(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】超硬合金及びそれを用いた切削工具
(51)【国際特許分類】
C22C 29/08 20060101AFI20231212BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20231212BHJP
C22C 1/051 20230101ALN20231212BHJP
B22F 1/00 20220101ALN20231212BHJP
B23B 51/00 20060101ALN20231212BHJP
【FI】
C22C29/08
B23B27/14 B
C22C1/051 G
B22F1/00 M
B23B51/00 M
(21)【出願番号】P 2022576875
(86)(22)【出願日】2022-05-25
(86)【国際出願番号】 JP2022021423
【審査請求日】2023-05-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】山川 隆洋
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 和弘
(72)【発明者】
【氏名】内野 克哉
(72)【発明者】
【氏名】山本 剛志
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-131974(JP,A)
【文献】特開2008-038242(JP,A)
【文献】特開2011-208268(JP,A)
【文献】特開2001-239411(JP,A)
【文献】特開2006-255825(JP,A)
【文献】特開2004-162080(JP,A)
【文献】KAWAKAMI Masaru, TERADA Osamu , HAYASHI Koji,Effect of Sintering Cooling Rate on V Segregation Amount at WC/Co Interface in VC-doped WC-Co Fine-Grained Hardmetal,粉体および粉末冶金,Vol.51 , No8,日本,2004年,p.576-585,https://doi.org/10.2497/jjspm.51.576
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/08
B22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化タングステン粒子からなる第1相と、コバルトを主成分として含む第2相と、を備える超硬合金であって、
前記超硬合金の前記第1相及び前記第2相の合計含有率は、97体積%以上であり、
前記第2相は、タングステン、クロム、バナジウム及びコバルトを含み、タングステン、クロム、バナジウム及びコバルトの合計に対するコバルトの百分率が70質量%以上であり、
前記炭化タングステン粒子の円相当径の平均値は、0.8μm以下であり、
前記超硬合金のコバルト含有率は、3質量%以上10質量%以下であり、
前記超硬合金のバナジウム含有率は、0.01質量%以上0.30質量%以下であり、
前記超硬合金のクロム含有率は、0.2質量%以上0.8質量%以下であり、
前記炭化タングステン粒子の(0001)の結晶面と、前記第2相との界面領域におけるバナジウム含有率の最大値は、15原子%以下であ
り、
前記界面領域は、前記炭化タングステン粒子の(0001)の結晶面と、前記第2相との界面から、前記炭化タングステン粒子側への距離が20nm以内の領域、および、前記界面から前記第2相側への距離が20nm以内の領域であり、
前記バナジウム含有率の最大値は、5つの異なる前記炭化タングステン粒子の(0001)の結晶面と、前記第2相との界面領域である5つの界面領域のバナジウム含有率の最大値の平均値である、超硬合金。
【請求項2】
前記超硬合金は、バナジウムを10原子%以上含む第3相粒子からなる第3相を備え、
前記超硬合金の前記第3相の含有率は、0体積%超1体積%以下であり、
前記第3相粒子の円相当径の最大値は、0.5μm以下である、請求項1に記載の超硬合金。
【請求項3】
前記界面領域におけるクロム含有率の最大値は、20原子%以下である、請求項1又は請求項2に記載の超硬合金。
【請求項4】
請求項1
又は請求項2に記載の超硬合金からなる刃先を備える、切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超硬合金及びそれを用いた切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント回路基板の穴あけでは、φ1mm以下の小径の穴あけが主流である。このため、小径ドリル等の工具に用いられる超硬合金としては、硬質相が平均粒径1μm以下の炭化タングステン粒子からなる、いわゆる微粒超硬合金が用いられている(例えば、特許文献1~特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-92090号公報
【文献】特開2012-52237号公報
【文献】特開2012-117100号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の超硬合金は、
炭化タングステン粒子からなる第1相と、コバルトを主成分として含む第2相と、を備える超硬合金であって、
前記超硬合金の前記第1相及び前記第2相の合計含有率は、97体積%以上であり、
前記炭化タングステン粒子の円相当径の平均値は、0.8μm以下であり、
前記超硬合金のコバルト含有率は、3質量%以上10質量%以下であり、
前記超硬合金のバナジウム含有率は、0.01質量%以上0.30質量%以下であり、
前記炭化タングステン粒子の(0001)の結晶面と、前記第2相との界面領域におけるバナジウム含有率の最大値は、15原子%以下である、超硬合金である。
【0005】
本開示の切削工具は、上記の超硬合金からなる刃先を備える、切削工具である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、WC/第2相界面領域におけるバナジウム含有率の測定方法を説明するための図である。
【
図2】
図2は、本実施形態の切削工具(小径ドリル)の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、実施例で測定される摩耗痕の幅を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
近年、5G(第5世代移動通信システム)の拡大に伴い、情報の高容量化が進んでいる。このため、プリント回路基板には更なる耐熱性が求められている。プリント回路基板の耐熱性の向上のため、プリント回路基板を構成する樹脂やガラスフィラーの耐熱性を向上させる技術が開発されている。一方、これによりプリント回路基板の難削化が進んでいる。このため、プリント回路基板の微細加工において、切削工具の摩耗や折損が生じやすい傾向にある。
【0008】
そこで、本開示は、特にプリント回路基板の微細加工に用いられる切削工具の材料として用いられた場合においても、長い工具寿命を有する切削工具を提供することのできる超硬合金及びそれを備える切削工具を提供することを目的とする。
【0009】
[本開示の効果]
本開示の超硬合金によれば、特にプリント回路基板の微細加工に用いた場合においても、長い工具寿命を有する切削工具を提供することが可能となる。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の超硬合金は、
炭化タングステン粒子からなる第1相と、コバルトを主成分として含む第2相と、を備える超硬合金であって、
前記超硬合金の前記第1相及び前記第2相の合計含有率は、97体積%以上であり、
前記炭化タングステン粒子の円相当径の平均値は、0.8μm以下であり、
