(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】電極材料、電解コンデンサ用陰極箔、及び電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 9/042 20060101AFI20231212BHJP
H01G 9/048 20060101ALI20231212BHJP
H01G 9/055 20060101ALI20231212BHJP
H01G 9/145 20060101ALI20231212BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
H01G9/042 500
H01G9/048 G
H01G9/055 103
H01G9/145
H01G9/15
(21)【出願番号】P 2023116068
(22)【出願日】2023-07-14
【審査請求日】2023-07-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390033385
【氏名又は名称】日本蓄電器工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【氏名又は名称】那須 威夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141553
【氏名又は名称】鈴木 信彦
(72)【発明者】
【氏名】下山 奈美
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 功二
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 翼
(72)【発明者】
【氏名】大塚 雅也
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-174865(JP,A)
【文献】特開2014-022707(JP,A)
【文献】特開2019-179884(JP,A)
【文献】国際公開第2012/115050(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/042
H01G 9/048
H01G 9/055
H01G 9/145
H01G 9/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平滑基材上に、酸化物層を有し、さらに前記酸化物層の上に無機導電層を有し、
前記無機導電層は、金属及び/又は金属化合物を含む第1の導電層と、カーボンを含む第2の導電層とを有し、
前記第1の導電層は、その表層側に凹凸部分を有し、
前記第2の導電層は、前記無機導電層の最外層に位置し、
前記第1の導電層と前記第2の導電層の間に、前記第1の導電層を構成する物質と前記第2の導電層を構成する物質とが混在してなる混在層が形成されてなり、
前記混在層の成分が、実質的に前記第1の導電層を構成する物質のみを含む成分から実質的に前記第2の導電層を構成する物質のみを含む成分へと、前記第1の導電層から前記第2の導電層へと向かうにつれて変化するよう構成されている、
電極材料であって、
XPS(X線光電子分光法)により前記第2の導電層の表層から深さ方向に対して各C結合状態の存在量を分析した場合に、C1sスペクトルによる前記各C結合状態の存在量の合計に対する、前記第1の導電層を構成する金属元素の原子と炭素原子との結合の存在量の割合が5%以上であり、
掃引範囲±0.3VvsPt、掃引速度500mV/sec、電解液30℃、参照極Pt、対極ステンレス、作用極を前記電極材料とした条件でのサイクリックボルタンメトリー法により得られるサイクリックボルタモグラムの電流値の最大値が、前記条件のうち作用極を前記平滑基材とした場合のサイクリックボルタモグラムの電流値の最大値の6.5倍以上であり、
ラマン分光法によるラマンスペクトルにおいてピーク分離することで得られるGバンドピークの半値幅について、前記第2の導電層に含まれるカーボンの前記半値幅が黒鉛結晶の前記半値幅に対して3.8倍以上である、
電極材料。
【請求項2】
前記第1の導電層を構成する物質と前記第2の導電層を構成する物質とが互いに異なる、請求項1に記載の電極材料。
【請求項3】
前記平滑基材と前記第1の導電層とは互いに異なる物質から構成される、請求項1又は2に記載の電極材料。
【請求項4】
前記第2の導電層は実質的にカーボンからなる、請求項1又は2に記載の電極材料。
【請求項5】
前記無機導電層は、前記金属及び/又は金属化合物が緻密に存在する緻密層を更に有し、前記緻密層は前記酸化物層と前記第1の導電層との間に形成されている、請求項1又は2に記載の電極材料。
【請求項6】
前記無機導電層のうち前記第1の導電層と前記第2の導電層の両方、または少なくとも前記第1の導電層が粒子堆積層からなり、前記第1の導電層はチタン、アルミニウム、それらの窒化物、酸化物、酸窒化物、炭化物、炭窒化物のうちの少なくとも一種を含む請求項1又は2に記載の電極材料。
【請求項7】
前記酸化物層はリンを含む酸化物層である、請求項1又は2に記載の電極材料。
【請求項8】
前記平滑基材がアルミニウムまたはアルミニウム合金を含む、請求項1又は2に記載の電極材料。
【請求項9】
前記カーボンがグラファイトライクカーボンである、請求項1又は2に記載の電極材料。
【請求項10】
吸着ガスとしてクリプトン(Kr)を用いたBET比表面積が前記平滑基材の前記BET比表面積の1.5倍以上である、請求項1又は2に記載の電極材料。
【請求項11】
吸着ガスとしてクリプトン(Kr)を用いたBET比表面積が前記平滑基材の前記BET比表面積の1.5倍以上であり、かつ、前記無機導電層の表層側における凹凸部分の凸部の平均径が210nm以下である、請求項1又は2に記載の電極材料。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の電極材料であって、表層側の表面のセパレータ紙に対する静止摩擦係数および動摩擦係数が、平滑基材上にカーボンからなる表層側の最外層である導電層を有し前記表層側に凹凸部分を有さない電極材料の前記表層側の表面のセパレータ紙に対する静止摩擦係数および動摩擦係数よりもそれぞれ高い、電極材料。
【請求項13】
陽極箔と陰極箔の間に少なくとも固体電解質が介在する電解コンデンサ用の陰極箔であって、請求項1又は2に記載の電極材料を用いた、電解コンデンサ用陰極箔。
【請求項14】
陽極箔と陰極箔の間に少なくとも固体電解質が介在する電解コンデンサであって、請求項13に記載の陰極箔を有する、電解コンデンサ。
【請求項15】
陽極箔と陰極箔の間に、更に電解液が介在する請求項14に記載の電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極材料、特に、固体電解コンデンサ、ハイブリッドコンデンサ等の電解コンデンサに用いることができる電解コンデンサ用陰極箔、及び電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッドコンデンサの陰極に要求される機能、特性としては、
(i)固体電解質との密着性がよく、界面の接触抵抗が低抵抗であること。
(ii)固体電解質、電解液を保持するための層(幾何学的構造・表面修飾)があること。
(iii)固体電解質、化学重合薬液、電解液、水分による劣化への耐性があること。
(iv)容量成分を持たないか、或いは容量成分が低く、低抵抗な導体として振舞うこと。
(v)薄手化が実現可能なこと。
(vi)低コストであること。
などが挙げられ、上記(ii),(iii)のうち電解液との相性を除けば、これらは固体電解コンデンサ用の陰極に於いても極めて重要な機能、特性といえる。
【0003】
これに関し、例えば、平滑箔に平滑なチタン層と、更にその上に平滑なカーボン層を付与した箔は、(i)の特に水溶液を分散媒とする固体電解質の分散体との密着性が不充分で、(ii)の電解液の保持性も悪く、特に導電性高分子からなる固体電解質については健全なドープ状態を維持することが困難となり、素子にしたときに高抵抗となる。化成エッチド陰極箔は、箔厚みが厚いため小型化が難しく、陽極と組み合わせてコンデンサにした際に、合成容量を生じることとなり、陽極の容量引き出し率が低くなってしまう。また、100kHzなどの高周波側では、ESR(Equivalent Series Resistance:等価直列抵抗)は低くなるが、120Hzなどの低周波側では、ESRが著しく高くなり、低ESRである周波数範囲が狭い、などの問題点がある。固体電解質との接触抵抗が大きく、固体電解質が被覆されていない部分は電解液依存のため低温特性にも不安を覚える。更に素子形成後のエージング陽極酸化工程で陰極箔が局所的に化成されてしまう恐れもあり、容量減少や抵抗増大の懸念もある。例えば、アルミニウム基材に付与した化成被膜層は電解液に対し一定の保護機能を有する。しかし、導電性高分子からなる固体電解質については化学重合薬液や固体電解質のドープ状態を維持するための酸性電解液との化学反応や、僅かに存在する水分等と基材との化学反応を完全に抑えることは困難であり、また一方で、自然酸化被膜や化成被膜がそのままの状態で直接的に固体電解質と接触した場合には、接触界面に空乏層が生じるため接触抵抗が高くなってしまう問題がある。
【0004】
化成エッチド箔に、中間層(チタン層)、そしてカーボン層を付与した箔においては、厚みが薄く、エッチド層で導電性ポリマーや電解液を保持することが可能であるが、エッチド層上に付与したチタン層やカーボン層は、エッチド層内部までは完全にコーティングすることが難しく、電解液や固体電解質、化学重合の薬液から保護するためには、酸化アルミ層が必要である(例えば数V程度の化成被膜が必要である)。この化成被膜層も前記同様に電解液から保護する機能はあるが、やはりそのままでは絶縁物として振舞うため、高抵抗になる原因となる可能性が高い。なお、これら問題点の多くは、電解液が介在しない、電解質が固体電解質のみから成る固体電解コンデンサにも当て嵌まるものといえる。
【0005】
固体電解コンデンサ、ハイブリッドコンデンサ等の電解コンデンサに用いる陰極箔としては従来さまざまなものが開発されている。特許文献1,3には、エッチングにより粗面化された(拡面率1.5~500倍)陰極箔の表面に無機系導電層が形成された電解コンデンサが記載されている。しかし、これらの陰極箔には、
・平滑基材をエッチングにより拡面したエッチド基材を用いる場合は、エッチド層内部まで無機系導電層の物質が回り込むことが難しく、エッチド層内部を完全に無機系導電層の物質で被覆することは困難であるため、基材の成分であるアルミが露出する部分が出てくる。
・露出したアルミの表面には酸化アルミの被膜が存在しており、酸化アルミは絶縁物であるため、高抵抗となる。
・露出したアルミは耐薬品性に弱く、ポリマーや電解液に対しての耐久性に問題がある。
・基材をエッチングにより溶解するため、ハンドリング強度や薄箔化、残留塩素、廃液処理、製造コストの面でも課題が大きい。
などの問題が存在する。
【0006】
また特許文献4には、アルミニウム箔の表面に、金属及びその窒化物,炭化物,炭窒化物,酸化物のうちの少なくとも一種からなる第一層と、第一層の上に、金属及びその窒化物,炭化物,炭窒化物,酸化物のうちの少なくとも一種からなる第二層を、形成し、第一層は第二層よりも緻密な構造であることを特徴とする、アルミニウム電解コンデンサ用陰極箔が記載されている。しかし、特許文献4に記載の発明は、水を含む電解液のみを電解質とするコンデンサ用の陰極として、耐水和性を改善することを主眼においたものであり、ハイブリッドコンデンサ、固体電解コンデンサ等の電解コンデンサに用いることができる陰極の低抵抗化、耐久性の向上には改善の余地がある。
【0007】
