(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】メッシュ状フック面ファスナー、その製造方法及び面ファスナー付き成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
A44B 18/00 20060101AFI20231212BHJP
B29C 69/02 20060101ALI20231212BHJP
B29C 39/10 20060101ALI20231212BHJP
B29C 39/24 20060101ALI20231212BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20231212BHJP
B29C 44/12 20060101ALI20231212BHJP
B29C 44/36 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
A44B18/00
B29C69/02
B29C39/10
B29C39/24
B29C44/00 A
B29C44/12
B29C44/36
(21)【出願番号】P 2021553520
(86)(22)【出願日】2020-10-22
(86)【国際出願番号】 JP2020039698
(87)【国際公開番号】W WO2021079928
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2019192372
(32)【優先日】2019-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591017939
【氏名又は名称】クラレファスニング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000109738
【氏名又は名称】デルタ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101742
【氏名又は名称】麦島 隆
(72)【発明者】
【氏名】田野倉 孔
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 佳克
(72)【発明者】
【氏名】小野 悟
(72)【発明者】
【氏名】藤田 悦則
【審査官】山尾 宗弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/107444(WO,A1)
【文献】特開2012-11985(JP,A)
【文献】特表2000-516482(JP,A)
【文献】特表2006-520661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B 18/00
B29C 69/02
B29C 39/10
B29C 39/24
B29C 44/00
B29C 44/12
B29C 44/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フック型係合素子を一面側に備え、間隔をおいて平行に配置された複数本のストランドから形成されるベース層と、
前記ベース層の他面側に突出し、前記ストランドに交差すると共に、間隔をおいて複数本平行に配置された形状保持用突条と
を一体に備えてなるメッシュ状フック面ファスナーであって、
前記形状保持用突条は、その長さ方向に沿って形成された縦壁部と、前記縦壁部の幅方向両側に延びる一対の張り出し部とを有し、隣接する前記形状保持用突条同士間で、前記ベース層の他面からの突出高さが異なっていることを特徴とするメッシュ状フック面ファスナー。
【請求項2】
前記形状保持用突条は、前記突出高さが、相対的に低い第1形状保持用突条と相対的に高い第2形状保持用突条との2種類から構成され、前記第1形状保持用突条と前記第2形状保持用突条とが隣接方向に交互に配列されている請求項1記載のメッシュ状フック面ファスナー。
【請求項3】
前記第1形状保持用突条の突出高さが、前記第2形状保持用突条の突出高さの0.4~0.8倍である請求項2記載のメッシュ状フック面ファスナー。
【請求項4】
前記第1形状保持用突条の張り出し部における前記ベース層との対向面の反対に位置する外端面の位置が、前記第2形状保持用突条の張り出し部における前記ベース層との対向面の位置よりも前記ベース層寄りである請求項2または3記載のメッシュ状フック面ファスナー。
【請求項5】
隣接する前記第1形状保持用突条及び前記第2形状保持用突条のいずれか一方の張り出し部の他方に対する最短離間距離が、それらの縦壁部同士の突出方向に直交する面に沿った離間距離の0.2~0.6倍である請求項2~4のいずれか1に記載のメッシュ状フック面ファスナー。
【請求項6】
前記形状保持用突条を構成する前記縦壁部および前記張り出し部の前記ベース層の他面を被覆する割合が、前記ベース層の平面積の60~100%である請求項1~5のいずれか1に記載のメッシュ状フック面ファスナー。
【請求項7】
熱可塑性エラストマー樹脂から形成される請求項1~6のいずれか1に記載のメッシュ状フック面ファスナー。
【請求項8】
前記フック型係合素子は、
前記ベース層から突出するステムと、前記ベース層を構成する前記ストランドに沿った一方向又は両方向に延びる突出片からなる係合部とを有する第1係合素子と、
前記ベース層から二股状に突出する2本一対のステムと、前記2本一対のステムのそれぞれに形成され、先端部に向かうに従って前記ベース層を構成する前記ストランドに沿って互いに逆方向に曲がった形状を有してなる係合部とを有する第2係合素子と
のいずれか少なくとも一方から選ばれてなり、
前記ベース層を構成する前記ストランドに直交する方向に複数列をなして並んで存在している請求項1~7のいずれか1に記載のメッシュ状フック面ファスナー。
【請求項9】
前記ストランドの長さ方向の各端縁である前記ベース層の各側縁寄りに前記フック型係合素子として前記第2係合素子からなる列が設けられ、一方の側縁寄りの前記第2係合素子の列と他方の側縁寄りの前記第2係合素子の列との間に、前記フック型係合素子として前記第1係合素子からなる列が設けられている請求項8記載のメッシュ状フック面ファスナー。
【請求項10】
前記フック型係合素子の列と前記形状保持用突条とが、前記ベース層を挟んで対称に存在している請求項8または9記載のメッシュ状フック面ファスナー。
【請求項11】
前記ベース層の一面における前記フック型係合素子の隣接する列間に、係合部を有さないステムのみからなる列が設けられている請求項8~10のいずれか1に記載のメッシュ状フック面ファスナー。
【請求項12】
前記フック型係合素子の外面、および、隣接する前記フック型係合素子間における前記ベース層の一面側の外面に、撥水・撥油剤が付与されている請求項1~11のいずれかに記載のメッシュ状フック面ファスナー。
【請求項13】
前記フック型係合素子が、ループ状係合素子を有する撥水・撥油剤が付与されていない繊維シートにより覆われている請求項12記載のメッシュ状フック面ファスナー。
【請求項14】
押出方向に直交する方向に所定の幅を有する横長スリットと、前記横長スリットの上方に延びると共に、前記横長スリットの幅方向に所定間隔毎に設けられた上方突出空間部と、前記横長スリットの下方に延びると共に、前記横長スリットの幅方向に所定間隔毎に、かつ、隣接するもの同士、前記横長スリットから下方への突出量が異なるように設けられた下方突出空間部とを有する押し出し成形用ノズルを備えた押出成形機に成形材料を投入し、前記押し出し成形用ノズルからテープ状物を押し出し、
前記上方突出空間部から押し出される部位の頂部から前記横長スリットから押し出される部位の他面に至るまで前記押出方向に交差する方向に沿って、前記押出方向に所定間隔毎に切り込みを入れ、
しかる後、前記押出方向に延伸し、
前記横長スリットから押し出される部位をストランドが平行に配置されてなるベース層とし、前記上方突出空間部から押し出される部位を前記ベース層の一面側に突出するフック状係合素子とし、前記下方突出空間部から押し出される部位を、前記ベース層の他面側に突出すると共に、隣接するもの同士、前記ベース層の他面からの突出高さが異なる形状保持用突条とすることを特徴とするメッシュ状フック面ファスナーの製造方法。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか1に記載のメッシュ状面ファスナーを、成形金型内に、前記フック型係合素子を前記成形金型の内面に対面させて取り付け、
次いで、前記成形金型内に発泡樹脂液を注入し、前記メッシュ状フック面ファスナーに対して前記形状保持用突条側から前記発泡樹脂液を接触させて発泡硬化させ、
しかる後、前記成形金型から取り出し、メッシュ状フック面ファスナーが一体になった発泡樹脂成形体を得ることを特徴とする面ファスナー付き成形体の製造方法。
【請求項16】
