(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】二重床構造
(51)【国際特許分類】
E04F 15/18 20060101AFI20231212BHJP
E04F 15/20 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
E04F15/18 601A
E04F15/20
(21)【出願番号】P 2019234573
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】三谷 貴志
(72)【発明者】
【氏名】浅野 三男
(72)【発明者】
【氏名】井上 竜太
(72)【発明者】
【氏名】福田 優輝
(72)【発明者】
【氏名】山田 達也
(72)【発明者】
【氏名】寺村 雄機
(72)【発明者】
【氏名】福本 晃治
(72)【発明者】
【氏名】岡田 光博
(72)【発明者】
【氏名】可知 孝啓
(72)【発明者】
【氏名】野村 武史
(72)【発明者】
【氏名】開田 優二
【審査官】吉村 庄太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-213650(JP,A)
【文献】特開2019-094679(JP,A)
【文献】特開2006-283401(JP,A)
【文献】特開2009-084885(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 15/00-15/22
E04B 5/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質のスラブと、前記スラブの上に間隔をあけて支持された床材と、を有する二重床と、
前記床材の下面に設置さ
れ、前記床材の振動を低減する複数の第一防振ダンパーと、
前記スラブの上面に配置さ
れ、前記第一防振ダンパーで振動が低減した前記床材から前記スラブへ伝達された振動を低減する複数の第二防振ダンパーと、
を備え
、
複数の前記第一防振ダンパーは、平面視において、前記床材の下面を均等又は略均等になるように分割した領域毎に配置され、
複数の前記第二防振ダンパーは、前記スラブにおける重量床衝撃音の固有振動数の一次モードの振動を抑制するように配置されている、
二重床構造。
【請求項2】
前記スラブは、ひき板を繊維方向が互いに直交するように積層接着した木質材で構成されている、
請求項1に記載の二重床構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二重床構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、建物の床部に設けられる床スラブと、該床スラブの上面から上方へ、所定の間隔を置いて敷設される床面とを有する遮音二重床構造に関する技術が開示されている。この先行技術では、床スラブの上面に、ダイナミックダンパを載せている。また、ダイナミックダンパは、有効に振動を減衰させることが出来る振動域が、44Hz~177Hzとなるように、固有振動数が調整されている。
【0003】
特許文献2には、下床と上床の間に空間を有する二重床に関する技術が開示されている。この先行技術では、上床下面に錘が弾性的に上下方向に浮動状態となっているダイナミックダンパを取り付けている。また、ダイナミックダンパの固有振動数が40~80Hzに設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-205152号公報
【文献】特開2013-256817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
CLT(Cross Laminated Timber)等で構成された木質のスラブの二重床は、コンクリート造のスラブの二重床と比較し、重量床衝撃音等の振動が大きく、対策が望まれている。
【0006】
本発明は、上記事実に鑑み、木質のスラブの二重床の振動を抑制することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第一態様は、木質のスラブと、前記スラブの上に間隔をあけて支持された床材と、を有する二重床と、前記床材の下面に設置された複数の第一防振ダンパーと、前記スラブの上面に設置された複数の第二防振ダンパーと、を備えた二重床構造である。
【0008】
第一態様の二重床構造では、床材の下面に設置された第一防振ダンパーによって、床材の振動が低減し、低減した床材の振動が木質のスラブに伝達され、スラブが振動する。つまり、スラブに伝達される振動が第一防振ダンパーによって低減される。そして、木質のスラブの上面に設置された第二防振ダンパーによって、スラブの振動が低減する。
【0009】
このように、床材の下面に第一防振ダンパーを設置して、床材の振動を抑え、木質のスラブに伝達される振動を低減することで、スラブの振動が上面に設置された第二防振ダンパーによって効果的に低減する。
【0010】
第二態様は、前記第一防振ダンパーは、前記床材における重量床衝撃音の固有振動数の振動を抑制するように調整され、前記第二防振ダンパーは、前記スラブにおける重量床衝撃音の固有振動数の振動を抑制するように調整されている、第一態様に記載の二重床構造である。
【0011】
