は、硫酸イオンを含有する水溶液と鋼板を接触させ、前記鋼板の表面に前記水溶液が1.0~30.0g/m2存在する状態で0.1~20.0秒保持した後、3価クロムイオンを0.05mol/L以上含有する電解液中で前記鋼板を陰極電解処理することにより製造することができる。
【0015】
本発明は、以上の知見に基づいて完成されたものである。本発明の要旨は次のとおりである。
【0016】
1.鋼板と、
前記鋼板の少なくとも一方の面に配されたクロム含有層とを備える表面処理鋼板であって、
前記クロム含有層を表面方向から観察した際、クロムより原子番号が小さい元素が濃化した線状領域が存在し、
前記線状領域の数が、5.0本/100nm以上である、表面処理鋼板。
【0017】
2.前記線状領域が、網目状に連結した構造を有する、上記1に記載の表面処理鋼板。
【0018】
3.前記網目の円相当径の標準偏差が30nm以下である、上記2に記載の表面処理鋼板。
【0019】
4.前記網目の真円度の平均値が0.5~1.0である、上記2または3に記載の表面処理鋼板。
【0020】
5.前記クロム含有層のクロム付着量が、片面当たり40.0~500.0mg/m2である、上記1~4のいずれか一項に記載の表面処理鋼板。
【0021】
6.前記クロム含有層の酸化クロム付着量が、片面当たり40.0mg/m2以下である、上記1~5のいずれか一項に記載の表面処理鋼板。
【0022】
7.前記クロム含有層を表面方向から観察した際の結晶領域の面積率が30%以下である、上記1~6のいずれか一項に記載の表面処理鋼板。
【0023】
8.鋼板と、前記鋼板の少なくとも一方の面に配されたクロム含有層とを備える表面処理鋼板の製造方法であって、
前記鋼板を硫酸イオンを含有する水溶液と接触させ、前記鋼板の表面に前記水溶液が1.0~30.0g/m2存在する状態で0.1~20.0秒保持する鋼板表面調整工程と、
3価クロムイオンを0.05mol/L以上含有する電解液中で前記鋼板を陰極電解処理する陰極電解処理工程とを含む、表面処理鋼板の製造方法。
【0024】
9.前記電解液は、3価クロムイオン源、カルボン酸化合物、および水を混合し、pHを4.0~7.0に調整するとともに、温度を40~70℃に調整することによって調製される、上記8に記載の表面処理鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、6価クロムを使用することなく、BPAフリー塗装加工部耐食性に優れる表面処理鋼板を提供することができる。本発明の表面処理鋼板は、容器等の材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施する方法について具体的に説明する。なお、以下の説明は、本発明の好適な実施形態の例を示すものであって、本発明はこれに限定されない。
【0027】
本発明の一実施形態における表面処理鋼板は、鋼板の少なくとも片面に、クロム含有層を有する表面処理鋼板である。本発明においては、前記クロム含有層を表面方向から観察した際、クロムより原子番号が小さい元素が濃化した線状領域が存在し、前記線状領域の数が、5本/100nm以上であることが重要である。以下、前記表面処理鋼板の構成要件のそれぞれについて説明する。
【0028】
[鋼板]
前記鋼板としては、とくに限定されることなく任意の鋼板を用いることができるが、缶用鋼板を用いることが好ましい。前記鋼板としては、例えば、極低炭素鋼板または低炭素鋼板を用いることができる。前記鋼板の製造方法についてもとくに限定されず、任意の方法で製造された鋼板を用いることができるが、通常は冷延鋼板を使用すればよい。前記冷延鋼板は、例えば、熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍、および調質圧延を行う、一般的な製造工程により製造することができる。
【0029】
前記鋼板の成分組成は特に限定されないが、本発明の範囲の効果を損なわない範囲でC、Mn、P、S、Si、Cu、Ni、Mo、Al、および不可避的不純物を含有してもよい。その際、前記鋼板としては、例えば、ASTM A623M-09に規定される成分組成の鋼板を好適に用いることができる。
【0030】
本発明の一実施形態においては、質量%で、
C :0.0001~0.13%、
Si:0~0.020%、
Mn:0.01~0.60%、
P :0~0.020%、
S :0~0.030%、
Al:0~0.20%、
N :0~0.040%、
Cu:0~0.20%、
Ni:0~0.15%、
Cr:0~0.10%、
Mo:0~0.05%、
Ti:0~0.020%、
Nb:0~0.020%、
B :0~0.020%、
Ca:0~0.020%、
Sn:0~0.020%、
Sb:0~0.020%、
および残部のFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼板を用いることが好ましい。上記成分組成のうち、Si、P、S、Al、およびNは含有量が低いほど好ましい成分であり、Cu、Ni、Cr、Mo、Ti、Nb、B、Ca、SnおよびSbは、任意に添加し得る成分である。
【0031】
前記鋼板の板厚は特に限定されないが、0.60mm以下であることが好ましい。一方、前記板厚の下限についてもとくに限定されないが、0.10mm以上とすることが好ましい。なお、ここで「鋼板」には「鋼帯」を包含するものと定義する。
【0032】
[クロム含有層]
前記鋼板の少なくとも一方の面にはクロム含有層が存在する。前記クロム含有層を構成する成分は特に限定されないが、金属クロムとクロム化合物を含むことができる。前記クロム化合物としては、特に限定されることなく任意のクロム化合物を含むことができる。前記クロム化合物としては、例えば、酸化クロム、炭化クロム、硫化クロム、窒化クロム、塩化クロム、臭化クロム、およびホウ化クロムからなる群より選択される少なくとも1つを含むことができる。また、前記クロム含有層は、前記金属クロムおよびクロム化合物に加え、不純物を含有していてもよい。前記不純物としては、後述する電解液中に不純物として混入したNi、Cu、Sn、Znなどの金属元素が挙げられる。前記金属元素は、典型的には金属状態で前記クロム含有層中に存在すると考えられるが、化合物として存在していてもよい。