前記発泡樹脂成形体が、座席構造のクッション材である請求項15記載の面ファスナー付き成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メッシュ状フック面ファスナー及びその製造方法、並びに、このメッシュ状面ファスナーを一体に備えた面ファスナー付き成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物体の表面に対象物を取り付ける手段の一つとして、物体と対象物のいずれか一方の表面にフック型係合素子を有する面ファスナー(いわゆるフック面ファスナー)を固定するとともに、もう一方の表面にループ型係合素子を有する面ファスナー(いわゆるループ面ファスナー)を固定し、そして両方の面ファスナーの係合素子面を重ね合わせて両方の係合素子を係合させることにより、物体の表面に対象物を固定する方法が用いられている。
【0003】
近年、自動車や航空機の座席構造として、ポリウレタン等の発泡樹脂液を座席形状の金型に注入して、発泡と同時に座席形状に成形し、そして座席形状に成形した発泡樹脂成形体(クッション材)の表面の所定箇所にフック面ファスナーを固定し、一方、この発泡樹脂成形体の表面を覆う表皮材の裏面にループ面ファスナーを取り付け、発泡樹脂成形体の表面を表皮材で覆うとともにフック面ファスナーとループ面ファスナーを重ね合わせて係合させることにより、発泡樹脂成形体の表面に表皮材を固定する方法が広く用いられている。また、発泡成形体の表面にフック面ファスナーを固定する部位には溝が形成され、この溝内にフック面ファスナーを固定し、フック面ファスナーの異物感をできるだけ低減するようにすることも行われている。
【0004】
発泡樹脂成形体の表面にフック面ファスナーを固定する方法として、成形後の発泡樹脂成形体の表面にフック面ファスナーを貼り付けるのではなく、発泡樹脂成形体の成形と同時にその表面にフック面ファスナーを固定する方法、具体的には、発泡樹脂成形体の成形用金型内の所定箇所に上記の溝を形成するための凸部を設けると共に、その凸部の端面に凹部を設け、この凹部の底面(金型の内面)に係合素子面を対面させてフック面ファスナーを設置し、その状態で金型内に発泡樹脂液を注入して、成形と同時にその表面にフック面ファスナーを固定する、いわゆるモールドイン成形法という方法が広く用いられている。
【0005】
このようなモールドイン成形法において重要なこととして、フック面ファスナーの係合素子面が発泡樹脂で覆われないこと、さらに、表面にフック面ファスナーが固定されていても、得られる発泡樹脂成形体のフック面ファスナーで覆われている箇所が、覆われていない他の箇所と比べて柔軟性および伸縮性が大きく変わらないことが挙げられる。
【0006】
成形の際にフック面ファスナーの係合素子面が発泡樹脂により覆われる場合には、面ファスナーの係合能が消失することとなり、表皮材を固定できないこととなる。溶剤を用いて溶解除去しようとしても、係合素子間に充填された発泡樹脂を除去することは極めて困難であり、通常は、そのようなフック面ファスナー付きの発泡樹脂成形体は廃棄されることが多い。
また得られる発泡樹脂成形体のフック面ファスナーで覆われている箇所が、覆われていない他の箇所と比べて柔軟性や伸縮性に大きく劣る場合には、そのような座席に座った人に異物感を与えることとなり、快適な座り心地が得られないこととなる。
【0007】
面ファスナーを配置するために形成する発泡成形体の表面に形成される上記の溝をより深くし、この深い溝の奥に面ファスナーが取り付けられることとなるような金型を用いて座席に座った人が異物感を感じないようにすることは可能であるが、そのように深い溝の奥に面ファスナーを取り付けようとする場合には、表皮材に取り付けられた係合相手も深い溝の奥まで到達できるようにする必要があり、構造が複雑となったり、深い溝の奥に存在しているフック面ファスナーに充分に係合させるための特殊な装置が必要となったりする。したがって、発泡樹脂成形体の表面に取り付ける面ファスナーは、余り深い溝とする必要がないこと、すなわち浅い溝であっても面ファスナーの存在が座った人に異物感を与えない、発泡樹脂成形体に近い柔軟性や伸縮性を有していることが好ましいこととなる。
【0008】
従来、モールドイン成形の際に、フック面ファスナーの係合素子面が発泡樹脂により覆われないようにするために種々の工夫がなされている。
例えば、特許文献1には、基体の表面に立設されたフック型係合素子領域を有するフック面ファスナーをモールドイン成形する際に、発泡樹脂液が係合素子領域に侵入することを阻止するために、係合素子領域を高い壁材で囲むことが記載されている。
【0009】
また、特許文献2には、金型内の凸部の端面に形成された凹部にフック面ファスナーを設置した際に、この凹部と面ファスナーの間の隙間をシールできる嵌合要素を面ファスナーの成形の際にフック面ファスナーの裏面に成形することにより発泡樹脂液が表面側の係合素子面に侵入することを阻止することが記載されている。
【0010】
確かに、これら先行文献の技術を用いるとフック面ファスナーの係合素子面が発泡樹脂により覆われることは防ぐことができるが、その反面、係合素子領域が高い壁材で囲まれたり、基体裏面に嵌合要素が設けられることから、フック面ファスナーの柔軟性が損なわれ、そのような座席に座った人に異物感を与えることとなり、またフック面ファスナーの係合能が係合素子領域の周りを囲む高い壁材の存在により低下することとなる。
【0011】
ところで、例えば特許文献3には、第1組の複数の熱可塑性のストランドと、その第1組のストランドと一体に成形され、第1組のストランドと同一の平面上には存在せず、第1組のストランドと交差している第2組の複数のストランドとを具備し、第1組のストランドと第2組のストランドの少なくとも一方にフック状係合素子を備えたメッシュ状のフック成形面ファスナーが開示されている。
そして、このようなメッシュ状のフック面ファスナーは通気性を有していることから、蒸れを防ぐ使い捨ておむつの係止具として適していることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際特許公開2013/5297号公報
【文献】特開平7-148007号公報
【文献】特許第4991285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献3には、メッシュ状フック面ファスナーをモールドイン成形に使用することについて全く記載されていない。一般的な常識からするならば、メッシュ状となっている面ファスナーをモールドイン成形に使用したならば、発泡樹脂液が網目を通じて係合素子面側に激しく侵入して、フック型係合素子を発泡樹脂が覆い、係合能が消失してしまうことが容易に考えられる。メッシュ状面ファスナーは、通気性の点だけでなく、網目の変形による弾性機能によって伸びやすく、係合対象物の動きへの追従性に優れ、異物感を感じにくい等の特性も有している。このため、モールドイン成形への対応が可能となれば、座席構造のクッション材のように人に接して動き易い部位など、その適用範囲がさらに広がることが期待できる。
【0014】
また、特許文献3には、メッシュ状の成形面ファスナーに用いる樹脂として、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート等の非エラストマー系の熱可塑性樹脂が記載されているのみである。しかし、これら樹脂を用いて得られる面ファスナーは、座席構造のクッション材と表皮材との固定などに適用した場合、必要な柔軟性や伸縮性が期待できない。
【0015】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、座席構造のクッション材等の発泡樹脂成形体への一体化をモールドイン成形で可能とし、用途の拡大に寄与できるメッシュ状面ファスナー、その製造方法及び面ファスナー付き成形体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本発明のメッシュ状フック面ファスナーは、
フック型係合素子を一面側に備え、間隔をおいて平行に配置された複数本のストランドから形成されるベース層と、
前記ベース層の他面側に突出し、前記ストランドに交差すると共に、間隔をおいて複数本平行に配置された形状保持用突条と
を一体に備えてなるメッシュ状フック面ファスナーであって、
前記形状保持用突条は、その長さ方向に沿って形成された縦壁部と、前記縦壁部の幅方向両側に延びる一対の張り出し部とを有し、隣接する前記形状保持用突条同士間で、前記ベース層の他面からの突出高さが異なっていることを特徴とする。
【0017】
前記形状保持用突条は、前記突出高さが、相対的に低い第1形状保持用突条と相対的に高い第2形状保持用突条との2種類から構成され、前記第1形状保持用突条と前記第2形状保持用突条とが隣接方向に交互に配列されていることが好ましい。
前記第1形状保持用突条の突出高さが、前記第2形状保持用突条の突出高さの0.4~0.8倍であることが好ましい。
前記第1形状保持用突条の張り出し部における前記ベース層との対向面の反対に位置する外端面の位置が、前記第2形状保持用突条の張り出し部における前記ベース層との対向面の位置よりも前記ベース層寄りであることが好ましい。
【0018】
隣接する前記第1形状保持用突条及び前記第2形状保持用突条のいずれか一方の張り出し部の他方に対する最短離間距離が、それらの縦壁部同士の突出方向に直交する面に沿った離間距離の0.2~0.6倍であることが好ましい。
前記形状保持用突条を構成する前記縦壁部および前記張り出し部の前記ベース層の他面を被覆する割合が、前記ベース層の平面積の60~100%であることが好ましい。
