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特許7401136サンプル系における微量タンパク質の検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】サンプル系における微量タンパク質の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/12 20060101AFI20231212BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20231212BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20231212BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20231212BHJP
   G01N 27/00 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
G01N15/12 Z
G01N33/53 D
G01N33/483 E
G01N1/28 J
G01N27/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022538402
(86)(22)【出願日】2020-11-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-20
(86)【国際出願番号】 CN2020128990
(87)【国際公開番号】W WO2021120943
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-07-25
(31)【優先権主張番号】201911320675.3
(32)【優先日】2019-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522246256
【氏名又は名称】レサン (シェンヂェン) テック カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】RESUN (SHENZHEN) TECH CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】D711, Silver Star Hi-Tech Building, 1301 Guanguang Rd., Xinlan Community, Guanlan Street, Longhua District, Shenzhen, Guangdong 518110 China
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】リィゥ クェァ
(72)【発明者】
【氏名】シィォン グゥイ
(72)【発明者】
【氏名】ワン ヂェァ
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-072181(JP,A)
【文献】特開2017-120257(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02311975(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0277840(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02573554(EP,A1)
【文献】国際公開第2018/199179(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0363035(US,A1)
【文献】Nitinun Varongchayakul,Single-molecule protein sensing in a nanopore: a tutorial,Chem Soc Rev.,2018年11月26日,47(23),pp.8512-8524,doi:10.1039/c8cs00106e.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/00~15/14
G01N 33/48~33/98
G01N 1/28
G01N 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル系における微量タンパク質の検出方法であって、