前記超硬合金のコバルト含有率は、3質量%以上10質量%以下であり、
前記超硬合金のバナジウム含有率は、0.01質量%以上0.30質量%以下であり、
前記炭化タングステン粒子の(0001)の結晶面と、前記第2相との界面領域におけるバナジウム含有率の最大値は、15原子%以下である、超硬合金である。
【0011】
本開示の超硬合金によれば、特にプリント回路基板の微細加工に用いた場合においても、長い工具寿命を有する切削工具を提供することが可能となる。
【0012】
(2)上記(1)において、前記超硬合金は、バナジウムを10原子%以上含む第3相粒子からなる第3相を備え、
前記超硬合金の前記第3相の含有率は、0体積%超1体積%以下であり、
前記第3相粒子の円相当径の最大値は、0.5μm以下であることが好ましい。
【0013】
これによると、折損の起点となり得る、円相当径が0.5μm超の粗大な第3相粒子が存在しないため、該超硬合金を用いた切削工具の耐折損性が向上する。
【0014】
(3)上記(1)又は(2)において、前記界面領域におけるクロム含有率の最大値は、20原子%以下であることが好ましい。
【0015】
これによると、界面領域にクロムが存在することに起因する、WC粒子とCo粒子との界面強度の低下が抑制される。よって、該超硬合金では、界面強度の低下に伴うWC粒子の脱落が生じ難く、該超硬合金を用いた切削工具は、優れた耐摩耗性及び耐折損性を有することができる。
【0016】
(4)本開示の切削工具は、上記(1)から(3)のいずれかの超硬合金からなる刃先を備える、切削工具である。
【0017】
本開示の切削工具は、特にプリント回路基板の微細加工に用いた場合においても、長い工具寿命を有することができる。
【0018】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の超硬合金及び切削工具の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。本開示の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、必ずしも実際の寸法関係を表すものではない。
【0019】
本開示において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0020】
本開示において、数値範囲下限及び上限として、それぞれ1つ以上の数値が記載されている場合は、下限に記載されている任意の1つの数値と、上限に記載されている任意の1つの数値との組み合わせも開示されているものとする。例えば、下限として、a1以上、b1以上、c1以上が記載され、上限としてa2以下、b2以下、c2以下が記載されている場合は、a1以上a2以下、a1以上b2以下、a1以上c2以下、b1以上a2以下、b1以上b2以下、b1以上c2以下、c1以上a2以下、c1以上b2以下、c1以上c2以下が開示されているものとする。
【0021】
本開示において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。
【0022】
本開示中の結晶学的記載においては、個別方位を[]、集合方位を<>、個別面を()、集合面を{}でそれぞれ示している。また結晶学上の指数が負であることは、通常、”-”(バー)を数字の上に付すことによって表現されるが、本開示中では数字の前に負の符号を付している。
【0023】
[実施形態1:超硬合金]
本開示の一実施形態(以下、「本実施形態」とも記す。)の超硬合金は、
炭化タングステン粒子からなる第1相と、コバルトを主成分として含む第2相と、を備える超硬合金であって、
該超硬合金の該第1相及び該第2相の合計含有率は、97体積%以上であり、
該炭化タングステン粒子の円相当径の平均値は、0.8μm以下であり、
該超硬合金のコバルト含有率は、3質量%以上10質量%以下であり、
該超硬合金のバナジウム含有率は、0.01質量%以上0.30質量%以下であり、
該炭化タングステン粒子の(0001)の結晶面と、該第2相との界面領域におけるバナジウム含有率の最大値は、15原子%以下である、超硬合金である。
【0024】
本実施形態の超硬合金によれば、特にプリント回路基板の微細加工に用いた場合においても、長い工具寿命を有する切削工具を提供することが可能となる。この理由は明らかではないが、以下の(i)~(v)の通りと推察される。
【0025】
(i)本実施形態の超硬合金は、複数の炭化タングステン粒子(以下、「WC粒子」とも記す。)からなる第1相と、コバルトを主成分として含む第2相と、を備え、該超硬合金の第1相及び第2相の合計含有率は、97体積%以上である。これによると、超硬合金は高い硬度及び強度を有し、該超硬合金を用いた切削工具は、優れた耐摩耗性及び耐折損性を有することができる。
【0026】
(ii)本実施形態の超硬合金において、WC粒子の円相当径の平均値は、0.8μm以下である。これによると、超硬合金は高い硬度を有し、該超硬合金を用いた切削工具は、優れた耐摩耗性を有することができる。また、該超硬合金は優れた強度を有し、該超硬合金を用いた切削工具は、優れた耐折損性を有することができる。
【0027】
(iii)本実施形態の超硬合金のコバルト含有率は、3質量%以上10質量%以下である。これによると、超硬合金は高い硬度及び強度を有する。該超硬合金を用いた切削工具は、優れた耐摩耗性及び耐折損性を有することができる。
【0028】
(iv)本実施形態の超硬合金のバナジウム含有率は、0.01質量%以上0.30質量%以下である。これによると、粗大なWC粒子の発生が抑制され、超硬合金の組織が緻密化される。よって、該超硬合金は優れた硬度及び強度を有し、該超硬合金を用いた切削工具は、優れた耐摩耗性及び耐折損性を有することができる。
【0029】
(v)本実施形態の超硬合金において、炭化タングステン粒子の(0001)の結晶面と、第2相との界面領域におけるバナジウム含有率の最大値は、15原子%以下である。これによると、該界面領域において、バナジウムが濃化して存在するバナジウム濃化層の形成が抑制されている。このため、バナジウム濃化層に起因するWC粒子と第2相との界面強度の低下が抑制される。よって、該超硬合金では、界面強度の低下に伴うWC粒子の脱落が生じ難く、該超硬合金を用いた切削工具は、優れた耐摩耗性及び耐折損性を有することができる。
【0030】
<超硬合金の組成>
≪第1相、第2相及び第3相の含有率≫
本実施形態の超硬合金は、炭化タングステン粒子からなる第1相と、コバルトを主成分として含む第2相と、を備える。該超硬合金の第1相及び第2相の合計含有率は、97体積%以上である。これによると、超硬合金は高い硬度及び強度を有し、該超硬合金を用いた切削工具は、優れた耐摩耗性及び耐折損性を有することができる。
【0031】
超硬合金の第1相及び第2相の合計含有率の下限は、97体積%以上であり、98体積%以上が好ましく、99体積%以上がより好ましい。超硬合金の第1相及び第2相の合計含有率の上限は、100体積%以下が好ましい。超硬合金の第1相及び第2相の合計含有率は、97体積%以上100体積%以下が好ましく、98体積%以上100体積%以下がより好ましく、99体積%以上100体積%以下が更に好ましい。超硬合金は、第1相と第2相とからなることが好ましい。
【0032】
超硬合金の第1相の含有率の下限は、硬度向上の観点から、82体積%以上が好ましく、85体積%以上がより好ましく、87体積%以上が更に好ましい。超硬合金の第1相の含有率の上限は、100体積%未満であり、耐折損性向上の観点から、95体積%以下が好ましく、94体積%以下がより好ましく、93体積%以下が更に好ましく、90体積%以下がより更に好ましい。超硬合金の第1相の含有率は、82体積%以上95体積%以下が好ましく、85体積%以上93体積%以下がより好ましく、87体積%以上90体積%以下が更に好ましい。
【0033】
