(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】透過型小角散乱装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/20025 20180101AFI20231212BHJP
G01N 23/201 20180101ALI20231212BHJP
H01L 21/66 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
G01N23/20025
G01N23/201
H01L21/66 J
H01L21/66 P
(21)【出願番号】P 2022210972
(22)【出願日】2022-12-27
(62)【分割の表示】P 2021508782の分割
【原出願日】2020-01-08
【審査請求日】2022-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2019065112
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100101867
【氏名又は名称】山本 寿武
(72)【発明者】
【氏名】松嶋 直樹
(72)【発明者】
【氏名】尾形 潔
(72)【発明者】
【氏名】吉原 正
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 義泰
(72)【発明者】
【氏名】表 和彦
(72)【発明者】
【氏名】本野 寛
(72)【発明者】
【氏名】淺野 繁松
(72)【発明者】
【氏名】洞田 克隆
(72)【発明者】
【氏名】安田 千水
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-221362(JP,A)
【文献】特開2005-221363(JP,A)
【文献】特開2004-177248(JP,A)
【文献】国際公開第07/026461(WO,A1)
【文献】国際公開第18/016430(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0307548(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0113084(US,A1)
【文献】X線・中性子小角散乱で何がわかるか?,SPring-8産業利用研究会(第26回)-放射光X線による金属材料評価技術-,日本,2008年12月09日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-G01N 23/2276
H01L 21/00-H01L 21/98
G21K 1/00-G21K 1/16
G01B 15/00-G01B 15/08
G01B 11/00-G01B 11/30
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
Scitation
APS Journals
Science Direct
KAKEN
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線照射ユニットと、
二次元X線検出器と、
検査対象となる試料を配置する試料保持部と、を備え、
前記試料保持部に配置された試料に対して、前記X線照射ユニットから出射した収束X線を下方から照射するとともに、当該試料を透過した収束X線の周囲に生じた散乱X線を前記二次元X線検出器が試料の上方位置で検出する構成としてあり、
且つ、前記試料保持部をχ軸周りに揺動させるχ軸揺動機構を備え、当該χ軸揺動機構により、前記試料保持部に配置された試料に対する入射X線の光軸角度を変更する構成としたことを特徴とする透過型小角散乱装置。
【請求項2】
前記試料保持部を移動させる試料位置決め機構を備え、
前記試料位置決め機構は、前記試料保持部に支持された試料を面内回転させるための面内回転機構と、前記試料保持部を前後方向に移動させるためのY軸移動機構と、前記試料保持部を横方向に移動するためのX軸移動機構と、前記試料保持部を上下方向に移動するためのZ軸移動機構と、を含むことを特徴とする請求項1に記載の透過型小角散乱装置。
【請求項3】
入射X線の光軸に対する試料表面の傾きを測定する傾き測定手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の透過型小角散乱装置。
【請求項4】
前記傾き測定手段を、前記試料保持部に支持された試料の表面に、レーザ光源からのレーザ光を照射し、同表面から反射してきたレーザ光をレーザ検出器により検出するレーザ傾き測定器で構成したことを特徴とする請求項3に記載の透過型小角散乱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、半導体製造工程の現場において非破壊で半導体デバイスを測定することができる透過型小角散乱装置(T-SAXS:Transmission - Small Angle X-ray Scattering)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体デバイスは、性能向上のために高密度化、多層化、回路パターンの複雑化などが進んでいる。特に、三次元構造のNANDフラッシュメモリ(3D-NAND)においては、容量密度の増大に伴い多層化が進んでおり、その結果として、アスペクト比の大きなピラー(直径:数十~数百nm、高さ:数μm)やトレンチ(深溝)を有する構造となっている。
【0003】
従来、半導体デバイスの三次元構造の測定には、主に光寸法計測(OCD:Optical Critical Dimension)装置が用いられてきたが、同装置では上記のような複雑な構造を測定できない状況が生じている。走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)や透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)を用いれば、深さ方向の測定も可能ではある。しかし、これらの電子顕微鏡による測定は、測定対象を破壊しての測定手法となるために、半導体製造工程において製造された半導体デバイスを、その場で非破壊にて測定することはできない。
【0004】
近年、特許文献1に開示されているような透過型の小角散乱装置を、半導体デバイスの構造測定に用いるべく、分析機器メーカー各社が開発を進めているが、未だ実用化には至っていないのが現状である。