【0019】
本発明のメッシュ状フック面ファスナーは、熱可塑性エラストマー樹脂から形成されることが好ましい。
熱可塑性エラストマー樹脂が、ポリエステルエラストマーまたはポリアミドエラストマーであることがより好ましい。
【0020】
前記フック型係合素子は、
前記ベース層から突出するステムと、前記ベース層を構成する前記ストランドに沿った一方向又は両方向に延びる突出片からなる係合部とを有する第1係合素子と、
前記ベース層から二股状に突出する2本一対のステムと、前記2本一対のステムのそれぞれに形成され、先端部に向かうに従って前記ベース層を構成する前記ストランドに沿って互いに逆方向に曲がった形状を有してなる係合部とを有する第2係合素子と
のいずれか少なくとも一方から選ばれてなり、
前記ベース層を構成する前記ストランドに直交する方向に複数列をなして並んで存在していることが好ましい。
【0021】
前記ストランドの長さ方向の各端縁である前記ベース層の各側縁寄りに前記フック型係合素子として前記第2係合素子からなる列が設けられ、一方の側縁寄りの前記第2係合素子の列と他方の側縁寄りの前記第2係合素子の列との間に、前記フック型係合素子として前記第1係合素子からなる列が設けられていることが好ましい。
前記フック型係合素子の列と前記形状保持用突条とが、前記ベース層を挟んで対称に存在していることが好ましい。
前記ベース層の一面における前記フック型係合素子の隣接する列間に、係合部を有さないステムのみからなる列が設けられている構成とすることも好ましい。
【0022】
前記フック型係合素子の外面、および、隣接する前記フック型係合素子間における前記ベース層の一面側の外面に、撥水・撥油剤が付与されていることが好ましい。
前記フック型係合素子が、ループ状係合素子を有する撥水・撥油剤が付与されていない繊維シートにより覆われていることが好ましい。
【0023】
また、本発明のメッシュ状フック面ファスナーの製造方法は、
押出方向に直交する方向に所定の幅を有する横長スリットと、前記横長スリットの上方に延びると共に、前記横長スリットの幅方向に所定間隔毎に設けられた上方突出空間部と、前記横長スリットの下方に延びると共に、前記横長スリットの幅方向に所定間隔毎に、かつ、隣接するもの同士、前記横長スリットから下方への突出量が異なるように設けられた下方突出空間部とを有する押し出し成形用ノズルを備えた押出成形機に成形材料を投入し、前記押し出し成形用ノズルからテープ状物を押し出し、
前記上方突出空間部から押し出される部位の頂部から前記横長スリットから押し出される部位の他面に至るまで前記押出方向に交差する方向に沿って、前記押出方向に所定間隔毎に切り込みを入れ、
しかる後、前記押出方向に延伸し、
前記横長スリットから押し出される部位をストランドが平行に配置されてなるベース層とし、前記上方突出空間部から押し出される部位を前記ベース層の一面側に突出するフック状係合素子とし、前記下方突出空間部から押し出される部位を、前記ベース層の他面側に突出すると共に、隣接するもの同士、前記ベース層の他面からの突出高さが異なる形状保持用突条とすることを特徴とする。
【0024】
また、本発明の面ファスナー付き成形体の製造方法は、前記のいずれかのメッシュ状面ファスナーを、成形金型内に、前記フック型係合素子を前記成形金型の内面に対面させて取り付け、
次いで、前記成形金型内に発泡樹脂液を注入し、前記メッシュ状フック面ファスナーに対して前記形状保持用突条側から前記発泡樹脂液を接触させて発泡硬化させ、
しかる後、前記成形金型から取り出し、メッシュ状フック面ファスナーが一体になった発泡樹脂成形体を得ることを特徴とする。
【0025】
前記発泡樹脂成形体として、座席構造のクッション材に適用されることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明のメッシュ状フック面ファスナーは、ベース層を挟んでフック型係合素子とは反対側に突出する形状保持用突条の突出高さが隣接するもの同士で異なる構成である。好ましくは、突出高さが相対的に低い第1形状保持用突条と相対的に高い第2形状保持用突条とが交互に配列されている。
【0027】
メッシュ状フック面ファスナーの金型の内面にフック型係合素子を対面させて配置して、発泡樹脂液を注入した場合、従来の隣接する形状保持用突条同士の突出高さが同じ高さのメッシュ状フック面ファスナーの場合、隣接する形状保持用突条間の隙間を通過する発泡樹脂液はそのまま何らの障壁もなく勢いよくベース層の網目まで到達し、さらにフック型係合素子側まで通り抜けようとする。しかし、本発明では、上記のように、隣接する形状保持用突条の高さが異なるため、発泡樹脂液は、例えば、ベース層からの突出高さの低い第1形状保持用突条の張り出し部に到達すると、そこで左右に分けられ、分けられた発泡樹脂液はベース層からの突出高さの高い第2形状保持用突条の縦壁部の側面に当たったりするなど、直進的な侵入が妨げられ勢いが抑えられる。勢いが弱まると、発泡硬化が進みやすくなり、結果的に、ベース層の網目を通過してフック型係合素子側に通り抜ける発泡樹脂液量を抑制することができる。
【0028】
そのため、本発明のメッシュ状フック面ファスナーは、モールドイン成形を適用しても係合能をほとんど損なうことがなく発泡樹脂成形体に一体化できる。したがって、座席構造のクッション材など、人が接して動き易い成形体などへの一体化に適しており、メッシュ状フック面ファスナーの用途の拡大に寄与できる。
【0029】
本発明のメッシュ状フック面ファスナーは、フック型係合素子側に撥水・撥油剤を付与した構成とすることにより、成形後のフック型係合素子側の発泡樹脂の付着をより抑制することができる。さらにループ状係合素子を有する繊維シートで覆う構成とすることにより、成形後、この繊維シートを剥離することで、網目間を通り抜け、フック型係合素子間で硬化した発泡樹脂が存在したとしても、繊維シートに付着させて容易に除去することができ、係合能をさらに高めることができる。
【0030】
さらに、本発明のメッシュ状フック面ファスナーは、熱可塑性エラストマーから形成された構成とすることが好ましい。柔軟性と伸縮性に極めて優れているため、かかるメッシュ状フック面ファスナーを取り付けた発泡樹脂成形体は、面ファスナーが取り付けられている箇所が取り付けられていない他の箇所と比べて柔軟性や伸縮性の点で大きく相違することが少なく、面ファスナーの異物感が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明のメッシュ状フック面ファスナーの一例の一部を模式的に示す斜視図である。
【
図2】本発明のメッシュ状フック面ファスナーの製造に用いられる押し出し成形用ノズルの一例の断面図の一部である。
【
図3】本発明のメッシュ状フック面ファスナーを製造する途中の、押し出された成形物(テープ状物)に切れ目を入れた時点での成形物の一部を模式的に示す斜視図である。
【
図4】本発明のメッシュ状フック面ファスナーの一例の形状保持用突条の長さ方向に直角な面での断面図の一部である。
【
図5】実施例で用いた押し出し成形用ノズルの断面を模式的に示した図である。
【
図6】フック型係合素子を繊維シートで覆う工程を説明するための図であり、(a)はフック型係合素子が設けられている面から見た平面図、(b)は裏面図、(c)は断面図である。
【
図7】メッシュ状フック面ファスナーを、座席用のクッション材成形用金型内に配置してクッション材を成形する工程を説明するための図である。
【
図8】実施例1、実施例2及び比較例1~2の引張せん断強さの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明のメッシュ状フック面ファスナーの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。本実施形態のメッシュ状フック面ファスナー(1)は、
図1に示すように、間隔をおいて複数本平行に配列されたストランド(a
1)を備えたベース層(A1)と、ベース層(A
1)の一面(A1a)側に設けられたフック型係合素子(B
1,B
2)と、ベース層(A
1)の他面(A1b)側に突出し、ストランド(a
1)と交差すると共に、間隔をおいて複数本平行に配置された形状保持用突条(a
21,a
22)とを有している。
【0033】
図1から明らかように、フック型係合素子(B
1,B
2)は、いずれも、ベース層(A
1)の一面(A
1a)(正確には、ベース層(A
1)を構成するストランド(a
1)の一面)からほぼ垂直あるいは斜めに立ち上がっている。さらにフック型係合素子(B
1,B
2)は、ベース層(A
1)の他面(A
1b)側に存在している形状保持用突条[(a
21),(a
22)]の長さ方向と同一の方向に一定の間隔で列をなして並んでいる。
【0034】
フック型係合素子は、本実施形態では、第1係合素子(B
1)と第2係合素子(B
2)とから構成される。第1係合素子(B
1)は、根元部(ベース層(A
1)の一面(A
1a)(正確には、ストランド(a
1)の一面)から延びたステム(S
1)とその途中または頂部からストランド(a
1)の長さ方向に沿った両方向に延びる一対の突出片(M
1a,M