前記方法は、
被検出タンパク質の一次抗体で修飾された免疫磁気ビーズと二次抗体で修飾されたナノ粒子を提供することと、
前記一次抗体で修飾された免疫磁気ビーズ及び二次抗体で修飾されたナノ粒子を前記被検出タンパク質を有するサンプル系と結合してインキュベートし、ダブルアンチサンドイッチ構造複合体を形成することと、
前記複合体を単一粒子の形態でマイクロナノポア装置を通過して電気パルス信号をトリガーし、前記電気パルス信号を分析して前記複合体の電荷状態又は体積/質量状態を取得し、前記電荷状態又は体積/質量状態によって前記サンプル系における被検出タンパク質数を算出することと、
前記電気パルス信号は、前記複合体の電荷状態を反映し、前記電気パルス信号のピーク変動を分析することによって、前記複合体における結合された前記ナノ粒子の状態及び/又は数を取得し、前記状態及び/又は数とダブルアンチサンドイッチ構造の反応原理によって、前記サンプル系における被検出タンパク質数を算出することと、
前記体積/質量状態と前記電気パルス信号の積分面積とは正の相関にあり、前記複合体におけるタンパク質捕捉数は、前記免疫磁気ビーズに対する前記複合体の体積/質量増分に比例し、前記電気パルス信号の積分面積と前記複合体におけるタンパク質捕捉数との標準曲線の関係から、前記複合体におけるタンパク質捕捉数を推算し、更に前記サンプル系における被検出タンパク質数を算出することと、を含み、
前記マイクロナノポア装置は、マイクロポア付きの二重膜構造装置であり、当該装置は、所定間隔距離を有するマイクロポア付きの二重ナノフィルムを含み、二重ナノフィルムにおけるマイクロポアは対向して前記ナノフィルム両側のチャンバを連通し、前記チャンバに電解液が充填され、しかも両側のチャンバにそれぞれイオンの伝送を維持するための電極が配置され、前記複合体が単一粒子の形態で2つのマイクロポアを連続的に通過する間に時間間隔を有する電気パルス信号のペアを生成し、
前記複合体の電気パルス信号に対し、電気移動度を算出することによって複合体の粒子表面電位を取得する、ことを特徴とするサンプル系における微量タンパク質の検出方法。
【請求項2】
前記方法は、抗体修飾反応に適する溶液系において、前記一次抗体を免疫磁気ビーズ表面の官能基と共有結合して前記一次抗体で修飾された免疫磁気ビーズを取得することを更に含む、ことを特徴とする請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
前記溶液系における前記一次抗体と前記免疫磁気ビーズとの濃度比を調整することによって、前記免疫磁気ビーズ表面における前記一次抗体の修飾程度を調整する、ことを特徴とする請求項2に記載の検出方法。
【請求項4】
前記免疫磁気ビーズの粒子径は、少なくとも前記ナノ粒子の1~1000倍である、ことを特徴とする請求項1に記載の検出方法。
【請求項5】
前記免疫磁気ビーズの粒子径は100nm~10μmであり、前記ナノ粒子の粒子径は1μm未満である、ことを特徴とする請求項1に記載の検出方法。
【請求項6】
前記電気移動度は、次の式によって算出し、
【数1】
そのうち、μは電気移動度を表し、v(x)は複合体粒子が2つのマイクロポアを連続的に通過する速度を表し、E(x)は電界分布を表し、
粒子表面電位ξと電気移動度μとは以下のような対応関係があり、
【数2】
そのうち、ηは電解液の粘度を表し、
且つ、粒子表面電位ξの式は次のとおりである:
【数3】
そのうち、tはマイクロポアにおける粒子の滞留時間を表し、Aは各マイクロポアの補正係数を表し、Vは電位差を表す、ことを特徴とする請求項1に記載の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質検出の技術分野に関し、特にサンプル系における微量タンパク質の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に使用される幾つかの免疫学的検出技術において、酵素結合免疫検出は、現在、最も広く応用される免疫検出方法である。当該方法は、二次抗体に酵素を標識し、抗原抗体反応の特異性を酵素触媒基質の作用に結合し、酵素が基質に作用した後の発色の色の変化によって試験結果を判断する。その感度は、ナノグラムレベルに達することができる。標識に用いられる酵素としては、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(AP)などが一般的である。