本出願人は、このような事情に鑑みて、先に特願2021-508782号に係る発明を提案した。さらに、本出願人は、その先願の明細書及び図面に記載されていた他の発明を分割して本出願による権利化を図ることとした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、試料保持部に配置された試料に対する入射X線の光軸角度を任意に変更することができる透過型小角散乱装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る透過型小角散乱装置は、X線照射ユニットと、二次元X線検出器と、検査対象となる試料を配置する試料保持部と、を備え、前記試料保持部に配置された試料に対して、前記X線照射ユニットから出射した収束X線を下方から照射するとともに、当該試料を透過した収束X線の周囲に生じた散乱X線を前記二次元X線検出器が試料の上方位置で検出する構成としてあり、且つ、前記試料保持部をχ軸周りに揺動させるχ軸揺動機構を備え、当該χ軸揺動機構により、前記試料保持部に配置された試料に対する入射X線の光軸角度を変更する構成としたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る透過型小角散乱装置は、前記試料保持部を移動させる試料位置決め機構を備え、前記試料位置決め機構は、前記試料保持部に支持された試料を面内回転させるための面内回転機構と、前記試料保持部を前後方向に移動させるためのY軸移動機構と、前記試料保持部を横方向に移動するためのX軸移動機構と、前記試料保持部を上下方向に移動するためのZ軸移動機構と、を含む構成とすることもできる。
【0009】
また、本発明に係る透過型小角散乱装置は、入射X線の光軸に対する試料表面の傾きを測定する傾き測定手段を備えた構成とすることもできる。
【0010】
さらに、本発明に係る透過型小角散乱装置は、前記傾き測定手段を、前記試料保持部に支持された試料の表面に、レーザ光源からのレーザ光を照射し、同表面から反射してきたレーザ光をレーザ検出器により検出するレーザ傾き測定器で構成することもできる。
【0011】
なお、本出願人が先に提案した特願2021-508782号に記載の発明は、次の通りである。
【0012】
すなわち、先願発明に係る透過型小角散乱装置は、検査対象となる試料を配置する試料保持部と、試料保持部を移動させる試料位置決め機構と、旋回アームを含むゴニオメータと、旋回アームに搭載されたX線照射ユニットと、旋回アームに搭載された二次元X線検出器とを備えている。そして、旋回アームは、鉛直方向の配置状態を原点として、当該原点から水平方向に延びるθ軸周りに回動自在であり、X線照射ユニットは、旋回アームの下側端部に搭載され、二次元X線検出器は、旋回アームの上側端部に搭載されており、試料保持部に配置された試料に対して、X線照射ユニットから出射した収束X線を下方から照射するとともに、当該試料を透過した収束X線の周囲に生じた散乱X線を二次元X線検出器が試料の上方位置で検出する構成としたことを特徴とする。
このような縦型の配置構造とすることで、比較的狭い面積の床面にも設置することができる。
【0013】
ここで、旋回アームは、複数のアーム部材によって構成し、そのうち一つのアーム部材をゴニオメータのθ回転軸に固定するとともに、当該θ回転軸に固定されたアーム部材に対し、他のアーム部材がスライドして重なり合う構成としてもよい。
このように各アーム部材を畳むことにより、全長を短くしてコンパクトな形態とすることができる。
【0014】
また、試料保持部は、試料保持枠の内側に形成され、この試料保持枠の内側はX線透過孔となっており、このX線透過孔に対面する状態で試料を支持する構成としてもよい。
さらに、試料保持枠の内周縁には、複数箇所から吸着支持片を内側へ突き出して設け、これら吸着支持片によって試料の外周縁部の一部分を吸着支持する構成としてもよい。
【0015】
このように構成することで、試料裏面の広い範囲に接触することなく、試料を支持することができる。
しかも、吸着支持片によって支持された一部の微小領域を除く試料のほぼ全域に対し、X線照射ユニットからのX線をX線透過孔を通して照射できるため、測定可能領域を広く確保することができる。
【0016】
また、試料位置決め機構は、試料保持部に支持された試料を面内回転させるための面内回転機構と、試料保持部を前後方向に移動させるためのY軸移動機構と、試料保持部を横方向に移動するためのX軸移動機構と、試料保持部を上下方向に移動するためのZ軸移動機構と、試料保持部を揺動させる揺動機構とを含み、Z軸移動機構は、くさび状に組み合わされた案内部材と摺動部材とを含み、案内部材が一方向に移動することで摺動部材を押し上げ、案内部材が逆方向に移動することで摺動部材を下降させる構成とすることができる。試料保持部は、摺動部材とともに上下方向に移動する。
この構成によれば、くさび状に組み合わされた案内部材と摺動部材との間は常にがたつくことなく摺接状態を保っているので、試料保持部を正確に上下方向へ移動させて所望の高さ位置へ位置決めすることができる。
【0017】
また、透過型小角散乱装置の周囲を覆うための外部筐体を備えることもできる。外部筐体は、筐体本体と、一または複数の筐体要素部材とを含み、筐体本体に対して筐体要素部材が上下方向に移動自在であり、筐体要素部材を筐体本体と重ねて畳んだ形態と、筐体要素部材を筐体本体から引き延ばした形態とを形成できる構成となっている。
筐体要素部材を筐体本体に重ねて畳んだ状態とすることで、高さ寸法の小さいコンパクトな形態を形成でき、外部筐体の運搬作業や設置作業がきわめて容易となる。
【0018】
以上説明したように、先願発明によれば、X線照射ユニットと二次元X線検出器とを、ゴニオメータの旋回アームに搭載して、縦型の配置構造としたので、比較的狭い面積の床面にも設置することができる。その結果、複雑な構造をした半導体デバイスの微細形状であっても、製造工程の現場において非破壊で効率的に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1Aは、本発明の実施形態に係る透過型小角散乱装置の全体構造を模式的に示す側面構成図である。
図1Bは、同じく正面構成図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る透過型小角散乱装置の外観を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係る透過型小角散乱装置の外観を、
図2とは異なる方向から見た斜視図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態に係る透過型小角散乱装置を構成するゴニオメータの旋回アームと、その旋回アームに搭載された構成要素の外観を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、
図4に示したゴニオメータの旋回アームを畳んで、全長を短くした状態を示す斜視図である。
【
図6】
図6は、X線照射ユニットと二次元X線検出器との間に構成される光学系を模式的に示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態に係る透過型小角散乱装置を構成する試料ステージの外観を示す斜視図である。
【
図8】
