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  • 特許-液晶素子基板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】液晶素子基板
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20231212BHJP
【FI】
G02F1/1337 520
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020135058
(22)【出願日】2020-08-07
(65)【公開番号】P2022030803
(43)【公開日】2022-02-18
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】310016005
【氏名又は名称】株式会社 CHIRACOL
(73)【特許権者】
【識別番号】508127100
【氏名又は名称】オルガノサイエンス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】柴田 俊博
(72)【発明者】
【氏名】岡本 一男
(72)【発明者】
【氏名】白井 智大
【審査官】植田 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-060979(JP,A)
【文献】特開2006-251593(JP,A)
【文献】特開昭52-104950(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
G02F 1/1333
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に金属酸化物を有する基材上に下記式(1)により表される含フッ素炭化水素基を有するホスホン酸に由来する層を有する液晶素子基板。
【化5】

[式(1)中、Rは、少なくとも1個の水素原子がフッ素原子により置換されており、不飽和結合により1回以上中断されている炭素原子数4乃至32の直鎖のアルキル基である。]
【請求項2】
前記金属酸化物と前記含フッ素炭化水素基を有するホスホン酸とが共有結合している、請求項1に記載の液晶素子基板。
【請求項3】
前記金属酸化物が導電性透明電極である、請求項1又は2に記載の液晶素子基板。
【請求項4】
前記基材がガラス又はポリマーを主たる材料として含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の液晶素子基板。
【請求項5】
一対の基板、一対の基板間に挟持された液晶層、及び一対の基板を貼り合わせるシール材を含んで構成され、前記一対の基板の少なくとも一方が請求項1乃至4のいずれか一項に記載の液晶素子基板である液晶セル。
【請求項6】
表面に金属酸化物を有する基材に、下記式(1)により表される含フッ素炭化水素基を有するホスホン酸を適用する工程を含む、液晶素子基板の製造方法。
【化5】

[式(1)中、Rは、少なくとも1個の水素原子がフッ素原子により置換されており、不飽和結合により1回以上中断されている炭素原子数4乃至32の直鎖のアルキル基である。]
【請求項7】
表面に金属酸化物を有する基材上に含フッ素炭化水素基を有するホスホン酸に由来する層を有する液晶素子基板を製造するための、下記式(1)により表される含フッ素炭化水素基を有するホスホン酸の使用。
【化6】

[式(1)中、Rは、少なくとも1個の水素原子がフッ素原子により置換されており、不飽和結合により1回以上中断されている炭素原子数4乃至32の直鎖のアルキル基である。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に金属酸化物を有する基材上に含フッ素炭化水素基を有するホスホン酸に由来する層を有する基板、当該基板の製造方法、及び当該基板を用いた液晶セルに関する。
【背景技術】
【0002】
光重合性のモノマー材料を添加した液晶組成物をセルに注入した後に紫外光を照射することにより液晶分子の垂直配向を実現させるPIレス技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開WO2014/034517A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
簡単な処理により、信頼性の高いPIレス垂直配向液晶パネルを安価に作製する技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記課題を解決するために開発されたものであり、特定のフッ素系化合物により表面処理したITOガラスを用いた液晶パネルが優れた垂直配向性を示すという驚くべき発見に基づいて完成されたものである。すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] 表面に金属酸化物を有する基材上に含フッ素炭化水素基を有するホスホン酸に由来する層を有する基板。
[2] 前記金属酸化物と前記含フッ素炭化水素基を有するホスホン酸とが共有結合している、[1]に記載の基板。
[3] 前記含フッ素炭化水素基を有するホスホン酸が下記式(1)により表される、[1]又は[2]に記載の基板。
【化1】

[式(1)中、Rは、少なくとも1個の水素原子がフッ素原子により置換されている炭素原子数4乃至32の炭化水素基である。]
[4] 前記金属酸化物が導電性透明電極である、[1]乃至[3]のいずれか一項に記載の基板。
[5] 前記基材がガラス又はポリマーを主たる材料として含む、[1]乃至[4]のいずれか一項に記載の基板。
[6] 一対の基板、一対の基板間に挟持された液晶層、及び一対の基板を貼り合わせるシール材を含んで構成され、前記一対の基板の少なくとも一方が[1]乃至[5]のいずれか一項に記載の基板である液晶セル。
[7] 表面に金属酸化物を有する基材に、含フッ素炭化水素基を有するホスホン酸を適用する工程を含む、基板の製造方法。
[8] 表面に金属酸化物を有する基材上に含フッ素炭化水素基を有するホスホン酸に由来する層を有する基板を製造するための、下記式(1)により表される含フッ素炭化水素基を有するホスホン酸の使用。
【化2】

