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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】微細藻類増殖促進剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/12 20060101AFI20231212BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20231212BHJP
【FI】
C12N1/12 Z
C12N1/20 E
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019211634
(22)【出願日】2019-11-22
(65)【公開番号】P2021078476
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-06-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 生物工学若手研究者の集い 夏のセミナー2019 要旨集、38頁、生物工学若手研究者の集い、令和1年7月20日 生物工学若手研究者の集い 夏のセミナー2019、令和1年7月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】594158150
【氏名又は名称】学校法人君が淵学園
(73)【特許権者】
【識別番号】000164438
【氏名又は名称】九州電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 均
(72)【発明者】
【氏名】岩井 蘭子
(72)【発明者】
【氏名】小宮山 晶子
(72)【発明者】
【氏名】後藤 康之
(72)【発明者】
【氏名】酒井 滋彦
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】特公昭49-016628(JP,B1)
【文献】日本農芸化学会大会要旨集,2019年03月05日,1E6p09
【文献】生物工学会誌,2016年,Vol.94 ,p.146-156
【文献】農業生産技術管理学会誌,2008年,Vol.14,p.198-203
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/12
C12N 1/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光合成細菌の菌体破砕物を有効成分として含有する微細藻類増殖促進剤であって、前記光合成細菌が、紅色非硫黄細菌のロドバクター・スフェロイデスである、微細藻類増殖促進剤。
【請求項2】
光合成細菌の培養液に対する該光合成細菌の菌体の不溶性画分を有効成分として含有する微細藻類増殖促進剤であって、前記光合成細菌が、紅色非硫黄細菌のロドバクター・スフェロイデスである、微細藻類増殖促進剤。
【請求項3】
リポポリサッカライドを有効成分として含有する微細藻類増殖促進剤であって、前記リポポリサッカライドが、光合成細菌である紅色非硫黄細菌のロドバクター・スフェロイデスに由来する、微細藻類増殖促進剤。
【請求項4】
光合成細菌の菌体を破砕することによって菌体破砕物を生成する工程と、前記菌体破砕物を有効成分として含有する微細藻類増殖促進剤を製造する工程とを有し、前記光合成細菌が紅色非硫黄細菌のロドバクター・スフェロイデスであることを特徴とする微細藻類増殖促進剤の製造方法。
【請求項5】
光合成細菌の菌体を該光合成細菌の培養液とともに破砕することによって菌体破砕物を生成する工程と、
遠心分離によって前記菌体破砕物から前記培養液に対する不溶性画分を取り出す工程と、
前記不溶性画分を有効成分とする微細藻類増殖促進剤を製造する工程と
を有することを特徴とする微細藻類増殖促進剤の製造方法。
【請求項6】
光合成細菌の菌体を該光合成細菌の培養液とともに破砕することによって菌体破砕物を生成する工程と、
遠心分離によって前記菌体破砕物から前記培養液に対する不溶性画分を取り出す工程と、
前記不溶性画分を塩酸によって可溶化処理する工程と、
前記可溶化処理された前記不溶性画分を有効成分とする前記微細藻類増殖促進剤を製造する工程と
を有することを特徴とする微細藻類増殖促進剤の製造方法。
【請求項7】
光合成細菌の菌体を該光合成細菌の培養液とともに破砕することによって菌体破砕物を生成する工程と、
