(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】脳機能計測装置及び脳機能計測方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/05 20210101AFI20231212BHJP
【FI】
A61B5/05
(21)【出願番号】P 2019189092
(22)【出願日】2019-10-16
【審査請求日】2022-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】510108951
【氏名又は名称】公立大学法人広島市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100007983
【氏名又は名称】笹川 拓
(72)【発明者】
【氏名】樋脇 治
【審査官】高松 大
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0059760(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0219732(US,A1)
【文献】特表2008-543416(JP,A)
【文献】米国特許第05441495(US,A)
【文献】特開2015-217144(JP,A)
【文献】特表2009-528081(JP,A)
【文献】国際公開第2007/097713(WO,A1)
【文献】米国特許第05305751(US,A)
【文献】特開平04-303416(JP,A)
【文献】特開2012-152515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の頭皮上に配置され
、かつ、発生する磁力線の方向及び強度の変更設定が可能な電磁石からなる磁界発生手段と、前記頭皮上に配置され、前記磁界発生手段
から発生し、大脳皮質部の活動状態を反映した信号としてループ状の経路で
前記大脳皮質部を経由して帰還する磁力線の強度を検出する磁界検出手段とを備えることを特徴とする脳機能計測装置。
【請求項2】
前記
電磁石が、ループ状の磁界を脳の局所的な部位に発生させるコイルであることを特徴とする、請求項1に記載の脳機能計測装置。
【請求項3】
前記電磁石が、複数個のコイルへの電流の印加方向及び印加強度によって磁力線の方向及び強度の変更設定が可能な電磁石であることを特徴とする、請求項2に記載の脳機能計測装置。
【請求項4】
前記磁界検出手段が、前記磁界発生手段の直上に配置された、1軸磁界検出器、又は2軸磁界検出器、又は3軸磁界検出器であることを特徴とする、請求項1に記載の脳機能計測装置。
【請求項5】
前記磁界発生手段と前記磁界検出手段とが磁気シールド容器内に設置されていることを特徴とする、請求項1に記載の脳機能計測装置。
【請求項6】
被験者の頭皮上に配置され、
かつ、発生する磁力線の方向及び強度の変更設定が可能な電磁石からなる磁界発生手段を用いて脳最外部の大脳皮質部に磁界を照射し、前記磁界発生手段からの磁力線がループ状の経路で帰還する現象を利用して、前記大脳皮質部の活動状態を反映した信号として
当該大脳皮質部を経由して帰還する磁力線の強度を頭皮上に配置された磁界検出手段で検出することで、非侵襲で脳機能を計測することを特徴とする、脳機能計測方法。
【請求項7】
前記
電磁石として、ループ状の磁界を脳の局所的な部位に発生させる複数個のコイルを用いることを特徴とする、請求項6に記載の脳機能計測方法。
【請求項8】
前記電磁石として、複数個のコイルへの電流の印加方向及び印加強度によって磁力線の方向及び強度の変更設定が可能な電磁石を用いることを特徴とする、請求項7に記載の脳機能計測方法。
【請求項9】
前記磁界検出手段として、前記磁界発生手段の直上に配置された、1軸磁界検出器、又は2軸磁界検出器、又は3軸磁界検出器を用いることを特徴とする、請求項6に記載の脳機能計測方法。
【請求項10】
前記磁界発生手段と前記磁界検出手段とを、磁気シールド容器内に設置して用いることを特徴とする、請求項6に記載の脳機能計測方法。
【請求項11】
前記電磁石を構成する複数個のコイルに印加する電流の方向及び強度を変更することで、磁力線の方向及び強度を変更選択して、前記磁界検出手段で磁界を検出することを特徴とする、
請求項7乃至請求項10のうち、いずれか1に記載の脳機能計測方法。
【請求項12】
前記磁界発生手段の磁界方向の長さを変えることにより、生体内部に照射する磁界の深度を調整して、前記磁界検出手段で磁界を検出することを特徴とする、