【0033】
本発明の一実施形態におけるクロム含有層は、金属クロムとクロム化合物を構成する元素の合計含有量が90原子%以上であることが好ましい。ここで、前記合計含有量は、Fe以外の全元素の合計原子数に対する、金属クロムとクロム化合物を構成する元素の合計原子数の比率をパーセンテージで表したものである。
【0034】
前記合計含有量は、クロム含有層に含まれる金属クロムと、クロム化合物を構成する元素それぞれの含有量(原子%)をX線光電子分光法(XPS)により測定し、合計することにより求めることができる。XPSによる含有量の測定においては、各元素に対応するピークの積分強度から、相対感度係数法により当該元素の含有量(原子比率)を算出することができる。
【0035】
例えば、炭化クロム(Cr2C3)の含有量は、281.0eV付近に現れるCの1sの炭化物のピークの積分強度から求めることができる。例えば、前記ピークの積分強度から算出されるC含有量(Fe以外の全元素の合計に対する原子比率)が6原子%であった場合、Cr2C3の含有量は、6×(2+3)/3=10原子%となる。
【0036】
酸化クロムについては、576.7eV付近に現れるCrの2pの酸化物のピークの積分強度から、Cr2O3の含有量を求めることができる。また、579.2eV付近に現れるCrの2pの酸化物部のピークの積分強度から、CrO3の含有量を求めることができる。
【0037】
同様に、他のクロム化合物についても、例えば、以下に挙げるピークの積分強度を用いて含有量を求めることができる。
・硫化クロム(Cr2S3):162.3eV付近に現れるSの2pの硫化物のピーク
・窒化クロム(CrN):397.3eV付近に現れるNの1Sのピーク
・塩化クロム(CrCl3):199.8eV付近に現れるClの2pのピーク
・臭化クロム(CrBr3):69.1eV付近に現れるBrの3dのピーク
・ホウ化クロム(CrB):188.2eV付近に現れるBrの1sのピーク
【0038】
一方、金属クロムの含有量は、573.8eV付近に現れるCrの2pのピークの積分強度からCr含有量を算出し、前記クロム含有量から、クロム化合物として含まれるCr原子の含有量を差し引くことにより求められる。
【0039】
以上の方法で得られた金属クロムの含有量と、クロム化合物を構成する各元素の含有量を足し合わせることにより、金属クロムとクロム化合物を構成する元素の合計含有量を求めることができる。
【0040】
なお、前記合計含有量は、クロム含有層の厚みの1/2位置における値を指すものとする。前記1/2位置の決定は以下の手順で行うことができる。まず、クロム含有層を、その最表面からスパッタしつつ、上述した方法で金属クロムとクロム化合物を構成する元素の合計含有量と、Fe含有量を測定する。測定された金属クロムとクロム化合物を構成する元素の合計含有量とFe含有量とが等しくなった位置(深さ)を、クロム含有層と鋼板との間の界面とする。クロム含有層の最表面から前記界面までの厚みを、該クロム含有層の厚みとし、その1/2位置を決定する。
【0041】
上記XPSによる測定には、例えば、アルバックファイ社製の走査型X線光電子分光分析装置PHI X-toolを使用することができる。X線源はモノクロAlKα線、電圧は15kV、ビーム径は100μmφ、取出角は45°とし、スパッタ条件はArイオンを加速電圧1kV、スパッタレートはSiO2換算で1.50nm/minとすればよい。
【0042】
前記クロム含有層を構成する成分の空間構造は特に限定されず、例えば、クロム含有層の中で別個の層として分離していてもよいし、クロム含有層全体にわたって混合していてもよい。すなわち、前記クロム含有層を構成する成分の空間構造は、別個の層および混合した層の一方または両方を含有することができる。
【0043】
前記クロム含有層のクロム付着量は特に限定されない。しかし、前記クロム含有層のクロム付着量が過剰であると、表面処理鋼板を加工する際にクロム含有層内で凝集破壊を引き起こす場合がある。そのため、BPAフリー塗装加工部耐食性をより安定的に確保するという観点からは、前記クロム含有層のクロム付着量を、片面当たり500.0mg/m2以下とすることが好ましく、450.0mg/m2以下とすることがより好ましい。一方、BPAフリー塗装加工部耐食性をさらに向上させるという観点からは、前記クロム含有層のクロム付着量を、片面当たり40.0mg/m2以上とすることが好ましく、50.0mg/m2以上とすることがより好ましい。ここで、前記「クロム付着量」は、様々な形態で存在するクロムの合計付着量を指す。
【0044】
なお、前記クロム付着量は、蛍光X線分析法により測定することができる。より具体的には、以下の手順で前記クロム付着量を測定する。まず、蛍光X線装置を用いて、表面処理鋼板におけるCr量(全Cr量)を測定する。次いで、蛍光X線装置を用いて、クロム含有層を形成する前の鋼板またはクロム含有層を剥離した後の鋼板におけるCr量(原板Cr量)を測定する。全Cr量から原板Cr量を差し引いた値を、クロム含有層のクロム付着量とする。なお、クロム含有層の剥離には、例えば、市販されている塩酸系などのクロムめっき剥離剤が使用できる。
【0045】
[酸化Cr付着量]
前記クロム含有層中には酸化クロムが存在してもよい。酸化クロムの存在位置は特に限定されないが、後述する線状領域にOが濃化する形で存在してもよい。Oの存在位置は例えば走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)に付属のエネルギー分散型X線分光(EDS)や波長分散型X線分光(WDS)による組成分析や、3次元アトムプローブ(3DAP)による3次元組成分析で確認することができる。
【0046】