【0003】
酵素結合免疫法は、特殊な機器が必要でなく、検出が簡単であるため、疾病の検出に広く応用される。一般的に使用される方法としては、間接法、サンドイッチ法及びBAS-ELISA法が挙げられる。間接法は、まず被検出のタンパク質をオリフィスプレート内に被覆し、そして一次抗体、酵素が標識された二次抗体と発色用基質を順次に加え、機器(例えばマイクロプレートリーダー)によって抗原の定量検出を行う。このような方法は、操作が簡単であるが、高いバックグラウンドのせいで特異性が低い。現在、徐々にサンドイッチ法に置き換えられた。サンドイッチ法は、二種の抗体を利用して標的抗原を捕捉、固定し、感度を確保すると同時に、反応の特異性を大いに向上させた。免疫磁気ビーズ捕捉法は、磁気ビーズ磁界応答性を免疫特異性と結合する新規な免疫学技術である。免疫磁気ビーズは、固相化試薬の特質及び免疫学的反応の高感度、高特異性などのメリットがある。
【0004】
ここで、コールター原理に基づくシリーズ細胞計数選別技術が更にある。当該技術は、ミクロンサイズの細胞を選別する。ナノポアDNA配列決定技術は、主に核酸物質の分析に用いられる。この二種の技術はいずれも抗原などのタンパク質の検出に応用されなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、サンプル系における微量タンパク質の検出方法を提供する。免疫特異的に磁気ビーズを結合する方式によって、単一の磁気ビーズ複合体の電荷状態を検出して微量タンパク質の絶対数を算出し、検出限界が単一のタンパク質分子まで低く、通常免疫検出の検出下限以下の微量タンパク質を検出でき、免疫学的検出、微生物検出、細胞分離などの分野に広く応用できる。
【0006】
本発明は、以下の技術的解決手段を通じて達成される。
【0007】
サンプル系における微量タンパク質の検出方法であって、
被検出タンパク質の一次抗体で修飾された免疫磁気ビーズと二次抗体で修飾されたナノ粒子を提供することと、
上記一次抗体で修飾された免疫磁気ビーズ及び二次抗体で修飾されたナノ粒子を上記被検出タンパク質を有するサンプル系と結合してインキュベートし、ダブルアンチサンドイッチ構造複合体を形成することと、
上記複合体を単一粒子の形態でマイクロナノポア装置を通過して電気パルス信号をトリガーし、上記電気パルス信号を分析して上記複合体の電荷状態又は体積/質量状態を取得し、上記電荷状態又は体積/質量状態によって上記サンプル系における被検出タンパク質数を算出することと、を含む。
【0008】
好ましい実施例において、上記方法は、抗体修飾反応に適する溶液系において、上記一次抗体を免疫磁気ビーズ表面の官能基と共有結合して上記一次抗体で修飾された免疫磁気ビーズを取得することを更に含む。
【0009】
好ましい実施例において、上記溶液系における上記一次抗体と上記免疫磁気ビーズとの濃度比を調整することによって、上記免疫磁気ビーズ表面における上記一次抗体の修飾程度を調整する。
【0010】
好ましい実施例において、上記免疫磁気ビーズの粒子径は、少なくとも上記ナノ粒子の1~1000倍である。
【0011】
好ましい実施例において、上記免疫磁気ビーズの粒子径は約100nm~10μmであり、上記ナノ粒子の粒子径は約1μm未満である。
【0012】
好ましい実施例において、磁気沈下によって磁性粒子と過剰に反応されないナノ粒子を分離する。
【0013】
好ましい実施例において、上記マイクロナノポア装置は、コールター原理に基づくマイクロナノポア単一粒子計数装置であり、当該装置は電解液が充填された2つのチャンバ、及び電解液が充填された上記2つのチャンバを連通するマイクロナノポアを含み、上記複合体は単一粒子の形態で上記マイクロナノポアを通過する際、上記マイクロナノポアにおけるイオンの流れを一時的に閉塞し、電気パルス信号を形成する。
【0014】
好ましい実施例において、上記電気パルス信号は、上記複合体の電荷状態を反映し、上記電気パルス信号のピーク変動を分析することによって、上記複合体における結合された上記ナノ粒子の状態及び/又は数を取得し、上記状態及び/又は数とダブルアンチサンドイッチ構造の反応原理によって上記サンプル系における被検出タンパク質数を算出する。
【0015】