[式(1)中、Rは、少なくとも1個の水素原子がフッ素原子により置換されている炭素原子数4乃至32の炭化水素基である。]
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、簡単な処理により、信頼性の高いPIレス垂直配向液晶パネルを安価に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】LEDバックライト、直交ニコル下にて透過光量を観察したときの液晶セルの写真である。(A)は、例1の含フッ素ホスホン酸化合物処理基板を用いて作成した液晶セルの、LEDバックライト、直交ニコル下にて透過光量を観察したときの写真であり、(B)は、例3の含フッ素ホスホン酸化合物処理基板を用いて作成した液晶セルの、LEDバックライト、直交ニコル下にて透過光量を観察したときの写真であり、(C)は、対照として一対の未処理の基板を用いて作成した液晶セルの、LEDバックライト、直交ニコル下にて透過光量を観察したときの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[表面に金属酸化物を有する基材]
本発明に使用される基材は特に限定されないが、ガラス又はポリマーを主材料として含むものが好ましい。ガラスはアルカリガラス、無アルカリガラスのいずれでもよい。好ましくは、液晶ディスプレイ用に使用されるガラスである。ポリマーに特に限定はないが、好ましくは透明性のあるものである。可視光の透過度が90%以上、又は95%以上のポリマーが好ましい。
【0009】
本発明に係る基材は表面に金属酸化物を有する。金属酸化物は、ガラスを構成するケイ酸塩であってもよく、基材表面に処理されたSiOであってもよく、基材表面に設けられた、例えばITOのような導電性透明電極であってもよい。更にITO表面がプラズマ、オゾン、溶媒洗浄等で処理されていてもよい。導電性透明電極は基材の全表面を被覆していてもよく、例えばスリットのように一部のみを被覆するものであってもよい。
【0010】
[含フッ素炭化水素基を有するホスホン酸]
ホスホン酸とはリンのオキソ酸(HPO)をいう。
炭化水素基とは、炭素原子と水素原子からなる官能基をいい、直鎖、分岐、環状のアルキル、アルケニル、若しくはアルキニル基、アリール基、又はこれらが組み合わさった基をいう。
本願にいう「含フッ素」とは、炭化水素基の少なくとも一つの水素原子がフッ素原子によって置換されていることをいう。
好ましくは、含フッ素炭化水素基を有するホスホン酸は下記式(1)により表される。
【0011】
【化3】
【0012】
[式(1)中、Rは、少なくとも1個の水素原子がフッ素原子により置換されている炭素原子数4乃至32の炭化水素基である。]
【0013】
炭化水素基の炭素原子数は、好ましくは5以上、6以上、7以上、又は8以上であり、好ましくは28以下、24以下、20以下、又は16以下である。好ましくは、炭化水素基は、不飽和結合により1回以上中断されていてもよい直鎖のアルキル基である。炭化水素基はすべての炭素原子がフッ素化されていてもよいが、リン原子からα位及びβ位にある2個の炭素原子はフッ素化されていないことが好ましい。炭化水素基を中断する不飽和結合はフッ素化されていてもよいが、フッ素化されていなくてもよい。
【0014】
[由来する層]
含フッ素炭化水素基を有するホスホン酸に由来する層は、基材上に含フッ素炭化水素基を有するホスホン酸が物理的に積層されていてもよく、基材上の金属酸化物との間の化学結合を介して積層されていてもよい。すなわち、「由来する」とは、含フッ素炭化水素基を有するホスホン酸の分子がそのまま維持される場合と、化学反応によって変化している場合のいずれの積層状態をも包含する趣旨である。
金属酸化物と含フッ素炭化水素基を有するホスホン酸とが共有結合を形成していることが好ましい。このような共有結合は、含フッ素炭化水素基を有するホスホン酸のホスホニル基と金属酸化物の酸素原子又は水酸基との間の脱水反応によって容易に形成させることができる。その結果、金属酸化物にホスホニル基を介して結合した含フッ素炭化水素基が基材の上方へ伸長した構造が生成し、この構造に起因して本発明の特に好ましい効果がもたらされると推定される。
【0015】
[基板の製造方法]
本発明に係る基板の製造方法は、表面に金属酸化物を有する基材に、含フッ素炭化水素基を有するホスホン酸を適用する工程を含む。この工程は、例えば、塗布、スプレー、浸漬、スピンコーティング等の公知の手段を用いて実施することができる。
【0016】
通常、塗布、スプレー、浸漬、スピンコーティング等は、含フッ素炭化水素基を有するホスホン酸を溶媒に溶かした溶液を調製し、これを使用して実施することが便利である。使用する溶媒は、基材に悪影響を与えない限り特に制限されないが、一般に、水;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール等のアルコール類;ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテル類;メチレンクロライド、クロロホルム等の含ハロゲン化合物を例示することができる。これらは、各々単独で、又は2種以上の混合溶媒として好適に使用される。
【0017】
含フッ素炭化水素基を有するホスホン酸を溶媒に溶かした溶液は均一であることが好ましく、その濃度に特段の制限はないが、取扱いに都合のよい粘度を考慮すると、通常、10重量%以下、好ましくは5重量%以下、1重量%以下、又は0.5重量%以下が目安となる。本発明の効果を奏する限り、濃度に下限はないが、0.001重量%以上が目安となる。