超硬合金の第2相の含有率の下限は、耐折損性向上の観点から、5体積%以上が好ましく、7体積%以上がより好ましく、9体積%以上が更に好ましい。超硬合金の第2相の含有率の上限は、硬度向上の観点から、18体積%以下が好ましく、16体積%以下がより好ましく、14体積%以下が更に好ましい。超硬合金の第2相の含有率は、5体積%以上18体積%以下が好ましく、7体積%以上16体積%以下がより好ましく、9体積%以上14体積%以下が更に好ましい。
【0034】
本実施形態の超硬合金は、第1相及び第2相に加えて、バナジウムを10原子%以上含む第3相粒子からなる第3相を備えることができる。
【0035】
超硬合金が第3相を含む場合、超硬合金の第3相の含有率は、0体積%超1体積%以下が好ましい。これによると、第3相の存在に起因する超硬合金の耐折損性の低下が抑制される。超硬合金の第3相の含有率の下限は、0体積%超である。超硬合金の第3相の含有率の上限は、1体積%以下が好ましく、0.8体積以下がより好ましく、0.7体積%以下が更に好ましい。超硬合金が第3相を含む場合、超硬合金の第3相の含有率は、0体積%超1体積%以下が好ましく、0体積%超0.8体積%以下がより好ましく、0体積%超0.7体積%以下が更に好ましい。
【0036】
本実施形態の超硬合金は、本開示の効果を示す限り、第1相、第2相及び第3相に加えて、不可避不純物を含むことができる。該不可避不純物としては、例えば、鉄、モリブデン、硫黄が挙げられる。超硬合金の該不可避不純物の含有率は、0.1質量%未満が好ましい。超硬合金の該不可避不純物の含有率は、ICP発光分析(Inductively Coupled Plasma)Emission Spectroscopy(測定装置:島津製作所「ICPS-8100」(商標))により測定される。
【0037】
超硬合金の第1相、第2相及び第3相のそれぞれの含有率は、下記(A1)~(D1)の手順で測定される。
【0038】
(A1)超硬合金からイオンスライサーなどを用いて、厚さ50nm以下の薄片サンプルを切り出し、該薄片サンプルの表面を鏡面加工する。鏡面加工の方法としては、例えば、ダイヤモンドペーストで研磨する方法、集束イオンビーム装置(FIB装置)を用いる方法、クロスセクションポリッシャー装置(CP装置)を用いる方法、及びこれらを組み合わせる方法等が挙げられる。
【0039】
(B1)上記薄片サンプルの鏡面加工面に対して、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscopy)付帯のEDX(エネルギー分散型X線分光法:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)により、タングステン(W)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、及び、バナジウム(V)の元素マッピングを行い、各元素のマッピング像を得る。測定条件は、観察倍率10万倍、加速電圧200kVとする。元素マッピングの画素数は125×125とする。該元素マッピング像を5視野準備する。5視野の元素マッピング像の撮影領域は、それぞれ異なる。撮影領域は任意に設定することができる。
【0040】
上記元素マッピング像において、タングステン(W)、コバルト(Co)、クロム(Cr)及びバナジウム(V)の原子数の合計に対して、タングステンを70原子%以上含む領域が第1相の存在領域に該当する。上記元素マッピング像において、タングステン、コバルト、クロム及びバナジウムの原子数の合計に対して、コバルトを70原子%以上含む領域が第2相の存在領域に該当する。上記元素マッピング像において、タングステン、コバルト、クロム及びバナジウムの原子数の合計に対して、バナジウムを10原子%以上含む領域が第3相の存在領域に該当する。なお、炭化タングステン粒子と第2相との界面領域に存在するバナジウムの濃化層、及び、第2相同士の界面領域に存在するバナジウムの濃化層は数原子(例えば、1~5原子程度)レベルの一定の厚みを持った層状であるため、観察倍率10万倍では検出されない。
【0041】
(C1)上記(B1)で得られた各元素の5視野の元素マッピング像について、画像解析ソフトウェア(ImageJ、version 1.51j8:https://imagej.nih.gov/ij/)を用いて、視野の全体を分母として第1相、第2相及び第3相のそれぞれの面積%を測定する。
【0042】
(D1)5視野で得られた第1相の面積%の平均値を算出する。該平均値が超硬合金の第1相の含有率(体積%)に該当する。5視野で得られた第2相の面積%の平均値を算出する。該平均値が超硬合金の第2相の含有率(体積%)に該当する。5視野で得られた第3相の面積%の平均値を算出する。該平均値が超硬合金の第3相の含有率(体積%)に該当する。
【0043】
出願人が測定した限りでは、同一の試料において測定する限りにおいては、上記測定を測定領域の選択個所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきは少なく、任意に測定視野を設定しても恣意的にはならないことが確認された。
【0044】
<第1相>
≪第1相の組成≫
第1相は、炭化タングステン粒子からなる。ここで、炭化タングステン粒子には、「純粋なWC粒子(不純物元素が一切含有されないWC、不純物元素の含有量が検出限界未満であるWCも含む。)」だけではなく、「本開示の効果を損なわない限りにおいて、その内部に不純物元素が意図的あるいは不可避的に含有されるWC粒子」も含まれる。第1相の不純物の含有率(不純物を構成する元素が2種類以上の場合は、それらの合計濃度。)は、0.1質量%未満である。第1相の不純物元素の含有率は、ICP発光分析により測定される。
【0045】
≪炭化タングステン粒子の円相当径の平均値≫
本実施形態において、炭化タングステン粒子の円相当径の平均値(以下、「WC粒子の平均粒径」とも記す。)は、0.8μm以下である。これによると、超硬合金は高い硬度を有し、該超硬合金を用いた切削工具は、優れた耐摩耗性を有することができる。また、該超硬合金は優れた強度を有し、該超硬合金を用いた切削工具は、優れた耐折損性を有することができる。本開示において、炭化タングステン粒子の円相当径の平均値とは、超硬合金の断面で測定されるWC粒子の円相当径の個数基準の算術平均を意味する。
【0046】
WC粒子の平均粒径の下限は、耐摩耗性向上の観点から、0.2μm以上が好ましく、0.3μm以上がより好ましく、0.4μm以上が更に好ましい。WC粒子の平均粒径の上限は、耐摩耗性及び耐折損性向上の観点から、0.8μm以下であり、0.5μm以下が好ましく、0.6μm以下がより好ましく、0.4μm以下が更に好ましい。WC粒子の平均粒径は、0.2μm以上0.8μm以下が好ましく、0.2μm以上0.6μm以下がより好ましく、0.2μm以上0.5μm以下が更に好ましい。
【0047】
炭化タングステン粒子の円相当径の平均値は、下記(A2)~(D2)の手順で測定される。
(A2)超硬合金の任意の断面を鏡面加工する。鏡面加工の方法としては、例えば、ダイヤモンドペーストで研磨する方法、集束イオンビーム装置(FIB装置)を用いる方法、クロスセクションポリッシャー装置(CP装置)を用いる方法、及びこれらを組み合わせる方法等が挙げられる。
【0048】
(B2)超硬合金の加工面を走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製「S-3400N」)で撮影する。撮影画像を3枚準備する。3枚の撮影画像のそれぞれの撮影領域は異なる。撮影領域は任意に設定することができる。条件は、観察倍率10000倍、加速電圧10kV、反射電子像とする。
【0049】
(C2)上記(B2)で得られた3枚の反射電子像を画像解析ソフトウェア(ImageJ、version 1.51j8:https://imagej.nih.gov/ij/)でコンピュータに取り込み、二値化処理を行う。二値化処理は、画像を取り込んだのちに、コンピュータ画面上の「Make Binary」の表示を押すことにより、上記画像解析ソフトウェアに予め設定された条件で実行される。二値化処理後の画像において、第1相と第2相とは、色の濃淡で識別できる。例えば、二値化処理後の画像において、第1相は黒色領域で示され、第2相は白色領域で示される。なお、超硬合金が第3相を含む場合は、二値化処理後の画像において、第3相は第2相と同一の色調(白色)で示される。