図8は、試料を支持する試料保持部と面内回転機構を拡大して示す平面図である。
【
図9】
図9は、試料を支持する試料保持部と面内回転機構を拡大して示す斜視図である。
【
図10】
図10Aは、X軸移動機構、Y軸移動機構、Z軸移動機構を示す斜視図である。
図10Bは、案内部材と摺動部材を模式的に示す構成図である。
【
図13】
図13は、本発明の実施形態に係る透過型小角散乱装置を外部筐体で覆った状態を示す斜視図である。
【
図14】
図14は、本発明の実施形態に係る外部筐体を畳んだ状態を示す斜視図である。
【
図15】
図15Aは、本発明の実施形態に係る透過型小角散乱装置を外部筐体で覆った状態を示す左側面図である。
図15Bは、同じく平面図である。
【
図16】
図16は、本発明の実施形態に係る透過型小角散乱装置を外部筐体で覆った状態を示す縦断面図である。
【
図17】
図17は、本発明の実施形態に係る透過型小角散乱装置を組み込んだ半導体検査装置の外観を示す斜視図である。
【
図18】
図18は、本発明の実施形態に係る透過型小角散乱装置の制御系を示すブロック図である。
【
図19】
図19は、本発明の実施形態に係る透過型小角散乱装置による測定動作の実行手順を示すフローチャートである。
【
図20】
図20Aは、半導体ウェハの傾きを測定するための手段に関する構成例を模式的に示す正面構成図である。
図20Bは、半導体ウェハの傾きを測定するための手段に関する他の構成例を模式的に示す側面構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
〔概要〕
まず、本発明の実施形態に係る透過型小角散乱装置の概要を説明する。
試料にX線ビームを照射したときに、X線ビームの進行方向の近傍の小さな角度領域(小角領域)でX線が散乱する。この散乱を小角散乱と称し、これを測定することにより物質に関する粒径や周期構造などを知ることができる。さらに近年においては、この小角散乱測定により、半導体デバイスを形成する薄膜に対して種々の情報を得るための分析手法の開発が進められている。
この小角散乱を測定するための装置が、小角散乱装置である。
【0021】
小角散乱装置には、試料の表面にX線を照射し、試料表面から反射してきた散乱X線を検出する反射型の小角散乱装置と、試料の裏面にX線を照射し、表面から放出された散乱X線を検出する透過型の小角散乱装置とがある。
【0022】
本発明は透過型の小角散乱装置である。この透過型小角散乱装置は、試料を挟んでX線源と二次元X線検出器とを対向配置し、X線源からのX線を試料の裏面に照射し、試料の表面から特定の角度に放射されてきた散乱X線を二次元X線検出器で検出する基本構造を備えている。
【0023】
従来一般の小角散乱装置は、X線源と二次元X線検出器とを水平配置した横型の構造となっているため、大きな設置面積が必要となる。
これに対し、本実施形態に係る透過型小角散乱装置は、半導体製造ラインが構築されたクリーンルーム内の制限された面積の床面にも設置可能とするために、X線源と二次元X線検出器とを上下方向に配置した縦型の構造となっている。
〔全体構造〕
図1Aは、本発明の実施形態に係る透過型小角散乱装置の全体構造を模式的に示す側面構成図、
図1Bは、同じく正面構成図である。また、
図2および
図3は、透過型小角散乱装置の外観をそれぞれ異なる方向から見た斜視図である。
【0024】
本実施形態に係る透過型小角散乱装置は、ゴニオメータ10を備えている。ゴニオメータ10は、水平方向に延びるθ軸周りに旋回アーム11を旋回駆動する機能を有している。旋回アーム11には、その両端部にX線照射ユニット20と二次元X線検出器30とが搭載してある。ここで、旋回アーム11は鉛直方向の配置状態を原点としてある。そして、X線照射ユニット20は下側端部に、二次元X線検出器30は上側端部にそれぞれ搭載してある。このような縦型の配置構造とすることで、比較的狭い面積の床面にも設置することができる。
【0025】
X線照射ユニット20と二次元X線検出器30は、試料ステージ40を挟んで互いに対向配置されており、試料ステージ40の試料保持部42に支持された試料Sに対して、X線照射ユニット20が下方からX線を照射する。そして、試料Sから透過してきたX線の周囲で微小角度領域に生じた散乱X線を二次元X線検出器30で検出する構成となっている。
【0026】
ここで、試料ステージ40には、
図1Aおよび
図1Bに示すように、X線照射ユニット20から出射されたX線を透過する空洞43が形成してあり、この空洞43を通して試料Sの裏面にX線を照射する構成となっている。
【0027】
ゴニオメータ10の旋回アーム11には、円筒状の真空パス32が搭載してある。この真空パス32は、試料Sを透過してきたX線が空気に衝突した際に生じる空気散乱を無くして小角散乱の測定精度を向上させる機能を有している。
【0028】
試料ステージ40は、後述する試料位置決め機構による駆動をもって、試料保持部42を水平面と平行な前後方向(Y方向)と横方向(X方向)、および水平面と垂直な上下方向(Z方向)にそれぞれ移動して、試料Sの被検査点を透過型小角散乱装置の測定位置Pへ位置決めする構成を備えている。
【0029】
また、試料位置決め機構は、試料保持部42に支持された試料Sを面内回転(φ回転)させる機能を備えている。さらに、試料位置決め機構は、試料保持部42に支持された試料Sを、χ軸周りに揺動(χ揺動)させる機能を備えている。このχ軸は、水平面内でゴニオメータ10のθ軸に対して直角に交わっている。このθ軸とχ軸の交点は、透過型小角散乱装置の測定位置Pと合致するように位置決めしてある。
【0030】
試料ステージ40は、
図2および
図3に示すように、枠体41に支持されている。枠体41とゴニオメータ10の旋回アーム11は、互いに干渉しないように相互の位置関係を調整してある。
【0031】
また、本実施形態に係る透過型小角散乱装置は、試料Sの表面を認識する光学顕微鏡35を備えている。光学顕微鏡35は、試料位置決め機構により駆動される各部や、ゴニオメータ10により旋回されるX線照射ユニット20および二次元X線検出器30など、周囲の各構成部と干渉しない位置に設置してある。
試料Sは、試料位置決め機構によって、光学顕微鏡35の下方位置へ移動することができる。
【0032】
〔ゴニオメータの旋回アームと、同アームに搭載される構成要素〕
次に、
図4および
図5を主に参照して、ゴニオメータの旋回アームと、それに搭載される各構成要素の詳細構造を説明する。
図4は、本実施形態に係る透過型小角散乱装置を構成するゴニオメータの旋回アームと、その旋回アームに搭載された構成要素の外観を示す斜視図である。
図5は、
図4に示したゴニオメータの旋回アームを畳んで全長を短くした状態を示す斜視図である。
【0033】
ゴニオメータ10の旋回アーム11は、複数のアーム部材によって構成してある。
図4および
図5に示す本実施形態の旋回アーム11は、第1,第2,第3アーム部材12,13,14で構成され、第1アーム部材12がゴニオメータのθ回転軸(