特許文献2においては、平滑基材を用い、その上にカーボン層が形成されているハイブリッドコンデンサ用陰極箔が記載されている。また、特許文献5においては、平滑基材を用い、金属層上にカーボンが存在している固体電解コンデンサ用陰極箔が記載されている。しかし、これらの陰極箔の表層側に凹凸部分がないため、ESRや耐久性には更なる改良の余地があると考えられる。また陰極箔の表層側に凹凸部分を持たないため、セパレータ紙(隔離紙)との摩擦力が弱く、電解コンデンサの素子巻き工程における巻き芯治具の引き抜き時において、陰極箔が巻き芯治具の引き抜き方向へ飛び出す、巻きずれ不具合を発生し易い。
【0008】
特許文献9においては、基板の表面上に配置され焼結結合された、約20から約500マイクロメートルまでのメジアン径を有する複数の金属粒子を含むカソードを利用した電解コンデンサと記載されているが、ミクロン単位のサイズでは大きすぎて固体電解質と電解液の保持に必要な幾何学的構造を得ることができず、改善の余地がある。その他、従来技術としては特許文献6~8,10~24が挙げられるが、いずれにおいても機能、性能に改良の余地があると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2016/174806号
【文献】国際公開第2016/174807号
【文献】国際公開第2016/189779号
【文献】特開2014-022707号公報
【文献】特開2012-174865号公報
【文献】特開2023-002273号公報
【文献】国際公開第2017/090241号
【文献】特開2019-179884号公報
【文献】特開2007-243203号公報
【文献】特開2015-073015号公報
【文献】特開2019-179884号公報
【文献】米国特許第10896783号明細書
【文献】国際公開第2021/107063号
【文献】国際公開第2012/115050号
【文献】特開2004-281223号公報
【文献】特開2012-195527号公報
【文献】特開2011-192924号公報
【文献】特開2021-145135号公報
【文献】米国特許出願公開第2009/0161299号明細書
【文献】欧州特許出願公開第3817020号明細書
【文献】米国特許出願公開第2014/0036416号明細書
【文献】米国特許出願公開第2021/0383981号明細書
【文献】特開2005-294500号公報
【文献】国際公開第2010/029598号
【文献】特開2006-190878号公報
【文献】特開2022-057601号公報
【文献】特開2022-057985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上に鑑み、本発明は、以下の(1)~(7):
(1)固体電解質との密着性がよく、界面の接触抵抗が低抵抗であること。
(2)固体電解質、電解液を保持するための層(幾何学的構造・表面修飾)を有すること。
(3)固体電解質、化学重合薬液、電解液、水分に対する耐劣化性に優れること。
(4)容量成分を有さないか、或いは容量成分が低く、低抵抗な導体として振舞うこと。
(5)薄手化が実現可能なこと。
(6)低コストであること。
(7)巻きずれを起こし難いこと。
のうち少なくとも一つの利点を備えた、電解コンデンサ用陰極箔等に用いることができる電極材料、或いはそのような電極材料を用いた陰極箔を備えた、電解コンデンサを実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するべく、本発明は、平滑基材上に、酸化物層を有し、さらに酸化物層の上に無機導電層を有し、無機導電層は、金属及び/又は金属化合物を含む第1の導電層と、カーボンを含む第2の導電層とを有し、第1の導電層は、その表層側に凹凸部分を有し、第2の導電層は、無機導電層の最外層に位置し、第1の導電層と第2の導電層の間に、第1の導電層を構成する物質と第2の導電層を構成する物質とが混在してなる混在層が形成されてなり、混在層の成分が、実質的に第1の導電層を構成する物質のみを含む成分から実質的に第2の導電層を構成する物質のみを含む成分へと、第1の導電層から第2の導電層へと向かうにつれて変化するよう構成されている電極材料であって、XPS(X線光電子分光法)により第2の導電層の表層から深さ方向に対して各C結合状態の存在量を分析した場合に、C1sスペクトルによる各C結合状態の存在量の合計に対する、第1の導電層を構成する金属元素の原子と炭素原子との結合の存在量の割合が5%以上であり、掃引範囲±0.3VvsPt、掃引速度500mV/sec 、電解液30℃、参照極Pt、対極ステンレス、作用極を電極材料とした条件でのサイクリックボルタンメトリー法により得られるサイクリックボルタモグラムの電流値の最大値が、前記条件のうち作用極を平滑基材とした場合のサイクリックボルタモグラムの電流値の最大値の6.5倍以上であり、ラマン分光法によるラマンスペクトルにおいてピーク分離することで得られるGバンドピークの半値幅について、第2の導電層に含まれるカーボンの半値幅が結晶黒鉛の半値幅に対して3.8倍以上である、電極材料を提供する。
【0012】
ここにおける「平滑基材」とは、一例においてはエッチング等の粗面化処理が行われていない基材であるが、基材表面が完全に平らである必要はない。平滑基材には、例えば圧延加工など箔地製造プロセスにおいて僅かに生じる不可避な圧延筋や傷跡等による微小な粗さや起伏が表面に存在するものも含まれる(当然ながら、基材表面が完全に平滑であってもよい。)。また「酸化物層」とは、自然酸化被膜のように特段の処理を行わずに形成された酸化物層であってもよいし、化成処理等の処理により意図的に形成された酸化物層であってもよい。酸化物層は、平滑基材を完全に覆っていてもよいし、部分的に覆っていてもよいし、例えば酸化物層の部分を第1の導電層のうち緻密層の材料が貫くことにより(後述のアークイオンプレーティング(AIP:Arc Ion Plating)法等により緻密層を形成)、平滑基材と第1の導電層とが直接接触していてもよい。さらに、混在層及び第2の導電層が第1の導電層の凹凸部分の上に形成される場合、当該凹凸部分の形状に起因して混在層及び第2の導電層が複数部分に分かれる(後述の実施形態に関する
図1等を参照)ことがあるが、上記記載、及び以降の記載における「層」とは、そのように複数部分に分かれて形成される「層」であってもよい(混在層及び第2の導電層に限らず、任意の層についても同じ)。また、後述するとおり、「実質的に第1の導電層を構成する物質のみを含む」、「第1の導電層を構成する物質のみを含む」とは、「第1の導電層を構成する物質」以外の成分が一切含まれないことを必ずしも意味するものではないし、「実質的に第2の導電層を構成する物質のみを含む」、「第2の導電層を構成する物質のみを含む」とは、「第2の導電層を構成する物質」以外の成分が一切含まれないことを必ずしも意味するものではない(電極材料の機能が許容可能な程度に維持される範囲内で、他の成分が含まれてもよい)。また、上記記載中、「実質的に第1の導電層を構成する物質のみを含む成分から実質的に第2の導電層を構成する物質のみを含む成分へと、第1の導電層から第2の導電層へと向かうにつれて変化する」とは、混在層内における第2の導電層を構成する物質の含有率が、第1の導電層から第2の導電層へと向かう方向について単調に増加する、ということを必ずしも意味するものではない。製造技術上の限界により生じる各成分濃度のばらつき等に応じて、混在層内の各位置における実際の成分はさまざまに変わりうる。しかしながら、好ましくは、第1の導電層から第2の導電層へと向かうにつれて第2の導電層を構成する物質の含有率が連続的に上昇するように、混在層が形成される。
【0013】
第1の導電層を構成する物質と第2の導電層を構成する物質とが互いに異なっていてよい。
【0014】
平滑基材と第1の導電層とは互いに異なる物質から構成されていてよい。
【0015】
第2の導電層は実質的にカーボンからなる層であってよい。
【0016】
なお、上記記載中、「実質的にカーボンからなる」、或いは「カーボンからなる」とは、当該第2の導電層を構成する物質としてカーボン以外の成分が一切含まれないことを必ずしも意味するものではない。層内の成分純度の制御、不純物の混入に関する製造技術上の限界や、個別の製品において上記電極材料に許容される誤差としての抵抗の程度等に応じて、実際の成分構成はさまざまに変わりうる(電極材料の機能が許容可能な程度に維持される範囲内で、第2の導電層にカーボン以外の成分が含まれてもよい)。この点は、「実質的に~からなる」、「~からなる」、「実質的に~のみを含む」、「~のみを含む」などの記載についても同様である。
【0017】
無機導電層は、金属及び/又は金属化合物が緻密に存在する緻密層を更に有してよく、緻密層は酸化物層と第1の導電層との間に形成されていてよい。なお、ここでいう「緻密に存在する」とは、上記「凹凸部分」に比べて緻密に(金属及び/又は金属化合物が)存在することを意味する。
【0018】
無機導電層のうち第1の導電層と第2の導電層の両方、または少なくとも第1の導電層が粒子堆積層からなる層であってよく、第1の導電層はチタン、アルミニウム、それらの窒化物、酸化物、酸窒化物、炭化物、炭窒化物のうちの少なくとも一種を含む層であってよい。第1の導電層に用いることができる物質はこれらに限られないが、基材としてアルミニウム基材を用いる場合には、エネルギー効率やアルミニウム基材との密着性の観点から、特にチタン(Ti)、アルミニウム(Al)をはじめとする金属(基材との密着性や第1の導電層における導電性を損なわない限り、合金等、複数の成分を含むものであってもよい。)を用いることが望ましい。
【0019】
酸化物層はリンを含む酸化物層であってよい。
【0020】
平滑基材はアルミニウムまたはアルミニウム合金を含む基材であってよい。なお、基材として用いることのできる材料もアルミニウムに限られるわけではなく、弁作用金属であるタンタル(Ta)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)、タングステン(W)等、その他の任意の材料、あるいはアルミニウムにそれら任意の材料が添加されたアルミニウム合金等を用いることもできる。
【0021】
カーボンはグラファイトライクカーボンであってよい。
【0022】
カーボンとしてどのような材料を用いるかは特に制限しないが、炭素材料の中でも特に電気伝導性に優れたグラファイトライクカーボンとすることが電解コンデンサのESRを低減する上で好ましい。また製造コストの面でも好ましい。ここで、グラファイトライクカーボンとは、ダイヤモンド結合(炭素同士のsp3混成軌道結合)とグラファイト結合(炭素同士のsp2混成軌道結合)の両方の結合が混在しているアモルファス構造をとるカーボンのうち、グラファイト結合の割合が50%を超えるもの(ダイヤモンド結合の数よりもグラファイト結合の数のほうが多いもの)をいう。ただし、アモルファス構造以外に、部分的にグラファイト構造からなる結晶構造(すなわちsp2混成軌道結合からなる六方晶系結晶構造)からなる相を有するものも含む。カーボン内におけるsp3結合とsp2結合の状態の割合は、ラマン分光やXPS(X線光電子分光法(別名称ESCA))等により解析することが可能である。
【0023】
吸着ガスとしてクリプトン(Kr)を用いたBET比表面積が平滑基材のBET比表面積の1.5倍以上であってよい。
【0024】
吸着ガスとしてクリプトン(Kr)を用いたBET比表面積が平滑基材のBET比表面積の1.5倍以上であり、かつ、無機導電層の表層側における凹凸部分の凸部の平均径が210nm以下であってよい。
【0025】
本発明の提供する電極材料における、表層側の表面のセパレータ紙に対する静止摩擦係数および動摩擦係数は、平滑基材上にカーボンからなる表層側の最外層である導電層を有し表層側に凹凸部分を有さない電極材料の表層側の表面のセパレータ紙に対する静止摩擦係数および動摩擦係数よりもそれぞれが高くてもよい。
【0026】
また本発明は、陽極箔と陰極箔の間に少なくとも固体電解質が介在する電解コンデンサ用の陰極箔であって、上述の本発明の電極材料を用いた陰極箔を提供する。