遠心分離によって前記菌体破砕物から前記培養液に対する可溶性画分を取り出す工程と、
前記可溶性画分を有効成分とする微細藻類増殖促進剤を製造する工程と
を有することを特徴とする微細藻類増殖促進剤の製造方法。
【請求項8】
光合成細菌の菌体を該光合成細菌の培養液とともに破砕することによって菌体破砕物を生成する工程と、
遠心分離によって前記菌体破砕物から前記培養液に対する不溶性画分を取り出す工程と、
前記不溶性画分からリポポリサッカライドを抽出する工程、
前記リポポリサッカライドを有効成分とする前記微細藻類増殖促進剤を製造する工程と
を有することを特徴とする微細藻類増殖促進剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細藻類増殖促進剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微細藻類を食品又は飼料として利用したり、微細藻類が産生する物質を医薬品、化粧品や燃料として利用したりすることに関心が集まっている。こうした微細藻類の利用を商業的に実現するためには、微細藻類を大量培養することが不可欠であり、そのために微細藻類を効率的に増殖させる技術が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、かん水(淡水に比べて塩分濃度の高い地下水)に含まれる特定の物性を有するフルボ酸含有組成物を微細藻類の培地に加えることによって、該微細藻類の増殖を効果的に促進できることが記載されている。また、特許文献2には、テトラピロール化合物を含むピロール化合物を微細藻類の培地に加えることによって、該微細藻類の増殖を促進する手法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-78155号公報
【文献】特開2019-50731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の発明で用いられるフルボ酸含有組成物を製造するためには、まず、腐植物質(生物の死後、生体有機物が微生物学的又は熱化学的作用を受けて崩壊して生じた、化学構造が特定されない有機物の総称)を豊富に含み特定の特性を有するかん水を用意した上で、該かん水の液性を酸性とし、得られた酸性水を多孔性吸着剤が充填されたカラムによって精製した後、少なくとも2種類のMF膜及び/又はUF膜で分画する必要があり、大きな手間とコストが掛かるという問題があった。また、特許文献2に記載の発明を商業ベースで実現するためには、同文献に記載の特殊な大腸菌(遺伝子ypjD (b2611)が変異により発現できなくなった大腸菌)を入手して該大腸菌に前記テトラピロール化合物をバイオ生産させる必要があり、容易に実現できるものではなかった。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものでありその目的とするところは、低コスト且つ容易に製造可能な微細藻類増殖促進剤、及び該微細藻類増殖促進剤の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために成された本発明に係る微細藻類増殖促進剤は、光合成細菌の菌体破砕物を有効成分として含有するものである。
【0008】
また、上記課題を解決するために成された本発明に係る微細藻類増殖促進剤は、光合成細菌の不溶性画分を有効成分として含有するものであってもよい。
【0009】
また、上記課題を解決するために成された本発明に係る微細藻類増殖促進剤は、光合成細菌の可溶性画分を有効成分として含有するものであってもよい。
【0010】
また、上記課題を解決するためになされた本発明に係る微細藻類増殖促進剤は、リポポリサッカライドを有効成分として含有するものであってもよい。
【0011】
上記課題を解決するために成された本発明に係る微細藻類増殖促進剤の製造方法は、
光合成細菌の菌体を破砕することによって菌体破砕物を生成する工程を有している。
【0012】
本発明に係る微細藻類増殖促進剤の製造方法は、更に、
遠心分離によって前記菌体破砕物から不溶性画分を取り出す工程、
を有するものであってもよい。
【0013】
本発明に係る微細藻類増殖促進剤の製造方法は、更に、
遠心分離によって前記菌体破砕物から可溶性画分を取り出す工程、
を有するものであってもよい。
【0014】
また、本発明に係る微細藻類増殖促進剤の製造方法は、更に、
前記不溶性画分からリポポリサッカライドを抽出する工程、
を有するものであってもよい。
【0015】
