(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】胸腔ドレナージ用カテーテル、及び胸腔ドレナージシステム
(51)【国際特許分類】
A61M 1/00 20060101AFI20231212BHJP
【FI】
A61M1/00 161
A61M1/00 190
(21)【出願番号】P 2020010421
(22)【出願日】2020-01-24
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】511132443
【氏名又は名称】石北 直之
(74)【代理人】
【識別番号】100106220
【氏名又は名称】大竹 正悟
(72)【発明者】
【氏名】石北 直之
【審査官】細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-181511(JP,A)
【文献】特開2015-013184(JP,A)
【文献】特表2017-532074(JP,A)
【文献】特開2008-206734(JP,A)
【文献】特開昭63-181771(JP,A)
【文献】特開2007-190388(JP,A)
【文献】米国特許第3253594(US,A)
【文献】米国特許第4959054(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/209856(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の胸腔から余剰流体を取り除くために前記胸腔内から前記生体外に延出させて設けられる胸腔ドレナージ用カテーテルにおいて、
可撓性シートから構成され、前記余剰流体を排出する流路を有する流路部材と、
弾性体から構成され、前記流路部材の基端側に設けられて前記余剰流体を流通可能な開口部と、フランジ状に展開して胸壁に係止可能な係止部とを有する留置部材と、を備え
、
前記流路部材は、通常時では、扁平なシート状に潰れている
胸腔ドレナージ用カテーテル。
【請求項2】
生体の胸腔から余剰流体を取り除くために前記胸腔内から前記生体外に延出させて設けられる胸腔ドレナージ用カテーテルにおいて、
可撓性シートから構成され、前記余剰流体を排出する流路を有する流路部材と、
弾性体から構成され、前記流路部材の基端側に設けられて前記余剰流体を流通可能な開口部と、フランジ状に展開して前記生体の胸壁の内側から前記胸壁に係止可能な係止部とを有する留置部材と、を備える
胸腔ドレナージ用カテーテル。
【請求項3】
生体の胸腔から余剰流体を取り除くために前記胸腔内から前記生体外に延出させて設けられる胸腔ドレナージ用カテーテルにおいて、
可撓性シートから構成され、前記余剰流体を排出する流路を有する流路部材と、
弾性体から構成され、前記流路部材の基端側に設けられて前記余剰流体を流通可能な開口部と、フランジ状に展開して胸壁に係止可能な係止部とを有する留置部材と、を備え、
前記留置部材には、少なくとも前記開口部と重複する部位に溝部が形成されてい
る
胸腔ドレナージ用カテーテル。
【請求項4】
生体の胸腔から余剰流体を取り除くために前記胸腔内から前記生体外に延出させて設けられる胸腔ドレナージ用カテーテルにおいて、
可撓性シートから構成され、前記余剰流体を排出する流路を有する流路部材と、
弾性体から構成され、前記流路部材の基端側に設けられて前記余剰流体を流通可能な開口部と、フランジ状に展開して胸壁に係止可能な係止部とを有する留置部材と、を備え、
前記留置部材は、前記流路部材の基端側に連結される連結部を更に備え、
前記係止部は、前記連結部に対してフランジ状に展開するように設けられてい
る
胸腔ドレナージ用カテーテル。
【請求項5】
前記流路部材は、1対の前記可撓性シートの両側縁部が連結されて構成され、
前記可撓性シートの基端側には、前記連結部がそれぞれ連結され、
前記留置部材には、少なくとも前記開口部と重複する部位に溝部が形成されており、
前記溝部に前記余剰流体が流入した際に前記開口部が開口し、