1b)からなる係合部(M
1)とからなっている。第2係合素子(B
2)は、
図1の右側の側縁に示したように、ベース層(A
1)の一面(A
1a)(正確には、ストランド(a
1)の一面)から二股状に突出する2本一対のステム(S
2,S
2)と、2本一対のステム(S
2,S
2)のそれぞれから先端部に向かうに従ってストランド(a
1)に沿って互いに逆方向に曲がり、その最先端がベース層(A
1)の一面(A
1a)に近づく形状となっている係合部(M
2,M
2)とを有している。
【0035】
なお、第1係合素子(B
1)の係合部(M
1)を構成する突出片(M
1a,M
1b)は、本実施形態のようにステム(S
1)から両側に突出していてもよいが、片側のみに突出している構成とすることもでき、さらには上下多段に突出していてもよい。第2係合素子(B
2)も、上下多段に係合部(M
2)を有する形状であってもよい。また、フック型係合素子は、
図1に示したように、第1係合素子(B
1)と第2係合素子(B
2)を共存させた構成であってもよいが、いずれか一方のみで構成してもよい。また、フック型係合素子は、このように通常のフック型やT字型の他に、矢じり型、逆L字型等の形状等のいずれであってもよく、要は、係合部(M
1,M
2)に、ループ面ファスナーのループ状係合素子繊維が係合して留める機能を有していればよい。
【0036】
但し、第2係合素子(B
2)は、
図1に示すように、ベース層(A
1)の一面(A
1a)に存在している盛り上がり部からステム(S
2,S
2)が2本一対の状態で背中合わせで立ち上がり、そして個々のステム(S
2,S
2)は途中からストランド(a
1)に沿って互いに逆方向に曲がり、係合部(M
2,M
2)の最先端がベース層(A
1)の一面(A
1a)に近づく形状となっていることが好ましい。これにより、ループ型係合素子がどの方向から近づいても係合でき、また、係合部(M
2,M
2)が係合により引きちぎられ難い。
【0037】
第1係合素子(B
1)の列は、メッシュ状フック面ファスナー(1)の形状保持用突条(a
21,a
22)の長さ方向(
図1のY方向)に直角な方向(幅方向:
図1のX方向)の中央部近辺に、複数(通常は3~10列)存在しており、その各側縁寄りには、第2係合素子(B
2)が1列以上(通常は2~5列)存在していることが好ましい。このように、第1係合素子(B
1)と第2係合素子(B
2)とが共存していると、例えば座席構造のクッション材であるウレタンパッドと表皮材との間の係合に用いた場合、ねじれや褶曲が発生した状況でも、その係合性能が維持されやすい点で好ましい。
【0038】
形状保持用突条(a21,a22)は、ベース層(A1)の他面(A1b)側に突出し、間隔をおいて平行に複数本設けられており、ストランド(a1)と交差している。ストランド(a1)と形状保持用突条(a21,a22)とは両者の交差点で一体化されており、隣り合う2本のストランド(a1)と隣り合う2本の形状保持用突条(a21,a22)により形成された網目(A3)がベース層(A1)に多数形成されている。
【0039】
形状保持用突条(a
21,a
22)は、その長さ方向(
図1のY方向)に沿った縦壁部(P)と、縦壁部(P)の幅方向(
図1のX方向)両側に延びる一対の張り出し部(Q)とを有している。具体的には、
図4に示すように、縦壁部(P)は、ベース層(A
1)の他面(A1b)から立ち上がり、X方向に沿った断面形状で相対的に幅が狭く、張り出し部(Q)はそれよりも幅が広く形成されている。張り出し部(Q)は、本実施形態では縦壁部(P)の先端部において幅方向両側に突出形成しているが、縦壁部(P)の中間に形成することも可能である。
【0040】
また、本実施形態の形状保持用突条(a
21,a
22)は、
図4に示すように、ベース層(A
1)の他面(A1b)からの突出高さ(h)が相対的に低い第1形状保持用突条(a
21)と相対的に高い第2形状保持用突条(a
22)との2種類から構成され、第1形状保持用突条(a
21)と第2形状保持用突条(a
22)とが隣接方向に交互に配列されている。なお、本明細書中、「突出高さ(h)」は、
図4に示すように、第1形状保持用突条(a
21)と第2形状保持用突条(a
22)のうち、ベース層(A
1)の他面(A1b)から最も離れた点、一般的には頂点(最下点)の位置である。
【0041】
形状保持用突条(a21,a22)が、縦壁部(P)の幅方向外方に突出する張り出し部(Q)を有していることにより、モールドイン成形の際、発泡樹脂液は、まずこの張り出し部(Q)に当たり、ベース層(A1)に直接勢いよく侵入することが阻止される。突出高さ(h)が相対的に低い第1形状保持用突条(a21)と相対的に高い第2形状保持用突条(a22)は、隣接方向(X方向)に交互に設けられていることが好ましい。形状保持用突条(a21,a22)の隣接するもの同士の突出高さ(h)が異なることにより、すなわち、隣接するもの同士で段差を有することにより、発泡樹脂液の流れがいずれかの部位で阻害される。例えば、発泡樹脂液は、突出高さが低い張り出し部(Q)で遮られ、左右に分けられた発泡樹脂液の流れは、隣接する突出高さの高い縦壁部(P)の側面に当たるなどする。これにより、発泡樹脂液の流れの勢いが弱まる。
【0042】
発泡樹脂液の流れの勢いが低下することにより、その分、発泡樹脂液の発泡硬化が進むため、ベース層(A1)に到達し、さらにベース層(A1)の網目(A3)を貫通してフック型係合素子(B1,B2)の付近まで到達できる発泡樹脂は少なくなる。但し、フック型係合素子(B1,B2)の外面及びベース層(A1)(ストランド(a1))の一面(A1a)側の外面を発泡樹脂成形に先立って予め撥水・撥油剤で覆っておくことが好ましい。これにより、フック型係合素子(B1,B2)に発泡樹脂がより付着しにくくなると共に、仮に付着したとしても除去しやすくなる。また、予め、フック型係合素子(B1,B2)をループ型係合素子を有する繊維シート(図示せず)で覆っておき、その後、上記のように金型にセットし、発泡樹脂液を注入する構成とすれば、発泡成形後、繊維シートを剥離することで、簡単にフック型係合素子(B1,B2)に付着した発泡樹脂を繊維シートの剥離とともに一挙に除去できる。
【0043】
第1形状保持用突条(a
21)の突出高さ(h)は、第2形状保持用突条(a
22)の突出高さ(h)の0.4~0.8倍であることが好ましい。また、突出高さ(h)の低い第1形状保持用突条(a
21)の張り出し部(Q)におけるベース層(A
1)との対向面(Q
1)の反対に位置する外端面(Q
2)の位置が、突出高さ(h)の高い第2形状保持用突条(a
22)の張り出し部(Q)におけるベース層(A
1)との対向面(Q
1)の位置よりもベース層(A
1)寄りとなるように形成されていることが好ましい。さらに、隣接する第1形状保持用突条(a
21)及び第2形状保持用突条(a
22)のいずれか一方の張り出し部(Q)における他方に対する最短離間距離(D
1)が、それらの縦壁部(P)同士の突出方向に直交する面に沿った離間距離(D
2)の0.2~0.6倍となるように形成されていることが好ましい。なお、最短離間距離(D
1)は、
図4に示したように、隣接する一方の張り出し部(Q)のいずれかの部位から隣接する他方の縦壁部(P)及び張り出し部(Q)のいずれかの部位までのうち最も間隔の短い区間の距離をいい、上記離間距離(D
2)のように、縦壁部(P)の突出方向に直交する面に沿った方向の距離のみを指すわけではない。
相互に隣接する第1形状保持用突条(a
21)及び第2形状保持用突条(a
22)の関係をこのように設定することにより、上記のような発泡樹脂液のフック型係合素子係合素子(B
1,B
2)側への侵入を効果的に阻止できる。
【0044】
なお、第1形状保持用突条(a
21)及び第2形状保持用突条(a
22)の各張り出し部(Q)は、本実施形態のように、縦壁部(P)の先端部に1段で存在している構成であってもよいが、縦壁部(P)の上下方向2段以上存在していてもよい。
また、形状保持用突条(a
21,a
22)を構成する張り出し部(Q)の横断面形状としては、
図1に示したものに限定されず、円形、長円形、楕円形、矩形等のいずれでも良く、また形状保持用突条(a
21,a
22)の長さ方向に直角な面での断面形状としては、キノコ型、傘型、T字型、Y字型、逆J字型、逆L字型等のいずれでも良い。
【0045】
座席構造のクッション材に一体化するのに適するメッシュ状フック面ファスナー(1)の場合、具体的な寸法としては、第2形状保持用突条(a22)の突出高さ(h)は、0.70~1.50mmであることが好ましく、第1形状保持用突条(a21)の突出高さ(h)は0.30~0.60mmであることが好ましい。第2形状保持用突条(a22)の突出高さ(h)は、第1形状保持用突条(a21)の突出高さ(h)より0.15~0.40mm高いことが、発泡樹脂液のフック型係合素子係合素子(B1,B2)側への侵入を防ぐ上で好ましく、また張り出し部(Q)の幅方向外方への広がりがそれぞれ0.40~1.00mmであることが同様の理由から好ましい。
【0046】
第1形状保持用突条(a
21)及び第2形状保持用突条(a
22)の長さ方向に直角な面での断面積としては0.20~0.26mm