【0027】
また本発明は、陽極箔と陰極箔の間に少なくとも固体電解質が介在する電解コンデンサであって、上述の本発明の陰極箔を有する電解コンデンサを提供する。一例においては、固体電解コンデンサが提供される。
【0028】
上記電解コンデンサは、陽極箔と陰極箔の間に、更に電解液が介在する電解コンデンサであってよい。一例においては、ハイブリッドコンデンサが提供される。
【発明の効果】
【0029】
本発明により、発明が解決しようとする課題に関して挙げた上述の(1)~(7)のうち少なくとも一つの利点を備えた電解コンデンサ用陰極箔等に用いることができる電極材料、或いはそのような電極材料を用いた陰極箔を備えた、電解コンデンサが実現される。具体的には、例えば以下のとおりである。
・エッチド基材ではなく平滑箔を使用することにより、残留塩素の心配が無く、またエッチド層内部まで無機導電層の物質が回り込むことが難しいためにアルミが露出する部分が出てくる、といったことがなくなる。そのため、固体電解質、化学重合薬液、電解液及び水分に対する耐劣化性(耐薬品性・耐久性)を優れたものにすることが可能となり((3))、強度を保ち薄手化することが可能となり((5))、更に、エッチング工程をなくすことができるため、廃液設備の問題も含め、コストを削減することが可能となる((6))。
・平滑箔上に、一例として蒸着により、表層側に凹凸部分を有する無機導電層を付与することにより、固体電解質と電解液を保持するのに適した幾何学的構造の層を有することが可能となる((2))。
・表層側に付与された幾何学的な凹凸構造により、固体電解質との密着性が向上する((1))。更に、作用極を電極材料として所定の条件で得られるサイクリックボルタモグラムの電流値の最大値を、作用極を平滑基材とした場合の電流値の最大値の6.5倍以上とすることで、固体電解質と電解液の保持力向上によるESR低減効果が発揮される。((1)及び(2))
・表層側に付与された幾何学的な凹凸構造により、セパレータ紙との静止および動摩擦力(各摩擦係数)が高くなるため、電解コンデンサの素子巻き工程における巻き芯治具の引き抜き時に発生し易い、巻きずれ不具合の発生を抑制する((7))。
・無機導電層の最外層にカーボンを含む層を設けることにより、低抵抗かつ容量成分を持たない陰極箔とすることが可能となる(固体電解質と、例えばアルミニウムの酸化被膜との接触による空乏層の生成を、酸化アルミ層の上に金属及び/又は金属化合物を含む第1の導電層およびカーボンを含む第2の導電層を形成することで抑制し、固体電解質との接触抵抗を大幅に低減する)((1)及び(4))。
・ラマン分光法によるラマンスペクトルにおいてピーク分離することで得られるGバンドピークの半値幅について、第2の導電層に含まれるカーボンの半値幅を結晶黒鉛の半値幅の3.8倍以上とすることで、固体電解質、化学重合液、電解液および水分に対する耐劣化性(耐薬品性・耐久性)が向上する((3))。
・第1の導電層とカーボンを含む第2の導電層の間に、化学的な結合を持つ混在層を形成し、第1の導電層を構成する金属元素の原子と炭素原子との結合の存在量を、XPSによる分析結果において各C結合状態の存在量の合計の5%以上とすることで、電極材料は低抵抗な導体となる((4))。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の一実施形態における電極材料を用いた陰極箔の層構造を示す断面図。
【
図2】本発明の一実施形態における電極材料を用いた陰極箔の層構造を示す断面図(変形例)。
【
図3】本発明の一実施形態において
図1とは異なり基材の片側にのみ各層を積層させた電極材料を用いた陰極箔の層構造を示す断面図。
【
図4】本発明の一実施形態において
図2とは異なり基材の片側にのみ各層を積層させた電極材料を用いた陰極箔の層構造を示す断面図。
【
図5】本発明の一実施形態である巻回型固体電解コンデンサ、巻回型ハイブリッドコンデンサの構造を表わす分解図。
【
図6】本発明の一実施形態である電極材料を用いた陰極箔(後述の実施例2)のTEM(Transmission Electron Microscopy:透過型電子顕微鏡法)写真(断面像)。
【
図7】本発明の別の実施形態である電極材料を用いた陰極箔(後述の実施例4)のTEM写真(断面像)。
【
図8】
図6と同じ陰極箔(実施例2)の、STEM(Scanning Transmission Electron Microscopy:走査型透過電子顕微鏡法)写真(断面像)。
【
図9】
図7と同じ陰極箔(実施例4)の、STEM写真(断面像)。
【
図10】
図6と同じ陰極箔(実施例2)の、TEM写真(明視野像、断面像)。
【
図11】
図7と同じ陰極箔(実施例4)の、TEM写真(明視野像、断面像)。
【
図12】
図6と同じ陰極箔(実施例2)の、ToF-SIMS(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry:飛行時間型二次イオン質量分析法)による分析結果を示すグラフ(化学結合状態のプロファイル分布を示す)。
【
図13】
図7と同じ陰極箔(実施例4)の、ToF-SIMSによる分析結果を示すグラフ(化学結合状態のプロファイル分布を示す)。
【
図14】
図6,
図7と同じ陰極箔(実施例2,4)の、レーザー顕微ラマン分光分析により得られるラマン散乱スペクトルのグラフ(全波数領域)。
【
図15】
図6,
図7と同じ陰極箔(実施例2,4)の、レーザー顕微ラマン分光分析により得られるラマン散乱スペクトルのグラフ(C-C結合領域)。
【
図16】
図6,
図7と同じ陰極箔(実施例2,4)の、XPSにより得られる、C結合状態に起因するナロースキャンスペクトル。
【
図17】ハイブリッドコンデンサの実施例1~8と、ハイブリッドコンデンサの比較例1~6とのそれぞれについてESR測定を行った結果を示す表。
【
図18】固体電解コンデンサの実施例1~8と、固体電解コンデンサの比較例1~6とのそれぞれについてESR測定を行った結果を示す表。
【
図19】
図6と同じ陰極箔(実施例2)の、TEM-EDS(Transmission Electron Microscopy-Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:透過型電子顕微鏡法-エネルギー分散型X線分析)により得られた元素のプロファイル分布。
【
図20】
図7と同じ陰極箔(実施例4)の、TEM-EDSにより得られた元素のプロファイル分布。
【
図21】
図6と同じ陰極箔(実施例2)の、STEM-EELS(Scanning Transmission Electron Microscopy-Electron Energy Loss Spectroscopy:走査型透過電子顕微鏡法-電子エネルギー損失分光法)により得られた元素のプロファイル分布(
図22よりもカーボン導電層側)。
【
図22】
図6と同じ陰極箔(実施例2)の、STEM-EELSにより得られた元素のプロファイル分布(
図21よりも基材側)。
【
図23】
図7と同じ陰極箔(実施例4)の、STEM-EELSにより得られた元素のプロファイル分布(
図24よりもカーボン導電層側)。
【
図24】
図7と同じ陰極箔(実施例4)の、STEM-EELSにより得られた元素のプロファイル分布(
図23よりも基材側)。
【
図25】実施例1,2,4及び5の陰極箔と、比較例1の陰極箔とのそれぞれについてテープ接着試験を行った結果を示す表。
【
図26】
図6,
図7と同じ陰極箔(実施例2,4)と、比較例1の陰極箔とのそれぞれについて接触角測定を行った結果と、そこから算出された表面自由エネルギーの内訳(水素結合性成分および分散力成分)を示す表。
【
図27】a)
図6と同じ陰極箔(実施例2)の、SEM(Scanning Electron Microscopy:走査型電子顕微鏡法)写真(表面像)。b)
図7と同じ陰極箔(実施例4)のSEM写真(表面像)。c)実施例5の陰極箔のSEM写真(表面像)。d)実施例6の陰極箔のSEM写真(表面像)。
【
図28】実施例1~6及び8の平均径(フェレ径)を示す表。
【
図29】a)
図6と同じ陰極箔(実施例2)のXPS(X線光電子分光法)により得られる、深さ方向の各元素の存在量を表すグラフ。b)
図6と同じ陰極箔(実施例2)のXPSにより得られる、深さ方向の各C結合状態の合計と、TiC結合の存在量を表したグラフ。
【
図30】実施例2,4及び5の陰極箔と、比較例1の陰極箔の、静止摩擦係数及び平均動摩擦係数を示す表。
【
図31】
図6と同じ陰極箔(実施例2)のラマン分光により得られたスペクトルからGバンドピークを分離した図。
【
図32】各実施例の陰極箔に関する、Kr吸着法によるBET比表面積の平滑基材のBET比表面積に対する倍率を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の一実施形態として、電極材料を用いた電解コンデンサ用陰極箔、及び陰極箔を用いた電解コンデンサについて説明する。ただし、既に述べたとおり、基材として以下の説明で用いるアルミニウム箔、第1の導電層を形成するためのチタン(Ti)又はアルミニウム(Al)は他の材料により代替可能である。例えば第1の導電層を形成するための材料としては、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、タングステン(W)、ハフニウム(Hf)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)と、これらの金属の窒化物と、これらの金属の酸化物と、これらの金属の酸窒化物と、これらの金属の炭化物と、これらの金属の炭窒化物と、のうちいずれかを含むものを挙げることができる(第1の導電層はこれら以外の任意の材料を含んでよい。他の層においても同様。)。カーボンもグラファイトライクカーボンに限られるわけではなく、任意の炭素材料であってよい。また、本発明の電極材料の用途も固体電解コンデンサ、或いはハイブリッドコンデンサ用の陰極箔に限られるわけではなく、その他の二次電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタなど、任意の蓄電素子の電極(陰極、陽極、正極、負極等の任意の電極)用に、当該電極材料を用いることができる。本発明の電解コンデンサは、後述の巻回型電解コンデンサに限られるわけではなく、例えば積層型、チップ型等の任意のタイプであってよい。後述の
図1等で示す第1の導電層の凹凸部は、第1の導電層の表層側の全面に形成されている必要はなく、第1の導電層の表層側において部分的にのみ凹凸部が設けられていてもよい(当然ながら、第1の導電層の表層側の全面に凹凸部が形成されていてもよい。)。後述の
図1等において言及する「平滑」基材も、表面の全面が平滑である必要はなく、例えば圧延加工など箔地製造プロセスにおいて僅かに生じる不可避な圧延筋や傷跡等による微小な粗さや起伏が表面に存在するものも「平滑基材」に含まれる(当然ながら、平滑基材において基材表面が完全に平滑であってもよい。)。後述の
図1等に関して説明する「第2の導電層」は、(実質的に)カーボンのみからなる層であってもよいが、カーボン以外の他の成分、例えばタンタル(Ta)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、タングステン(W)、ハフニウム(Hf)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)と、これらの金属の窒化物と、これらの金属の酸化物と、これらの金属の酸窒化物と、これらの金属の炭化物と、これらの金属の炭窒化物と、のうちいずれかも含む層であってよい。第2の導電層におけるカーボンの含有率は任意の含有率であってよい。また、以下の実施形態で説明する層や構成要素、構造の全てを本発明の電極材料、電解コンデンサ用陰極箔、或いは電解コンデンサが備えることは必須ではなく、電極材料及び電解コンデンサ用陰極箔は緻密層を備えなくてもよい。後述の