図1Aのθ軸)に固定されている。
この第1アーム部材12に対して、第2アーム部材13が長手方向にスライドするとともに、第2アーム部材13に対して第3アーム部材14が長手方向にスライドして、
図5に示すように、各アーム部材12,13,14が重なり合って畳まれる構造としてある。
このように各アーム部材12,13,14を畳むことにより、全長を短くしてコンパクトな形態とすることができる。
旋回アーム11を
図5に示すコンパクトな形態にすることで、搬送作業や現場での据付け作業がきわめて容易となり、その作業に要する作業時間の短縮と労力の軽減を実現することができる。
【0034】
具体的には、第1アーム部材12の表面には長手方向に案内レール12aが設けてあって、この案内レール12aに沿って第2アーム部材13がスライド自在となっている。同様に、第2アーム部材13の表面にも長手方向に案内レール13aが設けてあって、この案内レール13aに沿って第3アーム部材14がスライド自在となっている。
【0035】
旋回アーム11には、
図4に示すように、各アーム部材12,13,14を展開して全長を引き延ばした状態と、
図5に示すように、各アーム部材12,13,14を畳んで全長を短くした状態とにおいて、それぞれその状態を保持するロック機構(図示せず)が組み込まれている。
【0036】
第1アーム部材12の下端部には、X線照射ユニット20を搭載するための下部保持部材15が設けてある。X線照射ユニット20はこの下部保持部材15に固定される。下部保持部材15には、X線照射ユニット20の固定位置を長手方向に移動調整するためのスライド機構(図示せず)が組み込まれている。
【0037】
また、第3アーム部材14の上端部には、二次元X線検出器30を搭載するための上部保持部材16が設けてある。二次元X線検出器30はこの上部保持部材16に固定される。上部保持部材16にも、二次元X線検出器30の固定位置を長手方向に移動調整するためのスライド機構(図示せず)が組み込まれている。
【0038】
現場での据付け時には、X線照射ユニット20と二次元X線検出器30を移動調整することで、あらかじめ設定した仕様に合わせた装置の据え付けを実現できる。
【0039】
また、上部保持部材16には、二次元X線検出器30の手前に、ダイレクトビームストッパ31が設置される。このダイレクトビームストッパ31は、X線照射ユニット20から試料Sを透過して直進してきたX線を遮蔽して、二次元X線検出器30に入射させない機能を有している。
【0040】
旋回アーム11には、既述したように真空パス32も搭載される。各アーム部材12,13,14には、この真空パス32を支持するための支持部材17が設けてある。真空パス32は、これらの支持部材17に支持されて、試料Sを透過してきたX線とその周囲に生じる散乱X線の光路上に配置される。真空パス32の上端面は、二次元X線検出器30の近傍に位置決めされる。
【0041】
さて、試料Sを透過してきた散乱X線は、放射状に広がって二次元X線検出器30に到達する。そこで、真空パス32は、試料Sに対向する下端面の直径を小さくし、上端面に向かうに従い段階的に直径を大きくした構造としてある。
この真空パス32は、内部が密閉されて真空状態を形成しており、両端面は、X線吸収率は小さいカーボン、ボロンカーバイド、カプトンなどの材料で形成してある。これにより、試料Sを透過してきたX線および散乱X線を透過するとともに、空気散乱の発生を防止することができる。
【0042】
〔X線照射ユニットを含む光学系と、二次元X線検出器〕
図6は、X線照射ユニットと二次元X線検出器との間に構成される光学系を模式的に示す図である。
X線照射ユニット20は、X線管21と、集光ミラー22と、アパーチャ23とを構成要素に含んでいる。また、試料Sの手前にはガードスリット24が配置される。
【0043】
X線管21としては、ターゲット上での電子線焦点サイズが70μm以下、好ましくは40μm以下のX線管球を用いる。ターゲット材料としては、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、金(Au)などが選択できるが、透過式の場合、基板であるSiウェハを透過できるエネルギーの高いX線が必要なため、それを可能にするモリブデン(Mo)や銀(Ag)を用いることが望ましい。
【0044】
集光ミラー22には、表面に多層膜が形成された2つの多層膜ミラーをL字型に配置して一体化したサイド・バイ・サイド方式の集光ミラー22を採用することができる。またこの他にも、2つの多層膜ミラーを独立して配置したカークパトリック・バエズ方式の集光ミラーを採用してもよい。
集光ミラー22は、二次元X線検出器30の検出面に焦点が合うように調整され、焦点において縦横100μm以下、好ましくは50μm以下の矩形スポットにX線を集光させる機能を有している。
【0045】
アパーチャ23は、X線管21から出射してきたX線が集光ミラー22に入射せずそのまま外側を抜けてしまう漏れ光を遮蔽する機能を有している。X線管21から出射したX線は、アパーチャ23により漏れ光が遮蔽され、続いて集光ミラー22によって単色化されかつ収束される。
【0046】
ガードスリット24は、ゲルマニウムの単結晶で製作した単結晶ピンホールスリットであり、旋回アーム11に設けられたスリット支持部材(図示せず)に支持されて、試料Sの手前に配置される。
通常のスリットは、X線が当たると寄生散乱が発生してバックグラウンドが大きくなる欠点がある。これに対してゲルマニウムの単結晶で形成されたガードスリット24は、寄生散乱を低減でき、バックグラウンドを抑制することができる。
なお、集光ミラー22とガードスリット24の間に、さらにX線の断面積を絞るためのスリット25を配置してもよい。
【0047】
X線管21から出射したX線は、アパーチャ23により漏れ光が遮蔽されて集光ミラー22に入射する。そして、集光ミラー22で単色化されかつ収束されたX線は、ガードスリット24によって断面積を絞られて、試料S上にある微小面積の被検査点に照射される。
【0048】
続いて、試料Sを透過したX線と、その周囲の小角領域に発生した散乱X線は、
図4に示した真空パス32を通って二次元X線検出器30に向かって進行する。このうち、X線照射ユニット20から試料Sを透過して直進してきたX線は、二次元X線検出器30の手前に設けたダイレクトビームストッパ31により遮蔽される。これにより、二次元X線検出器30には、X線の小角領域に発生した散乱X線のみが入射する。
【0049】
ここで、X線管21の焦点から試料Sまでの距離L1は、試料Sに照射されるX線の集光面積に影響する。すなわち、距離L1が長いほど、試料Sに照射されるX線の集光面積が小さくなる。また、透過型小角散乱装置においては、試料Sから二次元X線検出器30までの距離L2をカメラ長と称し、このカメラ長L2は二次元X線検出器30の角度分解能に影響を与える。すなわち、カメラ長L2が長いほど角度分解能が向上する。
【0050】