2が好ましく、張り出し部(Q)の断面積が形状保持用突条(a
21,a
22)全体の断面積の20~50%であるような形状が発泡成形体へのアンカー効果の点で、さらに発泡樹脂液のフック型係合素子(B
1,B
2)側への侵入を防ぐ点で好ましい。
また、形状保持用突条(a
21,a
22)は、メッシュ状フック面ファスナー(1)の延伸方向と直角な方向(
図1のX方向)に1cm当たり5~15本存在していることが、強度を保つ上で好ましい。
【0047】
形状保持用突条(a
21,a
22)は、ベース層(A
1)の他面(裏面)(A1b)を被覆する縦壁部(P)および張り出し部(Q)の割合(裏面被覆率)が、ベース層(A
1)の他面(裏面)(A1b)の平面積の60~100%となるように設けられていることが好ましい。
ここでいう縦壁部(P)および張り出し部(Q)の割合(裏面被覆率)とは、
図4に示すような、張り出し部(Q)が縦壁部(P)の先端部から幅方向両側に突出している形状の場合には、裏面からは縦壁部(P)は見えないことから、裏面に占める張り出し部(Q)の面積割合となる。さらに
図4で示すように、裏面から見た場合に、突出高さ(h)が相対的に高い第2形状保持用突条(a
22)の張り出し部(Q)に、突出高さ(h)が相対的に低い第1形状保持用突条(a
21)の張り出し部(Q)の一部が隠れている場合には、上記裏面被覆率は100%となる。裏面被覆率は、メッシュ状フック面ファスナー(1)の裏面の拡大写真を撮り、その写真から、形状保持用突条(a
21,a
22)のベース層(A
1)の他面(裏面)(A1b)面積の割合を容易に求めることができる。
【0048】
メッシュ状フック面ファスナー(1)は、上記のようにベース層(A1)を構成するストランド(a1)と、形状保持用突条(a21,a22)とが、それぞれ異なる方向に、いずれも間隔をおいて平行に並んでおり、これらストランド(a1)が図において上側、形状保持用突条(a21,a22)が図において下側となっている。したがって、両者は同一面には存在しないが、交差して重なり合って一体化されており、その結果、ベース層(A1)が網目(A3)を有するメッシュ状となっている。
【0049】
ストランド(a1)と形状保持用突条(a21,a22)とが同一面に存在しないメッシュ状となっていることにより、メッシュ状フック面ファスナー(1)は柔軟性と伸縮性に極めて優れている。したがって、本実施形態のメッシュ状フック面ファスナー(1)を取り付けた発泡樹脂成形体は、メッシュ状フック面ファスナー(1)が取り付けられている箇所が、柔軟性や伸縮性の点で優れたものとなり、メッシュ状フック面ファスナー(1)の存在が殆ど感じられない。このため、従来のように、発泡樹脂成形体に深い溝を設け、その溝の奥に面ファスナーを固定して異物感を軽減する構造などを採用する必要がなく、浅い溝でもよいこととなる。その結果、それに固定される表皮材の取り付け作業も容易となる。
【0050】
なお、ベース層(A1)の一面(A1a)に設けられたフック型係合素子(B1,B2)の列と、ベース層(A1)の他面(A1b)に設けられた形状保持用突条(a21,a22)とは、中間のベース層(A1)を挟んで、背中合わせで対称に存在していても、あるいは位置をずらして存在していてもよいが、フック型係合素子(B1,B2)を引っ張る外力が作用すること等によって破壊されることを防ぐ上から、背中合わせで存在していることが好ましい。背中合わせで存在していることにより、フック型係合素子(B1,B2)に引っ張る力が加わった場合、フック型係合素子(B1,B2)の付け根が延伸により分子配向された形状保持用突条(a21,a22)によって長さ方向に補強されていることから破壊を効果的に防ぐことができる。
【0051】
さらに、全ての形状保持用突条(a
21,a
22)の背中合わせ面に、フック状係合素子(B
1,B
2)の列が存在している必要はなく、
図1や
図4に示すように、係合素子の大きさや数によって、係合能を有さないステム(本実施形態では、背の低い台地状膨らみ部(N)が相当する)のみからなる列が存在していてもよい。このような台地状の膨らみ部(N)は、成形する際に裏面側で向かい合っている形状保持用突条(a
21,a
22)の形成を容易とする効果を有する。好ましくは、
図1や
図4に記載のように、フック状係合素子の列と背の低い台地状膨らみ部(N)の列が交互に存在している場合であり、かつ背の低い形状保持用突条(a
21)と背中合わせで背の低い台地状膨らみ部(N)が存在している場合である。
【0052】
本実施形態のメッシュ状フック面ファスナー(1)は、熱可塑性エラストマー樹脂から形成されていることが好ましい。熱可塑性エラストマー樹脂が用いられていることにより、上記したメッシュ形状と合わせて、柔軟性と伸縮性をより優れたものとすることができる。
【0053】
具体的に用いられる熱可塑性エラストマー樹脂としては、ポリウレタン系樹脂、スチレン系エラストマー樹脂、ポリアミドエラストマー樹脂、ポリオレフィン系エラストマー樹脂、軟質塩化ビニル樹脂、ポリエステルエラストマー等が挙げられ、なかでもポリエステルエラストマーとポリアミドエラストマーが他のエラストマー樹脂と比べて係合素子の突起部が係合を剥離する際の引っ張りによりステムから引きちぎれたりすることが少なく好ましい。
【0054】
しかもポリエステルエラストマーやポリアミドエラストマーは、他のエラストマー樹脂と比べて、弾性率が高いにもかかわらず、エラストマーの性質を充分に有している樹脂であり、相対的な動きが様々な方向から生じても面ファスナーの追従性に優れ、係合相手との係合が容易に解除されることがない。
【0055】
本実施形態において、熱可塑性エラストマーとして最も好ましいポリエステルエラストマーは、ブチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とする樹脂にポリオキシテトラメチレングリコールを共重合したものであり、他の一般的エラストマー樹脂、例えばポリウレタン、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー等より、前記したように弾性率が高いにもかかわらず、弾性ポリマーの性質を充分に有している樹脂である。好ましくは、ポリエステルエラストマー中における[ポリ(オキシテトラメチレン)]テレフタレート基の割合が40~70重量%、さらに好ましくは50~60重量%の範囲の場合である。
【0056】
またポリエステルエラストマーの次に好ましいポリアミドエラストマーは、ナイロン6ブロック、ナイロン11ブロック、ナイロン12ブロック等のポリアミドブロックをハードセグメント成分、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルや脂肪族ポリエステル等をソフトセグメント成分とするエラストマーであり、ポリエステルエラストマーと同様に、他の一般的エラストマー樹脂より弾性率が高いにもかかわらず、弾性ポリマーの性質を充分に有している。好ましくはソフトセグメントの割合が30~80重量%である場合である。
【0057】
本実施形態のメッシュ状フック面ファスナー(1)は、ポリエステルエラストマー単独あるいはポリアミドエラストマー単独で形成されている場合が最も好ましいが、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマーあるいはこれらの混合物が用いられている場合には、さらにそれら以外のエラストマー樹脂、例えば、ポリオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー等がブレンドされていてもよく、さらにエラストマー以外の樹脂、例えばポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体等が少量ブレンドされていてもよい。
さらにそれ以外に、可塑剤、各種安定剤、耐候剤、架橋剤、抗菌剤、充填剤、防炎剤、帯電防止剤、補強材、導電剤、着色剤等が添加されていてもよい。
【0058】
ここで、フック型係合素子(B
1,B
2)の高さとしては、第1係合素子(B
1)及び第2係合素子(B
2)のいずれも、0.80~2.00mmのものが好ましい。フック型係合素子(B
1,B
2)の密度としては30~60個/cm
2の範囲が好ましい。またこのようなフック型係合素子(B
1,B
2)の列がメッシュ状フック面ファスナー(1)の延伸方向と直角な方向に1cm当たり5~15本存在しているのが、係合力や面ファスナーの強度の点で好ましい。なお、ここでいうフック型係合素子(B
1,B
2)の密度および列とは、ステム(S
2,S
2)が2本一対の状態で背中合わせで立ち上がり、その最先端のそれぞれに係合部(M
2,M
2)を有する第2係合素子(B
2)の場合、背中合わせの2本一対を1本と数える。また
図1において、矢印Y方向が延伸方向である。
【0059】
フック型係合素子(B
1,B
2)は、
図1に示すように、ステム(S
1,S
2)とそのサイドに広がる、あるいはサイド方向に曲がる係合部(M
1,M
2)からなり、ストランド(a
1)の長さ方向に係合部(M
1,M
2)はステム(S
1,S
2)からはみ出して拡がっているが、ストランド(a
1)の長さ方向以外には係合部(M
1,M