なお、本発明に係る微細藻類増殖促進剤、及び微細藻類増殖促進剤の製造方法において、前記光合成細菌は紅色非硫黄細菌であることが望ましく、その中でも、特にロドバクター属の光合成細菌であることが望ましい。また、前記ロドバクター属の光合成細菌は、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)であることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
上記本発明によれば、低コスト且つ容易に製造可能な微細藻類増殖促進剤、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1における上清液及びペレット液の調製方法の概略を示す模式図。
図2】前記上清液を種々の濃度で投与して培養したユーグレナにおける、上清濃度と藻体の増殖率との関係を示すグラフ。
図3】前記ペレット液を種々の濃度で投与して培養したユーグレナにおける、ペレット濃度と藻体の増殖率との関係を示すグラフ。
図4】前記上清液を種々の濃度で投与して培養したクラミドモナスにおける、上清濃度と藻体の増殖率との関係を示すグラフ。
図5】前記ペレット液を種々の濃度で投与して培養したクラミドモナスにおける、ペレット濃度と藻体の増殖率との関係を示すグラフ。
図6】塩酸処理したペレットを用いて調製したペレット液を種々の濃度で投与して培養したユーグレナにおける、ペレット濃度と藻体の増殖率との関係を示すグラフ。
図7】光合成細菌由来のリポポリサッカライド(LPS)を種々の濃度で投与して培養したユーグレナにおける、リポポリサッカライド濃度と藻体の増殖率との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、光合成細菌の破砕物を遠心分離して得られた上清(可溶性画分)とペレット(不溶性画分)の両方に微細藻類の増殖を促進する効果があることを見出した。更に、本発明者は、前記可溶性画分と前記不溶性画分とで微細藻類の増殖促進効果が認められる濃度が異なること、前記不溶性画分を可溶化した上で微細藻類に投与することで微細藻類の増殖促進効果を高められること、及び前記不溶性画分に含まれるリポポリサッカライドが微細藻類の増殖促進因子として機能していることを見出した。本発明に係る微細藻類増殖促進剤及びその製造方法は、上記知見に基づいて想到されたものである。
【0019】
すなわち、本発明に係る微細藻類増殖促進剤の第1の態様のものは、光合成細菌の菌体破砕物を有効成分として含有するものである。
【0020】
光合成細菌は、安価に市販されており、なお且つ培養も容易であることから、本発明に係る微細藻類増殖促進剤及びその製造方法は、低コスト且つ容易に実施することができる。
【0021】
また、上記の通り、前記菌体破砕物を遠心分離して得られる上清(可溶性画分)とペレット(不溶性画分)の両方に微細藻類の増殖を促進する効果があり、且つ両者が効果を発揮する濃度には違いがあることから、本発明に係る微細藻類の増殖促進剤は、前記可溶性画分又は前記不溶性画分のいずれかを一方、又は両方を、各々の投与に適した濃度で含有するものとしてもよい。
【0022】
すなわち、本発明に係る微細藻類増殖促進剤の第2の態様のものは、光合成細菌の不溶性画分を有効成分として含有するものである。
【0023】
また、本発明に係る微細藻類増殖促進剤の第3の態様のものは、光合成細菌の可溶性画分を有効成分として含有するものである。
【0024】
ここで、前記菌体破砕物は、光合成細菌の菌体を、例えば、超音波破砕機、ホモジナイザー(フレンチプレス)、ビーズ式細胞破砕装置、又は酵素等を用いて破砕することによって取得することができ、前記不溶性画分及び可溶性画分は、それぞれ、得られた粉砕物を遠心分離することによって取得することができる。
【0025】
すなわち、本発明に係る微細藻類増殖促進剤の製造方法の第1の態様のものは、光合成細菌の菌体を破砕することによって菌体破砕物を生成する工程を含んでいる。
【0026】
また、本発明に係る微細藻類増殖促進剤の製造方法の第2の態様のものは、光合成細菌の菌体を破砕することによって菌体破砕物を生成する工程と、遠心分離によって前記菌体破砕物から不溶性画分を取り出す工程とを含んでいる。
【0027】
前記本発明に係る微細藻類増殖促進剤の製造方法の第2の態様のものは、更に、前記不溶性画分に対する可溶化処理を行う工程を有することが望ましい。
【0028】