図1等においては平滑基材の両面に第1の導電層等が形成されているが、各種の層、或いは凹凸部等の要素は平滑基材の片面にのみ設けてもよいし、両面に設けてもよい。平滑基材の第1面(表側の面)には酸化物層を設けるが、第2面(裏側の面)には酸化物層を設けない等、基材の第1面と第2面とで異なる層構造を設け、凹凸部等の要素の有無、配置等も一方の面においては本発明とは異なるように、電極材料、或いは電極材料を用いた陰極箔を有する電解コンデンサを構成することも可能である。その他の層や要素、構造、特徴等も、本発明の電極材料、電解コンデンサ用陰極箔、或いは電解コンデンサが機能を発揮できる限りにおいて適宜省略することができるし、また本発明の電極材料、或いは電解コンデンサが機能を発揮できる限りにおいて、以下の実施形態で説明した以外の層や要素、構造、特徴を本発明の電極材料、電解コンデンサ用陰極箔、或いは電解コンデンサが備えていてもよい。また本発明の電解コンデンサにおいては本発明の電極材料のうち任意のものを陰極箔として用いることができる。説明される各々の層、要素、構造、特徴等は、任意に取捨選択し、適宜組み合わせてよく、そのような取捨選択、組み合わせをしたうえで得られる電極材料、電解コンデンサ用陰極箔、電解コンデンサ等は全て本発明の範囲に含まれる。
【0032】
なお、上述の、固体電解質、化学重合薬液、電解液及び水分に対する耐劣化性については、更に以下のようにすることで、より向上させることができる。
・平滑箔と蒸着層の界面の密着性が不十分な場合には、緻密な無機導電層で覆った後に、蒸着層を付与しても良く、平滑箔を緻密な無機導電層で覆うことにより、アルミの露出部分を一例においては完全になくし、耐薬品性・耐久性を向上させることが可能となる。
・平滑箔上に、リン(P)を含む酸化被膜を付与したのちに緻密な無機導電層で覆うことにより、さらに耐薬品性・耐久性を向上させることが可能となる(緻密層を形成しない場合でも、平滑基材上にリンを含む酸化被膜を化成処理等で付与することにより、耐薬品性・耐久性を向上させることは可能である)。
【0033】
本発明の電極材料を用いた陰極箔
図1は、本発明の一実施形態における電極材料を用いた陰極箔の層構造を示す断面図である。陰極箔(電極材料)1は、エッチング処理等による粗面化がされていない基材(平滑アルミニウム箔)2と、平滑アルミニウム箔2の上に形成された、自然酸化被膜、或いは人為的に形成されたリンを含む酸化被膜等の酸化物層3と、酸化物層3上に形成された、Ti又はAlにより形成された凹凸のある第1の導電層4と、第1の導電層4の上に形成された第2の導電層5と、を有する。更に、第1の導電層4と第2の導電層5との間に混在層7が形成されている。
【0034】
平滑アルミニウム箔2としては、市販の高純度アルミニウムシートを用いることができる。アルミニウムシートの厚みは特に限定されないが、巻回型の電解コンデンサ(固体電解コンデンサ、ハイブリッドコンデンサ等)用陰極箔として用いるならば、10μm以上50μm以下であるのが好ましい。
【0035】
酸化物層3は、自然酸化被膜、或いはリンを含む陽極酸化または浸漬処理などの化成処理等により意図的に形成される酸化被膜などの酸化物層であり、平滑アルミニウム箔2を空気中にさらしたり、リン酸二水素アンモニウム溶液による陽極酸化処理を行ったり、リン酸水溶液や重リン酸アルミニウム水溶液へ浸漬後に熱処理することなどにより形成される。
【0036】
第1の導電層4は、一例においては真空チャンバー内に、酸化物層3が形成された平滑アルミニウム箔2、または、必須ではないが後述の緻密層6を形成する場合には、更に真空チャンバー内でのアークイオンプレーティング法等により酸化物層3の上に緻密層6が形成された平滑アルミニウム箔2、及び蒸発源であるTi又はAlの金属材料を配置した上で、金属材料を蒸発させて、蒸発した金属材料を酸化物層3の上に(緻密層6を形成する場合は緻密層6の上に)付着させることにより形成される(蒸着法)。蒸着法としては、上述の真空蒸着法の他、化学気相蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)法、スパッタリング法等を用いることができるが、幾何学的構造の制御の点において真空蒸着法の中でも電子ビーム蒸着法が好適である。電子ビーム蒸着法は、加速された電子ビームを蒸着物質に照射して加熱、気化させ、これを基材上に堆積させる方法である。第1の導電層における凹凸の細かさは、例えば付着させる金属材料の粒子径を調整することにより制御することができる。金属材料の粒子径は、蒸着において例えば導入ガス種や真空度、基材の温度等の条件を調節することにより適宜制御可能である。なお、酸化物層3が形成され、また緻密層6を形成する場合には更に緻密層6が形成された平滑アルミニウム箔2の上にTi又はAl等の金属の窒化物、酸化物、又は炭化物からなる第1の導電層4を形成する態様においては、上記方法を例えば窒素ガス、酸素ガス、又はアセチレンガスやメタンガス等の炭化水素ガスの雰囲気中で行うことによって第1の導電層4を形成すればよい。また、Ti又はAl等の金属の酸窒化物、又は炭窒化物からなる第1の導電層4を形成する態様においては、例えば窒素ガスと酸素ガス、又は窒素ガスとアセチレンガスやメタンガス等の炭化水素ガスの雰囲気中で第1の導電層4を形成すればよい。
【0037】
本実施形態の第2の導電層5は、樹脂バインダー等の結着剤へカーボン粒子を分散させた上でこれを塗布すること等により形成するのではなく、例えばイオンプレーティング法等の蒸着法を用いて形成することが好ましい。結着剤と混練して形成されるカーボン粒子の層においては、実質的に混ぜる結着剤の分量だけカーボンの占有率が低下し、また下層における第1の導電層の材料とカーボン粒子との接触が点接触となるし、混在層の形成も困難であり、さらに、上述の塗布法では界面の電気伝導性を高めることが難しく、界面抵抗が上昇すると共に密着性も悪くなり、且つ薄く均一に被覆することが困難だからである。第2の導電層5は、平滑かつ緊密なGLC(Graphite-Like Carbon:グラファイトライクカーボン)被膜として形成することが望ましい。また、カーボンをラマン分光により測定し、Gバンドピーク(sp
2結合部)を分離して得られる半値幅が大きいほど、非晶質の度合いが高く、一般的に密度・硬度・ヤング率などは増加する。そこで、第2の導電層5で用いられるカーボンの半値幅を結晶黒鉛の半値幅の3.8倍以上とする。そうすることで、第2の導電層5は、非晶質の度合いが高くなり、固体電解質、化学重合薬液、電解液及び水分に対する耐劣化性(耐薬品性・耐久性)に優れた膜となる。なお、第2の導電層5が第1の導電層4の凹凸部分の上に形成される場合、第2の導電層5の形状は第1の導電層4の凹凸部分の形状に依存するため、第2の導電層5は必ずしも凹凸を有する必要性はなく(その厚みが実質的に一定である)、平滑かつ緻密な被膜であってよい。
図1~
図4に示すとおり電極材料1における表層側の表面が凹凸を有することにより、電極材料1における表層側の表面のセパレータ紙に対する静止摩擦係数および動摩擦係数は、平滑基材上にカーボンからなる表層側の最外層である導電層を有し表層側に凹凸部分を有さない電極材料の表層側の表面のセパレータ紙に対する静止摩擦係数および動摩擦係数よりも、それぞれ高くなると考えられる。
【0038】
第2の導電層5は、緻密層6と同様の方法で得られるが、中でも特に成膜材料のイオン化率及び付着エネルギーの高いアークイオンプレーティング法等のイオンプレーティング法が、第1の導電層との相互拡散状態を形成し易く界面抵抗の低減効果が高いため、好ましい手段の一つとなる。具体的には、真空チャンバー内に、平滑アルミニウム箔2の上に酸化物層3及び第1の導電層4が形成された(緻密層6を形成する場合は酸化物層3と第1の導電層4との間に更に緻密層6が形成されている)積層体と、蒸発源であるカーボン材料(一例として、GLC被膜として第2の導電層5を形成する場合はグラファイト材料)を配置した上で、蒸発源ターゲットをカソードとしアノードとの間で真空アーク放電を発生させることによりカーボン材料を蒸発・イオン化させ、これにより発生した、炭素陽イオンを積層体へと導くことにより形成される。アークイオンプレーティング法は、炭化物や窒化物などの高融点化合物膜の形成において、アーク電流による高いジュール熱をターゲット上で局所的に発生させることができ、またプラズマ密度が高いために蒸発した成膜物質のイオン化率を高めることもでき、好適である。このとき、当該積層体へと向かう炭素陽イオンを加速するために、積層体に対しては負のバイアス電圧を印加してもよい。第2の導電層5に凹凸幾何形状を付与する場合には、第1の導電層4の凹凸部分と同様の電子ビーム蒸着法を用いてカーボン材料(一例として、GLC被膜として第2の導電層5を形成する場合はグラファイト材料)を導いても良い。第2の導電層5はカーボン以外の任意の成分を含んでもよいが、カーボン以外の成分を含む第2の導電層5を形成する場合は、蒸発源としてカーボン材料に加えて任意の他の材料を用意し、カーボン材料だけでなく当該他の材料も同様に蒸発・イオン化させて積層体へと導けばよい。
【0039】
混在層7は、一例において、上述のとおり真空蒸着法等の蒸着法により第1の導電層4を形成する工程とアークイオンプレーティング法により第2の導電層5を形成する工程とを時間的に完全には分離せず、第1の導電層4の形成工程と第2の導電層5の形成工程とが同時に行われる時間が生じるように両工程を行うことで形成することができる。このような混在層7を導入することにより第1の導電層4を構成する物質(金属、或いは、上述のとおり金属の窒化物、酸化物、酸窒化物、炭化物、又は炭窒化物を含む、任意の物質)と第2の導電層5を構成する物質(GLC等のカーボン、及び、第2の導電層5がカーボン以外の材料も含む場合は、第2の導電層5に含まれる任意の他の物質)との密着性及び化学的安定性が高まり、金属の化学反応による変質が防止される。
【0040】
なお、混在層7は、第1の導電層4との境界領域においては実質的に第1の導電層4を構成する物質のみを含み、第2の導電層5との境界領域においては実質的に第2の導電層5を構成する物質のみを含むように、そして、特に第1の導電層4から第2の導電層5へと向かうにつれて第2の導電層5を構成する物質の含有率が連続的に上昇するよう構成することが好ましい。このような混在層7は、一例として、
(i)混在層7の成膜開始時には第1の導電層4の形成工程である蒸着法のみを行い、グラファイト材料等のカーボン材料(及び、第2の導電層5がカーボン以外の材料も含む場合は、任意の他の、第2の導電層5の材料)への電子ビーム照射は行わず、
(ii)時間の経過に応じて徐々に、第1の導電層4を構成する材料への電子ビーム照射量を下げることにより、第1の導電層4の形成工程である蒸着法における金属材料の蒸発量を下げていき、同時にグラファイト材料等のカーボン材料(及び、第2の導電層5がカーボン以外の材料も含む場合は、任意の他の、第2の導電層5の材料)への電子ビーム照射量を上げることにより、第1の導電層4を構成する物質と第2の導電層5を構成する物質とが混在し、且つ第2の導電層5を構成する物質の含有率が上層へ向かうにつれて上昇するような混在被膜を形成し、
(iii)成膜の終了時には第1の導電層4の形成工程である蒸着法を終了させて、第2の導電層5の形成工程であるアークイオンプレーティング法のみを行い、実質的に第2の導電層を構成する物質のみの被膜を形成する