しかし、本実施形態のように縦型に配置した透過型小角散乱装置では、距離L1やカメラ長L2を長く確保するにも限界がある。そこで、これらの寸法は、本装置を据え付ける現場の環境と、試料S上でのX線の集光面積と、角度分解能とを総合的に勘案して適宜決定することが好ましい。
【0051】
既述したように、旋回アーム11は、第1アーム部材12に対して、第2アーム部材13が長手方向にスライドするとともに、第2アーム部材13に対して第3アーム部材14が長手方向にスライドする構成となっているので、これらスライドする各アーム部材13,14のスライド位置を適宜調整することで、カメラ長L2を任意に設定することができる。
【0052】
なお、X線照射ユニット20をX線の光軸方向へ移動させて、距離L1を任意に変更するための位置調整機構を、旋回アーム11に設けることもできる。さらに、二次元X線検出器30をX線の光軸方向へ移動させて、カメラ長L2を任意に変更するための位置調整機構を、旋回アーム11に搭載した構成とすることもできる。
【0053】
〔試料ステージ〕
次に、
図7~
図12を主に参照して、試料ステージの詳細構造を説明する。
図7は、本実施形態に係る透過型小角散乱装置を構成する試料ステージの外観を示す斜視図である。
図8は、試料を支持する試料保持部を拡大して示す平面図、
図9~
図11は、試料位置決め機構を説明するために試料ステージのそれぞれ異なる部位を注目して見た斜視図、
図12は、試料ステージの縦断面図である。
【0054】
既述したように、試料ステージ40は、試料Sを支持する試料保持部42と、この試料保持部42を駆動する試料位置決め機構を備えている。
試料位置決め機構は、試料保持部42に支持された試料Sを面内回転(φ回転)させるための面内回転機構と、試料保持部42に支持された試料Sの表面と平行な前後方向(Y軸方向)に、試料保持部42を移動させるためのY軸移動機構と、試料保持部42に支持された試料Sの表面と平行な横方向(X軸方向)に、試料保持部42を移動するためのX軸移動機構と、試料保持部42に支持された試料Sの表面と垂直な上下方向(Z軸方向)に、試料保持部42を移動するためのZ軸移動機構と、試料保持部42をχ軸周りに揺動させるχ軸揺動機構と、を含んでいる。
【0055】
ここで、試料ステージ40は、
図7に示すように、基枠50の上にX軸移動枠51が搭載され、このX軸移動枠51の上にχ軸旋回台52が搭載され、またχ軸旋回台52の上にY軸移動台53が搭載され、さらにY軸移動台53の上にZ軸駆動台54とZ軸移動台55が搭載され、そしてZ軸移動台55の上に試料保持部42を形成する試料保持枠56が搭載された構成となっている。
【0056】
図8に示すように、試料保持部42は、円形をした試料保持枠56の内側に形成される。この試料保持枠56の内側はX線透過孔57となっており、このX線透過孔57に対面する状態で試料Sを支持する構成となっている。試料保持枠56の内周縁には、複数箇所(図では4箇所)から吸着支持片58が内側へ突き出して設けてある。
試料Sは、これら吸着支持片58の上面に外周縁部の一部分が配置され、これら吸着支持片58の上面に真空吸着される。なお、各吸着支持片58の上面には、真空ノズル59が開口しており、図示しない真空吸引装置により真空ノズル59は真空吸引される。
【0057】
試料保持枠56の内側に形成したX線透過孔57は、
図1Aおよび
図1Bに示した試料ステージ40の空洞43と連通している(
図12参照)。X線照射ユニット20から出射されたX線は、空洞43からX線透過孔57を抜けて吸着支持片58に支持された試料Sの裏面に照射される。
【0058】
従来のX線検査装置は、カプトンなどのX線吸収率の低い材料で試料保持部42を形成し、試料Sの裏面全体をその試料保持部42の上面に密着して配置する構成のものが一般的である。しかし、例えば、半導体ウェハに形成された半導体デバイスが検査対象であった場合は、カプトンなどの材料で形成された試料保持部42に半導体ウェハの裏面が接触して汚染されるおそれがある。
【0059】
本実施形態の試料保持部42によれば、試料Sの裏面は、外周縁部の限られた一部のみが吸着支持片58に接触するだけであるため、回路パターンが形成された半導体ウェハの中央部分に触れることなく試料Sを支持することができる。
【0060】
しかも、吸着支持片58によって支持された一部の微小領域を除く試料Sのほぼ全域に対し、X線照射ユニット20からのX線を空洞43およびX線透過孔57を通して照射できるため、測定可能領域を広く確保することができる。なお、吸着支持片58によって支持された一部の微小領域については、試料S搬送ロボットにより吸着位置を変更することで、X線を照射することが可能となる。
【0061】
次に、
図8および
図9を主に参照して、面内回転機構について詳細に説明する。
試料保持部42を構成する試料保持枠56は、円形の外周縁部に回転ガイド部60が形成してあり、この回転ガイド部60がZ軸移動台55の上面の複数箇所(図では4箇所)に設けた回転支持部61により、面内回転自在に支持されている。各回転支持部61は、上下一対の支持ローラ62によって回転ガイド部60を上下方向から支持している。
【0062】
試料保持枠56には従動側プーリ63が形成してある。また、Z軸移動台55には、面内回転用駆動モータ64が設置してあり、この面内回転用駆動モータ64の駆動軸に設けた駆動側プーリ65と、試料保持枠56の従動側プーリ63との間に駆動ベルト66が巻掛けられている。
【0063】
これら回転ガイド部60、回転支持部61、面内回転用駆動モータ64、駆動側プーリ65、従動側プーリ63および駆動ベルト66の各構成要素をもって、面内回転機構を構成している。すなわち、面内回転用駆動モータ64からの回転駆動力が駆動ベルト66を介して試料保持枠56に伝達される。この回転駆動力により、回転支持部61に支持された試料保持枠56が面内回転する。
【0064】
次に、
図10Aを主に参照して、X軸移動機構、Y軸移動機構、Z軸移動機構について詳細に説明する。
X軸移動枠51は、X軸移動機構を介して基枠50の上に搭載されている。
X軸移動機構は、X軸駆動用モータ67と、ボールねじ68と、案内レール71と、スライダ72とを含んでいる。
基枠50には、X軸駆動用モータ67と、ボールねじ68のねじ軸69と、案内レール71とが設置してある。
案内レール71はX軸方向に延びており、この案内レール71に沿ってスライダ72が移動自在となっている。案内レール71は、基枠50の両端部にそれぞれ設置してあり、各案内レール71に組み合わされたスライダ72が、X軸移動枠51を移動自在に支持している。
【0065】
ボールねじ68のねじ軸69は、基枠50に設けた軸受73により回転自在に支持されて、X軸方向に延びている。このねじ軸69は、X軸駆動用モータ67の回転駆動軸に連結してあり、同モータ67の回転駆動力により回転駆動される。