第二態様の二重床構造では、第一防振ダンパーは床材における重量床衝撃音の固有振動数の振動を抑制するように調整され、第二防振ダンパーはスラブにおける重量床衝撃音の固有振動数の振動を抑制するように調整されている。よって、木質のスラブの二重床であっても、重量床衝撃音を効果的に抑制することができる。
【0012】
第三態様は、複数の前記第一防振ダンパーは、平面視において、前記床材の下面を均等又は略均等になるように分割した領域毎に配置され、複数の前記第二防振ダンパーは、前記スラブにおける重量床衝撃音の固有振動数の一次モードの振動を抑制するように配置されている、第一態様又は第二態様に記載の二重床構造である。
【0013】
第三態様の二重床構造では、複数の第一防振ダンパーは、平面視において、床材の下面を均等又は略均等になるように分割した領域毎に配置されることで、軽量である床材の振動が効果的に抑制され、その結果、スラブに伝達される振動が低減する。また、複数の第二防振ダンパーは、スラブにおける重量床衝撃音の固有振動数の一次モードの振動を抑制するように配置されることで、スラブにおける重量床衝撃音の振動が効果的に抑制される。
【0014】
第四態様は、前記スラブは、ひき板を繊維方向が互いに直交するように積層接着した木質材で構成されている、第一態様~第三態様のいずれか一態様に記載の二重床構造である。
【0015】
第四態様の二重床構造では、木質のスラブを、ひき板を繊維方向が互いに直交するように積層接着した木質材、つまり、直交集成板(CLT(Cross Laminated Timber))で構成することで、無垢材でスラブを構成する場合と比較し、木質のスラブの剛性が高くなるので、木質のスラブの振動が更に低減する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、木質のスラブの二重床の振動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(A)は本実施形態の二重床構造の断面図であり、(B)は(A)のスラブを拡大した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<実施形態>
本発明の一実施形態の二重床構造について説明する。なお、水平方向の直交する二方向をX方向及びY方向とし、それぞれ矢印X及び矢印Yで示す。X方向及びY方向に直交する鉛直方向をZ方向とし、矢印Zで示す。また、Y方向から見た場合を正面視とする。
【0019】
(構成)
まず、二重床構造の構成について説明する。
【0020】
図1(A)に示すように、二重床構造10は、二重床20、複数の第一防振ダンパー100及び複数の第二防振ダンパー200を有している。なお、
図1(A)では、見やすくするため断面を示す斜線(ハッチング)の図示を省略している。
【0021】
二重床20は、木質のスラブ30と、スラブ30の上に間隔をあけて支持された床材40と、で構成されている。本実施形態では、木質のスラブ30は、
図1(B)に示すように、ひき板38を繊維方向が互いに直交するように積層接着した木質材、つまり直交集成板(CLT(Cross Laminated Timber))で構成されている。なお、本実施形態のスラブ30の下面34は、下階24の天井面を構成している。
【0022】
図1(A)に示す床材40は、パーティクルボードで構成され、支持ボルト22によって支持されている。床材40の上面42には、遮音マット50が敷かれている。本実施形態の遮音マット50は、ゴム製のシート材で構成されているが、これに限定されない。例えば、発泡ウレタン等で構成されたシート材であってもよい。そして、この遮音マット50の上に白樺等を材料とする合板52及び図示が省略されたタイルカーペットが敷かれている。
【0023】
第一防振ダンパー100は、床材40の下面44に設置されている。本実施形態の第一防振ダンパー100は、一端部112が床材40の下面44に固定された板ばね部材110と、板ばね部材110の他端部114に設けられた錘部120と、錘部120の上部に設けられた高減衰ゴム122と、を備えている。第一防振ダンパー100は、板ばね部材110及び錘部120の動きによる制振効果と、高減衰ゴム122による床材40の振動を吸収する減衰効果と、を複合化したダンパーである。また、第一防振ダンパー100は、床材40における重量床衝撃音の固有振動数の振動を抑制するように、板ばね部材110の厚み、長さ及び錘部120の重量等が調整されている。
【0024】
図2に示すように、第一防振ダンパー100は、平面視において、床材40の下面44を均等又は略均等になるように分割した領域R毎に配置されている。別の観点から説明すると、第一防振ダンパー100は、床材40の下面44に対して均等面積になるように割り付けた配置となっている。なお、第一防振ダンパー100の設置個数は、複数の第一防振ダンパー100の錘部120の総重量が、床材40の有効質量に対して所定の割合になるように、本実施形態では15%~25%になるように設定されている。
【0025】
図1(A)に示すように、第二防振ダンパー200は、スラブ30の上面32に設置されている。本実施形態の第二防振ダンパー200は、スラブ30の上に固定されたばね性を有する脚部210と、脚部210に支持された錘部220と、を有する鉄錘ダンパーである。第二防振ダンパー200は、スラブ30における重量床衝撃音の固有振動数の振動を抑制するように、脚部210の太さ、長さ及び錘部220の重量等が調整されている。
【0026】