2)ははみ出していないことが好ましい。また、係合部(M
1,M
2)は、ステム(S
1,S
2)から先端に至るまでほぼ同一の幅を有していることが好ましい。
【0060】
ステム(S1,S2)と係合部(M1,M2)およびストランド(a1)は、同一面であることから、これらの幅は通常均一であり、0.20~0.50mmの範囲が係合力と面ファスナーの強度の点で好ましく、より好ましくは0.30~0.40mmの範囲である。
【0061】
フック型係合素子(B1,B2)のステム(S1,S2)の高さ方向中間部でのストランド(a1)に平行な面での断面積としては、0.05~0.20mm2、係合部(M1,M2)のステム(S1,S2)からの突出長としては0.30~1.00mm、係合部(M1,M2)の平均厚さとしては0.15~0.50mmが、それぞれ係合力と強度の点で好ましい。
またストランド(a1)の厚さとしては0.10~0.40mmの範囲が、また隣り合うストランド(a1)との間隔としては、間に0.20~1.00mmの幅の空間が形成される程度が係合力、強度および伸縮性の点で好ましい。
【0062】
本実施形態のメッシュ状フック面ファスナー(1)は、以下の工程(i)~(iii)を順次行うことにより製造される。
(i)押出方向に直交する方向に所定の幅を有する横長スリットと、前記横長スリットの上方に延びると共に、前記横長スリットの幅方向に所定間隔毎に設けられた上方突出空間部と、前記横長スリットの下方に延びると共に、前記横長スリットの幅方向に所定間隔毎に、かつ、隣接するもの同士、前記横長スリットから下方への突出量が異なるように設けられた下方突出空間部とを有する押し出し成形用ノズルを備えた押出成形機に成形材料を投入し、前記押し出し成形用ノズルからテープ状物を押し出す第1工程、
(ii)前記上方突出空間部から押し出される部位の頂部から前記横長スリットから押し出される部位の他面に至るまで前記押出方向に交差する方向に沿って、前記押出方向に所定間隔毎に切り込みを入れる第2工程、
(iii)しかる後、前記押出方向に延伸する第3工程。
【0063】
より詳細に説明すると、まず、第1工程においては、熱可塑性エラストマー樹脂の溶融物を
図2に示すような押し出し成形用ノズル(2)を備えた金型から押し出し、冷却固化して、
図3に示すような、テープ状物(3)を得る。金型の押し出し成形用ノズル(2)は、押出方向に直交する方向に所定の幅を有する横長スリット(G)と、この横長スリット(G)の上方に延びると共に、横長スリット(G)の幅方向に所定間隔毎に設けられた上方突出空間部(F
1,F
2)と、横長スリット(G)の下方に延びると共に、横長スリット(G)の幅方向に所定間隔毎に設けられた下方突出空間部(H
1,H
2)を有している。このうち、一方の上方突出空間部(F
1)は、フック型係合素子のうち第1係合素子(B
1)に対応する形状に形成され、他方の上方突出空間部(F
2)は、フック型係合素子のうち第2係合素子(B
2)に対応する形状に形成されている。また、下方突出空間部(H
1,H
2)は、隣接するもの同士、横長スリット(G)から下方への突出量が異なるように形成されている。
図2に示した押し出し成形用ノズル(2)から押し出されたテープ状物(3)は、
図3に示したように、横長スリット(G)から押し出される部位であるベース層用シート部(R)を挟んだ一面(表面)側に複数列のフック型係合素子用突条(K
1,K
2)を有し、その反対側である他面(裏面)側に複数列の形状保持用突条(a
21,a
22)を有している。なお、
図3は、フック型係合素子用突条(K
1,K
2)及びベース層用シート部(R)に切れ目(E)を入れた図となっているが、押し出し成形用ノズル(2)から押し出された段階のテープ状物(3)にはこのような切れ目(E)が入っていないことはもちろんである。
【0064】
第2工程では、押し出し成形用ノズル(2)から押し出された熱可塑性エラストマーからなるテープ状物(3)に、
図3に示すように、このテープ状物(3)の押出方向と交差する方向(
図3のC方向)に、フック型係合素子用列条(K)の頂部からその下のベース層用シート部(R)の裏面に至る切れ目(E)を入れる。形状保持用突条(a
21,a
22)には切れ目(E)が入らないようにする。
【0065】
なお、ベース層用シート部(R)の厚さとしては、0.10~0.40mm、特に0.20~0.30mmの範囲が好ましい。この厚さは延伸を行った後においても殆ど変わらない。したがって、このベース層用シート部(R)が、ベース層(A1)を構成するストランド(a1)となることから、この厚さがストランド(a1)の厚さとなる。
【0066】
また、ベース層用シート部(R)の延伸前の幅としては10~200mm、特に25~150mmが好ましい。幅が広すぎる場合には、フック型係合素子用突条(K1,K2)およびベース層用シート部(R)に高速で均一な深さで切れ目を入れるのが困難となる。
【0067】
フック型係合素子用突条(K
1,K
2)およびベース層用シート部(R)に入れる切れ目(E)は、0.20~0.50mm間隔で、特に0.30~0.40mm間隔で、間隔が一定となるように平行に入れるのが好ましい。この間隔がストランド(a
1)の幅(
図1のY方向に沿った幅)およびフック型係合素子(B
1,B
2)の幅(
図1のY方向に沿った幅)となる。
【0068】
切れ目(E)は、テープ状物(3)の長さ方向(押出方向)に対して90~35度の角度で入れるのが係合力等の点で好ましい。特に、延伸後において、ストランド(a
1)と形状保持用突条(a
21,a
22)が直角ではなく45~85度の角度で交わることとなるように角度を入れるのが、メッシュ状フック面ファスナー(1)の幅方向(
図1のX方向)に伸縮性を与え、ひいては係合素子からの力により面ファスナーが破壊されることを軽減できる観点から好ましい。ストランド(a
1)と形状保持用突条(a
21,a
22)が45~85度の角度で交わる場合には、網目(A
3)の形状は平行四辺形となる。
【0069】
なお、本実施形態のように、熱可塑性エラストマーから形成すると、沿形性に優れて、ベース層が平坦となり易く、形状保持用突条の付け根まで確実に切れ目を入れることが容易となる。
【0070】
第3工程では、切れ目(E)を入れたテープ状物(3)を押出方向(
図1のY方向)に延伸する。延伸倍率としては、延伸後のテープ状物の長さが元のテープ状物(3)の全長の1.5~2.5倍となる程度が採用される。このような延伸を行なうことにより切れ目(E)の間隔が広がり、ベース層用シート部(R)が、独立したストランド(a
1)が同一平面に複数本相互に間隔をおいて平行して存在するベース層(A
1)となり、フック型係合素子用突条(K)が、独立した多数のフック型係合素子(B
1,B
2)となる。
【0071】
一方、ベース層用シート部(R)の裏面に存在している形状保持用突条(a21,a22)は切れ目が入れられていないことから、延伸後においても連続した突条の形状を保ち、ストランド(a1)を固定してメッシュ状フック面ファスナー(1)のシート状の形態を保持する部位として機能する。
【0072】
延伸により、切れ目(E)の間隔を0.20~1.00mmとすることが、面ファスナーの柔軟性、沿形性等の点で好ましい。形状保持用突条(a
21,a
22)は、延伸によっても断面形状は変わらないが、長さ方向に延伸されることから断面積が延伸前の形状と相似形で縮小することとなる。
図1は、延伸した後のメッシュ状フック面ファスナー(1)の形状を模式的に示したものである。
【0073】
第3工程により、形状保持用突条(a21,a22)は延伸され、その長さ方向に連続して存在しつつ、分子配向されていることとなる。一方、ストランド(a1)は延伸されないことから、延伸前とほぼ同一で、その長さ方向に分子配向されていない。
【0074】
次に、本実施形態のメッシュ状フック面ファスナー(1)を用いて、自動車や飛行機等の座席構造に用いられるクッション材の製造方法について説明する。
まず、本発明のメッシュ状フック面ファスナー(1)のフック型係合素子(B1,B2)の外面およびストランド(a1)のフック型係合素子(B1,B2)が存在している側の外面に撥水・撥油剤を付与する。これにより、裏面側から発泡樹脂液が侵入しても、フック型係合素子(B1,B2)の外面に発泡樹脂が強固に接着することを防ぐことができる。
【0075】
撥水・撥油剤としては、一般に用いられているものを使用でき、例えばケイ素化合物系や炭素化合物系やフッ素化合物系等が代表例として挙げられるが、なかでもフッ素系化合物が好ましい。フッ素系化合物としては、フッ素系ウレタン樹脂やフッ素系アクリル樹脂等が挙げられる。
【0076】
次に、撥水・撥油剤が付与されたメッシュ状フック面ファスナー(1)のフック型係合素子(B1,B2)側の面(ベース層(A1)の一面(A1a))を、フック型係合素子(B1,B2)と係合するループ状係合素子を有し、撥水・撥油剤が付与されていない繊維シートで覆う。これにより、発泡樹脂成形後に繊維シートを除去すれば、ベース層(A1)の網目(A3)を裏面側から通り抜けてフック型係合素子(B1,B2)間に侵入して硬化した発泡樹脂を繊維シートに付着させた状態で極めて容易に除去できる。
【0077】