好ましい実施例において、上記マイクロナノポア装置は、マイクロポア付きの二重膜構造装置であり、当該装置は、所定間隔距離を有するマイクロポア付きの二重ナノフィルムを含み、二重ナノフィルムにおけるマイクロポアは対向して上記ナノフィルム両側のチャンバを連通し、上記チャンバに電解液が充填され、しかも両側のチャンバにそれぞれイオンの伝送を維持するための電極が配置され、上記複合体が単一粒子の形態で2つのマイクロポアを連続的に通過する間に時間間隔を有する電気パルス信号のペアを生成する。
【0016】
好ましい実施例において、上記方法は、サンプルにおける上記複合体の濃度を調整することによって、異なる複合体の間の電気パルス信号間隔を電気パルス信号のペアにおける時間間隔よりはるかに大きくするように制御し、上記電気パルス信号のパルス強度閾値を分析することによって、ナノ粒子に結合されていない免疫磁気ビーズが生成した信号を濾過することを更に含む。
【0017】
好ましい実施例において、上記複合体の電気パルス信号に対し、電気移動度を算出することによって複合体の粒子表面電位を取得する。
【0018】
好ましい実施例において、上記電気移動度は、次の式によって算出し、
【数1】
そのうち、μは電気移動度を表し、v(x)は複合体粒子が2つのマイクロポアを連続的に通過する速度を表し、E(x)は電界分布を表し、
粒子表面電位ξと電気移動度μとは以下のような対応関係があり、
【数2】
そのうち、ηは電解液の粘度を表し、
且つ、粒子表面電位ξの式は次のとおりである:
【数3】
そのうち、tはマイクロポアにおける粒子の滞留時間を表し、Aは各マイクロポアの補正係数を表し、Vは電位差を表す。
【0019】
好ましい実施例において、上記体積/質量状態と電気パルス信号積分面積とは正の相関にあり、上記複合体におけるタンパク質捕捉数は、上記免疫磁気ビーズに対する複合体の体積/質量増分に比例し、上記電気パルス信号積分面積と複合体におけるタンパク質捕捉数との標準曲線の関係から、複合体におけるタンパク質捕捉数を推算し、更に上記サンプル系における被検出タンパク質数を算出する。
【0020】
本発明は、免疫磁気ビーズによって被検出微量タンパク質を捕捉し、免疫磁気ビーズが磁場に吸引可能な特性及びその表面に特異性官能基を有する特性を利用し、生物活性を有するタンパク質と共有結合を行い、免疫磁気ビーズは、被検出タンパク質のキャリアとして用いられる。免疫反応において、免疫磁気ビーズ被覆抗体は、フィット決定クラスタを有する抗原(被検出タンパク質)と結合し、血漿などの複雑なサンプル系から効率的に分離し、しかもナノ粒子が標識された抗体に識別され、被検出タンパク質の定量検出を実現する。
【0021】
この他、好ましい実施例において、免疫磁気ビーズの表面における抗体修飾程度を調整することによって、1つ又は複数の抗原タンパク質の捕捉を実現でき、形成されたダブルアンチサンドイッチ構造は、捕捉特異性の向上に有利であると同時に、二次抗体が接続するナノ粒子は、ダブルアンチサンドイッチ構造複合体の総電荷を調整できる。そのため、本発明の方法は、タンパク質捕捉量を10個未満のタンパク質/磁気ビーズまで低くするよう制御でき、しかも粒子径が小さいナノ粒子を使用して捕捉された被検出抗原タンパク質を精密に計数できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施例におけるダブルアンチサンドイッチ構造-モノタンパク質複合体の原理図である。
図2】本発明の実施例におけるダブルアンチサンドイッチ構造-マルチタンパク質複合体の原理図である。
図3】本発明の実施例におけるコールター原理に基づくマイクロナノポア単一粒子計数装置の概略図である。
図4】本発明の実施例における電気パルスピークの微小な変動を分析して複合体粒子の電荷状態を判断する原理図である。
図5】本発明の実施例におけるマイクロポア付きの二重膜構造装置の概略図である。
図6】本発明の実施例におけるマイクロナノ加工一体成形の方式によって二重膜構造装置を製造する原理図である。
図7】本発明の実施例における複合体が単一粒子の形態で2つのマイクロポアを連続的に通過する間に電気パルス信号のペアを生成する概略図である。
図8】本発明の実施例における複合体が単一粒子の形態で2つのマイクロポアを連続的に通過する間に生成された実際の電気パルス信号のペアのパルス図である。
図9】本発明の実施例におけるタンパク質捕捉数と電気移動度(移動速度)との線形対応関係図である。
