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特許7401095芯無しトイレットペーパーロールとその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】芯無しトイレットペーパーロールとその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A47K 10/16 20060101AFI20231212BHJP
   B65H 18/00 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
A47K10/16 D
A47K10/16 A
B65H18/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020011509
(22)【出願日】2020-01-28
(65)【公開番号】P2021115294
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】596134172
【氏名又は名称】丸富製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098936
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100098888
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 明子
(72)【発明者】
【氏名】佐野 武男
(72)【発明者】
【氏名】八木 英一
(72)【発明者】
【氏名】武内 ゆみ
【審査官】川村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-073037(JP,A)
【文献】特開2017-066545(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0204304(US,A1)
【文献】実開平04-023497(JP,U)
【文献】特開2011-206369(JP,A)
【文献】特開平06-156825(JP,A)
【文献】米国特許第05387284(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 10/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原反ロールから繰り出されたウエブを巻軸に巻き付けて所定巻取径のペーパーロールを作る巻取り工程で、巻き付け初期にセルロースナノファイバーを懸濁させた水性スラリーを前記ウエブに塗布し、その後の乾燥工程で前記巻軸に巻き取った状態のまま乾燥することを特徴とする芯無しトイレットペーパーロールの製造方法であって、
前記水性スラリーを巻き付け始めから2~4巻周ウエブに塗布し、乾燥後の前記セルロースナノファイバーの付着量を0.03~0.21g/ロールとすることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載した芯無しトイレットペーパーロールの製造方法において、
水性スラリーをセルロースナノファイバーの懸濁濃度が1.0~3.0%になるように調製することを特徴とする製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載した芯無しトイレットペーパーロールの製造方法において、
常温で乾燥することを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙筒を使用せずに、ウエブの巻き付けの初期の数層を巻き芯部とした所謂芯無しトイレットペーパーロールとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の芯無しトイレットペーパーロールは、特許文献1に示されているように、巻き取り機でウエブを巻軸に巻き付け始める際に、初期の数層に水を噴霧し、ウエブの巻軸への巻き取りを完了してペーパーロールを形成し、水分を含んだ内側の数層を乾燥固化して巻き芯部にした上で、巻軸から当該ペーパーロールを抜き取って完成させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-156825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記したように、水分を含んだ内側の数層の乾燥固化により作られた巻き芯部は、芯強度が小さいため、流通時、例えば積み下ろしの際の衝撃により芯潰れを起こすおそれがある。芯潰れを起こしたトイレットペーパーロールは商品クレームの対象になることも少なくない。更に、芯潰れを起こしたトイレットペーパーロールをホルダーに装着して回転させると、大きな音が発生することで使用者に不快な感じを与えてしまうこともある。
