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特許7401100地盤注入用薬液、その製造方法及び地盤注入硬化方法
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  • 特許-地盤注入用薬液、その製造方法及び地盤注入硬化方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】地盤注入用薬液、その製造方法及び地盤注入硬化方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 17/12 20060101AFI20231212BHJP
   E02D 3/12 20060101ALI20231212BHJP
   C09K 17/02 20060101ALI20231212BHJP
   C09K 103/00 20060101ALN20231212BHJP
【FI】
C09K17/12 P
E02D3/12 101
C09K17/02 P
C09K103:00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020105564
(22)【出願日】2020-06-18
(65)【公開番号】P2021195519
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】599068832
【氏名又は名称】名古屋カレット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 潔人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 洋
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-158647(JP,A)
【文献】特開平08-060153(JP,A)
【文献】特開平08-073850(JP,A)
【文献】特公平6-84499(JP,B2)
【文献】特開平9-78064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 17/00
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤中に薬液を注入して該地盤を硬化させるための地盤注入用薬液であって、A液として水ガラス及び可溶性アルカリ物質の水溶液と、B液としてスラグ懸濁液の組成を有し、可溶性アルカリ物質は、結晶性ケイ酸ソーダ、オルソケイ酸ソーダ、又はセスキケイ酸ソーダの1以上、又はこれらの1以上と苛性アルカリの混合物であり、次の(a)、(b)、(c)の条件を満たすことを特徴とする地盤注入用薬液:
該地盤注入用薬液1リットル当たり、
(a)3.5>[SiO]>0.3
(b)2.5>[SiO]/[NaO]>1.7
(c)5>[CaO]>0.3
ここで[SiO]は水ガラス中のSiOのモル濃度と可溶性アルカリ物質中のSiOの合計のモル濃度、[NaO]は水ガラス中のNaOのモル濃度と可溶性アルカリ物質をNaO換算した合計のモル濃度、[CaO]はスラグ中のCaOのモル濃度をそれぞれ表す。
【請求項2】
前記スラグのブレーン値が8000cm/g以上の請求項1記載の地盤注入用薬液。
【請求項3】
前記可溶性アルカリ物質が、結晶性ケイ酸ソーダ、オルソケイ酸ソーダ、はセスキケイ酸ソーダの1以上である請求項1又は2記載の地盤注入用薬液。
【請求項4】
液状化防止または礫層注入に使用する請求項1~3のいずれかに記載の地盤注入用薬液。
【請求項5】
ゲル化時間が、0.5時間以上の範囲又は1時間以上の範囲で調節可能である請求項1~4のいずれかに記載の地盤注入用薬液。
【請求項6】
地盤中に薬液を注入して該地盤を硬化させるための地盤注入用薬液の製造方法であって、
A液として水ガラス及び可溶性アルカリ物質の水溶液と、B液としてスラグ懸濁液の組成を有する地盤注入用薬液を、次の(a)、(b)、(c)の条件を満たすよう夫々調製すること、但し、可溶性アルカリ物質は、結晶性ケイ酸ソーダ、オルソケイ酸ソーダ、又はセスキケイ酸ソーダの1以上、又はこれらの1以上と苛性アルカリの混合物である:
該地盤注入用薬液1リットル当たり、
(a)3.5>[SiO]>0.3
(b)2.5>[SiO]/[NaO]>1.7