前記開口部の開口動作に連動して前記連結部が扁平状から凸状に弾性変形して、
前記連結部の弾性変形に連動して前記可撓性シートの前記両側縁部の内側に前記流路が形成される
請求項
4に記載の胸腔ドレナージ用カテーテル。
【請求項6】
前記留置部材は、シリコーンゴムで形成されている
請求項1~
5の何れか1項に記載の胸腔ドレナージ用カテーテル。
【請求項7】
前記流路部材を構成する前記可撓性シートは、樹脂フィルムである
請求項1~
6の何れか1項に記載の胸腔ドレナージ用カテーテル。
【請求項8】
生体の胸腔から余剰流体を取り除く胸腔ドレナージシステムにおいて、
請求項1~
7の何れか1項に記載の胸腔ドレナージ用カテーテルと、
前記生体の肺にガスを供給して陽圧にするガス供給部と、を備える
胸腔ドレナージシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胸腔ドレナージ用カテーテル、及び胸腔ドレナージシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
各種疾患により胸腔内に溜まった余分な空気、体液(例えば、胸水、血液)等の余剰流体を体外に排出する医療技術として、胸壁を切開して胸腔にチューブを挿入して胸腔内の余剰流体を排出する胸腔ドレナージがある。例えば、肺癌や胸膜炎で胸腔内に溜まった胸水を取り除く場合や、肺に孔が開いて空気が漏れることによって胸腔内に空気が溜まって気胸になった際に胸腔から空気を取り除く場合に、胸腔ドレナージによる治療を行う。胸腔ドレナージを行う装置として、例えば、特許文献1には、胸腔に挿入されたドレナージチューブを流体収集容器に接続し、陰圧により胸水等の流体を吸引して体外に排出する胸腔ドレナージ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ドレナージチューブは、硬質な樹脂で管状に構成されているため、ドレナージチューブを挿入された患者には、ドレナージチューブが少し動くだけで痛みが発生し、持続的な苦痛が伴うものとなっていた。また、ドレナージチューブを患者の胸腔の好適な部位に挿入して取り付けて、胸腔から陰圧により胸水等の流体を吸引するのに、熟練した技術が必要とされていた。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、患者への苦痛を低減して、より容易に胸腔から胸水等の余剰流体を取り除くことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、生体の胸腔から余剰流体を取り除くために前記胸腔内から前記生体外に延出させて設けられる胸腔ドレナージ用カテーテルにおいて、可撓性シートから構成され、前記余剰流体を排出する流路を有する流路部材と、弾性体から構成され、前記流路部材の基端側に設けられて前記余剰流体を流通可能な開口部と、フランジ状に展開して胸壁に係止可能な係止部とを有する留置部材と、を備える。
【0007】
本発明の一態様によれば、胸腔ドレナージ用カテーテルを容易に生体に取り付け易くなるので、より容易に胸腔から胸水等の余剰流体を取り除けるようになる。
【0008】
本発明の一態様では、前記留置部材には、少なくとも前記開口部と重複する部位に溝部が形成されていることとしてもよい。
【0009】
このようにすれば、肺が膨張して留置部材を覆っても、溝部から余剰流体を開口部に誘導できるので、胸腔内の余剰流体を確実に外部に排出し易くなる。
【0010】
本発明の一態様では、前記留置部材は、前記流路部材の基端側に連結される連結部を更に備え、前記係止部は、前記連結部に対してフランジ状に展開するように設けられていることとしてもよい。
【0011】
このようにすれば、連結部が体外から開口部への気体や液体、固体等からなる異物の流入を防ぐ逆止弁として機能するようになる。
【0012】
本発明の一態様では、前記流路部材は、1対の前記可撓性シートの両側縁部が連結されて構成され、前記可撓性シートの基端側には、前記連結部がそれぞれ連結され、前記溝部に前記余剰流体が流入した際に前記開口部が開口し、前記開口部の開口動作に連動して前記連結部が扁平状から凸状に弾性変形して、前記連結部の弾性変形に連動して前記可撓性シートの前記両側縁部の内側に前記流路が形成されることとしてもよい。