ことにより、形成することが可能である。その他、蒸着法(第1の導電層4)とスパッタリング法(第2の導電層5)とにより混在層7を形成する場合には、時間の経過と共に第1の導電層4の材料の蒸発量を下げていき、グラファイトターゲット等のカーボンターゲット(及び、第2の導電層5がカーボン以外の材料も含む場合は、任意の他の、第2の導電層の材料のターゲット)に印加する電圧を上げていく(グラファイトターゲット、及び用いる場合には他の、第2の導電層の材料のターゲットのスパッタ速度を上げていく)など、任意の方法によってそのような好ましい態様の混在層7を形成することができる。また、(i)~(iii)は主にバッチ方式の枚葉処理に適したプロセスであるが、あるいはこれとは別に、ロールtoロール方式により、第1の導電層を構成する材料ターゲットと、その次に第2の導電層を構成する材料ターゲットを順に配置したチャンバー内で、箔を搬送しながら第1から第2の順に連続成膜処理を行うことによっても、混在層を形成することが出来る。第1と第2の各蒸発源ターゲットから基材へ向けて円錐状に放射される各蒸着材料の蒸気やイオン同士が基材に到達するより以前に互いに重なりを持つように(接触するように)、第1と第2の各蒸着源ターゲットを互いに隣接配置させることで、混在層を形成する。この各蒸着源ターゲット同士の距離や、各蒸着源ターゲットと基材との距離をそれぞれ適切に制御することにより、混在層の混在・拡散状態や結合状態などを最適な状態に調整する。この場合は前述のような電子ビーム照射量の加減調整は行わず、それぞれ常に一定でよく、より大量生産に向くプロセスといえる。また各蒸着源ターゲット同士の距離や、各蒸着源ターゲットと基材との距離に関わらず、基材温度を例えば数百℃程度に加熱することにより混在層を得てもよい。
【0041】
図2は、本発明の一実施形態における電極材料を用いた陰極箔の層構造を示す断面図(変形例)である。
図1の層構造とは異なり、酸化物層3と第1の導電層4との間に緻密層6が形成されている。
【0042】
緻密層6は、真空チャンバー内に酸化物層3が形成された平滑アルミニウム箔2、及び蒸発源であるTi又はAlの金属材料を配置した上で、電子ビームおよびプラズマ発生電極等によりTi又はAlを蒸発・イオン化させ、これにより発生した、アーク放電によりイオン化した金属陽イオンを平滑アルミニウム箔2へと導くことにより形成される。このとき、当該平滑アルミニウム箔2へと向かう金属陽イオンを加速するために、平滑アルミニウム箔2に対しては負のバイアス電圧を印加してもよい。このため、Ti又はAlイオンは平滑アルミニウム箔2の表面に形成された酸化物層3を貫き、平滑アルミニウム箔2と強固に密着する。ただし、酸化物層3を貫いて第1の導電層4の材料と平滑アルミニウム箔2とが密着することは必須ではなく、自然酸化被膜、或いはリンを含む陽極酸化処理による酸化被膜等の酸化物層3が第1の導電層4と平滑アルミニウム箔2との間に孔などを有さずに存在していてもよい。なお、酸化物層3が形成された平滑アルミニウム箔2の上にTi又はAl等の金属の窒化物、酸化物、又は炭化物からなる緻密層6を形成する態様においては、上記方法を例えば窒素ガス、酸素ガス、又はアセチレンガスやメタンガス等の炭化水素ガスの雰囲気中で行うことによって緻密層6を形成すればよい。また、Ti又はAl等の金属の酸窒化物、又は炭窒化物からなる緻密層6を形成する態様においては、例えば窒素ガスと酸素ガス、又は窒素ガスとアセチレンガスやメタンガス等の炭化水素ガスの雰囲気中で緻密層6を形成すればよい。
【0043】
また、緻密層6を形成するための方法としては、アークイオンプレーティング法等のイオンプレーティング法以外にも、真空蒸着法、化学気相蒸着法、スパッタリング法、原子層堆積法、ゾル-ゲル法、めっき法、塗布法、印刷法等を用いることが可能である。一例においては、緻密層6と平滑アルミニウム箔2とが酸化物層3を貫いて強固に密着することによりコンデンサのESRが低く抑えられるという点、及び平滑な金属被膜を形成しやすいという点から、イオンプレーティング法を用いることができる。
【0044】
なお、既に述べたとおり、
図1又は2に示すように基材2の両面側に各層を積層させることは必須ではなく、
図3又は4に示すように基材2の片面側のみに各層を積層させてもよいし、基材2の一方の面においては
図3に示す各層を積層して基材2の他方の面においては
図4に示す各層を積層する等、基材2の表面側と裏面側とで異なる層構造を形成してもよい。
【0045】
なお、酸化物層3、緻密層6、第1の導電層4、混在層7、及び第2の導電層5の厚さは、それぞれ0.005μm以上1μm以下程度で十分であり、少なくとも基材2を除く各層の厚さの合計が、基材2の片面側で0.05μm以上であれば、陰極箔として良好な特性が得られる。ただし、各層を更に厚く、或いは薄く形成しても構わない。
図1~
図4の各層の厚さは一例にすぎず、各層の厚さは任意に決定することができる。
【0046】
窒素ガスやクリプトンガスを吸着させるBET比表面積法によって電極材料1の実表面積を規定することは固体電解質や電解液の保持性の指標として重要であるが、本発明ではまず、実際のコンデンサにしたときに重要となる界面の抵抗等の電気の流れやすさも加味した電気化学的実効表面積を求めるため、サイクリックボルタンメトリー法で評価を行った。電解液として溶媒を炭酸プロピレンとした1Mのテトラエチルアンモニウムヘキサフルオロホスファート、参照極としてPt電極、対極としてステンレス、電解液の温度を30℃、掃引範囲を±0.3VvsPt電極、掃引速度500mV/secの条件下において電圧を直線的に掃引し、本発明の電極材料を作用極とした場合に測定されるサイクリックボルタモグラムの電流値の最大値を、平滑基材を作用極とした場合に測定される電流値の最大値と比較することで、電気化学的実行表面積に関する指標とした。そして、本発明の電極材料を作用極とした場合の電流値の最大値を、平滑基材を作用極とした場合の電流値の最大値の6.5倍以上とする。平滑基材を作用極とした場合の6.5倍以上となる電極材料とすることで、固体電解質と電解液の保持力向上によるESR低減効果を得ることができる。
【0047】
第1の導電層を構成する金属元素の原子と炭素原子との結合に関する評価方法として、XPSにより、深さ方向の各元素の存在量と、結合状態の分析を行うことができる。数nmおきにエッチングと測定を繰り返すことにより、検出された炭素原子が関与するすべての結合の存在量の合計に対する、第1の導電層を構成する金属元素の原子と炭素原子の結合の存在量の割合を解析することできる。そこで、この割合が5%以上である場合に、低抵抗な導体となり、ESR低減効果を得ることができる。
【0048】
また、基材2として弁作用金属を用いた本発明の一実施形態における電極材料を電解コンデンサの陰極箔として用いる場合、電気化学的分極により電解コンデンサの漏れ電流の電流密度の範囲に収まる電流が流れるときの当該電流に対応する電位は、基材2に用いた弁作用金属と同種で純度99.99%以上の対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側であってもよく、また、電解液に浸漬したときの自然浸漬電位は、基材2に用いた弁作用金属と同種で純度99.99%以上の対照陰極箔を同じ電解液に浸漬したときの自然浸漬電位よりも貴側であってもよい(特許文献26,27)。このようにすることで、陽極箔に形成された誘電体酸化皮膜が漏れ電流によって被膜修復される際、陰極側での水素ガスが発生されるのを抑制することができる。この点について更に説明すると、上記の対照陰極箔には自然酸化被膜が形成されていて、水素イオンを還元するカソード反応が優位的に生じる自然浸漬電位を有する。そして、本発明の陰極箔は、上記の対照陰極箔よりも貴側の自然浸漬電位を有する。そのため、本発明の陰極箔が電解コンデンサに組み込まれ、漏れ電流が生じた際も、本発明の陰極箔の電位は、上記の対照陰極箔の自然浸漬電位よりも貴側を維持することができる。そのため、電解コンデンサに漏れ電流が生じているときの本発明の陰極箔の電位は、溶存酸素を還元するカソード反応が優位的に生じる電位の範囲内にあり、水素イオンを還元するカソード反応が抑制される。その結果、水素ガスの発生に起因する電解コンデンサの内圧上昇が抑えられるため、コンデンサ素子を収容するケースが膨れるリスクを低減することができる。
【0049】
上述したとおり、第1の導電層と第2の導電層を含む表層側に凹凸部分を有する無機導電層が固体電解質及び電解液を保持するために必要とする実表面積を求める方法として、窒素ガスやクリプトンガスを吸着させるBET比表面積法が挙げられる。中でも、窒素ガスより飽和蒸気圧の低いクリプトンガスを吸着ガスとして用いると、比表面積が小さい領域でも高精度の測定が可能である。吸着ガスとしてクリプトンガスを用いたBET比表面積から算出した拡面倍率(電極材料のBET比表面積/平滑基材のBET比表面積)を1.5以上とすることが好ましい。この拡面倍率を1.5倍以上とすることで、更に固体電解質及び電解液の保持力が向上し、更なるESR低減効果を得ることができる。しかし、第1の導電層を更に厚くすることで表面積を更に高くすることは可能であるが、厚くしすぎるとコンデンサの体積効率としては低下し、また製造コストも高くなってしまう。そのため、吸着ガスとしてクリプトンガスを用いたBET比表面積から算出した拡面倍率を1.5倍以上200倍以下とすることが更に好ましい。
【0050】
図27a)~d)は、実施例2、4、5及び6の陰極箔に関する走査型電子顕微鏡(SEM)の表面写真である。ここで、SEM写真に粒子状に見えるものが写っているが、これは、電極材料における表層側表面、すなわち無機導電層の表層側における凹凸部分の凸部である。上述したとおり、電極材料1は、平滑基材2の上に、酸化物層3、第1の導電層4、混在層7及び第2の導電層5が順次形成され、第1の導電層4の表層側に凹凸部分を有している。そして、実施例2、4、5及び6において、第1の導電層は蒸着によって形成された粒子堆積層であり、この上に混在層及び第2の導電層を形成するが、混在層も第2の導電層もいずれも厚さが薄い。そうすると、各実施例の陰極箔の表面をSEMで観察すると、
図27a)~d)のように、あたかも粒子堆積層である第1の導電層しか形成されていないサンプルを観察したかのようになる。つまり、SEMの表面写真において確認される1つ1つの粒子が無機導電層の1つ1つの凸部に対応していることになる。そこで、実施例2、4、5及び6においては、SEMの表面写真において確認される粒子の粒子径をもって、無機導電層の表層側における凹凸部分の凸部の径とした。具体的には、走査型電子顕微鏡として日本電子製JSM-7401Fを使用して観察倍率10万倍で各実施例の陰極箔の表面を観察し、そのときの観察視野に存在している粒子のフェレ径を計測し、そのフェレ径を凸部の径とした。なお、ここにおけるフェレ径とは、
図27a)に示すように、粒子に対する接線のうち視野の縦方向に平行な粒子の左側の接線と右側の接線との間の距離のことである。この凸部の径が大きすぎると、電極材料における表層側の表面の凹凸部分の表面積が小さくなり、固体電解質と電解液の保持に必要な幾何学的構造を得ることができない。そこで、吸着ガスとしてクリプトンガスを用いたBET比表面積から算出した拡面倍率を1.5倍以上とすることに加えて、無機導電層の表層側における凹凸部分の凸部の平均径を210nm以下とすることがより好ましく、吸着ガスとしてクリプトンガスを用いたBET比表面積から算出した拡面倍率を1.5倍以上200倍以下とすることに加えて、無機導電層の表層側における凹凸部分の凸部の平均径を210nm以下とすることが更に好ましい。なお、ここにおける平均径とは、観察視野に存在している50個の粒子(凸部)について計測したフェレ径の平均のことである。ただし、一視野だけでは粒子の数が50個に満たない場合は、粒子の数が50個に達するまで更に別の視野についても計測する。
【0051】
本発明の電解コンデンサ
以下、本発明の陰極箔を用いて作製できる電解コンデンサの例として、固体電解コンデンサとハイブリッドコンデンサについて説明する。ここでは基材2の両面側に各層を積層した
図1又は2の層構造を有する陰極箔1を用いる場合について説明するが、基材2の片面側のみに各層を積層した層構造を有する陰極箔1を用いても本発明の電解コンデンサを作製することができる。
【0052】
(固体電解コンデンサ)
図5は、上記