(c)5>[CaO]>0.3
ここで[SiO]は水ガラス中のSiOのモル濃度と可溶性アルカリ物質中のSiOの合計のモル濃度、[NaO]は水ガラス中のNaOのモル濃度と可溶性アルカリ物質をNaO換算した合計のモル濃度、[CaO]はスラグ中のCaOのモル濃度をそれぞれ表す、
を特徴とする地盤注入用薬液の製造方法。
【請求項7】
前記スラグのブレーン値が8000cm/g以上である請求項6記載の地盤注入用薬液の製造方法。
【請求項8】
前記可溶性アルカリ物質が、結晶性ケイ酸ソーダ、オルソケイ酸ソーダ、はセスキケイ酸ソーダの1以上である請求項6又は7記載の地盤注入用薬液の製造方法。
【請求項9】
ゲル化時間を、0.5時間以上の範囲又は1時間以上の範囲で調節する請求項6~8のいずれかに記載の地盤注入用薬液の製造方法。
【請求項10】
地盤中に薬液を注入して該地盤を硬化させるための地盤注入硬化方法であって、
A液として水ガラス及び可溶性アルカリ物質の水溶液と、B液としてスラグ懸濁液の組成を有する地盤注入用薬液を、次の(a)、(b)、(c)の条件を満たすよう準備する工程、但し、可溶性アルカリ物質は、結晶性ケイ酸ソーダ、オルソケイ酸ソーダ、又はセスキケイ酸ソーダの1以上、又はこれらの1以上と苛性アルカリの混合物である
該地盤注入用薬液1リットル当たり、
(a)3.5>[SiO]>0.3
(b)2.5>[SiO]/[NaO]>1.7
(c)5>[CaO]>0.3
ここで[SiO]は水ガラス中のSiOのモル濃度と可溶性アルカリ物質中のSiOの合計のモル濃度、[NaO]は水ガラス中のNaOのモル濃度と可溶性アルカリ物質をNaO換算した合計のモル濃度、[CaO]はスラグ中のCaOのモル濃度をそれぞれ表す、
A液、B液を混合して地盤に注入する工程
を含むことを特徴とする地盤注入硬化方法。
【請求項11】
前記スラグのブレーン値が8000cm/g以上である請求項10記載の地盤注入硬化方法。
【請求項12】
前記可溶性アルカリ物質が、結晶性ケイ酸ソーダ、オルソケイ酸ソーダ、またはセスキケイ酸ソーダの1以上である請求項10又は11記載の地盤注入硬化方法。
【請求項13】
液状化防止または礫層注入のため1ショット、1.5ショット、又は2ショットで注入する請求項10~12のいずれかに記載の地盤注入硬化方法。
【請求項14】
ゲル化時間を、0.5時間以上の範囲又は1時間以上の範囲で調節する請求項10~13のいずれかに記載の地盤注入硬化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地盤注入用薬液、その製造方法及び地盤注入硬化方法に関する。地盤の強化や止水を図るため、地盤中に薬液を注入して該地盤を硬化させることが行われる。特に地震による地盤の液状化防止にも薬液注入が行われる。
【背景技術】
【0002】
従来、上記のような地盤改良剤ないし地盤注入硬化方法として、高炉スラグと水酸化アルカリを用いたものとして特許文献1、スラグを主成分とし水ガラスを用いたものとしては、特許文献2、特許文献3等がある。その他スラグと水ガラスを用いたものには、特許文献4、特許文献5がある。また、水ガラスを用いないものとしては特許文献6がある。
【0003】
通常のモル比の水ガラスを使用する場合、液状化防止等に使用するような時間単位の長いゲルタイムは得られない。そのため特許文献3ではSiO/NaOのモル比が1.45以下であり、遅延剤として炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウムの群から選ばれた一種または二種以上のゲル化遅延剤が添加される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平4-293994
【文献】特開平7-119138
【文献】特開平7-127047
【文献】特開平9-263759
【文献】特開平9-316449
【文献】特開平11-293244
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記先行技術文献の開示内容は引用をもって、本書に繰込み記載されているものとする。
以下の分析は、本発明者によってなされたものである。
例えば、特許文献4では、アルミン酸ソーダを用いて、10分~35分、又は、さらに重炭酸ソーダを用いて33~57分のゲル化時間が実施例として示されている。しかしアルミン酸ソーダは2019年に劇物指定となり、少量であっても使用できないという問題がある。