前記クロム含有層の酸化クロム付着量は特に限定されない。しかし、前記クロム含有層の酸化クロム付着量が過剰であると、表面処理鋼板を加工する際にクロム含有層中の酸化Crを起点に凝集破壊を引き起こし、BPAフリー塗装加工部耐食性が劣化する場合がある。そのため、BPAフリー塗装加工部耐食性をより安定的に確保するという観点からは、前記クロム含有層の酸化クロム付着量は、片面当たり40.0mg/m2以下であることが好ましく、35.0mg/m2以下であることがより好ましい。一方、クロム含有層は酸化クロムをまったく含まなくてもよい。したがって、クロム含有層の酸化クロム付着量の下限は特に限定されず、片面当たり0.0mg/m2であってよい。
【0047】
なお、前記酸化クロム付着量は、蛍光X線分析法により測定することができる。より具体的には以下の手順で前記酸化クロム付着量を測定する。まず、表面処理鋼板のCr量(全Cr量)を測定する。次いで、前記表面処理鋼板に、90℃の7.5N-NaOH中に10分間浸漬させるアルカリ処理を施して、酸化クロムを除去する。前記アルカリ処理後の表面処理鋼板を十分に水洗した後、再び、蛍光X線装置を用いてCr量(アルカリ処理後Cr量)を測定する。全Cr量からアルカリ処理後Cr量を差し引いた値を、前記クロム含有層の酸化クロム付着量とする。
【0048】
前記クロム含有層は、非晶質であってもよく、結晶性であってもよい。すなわち、前記クロム含有層は、非晶質および結晶性の一方または両方を含有することができる。後述する方法で製造されるクロム含有層は、一般的には非晶質を含有しており、さらに結晶性を含有している場合もある。クロム含有層の形成メカニズムは明らかではないが、非晶質が形成される際に部分的に結晶化が進むことで、非晶質と結晶相の両者を含むクロム含有層となると考えられる。結晶領域の面積率は特に限定されないが、前記クロム含有層を表面方向から観察した際、30%以下であることが好ましい。一方、結晶領域は存在しなくてもよいため、前記結晶領域の面積率の下限は0%であってよい。
【0049】
クロム含有層中の結晶領域は、表面処理鋼板から下地鋼板部分を除去してクロム含有層単層試料を作製し、該クロム含有層単層試料を表面側からTEMやSTEMで観察することで確認できる。前記クロム含有層単層試料の作製法は特に限定されないが、例えば下地鋼板側からAr等のイオンビームを照射し、鋼板をイオンミリングすることで作製できる。イオンビームでクロム含有層単層の領域を作製する場合には、加速電圧を5kV以下で、入射角度を下地鋼板に対して1度~5度の範囲でイオンビームを照射することで、数μm2以上のクロム単層領域の視野が確保できる。この際、クロム含有層底面部も多少ミリングされ、クロム含有層の膜厚が薄くなる事もあるが、結晶領域の測定結果には影響を与えない。
【0050】
クロム含有層中の結晶領域の面積率は、TEMで測定することができる。具体的には、まず、TEMの制限視野回折(selected area diffraction)により、前記クロム含有層の回折パターンを取得する。次いで、前記回折パターン中の回折スポットの全てについて暗視野像を取得し、前記暗視野像で輝度が高く表示される領域を結晶領域とする。得られた結晶領域の面積を画像処理により算出し、制限視野絞り(selected area aperture)内のクロム含有層の面積で除することで結晶領域の面積率を算出する。面積率の算出には、例えば、image-J等の画像解析ソフトウェアを利用することができる。
【0051】
前記クロム含有層には、Cが含有されていてもよい。クロム含有層中のC含有量の上限は特に限定されないが、Crに対する原子比率として、50%以下であることが好ましく、45%以下であることがより好ましい。クロム含有層はCを含んでいなくてもよく、したがって、クロム含有層に含まれるCのCrに対する原子比率の下限は特に限定されず、0%であってよい。
【0052】
クロム含有層中のCの含有量はXPSで測定することができる。すなわち、酸化Cr層中のCの含有量は、最表層からSiO2換算で0.2nmの深さ以上までスパッタし、Cr2pとC1sのナロースペクトルの積分強度を相対感度係数法で原子比率を定量化し、C原子比率/Cr原子比率を算出すればよい。前記XPSの測定には、例えば、アルバックファイ社製の走査型X線光電子分光分析装置PHI X-toolを使用することができる。X線源はモノクロAlKα線、電圧は15kV、ビーム径は100μmφ、取出角は45°とし、スパッタ条件はArイオンを加速電圧1kV、スパッタレートはSiO2換算で1.50nm/minとすればよい。
【0053】
クロム含有層にCが含有されるメカニズムは明らかではないが、鋼板にクロム含有層を形成する工程で、電解液中にカルボン酸化合物を含有する場合、カルボン酸化合物が分解し、皮膜に取り込まれると考えられる。
【0054】
クロム含有層中のCの存在位置は特に限定されないが、後述する線状領域にCが濃化する形で存在してもよい。Cの存在位置は例えば走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)に付属のエネルギー分散型X線分光(EDS)や波長分散型X線分光(WDS)による組成分析や、3次元アトムプローブ(3DAP)による3次元組成分析で確認することができる。
【0055】
上記クロム含有層には、Feが含有されていてもよい。クロム含有層中のFe含有量の上限は特に限定されないが、Crに対する原子比率として、100%以下であることが好ましい。クロム含有層はFeを含んでいなくてもよく、したがって、前記Crに対する原子比率の下限は特に限定されず、0%であってよい。クロム含有層中のFeの含有量は、Cの含有量と同様、XPSにより測定することができる。原子比率の算出にはCr2pとFe2pのナロースペクトルを用いればよい。
【0056】
金属Cr層および酸化Cr層にFeが含有されるメカニズムは明らかではないが、鋼板にクロム含有層を形成する工程で、鋼板に含まれるFeが電解液に微量に溶解し、Feが皮膜に取り込まれると考えられる。
【0057】
上記クロム含有層には、Cr、O、Fe、C以外には、水中に含まれるK、Na、MgおよびCa、水溶液中に含まれるSn、Ni、Cu、Zn等の金属不純物や、S、N、Cl、Br等が含まれる場合がある。しかし、それらの元素が存在すると、BPAフリー塗装加工部耐食性が低下する場合がある。そのため、Cr、O、Fe、C以外の元素の合計は、Crに対する原子比率として、3%以下であることが好ましく、まったく含有しない(0%)ことがより好ましい。上記元素の含有量は、特に限定されないが、例えば、Cの含有量と同様にXPSで測定することができる。