図1又は2に示すいずれかの層構造を有する陰極箔1を用いて作製した巻回型固体電解コンデンサ8の分解図である。固体電解コンデンサ8は、
(i)陽極酸化処理により陽極アルミニウム箔上に酸化被膜を形成してなる陽極箔9と、
図1又は2に示されるいずれかの層構造を有する陰極箔10とを、セパレータ紙11を介して重ね、陽極箔9に対しては陽極端子13を、陰極箔10に対しては陰極端子14を接続した上でこれを巻回してコンデンサ素子12を作製する。
(ii)コンデンサ素子12を、希釈剤としてn-ブチルアルコールを含む、3,4-エチレンジオキシチオフェン、及び酸化剤としてのp-トルエンスルホン酸鉄(II)の混合溶液に浸漬させた上で加熱して、熱重合によりポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)の固体電解質層を形成する。若しくは、ポリエチレンジオキシチオフェンを水溶液中へ分散するためにポリスチレンスルホン酸(PSS)と混合したPEDOT/PSS水分散溶液へ浸漬、含浸したのち乾燥することで固体電解質層を形成してもよい。
(iii)固体電解質層を形成したコンデンサ素子12をアルミニウムケース15に収容し、封止ゴム16で封止する。
という方法で作製される。なお、ポリピロール系又はポリアニリン系、ポリアセン系、ポリパラフェニレンビニレン系、ポリイソチアナフテン系などの導電性高分子によって、あるいは二酸化マンガン(MnO
2)や、TCNQ(テトラシアノキノジメタン)錯塩等によって固体電解質層を形成してもよい。
【0053】
(ハイブリッドコンデンサ)
ハイブリッドコンデンサは、固体電解コンデンサ8を作製する場合と同様にして(i)及び(ii)の工程を行なった後、
(ii-2)固体電解質層を形成したコンデンサ素子に、溶媒として、γ-ブチルラクトン、エチレングリコール及び水のうち少なくとも1つを含む電解液を含浸させる。
(iii)固体電解質層を形成し、電解液を含浸させたコンデンサ素子をアルミニウムケースに収容し、封止ゴムで封止する。
という方法で作製される。なお、ポリピロール系又はポリアニリン系、ポリアセン系、ポリパラフェニレンビニレン系、ポリイソチアナフテン系などの導電性高分子によって、あるいは二酸化マンガン(MnO2)や、TCNQ(テトラシアノキノジメタン)錯塩等によって固体電解質層を形成してもよい。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の実施例として作製したさまざまな陰極箔、電解コンデンサの構造、分析結果、性能試験結果等を説明する。
【0055】
図6は、本発明の一実施形態である電極材料を用いた陰極箔(後述の実施例2)のTEM(透過型電子顕微鏡)写真(断面像)である。
図6の陰極箔は
図4に示す層構造(
図2に示す片面側の層構造)を有しており(平滑基材と緻密層との間には自然酸化被膜が形成されていると考えられる)、(自然酸化被膜3が形成された)アルミニウム平滑基材2上にアークイオンプレーティング法によりTiの緻密層6を形成し、真空蒸着法によりTiの第1の導電層4を形成し、アークイオンプレーティング法によりGLCのカーボン層(第2の導電層5)を形成することにより作製される。このような陰極箔は、
・基材2として平滑基材を使用することにより、TiでAl表面を隙間なく被覆することができる。
・粒状の堆積構造とすることで、ポリマーや電解液の密着、保持が可能である。
・アークイオンプレーティング法によるTi前処理は、基材表面の残油や酸化物の影響を排除できる。
という利点を有する。また
図7に、
図6に示す陰極箔とは別の陰極箔(後述の実施例4)のTEM写真(断面像)を示す。
図6,
図7に示す陰極箔は、いずれも(自然酸化被膜3が形成された)アルミニウム平滑基材2上にアークイオンプレーティング法によりTiの緻密層6を形成し、真空蒸着法によりTiの第1の導電層4を形成し、アークイオンプレーティング法によりGLCのカーボン層(第2の導電層5)を形成することにより作製されるという点で共通するが、第1の導電層4に含まれる金属材料(
図6,
図7のサンプルではTi)の粒子径が互いに異なり、したがって第1の導電層4における凹凸の細かさが互いに異なる。
【0056】
図8は、
図6と同じ陰極箔(実施例2)の、STEM(走査型透過電子顕微鏡)写真(断面像)であり、
図9は、
図7と同じ陰極箔(実施例4)の、STEM写真(断面像)である。上述のとおり、第1の導電層4において、金属材料の粒子径は、蒸着において例えば導入ガス種や真空度、基材の温度等の条件を調節することにより適宜制御可能であるため、さまざまな粒子径で、すなわちさまざまな凹凸の細かさで、第1の導電層4を形成することができる。
【0057】
図10は、
図6と同じ陰極箔(実施例2)の、TEM写真(明視野像、断面像)であり、
図11は、
図10と同じ陰極箔(実施例4)の、TEM写真(明視野像、断面像)である。実施例2と実施例4のいずれのサンプルにおいても、基材上の自然酸化被膜(数nm程度)を判別することができる。
【0058】
図12は、
図6と同じ陰極箔(実施例2)の、ToF-SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析法)による分析結果を示すグラフ(化学結合状態のプロファイル分布を示す)であり、
図13は、
図7と同じ陰極箔(実施例4)の、ToF-SIMSによる分析結果を示すグラフ(化学結合状態のプロファイル分布を示す)である。
図12,
図13のグラフ中、縦軸は二次イオン強度(Intensity)を表し、その単位は、各測定深さ地点において検出された各二次イオンの個数を表す[counts]である。
図12,
図13のグラフ中、カーボン蒸着由来の炭素C
6はC原子6個からなるフラグメント(塊)イオンで1価の負イオンであり、金属チタンTi
2イオンはTi原子2個からなる1価の負イオンであり、金属アルミ(地金)Al
5イオンはAl原子5個からなる1価の負イオンであり、その他、TiC
2/TiO
2/TiN/TiNO/Al
2O
3等は、それぞれの分子結合状態の負イオンである。例えば
図13に示す実施例4においては、金属Tiとしての存在は基材界面に僅かであり、その殆どが炭化物/酸化物/窒化物/酸窒化物として存在しているであろうことが解る。また実施例2と実施例4の両サンプルにおいて、アルミニウム基材上の酸化物とTi化合物の混在層、またTi化合物とCの混在層がそれぞれ形成されており、且つ最外層(カーボン層)に向かってCの割合が高くなる傾斜被膜として混在層が形成されていることがわかる。
【0059】
図14は、
図6,
図13に示すサンプルと同じ条件で作製したサンプルとしての陰極箔の、レーザー顕微ラマン分光分析により得られるラマン散乱スペクトルのグラフ(全波数領域)であり、
図15は、
図6,
図13に示すサンプルと同じ条件で作製したサンプルとしての陰極箔の、レーザー顕微ラマン分光分析により得られるラマン散乱スペクトルのグラフ(C-C結合領域)である。
図14のグラフにおいては、横軸のラマンシフトが1500cm
-1付近で縦軸のラマン強度[counts]がより大きい方のグラフが実施例2のサンプルに対応し、横軸のラマンシフトが1500cm
-1付近で縦軸のラマン強度[counts]がより小さい方のグラフが実施例4のサンプルに対応する。
図15のグラフにおいては、横軸のラマンシフトが1100cm
-1付近で縦軸のラマン強度[counts]がより小さい方のグラフが実施例2のサンプルに対応し、横軸のラマンシフトが1100cm
-1付近で縦軸のラマン強度[counts]がより大きい方のグラフが実施例4のサンプルに対応する。特に
図15に示すグラフから、実施例2と実施例4の両サンプルにおいてsp
3(Dバンド)でのラマン強度よりもsp
2(Gバンド)でのラマン強度の方が高く、両サンプルにおけるカーボン層(第2の導電層)がGLCを含んで形成されていることがわかる。
【0060】
図16は、
図6,
図7に示すサンプルと同じ条件で作製した陰極箔の、XPSにより得られる、表層から36nmエッチングした地点における280-290eV範囲をナローレンジにてスキャンしたスペクトルである。280-290eV付近に観測されるC結合状態に起因するピークについて、ピーク分離を行うと、284.5eV付近にsp
2に起因するピークが、285.5eV付近にsp
3に起因するピークが、それぞれ現れる。そのため、実施例2と実施例4の両サンプルにおけるカーボン層がグラファイトとダイヤモンドの両方の結合を持つアモルファス構造(非晶質構造)であることがわかる。また、ピーク面積を比較すると、sp
3よりもsp
2のほうがピーク面積が大きくなっていることがわかる。そのため、レーザー顕微ラマン分光分析からだけでなくXPSからも、両サンプルにおけるカーボン層がグラファイト結合の割合が50%を超えているグラファイトライクカーボンを含んで形成されていることがわかる。
【0061】
図29a)は、
図6に示すサンプルと同じ条件で作製したサンプルのXPSにより得られる深さ方向の結合状態を表すグラフである。表層から数nm単位でエッチングと測定を繰り返すことにより、
図29a)のような深さ方向の存在量が示される。
図29b)は、
図6に示すサンプルを、Cが検出されなくなるまで
図16のように、C結合状態に起因するピーク分離を行い、横軸をSiO
2換算深さ、縦軸を各C結合状態のピーク面積とした場合の、すべてのC結合状態の合計と、TiC結合を表したグラフである(なお、
図29における解析対象のサンプルでは、第1の導電層を構成する金属元素がチタンであるため、「TiC結合」が「第1の導電層を構成する金属元素の原子と炭素原子の結合」に該当する。)。各曲線について積分値を計算し、TiC結合状態(282eV付近)の存在量を全C結合状態の存在量で割った値をTiC結合の存在割合とした。他の金属炭化物の場合は、例えば、Al
4C
3結合状態(282.4eV付近)、TaC結合状態(281.9eV付近)、NbC結合状態(281.9eV付近)、VC結合状態(282.5eV付近)、WC結合状態(283.0eV付近)などのピークから算出できる。
【0062】
本発明のハイブリッドコンデンサの性能試験
本発明の陰極箔として実施例1~8の陰極箔を用意し、また比較例の陰極箔として比較例1~6の陰極箔を用意した。実施例1~8の陰極箔を用いて実施例1~8のハイブリッドコンデンサをそれぞれ作製し、比較例1~6の陰極箔を用いて比較例1~6のハイブリッドコンデンサをそれぞれ作製し、作製したハイブリッドコンデンサのそれぞれについて性能試験(ESR測定)を行った。それぞれのハイブリッドコンデンサの作製条件、ESR測定条件は以下のとおりである。
実施例1:0.003Paまで真空に引いたチャンバー容器の中にArガスを導入し、Ti材料からなる第1のターゲットと、グラファイト材料からなる第2のターゲットを順に、第1と第2の各ターゲットから基材へ向けて円錐状に放射される各蒸着材料の蒸気やイオン同士が基材に到達するより以前に互いに重なりを持つように(接触するように)、第1と第2の各ターゲットを互いに隣接配置したプロセス中へアルミの平滑箔をこの順に搬送させ、電子ビーム蒸着により、凹凸のあるTi層を200nm付与し、その次にアークイオンプレーティングによりカーボンを成膜する。このロールtoロール方式による連続成膜により、平滑基材上の酸化物層と第1の導電層との界面、および第1の導電層と第2の導電層との界面にそれぞれ混在層を得た(なお、酸化物層と第1の導電層の界面に形成された混在層は、酸化物層を構成する物質と第1の導電層を構成する物質とが混在してなるものであって、第1の導電層を構成する物質と第2の導電層を構成する物質とが混在してなるものとは異なるものである。)。その箔を陰極として、陽極箔(53Vで陽極酸化したエッチドアルミ化成箔)と組み合わせて、ハイブリッドコンデンサを作製し、初期ESR(100kHz)を測定し、125℃中に2000hr(1hrは60分間)放置したのちのESR(100kHz)を測定した。なお、ハイブリッドコンデンサは、次のようにして作製した。すなわち、まず、陽極箔と、上記のようにして作製した陰極箔とを、セパレータ紙を介して重ね、陽極箔に対しては陽極端子を、陰極箔に対しては陰極端子を接続した上でこれを巻回してコンデンサ素子を作製した。次に、コンデンサ素子を水溶媒のポリマー分散体溶液に約7000Paまで真空に引いた容器内で浸漬した後、大気環境下150℃で30分乾燥することで固体電解質層を形成した。更に、コンデンサ素子に、溶媒としてエチレングリコールを含む電解液を約5000Paまで真空に引いた容器内で含浸させた。そして最後に、コンデンサ素子をアルミニウムケースに収容し、封止ゴムで封止した。