【0006】
特許文献3においては、上述の遅延剤特に重炭酸ソーダは、水とスラグと配合直後は水ガラス希釈液と混合したゲルタイムを遅延させるに有効ではあるけれども、配合してから時間経過とともにB液であるスラグと遅延剤が反応し、A液である水ガラスと混合した時のゲルタイムが遅延し、B液の煉り置き数時間後には硬化しなくなる。そのためB液の調製後、速やかにA液との混合注入を完了しなければならないという問題がある。
【0007】
また、水ガラスとスラグと、ゲル化時間調整剤としてアルカリ剤であるアルミン酸アルカリからなるものとしては特許文献4、特許文献5等がある。しかし、アルミン酸ソーダは劇物指定となり、使用できないことは既述のとおりである。
【0008】
そのため特許文献6では水ガラスを使用せずスラグの潜在水硬性を消石灰で刺激することによって長いゲルタイムを得ている。しかし水ガラスを使用しないため粘度の立ち上がりが非常に悪く、ゲルタイムが不安定であり、実用上問題がある。またスラグと同等のミクロンオーダーの微粒子消石灰を使用しているが、消石灰は凝集性が非常に強く界面活性剤を用いても完全に分散させることができない。その結果浸透阻害を起こして細砂に浸透できないという問題がある。
【0009】
水ガラスとスラグと、アルカリ剤としてアルミン酸アルカリを用いる注入薬液は、アルミン酸ソーダが、2019年に劇物指定となって使用できなくなった。そのためにそれに代わるものとして劇物を用いないで同等以上の性能を有する地盤注入用薬剤及び地盤注入硬化方法が求められている。
【0010】
本発明は、その一視点において、懸濁物質としてはスラグを主体とし、水ガラスを使用しても(特に1時間オーダの)長いゲルタイムが調整可能な、液状化防止にも安心して(即ち、劇物を使用することなく)使用できる地盤注入用薬液を提供することを目的とする。本発明は他の一視点において、同様な地盤注入硬化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の視点によれば、地盤中に薬液を注入して該地盤を硬化させるための地盤注入用薬液が提供される。該地盤注入用薬液は、A液として水ガラス及び可溶性アルカリ物質の水溶液と、B液としてスラグ混濁液の組成を有し、次の(a)、(b)、(c)の条件を満たすことを特徴とする。
該地盤注入用薬液1リットル当たり、
(a)3.5>[SiO]>0.3
(b)2.8>[SiO]/[NaO]>1.7
(c)5>[CaO]>0.3
ここで[SiO]は水ガラス中のSiOのモル濃度と可溶性アルカリ物質中のSiOの合計のモル濃度、[NaO]は水ガラス中のNaOのモル濃度と可溶性アルカリ剤をNaO換算した合計のモル濃度、[CaO]はスラグ中のCaOのモル濃度をそれぞれ表す。
さらに第1の視点の変形態様において、以下の地盤注入用薬液が提供される。即ち、地盤中に薬液を注入して該地盤を硬化させるための地盤注入用薬液であって、A液として水ガラス及び可溶性アルカリ物質の水溶液と、B液としてスラグ懸濁液の組成を有し、可溶性アルカリ物質は、結晶性ケイ酸ソーダ、オルソケイ酸ソーダ、又はセスキケイ酸ソーダの1以上、又はこれらの1以上と苛性アルカリの混合物であり、次の(a)、(b)、(c)の条件を満たすことを特徴とする地盤注入用薬液:
該地盤注入用薬液1リットル当たり、
(a)3.5>[SiO ]>0.3
(b)2.5>[SiO ]/[Na O]>1.7
(c)5>[CaO]>0.3
ここで[SiO ]は水ガラス中のSiO のモル濃度と可溶性アルカリ物質中のSiO の合計のモル濃度、[Na O]は水ガラス中のNa Oのモル濃度と可溶性アルカリ物質をNa O換算した合計のモル濃度、[CaO]はスラグ中のCaOのモル濃度をそれぞれ表す。
【0012】
本発明の第2の視点において、地盤中に薬液を注入して該地盤を硬化させるための地盤注入用薬液の製造方法が提供される。即ち、該地盤注入用薬液の製造方法は、
A液として水ガラス及び可溶性アルカリ物質の水溶液と、B液としてスラグ懸濁液の組成を有する地盤注入用薬液を次の(a)、(b)、(c)の条件を満たすよう夫々調製することを特徴とする:
該地盤注入用薬液1リットル当たり、
(a)3.5>[SiO]>0.3
(b)2.8>[SiO]/[NaO]>1.7
(c)5>[CaO]>0.3