【0013】
このようにすれば、患者への苦痛を低減できる低侵襲性の胸腔ドレナージ用カテーテルとして、胸腔から胸水等の余剰流体を効率的に取り除けるようになる。
【0014】
本発明の一態様では、前記留置部材は、シリコーンゴムで形成されていることとしてもよい。
【0015】
このようにすれば、開口部の開閉動作と係止部の胸郭への係止動作を弾性変形によって行えるようになる。
【0016】
本発明の一態様では、前記流路部材を構成する前記可撓性シートは、樹脂フィルムであることとしてもよい。
【0017】
このようにすれば、流路部材が硬質でない樹脂フィルムから構成されるので、装着された患者への苦痛を低減できる低侵襲性の胸腔ドレナージ用カテーテルとすることができる。
【0018】
本発明の他の態様は、生体の胸腔から余剰流体を取り除く胸腔ドレナージシステムにおいて、前述した何れかに記載の胸腔ドレナージ用カテーテルと、前記生体の肺にガスを供給して陽圧にするガス供給部と、を備える。
【0019】
本発明の他の態様によれば、胸腔ドレナージ用カテーテルを生体の胸腔から胸壁を貫通するように取り付けて、肺に陽圧をかけるだけで、容易に胸腔から胸水等の余剰流体を取り除けるようになる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、患者への苦痛を低減して、より容易に胸腔から胸水等の余剰流体を取り除くことことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る胸腔ドレナージシステムの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る胸腔ドレナージ用カテーテルの概略構成を示す斜視図である。
【
図4】
図4(A)は、
図2のB方向からの正面図である。
図4(B)は、
図2のB方向からの正面図の変形例である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る胸腔ドレナージシステムによる余剰流体を排出する動作(低侵襲性陽圧胸水ドレナージ法)を示すフロー図である。
【
図6】
図6(A)乃至(C)は、本発明の一実施形態に係る胸腔ドレナージ用カテーテルを生体に取り付ける動作説明図である。
【
図7】
図7(A)は、本発明の一実施形態に係る胸腔ドレナージシステムによる余剰流体を排出する動作説明図であり、
図7(B)は、比較例となる陰圧により余剰流体を排出する動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0023】
まず、本発明の一実施形態に係る胸腔ドレナージシステム10の構成について、図面を使用しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る胸腔ドレナージシステム10の概略構成を示すブロック図である。
【0024】
本発明の一実施形態に係る胸腔ドレナージシステム10は、患者P1の胸壁P3を切開して胸腔P2に胸腔ドレナージ用カテーテル100を挿入して、胸腔P2内の胸水等の余剰流体を排出する胸腔ドレナージを行う際に使用される。本実施形態の胸腔ドレナージシステム10は、
図1に示すように、胸腔ドレナージ用カテーテル100と、ガス供給部50と、を備える。
【0025】
胸腔ドレナージ用カテーテル100は、患者P1の胸腔P2内から患者P1の体外に延出させて設けられ、胸腔P2から胸水等の余剰流体を取り除く機能を有する。胸腔ドレナージ用カテーテル100は、余剰流体を排出する流路となる流路部材110と、流路部材110の基端側に設けられ、胸壁P3に係止されて患者P1の生体内に留置される留置部材120と、を備える。なお、胸腔ドレナージ用カテーテル100の構成の詳細については、後述する。
【0026】