ねじ軸69には、ナット部材70が噛み合わされており、ねじ軸69の回転に伴い、ナット部材70がX軸方向に移動する。ナット部材70は、X軸移動枠51に固定され、ナット部材70と一体にX軸移動枠51がX軸方向に移動する。
【0066】
このX軸移動枠51には、
図10Aおよび
図7に示すように、一対の軸受52aが両端部に設けてあり、これらの軸受52aに揺動自在に支持された揺動支軸74を介して、χ軸旋回台52が揺動自在に搭載されている。そして、このχ軸旋回台52の上にY軸移動機構を介してY軸移動台53が搭載されている。
【0067】
Y軸移動機構は、Y軸駆動用モータ75と、ボールねじ76と、
図12に示す案内レール91およびスライダ92とを含んでいる。案内レール91は、χ軸旋回台52の両端部に設けられ、Y軸方向に延びている。各案内レール91にはスライダ92が移動自在に組み合わされており、それらスライダ92によってY軸移動台53が支持されている。
【0068】
χ軸旋回台52の側壁には、Y軸駆動用モータ75と、ボールねじ76のねじ軸77とが設置してある。ボールねじ76のねじ軸77は、χ軸旋回台52の側壁に設けた軸受78により回転自在に支持されて、Y軸方向に延びている。このねじ軸77は、Y軸駆動用モータ75の回転駆動軸に連結してあり、同モータ75の回転駆動力により回転駆動される。
ねじ軸77には、ナット部材79が噛み合わされており、ねじ軸77の回転に伴い、ナット部材79がY軸方向に移動する。ナット部材79は、Y軸移動台53に固定され、ナット部材79と一体にY軸移動台53がY軸方向に移動する。
【0069】
さらに、Y軸移動台53の上にはZ軸駆動台54が搭載されている。
Y軸移動台53の上には、Y軸方向に延びる案内レール93が設置してあり、その案内レール93にスライダ94が組み合わされている(
図12参照)。Z軸駆動台54は、そのスライダ94に支持されてY軸移動台53の上に搭載されている。
【0070】
さらに、Y軸移動台53の上には、
図12に示すボールねじ95と、
図10Aに示すZ軸駆動用モータ80が設置してあり、同モータ80の回転駆動軸にボールねじ95のねじ軸が連結されている。このねじ軸は、図示されない軸受によりY軸移動台53の上で回転自在に支持されている。
そして、
図12に示すナット部材96がそのねじ軸に噛み合わされており、当該ねじ軸の回転に伴い、ナット部材96がY軸方向に移動する。ナット部材96は、Z軸駆動台54に固定され、当該ナット部材96と一体にZ軸駆動台54がY軸方向に移動する。
【0071】
Z軸移動台55は、
図10Bに示すようなくさび状に組み合わされた案内部材81と摺動部材82を介してZ軸駆動台54の上に支持されている。
案内部材81は、Z軸駆動台54の両端部にそれぞれ設置してある。それらの各案内部材81に組み合わされた摺動部材82は、Z軸移動台55の底面に固定されている。
【0072】
また、Y軸移動台53の両端部にはZ軸方向に延びる案内レール83が設置してあり、Z軸移動台55には、この案内レール83と組み合わされたスライダ84が固定してある。これによりZ軸移動台55は、案内レール83に沿ってスライダ84と一体にZ軸方向に移動自在となっている。
【0073】
そして、Z軸駆動用モータ80の回転駆動力を受けてY軸の一方向へZ軸駆動台54が移動すると、案内部材81も同じ方向へ一体に移動する。この移動に伴い、くさび状の組み合わされた摺動部材82をZ軸方向に押し上げる。また、Z軸駆動台54が逆方向へ移動すると、案内部材81も同じ方向へ一体に移動し、くさび状に組み合わされた摺動部材82が下降する。これによりZ軸移動台55が、案内レール83に沿って上下方向に移動する。
くさび状に組み合わされた案内部材81と摺動部材82との間は常にがたつくことなく摺接状態を保っているので、試料保持部42を正確に上下方向へ移動させて所望の高さ位置へ位置決めすることができる。
【0074】
次に、
図11を主に参照して、χ軸揺動機構について詳細に説明する。
χ軸揺動機構は、X軸移動枠51とχ軸旋回台52との間に組み込まれている。すなわち、χ軸揺動機構は、χ軸駆動用モータ85と、駆動力伝達ベルト86と、ウォーム87およびウォームホイール88とを含んでいる。
扇形のウォームホイール88は、X軸移動枠51の一端部に設けられた軸受52aの下方位置に設けられ、そのピッチ円は軸受52aに支持された揺動支軸74の同一軸上に位置決めされている。
【0075】
χ軸駆動用モータ85とウォーム87は、χ軸旋回台52の側壁外面に設置してある。そして、χ軸駆動用モータ85の回転駆動軸に設けた駆動側プーリ89と、ウォーム87の回転軸に設けた従動側プーリ90との間に、駆動力伝達ベルト86が巻掛けられている。これにより、χ軸駆動用モータ85からの回転駆動力が駆動力伝達ベルト86を介してウォーム87に伝達される。この回転駆動力により、ウォーム87が回転してウォームホイール88のピッチ円に沿って回動し、ウォーム87と一体にχ軸旋回台52が揺動支軸74を中心にして旋回する。揺動支軸74の中心軸は、
図1Bに示したχ軸と一致するように位置決めされている。
【0076】
試料保持部42に支持された試料Sに対する入射X線の光軸角度は、上述したχ軸揺動機構や、ゴニオメータ10の旋回アーム11の駆動により、任意に変更することができる。
【0077】
本実施形態の試料ステージ40は、
図12に示すように、空洞43の断面積を、試料保持枠56のX線透過孔57に連通する上端開口部43aから、入射X線を取り込む下端開口部43bに向かって広げた構成としてある。これにより、入射X線が空洞43の周囲にある部材によって遮られることなく傾斜できる角度範囲(すなわち、試料Sに対する入射X線の光軸を傾斜できる角度範囲)が広がり、種々の測定条件に柔軟に対応することが可能となる。
【0078】
例えば、
図12に示した寸法例では、半径150mmの半導体ウェハ(試料S)に対して、鉛直方向から入射するX線の光軸に対して、角度20°まで傾斜させることができる構造としてある。
【0079】
〔外部筐体の構造〕
図13は、本実施形態に係る透過型小角散乱装置を外部筐体で覆った状態を示す斜視図である。
図15Aは同じく左側面図、
図15Bは同じく平面図、
図16は同じく縦断面図である。
図14は、外部筐体を畳んだ状態を示す斜視図である。
一般に、X線を使用する透過型小角散乱装置は、X線に対する防護のために、外部筐体により周囲を覆った状態で据え付けられる。
【0080】
本実施形態に係る透過型小角散乱装置1は、試料保持部42に支持された試料Sに対して鉛直方向にX線を照射するために、縦方向に長尺な構造となっている(
図1A~
図3参照)。そのため、
図13に示すように、外部筐体200も縦方向に長尺な構造となる。
【0081】
ここで、本実施形態では、この外部筐体200を筐体本体201と、複数の筐体要素部材202,203とで構成し、筐体本体201に対して各筐体要素部材202,203を上下方向に移動自在な構造としてある。
具体的には、
図15Aおよび