【0005】
また、原反ロールから繰り出されたウエブをスリットしないで所定長さに巻き取ることで幅寸法の大きいログとしてペーパーロールを形成し、その後、このログをログソーにより所定の幅寸法にカットすることもあるが、このカットする段階では、ログに芯潰れ方向に外力が加えられるので、上記したように巻き芯部の芯強度が小さいと、この段階で大きな芯潰れを起こすおそれがある。この芯潰れを補正するためにログの穴に補正シャフトを挿入することが行われているが、芯潰れの度合が大きい場合には補正ができず、これが不良品になることで製品の歩留まりが悪くなってしまう。
【0006】
本発明は上記従来の問題点に着目して為されたものであり、ウエブの巻き付けの初期の数層を巻き芯部とする所謂芯無しトイレットペーパーロールの特徴をそのままに、上記のような状況でも芯潰れを起こし難い程度に必要かつ十分な芯強度を有する、新規かつ有用な芯無しトイレットペーパーロールの製造方法を提供することを、その目的とする。
また、本発明は、従来からの芯無しトイレットペーパーロールの製造方法の工程に一部変更を加えることで、既存の設備を利用して実施できる、新規かつ有用な芯無しトイレットペーパーロールの製造方法を提供することを、その目的とする。
更に、本発明は、1プライの200~250mの芯無しトイレットペーパーロールを十分な芯強度を備えた状態で提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、[1]の発明は、原反ロールから繰り出されたウエブを巻軸に巻き付けて所定巻取径のペーパーロールを作る巻取り工程で、巻き付け初期にセルロースナノファイバーを懸濁させた水性スラリーを前記ウエブに塗布し、その後の乾燥工程で前記巻軸に巻き取った状態のまま乾燥することを特徴とする芯無しトイレットペーパーロールの製造方法である。
【0008】
[2]の発明は、[1]に記載した芯無しトイレットペーパーロールの製造方法において、水性スラリーを巻き付け始めから2~4巻周ウエブに塗布し、乾燥後のセルロースナノファイバーの付着量を0.03~0.21g/ロールとすることを特徴とする製造方法である。
【0009】
[3]の発明は、[2]に記載した芯無しトイレットペーパーロールの製造方法において、水性スラリーをセルロースナノファイバーの懸濁濃度が1.0~3.0%になるように調製することを特徴とする製造方法である。
【0010】
[4]の発明は、[1]から[3]のいずれかに記載した芯無しトイレットペーパーロールの製造方法において、常温で乾燥することを特徴とする製造方法である。
【0011】
[5]の発明は、[1]から[4]のいずれかに記載した方法により製造された1プライのロール長さが200~250mの芯無しトイレットペーパーロールである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によれば、ウエブの巻き付けの初期の数層のみを巻き芯部とする所謂芯無しトイレットペーパーロールを、輸送時等でも芯潰れを起こし難い程度に必要かつ十分な芯強度を有するものに製造できる。
また、本発明の方法によれば、従来からの芯無しトイレットペーパーロールの製造方法の工程に一部変更を加えることで、既存の設備を利用して上記の芯無しトイレットペーパーロールを製造できる。
更に、本発明の方法によれば、1プライのロール長さが200~250mの芯無しトイレットペーパーロールを上記した芯強度で製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の芯無しトイレットペーパーロールは、特に限定されず、単層からなる1プライ、二層からなる2プライ、三層からなる3プライのいずれにも適用することができる。芯無しトイレットペーパーロールは、芯有りのJIS規格に準じてペーパー幅、芯の内径、ロールの直径が設定されているが、積層数を減らすほどロールを長くできることから、最近では、1プライが業務用だけでなく、家庭用でも普及してきており、本発明の芯無しトイレットペーパーロールの製造方法は、特に、従来、芯崩れを起こし易いとされてきた1プライの長尺タイプ(200~250m)に適用しても良品を作り出すことができる。