ガス供給部50は、生体となる患者P1の肺P4にガスを供給して、肺P4を陽圧にする機能を有する。本実施形態では、ガス供給部50として、カフアシスト機能を有する呼吸管理装置、空気や酸素を供給する機能を有するエアバック、ディスポーザブルな人工呼吸器等が適用可能である。
【0027】
本実施形態の胸腔ドレナージシステム10は、胸腔ドレナージ用カテーテル100を患者P1の胸腔P2内から患者P1の体外に延出するように設ける。そして、ガス供給部50で生体外から陽圧をかけることで圧較差をつくり、肺P4に空気を流す間欠的陽圧換気(IPPV:Intermittent Positive Pressure Ventilation)を行うことによって、自ずと余剰流体を胸腔ドレナージ用カテーテル100で排出可能になっている。排出された余剰流体は、例えば、吸水パッド等で吸収する。なお、本実施形態の胸腔ドレナージシステム10を用いた胸腔ドレナージの動作については、後述する。
【0028】
次に、本発明の一実施形態に係る胸腔ドレナージ用カテーテル100の詳細な構成について、図面を使用しながら説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る胸腔ドレナージ用カテーテル100の概略構成を示す斜視図であり、
図3は、本発明の一実施形態に係る胸腔ドレナージ用カテーテル100の断面図であり、
図4(A)は、本発明の一実施形態に係る胸腔ドレナージ用カテーテル100の係止部側からの正面図であり、
図4(B)は、本発明の一実施形態に係る胸腔ドレナージ用カテーテル100の変形例の係止部側からの正面図である。
【0029】
本発明の一実施形態に係る胸腔ドレナージ用カテーテル100は、胸腔P2内の胸水等の余剰流体を排出する胸腔ドレナージを行う際に、余剰流体の体外への排出部材として使用される。胸腔ドレナージ用カテーテル100は、流路部材110と、留置部材120と、を備える。
【0030】
流路部材110は、ポリ塩化ビニル等の柔らかい樹脂フィルムからなる可撓性シート111から構成され、胸腔P2内の余剰流体を排出する排水流路としての機能を有する。流路部材110は、
図2に示すように、1対の帯状の可撓性シート111の両側縁部112が連結されて構成され、両側縁部112の内側に余剰流体が排出される流路113が設けられている。流路部材110の長さは、例えば、5~15cm程度であり、流路部材110の太さは、例えば、1.0~1.5cm程度である。
【0031】
流路部材110は、
図3に示すように、可撓性シート111の基端側が留置部材120の連結部123に連結されている。流路部材110は、通常時では、扁平なシート状に潰れている。すなわち、流路部材110は、通常時では、1対の帯状の可撓性シート111のシート面同士が重なるように接触しており、余剰流体の排出時では、可撓性シート111の基端側から余剰流体が流入して、可撓性シート111の両側縁部112に有する流路113が開くようになっている。このように、流路部材110は、通常時では、1対の帯状の可撓性シート111同士が長手方向に亘って相互に接触しているため、流路部材110の先端側(余剰流体の排出口側)から異物が入り難くなっている。
【0032】
留置部材120は、シリコーンゴム等のゴム状弾性体から構成され、胸腔ドレナージ用カテーテル100の基端側を胸腔P2内に留置させて固定する機能を有する。本実施形態では、留置部材120は、
図2及び
図3に示すように、流路部材110の基端側に設けられ、フランジ状の係止部122と、板状の連結部123とを備え、係止部122と連結部123が一体に形成されている。本実施形態では、留置部材120は、
図3に示すように、係止部122の中央側に開口部121が設けられている。開口部121は、余剰流体を流路部材110に誘導し易くするために、
図3に示すように、連結部123の先端側に向けて縮径して、断面がくさび形状となるように形成されている。
【0033】