図3に示すように、第二防振ダンパー200は、スラブ30における重量床衝撃音の固有振動数の一次モードの振動を抑制するように配置されている。具体的には、スラブ30における一次モードの振幅の腹に当たる部分に配置されている。なお、第二防振ダンパー200の設置個数は、複数の第二防振ダンパー200の錘部220の総重量が、スラブ30の有効質量に対して所定の割合になるように、本実施形態では20%~30%になるように設定されている。
【0027】
なお、重量床衝撃音の固有振動数とは、概ね45Hz~90Hzである。
【0028】
(作用及び効果)
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0029】
本実施形態の二重床構造10では、床材40の下面44に設置された第一防振ダンパー100によって、床材140の振動が低減し、低減した床材40の振動が木質のスラブ30に伝達され、スラブ30が振動する。つまり、スラブ30に伝達される振動が第一防振ダンパー100によって低減される。そして、木質のスラブ30の上面42に設置された第二防振ダンパー200によって、スラブ30の振動が低減する。
【0030】
このように、床材40の下面44に第一防振ダンパー100を設置して床材40の振動を抑え、木質のスラブ30に伝達される振動を低減することで、スラブ30の振動が低減し、低減されたスラブ30の振動を上面32に設置された第二防振ダンパー200が低減する。したがって、スラブ30の振動が効果的に低減する。
【0031】
また、第一防振ダンパー100は床材40における重量床衝撃音の固有振動数の振動を抑制するように調整され、第二防振ダンパー200はスラブ30における重量床衝撃音の固有振動数の振動を抑制するように調整されている。よって、木質のスラブ30の二重床であっても、下階24に響く重量床衝撃音を効果的に抑制することができる。
【0032】
また、複数の第一防振ダンパー100が、平面視において、床材40の下面44を均等又は略均等になるように分割した領域R毎に配置されている。よって、軽量物である床材40の振動が効果的に抑制されるので、スラブ30に伝達される振動が効果的に抑制される。更に、複数の第二防振ダンパー200が、スラブ30における重量床衝撃音の固有振動数の一次モードの振動を抑制するように配置されることで、重量床衝撃音によるスラブ30の振動が効果的に抑制される。よって、下階24に響く重量床衝撃音が、効果的に抑制される。
【0033】
また、木質のスラブ30を、ひき板38を繊維方向が互いに直交するように積層接着した木質材、つまり直交集成板(CLT(Cross Laminated Timber))で構成することで、無垢材でスラブを構成する場合と比較し、木質のスラブ30の剛性が高くなるので、木質のスラブ30の振動が低減し、下階24に響く重量床衝撃音が更に抑制される。
【0034】
また、床材40の上面42に敷いた遮音マットによって、床材40の振動が更に低減する。よって、木質のスラブ30に伝達される振動が更に低減される。したがって、木質のスラブ30の上面32に設置された第二防振ダンパー200によって、スラブ30の振動が更に低減するので、重量床衝撃音が更に抑制される。
【0035】
なお、本実施形態の二重床20は、重量床衝撃音に対してLH60級の性能を有することが実測において確認されている。
【0036】
また、木質のスラブ30は、鉄筋コンクリート造のスラブと比較し、軽量であるので施工性がよく、また建物重量を低減することができる。また、前述のように下階24に響く重量床衝撃音が抑制されるので、木質の下面34を天井面として露出させることが可能となり、意匠性が向上する。
【0037】
<その他>
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0038】
例えば、第一防振ダンパー100及び第二防振ダンパー200は、上記実施形態の構成に限定されない。どのような構成の防振ダンパーを用いてもよい。また、第一防振ダンパー100及び第二防振ダンパー200の配置は、
図2及び
図3の配置に限定されない。第一防振ダンパー100及び第二防振ダンパー200は、どのように配置してもよい。
【0039】
また、例えば、上記実施形態では、床材40は、パーティクルボードで構成され、床材40の上面42に遮音マット50が敷かれ、この遮音マット50の上に合板52及び図示が省略されたタイルカーペットが敷かれていたが、これに限定されない。床材40を構成する材料は限定されないし、床材40の上に敷くものも限定されない。木質のスラブ30の二重床であれば、どのような構成であってもよい。
【0040】
また、例えば、上記実施形態では、スラブ30は、ひき板38を繊維方向が互いに直交するように積層接着した木質材、つまり直交集成板(CLT(Cross Laminated Timber))で構成されていたが、これに限定されない。スラブ30は、例えば単板を繊維方向を揃えて積層、接着した軸材料の単板積層材(LVL(Laminated Veneer Lumber))で構成されていてもよいし、無垢材で構成されていてもよい。スラブ30は、木質であればよい。
【0041】
更に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得る。
【符号の説明】
【0042】
10 二重床構造
20 二重床
30 スラブ
38 ひき板
40 床材
42 上面
50 遮音マット
100 第一防振ダンパー
200 第二防振ダンパー
R 領域