ここで[SiO]は水ガラス中のSiOのモル濃度と可溶性アルカリ物質中のSiOの合計のモル濃度、[NaO]は水ガラス中のNaOのモル濃度と可溶性アルカリ物質をNaO換算した合計のモル濃度、[CaO]はスラグ中のCaOのモル濃度をそれぞれ表す。
さらに第2の視点の変形態様において、以下の地盤注入用薬液の製造方法が提供される。即ち、地盤中に薬液を注入して該地盤を硬化させるための地盤注入用薬液の製造方法であって、
A液として水ガラス及び可溶性アルカリ物質の水溶液と、B液としてスラグ懸濁液の組成を有する地盤注入用薬液を、次の(a)、(b)、(c)の条件を満たすよう夫々調製すること、但し、可溶性アルカリ物質は、結晶性ケイ酸ソーダ、オルソケイ酸ソーダ、又はセスキケイ酸ソーダの1以上、又はこれらの1以上と苛性アルカリの混合物である:
該地盤注入用薬液1リットル当たり、
(a)3.5>[SiO ]>0.3
(b)2.5>[SiO ]/[Na O]>1.7
(c)5>[CaO]>0.3
ここで[SiO ]は水ガラス中のSiO のモル濃度と可溶性アルカリ物質中のSiO の合計のモル濃度、[Na O]は水ガラス中のNa Oのモル濃度と可溶性アルカリ物質をNa O換算した合計のモル濃度、[CaO]はスラグ中のCaOのモル濃度をそれぞれ表す、
を特徴とする地盤注入用薬液の製造方法。
【0013】
本発明の第3の視点において、地盤中に薬液を注入して該地盤を硬化させるための地盤注入硬化方法が提供される。該地盤注入硬化方法は、
A液として水ガラス及び可溶性アルカリ物質の水溶液と、B液としてスラグ懸濁液の組成を有する地盤注入用薬液を、次の(a)、(b)、(c)の条件を満たすよう準備する工程:
該地盤注入用薬液1リットル当たり、
(a)3.5>[SiO]>0.3
(b)2.8>[SiO]/[NaO]>1.7
(c)5>[CaO]>0.3
ここで[SiO]は水ガラス中のSiOのモル濃度と可溶性アルカリ物質中のSiOの合計のモル濃度、[NaO]は水ガラス中のNaOのモル濃度と可溶性アルカリ物質をNaO換算した合計のモル濃度、[CaO]はスラグ中のCaOのモル濃度をそれぞれ表す、
A液、B液を混合して地盤に注入する工程、
を含むことを特徴とする。
さらに第3の視点の変形態様において、以下の地盤注入硬化方法が提供される。即ち、
地盤中に薬液を注入して該地盤を硬化させるための地盤注入硬化方法であって、
A液として水ガラス及び可溶性アルカリ物質の水溶液と、B液としてスラグ懸濁液の組成を有する地盤注入用薬液を、次の(a)、(b)、(c)の条件を満たすよう準備する工程、但し、可溶性アルカリ物質は、結晶性ケイ酸ソーダ、オルソケイ酸ソーダ、又はセスキケイ酸ソーダの1以上、又はこれらの1以上と苛性アルカリの混合物である:
該地盤注入用薬液1リットル当たり、
(a)3.5>[SiO ]>0.3
(b)2.5>[SiO ]/[Na O]>1.7
(c)5>[CaO]>0.3
ここで[SiO ]は水ガラス中のSiO のモル濃度と可溶性アルカリ物質中のSiO の合計のモル濃度、[Na O]は水ガラス中のNa Oのモル濃度と可溶性アルカリ物質をNa O換算した合計のモル濃度、[CaO]はスラグ中のCaOのモル濃度をそれぞれ表す、
A液、B液を混合して地盤に注入する工程
を含むことを特徴とする地盤注入硬化方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
地盤注入用薬液1リットル当り、条件(a)3.5>[SiO]>0.3とするが、地盤注入用薬液1リットル中のSiOモル濃度3.5以上になると、B液の粘性が上がって良好な浸透を阻害する。また0.3以下では実用化強度に達しない。
地盤注入用薬液1リットル中の [SiO]モル濃度は2.5~0.7が好ましく、さらには、2.0~0.8が好ましい。
【0015】
条件(b)2.8>[SiO]/[NaO]>1.7については、以下、[SiO]/[NaO]を、単に「モル比」とも称する。水ガラスと可溶性アルカリ合計のモル比は、2.8以上ではスラグを刺激できず強度増加を期待できない。また、1.7以下ではゲルタイムが短い傾向がある。モル比は、さらに2.7~1.8が好ましく、より好ましくは2.5~1.8又はさらに2.3~1.8である。
【0016】
条件(c)5>[CaO]>0.3は、地盤注入用薬液1リットル当りに含まれるスラグ中のCaOモル濃度であるが、CaOモル濃度5以上ではB液の粘性が上がりすぎ、また、0.3以下では溶液型薬液と同程度の低い強度となるので好ましくない。より好ましくは、[CaO]モル濃度は、4~0.5であり、より好ましくは3~0.7である。