係止部122は、連結部123に対してフランジ状に展開するように設けられている。係止部122は、円盤形状のゴム状弾性体で構成され、胸腔ドレナージ用カテーテル100を患者P1に取り付ける際に、胸壁P3に係止可能な係止部材としての機能を有する。係止部122は、通常時では、板状の連結部123に対して垂直方向に立設するように構成され、患者P1に取付作業をする際に、連結部123に対して水平方向を向くように弾力的に折り曲げ可能になっている。本実施形態では、係止部122は、形状に異方性がない円盤形状に形成されているので、どのような姿勢で係止部122が挿入されても、胸壁P3に確実に係止することが可能となる。なお、係止部122は、円盤形状に限定されず、多角形形状、楕円形状等のその他の形状とすることもできる。
【0034】
係止部122は、
図4(A)に示すように、係止部122の裏面側の中央にスリット状に開口した開口部121が設けられており、余剰流体を流通可能になっている。また、係止部122の裏面側には、余剰流体を開口部121に誘導し易くするために、開口部121と重複する部位に溝部121aが形成されている。なお、溝部121aは、少なくとも開口部121と重複する部位に形成されていればよいので、
図4(A)に示す態様に限定されない。例えば、
図4(B)に示すように、溝部121a´は、係止部122´の裏面側に開口部121´の周囲に放射状に複数形成されるように形成される構成としてもよい。
【0035】
連結部123は、板状の弾性体で構成されており、流路部材110と留置部材120の開口部121とを連結する機能を有する。連結部123は、流路部材110を構成する可撓性シート111のそれぞれの基端側に連結されている1対の板状の弾性体が合わさって構成され、合わさった連結部123の両側縁部がそれぞれ連結させて構成されている。なお、連結部123は、1対の板状の弾性体が合わさった構成に限定されず、例えば、扁平な管等の他の構成とすることもできる。
【0036】
連結部123は、開口部121の開口動作に連動して、開口部121から排出される余剰流体が流通可能な流路が弾性力によって開閉可能になっており、生体の外部から生体内への異物等の流入を防ぐ逆止弁としての機能も有する。なお、本実施形態では、留置部材120は、連結部123を備える構成となっているが、他の実施形態として流路部材110の基端側が直接に開口部121を有する係止部122に連結される構成としてもよい。
【0037】
このように、本実施形態では、流路部材110は、1対の可撓性シート111の両側縁部112が連結されて構成されており、可撓性シート111の基端側には、連結部123がそれぞれ連結されている。そして、連結部123は、流路部材110の可撓性シート111よりも厚さを有する板状部材であることから、
図3に示すように、流路部材110の基端側に空隙部114を有するようになる。
【0038】
このため、係止部122の溝部121aに余剰流体が流入した際に、開口部121が開口して、開口部121の開口動作に連動して連結部123が扁平状から凸状に弾性変形して連結部123内に流路が形成される。そして、連結部123の弾性変形に連動して、可撓性シート111の両側縁部112の内側に流路113が形成されるようになっている。その際に、流路部材110の基端側に空隙部114を有することから、開口部121から排出されて連結部123を通過した余剰流体が可撓性シート111間の基端側の空間を形成する空隙部114に容易に流入して、可撓性シート111の間に有する閉じていた流路113を開放し易くすることができる。このように空隙部114は、余剰流体の流れを誘導する導入口となっている。なお、開口部121自体が余剰流体を容易に誘導可能な形状となっていれば、空隙部114を敢えて設ける必要がなくなるので、可撓性シート111は、開口部121を有する留置部材120の連結部123の先端側端部に密接させる構成としてもよい。
【0039】
次に、本発明の一実施形態に係る胸腔ドレナージシステム10による余剰流体を排出する動作(低侵襲性陽圧胸水ドレナージ法)について、図面を使用しながら説明する。
図5は、本発明の一実施形態に係る胸腔ドレナージシステム10による余剰流体を排出する動作を示すフロー図であり、
図6(A)乃至(C)は、本発明の一実施形態に係る胸腔ドレナージ用カテーテル100を生体に取り付ける動作説明図である。