請求項7乃至請求項11のうち、いずれか1に記載の脳機能計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石等の磁界発生手段と、当該磁界発生手段のループ状の経路で帰還する磁力線の検出手段とを用いた、脳機能計測装置及び脳機能計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非侵襲で脳機能を計測する方法として、例えば機能的近赤外分光法(Near Infra-Red Spectroscopy:NIRS)が提案されている。この方法は、目や耳等の感覚器から取り込んだ視覚や聴覚等の情報を電気信号に変えて脳に伝搬する際の神経細胞の情報伝達機能を、脳の毛細血管を流れる酸素化ヘモグロビン量の変化として、近赤外光を使用して計測する方法である。
【0003】
特許文献1及び2は、機能的近赤外分光法を利用して大脳皮質における脳活動を計測する非侵襲的脳機能計測装置を開示している。この計測装置は、被験者の頭皮部(以下、頭皮と略記することがある。)に配置した光源から脳に近赤外光を照射し、この照射により生じた反射光及び散乱光を同じく頭皮上に配置した受光器によって受光することで、脳の活動状態を脳の毛細血管の血流変化として計測する発明である。
【0004】
また、脳を透過した近赤外光の計測による非侵襲的脳機能計測法として、特許文献3に係る発明が開示されており、近赤外光の発光源を口腔内に配置して脳底部から頭皮方向に近赤外光を照射し、頭皮上に配置した受光器によって透過光を受光することで、脳の活動状況を脳の毛細血管の血流変化として計測している。この場合、脳の深い部分を近赤外光が透過するため、脳内部の活動を反映した脳機能計測が可能である。
【0005】
さらに、磁界発生手段を用いた非侵襲的脳機能計測装置として、特許文献4に係る発明が開示されており、磁石等の磁界発生源を口腔内に配置し、脳底部から頭皮方向に磁界を発生させ、頭皮上に配置した磁界検出手段によって透過磁界を計測することで、脳の活動状況を磁界の変化として計測している。
【0006】
また、磁石を用いた非侵襲的脳機能計測装置として、非特許文献1に係る発明が開示されており、頭皮上に設置した磁界発生手段から静磁界を頭部内部に照射し、脳最外部の大脳皮質を経由して頭皮部に帰還した磁力線の強度(以下、磁界強度と表記することがある。)を頭皮部に設置した磁界検出手段によって計測することで、脳の活動状況を磁界強度の変化として計測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭57-115232号公報
【文献】特開昭63-275323号公報
【文献】特開2010-082370号公報
【文献】特開2018-122019号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】樋脇治、大脳皮質を透過する静磁界を用いた非侵襲的脳信号計測技術の開発、NEURO2019(第42回日本神経科学大会、第62回日本神経化学会大会合同大会)抄録集、1O-08a1-3、2019年7月25―28日、新潟
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1及び2に開示されている計測装置では、近赤外光の光源がその反射光及び散乱光を受光する受光器と同じ頭皮上に位置するため、例えば数cm程度の隔たり距離となり、空間分解能が低く、脳の浅い部分の脳活動しか計測することができず、脳内部の脳機能を高精度に計測することができない。
また、酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンの吸光度変化を高々数秒オーダーでしか計測することができず、時間的な分解能も低い。
【0010】
特許文献3に開示されている脳機能計測装置では、近赤外光の発光源を口腔内に配置するため、発光源に電源を供給しなければならず、例えばリード線や信号線を口腔内に引き込んだり、電池を口腔内に置いたりする必要があり、被験者に不快感を与えると共に、計測作業が煩雑になる。また、近赤外光が脳底部に位置するため、脳底部に近い感覚器である、例えば目の網膜に悪影響を与えることも懸念される。さらに、受光器を頭皮に密着させなければならず、頭髪等が受光器と頭皮の間に挟まると計測感度が低下してしまう。
【0011】