【0058】
[線状領域]
本発明の表面処理鋼板には、クロム含有層を表面方向から観察した際、クロムより原子番号が小さい元素が濃化した線状領域が存在し、前記線状領域の数が、5.0本/100nm以上である。前記線状領域の数を5.0本/100nm以上とすることにより、優れたBPAフリー塗装加工部耐食性を実現することができる。BPAフリー塗装加工部耐食性をさらに向上させるという観点からは、前記前記線状領域の数を7.0本/100nm以上とすることが好ましく、10.0本/100nm以上とすることがより好ましい。一方、前記線状領域の数の上限はとくに限定されないが、例えば、50.0本/100nm以下であってよく、45.0本/100nm以下であってよく、40.0本/100nm以下であってもよい。
【0059】
上記のように線状領域を設けることによりBPAフリー塗装加工部耐食性が向上する理由について、以下、説明する。
【0060】
まず、6価Cr浴や3価Cr浴から形成される一般的なクロム含有層は、金属クロムや酸化クロムで構成されている。このようなクロム含有層を備える表面処理鋼板は、一般的に、表面に有機樹脂被覆を形成した後、缶などに加工される。しかし、金属クロムは加工性に乏しいため、加工に伴う鋼板の変形にクロム含有層が完全には追随できず、その結果クロム含有層の上に存在する有機樹脂被覆にダメージが加わる。そしてその結果、加工後の耐食性が低下する。
【0061】
そこで、従来の表面処理鋼板においては、酸化クロムを最上層に設けることで加工後の耐食性を担保していた。すなわち、酸化クロムはエポキシ系塗料との密着性に優れるため、金属クロムが下地鋼板の変形に追随できていなくても、クロム含有層とエポキシ系塗料とが強固に密着し、エポキシ系塗料による被覆性を製缶後も保つことができる。
【0062】
しかし、このような従来の表面処理鋼板は、BPAフリー塗料に対する密着性が乏しいことから、BPAフリー塗装を施した場合の加工部耐食性に劣っていた。
【0063】
これに対して本発明の表面処理鋼板では、上述したように、クロム含有層に5.0本/100nm以上の線状領域を設けることにより、優れたBPAフリー塗装加工部耐食性を実現している。このように、本発明は、塗料との密着性ではなく、クロム含有層自体の変形能を向上させるという従来とはまったく異なる技術的思想に基づくものである。
【0064】
なお、本発明においては、クロム含有層をSTEM/EDS分析して得られるEDS定量マップにおいて、クロムより原子番号が小さい元素が、該クロム含有層の平均組成よりも20原子%以上多く検出される領域を「クロムより原子番号が小さい元素が濃化した線状領域」と定義する。前記STEM/EDS分析は、クロム含有層単層試料を用いて行う。前記クロム含有層単層試料の作成は、上述した方法で行うことができる。
【0065】
線状領域の数は、例えばクロム含有層をEDS定量マップから測定することができる。マップ像に任意に10本の100nmの線を引き、交差した線状領域との交点を計数し、相加平均値を線状領域の数として測定できる。
【0066】
線状領域に濃化する元素は特に限定されず、クロムより原子番号が小さい元素であれば任意の元素であってよい。本発明の一実施形態においては、前記元素は、O、C、N、およびSからなる群より選択される少なくとも1つを含むことができる。
【0067】
前記線状領域は、一本一本が孤立していてもよいし、交差していてもよいし、網目状に連結していてもよいが、網目状に連結した構造を有することが好ましい。
【0068】
前記線状領域が、網目状に連結した構造を有する場合、網目の大きさや、数、形状は限定されないが、さらにBPAフリー塗装加工部耐食性を向上させるという観点では、網目の円相当径の標準偏差は30nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましい。一方、前記標準偏差の下限値についてもとくに限定されないが、例えば、0.5nm以上であってもよく、1.0nm以上であってもよい。
【0069】
網目の円相当径は、STEM/EDSマップの画像解析により算出することが出来る。具体的には、倍率45万倍で観察されたSTEM/EDSマップから、image-J等の画像解析ソフトを用いて網目で囲まれた領域のピクセル数を算出し、ピクセル当たりの面積を掛けること網目の面積を算出する。そして、得られた面積から円相当径を算出する。円相当径の標準偏差は合計100個の円相当径のデータから算出する。
【0070】
前記網目の形状は特に限定されないが、真円に近いことが望ましい。具体的には、前記網目の真円度の平均値が0.5以上であることが好ましい。網目の形状が真円である場合、真円度は1となる。そのため、前記真円度の平均値は、1.0以下であってよい。
【0071】
網目の真円度についても、上記円相当径と同様、STEM/EDSマップの画像解析により算出することが出来る。具体的には、倍率45万倍で観察されたSTEM/EDSマップを、image-J等の画像解析ソフトを用いて解析し、網目に内接する円と外接する円を描く。そして、内接円の直径を外接円の直径で除したものを真円度とする。合計100個の内接円について真円度を算出し、その平均値を網目の真円度とする。
【0072】
[製造方法]
本発明の一実施形態における表面処理鋼板の製造方法では、以下に説明する方法で、上記特性を備えた表面処理鋼板を製造することができる。
【0073】
本発明の一実施形態における表面処理鋼板の製造方法は、鋼板の少なくとも片面にクロム含有層を有する表面処理鋼板の製造方法であって、鋼板表面調整工程と、陰極電解処理工程を含む。以下、各工程について説明する。
【0074】
[鋼板表面調整工程]
本発明においては、後述する陰極電解処理に先立って、硫酸イオンを含有する水溶液と鋼板を接触させ、前記鋼板の表面に所定の量の前記水溶液が存在する状態で所定の時間保持する鋼板表面調整工程を実施することが重要である。
【0075】