【0050】
(D2)得られた3枚の撮影画像に対して上記画像解析ソフトウェアを用いて、3枚の撮影画像中の全ての炭化タングステン粒子(黒色領域)のそれぞれについて、円相当径(Heywood径:等面積円相当径)を測定する。3つの測定視野中の全ての炭化タングステン粒子の円相当径の個数基準の算術平均値を算出する。本開示において、該算術平均値が、WC粒子の円相当径の平均値に該当する。
【0051】
出願人が測定した限りでは、同一の試料において測定する限りにおいては、上記測定を、測定領域の選択個所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきは少なく、任意に測定視野を設定しても恣意的にはならないことが確認された。
【0052】
<第2相>
第2相は、コバルトを主成分として含む。第2相は、第1相の炭化タングステン粒子同士を結合させる結合相である。
【0053】
本開示において、「コバルトを主成分として含む第2相」とは、第2相において、タングステン、クロム、バナジウム及びコバルトの合計に対するコバルトの百分率が70質量%以上であることを意味する。第2相において、タングステン、クロム、バナジウム及びコバルトの合計に対するコバルトの百分率の下限は、70質量%以上、80質量%以上、又は、90質量%以上とすることができる。該百分率の上限は、100質量%未満とすることができる。該百分率は、70質量%以上100質量%未満、80質量%以上100質量%未満、又は、90質量%以上100質量%未満とすることができる。
【0054】
本開示の超硬合金の第2相において、タングステン、クロム、バナジウム及びコバルトの合計に対するコバルトの百分率が70質量%以上である限り、第2相は結合相としての機能を奏し、本開示の効果が損なわれないことが確認されている。
【0055】
第2相における、タングステン、クロム、バナジウム及びコバルトの合計に対するコバルトの百分率は、ICP発光分光分析法(使用機器:島津製作所製「ICPS-8100」(商標))により測定することができる。
【0056】
第2相は、コバルトに加えて、クロム(Cr)、タングステン(W)、バナジウム(V)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、炭素(C)等を含むことができる。第2相は、コバルトと、クロム、タングステン、バナジウム、鉄、ニッケル及び炭素からなる群より選ばれる少なくとも1種と、からなることができる。第2相は、コバルトと、クロム、タングステン、バナジウム、鉄、ニッケル及び炭素からなる群より選ばれる少なくとも1種と、不純物と、からなることができる。該不純物としては、例えば、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、モリブデン(Mo)、硫黄(S)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)などが挙げられる。第2相がバナジウムを含む場合、第2相のバナジウム含有率は5原子%を超えることはないと想定される。すなわち、第2相のバナジウム含有率は5原子%以下とすることができる。
【0057】
<第3相>
≪第3相の組成≫
本実施形態の超硬合金は、バナジウムを10原子%以上含む第3相粒子からなる第3相を備え、該硬合金の該第3相の含有率は、0体積%超1体積%以下であり、該第3相粒子の円相当径の最大値は、0.5μm以下であることが好ましい。これによると、折損の起点となり得る、円相当径が0.5μm超の粗大な第3相粒子が存在しないため、該超硬合金を用いた切削工具の耐折損性が向上する。
【0058】
第3相は、バナジウムを10原子%以上含む第3相粒子からなる。第3相は、超硬合金の製造工程において、粒成長抑制剤として添加される炭化バナジウム(VC)に由来するバナジウム(V)の微細析出相と推察される。本開示において、数原子レベルの一定の厚みを持ったバナジウム濃化層は、第3相に該当しない。
【0059】
本開示において、「バナジウムを10原子%以上含む第3相粒子」とは、第3相粒子において、タングステン、クロム、バナジウム及びコバルトの合計に対するバナジウムの百分率が10原子%以上であることを意味する。
【0060】
第3相粒子は、バナジウムに加えて、タングステン、コバルト、クロム、炭素等を含むことができる。第3相粒子は、バナジウムと、タングステン、コバルト、クロム、及び、炭素からなる群より選ばれる少なくとも1種と、からなることができる。第3相粒子は、バナジウムと、タングステン、コバルト、クロム、及び、炭素からなる群より選ばれる少なくとも1種と、不純物と、からなることができる。該不純物としては、例えば、鉄、ニッケル、マンガン、ニオブ、マグネシウム、カルシウム、モリブデン、硫黄、チタン、アルミニウム等が挙げられる。
【0061】
第3相粒子において、タングステン、クロム、バナジウム及びコバルトの合計に対するバナジウムの百分率の下限は10原子%以上であり、20原子%以上、又は、30原子%以上とすることができる。該百分率の上限は、100原子%以下とすることができる。該百分率は、10原子%以上100原子%以下、20原子%以上100原子%以下、又は、30原子%以上100原子%以下とすることができる。
【0062】
第3相粒子における、タングステン、クロム、バナジウム及びコバルトの合計に対するバナジウムの百分率の測定方法は以下の通りである。
【0063】
まず、超硬合金の第1相、第2相及び第3相のそれぞれの含有率の測定方法の(A1)~(B1)と同一の手順で元素マッピング分析を行い、5視野の元素マッピング像を得る。各元素マッピング像において、タングステン、コバルト、クロム及びバナジウムの原子数の合計に対して、バナジウムを10原子%以上含む領域を特定する。該領域が第3相粒子に相当する。
【0064】
特定された第3相粒子を観察倍率200万倍に拡大し、EDX点分析で第3相粒子におけるタングステン、コバルト、クロム及びバナジウムの原子数の合計に対するバナジウムの原子数の百分率(以下、「第3相粒子のバナジウム含有率」とも記す。)を測定する。該測定を5つの第3相粒子に対して行う。5つの第3相粒子のバナジウム含有率の平均値を算出する。該平均値が、本開示における、第3相粒子における、タングステン、クロム、バナジウム及びコバルトの合計に対するバナジウムの百分率に該当する。
【0065】
出願人が測定した限りでは、同一の試料において測定する限りにおいては、上記測定を、測定領域の選択個所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきは少なく、任意に測定視野を設定しても恣意的にはならないことが確認された。
【0066】
≪第3相粒子の円相当径の最大値≫
本実施形態において、第3相粒子の円相当径の最大値(以下、「第3相粒子の最大値」とも記す。)は0.5μm以下であることが好ましい。
【0067】
超硬合金が第3相を備える場合、第3相粒子の最大値の上限は0.5μm以下が好ましく、0.4μm以下が好ましく、0.3μm以下が好ましく、0.2μm以下がより好ましく、0.1μm以下が更に好ましい。第3相粒子の円相当径の最大値の下限は特に限定されず、0μm超とすることができる。第3相の円相当径の最大値は、0μm超0.5μm以下が好ましく、0μm超0.4μm以下が好ましく、0μm超0.3μm以下が好ましく、0μm超0.2μm以下がより好ましく、0μm超0.1μm以下が更に好ましい。
【0068】
第3相粒子の円相当径の最大値は、下記(A3)~(B3)の手順で測定される。
【0069】