特許文献4に開示されている脳機能計測装置では、磁石等の磁界発生源を口腔内に配置し、脳底部から頭皮方向に磁界を発生させ、頭皮上に配置した磁界検出器によって透過磁界を計測することで、特許文献3に開示された脳機能計測装置のいくつかの課題が解消されている。しかしながら、良く知られているように磁石等からの静磁界はN極からS極にループ状の経路で帰還するため、脳の活動部位と頭皮上の計測点にずれが生じ、磁石と磁界検出器を結んだ直線近傍の大脳皮質部を活動部位として特定することが困難になるという問題がある。
【0012】
非特許文献1に開示されている脳機能計測装置では、頭皮上に設置した永久磁石からなる磁界発生手段から磁界を頭部内部に照射し、脳最外部の大脳皮質を経由して頭皮部に帰還した磁界強度を頭皮部に設置した磁界検出手段によって計測することで、特許文献4に開示された脳機能計測装置のいくつかの課題が解消されている。しかしながら、磁界発生手段と磁界検出手段を所定の距離を隔ててセットとして頭皮上に設置する必要があり磁界検出手段の高密度化が困難になる、磁界発生手段として永久磁石を用いているため頭部内部に照射する磁界強度や磁界方向を容易に変更することができないという問題がある。
【0013】
本発明は、上記の課題に鑑み、脳の活動部位を正確かつ簡便に特定できる高精度な計測を可能とする脳機能計測装置及び脳機能計測方法を提供することを目的とする。
より詳細には、頭皮上に配置した電磁石から磁界を頭部内部に照射し、電磁石からの磁力線がループ状の経路で帰還する現象を利用して、脳最外部の大脳皮質部を経由して頭皮に帰還した磁力線の強度を電磁石の直上に設置した磁界検出器で計測することで脳の活動部位及び活動状態を計測する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
係る目的を達成するための本発明の脳機能計測装置は、頭皮上に配置された磁界発生手段と、前記磁界発生手段の直上に配置され、前記磁界発生手段によって発生した磁界を検出する磁界検出手段とを備えた脳機能計測装置であって、前記磁界発生手段から脳最外部の大脳皮質部に磁界を照射し、前記磁界発生手段からの磁力線がループ状の経路で帰還する現象を利用して、前記大脳皮質部の活動状態を反映した信号として帰還する磁力線の強度を前記磁界検出手段で検出することで、非侵襲で脳機能を計測することを特徴とする。
【0015】
前記磁界発生手段は、磁界を脳の局所的な位置に照射するために、それぞれに所定の方向の電流が印加されるように構成・配置された複数個のコイルからなる電磁石としても良い。
【0016】
前記磁界発生手段を構成する電磁石は、電流の印加方向及び印加強度によって複数個のコイルから発生する磁力線の方向及び強度の変更設定が可能としても良い。
【0017】
前記大脳皮質部の神経細胞の活動状態を反映した信号として帰還する磁界を検出する前記磁界検出手段は、前記磁界発生手段の直上に配置された、1軸磁界検出器、又は2軸磁界検出器、又は3軸磁界検出器としても良い。
【0018】
前記磁界発生手段と前記磁界検出手段は一組のセット(以下、検出端と略記することがある。)として、他の磁界発生手段あるいは測定環境に存在する地磁気等の磁界との干渉を回避するため、磁気シールド容器内に設置することとしても良い。
【0019】
係る目的を達成するための本発明の脳機能計測方法は、頭皮上に配置された磁界発生手段を用いて脳最外部の大脳皮質部に磁界を照射し、前記磁界発生手段からの磁力線がループ状の経路で帰還する現象を利用して、前記大脳皮質部の神経細胞の活動状態を反映した信号として帰還する磁力線の強度を磁界検出手段で検出することで、非侵襲で脳機能を計測することを特徴とする。
【0020】
前記磁界発生手段としては、複数個のコイルからなる電磁石を用いることができる。
【0021】
前記磁界発生手段を構成する電磁石としては、電流の印加方向及び印加強度によって複数個のコイルから発生する磁力線の方向及び強度の変更設定が可能な電磁石を用いることができる。
【0022】
前記大脳皮質部の神経細胞の活動状態を反映した信号として帰還する磁界を検出する前記磁界検出手段としては、前記磁界発生手段の直上に配置された、1軸磁界検出器、又は2軸磁界検出器、又は3軸磁界検出器を用いることができる。
【0023】
前記磁界発生手段と前記磁界検出手段は一組のセット(以下、検出端と略記することがある。)として、他の磁界発生手段あるいは測定環境に存在する地磁気等の磁界との干渉を回避するため、磁気シールド容器内に設置して用いることができる。
【0024】
前記磁界発生手段に印加する電流の方向及び強度を変更することで、磁力線の方向及び強度を変更選択して、大脳皮質部の活性状態を検出することとしてもよい。
【0025】