図10】本発明の実施例における電気パルス信号図(A)及び電気パルス信号積分面積(複合体の体積/質量)と複合体におけるタンパク質捕捉数との標準曲線の関係図(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、具体的な実施形態により図面を参照しながら本発明について更に詳細に説明する。以下の実施形態において、多くの詳細な記述は本発明の理解を容易にするためのものである。しかし、当業者は、いくつかの特徴をさまざまな場合に省略でき、若しくは他の材料や方法に置き換えることができると容易に理解すべきである。
【0024】
また、明細書に記載された特性、操作又は特徴は、適宜な組合せにより種々の実施形態を形成できる。同時に、方法の説明における各ステップ又は動作は、当業者に明らかな方式で順序を入れ替え又は調整することができる。そのため、明細書と添付図面における様々な順序は、特定の実施例を明瞭に説明するためのものに過ぎず、その特定の順序に従わなければならないと特に明記しない限り、必須の順序であることを意味するものではない。
【0025】
本発明は、サンプル系における微量タンパク質の検出方法を提供する。
【0026】
本発明の実施例において、サンプル系は、タンパク質単一成分が含まれる様々な簡単システムであってもよく、一種又は複数のタンパク質を有すると同時に、血液、血漿、血清、組織液、尿、脳脊髄液などのさまざまなサンプルを含む他の成分を有する複雑なシステムであってもよい。
【0027】
本発明の方法は、サンプルにおける、マイクログラム、ナノグラム、ピコグラムなどのレベルのタンパク質のような微量タンパク質を検出でき、最低検出限界が単一のタンパク質分子まで低く、通常免疫検出の検出下限以下の微量タンパク質を検出でき、免疫学的検出、微生物検出、細胞分離などの分野に広く応用できる。
【0028】
本発明のサンプル系における微量タンパク質の検出方法は、次のステップを含む:
被検出タンパク質の一次抗体で修飾された免疫磁気ビーズと二次抗体で修飾されたナノ粒子を提供することと、
一次抗体で修飾された免疫磁気ビーズと二次抗体で修飾されたナノ粒子を被検出タンパク質を有するサンプル系と結合してインキュベートし、ダブルアンチサンドイッチ構造複合体を形成することと、
ダブルアンチサンドイッチ構造複合体を単一粒子の形態でマイクロナノポア装置に通過して電気パルス信号をトリガーし、電気パルス信号を分析して複合体の電荷状態又は体積/質量状態を取得し、電荷状態又は体積/質量状態によってサンプル系における被検出タンパク質数を算出すること。
【0029】
本発明の実施例において、一次抗体と二次抗体は、被検出タンパク質における異なる抗原決定クラスタとそれぞれ結合してダブルアンチサンドイッチ構造を形成する。図1に示すように、Y字構造は抗体を表し、大きい真球は、免疫磁気ビーズを表し、その表面に一次抗体が修飾される。小さい真球は、ナノ粒子を表し、その表面に二次抗体が修飾される。菱形構造は、被検出タンパク質を表し、形成されたダブルアンチサンドイッチ構造複合体の構造は、免疫磁気ビーズ-一次抗体-被検出タンパク質-二次抗体-ナノ粒子として表すことができる。図1に示すようなダブルアンチサンドイッチ構造複合体において、1つのみの被検出タンパク質(図における菱形構造)を有するため、「モノタンパク質複合体」と称してもよい。本発明のダブルアンチサンドイッチ構造は、捕捉特異性の向上に有利である。
【0030】
本発明の実施例において、一次抗体と二次抗体の由来及び種類は特に限定せず、例えば、マウス、ヒツジ、ウサギ、ウマなどのIgG抗体など、さまざまな動物に由来する多抗体又は組換え発現の単抗体などであってもよい。本発明の一実施例において、一次抗体がマウスIgGであり、二次抗体がヒツジ抗マウス抗体である。
【0031】
本発明の実施例において、一次抗体を免疫磁気ビーズに修飾する方法は様々であり、本発明では限定されない。好ましい実施例において、抗体修飾反応に適する溶液系において、一次抗体を免疫磁気ビーズ表面の官能基と共有結合して一次抗体で修飾された免疫磁気ビーズを取得する。そのうち、免疫磁気ビーズ表面の官能基は、アミノ基、カルボキシル基などであってもよい。このような免疫磁気ビーズは、それぞれアミノ基磁気ビーズとカルボキシル基磁気ビーズになり、免疫磁気ビーズ表面の官能基と一次抗体における対応基とは共有結合を形成することにより、一次抗体を免疫磁気ビーズ表面に修飾する。一次抗体を免疫磁気ビーズに修飾する典型的な反応は、EDC(1-Ethyl-3-(3’-dimethylaminopropyl)carbodiimide、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩)及びNHS(N-Hydroxysuccinimide、N-ヒドロキシスクシンイミド)の作用下で実現したものである。