(A3)上記の超硬合金の第1相、第2相及び第3相のそれぞれの含有率の測定方法の(A1)~(C1)と同一の手順で、5視野の元素マッピング像について、上記画像解析ソフトウェア(ImageJ)を用いて分析し、第3相を特定する。
【0070】
(B3)上記画像解析ソフトウェアを用いて、5つの測定領域中の全ての第3相粒子のそれぞれについて、円相当径(Heywood径:等面積円相当径)を測定する。5つの測定視野中の全ての第3相粒子の円相当径の最大値が、本開示における第3相粒子の円相当径の最大値に該当する。
【0071】
出願人が測定した限りでは、同一の試料において測定する限りにおいては、上記測定を、測定領域の選択個所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきは少なく、任意に測定視野を設定しても恣意的にはならないことが確認された。
【0072】
≪コバルト含有率≫
本実施形態の超硬合金のコバルト含有率は、3質量%以上10質量%以下である。これによると、超硬合金は高い硬度及び強度を有する。該超硬合金を用いた切削工具は、優れた耐摩耗性及び耐折損性を有することができる。
【0073】
超硬合金のコバルト含有率の下限は、耐折損性向上の観点から、3質量%以上であり、4質量%以上が好ましい。超硬合金のコバルト含有率の上限は、硬度向上の観点から、10質量%以下であり、9質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましい。超硬合金のコバルト含有率は、4質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましく、3質量%以上8質量%以下が更に好ましい。
【0074】
超硬合金中のコバルト含有量は、ICP発光分光分析法により測定される。
【0075】
≪バナジウム含有率≫
本実施形態の超硬合金のバナジウム含有率は0.01質量%以上0.30質量%以下である。これによると、粗大なWC粒子の発生が抑制され、超硬合金の組織が緻密化される。よって、該超硬合金は優れた硬度及び強度を有し、該超硬合金を用いた切削工具は、優れた耐摩耗性及び耐折損性を有することができる。
【0076】
超硬合金のバナジウム含有率の下限は、粗大なWC粒子の発生抑制の観点から、0.01質量%以上であり、0.05質量%以上が好ましく、0.10質量%以上がより好ましい。超硬合金のバナジウム含有率の上限は、界面強度低下の抑制の観点から、0.30質量%以下であり、0.20質量%以下が好ましい。超硬合金のバナジウム含有率は、0.01質量%以上0.20質量%以下が好ましく、0.10質量%以上0.20質量%以下が更に好ましい。
【0077】
超硬合金のバナジウムの含有率は、ICP発光分光分析法により測定される。
【0078】
≪クロム含有率≫
本実施形態の超硬合金はクロム(Cr)を含むことができる。本実施形態の超硬合金のクロム含有率は、0.2質量%以上0.8質量%以下であることが好ましい。クロムは炭化タングステン粒子の粒成長抑制作用を有する。超硬合金のクロム含有率が前記の範囲の場合、得られた超硬合金中に、原料の微粒炭化タングステン粒子がそのまま残存することを効果的に抑制でき、かつ、粗大粒の発生を効果的に抑制でき、工具寿命が向上する。
【0079】
超硬合金のクロム含有率の下限は、0.2質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましい。超硬合金のクロム含有率の上限は、0.8質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましい。超硬合金のクロム含有率は、0.2質量%以上0.8質量%以下が好ましく、0.3質量%以上0.5質量%以下が更に好ましい。
【0080】
超硬合金のクロム含有率は、ICP発光分光分析法により測定される。
【0081】
<界面領域におけるバナジウム含有率>
本実施形態の超硬合金において、炭化タングステン粒子の(0001)の結晶面と、第2相との界面領域(以下、「WC/第2相界面領域」とも記す。)におけるバナジウム含有率の最大値は、15原子%以下である。これによると、該界面領域において、バナジウムが濃化して存在するバナジウム濃化層の形成が抑制されている。このため、バナジウム濃化層に起因するWC粒子と第2相との界面強度の低下が抑制される。よって、該超硬合金では、界面強度の低下に伴うWC粒子の脱落が生じ難く、該超硬合金を用いた切削工具は、優れた耐摩耗性及び耐折損性を有することができる。なお、従来の超硬合金は、上記界面におけるバナジウム濃化層の量が多く、界面強度が低下する傾向があった。
【0082】
超硬合金において、WC/第2相界面領域にバナジウム濃化層が存在する場合、WC粒子の(0001)の結晶面と、該WC粒子の(0001)の結晶面に隣接する他のWC粒子との界面領域(以下、「WC/WC界面領域」とも記す。)にもバナジウム濃化層が存在する可能性がある。本実施形態の超硬合金において、WC/第2相界面領域におけるバナジウム含有率の最大値が15原子%以下の場合、WC/WC界面領域におけるバナジウム含有率の最大値も15原子%以下であることが確認されている。よって、WC/第2相界面領域におけるバナジウム含有率の最大値が15原子%以下であれば、WC/WC界面領域におけるバナジウム含有率の最大値も15原子%以下であり、WC/WC界面領域においてバナジウム濃化層の形成が抑制されている。このため、バナジウム濃化層に起因するWC粒子同士の界面強度の低下も抑制される。
【0083】
WC/第2相界面領域におけるバナジウム含有率の最大値の上限は15原子%以下が好ましく、14原子%以下が好ましく、13原子%以下がより好ましく、12原子%以下が更に好ましく、11原子%以下がより更に好ましい。WC/第2相界面領域におけるバナジウム含有率の最大値の下限は特に限定されないが、例えば1原子%以上、又は、2原子%以上とすることができる。WC/第2相界面領域におけるバナジウム含有率の最大値は、1原子%以上15原子%以下が好ましく、1原子%以上12原子%以下がより好ましく、2原子%以上15原子%以下が更に好ましく、2原子%以上12原子%以下がより更に好ましい。
【0084】
WC/第2相界面領域におけるバナジウム含有率の最大値は、下記(A4)~(D4)の手順で測定される。
【0085】
(A4)超硬合金からイオンスライサーなどを用いて、厚さ50nm以下の薄片サンプルを切り出す。該薄片サンプルの表面を鏡面加工する。鏡面加工の方法としては、例えば、ダイヤモンドペーストで研磨する方法、集束イオンビーム装置(FIB装置)を用いる方法、クロスセクションポリッシャー装置(CP装置)を用いる方法、及びこれらを組み合わせる方法等が挙げられる。
【0086】
(B4)上記薄片サンプルの鏡面加工面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、WC粒子の電子回折像を得る。観察倍率は200万倍とする。
【0087】
(C4)電子回折像において、WC粒子の(0001)の結晶面を同定する。(0001)の結晶面が同定された該WC粒子の[11-20]又は[10-10]の方位から観察した場合の、該WC粒子の(0001)の結晶面と、該WC粒子に隣接する第2相との界面領域に対して、TEM付帯のEDX(エネルギー分散型X線分光法:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)によりライン分析を行う。ライン分析では、タングステン(W)、コバルト(Co)、クロム(Cr)及びバナジウム(V)のそれぞれについて、原子数の百分率(原子%)を測定する。該原子数の百分率は、W、Co、Cr及びVの原子数の合計を100原子%とした場合の各元素の原子数の百分率を意味する。
【0088】
ライン分析の具体的な手順について、
図1を用いて説明する。
図1は、上記薄片サンプルの透過型電子顕微鏡(TEM)像を模式的に示す。
図1では、ライン分析の測定領域Rは、符号Rで示される矩形の領域である。
【0089】