水溶液の量:1.0~30.0g/m2
保持時間:0.1~20.0秒
最終的に得られる表面処理鋼板における線状領域の数を5.0本/100nm以上とするためには、鋼板表面調整工程において、硫酸イオンを含有する水溶液と鋼板を接触させ、前記鋼板の表面に前記水溶液が1.0g/m2~30.0g/m2存在する状態で0.1秒以上20.0秒以下保持する必要がある。
【0076】
前記鋼板表面調整工程によって、クロムより原子番号が小さい元素が濃化した線状領域が形成されるメカニズムは明らかではないが、次のように考えられる。鋼板を硫酸イオンを含有する水溶液と接触させると、該鋼板の表面ではFeの溶解反応と溶存酸素の分解反応が生じ、鋼板表面のpHが上昇する。その際、前記水溶液の量を上記範囲とすると、鋼板上における前記水溶液の厚さが非常に薄くなるため、水溶液中の溶存酸素が増加する。その結果、上記反応がさらに促進される。なお、鋼板上における前記水溶液の存在状態はとくに限定されないが、反応を均一にするという観点からは、前記水溶液は液膜状であることが好ましい。
【0077】
このときpHが上昇した鋼板表面に溶解したFeイオンが存在すると、前記Feイオンが酸化されて酸化Feとなり、鋼板表面に非常に微量に堆積する。のちの陰極電解処理工程においては、堆積した微量の酸化Feが還元されるとともにクロム含有層が形成される。また、微量に堆積した酸化Feが存在する部分と存在しない部分では、微視的には表面電位が異なる。その結果、クロムより原子番号が小さい元素が濃化した線状領域が形成されると推定している。
【0078】
より多くの線状領域を形成し、BPAフリー塗装加工部耐食性をさらに向上させるという観点からは、前記水溶液の量は、2.0g/m2以上ととることが好ましく、3.0g/m2以上とすることがより好ましい。同様の観点から、前記水溶液の量は、28.0g/m2以下とすることが好ましく、25.0g/m2以下とすることがより好ましい。
【0079】
また、より多くの線状領域を形成し、BPAフリー塗装加工部耐食性をさらに向上させるという観点からは、前記保持時間は、0.2秒以上とすることが好ましく、0.3秒以上とすることがより好ましい。同様の観点から、前記保持時間は、18.0秒以下とすることが好ましく、15.0秒以下とすることがより好ましい。
【0080】
なお、鋼板の表面に存在する水溶液の量は、フィルター式赤外吸収法による水分計で測定することができる。具体的には、フィルター式赤外吸収法による水分計により鋼板表面における吸光度を測定し、予め求めておいた検量線を用いて前記吸光度から水溶液の量を求める。なお、前記検量線は、以下の手順で作成することができる。まず、電子天秤上に鋼板を設置する。前記鋼板上に水溶液をピペットで滴下して鋼板表面全体に液膜を形成する。水溶液を滴下する前の鋼板重量と、水溶液を滴下した後の鋼板重量から、鋼板上に存在する水溶液の重量を求める。得られた水溶液の重量を鋼板の面積で割ることにより、単位面積あたりの水溶液の量を求める。同時に、フィルター式赤外吸収法による水分計により鋼板表面における吸光度を測定する。以上の測定を、水溶液の量を変化させながら複数回実施し、水溶液の量と吸光度の相関を表す検量線を作成する。前記検量線としては、水溶液の量と吸光度の相関を線形近似したものを用いることができる。
【0081】
鋼板表面に存在する水溶液の量を調整する方法は特に限定されず、任意の方法を用いることができる。例えば、リンガーロールで液を絞る方法や、ワイピングなどの方法を用いればよい。
【0082】
前記水溶液の組成はとくに限定されないが、希硫酸などの硫酸水溶液であることが好ましい。ここで、硫酸水溶液とは硫酸の水溶液を意味し、硫酸以外の成分が含まれる場合を包含する。
【0083】
後述する前処理工程の酸洗処理液として硫酸水溶液を使用する場合には、該酸洗処理液を前記鋼板表面調整工程における水溶液として用いることもできる。なお、酸洗処理液には一般的に、酸洗抑制剤や酸洗促進剤などが添加されているが、これらの成分は線状領域の形成を特に妨げない。したがって、酸洗処理液に酸洗抑制剤や酸洗促進剤などが添加されていても、その酸洗処理液を前記鋼板表面調整工程における水溶液として用いることができる。
【0084】
前記水溶液に含有する硫酸イオンの濃度の下限は特に限定されないが、3g/L以上であることが好ましく、5g/L以上であることがより好ましい。前記水溶液に含有する硫酸イオンの濃度の上限は特に限定されないが、200g/L以下であることが好ましく、150g/L以下であることがより好ましい。
【0085】
前記水溶液の温度の下限は特に限定されないが、10℃以上であることが好ましく、15℃以上であることがより好ましい。前記水溶液の温度の上限は特に限定されないが、70℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。
【0086】
前記鋼板表面調整工程の後は、前記鋼板に付着している前記水溶液を除去するために、水洗を施すことが好ましい。
【0087】
[陰極電解処理工程]
次に、3価クロムイオンを0.05mol/L以上含有する電解液中で鋼板を陰極電解処理する。前記陰極電解処理により、前記鋼板上にクロム含有層を形成することができる。前記3価クロムイオン源としては、3価クロムイオンを供給できる化合物であれば、任意のものを使用できる。前記3価クロムイオン源としては、例えば、塩化クロム、硫酸クロム、および硝酸クロムからなる群より選択される少なくとも1つを使用することができる。
【0088】
陰極電解処理を行う際の電解液の温度は、特に限定されないが、クロム含有層を効率的に形成するために、40℃以上とすることが好ましい。同様の理由から、前記電解液の温度を70℃以下とすることが好ましい。上述した表面処理鋼板を安定的に製造するためという観点からは、陰極電解処理工程において、電解液の温度をモニターし、電解液の温度を40~70℃の温度域に維持することが好ましい。
【0089】