例えば、好ましい実施例において、免疫磁気ビーズ(Ademtech)は、MES緩衝液(2-(N-モルホリノエタンスルホン酸)によって3回置き換えられ、溶液pHが4~5、イオン強度が0.1Mになるように平衡化する。平衡化した溶液にDMSOに溶解したEDCとNHSをそれぞれ1mg加え、20分間反応して遠心分離して上清を廃棄する。そして、MES緩衝液によって上清を廃棄した沈殿物を再溶解し、一次抗体マウスIgG(Cat.:ab151276、Abcam)を0.1mg加える。1時間結合して被覆した後、BSAの濃度が1%になるまでターミネーターBSA(Cat.:10735108001、Roche)を加え、反応を終了する。
【0032】
好ましい実施例において、溶液系における一次抗体と免疫磁気ビーズとの濃度比を調整することによって、免疫磁気ビーズ表面における一次抗体の修飾程度をシングル修飾からマルチ修飾まで調整し、それにより結合可能な二次抗体で修飾されたナノ粒子の数を調整し、特殊な複合体を形成する。図2に示すように、このようなダブルアンチサンドイッチ構造複合体において、複数の被検出タンパク質(図における菱形構造)が含まれるため、「マルチタンパク質複合体」と称してもよい。例えば、好ましい実施例において、一次抗体濃度が免疫磁気ビーズ1mgあたり1μg未満であるため、免疫磁気ビーズ表面における一次抗体の修飾程度は、免疫磁気ビーズあたり50抗体未満である。一次抗体の濃度が免疫磁気ビーズ1mgあたり1~5μgであるなら、免疫磁気ビーズ表面における一次抗体の修飾程度は免疫磁気ビーズあたり300抗体未満である。一次抗体の濃度が免疫磁気ビーズ1mgあたり50μgを超えると、一次抗体が免疫磁気ビーズで飽和する。このような方法によって、免疫磁気ビーズにおける一次抗体の修飾量を制御できる。ガルバノミラーによって修飾程度を更に確認する。
【0033】
本発明の実施例において、ナノ粒子としては、さまざまな材料、さまざまな適切な粒子径及び帯電状態のナノ粒子が挙げられる。例えば、ポリエチレンナノスフェア、ナノ磁気ビーズ、ナノシリコンボール、ナノラテックスなどであってもよい。ナノ粒子の粒子径は、例えば約1μm未満である。それと同時に、一般的に、対応する免疫磁気ビーズの粒子径は、少なくともナノ粒子のサイズを超える。そうすると、より良い効果が得られ、特殊な複合構造の形成に有利である。
【0034】
本発明の実施例において、二次抗体で修飾されたナノ粒子の調製原理と方法は、一次抗体で修飾された免疫磁気ビーズに似ている。二次抗体をナノ粒子に修飾する方法はさまざまであるが、本発明では限定されない。好ましい実施例において、抗体修飾反応に適する溶液系において、二次抗体をナノ粒子表面の官能基に共有結合して二次抗体で修飾されたナノ粒子を取得する。ナノ粒子が一定量の電気を有するため、本発明に形成されたダブルアンチサンドイッチ構造複合体におけるナノ粒子の数は、複合体全体の電荷状態に影響を与える。本発明は、複合体の電荷状態を分析することによって単一の複合体におけるナノ粒子の数を取得し、更に分析して被検出タンパク質数を取得する。
【0035】
本発明の典型的な実施例において、二次抗体をナノ粒子に修飾する反応は、EDCとNHSの作用下で実現したものである。例えば、好ましい実施例において、二次抗体がヒツジ抗マウス抗体であり、ヒツジ抗マウス抗体が標識されたナノ粒子(Cat.:F122270、aladdin)の調製方法は、次のステップを含む:ナノ粒子1mgで、pHが8.0、濃度が0.1MのPBS溶液をナノ粒子の最終濃度が0.1mg/mLになるまで平衡化し、そして溶液における最終濃度がいずれも0.2mg/mLになるまでそれぞれEDCとNHSを加え、30分間活性化した後、遠心分離して上清を廃棄する。上清を廃棄した後の沈殿物をPBS溶液によって再溶解し、ヒツジ抗マウス抗体(Cat.:4T20、HyteSt)を加え、25分間標識し、濃度が0.5%になるまでBSAを加え、反応を終了する。
【0036】
本発明のタンパク質検出方法は、電気パルス信号に基づいて行われるものである。免疫反応によって形成されたダブルアンチサンドイッチ構造複合体は、電解液に電気泳動し且つマイクロポアを通過する際に電気パルス信号をトリガーし、電気パルス信号を分析すると、複合体の電荷状態を取得できる。電荷状態によって、サンプル系における被検出タンパク質数を算出できる。本発明の一実施例において、ダブルアンチサンドイッチ構造複合体は、単一粒子の形態でマイクロナノポア装置を通過して電気パルス信号をトリガーし、電気パルス信号を分析して複合体の電荷状態を取得し、電荷状態によってサンプル系における被検出タンパク質数を算出する。