図1に示されるように、WC粒子1の(0001)の結晶面と、該WC粒子1の(0001)の結晶面に隣接する第2相2との界面のうち、略直線であり、かつ、該略直線部分の長さが25nm以上の部分を選択する。ライン分析は略直線部分に対し垂直方向(
図1の矢印B方向)に行う。ライン分析の距離は該略直線部分を中心にWC粒子側及び第2相側にそれぞれ20nmとする。ライン分析の幅は25nm、ステップ間隔は0.4nmである。なお、
図1に示されるように、ライン分析の測定領域Rは、第3相粒子3が含まれないように設定される。
【0090】
ライン分析結果に基づき、W、Cr、V及びCoの原子数の合計を100原子%とした場合のバナジウムの百分率(原子%)の最大値を算出する。該最大値を、WC粒子の(0001)の結晶面と、第2相との界面領域のバナジウム含有率の最大値とする。
【0091】
(D4)上記(C4)の測定を、5つの異なるWC粒子の(0001)の結晶面と、第2相との界面領域において行う。5つの界面領域のバナジウム含有率の最大値の平均値を算出する。該平均値が、本開示の超硬合金における炭化タングステン粒子の(0001)の結晶面と、第2相との界面領域におけるバナジウム含有率の最大値に該当する。従って、超硬合金において、上記5つの界面領域のバナジウム含有率の最大値の平均値が15原子%以下の場合、該超硬合金は、炭化タングステン粒子の(0001)の結晶面と、第2相との界面領域におけるバナジウム含有率の最大値が15原子%以下である。
【0092】
出願人が測定した限りでは、同一の試料において測定する限りにおいては、上記測定を測定領域の選択個所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきは少なく、任意に測定視野を設定しても恣意的にはならないことが確認された。
【0093】
本開示の超硬合金の炭化タングステン粒子の(0001)の結晶面と、第2相との界面領域において、タングステン、クロム、バナジウム及びコバルトの合計に対するバナジウムの百分率の最大値が15原子%以下である限り、界面強度の低下が抑制され、本開示の効果が損なわれないことが確認されている。
【0094】
<界面領域におけるクロム含有率>
本実施形態の超硬合金において、炭化タングステン粒子の(0001)の結晶面と、第2相との界面領域におけるクロム含有率の最大値は、20原子%以下であることが好ましい。これによると、該界面領域において、クロムが濃化して存在するクロム濃化層の形成が抑制されている。このため、クロム濃化層に起因するWC粒子と第2相との界面強度の低下が抑制される。よって、該超硬合金では、界面強度の低下に伴うWC粒子の脱落が生じ難く、該超硬合金を用いた切削工具は、優れた耐摩耗性及び耐折損性を有することができる。
【0095】
超硬合金において、WC/第2相界面領域にクロムの濃化層が存在する場合、WC粒子の(0001)の結晶面と、該WC粒子の(0001)の結晶面に隣接する他のWC粒子との界面領域(WC/WC界面領域)にもクロムの濃化層が存在する可能性がある。本実施形態の超硬合金において、WC/第2相界面領域におけるクロム含有率の最大値が20原子%以下の場合、WC/WC界面領域におけるクロム含有率の最大値も20原子%以下であることが確認されている。よって、WC/第2相界面領域におけるクロム含有率の最大値が20原子%以下であれば、WC/WC界面領域におけるクロム含有率の最大値も20原子%以下であり、WC/WC界面領域において、クロムが濃化して存在するクロム濃化層の形成が抑制されている。このため、クロム濃化層に起因するWC粒子同士の界面強度の低下も抑制される。
【0096】
WC/第2相界面領域におけるクロム含有率の最大値の上限は20原子%以下が好ましく、18原子%以下が好ましく、16原子%以下がより好ましく、15原子%以下が更に好ましく、14原子%以下がより更に好ましい。WC/第2相界面領域におけるクロム含有率の最大値の下限は特に限定されないが、例えば1原子%以上、又は、2原子%以上とすることができる。WC/第2相界面領域におけるクロム含有率の最大値は、1原子%以上20原子%以下が好ましく、1原子%以上15原子%以下がより好ましく、2原子%以上20原子%以下が更に好ましく、2原子%以上15原子%以下がより更に好ましい。
【0097】
WC/第2相界面領域におけるクロム含有率の最大値は、上記WC/第2相界面領域におけるバナジウム含有率の測定方法(A4)~(D4)において、W、Cr、V及びCoの原子数の合計を100原子%とした場合のバナジウムの百分率(原子%)に代えて、W、Cr、V及びCoの原子数の合計を100原子%とした場合のクロムの百分率(原子%)を算出することにより得られる。
【0098】
出願人が測定した限りでは、同一の試料において測定する限りにおいては、上記測定を測定領域の選択個所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきは少なく、任意に測定視野を設定しても恣意的にはならないことが確認された。
【0099】
本開示の超硬合金の炭化タングステン粒子の(0001)の結晶面と、第2相との界面領域において、タングステン、クロム、バナジウム及びコバルトの合計に対するクロムの百分率の最大値が20原子%以下である限り、界面強度の低下が抑制され、本開示の効果が損なわれないことが確認されている。
【0100】
<超硬合金の製造方法>
超硬合金の炭化タングステン粒子の(0001)の結晶面と、第2相との界面領域におけるバナジウム含有率を低減するためには、粒成長抑制剤として添加されるバナジウムの量を少なくすることが考えられる。しかし、バナジウムの添加量を少なくすると、粒成長抑制効果が不足して、WC粒子が異常粒成長する。これは、超硬合金の強度低下の要因となる。本発明者らは、鋭意検討の結果、粗大なWC粒子の発生を抑えるため、バナジウムを十分な量で添加しつつ、上記界面領域でのバナジウム含有率を低減させることのできる超硬合金の製造方法を新たに見出した。本実施形態の超硬合金の製造方法の詳細について、以下に説明する。
【0101】
本実施形態の超硬合金は、代表的には、原料粉末の準備工程、混合工程、成形工程、焼結工程(予備焼結工程及び本焼結工程を含む)、繰り返し熱処理工程、冷却工程を前記の順で行うことにより製造することができる。以下、各工程について説明する。
【0102】
≪準備工程≫
準備工程は、超硬合金を構成する材料の全ての原料粉末を準備する工程である。原料粉末としては、第1相の原料である炭化タングステン粉末(以下「WC粉末」とも記す。)、第2相の原料であるコバルト粉末(以下「Co粉末」とも記す。)、粒成長抑制剤である炭化バナジウム粉末(以下「VC粉末」とも記す。)が挙げられる。また、必要に応じて、粒成長抑制剤である炭化クロム粉末(以下「Cr3C2粉末」とも記す。)を準備することができる。炭化タングステン粉末、コバルト粉末、炭化バナジウム粉末及び炭化クロム粉末は、市販のものを用いることができる。
【0103】
炭化タングステン粉末の平均粒径は、0.2μm以上1.0μm以下とすることができる。WC粉末は、その20%累積体積粒子径d20と、その80%累積体積粒子径d80との比d20/d80が0.2以上1以下であることが好ましい。このようなWC粉末は粒径が均質であり、微粒WC粒子の含有量が少ない。このため、該WC粉末を用いて超硬合金を作製すると、焼結工程において、溶解再析出による粗大WC粒子の発生が抑制される。上記「20%累積体積粒子径d20」とは、結晶粒の体積基準の累積粒度分布における、小径側からの累積20%粒子径を意味する。上記「80%累積体積粒子径d80」とは、結晶粒の体積基準の累積粒度分布における、小径側からの累積80%粒子径を意味する。
【0104】
コバルト粉末の平均粒径は、0.5μm以上1.5μm以下とすることができる。炭化バナジウム粉末の平均粒径は、0.1μm以上0.5μm以下とすることができる。微細なVC粉末を用いることで、後の予備焼結工程において、VC粉末を混合粉末中に十分に拡散させることができる。炭化クロム粉末の平均粒径は、1.0μm以上2.0μm以下とすることができる。