図15Bに示すように、筐体本体201に対して中段の筐体要素部材202は、案内レール210に沿って上下方向に移動自在となっており、さらに筐体要素部材202に対して上段の筐体要素部材203が、案内レール211に沿って上下方向に移動自在となっている。
そして、図示しない駆動モータからの駆動力を、図示しない駆動機構を介して各筐体要素部材202、203に伝達して、これら各筐体要素部材202,203を上下方向に駆動する構成としてある。
【0082】
外部筐体200を運搬したり、現場に設置する際には、
図14に示すように、各筐体要素部材202,203を共に下方位置へ移動させ、筐体本体201の内側に重ねて畳んだ状態とする。このように、高さ寸法の小さいコンパクトな形態とすることで、外部筐体200の運搬作業や設置作業がきわめて容易となり、その作業に要する作業時間の短縮と労力の軽減を実現することができる。
外部筐体200は重量物のため、筐体本体201に対して各筐体要素部材202,203を分解する構造では、分解・組立て作業が煩雑となるが、上述したように駆動モータによる駆動力をもって筐体要素部材202、203を上下方向へ駆動する構造とすることで、現場での分解・組立て作業が必要なくなり、現場での設置作業や撤去作業がいっそう容易となる。
【0083】
なお、
図13~
図15Aでは、外部筐体200の内側を視認するために、透過型小角散乱装置を覆う壁面の一部または全部を省略して示してある。また、外部筐体200の正面には、後述するように基板搬送装置310が併設されるが、その併設箇所には壁面は設けられず、外部筐体200の内部へ連通するように構成される。
【0084】
また、
図16に示すように、外部筐体200の内部空間は、試料ステージ40の上方位置に水平配置した遮蔽パネル220により上下に仕切られている。そして、遮蔽パネル220で仕切られた下側の空間(すなわち、試料ステージ40が設置された下部空間)には、外部筐体200の外側に併設されるファンフィルターユニット300から高精度に除塵されたエアーが供給される。これにより当該下部空間は、塵埃のきわめて少ないクリーンな空間となり、試料保持部42に支持された半導体ウェハ(試料S)に対し、塵埃の付着を防止することができる。
遮蔽パネル220は、ファンフィルターユニット300からのエアーの上方への流動を遮り、半導体ウェハとその周辺に対するエアーの効率的かつ経済的な供給を実現している。
【0085】
〔半導体検査装置としての全体構造〕
図17は、本実施形態に係る透過型小角散乱装置を組み込んだ半導体検査装置の外観を示す斜視図である。
同図に示すように、透過型小角散乱装置の周囲を覆う外部筐体200の外側には、上述したファンフィルターユニット300の他、基板搬送装置(EFEM)310や、電装部320が併設されて、半導体検査装置が構築される。
【0086】
基板搬送装置310は、測定対象となる半導体ウェハ(試料S)を試料保持部42へ自動搬送するとともに、測定が終了した半導体ウェハを試料保持部42から自動で搬出する機能を備えている。なお、半導体ウェハは、密閉型カセット(FOUP)内に格納された状態で自動搬送される。
また、電装部320には、透過型小角散乱装置への電力供給用の電源や、同装置を制御するためのコンピュータが設置されている。
さらに、半導体検査装置は、図示しないユーティリティ供給のための設備を備えている。
これらの構成により、本実施形態に係る透過型小角散乱装置を組み込んだ半導体検査装置は、半導体ウェハを自動搬送し、半導体製造工程の途中でインラインによる自動測定の実施を実現している。
【0087】
〔制御系〕
図18は本実施形態に係る透過型小角散乱装置の制御系を示すブロック図である。
X線照射ユニット20の制御は、X線照射コントローラ101が実行する。
また、光学顕微鏡35が捉えた試料Sの画像は、画像認識回路102で画像認識される。これら光学顕微鏡35と画像認識回路102は、試料保持部42に配置された試料Sの画像を観察する画像観察手段を構成している。なお、光学顕微鏡35の焦点位置はフォーカスコントローラ103によって調整される。
【0088】
位置決めコントローラ104は、試料位置決め機構110を駆動制御する。特に、試料Sの被検査点を装置の測定位置Pへ配置する際には、光学顕微鏡35で捉えられ、画像認識回路102により認識された試料Sの画像に基づいて、位置決めコントローラ104が試料位置決め機構110を駆動制御する。
【0089】
ゴニオメータ10は、ゴニオコントローラ105によって駆動制御される。
X線照射コントローラ101、画像認識回路102、フォーカスコントローラ103、位置決めコントローラ104、ゴニオコントローラ105の各構成部は、中央処理装置100から送られてくる設定情報に基づいてそれぞれ作動する。ここで、設定情報はレシピとしてあらかじめ記憶部106に記憶されており、中央処理装置100が読み出して上記各構成部に出力する。
二次元X線検出器30は、検出制御回路107によって制御される。
【0090】
〔測定動作の実行手順〕
図19は、上述した構成の本実施形態に係る透過型小角散乱装置による測定動作の実行手順を示すフローチャートである。
ここでは、半導体デバイスの回路パターンが形成された半導体ウェハを試料Sとした場合の測定動作について説明する。
【0091】
記憶部106には、小角散乱測定を実行するためのソフトウエアがあらかじめ記憶されており、中央処理装置100(CPU)はそのソフトウエアに従い、以下のような処理ステップを実行していく。
【0092】
試料保持部42に検査対象となる試料Sである半導体ウェハを吸着支持した後、まず位置決めコントローラ104が試料位置決め機構110を駆動制御して、半導体ウェハを光学顕微鏡35の下方位置に配置する(ステップS1)。
【0093】
次に、光学顕微鏡35によって半導体ウェハの表面を観察し、光学顕微鏡35からの画像データに基づき、画像認識回路102が半導体ウェハの表面に形成されているユニークポイントを認識する(ステップS2)。
ここで、記憶部106には、半導体ウェハの表面に形成されているユニークポイントが、レシピとしてあらかじめ記憶してある。ユニークポイントとしては、例えば、半導体ウェハの表面に形成される特徴的なパターン形状など、光学顕微鏡35からの画像情報により画像認識回路102が判断に迷うことなく認識できる部位が設定される。
【0094】
次に、画像認識回路102により認識されたユニークポイントを基準として、あらかじめ設定してある被検査点の位置情報に基づき、位置決めコントローラ104が試料位置決め機構110を駆動制御して、被検査点を装置の測定位置Pに配置する(ステップS3)。
【0095】
続いて、小角散乱測定を実行し(ステップS4)、中央処理装置100が測定データを解析する(ステップS5)。
ここで、例えば、半導体ウェハの表面に形成された深穴のチルト角の解析などの形状解析測定を実施する場合は、ゴニオメータ10の旋回アーム11を駆動するか、またはχ軸揺動機構により半導体ウェハを揺動して、半導体ウェハに対するX線の光軸角度を変更することで、深穴のチルト角などの形状解析を実行することができる。