なお、前記可溶化処理の方法としては、例えば塩酸、硫酸、若しくは硝酸等の強酸による処理、乳酸、リン酸、若しくは酢酸等の弱酸による処理、水酸化ナトリウム若しくは水酸化カリウム等の強塩基による処理、水酸化カルシム若しくはアンモニア等の弱塩基による処理、又はエタノール若しくはアセトン等の有機溶媒による処理などを挙げることができるがこれらに限定されるものではない。このような可溶化処理を行うことにより、前記不溶性画分に含まれる有効成分を溶出・活性化させて、その効果(微細藻類の増殖を促進する効果)を高めることができる。
【0029】
また、本発明に係る微細藻類増殖促進剤の製造方法の第3の態様のものは、光合成細菌の菌体を破砕することによって菌体破砕物を生成する工程と、遠心分離によって前記菌体破砕物から可溶性画分を取り出す工程とを含んでいる。
【0030】
また、本発明に係る微細藻類増殖促進剤の第4の態様のものは、リポポリサッカライドを有効成分としている。
【0031】
前記リポポリサッカライドとしては、いかなるものを用いてもよいが、光合成細菌の不溶性画分から抽出したものを用いることが望ましい。
【0032】
すなわち、本発明に係る微細藻類増殖促進剤の製造方法の第4の態様は、光合成細菌の菌体を破砕することによって菌体破砕物を生成する工程と、遠心分離によって前記菌体破砕物から不溶性画分を取り出す工程と、前記不溶性画分からリポポリサッカライドを抽出する工程とを含んでいる。
【0033】
なお、前記各態様に係る微細藻類増殖促進剤、又は微細藻類増殖促進剤の製造方法において、前記光合成細菌の種類は特に限定されるものではないが、紅色非硫黄細菌であることが望ましく、その中でも、特にロドバクター属の光合成細菌であることが望ましい。前記ロドバクター属の光合成細菌としては、例えば、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)を好適に用いることができる。なお、ロドバクター・スフェロイデスとしては、「PSB凍結菌体」、「オーレスPSB」、「光オーレス」、「NEWパナオーレス」、又は「オーレスみどり」の名称で市販されている菌体(販売元:株式会社松本微生物研究所)を好適に用いることができる。
【0034】
前記各態様に係る微細藻類増殖促進剤は、液剤、粉末剤、顆粒剤、又は錠剤等いかなる剤形のものとしてもよい。例えば、微細藻類への投与の容易性を重視する場合には本剤を液状のもの(すなわち液剤)とすることが望ましく、運搬及び保存の容易性を重視する場合には本剤を固体状のもの(すなわち粉末剤、顆粒剤、又は錠剤)とすることが望ましい。本発明に係る微細藻類増殖促進剤を液剤とする場合、該液剤は、前記光合成細菌の菌体破砕物、不溶性画分、可溶性画分、又はリポポリサッカライドを、水、又は水系の分散媒若しくは溶媒(以下、水等と称する)に懸濁、溶解、又は分散させることによって所定の濃度に調整することで製造することができる。また、本発明に係る微細藻類増殖促進剤を粉末剤とする場合、該粉末剤は、前記光合成細菌の菌体破砕物、不溶性画分、可溶性画分、又はリポポリサッカライドを乾燥させることによって製造される。また、本発明に係る微細藻類増殖促進剤を顆粒剤又は錠剤とする場合、該顆粒剤又は錠剤は、乾燥状態の前記菌体破砕物、不溶性画分、可溶性画分、又はリポポリサッカライドに所定の賦形剤、結合剤、崩壊剤などの添加剤を加えて成形することによって製造される。
【0035】
前記粉末剤、顆粒剤、又は錠剤は、使用時にユーザ(微細藻類への投与を行う作業者)が水等に溶解して適切な濃度とした上で、微細藻類への投与(具体的には、微細藻類を含む培養液中への投与)を行うことが望ましい。また、前記液剤は、使用時にユーザが水等で適切な濃度に希釈した上で微細藻類に投与するものとしてもよく、予め適切な濃度となるように製造され、希釈せずに(原液のままで)微細藻類に投与されるものとしてもよい。
【0036】
前記各態様に係る微細藻類増殖促進剤は、種々の微細藻類の増殖促進に用いることができる。なお、「微細藻類」とは、典型的には単細胞真核生物又は真正細菌であって酸素発生型光合成を行うものであるが、本発明ではこれに加えて、単細胞真核生物のうちの二次共生藻であって光合成を行わないものも含むものとする。本発明に係る微細藻類増殖促進剤の適用対象とする微細藻類としては、例えば、ユーグレナ類の藻類(ユーグレナ藻等)、クラミドモナス属の藻類、クロレラ属の藻類、ボツリオコッカス属の藻類、スイゼンジノリ属のラン藻類(スイゼンジノリ等)、又はユレモ属のラン藻類(スピルリナ等)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0037】