本発明のトイレットペーパーとして用いられる紙は従来から使用されている衛生用紙でよく、これを構成するパルプ繊維として代表的なものは、バージンパルプ、上質古紙パルプまたはこれらの混合物である。ペーパーロールになったときに適切な坪量、紙厚、縦横方向の紙力を有するように紙力調整剤等の添加を含めて調整される。
【0014】
本発明の芯無しトイレットペーパーロールの製造方法は、特許文献1に記載の方法と同様であり、スリット方式では、原反ロールから繰り出されたウエブをスリッタで所定幅にカットしながら巻軸に巻き付けて所定巻取径のペーパーロールを作る巻取り工程と、テールカットすると共に適宜の糊付装置等でテールシールするテール処理工程と、その後、巻軸に巻き取った状態のまま乾燥する乾燥工程と、巻軸からペーパーロールを抜き取る抜き取り工程を主要工程とする。また、ログソー方式では、原反ロールから繰り出されたウエブを巻軸に巻き付けて所定巻取径のペーパーロールを作る巻取り工程と、テールカットすると共に適宜の糊付装置等でテールシールするテール処理工程と、その後、巻軸に巻き取った状態のまま乾燥する乾燥工程と、巻軸からペーパーロールを抜き取る抜き取り工程と、ペーパーロールをログソーで所定幅にカットする裁断工程を主要工程とする。
いずれの裁断方式も利用可能であるが、特に、ログソー方式を利用しても良品を製造できることが有利な特徴になっている。
【0015】
巻取り工程では、巻軸の周りにウエブを巻き付け、ライディングロールで押えながら駆動ロールで回転を与えると巻軸上にウエブがしだいに巻き取られていく。巻き付けの最初にくるウエブの端はエアノズルからのエアー噴射により巻軸に巻き付けられる。
この巻き付け初期に、特許文献1では、ノズルから水を噴霧しウエブを湿らしているが、本発明の方法では、水に代えて水性スラリーを噴霧してウエブの表目に塗布する。この水性スラリーの使用は、本発明の中心的特徴をなす部分である。
【0016】
セルロースは、生分解性を有し、結晶性が高く、安定性や安全性に優れている。そのため、様々な分野へ応用展開が期待されているが、なかでも、木材パルプなどのセルロース材料に機械的解繊処理を施し、フィブリル状あるいはミクロフィブリル状にまで微細化したセルロースナノファイバー(CNF)は、数十nm~数μmのサイズで、高強度、高耐熱性等の特徴を有し、樹脂への添加剤や各種機能性基材として盛んに研究されている。
水性スラリーは、このセルロースナノファイバーを水に懸濁させたものであり、繊維がペーパーに絡むことにより重ね合ったペーパーどうしを必要かつ十分な程度に固着させることが可能となっている。
【0017】
水性スラリーを塗布した後乾燥により水分が蒸発した状態で、トイレットペーパーロールが完成するが、このときのセルロースナノファイバーの付着量を0.03~0.21g/ロールに調整することが好ましい。
付着量がこれより少ないと、水に代えて水性スラリーを使用しても、芯強度が期待したほど高くならず、付着量がこれより多いと、後述の理由で巻周を多くして塗布することになり、トイレットペーパーロールを引き出して使用して最後に残る巻き芯部の重量を無駄に増やしてしまうことになる。因みに、芯無しトイレットペーパーロールとして販売したときに、トイレットペーパーロールを引き出して使用して最後に残る巻き芯部の重量が「5g」を超えると、消費者側のクレーム対象になると言われているが、「5g」より軽量化できるのであればそれに越したことはない。
また、水性スラリーの塗布は、2~4巻周が好ましい。
上記の範囲の付着量をこれらの巻周で分配することで、ウエブの巻き付けの初期の数層だけで必要かつ十分な芯強度の巻き芯部にすることが可能となる。
【0018】
上記のようなトイレットペーパーロールにするには、水性スラリーをセルロースナノファイバーの懸濁濃度が1.0~3.0%になるように調製することが好ましい。
この懸濁濃度より低いと、上記した付着量を確保するためには、より多い水分でウエブを湿らすことになり、乾燥時間がかかるだけでなく、大量の浸み込んだ水分を乾燥することによる収縮や変形の発生が懸念される。一方、この懸濁濃度より高いと、塗布した際のウエブ上での分散が均一になり難く、固着不良により芯が不完全なものとなり易い。更に、噴霧するノズルの詰まり発生が懸念される。