【0040】
本実施形態の胸腔ドレナージシステム10は、各種疾患により胸腔内に溜まった余分な空気、体液(例えば、胸水、血液)等の余剰流体を体外に排出する胸腔ドレナージによる治療を行う際に使用される。例えば、肺癌や胸膜炎で胸腔内に溜まった胸水を取り除く場合や、肺に孔が開いて空気が漏れることによって胸腔内に空気が溜まって気胸になった際に、胸腔から空気を取り除く場合に、本実施形態の胸腔ドレナージシステム10を使用して胸腔ドレナージによる治療を行う。
【0041】
胸腔ドレナージ用カテーテル100を患者P1に取り付ける際には、まず、胸腔ドレナージ用カテーテル100の挿入部位に局所麻酔を施す(工程S1)。局所麻酔を施したら、次に、挿入部位の皮膚をメス等で例えば直径1cm程度に切開してから(工程S2)、胸腔ドレナージ用カテーテル100が挿入される胸壁トンネルT1を鉗子やピンセット、小指等で鈍的に作成する(工程S3)。
【0042】
胸壁トンネルT1が作成されたら、鉗子等で胸腔ドレナージ用カテーテル100を摘まんで、胸腔内に胸腔ドレナージ用カテーテル100を留置する(工程S4)。本実施形態では、胸腔ドレナージ用カテーテル100の留置部材120がシリコーンゴム等の弾性体で一体に形成されているので、
図6(A)に示すように、係止部122を不図示の鉗子等で摘まんで連結部123と同じ方向を向くように畳んで弾性変形させてから、胸壁トンネルT1に向けて移動させる。
【0043】
その後、係止部122が胸壁トンネルT1を通過したら、
図6(B)に示すように、鉗子等を係止部122から離す。すると、
図6(C)に示すように、係止部122を構成するゴム状弾性体の復元力によって、係止部122が連結部123に対して垂直方向を向くように復元して、係止部122が胸壁P3に係止されて、胸腔ドレナージ用カテーテル100が生体内に留置されるようになる。
【0044】
胸腔ドレナージ用カテーテル100を生体内に留置したら、ガス供給部50で患者P1の肺P4にガスを供給して、肺P4を陽圧にして膨らますことによって、胸腔P2内の圧力を高めて、胸水等の余剰流体を体外に排出する(工程S5)。
【0045】
このように、本実施形態では、胸腔ドレナージ用カテーテル100を患者P1に取り付けてから、ガス供給部50で陽圧をかけて肺P4を膨らますことによって、胸腔P2内の胸水等の余剰流体が自重(余剰流体の重力)によって自ずと外部に排出できるようになっている。すなわち、胸腔ドレナージ用カテーテル100を生体の胸腔P2から胸壁P3を貫通するように取り付けて、肺P4に陽圧をかけるだけで、容易に胸腔P2から胸水等の余剰流体を取り除けるようになる。
【0046】
次に、本発明の一実施形態に係る胸腔ドレナージ用カテーテル100及び胸腔ドレナージシステム10の作用・効果について説明する。
図7(A)は、本発明の一実施形態に係る胸腔ドレナージシステム10による余剰流体を排出する動作説明図であり、
図7(B)は、比較例となる陰圧により余剰流体を排出する動作説明図である。なお、
図7(A)、
図7(B)では、胸腔ドレナージ用カテーテル100、1が取り付けられる生体が模式的に示されたものとなっている。
【0047】
本発明の一実施形態に係る胸腔ドレナージシステム10では、従来よりも柔らかくて短い胸腔ドレナージ用カテーテル100を用いて、陽圧換気することによって、「低侵襲性陽圧胸水ドレナージ法」を実現できるものとなっている。すなわち、
図7(A)に示すように、胸腔ドレナージ用カテーテル100を胸腔P2内から胸壁P3を介して生体外に延出するように取り付けてから、肺P4に陽圧をかけることによって、肺P4が膨張して、それに伴い胸腔P2内の圧力が高まる。
【0048】
このため、本実施形態の胸腔ドレナージシステム10では、横隔膜P5を外側に膨らませながら、肺P4が膨張した分の胸水又は空気(気胸の場合)等の余剰流体が押し出されて、胸腔ドレナージ用カテーテル100を介して余剰流体を胸腔P2内から体外に自ずと排出できるようになっている。また、本実施形態では、胸腔P2内に陽圧がかかっていることから、自ずと胸腔ドレナージ用カテーテル100から余剰流体が自重で排出されるので、流路部材110を薄くて柔らかいシート状の構成にしても余剰流体を排出可能な低侵襲性の胸腔ドレナージを行えるようになる。