また、コイルの磁界方向の長さを変えることによって生体内部に照射する磁界の深度を調整し、大脳皮質部の深さ位置によって異なる活性状態を検出することとしてもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の脳機能計測装置及び脳機能計測方法によれば、比較的簡便な装置構成で大脳皮質部の神経細胞の活性状態を非侵襲で計測することができ、磁界信号を用いることで、検出端と頭皮の間に頭髪等が挟みこまれた時にも、その影響を受けることなく高精度な計測が可能となる。また、電気や光を使用する計測方法のような頭皮との接触をよくするための頭髪等の処置を行なう必要がない。
また、磁界発生手段としてそれぞれに所定の方向の電流が印加されるように構成・配置された複数個のコイルからなる電磁石を用いることで、複数個のコイル位置の重心点の略下方の局所的な位置に磁界を照射することが可能になる。
さらに、コイルに印加する電流の方向及び強度の変更調整によって磁力線の方向及び強度の変更設定が可能になり、一度の検出端装着で照射する磁力線の方向や強度を可変とすることができ、大脳皮質部の神経線維の活性化状態を詳細に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】二つのコイルからなる電磁石の場合を例に、本発明の脳機能計測装置及び脳機能計測方法の概念を示す図である。
【
図2】二つのコイルからなる電磁石の場合を例に、磁気シールドされた検出端を用いた計測の概念を示す図である。
【
図3】二つのコイルからなる電磁石の場合を例に、磁界発生手段の極性を変えた計測の概念を示す図であり、(a)は磁界検出手段に近いコイルから頭皮に向かう方向に磁界を発生するようにしたもの、(b)は磁界検出手段に近いコイルから頭皮に向かう方向とは反対向きに磁界が発生するようにしたものである。
【
図5】右手首正中神経刺激時の脳活動計測方法と計測結果を示す図であり、(a)は頭皮上への16個の検出端の配置を示したもの、(b)はそれぞれの検出端で計測した時系列信号を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は磁界を利用した方式であることから、頭皮上の複数点での計測結果から脳のどの部位が活性化しているのかを評価する逆問題の解を求めるに当たり、脳波方式(Electro-encephalography:EEG)に比べ、以下のような優位性を備えている。
1.頭部の透磁率が略均一であることから、神経細胞から頭皮までに介在する物質(脳脊髄液、硬膜、骨等、以下、介在物質と略記することがある。)の誘電率が異なることによる影響を受けやすい脳波方式に比べ、精度の高い計測値が得られる。
2.上記逆問題の解を求める際の介在物質の考慮が不要となり、アルゴリズムの簡略化が可能となる。
【0029】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図中、同一機能を有するものについては同一番号を付し、説明を割愛することがある。
【0030】
図1は二つのコイルからなる電磁石の場合を例に、本発明の脳機能計測装置及び脳機能計測方法の概念を示したものであり、被験者の頭皮1の上部に配置した二つのコイルに逆方向の電流が印加されるように構成・配置された電磁石からなる磁界発生手段2によって、脳活動状態の計測対象となる大脳皮質部3に磁界4を照射する。
この時、図に示すように、磁界は二つのコイルの中間点の略下方の局所的な位置に照射されることになる。
脳の活動との相互作用によって変化を受けた後に頭皮1に帰還した磁界4を磁界検出手段5によって計測することで、大脳皮質部3の活性状態を計測する。
磁界検出手段5で計測した大脳皮質部3の活性状態を示す信号は、図には示さなかったアナログ/デジタル変換器等を介して、時系列信号として図には示さなかったパソコン等で構成される機器に格納され、必要に応じで信号処理・演算等が行われる。
また、
図1では一組の磁界発生手段2と磁界検出手段5による計測状態のみを示したが、必要に応じて、複数組の磁界発生手段2と磁界検出手段5を被験者の頭皮1の上部に配置し、複数点の大脳皮質部3の活動状態を同時に計測できることは勿論である。
【0031】
図2は二つのコイルからなる電磁石の場合を例に、他の磁界発生手段2あるいは測定環境に存在する地磁気等の磁界との干渉を回避するため、空洞円柱容器型の磁気シールド容器
8の中に検出端(磁界発生手段2と磁界検出手段5)を配置した状態を示したものであり、検出端は磁気シールド容器
8の底面部に載置され、取り付け盤
6を介して頭皮1に配置されている。検出端を磁気シールド容器