繊維シートとしては、表面にフック型係合素子(B1,B2)と係合できるループ状係合素子となる繊維を有する織物、編物、不織布等の繊維製シート、例えば、伸縮性と厚みを有し、さらに畝を有している経編地であるトリコット編物の表面を針布等で起毛して、編地から繊維を表面にループ状に引き出した布帛が挙げられ、これ以外にも表面にフック型係合素子(B1,B2)と係合できるループや捲縮を有する繊維が存在している布帛や不織布が挙げられ、特に制限はない。これら用いられる繊維シートには、撥水・撥油剤が付与されていないものが好ましい。
【0078】
次に、繊維シートをフック型係合素子(B1,B2)に係合させたメッシュ状フック面ファスナー(1)をモールドイン成形に供する。
【0079】
具体的には、
図7に示したように、内面の所定位置に凸部が設けられたクッション材成形金型内における、該凸部の端面に形成された凹部にフック型係合素子(B
1,B
2)面が、該凹部の底側(金型の内面)となるようにメッシュ状フック面ファスナー(1)を設置し、次いで成形金型内に発泡性樹脂液を注入し、該発泡性樹脂液を発泡硬化させる。注入される発泡樹脂液は、隣接するもの同士段差のある形状保持用突条(a
21,a
22)の張り出し部(Q)や縦壁部(P)に接触しながら流動するため、発泡樹脂液の流れの勢いが弱まり、網目(A3)を通り抜けてフック型係合素子(B
1,B
2)間に至る発泡樹脂液の量が抑制される。したがって、成形金型から取り出される面ファスナー付の発泡樹脂成形体は、フック型係合素子(B
1,B
2)間で硬化している発泡樹脂の量がそもそも少ない。そのため、フック型係合素子側(B
1,B
2)を繊維シートで覆わなくても、発泡樹脂成形体に一体化されたフック型係合素子(B
1,B
2)は所定の係合能を発揮できる。
しかしながら、本実施形態では、上記のように、フック型係合素子側(B
1,B
2)を繊維シートで覆って成形しているため、成形金型から取り出した後、この繊維シートを除去する。これにより、フック型係合素子(B
1,B
2)間まで侵入していた発泡樹脂がほとんど除去され、該フック型係合素子(B
1,B
2)の係合能をより発揮できるメッシュ状フック面ファスナー(1)が一体成形された発泡樹脂成形体を得ることができる。
【0080】
このようにして得られた発泡樹脂成形体に対し、その表面を覆う布帛製または皮革製の表皮材を取り付ける。表皮材には、メッシュ状フック面ファスナー(1)の取り付け位置に対応する箇所にループ面ファスナーを取り付けて被せ、メッシュ状フック面ファスナー(1)とループ面ファスナーを係合させる。これにより、表皮材が強固に固定された自動車用や航空機用の座席や応接用椅子や事務用椅子が得られる。
【0081】
メッシュ状フック面ファスナー(1)が所定位置に取り付けられた発泡樹脂成形体は、メッシュ状フック面ファスナー(19)が高い柔軟性と伸縮性を有していることから、面ファスナーが取り付けられている箇所が取り付けられていない他の箇所と比べて柔軟性や伸縮性の点で大きく相違することがなく、面ファスナーの存在による異物感をほとんど感じさせない。しかも、面ファスナーが網目(A3)を有するメッシュ状であるにもかかわらず、フック型係合素子(B1,B2)の間には発泡樹脂が殆ど侵入していないことから、係合能が劣ることもない。
【0082】
本発明のメッシュ状フック面ファスナーは、上記したように発泡樹脂の成形の際のモールドイン面ファスナーとして用いることができる他に、通常の非発泡性樹脂を用いたモールドイン成形にも用いることができる。さらにその柔軟性や伸縮性を利用して通常のフック面ファスナーのように、衣類、靴、帽子、雨具、産業用資材、日用雑貨、玩具、締め付けバンド、サポーター類、ベルト等における部材間の接合に使用することももちろん可能である。
【実施例】
【0083】
以下実施例により本発明を具体的に説明する。なお、実施例中、係合力は、係合素子面の状態を変えないように注意しながら発泡樹脂成形体から面ファスナーを外して測定した。係合する相手として、八田経網(株)製ループ材面ファスナーHAT-1548-9を用い、係合力は引張せん断強さについて、初回の係合力の値を測定した(測定方法は、有効幅を15mmにする以外はJIS l3416:2000に従った)。測定する際のサンプル数は10個であり、10個の平均値をもって、そのものの値とした。
また、モールドイン成形により面ファスナーを取り付けた発泡樹脂成形体の面ファスナーが表面に取り付けられていることによる異物感の程度に関しては発泡成形体を手で触ったり押さえ付けたりすることによる官能評価により調べた。
【0084】
実施例1
成形に用いる樹脂として、熱可塑性ポリエステルエラストマー(東レ・デュポン株式会社製ハイトレル、製品番号6377)を用い、押し出し成形用ノズル(2)から同樹脂を押し出し、直ちに水中に投入して冷却して、
図3に示すようなベース層用シート部(R)の表面側にフック型係合素子用突条(K)、裏面側に形状保持用突条(a
21,a
22)を長さ方向に平行に有する幅(
図1のX方向に沿った幅)25mmのテープ状物(3)を得た。
【0085】
図5は、本実施例で用いた金型の押し出し成形用ノズル(2)を示したものであるが、押出方向に直交する方向に所定の幅を有する横長スリット(G)の両サイドに、第2係合素子(B
2)用の上方突出空間部(F
2)が3箇所ずつ(第2係合素子(B
2)は2本一対のステムを有しているものを係合素子1本とする)形成され、両サイドの第2係合素子(B
2)用の上方突出空間部(F
2、F
2)間に、第1係合素子(B
1)用の上方突出空間部(F
1)が4箇所形成され、隣接する各フック型係合素子用の上方突出空間部(F
1,F
2)間に、背の低い台地状膨らみ部(N)に対応する上方突出空間部(F
3)が形成されている。横長スリット(G)を挟んで、各上方突出空間部(F
1,F
2,F
3)に対応する位置に、第1形状保持用突条(a
21)用の下方突出空間部(H
1)と第2形状保持用突条(a
22)の下方突出空間部(H
2)が幅方向に交互に形成されている。
【0086】
テープ状物(3)における表面のフック型係合素子用突条(K
1,K
2)はテープ幅方向(
図6(c)の符号Wで示した方向)に合計で10本/25mm、背の低い台地状膨らみ部用列条(K
3、
図3参照)の本数はテープ幅方向に合計で13本/25mm、裏面側の形状保持用突条(a
21,a
22)の本数はテープ幅方向に合計で23本/25mmであった。
【0087】
次に、この25mm幅のテープ状物(3)の表面のフック型係合素子用突条(K
1,K
2)およびベース層用シート部(R)に、テープ状物(3)の幅方向から30度の角度で、
図3に示すように、0.40mm間隔で切れ目を入れた。なお、裏面側の形状保持用突条(a
21,a
22)には切れ目は入れていない。次に、このような切れ目を入れたテープ状物(3)を2.0倍に延伸した。これにより
図1に示すように、表面のフック型係合素子用突条(K
1,K
2)はフック型係合素子(B
1,B
2)の列となり、背の低い台地状膨らみ部用列条(K
3)は背の低い台地状膨らみ部(N)の列となり、中間に存在していたベース層用シート部(R)は、幅25mmの複数本のストランド(a
1)から構成されるベース層(A
1)となった。一方、裏面側の形状保持用突条(a
21,a
22)には切れ目は入れていないので、延伸されて長さ方向に分子配向された形状保持用突条(a
21,a
22)となった。
【0088】
得られたメッシュ状面ファスナー(1)は、総幅(
図6(c)の符号Wで示した方向の幅)25mm、総厚2.5mmであり、ストランド(a
1)が同一平面間に0.40mmの空間をおいて平行に並んで形成されているベース層(A
1)と、断面形状が、縦壁部(P)とその先端部が横に広がる張り出し部(Q)となっている形状保持用突条(a
21,a
22)が同一平面に0.40mmの間隔をおいて平行に並んで形成されていた。
形状保持用突条(a
21,a
22)は、突出高さ0.58mmの第1形状保持用突条(a
21)と、突出高さ0.85mmの第2形状保持用突条(a
22)とが、交互に形成され、これらはベース層(A
1)の他面(裏面)(A1b)側に突出し、かつ、ベース層(A
1)を形成するストランド(a
1)と形状保持用突条(a
21,a
22)は角度80度で交差し、その交差点でベース層(A
1)と形状保持用突条(a
21,a
22)とは一体化されていた。さらにストランド(a
1)の表面(ベース層(A
1)の一面(A1a))から高さ1.1mmのフック型係合素子(B
1,B
2)が密度51本/cm
2で突出している構造であった。
【0089】
したがって、第1形状保持用突条(a21)の突出高さは、第2形状保持用突条(a22)の突出高さの約0.7倍であり、かつ、第1形状保持用突条(a21)の張り出し部(Q)の外端面(Q2)の位置が、第2形状保持用突条(a22)のベース層(A1)との対向面(Q1)の位置よりも0.25mmベース層(A1)の他面(裏面)(A1b)寄りとなる高さで形成されていた。また、第1形状保持用突条(a21)及び第2形状保持用突条(a22)のいずれか一方の張り出し部(Q)における他方に対する最短離間距離(D1)が平均で0.36mm、さらに張り出し部(Q)の縦壁部(P)を中心とした両サイドへの広がりはともに0.68mmであった。さらにメッシュ状フック面ファスナー(1)の裏面の面積に占める形状保持用突条(a21,a22)の裏面被覆率は77%であり、上記の最短離間距離(D1)は、縦壁部(P)同士の突出方向に直交する面に沿った離間距離(D2)の0.35倍であった。