上記の範囲の懸濁濃度の水性スラリーを1巻周当たり1.5~2.0mLとなるように塗布することで、上記の範囲の付着量が確保できる。
【0019】
乾燥工程では、巻軸に巻き取った状態のウエブを常温で乾燥することが好ましい。この常温とは、18~25℃程度である。常温を維持するために、通常は無風状態で乾燥する。
この状態で、30~40分程度放置すれば十分に乾燥され、巻き芯部に所望の芯強度を付与することができる。
加熱により強制乾燥すると、乾燥終了の見極めが難しく、水性スラリーを塗布した部分だけでなく外側の巻周部分も硬くなり、トイレットペーパーロールを引き出して使用して最後に残る巻き芯部が多くなる懸念があるが、常温で乾燥するのでその心配はない。
【実施例
【0020】
本発明の実施の形態に係るトイレットペーパーロールを、次の条件で製造した。
≪サンプルの作製≫
<ペーパーを構成するパルプ繊維>
(バージンパルプ)
針葉樹クラフトパルプ(NBKP) 15質量%
広葉樹クラフトパルプ(LBKP) 35質量%
(上質古紙パルプ) 50質量%
<トイレットペーパーロール(1プライ)>
(ロール長さ) 200m、250m
(幅寸法) 120mm
(ロールの直径) 110mm
(中心部の穴の直径) 37mm
【0021】
<製造方法>
スリット方式を利用した。
水性スラリーのセルロースナノファイバー(CNF)の懸濁濃度を0.5%、1.0%、1.5%、2.0%、2.5%、3.0%、3.5%、4.0%、4.5%、5.0%に分けて、複数種類の水性スラリーを作製し、1巻周当たり、1.5~2.0mLとなるようにウエブの表面となる側の面に向けて噴霧塗布した。
また、塗布する巻周を、1周、2周、3周、4周に分けて塗布し、その後、常温無風下で乾燥した。乾燥時間は、塗布量や懸濁濃度に合わせて適宜調整した。
【0022】
≪サンプルの評価≫
CNF懸濁濃度が3.5~5.0%の場合、巻周が1周、2周のサンプルでは固着不良の顕在化により芯が形成されず、製品化できなかったものがあった。
【0023】
(圧縮強度試験)
芯が形成されたサンプルを対象に次の試験を行った。
富士工業技術支援センターにある圧縮試験機(AND RTF-1250)を使用して、第二座屈点についてのblank(従来品、噴霧無し)と各サンプルの数値を比較し、潰れるときにかかった荷重と潰れるまでの移動量を測定した。荷重と移動量が大きいほど、潰れ難いと判断する。圧縮強度試験の結果を表1、表2、表3に示す。
【0024】
【表1】
【表2】
【表3】
【0025】
ロール長さが200mのサンプルでは、CNF懸濁濃度が0.5%、1.0%だと、巻周が1周のものは従来品のものより潰れ易かったものがあった。ロール長さが250mのサンプルでは、CNF懸濁濃度が0.5%だと、巻周がいずれでも従来品のものより潰れ易かったものがあった。また、CNF懸濁濃度が1.0%、1.5%だと、巻周が1周のものは従来品のものより潰れ易かったものがあった。
これらの結果は、CNFの混入効果が殆ど見られず、水で濡れたウエブが常温で放置されたことが大きく悪影響を及ぼしたことによるものと推測される。特に、ロール長さが250mのサンプルでは巻き密度が高いので、その影響が大きく出たものと推測される。
また、CNF懸濁濃度が3.5%を超えると、巻周を増やして芯が形成されたものでも、芯強度はCNF懸濁濃度が3.0%のものより低くなっていた。すなわち、得られた芯強度はCNFの増大分が寄与されていなかった。
【0026】
(芯の残量計測試験)
芯が形成されたサンプルを対象に次の試験を行った。
試験室にある測長機(スピード:1400r/min)を使用し、ロールをすべて解いたときに残った芯の重量を測定した。芯の残量の計測結果を表4、表5、表6に示す。
CNF懸濁濃度が3.5%を超えたサンプルを含めて、各サンプルともクレーム対象になる残り芯が5g以下だったため、芯無しトイレットペーパーロールの商品として問題ないと思われる。
【0027】
【表4】
【表5】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明はトイレットペーパーロール製造業において利用可能性を有し、自然乾燥により芯を形成しても、十分な強度を得ることができ芯潰れを抑制でき、しかも使用できない芯の部分を少なくすることができるトイレットペーパーロール及びその製造方法を提供することができる。