【0037】
様々な方法によって本発明における電気パルス信号に基づくタンパク質検出方法を実現できる。1つの方法としては、コールター原理(例えば米国特許2,656,508,1953)に基づくマイクロナノポア単一粒子計数装置によって、マイクロナノポア検出装置における異なる複合体の信号を検出する。図3に示すように、マイクロナノポア単一粒子計数装置は、電解液が充填された2つのチャンバ(図におけるチャンバ31とチャンバ32)、及び電解液が充填された2つのチャンバを連通する唯一のマイクロナノポア33を含む。複合体が単一粒子の形態で駆動力(例えば、電界、圧力又は電気浸透流など)の作用でマイクロナノポア33を通過する際、マイクロナノポア33におけるイオンの流れを一時的に閉塞し、電気パルス信号を形成する。当該電気パルス信号は、イオンのサイズ、結合状態及び電荷形態、更に幾何学的形態などを反映できる。電気パルス信号のピーク変動を分析することによって、複合体におけるナノ粒子の結合状態(結合したか否か)及びナノ粒子の結合数を取得し、ナノ粒子の結合状態及び/又は数とダブルアンチサンドイッチ構造の反応原理に基づいてサンプル系における被検出タンパク質数を算出する。図4に示すように、本発明の一実施例において、電気パルス信号強度の閾値を分析することによって、複合体粒子の電荷状態を判断し、電気パルスピークの微小な変動を分析することで、複合体粒子がナノ粒子との結合状態、及び結合数を取得することができる。例えば、図4において、複合体粒子に2つのナノ粒子が結合されたら、電気パルス信号に2つのピークが反映される。複合体粒子にナノ粒子が結合されなかったら、電気パルス信号にピークが反映されない。複合体粒子に3つのナノ粒子が結合されたら、電気パルス信号に3つのピークが反映される。
【0038】
本発明の他の実施例において、マイクロナノポア装置は、マイクロポア付きの二重膜構造装置である。図5に示すように、当該装置は所定間隔距離を有するマイクロポア(図におけるマイクロポア1とマイクロポア2)付きの二重ナノフィルムを含み、二重ナノフィルムにおけるマイクロポアは対向してナノフィルム両側のチャンバ(図におけるチャンバ1とチャンバ2)を連通し、チャンバ内に電解液が充填され、しかも両側のチャンバにそれぞれイオンの伝送を維持するための電極が配置される。タンパク質磁気ビーズ複合体は単一粒子の形態で2つのマイクロポアを連続的に通過する間に時間間隔を有する電気パルス信号のペアを生成する。
【0039】
上記実施例において、二重膜構造装置のマイクロポアのサイズの範囲は、1nm~10μmであってもよい。具体的には、タンパク質磁気ビーズ複合体が単一粒子の形態で連続的に通過することを許可する要求によって設定してもよい。ナノフィルムとしては、窒化シリコン、シリカ、シリコンなどのいずれかの半導体成膜材料又は高分子ポリマーで作成されたフィルムを選択してもよい。二重ナノフィルムの間に所定間隔距離を有し、当該所定間隔距離は1nm~1μmであってもよい。二重膜構造装置に2つの電極が配置され、銀/塩化銀又は白金電極であってもよい。印加電界を印加することによって、平衡したイオンの伝送が維持され、安定した開孔電流に現れる。タンパク質磁気ビーズ複合体は駆動力の作用下で2つのマイクロポアを連続的に通過する間に時間間隔を有する電気パルス信号のペアを生成する。
【0040】
本発明の二重膜構造装置は、さまざまな適切な方法で取得できる。例えば、本発明の一実施例において、マイクロナノ加工一体成形の方式によって二重膜の間隔を制御して二重膜構造装置を製造する。具体的な原理とステップは図6に示すように、ステップ1としては、両面研磨の基材(シリコン又は石英など)を準備して支持層とし、その上表面と下表面に熱酸化又は蒸着の方法によって1nm~10μmのナノフィルム(図における成膜層)を調製する。ステップ2としては、予め調製されたフォトリソグラフィーテンプレートによってマイクロポアのサイズと形状及び膜における位置を限定する。上下表面にフォトレジストをコーティングし、テンプレートによって露光して現像する。上下テンプレートは、正確に位置合わせすることができるため、2つのマイクロポアが空間においてミクロンレベルの位置合わせ精度を確保する。そして露光されないフォトレジストを犠牲層とし、ガスエッチングによって膜にマイクロポアをエッチングする。ステップ3としては、ウェットエッチングの方法によって、エッチング液をマイクロポアに通過して支持層をエッチングして2つのマイクロポアを連通する。