光合成細菌の菌体破砕物から得られたペレット(不溶性画分)と上清(可溶性画分)とをそれぞれ含有するペレット液及び上清液を、微細藻類であるユーグレナを含む培養液に投与し、それらがユーグレナの増殖に与える影響を調べた。なお、前記光合成細菌としては、市販のロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides、販売元:松本微生物株式会社、販売名:PSB凍結菌体)を使用し、前記ユーグレナとしては、国立環境研究所微生物系統保存施設(NIESコレクション)に保存されているユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis)NIES-48株を使用した。
【0038】
前記ペレット液及び上清液の調製方法の概略を図1に示す。まず、光合成細菌の培養液(濁度OD660=20、約60 mg fresh weight/mL)を超音波破砕機で、出力:60 W、30秒間ON/OFFを4回繰り返して破砕し、得られた破砕液を遠心分離(15560×g、10 min、25℃)することによってペレットと上清に分離した。得られたペレット及び上清を、それぞれ以下の濃度となるように1リットルの水道水に添加することによりペレット液又は上清液を調製した。なお、該濃度はいずれも破砕前の菌体数(cfu: colony forming unit)から計算した。
上清濃度:0(上清添加なし)、101、102、103、104、105、106、107、108(いずれもcfu/mL相当)
ペレット濃度:0(ペレット添加なし)、105、106、107、108、109(いずれもcfu/mL相当)
【0039】
前記ユーグレナをCM培地(Cramer-Myers medium, pH 3.5, PADILLA, G. M. and JAMES, T. W. (1960) Exp. Cell Res. 20, 401-415.)中で培養して得られた培養液(濁度OD680=0.05)を、12穴プレートの各ウェルに1800uLずつ収容し、そこに前記いずれかの濃度の上清液又はペレット液を200uL添加して12日間培養(25℃、24時間明条件)を行った。なお、前記上清液又は前記ペレット液は、前記ユーグレナの培養液への添加によって10倍希釈されたため、上清の最終濃度(培養液中における濃度)は、0、100、101、102、103、104、105、106、107(いずれもcfu/mL相当)となり、ペレットの最終濃度(培養液中における濃度)は、0、104、105、106、107、108(いずれもcfu/mL相当)となった。
【0040】
上記試験の結果を図2及び図3に示す。図2は前記上清液を投与して培養したユーグレナの増殖率を示すグラフであり、図3は前記ペレット液を投与して培養したユーグレナの増殖率を示すグラフである。なお、増殖率は、培養開始時と培養終了時における培養サンプル(すなわち前記各ウェル内の液体)の濁度(OD680)を、それぞれ分光光度計によって測定し、培養終了時における濁度の値を、培養開始時における濁度の値で除することによって算出した(以下、全ての実施例において同じ)。
【0041】
図2から明らかなように、上清液を投与したものでは、上清濃度103~107(cfu/mL)でユーグレナの増殖促進効果が見られた。一方、図3から明らかなように、ペレット液を投与したものでは、ペレット濃度108(cfu/mL)で有意なユーグレナの増殖促進効果が見られた。以上から、光合成細菌破砕液の上清とペレットでは、微細藻類の増殖促進効果を示す濃度が異なっている(上清は低濃度、ペレットは高濃度)ことが分かった。
【実施例2】
【0042】
前記上清液及び前記ペレット液を、微細藻類であるクラミドモナスを含む培養液に投与し、それらがクラミドモナスの増殖に与える影響を調べた。前記クラミドモナスとしては、Chlamydomonas Resource Center (Duke University, USA)に保存されているクラミドモナス・ラインハーディ(Chlamydomonas reinhardtii)CC-124株を使用した。
【0043】