【0018】
表面に金属酸化物を有する基材に、含フッ素炭化水素基を有するホスホン酸を適用する工程を浸漬によって実施する場合、浸漬時間を1秒以上とすることが望ましい。工業的実施を考慮すると、浸漬時間は24時間以内であることが推奨される。
【0019】
[液晶セル]
一対の基板、一対の基板間に挟持された液晶層、及び一対の基板を貼り合わせるシール材を含んで構成される液晶セルにおいて、本発明に係る基板を前記一対の基板の少なくとも一方、好ましくは両方として用いることができる。
【0020】
液晶セルの基本構造は、例えば、特開昭58-193518号公報、特開昭61-98328号公報、特開昭61-98329号公報、特開昭62-129820号公報、特開昭62-206526号公報、特開昭62-206527号公報等に記載されているように周知である。液晶セルに封入する液晶組成物についても、例えば、特開2018-044028号公報、特開2018-177917号公報、特開2019-085429号公報、特開2019-127540号公報、特開2020-002228号公報等に好適な液晶組成物が開示されている。中でも、下記の化合物を含む液晶組成物を用いると、高信頼性液晶ディスプレイを作製することができる。
【化4】
【0021】
液晶セルの表示モードとしては、負の誘電率異方性を有する液晶分子を基板面に対して垂直配向させた垂直配向モード、正又は負の誘電率異方性を有する液晶分子を基板面に対して水平配向させて液晶層に対し横電界を印加する面内スイッチングモード等がある。本発明に係る液晶セルは、(PSVA)ポリマー安定化垂直配向液晶ディスプレイ、垂直配向(VA)液晶ディスプレイだけでなく、インプレーンスイッチング(IPS)液晶ディスプレイにも好適に使用することができる。
【0022】
また、液晶分子として加熱又は光照射により重合する重合性液晶分子(RM)を用い、これを適宜重合させて作製された光学素子等も表示素子以外の用途として好適に使用することが可能である。
本発明に係る基板に重合性液晶分子を塗布するには、例えばバーコーター法、ロールコーター法、スピンナー法、印刷法、インクジェット法などの適宜の塗布方法を採用することができる。
加熱による重合の場合、加熱条件は、使用する重合性液晶分子の種類によって適宜選択することができる。好ましい加熱温度、加熱時間はそれぞれ、40~80℃、0.5~5分である。光照射による重合の場合、照射光としては、200~500nmの範囲の波長を有する非偏光の紫外線を採用することが好ましく、その照射量としては、好ましくは50~10,000mJ/cm、より好ましくは100~5,000mJ/cmである。
形成される液晶層の厚みとしては、所望の光学特性に従って適宜設定することができる。例えば、波長540nmの可視光における1/2波長板を製造する場合は、位相差フィルムの位相差が240~300nmとなるような厚みが好適であり、1/4波長板を製造する場合は、位相差が120~150nmとなるような厚みが好適である。
このようにして得られた光学素子は、位相差フィルムとして使用することができ、通常、液晶表示素子と偏光板の間に配置される。その他の使用法として、偏光板の外側面に貼合した反射防止機能素子がある。
【実施例
【0023】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0024】
[含フッ素ホスホン酸化合物処理基板]
市販のITO付きガラス基板を、卓上型UVオゾン洗浄改質装置PL16-110を用いて30分間表面処理した。処理後のガラス基板を、下記表1に記載の含フッ素ホスホン酸化合物を所定濃度で含むイソプロパノール溶液中に、所定時間浸漬した。浸漬後、基板の表面を、イソプロパノールを用いて洗浄し、風乾して含フッ素ホスホン酸化合物処理基板を得た。
【0025】
【表1】
【0026】
[液晶組成物]
液晶組成物としては(株)CHIRACOL社製のOCMV-180を使用した(N-I転移点:148℃、Δn=0.082、Δε=-2.8)。
【0027】
[液晶セル]
上記含フッ素ホスホン酸化合物処理基板と未処理の基板を用いてセル厚4ミクロンの空セルを作製した。また、対照として一対の未処理の基板を用いてセル厚4ミクロンの空セルを作製した。これらの各々に、上記液晶組成物を充填、封入し、液晶セルを得た。
【0028】
[配向試験]
得られた液晶セルに下記の条件で電圧を印加し、LEDバックライト、直交ニコル下にて透過光量を観察した。
印加周波数 100Hz
印加電圧 矩形波(3~3.5V)
【0029】
図1において、
(A)は、例1の含フッ素ホスホン酸化合物処理基板を用いて作成した液晶セルの、LEDバックライト、直交ニコル下にて透過光量を観察したときの写真であり、
(B)は、例3の含フッ素ホスホン酸化合物処理基板を用いて作成した液晶セルの、LEDバックライト、直交ニコル下にて透過光量を観察したときの写真であり、
(C)は、対照として一対の未処理の基板を用いて作成した液晶セルの、LEDバックライト、直交ニコル下にて透過光量を観察したときの写真である。
【0030】
含フッ素ホスホン酸化合物処理基板を用いて作成した液晶セルは、電圧印加による透過光量オフが観察され、垂直配向が観察された(図1(A)、(B))。これに対し、未処理の基板を用いて作成した液晶セルは光が漏れ、液晶はランダムに配向していることが観察された(図1(C))。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば、簡単な処理により、信頼性の高いPIレス垂直配向液晶パネルを安価に作製することができる。
図1