【0041】
図7に示すように、複合体1、結合されていない磁気ビーズ(即ちナノ粒子に結合されていない免疫磁気ビーズ)と複合体2は、単一粒子の形態で2つのマイクロポアを連続的に通過する間に電気パルス信号のペアを生成し、それらは一定の時間間隔を有し、当該時間間隔ではマイクロポアを通過する時間が反映される。それは電気移動度と関係がある一方、電気移動度は電荷状態と関係がある。複合体1と複合体2の電気パルス信号は設定された閾値を超えているが、結合されていない磁気ビーズの電気パルス信号は、設定された閾値を超えていない。図8に複合体が単一粒子の形態で2つのマイクロポアを連続的に通過する間に生成された真の電気パルス信号のペアを示す。そこから、各複合体粒子がマイクロポアを通過する際にいずれも電気パルス信号のペアを生成でき、しかも当該電気パルス信号のペアにおける2つの電気パルス信号は一定の時間間隔を有することが分かる。
【0042】
本発明の好ましい実施例において、サンプルにおける複合体の濃度(例えば、10pg/mL未満)を調整することによって、異なる複合体の間の電気パルス信号間隔を電気パルス信号のペアにおける時間間隔よりはるかに大きくするように制御し、且つ電気パルス信号のパルス強度閾値を分析することによって、ナノ粒子に結合されていない免疫磁気ビーズが生成した信号を濾過する。
【0043】
本発明のダブルアンチサンドイッチ構造の反応原理に基づいて、免疫磁気ビーズに捕捉されたタンパク質数は、それと結合された二次抗体で修飾されたナノ粒子の数を決定し、更に複合体の帯電量を决定する。一方、複合体の帯電量は電気移動度と関係がある。そのため、図9に示すように、タンパク質捕捉数と電気移動度(移動速度)とは線形対応の関係がある。電気移動度を算出することによって粒子表面電位を取得し、更に被検出タンパク質数を算出できる。
【0044】
本発明の一実施例において、電気移動度は、次の式によって算出し、
【数4】
そのうち、μは電気移動度を表し、v(x)は複合体粒子が2つのマイクロポアを連続的に通過する速度を表し、E(x)は電界分布を表す。
【0045】
例えば、2つのマイクロポアの間に1000nmの距離があり、単一の複合体粒子が2つのマイクロポアを通過する時間間隔が1msであり、電位差が100mVである。そうすると、電気移動度が10-8-1-1であることを算出できる。
【0046】
同時に、粒子表面電位ξと電気移動度μとは以下のような対応関係があり、
【数5】
そのうち、ηは電解液の粘度を表す。
且つ、粒子表面電位ξの式は次のとおりである:
【数6】
そのうち、tはマイクロポアにおける粒子の滞留時間を表し、それは実験によって取得できる。Aは各マイクロポアの補正係数を表し、基準粒子によってポアごとに取得でき、Vは電位差を表す。
【0047】
例えば、本発明の一実施例において、補正係数Aが6×10-6sであるなら、粒子表面電位ξが60mVになる。
【0048】
本発明の他の一実施例において、複合体の体積/質量状態によってサンプル系における被検出タンパク質数を算出する。具体的には、図10に示すように、複合体の体積/質量状態と電気パルス信号積分面積とは正の相関にあり、複合体におけるタンパク質捕捉数は、免疫磁気ビーズに対する複合体の体積/質量増分に比例し、電気パルス信号積分面積(複合体の体積/質量状態を特徴付けるもの)と複合体におけるタンパク質捕捉数の標準曲線の関係から複合体におけるタンパク質捕捉数を推算し、更にサンプル系における被検出タンパク質数を算出する。本実施例において、本発明におけるダブルアンチサンドイッチ構造の反応原理に基づいて、免疫磁気ビーズにおけるタンパク質捕捉数はそれと結合された二次抗体で修飾されたナノ粒子の数を決定し、ナノ粒子の数は複合体の体積又は質量の増加を決定するため、複合体の体積/質量は複合体の体積、質量又は両者の組合わせを表す。
【0049】
以上、具体的な例を用いて本発明を説明したが、これはあくまで本発明の理解を助けるためのものであり、本発明を限定することを意図するものではない。当業者にとって、本発明の思想に基づき、更にいくつかの簡単な派生、変形又は置換を行うことが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10