【0049】
さらに、本実施形態では、胸腔P2内に陽圧がかかっていることから、自ずと胸腔ドレナージ用カテーテル100から余剰流体が排出されるので、胸腔ドレナージ用カテーテル100は、胸腔P2内から胸壁P3を貫通するように設けられていれば、設置箇所に特段の制約がなく、ある程度自由に所望の位置に設置可能となっている。すなわち、熟練した手技が無くても、胸腔ドレナージ用カテーテル100を容易に取り付けて、胸腔ドレナージを行えるようになる。なお、本実施形態では、胸腔ドレナージ用カテーテル100は、排出された余剰流体を吸水パッドに吸収させたり、無菌的に袋に貯めて濾過後に静脈内投与して血中アルブミンを補充する等の管理作業を効率的に行うために、前胸部に挿入して取り付けることが好ましい。
【0050】
これに対して、比較例となる従来から行われていた陰圧による胸腔ドレナージでは、
図7(B)に示すように、胸腔P2には、生理的に陰圧がかかっている。このため、単に胸壁P3に孔を開けてカテーテル1を取り付けても、胸腔P2内の胸水等の余剰流体が自ずと排出されるものとならなかった。また、胸腔P2内の胸水等の余剰流体を確実に排出するためには、カテーテル1を胸腔P2内の一番下側の部位に設置する必要があり、設置箇所に制約を有するものとなっていた。
【0051】
陰圧による胸腔ドレナージでは、胸腔ドレナージをする際に、患者P1の安全面を踏まえて、エコーや胸部レントゲン、胸部CT等によって、胸水等の余剰流体のある部位と安全にカテーテル1を刺入可能な部位を確認してから、カテーテル1を挿入する必要があった。このため、胸腔ドレナージを行う際には、気胸や出血等の重篤な合併症を未然に防ぐためにも、余剰流体の吸引を必要とする箇所を確実に特定してから、当該箇所にカテーテル1を取り付ける手技に熟練を要していた。
【0052】
また、陰圧による胸腔ドレナージでは、胸腔P2内が生理的に陰圧であることから、生体の胸壁P3に孔を開けても、胸水等の余剰流体が排出されないので、余剰流体を取り除くには、ポンプ等の吸引機構を用いて余剰流体を吸引する必要があった。すなわち、陰圧による胸腔ドレナージでは、横隔膜P5が下方向に引っ張られて、胸腔P2の体積が増える分、胸腔P2内が陰圧となるので、
図7(B)に示すように、胸腔方向に働く吸引力p1を上回る大きさの引っ張り力p2となる吸引圧をかけないと余剰流体を吸引して取り除くことが出来なかった。このため、陰圧による胸腔ドレナージでは、チェストドレーンバック等の陰圧水封システムの装置が大掛かりなものとする必要があるので、装置を取り付けられた患者P1は、日常生活動作に多くの制約を受けることとなり、QOL(Quality of Life)が十分に確保されないものとなっていた。
【0053】
さらに、陰圧による胸腔ドレナージでは、カテーテル1で使用されるチューブが柔らかいと潰れ、細ければ詰まり易くなることから、胸腔ドレナージ用カテーテル1として、ある程度の太さを有する硬質な樹脂性の管状部材からなるドレナージチューブが使用されていた。このため、カテーテル1を取り付けられた患者P1には、カテーテル1が動く度に痛みが生じてしまい、持続的な苦痛が伴うものとなっていた。
【0054】
これに対して、本実施形態の胸腔ドレナージシステム10は、肺P4に陽圧をかけることによって、自ずと胸腔ドレナージ用カテーテル100から胸腔P2内の余剰流体を排出できるようになっている。このため、陰圧による胸腔ドレナージと異なり、胸腔ドレナージ用カテーテル100から余剰流体を取り除くために吸引する必要がなくなるので、胸腔ドレナージを行う装置の簡略化を図れ、患者P1の日常生活動作の制約を低減して、QOLを確保できるようになる。
【0055】