【0090】
断面形状がT字型の第1係合素子(B1)は、高さ中間部でのストランド(a1)に平行な面での断面積が0.37mm2、係合部(M1)を構成する突出片(M1a,M1b)のステム(S1)からの突出長は0.26mm、(M1)の平均厚さは0.13mm、ステム(S1)の幅は0.19mmであった、また、第2係合素子(B2)は、ステム(S2,S2)の高さ中間部でのストランド(a1)に平行な面での1本当たりの断面積が0.99mm2、係合部(M2,M2)のステム(S2,S2)からの突出長は0.38mm、係合部(M2,M2)の平均厚さは0.15mm、ステム(S2,S2)の幅は0.24mmであった。
【0091】
形状保持用突条(a
21,a
22)は、張り出し部(Q)の長さ方向に直角な面に沿った幅が、縦壁部(P)の3.4倍であった。張り出し部(Q)の断面形状は、
図4に示すような長円形であり、縦壁部(P)から両サイドへの広がりが、いずれも0.68mmであった。長さ方向に直角な面での断面積は、第1形状保持用突条(a
21)が0.20mm
2、第2形状保持用突条(a
22)が0.26mm
2であり、第1形状保持用突条(a
21)の縦壁部(P)の断面積が第1形状保持用突条(a
21)全体の断面積の55%、第2形状保持用突条(a
22)の縦壁部(P)の断面積が第2形状保持用突条(a
22)全体の断面積の69%であり、さらにこのような形状保持用突条(a
21,a
22)が延伸方向と直角な方向に1cm当たり9.2本存在していた。また、フック型係合素子(B
1,B
2)の列と形状保持用突条(a
21,a
22)は間にストランド(a
1)を挟んで背中合わせで存在していた。
【0092】
次に、得られたメッシュ状フック面ファスナー(1)のフック型係合素子(B
1,B
2)の外面およびベース層(A
1)の一面(A1a)側の外面にフッ素系の撥水・撥油剤を付与し、さらに、
図6(a)~(c)に示したように、フック型係合素子(B
1,B
2)に、表面にループを有する繊維シートのループ面を重ね合わせて、フック型係合素子(B
1,B
2)を繊維シートで覆った。使用した繊維シートとしては、APLIX社製磁性体付ループ面ファスナーAP101を用いた。
【0093】
次に、
図7に示したように、内面の所定位置において、成形後の発泡樹脂成形体の表面に溝を形成するための凸部が設けられ、かつ、その端面に、メッシュ状フック面ファスナー(1)が収まる凹部が設けられている座席用のクッション材成形用金型に、フック型係合素子(B
1,B
2)(すなわち繊維シートを取り付けた面)が凹部底側(金型内面に対面する側)となるようにメッシュ状フック面ファスナー(1)を設置した。次いで、このクッション材成形用金型内にポリウレタン系の発泡性樹脂液を注入し、該発泡性樹脂液を発泡硬化させて面ファスナー付の発泡樹脂製成形体を得て、そしてクッション材成形用金型から面ファスナー付の発泡樹脂製成形体を取り出した。
【0094】
得られた成形体からフック型係合素子(B1,B2)を覆っている繊維シートを除去し、成形体表面に露出しているフック型係合素子(B1,B2)および除去した繊維シートを観察した。その結果、フック型係合素子(B1,B2)側への発泡樹脂液の流れ込みによりフック型係合素子(B1,B2)間が発泡樹脂で充填されている箇所は殆ど見られず、除去した繊維シートにはベース層(A1)の網目(A3)を介して侵入した発泡樹脂の殆ど全てが付着しており、フック型係合素子(B1,B2)間から取り除かれていた。
【0095】
得られた面ファスナー付発泡樹脂成形体の表面を手で触れたり押したりすることにより、成形体の表面に存在しているメッシュ状フック面ファスナー(1)の異質感を感じるか否かについて、15名の発泡成形に関与する技術者に参加してもらって評価してもらった結果、いずれの技術者も、面ファスナーが極めて柔軟で伸縮性を有することから、面ファスナーの存在が異質感を与えることがなく、従来の面ファスナーを表面に固定した発泡成形体の感触とは全く相違する極めて優れたものであるとの感想であった。
そして、このフック面ファスナー付発泡樹脂成形体の表面に存在しているメッシュ状フック面ファスナー(1)の係合強力を測定した結果、引張せん断強さは45.4Nで係合力においても極めて優れていることが確認できた。なお、
図8に実施例1、並びに、後述の実施例2及び比較例1~2の引張せん断強さの測定結果を示す。
【0096】
比較例1~2
上記実施例1において、形状保持用突条として、実施例1のように、突出高さの異なる2種類の形状保持用突条(a21,a22)が交互に存在しているのではなく、実施例1の突出高さの高い第2形状保持用突条(a22)と同一の高さのものが、実施例1と同一の本数密度で存在しており、その張り出し部(Q)の両サイドへの広がりが0.36mmのメッシュ状面ファスナーを製造した。その他の構造は、実施例1と同様のものである。そして実施例1と同様に撥水・撥油剤をフック型係合素子側の外面に付与し、さらに実施例1で使用したのと同一の繊維シートでフック型係合素子を覆い、実施例1と同様にモールドイン成形を行い、面ファスナー付の発泡樹脂成形体を製造した(比較例1)。
【0097】
また同様に、上記実施例1において、形状保持用突条として、実施例1の突出高さの低い第1形状保持用突条(a21)と同一の高さのものが、実施例1と同一の本数密度で存在しており、その張り出し部(Q)の両サイドへの広がりが0.36mmのメッシュ状面ファスナーを製造した。その他の構造は、実施例1と同様のものである。そして実施例1と同様に撥水・撥油剤をフック型係合素子側の外面に付与し、さらに実施例1で使用したのと同一の繊維シートでフック型係合素子を覆い、実施例1と同様にモールドイン成形を行い、面ファスナー付の発泡樹脂成形体を製造した(比較例2)。
【0098】
比較例1および2で得られた発泡樹脂成形体のフック型係合素子を覆っている繊維シートを除去し、成形体から露出しているメッシュ状フック面ファスナーのフック型係合素子面および除去した繊維シートを観察したところ、比較例1および比較例2のものは、ともに、面ファスナーのフック型係合素子側への発泡樹脂の流れ込みが激しく、係合素子間が発泡樹脂で殆ど充填されており、除去した繊維シートにもメッシュの網目から侵入した発泡樹脂の一部が付着していたが、殆ど取り除けていなかった。これらのフック面ファスナー付発泡樹脂成形体の表面に存在しているフック面ファスナーの係合強力を測定した結果、比較例1のものは引張せん断強さが25.4N、また比較例2のものは引張せん断強さが14.5N、ともに実施例1のものより係合力がはるかに劣るものであった。その原因として、フック状係合素子間に発泡樹脂が充填されていることにより、係合相手のループ状係合素子がフック状係合素子のフック内に侵入できなかったものと予想された。
【0099】
実施例2
実施例1と全く同様のサイズ、構造のメッシュ状フック面ファスナー(1)を製造した。その後、撥水・撥油剤を、フック型係合素子(B1,B2)の外面およびベース層(A1)の一面(A1a)側の外面に付与するのではなく、繊維シート側のフック型係合素子(B1,B2)との対向面に付与し、この繊維シートをフック型係合素子(B1,B2)に接合し、実施例1と同様にモールドイン成形を行い、面ファスナー付の発泡樹脂成形体を製造した。
【0100】
得られた発泡樹脂成形体のフック型係合素子(B1,B2)を覆っている繊維シートを除去し、成形体の表面から露出したメッシュ状フック面ファスナー(1)のフック型係合素子(B1,B2)および除去した繊維シートを観察したところ、実施例1と同様に、発泡樹脂液の流れ込みによってフック型係合素子(B1,B2)間に発泡樹脂が充填されている箇所は殆ど見られず、除去した繊維シートに発泡樹脂の殆ど全てが付着して、面ファスナーの表面から取り除かれていた。
このフック面ファスナー付発泡樹脂成形体の表面に存在しているメッシュ状フック面ファスナー(1)の係合強力を測定した結果、引張せん断強さは35.0Nであり、実施例2のものも面ファスナーとしては優れたものであった。
【0101】
ただ、成形体の表面にフック面ファスナーの存在が異質感を感じるか否かについて、実施例1の場合と同様に、15名の発泡成形に関与する技術者を対象にテストした結果、少数の技術者(2名)が、面ファスナーの存在が発泡樹脂成形体にわずかに異質感を与えると答えた。その点、実施例1よりも多少劣るものであった。
【符号の説明】
【0102】
1:メッシュ状フック面ファスナー
A1:ベース層
a1:ストランド
a21:第1形状保持用突条
a22:第2形状保持用突条
B1:第1係合素子(フック型係合素子)
B2:第2係合素子(フック型係合素子)
S1,S2:ステム
M1,M2:係合部
2:押し出し成形用ノズル
P:形状保持用突条の縦壁部
Q:形状保持用突条の張り出し部
E:切れ目
F1,F2,F3:上方突出空間部
G:横長スリット部
H1,H2:下方突出空間部
3:テープ状物
K1,K2:フック型係合素子用突条
R:ベース層用シート部
N:台地状の膨らみ部