実施例2:0.003Paまで真空に引いたチャンバー容器の中に、実施例1と同量のArガスを導入し、アルミの平滑箔を搬送させ、アークイオンプレーティングによりTiを10nm成膜する。その後、実施例1と同じ成膜プロセス中へ、アークイオンプレーティングによってTi層が形成されたアルミ箔を搬送させ、蒸着により、凹凸のあるTi層を200nm付与し、カーボンをアークイオンプレーティングにより成膜する。以降は、実施例1と同じである。
実施例3:リン酸二水素アンモニウム溶液で、印加電圧5Vで陽極酸化処理を行った平滑基材を使用した以外は、実施例2と同様の処理を行った。
実施例4:導入するガスがArとN2の2種類であること以外は、実施例2と同じである。
実施例5:蒸着により付与する凹凸のあるTi層を70nmとすること以外は、実施例2と同じである。
実施例6:アークイオンプレーティングによりTiに代えてAlを成膜し、その後、蒸着により凹凸のあるTi層に代えて凹凸のあるAl層を付与すること以外は、実施例2と同じである。
実施例7:Arガスの導入量が実施例2の40分の1であること以外の条件は実施例2と同じである。
実施例8:Arガスの導入量が実施例6の10分の1であること以外の条件は実施例6と同じである。
比較例1:平滑基材を使用し、実施例1~3と同量のArガスを導入し、アークイオンプレーティングによりTiを成膜した後、アークイオンプレーティングでカーボンを成膜したものを陰極として使用した。それ以外の条件は、実施例1と同じである。
比較例2:基材に2Vで陽極酸化処理したエッチド箔を使用し、実施例1~3と同量のArガスを導入し、アークイオンプレーティングによりTiを成膜したのち、アークイオンプレーティングでカーボンを成膜したものを陰極として使用した。それ以外の条件は、実施例1と同じである。
比較例3:平滑基材にガスを入れず真空蒸着で(緻密な)Ti層を形成させ、その後、容器内の圧力が実施例1~3と同等になるまでN2ガスを導入し、真空蒸着で(凹凸のある)Ti層を形成したものを陰極として使用した。それ以外の条件は、実施例1と同じである。なお、比較例3の陰極箔の被膜構成は、特開2014-022707号の明細書により開示されている被膜構成と同様である。
比較例4:蒸着により付与する凹凸のあるTi層を30nmとすること以外は、実施例2と同じである。
比較例5:蒸着により凹凸のあるTi層に代えてAl層を付与すること以外は、実施例1と同じである。
比較例6:導入するガスがN2ガスのみであること以外は、実施例2と同じである。
なお、カーボン導電層が形成されている実施例1~8、並びに比較例1,2及び4~6の陰極箔においては、カーボン導電層の下に混在層が形成されている。混在層においては、カーボンと、混在層の下の層を構成する物質とが混在して存在する。また、実施例1~8、並びに比較例1,2及び4~6におけるカーボン層はGLCを含んでいる。
【0063】
実施例及び比較例の陰極箔について、サイクリックボルタンメトリー法により流れる電流値を測定した。測定はグローブボックスを用いて窒素雰囲気下で行った。測定液として、溶媒を炭酸プロピレンとした1Mテトラエチルアンモニウムヘキサフルオロホスファートを調液した。測定は3電極式とし、対極にステンレス、参照極にPt電極、作用極に各実施例又は比較例の陰極箔とした。サイクリックボルタンメトリーの測定条件は、測定液温度30℃、掃引範囲±0.3V、掃引速度500mV/secとした。1~5サイクルまでの電流及び電圧を記録し、各サイクルの電流の最大値を算出し、それらの平均値を当該実施例又は比較例の陰極箔の最大電流値とした。同様に平滑基材単体についても最大電流値を測定し、その最大電流値を1として、各実施例及び比較例の陰極箔の最大電流値を表示した。
【0064】
実施例及び比較例の陰極箔について、XPSによりSiO2換算で2.5nm単位でエッチングと測定を繰り返し、深さ方向の結合状態を確認した。XPS装置として日本電子株式会社製のJPS-9010TRを用いて、以下の条件で測定した。
・X線源:AlKα、管電圧:10kV、管電流:10mA、マイクロ分析:なし、Dwell:100msec、フラッドガン:3.0V 4.0mA
・Step:ワイドレンジ1.0eV/ナローレンジ0.05eV
・Pass:ワイドレンジ50eV/ナローレンジ20eV
・Scans:ワイドレンジ1/ナローレンジ2
測定レンジ0.05eVで測定した270eV付近~290eV付近に観測されるC結合状態に起因するピークについて、ピーク分離を行い、C結合状態ごとにピーク面積を算出した。横軸をSiO2換算深さ、縦軸を各C結合状態のピーク面積とした場合に描かれる曲線について積分値を計算し、これを各C結合状態の存在量とした。全C結合状態の存在量でTiC結合状態(282eV付近)またはAl4C3結合状態(282.4eV付近)の存在量を割った値を、各実施例及び比較例の陰極箔における金属元素の原子と炭素原子との結合の存在割合とした。
【0065】
実施例及び比較例の陰極箔について、ラマン分光により測定したC-C結合に起因するピークを分離して得られるsp
2バンド(Gバンド)ピークの半値幅を測定した。
図31は、一例として、
図6に示すサンプルのラマン分光により得られたC-C結合に起因するスペクトルであり、これをピーク分離し、Gバンドピークの半値幅を測定した。測定には、Renishaw製inVia Qontorを使用し、波長532nmのレーザーを照射し、100-3200cm
-1の範囲のスペクトルを使用した。同様に結晶黒鉛の半値幅を測定し、これを1として、各実施例及び比較例の半値幅の倍率とした。
【0066】
図17は、実施例1~8のハイブリッドコンデンサと、比較例1~6のハイブリッドコンデンサとのそれぞれについてESR測定を行った結果を示す表である。
図17中、「2000hr劣化後」とはハイブリッドコンデンサを125℃大気環境下で2000時間劣化させた後にESR測定したことを示す。
図17のESR測定結果からわかるとおり、まず初期状態において、実施例1~3、6および7のハイブリッドコンデンサのESRは比較例1~6のハイブリッドコンデンサのESRよりも低く、実施例4、5及び8のハイブリッドコンデンサのESRは比較例1及び3のハイブリッドコンデンサのESRよりも低い(なお、比較例2、4、5及び6のハイブリッドコンデンサのESRとはほぼ同等である。)。2000hr劣化後において、実施例1~8のハイブリッドコンデンサのESRは、比較例1~6のハイブリッドコンデンサのESRよりも低い。
【0067】
また、
図17は、実施例1~8の陰極箔と比較例1~6の陰極箔に関する、サイクリックボルタンメトリー法による測定結果、XPSによる測定結果、及びラマン分光による測定結果も示す。実施例1~8はいずれも、XPSによる金属炭化物の割合が5%以上であって、サイクリックボルタンメトリー法による最大電流値の倍率が6.5倍以上であって、かつ、ラマン分光によるGバンドピークの半値幅の倍率が3.8倍以上であるため、上記のとおり、初期及び2000hr劣化後の各ESRが比較例と比べて低くなっている。なお、比較例1は、XPSによる金属炭化物の割合及びラマン分光によるGバンドピークの半値幅の倍率は実施例1~8と同様であるが、サイクリックボルタンメトリー法による最大電流値の倍率が6.5倍以上必要であるところ、4.5倍しかない。そのため、電気の流れやすさを加味した電気化学的実効表面積が不足しており、固体電解質と電解液の保持力向上によるESR低減効果が発揮されず、初期ESRも2000hr劣化後のESRも高くなっている。比較例2は、平滑基材ではなくエッチング基材を用いている。そのため、成膜時に基材表面(特にエッチングピットの内壁)の全てを被覆することができず一部露出してしまい、2000hr劣化後のESRが高くなっている。比較例3は、カーボン導電層が付与されておらず、XPSによる金属炭化物の割合が0%で混在層が形成されていない。そのため、金属及び/又は金属化合物を含む第1の導電層が固体電解質と直接接触することになり、界面抵抗が増加し、初期ESRも2000hr劣化後のESRも高くなっている。比較例4は、XPSによる金属炭化物の割合とラマン分光によるGバンドピークの半値幅の倍率は実施例1~8と同様であるが、サイクリックボルタンメトリー法による最大電流値の倍率が6.5倍以上必要であるところ、6.0倍しかない。そのため、電気の流れやすさを加味した電気化学的実効表面積が不足しており、固体電解質と電解液の保持力向上によるESR低減効果が発揮されず、2000hr劣化後のESRが高くなっている。比較例5は、サイクリックボルタンメトリー法による最大電流値の倍率とラマン分光によるGバンドピークの半値幅の倍率は実施例1~8と同様であるが、XPSによる金属炭化物の割合が5%以上必要であるところ、3%しかない。そのため、ESR低減効果が発揮できず、2000hr劣化後のESRが高くなっている。比較例6は、サイクリックボルタンメトリー法による最大電流値の倍率とXPSによる金属炭化物の割合は実施例1~8と同様であるが、ラマン分光によるGバンドピークの半値幅の倍率が3.8倍以上必要であるところ、3.5倍しかない。そのため、カーボンの非晶質の度合いが低く耐劣化性が不足してしまい、2000hr劣化後のESRが高くなっている。
【0068】
図32は、実施例1~8の陰極箔に関する、Kr吸着法によるBET比表面積の平滑基材に対する倍率(拡面倍率)及び2000hr劣化後のESRを示したものである。拡面倍率が1.5倍以上である実施例1~6及び8のほうが、拡面倍率1.4倍である実施例7よりも2000hr劣化後のESRが低かった。そのため、Kr吸着法によるBET比表面積の平滑基材に対する倍率(拡面倍率)は、1.5倍以上であることが好ましい。
【0069】
図28は、実施例1~6および8の陰極箔における、カーボン導電層付与後の無機導電層の表層側における凹凸部分の凸部の平均径及び2000hr劣化後のESRを示したものである。平均径が210nm以下である実施例1~6のほうが、平均径が230nmである実施例8よりも2000hr劣化後ESRが低かった。従って、固体電解質と電解液の保持力が高く、2000hr劣化後の特性が優れることから、Kr吸着法によるBET比表面積の平滑基材に対する倍率が1.5倍以上であることに加えて、カーボン導電層付与後の無機導電層の表層側における凹凸部分の凸部の平均径が210nm以下であることがより好ましい。
【0070】
以下それぞれ、被膜寄りの基材部分を含めた被膜部分全体の厚み方向の超薄切片試料に関するものである。
図19は、
図6と同じ陰極箔(実施例2)の、TEM-EDS(透過型電子顕微鏡法-エネルギー分散型X線分析)により得られた元素のプロファイル分布であり、
図20は、
図7と同じ陰極箔(実施例4)の、TEM-EDSにより得られた元素のプロファイル分布である。
図21は、
図6と同じ陰極箔(実施例2)の、STEM-EELS(走査型透過電子顕微鏡法-電子エネルギー損失分光法)により得られた元素のプロファイル分布(
図22よりもカーボン導電層側)であり、
図22は、
図6と同じ陰極箔(実施例2)の、STEM-EELSにより得られた元素のプロファイル分布(
図21よりも基材側)である。
図23は、
図7と同じ陰極箔(実施例4)の、STEM-EELSにより得られた元素のプロファイル分布(