陰極電解処理を行う際の電解液のpHは特に限定されないが、4.0以上とすることが好ましく、4.5以上とすることがより好ましい。また、前記pHは、7.0以下とすることが好ましく、6.5以下とすることがより好ましい。上述した表面処理鋼板を安定的に製造するためという観点からは、陰極電解処理工程において、電解液のpHをモニターし、上記pHの範囲に維持することが好ましい。
【0090】
上記陰極電解処理における電流密度は特に限定されず、所望の表面処理層が形成されるよう適宜調整すればよい。しかし、過度に電流密度が高いと陰極電解処理装置にかかる負担が過大となる。そのため、電流密度は200.0A/dm2以下とすることが好ましく、100A/dm2以下とすることがより好ましい。また、電流密度の下限についても特に限定されないが、過度に電流密度が低いと電解液中で6価Crが生成し、浴の安定性が崩れるおそれがある。そのため、電流密度は5.0A/dm2以上とすることが好ましく、10.0A/dm2以上とすることがより好ましい。
【0091】
鋼板に陰極電解処理を施す回数は特に限定されず、任意の回数とすることができる。言い換えると、1また2以上の任意の数のパスを有する電解処理装置を用いて陰極電解処理を行うことができる。例えば、鋼板(鋼帯)を搬送しながら複数のパスを通過させることによって連続的に陰極電解処理を実施することも好ましい。なお、陰極電解処理の回数(すなわち、パス数)を増加させると、それに見合った数の電解槽が必要となるため、陰極電解処理の回数(パス数)は20以下とすることが好ましい。
【0092】
1パスあたりの電解時間は、特に限定されない。しかし、1パスあたりの電解時間が長すぎると、鋼板の搬送速度(ラインスピード)が下がって生産性が低下する。そのため、1パス当たりの電解時間は5秒以下とすることが好ましく、3秒以下とすることがより好ましい。1パスあたりの電解時間の下限についても特に限定されないが、電解時間を過度に短くすると、それに合わせてラインスピードを上げる必要が生じ、制御が困難となる。そのため、1パス当たりの電解時間は0.005秒以上とすることが好ましく、0.01秒以上とすることがより好ましい。
【0093】
陰極電解処理によって形成されるクロム含有層のCr付着量は、電流密度と電解時間とパス数の積で表されるトータルの電気量密度で制御することができる。上述したように、Cr付着量が過度に少ないと、BPAフリー塗装加工部耐食性が損なわれ、Cr付着量が過度に多いと加工時にクロム含有層内で凝集破壊を引き起こす場合があるため、より安定的にBPAフリー塗装加工部耐食性を確保するという観点からは、クロム含有層の前記鋼板の片面当たりのCr付着量を適正な範囲とするようにトータルの電気量密度を制御することが好ましい。ただし、クロム含有層の前記鋼板の片面当たりのCr付着量とトータルの電気量密度の関係は、陰極電解処理工程に使用する装置の構成で変わるため、実際の電解処理条件は装置に合わせて調整すればよい。
【0094】
陰極電解処理を実施する際に使用する陽極の種類は特に限定されず、任意の陽極を使用できる。前記陽極としては、不溶性陽極を用いることが好ましい。前記不溶性陽極としては、Tiに白金族金属および白金族金属の酸化物の一方または両方を被覆した陽極、ならびにグラファイト陽極からなる群より選択される少なくとも1つを用いることが好ましい。より具体的には、前記不溶性陽極としては、基体としてのTiの表面に、白金、酸化イリジウム、または酸化ルテニウムを被覆した陽極が例示される。
【0095】
上記陰極処理工程では、鋼板へのクロム含有層の形成、液の持ち出しや持ち込み、水の蒸発等の影響で、電解液の濃度は常に変化する。陰極電解処理工程における電解液の濃度変化は、装置の構成や製造条件で変わるため、表面処理鋼板をより安定的に製造するという観点からは、陰極電解処理工程において電解液に含まれる成分の濃度をモニターし、後述する濃度範囲に維持することが好ましい。
【0096】
上記陰極電解処理工程後の鋼板は少なくとも1回水洗することが好ましい。水洗を行うことにより、鋼板の表面に残留している電解液を除去することができる。
【0097】
前記水洗は、特に限定されることなく任意の方法で行うことができる。例えば、浸漬処理を行うための浸漬槽の下流に水洗タンクを設け、浸漬後の鋼板を連続的に水に浸漬することができる。また、浸漬後の鋼板にスプレーで水を吹き付けることによって水洗を行ってもよい。
【0098】
前記水洗に用いる水は、特に限定されないが、逆浸透水(RO水)、イオン交換水、および蒸留水の少なくとも一つを用いることが好ましい。前記水洗に用いる水の電気伝導度は特に限定されないが、100μS/m以下であることが好ましく、50μS/m以下であることがより好ましく、30μS/m以下であることがさらに好ましい。
【0099】
前記水洗に用いる水の温度は、特に限定されず、任意の温度であってよい。しかし、過度に温度が高いと水洗設備に過剰な負担がかかるため、水洗に使用する水の温度は95℃以下とすることが好ましい。一方、水洗に使用する水の温度の下限も特に限定されないが、0℃以上であることが好ましい。前記水洗に使用する水の温度は室温であってもよい。
【0100】
上記水洗後には、任意に乾燥を行ってもよい。乾燥の方式は特に限定されず、例えば、通常のドライヤーや電気炉乾燥方式が適用できる。乾燥処理の際の温度は、表面処理皮膜の変質を抑制するという観点から、100℃以下とすることが好ましい。なお、下限は特に限定されないが、通常、室温程度である。
【0101】
なお、前記鋼板表面調整工程に先だって、鋼板に対して任意に前処理を施すことができる。前記前処理としては、脱脂、酸洗、および水洗の少なくとも1つを行うことが好ましい。
【0102】
脱脂を行うことにより、鋼板に付着した圧延油や防錆油等を除去することができる。前記脱脂は、特に限定されず任意の方法で行うことができる。脱脂後は鋼板表面に付着した脱脂処理液を除去するために水洗を行うことが好ましい。
【0103】
酸洗を行うことにより、鋼板の表面に存在する自然酸化膜が除去できるため、のちの鋼板表面調整工程で効果的に表面を調整することができる。前記酸洗は、特に限定されず任意の方法で行うことができる。前記酸洗の後は、鋼板表面に付着した酸洗処理液を除去するために水洗することが好ましい。酸洗処理液に硫酸イオンを含有する水溶液を使用した際には、そのまま前記鋼板表面調整工程に供することが好ましい。