【0105】
本開示において、上記の原料粉末の平均粒径とは、FSSS(Fisher Sub-Sieve Sizer)法により測定される平均粒径を意味する。該平均粒径は、Fisher Scientific社製の「Sub-Sieve Sizer モデル95」(商標)を用いて測定される。上記WC粉末の粒径の分布は、マイクロトラック社製の粒度分布測定装置(商品名:MT3300EX)を用いて測定される。
【0106】
≪混合工程≫
混合工程は、準備工程で準備した各原料粉末を混合する工程である。混合工程により、各原料粉末が混合された混合粉末が得られる。混合粉末の各原料粉末の含有率は、超硬合金の第1相、第2相及び第3相などの各成分の含有率を考慮して、適宜調整される。
【0107】
混合粉末の炭化タングステン粉末の含有率は、例えば、88.85質量%以上99.83質量%以下とすることができる。
【0108】
混合粉末のコバルト粉末の含有率は、例えば、3質量%以上10質量%以下とすることができる。
【0109】
混合粉末の炭化バナジウム粉末の含有率は、例えば、0.01質量%以上0.37質量%以下とすることができる。
【0110】
混合粉末の炭化クロム粉末の含有率は、例えば、0.20質量%以上0.92質量%以下とすることができる。
【0111】
混合には、ボールミルを用いる。混合時間は15時間以上36時間以下とすることができる。これによると、原料粉末の粉砕を抑制でき、原料粉末の粒径を維持しながら、十分にVC粉末を混合粉末中に分散させることができる。
【0112】
混合工程の後、必要に応じて混合粉末を造粒してもよい。混合粉末を造粒することで、後述する成形工程の際にダイ又は金型へ混合粉末を充填し易い。造粒には、公知の造粒方法が適用でき、例えば、スプレードライヤー等の市販の造粒機を用いることができる。
【0113】
≪成形工程≫
成形工程は、混合工程で得られた混合粉末を所定の形状に成形して、成形体を得る工程である。成形工程における成形方法及び成形条件は、一般的な方法及び条件を採用すればよく、特に問わない。所定の形状としては、例えば、切削工具形状(例えば、小径ドリルの形状)とすることが挙げられる。
【0114】
≪焼結工程≫
焼結工程は、予備焼結工程及び本焼結工程を含む。予備焼結工程では、成形体を焼結温度800~1000℃で2時間保持する。雰囲気は真空とする。焼結温度800~1000℃は、WCの粒成長が生じない温度領域である。WCの粒成長が生じない温度領域で2時間保持することにより、混合粉末中のVCをコバルト全体に拡散させることができる。これにより、本焼結工程において、VCは、超硬合金全体で均一な粒成長抑制効果を発揮し、粗大WC粒子の発生が抑制される。
【0115】
続いて、本焼結工程が行われる。本焼結工程では、予備焼結工程後の成形体を、アルゴン(Ar)雰囲気下、焼結温度1350~1450℃で1~2時間保持して超硬合金を得る。これによると、粗大WC粒子の発生が抑制される。また、得られた超硬合金中の微粒WC粒子の含有量を低減することができる。
【0116】
予備焼結工程及び本焼結工程を行うことにより、コバルト中にバナジウムを十分に固溶させることができる。
【0117】
≪繰り返し熱処理工程≫
続いて、焼結工程で得られた超硬合金を急冷する。本焼結工程での温度からVCが固相として析出する1100℃まで、冷却速度-60℃/分以上で急冷し、1100℃で30分間保持する。このような急冷により、冷却時に生じやすいコバルト中に固溶させたバナジウムの移動が抑制される。よって、超硬合金中に、WC粒子と第2相との界面領域(WC/第2相界面領域)、又は、WC粒子同士間の界面領域(WC/WC界面領域)中のバナジウム含有率の大きい領域(「バナジウム濃化層」に相当)、及び/又は、VCの微細析出相(以下、「VC微細析出相」とも記す。)が均一に形成される。以下、超硬合金を1100℃まで、冷却速度-60℃/分以上で急冷し、1100℃で30分間保持する工程を、「急冷工程」とも記す。
【0118】
続いて、超硬合金を1250℃まで加熱し、1250℃で10~20分間保持する。1250℃での保持時間を20分以下とすることにより、表面積の大きいバナジウム濃化層中のバナジウムをコバルト中に優先的に固溶させることができる。一方、VC微細析出相中のバナジウムのコバルト中への固溶は抑制され、VC微細析出相の少なくとも一部を合金中に残留させることができる。以下、超硬合金を1250℃まで加熱し、1250℃で10~20分間保持する工程を「熱処理工程」とも記す。
【0119】
続いて、超硬合金を1100℃まで、冷却速度-60℃/min以上で急冷し、1100℃で30分間保持する(急冷工程に該当)。これにより、上記熱処理工程においてコバルト中に固溶させたバナジウムの移動が抑制される。よって、超硬合金中に、バナジウム濃化層、及び/又は、VC微細析出相が均一に形成される。
【0120】
上記の急冷工程及び熱処理工程を交互にそれぞれ2回以上繰り返す。これにより、最終的にWC/第2相界面領域、及び、WC/WC界面領域に存在するバナジウム濃化層におけるバナジウム濃度の最大値が小さくなる。すなわち、超硬合金の炭化タングステン粒子の(0001)の結晶面と、第2相との界面領域におけるバナジウム含有率、及び、WC粒子の(0001)の結晶面と該WC粒子の(0001)の結晶面に隣接するWC粒子との界面領域におけるバナジウム含有率が低減される。更に、該超硬合金は、VC粒子を含む場合であっても、該VC粒子は微細であり、超硬合金中に均一に分散されている。
【0121】
≪冷却工程≫
続いて、繰り返し熱処理工程後の超硬合金を冷却する。冷却条件は一般的な条件を採用すればよく、特に問わない。
【0122】
上記の超硬合金の製造方法によれば、WC粒子の異常粒成長が抑制されるため、粗大なWC粒子を含まず、かつ、界面領域でのバナジウム含有率が低減された超硬合金が得られる。該超硬合金は、優れた耐摩耗性と耐折損性を有する。
【0123】
[実施形態2:切削工具]
本実施形態の切削工具は、実施形態1の超硬合金からなる刃先を含む。本開示において、刃先とは、切削に関与する部分を意味し、超硬合金において、その刃先稜線と、該刃先稜線から超硬合金側へ、該刃先稜線の接線の垂線に沿う距離が2mmである仮想の面と、に囲まれる領域を意味する。
【0124】
切削工具としては、例えば、切削バイト、ドリル、エンドミル、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切り工具、リーマ又はタップ等を例示できる。特に、
図2に示されるように、本実施形態の切削工具10は、プリント回路基板加工用の小径ドリルの場合に、優れた効果を発揮することができる。
図2に示される切削工具10の刃先11は、実施形態1の超硬合金からなる。
【0125】
本実施形態の超硬合金は、これらの工具の全体を構成していてもよいし、一部を構成するものであってもよい。ここで「一部を構成する」とは、任意の基材の所定位置に本実施形態の超硬合金をロウ付けして刃先部とする態様等を示している。
【0126】
≪硬質膜≫
本実施形態に係る切削工具は、超硬合金からなる基材の表面の少なくとも一部を被覆する硬質膜を更に備えてもよい。硬質膜としては、例えば、ダイヤモンドライクカーボンやダイヤモンドを用いることができる。
【0127】
[付記1]
本開示の超硬合金の第1相及び第2相の合計含有率は、97体積%以上100体積%以下が好ましい。
本開示の超硬合金の第1相の含有率は、82体積%以上95体積%以下が好ましい。
本開示の超硬合金の第2相の含有率は、5体積%以上18体積%以下が好ましい。
本開示の超硬合金の第3相の含有率は、0体積%超0.8体積%以下が好ましい。
【0128】
[付記2]
本開示の超硬合金において、炭化タングステン粒子の円相当径の平均値は、0.2μm以上0.8μm以下が好ましい。
本開示の超硬合金において、炭化タングステン粒子の円相当径の平均値は、0.2μm以上0.6μm以下が好ましい。