8で覆うことにより、計測時のノイズとなる磁界の影響を抑制した、高精度な計測が可能となる。
なお、磁界の照射、磁界の検出を可能とするため、磁気シールド容器
8の底面部は磁気シールド効果を有しない材料で作製されていることは勿論である。
【0032】
図3は二つのコイルからなる電磁石の場合を例に、電磁石を構成する二つのコイルに印加する電流の方向を変更することで、磁界発生手段2から大脳皮質部3に照射される磁界4の極性を変更した検出端構造を示したものである。図において(a)は磁界検出手段5に近いコイルから頭皮1に向かう方向に磁界4を発生するようにしたもの、(b)は磁界検出手段5に近いコイルから頭皮1に向かう方向とは反対方向に磁界4を発生するようにしたものである。
磁界4と大脳皮質の活動の相互作用はそれらの相対的な方向によって変化するため、必要に応じて(a)、(b)の方式を使い分けることで、大脳皮質内の神経線維の活動の方向に対応した磁界検出手段5での計測値を得ることが可能となる。
また、電磁石に印加する電流の強度を変更することで磁界発生手段2から大脳皮質部3に照射される磁界4の強度を変更することができ、大脳皮質内の神経線維の活動を、磁界4の強度を変更した形で計測することが可能となる。
【0033】
また、コイルの磁界方向の長さを変えることによって生体内部に照射する磁界の深度を調整し、大脳皮質部の深さ位置によって異なる活性状態を検出することが可能である。
【0034】
図1から
図3では磁界発生手段として印加電流方向が異なる二つのコイルからなる電磁石を用いた例を示したが、どちらか一方のコイルを省略して1個のコイルからなる電磁石を磁界発生手段として使用することも可能であることは勿論である。
【0035】
また、磁界発生手段として、電磁石に替えて、環境に存在する地磁気等を利用することもできる。
【実施例】
【0036】
本発明の脳機能計測装置及び脳機能計測方法の一実施例とその結果について、図を用いて説明する。図中、同一機能を有するものについては同一番号を付し、説明を割愛することがある。
【0037】
図4は16個の検出端を用いて、左手首の正中神経の電気刺激試験に対して大脳皮質部3に誘発される信号の計測を行った時の実験状態を示したものである。
磁界発生手段2には脳の局所的な部位に磁界を発生する直径10mm、30巻きの8字型コイルの電磁石を用い、磁界検出手段5は、アイチ・マイクロ・インテリジェント社製の高感度センサMI-CB-1DHを用いた。また、取り付け盤6は直径13mmのプラスチック円板で作製した。
実験では、磁界発生手段2と磁界検出手段5は、頭皮部に近接させて配置した。磁界発生手段2は脳を通過する磁界4の方向が被験者頭部の前後方向になるように設置し、磁界検出手段5は前側のコイルの中央軸付近に配置した。磁界発生手段2により発生する磁界が脳において前向きになるように磁界発生手段2であるコイルに200mAの電流を流した。
なお、電気刺激は、正中神経にパルス幅300µs、強度3.6mAの電気刺激を表面刺激電極により与えた。刺激間隔は0.8sに設定し、刺激前100msから刺激後500msまでの信号を計測し、500回の計測データの加算平均を計算することにより体性感覚誘発信号を得た。
【0038】
図5は実験結果の概要を示したものであり、(a)は被験者頭皮部への16個検出端配置部位を、(b)は16個の磁気検出手段5から得られた実際の時系列信号波形を示したものである。
なお、検出端の配置部位は脳波計測に用いられる拡張国際10-20法の電極配置におけるCFz, CF2, CF4, CF6, Cz, C2, C4, C6, CPz, CP2, CP4, CP6, Pz, P2, P4, P6の16か所である。
【0039】
右手の正中神経刺激に対して活動する大脳皮質の部位は左大脳半球の第一次体性感覚野の手を支配する領域であるが、この部位に最も近い拡張国際10-20法の位置はCP4である。試作した脳機能計測装置及び脳機能計測方法によって計測した結果、
図5(b)に示す通り、このCP4の部位に限局して大きな振幅の信号が観察され、本発明の有効性が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、簡便な装置構成と簡単な手順で脳の活性状態を時間的にも空間的にも高精度に計測することが可能となり、非侵襲での脳機能計測に適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 被験者の頭皮
2 磁界発生手段
3 大脳皮質部
4 磁界
5 磁界検出手段
6 取り付け盤
7 磁界発生手段であるコイルに流れる電流の向き
8 磁気シールド容器