【0104】
前記陰極電解処理工程で使用する電解液の調整方法は特に限定されないが、以下に述べる電解液調整工程を経ることでより、長期間安定的に陰極電解処理工程に供することができる。
【0105】
[電解液調製工程]
(i)混合
上記電解液調製工程では、まず、3価クロムイオン源、カルボン酸化合物、および水を混合して水溶液とする。
【0106】
前記3価クロムイオン源としては、3価クロムイオンを供給できる化合物であれば、任意のものを使用できる。前記3価クロムイオン源としては、例えば、塩化クロム、硫酸クロム、および硝酸クロムからなる群より選択される少なくとも1つを使用することができる。
【0107】
前記水溶液における3価クロムイオン含有源の含有量は3価クロムイオン換算で0.05mol/L以上であることが必要であり、0.08mol/L以上であることが好ましく、0.10mol/L以上であることがより好ましい。3価クロムイオン含有源の含有量の上限は特に限定されないが、3価クロムイオン換算で1.50mol/L以下であることが好ましく、1.30mol/L以下であることがより好ましい。前記3価クロムイオン源としては、Atotech社のBluCr(登録商標)TFS Aを使用することができる。
【0108】
前記カルボン酸化合物としては、特に限定されることなく、任意のカルボン酸化合物を使用できる。前記カルボン酸化合物は、カルボン酸およびカルボン酸塩の少なくとも一方であってよく、脂肪族カルボン酸および脂肪族カルボン酸の塩の少なくとも一方であることが好ましい。前記脂肪族カルボン酸の炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。また、前記脂肪族カルボン酸塩の炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることが好ましい。前記カルボン酸化合物の含有量は特に限定されないが、0.1mol/L以上5.5mol/L以下であることが好ましく、0.15mol/L以上5.3mol/L以下であることがより好ましい。前記カルボン酸化合物としては、Atotech社のBluCr(登録商標)TFS Bを使用することができる。
【0109】
前記水溶液を調製するための溶媒としては、水を使用することができる。前記水としては、イオン交換水および蒸留水の少なくとも一方を用いることが好ましい。
【0110】
陰極電解処理工程における陽極での6価クロム生成を効果的に抑制し、上述の電解液の安定性を向上させるため、前記水溶液中にはさらに少なくとも1種のハロゲン化物イオンを含有させることが好ましい。ハロゲン化物イオンの含有量は特に限定されないが、0.05mol/L以上3.0mol/L以下であることが好ましく、0.10mol/L以上2.5mol/L以下であることがより好ましい。前記ハロゲン化物イオンを含有させるには、Atotech社のBluCr(登録商標)TFS C1およびBluCr(登録商標)TFS C2を使用することができる。
【0111】
上述の水溶液には、6価クロムを添加しないことが好ましい。陰極電解処理工程においても6価クロムは原理的に形成しないことを確認しているが、仮に陽極などで微量の6価クロムが形成したとしても、ただちに3価クロムに還元されるため、電解液中の6価クロム濃度は増加しない。
【0112】
上述の水溶液は、3価クロムイオン以外の金属イオンを意図的に添加しないことが好ましい。上記金属イオンは限定されないが、Cuイオン、Znイオン、Feイオン、Snイオン、Niイオン等が挙げられ、それぞれ、0mg/L以上40mg/L以下であることが好ましく、0mg/L以上20mg/L以下であることがさらに好ましく、0mg/L以上10mg/L以下であることが最も好ましい。上記金属イオンのうち、Feイオンは、陰極電解処理工程および浸漬工程において上述の電解液中に溶解し、皮膜中に共析することがあるが、BPAフリー塗装加工部耐食性には影響しない。なお、Feイオン濃度は、建浴時に上記範囲とすることが好ましいが、陰極電解処理工程および浸漬工程においても、電解液中のFeイオン濃度を上記範囲に維持することが好ましい。Feイオンは、上記の範囲内で制御すれば、前記クロム含有層の形成を阻害せず、必要な量のクロム含有層を形成することができる。
【0113】
(ii)pHと温度の調整
次に、前記水溶液のpHを4.0~7.0に調整するとともに、前記水溶液の温度を40~70℃に調整することによって前記電解液を調製する。上述したように、長期間安定的に陰極電解処理工程に供するためには、単に3価クロムイオン源とカルボン酸化合物を水に溶解させるだけではなく、上記のとおりpHと温度を適正に制御することが好ましい。
【0114】
pH:4.0~7.0
前記電解液調製工程においては、混合後の水溶液のpHを4.0~7.0に調整する。前記pHは、4.5以上とすることが好ましい。また、前記pHは、6.5以下とすることが好ましい。
【0115】
pHの調製には任意の試薬を用いることができる。例えば、pHを下げる場合には、塩酸、硫酸、硝酸等を使用し、pHを上昇させる場合にはアンモニア水等を使用することが好ましい。
【0116】
温度:40~70℃
前記電解液調製工程では、混合後の水溶液の温度を40~70℃に調整する。なお、40~70℃の温度域での保持時間は特に限定されない。
【0117】
以上の手順で得られた電解液は、長期間安定的に陰極電解処理工程に供することができる。なお、上記の手順で製造された電解液は室温で保管することができる。
【0118】
本発明の表面処理鋼板の用途は特に限定されないが、例えば、食缶、飲料缶、ペール缶、18リットル缶など種々の容器の製造に使用される容器用表面処理鋼板として特に好適である。
【実施例】
【0119】
本発明の効果を確認するために、以下に述べる手順で表面処理鋼板を製造し、その特性を評価した。
【0120】
(電解液調製工程)