【0096】
上述したS3~S5の各ステップは、半導体ウェハに設定した被検査点のすべてについて実行され(ステップS6)、すべての被検査点に対して小角散乱測定を実行した後、測定動作を終了する。
【0097】
〔半導体デバイスの測定例と、半導体ウェハの傾き測定手段〕
半導体デバイスは、通常、半導体ウェハ上に形成され、測定対象となる散乱体が半導体ウェハの主面に平行な方向に周期的に配列している。
測定対象としては、半導体デバイスを構成する微細なホールやピラーが挙げられる。
半導体デバイスは、微細化・高集積化が日進月歩で進化しており、ホールやピラーの径が数十nm、深さ(高さ)が数μmと、極めて微細かつ高アスペクトになるケースがある。このような構造に対し、本実施形態に係る透過型小角散乱装置を用いることで、これらホールやピラーの正確な三次元形状を特定することができる。
【0098】
ここで、小角散乱測定を行う前に、半導体ウェハの表面の傾きを測定し、入射X線の光軸に対して半導体ウェハの表面が垂直になるように調整することが好ましい。
【0099】
図20Aは、半導体ウェハの傾きを測定するための手段に関する構成例を模式的に示す正面構成図である。
図20Aに示すように、ゴニオメータ10の旋回アーム11に、二次元X線検出器30とともにレーザ傾き測定器36を併設する。これら二次元X線検出器30とレーザ傾き測定器36は、横方向に移動する移動テーブル37に搭載してある。
そして、図示しない駆動モータの駆動力をもって移動テーブル37が横方向に移動して、X線照射ユニット20から出射されるX線の光軸Oと対向する位置に、二次元X線検出器30とレーザ傾き測定器36のいずれか一方を切り替えて配置できる構造となっている。
【0100】
レーザ傾き測定器36は、レーザ光源36aとレーザ検出器36bとを含み、試料保持部42に支持された半導体ウェハ(試料S)の表面に、レーザ光源36aからのレーザ光を照射し、同表面から反射してきたレーザ光をレーザ検出器36bにより検出することで、光軸Oに対する半導体ウェハの表面の傾きを測定できる機能を有している。
【0101】
このレーザ傾き測定器36により測定した光軸Oに対する半導体ウェハの表面の傾きに基づき、試料ステージ40のχ軸揺動機構や面内回転機構を駆動して入射X線の光軸Oに対して半導体ウェハの表面が垂直になるように調整する。
【0102】
このように半導体ウェハの表面の傾きを調整すれば、調整後の方位を原点(χ=0°、θ=0°)として、χ軸揺動機構やゴニオメータ10の旋回アーム11を駆動して、半導体ウェハに対するX線の光軸角度を任意に変更することができる。
半導体ウェハの表面傾き調整により、半導体ウェハに形成されたホールやピラーの、半導体ウェハの表面に対する位置関係(傾き)を測定することが可能となり、デバイス形状に関する有益な情報を得ることができる。
この後、
図19のフローチャートに従い、小角散乱測定を実行していく。
【0103】
図20Bは、半導体ウェハの傾きを測定するための手段に関する他の構成例を模式的に示す側面構成図である。
図20Bに示す構成では、レーザ傾き測定器36を光学顕微鏡35と並べて設置してある。半導体ウェハ表面の傾きを測定するには、試料ステージ40のY軸移動機構やX軸移動機構を駆動して、試料保持部42に支持した半導体ウェハ(試料S)を、レーザ傾き測定器36の下方位置まで移動させる。
レーザ傾き測定器36は、半導体ウェハの表面にレーザ光源36aからのレーザ光を照射し、同表面から反射してきたレーザ光をレーザ検出器36bにより検出することで、半導体ウェハの表面の傾きを測定できる機能を有している。
ここで、レーザ傾き測定器36は、例えば、あらかじめ水平面を基準とした傾きを測定できるようにレーザ光源36aおよびレーザ検出器36bの位置を調整しておけば、水平面または鉛直軸に対する半導体ウェハ表面の傾きを測定することができる。
【0104】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々の変形実施や応用実施が可能であることは勿論である。
例えば、旋回アームは、
図4に示したように3つのアーム部材12,13,14による構成に限定されるものではなく、2または4つ以上のアーム部材で構成することもできる。
【0105】
また、外部筐体は、
図13~
図16に示したように、筐体本体201に対して2つの筐体要素部材202,203を移動自在とした構成に限定されるものではなく、筐体本体に対して1つまたは3つ以上の筐体要素部材が移動自在な構成としてもよい。さらに、これら筐体要素部材の移動は、駆動モータからの駆動力による以外にも、必要に応じて手動により移動させる構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0106】
S:試料、P:測定位置、
10:ゴニオメータ、11:旋回アーム、12:第1アーム部材、13:第2アーム部材、14:第3アーム部材、12a,13a:案内レール、15:下部保持部材、16:上部保持部材、17:支持部材
20:X線照射ユニット、21:X線管、22:集光ミラー、23:アパーチャ、24:ガードスリット、25:スリット
30:二次元X線検出器、31:ダイレクトビームストッパ、32:真空パス、
35:光学顕微鏡、36:レーザ傾き測定器、36a:レーザ光源、36b:レーザ検出器、37:移動テーブル、
40:試料ステージ、41:枠体、42:試料保持部、43:空洞、50:基枠、51:X軸移動枠、52:χ軸旋回台、52a:軸受、53:Y軸移動台、54:Z軸駆動台、55:Z軸移動台、56:試料保持枠、57:X線透過孔、58:吸着支持片、59:真空ノズル、60:回転ガイド部、61:回転支持部、62:支持ローラ、63:従動側プーリ、64:面内回転用駆動モータ、65:駆動側プーリ、66:駆動ベルト、67:X軸駆動用モータ、68:ボールねじ、69:ねじ軸、70:ナット部材、71:案内レール、72:スライダ、73:軸受、74:揺動支軸、75:Y軸駆動用モータ、76:ボールねじ、77:ねじ軸、78:軸受、79:ナット部材、80:Z軸駆動用モータ、81:案内部材、82:摺動部材、83:案内レール、84:スライダ、85:χ軸駆動用モータ、86:駆動力伝達ベルト、87:ウォーム、88:ウォームホイール、89:駆動側プーリ、90:従動側プーリ、91:案内レール、92:スライダ、93:案内レール、94:スライダ、95:ボールねじ、96:ナット部材、
100:中央処理装置、101:X線照射コントローラ、102:画像認識回路、103:フォーカスコントローラ、104:位置決めコントローラ、105:ゴニオコントローラ、106:記憶部、107:検出制御回路、110:試料位置決め機構、
200:外部筐体、201:筐体本体、202,203:筐体要素部材、210,211:案内レール、220:遮蔽パネル、
300:ファンフィルターユニット、310:基板搬送装置(EFEM)、320:電装部