前記クラミドモナスをTris-Minimal 培地(pH 7.0, Gorman, D.S., and R.P. Levine (1965) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 54, 1665-1669)中で培養して得られた培養液(濁度OD680=0.05)を、12穴プレートの各ウェルに1800uLずつ収容し、そこに実施例1と同様にして調製した上清液又はペレット液を200uL添加して5日間培養(25℃、24時間明条件)を行った。なお、上清の最終濃度(培養液中における濃度)は、0、101、102、103、104、105、106、107(いずれもcfu/mL相当)とし、ペレットの最終濃度(培養液中における濃度)は、0、101、102、103、104、105、106、107、108(いずれもcfu/mL相当)とした。
【0044】
上記試験の結果を図4及び図5に示す。図4は前記上清液を投与して培養したクラミドモナスの増殖率を示すグラフであり、図5は前記ペレット液を投与して培養したクラミドモナスの増殖率を示すグラフである。図4から明らかなように、上清液を投与したものでは、上清濃度101~107(cfu/mL)でクラミドモナスに対する有意な増殖促進効果が見られた。一方、図5から明らかなように、ペレット液を投与したものでは、ペレット濃度101~108(cfu/mL)でクラミドモナスに対する有意な増殖促進効果が見られ、最も効果的な濃度は105(cfu/mL)であった。このことから、上清液及びペレット液が効果を示す濃度域は微細藻類の種類によって異なること、及びクラミドモナスでは、ユーグレナよりも前記上清液及び前記ペレット液に対する感受性が高い(すなわち、より低濃度で増殖促進効果が得られる)ことが分かった。
【実施例3】
【0045】
上記の実施例1において、上清に比べてペレットによるユーグレナの増殖促進効果が小さかった理由としては、ペレット中の有効成分がペレット液中に溶け込んでいないことが考えられた。そこで、塩酸処理によってペレットの細胞壁成分を可溶化することで増殖促進効果を高めることができるか否かを検討した。
【0046】
まず、実施例1と同様の方法で取得したペレットを、0.1 M HClによって100℃、30分処理し、処理後のペレットを以下の濃度となるように1リットルの水道水に添加することによってペレット液を調製した。
ペレット濃度:0(ペレット添加なし)、105、109(いずれもcfu/mL相当)
【0047】
上記のペレット液を、実施例1と同様にユーグレナ(Euglena gracilis、NIES-48株)の培養液に添加して12日間培養を行った(ペレットの最終濃度:104、108 (cfu/mL相当))。その結果、図6に示すように、108 cfu/mLで顕著な増殖促進効果が認められただけでなく、104 cfu/mLでもユーグレナの増殖を促進する効果が認められた。
【実施例4】
【0048】
光合成細菌の不溶性画分(菌体破砕物の遠心分離ペレット)に含まれる成分のうち、グラム陰性菌の外膜の成分であるリポポリサッカライド(Lipopolysaccharide: LPS)は、植物において活性酸素種の生成を促進することが知られている。更に、活性酸素種は高濃度では植物にとって毒となるが低濃度では逆に植物の成長を促進することが知られている。そのため、本発明者は、前記不溶性画分に含まれる微細藻類増殖促進物質をLPSと予測し、光合成細菌由来のLPSを種々の濃度でユーグレナ(Euglena gracilis、NIES-48株)に投与してその増殖への影響を調べた。
【0049】
前記LPSとしては、市販標準品(Rhodobacter sphaeroides由来のもの)を使用し、該LPSを以下の濃度となるように10mLの水道水に添加することによってLPS溶液を調製した。
LPS濃度:0(LPS添加なし)、10-17、10-16、10-15、10-14、10-13、10-12、10-11、10-10、10-9、10-8、10-7、10-6、10-5、10-4(いずれもg/mL)
【0050】
前記ユーグレナの培養液(濁度OD680=0.05)を、12穴プレートの各ウェルに1800uLずつ収容し、そこに前記いずれかの濃度のLPS溶液を200uL添加して、25℃、24時間明条件で12日間培養を行った(LPSの最終濃度(培養液中における濃度) [g/mL]:10-18、10-17、10-16、10-15、10-14、10-13、10-12、10-11、10-10、10-9、10-8、10-7、10-6、10-5)。
【0051】
上記試験の結果を図7に示す。同図から明らかなように、光合成細菌由来のLPSでは10-7g/mL(0.1ug/mL)~10-5g/mL(10ug/mL)の濃度でユーグレナの増殖促進効果が認められた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7