【0017】
A液としての水ガラスの水溶液の調製に用いる水ガラスは、市販されている任意の水ガラスを出発材料として使用できる。通常はJIS3号の水ガラスを使用するが、モル比が2.3以下の水ガラスが入手できる場合は可溶性アルカリ物質の添加量を少なくできるため経済的に好ましい。JIS3号水ガラスを用いても、条件(b)になるよう、可溶性アルカリ物質で調整して用いる。
【0018】
A液として水ガラスと可溶性アルカリ物質である苛性アルカリ、結晶性ケイ酸ソーダ、オルソケイ酸ソーダ、またはセスキケイ酸ソーダの1以上を用いる。苛性アルカリは苛性ソーダおよび/または苛性カリ等が用いられる。結晶性ケイ酸ソーダとしてはメタケイ酸ソーダ5水塩および/または9水塩が一般的であるが無水物も使用でき、オルソケイ酸ソーダやセスキ酸ソーダも使用でき、これらの混合物も使用できる。B液としてのスラグ懸濁液と1ショット、1.5ショットあるいは2ショットといずれの混合方式でも注入できる時間単位のゲルタイムの設定、調節は、可溶性アルカリ物質の添加量を変えることにより、容易に設定、調節できる。
【0019】
B液としてスラグ懸濁液を調製するスラグは、地盤(特に液状化防止のための軟弱地盤)や砂層ないし礫層に十分浸透させるため細かい方が好ましく、8000cm/g以上のブレーン値(比表面積)が望ましく、10000cm/g以上、さらには20000cm/g~30000cm/g以上が好ましい。また本薬液は浸透注入をさせる時間オーダの緩結薬液としての使用を主たる用途とするが、浸透性が必要でないゲルタイムが数秒~十数秒の瞬結薬液として使用する場合には、消石灰などの瞬結剤ないしゲルタイム短縮剤を併用できることは言うまでもない。
【0020】
A液として水ガラスとアルカリ物質混合液と、B液としてスラグ懸濁液とを1ショット、1.5ショットあるいは2ショットといずれの混合方式でも注入できるよう時間単位のゲルタイムを可溶性アルカリ物質の添加量を変えることにより、容易に設定できる。(例えば、図1参照)
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は実施例4についてメタケイ酸ソーダ9水塩の添加量とゲルタイムの関係を示す図である。
図2図2は実施例6についてメタケイ酸ソーダ9水塩の添加量とゲルタイムの関係を示す図である。
【実施例
【0022】
以後の実施例で使用する材料を示す。
使用材料
スラグ:(株)デイ・シイ製ファインセラメントFCR-5A(ブレーン値11000cm/g 粒径D50=3.5μm、以降スラグAという)とファインセラメントFCR-B1S(ブレーン値20000cm/g 粒径D50=1.8μm、以降スラグBという)
苛性ソーダ:東ソー(株)48%工業用液体苛性ソーダ
メタケイ酸ソーダ9水塩:東洋珪酸曹達(株)
水ガラス:愛知珪曹工業(株)
【実施例1】
【0023】
NaO1モルに対しSiOを2.15モルの割合で含有する固形分濃度41%の水ガラス100mlにメタケイ酸ソーダ9水塩1gを添加し水を加えて希釈混合した水ガラスとメタケイ酸ソーダの水溶液200ml(A液)を調製した。一方、スラグA75gと水を添加混合してスラグ懸濁液(B液)200mlを調製した。A液100mlとB液100mlを混合し、φ35mm×100mmのモールドに豊浦砂(粒径D50=0.2mm)を相対密度Dr=60%で充填した後、モールド上部から真空ポンプで吸引してモールド下部から薬液を浸透注入した。浸透注入開始から10秒以内に上部から薬液があふれ出てトラップに捕捉された。28日後の一軸圧縮強度は3MN/mであり、薬液のゲルタイムは3時間22分であった。なお、ゲルタイムの測定は、A液とB液をビーカに入れて混合してからマグネットスターラで撹拌し続け水面が止まった時間をゲルタイムとした(以下、同様)。
【実施例2】
【0024】
NaO1モルに対しSiOを2.15モルの割合で含有する固形分濃度41%の水ガラス100mlに苛性ソーダ1gを添加し水を加えて希釈混合し、水ガラスと苛性ソーダの水溶液200ml(A液)を調製した。一方、スラグA75gと水を添加混合してスラグ懸濁液(B液)200mlを調製した。A液100mlとB液100mlを混合し、φ35mm×100mmのモールドに豊浦砂を相対密度Dr=60%で充填した後、モールド上部から真空ポンプで吸引してモールド下部から薬液を浸透注入した。浸透注入開始から10秒以内に上部から薬液があふれ出てトラップに捕捉された。薬液のゲルタイムは2時間5分であった。