【0129】
[付記3]
本開示の超硬合金の第2相において、タングステン、クロム、バナジウム及びコバルトの合計に対するコバルトの百分率が70質量%以上であることが好ましい。
【0130】
[付記4]
本開示の超硬合金のコバルト含有率は、4質量%以上10質量%以下が好ましい。
本開示の超硬合金の小アルト含有率は、3質量%以上9質量%以下が好ましい。
【0131】
[付記5]
本開示の超硬合金のクロム含有率は、0.2質量%以上0.8質量%以下が好ましい。
本開示の超硬合金のクロム含有率は、0.3質量%以上0.5質量%以下が好ましい。
【0132】
[付記6]
本開示の超硬合金において、炭化タングステン粒子の(0001)の結晶面と、第2相との界面領域におけるバナジウム含有率の最大値は、1原子%以上15原子%以下が好ましい。
本開示の超硬合金において、炭化タングステン粒子の(0001)の結晶面と、第2相との界面領域におけるバナジウム含有率の最大値は、1原子%以上12原子%以下が好ましい。
【0133】
[付記7]
炭化タングステン粒子の(0001)の結晶面と、第2相との界面領域におけるクロム含有率の最大値は、1原子%以上20原子%以下が好ましい。
炭化タングステン粒子の(0001)の結晶面と、第2相との界面領域におけるクロム含有率の最大値は、1原子%以上15原子%以下が好ましい。
【実施例】
【0134】
本実施形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施形態が限定されるものではない。
【0135】
本実施例では、原料粉末の配合比、並びに、製造条件を変更して試料1~試料12及び試料1-1~試料1-10の超硬合金を作製した。該超硬合金からなる刃先を備える小径ドリルを作製し、その評価を行った。
【0136】
<試料の作製>
≪準備工程≫
原料粉末として、表1の「混合粉末」欄に示す組成の粉末を準備した。WC粉末の平均粒径は0.4μmであり、d20/d80は0.3以上である。Co粉末の平均粒径は1μmであり、VC粉末の平均粒径は0.3μmであり、Cr3C2粉末の平均粒径は1μmである。WC粉末、Co粉末、Cr3C2粉末及びVC粉末は市販品である。
【0137】
≪混合工程≫
各原料粉末を表1の「混合粉末」の「質量%」に示される配合量で混合し、混合粉末を作製した。表1の「混合粉末」欄の「質量%」とは、原料粉末の合計質量に対する、各原料粉末の割合を示す。混合はボールミルで15時間行った。得られた混合粉末をスプレードライヤーを用いて乾燥させて造粒粉末とした。
【0138】
≪成形工程≫
得られた造粒粉末をプレス成形して、φ3.4mmの丸棒形状の成形体を作製した。
【0139】
≪焼結工程≫
続いて、成形体に対して予備焼結工程を行った。成形体を焼結炉に入れ、真空中で、表1の「予備焼結」の「温度」欄に記載の温度で2時間保持した。表1の「予備焼結」欄の「無」との記載は、予備焼結工程を行わなかったことを示す。
【0140】
続いて、本焼結工程を行った。予備焼結工程後の成形体を、Ar雰囲気下、表1の「本焼結」の「温度」欄に記載の温度で1時間保持して超硬合金を得た。
【0141】
≪繰り返し熱処理工程≫
続いて、焼結工程で得られた超硬合金に対して、急冷工程及び熱処理工程を交互にそれぞれ2回行った。すなわち、急冷工程、熱処理工程、急冷工程、熱処理工程を前記の順で行った。
【0142】
急冷工程では、超硬合金を1100℃まで、冷却速度-60℃/min以上で急冷し、1100℃で30分間保持した。熱処理工程では、超硬合金を1250℃まで加熱し、1250℃で20分間保持した。
【0143】
表1の「繰り返し熱処理」欄の「無」との記載は、繰り返し熱処理工程を行わなかったことを示す。
【0144】
≪冷却工程≫
続いて、繰り返し熱処理工程後の超硬合金を、アルゴン(Ar)ガス雰囲気中、徐冷して、各試料の超硬合金を得た。
【0145】
【0146】
<超硬合金の評価>
各試料の超硬合金について、超硬合金の第1相、第2相及び第3相の含有率(表2において「第1相(体積%)」、「第2相(体積%)」、「第3相(体積%)」欄に示される。)、超硬合金のコバルト含有率(表2において「Co(質量%)」欄に示される。)、超硬合金のバナジウム含有率(表2において「V(質量%)」欄に示される。)、第2相におけるタングステン、クロム、バナジウム及びコバルトの合計に対するコバルトの百分率(表2において「Co/第2相(質量%)」欄に示される。)、WC粒子の円相当径の平均値(表2において「WC粒子平均粒径(μm)」欄に示される。)、第3相粒子の円相当径の最大値(表2において「第3相最大粒径(μm)」欄に示される。)、炭化タングステン粒子の(0001)の結晶面と、第2相との界面領域におけるバナジウム含有率の最大値(表2において「WC/第2相界面領域」の「V最大(原子%)」欄に示される。)、該界面領域におけるクロム含有率の最大値(表2において「界面領域」の「Cr最大(原子%)」欄に示される。)を測定した。各項目の測定方法は、実施形態1に示される通りである。結果を表2に示す。
【0147】
<切削試験>
各試料の丸棒を加工し、刃径φ0.2mmの小径ドリル(プリント回路基板加工用回転工具)を作製した。現在、刃部のみをステンレスシャンクに圧入してドリルを成形することが主流であるが、評価のためにφ3.4mmの丸棒の先端を刃付け加工することでドリルの作製を行った。該ドリルを用いて市販の車載用プリント回線基板の穴開け加工を行った。
【0148】
耐摩耗性の評価試験では、穴開け加工の条件は、回転数160krpm、送り速度2.7m/minとした。10000個の穴あけを行った後のドリルについて、摩耗痕の幅(μm)を測定した。本実施例における摩耗痕の幅について
図3を用いて説明する。
図3は、本実施例で作製された小径ドリルの先端側から見た図である。上記摩耗痕の幅とは、
図3に示されるように、ドリル中心Cからの距離が0.08mmの箇所における摩耗痕Wの幅L1を意味する。結果を表2の「切削試験の耐摩耗性(μm)」欄に示す。本実施例では、摩耗痕の幅が22μm以下の場合、耐摩耗性が良好であり、摩耗痕の幅が20μm以下の場合、耐摩耗性がより良好であると判断される。
【0149】
耐折損性の評価試験では、穴開け加工の条件は、回転数100krpm、送り速度3.6m/minとした。最大5000個の穴あけを行い、折損するまでの穴開けの回数を測定した。結果を表2の「切削試験の耐折損性(回)」欄に示す。結果が5000回とは、5000回の穴開け時点で、折損が生じなかったことを意味する。本実施例では、折損するまでの穴開け回数が3000回以上の場合、耐折損性が良好であり、穴開け回数が5000回の場合、耐折損性がより良好であると判断される。
【0150】
【0151】
<考察>
試料1~試料12の超硬合金及び切削工具は実施例に該当する。これらの試料は、優れた耐摩耗性及び耐折損性を有することが確認された。
【0152】
試料1-1~試料1-10の超硬合金及び切削工具は比較例に該当する。これらの試料は、耐摩耗性及び/又は耐折損性が不十分であることが確認された。
【0153】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0154】
1 炭化タングステン粒子、2 第2相、3 第3相粒子、R 測定領域、10 切削工具、11 刃先、C ドリル中心、W 摩耗痕。
【要約】
本開示の超硬合金は、炭化タングステン粒子からなる第1相と、コバルトを主成分として含む第2相と、を備える超硬合金であって、前記超硬合金の前記第1相及び前記第2相の合計含有率は、97体積%以上であり、前記炭化タングステン粒子の円相当径の平均値は、0.8μm以下であり、前記超硬合金のコバルト含有率は、3質量%以上10質量%以下であり、前記超硬合金のバナジウム含有率は、0.01質量%以上0.30質量%以下であり、前記炭化タングステン粒子の(0001)の結晶面と、前記第2相との界面領域におけるバナジウム含有率の最大値は、15原子%以下である。