まず、表1に示す組成A~Gを有する電解液を、表1に示した各条件で調製した。すなわち、表1に示した各成分を水と混合して水溶液とし、次いで前記水溶液を表1に示したpHおよび温度に調整した。なお、電解液Gは、特許文献6の実施例で使用されている電解液に相当する。pHの上昇にはいずれもアンモニア水を使用し、pHの低下には、電解液A、B、Gでは硫酸、電解液C、Dでは塩酸、電解液E、Fでは硝酸を、それぞれ使用した。
【0121】
(鋼板に対する前処理)
鋼板としては冷延鋼板を使用した。より具体的には、板厚が0.17mmである缶用鋼板(T4原板)を使用した。前記鋼板に対し、前処理として、電解脱脂、水洗、および酸洗を順次施した。前記酸洗には、表2に示す硫酸イオン濃度の硫酸水溶液を使用し、鋼板を前記水溶液に浸漬することにより酸洗を行った。前記酸洗後の鋼板は、水洗せずに次の鋼板表面調整工程に供した。
【0122】
(鋼板表面調整工程)
次に、前記酸洗後の鋼板に、表面調整を施した。具体的には、前記鋼板の表面に残存している前記酸洗処理液をリンガーロールで絞ることにより、該酸洗処理液の付着量を表2に「水溶液の量」として示した量に調整した。その後、当該付着量を維持した状態で、表2に示した保持時間の間保持した後、水洗を行って前記酸洗処理液を除去した。
【0123】
(陰極電解処理工程)
次に、前記鋼板に対して、表2に示す条件で陰極電解処理を施した。なお、陰極電解処理の際の電解液は表1に示したpHと温度に保持した。陰極電解処理時の電流密度は40A/dm2とし、電解時間とパス数は適宜変化させた。陰極電解処理時の陽極としては、基体としてのTiに酸化イリジウムをコーティングした不溶性陽極を使用した。陰極電解処理を行った後は、電気伝導度は100μS/m以下の水で水洗し、ブロワーを用いて室温で乾燥を行った。
【0124】
得られた表面処理鋼板のそれぞれについて、上述した方法でクロム含有層の前記鋼板の片面当たりのクロム付着量、前記鋼板の片面当たりの酸化クロム付着量を測定した。得られた表面処理鋼板のそれぞれについて、クロムより原子番号が小さい元素が濃化した線状領域の数、網目構造の有無、網目の標準偏差、網目の真円度を上述の方法で測定した。測定結果は表3に示す。
【0125】
なお、いずれの実施例においても、陰極電解処理によって得られたクロム含有層には、金属クロムに加え、酸化クロム、炭化クロムなどのクロム化合物が含まれていた。前記クロム含有層における金属クロムとクロム化合物を構成する元素の合計含有量は90質量%以上であった。また、線状領域には、O、C、N、およびSからなる群より選択される少なくとも1つが濃化していた。特に、Oは、すべての実施例における線状領域において濃化していることが観察された。
【0126】
(BPAフリー塗装加工部耐食性)
次に、得られた表面処理鋼板のそれぞれについて、以下に述べる手順でBPAフリー塗装加工部耐食性を評価した。
【0127】
まず、表面処理鋼板の表面にBPAフリー塗料を塗装してBPAフリー塗装鋼板を作製した。前記BPAフリー塗料としては、缶内面用ポリエステル系塗料(BPAフリー塗料)を使用した。塗装においては、表面処理鋼板の表面に前記BPAフリー塗料を塗布した後、80℃で10分間の焼付を行った。塗装の付着量は60mg/dm2とした。
【0128】
得られたBPAフリー塗装鋼板に下地鋼板まで貫通するクロスカットを施し、次いで、エリクセン試験機を用いてクロスカットの交点部を中心に高さ4mmの張り出しを形成し、試験片とした。
【0129】
次いで、前記試験片を用いて、以下の手順で耐食性試験を行った。まず、試験液を入れたテフロン(登録商標)製容器に試験片を浸漬し、蓋をかぶせた。その状態で、温度121℃で1時間のレトルト処理を施した。その後、容器から試験片を取り出し、水洗して試験液を除去した後、ブロワーで乾燥させた。
【0130】
乾燥後の試験片に対してテープ剥離を2回実施した後、試験片の表面をマイクロスコープなどで観察し、塗膜剥離面積や錆などの変色面積を目視評価し、5段階で評点付けした。1が最も劣位で、5が最も優れる性能である。同じ評価を1水準あたり2つのサンプルで評価し、評点の相加平均値を算出し、BPAフリー塗装加工部耐食性の指標とした。実用上、従来のTFSと同等以上の評点であれば、BPAフリー塗装加工部耐食性に優れるものとして評価できるが、従来のTFSと同等以上の評点かつ評点が3.0以上であればより好ましい。
【0131】
なお、表面処理鋼板を缶に用いた場合の内容物による腐食環境の違いを模擬するために、上記耐食性試験は、下記(1)~(4)の組成を有する4つの試験液を用いて実施した。評価結果を表4に示す。
【0132】
(1)システイン
・リン酸二水素ナトリウム:3.56g/L
・リン酸水素二ナトリウム12水和物:14.52g/L
・Lシステイン塩酸塩一水和物:0.5g/L
【0133】
(2)乳酸
・乳酸:22.5g/L
【0134】
(3)クエン酸
・クエン酸:19.2g/L
・L(+)-アスコルビン酸:3.92g/L
【0135】
(4)食塩+酢酸
・食塩:18.7g/L
・酢酸:30g/L
【0136】
表4に示した結果から明らかなように、本発明の条件を満たす表面処理鋼板は、いずれも6価クロムを用いずに製造することが可能であり、かつ、従来のTFS同等以上の優れたBPAフリー塗装耐食性を兼ね備えていた。ただし、(4)食塩+酢酸の試験液でのレトルト処理は、非常に過酷な腐食環境にあるため、従来のTFSと同様、本発明の条件を満たす表面処理鋼板の評点は、3.0未満だった。したがって、特に酢酸を含む内容物に対して本発明の表面処理鋼板を適用する際は、BPAフリー塗料による塗装をダブルコートとすることや、レトルト処理条件を適正化することなど、従来のTFSを使用する際と同様の注意を払うことに留意する必要がある。
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
【要約】
6価クロムを用いることなく製造することができ、かつ、優れたBPAフリー塗装加工部耐食性を兼ね備えた表面処理鋼板を提供する。鋼板と、前記鋼板の少なくとも一方の面に配されたクロム含有層とを備える表面処理鋼板であって、前記クロム含有層を表面方向から観察した際、クロムより原子番号が小さい元素が濃化した線状領域が存在し、前記線状領域の数が、5.0本/100nm以上である、表面処理鋼板。