【実施例3】
【0025】
NaO1モルに対しSiOを3.19モルの割合で含有する固形分濃度38.3%の3号水ガラス100mlに苛性ソーダ16gとメタケイ酸ソーダ9水塩2gを添加し水を加えて希釈混合し、水ガラスと苛性ソーダ及びメタケイ酸ソーダの水溶液200ml(A液)を調製した。一方、スラグA75gと水を添加混合してスラグ懸濁液(B液)200mlを調製した。A液100mlとB液100mlを混合し、φ35mm×100mmのモールドに豊浦砂を相対密度Dr=60%で充填した後、モールド上部から真空ポンプで吸引してモールド下部から薬液を浸透注入した。浸透注入開始から10秒以内に上部から薬液があふれ出てトラップに捕捉された。薬液のゲルタイムは3時間50分であった。
【実施例4】
【0026】
実施例1と同様の薬液構成においてメタケイ酸ソーダ9水塩の添加量とゲルタイム(分)の関係を調べた。その結果を、図1に示す。メタケイ酸ソーダの添加量の調節により、50分~60分~250分の範囲でゲルタイムを調節できることが判る。なお、さらに短いまたは長いゲルタイムにするには、水ガラスのモル比と濃度、可溶性アルカリ物質の選択、量比などにより、所望の値に調節することができる。
【実施例5】
【0027】
NaO1モルに対しSiOを2.15モルの割合で含有する固形分濃度41%の水ガラス80mlにメタケイ酸ソーダ9水塩1gを添加し水を加えて希釈混合した水ガラスとメタケイ酸ソーダの水溶液200ml(A液)を調製した。一方、スラグB50gと水を添加混合してスラグ懸濁液(B液)200mlを調製した。A液100mlとB液100mlを混合し、φ35mm×100mmのモールドに豊浦砂(粒径D50=0.2mm)を相対密度Dr=60%で充填した後、モールド上部から真空ポンプで吸引してモールド下部から薬液を浸透注入した。浸透注入開始から10秒以内に上部から薬液があふれ出てトラップに捕捉された。薬液のゲルタイムは1時間40分であった。
【実施例6】
【0028】
実施例5と同様の薬液構成においてメタケイ酸ソーダ9水塩の添加量とゲルタイム(分)の関係を調べた。その結果を、図2に示す。メタケイ酸ソーダの添加量の調節により、35分~60分~110分の範囲でゲルタイムを調節できることが判る。なお、さらに短いまたは長いゲルタイムにするには、水ガラスのモル比と濃度、可溶性アルカリ物質の選択、量比などにより、所望の値に調節することができる。
【0029】
(発明の効果)
本発明によれば、地盤注入用薬液に用いる懸濁物質として凝集力の小さいスラグの性質を生かし、以下の種々の効果を奏するが、これらに限定されることを意味しない。
(1)十分長いゲル時間を確保できるので浸透性にすぐれ、また安定性にも優れる。これらの点は、凝集性の強い消石灰を使用しないことで確保される。
(2)遅延剤を使用せずとも可溶性アルカリ物質の添加量を変えることにより0.5時間以上からさらに1時間以上~数時間(例えば4時間)の長いゲルタイムを調整できるため、液状化防止工事にも使用できる。
(3)スラグの潜在水硬性を刺激するセメントを懸濁物質として必要としない。よって、薬液構成が、単純であり、材料的にも有利である。
(4)また、セメントを必要としないので懸濁物質を分散させるための界面活性剤の添加が必要ない。
【0030】
なお、上記の先行技術文献の各開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(特許請求の範囲及び図面を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の全開示の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施形態ないし実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせないし選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲及び図面を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。また、本願に記載の数値及び数値範囲については、明記がなくともその任意の中間値、下位数値、及び、小範囲が記載されているものとみなされる。
図1
図2