また、本実施形態の胸腔ドレナージシステム10は、流路部材110が柔らかい樹脂フィルムからなる可撓性シート111から構成されて、かつ、流路部材110の口径が細い構成となっても、胸腔ドレナージ用カテーテル100を介して生体外に余剰流体を排出できるようになっている。このため、胸腔ドレナージ用カテーテル100を取り付けた患者P1の苦痛を低減する低侵襲性の胸腔ドレナージを実現できるようになる。また、本実施形態の胸腔ドレナージシステム10、胸腔ドレナージ用カテーテル100を適用することによって、最小限の装備で胸腔ドレナージを行えるため、緊急災害時や、医療設備が十分に揃っていない発展途上国でも有効に活用できるものとなる。
【0056】
さらに、本実施形態では、胸腔ドレナージ用カテーテル100は、薄いフィルム状の流路部材110と、シリコーンゴム等のゴム状弾性体からなる留置部材120とを備える構成となっている。このため、胸腔ドレナージ用カテーテル100を生体に取り付け易くなるので、より容易に胸腔P2から胸水等の余剰流体を取り除けるようになる。
【0057】
また、本実施形態では、胸腔ドレナージ用カテーテル100は、流路部材110が柔らかく薄い可撓性シート111から構成され、留置部材120がシリコーンゴム等のゴム状弾性体から構成されている。このため、流路部材110は、陰圧がかかると流路113が塞がって、生体の外部からの気体や液体、固体等の異物が流入し難くなって逆止弁としての機能を有するようになる。一方、留置部材120は、連結部123が弾性体からなる板ばねであるので、陰圧がかかると連結部123の先端側に有する流路が塞がって、生体の外部からの異物が流入し難くなって逆止弁としての機能を有するようになる。
【0058】
さらに、本実施形態では、留置部材120の係止部122の裏面側には、少なくとも開口部121と重複する部位に溝部121aが形成されているので、排出する余剰流体が溝部121aを介して開口部121に誘導され易くなる。また、肺P4が膨張して留置部材120の係止部122を覆っても、溝部121aから余剰流体を開口部121に誘導できるので、胸腔P2内の余剰流体を確実に外部に排出し易くなる。
【0059】
また、本実施形態では、留置部材120は、シリコーンゴムで形成されているので、開口部121の開閉動作と係止部122の胸郭への係止動作を弾性変形によって容易に行えるようになる。さらに、流路部材110を構成する可撓性シート111は、樹脂フィルムであることから、流路部材110が硬質でない柔らかい樹脂フィルムで構成されるので、装着された患者への苦痛を低減できる低侵襲性の胸腔ドレナージ用カテーテル100とすることができる。
【0060】
また、本実施形態では、流路部材110を構成する可撓性シート111は、柔らかい樹脂フィルムであるので、生体外に延出した流路部材110を患者P1の体形に沿って適宜配置させられるので、患者P1のQOLを高められるようになる。さらに、可撓性シート111は、柔らかい樹脂フィルムであるので、患者P1の体形に合わせて流路部材110の長さを所望の長さ(例えば、5~15cm程度)に変更し易くなるので、使い勝手の良い胸腔ドレナージ用カテーテル100とすることができる。
【0061】
なお、上記のように本発明の一実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。従って、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0062】
例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、胸腔ドレナージ用カテーテル、及び胸腔ドレナージシステムの構成、動作も本発明の一実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 カテーテル
10 胸腔ドレナージシステム
50 ガス供給部
100 胸腔ドレナージ用カテーテル
110 流路部材
111 可撓性シート
112 両側縁部
113 流路
114 空隙部
120 留置部材
121 開口部
121a 溝部
122 係止部
123 連結部
P1 患者(生体)
P2 胸腔
P3 胸壁
P4 肺
P5 横隔膜
T1 胸壁トンネル