図24よりもカーボン導電層側)であり、
図24は、
図7と同じ陰極箔(実施例4)の、STEM-EELSにより得られた元素のプロファイル分布(
図23よりも基材側)である。ここにおいて、
図19~
図24中、Kは電子殻のK殻を示し、
図20~
図23中、Lは電子殻のL殻を示す。実施例2,4の両方において、カーボン導電層の下に混在層が存在することがわかる。
【0071】
本発明の固体電解コンデンサの性能試験
また、上述の実施例1~8、比較例1~6の陰極箔を用いて、それぞれ実施例1~8、比較例1~6の固体電解コンデンサを作製し(実施例1~8、比較例1~6のハイブリッドコンデンサの作製方法と比較して、固体電解質層を形成した後にコンデンサ素子に電解液を含浸させる処理を行っていないことのみが異なる作製方法で作製した。)、作製した固体電解コンデンサのそれぞれについて性能試験(ESR測定)を行った。
【0072】
図18は、実施例1~8の固体電解コンデンサと、比較例1~6の固体電解コンデンサとのそれぞれについてESR測定を行った結果を示す表である。初期状態において、実施例1~8の固体電解コンデンサのESRは比較例1,3,4及び6の固体電解コンデンサのESRよりも低い。
【0073】
本発明の電極材料の物性評価
固体電解質と陰極箔との接着メカニズムは粘着テープ型であり、
図25は、工業用の粘着テープを用いた接着度の比較データである。粘着テープには10mm幅の日東電工株式会社製のポリプロピレン粘着テープを用い、これを15cm長に切り接着面を下にして、幅50mm×長さ200mmに切り出した試験片の上に長さ方向に平行に軽く置き、テープ上で荷重20Nのプレスローラーを100mm以上の長さで1往復させ、均一な荷重で接着する。試料片の片端をクランプでしっかりと押さえ、試料片と接着した側と反対側のテープをクランプ付近で180°折り返したうえで、その端をプッシュプルゲージに繋いだクリップで固定し、10mm/秒の一定速度で引っ張り、テープが剥離した際の引張荷重(gf/cm)の平均値を読み取ることで、その値をテープ接着度とした。実施例1、2、4および5については、表層側に付与した凹凸構造によるアンカー接着効果を反映し、表層側に凹凸構造を付与していない比較例1に対して大幅に強いテープ接着度を得た。すなわち、第1の導電層の表層側に付与した凹凸構造により、固体電解質との密着性が向上する効果を得ることができることがわかった。
【0074】
近年のハイブリッドコンデンサにおいては、耐熱性や導電性、耐電圧性能、製造コスト等の観点からポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)を水溶液中へ分散するためにポリスチレンスルホン酸(PSS)と混合したPEDOT/PSS水分散溶液へ浸漬、含浸したのち乾燥することで固体電解質層を形成するケースが多い。固体電解質の密着性や保持性は、陰極箔の濡れ性や表面自由エネルギーにも依存するものと考えられる。
図26は、極性の高い溶媒である水と極性の低い溶媒であるジヨードメタン(ヨウ化メチレンCH
2I
2)それぞれに対する接触角(°)と、そこからOwens and Wendtモデル式を用いて算出された表面自由エネルギー(mJ/m
2)の内訳(極性の水素結合性の成分および非極性の分散力成分)である。極性の水素結合性の成分は水溶媒との親和力に、また非極性の分散力成分は炭化水素や有機溶媒、ポリマー等との親和力に関係する。水平に静置した試料片上へ水およびジヨードメタンの各溶媒の液滴1μLを滴下し、60秒後の液滴の接触角を協和界面科学株式会社製の接触角計(DM-501Hi)を用いて計測した。実施例2および4については、表層側に付与した凹凸構造により、表層側に凹凸構造を付与していない比較例1に対して両溶媒に対して大幅に低い接触角(優れた濡れ性)と、両成分に対してバランス良く高い表面自由エネルギー値を得た。
【0075】
コンデンサ素子が陽極側と陰極側のそれぞれ短冊状の電極箔片の間にセパレータ紙を挟み巻き回すことで造られる巻型素子において、巻き軸で陰極箔を挟んで巻き始めるタイプのものは特に、巻きずれの不具合を起こす恐れがある。これは、巻き軸付近の陰極箔と接するセパレータ紙との間の摩擦係数が小さい場合には、巻型素子形成の後に巻き軸を引き抜く際に、陰極箔とセパレータ紙とのグリップ力(摩擦力)が足りずに、巻き軸に接する陰極箔が巻き軸の引き抜き方向へ動いてしまうからである。
【0076】
図30は、セパレータ紙との摩擦係数の比較データである。セパレータ紙は、ニッポン高度紙工業株式会社製の天然セルロースを主成分とした厚さ40μmのセパレータ紙(RTZ3040)を供した。これを緩衝バネを介した柔軟なSUS製ワイヤーでロードセルへ繋いだ質量200gの平らなSUS製板の滑り片(投影寸法:□63mm正方形)の裏(箔試料と接する側)へ貼り付け、水平に設置した厚さ10mmの平滑なアクリル板上に平らに固定した箔試料の上を、水平方向へ100mm/分の一定速度で滑らせ、その際の荷重を60ミリ秒毎にサンプリングした。滑り片の動き始め直後に生じた最大荷重を最大静止摩擦力とし、また安定な運動状態における平均的な荷重を平均動摩擦力とし、それぞれを滑り片の法線力(1.96N)で除することにより、静止摩擦係数および平均動摩擦係数を得た。実施例2、4及び5については、第1の導電層の表層側に付与した凹凸構造により摩擦力向上が得られ、表層側に凹凸構造を付与していない比較例1に対して、セパレータ紙との静止摩擦係数および動摩擦係数は共に大幅に増加することが確認できた。すなわち、第1の導電層の表層側に付与した凹凸構造により、固体電解質との密着性が向上する効果が得られ、また、固体電解質と電解液を保持するのに適した幾何学的構造とすることができると同時に、更に巻きずれ防止に対しても適した幾何学的構造とすることができることがわかった。
【0077】
[付記]
本開示は、以下の構成を開示する。
[構成1]
平滑基材上に、酸化物層を有し、さらに前記酸化物層の上に無機導電層を有し、
前記無機導電層は、金属及び/又は金属化合物を含む第1の導電層と、カーボンを含む第2の導電層とを有し、
前記第1の導電層は、その表層側に凹凸部分を有し、
前記第2の導電層は、前記無機導電層の最外層に位置し、
前記第1の導電層と前記第2の導電層の間に、前記第1の導電層を構成する物質と前記第2の導電層を構成する物質とが混在してなる混在層が形成されてなり、
前記混在層の成分が、実質的に前記第1の導電層を構成する物質のみを含む成分から実質的に前記第2の導電層を構成する物質のみを含む成分へと、前記第1の導電層から前記第2の導電層へと向かうにつれて変化するよう構成されている、
電極材料であって、
XPS(X線光電子分光法)により前記第2の導電層の表層から深さ方向に対して各C結合状態の存在量を分析した場合に、C1sスペクトルによる前記各C結合状態の存在量の合計に対する、前記第1の導電層を構成する金属元素の原子と炭素原子との結合の存在量の割合が5%以上であり、
掃引範囲を±0.3VvsPt、掃引速度を500mV/sec、電解液温度を30℃、参照極をPt、対極をステンレス、作用極を前記電極材料とした条件でのサイクリックボルタンメトリー法により得られるサイクリックボルタモグラムの電流値の最大値が、前記条件のうち作用極を前記平滑基材とした場合のサイクリックボルタモグラムの電流値の最大値の6.5倍以上であり、
ラマン分光法によるラマンスペクトルにおいてピーク分離することで得られるGバンドピークの半値幅について、前記第2の導電層に含まれるカーボンの前記半値幅が黒鉛結晶の前記半値幅に対して3.8倍以上である、
電極材料。
[構成2]
前記第1の導電層を構成する物質と前記第2の導電層を構成する物質とが互いに異なる、構成1に記載の電極材料。
[構成3]
前記平滑基材と前記第1の導電層とは互いに異なる物質から構成される、構成1又は2に記載の電極材料。
[構成4]
前記第2の導電層は実質的にカーボンからなる、構成1~3のいずれかに記載の電極材料。
[構成5]
前記無機導電層は、前記金属及び/又は金属化合物が緻密に存在する緻密層を更に有し、前記緻密層は前記酸化物層と前記第1の導電層との間に形成されている、構成1~4のいずれかに記載の電極材料。
[構成6]
前記無機導電層のうち前記第1の導電層と前記第2の導電層の両方、または少なくとも前記第1の導電層が粒子堆積層からなり、前記第1の導電層はチタン、アルミニウム、それらの窒化物、酸化物、酸窒化物、炭化物、炭窒化物のうちの少なくとも一種を含む構成1~5のいずれかに記載の電極材料。
[構成7]
前記酸化物層はリンを含む酸化物層である、構成1~6のいずれかに記載の電極材料。
[構成8]
前記平滑基材がアルミニウムまたはアルミニウム合金を含む、構成1~7のいずれかに記載の電極材料。
[構成9]
前記カーボンがグラファイトライクカーボンである、構成1~8のいずれかに記載の電極材料。
[構成10]
吸着ガスとしてクリプトン(Kr)を用いたBET比表面積が前記平滑基材の前記BET比表面積の1.5倍以上である、構成1~9のいずれかに記載の電極材料。
[構成11]
吸着ガスとしてクリプトン(Kr)を用いたBET比表面積が前記平滑基材の前記BET比表面積の1.5倍以上であり、かつ、前記無機導電層の表層側における凹凸部分の凸部の平均径が210nm以下である、構成1~9のいずれかに記載の電極材料。
[構成12]
構成1~11のいずれかに記載の電極材料であって、表層側の表面のセパレータ紙に対する静止摩擦係数および動摩擦係数が、平滑基材上にカーボンからなる表層側の最外層である導電層を有し前記表層側に凹凸部分を有さない電極材料の前記表層側の表面のセパレータ紙に対する静止摩擦係数および動摩擦係数よりもそれぞれ高い、電極材料。
[構成13]
陽極箔と陰極箔の間に少なくとも固体電解質が介在する電解コンデンサ用の陰極箔であって、構成1~12のいずれかに記載の電極材料を用いた、電解コンデンサ用陰極箔。
[構成14]
陽極箔と陰極箔の間に少なくとも固体電解質が介在する電解コンデンサであって、構成13に記載の陰極箔を有する、電解コンデンサ。
[構成15]
陽極箔と陰極箔の間に、更に電解液が介在する構成14に記載の電解コンデンサ。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の電極材料は、ハイブリッドコンデンサ、固体電解コンデンサ等の電解コンデンサの陰極箔として利用することができる。さらに、本発明の電極材料は、種々のコンデンサや、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、リチウムイオンバッテリ等の各種蓄電デバイス、燃料電池、太陽電池、熱発電素子、振動発電素子等の各種発電素子で用いることができる。
【符号の説明】
【0079】
1 陰極箔(電極材料)
2 基材
3 酸化物層
4 第1の導電層
5 第2の導電層
6 緻密層
7 混在層
8 巻回型固体電解コンデンサ、巻回型ハイブリッドコンデンサ
9 陽極箔
10 陰極箔
11 セパレータ紙
12 コンデンサ素子
13 陽極端子
14 陰極端子
15 アルミニウムケース
16 封止ゴム
【要約】
【課題】固体電解質との密着性、界面の接触抵抗、固体電解質及び電解液の保持性、固体電解質、電解液及び水分に対する耐劣化性、容量成分(合成容量を発現しないか合成容量が低い)、薄手化、低コスト、巻きずれに関する課題のうち少なくとも1つを解決した、電解コンデンサ用陰極箔等に用いることができる電極材料等の実現。
【解決手段】平滑基材上に、酸化物層、表層側に凹凸部分を有する金属及び/又は金属化合物を含む第1の導電層、第1の導電層を構成する物質と第2の導電層を構成する物質とが混在してなる混在層、カーボンを含む第2の導電層とをこの順に有し、第1の導電層を構成する金属元素の原子と炭素原子との結合を5%以上含有し、サイクリックボルタモグラムの最大電流値を利用した拡面倍率が6.5倍以上であり、第2の導電層中のカーボンのGバンドピーク半値幅が黒鉛結晶の3.8倍以上である、電極材料を提供する。
【選択図】
図1